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関連審決 不服2003-8860
関連ワード 独占的使用 /  識別力 /  出所表示機能 /  識別機能 /  指定商品 /  記述的商標(3条1項3号) /  普通に用いられる方法 /  3条2項 /  商標の同一性 /  周知性 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  補正 /  社団法人 /  継続 /  同業者 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10054号 審決取消請求事件
原告 X
原告 石井義房
両名訴訟代理人弁護士 中村智廣
同三原研自
被告 特許庁長官中嶋 誠
指定代理人 津金純子
同中村謙三
同小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/06/12
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2003-8860号事件について平成17年12月27日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,法人格なき社団である「三浦半島酪農組合連合会」を代表する原告らが,後記商標登録出願をしたが特許庁から拒絶査定を受けたため,これを不服として審判請求をしたが,同庁から請求不成立の審決を受けたので,その取消しを求めた事案である。
当事者の主張
1 請求原因(1) 特許庁における手続の経緯原告らは,法人格なき社団である「三浦半島酪農組合連合会」(以下「連合会」を代表して,平成12年11月6日,後記本願商標につき指定商品を第29類「牛肉,牛肉製品」として商標登録出願(以下「本願」という。)をなし,その後,指定商品を「牛肉」とする補正をしたが,特許庁から拒絶査定を受けたので,これに対する不服審判を請求した。
特許庁は,同請求を不服2003-8860号事件として審理した上,平成17年12月27日付けで「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成18年1月10日原告らに送達された。
(2) 本願の内容ア 商標 イ 指定商品第29類「牛肉」(3) 審決の内容審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願商標を指定商品に使用するときは,「三浦半島の葉山町産の牛肉」を表すものにとどまるから商標法3条1項3号に該当し,また,使用により連合会が自他商品識別力(特別顕著性)を取得したものと認めることはできないから,商標法3条2項の要件を具備するに至ったものとも認められない,としたものである。
(4) 審決の取消事由本願商標が,これを指定商品に使用するときは商標法3条1項3号に該当するとの審決の判断は争わない。
しかしながら,審決が,本願商標は商標法3条2項の要件を具備するに至ったものと認められないと判断したことは,以下のとおり誤りであるから,審決は違法として取り消されるべきである。
ア 本願商標の使用態様及び本願商標が付される牛肉の販売態様(ア) 原告らは,連合会の正会員である。
連合会は,酪農農家の福利増進を図る目的で設立された団体であり,会員名簿(甲28)記載の正会員14名,準会員3名によって構成されており,その運営は規約(甲29)に基づき多数決により行われているものである。ただし,法人格は取得しておらず,いわゆる法人格なき社団である。
このように連合会は法人格を有さず,商標登録出願人適格を具備しなかったため,平成12年10月20日に,規約に基づく臨時総会の議決(甲30)により,原告ら両名を出願人として本願商標の商標登録出願をすることを決議した。原告らは,当該決議に従い,連合会の代わりに,共同出願人として本願をしたものである。
(イ) 連合会の会員は,昭和60年より現在に至るまで,神奈川県及び東京都を中心に,指定商品である「牛肉」に本願商標を付して継続使用してきた。
肉という商品の性質上,連合会の会員が出荷した生牛は,食肉市場において競り売りに掛けられる直前に屠殺され,社団法人日本食肉格付協会により肉質を品質規格に従いランク付けされる。その中で,枝肉の品質規格A5,A4,B5,B4のいずれかに当たる優秀なものが「三浦葉山牛」として選別され,連合会が作成した本願商標のシール(甲4)が貼られる(甲32〔写真撮影報告書〕)。
選別された当該枝肉は,仲卸業者による競り売りに掛けられる。そして,競り落とした仲卸業者から「三浦葉山牛」を仕入れることができるのは,連合会から指定された販売店・飲食店のみであり,これらの指定販売店・指定飲食店が,「三浦葉山牛」を一般消費者向けに販売する。
連合会が指定店制を採っているのは,偽物等による品質の低下を防ぎ,指定店を通じて消費者の反応を直に知ることができるからである。
連合会は,シール(甲5)のほか,ポスター(甲6),のぼり旗(甲26)等を作成して指定店に配布し,指定店は一般消費者への販売に当たりこれらを活用している(甲33〜37〔写真撮影報告書〕)。
なお,上記シールを連合会が作成したことは,印刷業者の納品書等(甲42〜44〔枝番含む〕)から明らかである。
イ 本願商標の自他商品識別力(ア) 本願商標は,昭和60年ころから使用され始め,連合会等のPRやマスコミでの紹介により,遅くとも平成15年3月の時点では,神奈川県産の高級牛肉として広く知られるに至った。また,「三浦葉山牛」は,「農林水産大臣賞」等の受賞歴を重ねており,神奈川県の「かながわブランド」農産品にも指定されている。
なお,本願商標と同一でない態様の商標も過去に使用されていたことは,原告らも認めるものであるが,「三浦葉山牛」という文字及び称呼自体は,連合会によって昭和60年ころから使用されていたものであって,平成9年ころ以降,本願商標と同一の筆文字表記にその外観が統一化されるに至っており,遅くとも審決時(平成17年12月27日)には,自他商品識別力を有するに至ったものである。
(イ) 「三浦葉山牛」の枝肉としての販売高は,平成10年は9921万2893円,平成11年は9591万8805円,平成12年は1億0545万1236円に上っている(甲3-3〜3-8)。
その後についても,平成13年度から平成17年度の横浜食肉市場での販売実績は,総額で3億1314万2809円に上っている(甲40-1〜40-5)。また,平成15年度から17年度の東京食肉市場での販売実績は,総額で4億3158万5724円に上っている(甲41-1〜41-3)。
(ウ) 本願商標は,牛肉の銘柄として,財団法人日本食肉消費総合センター発行の銘柄牛肉ハンドブックにも掲載されており,平成10年時点では,同ハンドブック中,神奈川県で登録されている唯一の銘柄であり(甲20-1),指定商品「牛肉」を取り扱う同業者,卸業者及び小売業者等において,「三浦葉山牛」が著名な牛肉の銘柄であることは明らかである。
(エ) 一般消費者向けの雑誌や,テレビ番組等においても,「三浦葉山牛」が何度も紹介されており,また,インターネットの検索サイトで「三浦葉山牛」を検索すると多数のヒットを得ることができる。このことからも,「三浦葉山牛」が一般消費者の間でも著名性を有することは明らかである。
(オ) このように,「三浦葉山牛」は,卸業者,小売業者のみならず,その先の一般消費者にも広く知られるに至っているものであって,昭和60年以来の使用により,自他商品識別力(特別顕著性)を取得するに至っている。
ウ 審決における証拠の評価の誤り審決が,本願商標が自他商品識別力(特別顕著性)を取得するに至ったものとは認められないとの誤った判断をしたのは,原告らが提出した証拠の評価を誤ったことに起因する。
(ア) 審決は,「三浦葉山牛」の販売実績を示す証拠(甲1,2,3-1,3-2,3-6〜3-8,21)について,その内容を裏付ける証拠の添付がないと指摘する。
しかし,甲3-6〜3-8は,第三者の作成に係る売買仕切書である甲3-3〜3-5を集計したものであり,甲3-2は,甲3-6〜3-8の集計結果に基づき上記イ(イ)の販売金額をまとめたものであるから,客観的な裏付けを有している。
(イ) 審決は,第三者が本願商標の周知性を証明した文書である甲8〜12(枝番含む)について,連合会が準備した定型の書式に第三者が記名押印する形式であることを指摘し,その証拠価値を否定している。
しかし,短時間で多くの証明書を第三者から取得する作業上,最大公約数的な内容の定型書式によって証明してもらうことは,何ら非難されるべきものではない。実際,かかる手法による証明は,これまで一般的に認められてきている手法である。
(ウ) 審決は,卸売業者の作成に係る売買仕切書である甲3-3〜3-5について,本願商標を使用した商品の販売金額と認めることはできないとして,その証拠価値を一切認めていない。
しかし,売買仕切書には,上記ア(イ)記載の「三浦葉山牛」の定義要件を充足することを示す等級や性別等が記載されており,枝肉を選別した段階での証拠としての価値は少なくとも認められるものである。そして,このように選別された「三浦葉山牛」は,その後の流通段階において本願商標のシール(甲4,5)を付され,ポスター(甲6),のぼり旗(甲26)等とともに指定販売店・飲食店において販売されるのである。また,本願商標は,連合会が作成したパンフレット(甲7-1〜7-3),JAよこすか葉山の広報紙(甲15-1〜15-3),財団法人日本食肉消費総合センター作成の「銘柄牛肉ハンドブック」(甲20-1,20-2)等にも掲載されており,これらは,「三浦葉山牛」の流通段階で本願商標が使用されていることを明らかにする証拠である。
(エ) 審決は,指定飲食店のパンフレット等(甲7-4,24-4,24-9,24-10)における「三浦葉山牛」の表示は,飲食物の提供に使用されているものであり,本願商標を指定商品たる「牛肉」について使用した証拠にはならないと指摘する。しかし,飲食店が顧客に提供する牛肉を「三浦葉山牛」である旨表示しているという事実は,当該飲食店が,当該牛肉を「三浦葉山牛」として仕入れていること,及び「三浦葉山牛」という商標が一般消費者にも周知であることを裏付けるものである。
「三浦葉山牛」を使用したレトルトカレーに係るインターネット上の広告(甲24-6,24-7)についても,審決は,「三浦葉山牛」の商標は,商品「カレー」に使用されているのであって「牛肉」に使用されているのではないと指摘しているが,当該証拠は,レトルトカレーの食品メーカーが,カレーの肉として使用する牛肉を「三浦葉山牛」と認識して仕入れていることを明確に裏付けているのであって,食品メーカーが牛肉を購入する段階で本願商標が使用されていることを基礎付ける事実であることは明らかである。そして,当該食品メーカーが,カレーの材料の牛肉として「三浦葉山牛」を使用している旨宣伝するのは,「三浦葉山牛」という牛肉が,一般消費者に認知された高級牛肉であるからこそである。これらの点を全く無視する審決の認定は,あまりにも形式的である。
(オ) 審決は,インターネット上の検索サイト「YAHOO! JAPAN」において「三浦葉山牛」を検索した結果(甲24-12)について,生産,証明若しくは譲渡の数量等を示す証拠ではないと指摘するが,「牛肉」における「三浦葉山牛」というブランドが有名であることを裏付けている証拠であることは明らかである。
(カ) 審決は,「三浦葉山牛」を紹介する新聞,雑誌,広報紙,インターネット上の宣伝及び記事等(甲13-1〜13-7,14-1〜14-9,15-1,16,17,18-1,18-2,19-1〜19-3,22,23-1,23-2,24-2,24-3,24-5,24-8,24-11)には,本願商標と同一構成態様の商標の記載が認められないと指摘する。
しかし,本願商標が「三浦葉山牛」を筆書き風に縦書きしたものであり,文字商標としての出願である以上,上記各証拠において「三浦葉山牛」との活字をもって宣伝・記載されていたとしても,外観,称呼及び観念を総合的に考慮すれば,これらも商標としての同一性を損なわないものと社会通念上認められる範囲にあると考えられ,殊更に本願商標の記載でないとして排除すべきではない。これらの証拠が多数存在すること自体で,「三浦葉山牛」という商標を付されて販売されている「牛肉」が需要者に広く知られていることを示す間接的な証拠としては十分である。
そもそも,雑誌や新聞等の活字媒体にブランドが紹介,掲載される場合には,商標の表示自体も,単純な活字(普通文字)で記載されることがほとんどであり,そのため,本願商標と外観上完全同一の商標が雑誌等に記載されることは少ないというのにすぎず,本願商標が知られていないからではないのである。むしろ,本願商標が,神奈川県を中心に地域的に周知となっているからこそ,雑誌や新聞が取り上げ,記事中ではブランド名を主に普通文字で紹介して,本願商標の称呼,観念が広く知られているに至り,その結果,本願商標が外観も含めて自他商品識別機能を具備するに至っているのである。審判手続において提出された以外にも,「三浦葉山牛」に関する紹介記事等は多数存在する(甲45〜57)。
「しかし,業界関係者は別にし なお,審決は,業界誌の記事(甲14-3)のて,一般の消費者は,『松坂牛』等のメジャーな銘柄は知っているが,自県産の銘柄との記載を指摘しているが,当 もよく知らないのが現状ではないだろうか。」該記事は平成7年当時のものであり拒絶査定時における本願商標の周 ,知性を否定する証拠として引用するのは適切でない。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)(2)(3)の各事実は認める。同(4)は争う。
3 被告の反論審決の認定判断は正当であり,以下に述べるとおり,原告ら主張の違法はない。
(1) 本願商標の使用態様及び本願商標が付される牛肉の販売態様についての主張に対し原告らは,連合会は本願商標を「三浦葉山牛」の流通に当たって昭和60年以降使用してきたと主張するが,実際には,本願商標と異なる態様の「三浦葉山牛」の商標が使用されている。また,流通及び販売の過程において本願商標が使用されていることの証拠として原告らが援用する証明書類,取引書類,広告物及び宣伝用具等は,取引の具体的な実情を明らかにするものとはいえず,本願商標が使用によって自他商品識別力(特別顕著性)を有することを証明するため証拠としては不十分である。
(2) 本願商標の自他商品識別力についての主張に対し原告らは,「三浦葉山牛」というブランドの牛肉につき,公的機関からの受賞歴,食肉市場での販売数量,業界内における認知の状況,雑誌・新聞・テレビ・インターネット等の媒体における紹介履歴等を主張するが,これらは,ブランド(銘柄)としての著名性を明らかにするものではあっても,本願商標が自他商品識別力を有するものであることの証拠になるものではない。
(3) 審決における証拠の評価の誤りについての主張に対し原告らが審判手続において提出した証拠のうち,取引書類や証明書類は,流通の段階で「三浦葉山牛」の名称が使用されている事実を示すものにすぎず,これらによって,本願商標が何人かの業務に係る商標であることを認識できるものとなっていることを認めることはできない。また,新聞,雑誌,業界紙,広報紙等における記事等は,本願商標そのものではなく,「三浦葉山牛」というブランド(銘柄)の著名性を明らかにするにすぎないものであり,また,本願商標が指定商品について使用をされた結果自他商品識別力を有するに至ったことを証明するための証拠価値を有しないものである。
そして,本願商標そのものが指定商品に付されて使用されていることを示す証拠も存在するものの,これと態様の異なる「三浦葉山牛」の商標が使用されていたことを示す証拠も存在するのであるから,すべての証拠を総合的にみて判断すれば,本願商標が自他商品識別力を有するに至ったものとは認められないとの審決の結論に誤りはない。
当裁判所の判断
1(1) 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(本願の内容)及び(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
(2) また,原告らは,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとの審決の判断は争わないので,本件訴訟の争点は,本願商標が商標法3条2項の要件を具備するに至ったかどうかである。
2 商標法3条2項該当性の有無(1) 商標法3条1項3号が,「その商品の産地,販売地,品質,原材料を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は商標登録を受けることができない旨規定する趣旨は,このような商標は,商品の産地,販売地その他の特性を表示記述する標章であって,取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占的使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないものであることによると解される(最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁〔判例時報927号233頁〕)。したがって,本願商標のように,地域名(「三浦」「葉山」)と商品名(「牛」)とを組み合わせた標章も,本来は,三浦半島の葉山町で生産された牛という特性を表示するにとどまるものであって,それ以上に,特定の生産者によって生産されたことを明らかにするという出所表示機能を果たしにくいものであり,また,このような表示については,その使用の機会を当該地域において当該商品を生産する多くの事業者に開放しておくことが適当であって,その中の一部の事業者に当該標章の商標登録を許し当該標章の使用を独占させるのは公益上望ましくないというべきである。
一方,商標法3条2項は,商標法3条1項3号等に対する例外として,「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識できることができるもの」は商標登録を受けることができる旨規定している。その趣旨は,特定人が当該商標をその業務に係る商品の自他識別標識として他人に使用されることなく永年独占排他的に継続使用した実績を有する場合には,当該商標は例外的に自他商品識別力を獲得したものということができる上に,当該商品の取引界において当該特定人の独占使用が事実上容認されている以上,他の事業者に対してその使用の機会を開放しておかなければならない公益上の要請は薄いということができるから,当該商標の登録を認めようというものであると解される。
(2) 上記のような商標法3条2項の趣旨に照らすと,同条項によって商標登録が認められるためには,以下のような要件を具備することが必要であると解される。
ア 使用により自他商品識別力を有すること商標登録出願された商標(以下「出願商標」という。)が,商標法3条2項の要件を具備し,登録が認められるか否かは,実際に使用している商標(以下「使用商標」という。)及び商品,使用開始時期,使用期間,使用地域,当該商品の生産又は販売の数量,並びに広告宣伝の方法及び回数等を総合考慮して,出願商標が使用された結果,判断時である審決時において,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものと認められるか否か(いわゆる「自他商品識別力(特別顕著性)」の獲得の有無)によって決すべきものである。
イ 出願商標と使用商標の同一性が認められること商標法3条2項の要件を具備するためには,使用商標は,出願商標と同一であることを要し,出願商標と類似のもの(例えば,文字商標において書体が異なるもの)を含まないと解すべきである。
なぜなら,同条項は,本来的には自他商品識別力がなく,特定人の独占にもなじまない商標について,特定の商品に使用された結果として自他商品識別力を有するに至ったことを理由に商標登録を認める例外的規定であり,実際に商品に使用された範囲を超えて商標登録を認めるのは妥当ではないからである。そして,登録により発生する権利が全国的に及ぶ更新可能な独占権であることをも考慮すると,同条項は,厳格に解釈し適用されるべきものである。
(3) そこで,以上の見解に立って,本件事案について検討する。
ア 一般消費者の認識(ア) 本件各証拠中,本願商標ないし「三浦葉山牛」の名称についての一般消費者の認識に関わる証拠としては,以下のものがある。
a シール,ポスター,パンフレット(a) シール(甲5)本願商標が大きく,連合会の名称が小さく印刷されている。印刷業者の請求書及び納品書(甲42-2,43-1,43-5,43-6)によれば,少なくとも,平成9年から平成12年の間に計13万枚が連合会に納品されたことが認められる。
(b) ポスター(甲6)本願商標を大きく掲記し,「三浦葉山牛」について簡単な説明を付し,連合会の名称が記載されている。印刷業者の請求書及び納品書(甲42-1,43-10)によれば,少なくとも,平成9年と平成15年に各1000枚が連合会に納品されたことが認められる。
(c) パンフレット(甲7-1〜7-3)本願商標を大きく掲記し,「三浦葉山牛」についての説明や指定販売店・飲食店の紹介を付し,連合会の名称が記載されている。印刷業者の請求書及び納品書(甲42-1,43-2〜43-4,43-7〜43-9,43-11〜43-14)によれば,少なくとも,平成9年から平成17年の間に,計12万5000枚が連合会に納品されたことが認められる。
b 指定飲食店の宣伝パンフレット(甲7-4,7-5)本願商標が掲記されているが,連合会に関連する記載はない。
c 証明書(甲12-1〜12-63)1枚の用紙から成り,その上部は,「お客様各位」に対する連合会会長Aからの「証明願」であり,その文面は,本願商標を添付の「貴殿は,添付の商標『三浦葉山牛』は昭和60年より三浦半島酪農組合連合会 上,によって使用され,現在,該酪農組合連合会は横浜及び東京市場を中心に多数の指定店を有し,商標『三浦葉山牛』を付した牛肉は三浦半島酪農組合連合会会員が肥育した牛の牛肉であると直ちに認識するに至っており,消費者の間でも周知な商標と確実に認められれていることに相違ないことを御証明願います。」(甲12-1〜12-18) 「添付の商標『三浦葉山牛』は昭和60年より三浦半島酪農組合連合,又は会によって使用されており,現在,該酪農組合連合会は横浜及び東京市場を中心に多数の指定店を有し,商標『三浦葉山牛』は三浦半島酪農組合連合会が肥育した牛の牛肉に付された商標であると明らかに識別されるに至っていることに相違ないこというものである。また,用紙 とを御証明願います。」(甲12-19〜12-63)の下部には「上記の通り相違ないことを証明する。」との不動文字の下に作成者が署名捺印している。
証明書の日付けは,平成13年9月ごろ(甲12-1〜12-18)と,平成15年5月〜6月ごろ(甲12-19〜12-63)に集中している。
d 日刊紙の新聞記事(甲13-1〜13-6,13-8,45)毎日新聞,東京新聞,読売新聞,朝日新聞の「三浦葉山牛」についての記事である。最も古い記事は1986年(昭和61年)(甲13-1),最も新しい記事は2004年(平成16年)(甲45)のものである。
これらの記事中には,「三浦葉山牛」が三浦郡葉山町を中心とする地域で生産される牛肉のうち高品質のものの名称であること,原告ら両名はその生産者の一員であること,「三浦葉山牛」の名称は昭和60年ころから用いられ始めていること,等の記載がある。
これらの記事中,連合会に直接言及した記載としては,下記のものがある。
記甲13-8(2003年(平成15年)1月12日,毎日新聞。記事は縦書き。)「三浦葉山牛 三浦半島酪農組合連合会に加盟する三浦市,横須賀市,葉山町の農家14軒と,横浜市などで経営する準組合員農家3軒が生産する黒毛和牛」上記のほか,連合会に関連する記載としては,下記のものがある。
記甲13-1(1986年(昭和61年)2月27日,毎日新聞)「肉用牛研究を重ねてきた三浦郡葉山町の同町酪農肥育組合……は,………近く高級肉牛『三浦葉山牛』として,……積極的に売り出すことになった」甲13-2(年月日不詳,東京新聞)「4軒の生産者たちは葉山酪農組合(石井義房組合長)をつくってうまい肉づくりを共同研究してきた。その結果,生まれたのが,そこはかとない甘みを持つ現在の三浦葉山牛だ」いずれの記事にも,筆書き風に縦書きした本願商標は掲記されていない。
e 広報紙の記事(甲15-1〜15-3,16)よこすか葉山農業協同組合,又は横須賀商工会議所が発行する一般向け広報紙に,「三浦葉山牛」についての紹介記事が掲載されている。
これらの記事中,連合会に関連する記載としては,下記のものがある。
記甲15-3(2002年3月15日発行「GREEN」)「……三浦葉山牛は『三浦半島酪農組合連合会』の会員農家17人が,優秀な黒毛和牛の血統を選抜して育てた和牛です」また,これらの記事のうち,甲15-2(1998年7月3日発行「GREEN」)及び上記甲15-3には,筆書き風に縦書きした本願商標も掲記されている。
f 一般向け雑誌の記事(甲14-1,14-5,14-6〜14-8,46,50〜53,55,56)いずれも,「三浦葉山牛」に関する記事であり,生産者(原告両名等)を紹介するもの,指定販売店・指定飲食店を紹介するもの等,内容は多岐にわたっている。
・ これらの記事の中に,連合会に直接言及した記載としては,下記のものがある。
記甲14-7(「国際画報」2001年8月号)「三浦半島酪農組合連合会の会員が優秀な和牛の血統を選択して1頭1頭丹精こめて育てた和牛です。」(18頁)甲46(平成14年2月10日「逗子葉山秋谷新聞」)「現在正会員14戸,準会員3戸の三浦半島酪農組合連合会の会長を務める。このほど,この連合会から出品した和牛が,……」甲51(「danchu」2006年2月号)「三浦半島酪農組合連合会が丹念に1年以上肥育する葉山牛は……」・ 上記のほか,「三浦葉山牛」の生産者に関連する記載としては,下記のものがある。
記甲14-8(「週刊CHINTAI神奈川版」平成13年6月14日号)「三浦葉山牛を名乗ることができるのは,県内14軒の牧場が出荷する牛の中で,1年間にわずか200頭ほど………」甲50(「danchu」2004年11月号)「……三浦葉山牛は,現在,三浦半島に散在する畜産農家14軒で生産されている。」甲53(2005年5月10日発行「湘南スタイルVol.21」)「三浦葉山牛を育む牧場は三浦半島全体で14,……」甲55(「TokyoWalker」2004年9月14日号)「三浦半島にある葉山町や三浦市では,80年代から三浦葉山牛が飼育され始めてきた。現在,14戸ある指定農場では,450頭近い牛が飼育されている。」・ これらの記事のうち,上記甲14-7には,本願商標が掲記されている。
g テレビ番組を録画したビデオからのスチル写真(甲23-1,23-2)「三浦葉山牛」を紹介する番組であるが,連合会及び本願商標については記載がない。
h インターネット上のホームページ(甲24-1〜24-11,57)「三浦葉山牛」又はこれを材料に含む食品(カレーなど)について,販売業者,飲食店が宣伝を行っている。
これらのホームページのうち,甲24-2(連合会の作成に係るホーム「三浦・葉山牛とは,神奈川県,三浦半島で生産された,黒毛和牛 ページ)にはの総称で『三浦半島酪農組合連合会』の会員が優秀な和牛の血統を選択して1頭1との記載がある。 頭丹精こめて育てた和牛です。」これらのホームページのうち,筆書き風に縦書きした本願商標を掲記しているものは,甲24-1(作成者不詳)のみである。
i 指定販売店・飲食店の写真(甲26,33〜37)「三浦葉山牛」を販売する指定販売店の店頭風景を写した写真(撮影日はいずれも平成18年中)であり,いずれにおいても,店先には,筆書き風に縦書きした本願商標を染め抜いたのぼり旗が立てられている。また,甲35,37においては,本願商標を掲記したポスターが店内に貼られている。
(イ) 以上の証拠に基づき,本願商標が使用をされた結果,一般消費者が,連合会又はその構成員の業務に係る商品であることを認識することができるか否かを検討する。
a 上記(ア)aのシール,ポスター,パンフレットは,その枚数からして,指定販売店・飲食店にも配布されており,指定販売店・飲食店から「三浦葉山牛」を購入する一般消費者もこれを目にする機会はあるものと推認される。
しかし,これらのシール,ポスター,パンフレットのうち,ポスターについては,上記(ア)iのとおり指定販売店に掲示されている例があるが(甲35,37の各写真),いずれも平成18年(審決の後)の撮影に係るものである。また,シール及びパンフレットについては,これらが流通の過程において具体的にどのように用いられているのかは明らかでない。そうすると,審決の時点において,「三浦葉山牛」の一般消費者への販売に当たって,これらのシール,ポスター,パンフレットが常に用いられていたか否かは明らかでない。
b 上記(ア)bの指定飲食店のパンフレットには,「三浦葉山牛」が連合会又はその構成員の業務に係る商品であることすら記載も示唆もされていない。
c 上記(ア)cの証明書は,文面自体としては,本願商標が使用をされた結果,連合会又はその構成員の業務に係る商品であることを一般消費者が認識できる旨を直接に証明する内容のものとなっている。
しかし,これらの証明書は,あらかじめ連合会が印字した同一の証明書用紙に各証明者が日付を記入し,記名押印するという形式によるものであって,証明者がいかなる根拠に基づき,消費者の間で本願商標が周知な商標と確実に認められていることを証明したのか,その証明の判断の客観的な過程が明らかでない。また,これらの証明書を作成した63名の住所地は全国各地にわたってはいるが,これら63名の証明者がいかなる基準で選択されたのか明らかではない。
d 上記(ア)d〜hの各種媒体における「三浦葉山牛」に関連する記事も,そのほとんどは「三浦葉山牛」の歴史,味覚,生産等に関する一般的な紹介を行うものである。そうすると,これらの記事を通覧しても,一般消費者は,「三浦葉山牛」が三浦郡葉山町を中心とする地域で生産される高品質の牛肉のブランドである旨の一般的な認識や,「三浦葉山牛」の生産者が肉牛の肥育にかける手間や努力についての認識を得ることができるとしても,本願商標が使用をされた結果,連合会又はその構成員の業務に係る商品であることを一般消費者が認識するに至っていることを明らかにするものではない。
(ウ) 以上のとおりであるから,上記(ア)a〜iの各証拠をもってしても,本願商標が,その指定商品について使用された結果,一般消費者が連合会ないしその構成員の業務に係る商品であることを認識することができるものと認めることはできない。
イ 取引者の認識(ア) 本件各証拠中,本願商標ないし「三浦葉山牛」の名称についての取引者の認識に関わる証拠としては,以下のものがある。
a 食肉市場における販売数量に関するもの(甲3,40,41〔各枝番含む〕)食肉市場における卸売業者の売買仕切書(甲3-3〜3-5)を基礎として,「三浦葉山牛」に該当するものの食肉市場における販売数量を集計し(甲3-6,3-7,40-1〜40-5,41-1〜41-3),さらに連合会が販売数量を年度ごとに総計して証明書としたもの(甲3-1,3-2)である。
b 証明書(甲8〜11〔各枝番含む〕)これらの証明書の内容は,ほぼ同一であって,本願商標を付した牛肉が,連合会会員が肥育した牛の牛肉であると直ちに認識するに至っており,また,取引者・需要者間でも「三浦葉山牛」が周知な商標と確実に認められている旨を証明する,というものである。その作成者は,甲8は枝肉の競り売りを行う食肉市場の運営会社,甲9-1〜9-8は仲卸業者,甲10-1〜10-23は指定販売店,甲11-1〜11-16は指定販売店である。
証明書の体裁は,定型文言による「証明願」及び「上記の通り相違ないことを証明する」との証明文から成っており,証明者は日付けを記入の上で記名押印するのみである。
c 専門誌・業界誌の記事(甲13-7,14-2〜14-4,14-9,19-1〜19-3,22,47〜49,54)原告両名ら「三浦葉山牛」の生産農家について,その経営手法や経営努力を紹介する記事である。これらの記事中に,連合会に関する記載はあるが,筆書き風に縦書きした本願商標を取り上げたものはない。
(イ) 以上の証拠に基づき,本願商標が使用された結果,取引者が,連合会又はその構成員の業務に係る商品であることを認識することができたか否かを検討すると,以下のとおりである。。
a 上記(ア)aの各証拠は,そこに記載された金額が,本願商標と同一の態様の文字から成る商標を使用して販売した牛肉の販売金額であることを客観的に証明する証拠の添付がないものであるから,これらを,連合会ないしその構成員による本願商標を使用した商品の販売金額とまで認めることはできない。
b 上記(ア)bの各証拠は,あらかじめ連合会が印字した同一の証明書用紙に各証明者が日付を記入し,記名押印するという形式によるものであって,証明者がいかなる根拠に基づき,取引者・需要者間でも本願商標が周知な商標と確実に認められたのか,その判断の客観的な過程が明らかでない。
c 上記(ア)cの各証拠は,本願商標と同一の構成態様の商標の記載が認められないものであるから,これらの証拠は,本願商標がその指定商品について使用された結果,取引者が,連合会ないしその構成員の業務に係る商品であることを認識することができたものであることを証明するものではない。
(ウ) 以上のとおりであるから,上記(ア)a〜cの各証拠をもってしても,本願商標が,その指定商品について使用された結果,取引者が連合会ないしその構成員の業務に係る商品であることを認識することができるものと認めることはできない。
ウ 上記ア,イのとおり,本件各証拠を総合しても,「三浦葉山牛」が一定程度の著名性を有するブランドであることは肯定できるとしても,それ以上に,「三浦葉山牛」を筆書き風に縦書きした本願商標が連合会ないしその構成員の業務に係る商品であることを,一般消費者及び取引者において認識することができたとまで認めることはできない。
よって,これと同旨の審決の結論に誤りはない。
(4) 原告らの主張に対する判断ア 本願商標の使用態様及び本願商標が付される牛肉の販売態様に関する主張について(ア) 原告らは,連合会会員は,昭和60年より現在に至るまで,指定商品である牛肉に本願商標を付して神奈川県及び東京都を中心に現在に至るまで継続使用しているものであり,本願商標は,長きにわたって使用されてきているのである旨主張する。
しかし,上記(3)のとおり,本件各証拠によっても,「三浦葉山牛」が昭和60年ころから三浦半島及び葉山町で生産される牛肉の名称として知名度を高めてきたことは窺えるものの,それ以上に,本願商標が,連合会ないしその会員の業務に係る商品の商標として長きにわたって使用されてきたことを認めるに足りない。
むしろ,平成7年6月1日発行「畜産コンサルタント」1995年6月号(甲14-3)の15頁,平成7年7月社団法人中央畜産会発行の「地域における産地銘柄化食肉,鶏卵一覧」(乙2)の81頁,及び平成4年1月社団法人中央畜産会発行の「産地等表示食肉一覧」(乙3)の76頁においては,「三浦葉山牛」のシールないしマークとして,本願商標とは明らかに異なる態様のものが掲載されていることからすれば,昭和60年ころから現在までに至る途中において,連合会は本願商標と異なる態様の商標を使用をしていたことが認められる。
(イ) この点につき,原告らは,平成9年以降は「三浦葉山牛」に係る商標を本願商標に統一したと主張するが,2001年(平成13年)10月1日発行「商業界」(甲14-9)の21頁の写真に掲載された牛肉に貼られたラベルの文字及び22頁中央の写真に掲載された販売指定店が使用している看板の文字は,いずれも本願商標とは異なる態様のものである。
そうすると,本願商標のシール,ポスター,パンフレットを平成9年以降,連合会が作成して指定販売店・指定飲食店に配布していることは推認できるものの(上記(3)ア(イ)a),「三浦葉山牛」の販売に当たって常に本願商標が付されているとまで認めることはできない。
イ 本願商標の自他商品識別力に関する主張について(ア) 原告らは,本願商標は,昭和60年ころから使用されはじめ,連合会及びよこすか葉山農業協同組合等によるPR活動並びにマスコミによる紹介の結果,遅くとも平成15年3月の時点では,松坂牛等と並ぶ神奈川県産の高級牛肉として需要者に広く知られるに至ったものである旨主張する。
しかしながら,本件各証拠によれば,「三浦葉山牛」という名称自体が三浦半島の葉山町で生産された高品質の牛肉の名称として一定の知名度を獲得するに至ったことは認められるが,そのことから直ちに,本願商標が連合会ないしその構成員の業務に係る商品であると需要者に認識されるに至ったといえるものではないことは,上記(3)で説示したとおりである。
(イ) 原告らは,「三浦葉山牛」が食肉市場において大きな販売実績を上げている旨を主張する。
しかし,「三浦葉山牛」の基準に該当する牛肉が大きな販売実績を上げているとしても,それらの牛肉の流通及び販売の現場において,本願商標が商品に付されていることが明らかでない限り,本願商標を使用した商品の販売金額とみることはできない。そうすると,販売実績に係る各証拠(甲3,40,41〔各枝番含む〕)は,本願商標が連合会ないしその構成員の業務に係る商品としての自他商品識別力を有するものであることの証拠にならないというべきである。
(ウ) 原告らは,本願商標が,牛肉の銘柄として財団法人日本食肉消費総合センター発行の銘柄牛肉ハンドブック(甲20-1〔平成10年版〕,20-2〔平成14年版〕)にも掲載されていること等から,取引者の間では本願商標が著名な牛肉の銘柄であることは明らかである旨主張する。
しかし,これから,連合会が平成10年ないし14年の時点で本願商標と同一の態様の商標を「牛肉」に使用していることが認められるとしても,実際にどれぐらいの量の牛肉をどのくらいの相手方との間でどのくらいの金額を取引したのか等,取引の実情を裏付ける証拠は見当たらないから,この証拠から,審決時において,本願商標が連合会の商標として著名性を獲得していたとまでいうことはできない。
(エ) 原告らは,本件各証拠中の新聞,雑誌の記事等や,インターネットの検索結果等からも,「三浦葉山牛」が一般消費者の間でも著名性を有することは明らかである旨主張する。
しかし,上記(3)アにおいて既に説示したとおり,「三浦葉山牛」が一般消費者の間で一定の知名度を有するからといって,本願商標が使用された結果,連合会ないしその構成員の業務に係る商品についてのものであると一般消費者に認識されるに至っているということにはならないものである。
ウ 審決における証拠の評価の誤りに関する主張について(ア) 原告らは,審決が,「三浦葉山牛」の販売実績を示す証拠(甲3-1,3-2,3-6〜3-8,21)について,その内容を裏付ける証拠の添付がないことを理由にこれらを考慮しなかったのは不当であると主張する。
しかし,これらの証拠が,第三者の作成に係る売買仕切書である甲3-3〜3-5を集計したものであるとしても,売買の対象となった牛肉に本願商標が付されていたか否かが不明である以上,本願商標を付した商品の販売実績を示す証拠とはいえないものというべきである。
(イ) 原告らは,審決が,本願商標の自他商品識別力に関する証明書(甲8〜12〔各枝番含む〕)を無価値であるかのように排斥したのは誤りである旨主張する。
しかし,前記(3)において説示したとおり,これらの証明書は,あらかじめ連合会が印字した同一の証明書用紙に各証明者が日付を記入し,記名押印するという形式によるものであって,証明者がいかなる根拠に基づき,消費者の間で本願商標が周知な商標と確実に認められていることを証明したのか,その証明の判断の客観的な過程が明らかでないことに照らし,これらの証明書の証拠価値を高く評価することはできないといわざるを得ない。
(ウ) 原告らは,審決が,各種媒体における「三浦葉山牛」に関連する記事の証拠をもってしても,本願商標の自他商品識別力を認めるに足りないとしたことは,証拠の評価を誤ったものである旨主張する。
しかし,前記(3)において説示したとおり,これらの記事等のほとんどは,「三浦葉山牛」が取引者及び一般消費者の間で一定の知名度を有するに至っているとの事実を明らかにするにとどまるものである。前記(2)において説示したとおり,そもそも,商標法3条2項は,本来自他商品の識別標識として機能を有しない商標に登録を認めるのであるから,当該商標が実際に何人かの業務に係る商品であることを認識できるものとなっていることを認めるに足りる十分な証拠がなければ,商標法3条2項の要件を具備するものといえない。そして,登録出願に係る商標が何人かの業務に係る商品であると認識されるものとなっていることを証明するためには,実際に使用されている商標の態様が登録出願された商標と同一であることも重要な要件であるから,本願商標と同一の態様(筆書き風に縦書きした「三浦葉山牛」)の表示の記載のない証拠が多数存在しても,これらの証拠によって,本願商標が自他商品識別力を有するものであるとすることはできないというべきである。
エ 上記のとおり,原告らの取消事由に係る主張は,いずれも採用することができない。
3結語以上のとおり,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がなく,本願商標は商標法3条2項に定める要件を具備しないとした審決の判断に誤りはない。よって,原告らの本訴請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 岡本岳
裁判官 上田卓哉