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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ワ25426損害賠償請求事件 判例 商標
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平成18ワ5272損害賠償請求事件 平成18ワ8460損害賠償請求事件 判例 商標
関連ワード 識別力 /  商標的使用 /  出所表示機能 /  品質保証機能 /  質保証機能 /  識別機能 /  指定商品 /  使用料相当額 /  称呼(称呼類似) /  出所の混同 /  差止 /  更新登録 / 
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事件 昭和 53年 (ワ) 255号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1980/07/11
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告1 被告は、別紙第一目録及び第二目録中の「テレビまんが」なる標章をカルタ又はその容器に附し、あるいは、カルタ又はその容器に右標章を附したものを譲渡し又は引渡してはならない。
2 被告は原告に対し、金七五〇万円及びこれに対する昭和五三年一月二七日以降支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び仮執行の宣言二 被告主文同旨の判決
請求の原因
一 原告は、次の商標権(以下、「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という。)を有している。
登録番号 第八二五九八一号登録商標 別添商標公報のとおり指定商品 第二四類 娯楽用具、その他本類に属する商品出願 昭和三九年一一月一八日出願公告 昭和四三年七月二五日(昭四三ー二五八一一)登録 昭和四四年七月一七日更新登録の出願 昭和五四年四月一四日(商願昭五四ー二〇五〇一三)更新登録すべき旨の査定 昭和五四年一一月二〇日二 被告は、昭和五〇年一二月頃から、別紙第一目録及び第二目録中の「テレビまんが」なる標章(以下「被告標章」と総称し、区別するときは、第一目録のものを「被告標章一」、第二目録のものを「被告標章二」という。)を同第一目録及び第二目録のとおりの態様でカルタ(被告標章二)及びその容器(被告標章一)に附して、これを販売している。
三1 しかして、本件登録商標は、片仮名「テレビマンガ」をゴシック体で左から右へ横書きしたものから成り、一方、被告標章は、片仮名「テレビ」と平仮名「まんが」を一連に、左から右へ横書きし(被告標章一)、又は縦書きしたもの(被告標章二)から成つているから、両者が称呼において同一であり、したがつて類似することは明らかである。
また、被告が被告標章を使用しているカルタは、本件登録商標に係る指定商品に属するものである。
2 したがつて、被告が被告標章をカルタ及びその容器に附してこれを販売する行為は、本件商標権に対する侵害となるものである。
なお、原告は、現在、原告の妻子が取締役、監査役となつて昭和五四年に設立した訴外株式会社紙趣芸に対して、本件登録商標の使用を許諾しているものであり、
被告が被告標章をカルタに使用すれば、当然に右会社の商品との間で出所の混同を来すものである。
四1 被告は、本件商標権を侵害するものであることを知り、又は過失によりこれを知らないで、被告標章を使用したカルタを販売し、もつて本件商標権を侵害したものであるから、原告がこれによつて被つた損害を賠償すべき義務がある。
2 そして、商標法第38条第2項の規定により、原告は被告に対し、本件登録商標の通常の使用料に相当する額を自己の受けた損害としてその賠償を請求できるところ、被告は、昭和五〇年一二月頃から本訴提起の日である昭和五三年一月一七日までの間に、被告標章を使用したカルタを計一五万個以上販売したが、その小売価格は一個五〇〇円であり、本件登録商標の通常の使用料は小売価格の一〇パーセントであるので、原告がその賠償を請求できる右通常の使用料相当額は、右小売価格五〇〇円の一〇パーセントである五〇円に販売個数一五万個(以上)を乗じて得られた七五〇万円(以上)となる。
よつて、原告は被告に対し、被告標章の使用(カルタ又はその容器に附すこと、カルタ又はその容器に附したものを譲渡し又は引渡すこと)の差止め並びに前記損害金の内金七五〇万円及びこれに対する不法行為の後の日であつて本件訴状送達の日の翌日である昭和五三年一月二七日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
請求の原因に対する答弁及び被告の主張
一1 請求の原因一は認める。
2 請求の原因二のうち、被告が昭和五二年八月から一二月までの間、被告標章を別紙第一目録及び第二目録のとおりの態様でカルタ及びその容器に附してこれを販売したことは認めるが、右期間前及び後については否認する。
3(一) 請求の原因三1は認める。
(二) 同三2は争う。
4(一) 請求の原因四1は争う。
(二) 同四2のうち、被告が昭和五二年八月から一二月までの間に被告標章を使用したカルタを計三万七六八〇個販売したことは認めるが、その余の点はすべて争う。
二 別紙第一目録及び第二目録のとおりの態様で被告標章を使用する行為は、本件商標権に対する侵害となるものではない。
1(一) 被告標章一は、別紙第一目録のとおり(ただし、色彩は省略。)、カルタの容器(縦一八〇、横一四〇、高さ三〇。単位はいずれもミリメートルで、大体の数値を示す。)の蓋の表面の左上隅の青色の地に白い小さなゴシック体文字で表されている(縦五、横三八)ものである。そして、被告標章一のすぐ右下に赤い太字で大きく「一休さん」(縦二八、横八一)、右「一休さん」の「一」の真下に黒い小さな字で「いっきゆう」(縦三、横一七)、右「一休さん」のすぐ右下に黒い小さな文字で「(C)テレビ朝日・東映動画」(縦二、横二三)と、いずれも左から右へ横書きされ、以上の文字の下方いっぱいに大きく、テレビ漫画映画「一休さん」の登場人物がカルタ取りに興じている場面が描かれており、更にその左下隅に、桃色の地に「セイカの」、「かるた」と上下二段に左から右へ横書きしたもの(「セイカ」は縦五、横一七で、青。「の」は緑。「かるた」は赤。)を独楽の形をした緑色の枠(縦三六、横三五)で囲んだものが表されている。
(二) 被告標章二は、別紙第二目録のとおり(ただし、色彩は省略。)、各四五枚の絵札、字札の各左下隅に黒い小さな字で表されている(縦一四、横二)ものであり、そして、その下に同じく黒い小さな字で「一休さん」(縦一〇、横三)と書かれている。
2(一) ところで、商標の本質は、自己の営業に係る商品と他人の営業に係る商品とを識別するための標識としての機能を果たすことにあるのであり、商標法も、
かかる商標の果たすべき機能を違法に妨害する行為から商標権者を保護することを意図したものであるから、たとえ登録商標と同一又は類似の標章が使用されても、
それが自他商品の識別標識として使用されていないときは、当該登録商標に係る商標権の効力は及ばないというべきである。
(二) 右(一)の理を判示した裁判例として次のようなものがある。
(1) 大阪地裁昭和五一年二月二四日判決(無体裁集八・一・一〇二)(2) 東京地裁昭和五一年九月二九日判決(無体裁集八・二・四〇〇) 「商標とは本来自他商品識別の機能を果すものとして使用されるものでなければならず、商標権者は登録商標の本来持つこの機能を乱すものとしての第三者の登録商標の使用を禁止する権利はこれを有するが、第三者が登録商標と同一の若しくはこれと類似の標章を商品について使用するものであつても、その使用態様が自他商品を識別するという機能の面において使用されているものと認められないときは、
商標権者は第三者のその標章の使用を禁止し得ないものと解すべきである。」(3) 東京地裁昭和五一年一〇月二〇日判決(判例タイムズ三五三・二四五) 「商品について使用される文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合よりなる表示が商標の使用と認められるためには、その表示がその使用されている位置態様等に照らし標章即ち商品そのものを表彰するしるしとして用いられこれにより他人の商品と区別する作用を果していることを要すると解するのが相当である。」3(一) しかして、被告標章は、子供に親しまれている昔話「一休さん」のうちテレビ放送向けに製作された漫画映画すなわち後記4のとおり現に放映されているテレビ漫画「一休さん」を基にして、被告販売に係るカルタが作られたものであることを表示説明し、その内容を表すために記載されたものである。換言すれば、被告標章は、前記1記載のその使用位置、態様からして、被告販売に係るカルタを他人の商品と識別するための標識としての機能を果たすものではなく、商品の出所の混同を生ぜしめるものではないから、本件商標権の効力は被告標章には及ばない。
(二) 被告標章が自他商品の識別標識としての機能を果たすものでないことは、
本件登録商標について登録がされるに至つた次のような経緯、特にその審決の理由からも明らかである。
(1) 原告は、昭和三九年一一月一八日になした本件登録商標についての商標登録出願に対し、昭和四〇年一〇月二〇日付で、本件登録商標は「指定商品中上記の模型玩具については単にその商品を表示するにすぎないから商標法第3条第1項第3号に該当」する旨の拒絶理由の通知を受け、意見書を提出するも同じで理由で拒絶査定を受けたため、右拒絶査定に対する審判を請求した結果、「原査定を取消し、登録すべきものとする。」旨の審決(乙第七号証)を得て、ようやく登録を受けたものであるが、右審決は、原査定取消の理由として次のような理由を掲げている。
「よつて思うに、本願商標の構成は上記の通りであつて、これが一連に横書きして成る「テレビマンガ」の文字からは「テレビ」で放映される子供向きの漫画(無邪気な滑稽を主とする絵で人生批評諷刺を含んだもので単純、軽妙を特徴とする)テレビ番組の意味を指称するものである。
したがつて、この文字自体からはどのような漫画であるのか、その内容を具体的に特定し得ないものであるから、例えばテレビで放映された鉄腕アトム等の漫画のアトムがアトム人形、アトム玩具等として具体的に、それが商品として取引されるような場合は格別、本願商標の指定商品である娯楽用具おもちや等の商品については、それら商品について直接的に商品の品質又は内容を表わすものとは認め難い。」(2) すなわち、右審決は、例えばテレビで放映された漫画「鉄腕アトム」の主人公鉄腕アトムをかたどつた人形に、標章「テレビマンガ」を附した場合は、この標章は、右人形の内容を表すものとなり、商標たりえないことを示したものである。
してみれば、本件のように、テレビで放映されている漫画「一休さん」の場面を描いたカルタに、「テレビまんが一休さん」と表示した場合には、この「テレビまんが」なる標章は、被告の商品を指し他人の商品と識別するための標識として用いられているものではなく、カルタ「一休さん」の内容を表すものとして記載されたものという外はない。
(三) 被告販売に係るカルタにおいて自他商品の識別標識としての機能を果たしているのは、前記1(一)末尾の「セイカの」「かるた」中の「セイカ」なる表示であり、この表示こそが社会通念上の商標である。この「セイカ」について、被告は、別紙第三目録のとおり、昭和四三年四月一三日、指定商品を「第二四類 おもちやその他本類に属する商品」として商標登録出願をなし、昭和五三年三月二二日登録番号第一三二八四〇七号商標権として登録を受けたものであり、この「セイカ」なる商標が、自他商品の識別機能、及びこれから生ずる出所表示機能品質保証機能、広告宣伝機能という経済的機能を果たすものである。
4 なお、被告が被告販売に係るカルタに被告標章を使用したのは、次のような事情による。
すなわち、被告は、ノートブツク、スケツチブツク等の紙製品、カルタ、すごろく等の紙製玩具及び文具などの製造、販売を業とする者であるところ、昭和三八年頃、その頃全国のテレビ放送で放映されていた漫画の登場人物(キヤラクター)につきいわゆる商品化権を有していた訴外東映動画株式会社から、その実施許諾を受け、昭和三九年の正月向け商品として、当時テレビで放映されていた人気漫画の登場人物を描いたカルタ、すごろく、絵あわせ等の製造、販売を開始し、今日に及んでいる。本件についても、昭和五〇年一〇月から日本教育テレビ(現テレビ朝日)、朝日放送等全国のテレビ放送で放映を開始されたテレビ漫画映画「一休さん」について、右東映動画株式会社がいわゆる商品化権を有していたので、被告は、同年一二月、その実施許諾を受け、その登場人物を描いた昭和五三年正月向けカルタ「一休さん」に被告標章を使用して、これを前記のとおり昭和五二年八月から一二月までの間販売したものである。
被告の主張に対する反論
一 被告標章が使用されているその位置、態様は、第三、二1(一)及び(二)の被告主張のとおりであるが、かかる使用位置、態様こそ、まさに商標的使用そのものである。
二1 被告が第三、二2(二)で引用する判決中、(2)の東京地裁昭和五一年九月二九日判決は、文字標章が説明文の一部として使用され、かつ、それに用いられている活字も他の言葉と同一である場合には、商標権侵害を構成しないと判示しているのであつて、文字標章が独立して使用され、その活字の態様、色彩も他の言葉と異なる本件には適切ではない。
2 同じく(3)の東京地裁昭和五一年一〇月二〇日判決も、文字、図形等によって周知の物語を想起させるように構成されたものの一部に、問題の文字が密接に結合されていて、他の構成部分から独立した存在とはいえないから、当該文字は自他商品の識別機能を果たしていたと判示したものであつて、右1と同様の理由により本件には適切ではない。
三1 被告標章は、十分に自他商品の識別標識としての機能を有するものであり、
商標として使用されているものであつて、決して商品の内容を表すものとして使用されているのではない。
仮に被告が被告標章を商品の内容を表すために使用するとするならば、同一色彩、同一態様の文字により、「テレビまんがの一休さん」というように一連に表示しなければならない。しかるに、被告は、「テレビまんが」と「一休さん」を別々に離して表示し、特に被告標章一については、「一休さん」を赤い文字で、「テレビまんが」を白い文字で、それぞれ表示しているのであり、当然に商品の出所につき誤認混同を生じさせるものである。
2(一) 本件登録商標について登録がされるに至つた経緯、その審決の理由は、
第三、二3(二)(1)の被告主張のとおりである。
(二) しかし、右審決も示すように、「テレビマンガ」という文字自体からは、
どのような漫画であるのか、その内容を具体的に特定しえないから、商品の品質又は内容を窺知することはできないのであり、それゆえ、「テレビマンガじるし」の娯楽用品の存在は認められるべきであり、「テレビマンガ」という文字標章が「自他商品の識別標識としての識別力を具有し得ないものということはできない。」(乙第七号証)との結論に達するのである。
3 被告が登録番号第一三二八四〇七号商標権を有すること、被告販売に係るカルタの容器の蓋の表面に、被告標章の外に「セイカの」「かるた」なる表示があることは、表三、二3(三)の被告主張のとおりであるが、被告標章が商標として使用されていることは、右事実によつて何ら左右されるものではない。
四 被告が被告販売に係るカルタに被告標章を使用した事情についての第三、二4の被告主張のうち、被告の業務内容は認めるが、その余の点は知らない。
証拠関係(省略)
理 由一 原告が本件商標権を有していること、被告が少なくとも昭和五二年八月から一二月までの間、被告標章を別紙第一目録及び第二目録のとおりの態様でカルタ及びその容器に附してこれを販売したことは当事者間に争いがない。
二 被告標章が本件登録商標に類似することは当事者間に争いがないので、それにもかかわらず、別紙第一目録及び第二目録のとおりの態様で被告標章を使用する行為は、本件商標権に対する侵害となるものではない旨の被告の主張について判断する。
1(一) 被告標章一及びその使用態様を表すものであることに争いがない別紙第一目録及び被告販売に係るカルタの容器であることに争いがない検甲第一号証並びに本件口頭弁論の全趣旨によれば、被告標章一は、片仮名「テレビ」と平仮名「まんが」を一連に左から右へ横書きしたものから成り、カルタの容器(縦一八〇、横一四〇、高さ三〇)の蓋の表面の左上隅の青色の地に白い小さなゴシツク体文字で表されている(縦五、横三八)ものであること、そして、被告標章一のすぐ右下に赤い長橢円状の太字で大きく「一休さん」(縦二八、横八一)、右「一休さん」の「一」の真下に黒い小さな字で「いつきゆう」(縦三、横一七)、右(一休さん」のすぐ右下に黒い小さな字で「(C)テレビ朝日・東映動画」(縦二、横二三)と、いずれも左から右へ横書きされ、以上の文字の下方いつぱいに大きく(表面の面積の約六分の五を占める。)、後記テレビ漫画映画「一休さん」の登場人物がカルタ取りに興じている場面が描かれており、更にその左下隅に、桃色の地に「セイカの」、「かるた」と上下二段に左から右へ横書きしたもの(「セイカ」は縦五、
横一七で、青。「の」は緑。「かるた」は赤。)を独楽の形をした緑色の枠(縦三六、横三五)で囲んだものが表されていることが認められる。
(二) また、被告標章二及びその使用態様を表すものであることに争いがない別紙第二目録及び被告販売に係るカルタの絵札及び字札であることに争いがない検甲第二号証並びに本件口頭弁論の全趣旨によれば、被告標章二は、片仮名「テレビ」と平仮名「まんが」を一連に縦書きしたものから成り、各四五枚の絵札、字札(縦八〇、横六二)の各左下隅に黒い小さな字で表されている(縦一四、横二)ものであること、そして、その下に同じく黒い小さな字で「一休さん」(縦一〇、横三)と表されていることが認められる。
2 ところで、商標の本質は、自己の営業に係る商品を他人の営業に係る商品と識別するための標識として機能することにあり、この自他商品の識別標識としての機能から出所表示機能品質保証機能、広告宣伝機能が生ずるものである。商標法は、「文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合であつて、業として商品を生産し加工し証明し又は譲渡する者がその商品について使用をするもの」であれば、右のような自他商品の識別標識としての機能を有すると否とにかかわりなく、すべて商標である旨定義し(第2条)、商標権者は、指定商品について登録商標を使用し(第25条)、あるいは指定商品について登録商標に類似する商標を使用し又は指定商品に類似する商品について登録商標若しくはこれに類似する商標を使用する者等(第37条)に対し、当該商標権に対する侵害として、その侵害の停止等を請求することができる旨規定する(第36条)が、同法第1条の同法の目的、第3条の商標登録の要件についての各規定及び前記商標の本質に鑑みれば、同法における商標の保護は、商標が自他商品の識別標識としての機能を果たすのを妨げる行為を排除し、その本来の機能を発揮できるよう確保することにあると解すべきである。さすれば、登録商標と同一又は類似の商標を商品について使用する第三者に対し、商標権者がその使用の差止等を請求しうるためには、右第三者の使用する商標が単に形式的に商品等に表されているだけでは足らず、それが、自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で用いられていることを要するというべきである(第2条の商標の定義のし方は、立法技術上の理由に基づくものである。)。
すなわち、登録商標と同一又は類似の商標が商品について使用されている場合、
それが自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で使用されているときは、商標権者は、自己の登録商標の本来の機能の発揮を妨げるものとしてその使用を禁止しうるけれども、それが自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で使用されていると認められないときは、その商標の使用は本来の商標としての使用ということができず、商標権者は、自己の登録商標の本来の機能の発揮を妨げられないがゆえに、その商標の使用を禁止することができないのである。
3(一)しかして、成立に争いがない乙第一四号証、第一五号証の一ないし五、証人【A】の証言及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、「テレビまんが」、「テレビ・マンガ」、「テレビ漫画」なる語は、テレビ放送用に製作された漫画映画を意味するものとして、本件登録商標についての商標登録出願前から普通に用いられているものであり、現在も同様であることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はなく(なお、原告本人尋問において、原告本人は、「テレビマンガ」なる語は、原告本人が昭和三〇年前より使用していたものである旨供述するが、仮にそうであるとしても、右認定事実の存在自体は、何ら変わりがない。)、また、成立に争いがない乙第九号証及び証人【A】の証言、本件口頭弁論の全趣旨によれば、昭和五〇年一〇月から少なくとも本件口頭弁論終結時まで、訴外東映動画株式会社が周知の昔話「一休さん」を基礎に登場人物及び話の筋に創作をも折込んで製作したテレビ漫画映画「一休さん」が、毎週一回、日本教育テレビ(現テレビ朝日)系列の全国ネツトでテレビ放送されていること(被告が本件カルタを販売したのは、右東映動画株式会社から、右テレビ漫画映画についてのいわゆる商品化権の実施許諾を受けたことに基づくものであること)が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
他方、前記1(一)認定の被告標章一の使用態様によれば、被告標章一は、カルタの容器の蓋の表面の下方いつぱいに(表面の面積の約六分の五を占める。)右テレビ漫画映画「一休さん」の登場人物がカルタ取りに興じている場面が描かれている絵画部分の上部に、「一休さん」、「いつきゆう」、「(C)テレビ朝日・東映動画」の文字とともに一団として表されているものであるが、右一団の文字群の中央に赤い長橢円状の太字で大きく書かれていて極めて目立つ右「一休さん」という文字(縦二八、横八一)の左上に近接して位置し、高さ(縦の長さ)にしてその約五・六分の一という小ささ(縦五、横三八)で、白いゴシツク体文字により、いわば右「一休さん」の肩書きとでもいうごとき態様で表されていることが認められる。
(二)以上の、被告標章一を構成する「テレビまんが」なる語の有する意味内容、
テレビ漫画映画「一休さん」のテレビ放送による放映の事実及び被告標章一の使用態様に本件口頭弁論の全趣旨を参酌すると、被告標章一は、前記絵画部分とも相俟つて、被告販売に係るカルタが、周知の昔話「一休さん」のうち現にテレビ放送により放映されているテレビ漫画映画「一休さん」を基にして作られたものであり、
絵札に表される登場人物のキヤラクター等が右テレビ漫画映画に由来するものであることを表示するにすぎないものといわなければならず、したがつて、自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で使用されているとは認められない。
原告は、仮に被告標章一を商品の内容を表すために使用するとするならば、同一色彩、同一態様の文字により、「テレビまんがの一休さん」というように一連に表示しなければならない旨主張するが、右のような表示のし方に限られるとする根拠はなく、却つて、前記認定の事実、特に被告標章一の使用態様に照らせば、被告標章一が、一団の文字群の中央に赤い長橢円状の太字で大きく書かれた「一休さん」という文字を修飾し、これを説明するものであることは容易に覚知しうるところであるから、原告の右主張は採用しえない。
4 前記1(二)認定の被告標章二の使用態様によれば、被告標章二は、縦八〇、
横六二の大きさの絵札、字札の各左下隅に縦一四、横二という小ささ(横幅にして絵札、字札の三一分の一)で表されているものであり、そして、右絵札、字札は容器の中に納められるべきものであることを考えると、需要者が果たして被告標章二に着目するものであるか疑問であるのみならず、仮に需要者が着目するものであるとしても、被告標章二は、黒い小さな字で表されている「一休さん」の文字(縦一〇、横三)のすぐ上に、右「一休さん」の文字より更に小さく(横幅にして約三分の二)表されているものであり、かかる被告標章二の使用態様に、前記3(一)前段認定の、被告標章二を構成する「テレビまんが」なる語の有する意味内容及びテレビ漫画映画「一休さん」のテレビ放送による放映の事実並びに本件口頭弁論の全趣旨を参酌すると、被告標章二は、絵札の絵とも相俟つて、被告標章一同様、被告販売に係るカルタが、周知の昔話「一休さん」のうち現にテレビ放送により放映されているテレビ漫画映画「一休さん」を基にして作られたものであり、絵札に表される登場人物のキヤラクター等が右テレビ漫画映画に由来するものであることを表示するにすぎないものといわなければならず、したがつて、被告標章二もまた、自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で使用されているとは認められない。
仮に被告標章二を商品の内容を表すために使用するとするならば、同一色彩、同一態様の文字により、「テレビまんがの一休さん」というように表示しなければならない旨の原告の主張の採用しえないことは、前記3(二)後段に述べたところに照らし明らかである。
5 以上のとおり、被告標章は、いずれも、自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で使用されているとはいえないから、前記2で判示したところに従い、結局、原告は被告に対し被告標章の使用を禁止することができないといわなければならない。すなわち、別紙第一目録及び第二目録のとおりの態様で被告標章をカルタ及びその容器に附する行為をとらえて、本来の商標としての使用に該当し本件商標権に対する侵害となるとする余地はない。
三 してみれば、被告標章の使用が本件商標権に対する侵害となることを前提とする本訴請求は、その前提を欠くから、その余の点について判断するまでもなく、いずれも失当というべきである。
四 よつて、原告の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 秋吉稔弘
裁判官 水野武
裁判官 設楽隆一