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関連審決 審判1981-26202
関連ワード 指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  連合商標 /  存続期間 /  更新登録 /  外国 / 
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事件 平成 2年 (行ケ) 154号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1991/01/24
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が昭和五六年審判第二六二〇二号事件について平成二年四月五日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告主文同旨の判決。
二 被告「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯商標登録出願人 株式会社コンチネンタルトレーディング出願日 昭和五四年九月一八日(昭和五四年商標登録願第七〇三〇七号)(同年商標登録願第七〇三〇八号商標との連合商標として登録出願)本願商標 欧文字「MICROLON」をゴシック体にて横書きしてなる商標(別紙(一))指定商品 第一類「原材料が一〇パーセントのテフロンと九〇パーセントの石油蒸溜液からなり、金属の摺動面に用いて減摩擦、減磨耗の効果を生ぜしめる商品、その他本類に属する商品」(その後、「化学剤、その他本類に属する商品」に訂正)出願人名義変更届 昭和五六年七月三〇日に柿崎健治名義 昭和五七年一〇月五日に原告名義拒絶査定 昭和五六年一一月二日審判請求 同年一二月二九日(昭和五六年審判第二六二〇二号事件)出願公告 昭和六三年一月一三日(商標出願公告昭六三ー二〇一七号)異議申立 同年三月一一日請求不成立審決 平成二年四月五日二 審決の理由の要点1 本願商標の構成、指定商品及びその登録出願日は、前項記載のとおりである。
2 異議申立人が本願商標を商標法4条1項11号に該当するとして引用した登録第五四五一三二号商標(以下、「引用商標」という。)は、別紙(二)のとおり「MAKROLON」の欧文字を横書きしてなり、(旧)第一類「化学品、薬剤及び衣料補助品」を指定商品として、昭和三三年一二月一二日に登録出願、同三四年一二月七日に登録され、その後昭和五五年四月三〇日及び平成二年一月一九日の二回にわたり存続期間更新登録がなされたものである。
3 本願商標と引用商標との類否について判断するに、両商標の構成は、いずれも前記のとおりであるから、それぞれの構成文字に相応して本願商標よりは「マイクロロン」の称呼を生じ、引用商標よりは「マクロロン」の称呼を生ずるものと認められる。
そこで、本願商標より生ずる「マイクロロン」と引用商標より生ずる「マクロロン」の両称呼を比較すると、両者は、「マ」と「クロロン」の各音を共通にするものであり、異なるところは前者における第二音「イ」の音を有するか否かの差にすぎないものである。しかして、「イ(i)」の音は、それのみを単独で発音する場合においては調音位置を前母音とし、調音方法を有声の開放音とするはっきり澄んだ明確音であるといえるとしても、比較的聴別され難い中間に位置する場合においては必ずしも明瞭に聴取されるとはいい難いところであるから、前記「マ」と「クロロン」の中間に該「イ」の音を有無にしたその差異が両称呼全体に及ぼす影響は決して大きいものがあるとはいい難く、結局、両称呼は、それぞれを一連に称呼するときは全体の語調、語感が近似したものとなり、彼此聴き誤るおそれがあるものといわなければならない。
したがって、本願商標と引用商標とは、称呼において類似する商標であり、且つ、その指定商品も同一または類似するものであるから、結局、本願商標は、商標法4条1項11号に該当し、登録することができない。
三 審決の取消理由1 審決の理由の要点1、2は認める。同3のうち、本願商標及び引用商標がその構成文字に相応して、それぞれ「マイクロロン」及び「マクロロン」の称呼を生ずるものであることは認め(但し、本願商標より「ミクロロン」の称呼も生ずるものであることは後記のとおりである。)、その余は争う。
審決は、本願商標を「マイクロロン」の称呼が生ずるとしたうえ、本願商標と引用商標とは称呼において類似する商標であるとの誤った判断をし、それが結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、違法として取り消されるべきである。
2(一) 外観上の差異 本願商標は、別紙(一)のとおり、「MICROLON」の綴字をゴシック体で左横書きに表わしたものであり、引用商標は、別紙(二)のとおり、「MAKROLON」の綴字をボールド体で左横書きに表わしてなるものであるから、本願商標と引用商標とは、その書体の差異と、第一字ないし第三字において「MIC」と「MAK」の綴字を著しく異にするものであり、全体として外観を異にするものであることは明白である。
(二) 称呼及び観念上の差異(1) 本願商標は、その綴字全体からして、特定の観念を生ずることのない造語であることは否定し得ないとしても、その構成前半「MICRO」は、「百万分の一」「微小」を意味する外来語として既に日本語化された語であると同時に、「ミクロの世界」の用語例に代表されるように、該語よりは「ミクロ」及び「マイクロ」の各称呼を生ずるものであり、このことは、該語は各商品の普通名称の接頭語としても活用され、「ミクロメーター」、「ミクロコスモス」、「マイクロバス」、「マイクロフォン」、「マイクロコンピュータ」等の日常用語のみならず、
とりわけ化学、病理、電子、理化学に関する各種商品に圧倒的に多用されている事実によっても窺い知ることができるものである。
したがって、本願商標に接する者は、本願商標の構成が「百万分の一」「微小」を意味する英語の成語「MICRO」と造語「LON」の複合語であることの認識を容易に抱かしめるものであり、同時に、本願商標よりは「ミクロロン」「マイクロロン」の各称呼を生ずるものである。
(2) 引用商標は、本願商標と同様に、その綴字全体からして、特定の観念を生ずることのない造語であることは否定し得ないとしても、その構成前半「MAKRO」は、「巨大」「巨視的」を意味するドイツ語であり、「MAKROBIOTIK」(延命学)、「MAKROCHEILIE」(大唇症)、「MAKROCHIRIE」(大手症)、「MAKRODAKTYLIE」(大指症)、「MAKROLEKUL」(巨大分子)、「MAKROPSIE」(大視症)、「MAKROSOMIE」(大耳症)、「MAKROZEPHALIE」(大頭蓋症)、「MAKROZYKLISCH」(大環状化合物)、「MAKROZYT」(大赤血球)等、医学、化学に関する用語の接頭語として、医学、化学分野における専門用語に使用されている。
ドイツ語が、我が国において、いまだもって親しみの薄い語であるとしても、本願商標及び引用商標の指定商品である「化学品、薬剤、医療補助品」の取引分野における取引者、需要者は、業務上ドイツ語を主要外国語として使用する医師、科学者等が圧倒的に多数であることからすれば、引用商標に接する者は、引用商標の構成が「巨大」「巨視的」を意味するドイツ語「MAKRO」と造語「LON」の複合語であることの認識を容易に抱かしめるものであり、同時に、これより「マクロロン」の称呼によって取引されるものとするのが相当である。
なお、ドイツ語「MAKRO」と同義語として使用される英語「MACRO」は、「巨大」「巨視的」を意味する外来語として既に日本語化されているものであり、また該語は接頭語として「マクロエンジニアリング」、「マクロファージ」、
「マクロ命令」、「マクロレンズ」等が日常用語として使用されるほか、右の用語以外に医学、化学、電子等の各分野においても使用されており、英語「MACRO」は、ドイツ語「MAKRO」にもまして、医学、化学、電子等の各分野において世情一般に広く使用されている。してみると、ドイツ語「MAKRO」及び英語「MACRO」よりは、共に「マクロ」の称呼を生ずるものであり、それがために、引用商標がドイツ語「MAKRO」と造語「LON」の複合語であったとしても、医師、科学者等の化学品、薬剤に携わる者以外の一般世人をしても、「マクロロン」の称呼を生ずる引用商標は、称呼上において「巨大」「巨視的」を意味する「マクロ」と造語の「ロン」の複合語であるとの印象を強く抱かしめるものである。
(3) 本願商標の構成前半より生ずる称呼「ミクロ」「マイクロ」と引用商標の構成前半より生ずる称呼「マクロ」とは、日常会話としても「ミクロ(微小)としてみた場合……何々」或いは「マクロ(巨大、拡大)としてみた場合……何々」等、両者は正反対の語として使用され、また、数多い外来語の中にあっても稀有な正反対の語として既に日本語化されている。したがって、仮に、本願商標の構成前半より生ずる称呼「マイクロ」と引用商標の構成前半より生ずる称呼「マクロ」とを比較したとしても、この両者の称呼上差異する「イ」音の有無によって正反対の語として認識されているのであるから、観念と一体となって称呼されるこれら構成前半の成語において、両者を称呼聴別するうえにおいて「イ」音の有無こそが重大な影響を及ぼしめているものであって、若しこの正反対の観念を有する「マイクロ」と「マクロ」とが類似音として聴取される場合があったとしても、そのことは会話する当事者のいずれかにおいて何等かの原因に基づく例外であって、この例外をもって称呼上類似であると判断することは当を得ない。
一方、本願商標及び引用商標の構成後半の「LON」は、特定の語義を生ずることのない造語であって、これより「ロン」の称呼を生ずるところ、商標の末尾に接尾語として「ロン」の称呼を伴う化学品、薬剤に関する登録商標及び出願商標の特許庁における出願状況は五音ないし八音構成のものに限ってみても六五八一件にのぼっており、「ロン」なる接尾語は化学品、薬剤についてはありふれて使用されているものであり、商標の接尾語としては付記的とまではいえないにしても極めて顕著性の乏しいものであるといえる。
してみると、本願商標「MICROLON」及び引用商標「MAKROLON」は、いずれもその構成前半を接頭語の成語とし、構成後半を顕著性の乏しい造語とするものであって、該構成にあっては、両商標は共にその構成前半の「MICRO」又は「MAKRO」に取引者、需要者の強い関心が注がれて、これを観念称呼されるものである。したがって、本願商標及び引用商標は、構成全体としてみた場合といえども、構成後半の「LON」に影響されて接頭語たる成語の語義を喪失するものではないから、両商標はその構成前半において、依然として「ミクロ」と「マクロ」または「マイクロ」と「マクロ」の対立する正反対の称呼観念を認識せしめることに変わりはない。
(4) ところで、本願商標より生ずる「マイクロロン」の称呼と引用商標より生ずる「マクロロン」の称呼とを比較してみるに、本願商標は六音よりなるものであり、引用商標は五音よりなるものであって、両者を単に音数の差について比較した場合には、本願商標のほうがその第二音の母音「イ」について多いことが認められるものであるが、両者の称呼を強弱、高揚の伴う音声言語としてみた場合には、本願商標より生ずる称呼は「マイ」「クロ」「ロン」の三音節を構成して称呼されるものであり、引用商標より生ずる称呼は「マ」「ク」「ロ」「ロン」の四音節を構成して称呼されるものである。したがって、簡易迅速を旨とする商品取り引きの実際の場からみた場合、本願商標は各音節の語頭音である「マ」と「ク」と「ロ」の夫々にアクセントを伴って、各二音づつが区切りを伴って規則正しい調子で「マイ・クロ・ロン」と称呼されるものである。これに対して、引用商標は第一音から第三音までの「マクロ」の各音がほぼ平板に連続するように称呼されるから、第四音にアクセントを伴って第五音と一体となって「ロン」と称呼され、全体としてはその音数が前半と後半で三対二の比率となって「マクロ・ロン」と不規則な調子で称呼されるものである。
したがって、本願商標と引用商標の差異音とする「イ」は、審決が認定するように中間音であったとしても、本願商標の構成上第一音節として最初に発せられる語頭音「マ」に続いて「マイ」と発せられる第二音に位置する音であり、この第二音の「イ」が、例えば「エイス」と「エース」の比較のように、第一音と第二音とが共に唇を横に広げ、その調音位置も共に前母音とする音構成において、これを連続して称呼するときには第二音が第一音に吸収されて明確に聴取され難い場合は格別としても、本願商標の第一音「マ」の帯有母音「ア」と第二音「イ」は中母音と前母音の調音位置を異にするとともに「アイウエオ」において連続する母音であるから、これを連続して「マイ」と称呼しても「ア」を帯有母音とする「マ」に第二音の「イ」が吸収されて聴別し難いものでは決してない。そして、本願商標は、これを一連に称呼した場合といえどもその音構成の前半は「マイ・クロ」の二音節として明確に聴取され、一方、引用商標はその音構成の前半は「マクロ」と連続して平板な称呼として聴取されるものである。
以上によれば、百万分の一、微小の意味を容易に認識させる「マイクロ」の称呼と、巨大、巨視的の意味を容易に認識させる「マクロ」の称呼より、その構成前半において正反対の語として認識せしめる本願商標と引用商標とは、その構成前半の相違する観念と相俟って、夫々を一連に称呼した場合といえども、彼此聴き誤るおそれは断じてない。
(三) 以上のとおり、本願商標よりは「ミクロロン」と「マイクロロン」の二つの称呼を生ずるものであるにも拘らず、審決は、「ミクロロン」の称呼については一言も述べるところがなくこれを欠落せしめて、本願商標の他の称呼「マイクロロン」と引用商標より生ずる「マクロロン」とを比較し、その差異とする「イ」音の有無の差異は両商標の称呼全体に及ぼす影響が決して大きいものがあるとはいい難いとして本件商標の登録を拒絶したものであり、事実認定を誤った違法なものであるから取り消されなければならない。
請求の原因に対する認否及び被告の主張
一 請求の原因一及び二は認める。同三については、2(一)、及び2(二)のうち本願商標よりは「マイクロロン」及び「ミクロロン」の各称呼が生ずること、商標の末尾に「ロン」の称呼を伴う商標の出願状況が原告主張のとおりであることは認め、その余は争う。
審決の認定、判断は相当であり、審決には取り消すべき違法はない。
二 被告の主張1 審決が本願商標より生ずる「ミクロロン」の称呼について引用商標との類否判断をしなかったのは、審判手続において、原告が、本願商標より生ずる称呼は「マイクロロン」が自然であると主張したため、及び、本願商標より「マイクロロン」の称呼を生ずるとともに「ミクロロン」の称呼も生ずるとしても、後者の称呼は引用商標との称呼類否判断上不要であるから(引用商標の称呼を「ミクロロン」と対比しても両者は類似しているということができる。)。
2 商標の称呼類否判断は、指定商品についてのわが国の需要者の認識を基準として判断すべきものであるから、商標中の一部の文字がドイツ語で接頭語として使用されていることをもって当該商標を分断して考察すべき根拠とすることはできない。
3 「ロン」を接尾語とする商標の登録例が多々存在するというだけで「ロン」の部分が顕著性に乏しいものであるとはいえないから、両商標を「ロン」の部分で分断すべき根拠は見出すことができない。
しかして、本願商標の各構成文字は、同じ書体、大きさ、間隔で一連に書されていて視覚的に一体のものとして看取される簡明な構成になるものであり、該構成文字より生ずる「マイクロロン」の称呼も格別冗長なものでなく、且つ、該構成文字が特定の称呼観念をもって一般に親しまれた既成語とはいえないとしても、無理なく一連且つ平坦に称呼し得るものであるから、構成全体をもって一体不可分の造語よりなるものと認識し、把握されるものとみるのが極めて自然であり、経験則にも適うといい得るものであって、他にこれを「MICRO」と「LON」の二つの文字部分に分離して観察すべき特段の事情があるとは認められない。
他方、引用商標も、本願商標と同様の理由により、一体不可分の造語よりなるものと認識し、把握されるものとみるのが極めて自然なものである。
4 「イ」の音は、それのみを単独で発音する場合には、はっきり澄んだ音であるといえるとしても、他の母音との比較においては聞えが弱い音であることは明らかである。まして、本願商標における該「イ」の音は、母音の中でも最も聞えが弱く、響く「ア」を母音とする「マ」の音をその前音とし、これに連なるものであるから、これについての原告の主張は失当である。
なお、本願商標及び引用商標は、いずれも一体不可分の造語を表わしたものとして認識し、把握されるものとみるのが自然であり、観念の点については比較すべくもないものであるから、一連で且つ平坦な称呼を生ずる両商標がそれぞれ時と所を異にして一連に称呼された場合に相紛れるか否かについて比較し検討すべきである。
証拠関係(省略)
理 由一 本件に関する特許庁における手続の経緯、審決の理由の要点、本願商標の構成、指定商品及び登録出願日、並びに、引用商標の構成、指定商品、登録出願日、
設定登録日及びその更新登録日が、いずれも原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二 本願商標と引用商標との類否1 本願商標は「MICROLON」の綴字をゴシック体で左横書きに表わした別紙(一)のとおりのものであり、一方、引用商標は「MAKROLON」の綴字をボールド体で左横書きに表わした別紙(二)のとおりのものであって、両商標は外観を異にするものであるとの点は、当事者間に争いがない。
2 そこで、両商標から生ずる称呼上の類否について検討する。
(一) 別紙(一)の構成からなる本願商標よりは「マイクロロン」または「ミクロロン」の各称呼が生ずること、別紙(二)の構成からなる引用商標よりは「マクロロン」の称呼が生ずることについては、当事者間に争いがない。
(二) いずれも成立に争いのない甲第九号証の一ないし七(コンサイス外来語辞典第四版、一九八七年四月一日株式会社三省堂発行)、同第一〇号証の一ないし六(カタカナ新語辞典、一九八九年三月一〇日株式会社学習研究社発行)、同第一一号証の一ないし八(KENKYUSHA’S NEW ENGLISH-JAPANESE DICTIONARY 一九八〇年株式会社研究社発行)、同第一三号証の一ないし四(独和辞典、一九八七年二月株式会社郁文堂発行)及び同第一四号証の一ないし四(新修反対語辞典、一九八八年一一月三〇日株式会社集英社発行)によれば、「MICRO」(本願商標の語頭部分)は「百万分の一」「微小」の意味を有する英語の接頭語であり、「MACRO」は「巨大」「巨視的」の意味を有する英語の接頭語であって、両極端にある物体の大きさ、量、ひいては比喩的に事柄の大小を表わす正反対の語として用いられ、我が国では「MICRO」を「マイクロ」または「ミクロ」と称呼し、「MACRO」を「マクロ」と称呼し、いずれも右と同義の外来語として日常生活において広く用いられていて、前者の複合語として「マイクロバス」、「マイクロフィルム」、「マイクロフォン」、「マイクロコンピューター」、「マイクロメーター」、「ミクロメーター」、「ミクロコスモス」等の用例があり、後者の複合語として「マクロエンジニアリング」、「マクロコスモス」等の用例があること、「MAKRO」(引用商標の語頭部分)は「MACRO」と同じ意味を有するドイツ語であるが、その称呼は「MACRO」同様「マクロ」であるから、「MAKRO」の聴者である取引者、需要者はこれを「MACRO」の外来語としての「マクロ」と同義、すなわち「MICRO」の外来語としての「マイクロ」または「ミクロ」の反対語として「巨大」「巨視的」を意味するものと理解することは明らかであることが認められる。
しかして、称呼の類否については、称呼それ自体から判断しても差支えない場合があることはもとより否定するものではないが、一見共通する部分または似通った部分が認められるかのごとき称呼にあっても、その称呼の全部または一部が明らかに特定の観念を生じさせるものであれば、聴者である取引者、需要者はその称呼を明確に聴別することができるものと認めるのが相当である。
これを本件についてみれば、「マイクロロン」または「ミクロロン」と称呼される本願商標と「マクロロン」と称呼される引用商標において、両商標の指定商品である「化学剤、その他本類(第1類)に属する商品」または「化学品、薬剤及び医療補助品」の取引者、需要者は、必ずしも医師、薬剤師等に限らず一般需要者も含まれると解され、成立に争いのない甲第一六号証の一ないし一五(株式会社東洋情報の商標調査検索システムから検出した情報資料)によるも、「ロン」が広く取引者、需要者の間で、原告主張のように、化学品、薬剤の意味を有する語として通用しているとまでは認め難く、したがって、「ロン」の語は特定の意味を有しないものと認めるのが相当である。そうであれば、両商標はともに全体としては意味のない造語であって、これが一連に称呼され、その発音を表記した場合、文字の配列が一見似通ったところがあるとしても、それぞれの語頭を占める「マイクロ」または「ミクロ」と「マクロ」が、前記のように外来語として、しかも正反対の意味を有するものとして、広く我が国の日常生活において理解されている以上、取引者、需要者が右語頭部分を含め僅か五音または六音に過ぎない両商標を称呼の紛らわしいものとして聴取混同するおそれはないものと認めて差支えないものというべきである。むしろ、取引者、需要者は、「ロン」の意味を理解しないまでも、本願商標を「小さいロン」、引用商標を「大きいロン」と明確に区別して観念して聴取するものと認められるのである。
3 本願商標と引用商標が観念においても類似するものでないことは、前記2に説示したところから明らかである。
4 以上によれば、本願商標と引用商標とは外観観念称呼のいずれにおいても相紛れることのない別異の商標であると認められるから、両商標が称呼において類似するとした審決は、その類否判断を誤ったものというべく、違法として取消しを免れない。
三 よって、本件審決の違法を理由にその取り消しを求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 松野嘉貞
裁判官 舟橋定之
裁判官 杉本正樹