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事件 平成 15年 (ワ) 11661号 商標権侵害差止等請求事件
原告 藤本製薬株式会社
原告 株式会社フジモト・ブラザーズ
原告 株式会社フジモト・コーポレーション
原告ら訴訟代理人弁護士 山本忠雄安部朋美 酒井 一内藤秀文
被告 株式会社エスロク
訴訟代理人弁護士 高橋むつき木下正信 上原康史
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2006/04/18
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,原告株式会社フジモト・ブラザーズに対し,804万4305円及びうち106万1283円に対する平成16年11月5日から,うち698万3022円に対する平成17年10月4日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告株式会社フジモト・コーポレーションに対し,104万9122円及びこれに対する平成17年6月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告は 「サンヨーデル/SUNYODEL」との標章を付したダイ ,エット用健康補助食品を販売してはならない。
4 被告は,別紙目録2の謝罪広告を,別紙目録1記載の新聞の各全国版-2-の広告欄に,標題部の写植を13級活字,その余の部分を写植11級の活字でもって,各1回掲載せよ。
5 原告藤本製薬株式会社の請求並びに原告株式会社フジモト・ブラザーズ及び原告株式会社フジモト・コーポレーションのその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は,原告株式会社フジモト・ブラザーズに生じた費用の4分の3と被告に生じた費用の5分の1を被告の負担とし,同原告に生じたその余の費用及びその余の原告らに生じた費用と被告に生じたその余の費用を原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,原告株式会社フジモト・コーポレーション(以下「原告コーポレーション」という )及び原告藤本製薬株式会社(以下「原告藤本製薬」とい 。
う )に対する関係において,被告の商品「サンヨーデル/SUNYODE 。
L」について,別紙被告標章目録記載の標章を使用し,または,これを使用した商品を販売してはならない。
2 被告は,所有する別紙被告標章目録記載の標章を使用した被告の商品「サンヨーデル/SUNYODEL」を廃棄せよ。
3 主文3項と同旨4 被告は,原告株式会社フジモト・ブラザーズ(以下「原告ブラザーズ」という )に対し,別紙目録3の謝罪広告を,別紙目録1記載の新聞の各全国版の 。
広告欄に,標題部の写植を13級活字,その余の部分を写植11級の活字でもって,各1回掲載せよ。
5 被告は,原告藤本製薬に対し,5000万円及びこれに対する平成15年11月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被告は,原告ブラザーズに対して2000万円及びうち1300万円に対する平成16年11月5日から,うち700万円に対する平成17年10月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告は,原告コーポレーションに対し,5000万円及びこれに対する平成17年6月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
1 争いのない事実等(当事者間に争いがない事実及び末尾に掲記する証拠並びに弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)(1) 当事者ア 原告ら原告藤本製薬は,医薬品の製造及び販売等を目的とする株式会社である。
原告ブラザーズは,グループ企業(原告藤本製薬及び原告コーポレーションを含む )への不動産の賃貸及び管理運営等を目的とする株式会社で 。
ある。
原告コーポレーションは,グループ企業の保有する知的財産権の管理運営及び経営指導のための企業管理・経営を目的とする株式会社である。
イ被告被告は,検査器具や歯科用などの医療用具,医薬部外品及び化粧品等の売買及び輸入等を目的とする株式会社である。被告は,後記被告製品を通信販売で直接消費者に販売するほか,株式会社白元(以下「白元」という )及び大三株式会社(以下「大三」という )を通じて卸売店に対し 。。
被告製品を販売している。
(2) 原告コーポレーションの有する商標権ア 原告コーポレーションは,下記の登録商標(以下「本件商標」といい,本件商標に係る商標権を「本件商標権」という )の商標権者である。 。
登 録 商 標 別紙原告商標目録記載のとおり指定商品 薬剤商品の区分 第1類「薬剤 〔平成3年政令第299号による改正前の 」商標法施行令別表(以下「旧別表」という )による〕。
出 願 日 昭和59年9月28日登 録 日 昭和61年11月27日登 録 番 号 第1914019号の2本件商標は 「YODEL」の英文字と「ヨーデル」のカタカナ文字と ,を2段に横書きしたものである。
イ 本件商標権は,平成元年3月の分割移転登録により原告藤本製薬が取得したものであるが,平成10年1月12日に原告ブラザースに,さらに平成13年7月25日に原告コーポレーションに順次移転された。原告藤本製薬は,本件商標権を原告ブラザーズさらには原告コーポレーションに移転した後は,同原告らからその独占的使用許諾を受けて,本件商標を使用している(弁論の全趣旨 。)(3) 原告藤本製薬の製造販売する製品及びその商品表示原告藤本製薬は,センナエキスを有効成分とする便秘治療剤「ヨーデルS糖衣錠-80/YODEL-S-80(以下「原告製品」という )に, 」。
別紙原告商品表示目録記載(1),(2)の商品表示(以下,合わせて「原告商品表示」という )を付して販売している(甲10,23,27 。 。)(4) 被告製品の販売及び本件合意の成立被告は,平成10年ころから,成分にセンナ茎を含み,便通を改善することによりダイエット効果をうたう健康補助食品(以下「被告製品」という )に,当初「Yodel HERB&FIBER/ヨーでる ハーブ& 。
ファイバー」との標章(以下「旧商標」といい,同標章を付した被告製品を「旧商標商品」という )を使用して販売を開始し,平成11年10月から 。
は大三を通じて卸売店や全国のドラッグストア等で旧商標商品を販売していた。
被告は,原告ブラザーズとの後記合意前において,別紙被告標章目録記載2の標章(ヨーでる)及び同目録記載19の標章(ヨーでるダイエット)を」, 女性週刊誌の広告や商品説明書に使用した(以下,それぞれ「被告標章2「被告標章19」といい,同目録記載の他の標章を指すときもこれに準じて表示する。なお,同目録記載の各標章を総称するときは,単に「被告標章」ともいう 。。)ところが,被告は,平成12年1月18日,本件商標の当時の商標権者である原告ブラザーズから上記標章の使用が同原告の有する本件商標権を侵害する旨の通知を受け,その中止を求められた。これに対し,被告は,本件商標権の存在を知らずに旧商標を使用したものであり,それ以降は新しい標章を使用して被告製品を販売する旨の回答をし,種々協議を重ねた結果,同年12月5日,原告ブラザーズとの間で,被告製品に付する標章の内容等について,以下の内容の合意に達した(以下,この合意を「本件合意」といい,本件合意の内容を記載した書面〔甲4〕を「本件合意書」という 。。)ア 被告は,平成12年7月31日以前に,被告の標章「Yodel HERB&FIBER/ヨーでる ハーブ&ファイバー」を付した商品(旧商標商品)の製造を中止したことを原告ブラザーズに確約する(第2条1項。)被告は,被告又は被告の商品を取り扱う業者若しくは店舗等における旧商標商品の販売を平成12年7月31日までとし,平成12年8月1日以降,理由如何を問わず,在庫は廃棄処分し,旧商標商品の輸入,製造,販売,宣伝並びに広告の一切を行わないことを誓約する(第2条2項 。)イ 被告は,平成12年11月10日以前に「SunYodel HERB&FIBER/サンヨーデル ハーブ&ファイバー」との標章(以下「現商標」という )を付した商品(以下「現商標商品」という )の製造を 。。
中止したことを原告ブラザーズに確約する(第3条1項 。)被告は,被告又は被告の商品を取り扱う業者若しくは店舗等において現商標商品の販売を平成13年6月30日までに限って販売することができるものとし,平成13年7月1日以降,理由如何を問わず,現商標商品の在庫を廃棄処分し,現商標商品の輸入,製造,販売,宣伝並びに広告の一切を行わないことを誓約する(第3条2項 。)ウ 被告は,平成12年11月10日現在から平成13年6月30日までの現商標商品の販売に当たり 「Sun/サン」部分と「Yodel/ヨー ,デル」部分との間にその一体化を損なう特徴を付したり 「Sun/サ,ン」部分と「Yodel/ヨーデル」部分とを分離分割するなど 「ヨー,デル」単独の称呼を生じる表示,宣伝,広告を行わないものとする(第4条1項 。)被告は,被告の商標登録出願商標「SUNYODEL/サンヨーデル」(平成11年商標登録願第91251号。以下「新商標」という )を付。
した商品(以下「新商標商品」という)の販売に当たり 「SUN/サ 。,ン」部分と「YODEL/ヨーデル」部分との間にその一体化を損なう特徴を付したり 「SUN/サン」部分と「YODEL/ヨーデル」部分と ,を分離分割するなど 「ヨーデル」単独の称呼を生じる表示,宣伝,広告 ,を行わないものとする(第4条2項 。)上記2項のほか,今後,被告は旧商標商品,現商標商品及び新商標商品と同一又は類似する被告の商品に,原告ブラザーズの保有する本件商標権の商標と同一又は類似する商標を使用しないものとする(第4条3項 。)エ 被告は,本件合意に基づく和解金として,原告ブラザーズに対し200万円を支払うものとする(第5条 。)オ 被告が上記ア及びイに定める期日以降に旧商標商品又は現商標商品を販売した場合は,被告は原告ブラザーズに対し,違反行為1回当たり,違約金として50万円を支払うものとする(以下省略。第6条1項)原告ブラザーズは,被告の商品を取り扱う業者又は店舗等において上記ア及びイの各項に定める期日以降に「旧商標商品」又は「現商標商品」が存在し,次の(イ)ないし(ニ)(一定の品質保持期限又はロット番号による特定される製造時期より後に製造されたもの)のいずれかに該当する場合には,上記違反行為とみなし,直ちに製品を回収し廃棄の処理を行うものとする(第6条2項柱書。以下省略 。)カ 被告が上記アないしウに定められた表示,宣伝,広告の規定に違反した場合,被告は,現商標商品,新商標商品若しくはこれらと同一又は類似する被告の商品の販売を即時中止し,全国紙各紙に,販売中止のお知らせと謝罪文を掲載する。ただし,被告以外の被告の商品を取り扱う業者若しくは店舗等による表示,宣伝,広告であり,被告の責に帰すべからざる事由による場合において,被告が前記違反の事実を知った日から15日以内に当該行為を中止させたときはこの限りでない(第7条1項 。)キ 原告ブラザーズは,被告並びに被告の商品を取り扱う業者若しくは店舗等に対し,本件商標権に基づく警告等の権利行使は一切行わない。
ただし,被告が本件合意による被告の債務を誠実に履行しない場合はこの限りでない(第10条 。)(5) 本件合意成立後の被告の行為本件合意成立後,被告は,被告製品以外の取扱商品に,被告標章24及び25を使用している。
さらに,被告は,本件合意成立後,以下のとおり,下記の被告標章を使用した。
ア 平成14年4月10日までの間,女性誌の広告にかつて掲載されていた旧商標商品の写真を掲載したり,旧商標商品の写真を用いることによってそのラベルを掲載する方法や,旧商標商品に用いていたロゴを表示するなどの方法で,被告標章2(ヨーでる,被告標章6(Yodel ,被告 ))標章13(SunYodel)を自社のホームページにおいて使用し,被告標章7(yodel)を自社のホームページのURLの「http://www.esuroku.co.jp/under/goods/yodel_a.html 「http://www.esuroku.co.jp/ 」under/goods/yodel.gif」との表示において使用していた(甲13,乙33。)イ 上記アのホームページを変更した自社のホームページのURLにおいて,平成14年8月29日の時点で,被告標章7(yodel)を 「http:/,/www.sunyodel.net/img/yodel.jpg」の表示において使用していた(甲14,乙48の2 。)ウ 被告標章21(YODEL DIET)を,少なくとも原告藤本製薬及び同ブラザーズがその使用を指摘した直後である平成14年9月初旬ころまで,被告業務部長その他の従業員の名刺において表記していた(甲7,乙46,47の1及び6,弁論の全趣旨 。)なお,被告は,平成12年12月に大三が白元の資本傘下に入ったことにより,同月以降は白元及び大三を通じて被告製品を全国販売している。また,被告は,被告製品を通信販売やインターネットで直接消費者に対して販売している。
2 事案の概要大要,上記事実関係の下において,(1) 原告藤本製薬は,被告標章が原告製品の周知商品表示である原告商品表示と類似するため,被告標章を使用した被告製品を販売する被告の行為は不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当するとして,同法3条1項及び2項に基づき被告製品の販売差止め及び廃棄並びに同法4条に基づく損害賠償(訴状送達の日の翌日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合に。, よる遅延損害金の支払請求を含む )を求めている(請求の趣旨1項,2項5項 。)(2) 原告コーポレーションは,被告標章を使用して被告製品を販売する被告の行為が,同原告の有する本件商標権を侵害するとして,商標法36条1項及び2項に基づき被告製品の販売差止め及び廃棄を求めるとともに,商標権侵害に基づく損害賠償又は不当利得の返還(平成17年6月14日付け請求の追加申立書送達の日の翌日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合に。, よる遅延損害金の支払請求を含む )を求めている(請求の趣旨1項,2項7項 。)(3) 原告ブラザーズは,被告が本件合意に違反して被告製品を販売したとして,本件合意に基づき,被告に対し,被告製品の販売差止め及び謝罪広告並びに違約金の支払(平成17年9月30日付け請求の追加申立書が送達された日の翌日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求を含む )を求めている(請求の趣旨2項,3項,4項,6項 。 。)また,原告ブラザーズが本件商標権を有していた期間において,商標権侵害に基づく使用料相当額の不当利得の返還を請求(平成16年11月1日付け請求の趣旨の変更及び請求の追加申立書が送達された日の翌日から支払済みまでの民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求を含む )して。
いる(請求の趣旨6項 。)3争点(1) 原告ブラザーズ及び同コーポレーションの商標権侵害に基づく請求ア 被告による被告標章使用の有無及び商標的使用の有無(争点1)イ 被告が使用する被告標章の本件商標との類否(争点2)ウ 原告ブラザーズに生じた損失額(争点3)エ 原告コーポレーションに生じた損害額又は損失額(争点4)(2) 原告ブラザーズの本件合意に基づく請求ア 本件合意の効力(争点5)イ 被告及び小売店における被告標章使用行為が本件合意に違反するか(争点6 。)ウ 原告ブラザーズの被告に対する権利行使が権利濫用又は信義則違反に該当するか(争点7)(3) 原告藤本製薬による不正競争防止法に基づく請求ア 原告商品表示の周知性(争点8)イ 被告による不正競争行為の態様(争点9)ウ 誤認混同のおそれ(争点10)エ 原告藤本製薬に生じた損害(争点11)
当事者の主張
1 争点1(被告による被告標章使用の有無及び商標的使用の有無)について【原告ブラザーズ及び同コーポレーションの主張】。 (1) 被告による被告標章の使用行為は,別紙被告標章使用表のとおりであるなお,同表の「ホームページでの記載」中に掲記された使用行為には被告以外の販売業者のホームページで使用されているものも含まれる。
(2) 被告による本件商標権の侵害行為は,以下の3類型に分類される。
ア 商品に関する広告等における被告標章の使用行為(ア) 被告は,被告製品を販売するに当たり,女性週刊誌に「ヨーでる」(被告標章2)と大書して広告し,商品説明書にも「ヨーでる (被告」標章2)を使用している。
(イ) 被告は,平成14年4月3日時点で,自社のホームページにおいて旧商標商品及び現商標商品の写真を掲載して,商品広告に被告標章6(Yodel ,被告標章2(ヨーでる ,被告標章13(SunYo ))del)を使用した。
(ウ) さらに,被告は,平成14年8月に至っても自社のホームページのURLにおいて被告標章7(yodel ,被告標章9(yoder )u)を使用している。URLにおける表示は,たとえ商品自体の表示とは認められないとしても,最低限,当該ホームページ掲載の商品を宣伝又は広告する効果を有する。
(エ) また,被告の業務部長は,平成14年6月 「YODEL DIE ,T (被告標章21)と記載された名刺を使用した。名刺は,通常は宣 」伝広告媒体ということはできないが,被告製品は被告が扱う主力の商品であるから,名刺への商品名の記載は,被告製品を宣伝する媒体として名刺を使用しているものと認められる。
(オ) そのほか,被告は,少なくとも平成10年ころから平成14年4月ころまでは被告標章1,5,18及び19の各標章を使用している(甲2,3,5,12,13 。)(カ) このように,被告は,被告製品に関する宣伝・広告というべき媒体に被告標章を使用しているから,被告製品の販売において被告標章を商標あるいは商品等表示として使用しているといえる。
イ 小売店を通じた使用(ア) さらに,別紙被告標章使用表記載のとおり,被告標章1,2,18及び19は,小売店の店頭表示において被告製品を表示するものとして使用されている。
また,被告標章3は,アメリカ合衆国ハワイ州ホノルル市内のドラッグストアにおいて,被告製品の商品表示として使用されている。
(イ) 被告は,少なくとも平成12年11月30日以降 「ヨーデル/Y,ODEL」の商品表示が本件商標権を侵害するものであることを熟知していた。しかし,被告は,被告製品を取り扱う小売業者に対し 「ヨー,デル/YODEL」の標章の使用が原告コーポレーションの本件商標権を侵害するものであるため,被告製品の標章を変更したこと,そのため,小売店における被告製品の陳列,宣伝,広告において「ヨーデル/YODEL」表示を今後使用してはならないこと,特に陳列棚のプライスカードの表示を「ヨーデル/YODEL」から「サンヨーデル/SUNYODEL」に変更する必要があることを全く連絡せずにあえて放置していた。そのため,被告製品を取り扱う小売業者は,従前の「ヨーデル/YODEL」表示が本件商標権を侵害していることを知らされず,また被告からプライスカードの商品名変更の申入れがなかったことから,被告製品の旧商標を表示したプライスカードをそのまま継続的に使用し続けていた。この状態は,本件訴訟中の原告らからの再三の指摘後も継続している。
商品棚に添付されるプライスカードは,小売業者が最初に商品を取り扱う際にコンピューターに登録する等して作成し,店頭にて当該商品の商品表示として使用するものである。そして,小売業者は,一般に,多数の商品を取り扱うため,自己の取り扱う商品に付された標章が他人の商標権を侵害しているか否かを逐一調査することはあり得ない。むしろ,小売業者は,取扱商品の製造者・販売者が他人の商標権を侵害しないように注意を払った上で製造販売することを信用している。よって,商品のプライスカードに商品名が一旦登録されれば,被告が変更を申請しない限り,小売業者側において「ヨーデル/YODEL」のプライスカードの使用が本件商標権の侵害に当たることを自発的に認識して変更を行うことは事実上あり得ない。被告は,商品名を「サンヨーデル/SUNYODEL」に変更した際に,小売業者が「ヨーデル/YODEL」表示を使用し続けるであろうことを十分認識し,また,是正が容易であったにもかかわらず,小売業者に対し何らの注意や要請を行うことなく放置していたものである。
被告のかかる行為は,商標権侵害の事実を知らない小売業者を道具として利用した間接的継続的商標権侵害行為と評価されてしかるべきであり,商標法37条1号のみなし侵害行為に当たる。
または,被告が本件商標と同一の旧商標を付した旧商標商品の販売に当たり,小売業者に対し本件商標権を侵害する標章をプライスカードとして登録させ使用させていたことは,商標法37条6号のみなし侵害行為として規定される類似商標を表示した物を引き渡す行為(類似商標を表示したプライスカード等を引き渡す行為)と同視し得る行為であり,商標権侵害事実を知りながら商標権者にプライスカードの訂正を求めないで放置している行為は,類似商標を表示したプライスカードを小売業者に配布した後も回収しないのと同じである。よって,商標法37条1号のみなし侵害行為に当たらないとしても,同条5号のみなし侵害行為に当たると評価されるべきである。被告も,小売店の店頭表示に何らかの関与を行っているからである。
ウ 被告標章の除去義務違反イに加えて,小売業者は,最初から「サンヨーデル」という商品名であった被告製品の商品名を勝手に「ヨーデル」と省略して使用したわけではない。仮にそうであれば 「サンヨーデル」という表示の要部はまさに ,「ヨーデル」であり 「サンヨーデル」は「ヨーデル」の類似商標だとい ,うことになる。
小売業者は,被告が過去に商標権侵害を行い「ヨーデル/YODEL」という商品名で被告製品の販売を行っていたことに起因して,プライスカード等において「ヨーデル/YODEL」表示の使用を始め,被告より商標権侵害事実の告知及び是正の申入れがないため,商標権侵害を知らずに使用し続けていた。
被告は,明文の規定はないが,本件合意の第4条2項,第7条より,被告製品取扱店舗の違反表示についても被告が事実を知ったときから15日以内に是正しない限り被告製品の即時販売中止義務があること,第10条において,原告ブラザーズが被告製品取扱業者及び店舗に対し商標権に基づく警告等の権利行使をしないことと規定されていることから,被告が本件合意上,又は少なくとも条理上,本件商標権侵害という先行行為に基づいて,本件商標権を侵害する小売店店頭における被告標章を除去すべき義務を負うことは明らかである。
よって,被告は,本件合意及び過去の本件商標権侵害行為という先行行為から生じる条理上の,小売業者による本件商標権侵害行為の是正義務に違反している。
【被告の主張】(1) 被告は,かつて被告標章の一部を,被告製品の広告等やホームページ,名刺において使用していたが,現在はその使用を中止し 「SUNYODE,L 「サンヨーデル」の表示を使用している。 」(2) 被告による商品に関する広告等における使用行為についてア 被告が,かつて「ヨーでる (被告標章2)の標章を女性週刊誌の広告 」や商品説明書に使用していたこと,及び平成14年4月10日まで使用していたホームページにおいて「Yodel (被告標章6 「ヨーでる」 」),(被告標章2 「Sun Yodel (被告標章15)の各標章を使用 ),」していたことは認める。
また,URLとしての「yodel」の使用は,商標あるいは商品表示としての使用ではない。なお,同ホームページは,平成14年4月10日付けで解約されている。
原告ブラザーズ及び同コーポレーションが,上記以外にURLにおいて被告標章を使用していると主張するホームページは,第三者が開設したホームページである。被告はそれらの各ホームページの作成に関与していない。甲第19号証は海外(アメリカ本土やハワイ州,中南米,イギリス等)で販売されている「Ultimate Cleanse (アルティ」メイトクレンズ。以下「海外製品」という )の広告であり被告製品の広 。
告ではない。海外製品には,その成分中に日本では食品としては認められていない成分が含まれており,そのままでは日本に輸入して健康補助食品として販売することができない。そのため,成分を一部除去してその代わりに別の成分を配合し,被告の輸入販売用として独自の成分で調合されたものが被告製品なのである。したがって,被告は,海外製品の輸入や販売の権利を有しないし,被告製品は,被告が日本でのみ販売できる関係にある。被告以外の業者は,日本でも,海外でも被告製品を販売する権利を有しない。
イ 被告の業務部長が「YODEL DIET (被告標章21)と記載さ 」れた名刺を使用していたことは事実であるが,同人が名刺を使用することは年に1,2回程度しかなかったから,同名刺の使用は,被告製品の表示・宣伝・広告に該当しない。また,被告は,原告ブラザーズの指摘を受けて平成14年9月初旬頃直ちに上記記載を訂正し,その旨原告ブラザーズ及び原告藤本製薬に対して報告した。
(3) 小売店を通じた使用について原告ブラザーズ及び同コーポレーションが指摘するホノルルの小売店における表示は,海外製品に関するものであるから,本件訴訟で議論するのは適切ではない。
(4) 被告標章の除去義務違反の主張について被告は,小売店等に対し,被告標章を使用するように述べたことはない。
むしろ 「ヨーデル」という本件商標があるので「サンヨーデル」表記にお ,いて「サン」と「ヨーデル」の間を切り離したり 「ヨーデル」だけの単体 ,呼称をしないようにするよう商品のケース内にチラシを入れて注意を促すなどできる限りの対応を行った。その後,小売店がどのように対応するかは各小売店毎の問題である。被告から商標権侵害の可能性を伝えられても,そのような問題をあまり重要視しない店舗や,多忙で細かい表示にあまり意を払わない小売店が存在しないとも限らないのである。
2 争点2(被告が使用する被告標章の本件商標との類否)について【原告ブラザーズ及び同コーポレーションの主張】(1) 商品の類似について原告製品は便秘薬(薬剤)であり,被告製品はいわゆるダイエット食品(健康補助食品)である。原告製品と被告製品の商標登録上の商品区分は,原告製品が医薬品(旧別表第1類)であり,被告製品が健康補助食品(後記の新別表第29類)であって異なるものである。しかし,商標登録上の商品区分の相違は,商標権に基づく差止請求権の範囲を画する基準とはなり得ない。
商品区分は,商標登録出願人及び審査の便宜を図るという行政目的から定められた分類であって,商品の類似の範囲を定めるものではない(商標法6条3項。東京高等裁判所平成8年3月21日判決 。商品の類似の判断は,原 )。 材料及び品質,用途,需要者の範囲等を総合的に考慮して判断すべきであるまた,本件商標の指定商品は薬剤であり,被告製品は健康補助食品ではあるが,健康補助食品を販売している製薬会社も多く,いずれも薬品店,ドラッグストア,薬局等において,多数の種類の物が販売されていること,その商品の内容,用途が類似していること及び販売店舗ないし販売方法が類似していることから,健康補助食品は薬剤の類似商品である(東京高等裁判所平成15年5月22日判決参照 。)原告製品と被告製品は,@製品の形状が主として錠剤である,A便通を促し,便秘を解消する効能を有する,B薬局・薬店など医薬品を取り扱う店舗において販売されている,C原告製品はセンナエキスを有効成分とし,被告製品はセンナ茎を含有している,等の点において共通している。Dさらに,被告製品は健康補助食品であるが,俗に「やせ薬」とよばれるダイエット食品である。そして,その広告のうたい文句の中に「ファイバーが排泄を促し,ハーブが腸内をケアしますので,両方同時に摂ることで,腹痛や膨張感のない自然なお通じを導き,腸本来の機能回復と自然治癒力を高めていきます ,あるいは 「便秘解消効果があり宿便を排出」と宣伝するなど,医薬 。」,品に極めて近い,被告製品を医薬品と誤解させるような宣伝を行っている。
Eさらに,被告製品の包装は一見して薬剤と異ならないことなどの事情からすれば,医薬品である原告製品と被告製品とは商品として類似しているというべきである。
現在,多数の製薬会社が健康補助食品の製造販売を手がけるようになったことは周知であり,こうした状況にかんがみても,需要者が被告製品を原告製品と誤認混同するおそれは多大である。
(2) 本件商標及び被告標章の態様ア 本件商標の態様本件商標は,上段にカタカナで「ヨーデル ,下段に英文字で「YODE 」L」と横書きした,2段からなる文字標章である。
イ 被告標章の態様(ア) 被告標章1ないし4は,カタカナ,ひらがな,若しくはカタカナとひらがな混じりによる横書きで「ヨーデル 「ヨーでる 「よーデル 「よ 」,」,」,ーでる」と構成される文字標章である。
(イ) 被告標章5ないし9は,英文字の大文字,小文字,大文字と小文字混じりによる横書きで「YODEL 「Yodel 「yodel 「Yod 」」」eru 「yoderu」と構成される文字標章である。 」(ウ) 被告標章10は,カタカナによる横書きで「サンヨーデル」と構成されており 「ン」部分の書体を変えた文字標章である。11及び12は, ,「サン」と「ヨーデル」を分離し,11は間に中黒を,12は間に空白を入れて構成された文字標章である。
(エ) 被告標章13は,英文字の大文字と小文字混じりによる横書きで「SunYodel」と構成される文字標章であり,14及び15は「Sun」部分と「Yodel」部分を分離し,間に14は中黒,15は空白を入れて構成された文字標章である。また,16及び17は,英大文字を使用し「SUN」部分と「YODEL」部分の間にそれぞれ中黒及び空白を入れて構成された文字標章である。
(オ) 被告標章18ないし20は,カタカナ,若しくはカタカナとひらがな混じりによる横書きで「ヨーデルダイエット 「ヨーでるダイエット」 」「よーデルダイエット」と構成される文字標章である。
(カ) 被告標章21ないし23は,英文字の大文字,大文字と小文字混じり,小文字による横書きで「YODEL DIET 「Yodel Die 」t 「yodel diet」と構成される文字標章である。 」(キ) 被告標章24は英大文字ゴシック体により「SUNYODEL」と記載され,そのうちの「YODEL」部分の「O」の文字をイラスト的に強調した態様からなる文字標章である。
(ク) 被告標章25は,太陽が笑っている図形とその下に英大文字で「SUNYODEL」の文字の結合から構成される標章である。
ウ 被告標章の要部(ア) 被告標章には「ヨーデル「YODEL」その他,同一の称呼でひら 」がな,英文字などを使用した表示が使用されている。原告・被告両製品に共通する便通を促すという効能,すなわち「よーでる (よく出る)こと」が製品イメージなのであるから,この部分が要部というべきである。
(イ) 被告標章の中には結合標章もある。
このうち被告標章11ないし17は「サン 「Sun 「SUN」部分 ,」 」と「ヨーデル 「Yodel 「YODEL」部分とが分離しており,前者 」」が太陽という極めてありふれた普通名詞であるのに対し,後者は便通を促しダイエット効果をもたらすという製品の性格からして「便がよく出る」との観念を生じさせる単語であり,要部は後者にある。
被告標章10及び24は「サンヨーデル 「SUNYODEL」と一体 」になっているが,10は「サンヨーデル」の「ン」の部分に他の文字とは異なる書体を施して,24は「YODEL」の「O」の部分に他の文字とは異なる装飾を施してともに「YODEL」を強調させており 「ヨーデ,ル 「YODEL」部分が要部であることに変わりはない。 」また,被告標章21ないし23は 「YODEL」部分と「DIET」 ,部分に分けられる(英小文字混じりのものも同様に言える)が「DIE,T」は一般的には減量の意味で用いられる単語であり,商品の種類を示す用語にすぎず 「YODEL」が要部である。被告標章18ないし2 ,0は,カタカナ及びひらがなで構成され 「ヨーデルダイエット」という ,ように一体となって表示されているが,要部は「ヨーデル」にある。被告標章19及び20では 「ヨーでる「よーデル」とカタカナとひらが ,」な交じりで表記されており 「ダイエット」に比べて「ヨーデル」がこと ,のほか目立つようにされていることからみても 「ヨーデル」が要部であ ,ることがわかる。
被告標章25は「SUNYODEL」に太陽の図形を組み合わせた結合標章であるが,太陽の図形から「SUN」と「YODEL」が分離され,やはり「YODEL」部分に要部がある。
(3) 本件商標と被告標章の類似性外観類似について本件商標と被告標章は,被告標章25以外はいずれも横書きの文字標章である。そして,被告標章1及び5は本件商標と全く同一の構成であり,外観が同一である。
また,被告標章2ないし4,6及び8は,本件商標とひらがなカタカナ,英大文字,小文字の違いがあるだけであり,外観上類似している。
さらに,被告標章8及び9についても,英大文字小文字の違いと 「YO,DEL」の「L」が「ru」となっただけであり,些細な相違にすぎないから外観上類似している。日本語をローマ字表記する場合 「l」と「r」,に違いはない。
したがって,本件商標と被告標章は,外観において類似する。
称呼類似について本件商標からは,唯一「ヨーデル」の称呼を生じるところ,被告標章1ないし9から生ずる称呼は「ヨーデル」しかあり得ず,よって,称呼において同一である。
被告標章10ないし17,24及び25からは 「サン ヨーデル」の称 ,呼が生ずることは否定しない。しかし,前述のように,その要部は「ヨーデル」にあり,簡易迅速を旨とする取引の実際においては,単に「ヨーデル」のみの称呼でもって取引されるのが実情である。事実,ドラッグストアの店頭表示では,単に「ヨーデル」と表示されていたり 「ヨーデル」部,分が「サン」部分と比較してずっと大きく表示されている。
さらに,被告標章18ないし23についても「ヨーデル ダイエット」の称呼を生ずることは否定しない。しかし,その要部は「ヨーデル」にあり,「ヨーデル」の称呼が生じ得る。
よって,本件商標と被告標章は称呼において同一又は類似である。
観念類似について被告標章の要部はいずれも「ヨーデル」である。
標章の観念は,当該商品の内容,特質,用途等との関連において通常一般人を基準として理解されなければならず,特定の語を切り離して意味を理解することは不可能である。
そうすると,原告製品と被告製品はいずれも便通を促すものであるから,本件商標も「ヨーデル」を要部とする被告標章も,共通して「便がよく出る」という製品の効能を連想させる。
被告は,ヨーデルはスイスの民謡であり,爽快なイメージがあることを強調する。しかし,被告製品を使用すると,便通が促されて気分が爽快となるのであるから 「ヨーデル」が便通をイメージするかスイス民謡を連 ,想させるのかにこだわる必要はない。また 「よー」の部分と「でる」の ,部分を複数の表示方法で書き分けた場合には 「よく出る」とのイメージ ,を際だたせることになる。
エ 以上より,被告標章1ないし9は,本件商標と比較して,外観,称呼,観念すべてにおいて同一若しくは類似している。
また,被告標章10ないし25は,本件商標と外観は類似しているとはいえないにしても,その要部は「ヨーデル」であるから,本件商標と称呼,観念において類似しているものと認められる。
【被告の主張】(1) 商品の類似について原告ブラザーズ及び同コーポレーションが主張するように,商標登録上の商品区分の相違が直ちに商標権に基づく差止請求権の範囲を画するものではないとしても,商品の類否の判断において,類型化された商品区分は大きな要素として考慮されるべきものである。そもそも 「ヨーデル」ないしは ,「YODEL」は,多くの商品区分で登録されており,商品区分第29類でも別の会社が登録しているのであって,仮に被告が早期に商標登録したならば登録できた商標である。
さらに,原告製品と被告製品の用途・需要者の範囲・販売方法を総合的に判断すれば,両製品に類似性がないことは明らかである。
両製品に類似性がないことの決定的理由は,原告製品が処方薬であることに由来する。すなわち,被告製品は健康補助食品で,誰でもが購入できるものであるのに対し,原告製品は,医師が特定の患者の治療に対する有効性・必要性を判断し,その判断に基づいて当該患者に服用させるか否かを決定し,医師の処方がなければ消費者が購入・使用することができないものである。
また,処方薬は,基本的に1錠売りであって,薬剤の入ったビンや包装箱などを見て他の商品と比較選択して購入するものではない。
つまり,原材料や効用に似たところがあったとしても,両製品の用途・需要者の範囲・販売方法は決定的に異なり,重なり合うところがないのである。
原告ブラザーズ及び同コーポレーション引用の判例を前提にしても,両製品が類似のものであるとは到底いい得ないものである。
被告は 「SUNYODEL」の商標権者であるばかりか,平成15年8 ,月1日付けで「SunYodel」の商標権者ともなっている。また,明治製菓株式会社も,第29類で「ヨーデル/YODEL」商標の商標権者となっている。同商標のほうが,被告標章よりも本件商標と同一又は極めて類似している。このような商標登録が可能であったのは,特許庁が,指定商品の区分,すなわち,商品分野の相異を根拠として,原告製品である薬剤(旧別表第1類)と被告製品である健康補助食品が含まれる加工食品(第29類)とは商品において類似しないと認めたからに他ならない。
(2) 本件商標と被告標章の類似性についてア 外観類似について(ア) 被告標章11ないし17の各標章について,原告ブラザーズ及び同コーポレーションは「サン」や「SUN」は「太陽という極めてありふれた普通名詞」であるのに 「ヨーデル」や「YODEL」は「便がよ ,く出る」との観念を生じさせる単語であるから,要部は後者にあると主張する。
しかし,例えば「サン・ヨーデル」という標章では「サン」が軽んじられ 「ヨーデル」が重視される理由が不明である。同原告らは「ヨー ,デル」が「便がよく出る」という観念を生じさせる単語だと主張するが,かかる現象は,関西語圏の一部に住み,なおかつ「出る」イコール「大便」という尾籠な発想をまず第一に行うような品性の人間に特有のものである。少なくとも標準語では「よく出る」ことを「よー出る」などと表現することはないから「ヨーデル」イコール即「便がよく出る」という観念は,日本国民全般に通用するはずがない。
しかも 「ヨーデル」という言葉は,ドイツ語として実在し,その意 ,味は 「スイスやチロルなど,アルプス地方の民衆の間で歌われている ,特殊なタイプの歌。また,その歌い方」である。ここから爽快感を連想するならともかく,いきなり「便がよく出る」に結びつけるというのは,まさに聞く側の人間の品性や特殊な感性に関する問題である。
もし,同原告らの主張に従えば「サンヨーデル」等は「太陽・便がよく出る」という観念が生じることになるが,これは日本語として意味が不明であり,不自然である。これに対して 「ヨーデル」がアルプス地 ,方の歌と考えれば「サンヨーデル」等からは 「陽光がふりそそぐアル ,プス連峰にこだまするスイス民謡の歌声」という爽やかなイメージが導かれ,極めて自然である。
(イ) 被告標章10については 「サン」の「ン」の部分の書体が異なる ,ことから,むしろ「サン」が強調された要部とも考えられる。
また,被告標章24の標章は「SUNYODEL」の「O」の部分に装飾が付加されているが,これは単なる「O」の強調であり,何故このことが文字全体ではなく 「YODEL」のみの強調と結論付けられる ,ことになるのか,不明である。
(ウ) 同様に,被告標章21ないし23の各標章について「YODEL」の部分を要部とする同原告らの主張も理由がない。
しかも,被告標章18ないし20の各標章に至っては 「ヨーデルダ,イエット」と一体表示されているにもかかわらず,同原告らは無理矢理「ヨーデル」に要部があると主張している有様である。
(エ) さらに,被告標章25についても,わざわざ太陽の図形が組み合わされて「SUN」が強調されているにもかかわらず,強引に「YODEL」部分に要部があると主張しており,原告ブラザーズ及び同コーポレーションの主張は一般常識に反している。
(オ) 本件商標は,2段組の「ヨーデル/YODEL」である。
これに対し,被告標章1及び5の各標章は,いずれも1段の文字組であるし,被告標章目録2ないし4の各標章については 「ヨーデル」又,は「YODEL」のいずれの文字構成をも内包すらしていないから,これらが本件商標と「外観上同一」などという同原告らの主張は常識外れであり 「外観」という日本語の意味を歪曲する独自の主張に他ならな ,い。
次に,同原告らは「被告標章2ないし4,6及び8は本件商標と外 ,観上類似している 」と主張するが,ひらがなやカタカナ,英大文字, 。
英小文字の構成上の違いがあるから,外観上類似とはいえない。そもそも使用されている文字の内容が同じ日本語でも,ひらがなやカタカナで異なれば,必ずしも類似とはいえないし,英文字の大文字か小文字かはその外観のイメージが異なるというべきである。このことは被告が「SUNYODEL」及び「SunYodel」のいずれの商標についても別個に商標権者となっていることから明らかである。
(カ) 被告標章8及び9の各標章は,本件商標の「L」の文字部分が「ru」となっているから,外観上全く異なるというべきである。
称呼類似について(ア) 被告標章1ないし9の各標章から生じる称呼が「ヨーデル」しかあり得ないとする原告ブラザーズ及び同コーポレーションの主張は,一方的かつ強引な限定である。例えば被告標章1ないし9の各標章から生じる称呼は 「ヨデル 「ヨーデール 「ヨデルー 「ヨーデルー 「ヨー ,」 」 」 」 ,デールー」等の称呼があり得るから,同原告らの主張は妥当ではない。
(イ) また,被告標章10ないし25の各標章の称呼の要部を「ヨーデル」とする同原告らの主張は妥当でない。
観念類似について「ヨーデル」という表現は,そこから必ずしも「便がよく出る」という製品の効能を連想させることにはならない。したがって,本件商標と被告標章から 「便がよく出る」という共通の観念を生じるという同原告らの ,主張は誤りである。
エ したがって,被告標章は,本件商標と類似しない。
3 争点3(原告ブラザーズに生じた損失額)について【原告ブラザーズの主張】(1) 被告は,平成10年ころから平成13年6月11日までの間,原告ブラザーズが有していた本件商標権を侵害し,被告製品(旧商標商品及び現商標商品)を販売した。ただし,被告が平成12年7月31日までに販売した旧商標商品,現商標商品に関する売上個数,売上代金等は明らかではない。
(2) 被告は上記(1)の行為により,商標使用料相当額の利得を得,原告ブラザーズは同等額の損失を被った。
(3) 被告は,平成12年8月1日から同13年6月10日までの間に,小売店に対し,被告製品19万1402個を代金合計6億4663万1083円で売り上げた。
さらに被告は,平成12年8月1日から13年6月10日までの間に,一般消費者に対する直接売買により5551万2052円の売上げを上げている。被告の主張によれば,この売上げは被告製品のみの売上げではなく,「システム・シックス」という商品の売上げも含まれているとのことであるが,どちらの商品の販売による売上げなのかは乙第86号証(精算書)からは全く特定することができない。そもそも,被告は,消費者との直接販売において,どの商品によりいつどれだけの売上げを上げたのか記録する資料を有するのが当然であり,商品別の売上げが全く定かでない資料しか提出できないこと自体が不自然である。被告は,あえてこのような商品別の売上げを特定できない不完全な資料を提出しているとしか考えられず,民事訴訟法224条3項より,5551万2052円全体が被告製品による売上げであると認められるべきである。
以上より,上記期間内に,被告が上げた被告製品の売上げは少なくとも7億0214万3135円以上である。
そして,被告は,インターネット販売においては,被告製品の販売に旧商標や「ヨーデル」等の表示を使用しており,さらに小売店を通じた販売においても,社員の名刺に「YODEL DIET」との表示を付して使用していた。業務部長だけがそのような名刺を使用していたとは考えられず,名刺は会社が使用する社員全員に同一のフォームを用いているのが通常であるから,営業担当社員らも同様の表示が付された名刺を使用していたと認められる。とすれば,小売店における被告製品の販売に当たっても 「YODEL,DIET」の表示の付された名刺を宣伝,広告に用いて販売活動を行っていたと認められる。
よって,平成13年6月10日までの被告製品の販売に当たり,被告が原告ブラザーズに対して支払うべきであったにもかかわらず,その支払を免れて不当に利得している商標使用料相当額は,以下のとおり,3510万7157円であり,平成16年11月1日付け請求の趣旨の変更及び請求の追加申立書において,請求を追加した原告ブラザーズの請求額1300万円を超える。
7億0214万3135円(売上げ)×0.05(商標使用料率)=3510万7157円(4) 被告は,原告ブラザーズに対して,本件合意に基づいて200万円の和解金を支払っている。
しかし,本件合意書には,和解金の支払義務等本件合意書に記載した以外の債権債務が存在しないことを確認する条項(清算条項)はない。本件合意書の案は,原告代理人A弁理士が作成したものであり,あえて清算条項を加えなかったのは原告ブラザーズの被告に対する損害賠償請求権等を留保する趣旨であった。原告ブラザーズとしては,本件合意締結以降,被告により本件合意書記載の義務が誠実に遵守され,商標権侵害がなくなり消費者による誤認・混同を生じなくなるのであれば,旧商標商品,現商標商品についての損害賠償等の請求は控えようと考えていた。よって,被告が定められた義務を誠実に履行しない場合は,原告ブラザーズが有している被告に対する権利・請求権は留保されているのであって,本件合意によって,原告ブラザーズが本件訴訟で請求する上記不当利得返還請求権を失う理由はない。清算条項は,和解合意における最も重要な条項のひとつである。本件合意書の条項は,被告側に高橋弁護士が代理人として交渉に当たった上で作成されたものであり,清算条項が挿入されないことの意味は当然に被告側も認識していたはずである。
原告ブラザーズは,被告が本件合意で定められた義務をほとんど果たしておらず,また遵守しようという意思すら感じられなかったことから,原告コーポレーションらとともに本件訴訟提起に踏み切ったものである。本件訴訟において,被告が,原告代理人のA弁理士が被告代理人の高橋弁護士を欺罔して本件合意を締結させた,あるいは,本件合意が信義則違反等の理由により無効であるなどと主張するに至ったことから,原告ブラザーズは,被告に対する旧商標商品及び現商標商品の使用料相当額の不当利得返還請求をも追加することにしたものである。
また,本件合意に基づき被告が原告ブラザーズに支払った和解金200万円は,旧商標商品及び現商標商品による本件商標権侵害に対する損害賠償金や使用料の一部でもない。これは,当時被告が本件合意の交渉中に,上記和解金の支払が本件商標権侵害に係る損害賠償ではなく「解決金」の支払であると主張していることからも明らかである。すなわち,上記和解金は,原告ブラザーズが,とりあえずその時点で法的手段に訴えないための解決金との趣旨である。
【被告の主張】(1) 本件商標の使用料率が5%というのは何ら根拠がない。
(2) そもそも,本件合意第5条により,被告が原告ブラザーズに対して支払った和解金200万円は,まさに,それまでの紛争の解決金の意味に他ならない。
当時の交渉経過を参照すれば,上記和解金の支払によって本件合意当時における金銭的債権債務の不存在が確認されたものであることは明らかであり,このことは清算条項の有無に直接関わらない事柄である。
特に,原告ブラザーズの被告に対する平成12年5月30日付け通知書(乙18)の2頁目1項では 「旧商標を付して出荷した数量42500個 ,に対して合計425万円を和解金とする」と,明確に根拠まで示し,和解金として425万円を請求している。
これに対して,被告は,平成12年6月16日付け書面(乙20)で,「解決金」100万円の支払という対案を提示し,最終的に,原告ブラザーズの被告に対する平成12年8月2日付け通知書(乙22)の2頁目における回答等を経て,和解金200万円の支払で解決することに決まったのである。
したがって,少なくとも,平成12年7月31日までに旧商標を付して出荷した4万2500セットについては,原告ブラザーズが,上記和解金200万円の支払を受けることですべて解決した以上,今になって不当利得の返還を請求する理由は全くない。
(3) また原告ブラザーズは,被告が平成12年5月から平成13年6月までの間,現商標商品を販売したと主張する。しかし,その点については何ら立証がなされていない上,現商標商品について本件商標権侵害が存在しない以上,不当利得返還請求の根拠はない。
(4) 被告が提出した乙第83号証(被告の取引先に対する請求書)は,被告が大三〔ただし,平成12年10月20日締切分までは手形割引を行うためにチカミミルテック株式会社(以下「チカミ」という )を大三との取引の。
間に入ってもらい,同社が手数料5%を取得していた 〕に対して販売した。
被告製品の単価や数量等を示す請求書である。ただし,同号証の売上金額の中には,被告製品以外の製品(具体的には「システム・シックス」という商品)も一部含まれている。
そして,同号証の売上金額を,各被告製品の具体的な内訳(すなわち「ヨーでる 「サンヨーデル ハーブアンドファイバー(H&F 」及び「シス 」,)テム・シックス」の具体的内訳)も示して集計したものが,別紙「大三株式会社売上明細表 (平成12年8月〜平成13年6月)である。 」なお,平成13年2月6日以降,上記取引は,被告と白元との取引に切り替わったため,同日を最終として,被告製品の大三に対する新たな出荷・販売はなく,むしろ,被告製品の返品のみの状況となっている。
また,乙第83号証の中では,旧商標商品の売上げが平成12年11月1日まで記載されているが,これは,ある小売業者から「 ヨーでる』を納品『してほしい」という,たっての頼みがあったため,やむなく大三宛に販売したものであり,被告は,本件合意を締結した平成12年12月5日以降は,大三宛の旧商標商品の販売は行っていない。
乙第84号証の請求書控と,乙第85号証の納入書控は,被告と白元との具体的取引が開始された平成13年2月6日以降,平成13年6月30日まで,被告が白元に対して販売した被告製品の単価や数量等を示すものであり,その売上金額を集計したものが,別紙「株式会社白元 サンヨーデルハーブ&ファイバー販売数量・金額平成13年2月〜平成13年6月」である。
また,被告は,通信販売によっても被告製品を販売しており,売上金額を集計したのが別紙「フリーダイヤル売上明細表 (平成12年7月29日か 」ら平成13年6月29日請求額)である。当時,被告はフリーダイヤル受付による代金引換方式をとっていた。
ただし,この売上げの中には 「システム・シックス」という被告製品以 ,外の製品も一部含まれている。この売上金額における,被告製品及び「システム・シックス」の具体的内訳は不明である。
(5) 平成14年4月10日に閉鎖するまで,被告のホームページ上に「Yodel」及び「ヨーでる」の表示が一部使用されていたことは事実であるが,被告製品の売上げに対する上記ホームページ上の宣伝広告の貢献度は,せいぜい1%にも満たず,ほとんど皆無に等しい。
すなわち,被告は,平成11年ころから平成14年にかけて(なお,現在も継続中である ,歌手の美川憲一や,タレントの渡部絵美,斉藤こず恵, 。)山田まりや等を起用して,@多数のテレビスポットCM(日本テレビ,読売テレビ,広島テレビ)や,テレビ放映(代表的なものとしては,平成13年6月ころから平成13年8月ころにかけてのテレビ朝日系列「スーパーモーニング」での「美川憲一プロデュース 斉藤こず恵ダイエット計画 ,A」)多数の雑誌( 週刊女性 「女性自身 「クロワッサン 「婦人画報 「レ 「」,」,」,」,タスクラブ 「エッセ 「女性セブン 「Hanako 「FOCUS , 」,」,」,」,」「プレイボーイ 「anan 「やせるマンガ 「ajir BEAUT 」,」,」,Y 「サンキュ! 「ミスター・パートナー 「Saita 「オズマガ 」,」,」 ,」,ジン 「JJ 「Junon」等)等での宣伝広告等,各種マスメディア 」,」,を通じ,多額の費用をかけて「サンヨーデル ハーブ&ファイバー」の標章により,被告製品の宣伝広告活動を行っており,被告製品の売上げに対する上記宣伝広告活動の貢献度は,99%以上を占めているものである。
1回の雑誌広告掲載料は,モノクロ(活版印刷)2頁の掲載の場合,例えば 「週刊女性」が140万円 「女性自身」が160万円から195万円, ,,「女性セブン」が156万円である(いずれも消費税を含まない金額である。。)したがって,雑誌広告掲載料や,各タレントへの出演契約料等を合計すると,当時の被告製品の宣伝広告活動に関する被告の年間の支出は,優に5000万円を超えている。
(6) 上記(5)の事実は,被告製品を含む商品のフリーダイヤルの受注時の顧客からのアンケート調査(何の媒体等を見て注文したのかを調査したもの)の結果(乙92)にも明確に示されており,同アンケート調査結果を見ると,被告のホームページを見て購入したという顧客は皆無である。
また,被告が,自社のホームページ上での被告製品の直接の販売を開始した平成15年9月以降(平成14年4月10日時点では,被告のホームページ上での直接の販売は行われていない。これは,被告が,社団法人日本通信販売協会の会員になったのが,平成15年3月31日のためである ,平。)成17年7月までの,被告のホームページ経由による被告製品の売上げをまとめた「サンヨーデルハーブ&ファイバーホームページ売上 (乙93)の」売上金額が,非常に少ないことを参照しても,明らかである。
したがって,被告が自社のホームページ上に旧商標商品を掲載するなどして 「Yodel 「ヨーでる」標章を使用した行為についての損失額又は ,」,損害額の算定に当たっては,上記(3),(4)の点を十分に考慮すべきである。
4 争点4(原告コーポレーションに生じた損害額又は損失額)について【原告コーポレーションの主張】(1) 被告に対する原告コーポレーションの損害賠償請求(主位的請求)前記1,2のとおり,被告は,原告コーポレーションの有する本件商標権を侵害したものである。そして,被告は,原告ブラザーズから本件商標権侵害の警告を受けた平成12年1月から原告製品及び本件商標の存在を知っており,被告製品が原告製品の類似商品であること及び被告標章の使用行為が本件商標権を侵害する行為であることを認識していた。したがって,被告は,原告コーポレーションが本件商標権を取得した平成13年6月11日以降,本件商標権侵害について故意があった。また,被告は,小売業者の違反表示を全く調査しなかったものであり,少なくとも小売業者の違反表示を放置したことにつき過失があった。
したがって,被告の行為は本件商標権侵害の不法行為に該当する。
そして,原告コーポレーションは,被告の本件商標権侵害の不法行為により,少なくとも同原告が受け取るべき使用料相当額の損害を被ったものと推定される(商標法38条3項 。)そして,後記(3)記載のとおり,平成13年6月11日から平成14年4月10日までに間に,原告コーポレーションが被告から受け取るべき使用料相当損害金ですら,4126万5558円である。とすれば,平成13年6月11日から現在までに被告が原告コーポレーションに賠償すべき損害額が5000万円を下らないことは確実である。
さらに,原告コーポレーションは,被告の本件商標権侵害の不法行為により,後記11の原告藤本製薬の主張(2)ウの記載と同様の無形損害を被ったところ,これにより原告コーポレーションが受けた損害の額は1000万円を下らない。
よって,被告の不法行為により原告コーポレーションが被った損害が5000万円を下らないことは明らかである。
(2) 被告に対する原告コーポレーションの不当利得返還請求(予備的請求)被告は,原告コーポレーションの許諾を得る等の正当な権原なしに,平成13年6月11日以降本件商標を継続的に使用した。被告は,原告コーポレーションに対し上記使用に対して何らの対価も支払っていないから,法律上の原因なく同原告に損失を与えて利得を得ていたこととなる。
被告は,平成13年6月11日から同14年4月10日までの間に29万3323個の被告製品を納入し,その売上総額は7億6152万5083円であった。
よって,被告が平成13年6月11日から自社のホームページ上で旧商標商品を掲載するなどして「Yodel 「ヨーでる」標章を使用していた平 」成14年4月10日までの間における白元に対する売上げは,少なくとも7億6152万5083円である。
さらに,被告は,少なくとも通信販売により5661万8666円の売上げを得た。上記3【原告ブラザーズ及び同コーポレーションの主張】(3)記載のとおり,これらの売上げはすべて被告製品の販売により得られたものと認められる。
以上より,上記期間における被告の売上げは,少なくとも7億6152万5083円+5661万8666円=8億1814万3749円となり,被告が原告コーポレーションに支払わなければならないのに支払を免れた商標使用料相当額は8億1814万3749円×0.05=4090万7187円となる。
なお,被告は,自社のホームページ上の宣伝広告の売上げに対する貢献度は非常に少ないと主張するが,被告のホームページを見た者が必ずフリーダイヤル等の通信販売で商品を購入するとは限らない。むしろ,インターネット社会では,商品の情報を調査した上で商品を購入することが通常であり,小売店において被告製品を購入した消費者も,事前にインターネットで情報を調査する際に被告のホームページを目にしている可能性が大いにある。また 「YODEL DIET」の標章の入った名刺は,少なくとも平成14 ,年7月に原告ブラザーズが指摘するまでは被告において使用されており,平成14年4月10日までの被告製品の小売店を通じた売上げに「YODELDIET」の表示が関与・影響していることは否定できない。
【被告の主張】(1) 平成13年7月1日から平成14年4月10日まで,被告が白元に対して販売した被告製品の単価や数量等を示すものが,請求書控(乙88)と納入書控(乙89)である。
請求書控(乙88)の売上金額を集計したものが,別紙「株式会社白元サンヨーデルハーブ&ファイバー販売数量・金額平成13年7月1日〜平成14年4月10日」である。
なお,請求書控(乙88)のうち平成14年4月23日付け請求書控の売上金額8102万8704円(ただし,消費税相当額を除く )と,納入書。
控(乙89)のうち同月9日付け納入書控の金額3648万9168円とで金額が一致しないのは,同月23日付け請求書控の中には,同月9日付け納入分(3648万9168円)のほかに,同月23日付け納入分(4453万9536円)が含まれているからである。
(2) また,同期間中の通信販売による売上金額を集計したものが,別紙「フリーダイヤル売上明細書平成13年7月1日〜平成14年4月10日」である。その売上金額における商品の具体的な内訳(被告製品と「システム・シックス」及び「システム・ナイン)は不明である。」(3) 被告製品の売上げに対する被告のホームページ上の宣伝広告の貢献度がせいぜい1%にも満たず,ほとんど皆無に等しいことは,前記3において主張したとおりである。
また,平成14年1月末ころ,美川憲一が自己の著作「これでキレイにならなきゃウソよ!」の中で,また,斉藤こず恵が自己の著作「斉藤こず恵式完全ダイエット」の中で,それぞれ被告製品をダイエットの秘訣として好意的に紹介したことも,被告製品の売上げに貢献しているものである。
5 争点5(本件合意の効力)について【被告の主張】(1) 錯誤無効「Yodel 「ヨーでる」表示の使用が本件商標権を侵害するものでは 」なかったにもかかわらず,被告の代理人として交渉した高橋弁護士は,商標権に対する深い知識がなく,また,被告は,他に弁理士に対してアドバイスを求めることができない状況にあったことから,これらの表示が原告ブラザーズの本件商標権を侵害していると誤信し,かつ商道徳上も善処したいと考え,旧商標商品の製造中止を決め,当時被告が登録出願していた商標「サンヨーデル/SUNYODEL」にて販売することを決意し,新たに現商標商品を販売した。これは,被告としては 「サンヨーデル/SUNYODE ,L」と「SunYodel」は,若干デザインの差はあるものの,ほぼ同一の商標と考えた結果である。
しかし,原告ブラザーズは,被告に対し,再び現商標は被告が有する商標とは異なり,むしろ本件商標に類似すると指摘した。被告は,本件商標と混同を生ずるおそれはないと回答したが,原告代理人のA弁理士が原告ブラザーズの本件商標権を侵害するとの持論を強引に展開したため,最終的に同原告の要求を受け入れ,被告の有する「SUNYODEL」の商標のとおりに商品名を訂正することにした。
このように,被告は,原告ブラザーズから,強力に短時間での回答を余儀なくされたため,十分な検討をしないまま侵害に当たると誤信し,本件合意を締結するに至ったのである。なお,本件合意に至るについては,被告において,無用な紛争を避けて円満解決をしたいと望んでいたことや,原告ブラザーズから示された解決金が不当に高額ではなかったことなどの事情が存在した。
本件合意においては,被告標章の使用が本件商標権を侵害するものか否かは法律行為の要素であるというべきである。被告は,本件合意の要素において錯誤に陥っていたのであるから,本件合意は無効である。
(2) 詐欺取消し被告は,原告ブラザーズによって,被告標章の使用行為は本件商標権の侵害行為であると欺罔されたのであるから,本件訴訟において同原告に対し本件合意を取り消す旨の意思表示をする。
(3) 公序良俗及び信義則違反,権利濫用本件合意には,被告以外の者による表示,宣伝,広告がなされ,被告が違反事実を知った日から15日以内に当該行為を中止させない限り,被告は,被告製品の販売を即時中止し,全国紙各紙に販売中止のお知らせと謝罪文を掲載する旨,定められている(第7条 。しかしながら,第三者が当該行為 )を中止するか否かの最終的判断者である以上,いかに被告が最大限の誠意を尽くして努力しても15日以内に当該行為を中止させられないことがある。
にもかかわらず,その結果,被告が被告製品の販売中止等に追い込まれるのはあまりに酷である。このように,本件合意第7条は,公序良俗及び信義則に違反しているから無効である。
【原告ブラザーズの主張】(1) 錯誤無効否認する。被告の主張は,被告に商標法の解釈や適用についての法律の錯誤があったとの主張にすぎない。本件合意の締結に当たっては,被告の代理人として弁護士が関与していたのであるから,このような錯誤の主張は認められない。また,被告において,無用な紛争を避けて円満解決したいとの希望があったのであれば,本件合意の成立に錯誤を認める余地はない。
(2) 詐欺取消し被告主張の欺罔行為の存在は否認する。
(3) 公序良俗及び信義則違反,権利濫用本件合意第7条は,本件合意の重要な核心的内容であり,契約文言からも一義的に趣旨を読み取ることができるから,被告も本件合意を締結する際には十分に注意を払って検討した結果,実行可能と判断して当該義務を負担したというべきである。そうすると,本件合意第7条公序良俗信義則に違反しているということはできない。また,原告ブラザーズも,被告製品を扱う「業者若しくは店舗等に対し」本件商標権侵害の警告を発する等の直接的権利行使を差し控える義務を負うことになったのであり(第10条 ,被告)が一方的に義務を負うものではないから,第7条の被告の義務のみを取り上げて同条が公序良俗違反・信義則違反であると考えるべきではない。
6 争点6(被告及び小売店における被告標章使用行為が本件合意に違反するか)について【原告ブラザーズの主張】(1) 本件合意により,被告は,被告製品につき「SUNYODEL/サンヨーデル」以外の表示,すなわち「ヨーデル/YODEL 「サン ヨーデ」,ル/SUN YODEL/Sun Yodel」等の表示,宣伝,広告を行わないこととなった(第4条 。)しかしながら,本件合意後の平成14年4月ころ,被告のホームページで「Yodel 「ヨーでる」及び「SunYodel」の表示がなされて 」,おり,URLには「yodel」の表示も使用されていた。また,平成14年8月29日にも,URLに「yodel」の表示がされていた。これらの表示は,最低限ホームぺージ掲載の被告の商品を宣伝又は広告する効果を有する。
また,平成14年6月に,被告の業務部長が名刺に「YODEL DIET」の表示を使用していた。営業用の名刺における製品表示は,製品を表示し,広告宣伝するのに大いに役立つから,取扱製品を表示・宣伝するものといえる。
したがって,被告の行為は,本件合意第4条に違反する。
(2) 本件合意において,被告は,被告製品を取扱業者又は店舗等においても「ヨーデル/YODEL 「サン ヨーデル/SUN YODEL/Su 」,n Yodel」等の表示,宣伝,広告を行わせないこととされた。取扱業者等の行為について被告に帰責性がない場合には是正まで15日の猶予期間が認められた(第7条 。)しかし,その後,各地で本件合意に反する表示を使用する例が後を絶たない。
本件訴訟提起前にも,平成14年6月17日に大阪府下で「キタバ 「イ」ズミヤ 「ジャスコ 「ミック」等の各店舗の例が確認され,原告ブラザー 」」ズは,同月19日に行われた被告との面談の際に,これらの各店舗における違反表示について写真を示しつつ指摘した。しかし,同年7月30日に至ってもいまだ上記各店舗における違反表示は是正されなかった。
また,本件合意後の平成14年になっても,複数の小売店において 「ヨ,ーデル 「ヨーでる 「ヨーデルダイエット」の表示がなされており,15 」」日以内に是正されなかった。
(3) アメリカ合衆国ハワイ州ホノルル市内の店舗においても,日本語で「ヨーでる ウルチメイトクレンズ」と表示され,日本国内における広告と同じタレントを使った広告を掲示した被告製品が販売されていた。これは,被告が表示したものか,同店舗が独自の判断で表示したものかは不明であるが,いずれにしろその旨を被告に伝えてから15日経過しても当該表示は是正されていない。
(4) 被告は,原告ブラザーズから本件合意の違反行為の宥恕を受けたと主張するが,そのような事実はない。
また,被告は,上記違反表示に対しできる限りの対応を行ったというが,上記各小売店等において原告ブラザーズ側が被告に指摘してから15日を過ぎても表示が是正されず,現に,小売店における「ヨーデル」表示が後を絶たないことからすれば,被告が必要な対応をしているということはできない。
(5) 本件合意により,被告は,旧商標商品の販売を平成12年7月31日までで終了し,同年8月1日以降は,理由の如何を問わず,旧商標商品の在庫を廃棄処分とし,その輸入,製造,販売,宣伝並びに広告の一切を行わないこととし(第2条2項 ,もし被告がその期日以降に旧商標商品を販売した )場合は,原告ブラザーズに対し,違反行為1回当たり,違約金として50万円を支払うこととなった(第6条1項 。)乙第83号証(被告の取引先に対する請求書)によれば,被告は,平成12年8月1日以降,合計14回にわたり下記期日に下記数量の旧商標商品を下記販売先に下記金額で販売した。
数量 金 額 販 売 先平成12年 8月 2日 12 42,209円 チ カ ミ8月 5日 12 42,209円 同 上8月 9日 12 42,209円 同 上8月23日 12 42,209円 同 上8月28日 12 42,209円 同 上9月 2日 12 42,209円 同 上9月 9日 12 42,209円 同 上9月19日 12 42,209円 同 上9月25日 12 42,209円 同 上9月30日 12 42,209円 同 上10月 7日 12 42,209円 同 上10月14日 12 42,209円 同 上10月23日 12 42,209円 大 三11月 1日 5 17,484円 同 上被告の旧商標商品の上記販売行為は,本件合意第2条2項に違反することは明らかであり,被告は,本件合意第6条1項により,1回当たり50万円,合計700万円の違約金支払義務を負う。
【被告の主張】(1) 被告は,自社のホームページにおいて「Yodel 「ヨーでる」及び 」,「SunYodel」表示の訂正を失念していたが,原告ブラザーズからの指摘を受けて直ちに対処している。また,ホームページのURLでの「yodel」の表示は,商品の表示として使用されたものでないことは明白であり,その使用が本件商標権を侵害するものではない。さらに,被告は,平成14年4月10日で当該ホームページを解約しており,原告ブラザーズ関係者等に事情を説明した上,その宥恕を受けている。
(2) 被告の業務部長が「YODEL DIET」表示のある名刺を使用したのは事実であるが,同人はこの名刺を年に1,2回しか使用しないから,この表示によって,被告製品の表示・宣伝・広告に該当するものとはいえない。
なお,同名刺は直ちに訂正されている。
(3) 本件合意において,被告は,原告ブラザーズに対し,被告以外の小売店等が「Sun Yodel」表示等をした場合には,これを是正すべき義務を負っていた。
被告は,小売店等に対し,商品のケース内にチラシを入れるなどして本件合意内容の周知を図ったし,原告ブラザーズから小売店等において違反表示がされているとの報告があったときには,本件合意内容に沿って,15日以内にそれぞれ訂正させている。なお,原告ブラザーズは,ホノルル市内における小売店での広告パネルの表示を問題とするが,そこで販売されているのは,被告製品ではなく海外製品(アルティメイトクレンズ)である。
また,本件訴訟提起後の小売店における違反表示については,甲第12号証(原告藤本製薬従業員B他1名作成の報告書)は本件訴訟において代理人に送付されたものであって被告本人に送付されたものではないため,被告本人が,同号証に係る違反表示の存在を知ったのは平成16年8月4日であるから,本件合意違反は存在しない。
したがって,下記(4)の点を除き,被告が本件合意に反する行為をした事実はない。
(4) 原告ブラザーズの主張(5)における違反行為の内容は,平成12年10月23日の販売金額が4万1962円であることを除き,認める。
確かに,乙第83号証の中には旧商標商品の売上げが平成12年11月1日まで記載されているが,これは,ある小売業者から旧商標商品を納品してほしいという,たっての頼みがあったため,やむなくチカミ又は大三宛に販売したものである。しかし,本件合意を締結した平成12年12月5日以降は,チカミにも大三にも,旧商標商品の販売は行っていない。
しかも,この点については,そもそも,前記のとおり,本件合意は無効であるから,本件合意を理由とする原告ブラザーズの主張は,理由がない。
仮に本件合意が有効であるとしても,本件合意第2条2項では,被告は,平成12年8月1日以降,旧商標商品の販売等を行わないこととされているが,そもそも,本件合意の締結日は同年12月5日であり,この時点において,4か月以上も過去の時点に遡って「 これから将来)販売等を行わな (い 」と規定したとしても,時間を元に戻すことが物理的に不可能である以 。
上,いまさら,到底実現不可能な内容にすぎない。
したがって,少なくとも,平成12年8月1日から同年12月4日までの間の旧商標商品の販売等については,本件合意第2条2項の効力は及ばないというべきであるし,また,上記期間の販売等について,本件合意第6条1項の規定を杓子定規に適用して,被告に対して違約金の請求を行うことは,信義則上許されないというべきである。
7 争点7(原告ブラザーズの被告に対する権利行使が権利濫用又は信義則違反に該当するか)について【被告の主張】仮に本件合意第7条が無効ではないとしても,被告以外の少数の第三者(小売店)が特定の標章を使用した行為を中止しなかったことを理由に,被告に対し,被告の主力商品のひとつである被告製品の販売中止等まで請求するのは,信義則に反し,権利濫用に当たるというべきである。
また,仮に被告が何らかの本件合意違反を犯したとしても,それが些細なものである場合や,原告ブラザーズの指摘を受けて直ちに対処し,本件合意違反の事態を改善したり,違反の点について原告ブラザーズの宥恕を受けたような場合にまで,被告に対し被告製品の販売中止等を請求することは,信義則に反し,また権利濫用に当たるから許されない。
【原告ブラザーズの主張】争う。本件合意において,第三者の使用行為についても被告が責任を負う旨の規定は,その核心的内容であり,契約文言から一義的に読み取ることができる。本件合意書の作成に当たっては弁護士も関与しており,被告において本件合意締結までに実現可能性が十分に検討されたはずである。
また,被告が小売店の違反表示の訂正について誠実に対応していれば,第7条の適用はなかったのである。
したがって,被告が,自身の契約上の義務を履行せず放置しておいて,原告ブラザーズからの販売中止請求を信義則違反,権利濫用と主張することは不合理である。
8 争点8(原告商品表示の周知性)について【原告藤本製薬の主張】原告製品は,昭和45年に発売が開始された後,売上げを伸ばし続け,平成15年度実績で,北海道から沖縄県までの全国8993の医療機関,9312の薬局・薬店に対して販売されており,また,平成8年以降は毎年継続的に約1億錠以上,平成14年には1億2810万8060錠が販売されている。原告製品が下剤であり連用が考えられないことからすれば,この販売数は,年間100万人以上の患者が服用していることを推察させる。
原告藤本製薬は,原告製品について,近畿圏のみならず,関東,九州,中国及び四国など全国の大学医学部・薬学部の会報・名簿,雑誌等に広告を掲載し続けている。パンフレット等の印刷・配布部数は,2002年(平成14年)1月段階で77万9000部に達している。その他にも 『病理と治療』誌に,おいて3度にわたり専門分野における効果・使用成績について取り上げられている。
また,原告製品は,その有効性・安全性から,医療現場において好評を博し,しばしば処方されることによって,医療関係者のみならず,患者の間にもその名が知られている。原告製品の売上額をベースとする市場占有率は,センナエキス成分の下剤として約59.4%を占め,当然第1位である。植物由来成分の下剤としては,3.46%(第3位 ,下剤全体をとっても1.25%(第 )11位)の市場占有率を有する。
よって,原告藤本製薬が,原告製品の商品表示として使用している原告商品表示は,需要者(患者)の間に広く認識されているものといえる。
被告は,原告製品が処方薬であることを根拠として,患者を需要者としての周知性はないものと主張する。しかし,現在,いわゆる院外処方が一般化し,処方薬局が患者に対して処方薬を渡す際に,処方薬の説明書を渡し,薬についての説明を行うことが一般化している。説明書には,効能だけではなく,通常は薬品名が記される。患者やその家族は,どのような薬が処方され,それがいかなる効能を持ち,いかなる副作用があるのかについて大きな関心を持つのが通常であり,医師の処方薬に関する解説本が何種類も出版され,原告製品についても記載されている。したがって,処方薬であることをもって周知性を否定する根拠とはならない。また,原告製品は,PTP包装(錠剤を1錠ずつ金属製のシートに分けた包装)され,販売されている。患者に処方される場合にも,PTP包装のまま必要数量が渡される。その包装の上部には「ヨーデルS糖衣錠」と印刷されているだけでなく,裏面にも「ヨーデルS ,裏面上部に「Y」ODEL-S」と見やすく目立ちやすい緑色の文字で印刷されているから,原告製品を服用する者は,服用に際して原告商品表示を目にすることになる。
【被告の主張】原告製品は医薬品であり,処方薬を服用する患者(一般消費者)は医師に指示されたから当該薬品を服用するものであって,需要者を一般消費者と考えるのであれば,通常は服用する薬品の商標を意識することはない。処方薬局から薬を受け取る際に処方薬の説明を受けたとしても,形状や色によって服用の際に識別するにすぎず,処方された薬品の商品名まで記憶するものではない。
したがって,原告商品表示が原告製品の商品表示として一般消費者の間で広く認識されていた,すなわち周知であるということはできない。
9 争点9(被告による不正競争行為の態様)について【原告藤本製薬の主張】(1) 本件商標と同一又は類似の標章を付した商品の販売被告は,平成10年より現在までに「ヨーでる (被告標章2)及び「Y 」odel (被告標章6)を付した商品(旧商標商品)及び平成12年頃か 」ら現在までに「SunYodel (被告標章13)を付した商品(現商標 」商品)を販売した。
(2) 納品書,請求書等の取引関係書類による使用被告は,平成13年より現在も継続して「SUNYODEL/サンヨーデル」の表示を付した商品(新商標商品)を販売しており,小売店では「ヨーデルダイエット (甲5 「ヨーデル「ヨーでるダイエット (甲12 , 」),」 」)「ヨーでる (甲21)といった表示を付して販売されている。多くの小売 」店がこのような本件商標権を侵害する表示を付して新商標商品を販売していることは,被告が現在でも売上伝票,納品書等の取引に関する書類において被告標章1,2,18及び19の各標章を使用していることを示している。
現に,被告の社員は,本件合意締結後も被告標章21「YODEL DIET」を表示した名刺を使用している。
(3) 小売店における表示への積極的関与少なくとも,被告は,小売店の本件商標権を侵害する上記のような表示を是正することなく,積極的に利用している。被告は,小売店におけるかかる表示を是正しようと意図すれば,15日以内に是正することが可能であったにもかかわらず,原告らが指摘した店舗以外は違反表示の是正はされていない。
それはまさに被告製品の表示「サンヨーデル」の中心的識別力を有する部分(要部)は「ヨーデル」にあり,被告が取引者及び消費者をして「サンヨーデル」から独立した「ヨーデル」単体の称呼観念を生じさせるように意図しているからである 「ヨーデル」は,便秘治療剤をはじめ排便を促す作 。
用をうたう製品としては 「よう出る」という効能を直接的に想起させ,ま ,たスイス民謡「ヨーデル」から排便後の爽快感をもあわせて想起させる非常に特色ある表示である。原告藤本製薬も,被告製品が販売されるずっと以前から,本件商標のかかる特色を認識した上でパンフレットやポスターの製作をしていた。原告製品が発売開始後30年以上も販売数量を伸ばし続けていることは,原告製品の効能及び信頼の高さと同時に,本件商標の顧客誘因力の強さを示している。被告製品でも,商品パッケージにおいて,タレントの吹き出しに「よう出るわよ!」の言葉があり,作為的に被告製品を目にした需要者が「サンヨーデル」表示から分離した「ヨーデル」の観念を連想させるように作られている。
原告藤本製薬が平成17年3月に関西圏の小売店を無作為に抽出して調査したところ,調査した店舗169店舗のうち被告製品を取り扱っていた98店舗中の30店舗で「ヨーデル 「ヨーデルダイエット」といった違反表示 」が発見された。商品の販売者は,小売店において自己の商品表示が正しくされていなければ,正しく行われるように小売店を指導するのが通常である。
かつ本件訴訟において,原告らが小売店における違反表示を一貫して問題にし,同調査時点で訴訟提起後約1年半が経つにもかかわらず,被告製品を取り扱う店舗のうち約3割が違反表示をしている。このことは,まさに小売店の表示に被告が何らかの積極的関与をしているとしか考えられず,被告の侵害行為を裏付けるものである。
(4) インターネット上における侵害行為さらに,被告は,平成14年4月3日時点で,自社のホームページにおいて,旧商標商品及び現商標商品の写真を掲載して,商品広告に「Yodel (被告標章6 「ヨーでる (被告標章2)を,URLに「yode 」),」l (被告標章7)を使用して商品を直接消費者に販売している。 」【被告の主張】争点1における被告の主張と同じである。
10 争点10(誤認混同のおそれ)について【原告藤本製薬の主張】(1) 原告製品は医薬品であり,被告製品は健康補助食品である。
しかしながら,我が国の特徴として,ドラッグストア,薬局,薬店等において,医薬品のみならず,医薬部外品,健康補助食品,その他食品も販売されており,現在では製薬会社の多くが健康補助食品を製造・販売するようになっている。そのため,消費者が医薬品と医薬部外品又は健康補助食品とを截然と区別して購入しているわけではない。
また,原告製品と被告製品は,緑色の錠剤であること,主成分をセンナエキスあるいはセンナに由来する成分を使用していること,便通を促すという同様の効果を有していることなどの共通性を有する。
さらに,原告製品は,いずれ家庭用医薬品として一般の薬局・薬店等で販売されることを予定しているから,現在すでに薬局・薬店等で販売されている被告製品と誤認混同される危険性は今後ますます高まる。便通を促す効能において同一の両製品が,市場において近い将来競合し,市場の混乱を招くおそれがあることは否定できない。
(2) 原告製品の発売元である原告藤本製薬は,繰り返し,被告製品を原告製品と誤解した消費者からの問合せを受けている。
(3) また,被告標章1ないし25は,争点2における原告ブラザーズ及び同コーポレーションの主張と同様の理由により,原告商品表示である「ヨーデルS糖衣錠-80 「YODEL-S-80」にも類似する。 」,【被告の主張】原告製品は薬事法の適用を受ける薬剤であるのに対し,被告製品は薬事法の適用のない,処方箋の不要なダイエット食品(健康補助食品)である。医師により処方される薬剤と,一般に販売されているダイエット食品とが,市場で混同されるという原告藤本製薬の論法は牽強付会のそしりを免れない。原告製品と被告製品とで,出所の誤認混同を生じるおそれはない。
また,原告藤本製薬は,原告製品を年間1億錠以上販売していると主張するが,本件合意がなされた平成12年8月から本件訴訟提起の平成15年11月までの3年余の間で原告らが指摘できる被告製品との関連性に関する照会は,たった1件しかない。このことは,原告製品と被告製品との誤認混同が極めてまれである(ほとんど皆無に等しい)ことを裏付けている。
11 争点11(原告藤本製薬に生じた損害)について【原告藤本製薬の主張】(1) 被告が被告標章を使用した被告製品を販売したことにより,原告藤本製薬は,原告製品についての信用を損なわれ,営業上看過することのできない損害を被った。原告製品は医療関係者には周知の製品であり,原告藤本製薬に対する被告の侵害行為は,故意,少なくとも過失に基づくものである。
(2) 原告藤本製薬の損害額の算定ア 不正競争防止法5条1項に基づく算定原告藤本製薬は,平成14年度1年間における被告の不正競争行為等を対象とするものではなく,損害額が5000万円を下らない計算根拠として,例示的に平成14年度を挙げているものであり,原告藤本製薬の主張は,損害賠償請求の対象を,被告による平成14年度1年分の被告標章使用行為に限る趣旨ではない。
被告は,平成14年の1年間で被告製品2瓶入りセットを20万セット以上販売していると思料される。被告製品の小売価格は,2瓶当たり8800円である。大三から小売店への卸値がその4割の2瓶宛3520円とし,被告が大三に売り渡す元値が,さらにその4割の1400円であるとし,年商10億円のうち3割が被告製品による収益であるとして,3億円÷1400円≒21万4285セットを販売したこととなる。
このうち,白元を経由して大三に販売されて各小売店に卸されるのが8割,インターネットや通信販売により被告が直接消費者に販売するものが2割と推測される。
被告は,被告製品を単価4000円で販売していた。推定利益率と,インターネット等による通信販売分以外の取扱販売数は,大三や白元と同様である。以上の結果,計算式4000×25%×20万×0.8によって,被告が平成14年に得た利益は少なくとも1億6000万円である。
この利益額が,原告藤本製薬の被った損害額と推定される(不正競争防止法5条1項 。原告藤本製薬は,その損害額の一部として被告に対し500 )0万円とこれに対する遅延損害金の支払を請求する。
イ 不正競争防止法5条3項1号に基づく算定原告藤本製薬が,被告に対して被告標章を使用させた場合の使用料率は5%である。
被告製品の販売総量は20万セットを超えるとうかがえるから,被告が支払うべき使用料相当額は,少なくとも6160万円(6160円×20万セット×5%)を超えている。原告藤本製薬は,その損害額の一部とし。 て,被告に対し5000万円とこれに対する遅延損害金の支払を請求するウ 無形損害原告藤本製薬は,医薬品の製造販売を目的とする健全な会社である。にもかかわらず,ダイエット用健康補助食品でありながら専ら医薬品に使用される成分本質であるセンノシドを含み無承認医薬品の疑いもある被告製品に被告標章が使用されたことにより,原告藤本製薬がこのような被告製品に関係のあるかのような印象を一般消費者に持たれ,原告藤本製薬の製薬会社としての信用が著しく毀損された。特に原告製品は,平成16年9月21日に大阪府知事により「ヨーデルP錠」の名称で一般用医薬品として販売承認を受けており,現在販売準備中であるが,被告の不正競争行為による原告製品の信用毀損により「ヨーデルP錠」の販売に影響が出ることは必至である。さらに,被告の不正競争行為により,原告藤本製薬の社員が不正競争行為への対応業務を行う必要が生じたという損害も発生した。
原告藤本製薬が被告の不正競争行為により受けた無形損害の損害額は1000万円を下らない。
【被告の主張】原告藤本製薬主張の損害の発生を否認する。
原告藤本製薬の「原告商標の使用料率は5%」との主張は,何ら根拠がなく失当である。
当裁判所の判断
1 争点1(被告による被告標章使用の有無及び商標的使用の有無)について(1) 前示争いのない事実等のとおり,被告は,平成10年ころから,ダイエット効果をうたう健康補助食品に旧商標(Yodel HERB&FIBER/ヨーでる ハーブ&ファイバー)を使用した旧商標商品を販売していたものであり,本件合意成立前から,被告標章2(ヨーでる)及び被告標章19(ヨーでるダイエット)を女性週刊誌の広告や商品説明書に使用していたものである。
また,被告は,本件合意成立後平成14年4月10日までの間,女性誌の広告にかつて掲載されていた旧商標商品の写真を掲載したり,旧商標商品の写真を用いることによってそのラベルを掲載する方法や,旧商標商品に用いていたロゴを表示するなどの方法で,被告標章2(ヨーでる ,被告標章6)(Yodel ,被告標章13(SunYodel)を自社のホームページ )において使用し,被告標章7(yodel)を被告のホームページのURLの「http://www.esuroku.co.jp/under/goods/yodel_a.html」との表示において使用していた。さらに,被告は,自社のホームぺージにおける上記の各被告標章の使用を原告藤本製薬及び同ブラザーズに指摘されて変更した自社のホームページにおいて,同年8月29日時点で,URLの「http://www.sunyodel.net/img/yodel.jpg」との表示において被告標章7(yodel)を使用していた。また,証拠(甲13)によれば,被告のホームページのインデックス(見出し)を表示するページにおいても「yodel.gif」との表記が用いられていた。証拠(甲13,14)によれば,前者のURLによって表示される画面には,現商標商品の写真が画面に掲載されているほか,現商標自体が表示され,後者のURLによって表示される画面には,新商標商品の写真が掲載され,そのラベルを掲載する形式で新商標が表示されていたことが認められる。
さらに,被告が被告標章21(YODEL DIET)を少なくとも原告藤本製薬及び同ブラザーズがその使用を指摘した直後である平成14年9月初旬ころまで,被告業務部長その他の従業員の名刺において表記していた。
これらの各被告標章の使用の主体は,いずれも被告であると認められる。
(2) 原告ブラザーズ及び同コーポレーションは,上記以外にも被告により使用された被告標章がある旨主張する。
ア まず,被告標章3(よーデル)についてみると,証拠(甲16)によれば,平成14年5月ころ,海外製品(アルティメイト・クレンズ)がホノルル市内の店頭で販売されていた際,そのプライスカード等に同標章が使用されていたことが認められる。しかし,それ以外に,とりわけ我が国内において同標章が具体的に使用されていることを認めるに足りる証拠はない。そうすると,同標章は,もっぱら我が国外での海外製品の販売に際しその宣伝のために使用されているものであることが認められるから,その使用が,我が国において,原告コーポレーションの有する本件商標権の侵害を構成する余地はない。
イ また,同原告らは,被告が被告製品の商品名を変更した際に,小売業者がその後も本件商標権を侵害する表示を使用し続けることを十分に認識しながら,そのことについて注意したり使用中止の要請をしたりすることなく放置していた被告の行為は,商標法37条1号のみなし侵害行為に該当するとか,被告が旧商標商品の販売に当たり,小売業者に対し本件商標権を侵害する商品表示をプライスカードとして登録させ使用させ,その訂正を求めずに放置していた行為は,同条5号のみなし侵害行為に該当すると主張する。
確かに,店頭におけるプライスカードに標章を付して表示することも,商標法2条3項8号所定の,価格表に標章を付して展示することに該当し,標章の使用に該当する。
しかし,証拠(甲37ないし46の各2)によれば,商品棚に陳列されるプライスカードは,小売業者が商品を最初に取り扱う際にコンピュータに登録するなどして作成し,店頭にてその商品の商品表示として用いるものであり,また,その登録については,各小売店が独自の判断により,文字数の制限から短縮してコンピューターに登録する場合があるほか,問屋,卸売店の申請に基づき登録され,それが自動的に店頭のプライスカードに表示される場合もあることが認められる。したがって,プライスカードにおける標章の使用主体は,小売業者又はせいぜい卸売店というべきであって,それらの者の使用行為を被告の行為と同視すべき特段の事情のない限り,被告による使用行為ということはできない。
この点について,同原告らは,上記のとおり,被告が被告製品の商品名を変更した際に,小売業者がその後も本件商標権を侵害する表示を使用し続けることを十分に認識しながら,何ら注意したり使用中止の要請をしたりすることなく放置していたと主張するが,この主張事実を認めるに足りる証拠はない。かえって 上記認定事実によれば,店頭でのプライスカー ,ド上の表示は,小売業者又は卸売業者が独自に入力しているものであるし,商品名を変更すれば通常はプライスカード等の表示も変更されることが期待し得るものというべきである。そうすると,被告が,小売店舗における店頭のプライスカードの表示を変更しないことを企図していたと認めることはできない。
また同原告らは,被告は,本件合意に基づき,あるいは条理上,本件商標権侵害の先行行為に基づいて商標権侵害表示除去義務を負うにもかかわらず,小売店に対してプライスカードの訂正を求めずに放置していたと主張する。
しかし,小売店舗でのプライスカードに標章を使用する主体は,上記のとおり小売業者かせいぜい卸売業者であるから,被告が,それら小売業者等に被告標章を付した被告製品を販売したからといって,それら小売業者等が独自に行う本件商標権侵害表示を除去する義務を条理上当然に負うとはいえない。
もっとも,被告は,被告製品取扱店舗において 「ヨーデル」単独の称 ,呼を生じる表示,宣伝,広告が行われた場合において,被告が違反の事実を知ったときには,その日から15日以内に当該行為を中止させるべき本件合意第4条2項,第7条に基づく義務を負っている。しかし,本件合意によっても,被告が,各小売店舗による表示等の存在を具体的に認識するか否かにかかわりなく,およそ本件商標権を侵害する表示であればこれを積極的に除去すべき義務を負うとまで認めることは困難である。したがって,被告が小売業者等に対して一般的に「ヨーデル」単独の称呼を生じ得る表示をしないようにするべき作為義務に違反していることを理由に,被告自身の本件商標権侵害行為があると認めることもできない。
以上によれば,上記ア,イの各被告標章の表示は,いずれも被告が使用したものとは認められない。
(3) そこで,前記(1)の被告が使用した各被告標章が被告製品の商標として使用されたものであるか否かを検討する。
被告が,平成14年4月10日まで被告のホームページにおいて,被告標章2(ヨーでる ,被告標章6(Yodel ,被告標章13(SunYo ))del)の各標章を用いていた行為は,商標法2条3項8号所定の,商品に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為に該当する。
他方,被告がそのURLに「yodel」なる文字列を用いたことが,商標としての使用に該当するか否かは争いがある。
商標の本質は,自己の営業に係る商品を他人の営業に係る商品と識別するための標識として機能することにあるから,登録商標と同一又は類似の商標の使用が商標権の侵害になるというためには,第三者の使用する商標が単に形式的に商品等に表示されているだけでは足りず,それが自他商品の識別標識としての機能を果たす態様で用いられていることを要すると解すべきである。
被告のURLにおける「yodel」なる文字列の使用態様は,ドメイン名における使用ではなく,被告に与えられたドメイン名(例えば 「esurok,u.co.jp )が割り振られたサーバーにアクセスし,そこで「under」などと 」いうディレクトリ内にある「goods」などというディレクトリの中の「yodel_a.html」などというファイルを取得してブラウザに表示するための文字列の表示であり,その画面上の表示もごく小さなものである。もっとも,URLに用いられた文字列が,そのURLによって表示される画面に表示された商品ないし役務と関連する文字列であると閲覧した者が認識し得る場合には,当該URLの文字列における使用も,商標としての使用に該当すると考える余地はある。しかし,前記認定のとおり,本件において問題となっているホームページの画面は,現商標商品の写真や現商標が掲載され,あるいは,新商標商品の写真が掲載され,新商標が表示されているものであるので,被告標章7に格別の周知性があるとは認めることができない本件においては,これらの画面を閲覧した者が,URLの被告標章7(yodel)を見て,画面に掲載されている被告製品の識別標識(標章)であると認識するとは認めることはできない。
したがって,本件においては,URLを表示するウィンドウに「yodel」なる文字列を用いたことは,商標としての使用には該当しない。
「yodel.gif」なる文字列も,これを見た者は,同様に単なるファイルを表示するための文字列にすぎないと認識するのであるから,同文字列をホームページに表示しても,商標としての使用には該当しない。
さらに,被告の業務部長の名刺に「YODEL DIET (被告標章2」1)との記載があった点については,商標法2条3項8号の広告的使用に該当するか否かが問題となる。しかし,本件で問題となっている名刺には被告標章21が単独で用いられているにすぎず,宣伝文句等の記載もないことによれば,同標章が被告製品に関して付されたものと認めることはできない。
また,本件において認定することができる名刺の使用態様は,後記認定のとおり,平成14年6月19日に,塩見・山元法律事務所における面談の際に,被告業務部長のCが「YODEL DIET」の標章が記載された名刺を交付したというものであるが,これが被告製品の宣伝広告のために名刺が使用された場合に該当しないことは明らかであり,その他,被告製品の広告宣伝のために名刺が使用されたと認めるに足りる的確な証拠はない。また,そもそも上記の態様の名刺は取引書類に該当しない。したがって,上記名刺における被告標章21の使用は,商標としての使用に該当しない。
2 争点2(被告が使用する被告標章の本件商標との類否)について(1) 上記のとおり被告が使用していた「ヨーでる (被告標章2 「Yod 」),el (被告標章6 「SunYodel (被告標章13 「ヨーでるダ 」),」),イエット (被告標章19)が,本件商標に類似するか否か検討する。 」ア 本件商標の指定商品と被告製品とが商品として類似するか。
前記認定事実によれば,本件商標の指定商品は,旧別表第1類(薬剤)であるのに対し,被告製品は健康補助食品である。そして,健康補助食品は,平成12年政令第311号による改正後の商標法施行令1条別表及び平成13年経済産業省令第202号による改正後の商標法施行規則6条別表(以下「別表」という )の第29類「肉製品,加工水産物,加工野菜 。
及び加工果実」に属するから,確かに本件商標の指定商品とは異なる商品区分に属するものではある。
しかし,政令で定める商品の区分は,商品又は役務の類似の範囲を定めるものではない(商標法6条3項 。商品が類似するか否かについては, )商品自体が取引上互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっても,それらの商品に同一又は類似の商標を使用すると同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認混同されるおそれがある場合には,これらの商品は,類似の商品に当たると解するのが相当である(最高裁昭和36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁 。)しかるところ,健康補助食品というのは,いわゆるサプリメントなど,不足しがちな栄養成分を補って,身体の健康を維持・増進させるための特別な食品であるが,このように健康の維持・増進のために身体内に摂り入れるものという点で,薬剤と同様の機能ないし効用を図るものであることから,薬剤と同様の機能を持つ商品として宣伝され,ドラッグストア等において多数販売されていることが認められる(甲36,乙69,弁論の全趣旨 。また同様に,製薬会社が直接,あるいは関連会社を通じて,健康 )補助食品の製造販売に進出していることも認められる(甲13の19頁以下,甲15,弁論の全趣旨 。これらの点からすると,原告商標の指定商 )品である薬剤と,被告製品である健康補助食品とは,同一又は類似の商標を使用すると同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認混同されるおそれがあると認められるから,商品として類似するというべきである。
この点について被告は,原告製品が処方薬であり,医師の処方がなければ消費者は購入・使用ができないのに対し,被告製品は健康補助食品であり,誰もが購入することが可能であって,両製品の用途・需要者の範囲・販売方法が異なることから,商品の類似性はないと主張する。
しかし,本件商標の指定商品は薬剤一般なのであり,特に処方薬に限定されているわけではないから,商品の類否の判断において取引の実情を考慮するとしても,本件商標を使用した実際の原告製品の販売方法のみを視野に置くのは相当でない。
また,仮にこれまで本件商標を使用した原告製品が処方薬であることを考慮したとしても,前記のとおり,薬剤と健康補助食品は同じ製薬会社が製造販売することもある上,原告製品と被告製品とは便通を良くするという同じ効果を企図するものであるから,両者の販売方法が異なるとしても,なお需要者において,医薬品か健康補助食品かの区別はしつつも,同一又は類似の商標が付されているために,出所を同じくする系列に属するものあるいは姉妹商品であるかのように理解して購入に至るおそれがあるというべきである。
したがって,被告の上記主張は採用できず,本件においては,商品の類似性は認められる。
イ 被告が使用する各被告標章は,本件商標と類似するか。
(ア) 本件商標は,別紙原告商標目録のとおり,上段にカタカナ文字で「ヨーデル ,下段に英文字で「YODEL」を太めのゴシック体様の 」書体で書して成り 「ヨーデル」の称呼を生じ 「スイスやチロルなど, ,,アルプス地方の民衆の間で歌われている特殊なタイプの歌。また,その歌い方 (乙8。岩波国語辞典第3版)という観念を生じさせる。 」(イ) 被告が使用する各被告標章についてa 被告標章2は,カタカナとひらがなで「ヨーでる」と構成される文字標章であり 「ヨーデル」の称呼を生じ,本件商標と同様の観念を ,生じさせることもあるが,カタカナ部分の「ヨー」とひらがな部分の「でる」とで区別して認識されることから,関西弁を用いた場合の「よく出る」との観念を生じさせることもある。
b 被告標章6は,英文字で「Yodel」と構成される文字標章である 「ヨーデル」との称呼を生じ 「ヨーデル」の英語による表記と 。,して,本件商標と同一の観念を生じさせる。
c 被告標章13は,英文字で「SunYodel」と構成される文字標章であり 「Sun」の部分と「Yodel」の部分から構成され ,る結合標章であって 「Sun」と「Yodel」の2つの単語を組 ,み合わせた造語である。そして 「Sun」は英語で太陽 「Yod ,,el」は本件商標と同一の観念を生じさせるものであって,全体として特別の意味を持たないものであるが,太陽がさんさんと降り注ぐアルプスの爽快なイメージを観念として生じさせることがある。
そして,この程度の音韻数であれば「サンヨーデル」と省略せずによどみなく一連称呼し得るものであること,他方で 「Yodel」,が便秘薬の商標として周知著名であるとは認められず,さらに 「S,un」も「Yodel」も便秘薬について観念上の関連性を有する語ではなく,一方が単なる付加語であるとも観念されないことからすると 「SunYodel」という被告標章に接した需要者が,そのう ,ちの「Yodel」の部分に注意を惹かれるとは考え難い。したがって,上記被告標章からは,全体として「サンヨーデル」との称呼が生じると認めるのが相当である。
d 被告標章19は,カタカナ,ひらがな交じりの「ヨーでる」と,カタカナの「ダイエット」で構成される文字標章である。
「ヨーでる」については,上記a同様,関西弁で「よく出る」との意味で用いられる言葉と認識されることがあり,他方「ダイエット」は,一般的に「美容・健康保持のために食事の量・種類を制限すること (広辞苑第5版)を意味し,減量に関する言葉としてしばしば用 」いられるものである。
被告製品がダイエット用の健康補助食品であることにかんがみれば,「ダイエット」なる部分の識別力は弱く,その要部は 「ヨーでる」,の部分にあるものと認められる。
したがって,被告標章19は「ヨーデルダイエット」の称呼のほ ,かに 「ヨーデル」の称呼を生じさせるものといえる。なお,被告標 ,章19の要部が「ヨーでる」であることからすると,被告標章2と同様の観念を生じさせるものというべきである。
(ウ) 類否について以上の認定説示に基づいて,被告標章が原告商標に類似するか否か検討する。
a まず,被告標章2は,本件商標と同一の称呼を生じ,外観においても本件商標のカタカナ表記の部分とは,一部がひらがなである点を除いて共通する。また,観念においても一部共通する。迅速を重んじる商取引においては,称呼が共通する場合には,出所の混同を生じるおそれがあると認められるので,この程度の外観及び観念における相違点があるとはいっても,出所の混同を生じるおそれを失わせるものではない。
したがって,被告標章2と原告商標とは,類似するというべきである。
b 被告標章6は,外観において,文字の太さ及び最初の文字以外の文字が小文字である点で本件商標と相違するものの,その他の点は共通しており,称呼及び観念においても本件商標と共通している。よって,被告標章6は,本件商標と類似するというべきである。
c 被告標章13は,外観において 「Sun」が加わり 「Yode ,,l」も2文字目以降が小文字である点で,本件商標と相違している。
また全体としてで「サンヨーデル」と称呼される点でも本件商標と相違している。
したがって,被告標章13は,外観,称呼において本件商標と異なり,本件商標とは類似しないというべきである。
d 被告標章19は,その要部を「ヨーでる」とするものであり,その称呼,外観,観念は被告標章2と同じである。そうすると,被告標章19は,外観が一部ひらがなである点において本件商標と相違するが,称呼が類似しており,上記相違点の存在をもってしては出所の混同を来すおそれを回避できないと認められるから,本件商標に類似するというべきである。
(2) 以上によれば,被告標章13は,本件商標に類似せず,同標章を使用する行為は本件商標権を侵害しないが,被告標章2,被告標章6及び被告標章19は,いずれも本件商標に類似するから,これらの各被告標章を使用する行為は本件商標権を侵害する(商標法37条1号 。)3 争点3(原告ブラザーズに生じた損失額)について(1) 原告ブラザーズは,自らが本件商標権の権利者であった平成13年6月10日までの間,被告が被告製品を販売したことにつき,本来被告が同原告に対して支払うべきであったのにその支払を免れたとして,本件商標の使用料相当額の不当利得返還請求をしている。そして,同日までの間に販売された旧商標商品の説明書や女性週刊誌に用いられた被告標章2等が,本件商標権を侵害するものであったことは,前記のとおりである。
(2) ただし,本件では,被告が本件合意に基づき原告ブラザーズに対して200万円の和解金を支払っている。そこで,同和解金の支払によって,本件合意上認められた平成12年7月31日までの旧商標商品の販売に関し,同原告が本件商標権侵害に基づくその余の不当利得返還請求権を放棄したのか否かが問題となる。
後記6(1)アの認定事実によれば,本件合意は,原告ブラザーズが,被告による旧商標の使用が本件商標権を侵害するとの警告を発したことからその交渉が開始されたものである上,本件合意を締結するまでの交渉過程で,原告ブラザーズと被告は,相互に旧商標商品の出荷数量が4万2500個であることを確認した上で,旧商標商品の同出荷数量に基づいて,原告ブラザーズが当初425万円の和解金を提示したのに対し,被告が「金100万円を『解決金』ということでお支払いしたく存じます (乙20)と希望したた 」めに,同原告も本来であれば850万円の損害を被っているとしながら(乙22 ,最終的には和解金を200万円とすることで合意したというのであ )る。したがって,上記200万円の和解金は,実質的にみて旧商標商品の販売が本件商標権を侵害することを前提に,その損害賠償金として支払われたものというべきである。そうすると,原告ブラザーズと被告は,被告の旧商標商品の販売については,本件合意の上でその販売が認められた平成12年7月31日までの販売行為を含め,それが本件商標権を侵害するものであることを前提にしながら,同和解金の支払をもって解決し,それ以外の請求をしないこととされたものというべきであり,そのように解することが当事者の合理的意思に適うものと認められる。
したがって,本件合意中に請求放棄条項ないし清算条項がなかったとしても,本件合意の各条項で許容された期間内での旧商標商品の販売行為等については,本件合意第5条の和解金の支払をもって解決したものであって,原告ブラザーズは,旧商標商品の販売に関する請求権を黙示的に放棄したものと認めるのが相当であり,このことは,その後において,被告が本件合意の条項に違反することがあったことにより左右されないものというべきである。
よって,被告による平成12年7月31日までの旧商標商品の販売行為は,本件商標権を侵害するものであるとはいえ,原告ブラザーズは,本件において,被告に対し不当利得返還請求権を行使することはできない。
(3) なお,後記6エのとおり,被告は本件合意によって旧商標商品の販売が認められた平成12年7月31日の後,同年11月1日までの間に14回にわたって旧商標商品を販売したことは争いがないから,被告標章2及び被告標章6を付した旧商標商品の販売行為によって,原告ブラザーズの本件商標権を侵害したことになる。
さらに,現商標商品の販売や,新商標商品の販売に当たって,被告は平成14年4月10日までの間,自社のホームページ上に旧商標商品を掲載し,それに伴い被告標章2及び被告標章6の本件商標と類似する標章を表示していたものであり,これらの被告標章使用行為は,本件商標権を侵害するものといわざるを得ない。
ただし,本件合意第2条2項により旧商標商品の宣伝行為は平成12年7月31日までは可能とされているので,原告ブラザーズが被告に対して通常実施料相当額の不当利得返還を請求し得るのは,平成12年8月1日から平成13年6月11日までの上記被告標章使用行為についてである。
(4) そこで,本件商標の使用料相当額について検討する。
ア まず,後記争点8において検討するように,原告商品表示に周知性は認められず,本件商標自体も原告製品に関する商標として周知性を備えていたとは認められない。しかしながら,被告製品( SUNYODEL/サ 「ンヨーデル ハーブ&ファイバー )につき一時期使用されていた包装に 」は,タレントが吹き出しで「よう出るわよ!」とコメントしているかのような表示が用いられ,包装の裏面から見ることのできる品質表示の上部には「朝のトイレが楽しみになる!」と記載されており(甲18。なお,その後の包装でもタレントが吹き出しで「よう出るわよ!」とコメントしているかのような表示がなされている。甲21 ,便通を改善する作用を暗 )示する表現を用いている。被告があえて被告製品の包装にこのような工夫を凝らすのは,被告製品に 「よーでる」との称呼を含む標章を付し,か ,つ「よく出る」との意味の関西弁をイメージさせる包装を用いることで,ダイエット用健康補助食品である被告製品を使用すれば便通が改善し減量効果が生じるというイメージを需要者に想起させ,これにより顧客吸引力を生じさせるからであると推認される。また,被告が旧商標商品に係る標章「ヨーでる」を大量に繰り返し広告宣伝で使用してきたのも,同様に上記のような顧客吸引力を生じさせることを意図してのものであると推認される。
そして,それらの広告宣伝を通じて 「よーでる」との称呼が関西弁の ,「よく出る」を連想させ,被告製品の使用による便通改善効果を暗示する点や,語感もよくダイエット用健康補助食品として斬新なネーミングであることも相まって,被告製品の購入を検討する取引者ないし需要者に対して被告製品と旧商標商品に係る標章との関連をより強く印象付けたことが認められる。したがって,被告が本件商標に類似する「ヨーでる」標章を使用することは,被告製品の売上げに寄与し得ることが認めることができる。
これらの事情に照らせば,被告による平成12年8月1日以降,同年11月1日までの間の14回にわたる旧商標商品の販売行為に関する本件商標の使用料相当額は,売買代金の3%とするのが相当である。
イ 他方,被告のホームページ上における使用行為の使用態様は相当限定されたものであるので,これらの行為につき相当な商標使用料率を認定するに当たっては,その宣伝効果が被告製品の売上げに寄与した程度も考慮する必要がある。
証拠(乙94,100,101)によれば,被告が被告製品についてした宣伝広告は,主として週刊誌や月間誌での広告や,短期間のものではあるがテレビコマーシャルであり,平成12年4月から同年12月までの間に支出した宣伝広告費が少なくとも7169万4000円であることが認められる。平成12年当時は,女性誌にタレントを起用した広告を繰り返し掲載し,平成13年6月以降は,テレビにおけるタレントのダイエット企画に被告が協力する形での宣伝広告活動が行われ,タレントも3名起用するなどしていたこと(ただし平成14年6月まで。弁論の全趣旨)によれば,被告が被告製品の宣伝広告のために支出した費用は,販売開始後,少なくとも平成14年までは,年間5000万円を下回るものではなかったと認めることができる。
平成13年7月1日から平成14年4月30日までの間にフリーダイヤルで被告製品を注文した顧客が注文のきっかけとして見た媒体について調査した結果(乙92)によれば,平成13年7月以降,毎月最も多数を占めるのが既に被告製品を購入したことのある顧客からの再注文であり,その次に多いのが週刊誌である 「TV」と回答する顧客も,時期により変 。
動はあるが毎月一定の人数に達しており,平成14年4月以降は,タレントが作者となっている書籍を見たという者も多いことが認められる。ただし,同調査結果には,被告のホームページを見た者が項目として挙げられておらず,この報告書のみでは,被告のホームページを見て注文した者がどの程度いるのかを的確に認定することはできないが 「その他」と答え,た者の割合が約3%から約12%程度で推移しており,この中で被告のホームページを閲覧した者の割合はさらに低いことが推認される。ただし,被告のホームページを閲覧した者が被告製品をドラッグストア等で購入する場合や,他のホームページを開設している健康食品販売業者から購入する場合もあるので,上記調査結果から,被告のホームページを閲覧した者の割合を的確に認定することはやはり困難である。
被告は,自社のホームページ上の消費者に対する直接販売額につき,平成15年9月から平成17年7月までの売上数量が175パック,売上額の合計が145万8300円であることから(乙93 ,同ホームページ)の宣伝広告効果は低いと主張するが,1パック当たり8333円程度で販売していることも販売数量の伸びに影響を与えているとも考えられるため,これらの販売数量などからは,直ちに被告のホームページの宣伝広告効果が低いということはできない。
もっとも,証拠(乙94)によれば,被告は,雑誌での広告において,フリーダイヤルの番号はほぼ掲載し,取扱店舗も紹介しているものの,平成14年4月10日までの間に,自社のホームページのURLを表記していたことはない。購入方法が小売店における販売や,フリーダイヤルによる販売に限られていたとはいえ,被告が同ホームページ上の広告によって多大な宣伝広告効果を期待していたことを窺わせる証拠も見当たらないことによれば,被告のホームページの宣伝効果はさほど高いものではないと認められる。
以上によれば,@被告が自社のホームページにおいて使用していた被告標章2及び被告標章6が被告製品の売上げに寄与していたことは,前記認定のとおりであるが,A他方,原告商品表示に周知性はないこと,B証拠(甲13,14)によれば,被告のホームページ上の被告標章2及び被告標章6の使用は,過去に女性誌に掲載された被告製品の広告における旧商標商品の写真が掲載されたものなどであって,多くの部分では,それ以外の標章が用いられており,使用されているのはごく一部の画面に限られることが認められる。
これらの事情を考慮すると,被告のホームページにおける本件商標の使用料相当額は,平成12年8月1日から13年6月10日までの間の被告製品の売買代金の0.15%と認めるのが相当である。
(5) 後記6エのとおり,被告は,平成12年8月1日以降,同年11月1日までの間に旧商標商品を14回,合計56万5954円で販売した(4万2209円×12回+4万1962円×1回+1万7484円×1回=56万5954円 。よって,被告による旧商標商品の販売行為についての本件商 )標の使用料相当損害金は,下記のとおり1万6978円である。
56万5954円×3%=1万6978円(1円未満切捨て)また,証拠(乙83ないし86)によれば,被告は,平成12年8月1日から平成13年6月10日までの間に,小売店舗に卸す被告製品19万1402個につき6億4663万1083円の売上げを上げており,フリーダイヤルによる直接販売において,被告製品及び「システム・シックス」なる商品につき合計5551万2052円の売上げを上げている。証拠(乙87)によれば,上記期間の各商品別の売上額は,販売を代行していたヤマトロジスティクス株式会社の当該資料の保管期間を経過しているものと認められるが,平成13年7月1日から平成14年7月31日までの間のフリーダイヤルの受注件数(顧客1名の1回の注文を1件とするもの)一覧表(乙92)によれば,全注文件数に占める被告製品の注文件数は約88%であり,被告における「システム・シックス」の販売価格が3762円ないし3600円程度,被告製品の販売価格が4364円ないし4200円程度であること(乙83)によれば,販売価格の中間値(3681円と4282円)とそれぞれの商品の全売上げに占める割合によれば,上記期間の被告製品の販売価格の約89.3%が被告製品の売上げであると推計できる(88%×4282/88%×4282+12%×3762 。)そうすると,フリーダイヤル販売による上記期間の売上額5551万2052円の89.3%に相当する4957万2262円(1円未満切捨て)が,被告製品の売上げであると推計できる。なお,原告らは,民事訴訟法224条3項を適用し,フリーダイヤル販売による売上額全額を被告製品の売上額と認めるべきであると主張するが,上記推計が可能であるのでその必要はない。
以上によれば,上記期間内に,被告がフリーダイヤルによる直接販売によって上げた被告製品の売上げは6億9620万3345円である。
6億4663万1083円+4957万2262円=6億9620万3345円そして,この売上額に0.15%を乗じた104万4305円が,本件商標の使用料相当額であり,原告ブラザーズが被告に請求しうる本件商標の使用料相当額は同金額に上記1万6978円を加えた106万1283円となる。
4 争点4(原告コーポレーションに生じた損害額又は損失額)について(1) 原告コーポレーションは,主位的請求として,商標権侵害による不法行為に基づく使用料相当額及び無形損害の損害賠償を請求している。
そして,前記認定事実のとおり,被告が平成14年4月10日まで開設していたホームページにおいて被告標章2及び被告標章6を使用していたことが認められるので,これらの本件商標権侵害行為について,原告コーポレーションは,被告に対して損害賠償を請求することができる。
ただし,原告ブラザーズから原告コーポレーションに対する本件商標権の移転の効力が生じるのは,移転がなされた旨の登録がなされた平成13年7月25日であるから,原告コーポレーションが被告による商標権侵害行為について生じた損害の賠償を請求をすることができるのは,同日以降の商標権侵害行為に基づき発生した損害についてである(商標法35条,特許法98条1項1号 。)そして,本件商標の使用料率は,前記3において判示したのと同様の理由により0.15%とするのが相当である。
証拠(乙88ないし90)によれば,平成13年7月25日から,平成14年4月10日までの間,白元に対する販売によって被告が得た売上げは,6億5421万5848円である。さらに,上記期間におけるフリーダイヤル販売による売上額は,5061万4718円であるから,前記4と同様,この89.3%に相当する4519万8943円が,被告製品による売上額であると推計できる。したがって,上記期間における被告製品の売上合計額は,6億9941万4791円となる。
これに,本件商標の使用料率として0.15%を乗じると,104万9122円となる。
(2) さらに,原告コーポレーションは,被告の本件商標権侵害行為により無形損害を被ったと主張する しかし,被告による本件商標権侵害行為として 。
把握し得るのは,前記のとおり,被告のホームページにおいて被告標章2及び被告標章6を使用したこと並びに平成12年8月1日から同年11月1日までの間に旧商標商品を合計14回,合計161個を販売したことにとどまる。このことに加え,後記10のとおり,本件商標が原告製品の商品表示として周知なものであったとは認められず,本件商標に原告の高度な信用が化体していたとはいえないことを併せ考慮すると,上記のような被告の本件商標権侵害行為によっては,原告コーポレーションに無形損害が発生したとは認めるに足りない。
5 以上によれば,原告ブラザーズの被告に対する本件商標の使用料相当額の不当利得返還請求は,106万1283円及びこれに対する平成16年11月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。原告コーポレーションの本件商標権侵害に基づく損害賠償請求は,104万9122円及びこれに対する平成17年6月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
6 争点5(本件合意の効力)について(1) 認定事実前記争いのない事実等に証拠(各項末尾に掲記したもの)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件合意に至る経緯等に関し次の各事実が認められる。
ア 本件合意に至る経緯(ア) 被告は,平成10年ころ,ダイエット用健康補助食品「ヨーでる/Yodel HERB&FIBER (旧商標商品)の製造販売を開始 」した。被告製品は,既に米国等海外において販売されていた「Ultimate Cleanse(アルティメイト・クレンズ。海外製品。 」体内洗浄という意味。甲3の2)というダイエット用健康補助食品を国内仕様の成分に変更したものである。
被告製品は 「ハーブダイエット」と「ファイバー」の2種類の錠剤 ,から構成されており,それぞれの錠剤が200粒ずつ入った2つの瓶を1セットとして販売されている(希望小売価格8800円。甲6 。被)告製品の商品説明には 「 ヨーでる』は,ハーブとファイバー2種の ,『錠剤を同時に摂取する事で,高い相乗効果を生んでいます。ファイバーの粒が腸内の宿便を取り除き,体内の老廃物を排出します 「便秘に。」よる腸内の有害物質の発生を阻止しクリーンな状態を保ち,ハーブの力で機能を向上させ,肌荒れや便秘が原因で引き起こされる様々な病気を予防してくれます 「アメリカではNo.1のクレンジング商品(体 。」,内クレンジング商品)として3年連続Vity賞の金賞(全米のドラッグストアが全健康食品及び取り扱い商品の中から,売上実績だけでなく最も消費者に高い支持を受け,高品質であると認められた商品に対して贈られる)を受賞し,使用者の中にはヒラリー・クリントン大統領夫人やデミィ・ムーア,シャロン・ストーン等数多くの著名人がいます ,。」米国の公認栄養士「リンゼイ・ダンカン博士が10年間の臨床経験と,3万時間に及ぶ臨床実務を元に,彼のクリニックに通院する患者さん達のために処方され,開発されたという経緯があり,きちんとした裏付けを持った唯一の商品なのです 」などの説明がなされており,便通を改 。
善することによる減量効果を示唆する内容となっている(甲3の2 。)(イ) 原告ブラザーズは,平成10年1月12日,原告藤本製薬から本件商標権を譲り受け,以降,原告ブラザーズが原告藤本製薬に対し,本件商標の使用を許諾していた。
原告ブラザーズ代理人A弁理士は,被告に対し,平成12年1月18日付けの内容証明郵便において,被告の「ヨーでる/Yodel」の標章を付した旧商標商品の販売は本件商標権を侵害するので,かかる侵害), 行為を速やかに停止するよう求めるなどと警告した(乙10 。被告は平成11年10月6日に 「サンヨーデル/SUNYODEL」の標準 ,文字商標について,指定商品第29類(加工野菜及び加工果実,肉製品,加工水産物)とする商標登録出願を既にしていた(乙51)ことから,被告代理人の高橋弁護士及び木下正信弁護士名義の平成12年1月26日付け(同月28日到達)回答書において,原告ブラザーズが本件商標を商標登録している事実を全く知らないで使用していたが,調査によりこのことに気づいたこと,そこで平成11年10月6日に「サンヨーデル/SUNYODEL」の商標登録出願をし,以後は新しい商標にて販売すべく手配済みであるが,従前の商品(旧商標商品)が流通ルートに乗っており,その回収が困難な状況にあるので理解を賜りたいなどと回答した(なお,以下の本件合意までの原告ブラザーズ及び被告間の交渉は,すべて同じ代理人間においてなされた。乙11の1及び2,12の1ないし4 。)(ウ) これに対し,原告ブラザーズは,平成12年2月21日付け通知書において,同原告の調査したところによれば,上記被告の回答に反し,関西地区のいずれの薬店でも旧商標商品が販売されているとして,さらに被告に対し,新商標での被告製品の販売開始時期や過去の旧商標商品の販売数量等の報告に加え 「当社登録商標(本件商標)の存在にもか ,かわらず,貴社(被告)が過去乃至現在において商品『ヨーでる』を販売し,今後も流通ルート上にある従前商品『ヨーでる』の販売を継続することを,当社が容認し得るための,貴社からの提示条件」についての回答を求めた(乙13 。)さらにこれに対し,被告は,平成12年3月7日付け(同月9日到着)回答書において,新商標商品の販売開始時期は平成12年5月末から6月初旬の予定である,旧商標商品の販売数は約3万本であり,現在の旧商標商品の販売店における残数及び在庫は合計で約3万5000本である,在庫品の販売を希望する,原告ブラザーズから許諾条件の提示を求められた件については同原告と相談させていただきたい,等と回答した(乙14の1及び2 。また,同回答書(乙14の1)中には, )「当社(被告)の調査では貴社(原告ブラザーズ)の商品は医師の処方箋により購入できる医薬品であり,当社の商品は,単なる健康食品であり,誰でも簡単に購入できる商品であります。従って,周知性等法律上の問題として不正競争防止法に違反するかどうかは,当職ら(被告代理人)としては若干疑問を有しておりますが,右問題はともかくとして,当社としては,貴社との円満解決を希望しております 」との記載があ。
る。
(エ) 被告は,平成12年4月3日,同日付けの原告ブラザーズの代理人A弁理士宛の「ファクシミリ送信」と題する書面において 「1.現在,潟Gスロクの在庫品は0です。流通ルートには1万2000〜1万3000本位あるかと思います。7500本米国に返品し,米国にあった1万5000本の出荷を停止した為に合計2万2500本位は減らしました。この商品が店頭からなくなるのは先行き次第ですが,5/末頃かと思います。2.旧商標での広告はH12.3.末までです。販売店との関係で広告せざるを得なかったようです 」と連絡した(乙15 。さ 。)らに同月4日,被告は,A弁理士宛のファクシミリで,輸出積戻許可の文書,被告製品の製造委託会社宛の2000年2月18日付け手紙(旧商標のラベルを新ラベルに取り替えることを依頼したもの)の写し,商標変更後の広告の見本を送付した。さらに,被告は,平成12年4月13日付けA弁理士宛の「通知書」において,被告製品の「SunYodel HERB&FIBER」なる標章を用いた新ラベルは,本件商標権を侵害していないと考えるので,再検討を願う旨の通知をした(乙16の1ないし5,17 。)これに対し,原告ブラザーズは,平成12年5月30日付け被告代理人宛の通知書において,上記被告の同年3月7日付け回答書に記載された「許諾条件」についての回答をした。まず,その前提として旧商標を過去において使用し,また今後も流通ルート上に残る旧商標商品を継続販売することを容認する条件として(同通知書において「なお,当該商品を販売する薬店およびその薬店に関与するスーパーマーケット等においては,個別に商標の使用行為をしている点に充分ご留意ください 」。
と付記している 「一,旧商標を付して出荷した数量四万二五〇〇個 。),に対して合計四二五万円を和解金とする。なお,販売数量は,貴通知書一の4,5(上記同年3月7日付け回答書で回答された旧商標商品の販売数量3万本,在庫数量,流通ルート上及び販売店舗における残存数量合計3万5000本)から米国への返品分と出荷停止分を控除して算出し,これに貴社製品一個当たりの出荷価格(四千円)の二.五%に当たる一〇〇円)を乗じて算出しました。二,旧商標による販売は,流通在庫を含め平成一二年七月三一日までとする。以後,薬店等を含めて販売がなされていた場合については,違約金として月間百万円を申し受けるものとする 」との和解案を提案した(乙18 。 。)(オ) さらに,原告ブラザーズは,平成12年5月30日付け高橋弁護士宛の「標題 潟Gスロク「SunYodel」の件」と題する文書において「商標の類否の判断において,貴社出願商標『サンヨーデル/SUNYODEL』に対し 「SunYodel」と表示することは,出願 ,商標と同一の,あるいは社会通念上同一とみなしうる商標の使用とは言,, えないとするのが圧倒的多数意見であると考える」とし 「したがって当社登録商標に対する貴社の『出願商標』の類似性についてはひとまずおき 『新ラベルに表示の商標』の類似性については,依然,懸念を持 ,っており,貴社が『出願商標』自体を使用されることを強く要望します 」と回答した(乙19の1 。 。)被告は,平成12年6月16日付けの書面で,原告ブラザーズから提示された和解金425万円に対し,100万円を提示した。被告は,その理由として「当社は,貴社の商標が登録されていることを全く知らずに今回の商標を使用したものですが,貴社からの御指摘にあい,商標の変更をしたものの,その時点においては宣伝費,人件費,その他営業経費が多大にかかり,未だ販売利益が殆ど存在しない時点で,販売を停止したものであって,金四二五万円もの請求には到底応じられない状況です 「また,…以前にも主張した通り,貴社の商標商品は一般薬店で 。」,購入できる市販薬とは異なり,医家向け保険薬であり,当社の商品は単なる健康食品であります。これを一般消費者が誤認して購入することは有り得ないと考えますので,当社の商品により貴社の売上が減少したということも有り得ないのではないかと考えております 「従って,当。」,社としては,以前から円満解決をお願いしておりますので,金一〇〇万円を『解決金』ということでお支払いしたく存じます」と回答し,あくまで解決金として100万円を支払うことで,原告ブラザーズとの間の,, 紛争を解決したいとの意向を表明した。また 「なお,違約条項ですが当社の調査する限り,現在,貴社の商標を侵害した旧商品は店頭には残っておりませんが,仮に郊外の店舗に一本,二本が残っていることも有り得るかもしれませんが,それをもって違約金を支払えと言われても対応できませんので,この点は御了解いただくしかありませんので宜しく願います 」と,違約条項についても回答した(乙20 。 。)さらに,被告は,同日付けの別の書面で 「当社としては,…現在の ,当社の商標が,貴社の商標を侵害しているという事実はないと考えております。しかし,当社としては,無用な紛争は避けたいと考えておりますので,今後の商品発注に当たっては,当社が商標出願した『SUNYODEL』という表示に再度訂正することと致しますので,宜しく御理解のほど願います。なお,現在の商品は,既に米国に発注済みのも(の)が輸入されておりますので,現在の商標の商品は,しばらく店頭に並ぶこととなりますので,この点は御了解いただく様願います 」と。
回答した(乙21 。)(カ) 原告ブラザーズは,上記2通の書面に対して,平成12年8月2日付け被告代理人宛の通知書において,(1)旧商標を付した商品の販売を平成12年7月31日までとすること,(2)現商標『SunYodel』を付した現商標商品の販売については,平成12年12月31日までとすること及び(3)今後,被告製品に本件商標と類似する商標を使用しないこと,の3点を確約するのであれば,和解金を200万円とすることで了承する,なお,前記(1)ないし(3)の履行を担保するため,上記事項に関する契約に当たっては,下記<イ>ないし<ニ>に示す違約条項を含む契約としたい(その違約条項の違反については,さらに下記<ホ>の義務を負わせることとして)旨回答した。
<イ> 旧商標『ヨーでる/YODEL』を付した商品については,平成12年7月31日以降,貴社及び店頭の在庫分を処分し,今後一切,輸入,製造,販売,宣伝並びに広告を行わないこと<ロ> 現商標『サンヨーデル/SunYodel』を付した貴社及び店頭販売の商品は,本年12月31日までに,貴社出願中の商標『サンヨーデル/SUNYODEL』を付した商品に切り替えること<ハ> 現商標『サンヨーデル/SunYodel』を付した現商品及び新商標『サンヨーデル/SUNYODEL』を付した新商品において,『ヨーデル(Yodel又はYODEL 』とその他の部分との間に )異なる特徴を付したり,分離分割した表示を行うなど 『ヨーデル』,の称呼が生じるような宣伝及び広告を行わないこと<ニ> 上記の履行確認のため,旧商標商品『ヨーでる/YODEL』及び現商標商品『サンヨーデル/SunYodel』について,商品変更に当たっての最終商品各々の製造年月日,ロット番号,製造番号,品質保持期限等の連絡を被告から得た上で,(a)店頭商品に,提示の最終製造日よりも後に製造されたものがあった場合は,数量にかかわらず違約条項を適用すること(b) 旧商標,現商標,各々変更前の製造日にかかる商品がなお店頭に残存していることが認められた場合は,貴社がその事実を知った日から1か月以内に,店頭商品の返品,交換等の適切な処置を行うこと。貴社がその事実を知った日から1か月経過後も依然店頭に商品が存在する場合には,違約条項を適用すること(c) 上記(a)(b)の場合,違約金として1回当たり200万を支払うこと<ホ> 上記<イ>ないし<ハ>に違反する販売,広告を行った場合は,現商標商品及び新商標商品の販売を即時中止し,全国紙各紙に,販売中止のお知らせと謝罪文を掲載することさらに,原告ブラザーズは,同通知書で,被告による本件商標権侵害に基づく損害賠償額について,旧商標商品の販売によって,少なくとも1870万円の損害を被り,そのうち850万円が被告から,残り1020万円が被告製品を取り扱った者から被った損害と認識している旨を回答した(乙22 。)これに対し,被告は,平成12年9月5日付けの書面で,現商標の使用は,在庫品等の関係から平成13年6月30日まで認めることと,上記<ニ>の(a)及び(b)については,被告がこれを知った日から1か月以内に店頭商品の撤去・交換等の適切な処置を行わない場合には,違約条項が適用されることを承諾するが,違約金として1回当たり200万円というのは多すぎ,全体の和解金が200万円である以上,違約金は50万円とすることを希望する旨,さらに上記(ホ)については,違反する販売,広告の解釈について疑義が生ずる可能性があるので「別途協議」という内容にすることを希望する,上記条件が満たされることを条件として和解金を200万円とすることに同意し,平成12年11月5日,同年12月5日に各100万円宛2回に分割して支払う旨回答した(乙23 。)(キ) 原告ブラザーズは,平成12年9月20日付けの通知書で,上記回答に対して以下の連絡をした(乙24 。)「<ニ>(a)項は,旧商標商品及び現商標商品について,貴社からご連絡受けた各々の最終製造日より後に製造された商品が,それぞれ平成12年7月31日以降又は平成13年6月30日以降に店頭にあった場合は,発見次第直ちに違約条項が適用されることを規定する趣旨です。したがって,この場合は商品撤去を行っていただくとともに違約条項が適用されることを意味します。一方,(b)項は,貴社が製造販売を中止する以前の商品が,流通上の事情により,各々平成12年7月31日以降又は平成13年6月30日以降に万一市場に残存していた場合に関します。この場合,貴社に対して直ちに違約条項を適用するのは酷である…。
したがって,当該事実を知った日より一箇月以内に商品撤去が着手されても実際の商品の撤去が一箇月を経過してもなお完了しない場合は,違約条項が適用されることを意味します 」。
被告は,原告ブラザーズに対し,平成12年10月10日付けの「通知書」で「一.違約条項の趣旨については,貴職の主張する趣旨は,充分理解しましたので,貴職の御主張通りで結構です 」と連絡した(乙。
25 。)そして,原告ブラザーズ代理人から平成12年11月14日付けで,本件合意書の案が被告代理人にファクシミリで送信され(乙26 ,平)成12年12月5日,被告がこれを承諾して,本件合意が成立した。本件合意の内容は,前記争いのない事実等(4)のとおりである。
イ 本件合意成立後の事情(ア) 被告は,原告ブラザーズに対し,本件合意第5条に基づき,上記和解金200万円を,平成13年1月9日までに支払った(乙30 。)(イ) 被告は,平成13年9月11日付けA弁理士宛の「FAX送付の件」と題する書面で,原告ブラザーズに対し,原告製品について当社の提携先に販売権を認めてもらえないか,その場合,現行のパッケージ,ビン等について当社の提携先独自のデザイン変更は可能か否かの検討を依頼したが,同原告は,同月18日付けで同申入れを断った(乙31,32 。)(ウ) 平成14年4月10日まで被告が契約していた被告のホームページ上で,被告商品の宣伝広告に「ヨーでる/ダイエット 「ヨーでるハ」,ーブ&ファイバー」や 「Yodel HERB&FIBER 「Su ,」 ,nYodel HERB&FIBER」などの標章が使用されていた。
また,被告のホームページのURLにおいて「http://www.esuroku.co.jp/under/goods/yodel_a.html」との表記が使用されていた。さらに,被告のホームページのインデックス(見出し)を表示するページにおいて「yodel.gif」との表記が用いられていた(前記1(1) 。平成14年)8月29日の時点でも,被告のホームページのURLに「http://www.sunyodel.net/img/yodel.jpg」という表記が用いられた(前記争いのない事実等(5) 。)また,平成14年5月25日に,ホノルル市内のドラッグストアで「ヨーでる」や「よーデル」の表示をした広告パネルがアメリカのアーウィン・ナチュラル・フォー・ヘルス社の海外製品(アルティメイト・クレンズ)を展示する棚において使用されていた(甲16 。)(エ) 原告ブラザーズは,平成14年4月9日,被告に対し,被告のホー」, ムページで「Yodel 「ヨーでる」などの表示がされていることや海外においても「ヨーでる ウルチメイトクレンズ」との日本語の広告)。 パネルがあったことを確認したとの内容証明郵便を送付した(乙33被告は,同月10日付けで上記ホームページを解約するとともに(乙35の1及び2 ,同日付けで,白元マーケティング部及び大三特販部宛 )『, に「 サンヨーデル』の商標登録徹底について」と題する書面を送付し各社からの販売に際して「ヨーデル」商標登録者の権利をくれぐれも侵害しないよう広告宣伝掲載・インターネットホームページ等の掲載に関しては十分注意するよう関係者や取引先各社に対する周知徹底を依頼した(乙43の3及び4 。)被告は,平成14年5月8日付け回答書において,原告ブラザーズに対し,海外広告の件については被告がした事実はないこと 「楽天市,場」のホームページは第三者が開設したものであること,被告は現在製品を直接販売しておらず,白元に一括で卸し,同社が各代理店や小売店に販売しているが,白元には本件合意書を示し,商標については特に気をつけるよう注意しており,白元に対しては,改めてこのようなことがないよう申入れをしている旨回答した(乙38の1 。しかし,原告ブ)ラザーズは納得せず,同年6月19日に,塩見・山本法律事務所において,原告ブラザーズ側出席者としてA弁理士及び原告藤本製薬知的財産部所属の課長B,同山本忠雄弁護士,被告側出席者として高橋弁護士,被告業務部長Cら同席の上,面談がなされた。
その際,被告業務部長が示した名刺に「YODEL DIET」の標章が記載されていた(甲7 。)被告は,原告ブラザーズに対し,平成14年7月22日付けの「御通知書」において,上記面談に基づく検討結果を連絡し,ホノルル市内における広告パネルは,アメリカにおいて販売されているオモニ社(以前に被告製品の製造をしていた会社)が製造した商品の宣伝のために,販売店が無断で作成したものであると思われ,何らかの法的措置を執ることは困難であること,インターネット上の表示については,被告においてインターネット検索を専門とする従業員に定期的に検索させており,発見次第訂正させていること,店頭表示については,大三において,原告ブラザーズが指摘した小売店と,大三の卸売店20店,販売店31店について,直接,上記趣旨を口頭にて伝達し,さらにその下部小売店については,卸売店,販売店からの周知徹底を依頼した旨報告した(45。)しかし,原告ブラザーズは,被告に対して,平成14年8月30日付けの通知書で本件合意違反が改善されていない旨指摘した(甲9の1,乙46 。そのため,被告は,平成14年9月12日付け回答書におい )て,ホノルル市内における広告パネルの件は対処のしようがないこと,インターネット上の表示についても新たに発見した分については是正させたこと,店頭表示については同原告が指摘した店舗については修正をし,次回出荷分から商品のケース内に「チラシ」を同封し,同原告の本件商標権を侵害することがないよう処置を講じ,被告業務部長の名刺も訂正したことを回答した。なお,同回答書同封のチラシには「本商品を販売,広告(インターネット,プライス・カード等の表示も含む )に。
使用する場合には『商標権』の問題がありますので 『サンヨーデル』,『SUNYODEL』以外の文字は,使用しない様,くれぐれも宜しくお願い致します。特に店頭のプライスカードで『ヨーデルダイエット』『ヨーデル』等の表示が見られますので,くれぐれもご注意下さい。尚,当該表示を行っている場合には,すみやかに修正をお願い致します。株式会社エスロク」との記載がある(乙47の1及び5 。)しかし,原告ブラザーズは,原告藤本製薬と共同で作成した平成14年12月12日付け書面において,Bの調査報告書を添付し,被告に対し,本件合意第7条1項の履行を猶予する条件として違約金600万円の支払と,今後の違反店舗に対する1件5万円の調査費の支払を求めた。
B作成の報告書には,インターネット上の表示については,むしろ違反ページが増えており,被告が定期的なチェックを行っているのか疑問が生じていること,被告が新たに立ち上げたホームページのURLに「yodel」が使用されていること,その他,旧商標商品を関西地区のドラッグストアで販売していることが確認されたことから,旧商標商品の回収,回収した商品の個数及びロット番号,品質保持期限,製造年月日を明らかにすることを求める内容が記載されていた(乙48の1及び2。)被告は,平成15年1月7日,原告ブラザーズに対し,健康補助食品に被告が取得した商標権に係る商標「サンヨーデル/SUNYODEL」を使用しても,指定商品が類似しないために本件商標権を侵害する可能性はないとの弁理士の意見書を添付して,同原告に対し検討を求めた(乙54の1及び2 。)原告ブラザーズ及び原告藤本製薬は,被告に対し,平成15年5月1日付け通知書において,違反行為が是正されておらず,いつでも商品の販売中止,全国紙各紙での販売中止のお知らせと謝罪広告を請求できる立場にある同原告らとしては,被告がこのような対策を執らないのであれば,裁判で商品の販売中止を求める所存であるが,裁判外で最後の話し合いの機会を持つ意向がある旨を告知した。同原告らは,同日,大三及び白元に対しても同内容の通知書を送付した(乙56,58 。)被告は,平成15年6月3日付け「通知書」において,原告ブラザーズ及び同藤本製薬に対し,本件商標権の侵害があることを前提とした主張には無理があること,及び本件合意が有効であるとしても,被告がこれまで誠実に本件合意に基づく義務を履行してきたことについての理解を求めた(乙59 。)原告らは,平成15年11月6日,本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著な事実 。)なお,被告は,平成14年12月26日に,標準文字「SunYodel」につき,指定商品を第29類(平成13年改正後の商標法施行令別表)の「肉製品,加工水産物,加工野菜及び加工果実」として,商標登録出願し,平成15年8月1日,商標登録がされた(乙2,3 。)ウ 被告製品の販売ルートについて証拠(乙14の1,83ないし86,88ないし90,93,99)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成10年ころから被告製品を米国法人に製造させて,6か月毎の予約発注制度を採用してこれを輸入し,平成11年10月から大三を通じて全国のドラッグストアなどで販売するようになったこと,平成12年12月ころ白元の傘下に大三が入ったため,平成13年2月以降は被告から白元を通じて大三に販売され,大三から卸売店や販売店に対して販売され,さらにその下部の小売店に販売されるようになったこと,平成12年10月ころまでは,被告が大三振出しの約束手形の手形割引を行うために,便宜上,被告と大三の取引の間にチカミを介在させていたこと,被告は,フリーダイヤルによる代金引換方式で消費者に対する直接販売も行っていたこと,平成15年9月以降,被告が自社のホームページにおいて消費者に対する直接販売を開始したことが認められる。
エ 被告による旧商標商品の販売について被告が平成12年8月1日から同年11月1日までの間合計14回にわたり以下の月日に下記数量の旧商標商品を販売したことは,金額を除き,当事者間に争いがない(金額については乙第83号証により以下のとおり認められる 。。)数量 金 額 販 売 先8月 2日 12 4万2209円 チ カ ミ8月 5日 12 4万2209円 同 上8月 9日 12 4万2209円 同 上8月23日 12 4万2209円 同 上8月28日 12 4万2209円 同 上9月 2日 12 4万2209円 同 上9月 9日 12 4万2209円 同 上9月19日 12 4万2209円 同 上9月25日 12 4万2209円 同 上9月30日 12 4万2209円 同 上10月 7日 12 4万2209円 同 上10月14日 12 4万2209円 同 上10月23日 12 4万1962円 大 三11月 1日 5 1万7484円 同 上オ 原告製品の一般医薬品製造承認証拠(甲20,33)によれば,原告製品は,原告藤本製薬が大阪府知事に対して平成16年4月12日に一般用医薬品としての製造承認申請をし,同年9月21日にその承認を受けたものであって,一般用医薬品として販売される見込みがあることが認められる。
(2) 錯誤無効の成否について被告は,旧商標商品(Yodel/ヨーでるHERB&FIBER)の標章や,現商標商品(SunYodel/サンヨーデルHERB&FIBER)の製造販売行為が,実際には本件商標権を侵害しないのに侵害するとの錯誤に陥って本件合意を締結したのであるから,本件合意は要素の錯誤により無効であると主張する。
しかしながら,前記3において検討したとおり,少なくとも被告の旧商標商品の製造販売行為は,本件商標権を侵害するものであると認められるから,この点において被告に錯誤が存在しないことは明らかである。
他方,現商標商品の製造販売行為は,前記3において認定説示したとおり,客観的には本件商標権を侵害するものではないところ,それにもかかわらず本件合意において定められた期間経過後における現商標商品の販売を中止することや,ラベルを新商標に切り替えることを合意したことについて,錯誤無効の成否を検討する余地がある。
しかし,上記(1)の認定事実のとおり,被告(実際には法律専門家である高橋弁護士が関与していた )は,平成12年4月13日付け「通知書」に 。
おいて,現商標商品のラベルは本件商標権を侵害していないと考えるとして,原告ブラザーズに再度の検討を依頼し,さらに,同年6月16日付け書面においても 「現在の当社の商標(現商標)が,貴社の商標を侵害していると ,いう事実はないと考えております 」と記載しており,被告は,現商標商品 。
については,本件商標権を侵害するものではないという認識を有し,その前提で同原告と交渉していたことが明らかである。また,本件合意における和解金額は,もっぱらその製造販売が本件商標権を侵害することに争いのなかった旧商標商品の販売数量を基本として決定されていることに加え,原告ブラザーズにおいて,現商標商品については,商標登録出願した商標(サンヨーデル/SUNYODEL)そのものの使用を要望すると通知したのに対し,被告は,同原告との無用な紛争を避けるために今後の商品発注に当たっては同商標と同様の表示に訂正するとの申入れをし,これにより本件合意が成立したことによれば,そもそも被告は,現商標は本件商標に類似せず,現商標商品の製造販売は本件商標権を侵害しないという,原告ブラザーズとは逆の見解を有していたところ,両当事者は,現商標商品の販売が客観的に本件商標権を侵害するか否かはひとまずおき,同原告においてその販売が本件商標権を侵害するとの懸念を有しており,被告においても表示の訂正をする程度の負担で済むのであれば 「無用な紛争」を避けるために,法律専門家であ ,る高橋弁護士の関与の下で,現商標商品についても本件合意によって自主的に一定期間経過後はその製造販売を停止することなどを内容とする本件合意を締結したものである。そうすると,現商標商品の製造販売行為が本件商標権を侵害することを前提として本件合意が締結されたということはできない。
したがって,本件合意の締結に当たり,被告において,現商標商品の製造販売行為が原告ブラザーズの有する本件商標権を侵害すると誤信したと認めることはできず,その点において要素の錯誤があるということはできない。
したがって,被告の錯誤無効の主張は採用できない。
(3) 詐欺取消しの成否についてまた,被告は,原告ブラザーズによって,被告標章の使用行為は本件商標権を侵害する旨欺罔されたと主張する。しかし,旧商標商品の製造販売は客観的にも本件商標権を侵害するから,その告知はそもそも欺罔行為に当たらないことが明らかである。また,上記認定のとおり,現商標商品の製造販売は,客観的には本件商標権を侵害するものではなく,被告も,現商標商品の製造販売が本件商標権を侵害するものではないと考えていたものの,原告ブラザーズとの「無用な紛争」を避けるために,法律専門家である高橋弁護士の関与の下,自主的に一定期間経過後はその製造販売を停止することなどを内容とする本件合意を締結したものであって,同原告の告知により被告がその製造販売は本件商標権を侵害すると信じ,その旨の錯誤に陥って本件合意を締結したものということはできない。
したがって,被告の詐欺取消しの主張も採用できない。
(4) 公序良俗違反等の成否についてさらに,被告は,本件合意第7条公序良俗信義則に反し無効であると主張する。
確かに,本件合意第7条は,被告が被告以外の第三者が旧商標商品あるいは現商標商品に係る商標を使用していることを知った日から15日以内に当該行為を中止させなければ被告製品の販売を即時中止し,かつ全国紙各紙に被告製品の販売中止の報告及び謝罪広告を掲載することを内容とするものであり,第三者の行為を停止させるという,被告の努力のみではその完全な実現が困難な作為義務を被告に課したものであって,その違反に対して,被告製品の販売を即時全面的に停止する義務を課した上,被告が本件合意に定めた期間経過後に旧商標商品等を販売したり,小売店舗等において旧商標商品等が存在したりした場合には1回当たり50万円の違約金を支払うべきことを定めており(本件合意第6条 ,本件合意第7条は,上記違約金の定めに )重ねて上記義務を負わせたものである。
しかし,第三者の行為を停止させることは,その完全な履行が容易でないとはいえるが,それが不能若しくは著しく困難であるとまでいうことはできない。そして,被告も,法律専門家である高橋弁護士が代理人となって自ら「違約条項を適用されること,すなわち,当社がその事実を知った日から,一か月以内に店頭商品の撤去・交換等の適切な処置を行わない場合には,違約条項が適用されることを承諾します 」と回答しているのであって(乙2 。
3 ,企業としてその実現が可能であると判断したからこそ,上記回答をし )たことが明らかである。そして,被告が原告ブラザーズとの交渉過程において,一方的に同原告の提案を受け入れざるを得なかったという事情は,前記(1)アにおいて認定した本件合意に至る経緯においても見受けられない。以上によれば,本件合意における被告製品の販売中止の定めが公序良俗に反するということはできないし,信義則に違反するということもできない。謝罪広告掲載の定めについても同様と解される。
また,本件合意第6条の違約金の定めも,原告ブラザーズに予想される実損害をかなり上回る高額なものとされているが,本件合意は原告ブラザーズが本来請求可能な損害賠償額よりも低額の和解金の支払によって,本件合意に定めた限度での旧商標商品の販売行為について全面的な解決を図ったという経緯で締結されたものであることや,1回当たり50万円という額が,高橋弁護士の関与の下で被告から提案した額であることを考慮すると,この違約金の定めがあることを考慮しても,やはり本件合意第7条は,公序良俗に反し,あるいは信義則に違反するということはできない。
7 争点6(被告及び小売店における被告標章使用行為が本件合意に違反するか)について(1) 被告標章使用行為のうち,被告が,平成14年4月10日までの間,自社のホームページにおいて「Yodel 「ヨーでる」の表示をしていた 」,ことは,本件合意第4条に違反する( SunYodel」は 「ヨーデ 「,ル」単独の称呼を生じさせるものではないことは前示のとおりであるから,その使用は同条項に違反しない。なお,被告が原告ブラザーズからの指 。)摘を受けて直ちにこれに対処したことは認められるが,同原告は,平成14年6月19日の面談後も被告の対応に対する不満を表す書面を送付し,本件合意第7条1項の販売中止・謝罪文掲載条項の履行を猶予するためには違約金600万円の支払が必要であるとの書面も送付していることによれば,同原告が被告による上記行為を宥恕したと認めることはできない。
なお,被告業務部長の名刺に「YODEL DIET」と表示したことは,被告製品に関する広告的使用には該当しないことは前示のとおりであるから,上記名刺の使用は本件合意第4条には該当しない。
(2) 小売店舗における被告標章の使用については,証拠(甲12,21)によれば,ケンコー薬局(藤井寺店 ,スーパードラッグ・シルク(深阪店 , ))ドラッグ・イレブン(西浦店,羽曳野店)について,平成15年12月17日付け報告書が平成16年3月5日の弁論準備手続期日において提出された後の平成16年5月の時点においても,なお「ヨーでる」や「ヨーデル」の表示がプライスカードに表示されていたことが認められる。被告は,甲第12号証が被告本人に送付されたものではなく,被告本人がかかる違反表示の存在を知ったのは平成16年8月4日であるから,本件合意に違反しないと主張するが,弁論準備期日から5か月が経過した後に初めて甲第12号証を見たという経緯が不明であり,被告の主張は採用できない。
ホノルル市内における表示は,被告製品に関する表示ではないから,本件合意違反を問題とする余地はない。
なお,本件訴訟提起前に,B作成の報告書(甲22,乙48の2)に本件合意に違反する表示が是正されていないとの記載があるが,同記載によっても,具体的にどの店舗においてどのような表示がされているかが不明であるから,本件合意に違反する表示がされていたと認めることはできない。
(3) 被告が,本件合意によって旧商標商品の販売可能期間を経過した平成12年8月1日以降,合計14回にわたって旧商標商品を販売していたことは,当事者間に争いがない。
なお,被告は,本件合意が成立したのは平成12年12月5日であって,その時点で同月4日までの旧商標商品の販売等を行わないという過去に遡る実現不可能な内容を合意したものであるから,このような過去の販売行為については本件合意第2条2項は適用されないと主張する。
しかしながら,本件合意における旧商標商品の販売中止時期は,前記認定のとおり,原告ブラザーズは,同年5月30日付け通知書(乙18)において旧商標商品の販売を流通在庫も含めて同年7月31日までで停止することを提案した後,被告においてもほぼ同日までに旧商標商品の販売を中止することを承諾し,これを前提として本件合意が締結されたのであるから,最終的な本件合意の成立日が同年12月5日になったとしても,被告が旧商標商品を同年8月1日以降に販売していたことが判明した場合にも上記違約金条項が適用されることが当事者の合理的意思に合致するものというべきである(仮に,本件合意成立時点までに販売された旧商標商品について違約金条項を適用しないというのが当事者の意思であったとすれば,その販売終了時期を本件合意成立日としていたはずである 。。)したがって,被告の上記主張は採用できない。
(4) 以上によれば,上記の限度で被告に本件合意に違反する行為があったことは明らかである。
8 争点7(原告ブラザーズの被告に対する権利行使が権利濫用又は信義則違反に該当するか)について本件合意において,被告が本件合意に違反する行為をした場合には,違反行為1回当たり50万円の違約金を支払うほか,新商標商品の販売を中止し,謝罪広告を全国紙に掲載することが定められていることは,当事者間に争いがない。
そして,前記7において判示したとおり,被告は,弁護士が代理人となって相当の交渉を重ねた末に成立した本件合意に違反する行為を14回にわたって行ったものであって,その違反は軽微なものということはできず,本件における原告ブラザーズによる本件違約金支払請求等の権利行使が権利濫用又は信義則に違背すると認めることはできないから,これをいう被告の主張は採用できない。
そうすると,被告が本件合意第6条及び同第2条2項により原告ブラザーズに支払うべき違約金の額は,700万円ということになる(50万円×14回=700万円 。)なお,原告ブラザーズの,被告による平成12年8月1日以降同年11月1日までの間の14回にわたる旧商標商品の販売行為に関する商標使用料相当額の不当利得返還請求(認容額1万6978円)と,本件合意に基づく違約金請求(認容額700万円)とは,同一の本件商標権侵害行為について請求権が競合する関係にあるから,1万6978円の限度で両請求は競合し,違約金請求については,先に履行遅滞に陥る不当利得返還請求の認容額(698万3022円)を除いた額の限度で理由がある。
9 原告ブラザーズの本件合意に基づく請求についてよって,原告ブラザーズの被告に対する本件合意に基づく請求は,被告に対し,本件合意に基づき,被告製品(新商標商品)の販売の停止及びその販売中止のお知らせと謝罪文を全国紙各紙に掲載(本件合意第7条。ただし,後記10のとおり,原告商品表示に周知性は認められないので,謝罪文の文面は別紙目録2のとおりとするのが相当である )を求め,さらに,698万3022 。
円の違約金の支払を求める限度で理由がある。
10 争点8(原告商品表示の周知性)について証拠(甲10,23)によれば,原告製品は黄緑色の錠剤であり,錠剤がバラ状でビニール袋に詰められている包装形態と,PTP包装により1粒ずつ包装されている形態があることが認められる。PTP包装の場合には,同包装表面の上部に別紙原告商品表示目録(1)記載のうちの「ヨーデルS糖衣錠-80」の部分が,裏面上部には同目録(2)記載の表示が表示されている。
原告製品は,便秘治療剤として昭和45年9月に販売が開始され,以降,処方薬として現在に至るまで製造販売されていることが認められる。その販売量は,原告藤本製薬の申告によれば平成8年以降毎年1億錠以上である。そして,その取扱医療機関,薬局・薬店は全国に存在しており,過去10年間に近畿圏,関東,九州,中国,四国などの大学医学部・薬学部の会報・名簿,雑誌に広告を掲載し,パンフレット等の印刷部数は,昭和54年から平成14年までで,77万9000部に達していることが認められる。
しかし,原告製品の上記販売量は,医療機関ないし原告製品の取扱業者を需要者とするものであり,弁論の全趣旨によれば,医師の処方箋を要する処方薬である原告製品が,市販薬を販売する薬店,ドラッグストアなどの取引者や,一般消費者(患者)に処方箋なしで直接販売されることはないと認められる。
また,その宣伝広告媒体も,大学医学部・薬学部の会報・名簿,雑誌であって,これら宣伝媒体の性格上,これらが広く一般消費者の目に触れることは極めて少ないものと認められる。したがって,上記広告やパンフレットは,処方箋を作成する医師を原告製品の取引者とした場合の周知性の認定をするのであればともかく,被告製品の需要者と競合する需要者,すなわち市販薬を販売する薬店,ドラッグストアなどの取引者あるいは一般消費者(患者)との関係では,周知性認定の資料とすることはできないものというべきである。
。, そして,患者(上記取引者が患者となる場合もあり得る )が目にするのは上記PTP包装における原告商品表示か,処方薬局が患者に交付する薬剤の情報提供文書(甲24の1ないし5)であるが,患者は数ある薬剤の中から原告製品を選択するのではなく,医師が処方した薬剤を薬局で受け取るにすぎず,受け取った処方薬の名称に注目することは通常は想定し難いものというべきである。また,原告製品は,連用すると耐性が生じ,長期連用が望ましくない薬剤であるため(甲25 ,患者が長期間の服用によりその商品表示を認識する )ことが多いという推定も成り立ち難い。原告藤本製薬の主張によれば,原告製品のシェアはセンナエキスを主成分とする下剤の中で約59.4%であるということであるが,同エキスを主成分とする処方薬は,原告製品以外に興和株式会社の「アジャストA」があることが認められるものの,他に同エキス配合の処方薬があることは本件資料からは認められない(甲26,27)し,植物由来成分の下剤中のシェアは原告藤本製薬の主張においても約1.25%に止まるのであるから,患者(一般消費者)又は薬店,ドラッグストア等の取引者について,原告商品表示がこれらの者において原告藤本製薬の商品表示として周知性を取得したと認めることはできない。
したがって,その余の点について検討するまでもなく,原告藤本製薬の不正競争防止法に基づく請求は,理由がない。
結論
以上のとおりであるから,原告ブラザーズの本件合意に基づく請求はすべて理由があるからこれを認容する(ただし,同原告の本件商標の使用料相当額の不当利得返還請求とは1万6978円の限度で競合するので,違約金の請求は上記不当利得返還額を控除した698万3022円の限度で理由があることは前示のとおりである 。また,同原告の本件商標の使用料相当額の不 。)当利得返還請求は,106万1283円及びこれに対する平成16年11月5日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は棄却する。原告コーポレーションの本件商標権侵害に基づく損害賠償請求は,104万9122円及びこれに対する平成17年6月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は棄却する。また,原告藤本製薬の不正競争防止法に基づく請求は理由がないので,これを棄却することとする。
よって,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)目録11朝日新聞2産経新聞3日本経済新聞4毎日新聞5読売新聞6薬局新聞以上(別紙)目録2株式会社エスロク(代表取締役・X)は,このたび,ダイエット健康食品「サンヨーデル/SUNYODEL」の製造・販売を中止いたしました。
株式会社エスロクは「YODEL/ヨーデル」が株式会社フジモト・コーポ,レーション(代表取締役・Y)の登録商標であり,株式会社藤本製薬の製造・販売する便秘治療剤「ヨーデルS糖衣錠-80/YODEL-S-80」があることを知りながら,ダイエット健康食品「サンヨーデル/SUNYODEL」について週刊誌やインターネットで宣伝広告し,薬局・薬店等で店頭販売し,あるいは,インターネット上で通信販売してきました。その結果,需用者の皆様に対して「サンヨーデル/SUNYODEL」が株式会社藤本製薬の製造販売する商,品であるかのような誤った印象を与えるなど,多大なご迷惑をおかけいたしました。
関係各位に対して,心よりお詫び申し上げます。
以上(別紙)目録3株式会社エスロク(代表取締役・X)は,このたび,ダイエット健康食品「サンヨーデル/SUNYODEL」の製造・販売を中止いたしました。
株式会社エスロクは「YODEL/ヨーデル」が株式会社フジモト・コーポ,レーション(代表取締役・Y)の登録商標であり,株式会社藤本製薬の製造・販売する便秘治療剤「ヨーデルS糖衣錠-80/YODEL-S-80」が医療関係者並びに需用者の間で周知された商品であることを知りながら,ダイエット健康食品「サンヨーデル/SUNYODEL」について週刊誌やインターネットで宣伝広告し,薬局・薬店等で店頭販売し,あるいは,インターネット上で通信販売してきました。その結果,需用者の皆様に対して「サンヨーデル/SUNY,ODEL」が株式会社藤本製薬の製造販売する商品であるかのような誤った印象を与えるなど,多大なご迷惑をおかけいたしました。
関係各位に対して,心よりお詫び申し上げます。
以上
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官 西森みゆき
裁判官 高松宏之