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関連審決 審判1965-7665
関連ワード 指定商品 /  著名な略称 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  観念(観念類似) /  出所の混同 /  信義則 /  存続期間 /  無効審判 /  継続 /  商号 /  同業者 / 
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事件 昭和 53年 (行ケ) 216号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1981/11/05
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は、「特許庁が昭和五三年一一月七日、同庁昭和四〇年審判第七六六五号事件についてした審決を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求めた。
原告の請求の原因及び主張
一 特許庁における手続の経緯 被告は、登録第六六四三四六号商標(別紙に示した構成より成り、第七類「被服、布製身回品、寝具類」を指定商品として、昭和三八年七月一二日に登録出願され、同四〇年一月一九日に登録され、その後昭和五〇年八月一日に商標権存続期間の更新の登録がなされたもの、以下「本件商標」という。)の商標権者であるが、
原告は昭和四〇年一一月一一日右商標登録無効審判の請求をし、右事件は特許庁昭和四〇年審判第七六六五号事件として審理された。ところが特許庁は、昭和五三年一一月七日「請求人の申し立ては成り立たない。」との審決をし、右謄本は同月一八日原告に送達された。
二 審決理由の要旨(一) 本件商標は、前項記載のとおりのものである。
(二) 請求人(原告)は、登録無効審判の理由を次のとおり述べた。
(1) 請求人会社は、昭和三六年一一月六日、寝具一式の製造並びに販売、室内装飾品の販売並びに室内装飾及びこれに附帯する一切の業務を営むことを目的として設立されたものであり、営業開始以来盛大に繁栄し、本件商標の登録出願日以前においてすでにその商号「月の友の会」は取引者及び需要者間に周知著名となつていたものである。
被請求人(被告)は、請求人会社の設立に当り進んで株式を引受けて株主となり、かつ、請求人の開業以来請求人と継続的な取引関係を持続すると共に、その取引高は尨大な金額に上るに至つたものである。従つて、当事者双方互いに熟知の関係にあつたというべきである。
しかるに、本件商標は「月の友の会」の文字より成ることは明らかで、著名な請求人の商号観念せしめるから、両者には明らかな同一性が認められ、しかも請求人は、被請求人が本件商標の登録を受けることにつき承諾を与えたことはない。
従つて、他人の個人的権益を保護することを主眼として設けられた商標法第4条第1項第8号の規定に違反してなされたものといわざるを得ない。
(2) 本件商標は、請求人が昭和三三年以来その販売に係る商品寝具類に使用し、本件商標出願の日前において、需要者に周知せられていた名称「月の友の会」と同一商標であつて、同一又は類似の商品に使用するものであり、かつ、本件商標は、その指定商品に関しその流通過程において商品の出所の混同を生じるおそれがあることは明らかである。
従つて、本件商標は商標法第4条第1項第10号及び第一五号の規定にも該当するものである。
(3) 本件商標をその指定商品に使用するときは、その商品は請求人の販売に係る商品であるかの如く、又は、請求人がその品質について保証している商品であるかの如く、その商品の品質について需要者を誤認せしめるおそれがある。
従つて、本件商標は商標法第4条第1項第16号の規定にも該当するものである。
(三) 被請求人は、次のとおり述べた。
(1) 「月の友の会」なるものは、被請求人が主体となって結成したものであつて、本件商標登録をなすに当り請求人の承諾を得る必要なきものである。
なんとなれば、被請求人は京都西川甚五郎商店の営業を承継したものであるが、
その営業は四〇〇年の歴史を有し、「月印」の商標は古く大正年代からその主要商標として使用されてきたものであり、寝具類で「月印」といえば京都西川が想起され、京都西川といえば「月印」の寝具類が想起されるほど取引者及び需要者の間に広く認識されているものである。
そこで、被請求人においては、昭和三一年頃から、九州地区を初めとして、自己の製造販売する「月印」の製品を取扱うグループを全国的につくるため、被請求人を頂点とする月印寝具販売の全国組織としてて「月の友の会」なるものを結成し石川県においても請求人代表者Aと共に株式会社月の友の会の設立を昭和三六年一一月六日発起し、以後被請求人と請求人との取引が始つた事実は認めるところであるが、その後昭和三八年両者間に取引上のトラブルが起り、取引は中絶したので、被請求人は前述の経過より月印製品を取扱う会が月の友の会であるところから、「月の友の会」の必要を痛感し、本件商標を取得したものである。従つて、被請求人は本件商標登録出願に当り、なんら請求人に承諾を得る必要を認めない。
(2) 請求人の商号は、本件商標登録出願の日前において周知性を取得しておらず、かつ、商号と商標は別個のものであり、本件商標の指定商品に関し出所の混同誤認を生じるおそれはないものである。
(四) よつて按ずるに、請求人は「月の友の会」の商標及び株式会社月の友の会の商号の略称を本件商標の登録出願前より寝具類、ねまき類に関して使用した結果、取引者及び需要者間に周知されるに至つたものであると主張している。
しかしながら、該商標又は請求人の商号の略称が、本件商標の登録又は出願当時において既に商標法第4条第1項第8号、同第一〇号及び同第一五号についていう他人の商標又は商号の略称として被請求人の登録出願を排除し得るほどの周知性を取得していたものであるとは、請求人の主張及び提出の証拠を併せ綜合勘案しても、にわかに認め難いところである。
してみれば、本件商標は、その指定商品について使用するも請求人の取扱いに係る商品とその出所につき誤認混同を生ずるおそれはないものといわざるを得ない。
従つて、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第8号、同第一〇号、同第一五号及び同第一六号のいずれの規定にも違反して登録されたものではないから、商標法第46条第1項第1号の規定により無効とすべき限りでない。
三 審決を取消すべき事由(一) 本件商標は、商標法第4条第1項第8号により、商標登録を受けられないものである。
(1) 本件商標「月の友の会」は、原告の名称「株式会社月の友の会」の主要部をなし、かつ取引上同一性を有するものとして認識される「月の友の会」と同一である。
審決は「月の友の会」は『本件商標の登録又は出願当時において………他人の商標又は商号の略称として被請求人の登録出願を排除し得るほどの周知性を取得していたものであるとは………にわかに認め難い』(審決書三丁裏下から二行ないし四丁表六行)と述べている。
しかしながら、原告は審判請求理由として、『本件商標「月の友の会」は、請求人の商号と同一性が認められること及び本件商標の登録出願に承諾を与えたことはないから商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものである』旨(審決書二丁表一〇行ないし一八行)主張した点について、審決はなんら判断を下していない。
原告の正式の商号は「株式会社月の友の会」であるが、株式会社は会社の法律上の組織を示す一般的名称であつて、商号としての要部は「月の友の会」である(大審院昭和一六年(オ)一一七六号、同一七年六月一九日民集二一巻一三号六九九頁参照)。
ゆえに、本件商標は、原告の名称と同一であり、商標法第4条第1項第8号にいう「他人の氏名若しくは名称」を「含む商標」である。
審決は、右の点につき判断を誤つた違法がある。
(2) 「月の友の会」は、仮に原告の名称に該当しないとしても、「月の友の会」は本件商標登録出願の時(すなわち昭和三八年七月一二日)以前から、石川県下及びその周辺の地域において著名な原告の略称である。以下、「月の友の会」が原告会社の著名な略称になつた経過を述べる。
(イ) 石川県月の友の会は、原告会社設立(昭和三六年一一月六日)以前は、訴外Aらの経営する丸中繊維工業所から仕入れた商品を販売する任意団体であつたが、原告会社は設立と同時にそれまでの丸中繊維工業所の商品供給者の地位を継承し、石川県月の友の会は、主として原告会社から仕入れた商品を販売する商人をもつて組織する任意団体になつて、今日に至つている。
原告は、設立以来「月の友の会」の名を用いて、被告をはじめ各製造又は販売業者から商品を仕入れ、石川県月の友の会の会員店に卸売りし、石川県月の友の会員店はその商品を石川県下一帯及びその周辺(富山県及び福井県)の地域に店頭販売及び小売販売をしてきた。
その間、原告は「月の友の会」の表示を周知せしめ、併せて原告が販売する商品の売行きを伸長させるために、巨費を投じ、あるいはテレビ・ラジオを通じて「月の友の会」の宣伝広告を繰返し、あるいは、しばしば石川県下一帯の主要市町村において、きめ細かく講習会を開催して寝具の性能及び生活改善について啓蒙活動を行ない、かつ、石川県下一帯の石川県月の友の会の会員店のために展示即売会を主催又は後援して「月の友の会」の名声の維持高揚に全力を傾倒してきた。
また、原告会社は、毎年数回、原告の(卸売りした)寝具類その他の商品の需要者を、「月の友の会」の表示(略称)を用いて毎回数百人ずつ観光旅行に招待し、
あるいは北国新聞社及び石川県婦人団体協議会の後援を受けて「月の友の会」の名の下に広く寝具に関する作文を懸賞募集する等、手段を尽して原告、すなわち「月の友の会」の名前を需要者に周知徹底せしめることに努めてきた。
その結果、本件商標登録出願の時には、原告の略称としての「月の友の会」は、
石川県下一帯及びその周辺の地域において極めて著名となつていた。
(ロ) 石川県月の友の会の会員店は、石川県月の友の会又は「月の友の会」の名前を用いて、石川県下一帯及びその周辺の地域において、チラシその他の文章を頒布して戸別毎に訪問販売をし、また、原告の支援の下に各地で大小の展示即売会を開催する等活発に宣伝販売活動を展開したので、「月の友の会」という名前は、本件商標登録出願時以前から石川県月の友の会の会員店共通の営業表示としてもまた、石川県一帯及びその周辺の地域において広く認識されるに至つていた。
しかし、「月の友の会」が原告の略称として用いられているか石川県月の友の会の会員店であることを示す表示として用いられているかは、用いられる場合により、石川県民ないし県下の需要者(消費者)の間では、本件商標登録出願時以前から十分識別されてきた。
例えば商品の戸別販売に際して用いられる「月の友の会」は石川県月の友の会の会員会であることを示す表示であるが、テレビやラジオのスポンサーとしての「月の友の会」や、作文募集の主催者である「月の友の会」が原告の略称であることは、
常識に属する。また、各種講習会の主催者としての「月の友の会」や、寝具展示即売会の後援者としての「月の友の会」が原告の略称であることもまた、同業者及び石川県月の友の会会員店の間ではもちろん、一般市民殊に需要者の間においても広く認識されていたのである。
(ハ) これを要するに、原告は創立以来継続して、原告の営業成績を挙げるために、取扱商品を厳選し価格をできるだけ廉価にすると共に手段を尽して「月の友の会」の名声を高揚するために活発な宣伝活動を継続し、併せて石川県月の友の会の全会員店の販売活動に協力してきた結果、石川県月の友の会の会員店の数は急増し、原告の商品の売行きもまた飛躍的に増加して、本件商標登録出願の時以前から、「月の友の会」は原告の著名な略称として、石川県下一帯及びその周辺の地域において広く認識せられていたのである。
(3) 以上のとおり、本件商標登録出願の日以前から「月の友の会」という名前は石川県下及びその周辺の地域において極めて著名な原告の名称又は略称であつたが、原告は被告にその使用の承諾を与えたことは一度もないし、ましてや商標登録することに承諾を与えたことはない。
(二) 本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。
既に述べたとおり、当初石川県下において寝具販売業者及び古綿打直し業者によつて結成された石川県月の友の会の会員店は、結成以来共通の営業表示として「石川県月の友の会」又はその略称「月の友の会」という名前を用いて営業してきている。
また、原告は設立以来、「株式会社月の友の会」という商号又は「月の友の会」という略称を用いて寝具類その他の商品の販売業を営んできている。
ゆえに、「月の友の会」という名前は、昭和三八年七月一二日(すなわち本件商標登録出願の日)以前から、原告及び石川県月の友の会の営業であることを示す表示として用いられてきた表示である。
また、既に述べたとおり、原告は設立当初から、また石川県月の友の会の会員店は同会の結成以来、石川県下又はその周辺の地域において営業標識として自ら「月の友の会」の略称を用いて営業をし、かつ、活発に宣伝販売活動をしてきた。
その結果、原告及び石川県月の友の会の会員店の商品売上高は急伸し、これに伴なつて本件商標登録出願の時には「月の友の会」という名前は、原告又は石川県月の友の会の営業であることを示す表示として、石川県全域及びその周辺の地域において、既に広く認識せられていたのである。
なお、石川県において、「月の友の会」という表示が原告の営業を示すか又はその他の石川県月の友の会の会員店共通の営業表示として用いられていたかは、前に述べたように、これが用いられている場合によつて容易に識別される。
(三) 本件商標は、商標法第4条第1項第16号に違反して登録されたものである。
本件商標の登録査定がなされたのは昭和三九年一二月一〇日である(甲二号証の二)。
原告は、昭和三八年一〇月までは被告から寝具類を買受けてこれを石川県月の友の会の会員店に卸売りしていた。しかし、昭和三八年一〇月原告と被告との間の取引が終了し、その後は、専ら昭和三九年一月二〇日に設立された訴外株式会社全国寝具月の友の会から商品を仕入れてこれを石川県月の友の会の会員店に卸売りして今日に至つている。
株式会社全国寝具月の友の会は、昭和三九年七月ごろまでは、その販売する商品の一部を被告から仕入れていたから、そのころまでは、原告の取扱つていた商品の中には、被告から発売された商品も含まれていた。しかし、昭和三九年七月、株式会社全国寝具月の友の会と被告との間の取引条件が折合わなくて、両者の取引が終了してから後は(短期間一部売れ残り商品が在庫していたことがあるのを例外として)、原告の取扱商品は、すべて被告と全く無関係のメーカーの製品のみである。
従つて昭和三九年七月以降は、原告の取扱う商品は、被告の商品とはその素材、
性能、加工などにおいて異つた商品であつた。一例を挙げれば、被告の販売していたふとんの綿はビニロン(ポリビニールアルコール繊維)一〇〇%であつたが、原告が全国寝具月の友の会から購入し販売したふとんの綿はポリエステル繊維(テトロンの商標名で知られている)四〇%アクリル繊維四〇%ビニロン二〇%の混合綿であつた。
株式会社全国寝具月の友の会は、同社の商品を販売する業者をもつて結成された全国寝具月の友の会を指導し、「良い商品を売る商人は良い商人、悪い商品を売る奴は悪い商人」のモツトーのもとに、五か月月賦販売、取替返品自由の旗印を掲げて、責任をもつてアフターサービスをさせてきた。原告もまた、全国寝具月の友の会に属する下部団体石川県月の友の会の本部として、石川県月の友の会の会員店をして全国寝具月の友の会の指導の下、同社から提供される品質の良い商品を、しかも廉価に販売し、誠意と責任をもつてアフターサービスに努めるよう指導してきた。
その結果、昭和三九年一二月当時には原告及び石川県月の友の会会員店が販売する株式会社全国寝具月の友の会の商品は品質が極めて優秀で価格が低廉であり、しかも販売者(「月の友の会」の会員店)が最後まで責任をもつて面倒を見てくれる商品である、というイメージが消費者の脳裏に深く刻み込まれていたのである。
被告がその発売にかかる寝具類その他商品区分第一七類に属する商品に「月の友の会」なる商標を使用すれば、消費者はそれら商品が原告の取扱にかかる商品であり、従つて原告の販売する商品に期待される「良品質・廉価・完全なアフターサービス」という品質を備えた商品であるかの如く誤認するおそれのあることは明らかである。何となれば、「月の友の会」の名称は、原告の名称又は著名な略称であつて消費者に周知されているから、「月の友の会」の商標が附されていれば消費者は、その商品が原告の販売する商品であると誤認するであろう。原告は常に良品質な商品を廉価にしかも完全なアフターサービスをもつて販売しているから、「月の友の会」の商標の附された商品を、原告の販売にかかる商品と誤認した消費者は、
その商品を、原告の商品と同一の品質(良品質・低廉・完全なアフターサービス)を備えた商品であると誤認するであろうことは明らかだからである。
(四) 本件商標は、商標法の精神に違反して登録されたものであるから、その登録は無効である。
(1) 「月の友の会」の名称は、原告会社の代表取締役であるAが昭和三三年同志を糾合して任意団体を組織したとき、その任意団体の名称として採択したものである。その後、昭和三六年原告会社が設立されたとき、これをそのまま原告会社の商号として採用したものであり、以後今日に至るまで、営業表示としてまたその取扱に係る商品たることを示す表示として使用している。
被告は、本件商標を登録出願した当時、「月の友の会」は、原告の名称又は著名な略称であること、原告の著名な営業表示であること及び原告の取扱に係る商品たることを示す表示であることを知つていた。
そして被告は、原告及び原告を通じ被告の商品を購入する石川県月の友の会会員店を日本一有難い顧客として待遇し、昭和三四年以降月印商品を供給していたのであるから、被告は、本件商標を出願した当時「月の友の会」が原告にとつていかに重要な名称であるかを充分承知し、「月の友の会」について商標権を取得することが、原告の営業活動に重大な影響を及ぼすべきことを知つていた。
(2) 被告は、本件商標を出願した前後を通じ指定商品に本件商標を使用したことはない。本件商標出願の当時被告が自己の商品に用いていた商標は「月印」である。被告は「月印」を有名にし、「月印」商品を売ることに専念していた。従つて現に、原告が、その商号として、営業表示として、またその取扱に係る商品たることを示す表示として使用しており、取引者、需要者間に周知されていた「月の友の会」を自分の商品の商標として使用することは到底考え得ないことである。然らば何のために本件商標の出願を行なつたのであろうか。
被告が本件商標を出願した昭和三八年七月当時は、原告及び石川県月の友の会の販売活動は、目覚ましい実績を示しつつ石川県に定着し、福井県下には福井県月の友の会が組織され成果を挙げつつあつた。
そして同年七月には愛知県月の友の会が組織化され、同年八月七日から九月三〇日の間愛知県下を対象として大売出が企画されていた。
従つて昭和三八年七月当時は、被告にとつて原告会社及びその代表者A並びにその同志を利用して「月の友の会」の販売方式を自分の「月印」商品のみを販売する全国的組織に発展させようとする営業戦略上の重要時点であつたと考えられる。しかも、その戦略は原告及びA並びにその同志を自己の手中において手足として利用しようとする一方的戦略を基本姿勢としたものであつた。
本件商標登録出願は正に、被告の右戦略の一手段として行なわれたものと推測するに難くはない。事実、愛知県月の友の会の設立売出が計画どおりには成果を挙げ得なかつたことに端を発して取引上のトラブルが生ずると、被告は昭和三八年一〇月原告との取引を中止する挙に出た。原告及びAとその同志の力を借りなければ「月の友の会」方式による「月印」商品の販売は成功しなかつたにも拘らずみずから一方的に取引を中止する挙に出たその裏には、本件商標を出願し、登録を得ることによつて原告らを力で制圧し得るものとの考えがあつたと考えて間違いはないであろう。
(3) 被告が本件商標の登録出願したのは、原告との関係において信義則に反する行為である。
原告と被告は、販売業者と製造業者という対等の立場に立つて、被告は「月印」商品を製造し、原告はその商品を販売するという協力関係を醸成し、共に利益を得てきた。
原告と被告は、月印商品の製造、販売を通じて双方が相応する利益を得るという協同関係にあつたのである。その間には、自分の利益になることは相手の利益にもなるという相互信頼関係が成立つていなければならない。一方のみが他方の犠牲において利益を得ることを考えれば信頼関係は崩壊することになる。
原告は被告を信頼していた。少なくとも信頼に足ると信じていた。
しかるに被告は、原告に何の連絡もすることなしに、無断で原告にとつて極めて重要な名称「月の友の会」を、自分単独の名義において出願したのである。しかも、その出願した時点は「月の友の会」が全国組織に急激に発展しようとしている時点である。
被告が、本件商標登録出願するに至つた行為は、原告の無防備に乗じ、信頼を裏切り、信義則に反する行為である。
いうまでもなく信義則に反する行為は違法な行為である。商標法は、登録という行為を加えることによつて、違法な行為を合法なものとはしない。信義則に反する商標登録は、不当競業に該当する。商標法は商標登録することによつて不当競業を防止することを目的としているから、信義則に反した商標を登録することは商標法の精神に悖る。
従つて本件商標は無効とさるべきである。
(4) 右に述べたように、被告は、本件商標を登録出願した際「月の友の会」は原告の商号であり、営業表示であり、また原告の取扱に係る商品たることを示す表示であることを知つており、更に、被告は「月の友の会」が右の表示として取引者、需要者間に周知されていることを知つていた。従つて被告が本件商標を登録しても、これを商品に使用すれば被告の商品を表示するよりも、需要者は原告の商品であると認識するであろうこと、すなわち被告の商品たることを表示し他人(原告)の商品と区別する標識たり得ないことをも知つていた。
換言すれば、被告は本件商標につき出願人としての適格を有しないのである。
被告の答弁及び主張
一 原告の請求の原因及び主張のうち、一、二の事実を認め、三を争う。
二 原告は当審において、本件商標は、
(一) 原告の名称「株式会社月の友の会」の主要部をなし、従つて、原告の名称と同一である。
(二) 商標法の精神に違反して登録されたものであるからその登録は無効であると主張し、本件商標登録に対して新たな無効事由を主張してきた。
しかしながら、無効審判を特許庁の専権とした商標法の規定からして、当審においてかかる新たな無効事由を主張することは許されない。
右(一)の点について、原告は審判において主張したが審決がなんらの判断もしなかつたのであるという(第二、三、(一)、(1))が、審判段階において原告は、本件商標の出願時に「月の友の会」の名称は原告の略称として需要者間において著名になつていたということのみを主張していたにすぎないものである(甲第三三号証参照)。
また(二)の点につき、原告はその基礎となる事実はすべて審判手続において主張されているという(第四、二)が、特許庁において、無効事由は正確に主張しなければならないのであつて、単にその基礎となる事実が開示されていてもそれだけで無効事由の主張があつたということにはならない。
三 仮に、右の新たな無効事由の主張が許されるとしても、被告は原告の主張に対し、以下のとおり反論する。
商標法第4条第1項第8号に規定する「他人の氏名若しくは名称」とはフルネームを意味し、会社の商号中には必らず会社の種類を示す文字を用いなければならないから(商法第17条)、原告の「名称」は「株式会社月の友の会」であつて、
「月の友の会」ではない。また、同号にいう「略称」は、それが「著名」な場合にのみ同条の適用があるところ、原告「株式会社月の友の会」の略称「月の友の会」が本件商標の登録出願又は登録時において、本件出願を排除し得るほどの著名性を取得していたものであるとは到底認め得ない。
「月の友の会」なる語は、被告が統括主体となつて自己の主要商標とする「月印」のついた商品を取扱わせる各地区の代理店(取扱店)をもつて組織したもので、被告の名において発会し、原告はその一会員として被告の傘下にあつたものである。
今更述べるまでもなく、「友の会」なる語は会員組織による商品の販売方法を表わすものとして「〇〇友の会」のごとき用例で広く使用されているものであることは顕著な事実であり、これだけでは需要者をして何人の業務に係る商品であるかを認識させ得ないものであつて、「月印」のついた製品を取扱う会を意味する「月の友の会」となつてはじめてその存在意義を有するものである。
被告は、京都における西川甚五郎商店の営業を承継して、創業以来四〇〇年の歴史を有し、古く大正年代から「月印」の商標を主要商標として使用し来り、信用せられる寝具の店として「月印」商標と被告とは常に不可分一体として取引者及び需要者に広く認識せられていた。
そして被告は、昭和三一年頃から九州地区を初めとして自己の製造販売する「月印」の製品を取扱うグループを全国的につくるため、被告を統括主体としてその傘下に「月印」寝具類を販売する「月の友の会」なるものを各所に結成したが、その過程において、後日原告会社の代表者となつたAと被告との間において、被告の月印製品を取扱うことを条件に、原告会社が「株式会社月の友の会」の商号で設立されることを承諾し、被告も株主として原告会社の設立に参加したのである。このことは、原告が「月の友の会」の一員として被告の傘下に入ることを認めたのにほかならない。
また、昭和三八年七月愛知県月の友の会、及び同年の福井県月の友の会も前述同一の被告の月印製品を扱う趣旨によつて「月の友の会」の一員として被告の傘下に入つたのである。
ところが、昭和三八年原、被告間に取引上その他のトラブルが起り取引は中絶した。そこで被告は、上述の経過より主要商標の「月印」製品を扱う会が「月の友の会」であるからその商標登録の必要を痛感し、本件商標を昭和三八年七月一二日出願、昭和四〇年一月一九日登録されたのである。
四 被告が「月の友の会」の統括主体であつたことは、原告会社代表者AがBの筆名で書いた「月の友精神」なる著書(昭和三八年七月二〇日付発行。乙第一八号証)の中にも明瞭に示されている。すなわち、
その著書の表紙の頭部には「月印」のマークが配され、「全国寝具改善指導研究会・株式会社京都西川寝改部発行」の文字が横書され、著者自身序文で、『私は四、五年前迄ふんどし一貫で「うじ虫」の如く這いまわつていた男」である。それがC社長と「月印」のお陰で、ちよつとした男になりつつある。その恩を忘れず、
もつと発展したい。………それは、寝具改善運動とその精神を教わつたことである。私は馬鹿か気違いのように、C社長の教えの通り………私は、寝具改善運動という錦の御旗をかかげた月の友の会を、もつともつと発展させたい………』と述べている。
次に「月の友の会会則」なるものが記載されているが、それによると、第一章総則(2)会員として、「本会は月印商品の各地区代理店(取扱店)を以て組織する」とあり、(6)に「月の友の会、会員店は原則として月印商品を取扱い……主力重点商品とする。」とある。
次いで著者は、六二頁の「月の友の会今後のあり方」の「(3)人間的な筋を通すこと」の項目にこう述べている。『私達は人の子として生まれ、人の親として成長します。「月の友の会」は「月印」を看板として、京都西川から生まれたのです。勿論子は親のやる通りのことをやり、親よりも大きくなつてはいけないということはありません。しかし矢張り子は子であり、親は親であります。「月の友の会」は今後時代の要求に従つて大きく変化と成長を遂げるべきです。しかしあくまでその芯は「月印」であり、京都西川であることを忘れてはならないと思います。
まして同じ釜のめしを喰べる会員ならば、当然月の友の会会員としての筋を通すべきであります。』
被告の主張に対する原告の反論
一 被告は、「月の友の会」は被告が統括主体となつて自己の主要商標とする「月印」のついた商品を取扱わせる各地区の代理店をもつて組織したもので、被告の名において発会し、原告はその一会員として被告の傘下にあつたものであると主張するが、「月の友の会」は原告の代表取締役Aが昭和三三年に同志と共に組織した月掛販売組織体に命名した名称であり、同組織体の取扱に係る商品たることを示す名称である。
原告は、被告を商品の供給源として販売活動を独自の発想と計画に基づいて行なつており、被告の傘下にあつたことも、被告の指揮・命令も受けたこともない。逆に原告の計画に基づいて被告に商品の供給を行なわせていたのである。
二 原告の、当審における、本件商標は商標法の精神に違反して登録されたものであるから無効であるとの主張は、審判手続においては明白にはなされていないが、
その基礎となる事実はすべて述べられている。
ところで商標法第56条の規定によつて準用される特許法第167条には、「商標法第46条第1項………の審判の確定審決の登録があつたときは、同一事実及び同一証拠に基いてその審判を請求することができない」旨定められている。本件商標の登録を無効とすべき主張の基礎となる事実は、原告の商号と同一性を有し、原告の商号の略称として、また原告の商品たることを示す表示として、昭和三八年七月当時周知されていた「月の友の会」を、被告が原告に無断でこれを商標登録出願したという事実である。従つてこの事実及びこの事実を立証する証拠を基にしては、再度審判を請求することはできないものと解さざるを得ない。右の一事不再理の規定を考えるとき、本件訴訟は、原告主張の右無効理由が審理されうる唯一の機会であるので、たとえ審判手続において明示的には争わなかつたとしても、同一事実及び証拠に基づいているのであるから、本件訴訟においてなお右の主張をなしうるものと信ずる。
三 被告は、被告が「月の友の会」の統括主体であつたとして「月の友の会会則」を引用するが、この会則は、昭和三八年五月当時起案されたものである。この時期は昭和三三年にAによつて結成された「月の友の会」が石川県において成功を納め、昭和三八年一月には福井県月の友の会が発足、これを更に富山県にも伸し、引いては全国組織に拡大せんとの野望に燃えていた時期でもあつた。
Aが「月の友の会」を組織化した基本構想は、家庭の主婦を重い寝具の上げおろしや綿の打直し、ふとんの仕立替えという重労働から解放し、円満な家庭を築き、
生活の改善を行なうこと、衛生的で取扱いが簡便であり軽い合成繊維の寝具を、一括して大量に仕入れることにより安価に、しかも支払い易い方法で消費者に提供しその目的を達成すること、そのために生活改善を希う消費者を結集することにあつた。従つて合成繊維を素材とする寝具を開発し、安定して供給する供給元の選定が不可欠の要件であつた。
被告は当時合成繊維を素材とする寝具の開発に意欲的であつたので、その協力を得られれば、「月の友の会」としては好都合であつた。また、被告の商品が「月印」であつたのも「月の友の会」が取扱うには偶然のこととはいえ、心引かれるところであつた。
一方、被告は、自から考案したという販売方式のアイデア一二人一組一二か月払いの頼母子講は、アイデアだけに止まり、実行が伴わず、これという実績を挙げることができず、拡売に苦慮していた矢先でもあつたので、強力な販売活動を行なつている「月の友の会」から協力要請を受け、これ幸いと応諾したのである。しかしながら取引の開始された当時は疑心暗鬼で「月の友の会」の活動を窺つていたようである。しかし、石川県月の友の会が目覚ましい実績を挙げ、次いで福井県月の友の会も好調に活動を開始したので、昭和三八年五月頃には「月の友の会」を積極的に利用しようとしていた。
かくのごとき状況下にあつて作成された「月の友の会会則」は、当然のことながら、被告の月印商品を取扱う取扱店とならざるを得ず、本部集中仕入れの商品は月印商品に重点が置かれ、商品の流れは被告ー「月の友の会」本部ー各県「月の友の会」となる旨を取り決めたのである。
しかしながら、「月の友の会」は被告と別個の独立した組織体でありメーカーと販売店という対立した協力関係にあつたことは自明のことである。従つて「月の友の会」を全国組織とする会則は、Aが昭和三三年に結成した石川県月の友の会を発展せしめるためのものにすぎず、その主導権は「月の友の会」自体にある。被告に統括管理されたものではないことはその経緯からして自明である。
四 被告は、昭和三八年一〇月原告との取引を一旦中止する挙に出たが「月の友の会」の全国組織を統括する株式会社全国寝具月の友の会が設立されるに及び再度取引を行なつてほしい旨懇願して来たので、再開することとしたのであるが、被告に販売契約違反が続出したので、昭和三九年八月、被告とは完全に訣別したのである。
その後被告は、新聞等を通じ繰返し「月の友の会」は被告と関係がない旨を広告している(甲第三六号証)。
「月の友の会」が被告自から採択し、自から使用していた商標であり、また自分の組織の名称としても使用していたものならば、かくも繰返し被告と関係がないとは言い得るものではない。この広告は、「月の友の会」は原告の創案に係り、原告が自からの名称として使用し、原告の商品たることを示す表示として使用していた原告自身の名称であることを被告において自白しているものということができる。
理 由一 原告の請求の原因及び主張の一、二の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで審決にこれを取消すべき違法の点があるかどうかについて考える。
(一) 原告は、本件商標は原告の名称と同一であるから、商標法第4条第1項第8号により登録を受けられないものであり、原告は審判においてこのことを主張したが、審決はこの点についての判断を示していない旨主張する。
しかし、審判において原告が右の主張をしたことを認めるに足る証拠はなく、かえつて、成立について争いのない甲第三三号証によれば、その主張をしていないことが認められ、審決(成立について争いのない甲第一号証)も原告がその主張をしたものとして取扱つていないから、審決には原告の主張するような違法はない。
ただ、原告は審判において、本件商標は商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものであるから無効であると主張していることが認められるから、本件商標は原告の名称と同一であつて右商標法の規定に該当するとの主張は、審判において明示的になされていなくても、なお当審においてこれをなすことができるものと解する。
そこで右の点について判断するに、商標法の右規定でいう「他人の………名称」とは、本件原告の場合「株式会社月の友の会」であつて、単なる「月の友の会」ではない。このことは、右条文が自然人の場合については「氏名」と規定していることと対比すれば明らかである。
原告は、「株式会社」は法律上の組織を示す一般的名称であつて、原告の商号としての要部は「月の友の会」であり、本件商標は原告の名称と同一であると主張し、大審院の判決を引用するが、右判決は昭和三四年法律第一二七号をもつて改正された大正一〇年法律第九九号商標法適用下のものであつて、本件には適切でなく、原告の右主張は採用しない。
(二) 原告は、仮に「月の友の会」が原告の名称に該当せず、その略称であるとしても、その略称は本件商標登録出願の日である昭和三八年七月一二日前から、石川県下及びその周辺の地域において著名であつたところ、原告は被告に本件商標を登録出願することに承諾を与えたことはないから、本件商標登録は無効である旨主張する。
しかしながら、商標法第4条第1項第8号により、他人の商標登録を阻止すべき「略称」の著名性とは、原告の主張するような一地方のものでは足らず、全国的なものでなければならないと解せられるところ、「月の友の会」が原告の略称を示すものとして全国的に著名であつたことを認むるに足る証拠はないから、原告の右主張は理由がない。
(三) 原告は、「月の友の会」という名前は、本件商標登録出願の日前から原告及び石川県月の友の会の営業であることを示す表示として石川県全域及びその周辺の地域において広く認識せられていたものであるから、被告が寝具類その他の商品に本件商標を付してこれを販売するときは原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあり、従つて本件商標は商標法第4条第15号により登録され得ないものである旨主張し、なお石川県において、「月の友の会」という表示が原告の略称として用いられているか、石川県月の友の会の会員店であることを示す表示として用いられているかは、用いられる場合により、石川県民ないし県下の需要者の間では本件商標登録出願時前から十分識別されてきた旨主張する。
しかし、原告会社代表者D本人尋問の結果によりその成立の認められる甲第二五、第二六号証、同本人尋問の結果を綜合すると、石川県月の友の会は、原告会社が設立された昭和三六年一一月六日以前は、訴外Aらの経営する丸中繊維工業所から仕入れた寝具類を販売する商人から成る団体であつたが、原告会社が設立されると、原告はそれまでの丸中繊維工業所の商品供給者の地位を承継し、石川県月の友の会の会員店は専ら原告から商品を仕入れていたこと、Aは原告会社設立と同時に同社の代表取締役となつたが、設立前も、設立後も、「月の友の会」の寝具類宣伝のため、北陸放送株式会社にラジオ、テレビ等の放送申込を「石川県月の友の会」名義で行ない、ラジオ、テレビ等で「月の友の会」の寝具の広告放送が行なわれていた事実を認めることができ、右事実によれば、本件商標登録出願の日である昭和三八年七月一二日(成立について争いのない甲第二号証の一、二)前において、
「月の友の会」が原告の営業を表示するものとして著名であつたとは到底いうことができず、右認定に反する前記原告会社代表者D本人及び証人Eの各供述部分並びに右原告会社代表者本人尋問の結果によりその成立を認め得る甲第一五、第一七号証、第二一ないし第二三号証、成立について争いのない甲第三一号証の一ないし二一の各記載部分は当裁判所これを措信せず、他に「月の友の会」が原告の営業を表示するものとして著名であつたことを認めるに足る証拠はない。
そうすると、本件商標は商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるからその登録は無効であるとの原告の主張は理由がない。
(四) 原告は、本件商標の登録査定がなされたのは昭和三九年一二月一〇日であるところ、原告は昭和三八年一〇月までは被告から寝具類を買受け、これを石川県月の友の会の会員店に卸売りしていたが、その後は専ら訴外株式会社全国寝具月の友の会から商品を仕入れて石川県月の友の会の会員店に卸売りしており、株式会社全国寝具月の友の会は、昭和三九年七月頃までは、その販売商品の一部を被告から仕入れていたが、その後は被告商品を取扱わなくなつたので、その時点以後、一部売れ残り商品を別として、原告の取扱商品は被告の商品と関係がなくなつたのにもかかわらず、被告が本件商標を寝具類に使用するときは、その商品は、原告が株式会社全国寝具月の友の会から仕入れて販売する上質の寝具類と誤認されるおそれがあるから、本件商標の登録は商標法第4条第1項第16号に違反してなされたものであつて無効であるとの旨主張する。
成立に争いのない甲第二号証の二によれば、本件商標の登録査定がなされたのは昭和三九年一二月一〇日であることを認めることができるが、原告販売の寝具類の仕入先である株式会社全国寝具月の友の会が被告との取引を終了したと原告の主張する昭和三九年七月頃から本件商標の登録査定がなされた同年一二月一〇日までの間に「月の友の会」が原告の営業を表示するものとして著名であつたとの点についての証拠はない(右事実を認定せしめるかのような原告会社代表者D本人、証人Eの各供述部分、前掲甲第一五、第一七号証、第二一ないし第二三号証、第三一号証の一ないし二一の各記載部分は、いずれも措信しない。)から、原告の主張は理由がない。
(五) 原告は、本件商標は商標法の精神に違反して登録されたものであるから無効であると主張し、被告は右の主張は審判手続においてなされなかつたから当審において新たに主張することはできないと争つている。
原告が審判手続において前記のような主張をしたことを認めしめるに足る証拠はないが、前掲甲第三三号証(審判弁駁書)によれば、原告は、原告の右主張の基礎となる事実を審判手続において主張していることが認められるから、当審において、右事実に基づいて、本件商標の登録は商標法の精神に反するものであると主張することは許されるものと解する。
そこで勘案するに、原告の主張は、要するに、「月の友の会」の名称は、原告会社の代表取締役であるAが原告会社設立前の昭和三三年に同志を糾合して任意団体を組織したとき、その任意団体の名称として採択したものであり、これをそのまま原告会社の商号として採用し、今日に至るまで原告の営業及び原告の取扱に係る商品たることを示す表示として使用してきているものであるところ、被告は本件商標を登録出願した当時右のことを知つており、かつ、「月の友の会」について商標権を取得することが、原告の営業活動に重大な影響を及ぼすべきことを知つていたにもかかわらず、自己の商品を売るために原告及びA並びにその同志を自己の手中において手足として利用しようと考えて出願したものであり、右行為は信義則に反し、登録を許されないものである、というにある。
しかし、成立について争いのない甲第六号証添付別紙2及び同5ないし13、甲第四一号証、乙第一号証の二、第二、第三号証の各一、第四、第五号証、第一四号証、第一六号証、第一八、第一九号証、証人Fの証言によりその成立の認められる乙第八号証の一、二、同第二五号証の一ないし一一、証人G、同H、同Fの各証言を綜合すると、被告は大正一三年頃からその取扱に係る寝具類に月印の商標(乙第一号証の二)を付して販売しており、昭和二九年頃からは月印寝具類の販売促進のため、一二名を一組とする講に似た新しい月賦販売方式を考案し、これに「月の友」という名称を付したが、その販売方式が成功したためその後、特に昭和三四年以降においては、全国各地の小売商に「月の友の会」を結成せしめ、被告がその統括主体となつて自己の寝具類の販売を促進するようにしたこと、石川県においても、原告会社設立前に、小売商をもつて組織する「石川県月の友の会」が存在し、
右会又はその会員である小売商が主催して寝具類の展示即売会を開催するに当つて配付したチラシ等の宣伝広告類には、被告の寝具類を販売するものであることを示す趣旨で、被告の登録商標である前記月印の標章を配するほか被告が右即売会を後援していることを表示していたこと、原告会社発行の株券にも前記月印の被告の登録商標が付されていること、原告会社代表取締役AがBの筆名で著した著書(乙第一八号証)に、著者自身「月の友の会」は「月印」を看板として被告から生まれたものであると述べており、なお、添付された「月の友の会会則」中に「本会は月印商品の各地区代理店(取扱店)を以て組織する。」「月の友の会、会員店は原則として月印商品を取扱い………主力重点商品とする。」との記載があり、また、昭和三七、八年頃設立された「福井県月の友の会」「愛知県月の友の会」等はいずれも、被告の月印寝具販売系列の全国組織化の一環として設立されたものであることを認めることができ、原告会社代表者D本人尋問の結果及び証人Eの証言中右認定に反する部分は、当裁判所これを措信せず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
右事実によれば「月の友の会」はむしろ被告の発案になるものであつて、Aが被告とは無関係に「石川県月の友の会」のため、あるいは原告の商号として選択したものではなく、従つて被告が本件商標登録の出願をしても、そのことは原告に対する関係で何ら信義に反する行為でもなく、商標法の精神に違反する行為でもないというべきである。
もつとも、成立について争いのない甲第三六号証の一ないし二九には、被告が昭和四二年から同四九年にかけて京都新聞に「月の友の会」は被告とは無関係である旨記載した広告を掲載していることが認められるが、これは証人Fの証言によれば、被告と原告との間に取引上のトラブルがあつて互に取引を停止した後のことであるが、原告の方で商売が発展し、客も増えてきた関係で消費者の方としては原、
被告のどちらが本物か迷う状態になつてきたので、原告のものは偽物であるという趣旨で掲載したものであることが認められ、右のような広告掲載があつたからといつて、「月の友の会」が被告とは無関係に原告の商号として採択されたものであるということにはならない。
三 右のとおりであつて、原告の主張はいずれも理由がなく、本件商標の登録はこれを無効とすべきでないと判断した審決の結論に誤りはないから、これを違法としてその取消を求める原告の請求を棄却し、訴訟費用は敗訴の当事者である原告に負担させることとして、主文のとおり判決する。
裁判官 杉本良吉
裁判官 高林克巳
裁判官 舟橋定之