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関連審決 無効2005-89154
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10480審決取消請求事件 判例 商標
平成17行ケ10829審決取消請求事件 判例 商標
関連ワード 指定商品 /  周知性 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  広義の混同 /  4条1項15号 /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  離隔的 /  取引の実情 /  出所の混同 /  存続期間 /  無効審判 /  更新登録 /  類似商標 /  継続 /  非類似 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10427号 審決取消請求事件
原告大 正薬品工業株式会社
訴訟代理人弁護士光石忠敬
同 光石俊郎
同弁理士田中康幸
同 松元洋
被告ア ス テラス製 薬 株式会社
訴訟代理人弁理士橘哲男
同 内藤通彦
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/03/28
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2005-89154号事件について平成18年8月17日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,「ハルンナート」の片仮名文字と「HARNNAT」の欧文字とを上下二段に書してなり,指定商品を第5類「薬剤」とする商標登録第4791617号商標(平成15年12月15日商標登録出願,平成16年7月2日登録査定,同月30日設定登録,以下「本件商標」という。)の商標権者である。
被告は,平成17年12月2日,原告を被請求人として,本件商標の商標登録を無効とすることについて審判を請求した。特許庁は,同請求を無効2005-89154号事件として審理した結果,平成18年8月17日,「登録第4791617号の登録は無効とする。」との審決をし,その謄本は,同月29日,原告に送達された。
2審決の理由審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件商標は,これをその指定商品について使用した場合には,同商品が被告(請求人)あるいは被告と経済的又は組織的に関係ある者の業務に係る商品であるかのように,取引者,需要者に,商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものであり,本件商標の登録は,商標法4条1項15号に違反してされてものであるから,同法46条1項の規定により,その登録を無効とすべきであるとした。
第3原告主張の審決取消事由審決は,本件商標が商標法4条1項15号に該当しないことについての原告(被請求人)の主張に対して何ら判断をせず,本件商標の登録を無効とすべきであるとした理由不備の違法があり(取消事由1,2),取り消されるべきである。
1取消事由1(商標の類似性に関する理由不備の違法)( )審決は,原告が,「ハル」の語句が含まれる医薬品の登録商標が多数あり,1本件商標のうち,語頭の「ハル」の部分は強調されない部分である旨主張し,同主張は審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるにもかかわらず,何ら判断をしていない違法がある。
( )無効審判において,被告(請求人)が,「ハルナール」の片仮名文字と2「HARNAL」の欧文字とを上下二段に書してなり,指定商品を第1類「化学品(他の類に属するものを除く)薬剤,医療補助品」とする登録第2195341号商標(昭和62年12月18日登録出願,平成元年12月25日設定登録,平成11年8月24日存続期間更新登録。以下「引用商標」という。)を挙げて,本件商標と引用商標は,語頭の「ハル」の部分が商標の要部である旨主張したのに対し,原告は,「ハル」が含まれる医薬品についての登録商標は95件あり,そのうち,引用商標より先に商標登録されているものとして,「ハルゼンブイ」,「ハルシオン」,「ハルニン」,「ハルネオン」,「ハルバーン」,「ハルモナ」,「ハルナー」,「ハルンアルスター」,「ハルキシン」及び「ハルナミン」があることなどから,本件商標において,「ハル」の部分は強調されない部分であり,商標の要部ではない旨主張した。
しかし,審決は,本件商標と引用商標との対比において,「称呼において印象に強く残る語頭部分において『ハル』の2音と,語尾部の『ナー』の2音の4音を共通」にし,「印象に残りやすい語頭部の『ハル』と,中間部の『ナー』の文字の併せて4文字を同じくするもの」とし,他方,中間部及び語尾について,「比較的聴取し難い」,「前音の長音『ー』の母音(a)(に)吸収され一層,不明瞭なものとなる」もので,「印象の薄い」ものであるとし,本件商標と引用商標が,全体として「互いに聞き誤られるおそれがある」,「似かよった印象を与える」などと認定判断したが,語頭の「ハル」の部分は強調されない部分であるとした原告の主張について,何ら根拠を示して判断をしなかった。
( )「ハル」を語頭に有し,指定商品を薬剤とする登録商標は,67件存在し,3また,引用商標「ハルナール」より先に登録された登録商標として「ハルナー」が存在する。これらは,指定商品を薬剤とする商標においては,語頭の「ハル」の部分はもちろん,語頭の「ハルナー」の部分が強調されるものではなく,中間部及び語尾の差異が強調されることを意味する。商標法4条1項15号の適用に当たっては,これらの,引用商標と他の登録商標の関係も当然に前提事実として考慮しなければならない。
そして,後記2のとおり,本件商標及び引用商標が付される医療用医薬品という特別な分野においては,中間部における「ン」の有無の相違及び語尾部の「ト」と「ル」の差異が強調され,「ト」と「ル」は相違する音の母音が近似せず,子音も共通していないから,音質を異にするもので,本件商標と引用商標は,称呼及び外観において,紛れるおそれがない非類似の商標である。
2取消事由2(出所混同のおそれに関する理由不備の違法)( )審決は,原告が「ハル」の語句を含む医薬品の登録商標が多数存在し,本1件商標が引用商標と出所の混同を生じない旨主張し,同主張は審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるにもかかわらず,何ら判断をしていない違法がある。
( )商標の類否判断については,「商標の類否は,同一又は類似の商品に使用2された商標が外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。右のとおり,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所を誤認混同するおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,右三点のうち類似する点があるとしても,他の点において著しく相違するか,又は取引の実情等によって,何ら商品の出所を誤認混同するおそれが認められないものについては,これを類似商標と解することはできないというべき」(最高裁第三小法廷平成9年3月11日判決・民集51巻3号1055頁)である。
本件商標及び引用商標が使用されている医薬品は,医師の処方箋に基づき患者に投与される医療用医薬品であり,医療関係者以外の一般人を対象とする広告宣伝は禁止され,医療用医薬品に接する取引者,需要者は,医師,薬剤師など医薬品の取引に相当の注意力を有する専門家であり,かつ,医師が作成する処方箋には原則として商品名を記載しなければならない。
したがって,一般に,医療用医薬品の業界においては,専門家である医師の処方箋に基づき,専門家である薬剤師を介して患者に医薬品が渡されるところ,商品を取り扱う者が相当の注意力を有する専門家であるから,わずかな相違でも強調され,一般人にとって,称呼及び外観において紛れるおそれがある類似性の高い商標でも,出所の誤認混同は生じない。例えば,ACE阻害剤には,「レニベース」(甲17の1),「レニベーゼ」(甲17の2)及び「レニメック」(甲17の3)があり,一字違いの商標が使用されている。その他の医薬品においても,一字違い又はこれに近い商品名のものが,「アイロミール」(甲18の1)と「アイロクール」(甲18の2)など合計58件(甲18ないし73〔枝番のあるものは各枝番を含む。〕)もあり,その中には,一字違いの商標が付された医薬品の一方が周知の医療用医薬品も含まれている。
また,厚生労働省の医療用医薬品のデータファイル(甲7)によれば,名称に「ハル」を含む医療用医薬品は,現在販売されているものでも,本件商標及び引用商標が付された2件のほかに,「ハルトマン」(甲9),「ハルタム」(甲10),「ハルスロー」(甲11),「ハルシオン」(甲12),「ハルニン」(甲13),「ハルバーン」(甲14),「ハルラック」(甲15)及び「ハルーリン」(甲16)の8件があり(合計10件),引用商標より先に商標登録されたものとして,「ハルシオン」,「ハルニン」及び「ハルバーン」の3件がある。
これらの医療用医薬品の存在は,具体的な取引の実情として,一字違い又はこれに近い商品名や,語頭に「ハル」の語句を有する医薬品相互の間で,出所の混同が問題となるものではないことを示している。
以上によれば,医師等は医薬品の取扱いに相当の注意力を有する専門家であること,患者に対して医療用医薬品を提供するには必ず医師の処方箋が必要であること,医療用医薬品において,一字違い又はこれに近い商品名のものがあり,「ハル」を含む医療用医薬品が現在販売されているものでも合計10件もあることなどから,本件商標と引用商標の相違が強調され,出所の混同のおそれはない。
( )さらに,医師,薬剤師は,「前立腺肥大症の排尿障害改善剤」(本件商標3及び引用商標が使用されている医薬品)だけでなく,広範囲の医療用医薬品を取り扱っているものであるから,すべての医療用医薬品を対象として,本件商標をその指定商品に使用したときに誤認混同が生ずるか否かを判断しなければならない。
被告は,原告が例示した一字違い又はこれに近い商品名の例についても,いずれか一方が特定の分野において,引用商標と同程度に著名性を獲得しており,他方が出所の混同を起こしていないという事実が主張立証されなければならない旨主張するが,一字違い等の商品名の存在について,著名性の獲得のある場合にのみ出所の誤認混同のおそれを限定するものであり,根拠がなく失当である。一般に,医療用医薬品の分野において,周知性を取得した医薬品名と一字違いの同じ効用の医薬品名が存在する場合,相当の注意力を有する専門家にとっては,広義の混同など問題でなく,逆に一字違いの相違がより強調され,出所の混同は生じない。
第4被告の反論審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1取消事由1(商標の類似性に関する理由不備の違法)について( )原告は,「ハル」の語句が含まれる医薬品の登録商標が多数あり,本件商1標のうち,語頭の「ハル」の部分は強調されない部分である旨主張したにもかかわらず,審決は,何ら判断をしていない違法がある旨主張するが,失当である。
商標登録無効審判の審理において,請求人が主張した請求の理由中のどの理由によって登録を無効とするかは,特許庁がその職権に基づき認定判断する事項であり,本件において,原告(被請求人)の指摘する事項について,直接的に判断していなくとも,使用されている引用商標の著名性及び引用商標と登録商標である本件商標の類似性について判断した上,本件商標の商標登録を無効とした審決に何ら違法はない。
また,審決は,本件商標と引用商標との類似性を述べた上で,「ウ以上によれば,本件商標と使用標章とは,その称呼及び外観において,相紛れるおそれがある類似性の高い商標といわなければならない。」(審決謄本20頁第2段落)として,原告の上記主張に対する判断をしている。
( )原告は,「ハル」を語頭に有し,指定商品を薬剤とするものが67件存在2すること,引用商標より先に登録された商標として「ハルナー」が存在していること,本件商標及び引用商標が使用される医療用医薬品の分野においては,中間部及び語尾部の相違が強調されることを理由とし,本件商標と引用商標とは,称呼及び外観において,相紛れるおそれのない非類似の商標である旨主張する。
商標法4条1項15号は,同項10号ないし14号の総括条項であり,具体的な出所の混同の防止を図ることを目的とするもので,15号に該当するか否かは,対象となる商標に係る具体的な取引の実情等を考慮しなければならない。しかし,原告主張の「ハル」を語頭に有する登録商標が67件存在する事実,登録商標「ハルナー」が存在する事実は,単に登録例が存在していることを示すにすぎず,具体的な取引の実情等とは関係がない。本件商標と引用商標の類似性ではなく,引用商標と他の既登録商標との関係をもって,本件商標と引用商標が類似するか否かについて論じることは,具体的な出所の混同の防止という商標法4条1項15号の観点を全く無視したものである。
審決は,上記観点から,本件商標と引用商標の類似性を検討し,「本件商標と使用標章とは,その称呼及び外観において,相紛れるおそれがある類似性の高い商標」(審決謄本20頁第2段落)であるとして,「そうすると,本件商標は,これをその指定商品について使用した場合は,該商品が請求人(注,被告)あるいは同人と経済的又は組織的に関係ある者の業務に係る商品であるかのように,その取引者,需要者をして,商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものといわざるを得ない。」(同頁第5段落)と認定判断したものであり,何ら違法はない。
2取消事由2(出所混同のおそれに関する理由不備の違法)について( )原告は,審判段階において,「ハル」の語句を含む医薬品の登録商標が多1数存在し,本件商標が引用商標と出所の混同を生じない旨主張したのに対し,審決は,同主張に対する判断を示さなかったとして,理由不備の違法がある旨主張する。
しかし,審決は,「(2)本件商標と引用商標との類似性について」(審決謄本19頁第4段落以下)において,本件商標と引用商標との類似性が高いと認定判断した上で,「(3)本件商標の指定商品と請求人の業務に係る使用商品及び取引者・需要者の共通性について」(同20頁第3段落以下)において,本件商標と引用商標の出所の混同について検討し,@本件商標が使用されている商品,A両商標の類似性及びB本件商標の指定商品と請求人(被告)の業務に係る使用商品及び取引者,需要者の共通性の三点から,「本件商標は,これをその指定商品について使用した場合には,該商品が請求人(注,被告)あるいは同人と経済的又は組織的に関係のある者の業務に係る商品であるかのように,その取引者,需要者をして,商品の出所について混同を生じさせるおそれがある」(同頁第5段落)として,本件商標と引用商標の出所の混同について認定判断したものであり,原告の主張は失当である。
( )原告は,医師等は医薬品の取扱いに相当の注意力を有する専門家であるこ2と,患者に対して医療用医薬品を提供するには必ず医師の処方箋が必要であること,医療用医薬品において,一字違い又はこれに近い商品名のものがあり,「ハル」を含む医療用医薬品が現在販売されているものでも合計10件あることなどから,本件商標と引用商標の相違が強調され,出所の混同のおそれはない旨主張するが,失当である。
具体的な出所の混同の有無については,商標の類否のみならず,指定商品の分野における当該商標の認知度等の具体的な取引の実情を個別具体的に判断すべきであるから,現実に,一字違いの商標が存在し,あるいは,使用されている事実があったとしても,そのことは,本件商標と引用商標との具体的な出所の混同のおそれの判断について何ら影響を与えるものではない。
原告が掲げる一字違い又はこれに近い商品名の例については,いずれか一方の商標が,特定の分野において,引用商標と同程度に著名性を獲得しており,他方が出所の混同を起こしていないという事実が主張立証されなければならないが,そのような主張立証もされていない。両商標が並存しているという事実,取引者,需要者が医師,薬剤師などの専門家であることだけから,本件商標と引用商標において,出所の誤認混同のおそれを否定することはできない。
引用商標は,被告が商品「前立腺肥大症の排尿障害改善剤」を表示するものとして,少なくとも,医療用医薬品を取り扱う業者,前立腺肥大症の排尿障害改善剤にかかわる専門医,薬剤師などの取引者,需要者の間に広く認識されていたものであって,「前立腺肥大症の排尿障害改善剤」の分野において著名性を獲得している。また,本件商標と引用商標とは,称呼及び外観において相紛れるおそれがあり,類似性の高いものである。
( )原告は,医師,薬剤師が広範囲の医療用医薬品を取り扱っていることを理3由に,すべての医療用医薬品を対象として,本件商標をその指定商品に使用したときに誤認混同が生ずるか否かを判断しなければならない旨主張する。
確かに,本件商標が使用される医療用医薬品と引用商標が使用される医療用医薬品との適応症が互いに全く異なるものであれば,すべての医療用医薬品を対象として誤認混同を生ずるか否かを判断しなければならない。
しかし,本件商標が使用される医療用医薬品と引用商標が使用される医療用医薬品との適応症は共通しており,また,互いに「前立腺肥大症の排尿障害改善剤」である点も共通しているから,医師,薬剤師は,「前立腺肥大症の排尿障害改善剤」を処方する際に,出所の混同が生ずるおそれがある。
そして,引用商標が「前立腺肥大症の排尿障害改善剤」の分野において著名性を獲得しており,本件商標と引用商標とは類似性が高いものであることからすれば,本件商標を,その指定商品について使用した場合には,被告あるいは被告と経済的又は組織的に関係のある者の業務に係る商品であるかのように,取引者,需要者に,商品の出所について混同を生じさせる蓋然性が極めて高いことは明らかである。
第5当裁判所の判断1本件商標の商標法4条1項15号該当性について( )商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生1ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者,需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者,需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断すべきである(最高裁第三小法廷平成12年7月11日判決・民集54巻6号1848頁参照)。
( )本件商標は,「ハルンナート」の片仮名文字と「HARNNAT」の欧文2字とを上下二段に書してなり,指定商品を第5類「薬剤」とするものである。
これに対し,無効審判において,被告(請求人)が引用した引用商標は,「ハルナール」の片仮名文字と「HARNAL」の欧文字とを上下二段に書してなり,指定商品を第1類「化学品(他の類に属するものを除く)薬剤,医療補助品」とするものであり,平成元年12月25日に設定登録されて以来,継続して商標登録がされていること(甲4,5),被告(名称変更前の山之内製薬株式会社を含む。)が,その業務に係る商品である「前立腺肥大症の排尿障害改善剤」(以下「被告商品」という。)を表示するものとして,「ハルナール」,「HARNAL」又は「Harnal」との標章(以下「使用標章」という。)を使用しており,審決の認定するとおり,「本件商標の登録出願時(注,平成15年12月15日)には,請求人(注,被告)の前身である山之内製薬株式会社が,商品『前立腺肥大症の排尿障害改善剤』(注,被告商品)を表示するものとして,少なくとも医療用医薬品を取り扱う業者,前立腺肥大症の排尿障害改善剤に係わる専門医,薬剤師などその取引者,需要者の間に広く認識されていたものと認められ,その著名性は,本件商標の登録査定時(注,平成16年7月2日)に至るまで継続していたものということができる」(審決謄本19頁第2段落)ことは,いずれも当事者間において争われていない。
( )本件商標と使用標章の類似性についてみると,本件商標は「ハルンナー3ト」との称呼を生じ,使用標章は「ハルナール」との称呼を生じる。そして,「本件商標より生ずる『ハルンナート』の称呼と引用商標(注,審決の「理由」欄「第5当審の判断」の項〔審決謄本14頁以下〕の全趣旨に照らすと,「使用標章」の趣旨と解される。)より生ずる『ハルナール』の称呼を比較すると,両称呼は前者が6音構成であるのに対し,後者が5音構成よりなるものであるが,称呼において印象に強く残る語頭部分において『ハル』の2音と,語尾部の『ナー』の2音の4音を共通にし,中間部の『ン』の有無と末尾部分の『ト』と『ル』(に)差異を有するものである。そして,中間部における撥音『ン』は,鼻音であって弱い音で,しかも比較的聴取し難い中間部に位置するものであり,また差異音『ト』と『ル』は,比較的聴取し難い語尾に位置し,前音の長音『ー』の母音(a)(に)吸収され一層,不明瞭なものとなる。してみると,両称呼をそれぞれ全体として称呼するときは,互いに聞き誤られるおそれがあるというのが相当である」(審決謄本19頁第6段落〜第8段落)ことは,審決の説示するとおりである。およそ,複数の文字を書してなる商標において,語頭部や長音の前に置かれて長音と一体となる部分は,称呼において,明りょうに発音され,印象にも強く残り,外観においても,印象に残る部分であるところ,本件商標と使用標章は,一般的に,明りょうに発音され,印象にも強く残る語頭部の「ハル」,及び,長音の前に置かれて長音とともに明りょうに発音される「ナー」を共通にする一方で,差異がある他の部分は,必ずしも明りょうに発音されるとは限らず,称呼における共通性がある。
また,本件商標と使用標章の外観についても,審決の説示するとおり,「本件商標と使用標章は,上記のとおり,片仮名文字『ハルンナート』と『ハルナール』,欧文字『HARNNAT』と『HARNAL』を書してなるものである。そして,本件商標と使用標章は,その構成中の片仮名文字部分においては,中間における『ン』の1文字の有無及び語尾における『ト』と『ル』の文字の差異を有するとしても,印象に残りやすい語頭部の『ハル』と,中間部の『ナー』の文字の併せて4文字を同じくするものであり,また,欧文字部分においては,同様で印象の薄い中間における『N』の1文字の有無と,語尾における『T』と『L』の文字の差異を有するにすぎないものであるから,両者を時と処を異にして離隔的に観察した場合,外観においても,似かよった印象を与えるものである」(同頁最終段落〜20頁第1段落)と認められる。そうすると,本件商標と使用標章は,一般的に,片仮名文字部分の外観において,特に印象に残りやすい語頭部の「ハル」の部分のほか,これも外観上,印象に残りやすい部分といえる,長音の前に置かれて長音と一体となる部分である「ナー」の部分を共通にし,欧文字部分の外観において,印象に残る語頭の「HAR」の文字を共通にするのに対し,差異の部分は,語尾のほか,「N」が1個か2個続くかという,特に印象に残る部分ではなく,本件商標と使用標章は,全体として,外観上,共通する印象を与えるものである。
したがって,本件商標と使用標章の称呼,外観類似性は高いものがあると認められる。
( )使用標章は,前記( )のとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時を42通じ,被告商品である「前立腺肥大症の排尿障害改善剤」を表示するものとして,少なくとも医療用医薬品を取り扱う業者,前立腺肥大症の排尿障害改善剤にかかわる専門医,薬剤師などその取引者,需要者の間に広く認識されていたと認められるところ,本件商標の指定商品である「薬剤」には,「前立腺肥大症の排尿改善剤」が含まれ,また,「前立腺肥大症の排尿改善剤」の取引者,需要者と「薬剤」の取引者,需要者は共通するばかりでなく,それ以外の薬剤についても,被告商品と需要者,生産者,販売系統等を共通にする部分が多いものと認められる。
そして,前記( )のとおりの本件商標と使用標章の称呼,外観類似性の3高さの程度に,使用標章の著名性及び本件商標と使用標章の取引者,需要者の共通性を考慮すれば,本件商標は,これを指定商品である薬剤について使用した場合には,同商品が被告又は被告と資本関係ないしは業務提携関係にある者の業務に係る商品(被告商品)であるかのように,その取引者,需要者に,商品の出所について混同を生じさせるおそれがあると認めることができ,本件商標の登録は商標法4条1項15号に違反してされたものであるとした審決の判断に誤りはないものというべきである。
2取消事由1(商標の類似性に関する理由不備の違法)について原告は,「ハル」を語頭に有し,指定商品を薬剤とする登録商標は67件存在し,引用商標「ハルナール」より先に登録された登録商標として「ハルナー」が存在することを挙げて,指定商品を薬剤とする商標においては,語頭の「ハル」の部分はもちろん,語頭の「ハルナー」の部分が強調されるものではなく,中間部及び語尾の差異が強調される旨主張する。
しかし,前記1( )のとおり,およそ,複数の文字を書してなる商標におい3て,語頭部や長音の前に置かれて長音と一体となる部分は,称呼において,明りょうに発音され,印象にも強く残り,外観においても,印象に残る部分である。
他方,原告が主張する,「ハル」を語頭に有し,指定商品を薬剤とする登録商標が67件存在し,引用商標「ハルナール」より先に登録された登録商標として「ハルナー」が存在するという事実は,単に,それらの登録商標の存在が認められるというものにすぎず,それら登録商標の使用の実態等も明らかではなく,指定商品を薬剤とする商標において,「ハル」及び「ハルナー」を含む商標が付された商品について,取引者,需要者が,「ハル」及び「ハルナー」の部分を重視していないなどの実情を具体的に明らかにするものでもない。したがって,原告主張の事実によって,上記のとおりの商標における一般的な印象を超えて,指定商品を薬剤とする商標について,語頭部の「ハル」が強調されない部分であるとか,中間部及び語尾の差異が強調されることとなるものとは認めることができない。
さらに,審決の説示をみても,「ハル」の部分が強調されない部分であるとの原告の主張に対する判断が示されていることは,後記3( )のとおりであり,2原告の取消事由1の主張は,採用の限りではない。
3取消事由2(出所混同のおそれに関する理由不備の違法)について( )原告は,医師等は医薬品の取扱いに相当の注意力を有する専門家であるこ1と,患者に対して医療用医薬品を提供するには必ず医師の処方箋が必要であること,医療用医薬品において,一字違い又はこれに近い商品名のものが合計58件もあり,「ハル」を含む医療用医薬品が現在販売されているものでも,本件商標及び引用商標が付された2件のほかに,「ハルトマン」等8件,合計10件もあることなどから,本件商標と引用商標の相違が強調され,出所の混同のおそれはない旨主張する。
確かに,医師や薬剤師は,医薬の知識を有する専門家であり,医療用医薬品は処方箋により処方されるものであって,一般には,患者に処方,調合する医療用医薬品に誤りのないように,その名称には細心の注意を払っているのが通例ではないかと考えられるが,そうであるからといって,取引者,需要者が,医師,薬剤師など医療関係者であれば,医療用医薬品に使用された類似する商標について,およそ混同を生ずるおそれがないということはできない。本件において,前記1( ) ( )のとおりの,本件商標と使用標章の類2 , 3似性,使用標章の著名性に,医療用医薬品に関する取引の実情を併せ考慮すれば,医療関係者が医薬の知識を有する専門家であるとしても,多数の種類,品目の医薬品を取り扱っている医薬品卸売業者及び調剤薬局,並びに,多数の医師や薬剤師が働く医療機関における医師,薬剤師などにおいて,本件商標を使用した薬剤が,被告又は被告と資本関係ないし業務提携関係にある者の業務に係る商品(被告商品)であるかのように混同するおそれがあることを否定することはできない。
また,原告主張のように,医療用医薬品において,一字違い又はこれに近い商品名のものが合計58件もあり,名称に「ハル」を含む医療用医薬品が現在販売されているものでも,本件商標及び引用商標が付された2件のほかに合計8件あるとしても,そのような商品名が付された商品相互について,医療用医薬品の取引者,需要者において,出所の混同のおそれがないとの事実について明らかになっているわけではないから,原告主張の事実だけでは,医療用医薬品において,一字違いの商品名の医薬品相互について,取引者,需要者において出所の混同のおそれがないとか,名称に「ハル」を含む医薬品相互について,取引者,需要者において出所の混同のおそれがないことを認めるに足りない。そして,商品の出所混同のおそれの有無は,個々の具体的な事例において,商標の周知性の程度,商標の類似性の程度,取引の実情等を総合勘案して決せられるものであり,本件商標をその指定商品に使用した場合においては,こうした観点から,出所の混同のおそれがあると認められることは,前示のとおりである。
なお,原告は,医師,薬剤師は,「前立腺肥大症の排尿障害改善剤」(本件商標及び引用商標が使用されている医薬品)だけでなく,広範囲の医療用医薬品を取り扱っているものであるから,すべての医療用医薬品を対象として誤認混同が生ずるか否かを判断しなければならない旨主張するが,本件商標の指定商品である「薬剤」には,「前立腺肥大症の排尿改善剤」が含まれ,また,「前立腺肥大症の排尿改善剤」の取引者,需要者と「薬剤」の取引者,需要者は共通するばかりでなく,それ以外の薬剤についても,被告商品と需要者,生産者,販売系統等を共通にする部分が多いものと認められるのであり,「前立腺肥大症の排尿改善障害剤」に限らず,本件商標を指定商品である薬剤に使用すると,出所の混同のおそれがあることは,前示のとおりである。
( )原告は,審判段階において,「ハル」の語句が含まれる医薬品の登録商標2が多数存在すること,本件商標が使用されるのが医療用医薬品であることなどを挙げて,本件商標のうち,語頭の「ハル」の部分は強調されず,また,本件商標を指定商品に使用しても出所の混同が生じない旨主張したにもかかわらず,審決が同主張に対する判断を示さなかったとして,理由不備の違法を主張する。
しかし,原告主張の上記事実が審決の結論に影響を及ぼすものではないことは,前示のとおりであるが,その主張にかんがみ,審決の説示をみると,審決は,「被請求人(注,原告)は,『ハル』を含む医薬品の登録商標が多数存在しているとして,本件商標は使用標章と出所の混同を生じるおそれはない旨も主張しているが,この点に関しても,本件商標と使用標章とは,上記(2)のとおりであるから,被請求人の主張は採用できない。」(審決謄本20頁最終段落〜21頁第1段落)とし,「上記(2)」(「(2)本件商標と引用商標(注,「使用標章」の趣旨と解される。)との類似性について」〔審決謄本19頁第4段落以下〕)において,本件商標と使用標章の類似性を検討し,称呼について,「本件商標より生ずる『ハルンナート』の称呼と引用商標(注,「使用標章」の趣旨と解される。)より生ずる『ハルナール』の称呼を比較すると,両称呼は前者が6音構成であるのに対し,後者が5音構成よりなるものであるが,称呼において印象に強く残る語頭部分において『ハル』の2音と,語尾部の『ナー』の2音の4音を共通にし,中間部の『ン』の有無と末尾部分の『ト』と『ル』(に)差異を有するものである。そして,中間部における撥音『ン』は,鼻音であって弱い音で,しかも比較的聴取し難い中間部に位置するものであり,また差異音『ト』と『ル』は,比較的聴取し難い語尾に位置し,前音の長音『ー』の母音(a)(に)吸収され一層,不明瞭なものとなる。してみると,両称呼をそれぞれ全体として称呼するときは,互いに聞き誤られるおそれがあるというのが相当である。」(同19頁第6段落〜第8段落)とし,また,外観について,「本件商標と使用標章は,上記のとおり,片仮名文字『ハルンナート』と『ハルナール』,欧文字『HARNNAT』と『HARNAL』を書してなるものである。そして,本件商標と使用標章は,その構成中の片仮名文字部分においては,中間における『ン』の1文字の有無及び語尾における『ト』と『ル』の文字の差異を有するとしても,印象に残りやすい語頭部の『ハル』と,中間部の『ナー』の文字の併せて4文字を同じくするものであり,また,欧文字部分においては,同様で印象の薄い中間における『N』の1文字の有無と,語尾における『T』と『L』の文字の差異を有するにすぎないものであるから,両者を時と処を異にして離隔的に観察した場合,外観においても,似かよった印象を与えるものである。」(同頁最終段落〜20頁第1段落)として,「本件商標と使用標章とは,その称呼及び外観において,相紛れるおそれがある類似性の高い商標といわなければならない。」(同20頁第2段落)としている。そして,審決は,更に続けて,「(3)本件商標の指定商品と請求人(注,被告)の業務に係る使用商品及び取引者・需要者の共通性について」(同頁第3段落以下)において,「本件商標は,その登録出願時には,請求人の前身にあたる山之内製薬株式会社が,商品『前立腺肥大症の排尿障害改善剤』を表示するものとして,少なくとも医療用医薬品を取り扱う業者,前立腺肥大症の排尿障害改善剤に係わる専門医,薬剤師などその取引者,需要者の間に広く認識されていた使用標章と,称呼及び外観において類似性の高い商標である。また,本件商標の指定商品『薬剤』中には,請求人の業務に係る使用商品『前立腺肥大症の排尿障害改善剤』が含まれており,該商品は,使用標章が使用される請求人商品と需要者を共通にするばかりでなく,それ以外の薬剤についても,請求人商品と需要者,生産者,販売系統等を共通にする場合が多い商品というのが相当である。そうすると,本件商標は,これをその指定商品について使用した場合は,該商品が請求人あるいは同人と経済的又は組織的に関係ある者の業務に係る商品であるかのように,その取引者,需要者をして,商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものといわざるを得ない。」(同頁第3段落〜第5段落)と判断している。
本件においては,本件商標をその指定商品に使用したときに,商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるか否かが問題であるところ,審決は,上記のとおり,本件商標と使用標章の類似性の程度を検討した上で,使用標章が著名であることや取引者,需要者の共通性を挙げて,本件商標を指定商品に使用したとき,商品の出所について混同を生じさせるおそれがあると判断したものであり,この点について,審決に原告主張のような判断の遺脱はない。
そして,審決は,本件商標と使用標章について,称呼において,印象に強く残る語頭部において「ハル」の2音が共通すること,外観において,印象に残りやすい語頭部の「ハル」の2文字を共通にしていることなどを具体的に挙げ,語頭部の「ハル」の部分も含めて本件商標と使用標章の類似性を認定判断し,その上で,その認定判断を引用して,「ハル」を含む医薬品の登録商標が多数存在しているという事実に基づく原告の主張が採用できない旨を述べている。すなわち,審決は,本件商標と使用標章の語頭部の「ハル」の部分がその類似性の判断において重要であり,「ハル」の部分が語頭部にあることや,本件商標と使用標章の中間部及び語尾の構成等に照らせば,「ハル」の部分が強調されない部分であるとの原告の主張は,本件商標と使用標章の類似性の判断に影響を与えるものでないと判断しているものであって,「ハル」の部分が強調されない部分であるとの原告の主張に対する判断が示されている。
( )そうすると,原告の取消事由2の主張は,本件商標の登録が商標法4条13項15号に違反してされたものであるとの前記1( )の判断を左右するもの 4ではなく,採用することができない。
4以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明