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関連審決 審判1967-9319
関連ワード 指定商品 /  権利濫用(権利の濫用) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  出所の混同 /  差止 /  信義則 /  類似範囲 /  使用許諾 /  存続期間 /  無効審判 /  登録異議申立 /  継続 /  非類似 /  商号 /  同業者 / 
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事件 昭和 55年 (行ケ) 170号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1982/12/23
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が、同庁昭和四二年審判第九三一九号事件について、昭和五五年四月二二日にした審決を取消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告は、主文同旨の判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、
原告の負担とする。」との判決を求めた。
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 被告は、登録第四六七四八四号商標(以下、「本件商標」という。)の商標権者である。本件商標は、別紙第一のとおり、「株式会社ユーハイムコンフエクト」の文字を縦書きにしてなり、旧第四三類「菓子及び麺麭の類」を指定商品として昭和二六年一一月三〇日登録出願、昭和三〇年六月二九日設定登録され、昭和五〇年八月一日商標権存続期間更新の登録がされたものであるところ、原告は被告を被請求人として、昭和四二年一二月一二日、商標法第51条に基づき被告が商品「洋菓子」について使用する別紙第三の(1)ないし(4)に示すとおりの構成の各商標(以下、右(1)を「本件使用(1)商標」といい、(2)ないし(4)もこれに準ずる。)は本件商標に類似するものであり、被告がこれを使用することは原告の業務に係る商品(洋菓子)と混同を生ずるものであることを理由として、本件商標の登録取消の審判を請求し、特許庁昭和四二年審判第九三一九号事件として審理されたが、昭和五五年四月二二日右審判の請求は成り立たない旨の審決があり、その審決の謄本は同年五月二一日原告に送達された。
二 本件審決の理由の要点 本件商標及び本件各使用商標は、前項記載のとおりである。
請求人(原告)は、被請求人(被告)が商品「洋菓子」について本件各使用商標を使用することは、本件商標を変更して使用するものであつて、請求人の業務に係る商品(洋菓子)と混同を生じさせるものであると主張する。
ところで、請求人、被請求人間に、昭和三〇年四月二三日神戸地方裁判所において「ユーハイムコンフエクト」なる商標の使用についての裁判上の和解が成立したことは、請求人、被請求人間に争いがなく、
被請求人は本件各使用商標の使用は、右和解に基づくものであつて、本件商標を変更して使用しているものではないと主張し、請求人は被請求人の本件各使用商標の使用は、右和解に基づいて使用しているものではなく、本件商標を変更して使用しているものであると争つている。そこで考えるに、神戸地方裁判所及び大阪高等裁判所の判決は本件各使用商標は、「コンフエクト」の文字が「ユーハイム」の文字に比して多少小さく表わされているとしても、その使用は前記和解の条項の範囲を逸脱するものではないとしている。そうすると、被請求人が使用する本件各使用商標は前記和解に基づく使用であつて、本件商標を故意に変更して使用しているものということはできない。
したがつて、本件商標は商標法第51条の規定により取消されるべきものではない。
三 審決を取消すべき事由 商標法第51条第1項の規定は、商標権者が、同項に規定する行為で、他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをした場合において、その行為により商品の出所を混同された者の私益を保護するために設けられたものではなく、同項に規定する行為をした結果商品の品質を誤認せしめ、他人の業務に係る商品との出所の混同を生ぜしめる行為が一般公衆の利益を害するものであるから、そのような行為をした商標権者の商標登録を取り消すことにした一般公衆保護の規定である。このことは、同項が商標登録の取消しの審判を「何人も」請求できると規定していることからも明らかである。したがつて、登録商標に類似する商標の使用を和解によつて許諾したからといつて、商標法第51条における違法性が阻却されたり、登録取消しの審判を請求することが信義則に違反するとかいうことはない。
審決は、被告は本件各使用商標を、神戸地方裁判所で成立した「ユーハイムコンフエクト」なる商標の使用についての原被告間における裁判上の和解に基づいて使用しているものであつて、その使用は本件商標を故意に変更して使用しているものということはできないとするが、使用についての裁判上の和解が存するからといつて、そのことから直ちに本件各使用商標の使用が、本件商標に類似する商標の使用ではなく、またその使用に故意がないものとすることはできない。
被告が現在使用している、別紙第三記載の「ユーハイム」と「コンフエクト」を二段書きにした商標、あるいは「コンフエクト」部分を小さくした商標を使用することは、「株式会社ユーハイムコンフエクト」なる登録商標(本件商標)の要部である「ユーハイムコンフエクト」の「コンフエクト」部分を変更して使用することであつて、本件商標の変更使用であり、別紙第三記載の商標(本件各使用商標)は、いずれも原告の著名な後記引用の「ユーハイム」商標と類似し、被告が本件各使用商標を使用することは消費者に原告の商品との間に混同を生じさせるものである。
右のように、ある商標の使用が、ある登録商標の変更使用であれば、直ちに、それが他の登録商標と非類似になつたり、変更した商標の使用が他人の業務に係る商品と混同されるおそれを生じないことになるものではなく、被告による本件各使用商標の使用は、それが原被告間の裁判上の和解に基づく使用であると否とを問わず、被告による本件商標の変更使用である。
審決は、また、商標法第51条第1項における「故意」の解釈を誤つている。
商標法第51条は、前記のように一般公衆の保護を目的とするものであるから、
同条第一項の「故意」は、登録商標に類似する商標の使用が、商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品と混同を生じさせるものであることの認識で足り、それ以上他の商標権者の利益を害する目的をもつことを必要としない。原被告間における和解の存在などの関係は、同条項の成否に全く関係がない。
原告は、別紙第二記載の商標(花文字体で「Juchheim’s」の欧文字を横書きし、その下にゴジツク体で「ユーハイム」の片仮名文字を併記して成り、旧第四三類「菓子及び麺麭の類」を指定商品として昭和二六年五月三一日登録出願、
昭和二九年一月一三日登録第三九九五八八号及び昭和二六年商標登録願第一一三八四号の各商標と連合する商標として登録第四三七六七四号をもつて設定登録され、
昭和四九年六月二〇日商標権存続期間更新の登録がされているもの-以下「引用商標」という。)の商標権者であるところ、この商標は、被告が本件各使用商標の使用を開始する以前の戦前から著名であり、現在も引用商標を付した洋菓子は、原料の純正を誇り、高級品のイメージを保持しながら、ケーキ類の洋菓子業界において、売上額において、わが国第一位である。
被告は、原告と同じく神戸に本拠を有する同業者であつて、右の事実を当然知悉していたものである。
本件各使用商標は、前記のように「コンフエクト」部分を小さくしたり、「ユーハイム」と「コンフエクト」を二段に切り離しており、引用商標との間に混同を生ずるものであることは明らかである。引用商標の存在を知悉する被告に、本件各使用商標を使用することが引用商標を付した商品洋菓子と混同を生ずるものであることの認識があつたことは明らかである。
なお、被告は、原告が神戸地方裁判所における和解において、被告に対し、被告が「ユーハイムコンフエクト」の商標を別紙第三記載の態様で使用することを許諾した旨主張するが、原告は被告にそのような使用を許したことはない。原告が和解において、被告に対しその使用の許諾をしたのは、「ユーハイム・コンフエクト」と一行に、同じ大きさの文字で表示した商標であり、「コンフエクト」の文字を殊更小さくしたり、「ユーハイム」と「コンフエクト」を二段書きにした商標の使用を許したことはない。
原告が本件商標登録出願公告に対して登録異議を申し立て、被告主張の裁判上の和解成立後、その異議申立てを取り下げたことは認めるが、異議申立て取下げにもかかわらず、特許庁は本件商標を登録すべきものではなかつた。
被告の陳述
一 請求の原因一及び二の事実は、認める。
二 同三の取消事由は争う。審決の判断は正当であつて、原告主張の違法はない。
1 被告は、本件各使用商標を、昭和三〇年四月二三日神戸地方裁判所において原被告間に成立した裁判上の和解に基づいて使用しているものであり、別紙第三記載のとおり「ユーハイム」部分を「コンフエクト」部分より多少大きくしたり、両部分を二段書きして使用することは右和解で許された範囲内のことであり、本件商標に付記変更を加えて使用していることにはならない。したがつて、原告の本件商標取消審判請求は、商標法第51条の要件を欠くものである。
戦前、有名であつたドイツ人【A】とその妻【B】の経営にかかる「ユーハイム商会」は、戦災による工場の焼失や【A】の死亡等により企業として解体消滅するとともに、同商会が使用していた商標「ユーハイム」(花文字体を含む)も、使用する者がなく放置されていたところ、戦後間もなく、「洋菓子ユーハイム」、「ニユー・ユーハイム」、「ユーハイム商店」、「ユーハイム」などと「ユーハイム」の名称を店名や商標に使用する洋菓子店が神戸市内に乱立した。
被告の代表取締役【C】は、当時、神戸市<以下略>で「ドミノベーカリー」の名称で洋菓子の製造販売を営んでいたが、訴外【D】か訴外【E】から譲り受けた「ニユー・ユーハイム」の営業に共同事業者として参加し、商号を「ユーハイム洋菓子店」と改め、「ユーハイム」の商標で洋菓子の製造販売を継続してきたが、昭和二六年四月二三日、商号を「株式会社ユーハイム・コンフエクト」とする株式会社を設立した。
原告も、前記「ユーハイム商会」の解体後乱立した「ユーハイム」を使用する洋菓子店の一つである「ユーハイム商店」(個人経営)がその前身である。昭和二三年一二月頃、訴外【F】(裁判上の和解当時の原告会社代表取締役)は、前記「ユーハイム商会」が放置したままとなつていた花文字体「ユーハイム」の商標に着目し、当時経営の実権を持つていたビスケツト工場の製品の商標としてこれを使用していたが、昭和二五年一月三一日、株式会社ユーハイム商店を設立した。
被告は、その後、原告の商標との混同を避けるために、その製造にかかる洋菓子に商号商標「ユーハイム・コンフエクト」を、「ユーハイム」に附帯して、「コンフエクト」をやや小さく、あるいは「ユーハイム」と「コンフエクト」を二段に分けて、表示使用した。
ところが、原告は、「ユーハイム」の商号、商標を独占すべく、昭和二六年一〇月頃、被告を被申請人として神戸地方裁判所に商号及び商標の使用禁止の仮処分申請をし、本案訴訟も提起した。
しかし、裁判所の和解勧告により、昭和三〇年四月二三日原被告間に裁判上の和解が成立した。右和解は当事者双方において当事者間の紛争を一切円満に解決するためのものであり、原告は被告に対し「ユーハイム・コンフエクト」の商号及び商標の使用を認め、被告はこれに対し和解金一二〇万円を原告に支払うことを骨子とするものである。そして、商標については、原告は被告に対し原告の登録商標である花文字体「ユーハイム」と同一又は類似の商標の使用を禁ずるが、被告が当時「ユーハイム・コンフエクト」の商標を片仮名文字により表示するについて「ユーハイム」部分に比し「コンフエクト」部分の文字を小さくし、また両者を二段書きに使用していた現状をそのまま承認し、その表示方法を限定することなく、ただローマ字による商標の表示については、和解調書添付の別紙において指定した書体のものに限定したうえで右商標の使用を承認する趣旨のものであつた。
以上のような裁判上の和解成立に至るまでの経緯、紛争の実情、和解の趣旨から考えると、被告の使用する本件各使用商標は、和解成立以前の使用状態を継続踏襲しているものであり、もとより和解条項に反するものではない。
2 商標法第51条は、商標権者が自己の登録商標を正当に使用することを義務づけ、これに違反する使用に商標登録の取消しという制裁を課するものである。すなわち、商標権者が故意にその登録商標に付記変更を加えて、その外観を変更し、又は、指定商品と類似の商品について自己の登録商標もしくはこれに付記変更を加えた類似の商標を使用することにより、商品の誤認混同を生ずるがごとき不正使用をしたときは、商標権乱用に対する制裁として審判により登録を取り消されるものとしたものである。
旧商標法では登録商標に商品の誤認又は混同を生ぜしめる虞のある付記又は変更をして使用しない義務(旧商標法第15条第1項)があつたが、変更の範囲が登録商標の類似範囲内であることを要するか否か明らかでなかつたので、現行法は不正使用の範囲として指定商品についての登録商標の使用を除く類似範囲の使用に限定したものとされている。そうであれば、現行商標法第51条においても登録商標に付記変更を加えて使用することが必要であり、したがつて、故意(事実の認識)も登録商標に付記変更を加えて使用することについて存しなければならない。
前記のとおり、被告の本件各使用商標の使用は、被告の本件商標に基づく使用ではなく、原被告間の昭和三〇年四月二三日成立の裁判上の和解の和解条項第一項に基づく使用である。
被告には、右和解による使用許諾の対象たる商標を使用する認識こそあれ、自己の登録商標である本件商標に付記変更を加えて使用するとの認識も、本件各使用商標と本件商標とが類似するとの認識もなく、本件各使用商標の使用による商品の品質の誤認、他人の業務にかかる商品との混同についての認識も全くない。
3 仮に本件各使用商標と本件商標とが客観的にみて類似しており、また本件各使用商標の使用によつて他人すなわち原告の業務に係る商品との混同が客観的事実として生じているとしても、本件各使用商標の使用は原被告間の和解に基づく使用許諾の範囲内における使用であるから、かかる和解の存在なしに使用している場合とその法的評価を異にすべきであつて、右和解による使用許諾の範囲内の使用であるという点において、商標法第51条該当の違法性を阻却する事由が存するというベきである。
また、原告は、和解において、一方において被告の本件各使用商標の使用を許容し、他方において当時としては莫大な一二〇万円の和解金の支払を被告に要求し、
和解の結果、原告は被告の本件商標に対する登録異議申立てを取り下げ、それが登録されることを認めながら、本件商標が登録されるや、今度は、自ら使用許諾した対象たる商標をもつて、登録になつた本件商標の付記変更による不正使用であると主張するがごときは、全く信義則に違反し、仮に原告に登録取消しの審判を請求する権利があるとしてもこれを濫用するものであつて、到底許されるべきものではない。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一及び二の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決取消事由の存否について判断する。
成立について争いのない甲第二号証、第六号証、第七号証によれば、本件商標は、別紙第一のとおり、同一の大きさ、同一字体の文字をもつて「株式会社ユーハイムコンフエクト」と一連に縦書きしたものであるところ、被告が使用している本件各使用商標は、別紙第三のとおり、いずれも「ユーハイムコンフエクト」の文字から成るが、「ユーハイム」の文字部分を大きく、「コンフエクト」の文字部分を小さく書したものであり、本件使用(1)商標が一連に横書きに書し、本件使用(2)商標が一連に縦書きに書し、本件使用(3)商標が「コンフエクト」部分を「ユーハイム」部分の右下側に寄せて二段に横書きに書し、本件使用(4)商標が「コンフエクト」部分を「ユーハイム」部分の下側中央にして二段に横書きに書したものであることが認められる。
右によれば、本件商標と本件各使用商標からは、いずれも「ユーハイムコンフエクト」の称呼を生ずるので、本件各使用商標は本件商標に類似する商標ということができる。
一方、成立について争いのない甲第五号証によれば、引用商標は、別紙第二のとおり、「Juchheim’s」の欧文字を花文字体で横書きに書し、その下に「ユーハイム」の片仮名文字を横書きに併記して成るものであることが認められる。
ところで、本件各使用商標のうち「コンフエクト」の部分は、英語で「糖菓」を意味する普通名詞としてわが国でも割合知られている語を表示しており、且つ「コンフエクト」に比し、「ユーハイム」の文字部分が顕著に表わされ、この部分が看者に強い印象を与える関係で、本件各使用商標が商品に使用された場合、「ユーハイム」とのみ称呼されて取引に供されることが多いものとみるのが相当である。
しかして、前記争いのない事実に成立について争いのない甲第二五号証の一ないし四、第二六号証ないし第二八号証、乙第四号証の記載を総合すると、ドイツ人【A】とその妻【B】は、大正一三年に神戸市<以下略>において洋菓子店「ユーハイム商店」を創業し、以来その製造販売する洋菓子は、精選された材料と独特の技法による味覚によつて、「ユーハイム」として、引用商標又は引用商標のうちローマ字表示部分の商標と共に、広く関西方面において有名となつたこと、昭和二〇年の【A】の死亡のほか営業所の火災による焼失などによつて、消滅状態にまでなつていた前記「ユーハイム商店」は、昭和二三年に旧従業員達により再建され、それが原告会社であること、引用商標は昭和二六年五月三一日に登録出願され、昭和二九年一年一三日登録されたものであること、被告も原告と同様神戸市に本拠を置き、原告と同種類の洋菓子を製造販売する会社として昭和二六年に設立されたものであることをそれぞれ認めることができ、乙第四号証の記載中右認定に反するかのごとき部分は、当裁判所これを措信せず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。右事実関係に徴すれば、被告が本件商標の指定商品に含まれる商品「洋菓子」について本件商標に類似する本件各使用商標を使用するとき(被告が本件各使用商標を商品「洋菓子」について使用していることは、当事者間に争いがない。)は、
原告の業務に係る商品「洋菓子」と混同を生ずることは明らかである。
被告は、本件各使用商標の使用は、昭和三〇年四月二三日神戸地方裁判所において原被告間に成立した裁判上の和解に基づくものであり、本件商標に付記変更を加えて使用しているものとはいえないから、被告の行為は商標法第51条に該当しない旨主張する。
成立について争いのない乙第一号証によれば、昭和三〇年四月二三日神戸地方裁判所において、『原告は被告が……片仮名文字の「ユーハイム・コンフエクト」……の商標の使用を認めること』なる条項をその一内容とする裁判上の和解が原被告間に成立したことを認めることができるが、その和解は、被告が片仮名文字の「ユーハイム・コンフエクト」なる商標を使用しても、原告はこれに対し商標権その他に基づき、使用差止、損害賠償の請求等をなさないことを約したことを意味するに止まり、その和解の存在は本件各使用商標が本件商標と類似するものであるかどうかの問題とは全く関係がないものと認められるところ、本件各使用商標が本件商標に類似すことは前認定のとおりである。
被告は、本件各使用商標を前記和解に基づいて使用しているものであるから、被告には商標法第51条第1項で規定する「故意」が存しない旨主張する。
そこで考えるに、同項にいう故意とは、商標権者が指定商品についての登録商標に類似する商標又は指定商品に類似する商品についての登録商標もしくはこれに類似する商標を使用することの認識及び、これを使用する結果、商品の品質の誤認又は他人の業務に係る商品との混同を生じさせることを認識していたことをいうものと解すべきであるところ、被告が本件商標の商標権者であること、及び本件商標に類似する本件各使用商標を使用することの認識を有していたことはいうをまたないところであり(前記のような和解が存するからといつて、被告に本件各使用商標が本件商標に類似すること、及びそのような本件名使用商標を使用することの各認識がなかつたとすることはできない。)、また、前認定の事情、すなわち、原告、被告とも神戸市に本拠を有して洋菓子を製造販売する同業者であること、原告の製造、販売する洋菓子「ユーハイム」は、戦前の「ユーハイム商店」時代から、少なくとも関西地方において有名であつたことなどを勘案すると、被告は本件各使用商標を使用することが原告の業務に係る洋菓子「ユーハイム」との間に混同を生ずるものであることを認識していたものというべきであり、被告の、被告には商標法第51条第1項にいう故意がないとの主張は、理由がない。
被告は、本件各使用商標を、前記和解に基づいて、原告の使用許諾の範囲内において使用しているものであるから、被告には商標法第51条における違法性阻却事由がある旨主張する。
しかしながら、商標法第51条は、商標権者が商標を不当に使用することによつて、一般公衆が商品の品質を誤認したり又は他人の業務に係る商品との間に混同を生じたりすることがないように、登録商標の不当使用者に対し、その登録商標の登録を取り消し、もつて一般公衆利益を保護することを主要な目的とするものであるから、原、被告間に被告主張のような和解が存在するからといつて、その和解は、
被告の本件商標の不当使用の違法性を阻却する事由となるものではない。原告が、
本件商標の登録出願公告に対する異議を申し立て、原、被告間の前記裁判上の和解成立後、その異議申立てを取り下げたことについては、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、本件商標は右異議申立て取下げに伴つて登録されたものであることを認めることができるが、本件商標と他の登録商標が類似するか否かは登録異議申立ての有無又はその取下げの有無にかからず、客観的に判断すべきものであり、本件商標と引用商標とは共に「ユーハイム」の称呼を生ずる類似のものであること前に認定したところより明らかであるから、特許庁は原告の異議申立て及びその取下げにもかかわらず、本件商標を登録すべきものではなかつたというべきである。商標法第47条は、同法第4条第1項第11号に該当する場合には、商標登録無効審判を請求できる期間を商標権の設定登録の日から五年を経過するまでとしているが、このことと、もともと本件商標が登録されるべきものでなかつたということとは関係がない。
なお、前掲乙第一号証によれば、原告が前記和解において被告が商標として使用することを認めたのはローマ字表示のもののほか、片仮名文字の「ユーハイム・コンフエクト」と、「ユーハイム」と「コンフエクト」の間に「点」のあるものであることが認められるところ、この事実によれば、原告は被告に対し「ユーハイム」と「コンフエクト」とを同一の大きさの文字で、しかもこれを一連に書してなる商標の使用を許諾したにすぎず、本件各使用商標のように「コンフエクト」の部分を「ユーハイム」の部分より小さく表示したり、更に本件使用(3)、(4)商標のように二段書きにして使用することは許していないものというべきである。なぜなら、「ユーハイム」と「コンフエクト」の大きさを違えたり、両者を二段書きにしたりすることは、両部分の間の「点」の存在を全く無意味にしてしまうからである。そうすると、その点からしても、被告の本件各使用商標の使用は、和解に基づく原告の使用許諾の範囲内のものであるから、違法性がないとの主張並びに原告の本件商標取消しの審判請求は、信義則に反し、権利の濫用である旨の主張も結局は理由がないことに帰する。
三 右のとおりであるから、被告は本件各使用商標を原被告間の裁判上の和解に基づいて使用しているものであつて、本件商標を故意に変更して使用しているものではないとして、本件商標の登録は取消されるべきものではないとした審決は、その判断を誤つているものというべきである。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 高林克巳
裁判官 杉山伸顕
裁判官 八田秀夫