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関連ワード 独占的使用 /  指定商品 /  普通に用いられる方法 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  国内 /  登録異議申立 /  外国 / 
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事件 昭和 45年 (行ケ) 61号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1971/12/24
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が昭和四五年四月二二日同庁昭和四一年審判第八、四三三号事件についてした審決を取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告主文同旨の判決二 被告原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
旨の判決
原告の請求の原因
一 原告は、昭和三八年三月一六日特許庁に対し、別紙のとおり角ゴシツク体の片仮名文字「ハイチーム」を左横書きしてなる商標(以下「本願商標」という。)につき、第一類化学品、薬剤および医療補助品を指定商品として、商標登録出願をしたところ、昭和四一年一〇月一一日拒絶査定があつたので、同年一一月二四日審判の請求をし、同年審判第八、四三三号事件として審理され、昭和四三年九月二六日出願公告されたが、【A】他一名から登録異議の申立てがされた結果、昭和四五年四月二二日本件審判の請求は成り立たないとの審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は、同年五月二七日原告に送達された。
二 本件審決の理由の要点 本願商標の構成および指定商品は前項記載のとおりであるが、これを構成する後半部の「チーム」の片仮名文字は、「酵素」を意味する語「ZYME」の一般に行なわれている称呼の片仮名文字であることは(審判の)甲第一号証ないし第四号証に徴し明らかである。この点につき請求人(原告)は、英語でも独語でも酵素について「チーム」という発音はいつさいないと述べているが、もともと、酵素を意味する「ZYME」の文字は、「ザイム」とも発音されるが、また、「チーム」と発音され得るものであり、さらに右文字が接尾語として使用されるときは、酵素の命名のために他の文字を冠して結合して使用される語であり、その場合、「○○○ZYME」の語の接尾語の「ZYME」は、通例「チーム」と発音されるものであることは、ウエブスター(第二版)二、九八七ページの記載内容に照らしても明らかである。また、現に薬剤の分野において、キモチーム(消炎酵素剤)、コンビチーム(綜合消化酵素剤)、ノイチーム(粘膜疾患治療酵素剤)、ベリチーム(綜合消化酵素剤)等の事例のごとく、「チーム」の文字は「酵素製剤」であることを示す接尾語として慣用的に使用されているものであることは、(審判の)甲第五、六号証と当審において調査した日本新薬株式会社昭和四四年四月一日発行の新薬常用集の記載事項に徴しても明らかである。したがつて、「酵素製剤」の商品について、
すべての名称の接尾語に「チーム」の文字を使用しているとはいえないとしても、
「○○○チーム」という表示における「チーム」の文字は、酵素または酵素製剤を示すものであるというのが、この種商品の取引の実際に照らし相当である。してみれば、この「チーム」の文字に、「高級な」等の意味を有し商品の誇示誇称として普通に使用されている「ハイ」の語を冠したにすぎない本願商標をその指定商品に使用しても、取引者、需要者をして、かかる商品を「高級な酵素または高級な酵素製剤」であると認識せしめるにすぎず、何人の業務にかかる商品であるかを認識せしめうるものではないから、この点において、本願商標は商標法第3条第1項第3号に該当するものであり、さらに、本願商標をその指定商品中「酵素」ないし「酵素製剤」以外について使用したときは、取引者、需要者は、その商品を酵素ないし酵素製剤であるかのように誤認するおそれがあるので、この点において、本願商標は商品の品質の誤認を生ずるおそれのある商標として、商標法第4条第1項第16号の規定に該当するものであるから、その登録を拒絶すべきものである。
三 しかしながら、本件審決は次のとおり違法のものであるから取り消されるべきである。
(一) 審決の手続は、商標法第56条、特許法第153条第2項に違反する。
本件審決は、
(イ) ウエブスター第二版二、九八七ページの記載を引用し、「ZYME」は接尾語として使用されるときは、酵素の命名のために他の文字を冠して結合して使用される語であり、その場合「○○○ZYME」の「ZYME」は、通例「チーム」と発音されること、
(ロ) 日本新薬株式会社昭和四四年四月一日発行の新薬常用集の記載にもとづき、薬剤の分野において、「キモチーム」等の商標の「チーム」の文字は、酵素製剤であることを示す接尾語として慣用的に使用されていること、
(ハ) (審判の)乙第二号証に示す「エポロチーム」の商標が蛋白分解酵素に使用されていること、
を、それぞれ認定したが、これらの認定事実は、審判において、当事者である原告はもとより登録異議申立人すら申し立てないで職権で審理された事項であるから、
商標法第56条で準用する特許法第153条第2項の規定に従い、審判長は、職権審理の結果を当事者である原告に通知し、相当の期間を指定して意見を申し立てる機会を与えなければならないのに、本件審判において、このような手続は履践されなかつた。したがつて、本件審決は、この点で手続に違法がある。
(二) 審決の手続は、商標法第56条、特許法第150条第5項に違反する。
本件審決は、前項(イ)(ロ)記載のとおり、ウエブスター第二版二、九八七ページおよび新薬常用集の記載にもとづき、それぞれ事実の認定をしたが、これらの資料は、審査、審判の過程において原告はもとより登録異議申立人からも証拠の申出をされず、審判官が職権で証拠調べをしたものであるから、商標法第56条で準用する特許法第150条第5項の規定に従い、審判長は、職権証拠調べの結果を当事者である原告に通知し、相当の期間を指定して意見を申し立てる機会を与えなければならないのに、本件審判において、このような手続は履践されなかつた。したがつて、本件審決は、この点で手続に違法がある。なお、前項(イ)(ロ)に記載の事項は、経験則ではなく具体的事実であるから、その認定には証拠調べを必要とする。かりに、それが経験則に属するとしても、一般の日常の経験から容易に帰納しうる経験則ではなく、日本国内に稀にしか存在しないウエブスター第二版によつて初めて基礎づけられる程のきわめて専門的な学識経験にもとづく経験則であるから、これを鑑定等の証拠調べによらないで認定することは違法である。
(三) 審決は、判断の内容に誤りがある。
本願商標は、「ハイチーム」と、同一書体、同一態様、同一大きさの文字で、かつ一連に表示された一体不可分の構成であるから、外観上これを「ハイ」と「チーム」とに分離すべき理由はなく、また、全体が「ハ」「イ」「チー」「ム」と、最も発音し易い四音で構成されているため、一気に発音することができ、各音の有機的一体としての結合が強く、また、「ハイチーム」の与える語調は滑らかで快いものであるから、聞く者にも不可分一体の商標として感得されるのである。本件審決は、本願商標を「ハイ」と「チーム」とに分離して観察する根拠を、「ハイ」は「高級な」を、「チーム」は「酵素または酵素製剤」を意味する語として世上一般に使用されている点に求めているが、これは失当である。すなわち、片仮名文字の「ハイ」は、日本語の肺、胚、杯、灰、輩あるいは返答の「ハイ」等種々の語に相当し、本願商標の指定商品のうち医療品との関連から、「胚」あるいは「肺」の意味に解することも、また、日常生活上頻繁に使用されきわめて親しみ易い語である点から、返答の「ハイ」に相当すると解することにも合理的な理由のあるところであり、さらに、医薬品、化学品においては、ハイドラミン等「ハイ」を語頭にもつ語が多数存在するから、本願商標から、かかる語の一部を構成する「ハイ」を想起する者も絶無ではないというべく、このように種々の意味に理解される「ハイ」の文字は、必ずしも「高級な」の意味に通じるものではないのに、本件審決が直ちにそのような意味を認識させるものと解したことは不当である。また、「チーム」の意味について、本件審決は、(審判の)甲第一ないし第四号証を援用しているが、
同号証はいずれも「ZYME」の文字を含む欧文字と片仮名文字とを併記した商標に関するものであるから、本願商標のように片仮名文字だけから成る商標の場合と同一に論ずることはできず、また、酵素を意味する「ZYME」の語は、英語読みでは「ザイム」または「ズイーム」(審決の引用するウエブスター第二版においても「ZYME」の発音は〔Zim〕であり、これを片仮名文字で表示するならば「ズイーム」または「ジーム」である。)独語読みでは「チーメ」であるのが普通であるから、「チーム」が「ZYME」の一般的な称呼であるというのは根拠がなく、一般に、酵素または酵素製剤については、「ジアスターゼ」「アミラーゼ」のごとく、語尾に「ase」〔a:ze〕をつけた名称が極めて多いのに、本件審決のように、キモチーム、コンビチーム等の僅か数例にもとづいて、「チーム」の文字は酵素製剤を示す接尾語として慣用されていると認定することは不合理であり、
現に「スパチーム」(子宮収縮止血剤)のごとく、酵素または酵素製剤を含有しないのに「チーム」の語尾をもつ商標も存在する。そして、従来、特許庁において、
「カトチーム」、「ドラマチーム」等、「チーム」の文字を語尾にもつ片仮名文字の商標であつて、指定商品を酵素または酵素製剤に限定されることなく、本願と同じように化学品、薬剤、医療補助品等として登録または出願公告された事例が多いことは、「チーム」の文字が酵素または酵素製剤を示す接尾語として慣用されているものではないことの証左である。取引者、需要者が、「チーム」の片仮名文字に接してまず想起するのは、組または集団を意味する「team」の語であると考えるのが、相当であろう。
このように、一体不可分の「ハイチーム」なる本願商標を、なんら合理的な理由なく、「ハイ」と「チーム」とに分離して観察した上、「高級な酵素または高級な酵素製剤」を意味するにすぎない語として、登録を拒絶すべきものとした本件審決の判断は誤りである。
被告の答弁
一 原告の請求原因一および二の事実は認める。本件審決には原告主張のような違法の点はない。
二 商標法第56条で商標の審判に準用される特許法第150条の規定は、当事者対立構造を採る審判に関する規定であつて、そうでない本件のごとき拒絶査定不服の審判(特許法第121条参照)には適用がないと解すべきである。なぜなら、拒絶査定不服の審判においては、同法第159条第2項により、査定の理由と異なる拒絶の理由を発見したとき、出願人にこれを通知し、その意見を聴取すべきものとされているから、審判官がこの手紙を履践した場合に、さらに拒絶の理由の有無につき職権で審理した結果を出願人に示してその意見を聞くことまで要求されるものでないことは、職権探知主義を採る審判の性質上当然のことであるからである。
三 英語の「ZYME」の語は、ギリシヤ語で醗酵をおこすものという意味をもつ「ZYM」から来た同意語であるが、わが国では、この両者を「ザイム」というよりは、むしろ「ZYM」の呼び名にならつて「チーム」と呼ぶのが普通であり、片仮名の「チーム」の語は、今や「ZYME」または「ZYM」の字句と離れて、それ自体独立して通用する程度に邦語化され、それが酵素または酵素製剤であることを示すものとして普通に使用されている。
本願商標は、他の「○○チーム」の商品名(商標名)とは異なり、薬剤関係の当業者間において、直ちに商品の品質の誇示を意味する「ハイ」の文字を「酵素または酵素製剤」の意味をもつと解される「チーム」の文字に冠し両者を結合したにすぎないから、「高級な酵素」または「高級な酵素製剤」であると認識されるに止まり、数多く存在する酵素製剤の中で何人の業務にかかる商品であるかを識別せしめうるものではない。
証拠関係(省略)
理 由(争いのない事実)一 原告の請求原因一および二の事実(本願商標の構成、指定商品、本願に関する特許庁における手続の経緯および本件審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。
(本件審決の取消事由の有無)二 本件審決は、本願商標をその指定商品に使用しても、取引者、需要者をして、
その商品を「高級な酵素または高級な酵素製剤」であると認識せしめるだけで、何人の業務にかかる商品であるかを認識せしめるだけではない、との前提に立つて、
商標法第3条第1項第3号および第4条第1項第16号に従いその登録を拒絶すべきであると判断したが、この判断は誤りであること、以下説明するとおりである。
成立に争いのない甲第七号証の一ないし四、第八号証の一ないし一三、第九号証の一ないし六、第一〇号証の一、二の各一ないし三、第一一号証の一ないし五七、
第一三号証の一の一ないし四、第一四号証の一ないし三および乙号各証ならびに弁論の全趣旨によれば、「酵素」を意味する語は、英語で「ENZYME」または「ENZYM」で、「エンザイム」または「エンジーム」と発音され、独語では「ZYMA」または「ENZYM」で、「チーマ」または「エンチーム」と発音されるが、わが国の化学用語では「エンチーム」と呼ばれており、また、学問上、酵素の命名には、AMYLASE(アミラーゼ)のように、反応を示す語の語尾にASEをつけて行なう例であり、これにならつて、わが国の薬業界において酵素または酵素製剤を発売する場合、その商品名にも、語尾にASEをつけて「○○(ア)ーゼ」と命名する例がきわめて多いが、このほか、この種の商品名として、語尾に「ZYME」または「ZYM」をつけて「○○チーム」と読ませるもの、あるいは片仮名文字だけで「○○チーム」とするものも相当数存在している。しかし、「○○(ア)ーゼ」または「○○チーム」以外の商品名をつけられた酵素または酵素製剤が多く、反対に、酵素または酵素製剤でないのに「○○チーム」と命名された薬剤も存在し、また、右のような接尾語としてでなく、単なる「アーゼ」または「チーム」という語自体が、「酵素」または「酵素製剤」を示す語として単独で用いられることはない。一方、「ハイ」は、日本語としても外国語としても種々の意味、
用法をもつ語であるが、英語の「HIGH」を表わす語として、わが国でも「高い」「高級」の意味で複合語を作る語として用いられることがあり、商品名としても「ハイ○○」のように接頭語として用いられることが少なくないことを認定することができ、この認定に反する証拠はない。
これによつてみると、本願商標の指定商品である化学品、薬剤および医療補助品に本願商標「ハイチーム」を使用した場合、医薬業界の取引者、需要者の中には、
あるいは、語尾にある「チーム」の語から、それが酵素または酵素製剤につけられた商品名であろうことを推測し、「ハイ」の語が冠せられているところから、あるいは、その商品が「高級な酵素または高級な酵素製剤」であることを誇示する意図をもつて命名された商品名であろうことを推測する者もないではないと認められ、
その意味では、本願商標は、商品の品質、性能をある程度暗示する要素を含むものといえないではないであろう。しかしながら、このように商品の品質等を暗示する要素を含む商標が、つねに商標法第3条第1項第3号に該当し、商品の出所表示力を欠くものとはいえないことは、いうまでもない。前記のように、「チーム」という語が、接尾語でなく単独に「酵素」または「酵素製剤」を意味する語として用いられることはなく、「○○チーム」の形で、しかも商品名として用いられることがあるにとどまること、また、一般に当業界において、「高級な酵素または高級な酵素製剤」を表現することばとして、「ハイ」と「チーム」の語を組み合わせて用いる用語例が存在することを認めるに足る証拠もないこと、および、本願商標の構成を外観および称呼の面からみるならば、原告主張のとおり、商標としての各文字の不可分一体性がきわめて強いものであること等の事情を考慮するならば、「ハイチーム」の語は、これに接する取引者、需要者の一般が、直ちに「ハイ」の部分と「チーム」の部分にわけて印象づけられ、そこから「高級な酵素」または「高級な酵素製剤」の観念をもつにいたるほど、強い観念表示力を備えた語であるとは考えられず、前記のとおり、いささか商品の品質、性能を暗示する要素をもちながら、
なお、他の多くの「○○チーム」の商標に伍して、商品の出所表示力を具備する商標であると認めるのが相当である。すなわち、本願商標は、商標法第3条第1項第3号にいう、商品の品質等を表示する標章のみからなるものということはできず、
まして、商品の品質等を「普通に用いられる方法で」表示するものでもないというべきであり、したがつて、本願商標をもつて、何人の業務にかかる商品であるかを認識せしめ得ない商標であるとか、何人かの独占的使用を許すべきでない商標であるとかいうことはできない。そして、本願商標を酵素または酵素製剤以外の指定商品に使用しても、必ずしも当該取引者、需要者をして商品の品質を誤認させるおそれがあるといえないことは、前段認定の事実、ことに「○○チーム」の商品名が、
現に酵素または酵素製剤以外の薬剤にも用いられている事実、ならびに、そのような薬剤の品質について、現実に取引者、需要者をして誤認させたこと、あるいは誤認させるおそれがあることを認めるに足る証拠がないことに徴し、明らかである。
してみれば、本願商標が商標法第3条第1項第3号および第4条第1項第16号の規定に該当し登録要件を欠くものであるという本件審決の判断は、失当というほかはない。
(むすび)三 以上のとおりであるから、その主張の点に違法があるとして本件審決の取消しを求める原告の請求は、その余の争点につき判断するまでもなく正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 三宅正雄
裁判官 杉山克彦
裁判官 武居二郎