関連審決 |
審判1980-15422 |
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関連ワード | 独占的使用 / 識別力 / 識別機能 / 指定商品 / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 取引の実情 / 出所の混同 / 類似範囲 / 類似商標 / 外国 / 商号 / |
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事件 |
昭和
57年
(行ケ)
271号
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1983/12/20 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
一 原告1 特許庁が昭和五七年七月八日、同庁昭和五五年審判第一五四二二号事件についてした審決を取消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 との判決二 被告主文同旨の判決 |
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請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和五二年一一月二五日、別紙記載のとおりの構成による「National Semiconductor」なる商標(以下「本願商標」という。)につき、第一一類「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く。)、電気材料」を指定商品として、商標登録出願(昭和五二年商標登録願ー第八二九九六号)をしたところ、昭和五五年二月二六日拒絶査定を受けたので、同年八月二一日審判を請求し、昭和五五年審判第一五四二二号事件として審理されたが、昭和五七年七月八日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は、同年八月二五日原告に送達された。なお、出訴期間として三か月が附加された。 二 審決の理由の要旨1 本願商標の構成及び指定商品は前項記載のとおりである。 2 これに対し、登録第一三一二六二〇号商標(以下「引用商標」という。)は、 「NATIONAL」の欧文字を横書きしてなり、第一一類「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く。)、電気材料」を指定商品として、昭和四三年三月二九日に登録出願され、昭和五二年一一月二一日にその登録がなされたものである。 3 本願商標は、別紙に表示したとおり、頭文字の二文字が変形された書体をもつて構成されてなるものであるとしても、近時の商業広告等におけるレタリング文字の発達普及に伴い、文字の一部ないし全部を図案化して表現する方法が、一般的傾向として採用されている実情に鑑みれば、本願商標は「National」と「Semiconductor」の欧文字を二段に併記してなるものと容易に理解せしめる程度のものである。そして該文字中下段の「Semiconductor」の文字は、本願商標の指定商品である「半導体」の語義を有することと相まつて、本願商標の自他商品識別機能を有する文字は、上段に書されている「National」の文字部分にあるものというを相当とする。そうとすれば、該文字に照応し、 本願商標からは、単に「ナシヨナル」の称呼をも生ずるものといわざるをえない。 他方、引用商標は、前記のとおりであるから、これより「ナシヨナル」の称呼を生ずることが明らかである。 してみると、両商標は、外観及び観念について判断するまでもなく、「ナシヨナル」の称呼を共通にする類似の商標であり、かつ、その指定商品も同一であるから、本願商標は、商標法第4条第1項第11号に規定する商標に該当し、登録を受けることができない。 三 審決を取消すべき事由 本願商標は、商標として使用するときいわゆる自他商品識別力の弱い「National」と「Semiconductor」という二つの単語を組合わせてなる商標である性質上、その二語の一方のみによつて単に「ナシヨナル」と称呼されることはなく、一体として「ナシヨナル セミコンダクター」あるいはその外観から「エヌ エス」と称呼されるものであるから、審決が、自他商品識別力の極めて弱い「National」という語をもつて本願商標の自他商品識別機能を有する部分とし、本願商標からは単に「ナシヨナル」という称呼も生ずるものとした認定は誤りであり、したがつて、この誤つた認定を前提に本願商標は引用商標に類似するとした判断は誤りであつて、審決は違法として取消されねばならない。 1 本願商標は、次のとおり、単に「ナシヨナル」と称呼されることはない。 (一) 本願商標は、「National」と「Semiconductor」という英語の二つの単語の組合せからなるところ、このうち「National」という語は、「ナシヨナル」と発音されるが、「国家の、国民の」という意味の形容詞であつて、現在日本において、「ナシヨナル アイデンテイテイ」、「ナシヨナル アド」など、現代用語として日常しばしば使用されており(甲第九号証・昭和五六年一月一日自由国民社発行「現代用語の基礎知識」参照。)、また形容詞であることから後に名詞を伴つて初めて完結した意味を有するに至るものであり、他方「Semiconductor」という語も「半導体」を意味する一般的名詞である。本願商標は、その意味で自他商品識別力の弱い二つの単語を組合せてなる商標であるという性質上、その二語のいずれか一方をとつて略称するということはないのである。 したがつて、本願商標は、「ナシヨナル セミコンダクター」と称呼されることはあつても、単に「ナシヨナル」と称呼されることはない。 (二) また、本願商標は、「National Semiconductor」という欧文字のうち、各頭文字のNとSを極めて特徴のある共通のスタイルの装飾的な大文字で表わし、その余の「ational」と「emiconductor」という欧文字を目立たない形で添え物のように小文字で付加してなり、これを遠くから観察し、あるいは一見した場合、上下に置かれたNとSの文字がほとんど一体として極めて顕著に見え、NとSが縦に結合した一個の商標として看取されるので、本願商標からは、「エヌ エス」という称呼も生ずる(原告は、日本において、昭和四七年から「エヌ・エス・インターナシヨナル」又は「エヌ・エス・ジヤパン」という商号で支店を設置し、昭和五五年一月からは「日本エヌ・エス株式会社」という子会社を通じて営業活動をしており、業界でも「N・S」、「エヌ・エス」という略称で通用している。)が、いずれにしても、本願商標が単に「ナシヨナル」と称呼されることはない。 2 引用商標は、「NATIONAL」という欧文字を横書きしてなり、「ナシヨナル」という称呼を生ずるものであるが、「NATIONAL」又は「National」という語(以下「National」とのみ記す。)は、前記1(一)のとおり自他商品識別力の弱い語であつて、これを敷衍すると次のとおりである。 (一) 引用商願の存在にもかかわらず、引用商標と指定商品を同じくし、その一部に「National」ないし「ナシヨナル」という語を含む商標が登録されている(甲第六ないし第八号証の各一・二)ことは、「National」ないし「ナシヨナル」という語が自他商品識別力の極めて弱いものであることを如実に示すものであり、これは、むしの商標登録を許すことについて疑問さえ抱かせる語というべきである。 (二) 「National」という語は、最大の英語を母国語とする国である米国において、多数の会社の商号、商標として用いられていることからしても、「国家的な、全国的な、国民的な」という意味の一般的な叙述形容詞として広く用いられていることが明らかであつて、その意味で、少なくとも米国においては自他商品識別力が極めて弱いものである。今日の国際化の時代には、英語の単語はほとんどそのまま同じ意味で日本においても広く使用され、知れわたつていることが多いのであつて、本件の「National」という語も、既に日本語化しており、英語の原義どおりに用いられているのである。 そうであれば、「National」という語が米国において自他商品識別力をほとんど失つていることから、日本においても、同様に自他商品識別力が弱いと考えるのが今日の国際的常識に合うのである。 3 そして、一般に、二語以上が結合した複合語からなる商標と、その二語のうちの一語と類似する語からなる商標とを比較する場合において、その二語が対等の自他商品識別力を有するときは、その二語の結合した商標と他の一語の商標とは相互に類似しないとされている。 してみれば、前記のとおり「National」、「Semiconductor」という、同程度の弱い自他商品識別力しか有しない二語の結合した商標である本願商標は、その二語のうちの一語「National」と類似する語「NATIONAL」からなる引用商標と相互に類似しないといわなければならない。 実際にも、本願商標は、前記のとおり「ナシヨナル セミコンダクター」又は「エヌ エス」と称呼されるのであつて、「ナシヨナル」と称呼されることはないのであり、「ナシヨナル」という称呼のみを生ずる引用商標とは、称呼を異にすることが明らかである(外観、観念を異にするのはいうまでもない。)から、引用商標とは類似しない。 4 なお、最高裁判所昭和四三年二月二七日判決(民集二二巻二号三九九頁)は、 ガラス繊維糸の取引においては、商標の称呼は、取引者が商品の出所を識別するうえで一般取引におけるような重要さをもちえないという事情に鑑み、「商標の外観、観念又は称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、したがつて、右三点のうちその一において類似するものでも、他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によつて、何ら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきではない。」と判示したものであるが、この判例に従つて考えても、審決は、実際の取引の実情に即して、既存の登録商標の類似範囲が過度に広がるのを防ぐことを怠り、判断を誤つたものといわざるをえない。 すなわち、本願商標の指定商品のうち原告(出願人)の取扱う商品は、半導体及び集積回路という極めて高度な技術に係る製品であつて、その購買者、消費者層は、同じ商品区分第一一類の商品のうちの家庭用電気製品におけるごとく家庭の主婦や一般公衆ではなく、高度技術にかかわるコンピユーターの部品の購入者である大企業、その他の高度技術産業である。かかる分野の取引においては、右判例のガラス繊維糸の取引におけると同じく、購買者、消費者層は、「ナシヨナル」という称呼のみによつてその商品の出所を判断するということは皆無といつてよく、単なる商標というよりは、むしろそのメーカー名である商号やこれと密接に関連した商標等の標識について、称呼のみによつてではなく、外観、観念等を総合して厳格に同一性を判断したうえで、その出所を確認し、商品を購入するのが常である。したがつて、例えばコンピユーターメーカーが、「ナシヨナル」という称呼のみを商品識別の手掛りとして半導体、集積回路を選択し、その結果、米国の著名な半導体、 集積回路専業メーカーであるナシヨナル・セミコンダクター・コーポレーシヨン(原告)の商品と、家庭用電気メーカーとして著名な引用商標の登録名義人松下電器産業株式会社の商品とを混同するという可能性は、現在の取引業界においては実際上皆無といつてよい。 また、言語は、万民共通の道具であつて、徒にその使用を特定の企業、個人に独占させることは避けるべきであるから、引用商標の「NATIONAL」という形容詞の一般的性格、汎用性からして、その登録権利者に独占的使用権を与えることは極力避けるべきである。 |
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被告の答弁
一 請求の原因一及び二の各事実は認める。 二 請求の原因三の審決取消事由の主張は争う。 審決には、原告主張の認定、判断の誤りはなく、正当であつて違法の点はない。 1 原告は、「National」という語は自他商品識別力が弱いことを前提にして、本願商標から「ナシヨナル」という称呼は生じない旨主張するが、失当である。 すなわち、「National」という語は、日本において、叙述形容詞として、また会社の商号として汎用性があるとは認められないばかりでなく、その原義が「国家的な、全国的な、国民的な」というものであり、かつそのことが日本において周知であるとしても、自他商品識別標識としての機能を十分有するものであつて、これを否定する要素は存在しない。 したがつて、「National」と「Semiconductor」の二語を二段に併記してなる本願商標は、「Semiconductor」という語が原告主張のとおり指定商品である「半導体」の意味を有する名詞であることと相俟つて、「National」印の半導体又は「National」製の半導体として理解されるものであるから、本願商標から「ナシヨナル」という称呼も生ずるとした審決の認定に誤りはない。 2 原告は、本願商標の指定商品のうち原告の取扱う商品は半導体及び集積回路という極めて高度な技術に係る製品であり、 かかる分野の取引の実情からすれば、その購買者、消費者層が「ナシヨナル」という称呼のみを商品識別の手掛りとして半導体、集積回路を選択し、商品の出所を混同するという可能性は皆無といつてよい旨主張するが、かかる主張は客観的な根拠を欠き、失当である。 本願商標と引用商標の指定商品は、いずれも「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具(医療機械器具に属するものを除く。)、電気材料」であつて、商品区分第一一類に属する全商品を指定する同一のものであり、また、「半導体及び集積回路」の商品を包含するものであることも明らかである。 したがつて、「NATIONAL」の欧文字からなる他人の登録商標すなわち引用商標が存在し、本願商標がこれと類似するものであつて、指定商品も同一のものである以上、本願商標が商品の出所混同の防止規定である商標法第4条第1項第11号に規定する商標に該当するとした審決に誤りはない。 |
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証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一及び二の各事実は、当事者間に争いがない。 二 そこで、請求の原因三の審決取消事由の主張について判断する。 1 前示のとおり本願商標の構成を表示することにつき当事者間に争いのない別紙の記載によると、本願商標は、「National Semiconductor」なる欧文字を上下二段に左横書きし、各頭文字のNとSをやや図案化した文字を用いて肉太にかつ大きく表わし、その余の文字を活字体の小文字で表わしてなるものであることが認められる。 そして、各頭文字が右のとおりやや図案化した文字で肉太にかつ大きく表わされているとはいうものの、近時商業広告等においてはしばしばそれに使用する文字の一部あるいは全部を図案化する手法が用いられていること(このことは当裁判所に顕著な事実である。)に徴すると、各頭文字の右図案化の態様及び太さ、大きさの違いの程度では、いまだ本願商標は、上下のNとSが縦に結合した一個の商標として看取されるということはできず、「National」という語と「Semiconductor」という語の二語が上下二段に横書きされたものとして容易に看取されることに変わりはない。 2 してみると、右のように看取、認識される本願商標の構成(「National」という語を上段に、「Semiconductor」という語を下段に横書きした構成)と、「Semicoductor」という語が指定商品である「半導体」の意味を有する名詞であること(このことは当事者間に争いがない。)から本願商標は「National」印の半導体として理解されることとが相俟つて、本願商標からは単に「ナシヨナル」という称呼も生ずるものといわなければならない。 この点、原告は、本願商標中の「National」という語は、「国家の、国民の」という意味の形容詞であつて、他方の「Semiconductor」という語とともに自他商品識別力が弱いものであることを前提に、本願商標は「ナシヨナル」と称呼されることはない旨主張する。「National」という語が英語の形容詞として「国家的な、全国的な、国民的な」等の意味を有することは当裁判所に顕著な事実であるが、右「National」という語が日本において本願商標の指定商品に係る商標、商号等商品表示として汎用性があるとの事実を認めるに足りる証拠はなく、他に自他商品識別力を否定しあるいは著しく減殺すべき根拠も存しないから、自他商品識別力を十分有するものといわなければならない。よつて、原告の右主張は、前提を欠き失当である。 原告は更に、「National」という語は、米国において多数の会社の商号、商標として用いられ、少なくとも米国においては自他商品識別力が極めて弱いものであるとして、今日の国際化の時代には、日本においても同様に自他商品識別力が弱いと考えるべきである旨主張するが、外国における右のような事情は、わが国商標法に関する審判には直接関係がないから右主張も失当である(なお、成立に争いのない甲第六ないし第八号証の各一・二によれば、「National」という語の自他商品識別力が極めて弱いことを示す根拠として、原告が、第一一類を指定商品とし、その一部に「National」ないし「ナシヨナル」という語を含む商標が登録されているとして指摘する登録商標は、「明治ナシヨナル工業株式会社」なる文字を左横書きしたもの、「NFL」なる文字を主体にフツトボールの図柄を組合せた図形と「NATIONAL FOOTBALL LEAGUE」なる欧文字を結合したもの、及び、星形の図柄を同心円で囲んだ図形の中心に「GAS」なる欧文字を、その周囲に「AMERICAN ASSOCIATION」なる欧文字を、そのまた周囲に「DESIGN COMPLIES WITH NATIONAL SAFETY STANDARDS・CERTIFIED・」なる欧文字を配したものであることが認められ、いずれも、引用商標とは全く構成を異にするから、これらの商標が登録されているからといつて、「National」という語の自他商品識別力が極めて弱いことの根拠とすることはできない。)。 3 したがつて、本願商標からは「ナシヨナル」という称呼も生ずるとした審決の認定は相当であり、それゆえ、本願商標は、「ナシヨナル」の称呼を生ずること明らかな引用商標と称呼を共通にする類似の商標であるとした審決の判断は相当であつて、原告主張の違法はない。 なお、原告は、本願商品の出願人たる原告の取扱う商品は半導体、集積回路であるとして、かかる分野の取引の実情からすれば、その購買者、消費者層が「ナシヨナル」という称呼のみを商品識別の手掛りとして半導体、集積回路を選択し、商品の出所を混同するという可能性は皆無といつてよい旨主張するが、右事実を認めるに足る証拠はないのみならず、本願商標は、半導体、集積回路のみを指定商品とするものではなく、商品区分第一一類に属する全商品を指定商品とするものであり、 引用商標の指定商品と全く同一であるから、本願商標を右指定商品に使用すれば、 実際に商品の出所の混同が生じる可能性のあることは明らかであつて、右主張も採用しえない。 三 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める本訴請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与につき、 行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条、第158条第2項の各規定を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 舟本信光 |
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裁判官 | 竹田稔 |
裁判官 | 水野武 |