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関連ワード 識別力 /  識別機能 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  商品の同一性 /  周知性 /  不使用 /  損害額 /  使用料相当額 /  権利濫用(権利の濫用) /  通常使用権 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  出所の混同 /  補正 /  差止 /  使用許諾 /  更新登録 /  類似商標 /  継続 /  非類似 / 
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事件 昭和 60年 (ワ) 9860号
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裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1988/02/09
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、別紙第二目録記載のいずれかの標章を付した電子ピアノ、電子リズム楽器、ピアノ・レコーダーその他の楽器、演奏補助品を販売してはならない。
二 被告は、その所有する第一項掲記の商品の表示から別紙第二目録記載の標章を抹消せよ。
三 被告は、原告に対し、金五一〇〇万円及び内金一二〇〇万円に対する昭和六〇年一二月七日から、内金三九〇〇万円に対する昭和六二年三月三日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 訴訟費用は被告の負担とする。
五 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨主文第一項ないし第四項同旨の判決及び仮執行の宣言二 請求の趣旨に対する答弁1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者の主張
一 請求原因1 原告は次の商標権(以下、「本件商標権」といい、これに係る商標を「本件商標」という。)を有している。
(一) 登録番号 第四九七二四一号(二) 出願日 昭和三一年六月一三日(三) 公告日 昭和三一年一〇月一一日(四) 登録日 昭和三二年三月五日(五) 更新登録日 昭和五二年一一月八日(六) 指定商品 旧商品類別(大正一〇年法)第二二類楽器、蓄音機並びにその各部及び附属品(七) 登録商標 別紙第一目録記載のとおり2 被告は、昭和五六年一〇月頃から、別紙第二目録記載の(イ)ないし(ハ)の標章(以下、「被告標章(イ)ないし(ハ)」という。)を付した電子ピアノ(以下、「被告商品(一)」という。)、同目録記載の(ニ)の標章(以下、「被告標章(ニ)」という。)を付したデジタル式ピアノ・レコーダー(以下、「被告商品(二)という。)、同目録記載の(ホ)ないし(ト)の標章(以下、「被告標章(ホ)ないし(ト)」という。)を付した自動リズム伴奏装置(以下、「被告商品(三)」という。)、同目録記載の(チ)又は(リ)の標章(以下、「被告標章(チ)又は(リ)」という。)を付した拡張用音源装置(以下、
「被告商品(四)」という。)を製造、販売するなどして被告商標(イ)ないし(リ)(以下、これを総称して単に「被告標章」ということがある。)を使用している。
3 前項記載の商品は、いずれも、本件商標の指定商品に含まれるか、又はその類似商品にあたる(被告商品(二)は、楽器自体に演奏の記憶再生機能、再生音との連弾機能等を付加する装置であり、楽器の附属品である。)。
4 被告標章はいずれも後半の「PLUS」、「plus」、「プラス」の部分(以下、「被告標章後半部分」ということがある。)とそれ以外の部分(以下、
「被告標章前半部分」ということがある。)に二分され、被告標章(イ)ないし(ハ)の前半部分(「(PIANO」、「piano」、「ピアノ」の部分)は、
楽器としてのピアノを意味するものであるから、これを電子ピアノに使用しても商品識別力を有さず、その要部は後半の「PLUS」、「plus」、「プラス」の部分にある。
「プラス」は本件商標そのものであり、「PLUS」、「plus」も我が国において普通に「プラス」と発音されるものであるから、被告標章(イ)ないし(ハ)はいずれも本件商標に類似する。
被告標章(ニ)ないし(リ)の前半部分は、商品それ自体又は商品の品質、用途、識別方法等を表わす言葉であるから、その要部はいずれも後半の「PLUS」、「plus」、「プラス」の部分にあり、前同様、本件商標に類似する。
5(一) 被告は、昭和五三年一一月一日、現行商品区分第二四類において「楽器その他本類に属する商品」を指定商品として「PIANOーPLUS」及び「ピアノ・プラス」なる文字を上下二段に併記した標章(以下、「被告出願標章」という。)について商標登録出願をしたが、本件商標に類似するとの昭和五六年六月一〇日付拒絶理由通知を受け、指定商品を「電子鍵盤楽器」と補正したが、同年九月二八日付で拒絶査定を受けた。
(二) 被告は、右の経緯を通じて、本件商標の存在のみならず、「PIANO-PLUS」及び「ピアノ・プラス」が本件商標に類似するとの特許庁商標審査官の見解を知り、かつその決定を受け入れながら、出願に係る標章とほとんど同一の被告標章(イ)ないし(ハ)の使用をその頃開始したものであるから、被告標章(イ)ないし(ハ)の使用による本件商標権の侵害につき故意がある。
6(一) 被告標章(イ)ないし(ハ)を付した被告商標(一)の被告による売上高は、昭和六〇年七月二九日から同六二年二月一四日の間だけでも一七億円(うち昭和六〇年七月二九日から同年一〇月三一日の間だけで四億円)を下らない。
(二) 原告は、右売上高に原告が他から使用許諾を求められて楽器類に関する商標の使用許諾をする場合の使用料率である三パーセントを乗じた五一〇〇万円の使用料相当額の損害を被つた。
7 よつて、原告は被告に対し、本件商標権の侵害行為の差止と前記損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は、被告が被告標章(イ)ないし(リ)を付した商品を製造、販売して被告標章を使用していることは認める(但し、正確には、被告標章(リ)は被告商品(四)自体にではなく、そのカタログ、パンフレツトに使用している。)が、右製造、販売の開始時期及び各被告商品の普通名称が原告主張のものであることは否認する。製造、販売の開始時期は昭和五三年一〇月である。
3 同3の事実は、被告商品(一)、(三)及び(四)が本件商標権の指定商品に含まれるか、又はその類似商品にあたることは認め、その余は否認する。
4 同4の事実は否認する。
5 同5(一)の事実は認め、同5(二)の事実は否認する。
6 同6(一)の事実は認め、同6(二)の事実は否認する。
三 被告の主張及び抗弁1 被告の主張(商標の非類似) 被告標章(イ)ないし(ハ)の前半部分を構成する「ピアノ」の語は、従来型のピアノ(以下、「アコーステイツク・ピアノ」という。)を意味するが、被告商品(一)は、後述するように(抗弁(一)参照。)、電子鍵盤楽器の一種であつて、
アコーステイツク・ピアノではないし、また、「電子ピアノ」は被告商品(一)の普通名称ではないから、「ピアノ」の語は被告商品(一)の普通名称でも略称でもなく、商品識別力を有する。
一方、「プラス」の語からなる被告標章後半部分も自他商品識別力を有し、しかも、その意味、使用の仕方の面から他の用語と結合し易い性質を有しているため、
被告標章(イ)ないし(ハ)はその前半部分と後半部分が全体として一体不可分のものとして「ピアノに特別な機能が加わつたもの」とか「性能的にピアノを超えるもの」といつた観念を有するのであつて、後半部分の「プラス」のみが要部となるものではない。
被告出願標章に対する拒絶査定の理由として、被告出願標章が単に「プラス」の称呼をも生ずる点を掲げているが、被告標章(イ)ないし(ハ)は現に「ピアノプラス」と一連称呼されており、「プラス」と略称されることはないから、このことからも被告標章(イ)ないし(ハ)は全体が一体不可分である。
被告標章(ニ)ないし(リ)も全体が「レコーダーに特別な機能が加わつたもの」、「性能的にレコーダーを超えるもの」、「何か別のものが加わつた音響(又はリズム)」、「音響(又はリズム)を超えるようなもの」といつた観念を有し、
しかも全体が語呂よく一連称呼され、全体が不可分一体のものであつて、後半部分のみが要部となるものではない。
したがつて、被告標章(イ)ないし(リ)はいずれも本件商標に類似しない。
2 抗弁(権利濫用)(一) 一般に、音色やリズムを電子技術で自由に創り出す装置をシンセサイザーと称するが、被告はこのシンセサイザーを小型で実用的な、従来存在する楽器と同一又は類似の機能を有するものとして創作し、かつ世界的に一般消費者のレベルで普及させた、いわばこの分野における開拓者的な会社である。被告はこのシンセサイザーの技術力により、「鍵盤付き電子楽器であつて種々の打弦音等を合成して発音するもの」(以下、「電子鍵盤楽器」という。)を開発し、このうちのある種の商品(以下、「本件電子鍵盤楽器」という。)とその周辺機器(これと本件電子鍵盤楽器とあわせたものを以下、「本件電子鍵盤楽器等」という。)に商標として被告標章を付して被告商品(一)ないし(四)として販売してきたのである。
(二) 被告は、本件電子鍵盤楽器等の営業活動に用いる目的で造語的な被告標章を案出し、これを被告の商標として専ら本件電子鍵盤楽器等に付して永年日本全国にわたり販売をなしてきた。その結果、被告は被告標章につきいわゆる周知性を獲得し、大きな業務上の信用と利益を有するに至つている。
(三)(1) ところで、本件商標権は、訴外【A】が出願し、同人が有していたものを、原告が、昭和六〇年四月二〇日付譲渡契約を原因として同年七月二九日付をもつて同人から商標権移転登録を受けたものである。
(2) しかしながら、原告は、本件商標を自ら使用した事実はないし、使用する意思も有していない。
(3) また、訴外プラス株式会社が旧第七類(指定商品は「他類に属しない金属製品」)において「プラス」の文字よりなる商標につき商標権(登録第四三七八五四号)を有していて、同商標を金属製楽譜台に盛んに使用しており、金属製楽譜台は楽器に類似するから、原告が本件商標を楽器に使用すれば出所の混同を招くことは必定である。したがつて、本件商標は原告にとつて無価値に等しいのである。
(4) それにもかかわらず原告が本件商標権を譲り受けたのは、原告は被告の前記営業活動により顕著となつた本件電子鍵盤楽器等の市場の将来性に着目し、同市場において有利に立とうとの意図を有するに至り、その手段として不当にも、電子鍵盤楽器等とは全く異なるいわゆる初等教育用の打楽器(カスタネツト、タンバリン等)にしか使用されていなかつた本件商標権を【A】より譲り受け、それを口実として被告を同市場より排除し、又は同市場において被告の営業活動を禁圧しようとしたものである。
(四) 被告は被告標章の使用及び本件電子鍵盤楽器等の開発、販売のために巨額の投資をなし、費用をかけ、巨大な営業努力をなしてきた。他方、原告は本件商標を使用したこともなく、また見るべき投資すらなしていない。被告は、もし被告標章の使用の差止が認められると有形・無形の多大な信用と利益を失うのに対し、原告は、被告が被告標章を継続して使用しても何らの損害を被るべき立場にないものである。
(五) 以上の事実から明らかなように、原告の本訴請求は商標権の濫用であつて許されないものである。
四 被告の主張及び抗弁に対する認否1 被告の主張は争う。
2 抗弁は同(三)(1)の事実は認め、その余の事実は否認する。
証拠(省略)
理 由一 原告が本件商標権を有していること及び被告が被告標章(イ)ないし(チ)を付した被告商標(一)ないし(四)を製造、販売し、被告標章(リ)を被告商品(四)のカタログ、パンフレツトに付して使用していることは当事者間に争いがない。
なお、被告は、被告商品(一)ないし(四)について原告がその普通名称であるとして使用する名称(「電子ピアノ」等)はそれらの商品の普通名称ではないと争うが、いずれも成立に争いのない甲第三、第一三ないし第一五、第一七ないし第一九及び第五五号証並びに証人【B】の証言を総合すると、原告の使用する名称は被告商品(一)ないし(四)の普通名称であるといつて差し支えないことを認めることができる。
二 原告は、被告による被告標章の使用行為が原告の本件商標権を侵害する旨主張するので、以下その当否について判断する。
1 商品の同一性又は類否(一) 被告商品(一)、(三)及び(四)がいずれも本件商標の指定商品に含まれるか、又はその類似商品であることは当事者間に争いがない。
(二) 被告商品(二)については、被告はこれが本件商標の指定商品に該当又は類似することを否認する。
しかし、前掲甲第三号証によれば、被告商品(二)は、被告商品(一)に接続して被告商品(一)で弾いた演奏をそのまま記憶、再生し、これにより一人で連弾等を楽しめるようにしたもので、被告商品(一)の使用方法を多様化するために被告商品(一)に接続して用いることが予定された商品であり、被告商品(一)に内蔵する形で製品化することも可能な商品であると認められるから、被告商品(二)は本件商標の指定商品である大正一〇年法商品類別第二二類の楽器の附属品に類似する。
2 商標の類否 被告標章は、「ピアノ」、「レコーダー」、「リズム」又は「サウンド」の語を片仮名又は欧文字で記した前半部分と「プラス」の語を片仮名又は欧文字で記した後半部分を結合したものである。
そして、「ピアノプラス」の語からなる被告標章(イ)ないし(ハ)は、従来のアコーステイツク・ピアノを模した音色を奏し得る楽器である被告商品(一)(同商品が右のような楽器であることは後記認定のとおり。)に、「レコーダー・プラス」の語からなる被告標章(ニ)はデジタル式ピアノ・レコーダーである被告商品(二)に、「リズム・プラス」の語からなる被告標章(ホ)ないし(ト)は自動リズム伴奏装置である被告商品(三)に、「サウンドプラス」の語からなる被告標章(チ)及び(リ)は拡張用音源装置である被告商品(四)に、それぞれ使用されているものである。
してみると、被告標章前半部分はいずれもその標章が付された商品の種類・内容等を示す語であつて(被告標章(ニ)の「レコーダー」は商品の略称ともいえる。)、この部分には自他商品識別機能はなく、他方、被告標章後半部分の「プラス」の語は「加える」、「付加する」、「付加したもの」といつた観念を有し、商品の種類・内容等とは本来直接の関係のない語であつて、被告標章において自他商品識別機能を有する要部は後半部分「プラス」にあるというべきである。
被告は、被告標章(イ)ないし(ハ)の前半部分を構成する「ピアノ」の語は、
アコーステイツク・ピアノを意味し、被告商品(一)の普通名称でも略称でもないから、この部分に自他商品識別力があると主張する。
確かに、単に「ピアノ」といえば、通常はアコーステイツク・ピアノを意味することは経験則上明らかであるが、前掲甲第三及び第一三号証によると、被告商品(一)を含む電子ピアノはアコーステイツク・ピアノの音色を模することができる楽器であることが認められ、被告標章(イ)ないし(ハ)の前半部分「ピアノ」は、被告商品(一)の普通名称や略称ではないにしても、少なくとも被告商品(一)が右のような楽器であることを示す語であつて、この部分に商品識別力があるものと解することはできない。
また、被告は、被告標章は前半部分と後半部分が一連称呼され、後半部分のみが略称されることはなく、全体が不可分一体のものとして「ピアノ(又はレコーダー)に何か特別な機能等が加わつたもの」、「何か別のものが加わつた音響(又はリズム)」とか「性能的にピアノ(又はレコーダー)を超えるもの」、「音響(又はリズム)を超えるようなもの」といつた観念を有すると主張する。
確かに、いずれも成立に争いのない乙第三七ないし第四〇号証からは、被告標章(イ)ないし(ハ)が多くの場合一連称呼されていることが一応窺われるが(被告標章(ニ)ないし(リ)については、そのようなことを窺わせる証拠はない。)、
被告標章(ニ)ないし(リ)を含め被告標章が多くの場合に一連称呼されるものであるとしても、自他商品識別という観点からみれば、標章の構成のうちには特に聴く者の注意を惹く部分とそうでない部分とがあり得るというべきである。
被告標章においては、まず、その前半部分を構成する「ピアノ」、「レコーダー」等の語と後半部分を構成する「プラス」の語はいずれも明確な観念を有し一般人の耳になじんだ語であつて、一連称呼されても被告標章が前半部分と後半部分に区分され得ることは直ちに感得することができ、次に、その前半部分は商品の種類等を示す語で後半部分は商品とは本来直接の関連性のない語であること前示のとおりであるから、同種類の商品の中での自他商品の識別という観点からは、後半部分「プラス」が聴く者の注意を惹くものと解される。
外観上も、被告標章(ハ)及び(リ)を除く各被告標章は、前半部分と後半部分の間に間隙や点が存在したり、前半部分と後半部分の各冒頭の一文字のみが大文字で表記されたりしているため、右の二つの部分に区分されることが一見して明らかであるし、「ピアノプラス」、「サウンドプラス」と一連表記された被告標章(ハ)及び(リ)も、「ピアノ」、「サウンド」及び「プラス」の各語はいずれも明確な観念を有し一般人に親しまれた語であることや、前掲甲第三及び第一三号証によれば、被告標章(ハ)は、二つの部分に区分されることの一見明らかな被告標章(イ)又は(ロ)とともに、被告標章(リ)は、同じく被告標章(チ)とともに使用されることが多いと認められることからすれば、被告標章(ハ)及び(リ)も二つの部分に区分されることは容易に感得され得るところ、称呼について述べたと同様の理由により、自他商品の識別という観点からは、どの被告標章もその後半部分「プラス」が見る者の注意を惹くものといえる。
観念についても、被告標章の前半部分と後半部分を併せ考えれば、「ピアノに何か特別な機能が加わつたもの」等、被告主張の観念が生じるものといいうるが、これは全く独立した一個の観念ではなく、複合的な観念であつて、「従来のものに特別な機能等が加わつたもの」、「従来のものを超えるもの」という点に特色があり、販売促進効果という観点からもこの部分が需要者の注意を惹き、ひいては商品識別力を持つと解されるところ、この観念をもたらすのは被告標章後半部分「プラス」である。
さらに、具体的な使用態様における被告標章相互の関連ないし被告商品相互の関連を見るに、前掲甲第三及び第一三号証によれば、被告商品(二)ないし(四)はいずれも被告商品(一)の周辺機器であつて、被告商品(一)ないし(四)は相互に密接な関連を有する一個の商品群を構成すると認められるところ、これらにいずれも「プラス」の語を共通にする被告標章が使用され、「プラス」の語を中心に結合した「プラスシリーズ」ともいうべき商品群、標章群を形成していることからしても、被告標章の要部は後半部分「プラス」にあるといえる。
以上説示のとおり、被告標章の要部は後半部分「プラス」にあり、これに反する被告の主張は採用できない。
そこで、被告標章後半部分と本件商標とを対比するに、前者は、それが片仮名により表記されるときは、後者と称呼観念において同一であり、外観においても類似することは明らかであるし、欧文字により表記されるときは、外観においては両者は相違することとなるが、我が国における英語の普及度を勘案すれば、後者と称呼観念において同一である。その結果、仮に、例えば、
原告が本件商標「プラス」をアコーステイツク・ピアノ又は電子ピアノに使用すれば、「ピアノプラス」の語からなる被告標章(イ)ないし(ハ)を付された被告商品(一)との間で商品の出所に誤認混同のおそれの生じることは避け難いところであり、被告標章(ニ)ないし(リ)を付された被告商品(二)ないし(四)についても同様のことがいえるから、被告標章(イ)ないし(リ)はいずれも本件商標に類似する。
3 してみると、被告標章(イ)ないし(ハ)を被告商品(一)に、被告標章(ニ)を被告商品(二)に、被告標章(ホ)ないし(ト)を被告商品(三)に、被告標章(チ)を被告商品(四)に、被告標章(リ)を被告商品(四)のカタログ、
パンフレツトにそれぞれ付している被告の行為は、本件商標の類似商標を本件商標の指定商品又はその類似商品について使用する行為として本件商標権を侵害するものである。
三 被告は、原告の本訴請求は本件商標権の濫用である旨抗弁するので、その当否について判断する。
1 被告が権利濫用の理由として主張するところは、要するに、(一)原告には本件商標を使用した事実も使用する意思もなく、原告が訴外【A】から本件商標権を譲り受けた目的は、専ら被告が被告標章を使用できないようにすることにより被告を本件電子鍵盤楽器の市場から駆逐することにあるということと、(二)本訴請求が認容された場合に被告の被る損害と認容されない場合の原告の損害を比較して前者が後者より著しく大であるということの二点にある。
2 しかしながら、まず(1)の点についてみると、いずれも成立に争いのない甲第六、第七号証、第二〇、第二一号証の各一ないし四、いずれも原本の存在及び成立に争いのない甲第四一ないし第四三号証、第四四号証の一、二、第四五ないし第四八号証、第四九、第五〇号証の各一、二、弁論の全趣旨により成立を認める甲第一二号証の一、二、証人【B】の証言により成立を認める甲第五一号証及び同証人の証言によれば、原告は、昭和五二年六月一〇日、購入者がレコードの演奏に合せて楽器を演奏することを予定した、その目的に適するレコードと楽譜をセツトにした商品を考案し、これに「プラス1アンサンブル」及び「PLUS 1 ENSEMBLE」という商標を付して発売し、同年七月中に、右各商標及び「アンサンブル・プラス・ワンE・P・O」、ミユージツク・プラス・ワンM・P・O」、「プラス・ワン」、「PLUS YOUR MUSIC」の各商標について登録の出願をしたが、昭和五六年二月二五日付でうち「PLUS YOUR MUSIC」につき当時訴外【A】が権利者であつた本件商標を引用して拒絶査定がなされたこと、その後昭和五六年八月二〇日「アンサンブル・プラス・ワンE・P・O」は公告がなされたが、原告は、通常の商品に何か特徴的な機能が付加された種々の商品を販売するためにそのようなイメージを表現するより基本的な商標として、「PLUS プラス」の商標につき昭和五七年四月二日登録の出願をしたが、昭和五九年六月一五日付でこれまた本件商標を引用して拒絶理由通知がなされたこと、そして、原告は、昭和五九年九月六日になした本件商標に対する不使用を理由とする登録取消審判請求についての審理の過程で、本件商標の当時の通常使用権者である訴外株式会社プラス白桜社が現実に本件商標をその指定商品であるタンバリン、小型リングベル等の楽器に付して使用していることを知つたこと、そこで、原告は、昭和六〇年四月二〇日【A】との間で本件商標権を対価を支払つて譲受ける契約を締結し、同年七月二九日移転登録を了して本件商標権を取得したこと、原告はその後プラス白桜社に引続き本件商標を使用することを許諾し使用させているほか、自らも電子オルガンにプレイアシスト機能(演奏補助機能)が付加したものや初心者向きの使い易い機能が付加したものを「プラス」と名づけて販売しようと企画したが、結局被告標章の存在が邪魔となつて採用することを見送つたこと、原告としては、将来被告標章による妨害状態が解消すれば、本件商標を電子オルガン、電子ピアノ又は電子キーボードに使用したいとの希望を抱いていること等の事実が認められるが、これらの事実からすれば、原告は、本件商標を、現在使用してはいないにせよ、それは被告の被告標章使用による妨害が存するためであつて、原告に、本件商標使用の意思がないわけではなく、被告の右妨害がなくなれば、原告が本件商標を何らかの形で使用するであろうことは容易に推認しうるところであり、また原告が前記被告主張のような目的で本件商標権を取得したことは、これを認めるべき何らの証拠もないから、前記(一)の点に関する被告の主張は理由がない。
3 次に(二)の点についていうと、原告は後記のとおり被告の本件商標権侵害行為により少なくとも被告標章(イ)ないし(ハ)につき使用料相当の損害を被つているのであり、他方、被告標章の使用は前記のとおり本件商標権を侵害する行為であつて本来差し止められるべきものであるから、右差止によつて被告の被ることあるべき損害はもともと被告の甘受すべきものである。したがつて、本訴請求棄却の場合に原告の被ることあるべき損害と本訴請求認容の場合に被告の被ることあるべき損害とを比較することはそもそも筋違いである。右(二)の点の被告の主張も理由がない。
四1 以上の認定事実によれば、原告は被告に対し、本件商標権侵害行為である被告標章を使用した被告商品(一)ないし(四)等の楽器・演奏補助品の販売差止と右楽器・演奏補助品からの被告標章の抹消を求めうるとともに、商標法39条、特許法103条により、被告は本件商標権侵害行為につき過失があつたものと推定され、右推定を覆すに足りる事実の立証はないから、被告の本件商標権侵害行為によつて被つた損害の賠償をも求めうるものといわなければならない。
2 そして、前記三2の認定事実によれば、原告が被告の本件商標権侵害行為により少なくとも被告標章(イ)ないし(ハ)につき使用料相当額の損害を被つていることは、容易に推認しうるところである。
3 そこで、損害額についてみるに、被告標章(イ)ないし(ハ)を付された被告商品(一)の昭和六〇年七月二九日から同六二年二月一四日の間の被告による売上高が一七億円(うち昭和六〇年七月二九日から同年一〇月三一日の間のそれが四億円)であることは、当事者間に争いがない。
そして、証人【B】の証言及びこれにより成立を認める甲第二四号証によれば、原告が他から使用許諾を求められて楽器類に関する商標の使用許諾をする場合の使用料率は売上高の三パーセントであり、原、被告の属する業界における一般的な使用料率もほぼ同率であることが認められるから、本件の場合の使用料率も売上高の三パーセントとするのが相当である。したがつて、前記被告商品(一)の売上高一七億円に右使用料率三パーセントを乗じて得た五一〇〇万円が被告の侵害行為により原告の被つた使用料相当の損害ということになる。
五 以上のとおりであるから、本件商標権の侵害行為の差止並びに右侵害行為により原告が被つた損害金五一〇〇万円及び内金一二〇〇万円に対する不法行為の後で訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六〇年一二月七日から、内金三九〇〇万円に対する不法行為の後で訴変更の申立書送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六二年三月三日から、各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条を、仮執行の宣言につき同法196条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 露木靖郎
裁判官 小松一雄
裁判官 青木亮