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事件 昭和 57年 (ワ) 1598号
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裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1984/01/31
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、その販売する化学繊維織物、合成繊維織物及びその他の交織物につき、別紙イ号図面(一)記載の標章を使用してはならず、同図面(二)記載の標章中「100%POLYESTER TEXTURED SILKY BOSKY」の文字を使用してはならない。
二 被告は原告に対し、金一二万七三九〇円及びこれに対する昭和五五年一月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを五分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
五 この判決は、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告は、その販売する化学繊維織物、合成繊維織物その他の交織物につき、別紙イ号図面(一)、(二)記載の各標章を使用してはならない。
2 主文2と同旨。
3 被告は、別紙新聞目録(一)、(二)記載の各新聞紙上に別紙謝罪広告目録(一)、(二)記載の文面体裁による謝罪広告を各一回掲載せよ。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 1、2、4につき仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
請求の原因
一 原告は、繊維品の製造、加工、販売を業とする会社であり、被告は、右商品の販売を業とする会社である。
二 原告は、次の各商標権を有するが、そのうち(二)の商標権については、昭和五五年六月二三日、前権利者日東紡績株式会社より譲り受け、同年一〇月二〇日その旨の登録を受けて右権利者となつた。
(一) 登録番号 第四〇八九四〇号登録商標 別紙商標図面(一)のとおり指定商品 旧三四類(第三〇類ないし第三三類に属せざる織物)出願 昭和二三年七月二六日(商願昭二三ー一二一五九)公告 昭和二六年一〇月一〇日(昭二六ー一四五六七)登録 昭和二七年二月二五日更新登録の出願 願書番号 昭和四六年商標登録願第九四三九二号更新登録 昭和四七年九月一二日(以下「甲商標」という)(二) 登録番号 第六四九〇〇五号登録商標 別紙図面(二)のとおり指定商品 第一六類(織物、編物、フエルトその他の布地)出願 昭和三七年九月一八日(商願昭三七ー三〇〇九五)公告 昭和三九年二月二〇日登録 昭和三九年七月三一日更新登録の出願 昭和四九年商標登録願第三九一〇二号更新登録 昭和四九年一二月二日(以下「乙商標」といい、甲商標とあわせて「本件商標」という)三 甲、乙商標の構成は次のとおりである。
1 甲商標は、別紙商標図面(一)に示すとおり二つの地球図形のうち右側に描かれた地球の左端部分と左側に描かれた地球の右端部分とを相互に交叉させた図形に、同図形の左側の地球の中央部にM、右側の地球の中央部にTという各文字を配し、更に、この二つの地球の中央部の左側端から右側端にかけて且つこのMTの両文字の中央部に架橋するように左右の先端がほぼ楔形となつた二重枠の図形を施こし、その枠の内に左から右にかけて筆記体の英語でLady Hamiltonという文字を配した結合標章である。
2 乙商標は、別紙商標図面(二)のとおり、外側と内側に描いた大小二つの卵形横楕円の図形にゴシツク体の英語文字でこの両楕円の間隙の左側端にSUPERIOR、正面上部にQUALITY、ローマ字で右側端にBOSKIなる文字を配した結合標章である。
四1 被告は、本件商標の指定商品に該当する繊維品を販売するにつき別紙イ号図面(一)、(二)記載の各標章(以下各別に「イ号(一)標章」などといい、あわせて「イ号標章」という)を使用している。
2 イ号(一)標章は、甲商標と、また、イ号(二)標章は、乙商標と、それぞれ類似する。
すなわち、
(一) イ号(一)標章は、甲商標の地球図形の中央に配した楔形枠内のLady Hamiltonの文字のうち右側の単語であるHamiーltonからamの二文字を除いたのみでその他の図形、図柄、文字及び字体などは全く同一であつて外観称呼観念において甲商標に類似する。
(二)(1) イ号(二)標章は、外側と内側に描いた大小二つの卵形横楕円の間隙のうち底部分のみ左傾斜線で塗り内側の小楕円の内に頭の方を向い合わせ四つ足で立つた二匹の馬の図柄ないし図形に、この大小両楕円の間隙の左側よりゴシツク体の英語文字で100%POLYESTER TEXTURED SILKY BOSKYなる文字を配した結合標章である。
(2) そこで乙商標とイ号(二)標章とを対比すると、乙商標の要部は、外側と内側に描かれた大小二つの卵形横楕円の図形とこの大小楕円の間隙の右側端に配されたゴシツク体のBOSKIなるローマ字であるところ、イ号(二)標章では大小二つの卵形横楕円の図形を用い且つ内外楕円の間隙の右側端にゴシツク体でBOSKYなる英文字を配している。右(イ)号(二)標章におけるBOSKYと乙商標におけるBOSKIとは、YとIの違いがあるのみで、発音が同一であるうえ外観上も区別し難い。
右のとおり、イ号(二)標章が乙商標の要部を備えていることよりすれば、イ号(二)標章は乙商標と外観及び称呼において類似するといえる。
3 そして、被告がイ号標章を使用して販売しているポリエステルの繊維品は、本件商標の指定商品に該当するから、右繊維品につきイ号(一)、(二)の各標章を使用する行為は、本件商標権を侵害する違法行為である。
五1 被告は、ポリエステルの繊維品につきイ号(一)標章を使用することが甲商標権を侵害するものであることを知り又は知り得たのに過失により知らないで、業として他の業者からポリエステル繊維品を仕入れ、これにイ号(一)標章を付したうえ販売しているものであるから、右侵害行為によつて原告が蒙つた後記損害を賠償する義務がある。
2(一) 被告は、昭和五四年八月頃から同年九月頃までの間に、他の業者から合計二万四六八八ヤールのポリエステルの繊維品を仕入れ、これにイ号(一)標章を付したうえ一ヤール当たり一七二円、合計四二四万六三三六円で他に販売し少なくとも右売上額の三パーセントに相当する一二万七三九〇円の純利益を得ていたのであるから、右利益額が原告の損害額と推定される。
(二) 仮にしからずとするも、甲商標の通常使用料率は、ポリエステル繊維品の販売価額の三パーセントが相当のところ、被告がイ号(一)標章を付して販売したポリエステル繊維の販売数量、販売単価は、それぞれ二万四六八八ヤール、一ヤール当たり一七二円であるから、合計四二四万六三三六円の販売額の三パーセントに当たる一二万七三九〇円が実施料相当額であり、原告は、被告の前記侵害行為によつて右同額の損害を蒙つた。
六 被告の前記侵害行為により、国内においてのみならず原告商品の海外における市場であるカタール、サウジアラビアなどにおいて、被告の販売したポリエステル繊維品を原告の商品と誤認する者が出、しかも被告の商品が原告のそれに比べて粗悪であつたところから、被告の商品についての苦情が原告のもとに来るなどして原告の信用は著るしく毀損された。
したがつて、被告は、原告の右信用回復のための措置として、別紙謝罪目録(一)、(二)記載の文面体裁による謝罪広告を別紙新聞目録(一)、(二)記載の各新聞紙上に掲載する義務がある。
七 よつて、原告は被告に対し、その販売する化学繊維織物、合成繊維織物、その他の交織物にイ号標章を使用することの差止及び前記謝罪広告の掲載並びに損害金一二万七三九〇円及びこれに対する不法行為の後である昭和五五年一月一日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ求める。
請求の原因に対する答弁
一 請求原因一は認める。
二 同二、三は知らない。
三 同四ないし六は否認する。
四 同七は争う。
被告の主張
以下のとおり、甲商標とイ号(一)標章、乙商標とイ号(二)標章は、いずれも類似しない。
一 甲商標とイ号(一)標章は、類似しない。
1 甲商標の要部は、「Hamilton」にある。背景に描かれている地球儀は、当該商品が地球的規模つまり、世界的規模で取引されることを示すための商品記号であり、一般的に用いられているものである。また、「Lady」は「婦人用」の意味を有する商品記号である。
したがつて、甲商標の要部は、「Hamilton」のみである。
2 そこで両者の要部を対比すると、まず称呼についてみれば、甲商標は、「ハミルトン」、イ号(一)標章は、「ヒルトン」と称呼される。これらは、聴者に最も強い印象を与える語頭音において相違し、また称呼前半部分は「ハミル」、「ヒル」となり、語韻、語調を異にする。
したがつて、全体として称呼上全く別個のものであり、類似性は認められない。
3 次に、外観において、その要部である「Hamilton」「Hilton」の語数は、前者が8字であるのに対し、後者は6字でしかも語頭の「H」のすぐ次が甲商標では「a」であり、これに対しイ号(一)標章では「i」であつて全く異なるから、外観上も区別でき、類似のものではない。
4 更に観念において、両者は特別の観念を有するものではないから、観念上の類似もない。
5 甲商標の指定商品は、旧第三四類で「第三〇類ないし第三三類に属しない織物」であるのに対し、原告において被告がイ号(一)標章を使用すると主張する商品は「ポリエステルの繊維品」なので、両者は、その使用されるとする商品においても類似しない。
二 乙商標とイ号(二)標章は類似しない。
1 乙商標の要部は、二重に描かれた内外楕円の間に商品表示の文字を配置し、かつ内楕円の内側を空白とした点が総合したところにある。二重に描かれた楕円は、
織物について普通一般に使用され、また「BOSKI」も単なる商品表示である。
けだし「BOSKI」は、「ciffon(繊維名)を使用した織物」を示す商品表示である「BOSKY」と同じ称呼を有するもので、「BOSKI」は「BOSKY」を表記したものと認識されるのが普通だからである。また「SUPERIOR QUALITY」も一般的に高品質であるとの表示に止まり、いずれも要部とはいえない。
2 他方イ号(二)標章は、内楕円の内部に互いに向き合つた二頭の馬が描かれており、これは商品の表示と関係のないところであるから、この部分が商品識別力を有し、要部となる。そして乙商標にはイ号(二)標章の要部たる「二頭の馬」がなく、イ号(二)標章は、乙商標の要部たる「二重に描かれた内外楕円の間に商品表示の文字を配置し、かつ、内楕円の内側を空白とした点が総合した構成」を有しない。
したがつて、両者は、外観上類似しない。
3 また両者は、商品識別力を有する部分において観念上一致するところはなく、
両部分は特定の称呼を有しないため観念称呼上の類似もない。
4 仮に乙商標の「BOSKI」が商品識別力を有する部分であるとしても、イ号(二)標章の「BOSKY」は、「ciffon(繊維名)を使用した織物」を表わす商品表示を普通に用いられる方法で表示したものであるから、イ号(二)標章の使用に乙商標の商標権の効力は及ばない(商標法26条1項2号)。
5 また、乙商標の指定商品は、第一六類で「織物、編物、フエルト、その他の布地」である。これに対してイ号(二)標章を使用する商品は、「ポリエステルの繊維品」であつて、両者が使用されている商品は類似しない。
被告の主張に対する原告の反論
一1 被告は、甲商標の要部は、ハミルトンであり、イ号(一)標章に使用されたヒルトンと対比すると、称呼外観観念において類似しないと主張する。
しかし、甲商標は、二つの交叉した地球図形、同図形中央部の「MT」という文字、楔形二重枠図形、同二重枠四隅の丸い花形図形、二重枠内の「Lady Hamilton」の文字の各部分が全体として結合した標章であり、そのいずれも主要な構成部分であるから、そのうち「Hamilton」のみを切り離してイ号標章と対比し、類否を判断することは著しく妥当を欠く。
甲商標の各構成部分とイ号(一)標章のそれとを対比すると、イ号(一)標章は、甲商標の「Hamilton」から「am」を除いたのみで、他の構成部分はすべて同一であり、右両標章が外観称呼観念のいずれの点からも類似することは明白で、少なくとも、離隔観察すれば、イ号標章が甲商標と誤認混同を生ずる。
被告は、地球儀の標章が一般に用いられているというが、そのような事実はなく、市場における実際の取引においても、甲商標を付した原告の商品を二つの地球(アラビア語でコーラ・テンと称する)と称して取引が行われている。
2 被告は、甲商標とイ号(一)標章は使用商品においても類似しないと主張する。
しかし、被告がイ号(一)標章を使用したポリエステル繊維品は、旧商品類別第三四類に記載する絹織物、毛織物又は麻織物の模造品であつて加工程度の強きものに含まれる。仮にしからずとするも、右指定商品に類似する商品であることが明らかである。
二1 被告は、乙商標の「BOSKI」は単なる商品表示であり、右商標の要部は、二重に描かれた内外楕円の間に商品表示の文字を配置し、かつ内楕円の内側を空白とした点が総合した構成であるから、イ号(二)標章は右商標と類似しないと主張する。
しかし、そもそも「BOSKY」がシホン(chiffon)を使用した織物を示す商品表示であるとの事実はない。
したがつて、「BOSKI」が「BOSKY」と同じ称呼を有するからといつて「BOSKI」も単なる商品表示ということはできない。
乙商標の要部は、あくまでも大小二つの卵形横楕円の図形と右二つの楕円間に配置された「BOSKI」であり、したがつて、イ号(二)標章は、外観称呼いずれの点からも乙商標に類似する。
2 被告は、イ号(二)標章の内楕円の内部には互いに向き合つた二頭の馬が描かれているのに乙商標には右二頭の馬の図形のないことを強調する。
しかし、右楕円内の二頭の馬の図形は、原告が昭和五〇年頃創作し、甲商標と共に原告商標として使用しつつ、同年一〇月二四日商標登録の出願をした。しかるに、同年四月、中国紡織品進出口総公司が右商標に類似する向い合つた双馬の図形を要部とする商標登録を出願し、同商標が原告に先んじて昭和五四年九月一三日出願公告となつた為、原告は止むを得ずその後自発的に右標章の使用を中止した。
右のとおり、被告は、原告が従前使用していた右二つの馬の図形をそのまま模作して使用しているにすぎない。
3 被告は、「BOSKY」は、シホンを使用した織物を表わす商品表示を普通に用いられる方法で表示したと主張するけれども、前記のとおり、現在繊維業界においてBOSKYがシホンの商品表示として使用されている事実はない。
4 乙商標の指定商品は第一六類であるが、第一六類の織物の中には合成繊維織物が含まれており、ポリエステル繊維品も当然右類別中に含まれている。
証拠(省略)
理 由一 請求原因一(原告、被告の営業内容)の事実は当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない甲第一号証の一ないし三、第二号証の一、二、同号証の四、官公署作成部分につき成立に争いなく、その余の部分につき証人【A】の証言により真正に成立したものと認められる甲第二号証の三によれば、請求原因二(原告が甲、乙両商標権を有すること、右乙商標権は、訴外日東紡績株式会社より譲り受けて取得したこと)の事実が認められる。
そして、右甲第一、第二号証の各一及び右で認定したところによれば、甲、乙両商標の構成は、それぞれ請求原因三1(但し、「二重枠の図形を施こし」の次に、
「同二重枠四隅に丸い黒地の中心部から周縁部に向けて五本のすじを放射状に白抜きとした花形用図形を配置し、」と挿入する。)、2記載のとおりであることが認められる。
二 そこで、被告がイ号標章を使用した繊維品を販売したか否かについて検討する。
被告が現在右商品を販売していることを認めるに足りる証拠はないけれども、成立に争いのない甲第四号証の三、証人【B】の証言によりいずれも真正に成立したものと認められる甲第三号証の一ないし四、第四号証の一、二、第八号証の一、
二、いずれも、証人【A】の証言によりウラセ合同染工株式会社保管の被告の船積見本の表紙に貼付の納品書(加工註番MX七一九六)であるものと認められる検甲第一号証の一、右船積見本の表紙であるものと認められる同号証の二、右船積見本中の標章を付した布地であるものと認められる同号証の三、右同様の船積見本の表紙に付した納品書(加工注番MX七二〇九)であるものと認められる検甲第二号証の一、右船積見本の表紙であるものと認められる同号証の二、右船積見本中の標章を付した布地であるものと認められる同号証の四、被告代表者本人の供述によりいずれも真正に成立したものと認められる乙第二号証の一ないし三、第三、第四号証の各一、二、証人【B】、同【A】の各証言、被告代表者本人の供述(但し、後記採用しない部分を除く)を総合すると、
1 被告は、昭和五四年八月五日、カタールのドハ所在の被告会社代理店レザ・トレダースの取次でカタールの顧客から、ポリエステル製の繊維品一万二〇〇〇ヤールを一万一四〇〇米国ドルで買いたい旨の注文を受け、次いで同月六日、同繊維品六〇〇〇ヤールを五七〇〇米国ドルで買いたい旨の注文を受け、同月一三日、同繊維品五〇〇〇ヤールを四七五〇米国ドルで買いたいとの注文を受けた。
2 訴外株式会社吉村商店(以下「吉村商店」という)は、被告からの注文に基づき、訴外ウラセ合同染工株式会社に対し、昭和五四年八月七日、二万五〇〇〇ヤールのポリエステル繊維品につき生地の染色、外装マーク、転写マーク、耳マークなどの転写・染色加工方を依頼し(指図番号MX七一九六)、翌日生地を交付し、同月二七日付追加指定書によつて右数量を二万三〇〇〇ヤールに変更し、次いで同月三〇日、同繊維品の生地二〇〇〇ヤールにつき同様の転写・染色加工方を依頼した(指図番号MX七二〇九)。(以下「ウラセ合同染工株式会社」を「ウラセ合同染工」という)。
3 ウラセ合同染工は、吉村商店から、前記の生地に転写する転写マークとしてイ号(一)、(二)標章の、耳マークとしてイ号(一)標章の各指定を受けた上、訴外ヘイワ染工、株式会社川崎商店、日進産業株式会社などに右染色・転写などの加工をさせてこれを完了し、昭和五四年九月一七日二万二七〇二・五ヤールを、同月二七日、一九八五・五ヤールを、それぞれ指定された神戸市生田区所在の甲南海運倉庫株式会社国産二号上屋気付で被告宛に納品した。
4 訴外藤間サンプル製作所は、ウラセ合同染工からの指図に基づき、昭和五四年九月一四日、指図番号MX七一九六のポリエステル繊維品の船積見本を、同年一〇月一日、指図番号MX七二〇九の同繊維品の船積見本を、ウラセ合同染工などに納品しているが、右各船積見本中の生地には、転写マークとしてイ号(一)、(二)標章が、耳マークとしてイ号(一)標章が転写されている。
5 被告は、カタールの注文主宛に、イ号(一)、(二)標章付きのポリエステル繊維品を、昭和五四年九月二五日五九九四ヤール、五六九四・三米国ドルで、同日五九二九ヤール、五六三二・五五米国ドルで、同月二九日六八九八ヤール、六五五三・一米国ドルで、同年一〇月一六日五八六七ヤール、五五七三・六五米国ドルで、それぞれ船積みして輸出・販売した(いずれもヤール当たり単価は九五セント)。
以上のとおり認められ、被告代表者本人の供述中右認定に反する部分、とりわけ、被告の輸出・販売にかかるポリエステル繊維品にはイ号標章が使用されていないかの如く述べる部分は、吉村商店が追加指図書にて、ウラセ合同染工に対して出荷先を被告と指定していること、ウラセ合同染工が指図番号七一九六の分として昭和五四年九月一七日に納品した二万二七〇二・五ヤールと指図番号七二〇九の分として同月二七日に納品した一九八五・五ヤールとの合計二万四六八八ヤールの数量及び右各商品に付された外装マークが被告からカタールの注文主宛に船積み輸出したポリエステル繊維品の合計数量及びこれに付された各外装マークに一致すること(前掲甲第三、第四号証の各三、第八号証の一、二、乙第二ないし第四号証の各一及び証人【A】、同【B】の各証言による)、並びに前掲各証拠に照らしてにわかに採用し難い。
三 前掲検甲第一号証の一ないし三、同第二号証の一、二、四、及び前記二で認定したところを総合すると、イ号(一)、(二)標章は、それぞれ次の構成を有することが認められる。
1 イ号(一)標章は、別紙イ号図面(一)記載のとおり、二つの地球図形のうち右側に描かれた地球の左端部分と左側に描かれた地球の右端部分とを相互に交叉させた図形に、同図形の左側の地球の中央部にM、右側の地球の中央部にTという各文字を配し、更にこの地球の中央部の左側端から右側端にかけて且つ、このMTの両文字の中央部に架橋するように左右の先端がほぼ楔形となつた二重枠の図形を施こし、同二重枠四隅に黒線円内に五個の黒点を設けた花形様図形を配置し、その枠の内に左から右にかけて筆記体の英語で「Lady Hilton」という文字を配した結合標章である。
2 イ号(二)標章の構成は、請求原因四2(二)(1)記載のとおりである。
四 そこでイ号(一)、(二)の各標章がそれぞれ甲、乙商標に類似するか否か及びその使用商品の類否につき検討する。
1 イ号(一)標章と甲商標とを対比する。
(一) 両者は、二重枠の図形内の筆記体英文字がイ号(一)標章では「Lady Hilton」であるのに対し、甲商標では「Lady hamilton」である点、及び二重枠の四隅に配置された花形様図形が前者にあつては、黒線円内に五個の黒点を設けたものであるのに対し、後者では、丸い黒地の中心部から周縁部に向けて五本のすじを放射線状に白抜きとしたものである点に相違がみられるほかは、図形、図柄、文字、字体などを同じくする。
右相違点のうち花形様模様の相違は微細な点に関するものであり、また右文字の相違も、イ号(一)標章のそれは甲商標のそれから「am」の二文字を除いたにすぎず字体も同一である。
したがつて、イ号(一)標章は、先ず外観において甲商標と類似し、その余の点を判断するまでもなく、類似商標ということができる。
(二) そして、当裁判所に顕著な特許庁商標課編商品類別集(昭和四二年版、社団法人発明協会発行)によると、甲商標の指定商品である旧三四類にいう第三十類乃至第三十三類に属せざる織物とは、絹織物、毛織物又は麻織物の模造品にして加工程度の強きもの(例えば人造絹織物又は擬麻織物)、絹綿・毛綿・麻綿・絹毛・絹麻・麻毛の各交織物、その他の交織物ほかを指称するところ、ポリエステル合成繊維品が右指定商品に該当することは明らかである。
2 次に、イ号(二)標章と乙商標とを対比する。
(一) まず、イ号(二)標章には、内側の小楕円の内に頭の方を向い合わせ四つ足で立つた二匹の馬の図柄(以下「双馬マーク」という)が描かれているのに対し、乙商標には右の図柄が存在しない点に相違がみられ、被告は、右相違を根拠としてイ号(二)標章が乙商標に類似しないと主張する。
(二) ところで、イ号(二)標章は、大小楕円の間隙の底部を斜線で塗つたこれら楕円と、小楕円の内側に存する双馬マークと大小楕円の間隙の上方に存するゴシツク体の英語文字の組み合わせよりなる結合商標であるが、このような結合商標にあつては、図柄と文字の両者が不可分一体をなして、一個の統一的な外観称呼
観念を形成している場合には、それに基づいて対象商標との対比がなされるべきは勿論であるが、右の図柄と文字が外観称呼観念のいずれの面においても関連性を有せず、しかも一方が他方を無視し得る程の顕著性を備えていないときには、これを各別に観察し、それぞれの要部をみたうえで対象商標との類似性の存否を決するのが相当である。
(三) そこで、これを本件についてみるに、イ号(二)標章における小楕円内の双馬マークは、大小二重楕円と一体をなしていると見得るのに対し、大小楕円の間隙に存する「100%POLYESTER TEXTURED SILKY BOSKY」なる文字との間には、一見何の関連性も存在せず、外観称呼観念のいずれにおいても統一的な把握が困難であるし、右文字或いは図柄のいずれかが他方を無視し得るほど顕著なものとはいえないから、イ号(二)標章においては右図柄と文字部分とを各別に観察し、乙商標との類否を検討することとする。
まずイ号(二)標章における文字部分中「100%POLYESTER TEXTURED SILKY」の部位は、「一〇〇パーセント、ポリエステル織物で出来ている絹のような」という意味の英文であり、商品の組成・性状を表わしていることが窺われるから、同標章の文字部分における要部は、「BOSKY」にあるということができる。
他方、乙商標における大楕円と小楕円の二重楕円及びその間隙に存する英文字をみると、右図形は外観称呼観念のいずれにおいても見る者の注意を惹きつける要素を持たず、英文字の部分が顕著性を備えているということができる。
そして、右文字中「SUPERIOR QUALITY」の部位は、「高品質」という意味の英文であり、商品の品位を表わしていることが明らかであるから、
右商標における文字部分の要部は、「BOSKI」にあるということができる。
右のイ号(二)標章における「BOSKY」と乙商標における「BOSKI」とは、前者の語尾が「Y」であるのに対し、後者のそれは「I」である点に相違がみられるにすぎず、両者は、いずれもゴシツク体の英文字で外観において類似するのみならず、いずれもボスキーと発音される(前掲証人【A】の証言、被告代表者本人の供述による)から称呼において一致する。
右で説示したとおり、乙商標とイ号(二)標章との間には、大小二重楕円の間隙内に存する文字部分の要部に類似性が認められる以上、イ号(二)標章の右文字部分は、乙商標のそれに類似するというべきである。
したがつて、乙商標の小楕円内に「双馬マーク」が存在しない故をもつて右類似性を否定することはできず、この点に関する被告の主張は失当である。
イ号(二)標章における図柄部分の要部は「双馬マーク」にあるというべきところ、乙商標がこれを備えていないことは、前記のとおりである。
(四) イ号(二)標章を付した被告のポリエステル繊維品が乙商標の指定商品である第一六類中の織物に該当することは、当裁判所に顕著な特許庁商標課編類似商品審査基準(改訂版、社団法人発明協会発行)により明らかである。
(五) 被告は、イ号(二)標章の「BOSKY」がシホン(chiffon)を使用した織物を表わす商品表示であるから要部たり得ず、或いは右商品表示を普通に用いられる方法で表示したものであるから乙商標権の効力が及ばないと主張するところ、「BOSKY」の字句が我が国においてシホン(chiffon)を使用した織物を意味する名称として一般世人又は繊維業界における相当数の者に使用されていることを認めるに足りる証拠はないので、被告のこの点に関する主張は採用の限りでない。
五 そうすると、前記被告がイ号(一)標章を使用し、イ号(二)標章中「BOSKY」の文字を使用してポリエステル繊維品を販売したことは原告の有する甲、乙両商標権を侵害するものであるから、まず原告の差止請求について判断する。
1 前記のとおり、被告が現にイ号標章を付した商品を販売している事実は認められず、また被告がこれを過去において販売したのも前認定のポリエステル繊維品だけであり、それ以外の化学繊維、合成繊維、その他の交織物の販売に当たりイ号標章を現に使用し、過去に使用したことについては何らの立証がないけれども、被告の営業内容が繊維品の販売であるところ、前記のとおり少くともポリエステル繊維品については過去においてイ号標章を使用し、且つイ号標章の使用が本件商標権の侵害に当らないと主張していることに鑑みると、ポリエステル繊維品のみならず、
甲、乙両商標の指定商品であることの明らかなこれら繊維品の販売についても将来被告がイ号(一)、(二)標章を使用するおそれがあるので、予めそれらの販売についてもイ号標章(但し(二)については後記英文字部分に限る)の使用禁止を求める必要性がある。
2 そして、イ号(二)標章中「BOSKY」の文字を要部とする「100%POLYESTER TEXTURED SILKYBOSKY」の文字は不可分一体をなしているから、原告は、乙商標権に基づき右英文字全体の使用禁止を求め得るけれども、これと別体をなす双馬マーク及び二重楕円の部分については乙商標権の効力が及ばず、これを求め得ないというべきである。
六 次に原告の損害賠償請求について検討する。
1 被告の前記イ号(一)標章の使用にかかる侵害行為が不法行為法上の違法行為に当たることはいうまでもなく、右違法行為は過失によつてなされたものと推定される(商標法39条、特許法103条)。
2 そして、被告がイ号(一)標章を使用したポリエステル繊維品二万四六八八ヤールを二万三四五三・六米国ドルで販売輸出したことは前記二で認定のとおりであるが、それによつて被告が得た利益額については、これを認めるに足りる証拠がない。
したがつて、被告が右販売により一二万七三九〇円の純利益を得ていたとの原告の主張は失当である。
3 そこで実施料相当の損害の成否についてみるに、証人【A】の証言及び右証言により真正に成立したものと認められる甲第一六号証によれば、
(一) 原告は、原糸メーカーから糸を仕入れて、生地メーカーに生地を織らせ、
それを染色加工した上、中近東、東南アジアを中心とする海外の三十数箇所に輸出・販売するのを主な業務内容としており、主な取扱い商品は、ポリエステルなど化合繊維製品の合繊織物である。
(二) 原告は、第二次世界大戦以前から自社商品のすべてに甲商標を使用しており、月間輸出数量は四五〇万から五〇〇万ヤールに上つており、サリーなどの民族衣装の生地輸出業者としては、我が国で最上位を占めている。
(三) 甲商標の付された生地は、中近東の現地市場において、アラビア語でコーラ・テン(「二つの地球」の意)と呼ばれ、甲商標の付いていない生地に比べて米国ドルの売値で少なくとも一〇セント高く販売されている。
以上のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
右で認定した甲商標の使用の態様、著名度、実際の売価に与える影響などによれば、その実施料率としては、原告主張どおり被告の売上げ高の三パーセントをもつて相当とする。
したがつて被告の販売額二万三四五三・六米国ドルの三パーセントが原告の被告に対し請求し得る損害額というべきところ、各出荷日における代金額を、当裁判所に顕著な右各日時における米国ドル=円の為替レートで換算すると、別表ドル=円換算表のとおり、代金総額は五二七万五三六二・六六円と換算され、その三パーセントは一五万五二六一円(円未満四捨五入)であるから、右範囲内である一二万七三九〇円の実施料相当損害金の支払を求める原告の請求は理由がある。
七 原告は、信用回復の措置として謝罪広告を求めるところ、原告の全立証によつても、被告がイ号標章を付して輸出販売した数量が前認定の二万四六八八ヤールを超えるものであつたかどうかはこれを確定し難く、ために被告の輸出販売によつて原告主張のような信用失墜並びに混乱が仕向地において生じたかどうかもたやすく確認できない(この点に関する証人【A】の証言は余りにも抽象的であり、たやすく採用できない)うえ、被告がイ号標章を使用してポリエステル繊維品を販売した最終年月である昭和五四年一〇月より、本件弁論終結まで四年余を経過しており、
被告の右販売行為により原告の信用が毀損されているとしてもそれは既に自然回復をみたものと推認するに難くない。したがつて右一ないし五で認定・説示のとおり、被告が販売する化学繊維織物などの販売につきイ号(一)標章、イ号(二)標章中前記英文字の使用の差止め、及び実施料相当の損害賠償の認められる本訴において、更に謝罪広告を認めるほどの必要性に乏しいといわざるを得ない。
八 以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告がその販売する化学繊維、
合成繊維、その他の交織物につきイ号(一)標章を使用すること並びにイ号(二)標章中前記英文字を使用することの差止め及び被告に対し、損害金一二万七三九〇円及びこれに対する不法行為の後である昭和五五年一月一日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条92条、仮執行の宣言につき同法196条1項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
裁判官 潮久郎
裁判官 鎌田義勝
裁判官 徳永幸蔵