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事件 平成 17年 (ワ) 4869号 損害賠償等請求事件
原告株 式会社エコリカ
訴訟代理人弁護 士溝上哲也
同 岩原義則
被告ジット株式会社
訴訟代理人弁護 士柴山聡
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2007/02/01
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告は,原告に対し,348万6989円及びこれに対する平成17年6月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,これを10分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
全容
第1請求被告は,原告に対し,3613万2731円及びこれに対する訴状送達の日である平成17年6月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要本件は,原告が,@株式会社ノジマ(以下「ノジマ」という。)から被告に,原告所有の使用済みのプリンタ用インクカートリッジが誤送付されたところ,これを被告が取り込んだことが,委任終了による委任事務清算義務違反による債務不履行ないし不法行為である,A株式会社ヤマダ電機(以下「ヤマダ電機」という。)テックランド甲府店に原告が設置した空カートリッジ回収ボックスに入れられていた原告所有の空カートリッジを被告が取り込んだことが,委任終了による委任事務清算義務違反による債務不履行ないし不法行為である,B被告が,別紙被告第1,第2標章目録記載の標章を使用した商品を販売したことが原告の商標権を侵害する行為であるとして,原告が被告に対し損害賠償及び遅延損害金を請求する訴訟である。
1基礎となる事実(証拠により認定した事実は,末尾に証拠を掲げた。それ以外は,争いのない事実である。)(1)原告は,リサイクル事務用機器の製造及び販売等を目的とする株式会社,被告は,事務用機器及びその部品等の組立加工等を目的とする株式会社である。
(2)平成16年7月以前には,リサイクルインクカートリッジに関して,原告が被告に製造を発注し,被告において製造をして原告に納品し,原告が被告その他の会社に販売し,そこから更に小売店等に販売されるという流通体制であった。(乙2の3・5・6,3の3,7)(3)原告は,平成15年7月1日以降,インク・トナのリサイクルのため,消費者(最終ユーザー)から空カートリッジを回収する回収ボックスを各顧客先に設置した。回収された空カートリッジのうちリサイクル可能な物は,リサイクルされて市場(各顧客先)に販売されるが,原告が被告にインクカートリッジの製造を発注していたことから,製造の便宜のため各顧客先から回収される空カートリッジ回収先を被告に指定し,各顧客先から直接被告に着払いで送付するシステムを採用していた。
平成16年7月,原告は,被告に債務不履行があると主張して製造委託契約解除の意思表示をし,同年8月,被告がインクカートリッジの売買代金請求訴訟(甲府地方裁判所平成16年(ワ)第306号,第307号事件。以下「前件訴訟」という。)を提起して,両者の間に紛争が生じたが,同年11月29日,「原告(判決注・本訴被告を指す。)は,・・・その客先に設置した回収ボックスを今後使用しない。」との条項を含む訴訟上の和解が成立した(以下「前件和解」という。)。
前件和解以後である別紙空カートリッジ一覧表(原告)(別紙1)の送付日(ただし,「?」は日付不明の意味である。)ころ,原告が回収ボックスを設置していた顧客先であるノジマは,被告に空カートリッジ(以下「本件空カートリッジ」という。)を送付し,被告が代金着払いで本件空カートリッジを受け取った。(同表送付日欄20,22,23につき,同表証拠欄記載の証拠)本件空カートリッジは,もはや被告が費消して存在しないか,又は被告所有の他の物と混同して分離できなくなっている。
(4)平成17年5月26日ころ,原告の回収ボックスに被告のシールを貼ったという外形の回収ボックスが,ヤマダ電機テックランド甲府店に存在していた。(日付については甲8)(5)原告は,以下の各商標権(以下,まとめて「原告商標」という。)を有する。
ア登録商標別紙原告第1商標目録のとおり登録番号第4756447号登録日平成16年3月19日指定商品第2類インクジェットプリンター用インク,プリンター用インクカートリッジイ登録商標別紙原告第2商標目録のとおり登録番号第4769120号登録日平成16年5月14日指定商品第2類インクジェットプリンター用インク,電子計算機用プリンターのインクカートリッジ(6)被告は,ヤマダ電機に対し,被告が製造したインクカートリッジを,別紙被告第1,第2標章目録記載の標章(以下,まとめて「被告標章」という。)を付したビニール包装袋に入れて販売したことがある(以下,この商品を「本件商品」という。)。原告商標と被告標章は,同一ないし類似である。
2争点(1)ノジマから送付された本件空カートリッジに関する争点ア被告が受領した際の本件空カートリッジは,原告の所有であったかイ原告の損害(ア)本件空カートリッジの価値(イ)エレコム株式会社(以下「エレコム」という。)からの請求による損害(ウ)信用毀損,営業妨害による損害(エ)弁護士費用(2)ヤマダ電機テックランド甲府店に設置された回収ボックス中の空カートリッジに関する争点ア上記回収ボックス中の空カートリッジは,原告の所有であったかイ原告の損害(ア)上記空カートリッジの価値(イ)信用毀損,営業妨害による損害(ウ)弁護士費用(3)商標権侵害に関する争点ア本件商品の販売は商標権侵害ではない,又は商標権侵害の実質を備えていないといえるか。
イ本訴請求に係る商標権侵害は,前件和解により解決済みか。
ウ原告の損害(ア)商標法38条2項による算定(被告の利益)(イ)信用毀損による損害(ウ)弁護士費用3当事者の主張(1)ノジマから送付された空カートリッジに関する争点ア被告が受領した際の本件空カートリッジは,原告の所有であったか(原告の主張)(ア)ノジマにおける空カートリッジの回収方法は,@ノジマに原告所有の回収ボックスを,ノジマの承諾を受けて設置し,これに消費者が入れた空カートリッジを回収する方法と,A消費者から1個当たり10円を支払って回収する方法とがある。
(イ)@の方法では,回収ボックス(大)には,「全メーカープリンター用インク&トナーカートリッジ回収ボックス」と表示し,原告商標,原告のHPアドレスを付し,リサイクルの趣旨と消費者に協力を求める形で説明を付している。回収ボックス(小)には,同趣旨の説明と,「回収カートリッジの所有権はエコリカに移転いたします。」と記載されたシールが貼られている。空カートリッジの所有権は,消費者が空カートリッジ回収ボックスに空カートリッジを入れた時点で原告に移転する。
法的には,原告にリサイクルするという負担がある負担付贈与である。
(ウ)Aの方法では,ノジマが原告から1個20円の回収料で空カートリッジの回収を委託されているという関係にあり,ノジマが消費者から空カートリッジを回収した時点で,所有権は原告に移転する。
(エ)仮に,@又はAの方法において,消費者がノジマに渡すという意思を持っていたとしても,ノジマと原告との契約により,遅くとも空カートリッジが原告に到達するまでには,原告に所有権が移転している。
(被告の主張)(ア)現在ノジマは原告主張に係る@の方法(回収ボックスによる回収)をしていない。
(イ)上記@の方法に関する原告の主張は,消費者が回収ボックスに書かれていることを認識し,かつ空カートリッジ投入によって履行が完了するとの認識を有していることが大前提であるが,あまりに技巧的すぎる。
ノジマが原告に対し着払いで送付した事実を受けて,原告が検収検品を行い個数を特定して1個20円を支払うというのであるから,これは売買の対価である。したがって,本件空カートリッジについては,まだ売買契約が成立していないから,原告は所有権者ではない。
(ウ)上記Aの方法では,ノジマは,空カートリッジの買取りについて,原告との関係に何ら説明を加えることなく,消費者に広告しており,その広告では,むしろ純正品メーカーへの返還がされているとさえ思わせる内容である。
イ原告の損害(原告の主張)(ア)本件空カートリッジの価値296万1250円a本件空カートリッジの個数ノジマから被告への本件空カートリッジの送付は,佐川急便の宅配便が利用されているが,その送付状には,別紙空カートリッジ一覧表(原告)(別紙1)の送付状記載表示のとおりの表示がある。このうち,10,20は重量の表示である。もっと大きな数字はサイズであり,佐川急便のサイズ運賃は,サイズ100は10s,140は20s,160は30sなどと規定され,これより重量の重い物は,10sごとに170,180とサイズが上がっていくから,記載されたサイズを重量に変換すると,同表の送付重量欄のとおりとなる。重量が送り状に記載されているのは75枚あり,総重量は1782sであるから,その平均重量は23sである。したがって,全体(送り状合計103枚)の総重量は2369s(算式は23s×103=2369s)と推計される。空カートリッジの重量は,多くても一個40gであるから,空カートリッジの総数は,59225個(算式は,2369s÷40g=59225)を下らない。
b本件空カートリッジの1個当たりの価値本件空カートリッジの時価は,1個当たり50円を下らない。
c本件空カートリッジ全体の価値本件空カートリッジ全体の価値は,296万1250円を下らない(算式は,50円×59225個=296万1250円)。
(イ)エレコムからの請求による損害66万0800円ノジマは,平成16年7月までは,消費者から集めた空カートリッジの数量を正確に把握することなく原告に送付し,原告から回収手数料(1個20円)の支払いを受けるという形式をとっていた。同年8月ころからは,独自に1個10円を消費者に渡すことで空カートリッジの回収を強化した。平成16年12月から平成17年2月までのノジマ側のPOSデータの数量と,原告の回収数量を比較すると,3万3040個の差がある。これが,同期間に,被告が原告から取り込んだ本件空カートリッジの数量である。原告はノジマから,エレコムを通じて,この数量に1個20円を乗じた66万0800円の請求を受けた。この請求は,被告が本件空カートリッジを取り込まなければ発生しなかった請求であり,被告の行為と因果関係のある損害である。
(ウ)信用毀損,営業妨害による損害50万円被告が原告に入るべき本件空カートリッジを取り込んだことで,原告はノジマ及びエレコムから,適正な回収手数料を支払わない会社としてのレッテルを貼られた。また,過去の空カートリッジ回収数量についても遡って清算を求められた上,対外的な信用度も疑問視されるなど,原告の社会的評価が低減した。また,被告が原告に入るべき空カートリッジを取り込んだために,原材料となる空カートリッジが原告に入らず不足したものもあった。これら被告の信用毀損,営業妨害による原告の損害は,50万円を下らない。
(エ)弁護士費用弁護士費用は,41万2205円を下らない。
(被告の主張)(ア)本件空カートリッジの価値a本件空カートリッジの個数空カートリッジを回収すると,現実には被告の製造に適しない型が約半分,残りの3割から4割は破損等問題品で使用できずに廃棄に回されている。原告の提出書証(甲2)を基に,社内資料を追いかけたところ,本件空カートリッジのうち,使用できた個数は,別紙空カートリッジ一覧表(被告)(別紙2)の「21シリーズ」「キャノン」「HP」欄記載のとおりの数であり,合計9414個であった。
b本件空カートリッジの1個当たりの価値本件空カートリッジの時価が1個当たり50円であることは否認する。また,仮に,この単価を前提としても,原告が本件空カートリッジの所有者として使用収益処分するには,着払い費用の負担及び1個当たり20円の支払いをしなければならないから,その分は損害から控除されるべきである。
着払い費用は,荷物一個当たり1000円を下らないから,81回分に対応する着払い料金としては合計で8万1000円を下らない。
(イ)エレコムからの請求分エレコムからの請求は,被告が空カートリッジを取り込まずに原告のところへ回収がされていても本来的に支払うべきものとも理解される。
そうであれば,同じ損害を別の角度から見ただけの二重請求ということになる。
(2)ヤマダ電機テックランド甲府店に設置された回収ボックス中の空カートリッジに関する争点ア上記回収ボックス中の空カートリッジは,原告の所有であり,被告はその所有権を侵害したか。
(原告の主張)原告は,ヤマダ電機テックランド甲府店に回収ボックスを設置していた。
この回収ボックスに消費者がリサイクルの意図で投入した空カートリッジは,贈与により原告の所有となる。
被告は,平成16年11月29日(前件和解成立時)から原告が撤収した平成17年5月26日までの間,上記回収ボックスに自らの標章を付したシールを貼り,消費者を誤認させ,原告に対してリサイクルを委ねた空カートリッジを取り込んだのである。
(被告の主張)原告は,過去において,一度もヤマダ電機テックランド甲府店に回収ボックスを設置していない。被告が,原告に出資して参画していた当時,原告の回収ボックスをサンプルとして1個譲受けた。前件和解以後,被告は,被告が譲受けて所有していたこの回収ボックスを,捨ててしまうのは勿体ないので,被告の標章を付したシールを貼って,原告の痕跡をなくしてヤマダ電機テックランド甲府店に設置したのである。このように,被告は,消費者を誤認させたわけではなく,消費者が原告に対してリサイクルを委ねたわけでもない。
イ原告の損害額(原告の主張)(ア)所有権侵害による損害65万7900円空カートリッジは,ノジマでは1店舗当たり平均1か月2193個であるから,被告が約6か月間に取り込んだ空カートリッジの個数は,1万3158個である。空カートリッジの時価は,1個50円を下らないから,合計65万7900円(50円×13158個=65万7900円)を下らない。
(イ)信用毀損・営業妨害50万円被告が,上記偽装回収ボックスを設置し,原告に入るべき空カートリッジを取り込んだために,原告は,ヤマダ電機から回収ボックスの管理不行届きを指摘される立場となり,消費者に不信感を与え,対外的な信用度を疑問視されるなど,信用が毀損され社会的評価が低減した。また,被告が原告に入るべき空カートリッジを取り込んだために,原材料となる空カートリッジが原告に入らず不足したものもあった。これら被告の信用毀損,営業妨害による原告の損害は,50万円を下らない。
(ウ)弁護士費用 11万5790円(被告の主張)争う。
(3)商標権侵害に関する争点ア本件商品の販売は商標権侵害ではない,又は商標権侵害の実質を備えていないといえるか。
(原告の主張)前件和解成立以前の商品の流れは,原告(発注)↑被告(製造)↑原告(販売)↑被告(販売)↑客先というシステムを採用していた。上記システムを原告が採用する意味は,原告が,原告商標を付して販売する製品が原告により販売されたという意味での「出所表示機能」と,原告がいったん被告製造製品を買い取ることで,原告商標を付した製品についての品質につき責任を負うという意味での「品質表示機能」を保護できるところにある。このシステムに乗らない製品販売は,たとえ,製品が原告製品と同じ品質であっても,「原告製品」とはいえない「非正規品」の被告製品である。
このシステムを経ていない製品は,原告の許諾を得ずして「勝手に商標を使用した」ということになるから,原告商標の出所表示機能,品質表示機能が害されている。
(被告の主張)被告は,従来,原告製品の製造のすべてを行っており,お客様窓口も被告であった。被告も原告に商品を売るだけではなく,いったん原告に売った商品を被告が買い取って,各小売店に卸すこともあった。本件商品も,カートリッジの内容,品質は,原告に納品していた物と相違ない。
本件商品のヤマダ電機への納品は,ヤマダ電機から「エコリカ製品」を納入するようにと言われて行ったことである。被告もヤマダ電機も,本件商品はエコリカ製品という認識であり,ヤマダ電機は,原告の販売ブースに陳列していた。被告は,本件商品にシール等を貼付したが,これは装飾効果を有するにすぎない。
したがって,本件商品は,原告製品であるから,原告商標の商標権侵害にはならない。
仮にそうでないとしても,以上の事実があるから,本件商品の販売は,商標権侵害の実質を備えていない。
イ本訴請求に係る商標権侵害は,前件和解により解決済みか。
(原告の主張)前件訴訟は,被告から原告に対するインクカートリッジ代金の支払いを求める売買代金請求訴訟である。本件商品の販売による商標権侵害に基づく損害賠償請求は,前件和解当時話題にすらなっておらず,前件和解の対象となっていない。
(被告の主張)本件商品は,平成16年11月10日が最終出荷である。前件和解において,平成16年11月29日以前の事象については解決済みである。したがって,本件商品の販売についても解決済みである。
前件和解においては,被告としても原告から注文済みの商品で既に完成している物も多数あり,その引き取りを要求したりしたが,最終的には原告において引き取らず,よって被告において処分してよいということで確定した。
ウ原告の損害(原告の主張)(ア)商標法38条2項による推定2456万7988円被告は,平成16年8月から平成17年11月まで,本件商品(被告標章を付したもの)を1個あたり別紙被告商品一覧表(別紙3)の「利益額/個」欄記載の各金額の利益額で,少なくとも1店あたり同表「数量/店」欄記載の各数量を別紙「ヤマダデンキJIT製品取り扱い店舗一覧表(142店舗)」(別紙4)記載の各ヤマダ電機の店舗で販売した。したがって,被告の被告標章使用による利益は,2456万7988円(17万3014円×142=2456万7988円)である。商標法38条2項により,同額が原告の損害と推定される。
(イ)信用毀損による損害300万円被告は,原告が何ら管理しない被告独自のJANコードを付して本件商品を販売した。被告が,本件商品を販売したことにより,原告商標が表示されたビニール包装袋の有する世間の評価と信頼を傷つけられ,原告の信用は毀損された。その信用毀損による損害は,300万円を下らない。
(ウ)弁護士費用275万6798円(被告の主張)商標法38条2項による推定について,本件商品を販売した時期としては,平成16年10月22日以降ということになり,終期は,同年11月10日以降はあり得ない。全国行脚により各店舗に要請をして,この時以降は,被告のブランド(以下「ジットブランド」という。)製品への総入替えずみである。数量は,被告代表者の認識としてはせいぜい100個程度というものである。利益率は,商品により,48.1%ないし64.3%である。
リサイクル品を求めるエンドユーザーは,純正品との比較において価格が安いことが唯一の購買動機であって,エコリカ製品のシールやパッケージによって購入を決めるものではない。
第4当裁判所の判断1争点(1)(本件空カートリッジ関係)について(1)争点(1)ア(本件空カートリッジの所有権)についてア証拠(甲11ないし13,20,乙5。特に明示しない限り枝番はすべて含む。以下同じ。)によれば,ノジマにおける空カートリッジの回収方法は,@ノジマに原告所有の回収ボックスを,ノジマの承諾を受けて設置し,これに消費者が入れた空カートリッジを回収する方法と,A1個当たり10円を支払ってレジで消費者から回収する方法とがあることが認められる。
イ上記@の方法に関して判断する。
証拠(甲11ないし13)によれば,原告の回収ボックスには「インクカートリッジ回収口」「回収BOX」などと大きく書かれ,単に回収口にインクカートリッジを投入するものであるため,いったん投入してしまうと,その空カートリッジは,消費者が独自にそれを取り出すことも,その存在を確認することもできなくなることが認められる。上記事実に,空カートリッジは,消費者にとってはほとんど価値がないことを合わせ考慮すれば,原告の回収ボックスに空カートリッジを投入する消費者は,自分がノジマの店内から退去した後も空カートリッジは回収ボックス内に残り,自分の占有は完全に失われて処分等に全く関与できなくなり,その後,回収ボックス設置者によって,設置の趣旨に従って処分されるものと認識しつつ,その処分に委ねる意思で投入するものと認められる。そして,弁論の全趣旨によれば,原告の回収ボックスは,原告が顧客先であるノジマの了解を得て,消費者から空カートリッジの投入を受け,その所有権を最終的に取得してこれをリサイクルする趣旨でノジマの各店舗に設置したものであることが認められるから,これに空カートリッジを投入した消費者は,原告に所有権を移転する意思で投入したものというべきである。これに対応して,原告は,無償で所有権を取得する趣旨で回収ボックスを設置して,消費者に申込みをしているのであるから,消費者の投入により,原告が所有権を取得するものと認められる。
ウ上記Aの方法について判断する。
Aの方法により回収された本件空カートリッジについても,ノジマが発送した時点で,原告に所有権が移転していたものと認められる。その理由は次のとおりである。
(ア)a証拠(甲14,20,27,乙5)によれば,ノジマは,同店で新しいインクカートリッジを購入した際に,一度の買取個数10個までという限度をつけて,1個当たり10円を支払って消費者からレジで空カートリッジを回収することとしており,広告においては「インクカートリッジリサイクル10円で買取ります」と表現していること,ノジマは,@の方法により回収ボックスから回収した物と,Aの方法によりレジで回収した物を区別することなく,まとめて全部原告に送付するようにしていること,原告は,ノジマから送付された空カートリッジ1個につき20円を支払う約定であるが,本件空カートリッジが送付された期間を含む平成16年8月ころから平成17年2月ころには,ノジマは,自ら送付を把握した数量に基づいて,上記1個当たり20円を請求し,既にその支払いを受けていること,上記支払いはエレコムがしたものであって,原告からエレコムへの支払いは未了であるが,これは,本件空カートリッジが被告に誤配送された主たる原因がエレコム側にもあるため原告からの支払いが保留されているにすぎず,本件空カートリッジによる損害について被告から原告が取り返すことができた暁には,原告がエレコムに支払うという約定であることが認められる。
上記事実からすれば,ノジマは,本件空カートリッジについても,既に1個につき20円の支払いを受けており,その支払いは,最終的に原告の負担となるとの約定となっているものということができる。
bこれについて危険負担という観点からみる。もし,仮に,ノジマが空カートリッジを送付し,その運送中にも所有権がノジマにあるのであれば,誤配送されて原告に届かなかった物について,ノジマが1個20円(それが回収手数料であるにせよ)の支払いを受ける権利があるとは考えがたい。これを逆にいえば,本件空カートリッジについても,既にノジマが1個につき20円の支払いを受け,これを原告が負担することとなっているのは,その所有権が既に原告に移転していたことの証左ということができる。
c消費者からの所有権移転の経路について検討する。
上記ノジマの広告や10円の支払いの事実によれば,ノジマのレジで10円と引換えに空カートリッジを引渡した消費者は,当該空カートリッジを,ノジマ又はノジマが委託を受けている者に対して売り渡したという意思であるものと認められる。すると,ノジマがいったん消費者から買い取り,それがノジマからの発送の時点で売買対象物として特定されて,その時に所有権と危険負担が原告に移転した可能性もあり,また,ノジマは,原告からの委託を受けて空カートリッジ買取りの窓口となっていただけで,空カートリッジの所有権は,消費者から原告が直接取得していた可能性もあるが,いずれの経路であったにせよ,本件空カートリッジは,ノジマが発送した時点で,原告の所有となっていたことは前示のとおりである。
(イ)ノジマは,@の方法により回収ボックスから回収した物と,Aの方法によりレジで回収した物を区別せずに原告に送付しているが,これは,ノジマが送付する時点で,両者を区別する実益がなくなっているからであると推認される。このうち,@の物は,もともと原告の所有であるから,不良品であっても原告において引き取らないということはできない物(不良のため廃棄する場合には原告が自己の責任と費用負担においてすべき物)であるが,それと区別なくAの物も送付されるということは,Aの物も,@の物と同様に不良品であると否とにかかわらず原告において引き取ることを拒絶できない物である,すなわち,@の物と同様に既に原告の所有となっていることを裏付けるものということができる。
(2)争点(1)イ(原告の損害)についてア本件空カートリッジの価値を検討する。
(ア)本件空カートリッジの数量についてa証拠(甲2,10)によれば,ノジマから被告への本件空カートリッジの送付は,佐川急便の宅配便が利用されているが,本件空カートリッジの送り状には,別紙空カートリッジ一覧表(原告)(別紙1)の送付状記載表示欄のとおりの記載がある(ただし,同欄が空欄のものを除く。)こと,同記載のうち,10,20の数字は荷物の重量であって,例えば,数字20は10sを超え20s以下であることを,100以上の数字(送り状では,サイズ記入であることを示す○で囲まれている)はサイズ区分(荷物の3辺の合計長)であって,例えば数字200は,180pを超え200p以下であることを示すことが認められる。
ただし,証拠(甲2の50・81)によれば,同表50のものは,送付に利用されたのは西濃運輸のカンガルーミニ便であって,同欄は空欄となっていること,また,同表81の同欄の数字11は,重量11sを示すものと認められる。
b原告は,上記記載に関して数字20の記載のある荷物の重量が20s,数字200の記載のある荷物の重量が60sであることを前提として本件空カートリッジの数量を5万9225個と主張するが,これを直ちに採用することができない。その理由は次のとおりである。
(a)数字10が記載された荷物の重量を10sと認定することはできない。すなわち,前示のとおり,数字10は,5sを超え10s以下であることを意味するから,10sの2分の1である5sを超えているということができるにすぎない。同様に,数字20の記載も,その荷物が,20sの2分の1である10sを超えていることを認定できるにすぎない。
(b)証拠(甲10)によれば,佐川急便の料金体系では,荷物のサイズ区分又は重量区分の大きい方に対応した金額が請求され,例えば,サイズ区分200で重量25sの荷物はサイズ区分200として,サイズ区分100で重量25sの荷物は重量区分30sとして料金が課せられることが認められる。上記事実によれば,サイズ区分の記載は,その荷物の重量が,原告主張の重量以下であったということはできるが,最小限どの程度の重量があったかを認定することはできない。まして,空カートリッジは,内容物であるインクが空になった箱だけのような状態であって,重量が軽く体積が大きい傾向にあることは明らかであるから,サイズ区分が記載されている荷物の重量は,原告が換算して主張する数字より相当軽かったのではないかとの疑念を持たざるを得ない。すなわち,サイズ区分160のものについて,原告の主張する重量区分30s(重量20s〜30s)を採用して,少なくとも20sを超えていたと認定することにはできない。
c証拠(甲2)によれば,本件空カートリッジが送付された時期は,平成16年11月29日(甲2の27)から平成17年1月25日(甲2の63・69・70)の約2か月であることが認められる。他方,証拠(甲14)及び弁論の全趣旨(原告平成17年11月7日付訴え変更申立書の説明)によれば,これとほぼ同時期である平成16年12月及び平成17年1月にノジマ側が,前記Aの方法(消費者から買い取る方法)で回収した空カートリッジの数量と,原告側が回収したと認めた数量を比較すると,平成16年12月には2万1092個,平成17年1月には8047個,合計2万9139個原告側の数量が少なかったことが認められる。
上記ノジマ側の数量は,前記@の方法によって回収された物は含まれていない。しかし,同一店舗内で,有償で譲渡できるAの方法と,無償で譲渡する@の方法が併存している場合には,普通の消費者はAの方法での譲渡を選ぶことは自明であるから,前記@の方法によって回収された物はごく少なかったものと推認される。したがって,上記ノジマ側の数量は,ほぼ正確なものと認められるところである。
d被告は,送り状を基に社内資料を追いかけたところ,本件空カートリッジは,被告の製造に使用できた物が9414個であったと主張する。そして,弁論の全趣旨によれば,一般に回収された空カートリッジのうち,被告の製造に適しない型が約半分,残りのうち3割から4割は破損等問題品で使用できずに廃棄されているとのことが認められるから,被告の製造に使用できた物は,全体の30ないし35%であることになる。そうだとすると,被告の主張によれば,本件空カートリッジの個数は,被告の製造に適しない物や破損等の問題品も含めて,3万1380個(9414個÷0.3=3万1380個)ないし2万6897個(9414個÷0.35=2万6897個)程度であることとなる。もっとも,上記被告の社内資料の調査では,別紙空カートリッジ一覧表(被告)(別紙2)の20,22,23(送付箱数3個)が把握されておらず,これは,ノジマからの総送付箱数100個強の3%弱に当たる。したがって,被告の主張によっても,本件空カートリッジの総個数は,これより3%程度多い可能性はある。
e以上の事実を総合考慮すれば,本件空カートリッジの個数は,2万9139個を下らなかったものと認められるが,これを超えると認めることはできない。
(イ)本件空カートリッジの1個当たりの時価a証拠(甲16)によれば,使用済みのキャノン製のBC-02を100円,BC-20(クロ・カートリッジ)を50円で購入する会社があることが認められる。しかし,同証によれば,同社は,それ以外の使用済みカートリッジは買取りをしていないことが認められ,上記事実に照らせば,同証は,特殊な空カートリッジの中には,50円又は100円で買い取られる価値があるものもあるということを示すものにすぎず,空カートリッジが一般に50円以上の価値があることを認めるに足りるものではない。
b証拠(甲25)によれば,平成14年9月ころ,被告がエステー産業株式会社に対し,エプソン用空カートリッジT007,T008,T009,T017,T018,T026,T027を,1個70円で売却したことが認められる。しかし,インクカートリッジは,大小,種類様々なものがあるのに対し,上記はエプソン用のTで始まる特定のカートリッジの売買であるから,これをもって,空カートリッジの中には1個70円で取引される物があるということは言い得るものの,空カートリッジ一般に70円の価値があることの証左とすることはできない。
c証拠(乙12)によれば,平成16年3月ころ,被告は,オフィネットドットコム株式会社(以下「オフィネット」という。)から,特に種類を特定せずに,使用済みインクカートリッジ(ただし,破損等により使用不能と見込まれる分は除く。)として単価30円ないし50円で買い取っていたことが認められる。もっとも,弁論の全趣旨によれば,上記買取り当時,オフィネットと被告は共同事業をしており,上記金額は,共同事業者同士の取引であるから,全く完全な市場価格とするには問題のあるところである。
d前認定のとおり,ノジマは,同店で新しいインクカートリッジを購入した消費者から,1個当たり10円を支払って空カートリッジを回収しており,本件空カートリッジが送付された期間を含む平成16年8月ころから平成17年2月ころには,ノジマは,上記1個当たり20円の支払いを受け,これは最終的に原告の負担となる。ところで,ノジマが消費者から回収し,原告に送付する際には,再使用可能か否かは点検できないため,再使用不能品も混在した状態で,ノジマは消費者に10円を支払うことになる。また,証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば,本件空カートリッジは着払いで送付されるため,原告は,ノジマに対する支払いの他に,数百個につき1,2回(本件空カートリッジの送付に関しては約3万個につき約100回),1回1000円前後を支払う必要がある。
e以上aないしdの事情に,本件空カートリッジには,破損等により使用不能の物が3〜4割程度混ざっていること,及び破損等がない物も種類が様々であること,その中には被告の製造に適しない物も含まれているが,被告が使用できないとしてもカートリッジが直ちに無価値ともいえないこと,という事実を加えて総合勘案し,本件空カートリッジの価値は,破損等による使用不能品も混在した状態で,1個30円と認める。
(ウ)以上によれば,本件空カートリッジの価値は,87万4170円(30円×2万9139=87万4170円)と認められ,被告が誤送付を受けた本件空カートリッジを取り込んで,費消したか又は被告所有の他の物と混同して分離できなくしたために,原告は同額の損害を受けたものと認められる。
(エ)被告は,原告が本件空カートリッジの所有権を完全に取得するためには,着払い費用の負担及び1個当たり20円の支払いをしなければならないから,その分は損害から控除されるべきであると主張する。しかし,上記(ウ)の金額は,それらを考慮して認定した価値であるから,更にこれを控除するべきではない。
イエレコムからの請求による損害について(イ)エレコムからの請求分エレコムからの請求のうち,本件空カートリッジの数量に対応する分の金額は,被告が空カートリッジを取り込まずに原告が回収しても本来的に支払わなければならなかったものである。したがって,上記金額は,前記アにおける本件空カートリッジの所有権侵害に基づく損害の賠償を受ける以上,これとは別に請求することができない。
また,本件空カートリッジの数量を超える部分は,主として,本件空カートリッジの誤送付が終了した17年1月25日以降である平成17年2月分の送付(3901個)に係るものであって,本件空カートリッジに関する原告の行為と因果関係があると認めることはできない。
ウ信用毀損,営業妨害による損害について本件全証拠によっても,誤送付を受けた本件空カートリッジを被告が取り込んだことにより,原告の社会的評価が低減したと認めることはできない。
すなわち,前認定のとおり,この差は,ノジマが本件空カートリッジを被告に誤送付し,被告がこれを取り込んだことによるものである。そして,証拠(甲2)によれば,ノジマが空カートリッジを被告に誤送付した事実は,佐川急便の送り状から明らかであり,原告は,ノジマが有している「お客様控」を把握できるほどノジマの協力を得られていることが認められる。そうだとすると,ノジマや,ノジマの請求の通過先であったエレコムは,この差は,原告が適正な回収手数料を支払わないのではなく,ノジマの誤送付と被告の行為によるものであることを容易に理解するものと認められるから,これにより原告に対する信用を低下させたとは認められない。
証拠(甲27)によれば,エレコム側は,「処理に手間取りますと,ノジマ様とエレコムの信頼を損なう可能性が大であり,発生の主たる原因が当社側にもあり信頼を失墜するダメージが多い」ことを考慮して,ノジマに対する本件空カートリッジも含めた差額の立替え支払いを完了していることが認められ,このことは,エレコムが被告の非を主張していないこと,エレコムの対応によりノジマの信頼を損なわなかったことを窺わせる事実というべきである。
また,被告が取り込んだ空カートリッジが,原告の原材料不足をもたらし営業が妨害されたと認めるに足りる証拠もない。
エ弁護士費用以上を考慮し,弁護士費用としては,9万円を相当と認める。
(3)委任終了による委任事務清算義務違反による債務不履行に基づく請求について原告は,被告に対し,平成15年7月から,回収された空カートリッジを原告のために保管し,原告の利益のために用いる旨委任しており,それが平成16年7月30日に到達した意思表示で解除されたとして,その委任終了による委任事務清算義務違反による債務不履行をも主張する。しかし,前記基礎となる事実のとおり,本件空カートリッジが被告に送付(発送)されたのは,最も早いものでも,原告が解除を主張する平成16年7月30日の後であって,前件和解が成立した日である平成16年11月29日であるから,本件空カートリッジの被告への到達日が同日以前とは認められない。したがって,被告が本件空カートリッジを受け取った時点では,原被告間に委任契約は終了しており,被告は,委任契約に基づいて本件空カートリッジを受領したとは認められないため,委任終了による委任事務清算義務を負うとすることもできない。
2争点(2)(ヤマダ電機テックランド甲府店関係)について本件全証拠によっても,原告が平成17年5月ころ以前に,ヤマダ電機テックランド甲府店に回収ボックスを設置していたと認めることはできない。すなわち,被告は,上記回収ボックスについて,前記被告の主張のとおり自己所有である旨具体的な主張をして,平成17年9月29日付け被告第1準備書面において,「もし主張を維持されるのであれば,いつから設置していたのか,その資料が何かあるのか明らかにされたい」と質したのに対し,原告からは,具体的な設置時期の主張もなく,設置に関する客観的資料も提出されていない。
また,甲第15号証には,平成17年5月26日に,平成16年10月以降,被告に回収ボックスのヤマダ電機への設置を許可していないとヤマダ電機テックランド甲府店のフロア長から聞いたとの記載があるが,上記内容は伝聞であって,平成16年11月に被告の回収ボックス設置を許可した旨のヤマダ電機テックランド甲府店営業社員の陳述書(乙6)に照らし,直ちに採用できないし,他に,上記回収ボックスが原告の設置ないし所有に係るものと認めるに足りる証拠はない。
上記回収ボックスが原告の設置ないし所有に係るものと認められない以上,それに消費者が投入した空カートリッジについて,原告が所有権を取得する理由を見出すことができないから,これを前提とする原告の請求は,債務不履行及び不法行為ともに理由がない。
3争点(3)(商標権侵害関係)について(1)争点(3)ア(商標権侵害ないしその実質の有無)について被告は,@本件商品の内容,品質は,原告に納品していた物と相違ない,A本件商品のヤマダ電機への納品は,ヤマダ電機からエコリカ製品を納入するようにと言われて行ったことであり,被告もヤマダ電機も,本件商品はエコリカ製品という認識であったから,本件商品は,原告製品である,又は本件商品の販売は,商標権侵害の実質を備えていないと主張する。
証拠(乙2の3・5・6,3の3,7)及び弁論の全趣旨によれば,前件和解以前において,リサイクルインクカートリッジは,原告が被告に製造を発注し,被告において製造をして原告に納品し,原告が被告その他の会社に販売し,そこから更に小売店等に販売されるという流通体制であったこと,被告において「エコリカ製品」を販売する場合には,いったん原告に売った商品を原告から被告が買い取って販売するという体制であったことが認められる。そうだとすると,この場合に被告が販売している「エコリカ製品」は,出所が原告であるということができる。
他方,本件商品は,上記流通体制によった商品と異なり出所が原告であると認めることはできないから,これを真正な原告商品とすることはできない。
そして,内容,品質や売主と買主の認識にかかわらず,本件商品の出所は原告ではないから,これに原告商標を付して販売した場合には,実質的にも,原告商標の出所表示機能を害しており,かつ,出所が原告でない以上原告による品質保証もないため原告商標の品質保証機能も害している。したがって,被告による本件商品の販売は,原告商標の商標権侵害である。
(2)争点(3)イ(前件和解により解決済みか)について本件全証拠によっても,本件商品販売による商標権の侵害に関する紛争が,前件和解の対象となっており,前件和解によって解決されたと認めることはできない。
かえって,証拠(甲3,乙2ないし4)によれば,前件訴訟は,被告から原告に対するインクカートリッジ代金の支払請求であり,原告は,原告被告間のインクカートリッジの製造委託契約違反及びその基礎となる共同事業契約違反による損害賠償請求権との相殺を主張していたこと,前件和解交渉では,被告は,在庫となっている製品の引き取りを求め,「あくまでも引取り義務を争われるということになりました場合,当方もパッケージを替えてジット商品として別の所へ売却するということも検討しなければなりません」(乙4の2)と主張して,被告が在庫商品を販売する場合には包装袋が変更されて(必然的に包装袋に記載された原告商標は使用されないで)販売されることを前提としていたこと,結局被告の在庫製品は原告に引き取られない旨合意されたこと,前件和解では「原告,被告ら及び利害関係人は,本件紛争が円満に解決したことを確認し」(10項),「原告,被告ら及び利害関係人は,本件に関し,この和解条項に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認する」(11項)として,和解の対象は「本件」に関することに限られていたことが認められ,以上の事実によれば,前件和解で解決されたのは,原被告間のインクカートリッジ製造委託契約及びそれに付随する債務の不履行に関する問題であって,本件商品による原告商標の使用に関する紛争は和解の対象となっていなかったものと認められる。
(3)争点(3)ウ(損害)についてア商標法38条2項による算定(ア)本件商品の販売金額a被告が本件商品販売に至る経緯前認定のとおり,前件和解以前において,リサイクルインクカートリッジは,原告が被告に製造を発注し,被告において製造をして原告に納品していたが,被告において「エコリカ製品」を販売する場合には,いったん原告に売った商品を原告から被告が買い取って販売するという体制であった。
証拠(乙7)によれば,被告は,上記の経路で原告から買い取った商品(以下「エコリカ正規品」という。)を「エコリカ製品」としてヤマダ電機に販売していたこと,本件商品の販売に関しても,ヤマダ電機から,欠品が生じないように「エコリカ製品」を納入するようにと言われたが,包装袋が足りなかったこと,これを説明した被告に対し,ヤマダ電機が,外観が別のものでも内容・品質が異ならなければ構わないとしたため,別の型の包装袋を流用した結果,本件商品の販売に至ったものであり,被告もヤマダ電機も本件商品は「エコリカ製品」という認識であったことが認められる。
b上記a認定の事実によれば,被告は,ヤマダ電機に対し,「エコリカ製品」として,当初はエコリカ正規品を販売し,その在庫がなくなってから本件商品を販売したことが認められるが,被告がヤマダ電機に販売した個々の商品が,エコリカ正規品であるか本件商品であるかを逐一区別できる的確な証拠はない。
証拠(乙9の3,10の2,11の7・8)によれば,ヤマダ電機テックランド幕張店には平成16年10月22日に本件商品の型番C06PCが,同長野南店には同日に本件商品の型番E01C,E05C,E13Cが,同柏店には同月26日に本件商品の型番E21LMが,それぞれ納品されていることが認められ,上記事実によれば,平成16年10月22日には,上記型番に係る製品について,被告にはエコリカ正規品の在庫がなくなっていたものと認められるから,同日以降に被告が販売した上記型番の商品は,すべて本件商品と認められる。
また,本件商品が同年11月10日までは出荷されていたことは,被告の自認するところである。
c被告は,本訴において,いったん本件商品の販売期間を平成16年11月5日から同月10日まで,売上金額を98万2637円と主張し,明細を開示した(平成18年6月6日付被告第6準備書面)。しかし,その後,本件商品について,同年10月22日からの販売分があることを認めつつ,本件商品はエコリカ正規品の不足分を補填した物であるから,正確には不明であり,被告代表者の認識としてはせいぜい100個程度であるが,エコリカ正規品と本件商品の仕分けをしておらず客観的な資料による立証はできないとも主張する(平成18年10月4日付被告第7準備書面)。
上記弁論の全趣旨及び上記b認定の事実によれば,本件商品の販売期間は,同年10月22日から同年11月10日まで20日間であり,その期間に,同月5日から同月10日の6日分と同程度の割合での販売が続けられていたものと推認される。したがって,本件商品の売上金額は,327万5456円(98万2637円÷6×20=327万5456円)と認められる。
d原告は,ヤマダ電機長野南店には,平成16年9月15日からジットブランド製品が納品され始めているから,この時点では,原告にエコリカ正規品はなくなっているはずであり,したがって,それ以降「エコリカ製品」として販売された商品は,本件商品であった可能性が高いと主張する。しかし,証拠(乙11)によれば,被告は,ヤマダ電機長野南店に対し,「エコリカ製品」とジットブランド製品の双方を同時期に納品していることが認められるから,ヤマダ電機がジットブランド製品を購入したとしても,それはヤマダ電機が「エコリカ製品」とジットブランド製品の両方を必要として購入していたにすぎないというべきであって,被告がジットブランド製品を販売したことを根拠として,被告にエコリカ正規品がなくなっていたということはできない。
また,原告は,ヤマダ電機柏店に対し,平成16年11月26日に納品された本件商品と同型番同JANコードのものが,同年8月26日にも納品されていることを根拠として,本件商品の販売は同日まで遡ると主張する。しかし,前記a認定の事実からすれば,被告が,本件商品と同型番の同JANコードのエコリカ正規品を有していたことは容易に推認できるから,上記納品が本件商品であると認めることはできない。
さらに,原告は,本件商品が同年11月10日以降も平成18年11月まで出荷されていたと主張する。しかし,前記a認定とおり,被告が本件商品を販売したのは,ヤマダ電機から「エコリカ製品」の納入を求められたためであるから,ヤマダ電機が原告からの納入品がジットブランド製品でよいことを了承した場合には,本件商品の販売は必要なくなる筋合いである。そして,乙7,8には,ヤマダ電機がジットブランド製品を受け入れてくれることになったため,本件商品の最終出荷は同日である旨の記載があり,これが事実に反するならば,ヤマダ電機の各店舗店頭には同日から相当期間を経過しても,なお同日以降納品された本件商品が多数陳列されており,ヤマダ電機の業態(小売),規模,店舗数(訴状に記載されているだけで142店舗)からすれば,原告においてこれらを把握することは容易なはずである。
ところが,この点に関して被告が提出した証拠は,平成17年11月17日にヤマダ電機長野南店で販売されていたと主張する3点に関するもの(甲18)のみであって,それは同店が先入れ先出しによる展示をしなかったために売れ残っていた可能性も否定できないから,このことをもって,本件商品が同年11月10日以降も出荷されていたことの証左とすることはできない。よって,原告の主張は,採用することができない。
(イ)被告の利益率a証拠(甲29)及び弁論の全趣旨(とりわけ,平成18年11月7日付原告準備書面9別紙で示されたエコリカリサイクルインク価格表)によれば,平成15年11月ころ,被告はリサイクルインクカートリッジを中国の工場で製造させており,その原価率は,平均して26%を超えなかったものと認められる。そして,原告がリサイクルインクカートリッジを販売するためには,中国の工場から送られてきたリサイクルインクカートリッジが日本に到着した後,検査や個装が必要であることが認められる。この点を考慮して,被告の利益率は,70%を下らないものと認める。
b被告は,平成15年11月ころの中国の工場での上記原価率を認めつつ,それは安かろう悪かろうとなってしまっていた時期のものであり,現在の利益率は,48.1%ないし64.3%であると主張する。
しかし,仮にその後原告が製造させる工場を変えているとしても,原価率が大きく変動するとは容易に認めがたいし,被告主張の原価率を証明する証拠も被告から提出されていない。また,乙3号証の3の別紙1には,他社の製造見積として,被告主張の原価率と大差ない数値が示されているが,他社は,それぞれ事情が異なることは自明であるから,被告の平成15年11月ころの原価率に基づく認定を覆すに足りるものではない。
(ウ)寄与率前認定のとおり,ヤマダ電機は「エコリカ製品」の納入を要求し,本件商品はこれに応じて販売されたものであるが,「エコリカ製品」とは,原告を出所とする製品を意味することは明らかであるから,被告標章の寄与率は100%と認める。
(エ)小括以上の次第で,被告商標の使用により被告が得た利益は,327万5456円の70%である229万2819円である。原告は,これと同額の損害を被った物と推定される。
イ信用毀損証拠(乙1の1,4の2,8)及び弁論の全趣旨によれば,被告が製造したインクカートリッジは,原告に納入され,原告から販売されていたが,本件商品は,これと同様に原告向けに被告が製造した物であって,品質,内容は同等のものと認められる。また,それが従来の製品と異なる特段の品質不良があったと認めるに足りる証拠もない。上記事実に照らし,本件全証拠によっても,本件商品の販売により原告の信用が毀損されたと認めることはできない。
原告は,包装袋に記載された型番の表示が中身と異なり,包装袋の型番はシールによって隠されていると主張する。しかし,包装袋に印刷された型番の表示があり,それが中身の型番と一致していないとしても,その表示がシールで隠されて見えないのであれば,需要者も,型番の表示不一致と認識することはないから,それによって,原告の信用が毀損されたということはできない。
原告は,被告のJANコードを問題にするが,JANコードは数字であって,これによって原告の信用毀損が毀損されたと認めることはできない。。
ウ弁護士費用以上を考慮し,弁護士費用としては23万円が相当と認める。
4結論以上の次第で,原告の請求は,本件空カートリッジ所有権侵害に関して87万4170円と弁護士費用9万円及び商標権侵害に関して229万2819円と弁護士費用23万円の合計348万6989円,並びにこれに対する不法行為日の後である平成17年6月8日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 高松宏之
裁判官 村上誠子
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