関連ワード | 指定商品 / 混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) / 著名商標 / 不正競争の目的 / 類似性(類否判断) / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 離隔的 / 離隔的観察 / 存続期間 / 更新登録 / 同一標章 / |
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事件 |
昭和
40年
(行ケ)
115号
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1971/03/30 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が、昭和四〇年九月六日、同庁昭和三七年審判第三、三〇九号事件についてした審決のうち指定商品口紅および頬紅を除くものに関する部分は、取り消す。 訴訟費用は、被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の申立
原告両名訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告訴訟代理人は、「原告両名の請求は棄却する。訴訟費用は原告両名の負担とする。」旨の判決を求めた。 |
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請求の原因
原告両名訴訟代理人は、請求の原因として、次のとおり述べた。 一 特許庁における手続の経緯 原告【A】は、登録第二七三、八八一号商標(その構成、登録出願、出願公告、 登録、権利移転および指定商品は別紙第二記載のとおり。以下「引用商標」という。)の権利者であり、原告株式会社伊勢半は、その通常実施権者であるが、原告両名は、昭和三七年一二月二一日、被告を被請求人として、被告の権利に属する毛筆片仮名書きで、「キミス」の文字を左横書きしてなる登録第五五三、一五八号商標(その構成、登録出願、出願公告、登録および指定商品は別紙第一記載のとおり。以下「本件商標」という。)について、登録無効の審判を請求したところ、昭和三七年審判第三、三〇九号事件として審理された結果、昭和四〇年九月六日、本件登録商標は、商品口紅および頬紅についてこれを無効とし、その余の部分の申立については成り立たないとの趣旨の審決があり、その謄本は、同年九月一九日、原告両名に送達された。 二 本件商標の構成 毛筆片仮名書きで、「キミス」の文字を左横書きして成る商標(別紙第一参照)三 本件審決理由の要点 本件商標の構成、登録出願および登録の年月日ならびに指定商品は前記のとおりである。他方、引用商標は、ゴチツク体による「キスミー」の片仮名文字を左横書きし、その下に、細い筆記体風の欧文字で、「キ」と「ス」の文字の間の下から「ミ」と「ー」との間の下にかけて「Kiss Me」と横書きしてなり、昭和一〇年八月一四日の登録出願、同一一年二月二五日登録、昭和三〇年一一月二二日存続期間更新登録がなされたものである。 そこで、両者を比較検討すると、(イ)外観 引用商標を構成する文字中、「キスミー」の部分は、「キス」と「ミー」との間隔があること、「ー」の部分も明瞭顕著にあらわされていること「Kiss Me」の文字はその下段にあらわされ、 かつ、「K」と「M」のみが大文字であり、さらに、「Kiss」と「Me」と分離されてあらわされていること等よりして、全体的にみれば、たとえ時と所とを異にして離隔的に観察しても、片仮名文字で一連にあらわされている「キミス」の文字のみからなる本件商標とは、とくに外観上、相紛らわしいものとはいい得ない。 (ロ)称呼、観念 両者は、語音語調において異なり、かつ、今日、引用商標の指定商品の需要者取引者間においては、引用商品からは、何人によつても容易に理解し得る英語「Kiss Me」の観念を生ずることをも勘案すれば、特定の意味を有しない「キミス」の称呼を生ずる本件商標とは、観念上はもとより称呼上も明瞭に区別し得るとするのが、取引の実際に照らし、相当である。結局、両者は、外観、称呼および観念のいずれの面からも相紛らわしいものではなく、たとえその指定商品が相類似していても、本件商標は、旧商標法(大正一〇年法律九九号)第2条第1項第9号の規定に該当しない。 次に、同条項一一号の規定に該当するかどうかについて検討すると、引用商標がその指定商品中、とくに口紅・頬紅について本件商標の登録出願前までにその需要者取引者間に周知著名のものとなつていたことは顕著な事実であつて、本件商標は、その称呼において、引用商標と差異があり、外観も全体的に対比するときは引用商標と区別しうるものとしても、「キスミー」といえば口紅を直感する多数の需要者中には、本件商標が口紅、頬紅に使用されて店頭に展示される場合においては、その商品の出所について誤認混同する者も少なからずあることは、経験則上認めることができるから、本件商標は、その指定商品中、口紅・頬紅については、旧商標法第2条第1項第11号の規定に違反して登録されたものであつて、その限度で無効とすべきである。しかし、本件商標のその他の指定商品については、引用商標が特に周知著名であるとは認められず、これらの商品について本件商標が使用されたとしても、その需用者、取引者が「キスミー」との関係を想起するとはいえないから、本件商標は、引用商標と商品について混同を生ずるおそれがなく、旧商標法第2条第1項第11号の規定に違反しない。また、本件商標が引用商標の著名さを利用し、不正競争の目的をもつて登録出願されたものとは認められない。 したがつて、本件商標は、指定商品中、口紅、頬紅の部分の限度で、その登録を無効にすべきであるが、その余の部分については、請求人(原告)の申立は成り立たない。 四 本件審決を取り消すべき事由 本件商標ならびに引用商標の構成、登録出願、登録等の年月日および指定商品についての本件審決の判断は争わないが、本件審決は、次の点に判断を誤つた違法がある。 (一)本件商標は、引用商標と外観および称呼において類似しているのに、これを否定した審決は、商標の使用と商取引上における経験則を無視し、判断を誤つたものである。 1 外観の類似性イ 本件商標が、毛筆で「キミス」と片仮名の文字を横書きして成るのに対し、引用商標がゴチツク体で「キスミー」と横書きし、下欄に細いペン書きの筆記体風の欧文字で、「キ」と[ス」の文字の間の下から「ミ」と「ー」との間にかけて「Kiss Me」と左横書きして成ることは、前述したとおりである。 ロ そして、商標は、商品についてまたは関して使用されるから、商標の類似性の有無は、商品取引市場においては出所の誤認混同を生ずるかまたは生ずるおそれがあるかどうかにより、客観的立場から観察して決せられるべきであり、単に、商標見本に示された形象のみで、主観的、物理的に比較、検討さるべきものではない。 登録商標を自己の製造業務に係る商品に実際に使用する場合においては、登録商標と同一または相似性のもののみを使用するとは限らず、縦書を横書にし、楷書体を草書体にし、角ゴチツク体を丸ゴチツク体にし、平仮名文字を片仮名文字に変えて使用することが、通常であることは、商取引の経験則上明らかである。 ハ ところで、引用商標の「Kiss Me」なる欧語の観念は、非常識な語であり、本来の語義は全く失せ、世間一般には、キスミーという日本の片仮名文字の一語として認識されている。 そして、本件商標および引用商標は、片仮名文字を三字とし、しかも同一の文字で二字目と三字目とを入れ替えたにすぎない構成であるから、取引の迅速を尊ぶ商取引界では、本件商標の長音の有無、三文字の配置の相違などは微差にすぎず、かかる商標を使用するときは、みる者の視覚および記憶を通じて、ことに離隔的観察における商取引市場では、商品の誤認混同の原因となるというほかはない。 したがつて、両商標を一見するときには同一の片仮名文字を共通にして、同一視することができ、両商標は、外観上類似しているといわなければならない。 2 称呼の類似性イ 各商標の構成上、本件商標からは「キミス」、引用商標からは「キスミー」の各称呼を生ずる。 しかし、両商標は、第二音と第三音の「スミー」と「ミス」を置き換えた配列音で構成され、簡易迅速を尊ぶ取引市場において、時と所を異にして全体を一連に称呼(あるいは交互に連呼)するとき、「キミス」を「キスミー」と、「キスミー」を「キミス」ときく者をして誤らせるおそれがある。 したがつて、両商標は称呼上も類似する。 (二) 引用商標は、化粧品について著名商標である。したがつて、本件商標は、 指定商品第二類染料、顔料、媒染料および塗料のうち、「口紅・頬紅及び化粧用臙脂、眉墨、化粧用染毛料」については、引用商標と、その商品の出所について誤認または混同を生ぜしめるおそれがある。それにもかかわらず、口紅・頬紅についてこれを肯定したのみで、その余の化粧用臙脂、眉墨、化粧用染毛料についてこれを否定した本件審決は、前記否定した部分について、判断を誤つたものである。 |
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被告の答弁
被告訴訟代理人は、答弁として、次のとおり述べた。 本件に関する特許庁における手続の経緯、本件商標および引用商標の構成、登録出願、登録等の年月日および指定商品、ならびに本件審決理由の要点がいずれも、 原告ら主張のとおりであることは認める。本件審決を取り消すべき事因について否認する。審決には、原告ら主張のような違法事由はない。以下、これを詳述する。 (一) 原告ら主張の四(一)1(外観の類似)について。 本件商標は、「キミス」と仮名を一連に表示してあるのに対し、引用商標は、 「キス」と「ミー」の二つの部分よりなる。しかも、本件商標は、「キミス」と毛筆で仮名文字を一行に横書きにしたものであるのに対し、引用商標は、「キスミー」とゴチツク体で横書きした下欄に英文で「Kiss Me」と横書きにしたもの、つまり、仮名文字と英文字とで二行から成る商標であることは、審決に判示するとおりであり、したがつて、両者は外観上顕著な相違があり、類似していない。 (二) 原告ら主張の四(一)2(称呼の類似)について。 引用商標においては、「キス」と「ミー」の両部分は明らかに分離されて発音され、しかも、そのうち、「キス」は同時に発する短音で、「キ」は尾上りの高音、 スは尾下りの低音であつて、後半の「ミー」は長音である。そして、高音で尾上りの「キ」と、低音で尾下りの「ス」とが連続して発音されるために、「キス」の部分は、「キ」と「ス」の二音が、平音として発音されるのでなく、「キス」として、むしろ、一音として発音される。 つまり、引用商標の「キスミー」なる称呼は、発音上、「キ」、「ス」、「ミー」が同格に発音されるのではなく、「キスミー」という「キス」の短音の部分と「ミー」の長音の二音とからなる。 このことは、引用商標の下欄に横書きされている英文の「Kiss Me」では、称呼上、「キ」と「ミー」とが顕著に発音され、中間の「ス」は、「キ」と同時に発音される附随した弱音であつて、「キス」「ミー」の二連音と発音されることからも、明らかである。 これに反して、本件商標の「キミス」は、引用商標と語順が異なり、「ミ」が短音であつて、長音でない結果、「キミス」の三語がいずれも、同格に、なんらの抑揚もなく、発音される三連音となつている。 以上のとおり、本件商標と引用商標とは、称呼上も、著しく相違し、類似するものではない。 (三) 原告ら主張四(二)について。 本件商標の出願当時引用商標がすべての化粧品について周知、著名であつたとの原告の主張事実は否認する。 |
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証拠関係(省略)
理 由(争いのない事実)一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本件商標および引用商標の各構成、 登録出願、登録などの年月日および指定商品、ならびに本件審決理由の要点がいずれも、原告ら主張のとおりであることは当事者間に争いがない。 (本件審決を取り消すべき事由の有無)二 前記当事者間に争いのない事実によると、本件商標の構成は、毛筆片仮名書きで「キミス」の文字を左横書してなり、引用商標の構成は、ゴチツク体による「キスミー」の片仮名文字を左横書きし、かつ、その下に、細い筆記体風の欧文字で、 「キ」と「ス」の文字の間の下から「ミ」と「ー」の間の下にかけて、「Kiss Me」と左横書きしてなるものである。 ところで、引用商標における「キスミー」なる文字は、その下段の構成部分である英文「Kiss Me」を英語式の発音に基づき、これをそのまま日本語の片仮名文字で表現したもので、いわば表音的に示したものと認められるところ、引用商標の「キスミー」という簡単明瞭な外来語的日本語と、その語の有する感覚的意味からみて、この「キスミー」なる用語の本来有する意味観念は、戦後英語が比較的普及した事実を合せ考えると、少なくとも本件商標の出願時までに、引用商標の対象となる商品の取引者およびその需要者の間においても、十分理解されていたことは、経験則上明らかであつてこれをもつて全く無意味な用語とは解しがたく、したがつて、結局、引用商標は「キスミー」という邦語部分と「Kiss Me」いう英語部分との結合からなるといえる。 そして、前記の引用商標の構成に徴し、「キスミー」という邦語部分が英語部分よりもいちだんと大きく表示されていて、観者の注意を引くものであることからみると、引用商標において商品を識別する機能を有するいわゆる要部に当たるものは、日本において、引用商標出願当時かなり英語が普及していたとしても、やはり、邦語である「キスミー」の部分に存すると認めるのが相当である。 ところで、引用商標の前述した邦文の「キスミー」の部分と前記本件商標の構成とを比較検討すると、両商標は、いずれも、同一の片仮名の三字(ただし、長音「ー」の部分については後述する。)で、しかも「キ」が冒頭部分に位置し、あとの二字目、三字目の「ス」と「ミ」とが入れかわつたにすぎない構成である(いずれも成立に争いのない甲第三号証の一および第四号証一の一ならびに前記争いのない事実によると、本件商標はいわゆるゴチツク体であり、引用商標の邦語文字は毛筆書き風の字体であるが太字であつて、両者は酷似する字体であることが認められる。)。このように、三字というきわめて短い少ない字数の文字を横書きにした構成の標章において、観者にもつとも強い印象を与えるものと推認される左側冒頭の文字を同じくし、その書体も酷似し、しかも残余の二文字もその文字自体は同一で字体も酷似し、単に二字目と三字目の順序が入れかわつているにすぎない場合にあつては、とくにこれを離隔的に観察するときは、取引者、需要者間に商品の出所につき誤認、混同を生ぜしめるおそれがあるといえるから、両者は、外観上類似すると認めるのが相当である。(いずれも、成立に争いのない甲第一号証の五および第一号証の八によると、本件商標と同一標章の「キミス」を表示する封筒を用いた郵便が「キスミー」の表示を使用している原告会社に誤配され、原告会社が郵便局に返戻した例のあること、また、「キミス」とすべきところを「キスミ」と誤つて記載されたままの文面で広告された例のあることが認められるが、この事実も、前記判示の相当なことを首肯させるに足りる資料といえるであろう)。 もつとも、成立に争いのない甲第四号証の一の一によると、引用商標においては、「キスミー」の横書きのうち「キス」と「ミー」との間の間隔が「キ」と「ス」および「ス」と「ー」との間の間隔よりも心持ち広いことが認められないわけではないが、叙上書証によつても、その間隔の違いは格段の注意を払わない限りほとんど気付かない程度のものであることが明白であるから、前示認定に影響を及ぼすものではない。また、引用商標には、「キスミ」の三字のほか右末尾に「ー」の長音符号が存することは先に認定したとおりであるが、それ自体としては格別の意、音をもたない長音符号のごときは一般の特に留意しないものであることは経験上明らかであるから、引用商標における「ー」の存在も、先の認定を左右しないものと認めるのが相当である。 すると、本件商標と引用商標とは外観上類似しないとした本件審決はすでに、この点において判断を誤つた違法があり、取消を免れない。 (むすび)三 以上説示したとおり、本件審決はその余の点について判断するまでもなく、違法であるから、指定商品口紅および頬紅を除くものに関する部分の取消を求める原告らの本訴請求は、これを正当として認容することとし、行政事件訴訟法第7条、 民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 服部高顕 |
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裁判官 | 石沢健 |
裁判官 | 奈良次郎 |