運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 不服2005-5251
関連ワード 識別力 /  識別機能 /  指定商品 /  指定役務 /  記述的商標(3条1項3号) /  普通に用いられる方法 /  3条2項 /  品質誤認(4条1項16号) /  補正 /  同一の商品 /  継続 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 18年 (行ケ) 10411号 審決取消請求事件
原告X
被告特許庁長官中嶋誠
指定代理人青木博文,中村謙三,田中敬規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/02/01
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
全容
本判決においては,審決や書証等の記載を引用する場合も含め,公用文の用字用語例に従っ (て表記を変えた部分がある。)第1原告の求めた裁判「特許庁が不服2005-5251号事件について平成18年8月22日にした審決を取り消す。」との判決。
第2事案の概要本件は,原告が,後記商標登録の出願をしたところ,商標法3条1項3号及び4条1項16号に該当するとして拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,「本件審判請求は成り立たない」との審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本願商標出願人:原告商標:「介護タクシー」の文字を横書きしてなるもの(甲1の1)。
出願日:平成15年12月25日(商願2003-117110号)指定商品:第39類「タクシーによる輸送,車椅子の貸与」(平成17年2月25日付け手続補正書により補正。甲1の7)(2)本件手続拒絶査定日:平成17年1月25日(甲1の5)審判請求日:平成17年2月25日(不服2005-5251号,甲1の6)審決日:平成18年8月22日審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成18年9月10日(原告に対し)2審決の理由の要旨「本願商標は,上記のとおりの構成よりなるところ,該構成文字中の「介護」の文字は「高齢者・病人などを介抱し,日常生活を助けること。」(岩波書店「広辞苑第5版」433頁,本訴乙1の1),また,「タクシー」の文字は「街中などで求めに応じて目的地まで客を乗せ,所定の料金を取る営業用自動車」(同1635頁,本訴乙1の2)の意味合いを持つ語としてそれぞれ一般に理解,認識されており,かつ,「介護タクシー」の文字も,「訪問介護事業所の指定を受けたタクシー会社がホームヘルパーの資格のある運転手により移送と乗降介助等を行うタクシー。」(集英社「イミダス’05」638頁,本訴乙2の1),「ホームヘルパーなどの資格をもったタクシー運転手(ケアドライバー等とよぶ)が,高齢者や身障者などの介助などを行いながら送迎を行うサービス。」(自由国民社「現代用語の基礎知識2005」897頁,乙2の2),「運転手がヘルパーの資格を持ち,介護保険の訪問介護事業者の指定を受けたタクシー。」(朝日新聞社「知恵蔵2006」423頁,本訴乙2の3)と掲載されているように,一般的には,原査定で認定のとおり,「介護資格を持つ運転手が高齢者や身障者などの要介護者の介助などを行いながら送迎をするタクシー」と認識されているとするのが相当である。
これらについては,例えば,以下の新聞記事やインターネット情報などからも裏付けられるものであり,また,当審において,請求人が平成17年2月25日付けで提出した物件である「奈良テレビ2001年2月26日放映されたVTRテープ」(本訴甲13)において,テレビキャスターが「車両に車椅子用のリフトがついていて,運転手がヘルパー2級などの資格を持っている場合は『介護タクシー』,資格を持っていない場合は『福祉タクシー』といいます。また,介護報酬が適用されるかどうかの違いもあります。」と説明している内容とも一致するものである。
(1)新聞記事例ア)読売新聞2004年5月7日西部朝刊32頁 (本訴乙3の1)「介護タクシーで高齢者に食事配達宮崎市で全国初のサービス開始=宮崎」のタイトルの下,「・・介護タクシーは,ホームヘルパーの資格を持った運転手が,利用者の自宅ベッドから病院まで付き添うなどのサービスを行うもの。・・」との記載がある。
イ)朝日新聞2003年12月25日大阪地方版/京都26頁京都版 (本訴乙3の2)「『報酬不正請求の返還を』介護タクシーに要求府内で初/京都」のタイトルの下,「・・介護タクシーはヘルパー資格を持つ運転手が通院の送迎や乗降介助などをする。・・」との記載がある。
ウ)毎日新聞2003年3月12日西部朝刊23頁 (本訴乙3の3)「きょうにも許可取り消し・・・介護タクシー継続宣言--福岡・岡垣町の『メディス』」のタイトルの下,「・・介護タクシーは,ホームヘルパーなどの資格を持ったタクシー運転手が,高齢者や身障者などの介助をしながら送迎するサービス。・・」との記載がある。
エ)読売新聞2003年1月22日東京朝刊34頁 (本訴乙3の4)「介護タクシー,運賃どうなる?4月から報酬減額で対応に頭悩ます各社=多摩」のタイトルの下,「・・介護タクシーは,介護保険の訪問介護事業者の指定を受けたタクシー会社が,ヘルパーなどの資格を持つ運転手に利用者の乗り降りなどを手伝わせ,通院などに利用してもらうサービス。・・」との記載がある。
オ)朝日新聞2003年1月15日東京地方版/山梨35頁山梨版 (本訴乙3の5)「介護タクシーが人気定期利用者は60人予約でいっぱい/山梨」のタイトルの下,「・・介護タクシーはホームヘルパーの資格を持つ運転手が『身体介護型の訪問介護』としてお年寄りの乗り降りを助けながら,病院まで送迎するサービス。・・」との記載がある。
カ)朝日新聞2002年11月26日東京地方版/栃木35頁栃木版 (本訴乙3の6)「介護タクシーサービス導入,来年4月に先延ばし鹿沼市/栃木」のタイトルの下,「・・介護タクシーは,ホームヘルパーの資格を持つ運転手が高齢者の通院を手助けするサービス。・・」との記載がある。
キ)朝日新聞2002年11月21日大阪地方版/徳島24頁徳島版 (本訴乙3の7)「利用者に好評,介護タクシー(徳島TODAY)/徳島」のタイトルの下,「・・介護タクシーは,ホームヘルパー2級など介護の資格を取得した運転手が乗務し,通院介護が必要で介護認定を受けた人を対象に,病院などに運ぶ。・・」との記載がある。
(2)インターネット検索情報例ク)キングタクシーホームページhttp://www.kingtaxi.co.jp/kaigo1.htm(乙4の1)「・・介護タクシーの内容介護タクシーとは,介護を必要とする方々への移動手段を提供するものとして生まれた新しいサービスです。介護タクシーの乗務員は,利用者の各種ご要望にお応えする為にホームヘルパー2級以上の資格を取得しており,安心できるサービスをご提供します。サービスの内容は,タクシーの乗降を介助する乗降介助や,買い物や病院などの付き添いを行う買物介助・身体介護,おひとりでは身の回りのことをすることが困難な人の為に着替え,排泄のお手伝い,食事,洗濯,掃除等を行う生活援助などがあり,優秀なスタッフがこれに対応します。・・」との記載がある。
ケ)株式会社介護JAPANホームページhttp://kaigo-taxi.style-j.net/index.html(乙4の2)「・・介護タクシーとは,介護や補助が必要な高齢者や身体障害者の方が外出される時に,車椅子や自宅のベッドからの乗降など,いろいろな介助をするタクシーのことです。介護タクシーの運転手はホームヘルパーの資格を持つ者に限られていますので,安心して利用することができます。・・」との記載がある。
コ)日タク介護タクシーのホームページhttp://www.nippontaxi-grp.co.jp/fukushi/fukushi.html(乙4の3)「・・介護タクシーとは・・・今まで一人歩きが不安で家に閉じこもりがちだった高齢者の方や,障害をお持ちの方に,介護乗務員がお手伝いをして安心して外出して頂く為のサービスです。
◎ ホームヘルパー2級の資格を取得した介護乗務員があなたの外出のお手伝いを致します・・」との記載がある。
サ)2002年7月28日四国新聞掲載記事http://www.shikoku-np.co.jp/feature/tuiseki/180/index.htm (乙4の4)「・・介護タクシーとは介護保険制度の訪問介護事業者に指定されたタクシー会社で,ヘルパーの資格を持つ運転手が要介護認定者を対象に,通院の際のタクシーの乗降・外出介助などを行う。・・」との記載がある。
シ)国土交通省ホームページより「交通政策審議会陸上交通分科会自動車交通部会タクシーサービスの将来ビジョン小委員会報告書〜総合生活移動産業への転換を目指して〜平成18年7月」4頁 http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha06/09/090707/01.pdf (乙4の5)「・・ホームヘルパーの資格等を取得したタクシー乗務員が必要な介護とともに身体障害者・高齢者の外出をサポートする介護タクシーなども普及しつつある。・・」との記載がある。
してみれば,「介護タクシー」の文字よりなる本願商標は,これをその指定役務中「高齢者や身障者などの要介護者の介助などを行いながら送迎をするタクシーによる輸送及びその送迎時に用いる車椅子の貸与」に使用するときは,これに接する取引者,需要者は,単に役務の質,内容を表示したものと理解するにとどまるものであり,よって自他役務の識別標識としての機能を果たし得ない。
また,これを上記に照応する役務以外の役務に使用するときは,役務の質の誤認を生ずるおそれがあるといわなければならない。
なお,請求人は,原査定において認定した「介護タクシー」の意味合いは,あくまでも法令上の語意であり,法令の改廃により,その意味は変更するものであるとして,原査定の認定を論難し,また,請求人の業務に係る「介護タクシー」は2人乗務(運転手と介護者からなる)の本格的介護タクシーであることを主張する。
請求人が主張せんとするところは,本願商標の自他役務の識別力との関係上,必ずしも明瞭ではないが,これについて検討するに,「介護タクシー」の用語自体は,法令上特段の定義規定が存在するものではなく,「介護タクシー」の取扱いについては,タクシー事業を所管する国土交通省及び介護保険を所管する厚生労働省のそれぞれにおいて,時宜に応じて種々の通達等が発せられているところである。そして,介護タクシー事業の許認可(正式には「一般常用旅客自動車運送事業(患者等輸送事業限定)経営許可」)については,各地方運輸局単位で申請・許可の手続きがなされ,各局毎に審査基準を設けていることが認められる(国土交通省関東運輸局の介護タクシー許可に関する審査基準のサイトhttp://www.ktt.mlit.go.jp/jidou_koutu/tabi2/data/001_h_kijyun_1803.pdf,同中部運輸局の関係サイトhttp://www.mlit.go.jp/chubu/jidosya/kannjya/kannjya_kihon_kouji.pdf,同近畿運輸局の関係サイトhttp://www.kkt.mlit.go.jp/koutsu/taxi/kouji.pdf等参照。)。
これらに記載された申請手続きや審査基準等によれば,介護タクシーの事業許可を得るには,事業用自動車は車椅子等の乗降を容易にするための装置を設けたものであることが課されているが,乗務員が介護福祉士やホームヘルパーの資格を有していることは必ずしも要件とはされていないものの,セダン型の一般車両の場合は乗務員が有資格者であることが課せられている事実が認められる。上記のように,介護タクシーに関する多くの新聞記事,インターネット情報において,運転手が有資格者であることが説明されているのは,取引業界においては事実上,そのようなタクシーが多いことによるものと推定される。そして,いずれにしても,請求人が実際に業務を行っているとする2人乗務の介護タクシーも,事業許可にあたって所定の要件を備えるべきことでは,運転手のみ1人乗務の介護タクシーと同様であり,運転手と介護者の2人の乗務体制にするということは,単に提供する役務の質をより高めるための一手段・方法ではあろうが,そのことと請求人に本願商標の登録,独占使用を認めるべき理由とは全く別問題である。
また,請求人は,物件(1.広告用チラシ,2.許認可の写し,3.奈良テレビVTRテープ)を提出し,本願商標は商標法3条2項に基づき登録されるべきことを主張する。
しかしながら,これら資料において使用されている「介護タクシー」の表示は,当該業務の内容を説明するためのいわば記述的な表示にすぎず,請求人の商標としての使用ということはできない。これら資料において,請求人が商標として使用していると思しきものは「ライサポタクシー」,「ライサポTAXI」の文字ないしは,3人が乗車したミニバン型タクシーの図形と「介護タクシー」の文字が結合した表示であり,いずれも,本願商標とは構成態様を全く異にするものである。したがって,請求人の,商標法3条2項の主張は認められない。
更に,請求人は,請求人の所有に係る登録第4827516号及び同第4752348号商標を例にあげているが,これらはいずれも,上記のとおり,3人が乗車したミニバン型タクシーの図形と「介護タクシー」の文字が結合した構成からなる商標であり,本願商標とは構成,態様を異にするものであるから,上記判断を左右するものではない。
以上のとおり,請求人の主張はいずれも採用できないものであり,本願商標が商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当するとした原査定は妥当なものであって,取り消すことはできない。」第3原告の主張の要点審決は,本願商標が商標法3条1項3号及び4条1項16号に該当し,また,商標法3条2項には当たらないので,商標登録を受けることはできないと判断したが,この判断は誤りであるから,取り消されるべきである。
1商標法3条1項3号該当性について審決は,本願商標について,「介護資格を持つ運転手が高齢者や身障者などの要介護者の介助などを行いながら送迎をするタクシーを指称する語」(審決書1頁下から13〜12行)と認定したが,この認定は誤りである。
原告の役務態様の内容は,起業時から一貫して,公共交通機関(電車,バス,タクシー,船,飛行機等)に必ず介護員が乗り込み,運転手の介護資格の有無に関係なく,添乗介護輸送する形態であり,これは審決が認定する役務態様とは全く異なる。原告の介護タクシー事業の役務内容,質などは,誰にも真似できないものであり,需要者の期待も高い。
また,審決は,原告が提出した広告用チラシ,認可書の写し,録画テープ等の資料について「当該業務の内容を説明するためのいわば記述的な表示にすぎず」(審決書6頁5行)としているが,指定商品指定役務には商標の使用に違いがあるのは当然であり,無形物自体に表示できなくとも,広告媒体やインタビューを通じて呼称されることもある。原告は,「介護タクシーです」と呼称することをこれまで徹底して続けてきており,需要者からは立派な役務行為であると認識されている。
原告は,陸運局を通じて近畿管理局に照会し,「介護タクシー」との表示が可能であるとの回答を受け,全国で唯一「介護タクシー」と表示することを認められた。
このことからも,原告による本願商標の使用が,自他役務の識別機能を果たし得ることは明らかである。
したがって,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとの審決の判断は誤りである。
2商標法4条1項16号該当性について審決は,本願商標を介護タクシーによる輸送以外の役務に使用するときは,役務の質の誤認を生じさせるおそれがあると判断しているが,原告の役務態様は,原告の介護タクシーを利用したとしても,他車のタクシーを利用したとしても,タクシーを輸送の手段として利用しているにすぎず,介護員が終始付き添いながら移送する輸送であるから,取引者,需要者が誤認することはない。また,取引者,需要者は,高齢者,身障者等の特定の要介護者であって,普通のタクシーのように不特定多数の健常者ではない。介護状況を維持しながら,要介護者を輸送するには,十分な説明と打合せが必要であり,質の誤認が生じるおそれなどない。
したがって,本件商標を「タクシーによる輸送,車椅子の態様」以外の役務に使用するときは,商標法4条1項16号に該当するとの審決の判断は誤りである。
3商標法3条2項該当性について「介護タクシー」を表示するタクシー事業者の多くは,平成15年の介護保険法の改正により「乗降介助報酬基準」が新たに設けられたことによる参入事業者であり,審決が指摘する記事広告等の「介護タクシー」事業者である。これに対し,原告は,他の事業者にない「介護タクシー」車両そのものを創作し,その実績や売上げが示すとおり,他者の追随を許さぬ事業展開をしてきた。したがって,本願商標は,その使用の結果,需要者が原告の業務に係る役務であることを認識し得るものであり,商標法3条2項に基づき商標登録を受けることができる。
本願商標が商標法3条2項には該当しないとの審決の判断は,誤りである。
第4被告の主張の要点1商標法3条1項3号及び4条1項16号該当性について本願商標は,「介護タクシー」の文字を普通に用いられる方法で横書きしてなり,第39類「タクシーによる輸送,車椅子の貸与」を指定役務とするものであるところ,本件証拠によれば,「介護タクシー」とは,一般に「介護資格を持つ運転手が高齢者や身障者などの要介護者の介助などを行いながら送迎をするタクシー」との意味合いを有する語として認識されているというべきである。
したがって,本願商標は,これをその指定役務中,「高齢者や身障者などの要介護者の介助などを行いながら送迎をするタクシーによる輸送及びその送迎時に用いる車椅子の貸与」に使用するときは,取引者,需要者をして,単に役務の質,内容を表示したものと認識させるにとどまるものであるから,商標法3条1項3号に該当し,また,上記以外の役務(例えば,いわゆる通常のタクシーによる輸送や通常の車椅子の貸与)に使用するときは,これに接する取引者,需要者は,これがあたかも上記役務であるかのごとく誤認するおそれがあるものであるから,商標法4条1項16号に該当する。
2商標法3条2項該当性について原告は,本願商標について,商標法3条2項の要件を具備するものであって,登録を受けることができると主張する。
しかしながら,商標法3条2項に基づき使用により識別力を有するに至った商標として登録が認められるのは,その商標と同一の商標及びその商標を使用している商品又は役務と同一の商品又は役務に関する場合に限られる。原告が審判手続において提出した資料における「介護タクシー」の文字は,商標の本質である自他役務の識別標識として使用されているものとはいい得ないものであり,かつ,本願商標と同一のものということもできない。
第5当裁判所の判断1商標法3条1項3号及び4条1項16号該当性について(1)本願商標は,「介護タクシー」の文字を横書きしてなるものであるところ,「介護タクシー」とは,集英社「imidas 2005」638頁(乙2の1)に「訪問介護事業所の指定を受けたタクシー会社がホームヘルパーの資格のある運転手により移送と乗降介助等を行うタクシー。」と記載され,自由国民社「現代用語の基礎知識2005」897頁(乙2の2)には「ホームヘルパーなどの資格をもったタクシー運転手(ケアドライバー等とよぶ)が,高齢者や身障者などの介助などを行いながら送迎を行うサービス。」と記載され,朝日新聞社「知恵蔵2006」423頁(乙2の3)には,「運転手がヘルパーの資格を持ち,介護保険の訪問介護事業者の指定を受けたタクシー。」と記載されているとおり,一般的には,「介護資格を持つ運転手が高齢者や身障者などの要介護者の介助などを行いながら送迎をするタクシー」を意味すると解するのが相当である。
そして,このことは,審決の摘示する新聞記事等,例えば,「介護タクシーは,ホームヘルパーの資格を持った運転手が,利用者の自宅ベッドから病院まで付き添うなどのサービスを行うもの。」(2004年5月7日付け読売新聞32頁(乙3の1)),「介護タクシーはヘルパー資格を持つ運転手が通院の送迎や乗降介助などをする。」(2003年12月25日付け朝日新聞26頁(乙3の2))「介護タクシーは,ホームヘルパーなどの資格を持ったタクシー運転手が,高齢者や身障者などの介助をしながら送迎するサービス。」(2003年3月12日付け毎日新聞23頁(乙3の3)),「ホームヘルパーの資格等を取得したタクシー乗務員が必要な介護とともに身体障害者・高齢者の外出をサポートする介護タクシー」(「交通政策審議会陸上交通分科会自動車交通部会タクシーサービスの将来ビジョン小委員会報告書〜総合生活移動産業への転換を目指して〜平成18年7月」4頁(国土交通省ホームページ登載,http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha06/09/090707/01.pdf),乙4の5)などの記載からも明らかである。
以上によれば,本願商標は,これを,指定役務中,「介護タクシーによる輸送,車椅子の貸与」との役務に用いる場合には,商標法3条1項3号にいう「その役務の質,用途,態様を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当し,これを前記指定役務のその他の役務,例えば,通常のタクシーによる輸送,車椅子の貸与などの役務に用いる場合には,需要者に役務の質などの誤認を生じさせるおそれがあるものとして,商標法4条1項16号に該当し,商標登録を受けることができないものというべきである。
(2)これに対し,原告は,原告の役務態様の内容は,公共交通機関に必ず介護員が乗り込み,添乗介護輸送する形態であるから,審決が認定する役務態様とは異なると主張する。
確かに,要介護者が交通機関で移動する際に,介護員が要介護者とともに交通機関に添乗し,要介護者を補助する役務の具体的形態には,様々なものが考えられ,運転手が介護資格を有する場合には限られない。しかしながら,本願商標に係る「介護タクシー」という用語は,その通常の用例に照らしても,要介護者を介助しながらタクシーで送迎する役務一般を意味するものと理解できるのであり,実際のところ,用語解説書や新聞記事等において,「介護資格を持つ運転手が高齢者や身障者などの要介護者の介助などを行いながら送迎をするタクシー」を一般的に示す言葉として広く用いられていることは前記判示のとおりである。そうすると,原告の提供している役務の態様が,原告の主張するとおり,運転手の介護資格の有無に関係なく介護員が添乗介護するものであるとしても,「介護タクシー」との文字から構成される本願商標は,役務の質や態様を普通に用いられる方法で表示する標章に当たるというべきである。
また,原告は,「介護タクシーです」と呼称することをこれまで徹底して続けてきたこと,全国で唯一「介護タクシー」と表示することを認められたことなどを指摘して,本願商標は,商標法3条1項3号に該当しないと主張するが,「介護タクシー」という言葉が役務の質や態様を意味するものとして一般的に用いられているものと認められることは前記判示のとおりであり,原告の指摘するような事情は,そのような事実が認められるとしても,審決の結論を左右するものではない。
本願商標の商標法4条1項16号該当性について,原告は,原告の役務の利用者は,要介護者などの限られた範囲の取引者,需要者を対象とするものであるから,役務の質などの誤認が生じるおそれはないと主張する。しかしながら,本願商標の指定役務は「タクシーによる輸送,車椅子の貸与」であるから,その需要者は原告の提供する役務の利用者に限らず,タクシーによる輸送を利用し,又はその可能性のある者全体に及ぶと解すべきであり,本願商標を介護タクシーに輸送,車椅子の態様以外の役務に使用した場合には,役務の質などについて需要者に誤認を生じさせるおそれがあることは明らかである。
2商標法3条2項該当性について原告は,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとしても,原告は,他の事業者にない「介護タクシー」車両そのものを創作し,その実績や売上げが示すとおり,他者の追随を許さぬ事業展開をしてきた結果,需要者は本願商標を原告の業務に係る役務であると認識することができるのであるから,商標法3条2項に基づき商標登録を受けることができると主張する。
しかしながら,本件証拠には,例えば,平成13年1月11日付け奈良新聞(甲10の4)に「介護が必要なお年寄りを病院へ送迎する際など,自治体から介護報酬を得る代わりに運賃を無料にする「介護タクシー」が全国で増えているが,県内で初めて有限会社ヤマキ代務サービス(判決注:原告はその取締役)が,同様のサービス「ライサポタクシー」を始めた」との記事が掲載されるなど,「介護タクシー」が一般的な用語として用いられ,あるいは,原告が「ライサポタクシー」又は「ライサポTAXI」(甲11の1)という名称の役務を提供しているとの事実を示す証拠は存在するが,原告が本願商標を自己の提供する役務に使用した結果,需要者が本願商標を原告の業務に係る役務であると認識するに至ったと認めるに足る的確な証拠はない。
したがって,本願商標が商標法3条2項に該当するとの原告主張は採用することができない。
3結論以上のとおり,原告の主張には理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 石原直樹
裁判官 佐藤達文