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関連審決 審判1967-327
審判1967-4569
関連ワード 指定商品 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  観念(観念類似) /  卑猥(卑わい) / 
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事件 昭和 55年 (行ケ) 96号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1981/08/31
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告ら「特許庁が、昭和四二年審判第三二七号事件、同年審判第三一二号事件、同年審判第三一四号事件、同年審判第三一六号事件、同年審判第三一八号事件、同年審判第三二〇号事件、同年審判第三二二号事件、同年審判第三二五号事件、同年審判第三二八号事件、同年審判第三三〇号事件、同年審判第三三二号事件、同年審判第三五一号事件、同年審判第三五三号事件、同年審判第三五五号事件、同年審判第三五七号事件、同年審判第三五九号事件、同年審判第一五五二号事件、同年審判第一五五四号事件についていずれも昭和五五年三月二八日に、同年審判第四五六九号事件について同月二七日に、それぞれした各審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。
二 被告 主文同旨の判決。
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告両名は共同して、特許庁に対し、「特許建築学博士」など別紙一覧表(以下単に「別表」という。)商標欄記載の文字をいずれも楷書体で左横書きしてなり、
それぞれ第二六類「印刷物(文房具類に属するものを除く。)、書画、彫刻、写真、これらの附属品」(ただし、別表の(12)、(13)、(14)、(16)、(17)、(19)の各商標については、「写真」を除く。)を指定商品とする各商標(以下これらを総称して「本願各商標」という。)につき、別表出願日欄記載の日にそれぞれ商標登録出願をしたところ、別表拒絶査定日欄記載の日に拒絶査定を受けたので、右拒絶査定に対し、別表審判請求日欄記載の日に審判を請求し、それぞれ別表審判事件番号欄記載の事件として審理されたが、昭和四二年審判第四五六九号事件については、昭和五五年三月二七日に、その余の右各事件については、いずれも同月二八日に、それぞれ「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、右各審決の謄本は、別表審決謄本送達日欄記載の日に原告両名にそれぞれ送達された。
二 審決の理由の要点1 昭和四二年審判第三二七号事件 本願商標は、「特許建築学博士」の文字を左横書きしてなり、その指定商品、登録出願日は前項に記載のとおりである。
商標法第4条第1項第7号の規定は、商標自体が矯激な文字や卑猥な図形等秩序又は風俗をみだすおそれのある文字、図形、記号又はその結合などから構成されている場合及び商標自体はそのようなものでなくとも、これを指定商品に商標として使用することが、社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合には、その登録を拒絶すべきことを定めているものと解される。
ところで、学校教育法第68条第1項には、大学院を置く大学は、監督庁の定めるところにより、博士、修士その他の学位を授与することができる旨規定されており、この規定に基づいて定められた学位規則には、学位は博士及び修士とすること、博士の種類として、「学術博士」、「文学博士」などその末尾に博士の文字を含む一九の名称が定められており、博士の学位は、学術の専攻分野について研究者として自立して研究活動を行うに必要な高度の研究能力及びその基礎となる豊かな学識を有する者に授与されるものであり、大学院の博士課程を修了した者又は大学の定めるところにより、大学院の行う博士論文の審査に合格し、かつ、大学院の博士過程を修了した者と同等以上の学力を有することを確認された者であることを要件として授与されることも定められている。また、博士の学位は、右のように学術上すぐれた者に授与されるものであることが一般世人の間に広く認識されており、
社会的にもこの学位授与の制度の秩序が維持されている。
したがつて、博士の学位を授与された者は、その名誉が得られ、その者が博士の名称を用いるときは、その学位の名称は、その者の名誉を表彰する。
ところで、本願商標である「特許建築学博士」が商標として使用された場合、これに接する一般世人は、学位規則に定められている博士の種類、名称のすべてを具体的に認識していないから、本願商標が、博士の種類を表わす名称の一つを表示したものと誤認する場合も少なくないと考えられる。
そうすると、本願商標を商標として使用することは、一般世人に博士の種類について誤認を生じさせるおそれがあるばかりでなく、博士の学位を授与された者の名誉を稀釈させ、低下させることになり、ひいては、前記の学位授与の制度の秩序を乱すおそれがあるから、社会公共の利益に反するとともに、社会の一般的道徳観念にも反するといわざるを得ない。
よつて、本願商標は、商標法第4条第1項第7号の規定に該当し、登録をすることができない。
2 別表の(2)ないし(19)の審判事件番号欄記載の各審判事件 1の「特許建築学博士」を別表の(2)ないし(19)の商標欄記載のとおりに読み替えるほか、1と同一である。
三 審決の取消事由 審決は、本願各商標が商標として使用された場合には、一般世人に博士の種類について誤認を生じさせるおそれがあるばかりでなく、博士の学位を授与された者の名誉を稀釈させ、低下させることになり、ひいては、前記の学位授与の制度の秩序を乱すおそれがある、とするが、これは、以下に述べるとおり誤つており、このような誤認に基づいて、本願各商標を商標として使用することが、社会公共の利益に反するとともに、社会の一般的道徳観念にも反するとした審決の判断は、誤つているから、審決は違法であつて取消されるべきである。
1 本願各商標を、その指定商品に商標として使用しても、次に述べるとおり、一般世人に博士の種類について誤認を生じさせるおそれはありえない。
(一) 審決にいう博士の種類とは、学位規則所定の博士の名称を指すものと解されるが、「博士」の語は、単に学位規則所定の博士を指すばかりでなく、一般に「学問や芸道などでその道に深く通じた人、深い知識や高い識見などをもつている人、人を教えるだけの力を持つている人。」などの意味を有し、この意味において、たとえば、「野球博士」、「相撲博士」、「水泳博士」、「昆虫博士」などの語が用いられることがある。また、歴史上の官職名としても、(ア)中国にはじまり、朝鮮にとり入れられた官名として、「五経博士」、「医博士」、「易博士」、
「暦博士」など、(イ)大化の改新の際の国政の顧問たる「国の博士」、(ウ)大宝令制で整備された大学寮の官職のひとつである「大博士」、「大学博士」、「明経博士」など、(エ)古代、中世の朝廷の官制で、特定の学術、技芸に専門的に従事し、かつ、その分野の教育を担当する職の総称として、大学寮に「明経」「紀伝(文章)」「明法」「算」「音」「書」の各博士、陰陽寮に「陰陽」「暦」「天文」「漏刻」の各博士、典薬寮に「医」「女医」「針」「按摩」「咒禁」の各博士などが存するのである。そうすると、博士の語を含む名称が学位規則のものに限られないものであることは明らかである。
(二) 更に、本願各商標にあつては、後記のとおりこれを名刺又はその他の印刷物などに記載された個人の氏名の肩書として表示するのではなく、その指定商品である印刷物などの商品識別標識として表示することが問題とされているのである。
そして、このような場合、実際には存在しない仮空のものの名称が採択されることも少なくないのである。
本願各商標の使用が、学位規則所定の博士の種類について誤認を生じないものであることは、後述の本願各商標の具体的使用態様を考慮に入れて考えれば、一層明らかである。
(三) したがつて、本願各商標をその指定商品に商標として使用したからといつて、本願各商標にいずれも「博士」の文字を含むことから直ちに、一般世人に学位規則所定の博士の種類について誤認を生じさせるおそれがあるということはできない。
2 仮に、審決がいうように、本願各商標を商標として使用する場合に、博士の種類について誤認を生じさせるとしても、次に述べるとおり、そのことから、学位授与制度の秩序を乱すおそれがあるものということはできない。
(一) 本願各商標は、その指定商品に商標として使用され、その識別標識として機能するにすぎず、学位規則所定の資格を欠く者の声望を表彰するものでないことはいうまでもない。すなわち、本願各商標をその指定商品に商標として使用することと、学位授与の制度とはいかなる点においても相交わることがないのである。
このことを、本願各商標の使用態様に関連させて更に敷衍すると、次のとおりである。すなわち、本願各商標のように少なくとも「印刷物」を指定商品とする文字商標においては、出版者名を表示するものを除き、雑誌、新聞などの定期刊行物の題号として使用されるのが、実際上、その最も重要な機能領域である。また、他の印刷物、たとえば、商標法施行規則別表の第二六類「印刷物」の項に例示されている「書籍」、「年鑑」、「時刻表」、「カレンダー」、「暦」、「地図」、「パンフレツト」、「日記帳」などの大部分についても、出版者名を表示するもの以外の文字商標が商品の識別標章として機能するのは、主として、定期刊行物の題号と機能において同等な、辞典などの特殊な題名又はシリーズ名としてである(たとえば、「エツセンシヤル英和辞典」、「国語自由日記」、「読売年鑑」、「カツパブツクス」、「朝日文化手帳」、「角川新書」など)。このような使用態様を考慮に入れて考えると、たとえば、週刊誌の題号に本願各商標が使用され、それが書店の店頭などに販売のため展示されたところで、それは、単に商品自体の識別標識として認識されるにすぎないから、学位授与制度の秩序を乱すおそれはない。
(二) したがつてまた、本願各商標を指定商品に商標として使用した場合、これによつて、博士の学位を授与された者の名誉を稀釈させ低下させることもありえないというべきである。審決の判断は、学位規則所定の資格を欠く者が、本願各商標に係る文字を、自己の肩書として使用することを慮つてのことと思われるが、もしもそうであるとすれば、上述のとおり、何ら関係のない二種の行為を混同するものといわざるをえない。学位規則所定の資格を欠く者が、自己の肩書として本願各商標に係る文字を表示することと、本願各商標をその指定商品に商標として使用することとは、別個の事柄であり、前者の当、不当いかんは、そもそも商標法の領域外のことだからである。
(三) 因みに、特許庁における商標の登録例においても、「博士」の語を含む登録商標として、「料理博士」、「探偵博士」、「アイデア博士」、「靴学博士」などがあり、これらの例に鑑みても、本願各商標のみ登録を拒否することは、特許庁の取扱いとして一貫性を欠くのみならず、右のような登録例の存することは、本願各商標の使用が学位授与制度自体に混乱を生じさせないことの証左にほかならない。
被告の答弁
一 請求の原因一、二の事実は認める。
二 同三の主張は争う。次に述べるとおり、審決に誤りはない。
1 本願各商標が、その構成に照らし、これを指定商品に商標として使用した場合に、一般世人に学位規則に定められている博士の種類を表わす名称の一つを表示したものであるかのように誤認を生じさせるおそれのあるものであることは、審決の理由に示すとおりである。そして、学位規則によつて博士の種類が定められていることは学位授与制度の一環であることからしても、博士の種類について誤認を生じさせることは、とりも直さず、一般世人の博士の種類に対する認識を混乱させることであり、学位授与の制度の秩序を乱すことにほかならない。
また、本願各商標を指定商品に使用することにより、右のような誤認を生じさせることは、一般世人に本願各商標と同一の名称に係る正規の博士の学位を授与された者が存在するように誤つて認識させることになるから、実際に博士の学位を授与された者以外にも更に博士の学位を授与された者がいるように誤つて認識されることになる。しかして、このことを、博士の学位を授与された者に対する社会の一般的評価の面からみると、博士の学位を授与された者の名誉(社会における稀少価値的評価を含めたところの博士の学位を授与された者に対する優れた者としての社会の一般的評価)を稀釈させ、低下させることとなる。
なお、本願各商標は、前記のとおりたとえば「特許建築学博士」のような構成からなるものであつて、学位規則に定められた博士の称号と類似しており、したがつて、単に料理のことについての物知りである人を指す代替的実現としか認識されない「料理博士」なる名称とは異なる。
2 本願各商標を指定商品に商標として使用した場合とは、本願各商標と同一の標章(文字)を単に紙片等に書き表わすようなこととは異なり、たとえば、「週刊朝日」の文字からなる題号(商標)を表示した週刊雑誌を書店の店頭などに販売のため展示している事例があるように、本願各商標のうち「特許建築学博士」についていえば、右商標を題号として表示した主として建築に関する記事を内容とする雑誌(定期刊行物)を書店の店頭などに販売のために展示する場合などが考えられる。
このような本願商標の使用態様を考慮すれば、右1に述べたところが正当であることは一層明らかである。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一、二の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告ら主張の審決の取消事由の有無について検討する。
1 まず、わが国の学位制度について通覧する。
(一) わが国の学位制度は、明治二〇年に制定された学位令にさかのぼるが、右学位令によると、博士の学位の種類は、「法学博士」、「医学博士」など五種とされ、大学院に在学して所定の試験を経た者に対し、帝国大学総長の具申に基づいて文部大臣が帝国大学評議会の議を経て授与するものとされ(なお、当時は、このほかに「大博士」の制度もあつた。)、その後、右学位令は、明治三一年に改正され、これにより、学位は、博士のみとされ、その種類は、前記五種のほかに新たに「農学博士」、「獣医学博士」など四種が加えられて九種となり、右学位授与の要件は、@大学院に入学し所定の試験を経た者、A論文を提出して学位を請求し各分科大学教授会で前記のものと同等以上の学力ありと認めた者、B博士会において学位を授与すべき学力ありと認めた者、C帝国大学教授にして当該大学総長の推薦した者とされ、文部大臣から授与された。次いで、大正九年大学令の制定に伴う大学制度の改革に応じ学位制度も改められ、この結果、博士の種類については特に規定されず、それぞれの大学が文部大臣の認可を得て定めることとされ、博士の学位の種類は、国立、公立、私立の大学の学部の種類、学術分野の進歩発展を反映して、
前記九種のほか、新たに「経済学博士」、「経営学博士」などが加えられて一四種となり、博士の学位の授与要件は、@研究科において二年以上研究に従事し、論文を提出して学部教員会の審査に合格した者、A論文を提出して学位を請求し、学部教員会においてこれと同等以上の学力ありと認められた者とされ、博士会及び大学総長の推薦によるものは廃止された。
(二) ところで、現行の学位制度は、昭和二二年四月に施行された学校教育法第68条の規定に基礎をおくものであり、同条には、「大学院を置く大学は、監督庁の定めるところにより、博士、修士その他の学位を授与することができる。博士、
修士その他の学位に関する事項を定めるについては、監督庁は、大学設置審議会に諮問しなければならない。」と規定され、この規定と、これに基づいて定められた学位規則(昭和二八年文部省令第九号)によれば、学位として、博士のほかに修士が新たに加えられたが、博士は修士の上位に位置するもの(第一学位)とされ、その種類は、今日では、学術博士、文学博士、教育学博士、神学博士、社会学博士、
法学博士、政治学博士、経済学博士、商学博士、経営学博士、理学博士、医学博士、歯学博士、薬学博士、保健学博士、工学博士、農学博士、獣医学博士、水産学博士の一九種とされるに至つた。
そして、このような博士の学位は、専攻分野について研究者として自立して研究活動を行うに必要な高度の研究能力及びその基礎となる豊かな学識を有する者に授与するものとされ(学位規則第3条)、博士の学位授与の具体的要件は、@大学院の博士課程を修了した者、A大学の定めるところにより大学院の行う博士論文の審査に合格し、かつ、大学院の博士課程を修了した者と同等以上の学力を有することを確認された者である(同規則第5条)。
(三) 以上(一)、(二)に述べた学位制度の沿革に徴して明らかなとおり、わが国における博士の学位は、明治二〇年以来の長い歴史に支えられており、学術の進歩発展に対応して、その名称(種類)も逐次増加し、今日では、一九種の多くを数えるまでに至つているが、現行学位規則において新たに加えられた「学術博士」を除き、これらはすべて文学、教育学、神学などそれぞれの学術分野を示す「………学」の語の後に博士の語が連なる形式のものとして、当初から今日まで統一一貫しており、また、その資格要件には多少の変遷がみられるけれども、当該学術分野において高度の研究能力を有するとともに、豊かな学殖、識見を備えた者に授与される名誉ある称号である点において共通である。そして、このような長年にわたる一貫した制度の施行、定着により、国民の多くもまた学位令及び学位規則に定められた「……学博士」と指称される博士の称号に対しては、これを尊敬すべきものとして認識するとともに、博士の学位取得者に対しては、その学術分野における右のような優れた能力、識見を有する者として相応の敬意と信頼の念をもつて遇しており、このような多くの国民の定着した認識、行動がまた、学位制度の目的と相まつて学術の進歩発展に寄与しておりこれらのことが、学位制度という公の秩序の一環を形成しているものであることは、疑いを容れないところである。
2(一) ところで、本願各商標が、(1)特許建築学博士、(2)特許医学博士、(3)特許理学博士、(4)特許経営学博士、(5)特許理容学博士、(6)特許工機学博士、(7)特許医術学博士、(8)特許栄養学博士、(9)特許証券学博士、(10)特許経済学博士、(11)特許法学博士、(12)特許教育学博士、(13)特許管理学博士、(14)防衛学博士、(15)警察学博士、(16)特許文学博士、(17)特許農学博士、(18)特許文学博士、(19)特許体育学博士の各文字をいずれも楷書体で左横書きしてなるものであることは、当事者間に争いがない。
そうすると、本願各商標と学位規則に定められている前記各博士の名称とを対比してみるに、本願各商標中(2)、(3)、(4)、(10)、(11)、(12)、(17)、(18)のものは、「特許」の文字を語頭に付加されている点で、またその余のものは、「特許」の文字の有無の二様のものがあるが、そこに表示された各「……学」の語が、学位規則所定の博士の名称中には存在しない点で、
いずれも異なつている。したがつて、本願各商標は、学位規則所定の博士の名称とすべてが同一のものではない。
(二) しかして、右「特許」の語は、学位規則に定められた、たとえば「医学博士」の上にこれと一連一体に記載表示され、「特許医学博士」のように用いられると、「特に許された」又は「特別の」のような意味にも観念され、その結果、「特許医学博士」の標章ないし語に接する指定商品の需要者を含む一般世人の中には、
これを学位規則に定められた医学博士のうち特別なものないしはその上位のもののように認識する者も少なくないと考えられる。このことは、本願各商標中の右(3)、(4)、(10)、(11)、(12)、(17)、(18)のものについても全く同様である。
次に、本願各商標中学位規則に定めのない「特許建築学博士」における「建築学」など、その余のものについて考えるに、今日のように、学術の進歩発展に応じ、学術分野が多方面にわたつて広範囲に拡大、分化し、従来は一般には余り知られなかつた学術分野についてそれに応ずる名称が用いられるにいたりつつある事実が顕著であることに鑑みると、右の各商標に表示されている「建築学」その他の語も、これら学術分野の一部門を示すものとしてその大部分のものは現に広く用いられているのであり、中には、工機学、理容学のように、学術分野の一部門を示す語としては、未だ広く使用されているとまでは断定しがたいものもないではないが、
これらとても、学術分野の一部門を示す語として用いられたからといつてさほど不自然ないし奇異なものとは考えられないものである。
また、学位制度に基づく博士の学位の種類(名称)が、前述のとおり逐次増加し、今日では一九種の多くを数えるに至つていることからすると、指定商品の需要者を含む一般世人の中には、これらのもののすべてを正確に了知していない者が少なくないと考えられるのである。
右に述べた諸点を併せ考えると、前記のような構成からなる本願各商標を指定商品について使用するときには、なるほど、それが第一義的には指定商品の識別標識としての機能を果すものであるにせよ、これら各商標が商標として使用されることにより、その構成が学位規則所定の博士の種類(名称)と類似する関係上、本願各商標のような種類(名称)の博士の学位が、あたかも学位規則に定められているかのように、彼此紛淆ないし誤認混同を生ずる可能性を否定することはできないといわざるをえない。
(三) そうだとすれば、このような紛淆ないし誤認混同を生じさせることは、前1の(三)に述べたとおりの長い歴史の上に培われ国民の間に広く定着しきたつたわが国の学位制度における秩序の維持と相容れないものであるというほかはない。
(四) なるほど、博士の語は、学位規則にいう博士を指称するもののほか、多くの意味を有しており、また、五経博士など歴史上の官職名として諸種のものがあることは、原告らの主張するとおりである。しかし、本願各商標は、既に詳述したとおり、たとえば「特許建築学博士」、「防衛学博士」などのように、学位規則所定の博士の名称と範ちゆうを同じくする構成のものであるから、その構成の一部である「博士」の語が多くの意味を有し、また、歴史上の官職名として諸種の用い方があるからといつて、このことが、直ちに右の判断を左右するものでないことはいうまでもない。
また、「野球博士」、「相撲博士」などの語が、日常しばしば用いられることも、原告らの主張するとおりである。しかし、これらは、本願各商標のように学位令や学位規則所定の博士の名称と範ちゆうを同じくする用例ではないのみならず、
単に野球や相撲の分野で物知りである人を指称する語として、「物知り博士」などと同様に、用いられるにすぎず、しかも、そこにいう野球や相撲などが学術分野の一を形成するものと認識されるには至つていないことなどからすると、学位規則所定の博士の名称と範ちゆうを同じくする構成に係る本願各商標とは著しく趣を異にするものであり、これらを同日に論ずることはできない。
更に、成立に争いのない甲第五号証ないし第八号証の各一、二によると、「料理博士」、「探偵博士」、「アイデア博士」、「靴学博士」のような商標が登録商標(なお、その指定商品はいずれも第二六類)として存在することが認められるが、
これら各商標も、本願各商標とは趣を異にする点で右の野球博士、相撲博士について述べたところと同様であるから、このような登録商標が存在することをもつて、
前記の判断を左右するに足りない。
3 更に、本願各商標が、その指定商品に商標として使用される場合の商品流通上の影響について考える。
(一) 本願各商標の指定商品が、いずれも第二六類「印刷物(文房具類に属するものを除く。)、書画、彫刻、写真、これらの附属品」(ただし、別表の(12)、(13)、(14)、(16)、(17)、(19)の各商標については、
「写真」を除く。)であることは、当事者間に争いがない。
(二) このように、本願各商標は、右の指定商品について、自他識別標識として使用されるものであるから、たとえば、ある者が、自己の地位身分を表示する手段として、本願各商標の一である「特許経済学博士」の名称を肩書きに自己の氏名とともに名刺などに使用する場合とは、その使用態様を異にするものである(なお、
本願各商標の指定商品には「名刺用紙」は包含されていない。)というべく、したがつて、その旨を指摘する原告らの主張は首肯できる。
しかし、本願各商標が使用されるときは、たとえば、その指定商品印刷物に属する書籍、雑誌、新聞、年鑑、叢書等のほか、書画、写真などに、その筆者、作者、
監修者、編者、発行者などの表示とともに、これらの者との関連を思わせるような態様で、外題、題号などとして本願各商標が表示されることになることも十分ありうることであり、このような場合には、本願各商標の構成が先に述べたように学位規則所定の博士の名称と紛淆ないし誤認混同を生ずるおそれのある態様のものであることを併せ考えると、その指定商品の需要者は、指定商品があたかも学位規則に定められた博士の学位を有する者が執筆するなどこれに関与したもののようにその品質その他について誤認し、この誤認に基づいて取引に当ることも少なくないと考えられる。
なお、出願人の側からみても、本願各商標を特に出願人である原告らに独占使用させることが、その業務上の信用を維持するについて不可欠であるとすべき具体的事情など、特段の事情の存在をうかがうこともできない。
そうすると、本願各商標をその指定商品について商標登録を許容することは、商標の保護と需要者の利益を保護する商標法の意図する商品流通秩序の維持の目的にも反するものというべきである。
4 本願各商標が、商標としてその指定商品に使用された場合には、これによつて、前2、3に述べたような結果を招来することを併せ考えると、本願各商標は、
いずれも商標法第4条第1項第7号の規定に違背する商標というべきである。
したがつて、本願各商標をいずれも右規定に該当するものとして登録することができないとした審決は相当であり、原告らの主張は採用することができない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告らの本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条及び民事訴訟法第89条第93条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 荒木秀一
裁判官 藤井俊彦
裁判官 清野寛甫