関連審決 |
審判1976-1878 |
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関連ワード | 識別力 / 識別機能 / 指定商品 / 普通名称(3条1項1号) / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 商標権の放棄 / |
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事件 |
昭和
53年
(行ケ)
56号
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1979/10/25 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が、昭和五二年一〇月三一日同庁昭和五一年審判第一八七八号事件についてした審決を取り消す。 訴訟費用は、被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
一 原告主文第一、二項と同旨の判決二 被告原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
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請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和四八年二月八日特許庁に対し、別紙目録(一)記載のとおり「QーTIPS」の欧文字を横書きして成る商標(以下、「本件商標」という。)につき第四類「せつけん類、歯みがき、香料類」を指定商品として登録出願(昭和四八年商標登録願第二三一六九号)したところ、昭和五〇年一一月二五日拒絶査定を受けた。そこで原告は、昭和五一年三月二一日審判を請求し、同庁昭和五一年審判第一八七八号事件として審理されたが、昭和五二年一〇月三一日「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決がなされ、その謄本は出訴期間として三ケ月を附加する旨の決定とともに、昭和五二年一二月二四日原告に送達された。 二 審決の理由の要旨1 本件商標の構成、指定商品及び登録出願日は前項のとおりである。 2(一) 原査定において本願拒絶の理由に引用した登録第一〇一〇一二八号商標(別紙目録(二)のとおり「CHIP」の欧文字を横書きして成り、第四類「せつけん類、歯みがき、化粧品、香料類」を指定商品として昭和四六年二月二六日登録出願、昭和四八年四月二三日登録。以下、「引用商標」という。)からは、その構成に徴し、「チツプ」の称呼を生ずるものというを相当とする。 (二) 本願商標からは、一応「キユーチツプス」の一連の称呼を生ずることは否定し得ないとしても「Q」と「TIPS」との間をハイフンで区分してなるものであるから、その構成からも「Q」と「TIPS」は必ずしも一体不可分に構成されているものとは認め難く、しかも両語が一体となつて一つの熟語的意味を生ずるものとも感受し得ないばかりでなく「Q」の如きローマ字一字または二字は、自己の生産若しくは販売に係る商品の品番、型式、規格などを表示するための符号、記号として取引上各種商品について類型的に随時採択し、使用されているところであり、化粧品業界においても、その例外であり得ない。してみれば、取引者、需要者は、その構成文字からみて、要部たり得る圧倒的顕著な「TIPS」の部分を捉え、単に「チツプス」と称呼して取引に当る場合も決して少なくないものというを相当とする。そうすると、本件商標からは、「チツプス」の称呼をも生ずることになる。 (三) そこで、本件商標から生ずる「チツプス」と引用登録商標から生ずる「チツプ」の両称呼を比較するに、両者は、「チツプ」の各配列音を共通にし、異なるところは僅かに前者の語尾に「ス」の音が附加されている点にある。ところで、 「ス」の音は、発声上弱い無声摩擦音であるばかりでなく、一般的に語尾音は弱く発音されるものであることを合わせ考えれば、両者それぞれ一連に「チツプス」、 「チツプ」に称呼した場合、彼此聴き誤まるおそれのあるものといわざるを得ない。したがつて、本件商標と引用登録商標とは、称呼において類似する商標であり、かつ、その指定商品も互いに同一のものであること明らかであるから、結局、 本願商標は、商標法第4条第1項第11号に該当し、登録することができない。 三 審決を取り消すべき事由1 引用商標が審決認定のとおりであることは争わないが、審決は、本件商標と引用商標とが称呼上類似であると判断した点に誤りがあり、違法であるから取り消されるべきである。 すなわち、審決は、本件商標から「TIPS」の部分を圧倒的に顕著であるとして分離したうえで、引用商標「CHIP」と比較し、これらの称呼は類似するから両商標は類似するものと判断したが、本件商標は、取引上も、一体不可分なものとして「キユーテイツプス」と一連にのみ称呼されるものであることは以下述べるところから明らかである。 (一) まず、審決は、本件商標がハイフンで区分されているから、一体不可分の構成ではないという。しかしながら、ハイフンは、通常、連結符号として用いられるものであつて、ほかに語を区分する分離記号として用いられる場合があるとしても、それは、辞書などにおいて、本来的一語の構成、成り立ち、あるいは発音を説明するためにその一語を語源あるいは音節ごとに分解するときなどきわめて特殊な場合に限られる。ハイフンが連結符号として用いられるのが通常の使用態様であるから、ハイフンで結ばれた語は、ハイフンの後で区切ることなく、一気に続けて発音するのが普通である。本件商標においては、冒頭の「Q」と「T」の間に介在するハイフンは、通常の半分の長さにもみたない短いもので「T」のキヤツプライン(上部の横線)の下方に三分の一近く入り込んでいてハイフン自体は小さく目立たない存在となつている。 本件商標におけるハイフンは、その形態からしても、本件商標全体を一体のものと認識するのに何らの妨げになつていないし、かえつて、ハイフンが通常の用法に従つて、「Q」と「TIPS」を結合するための連結符号として用いられていることが明らかであり、このハイフンがなければ、あるいは分離して発音されるところを一語相当の連続したものとして発音すべきことを示す働きをしているのである。 また、本件商標は、わずか五文字で構成されているが、いずれもローマ字の大文字で書体も同一であり、冒頭の「Q」の文字自体が単純明解で親しみがあり看る者に強い印象を残す形態であるから、外観上も全体が一体不可分の構成として認識され易く、さらにハイフンで連結されている「Q」と「TIPS」とは、いずれも「キユー」及び「テイツプス」というきわめて短い発音から成り、これを「キユーテイツプス」と一気に発音しても冗長にならないし、かえつて非常に語呂のよい一語として一連に発音され易いもので称呼上一体的に一気に発音するのが自然である。 これらの点を検討することなく、単にハイフンが介在することをもつて称呼上一体不可分とはいえないとした審決の判断は誤りである。 (二) 審決は、「Q」の如きローマ字の一字、二字は自己の生産若しくは販売に係る商品の番号、型式、規格などを表示するための符号、記号として取引上類型的に採択使用されているというが、「Q」なるローマ字が一般に化粧品業界において、取引上商品の品番、型式、規格を表示する符号、記号として使用されている事実はなく、審決のこの点の認定には誤りがある。 すなわち、化粧品業界において、商品の型式、規格などを表示する符号、記号として用いられているローマ字は、N(ノーマルの略)、R(レギユラーまたはリツチの略)、D(ドライの略)、L(ライトの略)、M(モイスチユアの略)、S(スペシヤルの略)、E(エキストラの略)など数種に限られ、しかも化粧品業界の慣習として、これらのローマ字は、商標の主要部の末尾に付記され、商標の冒頭に置かれることはないのである。 「Q」なるローマ字が、右の用例の如く、商品の品番、型式、規格などを表わす符号、記号として用いられている事実はない。 さらに、本件商標は、「Q」という耳口を惹き易い単純で独特の形状をもつ親しみ易いローマ字を冒頭においているから本件商標は、その「Q」の部分こそが称呼する者または看る者に対し強い印象を与え、この部分がいわば愛称的に本件商標を特徴づける顕著な部分となつているとみるのが素直な見方である。 本件商標のうち、「Q」のローマ字をのぞく「TIPS」の部分は、「先端または先端のかぶせもの」を意味する普通名詞にすぎないから、この部分は、商標としての顕著性をもちえないのである。 したがつて、本件商標のうち「Q」の部分を単に商品の品番、型式、規格などを表す記号、符号であるとみたうえ、「TIPS」の部分が圧倒的に顕著であるとした審決の判断は誤りである。 (三) 以上のことからして、取引者または需要者は、本件商標について、「Q」と「TIPS」とを分離することなく、これを一体的に認識記憶し、称呼上も「キユーテイツプス」と一連に称呼するものとみるのが合理的である。 したがつて、本件商標と引用商標との間に称呼類似による誤認混同が生じるおそれはないものといわなければならない。 2 引用商標の商標権者であるハンス・シワルツコツプ・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツングは、昭和五四年四月二三日、特許庁に対し、放棄を原因とする商標権抹消登録申請書を提出し、同年六月一八日に引用商標の商標登録は抹消された。 これによつて、審決の引用に係る商標は存在しなくなつたのであるから、これを引用した審決は、事実誤認の違法があるものとして取り消されるべきである。 審決取消訴訟の目的は、審決をそのまま維持すべき理由があるかどうかを判断する点にあり、審決が取り消され取消判決が確定すると、あらためて、審判手続において、審判終結の時点を基準として新たな審決をなすことになる。このような審判制度の手続の流れを考えると、審決取消訴訟における判決がその判断の基準を当該審決時に固執することに合理性はない。 審決後に、引用商標の放棄による商標登録抹消という事実が生じた本件の場合の如く、審決をやり直せば、前の審決とは異なる結果になることが明らかな場合には、裁判所としてもこれを違法性の有無の判断に取り入れて、審決を取り消してもう一度特許庁に判断させる方が、審決取消訴訟及び審判制度全体の流れからみても合理的であり、審決後の事情は一切考慮しないというが如きは審決取消訴訟制度の趣旨に合致しないというべきである。 |
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被告の答弁及び主張
一 請求の原因一及び二の事実は、認める。 二 同三の主張は、争う。 1(一) 本件商標のうち「TIPS」の部分は、「先、先端」などを意味する英語「TIP」の複数形として中学程度で習う比較的親しまれた語であるが、これに「Q」なる文字を冠することによつても、別意の成語または熟語を形成するものでもなく、したがつて、常に一体不可分にのみ結び付いて認識されることにはならない。 ハイフンが数語と結び付いて一語として扱うための連結符号として使用される場合のあることは必ずしも否定しないが、それは、「A」なる語と「B」なる語とがハイフンによつて連結されることによつて「C」という新たな観念が生ずる場合(たとえば、MERRYーGOーROUND)であつて、本件商標の如く「Q」と「TIPS」とが一体となつたとしても一つの新たな熟語的意味を生じない場合には、これを常に一連にのみ称呼しなければならないものではない。 (二) 審決は、ローマ字の一字、二字が自己の生産若しくは販売に係る商品の品番、型式、規格などを表わす符号、記号として使用されていることが取引の経験則上明らかであることから、取引者としては、本件商標における「Q」なる文字もこのような符号、記号として用いられているもののように認識し理解する旨を述べているのであつて、「Q」が具体的にそのような符号として使用されている事実を認定したものではない。 本件商標の如く、単なる符号、記号とみられるところのアルフアベツトの一字と特定の意味を有する語から構成される商標にあつては、単なる符号、記号とみられる文字部分をのぞいた自他商品の区別標識としての識別力を有する部分(要部)を観察して類否の判断をなすべきことは判例学説上確立されているところである。一個の商標から二つ以上の称呼が生ずる場合に、そのうちの一つの称呼と他人の商標の称呼とが同一または類似であるときは取引に際し他人の業務に係る商品と混同、 誤認を招来する危険があるものとして、両商標は、称呼上類似のものと判断されるべきである。 したがつて、本件商標と引用商標とは称呼において類似する商標であるとした審決は、正当であつて原告主張のような違法はない。 2 引用商標の登録が、原告主張のとおり抹消されたことは認める。 しかしながら、審決取消訴訟は、特許庁における最終処分である審決に違法があることを理由としてその取消を求める制度であるから、審決があつたのち、しかも取消訴訟提起後において、審決の引用に係る引用商標が放棄され、その商標登録が抹消されたからといつて本件審決に違法があることにならない。この点の原告の主張は、取消事由とはなりえないものである。 理 由一 特許庁における手続の経緯、本件商標及び引用商標の構成、指定商品及び登録出願日並びに本件審決理由の要旨が、いずれも原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。 二 審決を取り消すべき事由の有無 まず、審決後に引用商標が放棄により登録抹消されたことにより、これを引用した審決は違法となる旨の原告の主張(審決取消事由の2)についてみるに、本件のように商標法第4条第1項第11号に該当するとして商標登録が受けられないとした審決の違法性判断の基準時は審決時であると解すべきところ、商標権の放棄の効力は既往に遡及しないから(商標法第35条、特許法第98条第1項第1号参照)、審決後に引用商標が放棄により消滅しても、審決の適否に影響を及ぼさないと解すべきである。この点に関し、原告は種々反対の見解を述べるが、採用することができない。 そこで、本件商標と引用商標との類否(審決取消事由の1)について検討する。 前記争いのない事実に徴すれば、本件商標が、別紙目録(一)のとおり「Q」なる欧文字に「TIPS」なる四つの欧文字をハイフンをもつて横に連絡して成る比較的短い簡明な構成であり、しかもこれを構成する各欧文字は、その字体、大きさとも全く同一である。 ところで、本件商標の冒頭に置かれた「Q」なる欧文字は、A、B、M、S、X等しばしば記号、略号に用いられるものに比べ、そのような使用頻度が少ないことは周知であり、その形態及び「キユー」という発音の響きにも独特のものがあつて特徴のある欧文字の一つであるといえる。本件商標のこのような構成の簡明さや、 「Q」なる欧文字自体のもつ特異性及びそれが冒頭にあることなどからして、 「Q」の部分は、一般の取引者または需要者に対して強い印象を与え、記憶され易い部分であるとみられる。 さらに、成立に争いのない甲第三号証、第四号証の一ないし五、第五ないし第九号証の各一、二、第一〇号証の一ないし四、第一一ないし第一八号証、乙第一号証の一ないし三、第二号証の一ないし四、第三号証の一、二、第四号証の一ないし五並びに弁論の全趣旨を綜合すると、以下のとおり認定判断することができる。 (1) 本件商標の指定商品とされる化粧品の業界においても、ローマ字または二字が商品名に付せられることがしばしばあるが、その用法は、例えば「コールドクリームS」、「モイスチヤーミルクR」などのように、商品の普通名称の末尾にその商品の特性または種別を意味すると思われる頭文字を付記したり、あるいは、 「JOエツセンシヤルアイライナー」のように、商品の普通名称(形容的文言を含む。)の前に、生産販売に携わる業者の何らかの標章と思われる欧文字を冠する場合がほとんどであつて、商標そのものに欧文字一字を冠した例は、ほとんどない。 それゆえ、取引者または需要者が本件商標を見て、ただちに「Q」なる欧文字が、 化粧品の型式、規格などを表わすための単なる符号または記号として用いられているものと認識し理解するとはいい難い。 (2) ハイフンは、辞書などにおいて、本来一語として理解されうる語を、語源の説明ななどのため分解する場合にも用いられるが、世間一般には、ハイフンで結ばれた語を一語相当の語として理解し、発音するための連結符号として用いられる場合の方が一般的である。本件商標にあつても「QーTIPS」におけるハイフンは、「Q」と「TIPS」の両語を一体として認識理解させるために両語を連結して不可分一体の関係を表わす働きをしている(「Q」は文字、「TIPS」は「先端」等を意味する語であるから、そのまま連続表記するのは体裁上も工合悪いであろう。)ものと理解するのが相当である。 (3) 本件商標の指定商品とされていないが、実際上本件商標が用いられている商品である「綿棒」の取引に携わる者の間では、「QーTIPS」の商標について、取引上も、「キユー」と「テイツプス」とを分離して称呼することなく、「キユーテイツプス」と一連に称呼されている。 以上説示したところ考え合わせると、本件商標の構成において、「Q」なる部分にも自他商品識別機能のあることが否定できないし、冗長でないことや構成を含めて、全体的に観察すると、本件商標からは、「キユーテイツプス」または「キユーチツプス」(が国では「テイを「チ」と発音する例が多い。)の一連の称呼のみが生ずるものであり、かつテイ(チ)ツプスの部分のみが印象に残るわけではないと認めるのが自然である。 本件審決は、本件商標を構成する「Q」と「TIPS」とを分離し、「TIPS」の部分が圧倒的に顕著であると認定したうえ、本件商標からは、「チツプス」の称呼も生ずるとし、これを前提として本件商標をもつて引用商標と類似の商標であるとした点において判断を誤つたものというべきであり、違法として取消を免れない。 三 以上のとおりであるから、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由があるので、これを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 小堀勇 |
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裁判官 | 小笠原昭夫 |
裁判官 | 舟橋定之 |