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関連審決 審判1969-3850
関連ワード 識別力 /  包装 /  識別機能 /  指定商品 /  慣用商標(3条1項2号) /  ありふれた標章 /  類似性(類否判断) /  不使用 /  権利濫用(権利の濫用) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  出所の混同 /  商標の効力 /  差止 /  無効審判 /  同一の商品 /  類似商標 /  非類似 /  同業者 / 
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事件 昭和 47年 (ネ) 376号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1976/01/29
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件各控訴を棄却する。
昭和四七年(ネ)第三七六号事件の控訴費用は同事件の控訴人の負担とし、昭和四七年(ネ)第四〇四号事件の控訴費用は同事件の控訴人の負担とする。
昭和四七年(ネ)第四〇四号事件の控訴人につきこの判決に対する上告のための附加期間を九〇日とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
第一審原告訴訟代理人は、昭和四七年(ネ)第三七六号事件について控訴棄却の判決を求め、同年(ネ)第四〇四号事件について「原判決は第一審原告勝訴の部分を除き取消す。第一審被告は、商品シヤツおよびその包装、定価札に別紙目録(一)記載の標章を付して、譲渡し、引渡し、譲渡もしくは引渡しのために展示してはならない。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。」との判決を求めた。
第一審被告訴訟代理人は、昭和四七年(ネ)第三七六号事件について「原判決のうち第一審被告敗訴の部分を取消す。第一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審をつうじて第一審原告の負担とする。」との判決を求め、同年(ネ)第四〇四号事件について控訴棄却の判決を求めた。
当事者の主張、立証
当事者双方の主張および立証は、以下のとおり附加するほかは原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。
一 第一審原告の主張(一) 第一審原告の本件登録第六五〇二四八号商標(目録(三))についてみると、それは細長い各八枚の葉のついた一対の樹枝を左右に交又させ大きく輪を描くようにして先端を丸めて描いてなる図形であるから、月桂樹の観念称呼を生ずるものである。そして、第一審被告の商標(目録(一)、(二))も共に月桂樹の観念称呼を生ずる。何故なら月桂樹が図形として描かれた場合、二本の樹枝を輪を描くようにして先端を丸めて表現するのが社会通念に照らして明らかであり、目録(一)、(二)、(三)記載の商標はいずれもこのように描かれている上に、第一審被告自身もその商標が月桂樹であることを認めているところから明らかである。
してみると、これら商標はいずれも月桂樹の観念称呼を有する類似商標ということができる。
この場合、第一審原告の商標と第一審被告の商標とか図形中葉の枚数、形状および小枝の表示方法等において多少の相違があつても、月桂樹の称呼観念を共通にする場合は、常に商品の出所の混同誤認のおそれが存し類似商標たるを免れないものというべきである。何故なら、称呼観念を共通にする商標間で商標が類似するとされる理由は、取引者、需要者がある商標について耳にした称呼と、外観称呼より念頭に浮ぶ商標の意味が他の商標のもつ称呼、意味と同一であることによつて他の商標を思い浮べ、そのため両商標の附された商品の出所の誤認混同を来すからにほかならない。
(二) 第一審被告の慣用商標の主張について 慣用商標とは、ある商標が同種類の商品に関して同業者間で普通に使用されるに至つた結果、自他商品の識別力を失つてしまつたものをいうが、別紙目録(一)、
(二)の商標についてみてもそのような事実は全くない。月桂樹図形と他の文字または図形とを結合させてなる商標が多数登録されているからといつて、一定の商標が慣用標章化したと断ずることはできない。図形の表現方法の如何によつてその商品の出所標識としての機能は常に変化するのであるから、月桂樹の図形の如く多種多様の構成が可能である図形商標全部にわたつてそれらがすべて慣用商標になるということは到底考えられない。
(三) 第一審被告は、別紙目録(三)の商標のように無効原因を有する商標の効力については、無効審判の確定前であつても公報に公告された図形どおりに最も狭く限定して解釈すべきであると主張する。しかし、この主張は以下の理由によつて排斥を免れない。
周知のとおり、実用新案の技術的範囲は、明細書の登録請求の範囲の記載に基いて定める(実用新案法第26条で準用する特許法第70条参照)ものであるが、そこでは常に考案の同一性のみが問題である。ただ登録実用新案の権利範囲の解釈に当り侵害者の製品の対応構成要件との間に完全な同一性はなくともたとえば均等と評価される範囲においては、なお権利侵害を構成すると評価されるにすぎない。
これに反し、商標法には実用新案法には存しない規定が存在する。商標法第37条は登録商標および指定商品のそれぞれ類似の範囲にわたつてもなお侵害を構成するとみなしており、この商標権は登録商標についていうものであるから、類似の範囲が問題にならない実用新案に関する見解をそのまま商標に当てはめることができないのは規定上からも明らかである。
さらに、この規定を実質的に裏付ける理由として、たとえば本件のような図形商標は、外観の外に、称呼観念により商品の出所の認識がなされるため、多少商標構成に変化があつてもそれにおいて称呼観念を共通にするかぎり商品の出所の混同のおそれがあるので、考案の同一性のみを問題とする実用新案と本質を異にし、
実用新案に関する権利制限的解釈はそのまま商標には適用できないこと当然である。
また、別紙目録(三)の商標について、それが無効であるとの前提は、現状において何等根拠がないものであるから、第一審被告の主張は既にその前提において誤りである。
(四) 第一審被告の権利濫用の主張の根拠は、登録が一見極めて特異な図形の如く装つて商標登録をうけ、これを拡大解釈して権利が及ぶとするものであると云うのであるから、実質は商標の類似性の単なる否認にすぎない。また、商標の使用の態様が登録商標と正確に一致しない場合は、不使用その他の問題は生じても、商標権に基づく権利主張が権利濫用となり、権利の行使が否定されることにはならない。
のみならず、権利濫用となるためには、権利範囲に属する外形を必要とするが、
第一審被告の主張は外形上権利範囲に属する旨の前提も否定するものであるから、
権利濫用としての主張も理由ないものである。
二 第一審被告の主張(一) 第一審原告は、本件登録第六五〇二四八号商標は月桂樹の観念称呼を生ずるものであると主張する。
しかしながら、この商標の登録にあたつては、この商標は月桂樹の観念を生ずるものとして登録されたものではない。
けだし商標法第3条第1項第5号において「きわめて簡単かつありふれた標章のみからなる商標」については商標登録をうけることが出来ないものとされているところ、この条項についての特許庁における運用基準は、月桂樹の図形はこの条項に該当するものとして扱うこととされているのである。
そして、第一審原告もまたこの点については特許庁昭和四四年審判第三八五〇号事件、および当庁昭和四八年(行ケ)第六一号事件において狭義の月桂樹の観念は生じないと主張しているところである。
したがつて、別紙目録(三)の商標は月桂樹の観念を生ずるものであることを前提とする第一審原告の主張は理由がない。
(二) 二本の樹枝を輪を描くようにして先端を丸めて表現される図形は、一般にローレルマークとして称呼され、他の文字と組合わされて多く使用されているものである。このことは、数多くの登録例より見ても明らかである。したがつて、第一審被告の使用する目録(一)および(二)の標章は一般に慣用されているから、第一審原告の有する商標権の効力は、別紙目録(一)および(二)の標章の使用には及ばない。
(三) 第一審原告の別紙目録(三)の商標は、「月桂樹の小枝二本を左右対称に冠状に形成してなるもの」であるが、この図形は、我国においては極めて簡単で且つありふれたものとして、商標法第3条第1項第5号に該当するものであつて無効原因を有するものである。無効原因のある商標であつても、権利として成立している以上、特許庁の無効審判の確定がないのに裁判所において無効審判が確定したのと全く同様な取扱をなすことは許されないものとされているが、本件商標の如く明白な無効原因の存する商標については、商標の本来的効力、すなわち指定商品について登録商標の使用をなす権利を専有する権利を認めるに止め、類似商標に対する使用差止請求権を認めるべきものではない。
換言すれば、無効原因を有する商標の効力については、無効審判の確定前であつても、公報に公示せられた図形どおりに最も狭く限定すべきである。このことは、
無効原因のある特許権、実用新案権については、一般に、無効審判がなされていなくてもその権利を限定すべきであると解されていることと対比してみても首肯されるべきである。
これを本件についてみれば、無効原因のある第一審原告の別紙目録(三)の商標は、公報記載どおりの図形として使用しうるにとどまり、これを根拠として第一審被告の使用する類似商標差止を請求することは許されないものと解するのが相当である。
(四) かりに、本件商標登録に無効事由がないとしても、目録(一)、(二)の商標は、本件商標とは非類似である。けだし、第一審原告の商標が月桂樹の観念を生ずるとしても、商標法上の観念の類似とは商標自体が客観的に有する意味をいうのではなく、商標を見ることにより、その商標を付した商品の需要者、取引者が思い浮べるその商標の意味をいうものであると解すべきところ、いわゆるローレルマークが広く普及している我国においては、第一審原告の商標の意味は広くローレルマーク一般には到底及ばず、目録(三)の図形に限定された意味しか生じないからである。したがつて、葉の形状、枚数、小枝の表示方法が全く異る目録(一)の図形は勿論のこと、目録(二)の商標といえども葉の形状、環状図形の先端及び組合せ部の形状を異にしているのであつて、到底相互に類似の商標とは云えない。
(五) さらに、別紙目録(三)の商標に関して、第一審原告の実際の使用態様は、一枚一枚の葉の形については細長く、かつ湾曲しているという登録商標どおりの使用をなさず、一般的ないわゆるローレルマークと同様の葉の形状を使用しているのである。このことより見ても、第一審原告は一見極めて特異な図形の如く装つて商標登録をうけ、これを拡大解釈して月桂樹の小枝の組合せであるとして、一般のローレルマークにまで権利が及ぶと主張するものであつて、その請求は権利の濫用というべきである。
三 立証(省略) 理 由一 当裁判所は、原判決と同様に、第一審原告の本訴請求は原判決の認容した限度において理由があるかその余の部分は理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおり附加、訂正するほかは原判決の理由と同一であるので、これを引用する。
二 附加、訂正すべき部分は、次のとおりである。
(一) 原判決理由三枚目裏六行目に「の観念」とある次に「、称呼」と加入する。
(二) 同行の「生ずることは明らかである。」の次に「第一審被告は、別紙目録(三)の商標は商標の登録に当つて月桂樹の観念を生じるものとして登録されたものではないし、第一審原告も別訴においてこの商標が月桂樹の観念を生じるものではない旨主張しているから、この商標は月桂樹の称呼観念を生じるものとはいえない旨主張する。しかし、この商標がどのような観念を生じるものとして登録されたかはうかがい知る由もないところであり、また、登録に際し特許庁のとつたこのような判断によつて商標の称呼観念が決せられるものでないこと勿論である。また、第一審原告がこの商標の観念について、ことさらに別訴においてした主張と異なる主張を本訴においてしたとするならば、信義誠実に訟訴行為をすべき訴訟当事者としては許されまじき行為ではあろうが、その一言によつて、この商標が月桂樹の称呼観念を生じないとすることはできない。」を加入する。
(三) 原判決理由四枚目表六行目に「許されない。」とある次に「第一審原告は、別紙目録(一)、(二)の商標と同(三)の商標とが図形中葉の枚数、形状および小枝の表示方法等において多少の相違があつても、月桂樹の称呼観念を共通にする場合は、類似商標たるを免れない旨主張する。しかし、第一審原告も自認するとおり月桂樹の図形は多種多様の構成が可能なのであるから、同様に月桂樹の称呼観念を生じる図形であつても、その葉の枚数、形状および小枝等の表示方法の如何によつてその商品の出所識別機能に差異を生じるものというべきである。」を加入する。
(四) 原判決理由五枚目裏三行目から末行までを次のとおり訂正、附加する。
「(一)慣用商標の主張について 本件全立証をもつてしても、別紙目録(一)および(二)の標章が、第一審原告の本件商標の指定商品につき、自他商品の識別力を失わせるほど一般に使用されていることは認められない。
よつて、第一審被告の主張は理由がない。
(二) 別紙目録(三)の商標の商標権の効力は同目録(三)に限定された図形の標章に対してのみ及ぶにすぎない旨の主張について 月桂樹の称呼観念を生じる図形商標でも多種多様の構成が可能であり、その葉の枚数、形状および小枝等の表示方法の如何によつては、その商品の出所識別機能に差異を生じることは前記説示のとおりである。してみると、「月桂樹の小枝二本を左右対称に冠状に形成してなる」図形も多種多様な構成のものが可能であるというべきである。そして、別紙目録(三)の図形がきわめて簡単でかつありふれたものであることを認めるに足りる証拠はない。したがつて、別紙目録(三)の商標が極めて簡単でかつありふれた標章のみからなる商標ということはできないから、この商標の商標登録に無効事由があることを前提とする第一審被告の主張は、その余の点について判断するまでもなく採用できない。
また、月桂樹の小枝二本を左右対称に冠状して形成した図形を商標として用いることが被服その他の商品について一般にひろく行われていることは前記認定のとおりであるが、このことからただちに、別紙目録(三)の商標の商標権の効力が同目録(三)の図形に限定された標章に対してのみ及ぶにすぎないということはできない。
(三) 権利濫用の主張について 第一審被告の主張するように、第一審原告が本件登録第六五〇二四八号商標について別紙目録(三)記載のとおりの構成のものを使用していない事実は、これを認めるに足りる証拠はない。のみならず、すでに述べたように、別紙目録(三)の商標の商標権の効力が月桂樹の小枝を組合わせた図形の標章のすべてに及ぶと解するものではないから、第一審原告の本訴請求が権利の濫用であるとする第一審被告の主張は理由がない。」三 以上のとおりであるから、別紙目録(一)の商標は、第一審原告の別紙目録(三)の本件商標と類似でなく、第一審原告の本訴請求のうちその使用の差止めを求める部分は理由がないのでこれを棄却すべく、同(二)の商標は、本件商標と類似し、第一審被告はこれを今後本件商標の指定商品同一の商品であるシヤツおよびその包装、定価札に使用するおそれがあるので、その予防のため譲渡その他この商品について該商標の使用の差止めを求める第一審原告の請求は理由があるのでこれを認容すべきである。よつて、これと同趣旨の原判決は正当であるから、本件各控訴を棄却し、民事訴訟法第95条第89条第158条第2項を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 古関敏正
裁判官 杉本良吉
裁判官 宇野栄一郎