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関連審決 取消2004-31595
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 包装 /  使用事実 /  指定商品 /  不使用 /  駆け込み使用 /  権利濫用(権利の濫用) /  国内 /  差止 /  存続期間 /  更新登録 /  同一標章 /  不使用取消審判 /  正当な理由 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10187号 審決取消請求事件
原告 株式会社ファミリア
同訴訟代理人弁護士 三山峻司
同 井上周一
同 小野昌延
被告 フレデリックウォーン アンド カンパニー リミテッド
同訴訟代理人弁護士 小泉淑子
同 鳥海哲郎
同菅尋史
同 井上祐子
同訴訟復代理人弁護士大江修子
同訴訟代理人弁理士 廣中健
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/10/26
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1原告(1) 特許庁が取消2004-31595号事件について平成18年3月15日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2被告主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,別紙審決書写しの別掲Aに示すとおりの構成よりなり,昭和51年4月30日に登録出願され,昭和55年2月29日に設定登録された後,平成2年9月20日及び平成12年3月14日の2回にわたり,商標権の存続期間更新登録がされた登録第1406656号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。本件商標は,平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表による商品区分第25類の「紙類,文房具類」を指定商品として設定登録されたものである。
被告は,平成16年12月13日,商標法50条1項に基づいて,本件商標につき,商標登録の取消しを求める審判を請求し,平成17年1月6日,同審判請求につき予告登録がされた(以下「本件予告登録」という。)。
特許庁は,上記審判請求を取消2004-31595号事件として審理した結果,平成18年3月15日,「登録第1406656号商標の商標登録は取り消す。」との審決をし,同月27日,その謄本が原告に送達された。
2 審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,商標権者である原告(被請求人)は,以下のとおり,本件予告登録前3年以内に日本国内において,指定商品につき本件商標を使用したとはいえないから,商標法50条1項の規定により,本件商標の登録を取り消すべきであるというものである。
(1) 原告の使用商標(別紙審決書写しの別掲B。以下,同別掲B記載の使用商標1ないし4をそれぞれ単に「使用商標1」などといい,全部を合わせて「使用商標」という。)は,仮処分決定(東京地方裁判所平成12年(ヨ)第22063号同13年12月7日決定。以下「仮処分決定」という。)及び確定判決(東京地方裁判所平成12年(ワ)第14226号,平成14年(ワ)第4485号同14年12月27日判決・平成16年9月21日確定。以下「本案判決」という。)で使用を禁止されている「PETER RABBIT」,「ピーターラビット」等の商標と酷似しており,これを使用する行為は仮処分決定及び本案判決に違背するものであって,上記使用商標の使用は,商標法50条1項に規定する登録商標の使用ということはできない。
(2) 平成16年5月19日付け日本繊維新聞の広告(甲第3号証,審判乙第3号証。枝番を省略。以下,書証については枝番を省略する。)は,指定商品である「紙類」等の具体的な商品についての広告であるとはいえないから,本件商標の使用とは認められない。
(3) 甲第4ないし第19号証(審判乙第4ないし第19号証)で示された本件商標の使用は,商標法50条3項に規定する,いわゆる駆け込み使用と推認し得るものであるから,同条1項にいう登録商標の使用とは認められない。
原告主張の取消事由の要点
原告は,平成16年5月19日付け日本繊維新聞の広告(甲第3号証)において使用商標1を使用し(以下「使用事実1」という。),また,平成16年10月15日から同年11月3日までの間,ファミリアポケット三田店において使用商標2,3を付した商品を販売するなどして使用商標2,3を使用した(甲第4ないし第19号証。以下「使用事実2」という。)。審決は,使用事実1及び2のいずれについても,次のとおり認定判断を誤り,その結果,本件商標が本件予告登録前3年以内に日本国内において,商標権者によって使用されたといえないと判断したものであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(使用事実1及び2の適法性)審決は,不正競争防止法に基づく仮処分決定及び本案判決により,「PETER RABBIT」,「ピーターラビット」等の表示の使用が禁止されており,原告の使用商標は,仮処分決定及び本案判決で使用を禁止されている表示と酷似し,本件商標と社会通念上同一の商標ということができ,このような商標の使用は禁止されているから,使用商標の使用をもって,本件商標を使用したということはできないと判断する。
(1) 使用商標1は,本件商標上段部分の片仮名「ピーターラビット」と同一であり,また,使用商標2は,本件商標下段部分の欧文字「PETERRABBIT」と同一であって,いずれも本件商標と実質的に同一性があると評価されるものであるところ,商標法において,登録商標である本件商標と同一標章を使用することは何ら制限されるものではなく,上記使用商標の使用は,商標法上正当に認められた範囲での使用であり,適法な使用である。審決の引用する裁判例は,薬事法に違反した使用が「正当な使用」と認められなかったという事案であり,本件と同一に論じられない。仮処分決定及び本案判決は,原告に対し,不正競争防止法との関係で別紙審決書写しの別掲「参考資料1」及び「参考資料2」の表示(以下,各表示を「差止対象表示1」及び「差止対象表示2」という。)を使用することを禁じているが,これは,本件商標に類似する特定の「PETERRABBIT」や「ピーターラビット」の使用を禁止しているだけで,本件商標の商標法上の使用権までを対世的に否定しているものではない。
(2) 審決は,使用商標が差止対象表示1及び2と酷似するというが,そもそも特定の表示が仮処分決定及び本案判決において使用を差し止められた表示に該当するか否かは,本案判決を行った裁判所又は執行裁判所において判断されるべき事項であって,審判を行う特許庁が判断すべき事項ではない。
また,本件商標及び使用商標は,差止対象表示1及び2と同一ではない。
差止めの対象となる表示は,仮処分決定及び本案判決で特定された各表示(差止対象表示1及び2)を基準とすべきであり,「社会通念上」同一であるなどとして安易にその範囲を拡張することは許されない。
(3) 仮に,差止対象表示1及び2と酷似する表示についても,仮処分決定及び本案判決による差止めの対象となるとしても,仮処分決定及び本案判決においては,原告が本件商標に係る商標権を有することが認められており,それが使用権のない商標権であるとか,原告には本件商標の使用権がないとは判断されていないのであるから,本件商標の使用は権利濫用であるとの明確な理由もなく,審判において「使用とは言えない不正使用」であると直結させて考えることはできない。
2 取消事由2(使用事実1の指定商品についての使用)審決は,使用事実1における広告(甲第3号証)について,原告が「ピーターラビット」の登録商標を所有していること及びその登録番号,被告やコピーライツグループの商品と混同しないための注意喚起等の表示は窺われるものの,その指定商品である「紙類」等の具体的な商品についての広告であるとはいえないから,本件商標を使用したことにならないと判断する。
しかし,原告は,仮処分決定がされた後,本件商標の使用を差し控えてきたが,事件の解決後には,使用を再開する計画であった。使用事実1における広告は,このような原告の計画的な善意の使用の一環として行われたものであり,使用事実2は同じ計画に基づいて行われた商品の販売である。仮処分決定がされるまで,原告が本件商標を付した指定商品を販売していた実態があり,仮処分決定の後は,一時的に使用を差し控えていたが,使用の再開を計画し,現に販売を再開した(使用事実2)のであるから,使用事実1は,使用事実2と一体としてみれば,本件商標を指定商品との具体的関係において使用したものと判断すべきである。
3 取消事由3(使用事実2の駆け込み使用)審決は,仮処分決定が送達された平成13年12月14日から3年が経過した時点以降には,取消審判請求がされることを原告が認識していたから,使用事実2は商標法50条3項のいわゆる駆け込み使用であると認定している。
しかし,駆け込み使用であると認められるのは,「審判の請求がされることを知った後であることを請求人が証明したとき」であり,抽象的に審判請求がされるであろうと認識しているだけでは足りず,審判請求がされることの具体的な認識がなければならないところ,原告には,その具体的な認識はなかった。
また,使用事実2について,原告には,商標法50条3項に規定する「登録商標の使用をしたことについて正当な理由」がある。すなわち,上記「正当な理由」には,審判請求がされることを知る前からあった具体的な使用計画に基づいて商標が使用された場合が含まれるものと解されるところ,原告は,使用事実2の使用以前から,本件商標を使用した原告オリジナル商品を企画して,具体的な販売計画を立て,新聞広告等の準備を行っており(甲第3号証,第27ないし第33号証),使用事実2は,その計画の一環としてされたものであり,商標登録の取消しを免れることのみを目的としてされたものではない。
被告の主張の要点
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(使用事実1及び2の適法性)について原告の主張は,商標権の行使であるから不正競争行為(違法行為)に該当せず,適法な使用であるという,いわゆる商標権に基づく適用除外の抗弁を主張するのに等しいところ,本案判決において,かかる抗弁は権利濫用として許されないとされ,控訴審においても同様の判断がされている。確かに,権利濫用は被告との関係で認定されたものであるが,本件商標は差止対象表示1及び2と同一であり,原告が本件商標を使用すれば,仮処分決定及び本案判決に違反する違法状態が生じるのであって,そのような使用は,わが国の法秩序に違反する違法行為として当然に許されない。
原告は,仮処分決定及び本案判決において使用が禁止されたのは本件商標に類似する特定の表示であり,本件商標の商標法上の使用権までを否定しているものではないと主張するが,それらの事件においては,原告自身,商標権に基づく適用除外の抗弁の前提として差止対象表示1及び2が本件商標と同一であると主張していたものであり,使用商標と差止対象表示1及び2とは社会通念上同一である(仮処分決定及び本案判決による禁止の効果は,差止対象表示1及び2と社会通念上同一の表示を付した商品についても及ぶというべきである。)。
2 取消事由2(使用事実1の指定商品についての使用)について使用事実1における広告(甲第3号証)は,原告が「ピーターラビット」の登録商標を付した商品について,被告やコピーライツグループの商品と混同しないでほしい旨を告知する一方的要望の表明にすぎない。上記広告においては,特定の商品の出所を識別する標識として本件商標が使用されておらず,商標法2条3項に定める商標の「使用」には当たらない。
3 取消事由3(使用事実2の駆け込み使用)について審決の認定するとおり,原告は,仮処分決定の正本が送達された平成13年12月14日から3年が経過した時点以降には,取消審判請求がされ,そうなれば本件商標の登録の取消しは免れないことを認識していたから,使用事実2はいわゆる駆け込み使用である。なお,商標法50条3項に規定する「登録商標の使用をしたことについて正当な理由」があるとの原告の主張は争う。
当裁判所の判断
1 取消事由1(使用事実1及び2の適法性)について(1) 原告は,商標法において,登録商標である本件商標と同一標章を使用することは何ら制限されるものではなく,原告の使用商標の使用は,商標法上正当に認められた範囲での使用であり,適法な使用であると主張する。
甲第36,37号証,乙第1ないし第4号証によれば,仮処分決定は,被告が平成12年4月27日原告を債務者として申し立てた,不正競争防止法2条1項1号,2号及び3条1項に基づく,差止対象表示1を付した商品の製造販売等の差止め等を求める仮処分申立てについて,東京地方裁判所が,平成13年12月7日,上記申立てを認容し,原告に対し,差止対象表示1を付した商品を製造,譲渡し,その包装・広告に上記表示を使用してはならない旨等を命じたものであり,その決定正本は同月14日原告に対し送達されたこと,本案判決は,上記仮処分の本案訴訟として提起された不正競争行為差止等請求事件と,原告が被告に対し提起した不正競争行為差止請求権不存在確認等請求事件とを併合審理した上,平成14年12月27日言い渡された東京地方裁判所の判決であり,原告は差止対象表示2(その(1),(2)及び(4)は差止対象表示1と同じである。)を付した商品を製造,譲渡し,その包装・広告に上記表示を使用してはならない旨等を内容とするものであること,上記判決に対して原被告双方から控訴がされたが,平成16年3月15日,東京高等裁判所においていずれの控訴も棄却する旨の判決が言い渡され,さらに上告及び上告受理申立てがされたが,同年9月21日,上告棄却及び上告審として受理しない旨の決定がされ,原告に対し上記差止めを命ずる本案判決が確定したことが認められる。
そうすると,原告主張の使用事実1(使用商標1の使用)は,仮処分決定がされた後のものであり,また,使用事実2(使用商標2,3の使用)は,本案判決が確定した後にされたものである。
ところで,商標法上の保護は,商標の使用によって蓄積された信用に対して与えられるのが本来的な姿であるところ,商標法50条所定の登録商標の不使用取消審判制度の趣旨は,一定期間登録商標の使用をしない場合には,そのような信用が発生しないか,又は消滅してその保護すべき対象がなくなること及び不使用に係る登録商標に対して排他的独占的な権利を与えておく理由はなく,かつ,その存在により商標使用を希望する第三者の商標選択の余地を狭めることから,そのような商標登録を取り消すことにあると解される。このような制度趣旨に照らせば,その取消しを免れるために被請求人が証明しなければならない審判請求登録前3年以内の日本国内における当該商標の使用は,その使用自体が法的保護に値する正当な行為といえるものでなければならないというべきであって,当該使用が,その使用を禁止する仮処分あるいは執行力ある判決に違反してされたものであるときは,そのような違法な状態のもとに信用の蓄積を認めることは許されず,かかる違法な使用は,商標法50条にいう登録商標の使用に当たるということはできないと解するのが相当である。
したがって,原告の使用商標の使用が,仮処分決定及び本案判決によって命じられた不作為義務(使用禁止)に違反する場合には,原告主張の使用事実1及び2は,商標法50条にいう登録商標の使用として商標法上保護されるものではないといわなければならない。
もっとも,仮処分は,判決による権利の確定とその実現を図るまでの間の暫定的な措置であるところ,例えば,仮処分を遵守して商標を使用しないまま3年が経過したとしても,未だ本案の判決により権利が確定していないとすれば,仮処分の被保全権利の存否自体が未確定の状態にあるというべきであるから,その間の不使用を理由に当然に不使用取消しとなると解することは相当でなく,このような場合には,仮処分によって使用が禁止されたために当該商標を使用できないことをもって,商標法50条2項ただし書にいう「使用をしていないことについて正当な理由」がある場合に当たると解する余地がある。しかし,本件においては,不使用取消審判の請求時,既に本案判決が確定しており,仮処分決定の当初から,原告において差止対象表示1(本案判決に係る差止対象表示2の(1),(2)及び(4))を使用することが許されなかったことが確定している(すなわち,仮処分の被保全権利の存在が確定している。)のであるから,このような場合にまで,上記の「正当な理由」があるということはできないというべきである。
なお,原告は,仮処分決定及び本案判決は不正競争防止法との関係で差止対象表示1及び2を使用することを禁じているだけで,本件商標の商標法上の使用権までを対世的に否定しているものではないと主張しているが,問題は,原告が本件予告登録前3年以内に本件商標を使用した事実として主張する使用事実1及び2に係る使用商標1ないし3の使用(使用商標4が付された包装用リボンは実際には使用されなかったことについては,原告も争っていない。)が仮処分決定及び本案判決によってその使用を禁止された表示の範囲に含まれるかどうかであって,仮処分決定及び本案判決が本件商標の商標法上の使用権を否定しているかどうかではない。
(2) そこで,使用商標1ないし3が仮処分決定及び本案判決によってその使用を禁止された表示の範囲に含まれるかどうかについて検討するに,仮処分決定及び本案判決を債務名義とする執行手続においては,いかなる行為が禁止されているのかということが一義的に明白である必要があるから,禁止された表示の範囲に含まれるかどうかは,当該表示の使用が禁止された表示と同一性を有するといえるかどうかによって判断すべきであり,両表示が微細な点について完全に一致するものでなくても,全体的に見て同一性を有するといえれば,その禁止された表示の範囲に含まれるものと解すべきである。
仮処分決定及び本案判決によってその使用を禁止された表示は,仮処分決定については差止対象表示1,本案判決については差止対象表示2であるところ,まず,使用商標1は,差止対象表示1の3(差止対象表示2の(4)と同じ)と同様に「ピーターラビット」の片仮名文字を横書きしてなるものであり,両者の間には,その字体において角ゴシック体と明朝体という差異はあるものの,そのような字体の差異は両者の全体としての同一性を妨げるものではなく,使用商標1が,仮処分決定及び本案判決によってその使用を禁止された差止対象表示1の3(差止対象表示2の(4)と同じ)に含まれることは明らかである。
次に,使用商標2は,差止対象表示1の1(差止対象表示2の(1)と同じ)と同様に「PETERRABBIT」の欧文字を大文字で横書きしてなるものであるが,後者が「PETER」と「RABBIT」との間に僅かな空白があり,その字体も通常のものであるに対し,使用商標2は空白がなく,字体がゴシック体であるという点(その他「E」の文字が若干異なる。)で差異がある。しかし,それらの点は,いずれも微細な差異ということができ,全体として見れば両者の同一性を妨げるほどのものとはいえないから,使用商標2は,仮処分決定及び本案判決によってその使用を禁止された差止対象表示1の1(差止対象表示2の(1)と同じ)に含まれるものと認められる。
また,使用商標3は,使用商標2と同じく「PETERRABBIT」の欧文字を大文字で横書きしてなるものであり,差止対象表示1の1(差止対象表示2の(1)と同じ)と,@上記の点で差異があるほか,Aその字体が「A」の文字に飾りがあるなど差止対象表示1の1(差止対象表示2の(1)と同じ)と異なる点が見られる。しかし,@の点は使用商標2について述べたとおりいずれも微細な差異であり,また,Aの点は詳細に観察しなければ判別しにくいものであって,それらの差異を含めて全体的に見ても,使用商標3は未だ差止対象表示1の1(差止対象表示2の(1)と同じ)との同一性の域を超えているとまではいえないというべきであり,使用商標3も,仮処分決定及び本案判決によってその使用を禁止された差止対象表示1の1(差止対象表示2の(1)と同じ)に含まれるものと認められる。
以上のとおり,使用商標1ないし3は,いずれも仮処分決定及び本案判決によってその使用を禁止された表示の範囲に含まれるということができる(なお,原告の使用商標は差止対象表示1及び2の商標と酷似するとの審決の説示は,両者の同一性を肯定するものとして,上記と同旨の判断を示したものと理解できる。)。
原告は,特定の表示が仮処分決定及び本案判決において使用を差し止められた表示に該当するか否かは,本案判決を行った裁判所又は執行裁判所において判断されるべき事項であって,審判を行う特許庁が判断すべき事項ではないと主張する。しかし,前記のとおり,不使用取消審判において,被請求人が使用したと主張する商標が仮処分決定及び本案判決において使用を禁止された表示に該当するときは,当該商標の使用は,仮処分決定及び本案判決に違反する違法なものであって,商標法50条にいう登録商標の使用に当たるということはできないと解すべきであるから,不使用取消審判において,使用商標が仮処分決定及び本案判決によってその使用を禁止された表示の範囲に含まれるかどうかを判断することに何ら問題はない。
また,原告は,「社会通念上」同一であるなどとして安易に差止めの対象となる表示の範囲を拡張することは許されないとして,使用商標は差止対象表示1及び2と同一ではない旨主張するが,使用商標1ないし3が差止対象表示1の1,3(差止対象表示2の(1),(4)と同じ)と同一性を有し,仮処分決定及び本案判決によってその使用を禁止された表示の範囲に含まれることは前記のとおりであるから,原告の主張は採用できない。
(3) 原告は,使用商標が仮処分決定及び本案判決による差止めの対象となるとしても,仮処分決定及び本案判決においては,原告が本件商標に係る商標権を有することが認められており,それが使用権のない商標権であるとか,原告には本件商標の使用権がないとは判断されていないのであるから,本件商標の使用が権利濫用であるとの明確な理由もなく,審判において「使用とは言えない不正使用」であると直結させて考えることはできないと主張するが,原告の使用商標が仮処分決定及び本案判決において使用を禁止された表示に該当する以上,当該商標の使用は,仮処分決定及び本案判決に違反する違法なものであって,商標法50条にいう登録商標の使用に当たるということはできないと解すべきことは,前記のとおりであるから,原告の上記主張は採用できない。
(4) 以上からすれば,使用商標1ないし3は,仮処分決定及び本案判決で使用を禁止されているものであるから,これらの使用をもって,本件商標を使用していると認定することはできないとした審決の判断は是認することができ,原告主張の取消事由1は理由がない。
したがって,原告主張の使用事実1及び2に関する取消事由2,3について検討するまでもなく,本件商標は,商標法50条1項の規定によりその登録を取り消すべきものであるが,念のため,以下,取消事由2,3についても検討することとする。
2 取消事由2(使用事実1の指定商品についての使用)について原告は,使用事実1における広告(甲第3号証)は,使用事実2と一体としてみれば,本件商標を指定商品との具体的関係において使用したものと判断すべきであると主張する。
甲第3号証によれば,平成16年5月19日付け「日本繊維新聞」に,商品と思われる写真の下に「ピーターラビット は(株)ファミリアの登録商標でRす。」,その下に小さく「登録商標ピーターラビットの入ったファミリアのオリジナル商品とフレデリック・ウオーン社やコピーライツグループの商品とは,何ら関係ありませんので,混同しないように願います。」と各記載され,更にその下の四角形の枠内に「当社の所有するピーターラビット商標」として6件の登録番号,指定商品を記載した広告が掲載されたことが認められる。
上記広告の内容からすると,原告が「ピーターラビット」の登録商標を有していること,被告やコピーライツグループの商品と混同しないよう注意を喚起していることは認められるものの,「ファミリアのオリジナル商品」という以上に,原告の商品が特定されていないし,掲載の写真からも「ファミリアのオリジナル商品」が何であるかは不明であり,広告全体としてみても,本件商標が付されている具体的商品が何かは不明である。したがって,甲第3号証の広告は,本件商標の指定商品である「紙類」等の具体的な商品についての広告であるとはいえないというべきであり,これをもって本件商標を使用したことにはならない。これと同旨の審決の判断に誤りはない。
原告は,上記広告は,使用事実2と一体としてみれば,本件商標を指定商品との具体的関係において使用したものと判断すべきであると主張するが,上記のとおり,甲第3号証の広告は,使用事実2(ファミリアポケット三田店における商品の販売)に関する予告を含んでおらず,使用事実1と使用事実2とを一体とみる余地はないのであって,原告の主張は採用することができない。
したがって,原告主張の取消事由2も理由がない。
3 取消事由3(使用事実2の駆け込み使用)について(1) 被告が本件商標について商標登録の取消しを求める審判を請求したのが平成16年12月13日であることは当事者間に争いがないところ,原告が使用事実2として主張するのは,平成16年10月15日から同年11月3日までの間における商標の使用の事実であるから,使用事実2は,商標法50条3項における「審判の請求前三月からその審判の請求の登録の日までの間」のものである。
(2) 原告は,駆け込み使用であると認められるのは,抽象的に審判請求がされるであろうと認識しているだけでは足りず,審判請求がされることの具体的な認識がなければならないところ,原告には,具体的な認識はなかったと主張する。
乙第1ないし第4号証,第14号証によれば,仮処分決定に係る民事保全事件において,被告は,当初から本件商標を含む登録商標の商標権が実質的に被告に帰属すると主張していたこと,被告は,差止めの対象を,原告が当時実際に使用していた差止対象表示1として,その差止めを求めたものであること,本案判決に係る訴訟(以下「本案訴訟」という。)において,被告は,上記の商標権について平成11年10月19日の譲渡契約に基づく移転登録手続請求をしていたこと,本案判決において,上記移転登録手続請求が棄却されたため,被告は,控訴するとともに,控訴審において,昭和62年9月30日付けライセンス契約の終了による原状回復義務に基づく移転登録手続請求を追加したが,控訴及び新たな請求は棄却され,本案判決は平成16年9月21日に確定したこと,他方,原告は,上記民事保全事件及び本案訴訟において,差止対象表示1及び2は本件商標を含む登録商標と同一性を有し,商標権に基づく使用であるから不正競争行為に該当しないと主張していたこと,原告は,民事保全事件で提出した準備書面において,「不使用取消を受けない程度の実害を生じない程度の使用は,将来不使用取消期間を勘案して行う」と主張していたことが認められる。
以上の事実によれば,上記民事保全事件及び本案訴訟を通じて,被告が,原告による本件商標の使用を容認しない態度をとっていたことは明確であり,仮処分決定の時点で将来商標登録の取消請求をすることは予測し得たものといえる上,本案判決の確定した時点では,移転登録により被告が本件商標の商標権者となる途がなくなったのであるから,被告がその商標登録の取消請求の方法をとることは十分予測される状態にあったものであり,原告が民事保全事件の段階から不使用取消審判の請求を意識していたことに照らすと,遅くとも本案判決の確定時点である平成16年9月21日には,原告において「審判の請求がされることを知った」と推認するのが相当である。したがって,使用事実2は,原告が「審判の請求がされることを知った後」のものということができる。
原告は,使用事実2の使用以前から,本件商標を使用した原告オリジナル商品を企画して,具体的な販売計画を立て,新聞広告等の準備を行っており(甲第3号証,第27ないし第33号証),使用事実2は,審判請求がされることを知る前からあった具体的な販売計画に基づいて行われた使用であるから,商標法50条3項に規定する「登録商標の使用をしたことについて正当な理由」がある旨主張する。
しかし,前記のとおり,甲第3号証の広告は,使用事実2(ファミリアポケット三田店における商品の販売)に関する予告を含んでおらず,使用事実2の具体的計画があったことを裏付けるものではない。また,甲第27号証(井上和廣の陳述書)には,原告が平成15年6月ころ「PETERRABBIT」の商標を使用した商品を企画し,生産計画を立てるなど準備したことがあったとの記載があり,原告はこれを裏付けるものとして甲第28ないし第33号証(生産計画案,カタログ等)を提出しているが,甲第27号証によれば,「このときは,最終的には店頭で販売するには至りませんでした」というのであるから,仮に平成15年6月当時本件商標を使用した商品の販売計画があったとしても,その計画に基づく販売は実現しないまま頓挫したとみるべきであり,上記計画とその1年余後の使用事実2との関係も不明であって,上記計画の存在をもって,使用事実2が審判請求がされることを知る前からあった具体的な販売計画に基づいて行われたものであるということはできない。その他,本件全証拠を検討しても,原告が「審判の請求がされることを知った」と推認される平成16年9月21日以前から,使用事実2の具体的計画を有していたと認めるに足りる証拠はない。したがって,使用事実2について,商標法50条3項に規定する「登録商標の使用をしたことについて正当な理由」があるとは認められない。
(3) 以上からすれば,使用事実2は駆け込み使用と推認せざるを得ないとした審決の判断は是認することができ,原告主張の取消事由3も理由がない。
4結論以上のとおりであるから,商標法50条1項の規定により本件商標について商標登録を取り消した審決の認定判断に誤りはなく,審決に,これを取り消すべきその他の誤りがあるとも認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 三村量一
裁判官 古閑裕二