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事件 |
昭和
43年
(行ケ)
183号
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1969/09/17 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 原告のため、この判決に対する上告の附加期間を三か月と定める。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は、「昭和四〇年審判第四、八六八号事件について、特許庁が、昭和四三年九月一〇日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は、主文第一、 二項同旨の判決を求めた。 |
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当事者の主張
一 請求の原因原告訴訟代理人は、請求の原因として、つぎのとおり述べた。 (一) 特許庁における手続の経過等 原告は、昭和三八年一二月一八日、特許庁に対し、別紙に示すように英文字でRIP CAPという活字体の文字を横書きした商標(以下「本願商標」という。)について、第一八類瓶、缶、つぼ用のふたおよびせんを指定商品として、商標登録出願をしたところ(昭和三八年商標登録願第五四、四二八号)、昭和四〇年二月一〇日拒絶査定を受けたので、同年七月二二日審判を請求したが(昭和四〇年審判第四、八六八号)、昭和四三年九月一〇日「本件審判の請求は成り立たない。」との本件審決があり、その謄本は同年一〇月二日原告に送達された。なお、右審決に対する訴提起の期間は、三か月を附加された。 (二) 本件審決の理由 本件審決の理由を移記すれば、つぎのとおりである。 本願商標はセンチユリー・ボールド体にて「RIP CAP」の欧文字を左横書してなり、第一八類、瓶、缶、つぼ用のふたおよびせんを指定商品として昭和三八年一二月一八日登録出願がなされたものである。 これに対し、原査定において、本願商標は引き裂くふたを意味するRIP CAPの文字を普通に書してなるに過ぎないから、これをその指定商品中「引き裂いて使用するふた」に使用するときは用途、用法を表示するものと認めるから商標法第3条第1項第3号に該当し、前記商品以外の商品に使用するときは商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるから、同法第4条第1項第16号に該当するとしてその登録を拒否したものである。 よつて按ずるに、本願商標はその構成上記のとおり「RIP」の文字と「CAP」の文字を組合(結合)せて成るものであるが、英語知識の普及している今日において、「RIP」の文字は「裂く」「切り開く」「裂き取る」「剥がし取る」等の意味を有する英語であること辞書を繙くまでもなく明らかなところであり、また「CAP」の文字は「ふた」「被りもの」「口金」等を意味する英語であること、 この語が一般に日本語化して使用せられていることより明白である。しかも、本願商標「RIP CAP」の文字はこれを一連不可分に称呼、観念しなければならない何等の根拠もないから、本願商標「RIP CAP」からは「ふたを剥ぎ取る構造よりなる缶」または「裂き取る構造の壜の口金(せん)」等を直感させると判断するのが相当である。 したがつて、その指定商品中上記商品に使用するときは単に商品の用途、用法を表示するに過ぎず、前記商品以外の商品に使用するときは取引者需要者は恰も該商品が「ふたを剥ぎ取る構造の缶」または「裂き取る構造の壜の口金(せん)」であるかの如くその品質について誤認を生じさせるおそれが多分にあるものといわなければならない。 故に本願商標は商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号に該当するものとしてその登録を拒否した原査定は正当であつてこれを取り消す理由のないものである。 なお請求人(出願人)は本願商標はアメリカ合衆国において既に登録されているものであるから、商標法第3条第1項第3号に該当することなく登録せられるべきであると、その事実を立証して主張するところがあるけれども、商標権は使用により発生するとの前提に立つ使用主義のアメリカ合衆国の商標制度とは異り、商標権は登録により発生するという主義を採用するわが国の商標制度のもとにおいて、その登録要件とする自他商品識別標識としての機能において上述のとおり需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものと認められる以上、たとえアメリカ合衆国において登録せられたとしても、その制度との相違により、わが国における判断に何等影響を及ぼすものでないので、この点についての請求人の主張は採用できない。 (三) 本件審決の取消しを求める理由 本件審決は、つぎのとおり違法であるから、取り消されるべきである。 (1) 本願商標は、「RIP CAP」という新造語よりなるものであつて、本件審決におけるように、これを「RIP」と「CAP」とに分解したうえ、それぞれの意味を合わせて「ふたを剥ぎ取る構造よりなる缶」または「裂き取る構造の壜の口金」等の意味に解することはできないから、右のように解されることを前提とする本件審決は違法である。 (2) また、とくに「RIP」という語は、英語知識の普及している今日であつても、まだ万人がただちにその意味を解することができるほど日本語化された言葉ではないから、「RIP」の語が「裂く」「切り開く」「裂き取る」「剥がし取る」等の意味を持つ英語であることが明白であることを前提として前記のように判断した本件審決は違法である。なお、被告は、「RIP CAP」の英文字は「剥ぎ取られるふた」を直観させるものである旨を主張するが、「剥ぎ取られるふた」等を意味する言葉としては、「Tear off seal」または「Disposable seal」と表現するのが、通常の英語知識を有する者にとつて普通であるから、被告の右主張は誤りである。 (3) さらに、本願商標と同一の「RIP CAP」の英文字よりなる商標は、 アメリカ合衆国において一九六五年(昭和四〇年)一一月三〇日に商標登録されたほか、あわせて二二か国で商標登録を受けているところ、これらの国の大多数では、日本国におけると同様に商品の品質等を表示する商標は登録を受けることができないとされているのであつて、この点からみても、本願商標が単に商品の品質、 用途等を表わすものでないことは明白であるから、これと異なる見解に立つ本件審決は違法である。 二 請求の原因に対する答弁 被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、つぎのとおり述べた。 (一) 請求の原因(一)および同(二)の事実は認める。 (二) 同(三)の主張は争う。 (1) 同(三)の(1)および(2)に対して。 現在においては英語の知識が普及しているので、本願商標中の「RIP」の文字については、「裂く」「引き裂く」等の意味が世上一般に現解されるところであり、もともとその語は普通の辞書に記載されてある。また、その「CAP」の文字についても、「ふた」、「被りもの」等の意味が同様に理解されるところであることは言をまたないし、その語が、商品「ふた」および「被りもの」を指称する場合に、一般に「キヤツプ」と呼称され、これは、むしろ、日本語化されているものである。 一方、われわれの日常生活上の需要を満たすべき飲食品の缶、瓶等の容器類の「ふた」または「口金」についてみるに、「缶」については、切取鍵(これは、缶底などに附着されてある。)をもつて、「ふた」となるべき部分と一体になつている缶体の上部の一部(幅狭)を横に剥ぎ取るように巻き取ることによつて、その部分が分離されて「ふた」になるもの、また、「ふた」等については、「びん」の口の上部より下方の周辺にわたつて「かぶりもの」のように被覆されてあるプラスチツクが裂き取られるもの、さらには、同巧の金属箔よりなるもの等が実際に使用されていることが明らかである。 そうであるので、「RIP CAP」の欧文字よりなる本願商標は、看者をして、その指定商品との関係にまつまでもなく、もとより、原告の主張するような新造語として看取されるものではなく、あくまでも、「剥ぎ取られるふた」「剥ぎ取られるキヤツプ」または「剥ぎ取るふた」等の意味を直観させるものであるというを相当とする。 してみれば、本願商標は、これをその指定商品中前記のような構造を有する瓶、 缶等のふたおよびせんに附して使用するときは、単に該商品の品質、用法等を表示するにすぎず、前記のような構造を有しない瓶、缶等のふたおよびせんに附して使用するときは、取引者および需要者をして、あたかも該商品が「ふたを剥ぎ取る構造の缶」または「裂き取る構造の壜の口金(せん)」等であるかのように、商品の品質について誤認を生じさせる虞が必定であるといわなければならない。 (2) 同(三)の(8)の主張に対して。 本願商標と同一の商標が原告主張のようにアメリカ合衆国において登録されていることは認めるが、このことは、本件審決の理由にあるとおり、本件審決の判断に影響を及ぼすものではない。原告主張のその余の国で同様の商標が登録されたことは知らない。 |
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証拠関係(省略)
理 由一、請求の原因(一)および(二)の事実については、当事者間に争いがない。 二、そこで、本件審決の違法性の有無について判断する。 (一) 前記争いのない事実によれば、本願商標は、別紙に示されるようにRIP CAPという活字体の英文字を普通に横書きしてなるもので、その「RIP」の文字と「CAP」の文字との間には、少なくとも一字分以上の間隔が置かれており、両者は単に連記してあるだけで、その間に一体性ないし不可分性を示す格別の外形的構成は何ら示されていないことが明らかである。そして、このことと後記のように「RIP」の語は「引き裂く」等の意味をもつ英語として相当多数の者に、 そしてまた、「CAP」の語は、ふた等を表わす英語として広く一般に、それぞれ知られている独立の語であつて、これらを右のように単に連記しても、それが一連不可分に読まれるとみるべき理由もなければ、またそれが独自の意味を持つ一つの語となつたり、全体が一体的なものとして独自の印象を与えるというようなものでなく、二つの語の単なる併記として印象づけるとみるのが相当であることとあわせ考えれば、「RIP CAP」という本願商標は、その全体が一体として把握されるとみるべきではなく、「RIP」と「CAP」という二つの語からなるものとして一般に受け取られるとみるのが相当である。 (二) ところで、右の「CAP」という語は、つばのない帽子またはそれのように物にはめてかぶせる物、ふた等を意味する英語として、日本語化したともいえる程度に広く一般に知られていることは顕著な事実であり、また、「RIP」の語についてみれば、それは「裂く」「引き裂く」「はぎ取る」「切り開く」等日常語的な意味の、簡単な綴りと発音の英語であつて、英語知識の普及した今日においては、すでに相当に知れており、たとえ右の「CAP」ほどではなく、すなわち原告のいう万人の知るところとまではいえないにしても、しかもなお、決して取引上特種、例外視されるような一部少数の者だけではなく、全体的にはいわゆる少なからざる者、相当多数の者の知るところとなつているとみるのが相当である。さらにまた本願商標の指定商品の取引者、需要者との関係からみると、その指定商品が前記のとおり「瓶、罐、つぼ用のふたおよびせん」であり、これに附せられる本願商標の構成が前記のように別紙の「RIP CAP」であるのに、この「RIP CAP」の「CAP」の語が、あたかも右の指定商品にあたるかぶせるもの、ふた等を意味する語としてあまねく浸透しているところから、この「RIP」の語の意味を知らない者でも、この語が「CAP」を修飾する何らかの意味を持つものであるという印象を受けるものとみるのが自然であり、したがつて、そのことから、容易に、「RIP」の右の意味をせんさく、理解するにいたるであろうことは争えないところというべきである。 (三) 一方、被告主張のとおりのものであることに争いのない検乙第一ないし第三号証および弁論の全趣旨によれば、罐、瓶等のふたまたは口金について、罐体の一部をはぎ取ることによつて罐体の上部が分離されてふたになるもの、瓶の口の上部より下方の四周にわたつて「かぶりもの」のように覆つているプラスチツクあるいは金属箔のせん「口金」が裂き取られるもの等が実際に使用されて審決前から相当広く市場に出廻つていることが認められる。 (四) 以上の事実によれば、前記取引者、需要者の少なからざる者が、本願商標を見た場合には、それを構成する「RIP」および「CAP」の語がそれぞれ前記のような意味を持つものであり、しかも前記認定のような商品が出廻つているところから、本願商標が、この種の「剥ぎ取る構造よりなるふた」または「裂き取る構造の壜の口金」等を意味するものとして、これを理解するであろうことは否定すべくもないところとみられる。 (五) そうすると、本願商標をその指定商品中右のような構造を有するふた、せんに使用するときは、単に商品の用途、用法を普通用いられる方法で表示するに過ぎないものであり、それ以外の商品に使用するときは、取引者、需要者にその商品が右の構造を有するものであるかのように誤認させ、その品質について誤認を生じさせるおそれがあるものといわなければならないから、本願商標は、商標法第3条第1項第3号および第4条第1項第16号により登録を受けることができないものであり、これと同旨に出た本件審決には、何らの違法もないというべきである(附言するに「RIP CAP」の名称が右認定のような用途を示す表示として現在一般に行なわれている事実は、本件においては明らかではないが、たとえ現在その事実はないとしても、かような用途を示す名称は、将来広く使用されるにいたる可能性を多分にもつものといえるから、かようなものについて商標権の設定を認め、権利者の独占的使用を許すことは相当でないと考えられるのであつて、この意味において、右の現在における一般的使用の事実がないことは、本願商標の特別顕著性を否定するの妨げとなるものではない。)。 (六) なお、原告は、RIP CAPという語が新造語であるとして、本願商標を「RIP」と「CAP」とに分けて考察するのは不当であるとか、またこの考察をするにしても「RIP」の語がまだ万人がただちにその意味を理解できる程度にまで日本語化していないとして、審決を非難するが、これらの主張が採用できないことは前記説示に徴して明らかである。原告はまた「剥ぎ取られるふた」等を意味する言葉としては「Tear off seal」等と表現するのが通常の英語知識を有する者にとつて普通であるというが、そうであるとしても、ただそれだけのことから本願商標「RIP CAP」に接した多数の者が、この文字から、右のようなものを印象づけられるとする前記認定は少しも妨げられるものではない(たとえば右のようなものを指称する言葉として「Tear off seal」等の語が、わが国で排他的、支配的に認識、理解されていて、これがため、 右の「RIP CAP」から右のようなものに想到する余地もないとみられるような特段の事情があるならまた別であろうが、かような事実は原告の主張するところでもないし、もとより本件において明らかにされてもいない。)。 さらに、米国その他の国で本願商標と同一の商標が登録されたことを根拠とする原告の主張についていえば、かりにそのような事実があつたとしても、それらの登録は商標制度の異なる外国においてなされたものであり、それらの登録が認められた事情についても明らかではないから、これをもつて前記判断を左右することはできない。 したがつて、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担等につき、行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条、第158条第2項を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 古原勇雄 |
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裁判官 | 武居二郎 |
裁判官 | 楠賢二 |