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関連審決 無効2005-89112
関連ワード 識別力 /  包装 /  出所表示機能 /  指定商品 /  普通名称(3条1項1号) /  慣用商標(3条1項2号) /  3条1項4号 /  ありふれた氏 /  ありふれた名称 /  周知商標 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項10号 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  無効審判 /  継続 /  ハウスマーク / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10215号 審決取消請求事件
原告欧和国際貿易有限会社
訴訟代理人弁理士黒田勇治
被告株式会社中屋
訴訟代理人弁護士藤巻元雄,弁理士近藤彰
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/09/20
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が無効2005-89112号事件について平成18年3月30日にした審決を取り消す。」との判決第2事案の概要本件は,商標登録を無効とした審決の取消しを求める事案であり,原告は無効とされた商標の商標権者,被告は無効審判の請求人である。
1特許庁における手続の経緯(1)原告は,別紙のとおりの構成からなり,指定商品を商標法施行令別表の区分による第8類「手動利器」とする登録第4861844号商標(平成16年5月18日出願,平成17年5月13日設定登録,以下「本件商標」という。)の商標権者である。
(2)被告が本件商標の登録について無効審判の請求をした(無効2005-89112号事件として係属)ところ,特許庁は,平成18年3月30日,「登録第4861844号の登録を無効とする。」との審決をし,同年4月11日にその謄本を原告に送達した。
2審決の理由審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件商標の登録は,商標法4条1項10号に違反してなされたものであるから,同法46条1項の規定により,無効にすべきものである,というのである。
( ) 引用商標(「NAKAYA」)の自他商品識別力及び周知性について 1ア 請求人及び被請求人の提出に係る証拠及び請求人並びに被請求人の主張によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 鋸生産者における屋号「中屋」についてa 鋸生産者(鋸鍛冶)の業界においては,親方について,その技術を学び,弟子が,親方の屋号を冠して,自分の銘とすることが多く行われている。「中屋」の屋号については,その起源は不明であるが,少なくとも江戸時代より,当該屋号を冠して銘とする鋸鍛冶が多数いたことが認められる。
さらに,「中屋金物株式会社」,「中屋鋸店」など「中屋」を含む名称が,数多く採択されている。
b 銘あるいは名称に,ローマ字表記による「NAKAYA」を使用しているものは,請求人を除いて,認められない。
(イ) 引用商標及び「中屋」についてa 請求人は,明治40年に初代Aが北海道において鋸製造業を開業して,昭和36年に工場を新潟県3条市に移転し,鋸の製造とともに鋸目立用の刃摺機の製造も行った個人事業を前身として,昭和42年3月有限会社中屋鋸機械製作所を設立し,平成13年6月1日に「株式会社中屋」に組織変更したものである(審判甲1,2(本訴甲68の1,2))。
b 請求人は,請求人の略称として,有限会社中屋鋸機械製作所の当時から,現在に至るまで「中屋」を使用している。
例えば,「QUALITY」と題するパンフレット(有限会社中屋鋸・機械製作所発行 審判甲2(本訴甲68の2))には,「中屋は自動目立機や・・」,「のこぎり業界の未来を常に中屋はみつめています。」,「のこぎりの歴史は中屋の歴史です。」の記載がある。また,社歴の1931年の項には,「中屋の山林用のこぎり」の記載がある(なお,請求人ホームページにも同様の記載がある(審判乙24(本訴甲69)))。
審判甲3及び4(本訴甲68の3,4)の「NAKAYA selection」と題するパンフレットには,それぞれに「中屋独自のアール付刃」の記載がある。
「eaks」の関するカタログ(審判甲5(本訴甲68の5))及び「日本刃物工具新聞」(平成5年10月20日 審判甲41(本訴甲68の13))には,「『イークス』は中屋のオリジナルブランドです。」日本刃物工具新聞(平成2年1月20日 審判甲34(本訴甲68の10))の広告中に,「中屋の山林ののこぎりは」の記載がある。
「越後ジャーナル」(平成5年4月17日 審判甲39(本訴甲68の11))及び「産経新聞」(平成5年6月24日 審判甲40(本訴甲68の12))の広告中に,「中屋のオリジナルブランド イークス(Eaks)は」の記載がある。
1987年カレンダー(審判甲52(本訴甲68の16))には,「ナカヤの折込鋸」,「ナカヤの快速切替刃鋸240m/m」,「ナカヤの快速胴付鋸」,「ナカヤの快速切替刃鋸270m/m」,「ナカヤの万能鋸」,「刃の先端はナカヤ独自の」の記載がある。
昭和59年及び昭和60年のコシヒカリプレゼントセールのパンフレット(審判甲55,56(本訴甲68の17,18))には,「中屋の快速胴付鋸」の記載がある。
第7回ないし第11回,第13回ないし第22回のコシヒカリセールのパンフレット(審判甲58ないし62,64ないし73(本訴甲68の19,乙38,39,甲68の20ないし22,乙41ないし48,甲68の23))には,「中屋・替刃式鋸」,「中屋替刃式鋸」又は「中屋替刃式のこ」の記載がある。
平成3年7月から9月までのキャンペーンのパンフレット(審判甲74(本訴甲68の24))には,「中屋の替刃式鋸」の記載がある。
平成6年7月から9月までのキャンペーンのパンフレット(審判甲75(本訴甲68の25))には,「中屋 2大企画」の記載がある。
「2000ミレニアムセール第二弾」のパンフレット(審判甲77(本訴甲68の26))には,「中屋替刃式鋸」の記載がある。
平成11年9月から11月までの「消費税相当5%還元セール」のパンフレット(審判甲78(本訴甲68の27))には,「中屋 替刃式鋸」の記載がある。
平成15年の「2003年新春セール」のパンフレット(審判甲79(本訴甲68の28))には,「中屋替刃式鋸」の記載がある。
平成16年1月5日からのセールを「2004年中屋新春セール」と銘打って行い,そのパンフレット中に「中屋 替刃式鋸」の記載がある(審判甲80(本訴甲68の29))。
平成16年4月1日からのセールを「2004 中屋 スプリングセール」と銘打って行い,そのパンフレット中に「中屋替刃式鋸」の記載がある(審判甲81(本訴甲68の30))。
平成16年8月2日からのセールを「2004年 中屋 盛夏セール」と銘打って行い,そのパンフレット中に「中屋 替刃式鋸」の記載がある(審判甲82(本訴甲68の31))。
c また,「NAKAYA」については,有限会社中屋鋸・機械製作所当時の製作と認められるパンフレットの名称に「NAKAYA selection」と題したものがあり,その中に「NAKAYAの本格仮枠鋸」の記載があり(審判甲3,4(本訴甲68の3,4)),「SAW」と題したパンフレットには,「PRODUCTED BY NAKAYA」,「より鋭い切味の追求,卓越した作業性に更に磨きをかけたNAKAYAの鋸」の記載がある(審判甲6(本訴甲68の6))。
1987年のカレンダーに「NAKAYA 信頼のブランド」の記載がある(審判甲52(本訴甲68の16))。
請求人の製造に係る鋸(及びその柄,柄用の牛革グリップ),包装用のケース,箱に「NAKAYA」の文字が独立して認識されるようにして記載している(審判甲4,5,10,12,13,41,44,45,61,62及び審判乙24(本訴甲68の4,5,7ないし9,13ないし15,20,21及び本訴甲69))。
d さらに,有限会社中屋鋸・機械製作所から株式会社中屋に改称した現在に至るまで,「N」と三角形を図案化し,その下に「NAKAYA」と配した図形をハウスマークとして,請求人のパンフレット,新聞広告等の広告,請求人の製造に係る鋸に使用されていたことが認められる。
イ 上記アで認定した事実によれば,請求人は,引用商標「NAKAYA」を請求人の業務に係る商品「鋸」に使用してきたことが認められ,広告の回数等を総合すると,その鋸は,相当程度の数量をもって広範囲に流通していたものと推認することができる。
一方,鋸を取り扱う業界においては,「中屋」を銘及び名称中に使用するものが多く,「中屋」の文字は,当該業界においては,自他商品の識別標識として機能しないものということができる。
しかしながら,「中屋」が屋号として用いられているように,古くから技術・伝統等とともに親方から弟子へと受け継いできていることから,銘及び名称として使用されるときは,通常は漢字で表され,ローマ文字をもって「NAKAYA」と表示することは行われていない。
そうすると,請求人商標が「中屋」をローマ文字で表記したものであることをもって,直ちに自他商品の識別力を有さないとまではいえない。
そして,上記のように,鋸を取り扱う業界において,「中屋」の文字が銘や名称として頻繁に用いられることから,一般には,「中屋」の部分をもって略称されるのではなく,「中屋B」等のように,「中屋○○」の全体をもって,使用し,識別されていたものといえるところ,請求人は,前記のとおり,以前より,「中屋」の文字のみをもって,その略称として使用し,一定程度需要者に知られていたものということができ,それに,引用商標の上記の使用状況及び請求人が「NAKAYA」の文字を含んでなるハウスマークを使用してきていることをかんがみると,引用商標は,本件商標の登録出願時には,既に,請求人の業務に係る商品「鋸」を表す商標として,取引者,需要者の間に広く認識されていたものというのが相当であり,その状態は,本件商標の登録時においても継続していたものというべきである。
( ) 本件商標と引用商標の類否について2本件商標は,別掲のとおり,「W」の文字をモチーフにした図形及び「NAKAYA」,「中屋」,「三倍速」の各文字よりなるものであるが,図形と文字部分とを常に一体として認識すべき特段の事情はなく,「三倍速」の文字は,「三倍速く(切ることができる。)」程度の品質・効能を表示したものとして認識されるものであることから,構成中の「NAKAYA」の文字部分も,独立して看取されることがあると認められ,加えて,該文字部分は,上記( )イのとおり,請求人が商品1「鋸」について使用し,取引者,需要者の間に広く知られている引用商標と,同一又は類似する「NAKAYA」の文字からなるものである。
そうすると,本件商標と引用商標とは,「NAKAYA」の文字部分から生ずる称呼,観念及び外観において,類似する商標というべきであり,かつ,本件商標の指定商品と引用商標の使用に係る「鋸」とは,同一又は類似の商品である。
( ) 被請求人の主張について3ア 被請求人は,引用商標「NAKAYA」が,商標法3条1項4号に規定される,ありふれた氏であることは顕著な事実であると主張しているが,被請求人は,ありふれた氏であるとする証拠を何ら示していないから,その主張は,採用することができない。
なお,被請求人は,上記ありふれた氏に該当するものである以上,引用商標が「請求人の業務に係る鋸を表示するものとして,需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標」となり得ない,旨主張しているが,ありふれた氏に該当するものであっても,長年使用することにより,その商標がその商品と密接に結びついて出所表示機能を発揮し,自他商品の識別力を獲得する場合もあることを付言する。
イ 被請求人は,本件商標において,要部は,「W」の文字をモチーフにした図形であり,他の構成部分は,付記的部分とすべきである旨主張しているが,「NAKAYA」の文字が,前記のとおり,請求人が商品「鋸」について使用をし,自他商品の識別力を獲得しているものと認め得ることから,本件商標をその指定商品に使用したときは,請求人の業務に係る商品と商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるというべきであるから,その主張は,採用することができない。
ウ なお,被請求人の示す証拠の中に「『中屋』とは,鋸屋・鋸鍛冶のことです。」の記載が見受けられるが,これは,鋸業界以外の者にわかりやすく説明するために表現したものと認められ,しかも,他に「中屋」を鋸屋・鋸鍛冶を意味するとする証拠もないから,「中屋」が鋸鍛冶を意味する普通名称あるいは,慣用商標となっているものとは,認めることができない。
( ) 結び4以上のとおり,本件商標は,請求人の業務に係る商品「鋸」を表示するものとして,取引者,需要者の間に広く認識されている引用商標と類似する商標であって,その指定商品は,引用商標の使用に係る商品と同一又は類似の商品であるから,商標法4条1項10号に該当するものである。
したがって,本件商標の登録は,商標法4条1項10号に違反してなされたものであるから,同法46条1項の規定により,無効にすべきものである。
第3当事者の主張1原告主張の審決取消事由(1)取消事由1(引用商標の自他商品識別力及び周知性)審決は,「引用商標は,本件商標の登録出願時には,既に,請求人の業務に係る商品「鋸」を表す商標として,取引者,需要者の間に広く認識されていたものというのが相当であり,その状態は,本件商標の登録時においても継続していたものというべきである。」と認定したが,誤りである。
ア引用商標は,屋号として用いられている「中屋」を欧文字で表示したと認識されるにとどまり,「中屋」と同様に,自他商品の識別標識として機能しないものである。近年,商品が国境を越えて縷々転々とする国際的商取引にあって,その円滑化を図る上において,屋号の「中屋」の欧文字である「NAKAYA」を付すことは普通に行われていることであるから,審決のように,「ローマ文字をもって「NAKAYA」と表示することは行われていない。」という一点のみをもって,引用商標の自他商品の識別力を肯定することは,余りに短絡的である。
イ鋸生産者における「中屋」の屋号は,古くから,技術,伝統等とともに,親方から弟子へと受け継がれており,鋸生産者にとっては,犯すことのできない,独占すべきではない聖域に属するものであって,被告一個人の独占には適さない屋号,独占させるべきでない商標である。「中屋金物株式会社」,「中屋鋸店」など「中屋」を含む名称が数多く採択されているという事実からして,「中屋」を「NAKAYA」として使用し,引用商標が被告の商標であると主張すること自体が許されないのであって,「中屋」のみの使用は,「中屋」が「鋸」の意に通じ,自他商品の識別力がないと信じていた鋸業者や現に信じている鋸業者にとって,余りに酷な事態を招くものである。
ウまた,引用商標が三角図形の下辺部に使用されたり,イークスマークに結合して使用されていることは認められるものの,引用商標が単独で使用されていることを認めるに足りる証拠はないから,引用商標が取引者又は需要者の間に広く認識されていたと認めることは,商標法4条1項10号の規定の趣旨に反するものである。
エ審決は,以上のように,引用商標の自他商品識別力及び周知性について,誤った認定をしたものである。
(2)取消事由2(本件商標と引用商標の類否)審決は,「本件商標と引用商標とは,「NAKAYA」の文字部分から生ずる称呼,観念及び外観において,類似する商標というべき」であると認定したが,誤りである。
ア本件商標の構成において,「中屋」は,鋸生産者におけるありふれた屋号であって,一般にその自他商品識別力は極めて弱く,「NAKAYA」は,その欧文字表記であるから,同様に,その自他商品識別力は極めて弱いのであって,需要者が「NAKAYA」のみをもって自他商品を識別することはない。
イ審決は,引用商標の周知性の存否にのみに着目するあまり,本来重視すべきであった「W」の文字をモチーフにした図形の自他商品識別力や「中屋」が極めてありふれた名称であることを看過又は軽視し,本件商標の構成全体の特異性を考慮しないで,本件商標と引用商標とが類似するとの誤った判断をしたものである。
2被告の反論(1)取消事由1(引用商標の自他商品識別力及び周知性)に対してア自他商品識別力を備えていていない商標であっても,永年使用によって自他商品識別性を確保する場合もあることは経験則であり,本件においても,被告による引用商標の長年使用及びその独自性(他社の使用が認められないこと,業界における「中屋」「中屋・・」の表示のローマ字表示が特異なこと)から,引用商標が自他商品の識別力を獲得したのである。国際的な取引において欧文字表示が一般的であったとしても,商品「鋸」の業界において,「中屋」「中屋・・」の表示を欧文字で表示することが一般的であったとは認められない。
イ引用商標は,「NAKAYA」であって「中屋」ではないから,屋号としての「中屋」を直接に表示しているものではない。そうであれば,「NAKAYA」の周知商標化によって,「中屋」の屋号としての使用(例えば「中屋・・」なる商標の採用)は何ら制限されないから,「中屋」を屋号と認識し,使用している鋸業者に何の不都合も生じない。
ウ引用商標は,種々の他の構成と組み合わされて使用されているが,全ての使用形態において,他の構成に埋没することなく,明確に認識できる態様で表示されているのであって,取引指標として単独で機能しているものである。
エしたがって,「引用商標は,本件商標の登録出願時には,既に,請求人の業務に係る商品「鋸」を表す商標として,取引者,需要者の間に広く認識されていたものというのが相当であり,その状態は,本件商標の登録時においても継続していたものというべきである。」とした審決の認定に誤りはない。
(2)取消事由2(本件商標と引用商標の類否)に対してア本件商標は,引用商標を含む構成であって,これを商品「鋸」に使用した場合には,被告の業務に関わりのある商品と混同されるおそれが大きいから,本件商標に「W」の文字をモチーフにした図形があるとしても,これを考慮することなく類否を判断することに何らの支障もない。
イしたがって,「本件商標と引用商標とは,「NAKAYA」の文字部分から生ずる称呼,観念及び外観において,類似する商標というべき」であるとした審決の認定に誤りはない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(引用商標の自他商品識別力及び周知性)について(1)甲62ないし64,68の1ないし31,69,乙1ないし4,35ないし61及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア「中屋」は,鋸鍛冶の屋号の一つであり,その起源は明らかでないが,遅くとも江戸時代には,これを冠して銘とする鋸鍛冶が多数存在し,現在においても,鋸製作業者や目立業者の中に,「中屋C鋸工場」,「中屋D商店」など「中屋」を含む名称を使用する者が存在する。
イ被告は,明治40年に初代Aが北海道で創業した鋸製造業を前身として(なお,昭和36年に工場を新潟県3条市に移転して鋸の製造とともに鋸目立用の刃摺機の製造も行うようになった。),昭和42年2月に有限会社中屋鋸機械製作所として設立され,平成13年6月1日に「株式会社中屋」に組織変更された会社である。
ウ被告は,鋸目立用の刃摺機として,昭和34年に中屋式万能刃摺機を完成し,以後その改良を重ねて,昭和42年には中屋式全自動刃摺機を,昭和46年には中屋式万能目立機を,昭和53年には中屋式全自動目立機を,平成2年には全自動供給反転装置付目立機をそれぞれ発売し,また,鋸についても,工場を移転した昭和36年に両刃鋸の製造を開始し,さらに,昭和55年には替刃式鋸の製造を開始して,「ビッグ」,「プロフェッショナル」,「ワンダーソー」,「快速」,「鬼刀」,「名工」等のシリーズを発売した。
被告は,替刃式鋸について,鋸板,背金,柄などに引用商標を単独又は「N」と三角形を図案化した図形とともに使用し,その包装箱(1ダース入り)にも,引用商標を上記図形とともに使用している。
エ被告が作成したちらしやカタログ,ちらし及び広告等において,「中屋」や引用商標である「NAKAYA」の表示が使用されたものとしては,次のものがある。なお,これらには,作成者として,「N」と三角形を図案化し,その下に「NAKAYA」と配した図形(ハウスマーク)と「有限会社中屋鋸・機械製作所」又は「株式会社中屋」との表示がされている。
(ア)ちらしやカタログ「QUALITY」と題するちらし(甲68の2)には,「中屋は自動目立機や・・」,「のこぎり業界の未来を常に中屋はみつめています。」,「のこぎりの歴史は中屋の歴史です。」との記載がある。
「NAKAYAselection」と題するちらし(甲68の3,4)には,それぞれに「中屋の本格仮枠鋸。中屋独自のアール付刃で切れ味,使い易さ共に最高です。」との記載がある。
「eaks」に関するカタログ(甲68の5)には,「「イークス」は中屋のオリジナルブランドです。」,「中屋のオリジナルブランド〔イークス〕は,楽に《イージー》仕事《ワークス》ができる鋸,という発想から生まれたブランドです。」との記載がある。
「SAWPRODUCTED BY NAKAYA」と題するちらし(甲68の6)には,「より鋭い切味の追求,卓越した作業性に更に磨きをかけたNAKAYAの鋸」との記載がある。
(イ)ちらし「第3回コシヒカリプレゼントセール」と題するちらし(甲68の17)及び「第4回コシヒカリプレゼントセール」と題するちらし(甲68の18)には,「中屋の快速胴付鋸快速ウルトラソー」との記載があり,「第7回コシヒカリセール」と題するちらし(甲68の19),「第8回コシヒカリセール」と題するちらし(乙38),「第9回コシヒカリセール」と題するちらし(乙39),「第10回コシヒカリセール」と題するちらし(甲68の20),「第11回コシヒカリセール」と題するちらし(甲68の21),「第13回コシヒカリセール」と題するちらし(甲68の22),「第14回コシヒカリセール」と題するちらし(乙41),「第15回コシヒカリセール」と題するちらし(乙42),「第16回コシヒカリセール」と題するちらし(乙43),「第17回コシヒカリセール」と題するちらし(乙44),「第18回こしひかりセール」と題するちらし(乙45),「第19回こしひかりセール」と題するちらし(乙46),「第20回コシヒカリセール」と題するちらし(乙47),「第21回コシヒカリセール」と題するちらし(乙48)及び「第22回コシヒカリセール」と題するちらし(甲68の23)には,「中屋・替刃式鋸」,「中屋替刃式鋸」,「中屋替刃鋸」又は「中屋替刃式のこ」との記載がある。
「日頃のご愛顧に感謝を込めて大暑に備えて爽やか商品プレゼント」と題するちらし(甲68の24),「消費税相当5%還元セール」と題するちらし(甲68の27),「2000ミレニアムセール第二弾」と題するちらし(甲68の26),「2003年新春セール」と題するちらし(甲68の28),「2004年中屋新春セール」と題するちらし(甲68の29),「2004中屋スプリングセール」と題するちらし(甲68の30)及び「2004年中屋盛夏セール」と題するちらし(甲68の31)には,「中屋の替刃式鋸」,「中屋替刃式鋸」又は「中屋替刃式鋸」との記載がある。
(ウ)新聞広告平成2年1月20日付け「日本刃物工具新聞」の広告(甲68の10)には,「中屋の山林のこぎりは北海道でゆるぎない地位を築きあげる。」との記載がある。
平成5年4月17日付け「越後ジャーナル」の広告(甲68の11),同年6月24日付け「産経新聞」の広告(甲68の12)には,「中屋のオリジナルブランドイークス(Eaks)は楽に〈イージー〉仕事〈ワークス〉が出来る鋸,という発想から生まれました。」との記載がある。
平成5年10月20日付け「日本刃物工具新聞」の広告(甲68の13)には,「「イークス」は中屋のオリジナルブランドです。」との記載がある。
(エ)カレンダー1987年(昭和62年)のカレンダー(甲68の16)には,「NAKAYA信頼のブランド」,「ナカヤの折込鋸」,「ナカヤの万能鋸」,「ナカヤの快速切替刃鋸240m/m」,「ナカヤの快速胴付鋸」,「ナカヤの快速切替刃鋸270m/m」,「ナカヤの快速ウルトラソー」,「刃の先端はナカヤ独自のスーパークインチ仕上。」との記載がある。
(オ)ウェブページ被告のウェブページ(甲69)の社歴中には,1931年(昭和6年)に,「中屋の山林用のこぎりは北海道にとどまらず,」との記載がある(なお,「QUALITY」と題するちらし(甲68の2)にも,同様の記載がある。)。
オ「NAKAYA」の表示を鋸の銘や名称に使用している者は,被告のほかにいない。
(2)上記(1)の事実によれば,引用商標は,本件商標の出願日及び登録査定日の当時,被告の業務に係る商品である鋸を表示するものとして,需要者の間に広く認識されており,その状態が現在においても継続していると認められる。
(3)原告の主張についてア原告は,引用商標は,屋号として用いられている「中屋」を欧文字で表示したと認識されるにとどまり,「中屋」と同様に,自他商品の識別標識として機能しないと主張する。
確かに,「中屋」は,鋸鍛冶の屋号の一つであるから,自他商品の識別標識として機能しないということができるとしても,被告は,上記(1)のように,被告の業務に係る商品である鋸に引用商標を使用してきているところ,引用商標を鋸の銘や名称に使用している者が被告のほかにいないことを併せ考えると,引用商標は,被告の業務に係る商品である鋸を表示するものとして,需要者の間に広く認識されていると認められるから,自他商品の識別標識として機能しないということはできない。
イまた,原告は,鋸生産者における「中屋」の屋号は,被告一個人の独占には適さない屋号,独占させるべきでない商標であって,「中屋」のみの使用は,「中屋」が「鋸」の意に通じ,自他商品の識別力がないと信じていた鋸業者や現に信じている鋸業者にとって,余りに酷な自体を招くと主張する。
しかしながら,鋸鍛冶の屋号の一つである「中屋」が,被告一個人の独占には適さない屋号,独占させるべきでない商標であるとしても,このことから,直ちに,その欧文字表記である「NAKAYA」までもが,一個人の独占には適さない屋号,独占させるべきでない商標であるということはできない。そして,引用商標を使用することが,「中屋」が自他商品の識別力がないと信じていた鋸業者や現に信じている鋸業者にとって,酷な事態を招くことを認めるに足りる証拠はない。
ウさらに,原告は,引用商標が単独で使用されていることを認めるに足りる証拠はないから,引用商標が取引者又は需要者の間に広く認識されていたと認めることは,商標法4条1項10号の規定の趣旨に反すると主張する。
しかしながら,引用商標は,例えば,両刃剪定鋸「ダブルイング」(甲68の8)のように,単独で使用していることがある上,「N」と三角形を図案化した図形とともに使用している場合であっても,その外観,称呼及び観念上,引用商標がその余の図形部分から分離して認識され得るものであると考えられるから,引用商標が需要者の間に広く認識されていたと認めることが商標法4条1項10号の規定の趣旨に反することにはならない。
(4)したがって,「引用商標は,本件商標の登録出願時には,既に,請求人の業務に係る商品「鋸」を表す商標として,取引者,需要者の間に広く認識されていたものというのが相当であり,その状態は,本件商標の登録時においても継続していたものというべきである。」とした審決の認定に誤りはなく,原告主張の取消事由1は,理由がない。
2取消事由2(本件商標と引用商標の類否)について(1)本件商標は,「W」の文字をモチーフにした図形と横書きした「NAKAYA」,「中屋」及び「三倍速」の各文字からなるものであるが,「W」の文字をモチーフにした図形については,特定の称呼観念が生じるものではなく,また,「三倍速」の文字については,三倍速いという指定商品である手動利器の品質,効能等を表示するものとして観念されると考えられるから,本件商標は,「中屋」やその欧文字である「NAKAYA」の文字部分がその余の部分から分離して認識され得るものであると考えられること,上記1のとおり,引用商標は,被告の業務に係る商品である鋸を表示するものとして,需要者の間に広く認識されていると認められること(これに対し,「中屋」は,鋸鍛冶の屋号の一つであるから,これを鋸に使用しても,自他商品の識別標識として機能しない。),本件商標の指定商品は,手動利器であって,引用商標が使用されている鋸と同一又は類似するものであるから,その需要者を共通にすると考えられること,などの事情に照らすと,本件商標がその指定商品に使用されたときは,その構成中の「NAKAYA」の文字部分がこれに接する需要者の注意を特に強く引くであろうことは容易に推測することができる。そうすると,本件商標中の「NAKAYA」の文字部分と引用商標とは,外観,称呼及び観念において同一又は類似する商標であるから,本件商標は,被告の業務に係る商品である鋸を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標に類似し,かつ,その商品である鋸に類似する商品について使用するものである。
(2)原告の主張についてア原告は,「NAKAYA」は,「中屋」の欧文字表記であり,「中屋」と同様にその自他商品識別力は極めて弱く,需要者が「NAKAYA」のみをもって自他商品を識別することはないと主張する。
しかしながら,上記1のとおり,引用商標は,被告の業務に係る商品である鋸を表示するものとして,需要者の間に広く認識されていると認められるのであって,自他商品識別力が極めて弱いということはできない。
イまた,原告は,審決は,引用商標の周知性の存否にのみに着目するあまり,本来重視すべきであった「W」の文字をモチーフにした図形の商品識別力や「中屋」が極めてありふれた名称であることを看過若しくは軽視したと主張する。
しかしながら,上記(1)に説示したところによれば,本件商標と引用商標とが類似するとした審決の判断に誤りはないといわなければならないのであって,審決が「W」の文字をモチーフにした図形の商品識別力や「中屋」が極めてありふれた名称であることを看過若しくは軽視したということはできない。
(3)したがって,「本件商標と引用商標とは,「NAKAYA」の文字部分から生ずる称呼,観念及び外観において,類似する商標というべき」であるとした審決の認定に誤りはなく,原告主張の取消事由2は,理由がない。
第5結論以上のとおりであって,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 高野輝久
裁判官 佐藤達文