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関連ワード 包装 /  指定商品 /  周知性 /  損害額 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  国内 /  差止 /  並行輸入 / 
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事件 昭和 52年 (ワ) 739号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1978/05/31
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、原告に対し、金四九万四四五〇円及びこれに対する昭和五二年二月六日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨(一) 被告は、原告に対し、金三七五万円及びこれに対する昭和五二年二月六日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
(三) 仮執行の宣言二 請求の趣旨に対する答弁(一) 原告の請求は棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
請求の原因
一 原告は、時計の輸入、製造、販売を行なつている平和堂貿易株式会社を中心とする企業グループの管財会社であつて、肩書地に本店を有し、不動産及び工業所有権の保有及び管理等を業としている。
二 株式会社平和堂時計店は、昭和三四年一月二〇日、次の商標権(以下、「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を取得した。
登録出願日 昭和三三年一月二七日出願公告日 昭和三三年九月一〇日設定登録日 昭和三四年一月二〇日登録番号 第五三二一三六号原告は、昭和四四年七月八日、株式会社平和堂時計店を吸収合併し、本件商標権を承継した。
三 本件商標登録出願の願書中指定商品に関する記載及び願書に添付した書面に表示した商標は、別紙商標公報記載のとおりである。
四 被告は、時計、貴金属等の輸入及び販売を業とする会社であるが、昭和四九年三月ころ、別紙目録記載の標章(以下、「被告標章」という。)を附した腕時計(以下「被告腕時計」という。)六〇〇〇個を香港から輸入し、これをわが国内において単価金六二五〇円で販売した。
五 本件商標と被告標章とを対比すると、両者は、いずれもTECHNOSなる文字を横書きしてなるものであつて、観念及び称呼において全く同一であり、外観においても字体が若干異なるのみであるから、被告標章は本件商標と同一であるか、
少なくとも極めて類似している。
しかして、腕時計が本件商標に係る指定商品に該当することは、いうまでもない。
六 かくして、前記四項記載の被告の行為は、原告の本件商標権を侵害するものということができるから、原告は、被告に対して、本件商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求しうる。また、被告は、前記四項記載の行為に対して通常支払うべき使用料を原告に支払わず、原告の損失において、右使用料の額に相当する額の利益を法律上の原因なくして得たものというべきものであるから、原告は、被告に対して、これと同額の不当利得返還請求権を有する。
しかるところ、本件のようなブランド名によつて販売される商品については、商標の使用料率は、通常販売価格の一〇パーセントとみるのが相当である。
そうすると、前記四項記載の被告の行為によつて、原告が蒙つた損害額及び原告の損失において被告が得た利益の額は、いずれも前記販売単価金六二五〇円の一〇パーセントに相当する金六二五円に、販売個数六〇〇〇を乗じて得られる金三七五万円となる。
七 よつて、原告は、被告に対して、本位的に右損害金三七五万円、予備的に同額の不当利得金、及びこれらに対する履行期の後である昭和五二年二月六日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
請求の原因に対する認否
一 請求の原因一の事実は知らない。
二 同二及び三の事実は、いずれも認める。
三 同四のうち、被告が、時計、貴金属等の輸入及び販売を業とする会社であり、
被告標章を附した腕時計を香港から輸入して、これをわが国内で販売したことは認めるが、その余の事実は否認する。
すなわち、被告は、昭和四八年一〇月初めころ、被告腕時計四五〇〇個を金四万〇三六九・五〇米ドル(単価金八・九七一米ドル)で輸入し、右時計一個につき金四五〇円のバンドを附して、同年一一月下旬ころ株式会社大阪扇屋商店に対し単価金五〇〇〇円で一括売却したものである。
四 同五ないし七の事実及び主張は、すべて争う。
抗弁
一 かりに、被告標章が本件商標と同一ないし類似するものであるとしても、被告腕時計の輸入行為は、次に主張するごとく、いわゆる真正商品の並行輸入に該当するから、被告腕時計をわが国内で販売しても、原告の本件商標権を侵害しないものというべきである。すなわち、
(一) テクノス・ウオツチ・カンパニー(以下、「テクノス社」という。)は、
スイス国において、被告標章につき商標権を有する者であり、韓隆物産株式会社(以下、「韓隆物産」という。)は、韓国におけるテクノス社の総代理店であるとともに、被告標章の韓国における商標権者である。
(二) 被告腕時計は、スイス国において、テクノス社がその機械本体を製造し、
韓国において、韓隆物産が右機械本体に文字盤、針、リユーズその他の部品を取り付けて完成し、その文字盤に被告標章を適法に附したうえ、香港に輸出したものであつて、いわゆる真正商品にあたる。
(三) 本件商標権者たる原告の許諾のもとに本件商標を使用する平和堂貿易株式会社もまた、テクノス社から腕時計のムーブメントを輸入し、これを組み立て加工して完成したものに、本件商標を使用しているのであり、しかも、本件商標はわが国において一般テクノス社の製品であることを示す表示として認識されているのであるから、被告標章が表示し又は保証する出所又は品質と、本件商標が表示し又は保証する出所又は品質とは同一であると評価することができ、したがつて、被告による被告標章の使用は、商標保護の本質に照らして、実質的な違法性を欠くものである。
二 かりに、前項の主張が理由なしとするも、被告は、原告の本件商標権侵害につき、過失がなかつたものということができる。
すなわち、被告は、被告腕時計を香港から輸入するにあたり、売主の許に赴いて、右売主から、商標権の侵害にはならない旨の説明を受け、そのうえで輸入に踏みきつたのであるが、被告腕時計は、当時すでに、文字盤には被告標章が、
機械本体にはテクノス社の社名が記入されており、そのうえ被告標章が附された袋に入れてあつたのであるから、売主の前記説明をそのまま信じたのは当然であり、
さらに、日本の税関においても輸入差止等の問題もなく、輸入することができたのであるから、被告には、被告腕時計の輸入販売行為が他人の商標権を侵害するか否かにつき、それ以上の注意義務はなかつたものというべきである。
三 原告は、被告が被告腕時計をわが国内において販売した事実を、昭和四八年一一月下旬ころ知り、原告の本訴提起の時(昭和五二年一月三一日)は、すでにその時から三年を経過しているから、原告の本訴損害賠償請求権は、時効によつて消滅したものというべきである。そこで、被告は昭和五二年四月六日の本件口頭弁論期日において右時効を援用した。
抗弁に対する認否
一 被告腕時計の輸入行為がいわゆる真正商品の並行輸入に該当する旨の抗弁一の主張は争う。すなわち、
(一) 抗弁一(一)の事実のうち、テクノス社に関する部分は認めるが、韓隆物産に関する部分は知らない。
(二) 同(二)の事実は否認する。被告腕時計の機械本体は、テクノス社の子会社であるPANTOS・A・により、韓国向けに製造されたものであつて、しかもテクノス社は、その文字盤に被告標章を附することを承認していない。ただ韓国においてのみ、ロイヤルマスターの標章のもとに販売されるべきものとして、スイスから輸出されたものである。したがつて、被告腕時計は、そもそもこの点において真正商品とはいえないものである。
(三) 同(三)の事実も否認する。平和堂貿易株式会社が本件商標を附して販売する腕時計は、そのムーブメントだけはテクノス社から輸入するものの、文字盤、
ケース、バンド等はわが国で製造したものを右会社において組み立てたものであり、他方、被告腕時計がいわゆる真正商品とはいえないこと、前主張のとおりである以上、被告標章が表示し又は保証する出所又は品質と、本件商標が表示し又は保証する出所又は品質とが同一であるといえないことは、多言を用いるまでもなく明らかである。
(四) さらに、株式会社平和堂時計店は、テクノス社とは無関係に、本件商標登録の出願をし、原告もまたテクノス社とは無関係に株式会社平和堂時計店を吸収合併して商標権者となつたものであつて、テクノス社は、本件商標につき、わが国においてなんらの権利も有していない。
二 無過失の抗弁事実は否認する。のみならず、かりに被告主張事実がすべて認められるとしても、該事実のみをもつてしては、被告に課された注意義務をすべて課したものということはできない。
三 抗弁三の事実は否認する。被告腕時計が販売された事実を、原告が知つたのは、昭和四九年三月ころである。したがつて、本件訴は右時点から三年以内に提起されており、本訴損害賠償請求権は、時効により消滅していない。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一の事実は、証人【A】の証言により、これを認めることができ、
同二及び三の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 被告が、時計、貴金属等の輸入及び販売を業とする会社であり、被告標章を附した腕時計を香港から輸入して、これをわが国内で販売したことは、当事者間に争いがなく、被告代表者【B】に対する尋問の結果によれば、被告は、昭和四八年九月末か翌一〇月初めころ、被告腕時計四五〇〇個を単価九米ドル弱で輸入し、右時計一個につき金四五〇円のバンドを附して、同年一二月初めころから二回位に分け、株式会社大阪扇屋商店に対し、単価金五五〇〇円で一括卸売した(但し、不良品五個を除く。)ことが認められ、これに反する証拠はない。しかして、右認定事実によれば、被告から大阪扇屋商店に対する被告腕時計の卸売価格の合計額は、計算上金二四七二万二五〇〇円になる。
三 そこで、当事者間に争いのない本件商標と被告標章とを対比する。
前者は、TECHNOSなるアルフアベツトの大文字七文字を、ローマン体に多少の修正を施しただけの平凡な字体で、単純に横書きしたものであり、そこからは「テクノス」なる称呼を生じ、「技術」「工芸」「工学」等の観念を生じる。
これに対して、後者は、同じくTECHNOSなるアルフアベツトの大文字七文字を、ゴシツク体(メデイアム)で単純に横書きし、その下に、ROYAL MASTERなるアルフアベツトの大文字一一字を、同じ字体ながら、その大きさは縦及び横ともほぼ二分の一の細字で、横書きしてなるものである。しかして、かかる具体的構成に、簡易迅速を旨とする取引社会の実情を併せ考えれば、被告標章の要部はTECHNOSなる部分にあるものというべく、そこからは、前者と同一の称呼及び観念を生じる。
そうすると、両者は、称呼及び観念を共通にし、外観においても類似するものということができるから、他に特段の事情の認められない本件においては、被告標章は、全体として本件商標に類似するものということができる。
ところで、被告腕時計が本件商標に係る指定商品たる「時計並にその各部及び附属品」に該当することは、ここに縷説するまでもなく明らかである。
四 かくして、被告による被告腕時計の輸入販売行為は、後に検討するいわゆる真正商品の並行輸入に関する抗弁が理由なきかぎり、原告の本件商標権を侵害するものということができるから、したがつて、後述の無過失及び時効の各抗弁が理由なきかぎり、原告は、被告に対して、本件商標の使用に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求しうるところ、証人【A】の証言によれば、原告から許諾を受けて本件商標を使用している平和堂貿易株式会社は、これを使用する商品の卸売価格の二パーセントにあたる使用料を原告に支払つていることが認められ、右事実によれば、本件商標の相当使用料率は商品の卸売価格の二パーセントと認めるのが相当であり、前掲証言中腕時計に関する商標の使用料率は通常その卸売価格の一〇パーセントが相当であるとの部分はにわかに措信し難く、ほかに右認定を覆えすに足りる証拠はない。そうすると、
原告が被告に対してその賠償を請求しうる損害の額は、前記被告腕時計の卸売価格の合計額金二四七二万二五〇〇円の二パーセントに相当する金四九万四四五〇円になる。
五 次に、被告主張の各抗弁について、順次検討することにする。
被告は、被告腕時計の輸入行為がいわゆる真正商品の並行輸入に該当する旨主張し、その根拠として、大要、(1)テクノス社がスイス国において被告標章につき商標権を有すること、(2)被告腕時計がいわゆる真正商品であること及び(3)原告から本件商標の使用を許諾されている平和堂貿易株式会社も、テクノス社から輸入したムーブメントを組立て加工して完成しこれに本件商標を使用しているのであつて、被告標章が表示、保証する出所、品質と本件商標が表示、保証する出所、
品質とは同一であると評価することができる、という三つの要件事実を主張する。
しかしながら、これら三要件が、いわゆる真正商品の並行輸入に該当するために、必要な条件であることはいうまでもないが、これのみをもつて十分な条件ということはできず、さらに、本件商標権者である原告が、スイス国における被告標章の商標権者であるテクノス社と同一人であるか、又はこれと同視しうるような特殊な関係にあることを要すること、しかして、ここに同一人と同視しうるような特殊な関係とは、本件に即して考えれば、原告が、テクノス社の製造販売に係る腕時計について使用するために、同社の承諾を得て本件商標権を取得したか、あるいは同社から本件商標権を譲り受けた場合等をいうものと解するのが相当である。このことは、原告がテクノス社と全く無関係に、例えば、テクノス社がスイス国において被告標章につき商標権を取得する前、あるいは被告標章が同国において周知性を獲得する前に、原告が本件商標権を取得した場合には、原告は、テクノス社がスイス国において適法に被告標章を附した腕時計についても、わが国内において他人がする譲渡、引渡、展示及び輸入行為等を差し止める権利を有するのであつて、その後に至つて、原告がテクノス社と取引関係に入り、同社の製造販売に係る腕時計に本件商標を使用するようになつたからといつて、その一事をもつて、前記差止請求権を喪失すべき理由がないことに徴し、明らかであるといわなければならない。
そうとすれば、この点につきなんらの主張立証なき本件においては、前に掲げた被告主張の各事実についてその真偽を吟味するまでもなく、右抗弁はこれを採用することができない。
六 無過失の抗弁もまた理由なきものといわなければならない。すなわち、被告代表者【B】に対する尋問の結果によれば、同人は、被告腕時計を輸入する際すでに、原告がTECHNOSなる文字商標につき権利を有することを承知していたことが認められる以上、同人が、香港において売主から「原告の商標権を侵害することにはならない」旨の説明を受け、また、当時すでに被告腕時計の文字盤及び包装袋に被告標章が附されていた等の事情があつて、その言を信じた(この点は被告代表者【B】に対する尋問の結果によつて認めうる。)からといつて、注意義務を果したことにならないことは、いうまでもない。また、被告腕時計がわが国の税関において輸入差止等の措置を受けなかつたという被告主張の事情も、右判断を左右するに足りない。
七 最後に、本訴損害賠償請求権の時効消滅の抗弁であるが、本件訴が昭和五二年一月三一日に提起されたことは記録上明らかであるところ、それから三年前にあたる昭和四九年一月三一日前に、原告が被告による被告腕時計の輸入及び販売の事実を知つたことを認めるべき資料は全くなく、かえつて、原本の存在及び成立につき争いのない甲第三号証及び証人【A】の証言によれば、原告が右の事実を知つたのは、昭和四九年五月ころであることが認められるから、その余の点につき判断するまでもなく採用できない。
八 かくして、原告の本訴請求は、前記損害金四九万四四五〇円及びこれに対する前記侵害行為の後であつて原告が主張する昭和五二年二月六日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条第92条本文、仮執行の宣言につき同法第196条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 秋吉稔弘
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