関連審決 |
審判1982-19464 |
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関連ワード | 出所表示機能 / 品質保証機能 / 質保証機能 / 識別機能 / 指定商品 / 商品の同一性 / 通常使用権 / 国内 / 存続期間 / 更新登録 / 同一の商品 / |
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事件 |
平成
1年
(行ケ)
178号
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1990/03/27 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
一 原告 「特許庁が、昭和五七年審判第一九四六四号事件について平成元年六月一五日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決二 被告主文同旨の判決 |
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請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、別紙(一)に示すとおり「A」の文字を書してなり、旧第六六類「図書、写真及び印刷物類」を指定商品とする登録第三九三九六四号商標(昭和二四年八月一七日登録出願、昭和二五年一一月一七日設定登録、昭和四六年三月三日商標権存続期間の更新登録)(以下「本件商標」という。)の商標権者であるが、昭和五五年八月一五日本件商標の商標権存続期間の更新登録出願をしたところ、昭和五七年六月二五日拒絶査定を受けたので、同年九月二〇日これを不服として審判の請求をした。特許庁は、右の請求を昭和五七年審判第一九四六四号事件として審理した結果、平成元年六月一五日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をなし、その謄本は同年七月二二日原告に送達された。 二 審決の理由の要点1 本件商標の構成(審決に「B」とあるは「A」の誤記)、指定商品、登録出願日ないし更新登録日は前項記載のとおりである。 2 原査定は、商標権存続期間更新登録願に添付された「登録商標の使用説明書」の写真(別紙(二))に示された書籍上の「B」の文字は著作者名として位置づけられるものであり、登録商標の使用とは認められないから、結局、この更新に係る登録商標は指定商品のいずれにも使用されていないものといわざるを得ず、したがつて、この出願の商標は商標法19条2項ただし書二号の規定に基づき、登録できないものと認める、として本願を拒絶したものである。 3 よつて、按ずるに、本件商標の使用の事実を示す書類(写真)によれば、商品「書籍」の表紙、背表紙に「B」の文字が表されていることは認められるが、これは、明らかに書籍の著作者名を表示したものとみられるものである。しかして、書籍の著作者名の表示は、著作物の著作者を表すために表示されるものであるから、 商品としての書籍に係る自他商品の識別標識として機能しているとは認め難いものである。してみれば、前記の書籍に表された「B」の文字は商標としての使用とみることができないから、本願の願書に添付された商標の使用の事実を示す書類(写真)によつては、本件商標は本願の出願前三年以内に日本国内において、通常使用権者により、その指定商品に使用されていないといわざるを得ない。したがつて、 本願は商標法19条2項ただし書二号に該当するとして拒絶した原査定は妥当であつて、取り消すことはできない。 三 審決を取り消すべき事由 審決の理由の要点1及び2は認める。同3の判断は争う。本件商標と社会通念上同一性のある別紙(二)に示されたとおりの表示が、指定商品の一つである書籍について自他商品の識別標識として機能するものとして使用されているものであるのに、審決は、別紙(二)の使用態様が商標としての使用とみることができないとの誤つた判断をし、これが審決の結論を左右することは明らかであるから、違法として取り消されるべきである。 1 商標は、自己の商品と他人の商品を識別するための標識であり、その自他商品識別の機能は、商標の本質的機能であり、商品の同一性を表示する機能である。商標の機能には、商品の出所を表示する機能や商品の品質を保証する機能があるが、 これらの出所表示機能や品質保証機能は、商標が商品標識として機能する作用面の表れといつてよく、別の面からみれば商標の商標識別機能は、商品の出所を表示し、その品質を保証する作用を有するものである。本件商標がそれ自体商品識別機能を有すること、つまり、商品の出所表示機能や品質保証機能を有するものであることについては、本件商標が商標登録出願の審査を経て設定登録されていることによつて明らかに裏付けられている。そして、本件商標と社会通念上同一性のある表示が指定商品の一つである書籍について使用される場合についてみるに、通常、書籍について商標を使用する場合には、書籍の表紙、背表紙に商標を表示するものであるが、使用態様における表示も常法通り書籍の表紙と背表紙に「B」の文字を表示しているのである。その結果、需要者はこの「B」の表示を手掛かりとして一定の品質を信頼しつつ他の書籍と識別して常に同一の商品を手にすることができ、商標の使用者としては、該書籍が流通過程におかれ、市場に出回つた場合、その商標を拠所として需要者を確保できるという利益を得ることができる。すなわち、使用の過程において蓄積された信用と名声を表徴する顔として本件商標は認識され、かくして商標使用者の業務上の信用維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、併せて需要者の利益を保護するという法の目的を達成するものであつて、結局、別紙(二)の使用態様における表示はそれ自体として商品を識別、区別する根本的な役割を完遂するのである。以上をもつてみれば、使用説明書に表示された使用態様における表示が商品「書籍」に使用され、商標の機能を果たしていることは明らかである。 2 しかるに、審決は、使用態様における表示が商標であることの意義及び機能面よりみるべき本質を全く看過し、本件商標が使用されているか否かの観点からの判断を全く示していない。すなわち、本事案においては、使用態様における「B」の文字部分が商標の機能を果たすものであるかどうか、その意義、本質が解明されるか否かによつて結論が左右されるのであつて、該文字部分が著作者名の表示であるかどうかとは直接関係がないのに、審決は、この重要な点を無視もしくは看過して著作者名の表示であるとの一事をもつて商標の使用でないと判断したのである。しかし、使用態様における「B」の文字が本件商標と社会通念上同一性のあるものであることは何人も否定できないことであり、かつ使用態様における表示が識別機能を果たすという本質はそのまま存在するのであるから、審決のように著作者名の表示であるから商標の使用とは認められないと断ずることはできない。 3 被告は、使用態様において、自他商品の識別標識としての機能を果たすのは出版社を表す「金園社」の文字部分であるとみるのが相当であり、著作者名を表した「B」の文字部分は自他商品の識別標識としては認められない旨主張するが、「書籍」という特定の商品についてみるかぎり、審決の判断及び右の主張は誤りというべきである。なぜならば、指定商品の一つである「書籍」についての実際の取引を具体的にみても、需要者は書籍の商標として普通に行われているように表紙、背表紙に「B」の文字が表示されているのをみて同種の他の書籍と識別し、特定の出所から出た同一品質のものであると安心かつ信頼してその書籍を購入するものであるし、商標使用者としてはそれによつて自己の商品の販路、得意先(グツドウイル)の確保が期待できるからである。したがつて、使用態様における「B」の文字部分にかかる商品識別機能、出所表示機能及び品質保証機能がないとみるのは誤りである。本件商標のごとき表示を指定商品の一つである書籍に表示するに当たり、どの箇所にどういう態様で表示するかは商標法で何ら規制されるものではなく、要は通常行われているように表紙、背表紙に表示すればそれで充分であつて、「B」の表示も商品「書籍」の表紙と背表紙に表示されているものである。更に、被告は、使用態様における表示に接する需要者としては、出版者(出所)を表示したと容易に理解される「金園社」の文字を捉えて取引に当たるとみるのが相当であり、「B」の文字部分をもって取引に当たることはないと判断される旨主張する。しかしながら、審決が著作者名として指摘した「B」の表示は本件商標と同一性のあるものであり、かつ前述したとおり、需要者がこれを拠所として書籍の購入や注文などをするという取引は行われるのであるから、「B」の文字部分をもつて取引に当たることはないとした判断は誤りである。使用態様における「金園社」の表示は、商品取引に関しての単なる事務的な部門を実行する会社を表示したものにすぎないものであつて、その行為は、結局本件商標の権利者である原告に帰属するものである。著作者ということを概念的にみれば、これは、その書籍の内容の文化的価値判断や批判等にさらされるというような著作権法上の文化的作業に止まつている場合もあるが、登録商標と同一性のある表示が付された書籍が商品として商品流通場裡に登場するという商標の実際をもつてみれば、本件商標の使用の有無もあくまで商標法上の問題として捉えられなければならない。 |
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請求の原因に対する認否及び被告の主張
一 請求の原因一、二の事実は認める。 二 同三の主張は争う。審決の認定判断は正当であつて、審決には原告主張のような違法の点はない。 三 被告の主張 一般的にいつて、商品「書籍」には題号、著作者、出版者の三つに事柄が表紙、 背表紙などに表示されるのが通例であるが、この場合の著作者の表示は、題号と相俟つてその書籍の内容を表示するものではあつても、出版者の表示とは異なり、その書籍の出所を表示するものではなく、また、その品質を保証するものでもない。 書籍に使用される商標も、表紙、背表紙、裏表紙等の目につき易い箇所に題号、著作者名とともに表示するのが通例(乙第一号証ないし第七号証参照)であり、使用箇所及び大小により「商標の使用」であるか否かが決定されるものとはいえないが、書籍についての「商標の使用」といい得るためには、少なくとも営業主体(書籍の商標)を表示したものと認識させる状態で使用する必要があり、特に人名の場合は、それがその書籍の題号や著作者の表示となり得るものであるから、これと混同されないように使用する必要がある。しかるに、使用態様における「B」の表示は、題号とともに用いられており、他にその出所(出版社)を表す「金園社」の表示があるため、尚更、「B」の表示について、需要者は著作者を表示したものと認識するといわざるを得ない。したがつて、使用態様において、自他商品の識別標識としての機能を果たすのは、出版社を表す「金園社」の文字部分であるとみるのが相当であり、著作者名を表した「B」の文字部分は自他商品の識別標識としては認識されないとした審決の判断には何ら誤りはない。具体的に述べれば、書籍の購入等に際しては、書籍に表示された題号と著作者名をもって内容を特定し、出版社名をもつて、問い合わせ、注文等をするのが通例であるといえるところから、このような場合の著作者は、取引の場における当事者とはいえないし、使用態様における表示に接する需要者としては、出版者(出所)を表示したと容易に理解される「金園社」の文字部分を捉えて取引に当たるとみるのが相当であり、「B」の文字部分をもって取引に当たることはないものと判断すべきものである。したがつて、使用態様における使用をもつて、本件商標の使用があつたものとはいえないとした審決の判断は正当であり、違法の点はない。 |
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証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一、二の事実(特許庁における手続の経緯及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。 二 取消事由の判断1 本件商標が別紙一に示されたとおり「B」の文字から構成され、旧第六六類「図書、写真及び印刷物類」を指定商品とすること及び本願の商標権存続期間更新登録願には「登録商標の使用説明書」として別紙二に示された写真が添付されたことは当事者間に争いがなく、かつ成立に争いのない甲第二号証(商標権存続期間更新登録願)によれば、本件商標は株式会社金園社が通常使用権者として商品「書籍」に付して別紙二にみられるような態様(書籍の表紙及び背表紙に「B」の文字が表示されていることは当事者間に争いがない。)で使用されており、別紙二の写真は、昭和五五年八月五日に撮影されたものであることが認められる。 2 商標法上商標の本質的機能は、商品の出所を明らかにすることにより、需要者に自己の商品と他の商品との品質等の違いを認識させること、すなわち自他商品識別機能にあると解するのが相当であるから、商標の使用といい得るためには、当該商標の具体的な使用方法や表示の態様からみて、それが出所を表示し自他商品を識別するために使用されていることが客観的に認められることが必要である。また、 商標法上商標が付される商品とは、流通の対象となる有体物そのものを指し、商品としての「書籍」についていえば、これを出版し販売することを業とする者がその出所の主体であり、かかる業務主体は、その使用に係る商標を介して、例えば、製本の堅牢さ、印刷の美しさ・正確さ、装丁の美しさ等につき自己の出所に係る商品である書籍の品質の良さを需要者に訴え、記憶にとどめさせることにより、自他商品の識別機能の発揮を期待するのである。 3 成立に争いのない乙第一号証ないし第七号証によると、通常、一般的に書籍の表紙には題号、著者名が、背表紙には、題号、著者名及び出版者名が、また、裏表紙には出版者名が表示されるものであることが認められるところ、別紙(二)にみられる表紙及び背表紙における表示の態様も、通常の一般的な書籍の表示態様と変わるところがないから、この使用態様におけるような表示のある書籍に接した需要者としては、「B」の文字をこの書籍の著作者名と認識し、かつ、背表紙の下部に表示された「金園社」が有体物である商品「書籍」の出所であり、これを出版し販売する業務の主体であると認識することは明らかである。したがつて、かかる一般的な書籍の表示態様と対比し、別紙(二)の使用態様における表示をみるかぎり、 有体物である商品「書籍」について出所を表示し自他商品の識別のための標識として機能しているのは「金園社」の表示であり、「B」の文字をもつて「自他商品の識別機能」を示すものと認めることは困難というほかない。この点、原告は、需要者は書籍の商標として普通に行われているように表紙、背表紙に「B」の文字が表示されているのをみて同種の他の書籍と識別し、特定の出所から出た同一品質のものであると安心かつ信頼してその書籍を購入するものであるし、商標使用者としてはそれによつて自己の商品の販路、得意先(グツドウイル)の確保が期待できるから、使用態様における「B」の文字部分に商品識別機能がないとはいえない旨主張する。しかしながら、原告の右の主張は、商品としての「書籍」の意義について有体物としてだけでなく、その記述内容をもこれに含ませたうえ、 「B」の表示を介して需要者が認識する精神的な労作である著作物の同一性ないしはその信頼性についての識別機能をいうものであり、有体物である商品「書籍」を出版販売する義務主体の識別機能をいう商標本来の領域とは異なる領域に属することを論ずるものであるから、到底採用できない。したがつて、たとえ、別紙(二)の使用態様における表示が、社会通念上本件商標と同一性のあるものとしても、右の表示をもつて本件商標が商標法上使用されているとする原告の主張は理由がなく、本件商標が、商標法19条2項ただし書二号に当たるとして本願を拒絶した審決の判断には何ら誤りはない。 三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないものとして、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 松野嘉貞 |
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裁判官 | 舟橋定之 |
裁判官 | 小野洋一 |