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関連審決 審判1967-701
審判1967-7101
関連ワード 指定商品 /  結合商標 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  離隔的 /  取引の実情 /  判定 /  存続期間 /  更新登録 /  非類似 / 
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事件 昭和 53年 (行ケ) 105号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1980/05/28
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が昭和四二年審判第七〇一号事件について昭和五三年四月一四日にした審決を取消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告は、主文同旨の判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 被告は、登録第六九二七三五号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。本件商標は、別紙第一のとおりの構成よりなり、第三〇類「菓子、パン」を指定商品として、昭和三九年六月二七日登録出願、昭和四〇年四月二八日出願公告、同年一二月一四日設定の登録がされ、昭和五一年四月八日商標権の存続期間更新の登録がされているものである。原告は、被告を被請求人として、昭和四二年九月二五日、本件商標の登録無効の審判を請求したところ、特許庁昭和四二年審判第七一〇一号事件として審理され、昭和五三年四月一四日右審判の請求は成り立たない旨の審決があり、その審決の謄本は同年五月二九日原告に送達された。
二 本件審決の理由の要点 本件商標は、前項記載のとおりである。
請求人(原告)の引用する登録第四七九八八四号商標(以下「引用A商標」という。)は、別紙第二の(1)のとおりの構成よりなり、旧第四三類「餅」を指定商品として、昭和三〇年六月一七日登録出願、昭和三一年四月二六日設定の登録がされ、昭和五一年一月一八日商標権の存続期間更新の登録がされているものである。
同じく登録第五六一二九一号商標(以下「引用B商標」という。)は、別紙第二の(2)のとおりの構成よりなり、旧第四三類「菓子及び麺麭の類(但し、餅を除く。)」を指定商品として、昭和三四年八月一五日登録出願、昭和三五年一二月一〇日設定の登録がされたものである。
本件商標及び引用A商標、引用B商標は、別紙第一及び別紙第二の(1)(2)のとおりの構成よりなるものであるから、本件商標と引用各商標は、全体構成が相違するばかりでなく、両者の図形自体も互に異なるものとして看取されるから、
外観上類似するものということはできない。
次に、これを称呼上よりみるに、本件商標は、これを構成する「どんがめ」の文字部分から「ドンガメ」の称呼を生ずることが明らかである。しかしながら、該文字の下部に描かれた図形部分は何を表わしたものかにわかに理解することができないものである。仮に該図形が兜蟹を表わしたものであるとしても、一般に親しまれた生物ではないばかりでなく、該図形は著しく図案化されたものであるから、本件商標登録当時において、岡山県笠岡地方に永住する者はもちろんのこと、一般世人もそれが兜蟹の図形であることは認識しえないものである。したがつて、本件商標に接する取引者需要者は、図形の上部に表わされた「どんがめ」の文字から、「どんがめ」なるものを描いたものと考えるから、「ドンガメ」以外の称呼は生じえないし、笠岡地方に永住する者にとつても、それは「どんがめ」であるばかりでなく、図形との関連においても、その称呼を限定的に表わしたとみられる「どんがめ」の文字があるに拘らず、殊更「カブトガニ」と称呼することはないとみるのが取引の実情に沿うものといえる。
他方、引用A商標は、これを構成する文字中その要部とみられる「カブトガニ餅」の文字部分から、「カブトガニモチ」又はその指定商品「餅」との関係上「餅」の部分を省略して単に「カブトガニ」の称呼を生ずることが明らかである。
しかしながら、図形部分は、輪廓を描いてなるものであつて、何を表わしたものかにわかに理解し難いものであるから、これに接する取引者需要者は、該図形は「カブトガニ餅」の文字との関係上「かぶとがに」を表わした図形であると理解し、また、笠岡地方に永住する者にとつても同様に兜蟹を表わした図形であろうと理解し、図形の称呼を限定的に表わしたとみられる親しみやすい「カブトガニ餅」の文字が書されているに拘らず図形自体から称呼を抽出して「ドンガメ」と称呼することはないものとみるのが相当である。同様に、引用B商標の称呼も「カブトガニ」以外の称呼は生じえないものである。
そうであれば、本件商標の称呼は「ドンガメ」であり、引用A商標の称呼は「カブトガニモチ」又は「カブトガニ」、引用B商標の称呼は「カブトガニ」であるから、両者は、称呼においても非類似である。
次に、観念上よりみるに、請求人は、「兜蟹」と「どんがめ」とが同一観念のものであることを立証するため、一九六六年五月二五日株式社中山書店発行の「動物系統分類学」、昭和三七年九月一六日医学博士【A】著のパンフレツト「生きている化石カブトガニ」、昭和四五年一二月九日、昭和五二年三月三一日発行の朝日新聞その他を提出しているが、本件商標登録以前の発行にかかるものは前記【A】著のパンフレツトのみであり、これだけでは本件商標登録の時点において、一般世人はもちろんのこと、笠岡地方の住人にとつても、「どんがめ」の学名が「兜蟹」であることを直ちに理解しうるものと認めることはできない。したがつて、本件商標は、これを構成する「どんがめ」の文字部分から、亀が鈍重な生物であるので、これを漢字にあてはめて「鈍亀」なる亀の観念を想起するか、又は、「どんがめ」が「団亀」すなわち「すつぽん」の異称であることを知る者にとつては「すつぽん」の観念を生じるとしても、図形部分は一般には理解し難いものであるから、前記「どんがめ」の文字部分との関係上「鈍亀」又は「すつぽん」を観念するとみるのが相当である。
他方、引用A商標は、「カブトガニ餅」の文字部分から兜状の甲羅をした蟹又はこれを象つた餅の観念を生ずるとしても、図形部分から直ちに兜蟹の観念は生じえないとみるのが自然であり、同様に引用B商標は、兜状の甲羅をした蟹の観念を生ずるとみるのが自然である。
また、本件商標登録当時笠岡地方に永住する者は、兜蟹とは「どんがめ」をいうものであつて本件商標の「どんがめ」の文字部分から兜蟹を観念したとしても、引用A、B商標の「カブトガニ」の文字部分からは、兜状の甲羅をした蟹の一種であると理解し、兜蟹の観念は生じえないし、「どんがめ」の学名が兜蟹であることを知つている本件商標の指定商品を取扱う極めて少数の取引者需要者においても、自他商品の識別標識である商標として両商標に接した場合、方言としての「どんがめ」と学名としての「カブトガニ」の印象とでは自づから別異なものとして感得し、観念においても彼此相紛れるおそれはないものといわなければならない。
そうであれば、本件商標と引用A、B商標とは外観称呼観念のいずれの点よりみるも非類似の商標といえるから、たとえ、両者の指定商品が相抵触するものであるとしても、本件商標の設定登録は、商標法第4条第1項第11号の規定に違反するものではなく、本件審判請求は理由がない。
三 本件審決の取消理由 引用A、B商標の各構成、各指定商品及び各設定登録の日、商標権存続期間更新登録の日が審決認定のとおりであることは争わない。しかし、審決は、次の点において違法であるから、取消されるべきである。
1 本件商標と引用A、B商標とは外観において類似するのに、審決が外観上類似しないとしたのは、判断を誤つたものである。
本件商標と引用A、B商標は、いずれも図形と文字から成るが、各商標を全体として観察すると、文字部分よりも図形部分が主たる要素となつている。すなわち、
本件商標と引用A、B商標は、いずれも図形部分が圧倒的に看者の注意をひくのに対し、文字部分はあくまで附従的又は附飾的なものと認められるから、両商標の類否を判断するに際しては、これらの図形部分を要部として抽出して観察することが必要である。しかして、本件商標は横向きに、引用A、B商標は縦向きに描かれているものの、いずれも標準和名を「カブトガニ」と称し、地方によつては「どんがめ」などと呼ばれる剣尾目に属する節足動物の背面を図案化したものであることは一目瞭然である。そして、他にこのような特徴を有する生物は存在しないこと、むしろ本件商標の方が引用A、B商標よりも「カブトガニ」の実形に近似していることなどを総合して考えると、本件商標と引用A、B商標とはその図形部分において酷似しており、結局全体的構成も類似しており、これを離隔観察した場合には、両者は外観上類似する。
2 本件商標と引用A、B商標とは、称呼において類似するのに、審決が称呼上類似しないとしたのは、判断を誤つたものである。
審決は、本件商標の称呼を「ドンガメ」であるとしているが、本件商標は「どんがめ」の文字部分のほか、その下部に描かれた図形部分から成り立つ結合商標であるから、「どんがめ」の文字と右図形との関連においていかなる称呼が生じるかをも判定すべきである。本件商標を観察した場合には、文字と図形が不可分的に結合しているとはいえず、かつ、これを分離して観察することが不自然ではないから、
右図形部分を観察すると、「ドンガメ」以外の称呼が全く生じえないということはできない。そして、本件商標と引用A、B商標とは、いずれもその図形部分が商標の要部となつており、かつ、上述のとおり、その図形は、標準和名を「カブトガニ」と称する剣尾目に属する節足動物の背面を図案化したものであることは一目瞭然であり、他に右図形に示されたような特徴を有する生物は存在せず、むしろ本件商標の方が引用A、B商標よりも「カブトガニ」の実形に近似している。したがつて、一般取引者需要者が本件商標に接した場合には、明らかに「カブトガニ」の図形が強い印象を与えるものであるから、直感的にこれを「カブトガニ」と称呼することも十分あることである。本件商標からは「ドンガメ」の称呼のほかに「カブトガニ」の称呼をも生ずることが少なくない。他方、引用A、B商標から「カブトガニ」の称呼を生ずることは明らかであるから、両者は称呼上類似する。
3 本件商標と引用A、B商標とは、観念において類似するのに、審決が観念上類似しないとしたのは、判断を誤つたものである。
標準和名を「カブトガニ」と称する生物は、岡山地方に居住する者にとつてはもとより、本件商標登録以前から、ほぼ全国的に周知の生物であつて、かつ、右生物は、標準和名と同様に一般に「カブトガニ」と呼ばれているものである。しかして、本件商標と引用A、B商標の各図形部分はいずれも右「カブトガニ」なる生物を図案化したものである。
本件商標は、その図形部分との関連において観察すると、「ドンガメ」以外の観念が全く生じえないということはできず、本件商標の図形は「カブトガニ」であることが容易に看取でき、かつ、「どんがめ」は岡山地方における「カブトガニ」の方言であることもほぼ周知の事実といえるから、一般の取引者需要者が本件商標から「ドンガメ」のほかに「カブトガニ」を観念することも自然である。
観念の類似は知覚的要素を基礎として判断されるところ、本件商標については、
その図形がまさに「カブトガニ」を表わしているものであり、かつ、「ドンガメ」と「カブトガニ」は同一生物に対する異なつた呼び名にすぎないことなどを総合すると、本件商標から「カブトガニ」の観念が生じる程度はきわめて大きい。
他方、引用A、B商標がそれぞれ文字と図形とが相まつて「カブトガニモチ」又は「カブトガニ」と観念されることは至極当然のことであつて、審決のように、これを「兜状の甲羅をした蟹の一種であると理解し、兜蟹の観念は生じえない。」とするのは、誤りである。
被告の陳述
一 請求の原因一及び二の事実は、いずれも認める。
二 同三の主張は争う。審決には原告主張のような誤りはない。
1 (外観について) 本件商標は、文字が図形の上部に配されており、視覚上、文字の部分も図形の部分と同様に看者の注意をひく部分であるから、いずれも要部となすべきものである。また、引用A、B商標は、いずれも文字が中央部分に配され、図形は文字の輪廓としてあらわされているから、文字部分と図形部分はいずれも要部であるとしても、ウエイトはむしろ文字部分にあるとするのが自然である。
本件商標を横に向け、図形中の剣状の突起部分を下方にして、その図形部分のみと引用A、B商標の図形部分のみとを対比するも、下方に先細の剣状突起があること、輪廓の胴体部分の下方の両側に毛状突起物があること(本件商標は合計八本、
引用A、B商標はいずれも合計一二本)を除けば、両者は、視覚上も看者に対して全く異なる印象を与えるものである。すなわち、本件商標は、頭髪をおかつぱにした人形の首のような形状であるのに対し、引用A、B商標中の図形の形状は、上部がこぶ状にふくれあがり、飛翔する鳥の姿か、「えい」の一種を思わせるような輪廓であるから、両者の全体の形状も、それが世人に与える視覚上のニユアンスも全く異なるものであつて、これらの図形のみを時と所とを異にして離隔的に観察するとしても、両者は外観上明らかに区別されうるものである。
実際の登録商標は、本件商標の場合は「どんがめ」の文字が横書きされ、かつ、
図形は文字部分の下に剣状の部分を右にして配されているので、文字部分との関係上もこのような配置のもとにしか使用されえないことは明らかである。これに対し、引用A、B商標についても、文字部分との関係上、剣状の部分を下方に配するようにした以外の使用方法はありえないことが明らかである。したがつて、本件商標と引用A、B商標とは、その全体的な構成が全く異なるものであるから、両者の外観を全体的に把握すれば、これらを離隔的に観察するとしても、看者は一見してこれらを識別しうるであろうことは経験則に照らし明らかなところであり、この点に関する審決の判断に誤りはない。
なお、原告は、本件商標と引用A、B商標は、いずれも「カブトガニ」を図案化したものであることが明らかであると主張するが、本件商標の登録時点においては、「カブトガニ」なる生物は到底世人一般に親しまれていた生物であるとはいえないので、そのような事情のもとにおいては、世人は本件商標と引用A、B商標の各図形から、これらが同一の範疇に属する生物であるとは到底認識することができないものと考えられる。
2 (称呼について) もともと「カブトガニ」なる生物は、世間一般に知られて親しまれている生物ではなく、本件商標の指定商品「菓子、パン」の取引者需要者の中で、その図形あるいは写真をみてそれが何であるかを理解する者はほとんどない。特に、本件商標が登録された昭和四〇年ころの時点においては、そうであつた。さらに、本件商標の図形は図案化されたものであるから、このような商標が商品菓子に使用された場合においては、その取引者需要者がこの図形より兜蟹を想起することは考えられず、
「どんがめ」の文字からその図形も「どんがめ」なる特殊の、ないしは想像上の動物を描いたものと解するのが通例であろう。したがつて、一般には、本件商標の図形から「カブトガニ」の称呼を生ずることはありえない。また、兜蟹の棲息地である笠岡地方の人々にとつては、兜蟹は「どんがめ」という名称によつて認識されているのであるから、図形との関連においても、その称呼を限定的に表わしたとみられる「どんがめ」の文字があるにかかわらず、殊更に、なじみの薄い名称である「カブトガニ」の称呼は生ずる余地がないと解するのが取引の実情に沿うものである。それは、「カブトガニ」を「ダンガメ」(広島)、「ヒガンガニ」(徳島、和歌山)、「ハチガメ」(福岡、大分)、「ウンキユウ」(福岡)などと称し、本件商標中の図形がそのようにいわれるものであることを理解する地方の人々にとつても同様であり、本件商標がその指定商品に使用されている場合に、これらの人々は、これを「ダンガメ」「ヒガンガニ」「ハチガメ」「ウンキユウ」などとそれぞれの地方の方言にしたがつて呼ぶことはあろうが、殊更に「カブトガニ」の称呼により取引することは考えられない。したがつて、本件商標からは、「カブトガニ」の称呼は生じないとすべきものである。
3 (観念について) 本件商標を構成する文字「どんがめ」は、もともとは「泥亀」「胴亀」に由来した「すつぽん」の異称であることは、三省堂発行新国語中辞典(乙第一号証の一ないし三)あるいは岩波書店発行広辞宛(乙第二号証の一ないし三)によつても、明らかなところである。たまたま笠岡地方においてのみ「カブトガニ」の方言として「どんがめ」の語が使用されていることは事実であるが、それは、広島県では「ダンガメ」、徳島県及び和歌山県では「ヒガンガニ」、福岡県では「ウンキユウ」「ハチガメ」、大分県では「ウチワエビ」「カブリガニ」などと呼ばれており、
「どんがめ」もこれら数多くの方言と同様、岡山県の一地方で使用されている方言の一つにすぎない。また、「カブトガニ」なる動物自体も、一般にきわめてなじみの薄いものであり、特に本件商標が登録された昭和四〇年ころにおいては、本件商標の指定商品菓子類の取引者需要者間にあつて「カブトガニ」なる語により、剣尾類に属する兜蟹を理解する者は、動物学者あるいは生物に興味を有する一部特殊な人々を除いては、ほとんどいなかつたといつても過言ではない。このような事情のもとにおいては、「どんがめ」の語により取引者需要者は「鈍重な亀」の意味を理解するのが通例であり、たまたま辞書等によりそれが「団亀」あるいは「すつぽん」の意味であることを解する者があるとしても、それが兜蟹であることを理解する者は、笠岡地方の者以外にはほとんどいなかつたとするのが実状に合致する。さらに、本件商標の図形も、一般世人にとつては何を表わすのか理解し難いものであるから、文字部分との関係において「鈍重な亀」又は「すつぽん」をカリカチユア化した図形と解されるにとどまるのが通例であろう。ただ、笠岡地方の相当数の人々は、それが「どんがめ」すなわち兜蟹を表わした図形であることを理解するであろうし、また、「カブトガニ」の生息地の人々の一部の者も、それが「ヒガンガニ」「ウンキユウ」などと呼ばれ、他所ではこれを「どんがめ」とも呼ぶところもある兜蟹であることを理解することもあろうが、これらの者も、特定の図形の称呼を限定的に表わした本件商標との関係においては、これを「どんがめ」によつて理解するものである。そうであれば、本件商標からは兜蟹の観念は生じない。
次に、引用A、B商標にはいずれも「カブトガニ」の文字が記されているが、一般には、剣尾類の兜蟹を理解する者はほとんどいないから、引用A商標からは、兜状の甲羅をした蟹又はこれらを象つた餅の観念が、引用B商標からは、兜状の甲羅をした蟹の観念が生ずるとするのが自然であつて、兜蟹の観念は生じない。ただ、
剣尾類の兜蟹を知る一部特殊の人々あるいは兜蟹の生息地の人々でその標準和名を知る少数の人々には、引用A、B商標の文字と図形からして剣尾類の兜蟹を理解する者はあるであろうが、それは、指定商品「菓子、パン類」の一般取引者需要者からすれば、きわめて狭い範囲に限られている者にすぎない。
証拠関係(省略)
理 由一 請求原因一及び二の事実は、当事者間に争いがない。そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。
二 まず、観念の類否について考察する。
成立に争いのない甲第七号証ないし第一一号証、第一三号証ないし第一五号証、
第一七号証ないし第一九号証、第二七号証ないし第三四号証及び弁論の全趣旨によれば、カブトガニは、剣尾類に属する海産の節足動物で、その形態の顕著な特徴は後体部に「尾剣」を有する点にあり、これが他の生物にない独特の体形となつていること、カブトガニは、日本では瀬戸内海、博多湾、有明海に棲息し、岡山県笠岡市金浦湾は、カブトガニが瀬戸内海で最も盛んに繁殖するところで、昭和三年に「カブトガニ繁殖地」として、国の天然記念物に指定されたこと、カブトガニに関する文献は、すでに江戸時代末期には見られ、明治時代以降今日まで、その形の珍奇なため、あるいは遠く古生代から生き続けた生物として「生きた化石」といわれるため、おびただしい部数にのぼるカブトガニに関する文献が刊行されていること、そして、おそくとも昭和三〇年代には、一般の読者を対象とする各種の百科事典類にカブトガニの図形や写真が掲載され、その説明がされていること、昭和三〇年代に全国各地の高等学校において使用された生物の教科書中には、カブトガニの図形もしくは写真が掲載され、その説明がされていること、本件商標についての設定の登録がされた直後ではあるが、昭和四一年には、笠岡市の中学校で「カブトガニ研究クラブ」が結成されたところ、それがNHKテレビに採り上げられて、「あすは君たちのもの-生きている化石を守る」というカブトガニの番組が放映され、
その番組にちなんで詩人サトウハチロウーが「生きている化石をまもる」というカブトガニの詩をうたつていること、岡山県笠岡地方では昔からカブトガニのことを方言で「どんがめ」と呼んでいること、以上の事実を認めることができる。
右事実に徴すれば、本件商標についての商標権の設定登録の日(昭和四〇年一二月一四日)ないし商標法第18条第2項第41条第1項の各規定と本件商標の出願公告日(同年四月二八日)とから推認される商標登録をすべき旨の査定の日の当時においては、カブトガニは、岡山県笠岡地方にとどまらず、ほぼ全国的に知られた生物であつたと認めることができる。
ところで、本件商標の図形がカブトガニの背面を図案化したものであることは、
それが後体部に尾剣を有するなどカブトガニの独特の体形を現わしていることから容易に理解できるところであり、しかも、右図形部分は、その大きさ及び位置からみて本件商標において強く看者の注意をひくものであるから、指定商品「菓子、パン」の取引者需要者が本件商標からカブトガニを観念することはきわめて自然というべきである。したがつて、本件商標からカブトガニの観念を生ずる。本件商標の文字部分「どんがめ」は前記のとおり岡山県笠岡地方におけるカブトガニの方言であるが、このことは、本件商標からカブトガニの観念を生ずることをさらに強めることにはなつても、これを妨げる事由にはならない。
他方、引用A、B商標についても、その図形がカブトガニを図案化したものであることは、前述したところに徴し容易に理解できるものであり、その文字部分「カブトガニモチ」あるいは「カブトガニ」と相まつて、引用A、B商標からカブトガニの観念を生ずることは明らかというべきである。
被告は、本件商標の登録当時においては、カブトガニは岡山県笠岡地方においては周知の生物であるとしても、全国的には未だ一般に知られた生物ではないとの主張を前提として、本件商標からも引用A、B商標からも、カブトガニの観念は生じないと主張するが、これを採りえないことは前述したところから明らかである。また、被告は、「どんがめ」は「すつぽん」の異称であり、あるいは一般世人は「どんがめ」から「鈍重な亀」の意味を理解すると主張するが、そのようなことがあるとしても、本件商標の図形部分からカブトガニの観念を生ずるとの前記認定を左右するものではない。
右のとおりである以上、本件商標と引用A、B商標とは観念において類似する商標であり、両者を観念においても非類似とした審決は、その余の点について判断するまでもなく、類否の判断を誤つたものであつて、違法であるから、取消されるべきものである。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条及び民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 荒木秀一
裁判官 杉山伸顕
裁判官 清野寛甫
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