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事件 昭和 45年 (行ケ) 5号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1971/09/09
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を九〇日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は、「特許庁が、昭和四四年九月一二日、同庁昭和四二年審判第四、七一一号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求めた。
請求の原因
原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のとおり陳述した。
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和四〇年一一月九日、別紙記載の商標について商標登録の出願をしたが、昭和四二年三月二五日拒絶査定があつたので、同年七月一〇日審判を請求し、
同年審判第四、七一一号事件として審理されたところ、昭和四四年九月一二日、
「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は同年九月二五日原告に送達された。
二 審決の理由の要旨 本願商標は、「PHOTO―DIRECT」の欧文字をゴシツク書体で横書きしてなり、その指定商品を第九類写真製版機械器具、その他の印刷機械器具とするものである。ところで、昭和四三年六月一〇日印刷出版研究所発行の写真製版技術(以下「引用文献」という)によれば、写真平版を製版する方法の一つとして、
「最近開発された軽オフセツト印刷用版材を使用するフオトダイレクト法がある。
この方法は、実際の版レジストとしてハロゲン銀乳剤を使用する。露光終了後一分で版が得られる。また、版上で拡大、縮小も可能である。処理は自動化されているので非常に簡単である。この方法は、高速度で版を得る目的でつくられたもので、
中間のネガあるいはポジを必要としない。版材は、撮影用感度をもつた写真乳剤(平均露光は一〇秒)の塗布されたプラスチツクコーテツド紙である。コダツクアイテツク(Kodak―Itek)はベリリス版材を使用し、カメラの前にかけたマイクロフイルム引伸しアタツチメントによつて拡大する方法も公表している。引伸機は一六ミリ、三五ミリロールフイルムなどからの複写も可能で、ポジ用のものもネガ用のものもある。版の最大サイズは25×40cmで、おそらく最も迅速な製版法であろう。この方法は、多くの軽オフセツト印刷に利用される。線画と一〇〇〜一三三線/インチの網点が再現でき、耐刷力は五〇〇〇枚程度である。」との記載がある。また、カラー写真を製版する場合の三色分解再現法による製版工程として、従来からの一般形態は、分解用フイルターにより分解ネガフイルムを作成し、さらにこれを濃淡に応じた点の大小、密度の強弱に転ずるため、網目スクリーンにより網目ネガフイルムを作成するという二段階の工程をとつているが、これに対し、強力光源を有する装置、超高感度感光材料等の開発が行なわれた結果、分解と同時に網撮りを行ない一工程で分解網目ネガフイルムを作成する方法が可能となつた。この方法を直接網撮り分解法(direct screening separation method)といい、この種業界においては、これを省略して、フオトダイレクト(photo direct)、フオトダイレクトスクリーニング(photo direct screening)、ダイレクトスクリーニング(direct screening)あるいはダイレクトプロセス(direct process)等と称している。
叙上のとおり、本願商標を構成する「PHOTO―DIRECT」の文字は、写真を製版する場合の一方法をあらわすものであるから、この方法をもつてする写真製版機械器具について本願商標を使用する場合に、取引者、需要者は、単に商品の構造、用途、使用方法等を普通に用いられる方法で表示したものとして理解することが、疑いを容れる余地のないところであり、また、該文字に照応しない方法をもつてする写真製版機械器具について使用するときは、商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるといわざるをえない。したがつて、本願商標は、商標法第3条第1項第3号および第4条第1項第16号の規定に該当するものとして、その登録を拒絶すべきである。
三 本件審決を取り消すべき事由 本願商標の構成および指定商品が本件審決認定のとおりであることは争わないが、本件審決は、次の二点において認定判断を誤つた違法がある。
(一) 「PHOTO―DIRECT」が写真を製版する場合の一方法をあらわすものとした本件審決の認定は、誤りである。すなわち、本願商標は英語「PHOTO」と「DIRECT」とをハイフンで結合してなる一種の造語であるが、「PHOTO」が一般に「写真」を意味し、「DIRECT」が一般に「直接」という意味に解されるとしても、他に「版」(プレイトPlate)とか「製する」とかを意味する言葉またはこれらを連想させる言葉は含まれていないのであるから、「PHOTO―DIRECT」はそれ自体特別の意味を有するものではなく、単に、写真または写真を撮るについての漠然とした観念を与える程度のものであり、まして製版法を直感させるようなものではない。また、その指定商品である写真製版機械器具を取扱う業界においても、「PHOTO―DIRECT」なる言葉が写真製版の方法を示すものとして使用されている事実もない。
原告会社は、昭和三八年頃から「PHOTO―DIRECT」という商標を用いて、写真製版機械であるAM七〇五フオト・ダイレクト・カメラ・プロセツサー、
AM七〇六フオト・ダイレクト・カメラ・プロセツサー、ロバートソン・メテオライト・カメラ・モデルMTD―一〇およびローダー・プロセツサー・モデル一四二五を製造して日本に輸出したが、昭和三八年一一月三日、はじめて右モデルMTD―一〇およびモデル一四二五を一セツト第一号機として、子会社である日本アドレソグラフ・マルテイグラフ株式会社(以下「日本アドレソグラフ」という)に販売し、同社は、昭和三八年から今日まで右機械製品合計一四二セツト(一セツトは二〇〇万円ないし三〇〇万円)を日本において販売した。このように、日本アドレソグラフは、本件引用文献の発行前から、前記写真製版機械をフオト・ダイレクト・カメラ・プロセツサーまたはフオト・ダイレクト・プロセス・エクイツプの名称を付して広告宣伝、販売していたのであるが、引用文献の著者は、右写真製版機械を使用しての写真製版方法を、機械の名称を採つて、フオトダイレクト法と名づけ、
原告会社の製造販売する写真製版機械器具に関して紹介したものにほかならない。
したがつて、引用文献にフオトダイレクト法という言葉が用いられていたところで、そのことから直ちに、フオトダイレクト法が写真製版の一方法として業界において一般に使用されているということはできないものである。このことは、次の事項によつても裏付けられる。すなわち、米国のイーストマン・コダツク社およびアイテツク社の製造にかかる写真製版機械による製版方法は、原理的には原告会社のものと同じであるが、その製版の過程をあらわす意味で「VERLITH」ヴアリリス)法と呼んで広告宣伝、販売されているが、このことは、フオトダイレクト法という言葉が写真製版の方法として一般に使用されているものではないことを示すものにほかならない。
また、本件審決は、カラー写真を製版する場合の三色分解再現法による製版工程としての直接網撮り分解法につき、これを省略してフオトダイレクト、フオトダイレクトスクリーニング、ダイレクトスクリーニングあるいはダイレクトプロセスと称しているというが、この種業界においてそのような事実は存在しない。
以上のとおり、「PHOTO―DIRECT」が写真を製版する場合の一方法をあらわすものであるとした本件審決の認定は誤つており、したがつて、この誤つた認定を前提として、商標法第3条第1項第3号を適用判断した本件審決は違法である。
のみならず、商標法第3条第1項第3号の適用判断の基準時は、商標登録出願時でなければならない。もしこれを登録時と解すると、特許庁における審理の遅速に影響されて、その間の事情の変更により、出願人の責に基づかずに、同号が適用されたり適用されなかつたりする結果を招き、甚だ不合理だからである。したがつて、本願商標の登録出願時には未だ刊行されていなかつた引用文献の記載を根拠として、「PHOTO―DIRECT」をもつて写真製版の方法をあらわすものと認定することは、商標法第3条第1項第3号の適用判断の前提として、本来許されないことであるといわなければならない。
(二) かりに、本願商標が写真を製版する場合の一方法をあらわすものであり、
したがつて、商標法第3条第1項第3号に該当するものであるとしても、原告会社は、前項記載のとおり、昭和三八年頃から日本アドレソグラフを通じて、本願商標を付した写真製版機械を多数宣伝販売し、かつこれについてアフターサービスを行なつて来たので、本願商標は、取引者および需要者の間に、原告会社の製造販売にかかる写真製版機械器具の商標として広く認識されるにいたつた。したがつて、本願商標は、使用による顕著性を備えた商標として、商標法第3条第2項の規定により、商標登録を受けることができるものであり、したがつてまた、商品の品質について誤認を生じさせるおそれもないものというべきであるから、本願商標の登録適格を否定した本件審決は、結局、その認定判断を誤つたものといわざるをえない。
被告の答弁
被告指定代理人は、答弁として、次のとおり陳述した。
一 原告主張の請求原因事実中、本件に関する特許庁における手続の経緯、本願商標の構成および指定商品ならびに本件審決理由の要旨が原告主張のとおりであることは認めるが、本件審決を違法とする事由の主張は争う。
二 写真製版機械器具販売業者や写真製版に携わる業者の間においては、すでに、
「フオト・ダイレクト・プロセス」の語は写真を製版する場合の一方法を示すものとして熟知された用語であり、その英語の頭文字をとつて「PDP」と表示して、
普通に用いられているものである。したがつて、「PHOTO―DIRECT」と欧文字で表示した本願商標についても、取引者、需要者は右フオト・ダイレクト・プロセスの「フオト・ダイレクト」の部分を原語で表示したものと容易に理解しうるところであるから、本願商標は写真を製版する場合の一方法をあらわすものとした本件審決の認定判断に誤りはない。なお、引用文献が本願商標の登録出願後に発行されたものであつても、商標法第3条第1項第3号の適用判断の基準時は、査定時または審決時であつて、出願時ではないから、引用文献の記載を根拠として右同号の適用の有無を判断したことは違法ではない。
また、本願商標がいわゆる使用による顕著性を有するにいたつたことは否認する。原告は、本件審判手続中に、そのような主張をしたことはなかつたものである。
証拠関係(省略)
理 由(争いのない事実)一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願商標の構成および指定商品ならびに本件審決の理由の要旨が、いずれも原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)二 原告は、その主張の二点において、本件審決が認定判断を誤つた違法がある旨主張するが、いずれも理由がない。
(一)「PHOTO―DIRECT」は写真製版の一方法をあらわす文字か否かについて。
成立に争いのない乙第一号証の一ないし五によると、昭和四三年六月一〇日発行の引用文献には、写真製版技術としての平版製版法には一般的分類として五つの方法、すなわちダイレクトイメージトランスフアー法、フオトケミカルトランスフアー法、フオトダイレクト法、電子写真法およびフオトリソ法(普通写真平版法)があり、そのうちフオトダイレクト法に関する説明として、本件審決認定のとおりの記載があることを認めることができ、また、成立に争いのない乙第二号証の一、
二、乙第三、四号証の各一ないし三および乙第五号証の一ないし五を総合検討すれば、昭和四三年一〇月ごろには、わが国の軽印刷工業界において、フオト・ダイレクト・プロセス(略称PDP)の語が、版材に直接写真を撮る写真製版法を意味する言葉として一般に用いられていたことを認めることができる。成立に争いのない甲第一六、第一七号証の各一の記載および証人【A】の証言中、右認定に反する部分は、前叙引用の諸証拠と対比すると、採用することができず、他に右認定を動かすに足る証拠はない。
そして、本願商標「PHOTO―DIRECT」が英語の「PHOTO」と「DIRECT」とを結合した造語であることは、原告の主張に徴しても明らかであり、本願商標の指定商品である写真製版機械器具その他の印刷機械器具の取引者、
需要者においてこれを「フオト・ダイレクト」と音読諒解しうるものであることは、我々の常識上も明らかである。したがつて、前認定の諸事実を総合すれば、本件審決が、引用文献の記載を根拠として、本願商標を構成する「PHOTO―DIRECT」の文字が写真を製版する場合の一方法をあらわすものと認定したことは相当であり、本願商標を右方法による写真製版機械器具について用いた場合に、取引者、需要者が単にその商品の構造、用途、使用方法等を示すものとして認識するにすぎないと判断したことに、過誤はないといわなければならない。
右の点につき、原告は、まず、商標法第3条第1項第3号の適用判断の基準時は、商標登録の出願時であるから、本願商標の登録出願の後に刊行された引用文献を判断の資料とすることは許されない旨主張するが、同条項の適用判断の基準時は、査定または審決の時と解するのが相当である。けだし、商標法第3条第1項は、商標の登録に関する積極的な要件ないしは商標の一般的登録要件に関する規定、換言すれば、登録を出願している商標がそれ自体取引上自他の商品を識別する機能を有すべきことを登録の要件とする趣旨の規定であつて、同項各号にかかる識別的機能を有しないものを列挙し、このようなものについては登録を拒絶すべきことを法定したものというべく、したがつて、このような要件の存否の判断は、行政処分(商標登録の許否が一の行政処分であることはいうまでもない。)の本来的性格にかんがみ、一般の行政処分の場合におけると同じく、特別の規定の存しない限り、行政処分時、すなわち査定時または審決時を基準としてすべきものと解するのが相当であるからである(この理は、登録阻却要件を定めた商標法第4条第1項についても同様であつて、同条第三項がこれについての例外的規定を設けていることも、このように解することによつてその合理性を首肯することができるとともに、
同条におけるこのような例外的規定の設定の事実は、第3条について前叙のごとき解釈をすることの相当な所以を裏づけるものということができよう。)もつとも、
このように解した場合、かりに特許庁が不当に査定ないし審決を遷延することがあつたとすると、その間に出願人が登録出願をしている商標について登録要件が欠けるに至り、その結果出願人が不当な不利益をこうむるという事態の発生が絶無であることを保しがたいが、このような不当な不利益は別途にこれが救済を受けうべく、かかる事態の発生のおそれがあることを理由に、法律上何ら特別規定がないにもかかわらず、商標登録に関する処分に限り、通常一般の場合と例を異にし、行政処分すなわち商標登録についての要件の存否を行政処分の申請時すなわち商標登録の出願時を基準として判断決定するというごとき解釈は、当裁判所の到底採用しがたいところである。したがつて、原告のこの点に関する主張は理由がない。
次に、原告は、引用文献の記載は、原告の子会社である日本アドレソグラフが日本において販売した写真製版機械であるフオト・ダイレクト・カメラ・プロセツサーまたはフオト・ダイレクト・プロセス・エクイツプを使用しての写真製版法をフォトダイレクト法と名づけ、右機械について紹介したものにすぎない旨主張するが、引用文献の記載は一般的な写真製版法の説明にすぎず、原告の製造にかかる写真製版機械とは直接関連もないものであることは、さきの認定事実から明らかであるから、原告の右主張も採用することができない。
(二) 本願商標は使用による顕著性を有するか否かについて。
成立に争いのない甲第五、第六号証、証人【A】の証言によつて成立を認めうる甲第八号証の一、二、第九号証の一ないし三および甲第一四号証に同証人の証言を総合すれば、原告の子会社である日本アドレソグラフは、昭和三八年頃から、原告会社の製品である写真製版機械AM七〇五フオト・ダイレクト・カメラ・プロセツサー、AM七〇六フオト・ダイレクト・カメラ・プロセツサー、ロバートソン・メテオライト・カメラ・モデルMTD―一〇、ローダー・プロセツサー・モデル一四二五を輸入して販売しはじめ、
昭和四五年までに合計一四二セツトを販売したこと、これらの機械には、たとえば、「PHOTO―DIRECT CAMERA PROCESSOR」とその名称を表示しており、また、これらの機械を使用する写真製版方法を「A―M photoDirect Process」(AMフオート・ダイレクト・プロセス)と称して広告宣伝したことを認めることはできるけれども、さらに、右認定の写真製版機械に本願商標を構成する「PHOTO―DIRECT」の文字を商標としての態様において使用して宣伝販売したことについては、証人【A】の証言中これと同趣旨の部分は、右認定の事実に照らし採用することができず、他にこれを認めるに十分な証拠がない。
したがつて、本願商標が使用による顕著性を具備するにいたつた旨の原告の主張は、すでにその前提において理由がなく、採用しえないといわざるをえない。
(むすび)三 以上のとおりであるから、その主張のような違法のあることを理由として本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がない。よつて、これを棄却することとし、行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条第158条第2項を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 服部高顕
裁判官 石沢健
裁判官 滝川叡一
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