関連審決 | 不服2004-24532 |
---|
審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
---|---|---|
平成18行ケ10191審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成15行ケ32審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成19行ケ10090審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成19行ケ10047審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成14行ケ19審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 識別力 / 出所表示機能 / 指定商品 / 混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) / 4条1項11号 / 類似性(類否判断) / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 取引の実情 / 出所の混同 / 補正 / 非類似 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
18年
(行ケ)
10391号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告株 式会社島津製作所 訴訟代理人弁理士喜多俊文 同 江口裕之 被告特許庁長官 中嶋誠 指定 代理人橋本浩子 同 内山進 |
|
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/02/13 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
請求
特許庁が不服2004-24532号事件について平成18年7月19日にした審決を取り消す。 |
|
事案の概要
本件は,原告が後記商標の出願をしたところ拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたため,その取消しを求めた事案である。 |
|
当事者の主張
1 請求の原因(1)特許庁における手続の経緯原告は,平成15年10月31日,後記商標につき商標登録出願(商願2003-96771号。以下「本願」という。)をしたが,平成16年11月2日に特許庁から拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした。 特許庁は,同請求を不服2004-24532号事件として審理した上,平成18年7月19日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成18年8月1日原告に送達された。 なお原告は,本件取消訴訟係属中の平成18年11月2日,本願からの商標法10条1項による分割出願として,「医療用X線撮影装置」のみを指定商品として,本願と同内容の商標登録出願をしている(商願2006-102040号)。 (2)本願の内容ア 商標イ 指定商品(ただし,平成16年6月9日付け補正後のもの)第10類医療用X線撮影装置,医療用機械器具,おしゃぶり,氷まくら,三角きん,支持包帯,手術用キャットガット,吸い飲み,スポイト,乳首,氷のう,氷のうつり,ほ乳用具,魔法ほ乳器,綿棒,指サック,避妊用具,人工鼓膜用材料,補綴充てん用材料(歯科用のものを除く。),業務用美容マッサージ器,医療用手袋,しびん,病人用便器,耳かき。 (3)審決の内容審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要旨は,本願商標と下記引用商標とは,「サファイア」の称呼を同じくする類似の商標であって,かつ,本願商標の指定商品は引用商標の指定商品を含むものであるから,商標法4条1項11号に該当する,としたものである。 記商標登録第4566523号(甲3)商標指定商品第10類眼内レンズ埋め込み器具,その他の医療用機械器具。 出願平成12年9月5日登録平成14年5月10日(4)審決の取消事由しかしながら,審決は,本願商標と引用商標との類否判断を誤ったものであり(取消事由),違法として取り消されるべきである。 ア 外観,称呼,観念の類否についての認定の誤り(ア)外観の非類似本願商標の構成は「safire」の文字を中心に,「DIGITEX」の文字をその左肩に,「Shimadzu Advanced Flat Imaging REceptor」の文字をその右下に小さく配置した構図となっている。そして,特に「safire」のfの文字を他の文字に比して大きく表し,fの文字を中心に「DIGITEX」と「Shimadzu Advanced Flat Imaging REceptor」を上下左右バランスよく離隔せずに配置しているので,視覚上分離されず,不可分一体の商標として看取されるものであるこれに対し,引用商標は,ほぼ標準文字による欧文字の「SAPPHIRE」とカタカナの「サファイア」を二段に横書きにして成るものである。 このように,文字の配置,バランス等の点から,本願商標と引用商標とが外観上相違することは明らかである。 (イ)称呼の非類似a審決は,@「DIGITEX」「safire」「Shimadzu Advanced FlatImaging REceptor」の各文字部分はそれぞれが視覚上分離されて看取されるものであること,A文字部分全体を称呼するときは冗長に至るものであることを理由に,本願商標からは「safire」の部分に相応する「サファイア」の称呼が生じると認定したが,誤りである。 まず@の点については,本願商標は,上下左右バランスよく離隔せずに配置しているので,視覚上分離されず,不可分一体の標章として看取されるものである。特に「DIGITEX」は「safire」の「sa」の上部に離隔せずに配置されており,かつ「DIGITEX」も文字自体が視覚上邪魔になる大きさではないので,分離して看取しなければならない理由は何ら存在しない。 Aの点は,確かに,「Shimadzu Advanced Flat Imaging REceptor」は冗長で,この文字部分も含めて称呼することが少ないことは否定しないが,本願商標の構成上,「DIGITEX」は「safire」の「sa」の上部に離隔せずに配置されて,しかも文字は左上部から順に読むのが常であることから,「DIGITEX safire」は一連として把握されるものであり,ここから生じる「デジテックスサファイア」という称呼の音数も9音であって,格別冗長なものとはいえない。 b審決の上記認定では,「safire」の文字のみに着目しているが,そもそもこの認定は,審査の過程を参酌すると矛盾が生じるものである。 すなわち,本願商標の審査段階の拒絶理由通知書(甲4)においては,「DIGITEX」の欧文字から成る登録第841243号商標(甲5)を引用商標として,商標法4条1項11号の拒絶理由が通知されている。この拒絶理由通知は,本願商標の要部が「DIGITEX」にあると認定しているものであるが,この審査過程からいっても,「safire」の文字のみに着目して称呼の類似を判断するのは,誤りである。 c審決は,「サファイア」の称呼のみが取引において使用されることを前提としているが,「サファイア」は宝石の名称として広く知られた語であること,「サファイア」をキーワードとしてGoogle検索を行えば平成18年12月20日現在で3,070,000件(そのうち医療機器だけでも39,300件)もヒットすること,広辞苑(第5版)にも「サファイア」の項があること等に照らせば,「safire」の部分は識別力が弱いものであり,むしろ,本願商標の識別力は,造語である「DIGITEX」の部分に依存するというべきである。 このような事情にかんがみれば,現実の取引の場において,本願商標に接した取引者・需要者は,「DIGITEX Safire」の全体から生じる「デジテックスサファイア」の称呼をもって取引に当たると考えられるのであり,本願商標のうち「Safire」の部分から生じる「サファイア」の称呼のみをもって取引に当たるとは到底考えらない。 d以上により,本願商標は,「DIGITEX safire」を一連一体として「デジテックスサファイア」と称呼されるものであり,「サファイア」と称呼される引用商標とは音数,語感,語調を異にし,時・場所を違えて聞いても明確に聴別できるものであり,称呼においても非類似の商標である。 (ウ)観念の非類似引用商標は「宝石のサファイア」の観念を生ずるものであるのに対し,本願商標は,「DIGITEX」及び「safire」のいずれも造語であり,特に「safire」は本願商標の右下に記載された「Shimadzu AdvancedFlat Imaging REceptor」の略語で,「先進の平面検出器」の観念を生じさせる。 このように,本願商標と引用商標とは観念において全く相違し,かつ比較することができないものである。 (エ)以上のとおり,本願商標と引用商標とは,外観,称呼,観念のいずれ「本願商標は,引用商標2と,外観も顕著に相違しているのであり,審決が,において相違し,観念については比較することができないことを考慮してもなお,『と認定したことは,誤りでサファイア』の称呼を共通にする類似の商標である」ある。 イ 出所混同のおそれに関する認定判断の誤り(ア)商標の類否は,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであり,商品の取引の実情を明らかにした上でその具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。 (イ)本願商標の実際の使用状況は,次のとおりである。 a使用開始時期本願商標を付した商品は,世界初の直接変換方式フラットパネルディテクタを搭載した循環器X線診断装置として平成15年(2003年)10月1日より販売を開始したものである。「世界初」ということで,多くの業界紙等に取り上げられ,特にその需要者である医療機関関係者に広く知れ渡るに至った。 そして,これらの業界紙等のいずれの記事においても,本願商標を付した商品が「DIGITEX safire」として紹介されていることからして,本願商標に接する需要者・取引者は,本願商標の構成のうち「DIGITEX safire」を一連一体のものとして把握し,「デジテックスサファイア」と称呼するということができる。 b宣伝の方法等本願商標を付した商品は,平成15年(2003年)10月1日の製品販売に先立って,多数の学会及び展示会等に出品された。また,原告は,多数の学会誌や業界紙において,本願商標を付した商品を,本願商標を表示した上で広告している。 これらの宣伝広告活動により,本願商標は,原告の有する商標として需要者・取引者の間では広く知られるに至っている。 c販売先本願商標を付した商品は,多数の病院に納入され,現在も稼動している。これらの商品には,いずれも本願商標が使用されていることから,需要者・取引者の間で周知になっている。 d取引者・需要者の認識本願商標は,上記のとおり当業界において周知となっており,しかも,本願商標を付した商品を購入した需要者・取引者は,一貫して「DIGITEX safire」を一連のものとして把握し,これにより生ずる称呼をもって取引に当たっている。このことは,本願商標を付した商品を導入した医療機関等の関係者が当該商品を紹介した雑誌記事において「DIGITEX safire」との表記を用いていること,学会誌における報告でも当該商品は「DIGITEX safire」として紹介されていること等から明らかである。 (ウ)以上のとおり,本願商標を付した商品の取引者は,「safire」の文字に着目して取引に当たっているのではなく,「DIGITEX safire」を一連のものとして取引に当たっており,需要者も「DIGITEX safire」を一連のものと把握していることが明白である。また,本願商標は,「世界初」の装置に付けられた名称として需要者の間に強く印象付けられ,本願商標を付した商品が原告の製造販売に係ることを示す出所表示機能が極めて強いものである。 したがって,本願商標と引用商標との外観,称呼,観念の相違とも相まって,本願商標に接した取引者・需要者は,取引の場において出所の誤認混同を生じる余地はないといえる。よって,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の認定判断は,誤りである。 (エ)また,指定商品の一般的な取引の実情という観点から考えても,本願商標の指定商品は,医療用機械器具,医療用補助品,衛生品などの人体に関するものであるので,購入に際しての注意力が比較的高いものと言える。そうすると,取引に際しては,機械や用具の性能やメーカーの信用等についての慎重な検討が行われることが容易に推認され,本願商標と引用商標とは外観が顕著に相違することや,識別力の低い「サファイア」の称呼のみをもって取引がなされることは少ないことに照らすと,取引者・需要者において出所の混同を生じる可能性は,著しく低いというべきである。 2 請求原因に対する認否請求原因(1)(2)(3)の各事実は認める。同(4)は争う。 3 被告の反論審決の認定判断は正当であり,以下に述べるとおり,原告主張の取消事由は理由がない。 (1)外観,称呼,観念の類否についての主張に対し本願商標は,「DIGITEX」「safire」「Shimadzu Advanced Flat ImagingREceptor」の三つの欧文字部分から成るところ,各文字部分は,文字の大きさに顕著な差異を有し,かつ,文字種,書体を異にし,視覚的に分離して看取され得るものである。そして,その構成全体をもって特定の称呼,観念を生ずる等,これらが常に一体不可分のものとしてのみ把握されるとする特段の事情は見いだし得ない。また,「Shimadzu Advanced Flat ImagingREceptor」の文字部分は,注視しないと理解できない位に極めて小さく,かつ,付記的に記載されているものである。 そうすると,本願商標の構成のうち,「DIGITEX」及び「safire」の各文字部分も独立して自他商品の識別標識としての機能を有するというべきであり,特に,中央に顕著に表された「safire」の文字部分に着目し,該文字部分をもって取引に資する場合も決して少なくないというべきである。 また,「DIGITEX」及び「safire」の文字から生ずる「デジテックスサファイア」の称呼は,促音を含めると10音構成であり,比較的長い称呼である。加えて,「サファイア」の発音は宝石の「サファイア」を想起することから,上記称呼は,「デジテックス」と「サファイア」という2つの語から成るものと認識されるというべきである。 そうすると,本願商標の構成中の「safire」の文字部分も自他商品の識別標識としての機能を有するものというべきである。 (2)出所混同のおそれに関する認定判断についての主張に対し原告は,本願商標は取引者・需要者間に広く知られるに至っているから,かかる取引の実情からして,商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれはないと主張する。 しかし,原告の主張に係る取引の実情とは,本願商標の指定商品のうち一部の商品である循環器X線診断装置についての取引の実情にとどまるものであって,本願商標の広範な指定商品全般についての一般的,恒常的な取引の実情といい得るものでない。したがって,原告の主張は明らかに失当である。 |
|
当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(本願の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 そこで,以下において,原告の主張する取消事由に即して審決の当否を判断する。 2 外観,称呼,観念の類否に関する審決の認定について原告は,審決が,本願商標の構成中の「safire」の文字部分から生ずる「サファイア」の称呼のみに着目して引用商標との類否判断を行ったことは誤りであると主張するが,以下のとおり,採用することができない。 (1)本願商標は,前記のとおり「DIGITEX」・「safire」・「ShimadzuAdvanced Flat Imaging REceptor」の三つの欧文字部分から成り,うち「DIGITEX」は左上方部に小さくゴシック風の書体で表したものであり,「safire」は中央部に大きく(4倍程度)イタリック風の書体で表したものであり,「Shimadzu Advanced Flat Imaging REceptor」は右下方部に極めて小さく(「safire」の「ire」の下にその3文字の範囲の大きさで)ゴシック風の書体で欧文字で表したものである。このように,本願商標の三つの欧文字部分は,文字の大きさに顕著な差異を有し,かつ,文字種,書体を異にし,視覚的に分離して看取され得るばかりでなく,その構成全体をもって特定の称呼・観念を生ずる等,これらが常に一体不可分のものとしてのみ把握されるとする特段の事情は見いだし得ないものである。 そうすると,本願商標は,その構成中,極めて小さく表された「ShimadzuAdvanced Flat Imaging REceptor」の部分を除き,「DIGITEX」及び「」の文字部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を発揮safireし得るものであると認められる。そして,「DIGITEX」及び「」の文safire字部分のうちでも,「」が本願商標の中央に配置され,文字の大きsafireさも「DIGITEX」に比べてはるかに大きいことに照らすと,本願商標に接する取引者・需要者が「safire」の文字部分のみに着目し,該文字部分から生じる称呼等をもって取引に資する場合も決して少なくないというべきである。 そして,「簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は,常に必らずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,一個の商標から二つ以上の称呼,観念の生ずることがあるのは,経験則の教えるところである」ところ(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁),本願商標に接する取引者・需要者が,その構成中,視覚的に分離され,かつ,本願商標の中央に顕著に表された「safire」の欧文字部分を捉えて,この部分から生ずる「サファイア」の称呼をもって取引に当たることは,取引の経験則に照らして極めて自然なことである。 したがって,審決が本願商標と引用商標との類否判断をするに当たり,本願商標から「サファイア」の称呼が生ずると認定し,当該称呼をもって引用商標との類否判断に供したことに誤りはない。 (2)原告は,審決が,文字部分全体を一連のものとして発音した「デジテックスサファイア」が冗長であることを,本願商標から生ずる称呼が「サファイア」であるとの認定の理由としたのは誤りであると主張する。 しかし,「デジテックスサファイア」という9音節(促音も含めれば10音節)の称呼が冗長でないということはできない上,本願商標においては,その構成上「DIGITEX」と「safire」の文字部分が上記(1)のとおり視覚的に分離されており,しかも「サファイア」が宝石の名称として一般に知られていることに照らすと,あえて「デジテックスサファイア」を一連に発音するよりも,これを「デジテックス」と「サファイア」とに分離して発音する方が,はるかに自然である。したがって,審決の上記認定に誤りはない。 (3)原告は,審決が「」の文字部分にのみ着目しているのは,審査段safire階の拒絶理由通知(甲4)において,「DIGITEX」の文字から成る登録商標第841243号(商公昭44-19203号。甲5)が引用商標とされているのと矛盾すると主張する。 しかし,上記(1)のとおりの本願商標の構成に照らすと,本願商標からは,審決が認定した「サファイア」の称呼に加えて,「DIGITEX」の外観及び「デジテックス」の称呼も生じるということができる。そうすると,上記拒絶理由通知における拒絶の理由と,審決における理由とは,両立し得るものであって,何ら矛盾するものではない。 (4)原告は,「サファイア」の語は一般に知られた宝石の名称であってその識別力は弱く,本願商標の識別力は造語である「DIGITEX」に依存するから,審決が本願商標から「サファイア」の呼称のみを取り出して類否判断に供したのは誤りであると主張する。 しかし,本願商標が宝飾品や装身具に用いられる場合には,宝石の一般名称である「サファイア」は識別力が弱いということもできようが,本願商標の指定商品は前記のとおり「医療用X線撮影装置,医療用機械器具,おしゃぶり」等なのであるから,これらの商品に用いられる場合において,本願商標の構成のうち「」の部分の識別力が格別弱いということはできなsafireい。よって,原告の主張は前提において理由がない。 (5)原告は,本願商標と引用商標が外観において相違し,観念において比較できないことを主張するが,これらの点を考慮しても,「サファイア」の称呼を共通にすることから両商標は類似するとした審決の認定が左右されるものではない。 3 出所混同のおそれに関する審決の認定判断について(1)商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。 原告は,取引の実情に照らせば,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれはないから,審決が本願商標と引用商標とは類似すると判断したのは誤りであると主張するが,指定商品を前記のとおり「医療用X線撮影装置,医療用機械器具,おしゃぶり」等とする本願については,以下のとおり,採用することができない。 (2)原告は,本願商標を付した商品である循環器X線撮影装置の広告宣伝の態様,販売の状況,新聞雑誌等での扱い等に関する事実を指摘し,本願商標は「DIGITEX safire」という一連のものとしてして取引者・需要者に把握され,原告の製造販売に係る当該装置を指すものとして周知となっていると主張する。 しかし,前記最高裁判決にいう具体的な取引状況とは,指定商品全般についての一般的・恒常的なそれを指すものであって,単に当該商標が現在使用されている商品についてのみの特殊的・限定的なそれを指すものではないことは明らかであるところ,原告の主張する事情は,正に,本願商標の指定商品の一部の商品についての特殊的・限定的な取引の実情にとどまるものであって,本願商標の広範な指定商品全般についての一般的・恒常的な取引の実情ではない。したがって,原告の主張は採用することができない。 (3)原告は,指定商品の一般的な取引の実情という観点から考えても,本願商標の指定商品は取引者・需要者が慎重に検討の上で購入するものであるから,出所の混同を生じる可能性は著しく低いと主張する。しかし,本願商標及び引用商標に共通する指定商品である「医療用機械器具」について検討すると,原告の主張は採用することができない。 すなわち,商標法施行規則6条別表によれば,第10類の「医療用機械器具」には「(一) 診断用機械器具」として「体温計」が含まれ,これは一般の消費者を対象にし,薬局やドラッグストア等でも取り扱われている日常生活に結びついた商品であるから,かかる商品に使用される商標に関する類否判断は,一般の消費者が通常有する注意力を基準としてなされるべきものである。また,需要者が医療従事者に限られる商品の中でも,「(三) 治療用機械器具」に属する「注射筒」「注射針」のように比較的安価な消耗品もあるから,必ずしもそのすべてが取引者・需要者において慎重に検討の上で購入するものであるということもできない。 (4)なお原告は,平成18年11月2日付けでなした本願からの前記分割出願(指定商品を第10類「医療用X線撮影装置」のみとするもの)の当否についても裁判所の判断を求めているが,その判断は,特許庁の審査・審判がなされた後で,かつ原告からの提訴を待って行うべきものである。 4 結語以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,本願商標は商標法4条1項11号に該当するとした審決の認定判断に誤りはない。 よって,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
---|---|
裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 上田卓哉 |