審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成13ネ5605商標権侵害差止等請求控訴事件 平成14ネ5060同附帯控訴事件 | 判例 | 商標 |
平成3ワ8439 | 判例 | 商標 |
昭和53ネ1637 | 判例 | 商標 |
平成18ワ26725商標権侵害差止等請求事件 平成19ワ15580商標権侵害不存在確認等請求事件 | 判例 | 商標 |
平成21ネ10058商標権侵害差止等,商標権侵害不存在確認等請求控訴事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 包装 / 品質保証機能 / 質保証機能 / 先願主義 / 指定商品 / 普通名称(3条1項1号) / 普通に用いられる方法 / 類似性(類否判断) / 損害額 / 使用料相当額 / 権利濫用(権利の濫用) / 通常使用権 / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 国内 / 商標の効力 / 差止 / 並行輸入 / 使用許諾 / 存続期間 / 更新登録 / 外国 / 利益額 / |
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事件 |
昭和
63年
(ワ)
3368号
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 1990/10/09 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
一 被告は、その取り扱うヘリコプターに関する広告に、別紙被告表示一覧表5(3)及び6記載の表示(標章)を附して展示し、又は頒布してはならない。 二 被告は、その所有の一九八八年版「日本航空機全集」掲載の広告に附した別紙被告表示一覧表5(3)記載の表示(標章)から「ロビンソン」なる部分を、その所有のコンテナトラックの車体(コンテナ部分)に附した同一覧表6記載の表示(標章)から「ROBINSON」なる部分をそれぞれ抹消せよ。 三 被告は、原告に対し、金一二万五〇〇〇円及びこれに対する昭和六三年四月一九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。 四 原告のその余の請求を棄却する。 五 訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 六 この判決は、第一ないし第三項に限り、仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
一 原告の請求の趣旨1 被告は、その取り扱うヘリコプターに「ROBINSON」若しくは「ロビンソン」なる標章を附し、又は右標章を附したヘリコプターを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡のために展示してはならない。 2 被告は、その取り扱うヘリコプターに関する宣伝用パンフレツトその他の広告、定価表又は取引書類に、「ROBINSON」若しくは「ロビンソン」なる標章を附して展示し、又は頒布してはならない。 3 被告は、「ROBINSON」若しくは「ロビンソン」なる標章を附したその取り扱うヘリコプターに関する宣伝用パンフレツトその他の広告、定価表又は取引書類を廃棄せよ。 4 被告は、原告に対し、金四五〇万円及びこれに対する昭和六三年四月一九日(本件訴状送達の日の翌日)から完済まで年五分の割合による金員を支払え。 5 訴訟費用は被告の負担とする。 6 仮執行宣言二 請求の趣旨に対する被告の答弁1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
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事案の概要
一 本件は、原告が商標権に基づいて、 被告が外国メーカーから輸入して日本国内において販売する等しているヘリコプターについて「ROBINSON」及び「ロビンソン」なる標章を使用するのは原告の商標権を侵害すると主張して、その使用差止と、右使用に伴う原告の損害として、主位的に商標法38条1項に基づき被告が右ヘリコプター二機の売却により得た利益相当(売却代金の一割に当たる)損害金四五〇万円、予備的に同条二項に基づき原告の登録商標の通常使用許諾料相当損害金五〇万円の賠償を請求した事件である。 二 原告の権利(争いがない。但し、更新につき甲二) 原告は、左記の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という。)を有している。 記登録番号 第五九三〇〇〇号出願日 昭和三六年五月二日(商願昭三六年ー一三一五四号)公告日 昭和三七年三月一二日(商公昭三七ー八二〇二号)登録日 昭和三七年七月一二日登録商標 別紙商標目録記載のとおり商品の区分 第一二類指定商品 輸送機械器具、その部品及び付属品(他の類に属するものを除く)更新 昭和四八年八月二〇日と昭和五七年九月二二日に更新登録完了三 被告の営業活動(争いがない。) 被告は、昭和六〇年一〇月ころから、米国のヘリコプターメーカーであるロビンソン・ヘリコプター・カンパニー(以下「ロビンソン社」という。)からロビンソンR22Beta型ヘリコプター及び同R22Mariner型(以下一括して「本件ヘリコプター」という。)を輸入し、日本国内においてこれを販売する等の営業活動を行っているが、昭和六二年一月七日及び同年九月二八日に本件ヘリコプターを各一機、一機当たり代金二二五〇万円で売却した。 四 本件ヘリコプターに関する被告の表示 本件ヘリコプターに関し使用されている表示で、「ROBINSON」又は「ロビンソン」なる文字を含み、これと一体的に認識できる表示は、別紙被告表示一覧表1ないし6記載のとおりである(後記五の各証拠。以下、右一覧表記載の各表示を一括して「被告表示」という。)。 五 被告表示の表示態様 被告表示の表示態様は、左記1ないし6のとおりである。 1 航空機登録等における表示(被告表示(一)(1)、(2)) 被告表示(一)(1)、(2)は、別紙使用態様(一)(1)〜(4)記載の態様で、本件ヘリコプターの登録原簿(謄本)(甲三の一〜一八)、航空機登録証明書(乙二の一)、耐空証明書(同二の二)及び運用限界等指定書(同二の三)に表示されている(甲三の一〜一八、乙二の一〜三)。 2 機体等における表示(被告表示(二)) 被告表示(二)は、別紙使用態様(二)(1)記載の態様で、本件ヘリコプターの機体後方外側の下部(排気口の上方)に、「R22」、「TORRANCE. CALIFORNIA」の文字とともに、また、操縦席横部に貼付された銘板には、同(2)記載の態様で「TORRANCE.CALIFORNIA」、「MODEL NO:R22・BETA」又は「MODEL NO:R22 MARINER」等の文字とともに表示されている。 3 宣伝用パンフレツトにおける表示(被告表示(三)(1)〜(3)) 被告表示(三)(1)は、別紙使用態様(三)(1)記載の態様で、被告が作成した本件ヘリコプターの宣伝用パンフレツトの表紙に表示され、被告表示(三)(2)、(3)は、その説明文中に同使用態様(三)(2)記載の態様で表示されている(甲四の一ないし四)。 4 ハンドブツクにおける表示(被告表示(四)(1)〜(4)) 被告表示(四)(1)、(2)は、別紙使用態様(四)(1)記載の態様で、被告が作成した本件ヘリコプターのパイロツト用操縦ハンドブツクの飜訳版の表紙に表示され、被告表示(四)(3)、(4)は、同使用態様(四)(2)、(3)記載の各態様で、同ハンドブツクの飜訳版中に表示されている。 5 雑誌広告における表示(被告表示(五)(1)〜(3)) 被告表示(五)(1)〜(3)は、別紙使用態様(五)記載の態様で、被告が一九八八年版「日本航空機全集」(鳳文書林出版販売株式会社発行)に掲載した本件ヘリコプターの広告に表示されている(甲六)。 なお、同全集四八四ページ掲載の「ロビンソン R22 Alpha/Beta」との表示部分は、被告が掲載した広告ではない(甲六、乙三)。 6 自動車の車体における表示(被告表示(六)) 被告表示(六)は、別紙使用態様(六)記載の態様で、被告所有のコンテナトラツクの車体(コンテナ部分)の左右両側面及び後面に表示されている(検甲一)。 六 争点 本件の主な争点は、右のような態様における被告表示の表示が原告の本件商標権を侵害するか否かである。 七 争点に関する被告の主張1 商標法2条一、三項の非該当性 被告表示のうち、登録原簿(謄本)、航空機登録証明書等における「航空機の型式」及び「航空機の製造者」の表示は、航空法上(3条、5条、59条等)義務づけられたものであり、「航空機の型式」の表示はメーカー名を冠する形で行われるのが通例である。このように法律上備え付けを義務づけられた書類に前記のような型式やメーカー名を表示することは、商標法2条一、三項の「商標の使用」に該当しない。また、機体等における表示は、製造者であるロビンソン社自身が本件ヘリコプターの機体を特定する等の目的からその社名を表示したものであり、宣伝用パンフレツト等における表示は、本件ヘリコプターがロビンソン社の製造にかかるものであることを説明したものである。従って、ここにおける被告表示の表示も、右の同様商標法2条一、三項所定の「商標の使用」に該当しない。 2 本件商標権の効力の制限 ヘリコプターを含め航空機の呼称には、必ずメーカー名を冠するのが世界共通の慣行である。そして、ロビンソン社は、世界的にも数少ないヘリコプター専門メーカーの一つであり、殊に、単発レシプロエンジンの小型ヘリコプターに関しては世界的に著名な存在である。これらのことからすると、同社製のヘリコプターの名称は「商品の普通名称」となっているということができ、被告はこれを「普通に用いられる方法で表示」しているにすぎないから、被告表示に対しては、商標法26条1項2号の趣旨により、本件商標権の効力は及ばない。また、被告表示のうち、本件ヘリコプターの機体後方外側の下部(排気口の上方)の表示及び操縦席横部に貼付された銘板における表示は、機体の特定等のためにメーカー名等を普通の方法で表示したものにすぎない。これにも本件商標権の効力は及ばないことは、右の同様というべきである。 3 実質的違法性不存在(一) ロビンソン社は、前記のとおり世界的にも数少ないヘリコプター専門メーカーの一つで、殊に単発レシプロエンジンの小型ヘリコプターに関しては世界的に著名な存在であり、同社製のヘリコプターは、わが国においても被告が本件ヘリコプターを輸入、販売する数年前(昭和五〇年代末)から大阪航空株式会社(以下「大阪航空」という。)によって、輸入、販売され、「ロビンソン式」のヘリコプターとして既に周知の存在となっていた。こうした状況の下で使用されている被告表示中の「ROBINSON」又は「ロビンソン」の部分は、いうまでもなくメーカーであるロビンソン社の表示として理解されているものであって、被告表示のもつ出所識別及び品質保証機能は、同社についてのみ機能し、それ以外の何人のグツドウイルをも表象するものではない。 (二) 他方、原告は、本件登録商標を登録しているものの、実際には自己の製造、販売する海外輸出向けの自転車及びその部品に本件登録商標を使用してきたにすぎず、これまで、本件登録商標を使用してヘリコプターはもちろん、その他のいかなる航空機についても製造、輸入、販売等の活動をしたことはない。原告は、ヘリコプターについて何ら本件商標権による保護を主張しうる独自の利益を有しておらず、本件登録商標は、原告のグツドウイルを表象するものではない。 (三) そして、「ROBINSON」又は「ロビンソン」との表示がロビンソン社のヘリコプターの表示として理解されていることは前記のとおりであるから、被告が被告表示を使用してロビンソン社製のヘリコプターを販売しても、本件登録商標の権利者である原告の利益は何ら害されず、需要者との関係でも、いささかも出所識別及び品質保証について誤認混同を生じさせるものではない。被告表示の使用は、商標の使用によつて形成される商標権者のグツドウイルを保護するとともに、 商標を介して自ら欲する出所・品質の商品を購入しようとする需要者の利益を保護する商標法の趣旨、目的に何ら反するものではなく、右被告表示の使用は、実質的違法性を欠く。 (四) ただ、原告は、昭和六一年一二月一七日、川田工業株式会社(以下「川田工業」という。)との間に本件登録商標の通常使用権設定契約をなし、昭和六二年七月一三日その旨の登録をした。そして、川田工業は、そのころからロビンソン社製のヘリコプターの輸入、販売を開始した。その意味では、原告も、川田工業を介してヘリコプターに本件登録商標を使用することについての実際上の利害を有するに至ったといえなくはない。 しかし、そうだとしても、川田工業は、これに先立つ昭和六一年一〇月ロビンソン社の日本総代理店である大阪航空の株式の三割を取得するとともに、同社と業務提携をした。従って、本件ヘリコプターの製造者であるロビンソン社(外国の生産源)と本件商標権を有する原告(内国の商標権者)とは、本件登録商標の通常使用権者であり同社製のヘリコプターを取り扱っている川田工業を通じて法律的、経済的に密接な関係を有することになつた。そして、被告が輸入、販売している本件ヘリコプターは、まさにロビンソン社が製造、販売する真正商品であるから、被告の右行為は、いわゆる「真正商品の並行輸入」として実質的違法性を欠く。 4 権利濫用 原告の本訴請求は、本件登録商標の通常使用権者である川田工業がロビンソン社製ヘリコプターについての先発競業企業である被告を市場から排除しようとするのに加担する目的でなされたものであるから、権利濫用である。 5 商標法38条1項不適用 原告は、自ら直接に本件登録商標のもとにヘリコプターの輸入、販売活動を一切していないから、商標法38条1項により売却代金の一割を利益額(損害額)として損害賠償請求することは許されない。 八 争点に関する原告の主張1 商標法2条一、三項該当性 航空法が航空機の航行の安全及び航空機の航行に起因する障害の防止を図るという公益目的のために制定されたものであるとしても、同法が商標法に優先するとの明文規定もない以上、航空法上の登録義務履行のためには、当然に商標法に違反してもよいことにはならず、被告の右義務履行行為も本件商標権を侵害するものである。また、本件ヘリコプターの機体及びカタログ等における表示は、商品である本件ヘリコプターについての標章の使用であつて、本件商標権侵害の中核をなすものである。 2 本件商標権の効力の制限について そもそも商標法26条1項は、公益的見地及び商標法の商標保護の目的からして、特定人に商標権として独占させるに適しない商標及び商標権の枠外に置くことを適当とするような商標を列挙して、商標権の効力の及ばない範囲を規定したものであり、同条における「普通に用いられる方法で表示」するとは、通例、商品に使用される使用の方法が、品質、産地等の表示として普通に使用されるものであることを要し、本件のように被告表示がもっぱら商品識別標識としての意味を有する場合は含まれない。従って、本件に同条適用の余地はない。 3 実質的違法性不存在及び権利濫用について 本件は、原告が本件商標権を取得し、その後川田工業が本件登録商標の通常使用権を取得してヘリコプター事業において本件登録商標を使用しているという状況下において、被告がロビンソン社製ヘリコプターを輸入し、本件登録商標を無断使用して営業活動を行っているというものである。従って、被告の主張は、先願主義をとるわが国の商標制度そのものを否定するものであり、到底許されないものである。なお、いわゆる「真正商品の並行輸入」が認められるについては、外国の製造者(生産源)と内国商標権者とが同一企業であること、又は同一企業と同視されるような特殊な(法律的、経済的に密接な)関係があることが前提要件とされている。しかしながら、本件では、内国商標権者である原告と外国の製造者であるロビンソン社との間に何らの法律的、経済的関係もないのはもちろんのこと、本件登録商標の通常使用権者である川田工業とロビンソン社との間にも右のような特殊な関係はないから、この点に関する被告の主張も失当である。 |
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争点に対する判断
一 指定商品該当性と表示の類似性1 本件ヘリコプターが、本件登録商標の指定商品である「第一二類輸送機械器具」に含まれることは明らかである。 2 被告表示中「ROBINSON」及び「ロビンソン」なる部分の称呼(ロビンソン)、観念(外国人の名前)は、本件登録商標のそれと同一(なお、「ROBINSON」なる部分は外観も類似)であり、その余の部分は、会社組織であることや商品の型番、商品の普通名称(ヘリコプター)等の表示である。従って、被告表示は、本件登録商標に類似する商標ということができる。 二 原告主張の侵害の有無 そこで、以下、被告表示について、順次、原告主張の侵害の有無を検討する。 1 航空機登録等における表示(被告表示(一)(1)、(2))(一) 被告表示(一)(1)は本件ヘリコプターの型式を表わすものであり、被告表示(一)(2)は本件ヘリコプターの製造業者の名称を表わすものである(甲三の一〜一八、乙一、三、五)。 (二) 被告表示(一)(1)、(2)が表示されている登録原簿(謄本)、航空機登録証明書、耐空証明書及び運用限界等指定書は、いずれも航空法の規定に従って登録されたところに基づき運輸大臣又は航空局長が作成する公文書であり、商標法2条3項3号にいう「商品(本件ヘリコプター)に関する広告、定価表又は取引書類」に該当するとは解し難い。従って、被告が本件ヘリコプターについて航空法に従った登録をして右各書類を備え付けたり、その取引に際し右書類を展示、交付したりしても、その行為は、被告の取扱商品である本件ヘリコプターに関する「広告、定価表又は取引書類に標章を附して展示し又は頒布する行為(商標の使用)」(商標法2条3項3号)とはいえない。そして、他に被告表示(一)(1)、 (2)が「商品」である本件ヘリコプターやその「包装」に「使用」されていることについての主張、立証はない。 従って、被告表示(一)(1)、(2)に関する原告の侵害の主張は理由がない。 2 機体等における表示(被告表示(二)) 被告表示(二)は本件ヘリコプターの製造業者であるロビンソン社の名称を表わしたものであり、「商品(本件ヘリコプター)」に附された標章であるということができる(検乙一〜六)。そして、右表示は、本件ヘリコプターの製造業者であるロビンソン社によりなされたものである(弁論の全趣旨)が、被告が被告表示(二)の附された本件ヘリコプターを、日本国内において展示、販売する行為は、 「商品(本件ヘリコプター)……に標章(被告表示(二))を附したものを譲渡し引き渡し譲渡若しくは引渡のために展示……する行為」(商標法2条3項2号)に該当するといえる。 しかし、被告表示(二)は、別紙使用態様(二)(1)、(2)記載のとおり、 製造業者であるロビンソン社の所在地、製品名(ロビンソン社がつけた型番)及び製造番号等とともに表示されているものであり、右の使用態様からみると、それらは、商品(本件ヘリコプター)の製造元、機種、製品番号等を特定、説明したものであり、その表示方法も、ごく普通の表示方法であるといえる。 それらは、商標法26条1項2号にいう「当該指定商品の……産地、……品質、 ……形状……を普通に用いられる方法で表示する商標」に該当するか少くともこれに準ずるものと解するのが相当である。 従って、被告表示(二)には、本件商標権の効力は及ばないというべきであり、 この点に関する原告の侵害の主張は理由がない。 3 宣伝パンフレツトにおける表示(被告表示(三)(1)〜(3))(一) 被告表示(三)(1)〜(3)は、被告の本件ヘリコプターに関する宣伝パンフレツトにおける表示であり、右パンフレツトを展示、配付する行為は、「商品(本件ヘリコプター)に関する広告……に標章を附して展示し又は頒布する行為」(商標法2条3項3号)に該当する。 (二) しかしながら、わが国では、航空機は型式等を登録しなければならないことになっているところ(航空法3条、5条)、右航空機の型式の表示は、前記被告表示(一)(1)(「ロビンソン式 R22 Beta型」等)の例からも明らかなようにメーカーがつけた型番の前にメーカーの略称(メーカーの正式名称から例えば株式会社等の会社の種類表示部分を除いた表示)に「式」を付加したものを冠し、右型番の後に「型」を付加する形で行われることになっているものと認められる(甲三の一〜一八、乙一)。そして、航空機の型式の表示が、右のように型番の前にメーカー名の略称を冠する形で行われることになっているのは、そうすることが当該航空機の製造元を明らかにし「航空機の航行の安全及び航空機の航行に起因する障害の防止を図る」(航空法1条)との公益上の目的にも合するからであると考えられる。 また、航空機の特定、説明にあたっては、別紙一般使用例目録記載のように、右型式から「式」や「型」の文字を除いた表示を用いることが広く行われ、航空機の取引、宣伝においては、右のような表示方法によって、商品の特定、識別が行われるのが一般であり、それが慣用的な表示方法になっているものと認められる(甲六、乙一、三、五、弁論の全趣旨)。 そして、こうした方法で航空機の特定、説明がなされていることと、わが国の航空法上、前記のような形で航空機の型式の登録が行われていることとは無関係ではなく、それは、これと整合し、前記公益上の目的にも合するものであると考えられる。また、右のような表示方法は、航空機の出所(製造元)を明らかにし、品質保証を明確にする最も簡明、直截な方法であり、それが右慣用的な方法に従い航空機の特定、説明のために正当に使用されている限り、取引業者、需要者に対し出所(製造元)識別、品質保証についての誤認、混同を生じさせるおそれはなく、むしろそれに資するものであると認められる。 以上のようなことを考慮すると、右のような慣用的な表示方法の使用には、社会的に承認され保護されるに値するものがあるということができる。そして、このような慣用的な方法に従つた表示の使用を承認、保護することは、公益上、登録商標権者一人に独占させることが適当でない商標の使用を認めていこうとする商標法26条1項の趣旨に反せず、かつ、その表示方法が慣用的なものであるという点からすれば、それは、「慣用されている商標」に対して登録商標の効力を制限する同項三号の趣旨に通じるものであるということができる。そうだとすれば、右のような慣用的な方法に従つて航空機の特定、説明のために正当に使用されている表示の使用に対しては、登録商標の効力は及ばないと解するのが相当である。 (三) しかるところ、別紙使用態様(三)(1)、(2)記載の使用態様に照らすと、被告表示(三)(1)〜(3)は、いずれも前記のような慣用的な方法に従い航空機の特定、説明のために正当に使用されているものと認められる。 (四) 以上のとおりとすると、この点に関する原告の主張は理由がない。 4 ハンドブツクにおける表示(被告表示(四)(1)〜(4))(一) 被告表示(四)(1)〜(4)が表示されているハンドブツクが本件ヘリコプターに関する広告、取引書類に当たるかどうかは問題であるが、仮にこれに当たるとしても、別紙使用態様(四)(1)、(3)記載の使用態様に照らすと、被告表示(四)(1)、(4)は、当該ハンドブツクにおいて説明の対象になっている航空機(ヘリコプター)を特定、説明する表示であり、前記の慣用的表示方法に従って表示したものであるということができる。そうすると、これについては、前記3において述べたのと同様に原告の侵害の主張は理由がないというべきである。 (二) 被告表示(四)(2)、(3)は、別紙使用態様(四)(1)、(2)記載の使用態様からすると、それが、右ハンドブツクの原文発行者及び改訂版の予約購入希望の宛先を表示したものであることが明らかであり、いずれも被告の取扱商品である本件ヘリコプターについての標章の使用とはいえない。 従って、これについても原告の侵害の主張は理由がない。 5 雑誌広告における表示(被告表示(五)(1)〜(3))(一) 被告表示(五)(1)〜(3)は、被告の本件ヘリコプターに関する雑誌広告における表示であり、被告による右雑誌の展示、頒布はもとより、右雑誌の発行者等第三者による同誌の展示、販売を通じて右広告を展示、配付する行為は、 「商品(本件ヘリコプター)に関する広告……に標章を附して展示し又は頒布する行為」(商標法2条3項3号)に該当する。 (二) 被告表示(五)(1)、(2)は、別紙使用態様(五)記載の使用態様に照らすと、当該広告掲載の写真の被写体である航空機(ヘリコプター)を特定、説明するための表示であり、その表示方法もその種の表示のそれとしては、前記3で述べた慣用的な方法に従ったものであるということができる。 そうすると、被告表示(五)(1)、(2)に関する原告の侵害の主張は、前記被告表示(三)(1)〜(3)について述べたのと同様の理由により、理由がないというべきである。 (三) 被告表示(五)(3)は、被告がロビンソン社製のヘリコプターの直輸入特約店であることを表示したものであるが、右の「ロビンソンヘリコプタ」なる表示は、被告が取り扱う航空機(ヘリコプター)を「ロビンソン」なる表示を用いて識別させるものであるということができる。前記3で述べた慣用的な方法に従ったものとは認め難い。 被告は、ロビンソン社製のヘリコプターの名称(ロビンソン社製の各種ヘリコプターの名称に共通するのは「ロビンソン」の部分である)は、小型ヘリコプターを意味する「商品の普通名称」になっていると主張するが、ロビンソン社が小型ヘリコプターのメーカーとして世界的に著名な存在であることは被告主張のとおりであるとしても、同社が製造する小型ヘリコプターも数多くある小型ヘリコプターの中の一種であることには変わりがなく、ロビンソン社製のヘリコプターの名称が小型ヘリコプターを意味する「商品の普通名称」になっているとまで認めるに足る証拠はない。そして、原告が昭和三七年七月にロビンソン社と関わりなく本件登録商標を取得したものであること、原告は、被告も認めるとおり、自転車及びその部品についてではあるが、本件登録商標を使用してきているほか、川田工業に本件登録商標を使用させていること、被告が主張するロビンソン社、川田工業、原告三社の関係も原告とロビンソン社を法律的、経済的に一体視させるほどに密接なものであるとは考えられないこと、原告や川田工業及び被告の営業活動が自由競争の原理の下で行われるものであることはいうまでもないこと、以上のような事情を考慮すると、右の表示についての被告の実質的違法性の欠如、権利濫用の主張は、いずれもたやすく採用できない。 そうすると、被告表示(五)(3)に関する原告の侵害の主張は、理由があるというべきである。 6 自動車の車体における表示(被告表示(六))(一) 被告表示(六)は、別紙使用態様(六)記載の使用態様に照らすと、本件ヘリコプターを広告するために自動車の車体に表示されたものであると認められ、 右自動車を走行、展示する行為は、「商品(本件ヘリコプター)に関する広告……に標章を附して展示……する行為」(商標法2条3項3号)に該当する。 (二) 被告表示(六)は、その表示方法からすると、一応、被告が取り扱う航空機(ヘリコプター)を特定、説明する表示とみられなくはない。しかし、そこには、被告表示(三)(1)〜(3)や同(五)(1)、(2)の場合のように特定、説明の対象になる航空機(ヘリコプター)が具体的に表示されているわけではない。そして、その使用態様も、別紙使用態様(六)記載のようなものであって、 「ROBINSON」の部分が大書、強調され、これと片仮名で書かれた「ヘリコプター」の部分が見るものの印象に残りやすいものになっている。こうしたことからすると、被告表示(六)は、被告が取り扱う航空機(ヘリコプター)を特定、説明する表示として、前記の慣用的な表示方法に従ったものとは認め難い。そして、 その他の被告の主張を採用できないことは、前記5(三)において判示したとおりである。 そうすると、被告表示(六)に関する原告の侵害の主張は、理由があるというべきである。 7 定価表及び取引書類 被告表示の表示態様は、前記第二の五1ないし6のとおりであり、右以外の表示態様を認めるに足りる証拠はない。すなわち、本件ヘリコプターに関する定価表及び取引書類に被告表示がなされていると認めるに足りる証拠はないから(但し、前記4のハンドブツクが取引書類に当たるかどうかについては同所の判示参照。)、 右定価表、取引書類に関する原告の侵害の主張は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。 三 原告の損害(商標法38条1項の適否)1 以上によれば、被告による本件ヘリコプターの雑誌広告における被告表示(五)(3)及び自動車の車体における被告表示(六)は、いずれも原告の本件商標権を侵害する。 2 被告の右商標権侵害行為は被告の過失によって行われたものと推定されるから(商標法39条、特許法103条)、被告は原告に対し右不法行為により原告が被つた損害を賠償しなければならない。 ところで、前記二5(三)のとおり、原告は、本件登録商標を附した自転車及びその部品を製造、販売しているものの、本件登録商標を附したヘリコプターを輸入、製造、販売していないのであるから、本件に商標法38条1項の推定規定の適用はなく、結局、原告は被告に対し、同条二項に基づき、本件登録商標の使用料相当額の損害賠償を請求できるにすぎないものと解すべきである。 3 そこで、右使用料相当額について検討する。 原告は、昭和五九年一一月二二日株式会社ロビンソン・ジャパン(以下「ロビンソン・ジャパン社」という。)との間に、昭和六一年一二月一七日川田工業との間に、いずれも存続期間を本件商標権の存続期間中(更新登録後も含む)、対価を各金五〇万円とする本件登録商標についての通常使用権設定契約を締結した(甲二、 一九ないし二二)。 これによれば、右対価五〇万円はロビンソン・ジャパン社については少くとも一七年余、川田工業については少くとも一五年余の間の使用料ということになると思われる。 右のような事実を参酌すると、前記被告表示(五)(3)及び同(六)を、昭和六〇年一〇月ころから(甲六、乙三、検甲一、弁論の全趣旨)本件口頭弁論終結までの四年余の間使用したことによる使用料相当損害金は、右五〇万円の四分の一である金一二万五〇〇〇円というのが相当である。 |
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結論
よって、原告の本訴請求は、主文第一ないし第三項の限度で理由があるからこれを認容し、(なお、請求の趣旨3の廃棄請求については、同2の差止実現のために必要かつ十分な程度のものに限られるべきものと解されるところ、甲六及び乙三によって認められる使用態様と経験則に照らすと、被告の手許にある、すなわち被告所有の一九八八年版「日本航空機全集」掲載の広告から塗り潰し等の方法で別紙被告表示一覧表5(3)記載の表示(標章)中の「ロビンソン」なる部分のみを抹消することも技術的には可能であり、また、検甲一によつて認められる使用態様と経験則に照らすと、被告所有のコンテナトラツクの車体から、塗り潰し、塗り直し等の方法で同一覧表6記載の表示(標章)中の「ROBINSON」なる部分のみを抹消することも技術的には可能であると認められるので、右広告やトラツクそのものの廃棄は行きすぎであるといわざるをえず、右各表示(標章)中の一部の抹消の限度でこれを認めるのが相当である。)、その余は失当であるからこれを棄却し、 訴訟費用の負担につき民訴法89条、92条本文を、仮執行の宣言につき同法196条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
(別紙)被告表示一覧表<03909-001><03909-002>(別紙)使用態様(一)(1)<03909-003>(別紙)使用態様(一)(2)<03909-004>(別紙)使用態様(一)(3)<03909-005>(別紙)使用態様(一)(4)<03909-006>(別紙)使用態様(二)(1)(2)<03909-007>(別紙)使用態様(三)(1)<03909-008>(別紙)使用態様(三)(2)<03909-009>(別紙)使用態様(四)(1)<03909-014>(別紙)使用態様(四)(2)<03909-015>(別紙)使用態様(四)(3)<03909-010>(別紙)使用態様(五)<03909-011>(別紙)使用態様(六)<03909-012>(別紙)一般使用例目録<03909-013> |
裁判官 | 上野茂 |
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裁判官 | 長井浩一 |
裁判官 | 森崎英二 |