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関連ワード 包装 /  指定商品 /  周知性 /  損害額 /  使用料相当額 /  先使用(32条) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  国内 /  警告 /  差止 /  先使用権 /  継続 /  利益額 / 
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事件 昭和 58年 (ワ) 4738号
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裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1984/12/20
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は別紙目録(イ)ないし(ハ)記載の標章を便箋及び封筒に附し、又はこれを附した便箋及び封筒を譲渡又は引渡してはならない。
二 被告はその本店営業所に存する同目録(イ)記載の標章を附した便箋の表紙、
及び同目録(ロ)(ハ)記載の標章を附した封筒の帯封紙を廃棄せよ。
三 被告は原告に対し、金一四万一七五〇円及びこれに対する昭和五八年七月二三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用はこれを三分して、その二を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。
六 この判決は主文三項について仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
一 当事者の求めた裁判1 原告(一) 被告は別紙目録(イ)ないし(ハ)記載の標章(以下「(イ)ないし(ハ)号標章」又は「被告標章」という。)を便箋及び封筒に附し、又はこれを附した便箋及び封筒を譲渡又は引渡してはならない。
(二) 被告はその本店営業所に存する前項の標章を附した便箋及び封筒を廃棄せよ。
(三) 被告は原告に対し、金四五〇万円及びこれに対する昭和五八年七月二三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
(四) 訴訟費用は被告の負担とする。
(五) この判決は(三)項について仮に執行することができる。
2 被告(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
二 原告の請求原因1 原告は次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有している。
(一) 登録番号 第一〇七四六一七号(二) 出願日 昭和四五年一一月一六日(三) 公告日 昭和四八年八月一六日(四) 登録日 昭和四九年七月一日(五) 指定商品 第二五類事務用紙(六) 登録商標の構成 別紙商標公報記載のとおり2 被告は、(イ)号標章を被告の製造・販売する便箋の表紙に附し、又(ロ)(ハ)号標章を被告の製造・販売する封筒を結束する帯に附して、(イ)ないし(ハ)号標章を右便箋、封筒に使用している。
3 本件商標の「浜千鳥」は行書体風であり、(イ)(ロ)号標章の「浜千鳥」は草書体風であり、(ハ)号標章の「浜千鳥」はゴシツク活字風であるが、本件商標と(イ)ないし(ハ)号標章とは、称呼観念は全く同一であり、外観についても極めて類似しており、(イ)ないし(ハ)号標章は本件商標と同一といえる程に類似しているうえ、便箋、封筒が本件商標の指定商品に属することも明らかである。
4 被告は、昭和五五年から五七年までの間に、(イ)ないし(ハ)号標章を附した便箋、封筒を毎年各一五〇〇万円ずつ販売し、毎年各一五〇万円ずつの純利益をあげた。右被告の利益額は商標法38条1項により原告の損害額と推定される。
5 よつて、原告は被告に対し次の裁判を求める。
(一) (イ)ないし(ハ)号標章の便箋、封筒への使用の差止等。
(二) 右標章を附した便箋、封筒の廃棄。
(三) 損害賠償金四五〇万円と、これに対する訴状送達の翌日である昭和五八年七月二三日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払。
三 請求原因に対する被告の認否及び抗弁等1 請求原因1項ないし3項は認めるが、同4項は否認する。
2 被告は、昭和三一年から善意で被告標章を附した便箋、封筒を販売し、昭和五七年一一月原告から本件商標と類似するので使用を中止されたい旨の警告を受けるまで、右標章を約二六年間使用してきた。このように、被告の長期間にわたる被告標章の使用が継続し、この間被告としては右標章使用行為が他人によつて差止請求を受けることなく経過したものであるから、権利を有する者が久しきにわたりこれを行使せず、相手方においてその権利はもはや行使されないものと信頼すべき特段の事由を有するに至つたため、その後にこれを行使することが信義誠実に反すると認められる特段の事由がある場合に該当し、原告の差止請求権の行使は失効の原則により許されない。
3 前記のとおり、被告は昭和三一年から被告標章を使用してきたのであり、右標章は被告の便箋、封筒を示すものとして需要者の間に広く認識されていたから、被告は被告標章につき商標法32条に基づく先使用権を有している。
4 被告は、昭和五五年から昭和五七年までの間、(イ)号標章を附した便箋を一冊一三五円の卸価格で毎年五〇〇〇冊販売し、(ロ)(ハ)号標章を附した封筒を一束六七円五〇銭の卸価格で毎年五〇〇〇束販売した。ところで、被告の昭和五五年度から五八年度までの右便箋、封筒の売上高に対する平均純利益率は二・八三パーセントと推定されるので、便箋についての年間純利益額は一万九一〇二円(5000冊×135円×0.0283)、封筒についての年間純利益額は九五五一円(5000束×67.5円×0.0283)であり、その合計額は二万八六五三円であるところ、原告の請求するのは三年分であるから合計八万五九五九円となる。
しかし、仮に本件商標権の侵害が成立するとしても、被告は長年月にわたつて被告標章を使用しているから軽過失であり、軽過失であることを参酌して、右八万五九五九円の三〇パーセントに相当する二万五七八七円程度が損害賠償額とされるべきである(商標法38条3項後段参照)。
四 抗弁に対する原告の認否1 失効の原則の抗弁は争う。
2 先使用権の抗弁は争う。仮に被告が以前から被告標章を使用していたとしても、右標章は被告の便箋、封筒を示すものとして需要者間に広く認識されてはいなかつた。
五 証拠(省略) 理 由一 請求原因1項ないし3項の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで被告の抗弁について判断する。
成立に争いのない乙第一五号証の一ないし三、証人Aの証言により成立が認められる乙第九号証、乙第一二・一三号証、乙第一四号証の一ないし一二、弁論の全趣旨により成立が認められる甲第三ないし八号証、証人A(後記一部採用しがたい部分を除く)、同Bの各証言によれば、被告は昭和三一年一一月頃から、(イ)号標章を附した便箋を年平均して約五〇〇〇冊(一冊につき二五枚)、(ロ)(ハ)号標章を附した封筒を年平均して約五〇〇〇束(一束につき一〇枚)製造・販売してきたこと、被告の右便箋、封筒の販売先は近畿地方を中心として約五〇業者位に過ぎず、これらの業者はその殆どが従業員数名以下の零細な小売文具店であり、極く一部紙文具卸問屋も含まれているがそれも零細な業者であること、日本国内での封筒の年間生産量は昭和四八年に一〇〇億枚の大台を突破したが、(イ)号標章を附した封筒の年間生産量約五万枚は、右全国生産量一〇〇億枚の二〇万分の一に過ぎないこと、原告は、封筒、祝儀袋、金袋その他紙製品の製造・販売を業とし、大阪市に本店のある従業員約二〇〇名位の会社であるところ、被告は、原告と営業内容をほぼ同じくし、同じ大阪市に本店のある従業員約二〇名位の会社であることから、原告は、従前から被告の取扱商品について関心をもつていたが、その原告でさえも、被告標章を附した便箋、封筒の販売数量があまりにも少ないことから、昭和五七年一一月まで被告が右便箋、封筒を製造・販売していることを知らなかつたこと、原告は、被告が右便箋、封筒を製造・販売していることを知ると直ちに、被告に対して被告標章の使用の中止を申し入れていること、以上の事実が認められる。
証人Aは、被告標章を附した便箋、封筒は、大阪府下と兵庫県下では需要者に広く認識されていたと証言し、乙第一ないし第七号証(被告の取引先業者の作成した証明書)には、被告標章を附した便箋、封筒は、昭和四五年一一月には被告の商品を表示するものとして取引業者間において広く認識されていたと記載されているが、これらの各証拠は前記認定事実に照らしていずれも採用しがたい。
前記認定事実によれば、被告標章を附した便箋、封筒の販売数量は非常に少なく、本件商標が出願された昭和四五年一一月当時、右標章が被告の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものとは認められないので、被告の商標法32条に基づく先使用権の抗弁は理由がない。又、原告は昭和五七年一一月、
被告が被告標章を附した便箋、封筒を製造・販売していることを知ると直ちに、被告に対して右標章の使用の中止を申し入れているのであるから、被告の失効の原則の抗弁も理由がない。
三 そうすると、被告が(イ)ないし(ハ)号標章を附した便箋、封筒を製造・販売する行為は本件商標権の侵害行為となるので、原告は被告に対し、(イ)ないし(ハ)号標章の便箋、封筒への使用の差止を求めることができる。
又、原告は被告に対し、(イ)ないし(ハ)号標章を附した便箋、封筒自体の廃棄を求めているが、被告は、(イ)号標章を被告の便箋の表紙に附し、又(ロ)(ハ)号標章を被告の封筒を結束する帯に附しているに過ぎず、一冊の便箋のうちの二五枚の便箋用紙や一束の封筒のうちの一〇枚の封筒のいずれにも(イ)ないし(ハ)号標章は附されていないので、原告は被告に対し、(イ)号標章の附された被告の便箋の表紙と、(ロ)(ハ)号標章の附された被告の封筒の帯封紙の廃棄は請求できるが、被告の便箋、封筒自体についてまでは廃棄を請求できないといわなければならない。
四 更に、被告の本件商標権侵害行為は被告の過失によつて行われたものと推定されるから(商標法39条、特許法103条)、被告は原告に対し不法行為による損害賠償責任も免れない。
ところで、原告は、被告が昭和五五年から五七年までの間に、被告標章を附した便箋、封筒を毎年各一五〇〇万円ずつ販売したと主張するが、被告の自認額、即ち便箋について毎年六七万五〇〇〇円(一冊一三五円の卸価格で五〇〇〇冊販売)、
封筒について毎年三三万七五〇〇円(一束六七円五〇銭の卸価格で五〇〇〇束販売)以上の売上額が存在したことについては、これを認めるに足りる証拠がない。
原告が製造・販売している封筒であることに争いのない検甲第二号証、被告が製造・販売している便箋、封筒であることに争いがない検甲第一号証の一・二、証人A、同Bの各証言によれば、原告は、包装用のセロフアンに本件商標を附した封筒は製造・販売しているが、便箋は一切製造・販売していないこと、原告の本件商標を附した封筒は、主としてスーパーマーケツトで販売されている大衆向けの製品で、一年間に約三〇〇万枚製造・販売されており、封筒一束(二五枚)の卸価格は六五円、小売価格は一二〇円位であること、被告標章を附した便箋、封筒は和紙でできている高級品であり、便箋一冊(二五枚)の卸価格は一三五円、小売価格は三〇〇円、封筒一束(一〇枚)の卸価格は六七円五〇銭、小売価格は一五〇円と高く、便箋、封筒の卸価格に対する被告の純利益率も高く約一割であること、以上の事実が認められる。
そうすると、被告は、昭和五五年から五七年までの三年間に、被告標章を附した便箋を二〇二万五〇〇〇円販売し、二〇万二五〇〇円の純利益をあげたことが認められるが、原告は本件商標を附した便箋を製造・販売していないのであるから、商標法三八第一項の推定規定の適用はないものと解すべきであり、結局、便箋については、原告は被告に対し、同条二項に基づき、本件商標の使用料相当額の損害賠償を請求できるに過ぎないものと解すべきである。しかるところ、原告は本件商標を便箋には使用しておらず、極く普通の封筒につき、その包装用セロフアンに本件商標を附して、年間約三〇〇万枚(約一二万束)程度製造・販売しているが、日本国内で生産される封筒は年間一〇〇億枚以上であるから、その三千数百分の一に過ぎないことからして、本件商標は一般の消費者に対する周知性が大きいとはいえないところ、被告の(イ)号標章を附した便箋は和紙でできている高級品であり、一般の消費者は、店頭で多種の便箋の中から右便箋を選択するに当り、(イ)号標章に着目して選択するよりは、和紙でできている高級な便箋ということで右便箋を選択する例が多いと思われるから、右便箋の売上に寄与する(イ)号標章の果す役割(すなわち本件商標の貢献度)は比較的少ないと思われることを考慮して、右便箋における本件商標の使用料は売上高の二パーセントをもつて相当と認める。そうすると、被告の便箋の売上高二〇二万五〇〇〇円に二パーセントを乗じた四万〇五〇〇円が、本件商標の使用料相当損害金ということになる。
次に、被告は、昭和五五年から五七年までの三年間に、(ロ)(ハ)号標章を附した封筒を一〇一万二五〇〇円販売し、一〇万一二五〇円の純利益をあげたことが認められ、原告も本件商標を附した封筒を製造・販売しているので、商標法38条1項により右被告の利益額が原告の損害額と推定されるところ、被告は右法律上の推定を覆えす事実について何ら抗弁として主張しないので、右被告の利益額をもつて原告の損害と認める。なお、被告は、商標法38条3項後段により軽過失であることを参酌して、被告の得た利益の三〇パーセント程度が損害賠償額とされるべきであると主張する。しかし、商標法38条3項後段は、第三者の登録商標の存在を知らないで善意で登録商標と同一又は類似の商標を使用してきた者が、登録商標権の侵害と判断されて巨額の賠償に応じなければならないとすれば、その侵害行為の態様から判断して著しく酷であると認められる場合に、裁判所の裁量により損害賠償額を減額できる規定であると解すべきところ、被告が(ロ)(ハ)号標章を附した封筒を製造・販売したことによる損害賠償額は僅かに一〇万一二五〇円という少額であり、商標法38条3項後段を適用して更に右金額よりも減額しなければ被告に著しく酷であるとは認められない。
五 以上の認定及び判断によれば、原告の本訴請求は次の限度で理由があるので認容し、その余はいずれも理由がないので棄却することとし、民訴法92条本文、196条1項を適用のうえ、主文のとおり判決する。
1 (イ)ないし(ハ)号標章の便箋、封筒への使用の差止等2 (イ)号標章を附した便箋の表紙と、(ロ)(ハ)号標章を附した封筒の帯封紙の廃棄3 (イ)号標章を便箋に使用したことによる損害賠償金四万〇五〇〇円と、
(ロ)(ハ)号標章を封筒に使用したことによる損害賠償金一〇万一二五〇円、以上合計一四万一七五〇円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五八年七月二三日から完済まで年五分の割合による遅延損害金
裁判官 潮久郎
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