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関連審決 審判1978-141
関連ワード 使用事実 /  指定商品 /  不使用 /  通常使用権 /  国内 /  商標権の移転 /  使用許諾 /  存続期間 /  更新登録 /  正当な理由 /  継続 /  商号 / 
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事件 昭和 55年 (行ケ) 329号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1981/11/25
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告期間につき、附加期間を九〇日とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告は、「特許庁が昭和五三年審判第一四一号事件について昭和五五年六月一六日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は、主文同旨の判決を求めた。
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、別紙のとおり、「GOLDWELL」の欧文字と「ゴールドウエル」の片仮名文字とを上下二段に横書きしてなり、第四類「せつけん類、歯みがき、化粧品、香料類」を指定商品とする登録第一一〇一〇一二号商標(出願人【A】、登録出願日昭和四七年三月二三日、設定登録日昭和四九年一二月二三日、以下この商標を「本件商標」という。)を、昭和五一年四月二九日【A】より譲り受ける契約を結び、昭和五二年一月一七日その旨の移転登録を経て、その商標権者となつた者である。
被告は、昭和五二年一二月二七日、特許庁に対し、原告を被請求人として、本件商標について商標登録の取消の審判を請求し、特許庁昭和五三年審判第一四一号事件として審理されたが、昭和五五年六月一六日、本件商標の登録を取消す旨の審決があり、同審決の謄本は、同年七月一〇日原告に送達された(なお、出訴期間として三カ月が付加された。)。
二 審決の理由の要点 被請求人(原告)が、たとえ本件商標の付された商品の日本国内における製造販売の目的から、昭和五二年一一月二六日東京美商株式会社(以下「東京美商」という。)との間に、本件商標の使用許諾契約を締結し、次いで、東京美商が同年一一月三〇日美陽化学株式会社(以下「美陽化学」という。)との間に、右商品の生産委託契約を締結し、更に、美陽化学が委託生産を開始するため同年一二月一五日付で厚生大臣に対し化粧品製造品目追加許可申請をしたことにより、その関係書類に本件商標と同一性を有する商標名を記載したからといつて、このことだけで、本件商標を使用したものということはできず、他に、本件商標を本件審判請求の登録前に使用したと認められる証拠はない。
また、被請求人は、本件商標を使用しなかつたことの正当な理由として、(イ)本件審判請求前から、その指定商品であるシヤンプーの販売計画をしていたこと、
(ロ)右商品の製造、販売には厚生大臣の許可が必要とされ、そのために、現実に商品が販売されたのが、本件審判請求後となつたことを挙げるが、(イ)については、具体的に販売計画を立てたと認むべき資料はなく、(ロ)については、許可が得られるのにある程度の期間が必要なことは、被請求人が、事前に知りうることであるから、許可を待つために、商品シヤンプーの製造販売が遅れたとしても、それは請求人の責に帰すべきものであつて、商標法第50条第2項但書にいう「正当な理由」に該当しない。
よつて、本件商標は、商標法第50条の規定により、その商標登録を取消すべきものである。
三 審決の取消事由 原告は、本件審判請求の登録日(昭和五三年二月二一日)前三年以内に、本件商標が、そのいずれの指定商品についても使用されなかつたことは争わない。しかし、次に主張するとおり、本件商標をその指定商品に使用しなかつたことについては正当な理由があるところ、審決がこれを認めなかつたのは違法であるから、審決は、取消されるべきである。
(一) 原告は、前述のとおり、本件商標権を【A】から譲り受けて移転登録を経た後の昭和五二年一一月二六日本件商標を使用すべき商品の日本国内における製造販売の目的から、東京美商(代表取締役【A】)との間に、本件商標権について通常使用権許諾契約を締結し、次いで、東京美商は、同年三〇日美陽化学との間に、
美陽化学が東京美商の指示する処方に基づいて本件商標を使用するシヤンプーを製造する旨の生産委託契約を締結し、更に、美陽化学は、同年一二月一五日右契約に基づくシヤンプーを製造するために、厚生大臣に対し、化粧品製造品目追加許可申請書を提出して、シヤンプーの製造許可申請を行い、昭和五三年三月二〇日付で右許可がされた。そこで、美陽化学は、シヤンプーの製造を開始し、同年七月に入つて、本件商標を使用したシヤンプーが、東京美商から日本国内に販売されるに至つた。
(二) このように、本件商標を使用した商品シヤンプーが、日本国内に現実に販売されるに至つたのは、昭和五三年七月以降であるが、東京美商においては、それ以前から、本件商標を使用する目的で着実にその指定商品であるシヤンプーの販売計画を立てて、そのための準備を進めていたのであり、また、薬事法第12条の規定によると、化粧品の製造業の許可を受けた者でなければ、業としてこれを製造してはならないとされているため、東京美商では、前記のとおり、製造業者である美陽化学との間に製造委託契約を締結したのであり、更に、美陽化学では、薬事法第18条の規定により製造品目の追加をする必要を生じ、前記のとおり、厚生大臣に対する評可申請手続を行つたのである。しかして、これらの諸行為は、本件商標使用の前提として、強行法規によつて要求されているところであり、しかも、これらはいずれも本件審判請求の登録前に行われたのであるが、右許可が、昭和五三年三年二〇日に至るまで与えられなかつた結果、本件商標の使用が開始できなかつたに過ぎない。
したがつて、本件商標が本件審判請求の登録前三年以内に使用されなかつたことについては、少なくとも通常使用権者である東京美商において、商標法第50条第2項但書にいう正当な理由がある。
(三) そもそも、商標法第50条第2項の規定による商標登録の取消を免れるための登録商標の使用は、取消審判請求の登録前三年以内にされていれば足り、本件についていえば、この期間は、昭和五〇年二月二一日から昭和五三年二月二一日(本件取消審判請求の登録日)までである。そして、同条項但書にいう正当な理由もこの期間内のある時期に存すれば足り、この期間全体にわたつて継続的に存続する必要はなく、その期間内のある時期特に取消審判請求の登録がなされたときに存すれば足りるのである。
ところで、前記のとおり美陽化学が厚生大臣に許可申請をした昭和五二年一二月一五日から右許可のされた昭和五三年三月二〇日までの間は、東京美商としては、
本件商標を使用する意思があつたのにかかわらず、薬事法の規定によりそれが不可能であつたのである。そして、東京美商が本件商標権について通常使用権を取得するための契約を締結してから厚生大臣に許可申請が行われるまでの一連の手続は、
遅滞なく(僅か二カ月以内に)、しかも、本件審判請求の登録前にされているのである。
したがつて、この点でも、本件商標の通常使用権者である東京美商において、本件商標を使用しなかつたことについて、商標法第50条第2項但書にいう正当な理由がある。
なお、登録商標の不使用については、商標法第50条に規定する取消審判の他に、商標権存続期間更新登録に関して、商標法第19条第2項第2号及び同第三項に同様の規定があるが、特に第19条第3項の規定(不使用についての正当理由)の適用については、特許庁において運用基準が定められており、本件のような場合は正当理由があるものとして取扱われるプラクテイスが確立している。このプラクテイスは、商標法第50条第2項但書の規定についても、そのまま適用できるものである。
(四) 被告は、原告と東京美商との間の通常使用権許諾契約は、外資に関する法律第10条所定の認可を受けていない旨主張するが、本件における右通常使用権許諾契約は、同条の認可がなくとも、契約自体は有効に成立しているのであり、通常使用権の許諾があつた事実は否定できない。
被告の答弁と主張
一 請求の原因一、二の事実は認める。
二 同三の主張は争う。原告は、本件商標の不使用につき正当な理由があると主張するが、以下に述べるとおり、右主張は失当である。
(一) 原告の主張からすると、東京美商の代表者は、本件商標権の原権利者であり、東京美商が原告から本件商標の通常使用権を取得した僅か四日後に美陽化学と生産委託契約を締結し、その僅か一五日後に厚生大臣に対し許可申請手続を行つているのである。このような事情を考慮すると、原権利者、原告、通常使用権者の三者は、極めて緊密な間柄にあつたものであるから、たとえ薬事法による手続等が遅れたとしても、それは専ら原告の責に帰すべきものである。
仮りに、原権利者、原告及び通常使用権者間に、右に述べたような特別な関係がなかつたとしても、原告は、本件商標権を譲り受けるに当り、本件商標権の置かれた状態を知りえたはずであり、また、わが国において新たに化粧品の製造、販売を開始するために通常必要な期間(厚生省から許可を取得するために要する期間等)は、原告が本件商標を正当に使用する意思を有していたならば、当然に知りえたはずである。原告の主張する一連の行為によれば、厚生省からの製造許可は、申請後わずか三か月足らずの間にされているが、原告が本件商標権を取得した日より、本件商標の登録日から三年の期間が経過するまでには、何か月もの十分な期間があつたのであるから、原告はその期間内にわが国で化粧品を製造、販売し、本件商標を現実に使用することは十分に可能であつたというべきである。すなわち、本件商標の使用が遅れたことは、原告がより早く使用を開始しなかつたという単純な事実によるものであり、当然にこれは原告の責に帰すべきものである。
(二) 原告は、薬事法第12条の規定により、東京美商が美陽化学との間に生産委託契約をしなければならなかつた旨主張するが、右契約は、前記のとおり通常使用権設定契約締結の僅か四日後に行われているのであるから、本件商標の使用がこれによつて遅れたということはできない。また、原告は、東京美商との間に最低三年に及ぶ通常使用権許諾契約を締結したものである以上、その相手方である東京美商が化粧品の製造が許された会社であるか否かは、当然調査していたはずであり、
その許可のない者と契約をしたことによる不利益は、原告が負うべきものである。
(三) 元来、商標法は、商標の使用意思があるところに商標の登録を認め(第3条第1項柱書)、不使用を理由とする商標登録の取消審判制度を設け(第50条)、また、登録商標の更新時に当り、使用の実績を要求している(第19条第2項第2号)。不使用商標の存在を放任すると、第三者による商標選択の自由を不当に奪い、あるいは、商標ブローカーの活躍を許し、商標制度の適正な運用を妨げるのに対し、商標保護の本質は、商品流通社会における商標権者の取引上の利益を保護し、もつて、公正な競業秩序を維持することにあるから、近年におけるわが国の商標法の改正は、特に商標の使用を強化し、不使用商標の存在を阻止することに向けられてきた。
このような不使用商標の登録取消制度の趣旨からすると、商標法第50条第2項但書の「正当な理由」の解釈に当つては、商標権者に不当に有利になるようゆるやかに解釈されてはならない。また、右の「正当な理由」は、一律に判断されるべきものではなく、当該商標に対する商標権者の使用しようとする真摯な意図、当該商標が使用される商品の通常の取引状態、使用されるまでに通常要求される期間などを総合的に考慮して、具体的に判断されるべきである。
ところで、原告らが、本件商標を使用しようとする真摯な意図を有していたのであれば、原告の主張する一連の行為もより早い機会にできたはずであるし、また、
厚生大臣の許可にも現実には僅か三か月しかかかつていない。更に、本件商標を使用した商品が販売されたのは、原告の主張によつても、昭和五三年七月以後であり、右許可を受けてから四か月も経過している。もし右許可を受けても実際に商品化するまでに四か月位かかるのが普通であれば、通常使用権者側は、当然にその期間も考慮に入れて、本件登録商標の使用の用意を開始すべきだつたというべきであり、単に、厚生大臣の許可が期間前に出なかつたことのみを取り上げて、「正当な理由」があるとすることは許されない。
(四) 被告の調査によれば、原告は、何ら自己の事務所も社員も有しておらず、
取締役一人が経営するペーパーコムパニーである(乙第一号証参照)。このように、原告が実質上何ら特定の業務を有せず、事務所も社員も、したがつて、本件商標の指定商品である化粧品の製造設備をも有しないことを考慮すると、何故【A】は本件商標権を原告に譲渡したのか、不可解である。商標が商品に使用される標識であり、使用されてこそ価値の高まるものである点から考えれば、使用されていない商標を、更に、自ら使用することのできない者が譲り受けることは、何らかの目的のために作為的にしたものとしか考えようがない。
また、原告と東京美商との本件商標の通常使用権許諾契約は、使用期間が一年を超えているにも拘らず、外資に関する法律第10条所定の認可(これは、契約の効力発生要件である。)を受けていないいい加減なものである。しかも、原告は、会社としての実体が前記のとおりであつて、化粧品の製造設備等を有しておらず、その目的の中には、化粧品の研究、開発に関する事業がない。更に、前記使用権許諾契約の契約書第一項には、東京美商は原告から提供される処方に従つて生産される製品について、本件商標を使用する旨の記載があるが、原告が化粧品の処方を提供しうるような能力のないことは、前述したところから明らかであるから、この記載も真実を反映しているとは思えない。事実、東京美商からシヤンプーの生産委託を受けた美陽化学が、昭和五二年一二月一五日に厚生大臣に提出した「化粧品製造品目追加許可申請書」に記載された当該シヤンプーの成分は、シヤンプーに通常用いられている普通の成分であり、何ら新規なものではない。すなわち、このシヤンプーが原告から提供された処方に基づいて生産された特別なものとは考えられず、美陽化学が通常用いられる成分を使用して普通のシヤンプーを生産したに過ぎない。
これに対し、被告会社は、一九四八年の設立にかかり、頭髪用化粧品の製造販売を業としているが、その商品はすべて高級品であり、特にそのヘアスプレイは著名である。被告は「GOLDWELL」の表示をその商標及び商号として使用しており、ドイツにおける最大のヘアースプレイメーカーであると同時に、全欧州における屈指のメーカーとして、商標「GOLDWELL」とともに、ヨーロツパにおいては広く知られているものである。ところで、被告は、昭和五〇年一一月初旬東京美商の代表者である【A】に本件商標権の譲渡の交渉を行つたところ、拒否されたが、このようなことからしても、原告、【A】、、東京美商が、被告の存在及び被告にとつて本件商標が重要なものであることは、遅くとも昭和五〇年一一月当時熟知していたことは明らかであり、また、登録後三年を経過すると、被告から不使用に基づく本件商標の登録取消の審判請求がされるおそれがあることを知つていたといえる。
以上の事情を考慮すると、原告らは、被告からの本件商標の登録取消審判の請求に対抗できるよう、三年の期間が経過する直前になつて、形式を整えるために、急きよ使用権設定契約の締結など一連の行為を行つたに過ぎないものといえる。
なお原告は、特許庁におけるプラクテイスとして、本件のような場合、商標法第19条第3項の規定にいう正当な理由があるものとされているから、同法第50条第2項但書の規定の場合についても、同様に取扱われるべきである旨主張するが、
存続期間更新登録時においては、商標権者が更新について有する利益を直接目的として判断すればよいが、不使用商標の登録取消審判に当つては、第三者の利害関係を考慮しなければならないから、使用、不使用の内容は、存続期間の更新時と取消審判時とでは、別異に判断せざるをえない。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一、二の事実は当事者間に争いがなく、また、本件審判請求の登録日(昭和五三年二月二一日)前三年以内に、本件商標が、そのいずれの指定商品についても使用されなかつたことは、原告の自認するところである。
二 そこで、原告主張の審決取消事由、すなわち、本件商標がその指定商品について商標法第50条第2項但書にいう登録商標の使用をしていないことについて正当な理由(以下単に「不使用についての正当な理由」という。)がないとした審決の判断の当否について検討する。
(一) 成立に争いのない甲第三号証、第四号証、第八号証ないし第一〇号証、前記当事者間に争いのない事実と原告の自認する事実及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
「【A】は、本件商標について、昭和四七年三月二三日商標登録出願をし、昭和四九年一二月二三日同人のために商標権設定の登録がされたが、同人は、昭和五一年四月二九日原告との間に、右商標権を原告に譲渡する旨の契約を締結し、昭和五二年一月一七日その旨の移転登録を経た。原告は、同年一一月二六日東京美商(代表者は、前記【A】)との間に、本件商標権について、使用期間を三年とする通常使用権許諾契約を締結した。ところで、薬事法第12条の規定によると、化粧品(同法第2条第3項の規定によれば、シヤンプーは同法にいう化粧品であると解せられる。)の製造は、化粧品の製造業の許可を受けた者でなければこれをしてはならないとされているところ、東京美商は、右製造業の許可を受けていないことから、その許可を受けている美陽化学との間に、同月三〇日本件商標を使用する予定のシヤンプーを東京美商の指示する処方に基づいて製造して同社に供給する旨の製造委託契約を締結した。しかして、薬事法第18条の規定によると、化粧品の製造業者は、当該製造所において製造する品目を追加しようとするときは、厚生大臣の許可を受けなければならないとされていることから、美陽化学では、前記製造委託契約によるシヤンプーを製造するに当り、新たに同条による化粧品の追加の許可申請をする必要を生じたので、同年一二月一五日厚生大臣に対し、本件商標名を付するシヤンプー(洗髪用化粧品類)について製造品目の追加の許可を申請し、昭和五三年三月二〇日その許可を受けた。」(二) ところで、原告は、右認定のとおり、薬事法第12条の規定により東京美商が美陽化学と製造委託契約を締結せざるをえなかつたこと及び同法第18条の規定により美陽化学も厚生大臣に許可申請をしなければならず、右許可がされるまでは、指定商品たるシヤンプーの製造ができなかつたことにより、本件商標の使用が遅れたのであるから、少なくとも、通常使用権者である東京美商において、不使用についての正当な理由があること、また、右正当な理由は、取消審判の登録時に存すれば足り、東京美商が通常使用権の許諾を受けて後は、一連の手続が遅滞なく行われた点でも、不使用について正当な理由がある旨の主張をする。
そこで、考えるに、商標制度は、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とし、設定された商標権を通じて、商品流通の過程、競争関係に一定の秩序をもたらそうとするものである。そして、商標権が設定された後であつても、この目的ないし要請に積極的に応えるに足りない事実、例えば、当該商標の一定期間の継続した不使用の事実が、現にあれば、正にこの事実によつて、その商標権は、商標制度存在の趣旨にそわず、かえつて、他人による同一又は類似の商標の使用を阻み、ひいて、他人の流通秩序への寄与を妨げることになり、消極的な意味しか有しないものとして否定さるべきものとするのが、現行不使用による商標登録取消制度の趣旨と解される。
したがつて、商標権を譲り受ける場合には、その商標の従前の使用状況についての事実、例えば、指定商品の一部又は全部について、一定の期間使用されていない事実があるときには、その事実自体は、消滅するはずのものではないから、当該商標権に当然に伴うものとして、譲受人もまた、そのような事実を伴いないしはそのような状況下にある商標権を承継し、したがつて、当該商標権の譲り受けにより、
譲渡前の不使用の事実が不問に付され、不使用の期間が譲受人との関係で新たに起算されるというようなものではないと解すべきであることは、商標法第50条第1項、第二項の規定の前示趣旨に鑑み明らかである。そして、このことは、商標権者が通常使用権を許諾した場合における通常使用権者との関係においても全く同様である。
したがつて、商標権を契約によつて取得しようとする者又は商標権者から通常使用権の許諾を受けようとする者は、その際に当該登録商標の使用の事実ないし状況のいかんを調査すべきであり、例えば、不使用の状態が相当期間継続しているような場合には、その商標権の登録がその不使用の期間に応じて取消される可能性を包蔵したものであることを予想して取引に当るべきである。それ故に、不使用についての正当な理由の有無を判断するに当つてもまた、商標権の移転又は通常使用権の許諾がされた場合には、単にその移転又は許諾後の事情のみならず、それ以前の継続した不使用の事実ないし状況が、商標登録取消審判請求の登録前三年内の不使用事実として、前後通じて判断されるべきものである。
そうすると、商標権の譲渡又は使用権の許諾後のみについてみると、当該登録商標の使用の前提として必要な行為がたとえ遅滞なく行われたとしても、そのことだけでは、直ちに不使用についての正当な理由があるものということはできない。
本件においては、東京美商が美陽化学との間に前記認定の経緯により締結した製造委託契約及び美陽化学が前記認定の経緯によつてした厚生大臣に対する許可申請手続は、薬事法第12条第18条の規定の趣旨に鑑み、本件商標の使用の前提として必要な行為であつたのであるから、指定商品に化粧品を含む本件商標の商標権者である原告はもとよりのこと、通常使用権の許諾を受けた東京美商(その代表者は、本件商標の登録出願者であり、原商標権者である【A】である。)にあつては、右指定商品中特に化粧品についてこれを使用しようとする以上、薬事法上前記のような規制を受けるものであることは承知し又は当然に知つていなければならない事柄であることはいうまでもない。したがつて、例えば、薬事法第18条による許可申請を遅滞なくしたのに拘らず、申請者の責に帰すべからざる事情によつて、
許可が得られるまでに予想外の長期間を要したなど特別の事情がある場合はともかくも、商標の不使用の状況が長期間経過した後にようやく許可申請がされたような場合には、その申請が、前認定のとおり、たとえその直前に通常使用権を取得した東京美商から製造委託を受けた美陽化学によつて急きよされたものであるとしても、それ以前の不使用の事実ないし状況は、上述のとおり商標権それ自体についての事実であるから、不使用についての正当な理由の存否の判断に当つては、考慮されるべきものである。
ところで、前認定のとおり、昭和五二年一一月二五日東京美商に対し通常使用権の許諾がされた後、厚生大臣に対する許可申請までは、約二〇日であり、右許可がされた昭和五三年三月二〇日までは、本件商標の使用ができない期間であつたとしても、それ以前の不使用期間をみると、原告が本件商標権を譲り受ける契約を締結した日から東京美商との間に通常使用権許諾契約を締結した日までの不使用期間が約一年七か月に及んでおり、更に、原告が本件商標権を譲り受ける契約を締結する以前にも長期間不使用の状態が継続していたことを併せ考えると、原告が前記のとおり主張するところだけでは、不使用についての正当な理由があるものとすることはできない。そして、原告が主張する商標法第19条第3項の規定の適用についての特許庁における運用基準が、右の判断を左右するものではなく、他に本件商標の不使用についての正当な理由が存在することを認めるに足りる主張立証がない。
(三) 以上のとおりであるから、本件商標に関し、不使用についての正当な理由がないとしたうえ、商標法第50条の規定によりその登録を取消すべきものであるとした審決は、相当であつて、これに違法の点はない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の附与につき、行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条第158条第2項の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 荒木秀一
裁判官 藤井俊彦
裁判官 清野寛甫
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