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関連審決 無効2005-89132
関連ワード 指定商品 /  4条1項11号 /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  連合商標 /  存続期間 /  無効審判 /  更新登録 /  継続的に使用 /  継続 /  非類似 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10512号 審決取消請求事件
原告X
訴訟代理人弁理士杉本勝徳,内山邦彦,吉村多江子
被告白鶴酒造株式会社
訴訟代理人弁理士鎌田文二,鳥居和久,田川孝由,東尾正博,北川政徳
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/03/01
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が無効2005-89132号事件について平成18年10月17日にした審決を取り消す。」との判決。
第2事案の概要本件は,商標登録に対する無効審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事件であり,原告は無効審判の請求人,被告は商標権者である。
1特許庁における手続の経緯(1)被告は,「くつろぎ」の文字を標準文字で横書きしてなり,指定商品を商標法施行令別表の区分による第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」とする登録第4428733号商標(平成11年12月1日出願,平成12年10月27日設定登録,以下「本件商標」という。)の商標権者である(甲1)。
(2)原告が本件商標の登録について無効審判の請求をした(無効2005-89132号事件として係属)ところ,特許庁は,平成18年10月17日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月27日,その謄本を原告に送達した。
2審決の理由の要旨審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件商標の登録は,商標法4条1項11号に違反してされたものではないから,同法46条1項の規定により,無効にすべき限りでない,というのである。
( ) 引用商標1請求人が引用する登録第1667539号商標(以下「引用商標」という。)は,「寛」の文字を毛筆風に書してなり,昭和56年6月22日に登録出願,第28類「酒類」を指定商品として昭和59年3月22日に設定登録され,その後,平成6年9月29日及び同15年10月7日の2回に亘り商標権の存続期間更新登録がされ,さらに,平成16年1月28日に指定商品を第32類「ビール」及び第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」とする書換登録がされているものである。
( ) 審決の判断2本件商標と引用商標との類否について,先ず,両者から生ずる称呼について検討する。
本件商標は,上記1( )のとおりの構成からなるところ,その構成文字に相応して「クツロギ」の1称呼を生ずることは明らかであり,この点については当事者間に争いはない。
他方,引用商標は,上記( )のとおりの構成からなるところ,これから「クツロギ」の称呼を生ず1るか否かについては当事者間に争いがある。
一般に,商標の類否の判断は,当該商標が使用される商品の一般的な需要者の平均的な注意力を基準にし,取引の実情を考慮して行われるべきであるから,称呼上の類否の対象となる称呼は,取引の実際において,当該商標に接する上記需要者によってどのように称呼されるのが自然であるかにより判断されるべきである。
これを本件についてみると,引用商標を構成する「寛」の文字については,一部の国語辞典には「くつろぎ」の見出と共に「寛」の文字が表示されているものの(審判甲3ないし5(本訴甲3ないし5)),他の国語辞典では「くつろぎ」の見出と共に「寛ぎ」と送り仮名を付して表示されている(審判甲15(本訴甲15)及び審判乙3(本訴甲29))。さらに,一般の社会生活で使用する漢字の目安となる「常用漢字表」や「当用漢字改訂音訓表」においては「寛」の文字に対して「カン」の読みが表示されている(審判乙1及び2(本訴甲27及び28))。また,「寛」の文字は人名としてもしばしば用いられるものであり,多くは「ヒロシ」と読まれる(審判甲16及び17(本訴甲16及び17))。そして,引用商標の指定商品の需要者は,一般的な社会人というべき者であって,殊更,漢字に精通している者のみという訳でもなく,引用商標が常に「クツロギ」と称呼されるものとして広く認識されているというような格別の事情も見出せない。
そうすると,引用商標を構成する漢字1字の「寛」については,「カン」又は「ヒロシ」と読まれるのが自然であり,送り仮名「ぎ」が付されて初めて「クツロギ」と称呼されるというべきである。
したがって,引用商標からは「カン」又は「ヒロシ」の称呼が生ずるというのが相当である。
しかして,本件商標から生ずる「クツロギ」の称呼と引用商標から生ずる「カン」又は「ヒロシ」の称呼とは,それぞれの構成音が著しく相違し,全体の音感音調が明らかに異なり,明瞭に区別し得るものである。
次に,両商標から生ずる観念についても両当事者間に争いがあるので,検討するに,本件商標は,その構成文字に相応して「くつろぐこと,余裕」の観念を生ずるのに対し,引用商標は,上記のとおり,送り仮名がなく「クツロギ」とは称呼されないことから,これに接する取引者・需要者が,直ちに「くつろぐこと,余裕」の観念を想起するようなことはなく,むしろ,「寛大」,「寛容」,「寛厳」といった熟語ないしは人名としての「寛(ひろし)」を想起するというのが自然である。
そうすると,本件商標と引用商標とは,観念においても相紛れるおそれはない。
さらに,本件商標と引用商標とは,それぞれの構成に照らし,外観上判然と区別し得る差異を有するものといえる。
してみれば,本件商標と引用商標とは,称呼,観念及び外観のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。
したがって,本件商標は,商標法4条1項11号の規定に違反して登録されたものではないから,同法46条1項の規定により,その登録を無効にすべき限りでない。
第3当事者の主張の要点1原告主張の審決取消事由(類否判断の誤り)(1)引用商標の称呼についての認定の誤り審決は,「引用商標を構成する漢字1字の「寛」については,「カン」又は「ヒロシ」と読まれるのが自然であり,送り仮名「ぎ」が付されて初めて「クツロギ」と称呼されるというべきである。したがって,引用商標からは「カン」又は「ヒロシ」の称呼が生ずるというのが相当である。」と認定した。
確かに,広辞苑第五版(甲29)では,「くつろぎ」の見出しに「寛ぎ」の表示をしている。しかし,広辞苑第二版補訂版(甲5の1)や第三版(甲5の2)では「寛」の表示をしているし,「くつろぎ」の見出しに「寛」の表示をしている国語辞典(甲3,4)は現在でも存在する。また,「常用漢字表」において「想」の漢字に「ソウ」,「ソ」の読みが表示されているのに対し,漢字一字の「想」からなる登録第1049642号商標には「オモイ」の称呼が記載されていたり,「常用漢字表」において「活」の漢字に「カツ」の読みが表示されているのに対し,漢字一字の「活」からなる登録第1994519号商標には「イキ」の称呼が記載されているように,「当用漢字改訂音訓表」や「常用漢字表」は,漢字使用の目安を示したもので,表示した音訓以外は使用しないという精神によって定めたものではない。さらに,「送り仮名について」(昭和48年6月18日内閣告示)が改正された昭和56年以前に社会人であった者は多数存在しているから,「寛」の表示を「くつろぎ」と称呼する需要者は少なくない。
そうであれば,送り仮名「ぎ」がなくても,引用商標からは,「クツロギ」の称呼が生じるのであるから,審決の上記認定は誤りである。
(2)引用商標の観念についての認定の誤り審決は,「引用商標は,上記のとおり,送り仮名がなく「クツロギ」とは称呼されないことから,これに接する取引者・需要者が,直ちに「くつろぐこと,余裕」の観念を想起するようなことはなく,むしろ,「寛大」,「寛容」,「寛厳」といった熟語ないしは人名としての「寛(ひろし)」を想起するというのが自然である。」と認定した。
「極」から「きわみ」との観念が生じるように,送り仮名のない漢字一文字からであっても,当該漢字の有する観念が生じる上,上記(1)のとおり,引用商標については,送り仮名「ぎ」がなくても,「クツロギ」の称呼が生じるのである。しかも,国語辞典等からも明らかなように,「寛」の文字自体に,度量が広い(豊か),ゆるやか,くつろぐ等の意味があるほか,「寛仮」,「寛窄」といった「くつろぐ」の観念を含む述語がある。
そうであれば,引用商標からは,「くつろぐこと,余裕」の観念が生じるのであるから,審決の上記判断は誤りである。
(3)本件商標と引用商標とが非類似であるとの判断の誤り審決は,「本件商標と引用商標とは,称呼,観念及び外観のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。」と判断した。
引用商標は,「くつろぎ」の文字を縦書きしてなり,酒類を指定商品とする登録第1011976号商標(昭和45年12月4日出願,昭和48年5月10日設定登録)の連合商標として登録出願されたものである。また,「くつろぎの」の文字を縦書きしてなり,酒類を指定商品とする商標登録出願(商願昭59-97163号)について,引用商標を引用して拒絶理由が通知された。さらに,原告は,昭和56年6月ころから,引用商標に「くつろぎ」を併記して,これを継続的に使用している。さらにまた,引用商標のように,動詞の連用形が名詞化した漢字一文字からなる商標とその漢字の読みの平仮名からなる商標とが同一の称呼及び観念を生じることは,「輝」からなる登録第3027194号商標と「かがやき」からなる登録第3040596号商標とが,商標法の一部を改正する法律(平成3年法律第65号)附則5条3項により,相互に重複する商標(重複商標)であることからも明らかである。
今日において,上記の連合商標等の審査をした特許庁の判断を変更しなければならないような社会現象や国語の変更があったとする格別の証拠はないから,上記の事情に照らせば,本件商標と引用商標とは相類似する商標であり,審決の上記判断は誤りである。
2被告の反論(1)引用商標の称呼についての認定の誤りに対し「寛」は,「ゆるやか,度量が広い」等の意味として用いる場合は「カン」と読み,また,「くつろぐこと,余裕」等の意味として用いる場合は,現在では一般に送り仮名「ぎ」を付して「寛ぎ」と表して,「クツロギ」と読むが,この送り仮名「ぎ」を付さずに「寛」と表しても,「クツロギ」と読むことがあり,さらに,人名として用いる場合は,「ヒロシ」と読む。
審決は,「寛」の漢字が自他商品識別標識である商標として用いられた場合に,当該商標に接する指定商品である酒の需要者によってどのように称呼されるのが自然であるかについて検討し,指定商品である酒の一般的,平均的な漢字知識を有する需要者及び取引者は,より親しまれた「カン」や「ヒロシ」の称呼をもって取引に当たるとして,「クツロギ」の称呼は生じ難いと判断したのである。原告の主張は,漢字そのものの読みや意味とその漢字を商標として使用した場合に生ずる称呼とが次元の異なったものであるにもかかわらず,これを区別しないものであって,誤りである。
(2)引用商標の観念についての認定の誤りに対し上記(1)のとおり,「寛」は,「ゆるやか,度量が広い」等の意味として用いる場合は「カン」と読み,「くつろぐこと,余裕」等の意味として用いる場合は「クツロギ」と読み,人名として用いる場合は「ヒロシ」と読むのであって,その読みと意味とは一体不可分のものであり,これを切り離すことはできない。審決は,引用商標からは「カン」又は「ヒロシ」の称呼を生ずるが,「クツロギ」の称呼は生じないと認定したのであるから,この称呼に即して,「くつろぐこと,余裕」の観念を想起するようなことはないとした審決の認定に誤りはない。
(3)本件商標と引用商標とが非類似であるとの判断の誤りに対し引用商標からは,「カン」(ゆるやか,度量が広い)又は「ヒロシ」(人名)の称呼,観念のみが生ずるのであって,「クツロギ」(くつろぐこと,余裕)の称呼,観念は生じ得ないから,審決が,本件商標と引用商標とを対比して,両者が類似しないと判断したことに誤りはない。
第4当裁判所の判断1引用商標の称呼についての認定の誤りについて(1)当用漢字改定音訓表(昭和47年6月28日)(甲28の1)には,「今回の改定音訓表は,一般の社会生活における,よい文章表現のための目安として設定された。」,「ここに言う一般の社会生活における音訓使用とは,法令・公用文書・新聞・雑誌・放送などにおける音訓使用を指している。・・・また,ここに言う一般の社会生活における音訓使用は,義務教育における学習を終えた後,ある程度実社会や学校での生活を経た人々を対象とする。」などと記載されているところ,漢字「寛」について,音訓を「カン」,例を「寛大,寛容,寛厳」と記載されている。また,常用漢字表(昭和56年10月1日内閣告示)(甲18,27の1)には,前書きに,「1.この表は,法令,公用文書,新聞,雑誌,放送など,一般の社会生活において,現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安を示すものである。」,「2.この表は,科学,技術,芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではない。」,「4.この表は,過去の著作や文書における漢字使用を否定するものではない。」などと記載されているところ,その本表には,漢字「寛」について,音を「カン」と記載されている。
国語辞典等においては,冨山房発行の「修訂大日本國語辞典新装版」(1961年(昭和36年)発行,甲4),岩波書店発行の「広辞苑第二版補訂版」(昭和51年12月1日第二版補訂版発行,甲5の1),小学館発行の「日本国語大辞典〔縮刷版〕」(昭和55年2月20日縮刷版第一版第一刷発行,甲11),冨山房発行の「新編大言海」(昭和57年2月28日新編版初版発行,甲3)及び岩波書店発行の「広辞苑第三版」(昭和58年12月6日第三版発行,甲5の2)には,「くつろぎ」の見出しとともに「寛」の文字が記載されているが,小学館発行の「大辞泉増補・新装版」(平成10年11月20日第一版〈増補・新装版〉第一刷発行,甲15)及び岩波書店発行の「広辞苑第五版」(平成10年11月11日第五版第一刷発行,甲29)には,「くつろぎ」の見出しとともに「寛ぎ」の文字が記載されている。
また,大修館書店発行の「大漢語林」(平成4年4月25日初版第一刷発行,甲16)には,「寛」の見出しに「カン」の文字が記載され,岩波書店発行の「岩波新漢語辞典第二版」(平成12年1月25日第二版第一刷発行,甲17)には,「寛」の見出しとともに「カン〈クヮン〉ひろい・ゆるやか・くつろぐ(名)ひろ・ひろし」との文字が記載されている。
(2)本件商標の指定商品は,「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」であり,引用商標のそれは,「ビール」及び「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」であって,取引者及び需要者を共通にし,かつ,需要者は,漢字に対し特別な知識を有していない一般大衆であって,これを購入するに際して払われる注意は高度なものではないということができる。そして,上記(1)のとおり,当用漢字改定音訓表(昭和47年6月28日)や常用漢字表(昭和56年10月1日内閣告示)は,一般の社会生活における漢字使用の目安を示したものであるが,漢字「寛」について「カン」と記載し,また,近時の国語辞書においては,「くつろぎ」の見出しに「寛ぎ」と記載されていることを併せ考えると,簡易迅速性を重んじる取引の実情において,引用商標を酒類等に使用したときに,取引者及び需要者は,引用商標を構成する「寛」の文字について,通常,「カン」と読むほか,人名の「ヒロシ」と読み,送り仮名に「ぎ」が付されているのであれば格別,送り仮名に「ぎ」が付されていないにもかかわらず,ことさらに「クツロギ」と読むことがあるとは認め難い。
そうであれば,引用商標からは,「カン」又は「ヒロシ」の称呼が生じるものであって,「クツロギ」の称呼が生じるとは認められない。
(3)原告は,「くつろぎ」の見出しに「寛」の表示をしている国語辞典は現在でも存在するし,「当用漢字改訂音訓表」や「常用漢字表」は,漢字使用の目安を示したもので,表示した音訓以外は使用しないという精神によって定められたのではなく,また,「送り仮名について」(昭和48年6月18日内閣告示)が改正された昭和56年以前に社会人であった者は多数存在しているのであって,「寛」の表示を「くつろぎ」と称呼する需要者も少なくないから,引用商標から「クツロギ」の称呼が生ずると主張する。
しかしながら,「寛」の文字から「クツロギ」と読むことができるとしても,上記(2)のとおり,簡易迅速性を重んじる取引の実情において,引用商標を酒類等に使用したときに,取引者及び需要者が,「寛」の文字について,ことさらに「クツロギ」と読むとは認め難いのであって,引用商標から「クツロギ」の称呼が生じるとは認められない。原告の上記主張は,採用することができない。
(4)したがって,「引用商標からは「カン」又は「ヒロシ」の称呼が生ずるというのが相当である。」とした審決の認定に誤りはないから,原告主張の取消事由1は理由がない。
2引用商標の観念についての認定の誤りについて(1)上記1のとおり,引用商標を酒類等に使用したときに,「寛」の文字について,取引者及び需要者がことさらに「クツロギ」と読むとは認め難いから,取引者及び需要者は,引用商標から生ずる「カン」又は「ヒロシ」の称呼に対応して,「寛」の文字を含む「寛大」,「寛容」,「寛厳」等の熟語や人名の「寛(ひろし)」を想起し,「クツロギ」の称呼から連想される「くつろぐこと,余裕」を想起するとは考え難い。
そうであれば,引用商標からは,「寛大」,「寛容」,「寛厳」等の熟語や人名の「寛(ひろし)」の観念が生じると認められる。
(2)原告は,送り仮名のない漢字一文字からであっても,当該漢字の有する観念が生じる上,引用商標については,「クツロギ」の称呼が生じるのであるし,「寛」の文字自体に,度量が広い(豊か),ゆるやか,くつろぐ等の意味があるほか,「寛仮」,「寛窄」といった「くつろぐ」の観念を含む述語があるから,引用商標から「くつろぐこと,余裕」の観念が生じると主張する。
しかしながら,「極」のように,送り仮名のない漢字一文字から当該漢字の有する観念が生じたり,「寛」の文字自体にくつろぐ等の意味があるとしても,上記1のとおり,簡易迅速性を重んじる取引の実情において,引用商標を酒類等に使用したときに,引用商標から「クツロギ」の称呼が生ずるとは認められないから,「寛大」,「寛容」,「寛厳」等の熟語や人名の「寛(ひろし)」との観念のほかに,さらに「くつろぐこと,余裕」の観念が生じるとは認められない。原告の上記主張は,採用することができない。
(3)したがって,「「寛大」,「寛容」,「寛厳」といった熟語ないしは人名としての「寛(ひろし)」を想起するというのが自然である。」とした審決の認定に誤りはないから,原告主張の取消事由2は理由がない。
3本件商標と引用商標とが非類似であるとの判断の誤りについて(1)本件商標は,その構成自体に照らして,「クツロギ」の称呼が生じるものであるところ,上記1のとおり,引用商標からは「カン」又は「ヒロシ」の称呼が生じるから,本件商標と引用商標とは,称呼において相違する。また,本件商標は,その構成自体に照らして,「くつろぐこと,余裕」の観念が生じるものであるところ,上記2のとおり,引用商標からは「寛大」,「寛容」,「寛厳」といった熟語ないしは人名としての「寛(ひろし)」の観念が生じるから,本件商標と引用商標とは,観念において相違する。さらに,本件商標と引用商標とが外観において相違することは明らかである。
そうであれば,本件商標は引用商標に類似しない。
(2)原告は,@引用商標は,「くつろぎ」の文字を縦書きしてなり,酒類を指定商品とする登録第1011976号商標(昭和48年5月10日設定登録)の連合商標として登録出願された,A「くつろぎの」の文字を縦書きしてなり,酒類を指定商品とする商標登録出願(商願昭59-97163号)について,引用商標を引用して拒絶理由が通知された,B原告は,昭和56年6月ころから,引用商標に「くつろぎ」を併記して,これを継続的に使用している,C引用商標のように,動詞の連用形が名詞化した漢字一文字からなる商標とその漢字の読みの平仮名からなる商標とは同一の称呼及び観念が生ずるものであり,今日において,上記の連合商標等の審査をした当時の特許庁の判断を変更しなければならない社会現象や国語の変更があったとする格別の証拠はないから,本件商標と引用商標とは相類似する商標であると主張する。
しかしながら,本件商標と引用商標とが類似するか否かは,両商標の指定商品取引の実情を考慮して,個別具体的に判断すべきものであるところ,本件において,上記1,2のとおり,簡易迅速性を重んじる取引の実情において,引用商標から「クツロギ」の称呼や「くつろぐこと,余裕」の観念が生ずるとは認められないのであるから,原告主張の事情があったとしても,これをもって,本件商標と引用商標との類否の判断に影響を及ぼすものであるとはいえない。原告の上記主張は,採用の限りでない。
(3)したがって,「本件商標と引用商標とは,称呼,観念及び外観のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。」とした審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由3は理由がない。
第5結論以上のとおりであって,原告主張の審決取消事由はすべて理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 高野輝久
裁判官 佐藤達文