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関連ワード 識別力 /  包装 /  出所表示機能 /  品質保証機能 /  質保証機能 /  識別機能 /  指定商品 /  普通に用いられる方法 /  結合商標 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  禁止権 /  差止 / 
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事件 平成 5年 (ヨ) 702号
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裁判所 千葉地方裁判所
判決言渡日 1994/03/25
権利種別 商標権
訴訟類型 民事仮処分
主文 本件各申請をいずれも却下する。
申請費用は債権者の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 申請の趣旨1 債務者は、別紙第一目録記載の「三國志」の各標章を商品磁気ディスク及びその包装に付してはならない。
2 債務者は、前項記載の各標章を付した商品磁気ディスクを譲渡し、引渡し、または譲渡もしくは引渡しのために展示してはならない。
3 債務者は、商品磁気ディスクに関する広告、定価表または取引書類に前記1記載の各標章を付して展示しまたは頒布してはならない。
4 債務者の前記1記載の各標章を付した商品磁気ディスクに対する占有を解い
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二申請の趣旨に対する答弁主文第一項同旨第二当事者の主張一申請の理由(被保全権利)1債権者は、コンピューター用ゲームソフトの製造、販売等を主たる業務とする株式会社であり、債務者は、コンピューターソフトの開発、コンピューターハードの販売を主たる業務とする株式会社である。
2債権者は、別紙第二目録記載の商標権(以下、「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)の商標権者である。
3債務者は、別紙第一目録記載の各標章(以下、「債務者標章」と総称する。)の付されたコンピューター用ゲームソフト(以下、「本件商品」という。)を販売している。
4債務者による債務者標章の使用行為は、次の理由により、本件商標権を侵害する。
債務者標章である「三國志武将争覇」は、「三國志」と「武将争覇」の二つの部分からなる結合商標であるところ、両者は大きさ、色がそれぞれ異なる文字で書かれ、別紙第一目録番号一及び同番号二の各標章(以下、「標章一」等と番号で呼称する。)においては上下二段に分けて記載されており、それぞれの標章としての独立性が強いこと、「武将争覇」は普通名詞の組合せであるのに対し「三國志」は固有名詞であり、一般に普通名詞より固有名詞の方が識別力は強いこと、「三國志」という書体が筆書体で且つ極めて特徴のある特殊文字で書かれ、特に標章一及び同二においては、「武将争覇」より「三國志」の方が殊更大きな文字になっており、
到底「三國志」を単なる補足説明部分と捉えることはできないこと、債権者の「三國志」という商標は指定商品について著名性を有していること等を考慮すると、債務者標章の要部は「三國志」にあるものということができ、右要部から生じる外観称呼観念のいずれにおいても本件商標と同一であるから、全体として本件商標と同一であるか、或いは少なくとも類似している。
また、コンピューター用ゲームソフトは、本件登録商標にかかる指定商品に該当する。
(保全の必要性)債権者は、債務者の商標権侵害行為により日々有形、無形の損害を受けており、
本案判決確定に至るまでこれを放置しておいては、債権者に回復しがたい損害が生ずることになる。
二申請の理由に対する答弁申請の理由中、(被保全権利)欄記載の1ないし3の事実は認めるが、同4の事実は否認する。
債務者標章中の「三國志」の部分は、標章一においては、本件商品のパッケージの表側下部に、同二においては、右パッケージの裏側の中央上部に、同三においては、右パッケージの背部の上部に、いずれも黒の漢字で表示されているものであるが、これらは全て「武将争覇」の標示と一体として使用されているものであり、しかも右「武将争覇」の部分は、特に目立つように、赤で記載されているというものである。従って、債務者標章の主要部分は、「武将争覇」であって、「三國志」の部分は、その背景世界が、中国古典の「三國志」であることを表す補足的説明部分であって、全体的に観察すれば、債務者標章が、本件商標と類似しないものであることを明らかに示すものである。
(保全の必要性)欄記載の事実は否認する。
三債務者の主張1一般に著作物の題号は、自他商品識別機能出所表示機能品質保証機能を果たすものではなく、専ら著作物の内容のみを表示するものであり、商標法37条に定める「商標」とは言えないから、商標登録をしても、その題号としての使用を止めることはできない。
このことは、従前書籍の題号について論ぜられることの多かったものであるが、
本件のようなコンピューターゲームも著作権法10条1項9号に定めるプログラムの著作物であり、問題は同一である。即ち、通常の商標が商品それ自体の品質を保証し、出所表示の機能を果たしているのと異なって、書籍の題号は、書籍の紙質や装丁等の品質を保証する機能や、出所を表示する機能を果たしているものではなく、専ら書籍の内容のみを表示している。コンピューターゲームの題号も、これと同様であって、指定商品とされる記録済磁気媒体の品質を保証する機能や、出所を表示する機能を果たすものではなく、専らそこに記録されているゲームの内容を表示するものであるから、商標法37条に定める「商標」には該当しない。
2仮に著作物の題号一般について商標に当たらないとは言えないとしても、本件において、債務者が使用する「三國志」の標章は、商標として使用されているものではない。
債務者の右標章は、古典の「三国志」より題材を取ったコンピューターゲームの題号として表示されているのであって、自他商品識別機能出所表示機能を果たすものではない。本件登録商標について指定商品とされているものは、「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、同磁気ディスク等」であり、生の磁気ディスク等とは異なって必ず何らかの電子計算機用プログラムが記憶されているものである。そして、債務者標章が商標として使用されているか否かは、そこに記憶されているプログラムの内容を離れては論ずることができない。債務者の商品は、中国の古典「三国志」より題材を取り、そこで活躍する英雄たちを登場人物とするコンピューターゲームであり、債務者標章は、右のプログラムの内容、性質に由来する「三國志」という表示を題号としたものである。このような場合に、その拠るところの古典の題号をそのまま使用することは、特別なことではないし、需要者は、本件商品がコンピューターゲームであることを知っており、債務者標章によって、これが中国の古典「三国志」をコンピューターゲームにしたものであることを直観するのであるから、例えば「三國志より」とか「三國志ゲーム」等の標章を用いることはむしろ不自然であって、債務者標章の如き表示方法こそ普通の使用態様である。
3仮に債務者標章が商標であるとしても、本件商標権の効力は、以下の理由により、商標法26条1項2号によって、債務者標章に及ばない。
債務者標章は、前記三2記載のとおり、本件商品中のプログラムの内容、性質に由来する「三國志」という表示を題号とするものであるから、商品の内容を表示し、その特性を記述する記述的標章ということができるところ、商標法26条1項2号にいう「品質」とは、「品物の性質」の意味であり、必ずしも「品質が良い、
悪い」という如き性能のみを意味するものではなく、商品の原料、内容等の品物の性質を表示する商標は「品質」を表示するものと言うべきであるから、右標章は商品の品質を表示する商標に該当するものであり、或いはまた「三國志」なる古典を材料としてゲームを作出したという意味では、商品の原材料を表示する商標とも言うことができるものである。
仮に、債務者標章が、商品の品質・原材料を表示する商標でないとしても、商標法26条1項2号は、商標権の効力の及ばない記述的表示についての例示規定と見るべきであり、商品の何らかの属性を記述するための語句としてのみ使用されている標章には、登録商標権の効力は及ばないものであるから、債務者標章は、右の品質ないし原材料を表示する商標に準ずるものとして、同条の適用がある。
債務者は、右の標章を、前記三2記載のとおり普通に用いられる方法で表示しているものであるから、本件商標権の効力は、商標法26条1項2号により、本件標章に及ばない。
四債務者の主張に対する債権者の反論1債務者の主張1について商標法上の「商標」とは、商標法2条によれば、商品について使用される標章を言うものであって、著作物の題号も右「商標」概念には該当する。仮に、商品に著作物が含まれれば、その商品名にどのような名称を付けようが、それは著作物の題号としての使用なので、およそ「商標」とは言えないことになるとすれば、コンピュータープログラム、印刷物、書画等の著作物についてはおよそ商標法上の保護は受け得ないこととなるが、このような帰結は現行法の採用するところではない。
2同主張2について仮に著作物についてその題号としての標章の使用に対して商標権の効力が及ばない場合があり得るとしても、本件における債務者標章は、複数のコンピュータープログラムないしデータを組み合わせて媒体物に記録し、それに解説書等を添付の上パッケージ化したコンピューターゲームの名称として「三國志」という文字を使用しているものであって、個々のプログラムの名称としての使用とは言えない。
また、標章が商標権の及ばない記述的表示と言えるためには商品の何らかの属性について、それら属性の表示として普通に用いられている方法で使用されていることが必要であり、専ら商品識別標識としてしか理解できない場合、例えば登録商標と同一ないしは類似の文字等を単独で商品そのものの名称ないしその要部としていることが明らかな使用方法により用いられている場合には、商標権の効力を受けるものと解すべきであるところ、本件商品は中国の古典「三国志」において登場する人物たちの名称のみを単にコンピューターゲーム中の登場人物の名称として借用しているに過ぎないものであり、このような商品について、「三國志」という文字を商品名或いはその要部とする使用は、商標としての使用と言うことができる。本件商品においては、例えばそのパッケージの裏面の「三国志の武将を演じよう!。」というような記載であってはじめて普通に用いられる方法に該当すると言える。
3同主張3について前記四2に記載のとおり、債務者標章の使用方法は、商標法26条1項2号に所定の「品質、原材料」或いはその他の「商品の何らかの属性」について、それらの表示として「普通に用いられる方法」で使用されているものとは言えないから、同条の適用を受け得ない。
理由一申請の理由中、(被保全権利)欄1ないし3記載の各事実は当事者間に争いがない。
二債務者は、債務者標章は、本件商品中に内蔵されたゲーム用プログラムの題号として、
本件商品に表示されているものであるから、本件商品に関して商標として用いられているものではない旨の主張をしているので、以下、この点について検討を加える。
1商標の本質は、自己の営業にかかる商品を他人の営業にかかる商品と識別するための標識として機能することにあると考えられるが、右のような商標の本質に加えて同法1条に所定の同法の目的、同3条の商標登録の要件に関する各規定を総合すると、同法における商標の保護は、商標が自他商品の識別標識としての機能を果たすのを妨げる行為を排除し、その本来の機能を発揮できるよう確保することにあるとすべきである。従って、商標権者等の差止請求権を規定する商標法36条1項、及び、右差止の前提として商標権に対するいわゆる擬制侵害について規定する商標法37条については、商標法2条1項1号が、商標の定義として、「文字、図形若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合であって、業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品に使用をするもの」は全て商標とする旨を規定しているところではあるが、前記商標保護の趣旨に従って限定的に解釈すべきなのであって、商標権者が、登録商標と同一ないし類似する商標を使用する第三者に対し、その使用の差止等を請求し得るためには、右第三者の使用する商標が単に形式的に商品等に表示されているだけでは足らず、それが自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で用いられていることを要するものと解すべきである。
2(一)そこで、右の解釈を前提として本件についてさらに検討すると、疎甲第五号証の一ないし三、第八号証、第一二号証、疎乙第四ないし第七号証及び審尋の全趣旨、当裁判所に顕著な事実によれば、「三国志」の語句は、晋の陳寿撰による中国の後漢末代の魏・呉・蜀の三国の史書の題名、ないしは、羅貫中作にかかる、右史書を題材に、劉備・関羽・張飛らの武将を中心的登場人物として、前記三国の興亡を描いた長編小説「三国志演義」の題名を指称ないし略称するものとして普通に用いられているものであるところ、わが国においては、特に後者の文学を略称するものとして用いられ、右題号や内容の大筋は、わが国において既に広く周知され愛好されているものであること、本件商品は、コンピューター用ゲームを記憶させたプログラムを内蔵するコンピューター用磁気ディスクであるが、同ゲームの内容は、その主人公である「関羽」と命名された武将他四名の武将らを画面上で操作し、それぞれの有する必殺技を駆使して、相手方の「曹操」と命名された武将他六名の武将らと戦わせ、これを倒して天下統一を達成することを内容とするいわゆるアクションゲームであるところ、その登場人物や舞台背景、筋立て等は、概ね前記「三国志演義」に題材を取り、これを模したものであること、債務者の本件商品に対する債務者標章の表示の方法は、そのパッケージの表側に、右ゲームに登場する前記武将らの半身像を画面一杯に大きく描いた上で、その下部に標章一を「三國志」の部分は特徴ある黒の筆書体で、「武将争覇」の部分はこれに並べて相対的に小さく赤の筆書体で横書きにして表示し、同パッケージの裏側には、遊戯方法等を図入りで説明しながら、その中央上部に標章二を同一と同様の色と書体で、「三國志」と「武将争覇」の語句の上下を入れ換えて表示し、同パッケージの背部には標章三を、前記標章と同様の色と書体で、「三國志」の部分を「武将争覇」の部分の上部に相対的に小さく縦書きにして表示するというものであること、「三国志」なる文学の題号は、前記のとおり相当に周知のものとなっているところ、右のような著明な文学を題材とするコンピューター用ゲームが一般に生産されていることもまた、既にその取引需要者には相当に広く知られているものであるから、右語句が前記のような態様でコンピューター用ゲームソフトのパッケージに付されていることを右取引需要者らが視認する場合には、右語句が同ゲームの題材や出典を表示するものと認識することは可能であると見られることがそれぞれ一応認められる。
(二)ところで、書籍である前記「三国志演義」が、現行の著作権法上、著作物とされることは明らかであるが(同法10条1項1号)、今日においては、コンビューター用ゲームについても、そのプログラム自体やそのアウトプットである影像は、思想又は感情の創作的な表現としての面を有することに鑑みて、いずれも著作物性を承認されているものである(同法10条1項9号、七号)ところ、一般に著作物の題号は、専らその創作物としての内容を表示するための名称として、普通に用いられる方法で著作物を含む商品に表示されている場合には、仮に右題号が、その指定商品について登録された商標と同一ないし類似している場合であっても、自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で用いられている標章ではないものとして、当該登録商標の禁止権は及ばないものと解すべきである。蓋し、著作物の題号は、右の趣旨で用いられている場合においては、商品を識別しその出所を明らかにするという、前記商標本来の機能を有しない上、著作物の製作者や出版者においても、著作権法に違反しない限り、その創作物自体を出版したり、これを引用する際などにおいて、その自由な使用を確保すべき公益的な要請が高いものだからである。そして、右のような著作物の題号に対する法的保護は、コンピューター用ゲームを記憶させた著作物であるプログラムについて、創作者がその創作物としての内容を表示する名称として題号ないし名称を付した場合においても、書籍等の題号の場合と異なるところはないものと考えられる。
(三)そこで、前記認定にかかる「三国志」の語句の意味や、債務者のゲームの内容、債務者による債務者標章の使用態様、取引需要者の理解能力等の諸事情を総合し、また、これを書籍や映画を収録したビデオ等における通例の題号の使用の態様の場合と対比してみるならば、債務者標章は、いずれも、本件商品に内蔵された著作物であるコンピューター用ゲームプログラムの創作物としての内容を表示する題号としてそのパッケージに表示されているものであり、さらに、その「三國志」の部分は、同プログラムのアウトプットである影像の内容である同ゲームが、創作物としての前記「三国志演義」の題号を有する書籍に題材を取ったものであることを記述する趣旨で、同書籍の内容を引用表示するために表示されているものと言うことができるものであるから、いずれの点からも、自他商品の識別機能としての機能を果たす態様で使用されているとは認められない。
債権者は、債務者の商品は、複数のプログラムを組み合わせて媒体物に記憶させた上、それに解説書等も添付してパッケージ化したものであるから、債務者標章は、商品の標識として使用されていると主張するが、本件商品が右のような構造を有しているとしても、前記認定にかかる各事実や右商品中におけるコンピューター用ゲームを記憶したプログラムの部分の取引上の重要性等に照らすと、右主張は前記認定判断を左右するものと言うことはできず、採用の限りではない。
また、債権者は、債務者の商品において、その内容を表示しようとするならば、
その普通な方法は「三国志の武将を演じよう!。」というようなゲームの遊戯内容に即した態様で表示しなければならない旨の主張も行っているが、本件の表示方法が、本件における著作物の創作物としての内容の記述の方法として不当なものと言うことはできないことは、前示認定判断のとおりであり、右のような表示方法に限られるとする根拠は見出し難いから、右債権者の主張も採用することはできない。
3以上のとおり、債務者標章は、いずれも自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で使用されているものとは言えないから、前記二1で判示したところに従うと、本件商標を侵害するものとみなすことはできない結果、債権者は債務者に対して、債務者標章の使用を差し止めることができないものと言わなくてはならない。
三そうすると、債務者標章の使用が本件商標権に対する侵害となることを前提とする本件各申請は、その前提を欠くから、その余の点について判断するまでもなく、いずれも失当というべきである。
四よって、債権者の本件各申請をいずれも却下することにし、申請費用につき民訴法89条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官畠山新)第一目録<27287-001>番号三<27287-002>第二目録一登録番号第二五三五三五九号二出願日昭和六一年四月二五日三出願公告日昭和六三年四月九日四登録日平成五年五月三一日五指定商品第一一類コンピューター用プログラムを記録した磁気テープ、
コンピューター用プログラムを記憶した磁気ディスク、その他本類に属する商品六登録商標別紙第三目録商標公報写し該当欄記載のとおり第三目録<27287-003>