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関連審決 審判1969-9348
関連ワード 識別力 /  識別機能 /  指定商品 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  補正 /  連合商標 /  非類似 / 
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事件 昭和 47年 (行ケ) 140号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1973/12/20
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が昭和四七年八月二五日、同庁昭和四四年審判第九三四八号事件についてした審決を取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和四三年八月一二日特許庁に対し、別紙第一記載の商標(以下「本願商標」という。)について、別紙第二の一から一九まで記載の登録商標および登録出願中の商標の連合商標として、商標登録出願をしたところ、これについて同四四年九月一六日拒絶査定を受けた。そこで、原告は、同年一一月二〇日審判の請求をし、同年審判第九三四八号事件として審理されたが、同年四七年八月二五日「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は同年一一月二〇日原告に送達された。
二 審決理由の要点 本願商標は、円輪廓に内接して正三角形を描き、その中央に「F」様の欧文字(いずれも線の太さは同一)を配してなるものである。
本願商標を構成する図形および文字は、すべて同じ太さの線で描いてなるものであるから、このような商標の場合は、図形相互間ならびに文字様の部分を分離することなく、全体が一体不可分の構成よりなるものと判断される。したがつて、本願商標からは、特定の称呼観念は生じないとみるのが相当である。
これに対し、本願商標と連合すべき商標として、原告が願書に表示したもののうち、登録第三八五三四九号商標(別紙第二の二記載の商標、以下「引用商標」という。)は、「UROKO BRAND」の欧文字を小さく横書きし、その下に円輪廓内に塗りつぶした正三角形を内接させた図形(いずれも朱色で表わされている)を描いてなるものであるから、「UROKO」の文字の部分より、これをローマ字読みにして「ウロコ」、図形部分より「マルウロコ」(丸鱗)、または、円輪廓の部分をありふれた輪廓とみて、単に「ウロコ」(鱗)の称呼観念を生じるものである。
してみれば、本願商標は特定の称呼観念を生じないものであるのに対し、引用商標は「ウロコ」の称呼観念を生じるものであるから、両者は、称呼観念の点において類似の商標ということはできない。
また、その外観の点においても、本願商標が全体を同じ太さの線で表わしてなり、中央に「F」様の欧文字を配してなるのに対し、引用商標は「UROKO BRAND」の欧文字を有すること、図形の鱗の部分を塗りつぶしていること、商標全体を朱色で表わしていることなどを考え合わせれば、この点についても区別できる差異がある。
したがつて、両者は、外観称呼観念のいずれの点においても、十分区別することができる非類似の商標であるから、たとえ、指定商品において類似するところがあるとしても、本願商標は、商標法第7条第3項に該当するものであつて、登録を受けることはできない。
三 審決を取り消すべき事由(一)本件審決が、本願商標と引用商標とは、外観称呼観念のいずれの点においても十分区別することができる非類似の商標であるとしたのは、次の点において判断を誤つたものである。
1 本願商標は、「円輪廓に内接して正三角形を描き、その中央に「F」様の欧文字を配して構成したもの」であるが、本願商標を構成しているこれらの図形及び文字のそれぞれは、いずれも一定の称呼観念をもつて世人に良く知られているものであり、かつ、その組合せも、全体が不可分的に融合して、各構成部分固有の称呼観念がなくなる程強固に渾然一体化しているものではないから、このような図形と文字からなる本願商標からは特定の称呼観念が生じないということはありえない。
しかも、本願商標の全体は、単純な幾何図形と欧文字の組合せから成るもので、
ことに「円輪廓に内接して正三角形を描いた図形」は、古来から「丸に鱗の紋」として知られているとともに相俟つて、本願商標は、図形と文字を含めた全体からは「マルサンカクFエフ(丸三角F)」または、マルウロコFエフ(丸鱗F)」の称呼観念が生じるものである。あるいはまた、本願商標の図形内部に表わされた「F」様の欧文字は、顕著な「円輪廓に内接して正三角形を描いた図形」の一小部分を占めるにすぎないので、本願商標の全体を取引上一見したときは、「円輪廓に内接して正三角形を描いた図形」が目立ち、この図形が看者に容易かつ明確に認識せられるのに対し、内部の「F」様の欧文字はこの図形に比すればやや目立たないものであり、自他商品識別力を有しないか極めて乏しいものである。したがつて、
本願商標は、これを略して「マルサンカク(丸三角)」または、「マルウロコ(丸鱗)」の称呼観念をも生じるものである。
それゆえ、本件審決が本願商標からは特定の称呼観念は生じないとしたのは、
本願商標について称呼観念の認定を誤るものである。そして、引用商標は、その図形部分から「マルウロコ(丸鱗)」または、「マルサンカク(丸三角)」の称呼観念を生じるものであるから、本願商標は、引用商標とその称呼観念において相互に類似する商標というべきである。
2 本願商標は、これを遠望したときは、図形内部の欧文字は目立たず、円輪廓と三角形よりなるものの如く看取せられるのであるから、円輪廓内に三角形をあらわした引用商標および別紙第二の一、第二の三から一四まで、第二の一八および一九記載の商標とは、取引において外観上も相紛れるおそれがあるので、本願商標とこれらの商標とは外観上も類似するものである。
(二)本願商標の審査の手続において審査官によりなされた拒絶理由通知には、本願商標は、別紙第二の二記載の商標外の商標と非類似であるとするものであつて、
この外の商標が具体的にどの商標を指すか不明確であつた。したがつて、被告としては、審判手続においてこれを明確にするため、原告に対し新たな拒絶理由の通知を発し、原告に検討の機会を与えるべきであつたにもかかわらず、これをなすことなく漫然と審査手続においてなした不明確な拒絶理由通知のまま直ちに審決をなしたことは、審判の手続に重大な瑕疵があり、本件審決はこの点においても違法であり、取消を免れない。
(三)審決は、原告が本願商標に連合すべき商標として出願した別紙第二の一から一九まで記載の商標のうち、殊更に引用商標のみを抽出して本願商標と類否を判断した。しかしながら、商標の審査に関しては職権審理主義がとられており、特許庁は連合商標の登録出願について、当該出願商標と出願人の有するその他の登録商標および出願中の各商標の全てを職権により調査し、その類似を判断すべきである。
そして、類似と判断せられた商標については、出願人が連合すべき商標として願書に表示しているか否かにかかわらず、これを連合商標として表示すべき旨の補正命令を発するかまたは、職権で連合すべき商標の加除訂正を行なうべきものである。
本件において特許庁がこの手続をとることなく、原告が願書に本願商標に連合する商標として表示した商標のうち引用商標と本願商標の類否についてのみ判断し、
その他の商標との類否を判断することなく漫然本件審決をなしたとは、商標法の解決を誤り審理不尽の違法をおかすものである。
被告の答弁
一 原告主張の請求原因事実のうち、特許庁における手続の経緯、本願商標の構成、本件審決理由の要点および引用商標の称呼観念が原告主張のとおりであることは認めるが、本件審決を違法とする事由は争う。
二(一)原告主張の(一)について 本願商標は、仔細にみれば図形と文字との組合わせとみられるものであるが、その図形も文字も同じ太さの線をもつて描かれているばかりでなく、各部分が軽重の差なくバランスを保つて構成されているとみえるのであるから、このような複雑な構成の商標に接する需要者が、これらの各部分を再び分解して、円輪廓、三角輪廓および「F」の文字に分け、しかも、これらに原告の主張するような適宜の称呼を付し、全体として長たらしい「マルサンカクエフ」あるいは「マルウロコエフ」と称呼するというのは、簡易迅速を尊ぶ取引の通念に反するものである。したがつて、本件審決が本願商標を全体が一体不可分の図形状のものとみて、特定の称呼
観念を生じないものとしたことは正当である。なお、かりに、本願商標が「マルサンカクエフ」あるいは「マルウロコエフ」と称呼される場合があるとしても、原告主張のように「マルサンカク」あるいは「マルウロコ」とは称呼されない。すなわち、原告は「F」の文字について自他商品識別力が弱いと述べているが、本願商標を分解してその一部分だけを取り出せば、円輪廓も三角輪廓もいずれも自他商品識別力は弱いものというべきであるから、「F」の文字だけを殊更に取り出すのは妥当ではない。
また、本願商標はすべて細線の組合わせによりなる構成であるところ、引用商標は文字と図形の組合わせよりなり、その図形の部分は、「朱色で塗りつぶした三角形を朱色の円輪廓をもつて囲んだもの」であつて、本願商標とは視覚による対比において大いに異なるものである。したがつて、外観上も類似しないとした審決の判断は正当である。
(二)原告主張の(二)について 本願商標の審査の手続において審査官によりなされた拒絶理由通知は、本願商標が引用商標外の商標と非類似であるとするものであつて、引用商標以外の非類似の商標は具体的には明示されていなかつた事実および審判手続において新たな拒絶理由が発せられなかつた事実は認める。
しかしながら、前記拒絶理由をもつてすれば、少くとも本願商標と引用商標とが類似しないという趣旨については原告において充分理解することができる筈である。してみれば、原告としては、審判請求後審決日までの間、引用商標の削除補正等をなすべきであつたにもかかわらず、本願商標と引用商標とは類似である旨を主張するのみであつて、その他の主張または手続をとらなかつた。したがつて、審判において新たな拒絶理由を発しなくても、審査における拒絶理由と同旨の理由をもつてした本件審決には何らの違法はない。
(三)原告主張の(三)について 複数個の登録商標を連合となるべき商標として表示された連合商標登録出願については、その複数個の登録商標と出願にかかる商標との対比において、そのどれもが商標法第7条第1項所定のいずれかの登録要件を充たさないかぎり、同条第三項に該当するものとして、拒絶されるべきものである。
本件において、原告が本件出願にかかる商標と連合するものとして願書に表示したもののうち、引用商標が非類似の商標と認められ、同法第7条第1項所定の登録要件を有していないものである以上、願書に表示された他の商標との類否を問うまでもなく、出願は、同条第三項により商標登録をすることができない場合にあたるとして拒絶を免れないものである。この場合、原告主張のように職権で連合すべき商標の加除訂正等を行なうことは、法の明定しないところであるし、また、特許庁においてもそのような取扱いが確立されているものではない。したがつて、本件審決には原告主張のような違法はない。
証拠(省略)
理 由一 原告主張の請求原因事実のうち、特許庁における手続の経緯、本願商標の構成、本件審決理由の要点および引用商標の称呼観念が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の取消事由(一)の1について検討する。
本件審決は、本願商標からは特定の称呼観念が生じないとするが、この点において本件審決は、事実の認定を誤つたものといわざるをえない。
本願商標の構成は、円輪廓に内接して正三角形を描き、その中央に「F」様の欧文字を配し、以上いずれも同一の太さの線をもつて描かれて構成されたものである。このうち、「F」様の欧文字は、成立に争いのない甲第二号証によれば、アルフアベツトの「F」の字とみることができるが、一般に、この文字は氏名、商品の品質、等級等の略記として普通に使用されているところである。しかも、前記甲第二号証によれば、本願商標のうち「F」様の欧文字は、円輪廓内に内接して正三角形を描いた図形のなかにその一小部分を占めるにすぎない事実が認められる。したがつて、この部分に自他商品を識別する機能があるものと認めることはできず、本願商標はその他の部分すなわち、円輪廓に内接して正三角形を描いた部分に商品の出所識別機能があるものと認めざるをえない。被告は、本願商標を分解してその一部分だけを取り出せば、円輪廓も正三角形もいずれも自他商品識別力が弱いものである旨主張するが、円輪廓に内接して正三角形を描いた図形は、後記のような称呼観念を生じるものであるから、この部分に商品の出所識別機能がないものということはできない。また、被告は、本願商標は各部分を分解して観察すべきものではなく、全体を一体不可分の図形状のものとしてみるべきものである旨主張するが、本願商標について「F」様の欧文字部分を除外して称呼観念を定めるべきでないとする特段の事情があるともいえない。
そこで、本願商標のうち円輪廓に内接して正三角形を描いた部分について観察すると、正三角形の符牒をもつて鱗を表示することは、われわれの社会経験上顕著な事実であるから、本願商標のうち円輪廓に内接して正三角形を描いた部分は、「マルウロコ(丸鱗)」との称呼観念を生ずるということができる。また、内輪廓の部分はごくありふれた輪廓とみることができるから、単に「ウロコ(鱗)」の称呼
観念が生ずるともいえる。そして、本願商標のうち「F」様の欧文字が自他商品識別の機能を果たさない部分であることは前記認定のとおりであるから、簡易迅速を尊ぶ取引の実情においては、この部分を省略し、本願商標は、「マルウロコ(丸鱗)」および「ウロコ(鱗)」の称呼観念を生ずるものと認めるのが相当である。
それゆえ、本願商標からは特定の称呼観念を生じないものとした本件審決の認定は誤りであり、引用商標が「マルウロコ」の称呼観念を生ずるものであることは、被告も認めて争わないところであるから、本願商標は、引用商標とその称呼
観念において類似するものといわなければならない。
三 よつて、これが類似しないことを前提に本願商標と引用商標が類似しないものであるとする本件審決は、原告主張のその余の点について判断するまでもなく違法であるから、その取消しを求める原告の本訴請求を正当として認容し、行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 古関敏正
裁判官 杉本良吉
裁判官 宇野栄一郎