• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1977-6755
関連ワード 独占的使用 /  指定商品 /  通常使用権 /  専用使用権 /  専用権 /  使用許諾 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 昭和 53年 (行ケ) 188号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1979/11/21
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が昭和五二年審判第六七五五号事件について昭和五三年九月一九日にした審決は、これを取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告は、主文同旨の判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
請求の原因
一 原告・被告の地位及び特許庁における手続の経緯 被告は、指定商品を第三二類「食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品(他の類に属するものを除く。)」とし、別紙のとおりの構成からなる登録第六九四七八一号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。原告は、昭和五二年六月一日特許庁に対し、本件商標につき、商標法第50条第1項に基づいて商標登録取消の審判を請求し、同庁昭和五二年審判第六七五五号事件として審理されたところ、右審判請求事件係属中の昭和五二年一二月二八日、被告との間に、原告を専用使用権者とし、範囲を、「指定商品クロレラを主原料とする加工食料品、期間昭和五二年一二月二八日より三年間、地域 日本全国」とする専用使用権の設定契約を締結し、次項に記載の専用使用権設定登録を経由した。ところが、特許庁は、右審判事件につき、昭和五三年九月一九日次項記載の理由により原告の審判請求を却下する旨の審決をし、その謄本は、同年一〇月一六日原告に送達された。
二 本件審決の理由の要点 本件商標の商標登録原簿乙区欄には、順位一番として、「昭和五三年二月一七日受付第一八二二号株式会社国際体質研究所のため昭和五二年一二月二八日契約により、本商標権に対し、下記専用使用権の設定を登録する。昭和五三年五月二二日、
記、1範囲指定 商品クロレラを主原料とする加工食料品、期間昭和五二年一二月二八日より三年間、地域 日本全国」との登録事項の記載がある。ところで専用使用権を設定する契約は、当該商標権が有効に存続することを前提とすべきものであるから、専用使用権者はその前提の維持を害するような攻撃に対しては、防御について商標権者の側に立つべきものである。
本件についてこれをみると、たとえ審判請求後であるにしても、請求人は専用使用権者となつたのであるから、もはや当該商標権を取り消すべき法律上の利益を失うに至つたものである。してみると、本件審判の請求は、請求の利益を有しない者によつてされたことに帰するから、不適法なものとして却下すべきである。
三 審決の取消事由 本件商標について、その商標登録原簿の乙区欄に審決認定のような登録事項の記載があることは認めるが、原告のした審判請求に対し、法律上の利益がないとした審決の判断は以下に述べるとおり誤りであり、審決は違法であるから取り消されるべきである。
1 一般に登録商標について専用使用権の設定を受けた者は、あくまでも設定行為で定められた範囲内においてのみ登録商標の使用が認められるに過ぎないのであり、使用権者の立場は商標権者のそれに比較してはなはだしく不利益なものであることは多く論ずるまでもないところである。しかるに、審決は、この点について全く考慮することなく、原告が被告の有する本件商標権について専用使用権者となつたものである、との一事をもつて審判請求の利益なしとの誤つた結論を導いている。
2 また、原告が本件商標につき、登録取消の審判を求める具体的利益があることは、次の諸点からも明らかである。
(一)原告は、(1)本件審判の請求当時、クロレラを主原料とする加工食料品につき、「JEUNESSE・M」及び「ジユネスエム」の各商標を使用していた関係上、右使用行為が商標法第37条第1項の規定により本件商標権の侵害となる可能性があつたこと、(2)原告は、昭和五一年八月一一日特許庁に対し、指定商品を第三二類「加工食料品」とする「JEUNESS・Mジユネスエム」(商標昭五一ー五三六七九号)及び「JEUNESS・Lジユネスエル」(商標昭五一ー五三六八〇号)の各商標の登録出願をしていた関係上、被告の有する本件商標の登録が取消されなければ、右各商標登録出願は、商標法第4条第1項第11号の規定に該当するとして右出願が拒絶される可能性があつたことから、このような不利益を回避するために、同法第50条第1項の規定に基づき、本件審判の請求をするに至つたのである。このような経緯からも明らかなとおり、原告にとつて、本件審判の請求が認容されるか否かは重大な利害関係を有しているのである。
(二)原告が被告より本件商標につき専用使用権の設定を受けるに至つたのは、後記のとおり、被告との紛争を回避するための暫定的措置であり、その使用期間は前記のとおり昭和五二年一二月二八日より三か年とされているから、右期間の経過後は、本件商標の使用は不可能となる筋合である。しかも、原告は、被告との専用使用権設定契約に基づき、被告に対し対価を支払う義務を負担しているところ、本件審判の請求が認容されれば、右義務は消滅する。このような点からも原告にとつて、本件審判の請求が認容されるか否かについて緊要の利害関係がある。
3 原告が、被告との間に本件商標権につき専用使用権の設定契約を締結するに至つたのは、かねて原告と取引関係にある株式会社ベルエアーが、昭和五二年六月一七日ころ被告より、「JEUNESSE・M」及び「ジユネスエム」の商標を使用する行為は、本件商標権に抵触するとの内容証明郵便の送付を受けたこと及び原告自身も右各商標を使用する必要があつたが、被告の右商標権を無視して前記各商標の使用を続行するのは好ましくなく、本件審判についての審決が確定するまでの間の暫定的措置として専用使用権の設定を受けるのが相当であると判断したからに外ならない。そして、右設定契約に際しては、使用権設定を条件に本件審判請求を取り下げる旨約したような事実がないばかりでなく、使用権設定後も本件審判請求を維持する旨述べている。
被告の答弁と主張
一 請求の原因一、二の事実は認める。
同三の事実中原告がその主張のとおり本件審判を請求したこと、原告及び株式会社ベルエアーが、かねて加工食料品について原告が主張するとおりの各商標を使用していたこと、被告が株式会社ベルエアーに対し原告主張のとおり右各商標の使用が、本件商標権に抵触する旨の内容証明郵便を送付したこと、原告が原告主張のとおりの各商標につき登録出願をしたこと及び本件商標権についてされた専用使用権設定契約の内容が原告主張のとおりであることは認めるが、その余の主張は争う。
二 本件審決の判断は、以下に述べるところかも明らかなとおり正当であり、本件審決には、原告が主張するような違法はない。
1 商標権についてされる専用使用権の設定は、通常使用権の許諾とは異なり、旧特許法第44条にいう特許権の制限付移転に相当し、専用使用権者は、設定行為で定められた範囲内において商標権の内容中一部を物権的に取得し、商標権者はそれに対応する範囲において登録商標を独占的に使用する権利を制限され、その結果専用使用権者は商標権の存在によつて何ら不利益をこうむることのない地位を取得する。原告は、本件商標権について、その主張のとおり専用使用権設定契約を締結すると共に、その登録をも経由したのであるから、本件商標権の内容中自己の営業に関する商品全部について物権的な専用使用権を取得し、商標権者に代わつて設定行為で定められた範囲内において、登録商標を使用する権利を専有し、商標権の存在によつて何ら不利益をこうむることのない確固不動の地位を獲得したのである。したがつて、原告は、商標権の全部又は一部を譲り受けた場合と同様に商標権者と共に本件商標を防護し、存続させるについて商標権者と利害を一にする関係をもつに至つたのである。商標権について専用使用権の設定を受けることと当該登録商標の登録取消審判を請求することとは、二者択一的関係にあるというべきである。
2 原告のための本件専用使用権の設定は、原告と被告との間に昭和五二年一二月二八日当時本件商標権をめぐつて存在していたすべての紛争を一挙に解決するための和解契約の一環としてされたものである。すなわち、被告は、原告のした本件商標権の侵害行為についての責任を不問に付すると共に、原告の要望を全面的に受け容れ、その営業に係る商品全部について本件商標権の独占的使用を容認し、他方、
原告は、本件商標権の存続を是認し、本件商標の登録取消を求める本件審判の請求を取り下げる旨を内容とする和解契約を締結したのである。このように原告は、本件商標権の侵害行為による紛争を円満に解決するために、本件審判請求を取り下げこれと引換えに本件商標権の存続を前提として専用使用権の設定を受け、本件商標権を尊重することを約したのである。
したがつて、本件審判請求は、その取り下げをまつまでもなく、右契約の成立により、審判請求の利益は消滅した。
3 なお、原告は、専用使用権の使用期間は、三年とされており、これを経過すると本件商標の使用ができなくなることや使用料支払いの議務があることなど種々の制約がある旨主張するが、右専用権が審決の当時及び現在存続していることは明らかであり、しかも、設定行為により右使用期間は、同一の条件で自動延長が可能である旨定められており、また、使用料支払の如きは、専用使用権設定契約の単なる付随的事項に過ぎないから、本件審判請求を適法なものとする独立の利害関係とみることはできない。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一、二の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 ある商標について、専用使用権の設定行為が有効に成立するためには、商標権が存在しなければならないことは当然であり、また、専用使用権の設定を受けた者が、その設定行為で定めた範囲内において、指定商品につき当該登録商標を独占排他的に使用する権利を有し、右範囲内において専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれのある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができることは、商標法第30条第36条の規定により明らかである。しかし、専用使用権者は、商標権者との間の契約により商標権を維持擁護すべき債務を負担する場合のあることはともかくも、専用使用権者であることから法律上当然にこのような義務を負担するものでないことは明らかであり、また、専用使用権者においてする登録商標の使用は、あくまでも設定行為で定められた範囲内に制限されるものであるから、一般に専用使用権者はその商標権を取得したと同一の地位若しくは権限を有するに至るものではなく、商標権者と常に同一の法律上の利害関係を有するものともいえないことは当然である。そして、既に登録された商標が存在する場合において、たとえその商標が、商標法第50条による登録取消原因が存する場合であつても、それについて取消審判の審決が確定するまでは、有効なものとして存続し、何人もその登録商標の存在を否定することはできないのであるから、右登録商標が存在することによつて何らかの法的不利益を被り又は被るおそれのある者は、その不利益を救済し又はこれを最少限にとどめる方策として、一方において当該登録商標の商標登録を取消すことについて審判を請求すると共に、他方において、さしあたり右登録商標について商標権者から専用使用権の設定を受けることも十分理由のあることと考えられ、このような方策を構ずることを否定すべき理由はない。このようなことからすれば、商標権について専用使用権の設定を受けることと、当該登録商標の登録取消の審判を請求することは、被告が主張するように相互に矛盾する二律背反的関係にあるものとはいえない。
したがつて専用使用権者が、設定行為によつて、その登録商標の使用及び権利行使につき指定商品、期間、地域、対価その他に関し制限がなく、あたかも商標権それ自体を取得したのと実質的に同一であるとみられる場合(商標法第24条第1項の規定による商標権の取得と実質的に同一であるとみられる場合を含む。)や、専用使用権者が商標権者に対し商標登録の無効、取消の審判を請求しないこと又は既に提起したこのような審判を取り下げる旨を約したなど特段の事情がない限り、商標権について専用使用権の設定を受けたからといつて、当該登録商標の登録取消の審判を請求する法的利益を失うものではないと解すべきである。
2 そこで進んで、本件において右にいう法的な不利益の存在と特段の事情の有無について検討する。
原告及び株式会社ベルエアー(これが原告と加工食料品について取引関係にある会社であることは、証人【A】の証言により認められる。)がかねて加工食料品について原告が請求の原因三の項において主張するとおりの各商標を使用していたこと、被告が株式会社ベルエアーに対し原告が請求の原因三の項において主張するとおり右各商標の使用が本件商標権に抵触する旨の内容証明郵便を送付したこと、原告がその主張のとおりの各商標につき登録出願をしていることは、当事者間に争いがなく、これらの事実に、次段の認定事実及び争いのない事実を併せ考えれば、原告は本件登録商標について登録が存在することによつて、法的不利益を被つており又は被るおそれがあることは明らかである。
成立に争いのない甲第五号証、乙第一号証及び証人【A】の証言によると、原告と被告との間にされた本件商標についての専用使用権設定契約においては、原告が被告に対し、使用許諾の対価として年額一〇万円を支払う義務を負担していることが認められ、また、本件専用使用権は本件商標の指定商品のうち「クロレラを主原料とする加工食料品」について設定されたものであり、その使用期間は昭和五二年一二月二八日より三年間と定められていること(もつとも前掲甲第五号証によると、いずれか一方からの申出がない限り同一の条件のもとに更に一年間延長される。)は、前一の項のとおり当事者間に争いがない。これらの事実からすれば、専用使用権者たる原告が、商標権者と実質的に同一の地位もしくは権限を取得するに至つたものといえないことは明らかである。
また、本件全証拠を検討しても、原告と被告との間に、原告において、本件審判事件を取り下げる旨の合意がされたことを認むべき証拠はないのみならず、かえつて、前掲証人尋問の結果によれば、専用権設定契約締結に至る過程で、その交渉の衝に当つていた被告側代理人【B】から原告側代理人【A】に対し、特許庁で審理中の本件審判事件の取り下げの要求がされたが、同原告側代理人はこれを拒絶し、
右取り下げについては、結局合意に至らなかつたことが認められる。
そうすると、原告において、本件商標について商標登録の取り消しを求める審判請求の利益を失つたとみるべき特段の事情もうかがえない。
三 以上のとおりであつて、本件審判の請求が請求の利益を有しない者によつてされた不適法なものであるとしてこれを却下した審決は違法であるから、審決の違法を理由にその取り消しを求める原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の規定を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 荒木秀一
裁判官 藤井俊彦
裁判官 清野寛甫
  • この表をプリントする