運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1978-12895
関連ワード 包装 /  指定商品 /  普通に用いられる方法 /  補正 /  継続 /  同業者 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 昭和 56年 (行ケ) 260号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1982/07/20
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告 「特許庁が昭和五三年審判第一二八九五号事件について昭和五六年九月一日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決二 被告 主文同旨の判決
当事者の主張
一 請求の原因1 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和四六年一二月二日、別紙目録に示すとおり、白抜きで赤色に塗り潰した円形地内の下部にキヤツプを描き、その中央上部を右手の親指で下圧した図にプロテクターの図を配置した図形から成る商標(以下「本願商標」という。)について、指定商品を第一八類「ひも、綱類、網類、包装用容器」として登録出願し、
その後、昭和四八年一〇月一六日、これを昭和四五年商標登録願第九四七五二号商標と連合する登録出願に変更し、更に昭和五二年一一月二五日、指定商品を「缶のふた」と補正したが、昭和五三年六月一五日拒絶査定された。
そこで、原告は、昭和五三年八月一七日、審判を請求し、昭和五三年審判第一二八九五号事件として審理された結果、昭和五六年九月一日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決がされ、その謄本は、同月一九日原告に送達された。
2 審決の理由の要旨(一) 本願商標は、別紙目録に示すとおりの図形より成り、「缶のふた」を指定商品とするに至つた経緯は前項記載のとおりである。
(二) これに対し、出願についての拒絶の査定は、「本願商標は、缶のB形口金(ねじなし、日本工業規格Z-一六〇七-一九五九金属板製口金参照)に用いる『ふた』の図形と、この中央上部を右手親指で押している図を、赤色に塗り潰した円中に白抜きに表わしたものであるから、この商標は、指定商品中前記に照応する商品(B形口金)に使用するときは、単に商品の品質、使用の方法を示すに過ぎない。したがつて、商標法第3条第1項第3号の規定に該当し、前記商品以外の商品に使用するときは、商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるから、商標法第4条第1項第16号の規定に該当する。
」とした。
(三) 按ずるに、油脂、石油、塗料などの容器として一般に用いられるカンの金属板製口金には、口金のフタをネジによりとめるもの(A形という。)と、口金のフタをその周囲の弾性部によりとめるもの(B形という。)とがあつて、B形は更に封印冠をするものであることは、たとえば、一九七七年一〇月二〇日財団法人日本規格協会発「JISハンドブツク物流・包装一九七八」第三九五頁「金属板製口金(かん用)Z一六〇七-一九五九」の項の記載によつても、これを認めることができる。
ところで、本願商標は、別紙目録のとおり、赤色にて塗り潰した円形状の地内に口金のフタをその周囲にある弾性部によりとめるいわゆるB形の金属板製口金の使用方法を白抜きして図示されたものであるが、このように、特定の色彩で塗り潰した地内に図形を白抜きで表わす表出方法は、該図形の印象的効果を喚起せしめるために、普通に用いられる手法である。
しかして、前記のとおり、そこに表示された図形は、容器の開封方法を図示するものとしては決して珍らしくなく、むしろありふれたものであることは、各種商品のキヤツプの開封方法を図解したものに徴しても、容易に推認されるところである。
結局、前記のような構成から成る本願商標は、これを指定商品中B形の金属板製ふたに使用したときには、これに接する取引者、需要者は単に商品の品質、使用の方法自体を図形をもつて表示したものと理解するに止まり、自他商品の識別標識とは認識しえないものといわざるをえないものであり、かつ、上記商品以外の商品、
たとえばA形の金属板製ふたについて使用したときは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものとするのが相当である。
したがつて、本願商標は、商標法第3条第1項第3号及び第4条第1項第16号の各規定に該当し、登録することができない。
なお、請求人(原告)は、本願商標が同人の取扱いに係る容器のふたを表わすものとして、取引者、需要者間に広く知られているものであるから、本願商標は商標法第3条第2項の規定により登録されるべきものである旨主張し、審査手続において、証拠を提出するとともに、その補強をするものとして昭和四六年ないし昭和五一年の缶キヤツプの年度別販売数量を明らかにした。
しかしながら、請求人の提出した証拠を子細に検討すると、証拠の証明書中において、使用された標章として示されたものと、本願商標として示されたものとは、
色彩において相違するものであり、それに加え、提出の証明書をもつてしては、本願商標が自他商品識別の機能を果たす商標として使用され、かつ、その結果請求人の業務に係る商品を表示するためのものとして取引者、需要者間に広く認識せしめる程度に至つているものとは認め離いものであり、請求人(原告)の主張は、採用できない。
3 審決を取消すべき事由 審決が、「本願商標が自他商品識別の機能を果たす商標として使用され、かつ、
その結果原告の業務に係る商品を表示するためのものとして取引者、需要者間に広く認識せしめる程度に至つているものとは認め難い。」としたのは事実を誤認したものであり、違法であるから、審決は取消されるべきである。
原告は、昭和四六年以来、B形の金属板製口金(キヤツプ)の商商標として本願商標と同一図形を独占使用してきた。すなわち、昭和四六年には、本願商標と同一の図形を付したB形金属板製キヤツプを六一万個余り製造販売し、昭和五二年九月までにこの種缶のキヤツプを四七〇〇万個製造販売している。また、原告は、本願商標と同一の図形の周囲にYASHIMAKOGYO CO LTDの欧文字を付加した構成から成る標章に係る商標登録第一〇七八八七四号(甲第三号証の一)(昭和四九年七月一九日登録)の商標権及び本願商標と同一の図形についての意匠に係る、物品を「包装用容器のふた」とする意匠登録第三〇九八四八号(甲第四号証の一)(昭和四五年一月一三日登録)の意匠権をそれぞれ有し、本願商標を金属キャツプの頂板上面に付して使用しているほか、本願商標もしくはこれと同一の図形を、昭和四五年頃から原告の「入社の手引き」(甲第七号証)に表示し、昭和四六年四月頃以降は、原告の用箋封筒、名刺及び商品包装用ダンボール等(甲第八号証の一、二第九号証ないし第一三号証)に印刷し、更に、昭和四八年三月頃からはクラウンキヤツプの商品説明パンフレツト(甲第六号証)に付し、また、昭和五一年九月頃からは、同キヤツプのカタログ(甲第五号証)に印刷して使用している。
このように、本願商標を原告の製造販売するB形の金属板製のキャツプに付して使用するほか、本願商標もしくはこれと同一の図形を取引書類、商品の包装及びカタログ類のすべてに印刷して盛大に使用しているので、本願商標の図形は、原告の業務に係る商品であることを示すものとして、取引者、需要者間に周知なものとなつている。
したがつて、本願商標は、前記の如き使用の結果、何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものであるから、商標法3条第2項の規定により商標登録されるべきである。
二 被告の答弁及び主張1 請求の原因1及び2の事実は、認める。
2 同3の取消事由についての主張は、争う。
審決の判断は正当であつて、違法の点はない。
原告は、本願商標もしくはこれと同一の図形を長年に亘り使用した結果、本願商標は取引者、需要者間に広く知られ、これを付した金属キャツプをみれば、取引者、需要者は、原告の商品であることを認識できる旨主張する。
しかしながら、原告提出の証拠のうち、カタログ(甲第五号証)、商品説明パンフレツトの表紙の表裏(甲第六号証)、包装用ダンボールの側面(甲第一三号証)、新聞の広告欄(甲第一四号証ないし第一六号証)及び金属キヤツプの上面(検甲第一号証)にそれぞれ表示されている図形をみると、これらの図形は、いずれも本願商標と相似の図形を描いたものであり、まさにB形金属キヤツプの使用方法を表示(品質の表示)するに止まると認められるものであつて、何ら出所表示力のないものというべきである。また、入社手引パンフレツト(甲第七号証)、用箋(甲第八号証の一、二)、封筒(甲第九号証及び甲第一〇号証)、宛名票(甲第一一号証)及び社員の名刺(甲第一二号証)は、単に原告会社において事務的に使用される商品に過ぎないものである。更に、原告の使用に係るものとして周知著名であること等を立証するための証明書(甲第一七号証ないし第三九号証)は、形式的に原告の主張事実があることを証明する旨をそれぞれ証明者の業務範囲に応じ同文をもつて記載したものであるから、にわかにそれが事実であるとは措信し難い。
そうとすれば、本願商標が商品金属キヤツプについて自他商品識別の機能を果たす商標として使用され、かつ、これが使用された結果、原告の業務に係る商品を表示するものとして取引者、需要者間に広く認識される程度に至つているものとは認められない。
原告の主張は理由がない。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因1、2の事実については、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取消すべき事由の存否について判断する。
本願商標は、別紙目録に示すとおり、缶のB形薄板製口金(キヤツプ)の「ふた」とその左側にプロテクターの図を配し、「ふた」の中央上部を右手の親指で押している図形とを赤色に塗り潰した円形地内に白抜きで表わした構成であり、指定商品を「缶のふた」とするものであることは、当事者間に争いがない。
本願商標の構成が前記のとおりであることからして、本願商標がB形の薄板製口金(キヤツプ)に付されて用いられた場合には、一般の需要者は、そのキヤツプの開封方法を図示したものと理解するのが普通であり、右の使用方法が、赤色に塗り潰された円形地内に白抜きで表示されていても、これは使用方法を普通に用いられる方法で表示したに過ぎないとみざるをえないから、本願商標は、その構成に照らし、他人の業務に係る商品からそれが付され個別化された商品を識別するための商品識別標識とは認識し難く、むしろ、その使用方法を示すところの記述的表記と理解されるものとみるのが相当である。
ところで、原告は、本願商標もしくはこれとほぼ同一の図形を長年に亘つて使用してきた結果、需要者はこれが付された商品を原告の業務に係る商品であると認識できるから、本願商標には商標法第3条2項の規定にいう使用による特別顕著性がある旨主張する。
成立に争いのない甲第三号証と第四号証の各一、二、第五号証ないし第七号証、
第八号証の一、二第九号証ないし第一二号証、原告の包装用ダンボールの写真であることについて争いのない第一三号証、第一四号証ないし第三九号証、証人【A】、同【B】の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、つぎの事実が認められる。
原告は、昭和四一年六月二〇日に意匠に係る物品を「包装用容器のふた」として本願商標とほぼ同一の図形について意匠の登録出願をし、昭和四五年一月一三日にこれが意匠登録されたことから、昭和四五年ころから右図形を原告のいわゆる社標としても用いることとし、同社のパンフレツト、用箋、封筒などにも印刷して用いることになり、同年九月三日には、前記意匠登録された図形とほぼ同一の図形からなる標章について指定商品を第一八類の金属製包装用容器などとして商標の登録出願をするとともに、昭和四六年四月ころからは、本願商標をキヤツプの上面に印刷したB形の金属製口金(キヤツプ)の製造販売を始め、以後もこれを製造して、主に製缶業者に継続的に販売してきたことからして、少なくとも原告の同業者である各種缶口金製造販売業者及びこれとの関連業者である製缶業者、金属印刷業者並びに製缶業者と継続的な取引関係があるものと推認される塗料、醤油などの製造業者の間においては、本願商標を上面に印刷したB形の金属板製口金(キヤツプ)が原告の製造販売に係るものであることがほぼ、知られていること。
しかしながら、前掲各証拠を総合すると、原告が本願商標を付して製造販売する「缶のふた」は現在までのところ、専らB形の金属板製口金(キヤツプ)に限られ、かつ、その販売先も主に前記のような製缶業者などの大口需要者に限られていること及び本願商標の指定商品が右の業者などのほかに、広く一般の需要者についても取引の対象とされていることが認められ、しかも、本願商標が前記の如くB形の薄板製口金(キヤツプ)の開封方法を図によつて説明したものと容易に理解されうる構成のものであることを勘案すると、前掲甲第二二号証ないし第三九号証及び証人【A】の証言によつても、いまだ、広く一般の需要者の間に本願商標が、原告の製造販売する商品を他の業者の商品と識別するための標識として、認識される程度に知られるにいたつているものとは認めることができない。
そうすると、本願商標は、一般の需要者にとつて、いまなお、商品の自他識別標識とは理解されず、むしろ、その図示の内容に即してキヤツプの開封方法を示したものと理解されることを否定することはできない。
結局、本件商標については、これが使用によつて「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる」程度に一般の需要者間において顕著になつたものとはしえず、本願商標について商標法第3条第2項の規定に係るいわゆる使用による特別顕著性ありとする原告の主張は採用できない。
右と同旨の判断をした審決は正当てあり、審決に原告主張のような違法の点はない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 荒木秀一
裁判官 舟本信光
裁判官 舟橋定之