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関連審決 審判1959-618
関連ワード 権利能力 /  国内 /  無効審判 /  マドリッド /  パリ条約 /  外国 / 
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事件 昭和 43年 (行ケ) 62号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1973/06/05
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が昭和四二年一一月一八日、同庁昭和三四年審判第六一八号事件についてした審決を取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告訴訟代理人は「原告の請求は、
棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。
請求の原因
原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和三四年一一月二六日、被告を被請求人として、被告が商標権者である登録第五三九五二四号商標について、登録無効の審判を請求したが、特許庁は、
同庁昭和三四年審判第六一八号事件として審理のうえ、昭和四二年一一月一八日、
「本件の審判請求はこれを却下する。」旨の審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、昭和四三年一月一〇日原告に送達された(出訴期間は昭和四三年五月九日まで延長)。
二 本件審決の理由の要点 審判請求人である原告は、日本国内に営業所を有しないドイツ民主共和国の外国法人であるが、ドイツ民主共和国は一九五六年三月二六日パリー条約の再適用を宣言し、さらに一九六四年七月一〇日パリー同盟条約(リスボン改正)及び原産地虚偽表示の防止に関するマドリッド協定等への加入宣言をし、一九六四年一二月一五日スイス国政府によって同条約加盟各国に対しその旨の通知がなされた。しかるに、これに対し、日本国政府は昭和四〇年一月一六日上記ドイツ民主共和国のパリ条約への加入宣言に基づく一般的効力の発生を留保し、わが国に対し、その効力を生じない旨の反対宣言をしていることが明らかとなった。してみれば、単に同国がパリー条約に対する加入宣言をしたというだけでは、請求人がわが国における本件審判請求をなすについて権利能力を有するものと認めることができない。
また、相互主義の適用については、上記のような経緯に徴すると、わが国は、ドイツ民主共和国を旧特許法第32条(旧商標法第24条によつて準用せられている)にいう、その者の属する国に該当しないものとし、
同国との関係においては日本国内に住所又は営業所を有しない外国人の権利享有能力に関する相互主義の適用を認めるに至つていないものと解するを正当とし、その他条約又はこれに準ずべきものに特段の協定もないから、本件に相互主義の適用を認めることもできない。よつて、商標法施行法第7条第8項を適用して、請求人の本件審判請求を却下することとする。
三 本件審決を取り消すべき事由本件審決は、次の諸点において法律の解釈適用を誤つた違法があるから取り消さるべきものである。
1 本件審決は、実体的権利能力と手続的当事者能力とを混同して、原告の本件無効審判請求を却下したものである。すなわち、民事訴訟法における当事者能力を有する者と民法における一般的権利能力を有する者とが必ずしも一致しないように、
旧商標法(大正一〇年四月三〇日法律第九九号)においても、商標権又は商標に関する権利という実体的権利の主体となることのできる地位又は資格である権利能力無効審判という手続上の諸効果の帰属主体となりうる能力(審判当事者能力)とは別個の概念であつて、その適用の面を異にするのである。そして旧商標法第24条により準用せられている旧特許法第32条は実体的権利についてのみ規定するものであるにもかかわらず、本件審決が無効審判当事者能力の有無に関し同条を適用したことは誤りである。
無効審判は一の行政争訟であつて、無効審判に関し、明文の規定のない場合には、行政争訟としての性質から解釈決定されるべきであり、したがつて、無効審判における、当事者能力については、行政争訟法たる行政事件訴訟法、行政不服審査法の規定を類推して、民事訴訟法の当事者能力の規定によるとするのが妥当である。
したがつて、ドイツ民主共和国法人たる原告は、民法第2条及び第36条にもとづき、民法上一般的権利能力を有しており、この一般的権利能力にもとづいて、民事訴訟法第45条により民事訴訟法上の当事者能力を有すると同時に、旧特許法上無効審判当事者能力を有するものである。本件審決は、この点の解釈を誤り、原告の無効審判当事者能力を否定した違法がある。
2 本件審決は、わが国は、ドイツ民主共和国を旧特許法第32条にいう、その者の属する国に該当しないものとし、同国との関係においては相互主義の適用を認めるべきではないとしているが、これは旧特許法第32条中の相互主義に関する規定の解釈を誤るものである。すなわち、原告は、日本に住所も営業所も有しない外国人(ドイツ民主共和国法人)であつて、原告の属する国たるドイツ民主共和国は国としての実質を有し、日本国民に対し、同国国民と同一の条件により特許権及び特許に関する権利を法律上保護しており、まさに旧特許法第32条に規定する相互主義が認められる場合の要件を充たしている。旧特許法第32条で規定する相互主義の主旨は、日本国民の工業所有権に関する権利を実効性ある諸法律制度により保護してくれるような国の国民には、当然に日本においても日本国民と同様に保護するということにあるのであつて、日本で保護を求める者の属する本国を日本国政府が国として承認しているかどうかは問わないと解すべきである。したがつて、旧特許法第32条の相互主義の規定は、ドイツ民主共和国法人たる原告についても適用があり、原告は旧特許法上の権利能力者として、本件無効審判を請求する資格を有するといわなければならない。現に、特許庁は昭和四四年二月以降、ドイツ民主共和国国民の特許商標等の出願を受理し、それぞれ所定の審査手続を進めているのである。
3 本件審決は、ドイツ民主共和国が一九五六年三月二六日パリ条約の再適用を宣言し、さらに一九六四年七月一〇日にパリ条約(リスボン改正)等への加入宣言をしたこと、及び一九六四年一二月一五日スイス国政府がその旨を同条約加盟各国に通知したことを認めながら、日本国政府が昭和四〇年一月一六日上記ドイツ民主共和国のパリ条約への加入宣言にもとづく一般的効力の発生を留保し、わが国に対し、その効力を生じない旨の反対宣言をしていることが明らかだから、単に右加入宣言があつたというだけでは原告が本件審判請求をなすについて権利能力を有するものと認めることはできないとするが、これはパリ条約の解釈としてドイツ民主共和国の同条約への加入の効力を留保できないにもかかわらず、これを留保することができるものとして原告の本件審判請求能力を否定した違法なものである。すなわち、パリ条約第16条においては、同条約は、いかなる国でも加入できる開放条約であることを明らかにし、これに加入しようとする国は同盟国の同意又は承認をなんら必要とせず、外交上の経路を通じてスイス国政府へ加入通告し、かつその加入通告がスイス国政府から同盟各国へ通告されれば、一定期間経過後当然に同条約への加入の効力を生ずる旨を規定している。これを本件についてみれば、本件審決も認めているとおり、ドイツ民主共和国は外交上の経路をとおしてパリ条約への加入をスイス国政府へ通告し、同政府は、その旨を同盟各国へ通告しているのであるから、ドイツ民主共和国のパリ条約への加入はこれにより当然に法的効力を生じているのである。もつとも、日本国政府は、ドイツ民主共和国を承認していないかもしれないが、パリ条約第16条第1項に規定される「この条約の当事者でない国」とは日本国政府が承認した国に限られるものではなく、国家としての実質を有し、国際社会において、国家として活動し、本条約を遵守、履行する能力がある国は全て含まれるのである。
そしてドイツ民主共和国は、実質的にも国家であるから、日本国政府による承認の有無にかかわらず、パリ条約に適式に加入しているものというべきである。したがつて、ドイツ民主共和国国民は、わが国において工業所有権の保護に関し内国民と同一の保護を受けるべきものであつて、原告が本件無効審判を請求するについてもその資格を有するものといわなければならない。
被告の答弁
被告訴訟代理人とは、答弁として、次のとおり述べた。
原告主張の請求原因事実中、特許庁における手続の経緯及び本件審決理由の要点が、原告主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。本件審決の判断は正当であり、原告主張のような違法の点はない。
(1) 民法における一般的権利能力と民事訴訟法における当事者能力とは必ずしも一致しないことは原告主張のとおりであるが、旧商標法第24条により準用せられる旧特許法第32条には「外国人ニシテ国内ニ住所ヲモ営業所ヲモ有セサルモノハ・・・・・特許権又ハ特許ニ関スル権利ヲ享有スルコトヲ得ス」と規定し、本来わが国内に住所、営業所を有しない者は商標権又は商標に関する権利を享有する能力を有しない旨を明らかにしており、しかもここにいう権利には、商標権に関する審判請求をなすについての権利を包含することはいうまでもない。したがつて、原告が本件無効審判請求をするについて当事者能力を有しないとした本件審決は正当である。
(2) 原告は、旧商標法第24条により準用せられる旧特許法第32条における「其ノ者ノ属スル国」を日本国政府が承認した国に限定すべきではない旨主張するが、相互主義を適用するか否かは国際間における工業所有権の保護に関する問題であるから、右法条にいう「国」とは原則的には他の国家による承認を得て国際法上主体性を有している「国家」であるべきである。そしてさらに未承認国家であつてもそれが国としての実質を有していると認められるものをも含むという解釈を採りうる場合があるとしても、未承認国に対し同条に規定する相互主義の適用を認めるについては、徒らに当事者個人が具体的事案に関連して恣意的に判断することが許されるべきものではなく、あくまでも、当該国政府において、未承認国が工業所有権を有効に保護しうる実体を有する存在であるか否かを広く国際的視野に立つて高度の政治経済的見地から判断したうえ、その国に相互主義の取扱いをする旨の方針を決定しこれを宣明することを要するものと解すべきである。本件においては、本件審決当時、日本国政府はドイツ民主共和国について右相互主義の適用を否定していることが明らかであるから、同国につきこれを適用すべきものではなく、したがつてこれと同趣旨の本件審決は正当である。
もつとも、わが国特許庁が昭和四四年二月以降、ドイツ共和国国民の特許商標等の出願を受理し審査を行つていることは原告主張のとおりであるが、それ以前にかかる本件審決当時にはかかる取扱いはなされておらず、またそれ以後も審判の請求に関してはかような取扱いは認められていないものと解すべきである。
(3) パリ同盟条約は加盟条約は加盟国間における工業所有権の保護に関する国際法規であるが、国家としての国際法主体性は他の国家による承認を前提とし、承認以前の国家は単なる事実上の存在にすぎず国際法的には国家として存在しない。
わが国としては、ドイツに関しては西ドイツ(ドイツ連邦共和国)のみを唯一の国家として承認し、東ドイツ(ドイツ民主共和国)に対しては今日にいたるまで一貫してこれを国家として承認しておらず、したがつて、パリ条約第16条に規定する「国」として認めず、ひいては同国が同条に規定する条約上の加入手続を採つたとしても、これを「同盟国」としては認めていないのである。パリ条約はいかなる国でも加入できる開放条約であることは原則としては正当であるが、パリ条約に加入を希望する者に対して、これを国家として承認し、同盟国として認めるか否かは、
すでに同条約に加盟している同盟国の自主的判断に委ねられているのであつて、パリ条約第16条に定める手続が履行されることによつて、未承認国が当然に加盟国の資格を取得するものではない。
証拠関係(省略)
理 由(当事者間に争いのない事実)一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本件審決理由の要点が、いずれも、
原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)二 原告が肩書地を本店所在地とし、日本国内に営業所を有しない外国法人であることは、本件弁論の全趣旨に徴し、明らかである。
ところで、旧商標法(大正一〇年法律第九九号)第24条によつて準用せられる旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第32条は、「外国人ニシテ国内ニ住所ヲモ営業所ヲモ有セサルモノハ・・・・・其ノ者ノ属スル国ガ日本国民ニ対シ其ノ国民ト同一ノ条件ニ依リ特許権及特許ニ関スル権利ノ享有ヲ認メ又ハ其ノ者ノ属スル国ニ於テ日本国カ其ノ国民ニ対シ特許権及特許ニ関スル権利ノ享有ヲ認ムルトキハ日本国民ニ対シ其ノ国民ト同一ノ条件ニ依リ特許権及特許ニ関スル権利ノ享有ヲ認ムルコトト為ス場合ヲ除クノ外特許権又ハ特許ニ関スル権利ヲ享有スルコトヲ得ス」と規定し、いわゆる相互主義を認めている。その立法趣旨は、特許権及び特許に関する権利の享有に関し、日本国民に対し、自国民と同一の法律上の地位を与える国の国民に対しては、国際互譲の見地から、わが国においても、日本国民と同一の法律上の地位を与えようとするものであるが、同条にいわゆる「国」が、わが国によつて外交上承認された国家だけを指称するものと解するのは相当ではない。けだし、ある国を外交上国家として承認するか否かは外交政策上の問題たるに止まり、
その国が国家としての実質的要件、すなわち一定の領土及び人民のうえに、これを支配する永続的かつ自立的な政治組織を具有している場合であつて、わが国民に対しても特許権及び特許に関する権利の享有を保障するに足る法秩序が形成されている場合には、その国の国民に対しても特許権及び特許に関する権利の享有を認めることが、相互主義を定めた同条の趣旨にそうゆえんであり、また、いわゆるパリー条約の定める平等主義の建前からみても相当だからである。この点に関し、被告は、未承認国に対し右相互主義の適用が認められるにはわが国政府によるその旨の決定、宣明が必要であると主張するが、わが実定法規はかような手続要件につきなんらの規定を設けていないばかりでなく、これを必要とすると解釈すべき根拠も見出すことはできないから、たとい未承認国であつても法所定の各要件を充足していると認められる限り、当然にこれにつき相互主義の適用があるものというべきである。
そしてドイツ民主共和国(東ドイツ)が、第二次世界大戦の結果、旧ドイツ国に対する占領政策の遂行上これが二分されて、
ドイツ連邦共和国(西ドイツ)とともに成立したもので、両者とも前記のような国家としての実質的要件を具備し、国家として実際上の活動を続けているものであり、かつ、その間に正統政府を呼称しての対立抗争があるわけのものでもないことは、当裁判所に顕著な事実であり、かつ、成立に争いのない甲第四ないし第九号証によれば、ドイツ民主共和国も、略々わが国の商標法と類似の規定を有し、わが国民に対しドイツ民主共和国の国民と同一の条件により、商標権及び商標に関する権利の享有を認めている事実を認めることができる。したがつて、ドイツ民主共和国は、わが国において外交上承認された国家でないことは顕著な事実であるが、旧商標法第24条によつて準用せられる旧特許法第32条にいう「国」に該当するものと解するのが相当であり、相互主義の適用を認めて、同国法人である原告に対し特許権及び特許に関する権利(商標権及び商標に関する権利)の享有を認めるべきものといわなければならない。そして商標に関する審判の請求権が右の商標に関する権利に包含されることは多く言うをまたずして明らかなところである。
しかるに、この点の判断を誤り、原告に対して相互主義の適用を認めず、本件商標登録無効審判の請求をするについて当事者能力を有しないものとしてこれを却下した本件審決は、その余の点についてさらに判断するまでもなく、違法として取消を免れない。
(むすび)三 叙上のとおりであるから、前記の点に判断を誤つた違法があるとして、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつてこれを認容することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法第7条及び民事訴訟法第89条を適用し、主文のとおり判決する。
裁判官 青木義人
裁判官 石澤健
裁判官 布井要太郎
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