審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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昭和53ネ1637 | 判例 | 商標 |
平成13ネ5605商標権侵害差止等請求控訴事件 平成14ネ5060同附帯控訴事件 | 判例 | 商標 |
昭和63ワ3368 | 判例 | 商標 |
平成18ワ26725商標権侵害差止等請求事件 平成19ワ15580商標権侵害不存在確認等請求事件 | 判例 | 商標 |
平成15ワ11200商標権侵害差止等請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 識別力 / 出所表示機能 / 品質保証機能 / 質保証機能 / 指定商品 / 周知性 / 著名商標 / 損害額 / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 国内 / 警告 / 判定 / 差止 / 並行輸入 / 外国 / 継続 / 利益額 / |
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事件 |
平成
3年
(ワ)
8439号
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 1993/07/20 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
一 被告は、原告に対し、金一八一万六九〇〇円及びこれに対する平成三年一〇月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 二 原告のその余の請求を棄却する。 三 訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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請求の趣旨
一 被告は、別紙標章目録一記載の標章を付した別紙物件目録一記載の商品を輸入、販売又は頒布してはならない。 二 被告は、原告に対し、金一一三〇万円及びこれに対する平成三年一〇月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
一 事実関係1 原告の商標権 原告は、次の商標権を有しており、その登録商標は別紙標章目録二記載のとおりである(争いがない。以下「本件各商標権」といい、(一)ないし(三)の登録商標を順次「本件商標一」、「本件商標二」、「本件商標三」という。)。 (一) 登録番号 第一四五二九九一号登録日 昭和五六年一月三〇日指定商品 平成三年政令第二九九号による改正前の商標法施行令別表第二八類(以下「旧二八類」という。)酒類(二) 登録番号 第一六五一三二九号登録日 昭和五九年一月二六日指定商品 旧二八類 酒類(薬用酒を除く)(三) 登録番号 第〇六三二四四四号登録日 昭和三八年一二月一九日指定商品 旧二八類 ぶどう酒、発泡ぶどう酒、その他の酒類2 原告の商品表示の周知性(一) 原告はシャンパンワイン等酒類の製造販売を業とするフランス法人であるが、原告の製造販売するシャンパンワインは、その最高級品である「モエ・エ・シャンドン・ドン・ペリニオン」が各国の重要なセレモニーにほとんど必ず供されるなど世界中で愛飲され、一九八九年には全世界のシャンパンワイン販売数量の一五・三パーセントを占め(同社グループ会社のシェアを合わせると一九・四パーセントに達する。)、世界一五〇か国に輸出されている。日本においても、原告の製造販売に係るシャンパンワインは、一九八六年の東京サミットや一九九一年四月のゴルバチョフ・ソビエト大統領来日の際の宮中晩餐会に「モエ・エ・シャンドン・ドン・ペリニオン」が供されたのをはじめ、各種セレモニーから旅客機内におけるサービス、レストラン、ホテル、小規模なパーティーに至るまで幅広く親しまれ、 また、「モエ・エ・シャンドン・ドン・ペリニオン」は世界の一流品を集めた書籍に写真入りで紹介されるなど様々な出版物にも取り上げられている。 (二) 本件商標一、三及びこれらを含む別紙物件目録二記載のフロント・ラベル(但し、「1980」という数字部分は製造年を表示するものであるから、当該シャンパンワインが製造された年によって異なる表示となる。)並びにこれを貼付したボトルの形態は、原告が製造販売するシャンパンワイン「モエ・エ・シャンドン・ドン・ペリニオン・ロゼ・ヴィンテージ」(以下「原告商品」という。)であることを示す表示として国際的に著名であり、後記被告の輸入行為があった平成三年三月一〇日前に、日本国内において広く認識されるに至っていた(以上、甲一〇〜二三、証人【A】)。 3 被告の行為 被告は、業として、平成三年三月一〇日、別紙標章目録一記載の標章(以下「被告標章」という。)を付し、別紙物件目録一記載のボトルに入ったシャンパンワイン「ドン・ペリニオン・ロゼ・ヴィンテージ一九八二年」と称する炭酸ガス含有甘味果実酒(以下「被告商品」という。)三〇〇本を輸入し、一本を輸入食品等分析試験に使用した後、同年三月二八日から同年一〇月ころまでの間、日本国内において計一七三本を販売した。なお、被告は、同年一〇月二〇日、被告商品一二六本を仕入先であるリビエラ・コモディティーズ・リミテッド(以下「リビエラ・コモディティーズ」という。)に返品し、それ以後被告商品の輸入販売をしていない(以上、甲四四、五八の1〜14、乙一、二、四〜八、九の1〜3、一〇の1〜16、 証人【B】)。被告商品の外観は、ボトル及びフロント・ラベルの形態を含め、全体として、原告商品のそれに酷似している(甲四〇、弁論の全趣旨)。 被告は、被告が販売した被告商品の数は計一六〇本であると主張し、被告の平成三年三月分から九月分までの売上伝票(甲五八の1〜14、乙一〇の1〜16)には、右期間の販売本数が一七一本であり、返品が一一本であることを示す記載がある。しかし、被告が輸入した被告商品の総数が三〇〇本であること、及び、被告がそのうち一本を輸入食品等分析試験に使用し、一二六本をリビエラ・コモディティーズに返品したことは前記認定のとおりであるから、被告が販売したか又は在庫として保管している被告商品の数量は、被告の主張よりも一三本多い一七三本となるはずであり、被告は被告商品を一本も費消しておらず、平成三年一〇月以降、原告代理人が被告の在庫を確認した時、倉庫に被告商品の在庫がなかったこと(証人【B】)を考慮すると、被告は右被告商品一三本も日本国内で販売したものと推認せざるを得ず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。 他方、原告は、被告が平成三年三月以降数回にわたり、一〇〇〇本以上の被告商品を輸入し、これを日本国内で販売したと主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。 4 本件提訴に至る経緯(一) 原告の日本輸入総代理店ジャーディン・ワインズ・アンド・スピリッツ株式会社(以下「ジャーディン社」という。)の営業部員は、平成三年六月一二日ころ、大阪府河内長野市のディスカウントショップ「リカーショップあおい」で被告商品が販売されているのを発見し、一本を預り本社に送付した。ジャーディン社は、被告商品の外装等を検査してこれを偽造品と判断し、リカーショップあおいに対し、同月二〇日付で「この度、お預かりいたしましたキュヴェ・ドン・ペリニオン・ロゼは検査の結果をメーカーでありますフランス・エペルネのモエ・エ・シャンドン社に問い合わせたところ、同社の製造したものではないと判明したことをここに確認致します。」という確認書を送付し、同店は、同月二八日、被告に対し、 偽造品の疑いがあるという理由で、被告商品五本を返品した(甲四二、四三、乙一〇の2、証人【A】、【B】)。なお、リカーショップあおいは、被告から被告商品六本を一本当たり三万九〇〇〇円で購入し、うち一本は同月二六日ジャーディン社に仕入価額と同額の三万九〇〇〇円で譲渡し、残余五本を被告に返品した(甲四二、証人【A】)。 (二) 原告は、同年八月九日付内容証明郵便(以下「警告書」という。)により、被告商品が原告商品の悪質な偽造品であり、被告商品の輸入販売行為が本件各商標権を侵害し、不正競争防止法1条1項1号に該当するおそれが高いとして、被告に対し、@被告商品の輸入販売の中止、A仕入先の名称及び所在地、仕入数量、 仕入価格の開示、B本件商品の販売数量、販売価格、販売日時、在庫数量の開示、 C直ちに被告商品を回収し、在庫とともに保管することを請求した。これに対し、 被告は、同月一九日付内容証明郵便(以下「回答書」という。)により、@被告商品は真正商品として輸入、販売したものであり、偽造品であるとの指摘については現在仕入先に調査依頼中であること、A仕入先等の開示の要求には応じかねること、B被告商品が偽造品である証拠を明示してほしいという回答をした(甲二四、 二五)。 (三) 原告は、平成三年九月二〇日、本件訴訟の提起に先立ち、大阪地方裁判所に対し、証拠保全の申立をし、被告が保管する被告商品及びその注文書、荷造り状その他輸入に関する書面(但し、そのうちの仕入数及び仕入額の記載部分)、帳簿類及び納品書のうち仕入数、仕入額、販売数、販売額の記載のある部分の検証を求め、同月二四日、その旨の証拠保全決定を得た。右決定に基づき、同年一〇月一日午後一時三〇分、大阪地方裁判所裁判官及び原告代理人が被告事務所に臨み、右証拠保全手続としての検証に着手しようとしたが、被告は、これらの書類が営業秘密であること、被告の代表取締役社長が出張中であることを理由に検証目的物の提示を拒否したため、右証拠保全手続は実施不能となり終了した(甲二六〜二八)。 二 請求 原告は、被告が被告商品を輸入、販売した行為が、原告の有する本件各商標権の侵害となり、かつ、不正競争防止法1条1項1号に該当することを理由に、被告商品の輸入及び販売の禁止を求めるとともに、損害金一一三〇万円(被告が被告商品の販売によって得た利益相当損害金八五〇万円、信用損害金二〇〇万円、弁護士費用八〇万円)及びこれに対する平成三年一〇月二六日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めた。 三 争点1 被告商品の輸入、販売行為は、本件各商標権の侵害となるか。また、右行為は不正競争防止法1条1項1号に該当するか。 被告の行為は真正商品の並行輸入といえるか(被告商品は原告商品の真正品か偽造品か)。 2 原告の差止請求は認められるか。 被告商品の輸入、販売行為が、本件各商標権の侵害又は不正競争行為に当たる場合、被告が将来その輸入、販売を再開するおそれはあるか。 3 損害賠償請求(一) 被告商品が偽造品であることにつき、被告の過失の有無。 (二) 被告が損害賠償責任を負担する場合、被告が賠償すべき原告に生じた損害の金額 |
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争点に対する判断
一 争点1について1 被告商品が本件各商標の指定商品である旧二八類酒類(薬用酒を除く。)に該当することはいうまでもなく、被告標章には、別紙標章目録一記載のとおり、@その上部に「MOЁT et CHANDON」A中央部に「Dom Perignon」と横書されており、右@部分は本件商標一に、右A部分は本件商標三に類似することは明らかである。また、右@部分は「モエ エ シャンドン」の称呼を生じるものと認められるから、これが本件商標二と類似することも明らかである。 2 被告商品はいわゆる真正商品か 被告は、被告商品は原告商品と出所を同一にするものであり、その輸入、販売行為はいわゆる真正商品の並行輸入に該当し、本件各商標権の侵害にも不正競争防止法1条1項1号にも該当するものではないと主張するので検討するに、証拠(甲七〜九、一二、四〇、四一、証人【A】)によれば、次の事実が認められる。 (一) 原告は、一九八二年製造にかかる原告商品の輸出に当たり、各輸出先国の表示規制に合致するよう六種類のフロント・ラベル(ヨーロッパ各国、アメリカ合衆国、タイ、ベネズエラ、南アフリカ共和国、カナダ)を付しているが(甲七)、 被告商品には、右六種類のいずれとも異なる表示のフロント・ラベルが付されている。 (二) 被告商品は、訴外アイ・エス・エフ株式会社が平成三年三月ころ輸入販売した「ドン・ペリニオン・ロゼ・ヴィンテージ一九八二年」と称する炭酸ガス含有甘味果実酒(以下「アイ・エス・エフ商品」という。)とボトル及びフロント・ラベルの形態がほとんど同一であり、アイ・エス・エフ商品との相違点は、被告商品ではコルクを止めるワイヤーのキャップにピンクで「CUVEE ROSE CUVEE ROSE」と印字されているのに対し、アイ・エス・エフ商品では全く何も記載されていないことだけである。 (三) 原告の資材購入責任者であり、原告商品の外装及び偽造品の鑑定について原告から一切の権限を与えられているアントニー・エルツは、アイ・エス・エフ商品と原告商品のボトル及びフロント・ラベルを比較検討した結果、両者には次の相違点があることから、アイ・エス・エフ商品は原告商品の偽造品であると鑑定している(甲八、九)。 (1) ボトルマーク 原告商品のボトルは全て同一規格のボトルであり、底部に別紙物件目録二記載のとおり「S」を囲ったデザインのボトルマーク(フランスにおけるボトル供給者BNS社のトレードマーク)が付されているが、アイ・エス・エフ商品のボトルの底部には、別紙物件目録一記載のとおり「NV」というボトルマークが付されている。 (2) ボトルの色 原告商品のボトルの色はグリーンと黄色の中間色で半透明であるが、アイ・エス・エフ商品のボトルの色は暗く透明感がない。 (3) ラベルの文字 原告商品では、フロント・ラベル下部の「MOЁT et CHANDON」の文字及び星印に横縞模様があるが、アイ・エス・エフ商品では、これらの中に縞模様が見られず、ほとんど黒く塗り潰されている。 (4) コルクを止めるワイヤーのキャップ 原告商品のワイヤーのキャップにはピンクと赤の中間色で「CUVEE DOM PERIGNON」と印字されているが、 アイ・エス・エフ商品のワイヤーのキャップは茶色一色で文字は何も記載されていない。 (5) ラベルの接着性 原告商品のラベルは通常のラベルであり、手で剥がそうとすると破れてしまうが、アイ・エス・エフ商品のラベルは裏のり付きラベルで容易に手で剥がすことができる。 (四) フランス・シャンパーニュ地方の半官半民の組織であり、シャンパンという呼称の保護、シャンパンワインの分析等を業とするシャンパーニュ職業委員会は、アイ・エス・エフ商品は、ボトル、コルク、コルクワイヤー、アルミニウムホイルのカプセルが原告商品と異なるだけでなく、内容物をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、全てのアミノ酸類、イソブチルアルコール、活性アミルアルコール及びイソアミルアルコール成分が多量に異なり、原告商品とは全く異なるものであると断定している(甲四一)。 (五) シャンパンワインは、一度発酵・醸造を行ったワインをブレンドして瓶に詰め、これを瓶の中で二次発酵させた後、長期間地下の貯蔵庫(カーブ)で熟成させるという工程を経て独特の泡を作り出すため、一旦ボトルに詰められたワインが後で他のボトルに詰め替えられるというのはありえないことであり、通常、ボトルが真正品と異なる物は偽造品であると考えられる。 (六) アイ・エス・エフ商品とボトル及びフロント・ラベルの形態がほとんど同一の偽造品がほぼ同一時期に出回ったが、その偽造品にはワイヤーのキャップに文字の記載のないものと被告商品のように「CUVEE ROSE CUVEE ROSE」と印字されているものの二種類があることが確認されている(証人【A】)。 右認定事実によれば、被告商品は、アイ・エス・エフ商品と出所を同じくする原告商品の偽造品である可能性が極めて高く、他に被告商品が真正商品であることを推認するに足りる証拠はないから(被告は、一貫して被告商品が真正商品であると主張していながら、手持ちの被告商品を全て仕入れ先に返品し、被告商品の真偽を検証するため最も重要な証拠となるその原物や詳細な写真を全く残していない。)、原告又はその関連企業によって被告標章が適法に付されて拡布された真正商品と認めることはできず、その輸入、販売行為は、本件商標一ないし三の出所表示機能及び品質保証機能を害するものとして本件各商標権を侵害するものといわざるを得ない。 また、本件商標一、三及びこれらを含む原告商品のフロント・ラベル並びにこれを貼付したボトルの形態が原告の商品であることを示す表示として周知性を獲得したことは前記(第二、一2)のとおりであるから、原告商品のフロント・ラベルと酷似するフロント・ラベルを貼付し、原告商品のボトルと酷似するボトルに詰められた被告商品を輸入、販売することは、被告商品を原告商品と誤認混同させ、これにより原告の営業上の利益を害することは明らかであり、不正競争防止法1条1項1号に該当する行為ということができる。 二 争点2(差止請求の可否)について1 当事者の主張(原告) 被告には、次のとおり、将来において再び被告商品を輸入、販売するおそれがある。 (一) 本件の背後には、フランスを中心とする大規模な密造団が介在しているが、右密造団によりフランスから出荷された偽造品の総数は明らかではなく、原告が調査した範囲でも出荷先不明のものが大量にある。日本は、現在世界有数の洋酒マーケットとして密造業者の最大の標的となっており、今後それらの行方不明品が何らかの流通ルートを通じて日本に流入してくる可能性は高い。 (二) 被告は、以前にも偽造酒の輸入販売に関与したことがある悪質な並行輸入業者であり、一九八八年一二月、フランスの高級コニャック「ヘネシーVSOP」の偽造品がタイから日本に大量に輸入された時、輸入者である訴外株式会社沖縄センチュリー(以下「沖縄センチュリー」という。)から右偽造酒を仕入れて販売した。 (三) 被告は、平成三年六月、リカーショップあおいから被告商品に偽造品の疑いがあるという指摘を受けて返品に応じ、同年八月九日ころには原告の警告書により被告商品が偽造品である旨警告されていたから、遅くともそのころには被告商品の真否に疑義があることを認識していたにもかかわらず、同年八月下旬、九月にも被告商品の販売を継続した。 (四) 被告は、原告の平成三年八月九日付警告書に対し、被告商品を真正商品として輸入販売しているという誠意のない回答を行ない、同年一〇月一日午後一時三〇分に行われた証拠保全手続においても、対象書類が営業秘密であること、社長が不在であることを理由に検証目的物の提示をかたくなに拒否するなど、本件に関する一連の対応には不誠実極まるものがある。 (被告)(一) 原告の主張は、被告を一方的に悪質な並行輸入業者と決めつけるものであり、憶測に基づく誹謗中傷である。 (二) 被告は、信用を第一に重んじる並行輸入業者として、平成三年六月二八日リカーショップあおいから返品を受けた後は被告商品の販売を差し控え、既に販売された分の回収作業に取りかかる一方、被告商品の真偽について仕入先に問い合わせていた。しかし、回収作業がなかなか進まず、仕入先との連絡にも手間取ったため、結果的に暫時放置する事態となってしまい、右状況において一部社員が被告の方針を理解せずに例外的に販売してしまったのが同年八月二六日以降に販売した三二本であり、その販売回数は同年八月二六日、九月一九日、九月二〇日の三回だけである。 (三) 原告の警告書は、被告商品を一方的に偽造品と決めつけ、輸入販売の中止、仕入先名等の開示、販売数量等の開示、被告商品の回収保管等を要求する内容であったが、被告はあくまで真正商品を輸入しているものと信じており、偽造品である根拠を明示されることなく並行輸入業者としての死命を制せられることになる情報を開示することはできなかったため、原告に対し、開示要求には応じかねる旨返答するとともに、被告商品の真否に関する証拠の開示を求めたのである。被告の応対は、自己の取扱商品に偽造品の疑いをかけられた並行輸入業者として誠実なものであり、かかる被告の要請に対し何らの返答もしないまま、いきなり証拠保全手続を取る原告の対応こそ不誠実である。 また、被告が平成三年一〇月一日証拠保全の検証目的物の提示を拒否したのは、 並行輸入業者である被告にとって、仕入先、仕入数量、仕入価格、販売数量、販売価格、販売日時等は重大な企業秘密であること、これを開示するか否かを最終的に決定する権限を有する被告代表取締役社長が出張中であったためである。 2 判断(一) 被告は、前記第二、一4のとおり、平成三年六月二八日にはリカーショップあおいから被告商品に偽造品の疑いがあるという指摘を受けて被告商品を返品され、また、同年八月中旬ころには原告から警告書を送付されていたのであるから、 遅くとも同年八月中旬ころには、被告商品の真正に疑義があることを認識していたものと推認されるところ、前記第二、一3及び証拠(甲五八の1〜14、乙一〇の1〜16)によれば、被告は、右警告書を受領した後も被告商品の販売を継続し、 同年八月二〇日以降少なくとも計三二本を販売していたことが認められ、自ら信用を第一に重んじる並行輸入業者と主張するには若干誠実さに欠ける対応があったものと言わざるを得ない(証人【B】の証言中には、被告はリカーショップあおいからの返品を受けた同年六月二八日以後被告商品の販売を差し控え、既に販売された分の回収作業に取りかかる一方、その真否について仕入先に問い合せていたという部分があるが、右証言は、同年六月二八日以降の被告の売上伝票に被告商品の返品の記載が全くないこと、被告が受けた一一本の返品のうちリカーショップあおいからの返品を除く六本は、被告商品に偽造の疑いが生じる前の同年四月一二日のものであることに照らし、採用することができない。)。 しかし、被告が平成三年一〇月二〇日に被告商品一二六本をリビエラ・コモディティーズに返品して同社との取引を停止し、現在被告商品の在庫を有していないことは前記第二、一4のとおりであるから、被告が将来において再び本件各商標権を侵害するには、新たに原告商品の偽造品を輸入する必要があると考えられる。原告商品の偽造品は、平成二年一二月ころから日本、アメリカ、シンガポール、香港等に約二万本輸出され、現在も全ての流通経路は解明されていないことから、今後、 出荷先不明の偽造品が何らかの経路を通じて日本に流入する危険性があることを否定することはできないが(以上、甲四五〜四七、弁論の全趣旨)、右偽造事件の発生から約二年半が経過した現在においては、むしろ、これらの出荷先不明の偽造品の多くが既に費消されている可能性が高く、これらの偽造品を密造した偽造業者らは一九九一年(平成三年)一〇月にフランスで逮捕され、捜査機関による事件の解明が進められていること(以上、甲四五〜四七、証人【A】)に加え、被告は約一八年間にわたり洋酒等の並行輸入を行っている業者であり、偽造品を扱っているという風評が立つことにより会社の信用が毀損されるのを懸念していること(以上、 証人【B】)に鑑み、被告が将来において敢えて原告商品の偽造品を輸入、販売すると考えることは現実的でなく、その可能性は実際には極めて低いものと認めざるを得ない。 (二) 原告は、原告の警告書及び証拠保全手続に対する被告の対応が不誠実極まるものであるから、被告には将来再び原告商品の偽造品を輸入、販売するおそれがあると主張するが、平成三年八月中旬から一〇月初めの時点では、リカーショップあおいからの返品及び原告の警告書によって被告商品が偽造品との指摘を受けたとはいえ、被告には被告商品が偽造品であることの根拠が未だ開示されていなかったのであるから、被告商品を真正品と信じて輸入した被告が、原告(商標権者)からの警告だけでは納得せず、さらに被告商品が偽造品であることの証拠を要求することも無理からぬところであり、被告がいわゆる並行輸入業者であり、日本総代理店であるジャーディン社を通さずに「ドン・ペリニオン・ロゼ・ヴィンテージ一九八二年」を並行輸入することを企図していたことに鑑みれば、被告商品の仕入先、仕入数量、仕入価格、販売数量、販売価格、販売日時等は、被告にとって重大な営業秘密であること、右証拠保全決定は、被告に弁明等の機会を全く与えておらず、原告の一方的な疎明に基づいて決定され、被告は決定書の送達後短時間のうちに検証目的物の提示を求められたものであり、その当時被告商品が偽造品であることの証拠が未だ被告には開示されていなかったことに照らせば、被告が平成三年一〇月一日の証拠保全手続において、帳簿類等の書類が営業秘密であること等を理由に検証目的物の提示を拒否したことも、特に不誠実な対応であるとはいえない。 右事情を考え併せれば、被告の平成三年八月から一〇月時点における対応が、被告が将来において再度被告商品を輸入して日本国内で販売するおそれに直ちにつながるとは認め難い。 (三) また、原告は、被告が過去に偽造品の輸入、販売に関与した悪質な並行輸入業者であるから、再び被告商品を輸入、販売するおそれがあると主張するところ、証拠(甲三〇〜三三、証人【B】)によれば、昭和六三年一二月、沖縄センチュリーがタイから輸入したヘネシーVSOPに偽造品が大量に混入していたのが判明し、同社に対し、東京税関による押収、事情聴取が行なわれたこと、被告は、当時沖縄センチュリーからヘネシーVSOPを購入してダイエー等のスーパーマーケットに卸売りしていたことから、東京税関により倉庫で現物を検査され、関係書類を押収されるなどの調査を受けたことが認められるが、他方、被告が右事件について関税法違反等に基づく処分を受けていないことを考慮すると(以上、乙三、証人【B】)、被告が前記ヘネシーVSOPに偽造品が含まれていることを認識して、 故意にこれを販売していたとは推認することができず、他にこれを窺わせる事情もないから、右事実をもって、被告が再度本件各商標権を侵害するおそれがあると認めることもできない。 (四) 右事情に鑑みれば、結局、被告が将来において被告商品を再度輸入、販売するおそれがあると認めることはできず、被告商品の輸入、販売の禁止を求める原告の請求は理由がないというべきである。 三 争点3(損害賠償請求について)【過失の有無】1 当事者の主張(被告) 仮に、被告商品が偽造品であったとしても、被告は、その輸入販売に当たり、並行輸入業者として通常要求される注意義務を尽くしたものであり、次の諸点を考慮すれば、被告商品の輸入、販売について過失がなかったと認められるべきである。 (一) 被告商品は、日本国内にはかつて一度も輸入されたことがない一九八二年物のシャンパンワインであり、偽造品であるかどうか比較すべき対象が国内にはなかった。 (二) 原告が主張する被告商品と真正品の相違点には、ボトルの色、キャップの印字、ラベルの接着性などのように判断基準が主観的で不明確なものが多く、客観的にも真正品か偽造品かの区別が困難であった。 (三) リビエラ・コモディティーズは、以前から被告に酒類を納入していた業者であり、それまで同社から輸入した商品に関して偽造問題が発生したことはなかった。 (原告) 日本が世界有数のブランド洋酒のマーケットであり、密造業者にとって最大のターゲットであること、一般に偽造品は並行輸入業者を通じて輸入されることを考慮すれば、並行輸入業者としては、洋酒の輸入に際し、実際に商品を手にとって外観をチェックするとともに、試飲して味を確認するといった慎重な検査を行い、真正品であるかどうかを十分調査すべき注意義務がある。原告商品と被告商品の相違点からすれば、被告商品が偽造品であると判断し、又は、偽造品であるかもしれないと疑うことは容易であったから、被告に過失があることは明らかである。 2 判断(一) いわゆる並行輸入は、外国の著名商標商品を輸入するに際し、その著名商標権者に関係のある日本国内の輸入総代理店等を通さないで、外国の総代理店その他の卸業者等から外国においてその著名商標を適法に付されて拡布されたものを輸入するものであり、これらの外国商品の内外の価格差を利用して、同種・同品質の商品を国内総代理店等より安価に販売することが可能になり、広告費等も必要としないため、輸入業者にとって利益があるが、しかし、その反面、並行輸入には、偽造商品を輸入する危険が常にあり、ことに、現在、日本が世界有数の高級外国著名商標商品の消費国となり、各種偽造業者の標的となっているという事情に鑑みれば、並行輸入業者には、たとえ真正品を輸入したと考えていても、誤って偽造品を輸入してしまうことがないとはいえず、常にそのようなリスクを負っているといわざるを得ない。したがって、並行輸入業者たる被告としては、外国著名商標商品の輸入に当たり、偽造品の輸入をしないため、仕入先の信用状況を十分に調査し、また、当該商品を自らの管理下に置いた時点でそれが偽造品でないかどうかを厳重に検査すべき注意義務があるというべきである。 (二) 証拠(甲四〇、証人【A】)によれば、原告商品は、非常に高品質のぶどうが収獲された年に限り製造される希少価値のあるシャンパンワインであり、世界中でも多数は存在しない商品であるため、通常の場合これを並行輸入で手に入れるのは困難であること、平成三年三月当時、ジャーディン社は日本国内で原告商品を販売していなかったが、ボトル及びフロント・ラベル等の外装が同一の「ドン・ペリニオン・ロゼ・ヴィンテージ一九八〇」(以下「一九八〇年物」という。)を販売しており、並行輸入された商品が偽造品であるかどうかは、一九八〇年物と外装を比較すれば判定することが可能であったこと、現実にも、被告商品と同種の偽造品について、輸入した際に箱から商品を取り出して検品したところ、外見上真正品と異なるのではないかと疑問を抱き、実際にボトルを開けて見て偽造品と気付いた輸入業者や、外見等から偽造品ではないかと疑問を持った一般消費者が存在することが認められ、当時、輸入業者にとって、被告商品を偽造品であると判断するか、 又は偽造品であるかもしれないと疑うことはそれ程困難ではなかったものと推認される。 他方、証拠(証人【B】)によれば、被告は、平成二年ころリビエラ・コモディティーズからファクシミリ送信で一方的に取引の申込みを受け、右送信に記載のあった同社の経歴をそのまま信用して洋酒の輸入を開始し、本件以前にも数回取引をしたが、その際、特に同社の信用状況等を調査してはいないこと、被告は、取引業者との最初の取引の時は慎重に商品検査をするが、二回以上取引が続いた場合は商品が真正品であるか偽造品であるかは調査せず、商品が税関を通過して保税倉庫に納められた時点で、カートンを開けてボトルを取り出し、外装を見てラベルの表示、アルコール度数、容量等に間違いがないかどうか確認しただけであること、被告は、小売店に販売する前に中身を試飲することはなく、賞味期間内であれば検査をせずに出荷しており、被告商品に関しても偽造品であるかどうかの検査を全く行わなかったことが認められる。 右によれば、被告が被告商品の輸入販売に当たり、偽造品を輸入する危険を常に負担している並行輸入業者として通常要求される注意義務を尽くしていないといわざるを得ず、したがって、被告には、被告商品の輸入販売について過失があったと認めざるを得ない。 【被告が賠償すべき損害金額】1 当事者の主張(原告)(一) 被告が被告商品の販売により得た利益相当損害金 八五〇万円 被告商品の小売価格は、少なくとも一本当たり三万九〇〇〇円であり、なかには四万円を超える物もあるが、一本当たりの仕入額は日本円にして三万〇八七〇円であるから、一本当たりの販売利益は販売費用等の諸経費を差し引いても八五〇〇円を下回らない。したがって、被告が被告商品の販売により得た利益は、一本当たり最低利益額八五〇〇円に最低販売本数一〇〇〇本を乗じた八五〇万円を下らない。 (二) 信用損害金 二〇〇万円 被告の商標権侵害行為及び不正競争行為は、原告が多大な投資及び宣伝活動によって作り上げてきた本件商標一ないし三のイメージ、識別力を低下させ、一般消費者を吸引する力を著しく減殺した。また、被告が粗悪な偽造品である被告商品を多数輸入し、これを真正品として販売したことにより、原告が長年にわたる努力の結果築き上げた原告商品の品質保証機能、商品としての高いプレステージが著しく低下させられた。 原告は、被告の右行為により、その信用を著しく害されたものであり、これによる損害は二〇〇万円を下らない。 (三) 弁護士費用 八〇万円 原告はフランス法人であるが、被告の商標権侵害行為及び不正競争行為により、 やむなく日本人弁護士を訴訟代理人として依頼せざるを得ず、本件訴訟遂行のために要した弁護士費用は八〇万円を下らない。 (被告)(一) 被告が被告商品の販売により得た利益金額 被告商品一本当たりの販売利益は約五一〇〇円であるけれども、被告商品の販売により被告が得た総売上高は六〇四万二〇〇〇円に過ぎないのに対し、被告は、被告商品三〇〇本分の売買代金九二六万一〇〇〇円、送金手数料五四〇〇円、税金三三万七四〇〇円(計九六〇万三八〇〇円)を支払ったほか、回収済みの被告商品一二六本の返品費用として四四万四七三六円を支払っており、結局、被告は被告商品の販売により利益を全く得ていない。 (二) 信用損害金について 被告の被告商品の輸入販売行為によって、原告の信用は何ら害されていない。 2 判断(一) 被告商品の販売により得た利益相当損害金 証拠(乙五、六、九の1〜3、一〇の1〜16)によれば、被告商品の販売価格は一本当たり三万六〇〇〇円から三万九〇〇〇円であり、平成三年三月二八日から同年九月二〇日までの販売分(証拠上認定できるもの。)を平均すると一本当たり三万七七六二円となること、被告商品の仕入価格は日本円にして一本当たり三万〇八七〇円(仕入代金の現実送金時の一ドル=一三七・二〇円のレートで換算した額)であり、一本当たりの税(関税、酒税、消費税)及び手数料は一一四二円(税、手数料合計三四万二八〇〇円÷輸入本数三〇〇本)であることが認められ、 右一本当たりの販売価格から仕入価格及び税、手数料を引いた価格五七五〇円に倉庫料、運送料、人件費等の諸経費を考慮すると、被告商品一本当たりの販売利益は五三〇〇円を下回らないものと推認される。 したがって、被告が被告商品の販売により得た利益金は、被告が販売したと認められる一七三本に五三〇〇円を乗じた九一万六九〇〇円であると認めるのが相当である。そして、商標法38条2項により本件商標権一ないし三を侵害した前記被告行為により原告は右利益金額と同額の損害を受けたと推定されるし、不正競争防止法1条1項1号に該当する前記被告行為により原告は右利益金額と同額の損害を受けたものと推認するのが相当である。 なお、被告が支払った返品商品分の仕入代金、返送運賃、税金等が被告の負担になっているとしても、それは偽造品を過失により輸入した被告が当然負担すべき損失であり、右販売利益からこれを控除することは許されない。何故ならば、被告商品の販売により原告が受ける損害は、被告の現実の販売により被告が受けた利益と対応するものであるが、被告がその他の面で損失を受けても受けなくても原告が被告商品の販売により受ける損害とは関係がないからである。 (二) 信用損害金 証拠(甲四五、四六、証人【A】)及び弁論の全趣旨によれば、被告商品との同一の出所と考えられる原告商品の偽造品は、普通のワインに炭酸を入れて人工的に泡を作ったもので、真正品と比較して泡の粒が大きく、かなり味が落ちることが認められ(証人【B】は、消費者から被告商品の味についてクレームが寄せられたことはないから、被告商品は偽造品であったとしても品質が悪いものではなかったと証言するが、右証言は、同証人自身が被告商品を試飲していないことに鑑みて、俄かに採用することができない。)、かかる品質の劣る被告商品が日本国内において販売されることにより、原告商品の持つ最高級シャンパンとしての信用が低下し、 原告が前記財産上の損害の賠償のみでは償いきれない無形の侵害を被ったことは明らかである。 本件に現われた諸般の事情を考慮すると、その信用毀損による損害額は、六〇万円と認めるのが相当である。 (三) 弁護士費用 弁論の全趣旨によれば、原告は、本訴の追行を日本の弁護士である原告訴訟代理人らに委任したことが認められるところ、被告の行為の態様、訴訟追行の難易、認容額等本件訴訟に現れた諸般の事情を考慮すると、被告の商標権侵害行為及び不正競争行為と相当因果関係のある損害となるべき弁護士費用は三〇万円と認めるのが相当である。 |
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結論
以上によれば、原告の本訴請求は、被告に対し、本件商標権及び不正競争防止法1条1項1号に基づき、金一八一万六九〇〇円及びこれに対する平成三年一〇月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるが、その余の部分については理由がない。 |
裁判官 | 庵前重和 |
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裁判官 | 小澤一郎 |
裁判官 | 阿多麻子 |