審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成15ワ11200商標権侵害差止等請求事件 | 判例 | 商標 |
平成12ワ366商標権侵害による損害賠償請求事件 | 判例 | 商標 |
平成14受1100損害賠償,商標権侵害差止等請求事件 | 判例 | 商標 |
昭和53ネ1637 | 判例 | 商標 |
昭和63ワ3368 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 独占的使用 / 包装 / 出所表示機能 / 品質保証機能 / 質保証機能 / 識別機能 / 指定商品 / 指定役務 / 混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) / 不使用 / 権利濫用(権利の濫用) / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 国内 / 専用権 / 禁止権 / 差止 / 並行輸入 / 類似範囲 / 使用許諾 / 不使用取消審判 / 継続 / 商号 / |
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事件 |
平成
2年
(ワ)
3599号
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 1993/02/25 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
一 原告の請求をいずれも棄却する。 二 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求の趣旨
一 被告は、別紙第二目録記載の標章を付したTシャツ、ショーツ及びパンツを販売し、販売のために展示し、その包装紙、広告、パンフレットに右標章を使用してはならない。 二 被告は、その本店、支店、営業所及び倉庫に存する前項記載の標章を付したTシャツ、ショーツ及びパンツ並びにその包装紙、広告、パンフレットを廃棄せよ。 三 被告は、原告に対し、金二五二万円及びこれに対する平成二年五月二三日(訴状送達日の翌日)から支払ずみまで年五分の割合による金員(民法所定の割合による遅延損害金)を支払え。 |
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事案の概要
一 事実関係1 原告の権利 原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有している(争いがない。)。 (1) 出願日 昭和四七年七月二一日(昭四七―一〇一一八〇)(2) 出願公告日 昭和四九年一二月五日(昭四九―〇七一三四八)(3) 登録日 昭和五八年八月三〇日(4) 登録番号 第一六〇八七六〇号(5) 指定商品 平成三年通商産業省令第七〇による改正前の商標法施行規則別表第一七類(以下「旧第一七類」という。)被服、その他本類に属する商品(6) 登録商標 別紙第一目録記載のとおり2 被告の行為 被告は、業として、別紙第二目録記載の標章(以下「被告標章」という。)を付したTシャツ、ショーツ及びパンツ等(以下「被告商品」という。)を、平成元年四月下旬頃から平成二年五月下旬頃までの間に合計二五二三枚輸入し、これを日本国内において平成元年五月上旬頃から遅くとも平成四年二月までの間に販売した(乙六〜八、二〇〜三七、四六の1の1・2、四六の2の1・2、四六の3〜9、 四八の1の1・2、四八の2・3、四八の4の1・2、四八の5〜8、四八の9の1・2、四九の1〜10、五〇の1〜6、被告代表者)。 3 被告商品は、適法に米国内において商標を付されて拡布され、正規の手続を経て米国内から我が国に輸入された商品 被告商品は、米国から輸入したものであり、いずれもほぼ別紙第三目録記載のとおり(基本的には同目録と同一であるが、物品により自動車の形状や彩色が若干違うものがある。)、被告標章「JIMMY’Z」(但し、末尾に小さく(R)のマークが付加されている。)に加えて、その上部に自動車の図形(下部右側に小さく「(C)1984」の記号と文字が付加されている。)が組合わされた結合標章(以下「米国商標」という。)が付されている。 米国商標のうち、「JIMMY’Z」(被告標章)部分は、@一九八六年九月三〇日、【A】が米国特許商標局において国際分類品目番号二五・米国分類品目番号三九 シャツ、ショーツ、パンツ等を指定商品として登録(登録番号一四一一三九〇号)を受け、一九八七年カリフォルニア州法人JIMMY’Z TRADINGINC.にこれを委託した商標と、A一九八八年五月三一日同法人が米国特許商標局において右同分類品目番号紳士婦人用アパレル、スポーツウェア、特にシャツ、 トップス、Tシャツ等を指定商品として登録(登録番号一四九〇二五六号)を受けた商標と、いずれも同一である。また、米国商標のうち、自動車の図形部分は、一九八八年一〇月一一日右法人が米国特許商標局において右同分類品目番号 紳士婦人用アパレル、スポーツウェア、特にシャツ、トップス、Tシャツ等を指定商品として登録(登録番号一五〇八二五二号)を受けた商標と一部彩色の点を除き同一である(前記(R)マークは、この商標登録を示すものと認められる。)。 米国商標を付したスポーツ衣料品は米国において著名であり、被告商品は米国商標の権利者ないしその関連企業により適法に米国内において米国商標を付されて拡布され、正規の手紙を経て米国内から我が国に輸入された商品である。 (以上、乙一の1・2、二の1・2、三、四、五の1〜4、三八〜四五、四六の1の1・2、四六の2の1・2、四六の3〜9、四七、四八の1の1・2、四八の2・3、四八の4の1・2、四八の5〜8、四八の9の1・2、四九の1〜10、 五〇の1〜6、被告代表者)4 米国商標の我が国出願と拒絶査定 昭和五九年一二月二一日、米国カリフォルニア州法人から特許庁長官に対し、被告標章と同一内容の、肉太の書体の「JIMMY’Z」の文字とその上部に自動車の図形とを組合せた別紙第四目録記載の標章((R)マーク及び「(C)1984」の記号と文字が存在しない点と彩色の一部が異なる点だけが米国商標との相違点)について、指定商品を旧第一七類 被服(運動用特殊被服を除く。)布製品身回品(他の類に属するものを除く。)および寝具類(寝台を除く。)とする商標登録出願がされたが、特許庁審査官は、右出願商標が本件商標と類似することを理由に、昭和六一年五月三〇日拒絶査定をし、右拒絶査定は確定した。 右商標登録願の出願人の氏名欄には「【B】」と、また、代表者欄には「【C】」と記載されており、右出願人及び代表者は米国商標の前記権利者と同一人・同一法人ないしこれらの関連法人と推認される。 (以上、甲一二〜一四、乙二の1・2、弁論の全趣旨)5 原告の営業 原告の父【D】は、昭和三四年三月二四日、各種繊維製品販売及び各種寝具用品販売等を目的とする株式会社鶴屋(平成三年四月三〇日「株式会社ジミーズ」に商号変更)を設立し、その後息子の原告がその経営を引き継いだが、同社(実質的には原告)は、昭和四六年頃以降本店店舗では「ジミーズ」「<09680-001>」の営業表示を使用してジーンズ、Tシャツ、トレーナー等の販売店を経営するとともに、同区内の別の場所にも店舗を経営している。 前記のとおり米国商標について日本における登録の拒絶査定を受けた米国ジミーズ社から原告に対し、本件商標について不使用取消審判請求がされたり(平成元年二月二日不成立の審決確定)、同社若しくは同社が実質的にその経営傘下に入ったとみられる米国オーシャンパシフィック社から本件商標権買取の申出がなされたりしたが、結局原告はこれらにいずれも応じなかった。 (以上甲一九、原告本人) なお、原告は甲第一五号証の2・3の写真の被写体のような本件商標を付した商品を販売している旨主張するが、被告の社員が、平成三年七月四日、被告代表者から、実質上原告経営の前記二店舗において、本件商標を付した商品及び米国商標を付した商品のそれぞれについて、販売の有無を確認し、販売している場合にはそれを買い受けたうえ領収証を受領することと店舗の写真撮影をすることを命ぜられ、 右各店舗に赴いたところ、米国商標を付した商品は販売されていたが、本件商標を付した商品は店頭に存在せず、同人がその購買を求めたのに対し、応対した店員はこれを販売していない旨発言したし、被告商品の販売により本件商標を付した商品の売上減少が懸念される旨を記載した甲第三号証(報告書)を当裁判所宛てに提出している株式会社マニューバーラインの店舗について、平成二年七月三一日に被告訴訟代理人が、平成三年九月一一日に被告社員が、それぞれ調査した結果も、原告店舗におけるそれと同様であった。原告が現在本件商標を付した商品を業として販売しているとは認め難い。 (以上、乙九の1〜4、一〇〜一二、一三の1〜3、一四〜一六、被告代表者、弁論の全趣旨)6 原告の米国商標品の販売等 原告は、昭和六三年五月頃、スポーツ衣料品等の輸入販売業者の株式会社ストークド(以下「ストークド」という。)から、同社が米国商標を付した商品(「米国商標商品」という。)を輸入販売することを許諾してほしい旨の申込を受けてこれを承諾し、その頃ストークドとの間に二年間の契約期間で、原告がストークドの米国商標商品を販売することに異議を述べないこと(以下「禁止権不行使合意」という。)の代償として、同社が原告に対し一か年当り一五〇万円を支払う旨の契約を締結し、その後同契約は更新された。そして、原告は、同契約締結直後頃から自らストークドが米国から輸入した米国商標商品を同社から仕入れ、前記店舗の店頭に並べてこれを販売した。 ストークドは、大阪市平野区内でスポーツグッズ・小物類の販売店を経営する株式会社マニューバーライン等の小売業者に米国商標品を販売し、これを仕入れた小売業者は一般に販売した。しかし、ストークドが平成四年三月頃倒産したため、原告は同年七月六日ストークドに対し同契約の解約を通告した。 (以上、甲一、二、一九、二〇、二八の1・2、二九、乙一七〜一九、原告本人)7 被告商品と米国商標商品との関係 ストークドが販売していた米国商標商品も米国商標の権利者ないしその関連業者により適法に米国内において米国商標を付されて拡布され、正規の手続を経て米国内から我が国に輸入された商品であり、被告商品と米国商標商品は根源的には出所を同一とするものであって、品質においても差異はなく、いずれも米国商標が付された商品として販売された(3項掲記の証拠、甲一〇、一一、一九、乙九の1〜4、一〇〜一二、一三の1〜3、一五、一六、原告本人、弁論の全趣旨)。 二 請求の概要被告商品の販売が本件商標権の侵害となることを理由に、 1 被告標章の使用及び被告商品の販売等の禁止、侵害組成品(被告商品及び包装紙等)の廃棄2 被告商品の販売により原告が被った営業上の損害二五二万円(主位的に、商標法38条1項に基づき被告が被告商品の販売により得た利益相当損害金、予備的に、同条二項に基づき本件商標の通常使用許諾料〈売上高の七%〉相当損害金)の賠償を請求。 三 争点1 被告標章は本件商標に類似するか。 2 原告の本訴請求は許されないか。 (一) 被告の行為は実質的にはいわゆる並行輸入品の販売と同視できるか。 (二) 本件商標権の禁止権は消滅(失効ないし放棄)したか。 (三) 本訴請求は権利の濫用に該当するか。 3 被告が損害賠償責任を負担する場合、被告が賠償すべき原告に生じた損害の金額 |
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争点に対する判断
一 争点1(被告標章と本件商標の類否)1 被告商品が、本件商標の指定商品である「旧第一七類被服、その他本類に属する商品」に該当することは明らかである。 2 本件商標は、別紙第一目録記載のとおり、「ジミーズ」の片仮名文字を肉太の書体に若干の修正を施しただけの平凡な字体で単純に横書きし、そのうち「ジ」と「ズ」の濁点をいずれも「☆」印と置き換えた構成からなるものであり、そこからは「ジミーズ」の称呼を生ずることが明らかである。一方、被告標章は、英語の大文字「JIMMY’Z」を、一部除いて肉太の書体に修正し、一部を空白としただけの、平凡な字体で単純に横書きしたものであり、現時の我が国の英語に対する理解度からみれば、「ジミーズ」又は「ジミーゼット(ド)」と発音されることが通常の知識を有する国民に容易に理解されると認められるから、被告標章からは、 「ジミーズ」又は「ジミーゼット(ド)」の称呼を生じるものと考えられる。したがって、被告標章は、本件商標に類似するということができる。 3 被告の主張について 被告は、@ 被告標章中、「JIMMY」部分は「ジミイ」と発音されるべきであり、母音「イ」部分は明らかに短音である、また「’Z」部分の発音記号は「zi:(zed)」であり、「ジー(ゼッド)」と発音するのが正しい、A 被告標章「JIMMY’Z」は米国の有名なプロフェショナルサーファー「JIMMY」の名前に由来するものであり、そこからは同人の名前の観念を生じる、B 被告標章は常に英語表記であるとともに、別紙第三目録記載のとおり、必ず(R)のマーク及び「(C)1984」の記号と文字を付加したウッディカー(木製自動車)の図形とセットで使用されているから、被告標章と本件商標が出所識別上混同を生じることはあり得ない、以上のことから、被告標章と本件商標は称呼、観念、外観のいずれの点においても異なり、被告標章を付した被服と本件商標を付した被服とは、実際の取引の場において誤認混同を生ずるおそれはないから、被告標章と本件商標は類似しない旨主張する。 しかしながら、前記(第二、一4)のとおり、昭和五九年一二月二一日、米国カリフォルニア州法人から特許庁長官に対し、被告標章をその構成の一部に取り入れた別紙第四目録記載の標章((R)マーク及び「(C)1984」の記載が存在しない点と彩色の一部が異なる点だけが別紙第三目録記載の標章との相違点)について、商標登録出願がなされたが、右商標登録願の出願人の氏名欄には「【B】」と、また、代表者欄には「【C】」とそれぞれ記載されていたこと、米国において商標登録されている商標「JIMMY’Z」の商標権者は「【A】」及び「JIMMY’Z TRADING,INC.」であり、前者は右出願人代表者と同一人であり、後者は右出願人の関連企業と考えられること、「JIMMY」は英語の男性名「JAMES(ジェームズ)」の愛称形である(研究社「新英和大辞典」)こと及び日本側出願代理人も米国における出願人の正規の発音に従って正確に前記商標登録出願人の氏名欄及び代表者欄を記載したものと推認されることなどの事情を総合考慮すると、前記商標の登録出願人は人名「JAMES」の愛称「JIMMY」に由来して「JIMMY’Z」の商標を用いているものであり、商標「JIMMY’Z」の発音が「ジミーズ」であることは、米国商標の商標権者自身これを認めているものと認められる。 したがって、被告標章は「ジミーズ」の呼称を生じるというほかなく、被告標章に被告主張の自動車の図形が結合されている点を考慮しても、当裁判所の判断を変更することはできない。 二 争点2(原告による本訴請求は許されないか)1 当事者の主張(被告の主張)(一) 被告商品の販売は実質的にはいわゆる並行輸入品の販売と同視されるべきであり、本件商標権に基づきその差止を請求することはできない。 被告商品は、米国商標の権利者ないしその関連企業により適法に米国内において米国商標を付されて拡布され、正規の手続を経て米国内から我が国に輸入された商品である。そして、米国商標は、アクション・スポーツ関連衣料品の流通業界においては世界的に著名な商標であり、日本国内においても既に著名になっている。 他方、日本において本件商標権を有する原告は、本件商標を付した指定商品を販売しているものではなく、被告と同様に被告商品と全く同一の米国商標商品(真正商品)を輸入し日本国内において販売するストークドに対しこれを許諾していたばかりか、昭和六三年五月頃以降、自らもその経営する二店舗で米国商標商品を販売している。 したがって、本件商標は原告独自の価値や信用は全く化体しておらず、被告商品の販売によって、本件商標の出所識別機能や品質保証機能は些かも害されず、原告は、そのことによってかえって自らも販売している米国商標商品の日本国内における流通が円滑になり、利益を得ているのであり、購入者である一般消費者の利益を害することも全くない。 被告商品の販売が形式的には本件商標権の侵害に該当するとしても、原告は、その侵害を理由に、被告に対して右行為の差止等を求めることは許されない。 本訴請求は、偶々原告が本件商標権を有することを奇貨として、それに藉口して原告自らも日本国内に流通することを承認しかつ流通させようとしているところの米国商標商品につき、日本国内流通市場を実質的に独占しようとする動機に基づくものであること明らかである。すなわち、本件は全体的に観察すれば、実質的には並行輸入の問題である。それにもかかわらず原告は日本国内で純粋に本件商標を守ろうとするかの如きポーズ―すなわち日本国内で米国商標を使用されては本件商標を守るうえで困るということ―で本件訴訟を提起しているのである。そうである以上、本件は実態に即して並行輸入の変形問題として処理されるべきである。原告が「米国商標商品が原告二店舗で売れれば売れるほど……利益がたくさん上るので」、「これからも、米国商標商品をストークドを介するなり何かして売っていく意思である」ことを自ら認めていることこそ、この訴訟の実態を如実に示しているというべきである。 原告の目的は、実質的に並行輸入問題であるにもかかわらず、偶々有している日本国内の本件商標権を巧妙に利用して、判例理論を潜脱して並行輸入阻止の目的を達成しようとしているのである。 (二) 本件商標権の禁止権は消滅したか 原告は、被告商品に付されている米国商標と同一の米国商標を付した商品を自ら販売し、米国商標商品の販売をストークドに許しているにもかかわらず、被告にはその禁止を求めているが、それは「同一侵害事実に対し、選別的禁止権を行使」することである。 しかし、商標法が当該登録商標権者に対し類似標章の禁止権を認めたのは、当該登録商標権自体の独占的使用により同商標権に付された消費者に対する商品の出所表示機能、品質保証機能、広告宣伝機能を法的に保護することを目的としているのである。すなわち、商標法の認める商標権の保護法益は、当該商標権者の消費者に対して有する右各機能についての信頼である。我が国において、原告やストークドが米国商標商品を販売しようと、被告が米国商標商品を販売しようと、本件商標権の右各機能が侵害される結果になる点においては差異はない。消費者は、被告の米国商標商品の販売によって初めて本件商標権の各機能に障害を来したのではなく、 原告やストークドの米国商標商品の販売によっても既に等しく障害を来しているのである。 原告が自ら自己の本件商標権に対する被告と同一の侵害行為を行うことは、消費者に対する右各機能の一般的喪失もしくは放棄を容認していることを意味するのである。当該商標権の保護は、類似標章の使用を完全に禁止するのでなければ、すなわち部分的選別的禁止では目的を達成できないのである。 原告が一度日本国内の市場において米国商標商品を自ら販売し、かつ、ストークドに対しその販売を何ら制限を設けることなく一般的に許した場合には、それは、 消費者から見て、原告が我が国において本件商標を付した商品についての右各機能の独占的保護を受ける権利を一般的に放棄したと同一の効果を与えることになるのである。原告本人も米国商標商品の販売の結果、「本件商標の妨げとか販売促進だとか流通の妨げ」につき、「それは仕方ない」と思っている旨供述しているのである。 本訴請求のような類似標章の禁止権の選別的行使が許されるならば、当該商標権者に「類似する標章につき排他的に使用する権能」までも事実上与えることになり、判例(最判昭和五六年一〇月一三日民集三五巻七号一一二九頁)にも違反することになる。 したがって、原告が本件商標を昭和六三年以降使用せず、本件商標権の侵害行為に該当する類似標章の使用と主張するところの米国商標を自ら使用して被告と同一侵害行為をする本件においては、本件商標権の類似標章に対する禁止権が一般的に消滅(失効もしくは放棄)したと認められるべきである。 (三) 権利の濫用 商標権は、指定商品について当該商標を独占的に使用することができることをその内容とするものであり、指定商品について当該登録商標に類似する標章を排他的に使用する権能まで含むものでない(最判昭和五六年一〇月一三日民集三五巻七号一一二九頁)。 原告は、自ら積極的に米国商標商品を原告経営の二店舗で販売し、かつ、ストークドに対し米国商標商品を販売することを許諾した。このことにより、原告は自ら消費者に対して、本件商標権の保護を独占的に受ける権利を一般的に放棄し、かえって利益を得ている。 被告の米国商標商品の販売は、原告自ら流通を承認している米国商標商品の出所識別機能等に何ら障害をもたらすものでない。本件商標権の禁止権の効力を利用して、原告が自ら米国商標商品を日本国内に流通させるのは、本件商標の出所表示等の機能を期待しているのではなく、まさしく米国商標それ自体としての出所表示等の機能を期待していることを意味する。被告の米国商標使用は、原告らの米国商標を日本国内で排他的に使用するのに妨げとなる以外、消費者に対し何ら不利益をもたらすものでない。 この様な立場の原告が本件商標権の保護を求めることは、原告もしくはストークドの日本国内における米国商標商品の独占的販売権を守るため以外に何ら意味がなく、権利の濫用である。商標権者である原告が本件商標の保護という本来の目的を逸脱し、本件商標権に対する侵害行為と主張する米国商標商品の販売を自ら行いながら、被告の同一米国商標商品の販売による適正な競争秩序を乱すための手段として、本件商標権に基づく権利を行使することは許されないことである。 (原告の主張) 被告の主張は全て争う。 原告は、偶々ストークドから依頼されて同社の日本国内における米国商標商品の販売を許諾し、かつ、原告の店舗で米国商標商品を一部販売したにすぎないから、 被告商品の販売はいわゆる真正商品の並行輸入品の販売には該当しない。 仮に、原告が自ら本件商標を付した商品を販売したことがないとしても、原告は、自己が取締役に就任し経営している株式会社ジミーズに対し本件商標の使用を許諾し、同社は、これを同社の販売するTシャツのみならず、店舗の名称、包装袋等に使用している。 (判断) 商標法は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする(1条)。商標の保護とは登録商標の有すべきいわゆる出所表示機能、品質保証機能、広告機能等の諸機能を保護することである。そして、右の目的を達成するため、同法25条は、「商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。」と定め(商標権の効力)、その商標に対する専用権を具体的に実効あらしめる手段として、商標権者等に商標権侵害者に対する差止請求権等(同法36条)の禁止権を認め、かつ、商標権の侵害とみなす行為を定めて、登録商標の保護を確実にするため類似範囲に対する禁止権を法定している(同法37条)。このように商標権は登録商標を指定商品について独占的排他的に使用することを内容とする権利であるが、商標権に基づく権利の行使が、同法1条所定の前記目的に反する場合には、権利の濫用として許されないことになることは当然である。これを本件についてみると、次のとおりである。 被告商品も、原告がストークドと禁止権不行使合意をしてその輸入販売を許諾し、自らも実質的経営の店舗で販売した米国商標商品も、いずれも、米国商標の権利者ないしその関連企業により適法に米国内において米国商標を付されて拡布され、正規の手続を経て米国内から我が国に輸入された商品であり(根源的には出所を同一とする。)、品質においても差異はなく、我が国で米国商標を付した商品として販売されたものである(前記第二、一2ないし7)。また、原告とストークドが、米国商標商品の輸入販売に関して本件商標権の禁止権不行使合意をした時期は、前記のとおり、被告が被告商品の輸入販売を開始する約一年前の昭和六三年五月頃であり、ストークドはその頃から平成四年三月頃までの間、原告本人が年間一五〇万円の対価は少なすぎると不満を感じるほど多数の米国商標商品を輸入、販売した(原告本人)のであるから、本件商標権者である原告が、ストークドと米国商標の使用に関し禁止権不行使合意をして米国商標商品の輸入販売を許諾し、自らも実質的経営の店舗で米国商標商品を販売したことにより、被告が被告商品の輸入販売を開始した当時には、本件商標に類似する米国商標が、本件商標権者以外の者を信用の主体とする標識として日本国内における相当数の取引者や需要者に認識され、その結果、本件商標の標識としての価値は毀損されて、その有すべき出所表示、品質保証等の諸機能は、米国商標との関係では発揮できない状態になっており、それは現時点においてもなお同様であるといわざるを得ない。かかる原告の行為は、本件商標の出所表示機能等の諸機能を自ら毀損し、商標を商品選択の指標とする需要者の利益をも害する行為であって、商標法1条所定の目的や、同法が登録商標の保護を確実にするために類似範囲に対する禁止権を定めた趣旨に明らかに反するものである。 本件商標の出所表示、品質保証等の諸機能は、一般に米国商標商品が需要者に販売されることによって害されるのであり、米国商標商品の販売者が、ストークドないし同社の関係企業や原告である場合と、被告である場合とで、全く差異はなく、 被告は、原告が自ら本件商標が米国商標との関係で出所表示、品質保証等の諸機能を害し、各機能を発揮できない状態にした後に、米国商標商品と出所も品質も同一の被告商品を輸入販売したものであり、原告が自ら積極的に招来した状態を質的に超えて本件商標の諸機能を害するものではない。また、原告は平成二年五月頃のストークドとの禁止権不行使合意更新に先立って対価の増額を求めたところ、ストークドの代表者から、被告が被告標章を使用している問題を解決しないと一五〇万円を支払うメリットもない旨言われたこと(原告本人)及び原告が自ら本件商標の諸機能を害する行為をしつつ本訴を提起したことに照らすと、本訴請求は、本件商標の諸機能が害されることを防ぐためではなく、本件商標権の禁止権を利用して、被告による米国商標を付した被告商品の販売を差し止めることにより、我が国における米国商標商品の販売を実質的に独占支配する権能を確保し、本件商標の諸機能を害する行為を継続して利益を得ようとする意図によるものであり、商標法1条所定の目的に反し、登録商標の保護を確実にするために法定された禁止権を、その趣旨と全く逆の目的実現のために利用するものといわざるを得ない。なお、商標権は、 指定商品について当該商標を独占的に使用することができることをその内容とするものであり、指定商品について当該登録商標に類似する標章を排他的に使用する権能まで含むものではない(最判昭和五六年一〇月一三日民集三五巻七号一一二九頁)から、原告が本件商標そのものの使用許諾をする場合と、本件商標そのものではなくそれに類似する米国商標に対する禁止権不行使合意をする場合とを混同してはならない。 結局、原告の本訴請求は、本来何人に対しても保護を要求すべき本件商標の出所表示、品質保証等の諸機能を原告自らが米国商標との関係で毀損しておきながら、 他方、本件商標権の禁止権を利用して、被告に対し米国商標を付した被告商品の販売差止を求めることにより、我が国における米国商標商品の独占的販売権を確保しようとするものにほかならないから、被告商品の販売は形式的には本件商標権の侵害に該当するようにみえるけれども、本件商標権の濫用というべきであり、許されない。 そうとすれば、本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないといわざるを得ない。 |
裁判官 | 庵前重和 |
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裁判官 | 小澤一郎 |
裁判官 | 辻川靖夫 |