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関連審決 異議2004-90771
関連ワード 包装 /  指定商品 /  指定役務 /  4条1項10号 /  4条1項11号 /  4条1項15号 /  4条1項19号 /  著名商標 /  不正目的(不正の目的) /  顧客吸引力(グッドウィル) /  ただ乗り(フリーライド) /  希釈化(ダイリュージョン) /  出所の混同 /  信義則 /  防護標章 /  社団法人 /  登録異議申立 /  外国 /  継続 /  商号 /  同業者 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10178号 商標登録取消決定取消請求事件
原告X
訴訟代理人弁理士橘哲男
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人小川有三
同 柴田昭夫
同 小林和男
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/10/26
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が異議2004-90771号事件について平成18年3月13日にした決定を取り消す。
第2争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,別紙決定書写しの別掲(1)のとおりの構成よりなり,指定商品を第30類「菓子及びパン」とする,登録第4805177号の商標(平成12年8月4日登録出願,平成16年9月24日設定登録。以下「本件商標」といい,その出願を「本件出願」という。)の商標権者である。本件商標に対し訴外株式会社F(以下「異議申立人」という。)から登録異議申立(以下「本件異議申立」という。)がなされたので,特許庁はこれを異議2004-90771号事件として審理した上,平成18年3月13日,「登録第4805177号商標の商標登録を取り消す。」との決定をし,同年3月25日,その謄本を原告に送達した。
2決定の理由別紙決定書写しのとおりである。要するに,本件商標は,甘納豆をはじめとする和菓子を表すものとして相当程度知られていた特徴のある登録第3160172号の商標(以下「引用商標」という。)とほぼ同一の構成よりなるものであるところ,原告は本件出願時に異議申立人が引用商標を使用していた事実を知っていたものであるから,不正の意図をもって使用するものとみるのが相当であり,本件商標は商標法4条1項19号に違反して登録されたものである,としたものである。
第3原告主張の取消事由の要点決定は,引用商標の周知・著名性の認定を誤る(取消事由1)とともに,不正の目的の認定を誤り(取消事由2),その結果,本件商標が商標法4条1項19号に該当すると誤って判断したものであるから,違法として取り消されるべきである。なお,本件商標が引用商標とほぼ同一の構成よりなるものであることは認める。
1取消事由1(引用商標の周知・著名性の認定の誤り)決定は,引用商標が,本件出願時に,甘納豆をはじめとする和菓子を表すものとして相当程度知られていた旨認定したが,誤りである。
(1)一般に,特定の商標の周知・著名性を立証する場合には,実際に使用している商標並びに商品等,使用開始時期,使用期間,使用地域,生産,証明若しくは譲渡数量又は営業の規模,広告宣伝の方法,回数及び内容等を立証すべく,広告宣伝が掲載された印刷物,各種伝票,広告業者等,同業者等又は公的機関の証明,各種メディア媒体における記事等の客観的な判断材料となり得る証拠方法を提出することを要する(「商標審査基準」第2,第3条第2項)。
これに対し,決定がその根拠とした甲1〜112(異議申立人が特許庁に提出した証拠方法。なお,決定における申立番号01の甲1〜112は,本訴の甲1〜112と同じであり,決定における申立番号02の甲1〜83は,本訴の甲1〜82,112と同じである。)は,以下のとおり,いずれも客観的な判断材料ということはできず,引用商標の周知・著名性を認定する根拠として十分なものとはいえない。このことは,本件異議申立の趣旨に鑑みた場合であっても同様である。
ア甲3〜7(「甘納豆缶詰しおり」等の印刷依頼書),甲8(「E本舗創業史」),甲9〜75(パンフレット,包装紙等),甲76〜78(価格表)は,いずれも特定の商業を営んでいる者であれば,独自に作成し,容易に取得し得るものであって,客観性に欠ける。
イ甲79(岸朝子著「東京五つ星の手みやげ-銀座・日本橋エリア-」を紹介するインターネット上のホームページをダウンロードしたもの)は,異議申立人について言及しているが,販売地域,販売部数,売上高等の記載はない。
ウ甲80(「皆決算期別売上一覧表」)には決算期ごとに甘納豆のみの売上高が記載されているが,誰がいつ作成したかが明らかでなく,その信憑性は疑わしい。また,甲81(異議申立人のウェッブサイトの「店舗案内」)には店舗名が記載されているが,どの百貨店にどの程度の規模でいつ出店し,また売上はどれ程なのか,明示されていない。
エ異議申立人が特許庁に提出したその余の証拠方法も,引用商標の周知・著名性を認定する根拠として十分なものとはいえない。
(2)「日本有名商標集」に掲載されている商標は,原則としてわが国における需要者の間に広く認識されている商標と推認して取り扱うものとされているが(「商標審査便覧」42.14),引用商標はこれに収載されていない。
また,特許庁が特許電子図書館において提供する「日本国周知・著名商標検索」により調査しても,引用商標は検出されなかった(甲113)。上記事実は,引用商標が周知・著名商標として認知されていないことを意味するものであり,この点に照らしても,引用商標が周知・著名であるとした決定の認定は誤りである。
(3)本件出願の審査過程においては,平成13年6月1日付け拒絶理由通知書(甲114)により,本件商標はその構成中に異議申立人が和菓子・日本茶の提供に使用して広く知られている「●●」の文字を有するから,商標法4条1項15号に該当するとされたものの,平成13年8月31日付け拒絶理由通知書(甲115)及び平成14年1月4日付け拒絶査定(甲116)では,本件商標は商標法4条1項11号に該当するとされ,商標法4条1項15号は拒絶の理由とされていない。
また,本件出願の拒絶査定不服審判の係属中に,異議申立人は,平成15年5月26日付け刊行物提出書(甲117)により,本件出願が商標法4条1項10号及び同条同項15号に該当する旨述べたが,特許庁は,平成16年8月12日,本件商標を登録すべき旨の審決(甲118)をした。
以上の経緯に照らせば,本件出願の査定時(平成14年1月4日)及び審決時(平成16年8月12日)の両時点において,特許庁が引用商標の周知・著名性を否定したことは明らかである。
このように,本件出願の審査過程において,2度にわたって引用商標の周知・著名性が否定されたことに照らしても,引用商標が周知・著名であるとした決定の認定は誤りである。
2取消事由2(不正の目的の認定の誤り)決定は,原告が本件商標を不正の目的をもって使用するものと認定・判断したが,誤りである。
(1)ア甲122(決定における申立番号02に係る異議申立書)には,異議申立人は,その母体が故人であるC(以下「C」という。)によって昭和26年2月に東京都渋谷区(以下省略)で創業され,昭和27年9月に「D株式会社」として設立されたものであって,その後,昭和62年9月に現在の名称に変更されたこと,原告は平成12年3月28日をもって異議申立人の監査役を辞任し,以後異議申立人の業務にかかわることはないことが記載されているところ,原告もこれらの事実を争うものではない。
そして,甲82(異議申立人の平成12年7月27日付け履歴事項全部証明書),甲123(異議申立人の平成18年6月2日付け履歴事項全部証明書),甲124(Cを筆頭者とする戸籍謄本),甲125(A(以下「A」という。)を筆頭者とする戸籍謄本),甲126(C著「甘露降E本舗創業史」)によれば,@異議申立人は同族会社であること,A創業者のCは,平成12年3月16日に死去するまで,異議申立人の代表者であったこと,B原告は,Cの妻であり,同人とともに,異議申立人の繁栄に多大な貢献をした者であるが,Cの死去直後の平成12年3月28日,異議申立人の監査役を辞任したこと,C異議申立人の現在の代表者であるB(以下「B」という。)は,C及び原告の養子であって,C及び原告の長女であるAの夫であること,DAは異議申立人の監査役であったが,辞任又は解任されたことが,いずれも明らかである。
上記の事実に照らせば,原告は,異議申立人の設立当初から約50年間,Cとともに異議申立人を支え,繁栄させ,引用商標に表象される業務上の信用の形成に重要な責務を果たしたものであり,養子であるB(なお,原告とBの間では離縁訴訟,AとBの間では離婚訴訟が係属中である。)が代表者をつとめる異議申立人が,自ら業務上の信用を獲得したかのようにふるまい,原告が不正の目的で使用しているなどと主張するのは,まさに本末転倒であり,社会正義の観点からも許されないというべきである。仮に引用商標が周知・著名であるとすれば,周知・著名性の獲得に多大の寄与をなした原告にもこれを使用する権利があるというべきであるから,原告が異議申立人の監査役を辞任した後,本件出願を行っただけでは,「不正の目的」があるということにはならない。
イ被告は,異議申立人の承諾等を得ず,無断で本件出願をし,登録を受けた原告の行為は,取引上の信義則に反し,「不正の目的」があるというべきである旨主張する。
しかし,商標法4条1項19号にいう「不正の目的」とは,図利目的・加害目的をはじめとする取引上の信義則に反するような目的のことをいうものとされており(特許庁編「工業所有権法逐条解説第16版」),上記アのとおり,原告がCとともに異議申立人を設立し,繁栄させたという経緯に鑑みれば,原告には取引上の信義則に反する行為はなく,「不正の目的」があるとはいえない。
(2)決定は,原告が「本件商標を使用する予定がないのに,本件商標を登録出願し,商標権を取得した」(決定書8頁31行〜32行)と認定したが,誤りである。
アそもそも,本件異議申立の審理において,原告は本件商標の使用の有無に何ら言及しておらず,使用していないとの決定の認定は,根拠を欠くものである。
イ甲127(株式会社Hの履歴事項全部証明書),甲128(上記会社の会社案内),甲129(上記会社の商品カタログ),甲130(上記会社の商品案内冊子),甲131(上記会社の商品添付シール一覧),甲132(上記会社の商品包装用紙),甲133(上記会社の商品包用接着シール)から明らかなように,原告は,異議申立人の監査役を辞任した後,平成13年6月22日に株式会社G本舗を設立し(その後,平成17年2月28日,株式会社Hに商号を変更した。),平成16年9月24日,本件商標の登録を受けたことを契機にその使用を開始し,現在に至るまで継続して使用している。
ウ商標法は,現実の使用の有無を問わず,一定の要件の下で登録を認める登録主義を採用しているから,いったん適法に商標登録された本件商標について,決定がその使用の有無をもって取り消すべきか否かを判断したことは,誤りである。
なお,決定は,本件商標の使用の有無を「不正の目的」の認定を左右する重要な事実としているから,原告が本件商標を使用していても,決定の認定・判断には誤りはないとする被告の主張は,失当である。
第4被告の反論の要点決定の認定・判断は正当であって,原告主張の誤りはない。
1取消事由1(引用商標の周知・著名性の認定の誤り)について(1)引用商標が,本件出願時に,甘納豆をはじめとする和菓子を表すものとして,本件商標の指定商品の分野において相当程度知られていたものと認められることは,決定が認定したとおりである。
(2)ア原告は,甲1〜112について,いずれも客観的な判断材料となり得るものではない旨主張する。
しかし,異議申立人が,昭和26年の創業以来,甘納豆をはじめとする和菓子を製造し,引用商標を看板,商品カタログ,包装紙等に使用し,直営店をはじめ全国の有名デパートに販売店を出店し販売した結果,需要者の間に広く認識されるに至ったものであることは,甲1〜112から十分うかがうことができる。
イ原告は,引用商標が「日本有名商標集」及び「日本国周知・著名商標検索」に掲載されていないことを問題とするが,周知・著名な商標がこれらに掲載されているものに限定されるものではない。
「日本有名商標集」は,わが国の有名商標として社団法人国際工業所有権保護協会日本部会によって作成され,情報提供されたものであるが,審査実務においては,これに「掲載されている商標については,わが国における周知度,指定商品及び指定役務との関係等を考慮して取り扱うものとする」との位置付けがされているものの(「商標審査便覧」42.119.01),周知・著名商標の全てが網羅されているものではない(なお,原告が指摘した取り扱いは,平成17年10月の改訂前のものである。)。
特許電子図書館の「日本国周知・著名商標検索」は,防護標章として登録されている登録商標及び審決・判決において周知・著名な商標として認定された登録商標の検索ができるものであり,ここに掲載されている商標は周知・著名な商標といえるものであるが,周知・著名な商標がここに掲載されているものに限定されるものではない。
ウ登録後の異議申立制度は,商標登録に対する信頼を高めるため,申立てがあった場合に特許庁が自ら登録処分の適否を審理し,瑕疵ある場合にはその是正を図るというものであるから,査定や拒絶査定不服審判の審決に際して引用商標の周知・著名性を認めていなかったとしても,これに拘束されるものではない。
2取消事由2(不正の目的の認定の誤り)について(1)ア商標法4条1項19号は,日本国又は外国で周知な商標と同一又は類似の商標を不正の目的で使用するものを不登録理由としたものであり,同号にいう「不正の目的」,すなわち「不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的」とは,図利目的,加害目的をはじめとする,取引上の信義則に反するような目的のことをいうと解すべきである。
イ原告は,@異議申立人の監査役を平成12年3月28日に辞任し,その後異議申立人の業務にかかわらないこと,A辞任から4ヶ月余りが経過した平成12年8月4日に本件出願をし,その登録を受けたこと,B上記出願時に異議申立人が引用商標を使用していた事実を知っていたことは,いずれも明らかである。
また,原告は,異議申立人の設立・繁栄にかかわった者の一人であるから,引用商標が甘納豆をはじめとする和菓子に使用され,本件出願前から異議申立人の商標として需要者,取引者に広く認識されていた商標であることを知っていたことも,明らかである。
本件商標は引用商標とほぼ同一の構成よりなるものであり,その指定商品は引用商標の使用に係る商品と同一又は類似のものであるから,本件商標をその指定商品について使用するときは,商品の出所の混同を招き,商取引の秩序を乱すおそれがあり,原告の本件商標の使用により,異議申立人が築き上げてきた引用商標の周知・著名性が希釈化され,顧客吸引力が失われることは明らかであるから,原告が本件商標をその指定商品について使用することは,「不正の目的」をもって使用をするものというべきである。
(2)原告は,異議申立人の監査役を辞任した後,平成13年6月22日に「株式会社G本舗」を設立し,本件商標の使用を開始した旨主張する。
原告が本件商標の使用を開始していたことは,本件異議申立の審理において何ら主張されておらず,明らかにされていなかったところであるが,原告は,異議申立人の承諾等を得ず,無断で本件出願をし,その登録を受けたものであるから,かかる原告の行為は取引上の信義則に反し,「不正の目的」があるというべきであって,決定の認定・判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(引用商標の周知・著名性の認定の誤り)について原告は,決定が引用商標について本件出願時に甘納豆をはじめとする和菓子を表すものとして相当程度知られていた旨認定したことが,誤りである旨主張する。
(1)証拠(甲1〜83,112,122〜127)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
(ア)原告の夫であるCは,東京で甘納豆の製造販売を行うため,昭和25年秋ころ上京し,同年12月ころ東京都渋谷区(以下省略)に店舗兼工場兼住居とするため土地を購入し,昭和26年2月ころ4名のスタッフ(C,妻である原告,2名の従業員)で創業した。
(イ)異議申立人は,昭和27年9月10日,「D株式会社」として設立され,Cが創業した上記甘納豆の製造販売に係る営業を承継したものであり,昭和45年5月,商号を「株式会社E本舗」と変更し,昭和62年9月,商号を「株式会社F」と変更するとともに,本店を東京都中央区(以下省略)に移転し,さらに平成9年8月1日,本店を東京都中央区(以下省略)に移転するなどして,現在に至っている。
(ウ)引用商標に係る登録商標それ自体は,異議申立人が平成4年9月28日登録出願し,平成7年7月14日商標出願公告がされたものであるが,異議申立人は,遅くとも昭和44年ころから現在に至るまで,引用商標と社会通念上同一と認められる標章(以下,単に「本件標章」という。)を,異議申立人の商品である甘納豆をはじめとする和菓子の包装や広告,価格表,取引書類(以下「取引書類等」という。)に継続して使用しており,異議申立人の甘納豆の売上は,昭和56年8月期(11億円2400万円)以降,平成4年8月期(18億3000万円)までほぼ堅調に増加し,その後平成12年8月期(9億4900万円)までやや下降したものの,それ以降は再び上昇に転じ,平成16年8月期(12億6100万円)に至っており,20年以上にわたって年商10億円前後を維持している。また,異議申立人は,平成16年11月現在,有名デパートを中心に,直営店を含め24店舗展開するに至っている。
上記(ア)ないし(ウ)の事実によれば,引用商標は,遅くとも本件出願時(平成12年8月4日)において,甘納豆をはじめとする和菓子を表すものとして,需要者,取引者の間において,相当程度知られていたものであり,その後も現在に至るまで,かかる状態が維持されているものと認められる。
(2)ア原告は,甲1〜112が客観的な判断材料ということはできず(特に,甲3〜81について具体的に主張している。),引用商標の周知・著名性を認定する根拠として十分なものとはいえない旨主張する。
(ア)甲3〜7は,本件標章を付したしおり,掛紙等の印刷の発注に係る文書であって,印刷業者と異議申立人の間の取引に用いられた文書であることがうかがわれ,本件異議申立を目的として作成されたものと疑うべき事情は認められない。
甲8(甲126も同じ刊行物である。)は,昭和52年(1977年)に発行されたCの自伝であり,本件異議申立を目的として作成されたものでないことは明らかである。
甲9〜75は,異議申立人の商品パンフレット,包装紙,パッケージ,ラベル,しおり等であり,特段の不自然な点はなく,本件異議申立を目的として作成されたものと疑うべき事情は認められない。
甲76〜78は,価格表(昭和56年改訂前のもの,同改訂後のもの及び昭和59年改訂後のもの)であるが,その記載ないし体裁からは,ごく通常の取引において用いられていたものであることがうかがわれ,本件異議申立を目的として作成されたものと疑うべき事情は認められない。
原告は,甲3〜78は,いずれも特定の商業を営んでいる者であれば,独自に作成し,容易に取得し得るものであって,客観性に欠けるとし,これらがことさら本件異議申立のために作成されたものであるかのごとく主張するが,上記検討したところに照らし,採用することができない。
(イ)甲79には,原告が指摘するとおり,販売地域,販売部数,売上高等の記載はない。しかし,甲79によれば,食生活ジャーナリストの岸朝子の著書で,銀座・日本橋エリアにおける老舗・名店を紹介する電子書籍(ただし,平成16年(2004年)11月19日にダウンロード可能であったもの。)に,異議申立人の甘納豆が紹介されていることが認められるところ,異議申立人が銀座・日本橋エリアにおける老舗ないし名店の一つと評価されていることは,引用商標が甘納豆をはじめとする和菓子を表すものとして,需要者,取引者の間において,相当程度知られていたものであることを基礎付ける一事情となることは明らかである。
(ウ)原告は,甲80について,誰がいつ作成したか明らかでなく,その信憑性は疑わしい旨主張する。
甲80は,異議申立人が本件異議申立において提出したものであるが,決算期と売上高(甘納豆のみ)が列記されているだけで,作成者,作成日等に関する記載がないことは,原告指摘のとおりである。
しかし,平成12年3月28日に監査役を辞任するまで約50年にわたって,Cとともに,異議申立人の業務に貢献してきたことを自負している原告にとって,細かな数字の正確性はともかく,異議申立人が昭和56年8月期から平成16年8月期まで20年以上にわたって,甘納豆の売上として年商10億円前後を維持していたということが,事実であるか否かを知り得ないはずはなく,仮にこれが事実でないというのであれば,容易にそのことを具体的に指摘することができるはずであるところ,原告から上記売上高の信憑性を疑わせる具体的な指摘はなく,また,本件記録を検討しても甲80がことさら虚偽の内容であると疑わせるに足る証拠も見い出せないのであって,甲80の記載内容が信憑性に欠けるということはできない。
(エ)原告は,甲81について,どの百貨店にどの程度の規模でいつ出店し,また売上はどれ程なのか,明示されていないと主張する。
しかし,甲81は,その記載及び体裁に照らし,異議申立人のウェッブサイトを平成16年(2004年)11月19日にダウンロードしたものであることがうかがわれるところ,その出店規模,時期,売上の記載はないが,少なくとも異議申立人が,同日当時,有名デパートを中心に直営店を含め24店舗展開するに至っていることが示されており(甲81の内容が虚偽のものであることを疑わせる事情は見当たらない。),かかる事業展開の状況は,引用商標が甘納豆をはじめとする和菓子を表すものとして,需要者,取引者の間において,相当程度知られていたものであることを基礎付ける一事情となることは明らかである。
(オ)その他,甲1〜112が,引用商標の周知・著名性を認定する根拠として,客観的な判断材料たり得ないとすべき事情は見当たらない。
そもそも引用商標が需要者,取引者の間に広く知られているものでないとすれば,原告において,引用商標と酷似する本件商標を出願し,その登録を受けて,これを原告が代表者をつとめ,異議申立人の商品と同種の商品を販売する訴外株式会社H(以下「H」という。)に使用させる必要はないはずであり,原告が本件商標を出願したことそれ自体,引用商標が需要者,取引者の間に広く知られていることを推認させる一事情となるものというべきである。
(カ)したがって,甲1〜112が客観的な判断材料ということはできず,引用商標の周知・著名性を認定する根拠として十分なものとはいえないとの原告の主張は,採用することができない。
イ原告は,引用商標が「日本有名商標集」及び「日本国周知・著名商標検索」に掲載されていないことに照らせば,決定の認定は誤りである旨主張する。
しかし,ある商標が周知ないし著名であるか否かは事実認定の問題であり,当該事実を証明するために用いることができる証拠方法は,「日本有名商標集」又は「日本国周知・著名商標検索」に限定されるものではない。
原告の主張は採用することができない。
ウ原告は,本件出願の審査過程において2度にわたって引用商標の周知・著名性が否定されていることに照らせば,決定の認定は誤りである旨主張する。
しかし,登録後の異議申立制度は,商標登録に対する信頼を高めるため,申立てがあった場合に特許庁が自ら登録処分の適否を審理し,瑕疵ある場合にはその是正を図るというものであるから,本件出願の審査過程において,本件商標はその構成中に異議申立人が和菓子・日本茶の提供に使用して広く知られている「●●」の文字を有するから,商標法4条1項15号に該当するという平成13年6月1日付け拒絶理由通知書(甲114)に記載された理由では,最終的に拒絶されなかった経緯があるとしても,決定において,引用商標の周知・著名性を認定することが妨げられるものではない。原告の主張は採用することができない。
(3)以上によれば,引用商標が,本件出願時に,甘納豆をはじめとする和菓子を表すものとして相当程度知られていたとした決定の認定に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。
2取消事由2(不正の目的の認定の誤り)について原告は,原告が本件商標を不正の目的をもって使用するものとした決定の認定・判断が誤りである旨主張する。
(1)異議申立人が,遅くとも昭和44年ころから現在に至るまで,本件標章を商品の包装等に継続して使用し,その結果として,引用商標が甘納豆をはじめとする和菓子を表すものとして需要者,取引者の間に相当程度知られるに至ったものであることは,前記1において認定したとおりである。
また,平成12年3月28日に監査役を辞任するまで約50年にわたって,Cとともに,異議申立人の業務に貢献してきたことを自負している原告が,上記事実を知悉していたことは明らかである。
そして,本件商標は,引用商標とほぼ同一の構成よりなるものであり,その指定商品は引用商標の使用に係る商品と同一又は類似のものであるから,本件商標をその指定商品について使用するときは,商品の出所の混同を招くものであることも明らかである。
証拠(甲127〜133)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件商標を甘納豆をはじめとする和菓子等について,平成13年6月22日に設立した,自ら代表取締役をつとめるHに使用させていることが認められるところ,原告による異議申立人の監査役辞任(平成12年3月28日),本件出願(平成12年8月4日),Hの設立(平成13年6月22日)が時期的に接着していることに照らせば,原告は,本件商標をHに使用させることにより,同社の商品を需要者,取引者が異議申立人若しくはその許諾を受けた者の商品と誤認することを意図して,本件出願をしたものと推認される。
商標法4条1項19号にいう「不正の目的」には,「不正の利益を得る目的」が含まれるところ,上記原告の意図は,まさに引用商標に表象される異議申立人の信用にただ乗りしようとするものであり,「不正の利益を得る目的」に該当するというべきである。
(2)原告は,異議申立人の設立当初から約50年間,Cとともに異議申立人を支え,繁栄させ,引用商標に表象される業務上の信用の形成に重要な責務を果たしたものであり,仮に引用商標が周知・著名であるとすれば,周知・著名性の獲得に多大の寄与をなした原告にもこれを使用する権利があるから,原告には「不正の目的」があるとはいえないなどと主張する。
ア証拠(甲82,122〜126)及び弁論の全趣旨によれば,前記1(1)(ア)及び(イ)の事実に加え,原告が主張するように,@異議申立人は同族会社であること,A創業者のCは,平成12年3月16日に死去するまで,異議申立人の代表取締役であったこと,B原告は,Cの妻であり,同人とともに,異議申立人の事業に深く関与した者であるが,Cの死去直後の平成12年3月28日,異議申立人の監査役を辞任したこと,C異議申立人の現在の代表取締役であるBは,C及び原告の養子であって,C及び原告の長女であるAの夫であること,DAは異議申立人の監査役であったが,退任若しくは辞任し,又は解任されたことが認められる。
イ上記ア@ないしBの事実によれば,原告は,異議申立人の事業に深く関与した者であり,引用商標が異議申立人の商品を表すものとして需要者,取引者の間に相当程度知られるに至ったことについても,相応の貢献をしたことがうかがわれないではない。
しかし,原告の貢献は,異議申立人の監査役,あるいは,同族会社である異議申立人の創業者であり,代表者であったCの妻という立場での貢献であって,原告自らの事業において本件標章を使用したものでもなく,ましてこれを使用する権限を有していたものではない(なお,原告は,本件商標を出願しあるいは使用することについて,異議申立人の承諾を得たことを主張するものではない。)。
また,上記アCないしDの事実によれば,原告の養子であり,原告の長女Aの夫であるBが,現在,異議申立人の代表取締役をつとめていること,Aがもはや異議申立人の役員ではないことが認められる。
しかし,引用商標に表象される業務上の信用は異議申立人に帰属するものであって,このことは,異議申立人の役員構成が変動することによって,何ら変わるものでないことはいうまでもないから(このことはいわゆる同族会社であっても何ら異なるものではない。),異議申立人の代表取締役その他の役員が誰であるかにより,引用商標に係る権利はもとより上記業務上の信用の帰属主体が左右されることになるものではない。
ウしたがって,たとえ原告が引用商標に表象される業務上の信用の形成に相応の貢献をしたとしても,そのことから当然に,原告が引用商標を使用する権利を有するとはいえないし,原告に「不正の目的」がないということにならないことは明らかである。
また,株式会社の代表取締役は会社のため忠実にその職務を行うべき義務を負うものであるから,異議申立人の代表取締役としては,異議申立人の利益に反する違法な行為等の排除を求めることは当然であり,異議申立人の代表取締役が,原告の養子であり,原告の長女Aの夫であるBであるからといって,異議申立人が原告による本件商標の出願及び使用に異を唱えることが,社会正義に反するなどということはできない。
原告の主張は採用することができない。
(3)原告は,「本件商標を使用する予定がないのに,本件商標を登録出願し,商標権を取得した」との決定の認定が誤りである旨主張する。
原告が本件商標をHに使用させていることは前記(1)のとおりであり,原告は本件出願時からその旨意図していたことがうかがわれるから,決定の上記認定は誤りである。
しかし,原告が,本件商標を不正の目的をもって使用するものとの決定の認定・判断に誤りがないことは,すでに検討したとおりであり,上記の誤りは決定の結論に影響するものではない。
なお,原告は,決定が本件商標の使用の有無を「不正の目的」の認定を左右する重要な事実としている旨述べるが,決定は,「不正の目的」を基礎付ける事実として,原告が本件出願時に異議申立人が引用商標を使用していた事実を知っていたことを挙げた上で,「不正の目的」がないとの原告の主張を排斥する趣旨で本件商標の使用の点について説示しているものであって,原告の主張は失当である。
(4)以上によれば,原告が本件商標を不正の目的をもって使用するものであるとした決定の認定・判断に誤りはなく,原告主張の取消事由2は理由がない。
3結論以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀
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