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関連ワード 流通性 /  包装 /  識別機能 /  指定商品 /  普通に用いられる方法 /  周知性 /  広義の混同 /  狭義の混同 /  不正競争の目的 /  類似性(類否判断) /  先使用(32条) /  外観(外観類似) /  差止 /  商号 / 
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事件 昭和 59年 (ワ) 5703号
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裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1986/12/25
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告はその営業に関し「中納言」の商標・商号を使用し、またはこれを使用した料理を顧客に販売・提供してはならない。
2 被告はその営業に関し看板・什器・備品・印刷物等に表示している「中納言」の文字を抹消せよ。
3 被告は原告株式会社う越市に対し金五〇〇〇万円及び昭和五九年九月一日から支払済みまで一年につき金一五〇〇万円の割合による金員を支払え。
4 被告は原告らに対し金二〇〇万円及びこれに対する昭和五九年八月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 仮執行宣言二 請求の趣旨に対する答弁 主文同旨
当事者の主張
一 請求原因1 被告の商標権侵害行為(一) 原告株式会社う越市(以下、「原告う越市」という)は別紙目録記載の商標の商標権を有している。
(二) 被告は昭和五六年五月から本件登録商標である「中納言」の名称を自己の営業の看板、料理、印刷物等に使用して営業している。
(三) 被告は右の商標権侵害行為により昭和五六年五月から昭和五九年八月までの間一年につき金一五〇〇万円計金五〇〇〇万円の利益を得、その後も現在まで一年につき金一五〇〇万円の利益を得ており、原告う越市に対し右同額の損害を与えている。
よつて、原告う越市は被告に対し商標法36条に基づき被告の「中納言」の商標の使用の差止及び右商標を使用した料理の販売の禁止並びにその使用にかかる什器、備品、印刷物等から「中納言」の文字を抹消することを求めるとともに不法行為に基づく損害賠償請求として金五〇〇〇万円及び昭和五九年九月一日から支払ずみまで一年につき金一五〇〇万円の損害金の支払を求める。
2 被告の不正競争防止法1条1項1号及び二号違反行為(一) 周知性 原告らの料理に付された「中納言」の名称は右料理が原告らの商品であることを示す商標として、また、右「中納言」は原告らの営業たることを示す表示として、
以下に述べるように、昭和五六年五月ころ全国的に広く認識され、つとに関西方面においては著名であつたし、九州方面でも広く認識されていた。
(1) 原告う越市は昭和四九年一〇月二六日大阪梅田OSホテル地下に伊勢海老料理専門店「中納言」を出店して大好評を博し、その後同五〇年一〇月には神戸元町東店を、同五二年二月には神戸プラザホテル店を開店した。
右三店のうち神戸の二店は同五三年六月原告う越市から独立して原告株式会社中納言(以下、「原告中納言」という)となり従前の営業を引継いだ。
(2) 原告中納言は昭和五四年二月心斎橋店を、同五六年五月駅前第三ビル店を出し、両店は後にそれぞれ原告株式会社心斎橋中納言(以下、「原告心斎橋中納言」という)、原告株式会社大阪中納言(以下、「原告大阪中納言」という)として独立し従前の営業を引継いだ。
(3) 原告四名の代表者は同一人物であり、原告中納言、同大阪中納言、同心斎橋中納言の筆頭株主はいずれも原告う越市であつて、別会社としてはいるものの実体は原告う越市が「中納言」を営業し右三者に経営委託しているものである。
(4) 最初の梅田OSホテル店は開店後大変な人気を集め、昭和五〇年五月三菱ダイヤモンドカードが発行している全国的な雑誌である「ザ・カード」に紹介された(甲第一二号証)。
その後神戸二店の開店とともに「中納言」は有名になつていつたが、特に同五二年一月からは神戸新聞とサンテレビを中心に広告、宣伝(甲第六号証)を行うようになり、同五五年からは読売新聞、朝日新聞、近畿テレビも加え広告宣伝費に年間三〇〇〇万円以上の経費を投入してきたため、「中納言」の名前は関西地方において加速度的に著名になつていつた。
更に同五五年三月から一〇月にかけて関西テレビ、読売テレビ等の出演依頼を受けて三回料理番組に出演し原告らの営業、料理の内容が広く近畿一円に放映された。このテレビ出演依頼は既に原告ら「中納言」が関西世方で著名になつていたからこそ強い要請があつたものである。
そして同五六年四月には全国的に発行されている「につぽん味めぐり」という本に原告らが紹介された。
(5) かように原告ら「中納言」の営業ないし料理は被告が営業を開始した昭和五六年五月には関西地方で広く認識されるとともに、被告店の所在地の福岡市においても、同地に原告らが店舗を有しないにも拘らず以前関西に住んでいた人や食通の人を通じて広く認識されていたものである。
周知性の程度については、当該料理に関心がない者は知らなくても関心ある者の中で保護すべき程度の信用が形成されているか否かによつて判断されるべきで、知つている人と知らない人の割合等を考える必要はなく、むしろ他人の冒用を許すことが取引秩序上の信義衡平に反しているかどうかの観点から考えるべきである。
(二) 誤認混同のおそれ 被告は昭和五六年五月営業を開始するにあたり、原告らの料理の商標でもあり伊勢海老料理専門店(但し伊勢海老料理しかやつていないという意味ではない)としての原告らの営業の表示でもある「中納言」の名称を十分認識しながら全く同一の名称を用いて同一業種である料理飲食業を開始し、以下述べる理由から原告らの料理ないし営業との誤認混同のおそれを生ぜしめている。
(1) 被告は原告らが看板料理としている伊勢海老のコース料理、石焼ステーキのコース料理をそのまま自己の看板料理としている。
(2) 原告らのメニユーは和洋を折衷させ伊勢海老料理に石焼ステーキを合わせるという奇抜なアイデア、のり茶漬やコーヒーまで付けて伊勢海老のコースとした斬新で独創性ある料理に特徴があり、昭和五六年春ころかような和洋折衷の伊勢海老のコース料理を提供する店は原告らの他にはなかつた。
これに対し被告のメニユーは原告らのそれとコース料理において、伊勢海老のマヨネーズサラダ(被告の表示では伊勢海老のタルタルソースとなつているが内容は同じ)、伊勢海老の活造り、伊勢海老の鬼瓦焼、石焼ステーキ(被告の表示では牛フイレステーキとなつているが内容は同じ)、伊勢海老の白みそ仕立て、のり茶漬、コーヒーの七品目にわたつて重なる程に原告らのメニユーを模倣している。
(3) 原告らの梅田OSホテル店、神戸プラザ店の旧店舗、心斎橋店はいずれもレンガ造りで、インテリアは欧風であるのに対し、被告の店舗もレンガ造りで欧風のインテリアであるように、被告は店舗の外観及びインテリアについても原告らに似せている。
(三) 以上から、被告の行為は不正競争防止法1条1項1号及び二号に該当するので、原告四名は被告に対し、「中納言」の商標ないし表示の使用差止及び右商標を使用した料理を顧客に提供することの差止を求めるとともに被告の営業に関し看板、什器、備品、印刷物等に表示している「中納言」の文字を抹消することを求める。
3 被告の商号権侵害行為(一) 原告中納言は営業目的料理飲食業として昭和五三年六月一〇日設立され同日その登記を了した。
(二) 被告は肩書地において昭和五六年五月から原告中納言と同一の「中納言」の商号を用い右原告の営業目的と同じ料理飲食業を開始したものであるが、第二の一2(二)(誤認混同のおそれ)で述べたように右原告の営業をそつくり真似て営業しており不正競争の目的をもつて同一の商号を使用していることは明白である。
よつて原告中納言は商法20条1項に基づき被告の「中納言」の商号使用差止を求める。
4 原告らは被告の右1ないし3の各不法行為についての紛争解決のため弁護士に対して着手金一〇〇万円及び成功報酬一〇〇万円合計金二〇〇万円の支払を余儀なくされ、被告の右各不法行為により右金額相当の損害を被つたので、民法709条に基づいて右金二〇〇万円と不法行為の後である昭和五九年八月一五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否及び主張1 商標権侵害について(一) 請求原因1(一)の事実は認める。
同(二)のうち、被告が昭和五六年五月から「中納言」の商号で料理飲食業を営み、看板・箸袋に右商号を使用し、また料理の名称に右商号を含んだ「中納言会席」「中納言弁当」といつた名称を使用し右料理の名称を定価表に掲載していることは認めるが、その余は否認する。
同(三)の事実は否認する。
(二) 被告は「はかた中納言」の商号登記を有し福岡市<以下略>でレストランを経営し、右商号を店舗の看板、箸袋に使用しているが、看板や箸袋は商標法2条1項の商品ではないから商標権の効力は及ばない。
(三) 被告は自己の店舗内で顧客に料理を提供しているが、商標法2条1項の商品とは商取引の目的物として流通に向けられた交換価値を有する有体物と解されるところ、店内で提供する料理等の飲食物は右要件に該当しないので商標法上の商品とはいえない。いわんや被告は会席料理(七ないし八品の料理がワンセツトとして出されるもの)及び弁当(大きな椀にごはんといくつかの料理が納まつたもの)の総称として使用しているのであるから商標権の効力は及ばない。
(四) 指定商品を記載した商標法施行規則別表三二類加工食品欄に伊勢海老料理は含まれていないので右料理に名称を付したところで商標の使用とはならないから商標権を侵害していない。
2 不正競争防止法違反について(一) 請求原因2(一)の事実のうち原告らの「中納言」の商標ないし営業表示が九州方面で広く認識されていたとの点は否認しその余は知らない。
同(二)の事実は否認する。
(二) 不正競争防止法1条1項1号の主張について(1) 商標法施行規則別表三二類加工食品欄に伊勢海老料理は含まれておらず原告う越市は商標を使用しているといえないので同号に該当しない。
(2) 同号は商品と商品を比較してその混同を生ぜしめる行為を制限するものであるところ、(イ)店内で提供される料理は商取引の目的物として流通に向けられた交換価値を有する物ではないから同号の商品に該当しないので同号の適用はないこと、(ロ)被告は伊勢海老料理や石焼ステーキに「中納言」の商標を使用していないこと、(ハ)看板や箸袋における使用は商号の使用であつて商品の標識として使用していないから同号の適用はできないことの理由から同号に基づく請求は理由がない。
(三) 周知性について(1) 原告らの「中納言」店は被告が営業を開始した昭和五六年五月当時大阪二店(駅前第三ビル店、心斎橋店)神戸二店(元町東店、プラザホテル店)の四店舗にすぎず(甲第二〇号証二二七頁、第二一号証一八〇頁。なお梅田OSホテル店と南茨木店は閉鎖済みで、新大阪店はトンカツ店である)、更に「中納言」の商号登記の最も早いものでも昭和五三年六月一〇日(甲第一号証の二)であるにすぎない。してみれば原告らの料理の名称や商号が関西地方において広く認識されていたとは到底いえない。
(2) まして原告らの商標や商号は福岡地方では全く知られておらない。
原告らはテレビの料理紹介番組の一部が福岡でも放映された筈というがその証拠はないし宣伝費用を用いて全国にコマーシヤルを流した証拠もない。
(四) 誤認混同のおそれについて 被告は総合的なレストランで伊勢海老料理は看板料理ではないし原告らの模倣もしていない。被告が提供している伊勢海老料理は全国一般に飲食店で提供されるものにすぎずそこには原告らの創造にかかるような特質はなく、石焼ステーキにしても石の上に肉を乗せる形態は近時多くの店で散見するものである。
また原告らの営業店舗はいずれもビルの一室で営業しているのに対し、被告は独立して店舗を構え、外装内装什器備品に到るまで欧風の静かで格調高い独特の雰囲気に包まれた店舗であつて原告らの店舗との相似性は全くない。
更に九州地方では原告らの商号や商標は全く知られておらないから顧客が誤認混同することはない。
3 商号権侵害について(一) 請求原因3(一)の事実は知らない。
同(二)のうち被告が肩書地において昭和五六年五月から「中納言」の商号で料理飲食業を開始したことは認めるがその余は否認する。
(二) 「中納言」の名称は元来平安時代の朝廷の官位名をあらわす普通名詞であつて、「中納言」という名称によつて料亭とか伊勢海老料理とか営業の個別化には何の役にも立たない名称である。被告がこの名称を使用するようになつたのは開店にあたつて占師にみて貰いその言に従つたにすぎないのであつて、原告らの商号を自己の営業と誤認混同させて競争しようという意図などはなかつたものである。客観的に見ても、被告の店舗は伊勢海老料理専門店ではなくむしろ会席料理を中心とした、欧風の外観の建物において和風料理を提供するレストランで、外観内装とも原告店舗と類似性はない。
加えて原告の商号や伊勢海老料理専門店としての営業実績も福岡市はもとより九州地域では全く知られておらない。地理的に見ても遠く隔絶した福岡市と大阪以東との間で顧客をめぐる競争関係(被告の営業によつて原告らの顧客が奪われたり原告らの顧客が被告に流れて原告らの営業収入が減少した事実)は存在しない。
4 請求原因4の事実は知らない。
三 抗弁1 商標権侵害の主張に対する抗弁 仮に看板や箸袋や料理が商品であるとしても、被告は「はかた中納言」という自己の登記商号でレストランを営むにつき右商号を看板や箸袋並びに顧客に提供する料理の名称の一部として定価表に表示するなど商号普通に用いられる方法で表示しているにすぎないから、商標法26条1項1号により原告う越市の商標権の効力は及ばない。
2 不正競争防止法違反の主張に対する抗弁 仮に原告らの料理や営業が広く認識されているとしても、
(一) 被告は自己の商号不正競争の目的なく善意に使用しているにすぎないから不正競争防止法2条1項3号により同法の適用はない。
(二) 原告らの料理や営業が広く認識されるに至つたのは被告が開業した後であるから、同法2条1項4号先使用として被告は保護される。
四 抗弁に対する認否 抗弁事実はいずれも否認する。
証拠(省略)
理 由一 原告う越市の商標権侵害を理由とする請求について1 原告う越市が別紙目録記載の商標の商標権を有すること、被告が昭和五六年五月から「中納言」の商号で料理飲食業を営み、「中納言」の標章を看板・箸袋に使用しているほか、「中納言」の名称を含んだ名称(「中納言会席」「中納言弁当」等)を料理の名称として使用し右料理の名称を定価表に掲載していることは、当事者間に争いがなく、他に被告が「中納言」の名称を使用していることを認めるに足りる証拠はない。
2 原告う越市は、被告が同原告の右商標権を侵害しているというのであるが、商標権の侵害は、権原なくして他人の登録商標またはこれに類似する商標を指定商品またはこれに類似する商品に「使用」することによつて成立するものであり、ここにいわゆる「使用」とは、商標法2条3項が規定するとおり、商品または商品の包装に標章を附す行為(同項一号)、商品または商品の包装に標章を附したものを譲渡等する行為(同項二号)、商品に関する広告、定価表または取引書類に標章を附して展示しまたは頒布する行為(同項三号)を指す。
そうすると、前記看板・箸袋・定価表がそれ自体原告う越市の有する前記商標権の指定商品(商標法6条、同法施行令別表三二類「食肉、卵、食用水産物、野菜、
果実、加工食料品(他の類に属するものを除く)」)またはこれに類似する商品に該当しないことはいうまでもないから、問題は、被告が前記名称を付して店内で提供している料理が商標法にいう「商品」であり、前記看板等が「商品」に関する広告または定価表といえるか否かにある。
商標法は「商品」の概念については特に定義してはいないけれども、商標は元来複数の出所からの商品の存在が予定される場において自己の商品を他から識別させるためのものであり、商標法は商標の有するこの商品識別機能を保護することによつて商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図りもつて産業の発達に寄与しあわせて需要者の利益を保護することを目的とするものであるから(商標法1条参照)、商標法上の「商品」は本来的に流通性を有するものであることを予定しているものと解しなければならない。
ところが、店内で飲食に供され即時に消費される料理は、提供者自身の支配する場屋内で提供されるものであるため、出所との結びつきは直接且つ明白であつて、
そこには他人のものとの識別を必要とする場は存在しないのであつて、流通性は全くないものというべきである。
したがつて、飲食店内で顧客に提供される料理は商標法上の「商品」には該当しないものと解するのが相当である。
3 そうだとすれば、被告の前記行為はなんら原告う越市の前記商標権を侵害することにはならないから、原告う越市の被告に商標権侵害行為があつたことを前提とする請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
二1 原告らの不正競争防止法1条1項1号該当を理由とする請求について 不正競争防止法も「商品」の概念を定義していないけれども、同法1条1項1号も周知の出所表示が有する商品識別機能を保護することによつて右出所表示の主体の営業上の信用を保護するとともに一般需要者の利益をも保護して公正な競業秩序を維持することを目的とするものと解されるから、同法1条1項1号にいう「商品」も流通性を有するものであることを要するものと解すべく飲食店内で顧客に提供される料理は不正競争防止法1条1項1号にいう「商品」には該当しないものと解するのが相当である。
したがつて、原告らの被告に不正競争防止法1条1項1号該当の行為があつたことを前提とする請求も、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
2 原告らの同法同条同項二号該当を理由とする請求について(一) 成立に争いがない甲第一号証の一ないし四、第二号証、第四号証、第五号証の一ないし四、第八号証、第九号証、第一一号証ないし第二一号証(第一二号証は原本の存在とその成立に争いがない)、第二四号証、第二七号証の一ないし三、
第二八号証の一及び二、第二九号証の一ないし三、証人【A】の証言により真正に成立したものと認められる甲第三号証の一ないし四、証人【B】の証言により真正に成立したものと認められる甲第六号証の一ないし五、昭和五五年五月二二日放映の読売テレビ「味の散歩道」の写真であることに争いがない検甲第五号証及び第六号証の各一ないし八、昭和五五年三月七日の関西テレビ「奥さまリビング」出演記念の写真であることに争いがない検甲第七号証の一及び二並びに証人【A】及び同【B】の各証言によれば、以下の事実を認めることができる。
(1) 原告らがそれぞれ請求原因2(一)(1)(2)記載のとおりの各店舗を出店し経営していること。
(2) 右経営の実体は請求原因2(一)(3)記載のとおりであること。
(3) 原告らが昭和五二年一月から別紙広告代明細表記載の経費を投じて同表記載の新聞、テレビ等に広告宣伝を行い、請求原因2(一)(4)記載の雑誌書籍、
テレビ番組に取り上げられたこと。なお、右表のテレビ欄中名称の記載のないものはサンテレビ、KTVは関西テレビ、MBSは毎日放送、ABCは朝日放送、ラジオ欄の名称の記載のないもの及びCRはラジオ関西、MBS、ABCはテレビ欄のそれと同じである。
(二) 原告らは、右広告宣伝等の結果、昭和五六年五月頃までには原告らの営業の全体的な表示である「中納言」は被告の営業が行われている福岡市を含む全国に周知になつた旨主張する。
しかし、前記新聞、テレビ等のうち中心になつている神戸新聞、サンテレビは阪神地方をサービス地域とするものであり、その他の関西テレビ、毎日放送、朝日放送は京阪神を中心とする関西地方、ラジオ関西は阪神地方をそれぞれサービス地域とするものであることは、当裁判所に顕著である。そうだとすると、前記広告宣伝等がなされたからといつて、原告らの営業の全体的な表示である「中納言」が被告の営業の行われている福岡市でも周知になつたものとは直ちには認め難いものといわなければならない。
もつとも、前記表記載の新聞のうち朝日、読売、日経等の新聞は全国紙であり、
証人【A】は、「中納言」の広告は右各新聞の全国版に掲載された旨証言し、また同証人及び証人【B】は、前記関西テレビ、毎日放送、朝日放送等における宣伝広告は全国ネツトで放映された旨証言するが、特定の地域の飲食店の広告が新聞、テレビ等において全国的な規模でなされるということは、経験則上一般的には首肯し難いところであり、右各証言を裏づける証拠もないから、右各証言はいずれも措信し難い。また、請求原因2(一)(4)記載の雑誌書籍は全国に配布されたものであり、同記載のテレビ番組も関西地方以外にも放映されたものと考えられるけれども、これらの雑誌書籍の読者及びテレビ番組の視聴者のうち関西地方在住者以外の者で「中納言」の広告ないし原告らの営業に関心を持つてこれを見る者はごく少数の者でしかなかろうと考えられるので、これらの雑誌、新聞、テレビ番組での紹介があつたからといって、原告らの営業の全体的な表示である「中納言」が被告の営業の行われている福岡市でも周知になつたものと認めることはできない。
なお、右のほかに原告らの営業の広告宣伝ないし紹介が福岡地方で行われたことを認めるに足りる証拠はない。
(三) この点に関連して、原告らは、周知性の程度は当該料理に関心がない者は知らなくても関心ある者の間で保護すべき程度の信用が形成されておれば足りると主張する。
しかしながら、顧客層が限られる極めて特殊な料理についてならばともかく、原告らが顧客に提供する海老料理等の料理は一般的な料理であるから、周知性認識の主体については広く一般需要者を基準として考えるべきであつて、単に一部食通の間で周知であるからといつて周知性ありとすることはできない。原告らの右主張は理由がない。
(四) 以上認定のとおり、原告らは被告の営業の行われている福岡市はもとより九州地方、中国地方等には出店しておらず、原告らの営業表示がこれらの地域で周知であつたとは認め難いから、原告らの営業と被告の営業につき一般需要者間に営業の帰属主体の混同(狭義の混同)はもとより営業上密接な関係があるものとの誤信(広義の混同)が生ずるものとも認め難い。
(五) そうだとすれば、原告らの被告に不正競争防止法1条1項2号該当の行為があつたことを前提とする請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
三 原告中納言の商号権侵害(商法20条1項)を理由とする請求について1 前掲甲第一号証の二によれば、原告中納言が「株式会社中納言」の商号で営業目的を料理飲食業及びそれに付帯する一切の事業として昭和五三年六月一〇日設立登記により成立したことが認められ、被告が昭和五六年五月から「中納言」の商号で料理飲食業を始めたことは、当事者間に争いがない。
2 原告中納言は、被告が看板料理、料理のメニユー、店舗の外観及びインテリアの点で原告の営業を模倣しているから商法20条1項不正競争の目的があつた、
と主張するので、検討する。
(一) 前掲甲第五号証の一ないし四、第八号証、第九号証、第一七号証、第一八号証、第二四号証に昭和五九年四月二四日撮影の被告店舗正面の写真であることに争いがない検甲第一号証、いずれも昭和五五年一〇月ころ撮影の原告中納言店舗の写真であることに争いがない検甲第二号証の二、四、五、昭和五六年五月撮影の原告中納言の伊勢海老料理の写真であることに争いのない検甲第三号証の一ないし六、成立に争いのない乙第五号証、被告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第三号証、昭和五九年一一月二二日撮影の被告店舗の外観の写真であることに争いがない乙第二号証の一ないし三、被告本人尋問の結果により撮影日が昭和六一年六月二〇日であることが認められ被告店舗の外観及び二階店内の写真であることに争いがない乙第四号証の一ないし四、同尋問の結果により前同日撮影の被告店舗三階店内の写真であることが認められる同号証の五ないし八、同尋問の結果により被告店舗で顧客に提供される料理の写真であると認められる同号証の九ないし二〇並びに被告本人尋問の結果によれば、原告中納言が伊勢海老のコース料理を看板料理としていること、右料理においては伊勢海老料理に石焼ステーキを組み合わせたり、料理にのり茶漬、アイスクリーム、コーヒーを付けるなど和洋を折衷させた斬新なアイデアでメニユーを工夫しているほか、「中納言弁当」と称する弁当も提供していること、店舗外装にレンガを用い内装も欧風にしていること、被告店舗で顧客に提供される料理の中にも伊勢海老料理があり、そのうちのコース料理には石焼ステーキやのり茶漬、アイスクリーム、コーヒーを付けており、「中納言弁当」と称する弁当もあること、被告店舗の外装はレンガで二階店内は欧風の内装であることを認めることができる。
(二) しかしながら、成立に争いのない甲第一三号証、前掲乙第三号証、第四号証の九ないし二〇及び被告本人尋問の結果によれば、被告店舗では原告らとは異なり伊勢海老料理を顧客に積極的に提供する営業方針までは採つておらず、伊勢海老の会席料理を求める顧客の割合は一〇人中三人位であることからみて被告店舗では伊勢海老料理を看板料理としていると認めることはできないこと、「中納言弁当」というのも原告中納言のと被告のとではその内容は異なること、前掲甲第二号証の二、四、五、乙第二号証の一、二、乙第四号証の五ないし八によれば原告中納言の店舗はいずれもビル内の一画に出店しているのに対し、被告店舗は独立した建物であり、外装に一部レンガを使用しているとはいえ、外観は異なり、内部も三階には和室を設けていることなどからすると、被告が原告の営業をそつくりそのまま模倣したとまでは認めることはできない。
(三) その他前認定のとおり原告らの「中納言」の表示が少なくとも昭和五六年五月当時被告店舗の存する福岡市内では周知であつたとは認め難いこと、被告店舗は昭和五六年五月から「中納言」の名称で営業し、前記甲第九号証、乙第五号証によれば、昭和五九年四月当時からすでにレストランとしてのそれなりの独自の名声を獲得していることなどを考慮すると、前記(一)で認定した程度の類似性では被告に商法20条1項にいう不正競争の目的があつたとは認めることはできず他に右認定を覆すに足る証拠はない。
(四) してみれば、原告中納言の商号権侵害を理由とする請求も理由がない。
四 以上の次第であるから、原告らの請求はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条93条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 露木靖郎
裁判官 小松一雄
裁判官 高原正良
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