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関連審決 審判1976-562
関連ワード 識別力 /  識別機能 /  指定商品 / 
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事件 昭和 53年 (行ケ) 112号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1980/09/18
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和五三年五月一八日同庁昭和五一年審判第五六二号事件についてした審決を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は主文同旨の判決を求めた。
原告の請求原因及び主張
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和四七年一一月二〇日特許庁に対し、別紙記載の構成から成る商標(以下「本件商標」という。)につき第二二類「はき物(運動用特殊ぐつを除く。)、かさ、つえ、これらの部品及び附属品、その他本類に属する商品」を指定商品として登録出願(昭和四七年商標登録願第一六〇九五二号)したところ、昭和五〇年九月二五日拒絶査定を受けた。そこで原告は、同年一二月二六日審判を請求し、昭和五一年審判第五六二号事件として審理されたが、昭和五三年五月一八日「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は同月三一日原告に送達された。
二 審決理由の要点本件商標は、前項記載のとおりのものである。
ところで、植物等の図柄を帯状に連続反復させ円形状に表わしてなる模様等は装飾的な輪郭として普通に使用されている事実があるが、図案化した草花の図柄を帯状に連続反復させ円形状に表わしてなる本件商標は、このような装飾的な模様の類型もしくは範疇に属し、他に何らみるべきものを有しない構成よりなるものである。従つて、看者をして単なる装飾的な輪郭模様と理解させるにとどまり、自他商品識別の機能を果たすものとは認識把握せしめないから、本件商標を指定商品について使用しても需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないので本件商標は商標法第3条第1項第6号に該当し、商標登録を受けることができない。
三 審決を取消すべき事由 商標の自他商品識別機能の有無は、当該商標が使用される商品との関係で判断されねばならないものであるにもかかわらず、審決は本件商標が使用される商品との関係に全く触れることなく、識別性を否定している。
本件商標は次に説明するとおり、原告の独創にかゝる図形商標であり、その指定商品との関係において、自他商品識別の標識としての機能を有するものである。
すなわち、
@ 花模様は三種類の花より成り、その第一は六つの花弁からなる平面図、第二はこれよりやや大きい五つの花弁からなる側面図、第三は前二者の半分位の大きさに画かれた蕾を形どつた側面図より構成され、これらが三個一組となつて唐草模様の莖の部分に適宜配置され、一個の帯状且つ円弧状の花と唐草の組合せ模様を構成し、これが八個集まつて全体として円形環状の図形を構成してなるものである。
A 環状の巾の長さは、全体としての輪郭を形成する円の外径の長さの約六分の一であつて、本件商標と背景とのコントラストが鮮やかである。
B 環状の外郭、内郭共に帯状の唐草模様により形成されるので、単なる円形とは全く異つた優雅な円形を形成する。すなわち、環状の外郭は唐草の莖や葉によつて、全体として円形の輪郭を形成するので、一本の線によりなる単なる円形とは異つた優雅な円形を形成する。
C 環状の内郭は@で前述したような八個の模様の組合せの結果として一六個の凹部と八個の凸部を交互に規則的に有する全体として円形の輪郭を形成する。
D この円形の輪郭は、これにより浮出された本件商標の内側の背景の独特の形を成す。
以上のような極めて顕著な諸特徴をその構成において有している本件商標はその指定商品について自他商品識別力を有していると判断せざるをえないのであり、審決は誤りである。
被告は、本件商標は「植物等の図柄を帯状に連続反復させて円形状に表わしてなる模様」等の類型もしくは範疇に属するので、自他商品識別の機能を果たし得ないと主張する。しかしながら、そもそも右の如き類型もしくは範疇を識別力有無の判断の基準とすることは誤りである。今、右の被告のいう類型もしくは範疇をその要件に分析してみると、@植物等の図柄を帯状に連続反復させた円形状、とA装飾的な輪郭模様、とに分けることができる。そこで、右二つの要件を商標の識別性判断との関連において検討してみると、@一般的に植物等の図柄が、商標として識別可能性を有することは、被告も否定することはないであろう。してみれば、そのような図柄を帯状に連続反復させた円形状のものもまた、識別可能性を有することは当然である。次にAの装飾的な輪郭模様はどうであろうか。およそ、登録された図形商標の中で、装飾的な意味を有しない商標はないといつても過言ではない。また輪郭模様というのも審決が意味するものは判然としないが、それ自体何ら具体的形状を意味するものではないので、これもまた、識別力の有無とは何ら関係のない概念といわなければならない。従つて、装飾的な輪郭模様などという言葉が識別力有無の判断基準となり得ないこともまた当然である。してみれば、被告が「植物等の図柄を帯状に連続反復させて円形状に表わしてなる、装飾的な輪郭模様」という類型もしくは範疇を作つたところでそれが商標の識別力判断のための何の基準にもなり得ないことは極めて明白である。
なお、植物等の図柄を帯状に連続反復させて円形状に表わしてなる模様が商品の装飾的な輪郭として普通に使用されている事実は認める。
被告の答弁
原告の請求原因及び主張の一、二を認め、三を争う。
原告は、商標の自他商品識別機能の有無は、当該商標が使用される商品との関係で判断されねばならないものであるにもかかわらず、審決は本件商標が使用される商品との関係に全く触れることなく識別性を否定していると主張するが、審決は、
「本件商標は、これをその指定商品について使用するも」(審決第一丁裏第一三行)と、その指定商品を充分考慮したうえで判断している。
「植物等の図柄を帯状に連続反復させて円形状に表わしてなる模様」等は、装飾的な輪郭として普通に使用されているところである。本件商標は、仔細に観察すれば原告の主張説明するような構成であるとしても、結局は「図案化した草花の図柄を帯状に連続反復させ、その内部に該図案化した草花の図柄の巾と長さ(円形をなす)の権衡上より異常に広いとみられる余白を設けて円形に表わしたもの」といい得るところである。そして、右のような構成からなる本件商標は、前記の「植物等の図柄を帯状に連続反復させて円形状に表わしてなる模様」等の類型もしくは範疇に属するものであつて、必ずしも入念な観察のみを期待し得ない実際の取引上においては、これに接する取引者、需要者をして単なる「装飾的な輪郭模様」として看取されるにすぎないといえるから、自他商品識別の機能を果し得ないといわなければならない。
原告は、植物等の図柄それ自体が商標として特定の商品について自他商品の識別力を有するとしたら、該図柄を帯状に連続反復させて円形状に表わしたものも又当然に自他商品の識別力を有する旨主張する。しかしながら、商標について自他商品の識別力の有無の問題は、該商標が使用される商品のその取引者、需要者にいかに看取され認識理解されるかによるものであつて、該商標を構成する素材のいかんや該構成自体の複雑さ優雅さ等によるものではない。従つて、特定の商品について、
明らかに自他商品の識別力を有するといえる植物等の図柄といえども、これを用いてする表現のいかんによつては自他商品の識別力を有しないものとなることはけだし当然である。しかして、該植物等の図柄を上下左右に連続反復表示して一定の限界の定め難い地模様に表現したものは明らかに自他商品の識別力を有しないものになるといい得るところである。
本件商標は、その構成よりして仔細に観察すれば先端にそれぞれ異なる種類の花を持つた大小四本の枝葉(ただし、該四本中の一本は花を持たない)を有する逆S字状の蔓草風の図柄(やや地紙状に表わされている)を合計八個帯状に連続反復させて円形状に表わしてなる模様等といえるところではあるとしても、この場合まさにいい得て妙であるが、枝葉末節部には拘泥しないでする通常人の通常の観察方法をもつてすれば、図案化した草花の図柄を帯状に連続反復させ、その内部に該図案化した草花の図柄の巾とその長さ(円形をなす)の権衡上又はその比較より異常に広いとみられる余白を設けて表わしたものとして看取されるとみざるを得ないから、結局本件商標は、図案化した草花の図柄を帯状に連続反復させて円形状に表わしてなる装飾的な輪郭風の模様として看取せしめるものであるといわなければならない。
以上のとおりであるから、本件商標は、これをその指定商品について使用するも、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標であるとした審決の判断にはなんら違法の点はない。
理 由特許庁における手続の経緯、本件商標の構成及び指定商品については、当事者間に争いがない。
原告は、商標の自他商品識別機能の有無は、当該商標が使用される商品との関係で判断されねばならないものであるにもかかわらず、審決は本件商標が使用される商品との関係に全く触れることなく識別性を否定していると主張するが、審決(成立について争いのない甲第一号証、第一丁裏第一三行ないし第一六行)は「本件商標は、これをその指定商品について使用するも需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標であると認められる」として、本件商標が使用される商品との関係でその識別機能の有無を判断していることが明らかであり、その判断は正当と認められるから、原告の主張は理由がない。
原告は、本件商標は原告の独創にかかる図形商標であり、その指定商品との関係において、自他商品識別の標識としての機能を有するとして、その構成をるる述べているが、本件商標は別紙記載のとおりのものであつて、結局「図案化した草花の図柄を帯状に連続反復させ円形状に表わしてなるもの」にすぎず、しかして、植物等の図柄を帯状に連続反復させ円形状に表わしてなる模様等は、装飾的な輪郭として普通に使用されている事実は原告もこれを認めるところであり(なお成立に争いのない乙第三号証、検乙第一号証参照)、本件商標は、細部には工夫が見られるとしても、全体として看者に与える印象からみると、普通に使用されている装飾的な輪郭以上に出、これを指定商品に使用しても必らずしも入念な観察のみを期待し得ない実際の取引においては、自他商品識別の機能を果すものと認めることはできない。
原告は、一般的に植物等の図柄は、商標として識別可能性を有するから、そのような図柄を帯状に連続反復させた円形状のものも識別可能性を有することは当然であると主張するが、植物等の図柄が商標としての識別可能性を有することがあるからといつて、そのことから直ちに、本件商標におけるように、その図柄を帯状に連続反復させ円形状に表わした場合も当然識別可能性を有するということにはならない。原告の主張は理由がない。
以上のとおりであつて、本件商標は、これを指定商品について使用するも、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標であるとした審決には違法の点はなく、その取消しを求める原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用は敗訴の当事者である原告に負担させることとして主文のとおり判決する。
裁判官 小堀勇
裁判官 高林克巳
裁判官 小笠原昭夫