関連審決 | 取消2006-30249 |
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関連ワード | 指定商品 / 指定役務 / 通常使用権 / 専用使用権 / 国内 / 補正 / 商標の効力 / 継続 / |
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事件 |
平成
19年
(行ケ)
10084号
審決取消請求事件
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原告ニ プロ株式会社 同訴訟代理人弁理士小谷悦司 同 川瀬幹夫 同 小谷昌崇 被告株 式会社ココロ 同訴訟代理人弁理士小池晃 同 田村榮一 同 藤井稔也 同 野口信博 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/06/27 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1当事者の求めた裁判1原告(1)特許庁が取消2006-30249号事件について平成19年1月23日にした審決を取り消す。 (2)訴訟費用は被告の負担とする。 2被告主文と同旨第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯(1)被告は,登録第1916238号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。本件商標は,「ココロ」の片仮名文字と「KOKORO」の欧文字とを二段に横書に表記したものであり,昭和59年1月27日に登録出願され,商標法施行令1条別表の第10類(平成3年9月25日政令第299号による前のもの。以下,単に「第10類」という。)「理化学機械器具,光学機械器具,その他本類に属する商品」を指定商品として,昭和61年11月27日に設定登録された。なお,このうち「その他本類に属する商品」には,「測定機械器具(電子応用機械器具に属するもの及び電気磁気測定器を除く。)」がある。 (2)原告は,平成18年2月22日,本件商標につき上記指定商品のうち,「唾液を用いて人間のストレス度合いを測定する装置その他の測定機械器具及びこれらに類似する商品」につき,商標登録の取消しを求める審判を請求し,同年3月14日,同審判請求の予告登録がされた(以下,この登録を「本件審判請求登録」という。)。 (3)なお,被告は,平成18年11月9日,指定商品の書換登録を申請し,平成19年1月24日に書換登録がされ,指定商品は,「第1類写真材料」,「第5類医療用腕環」,「第9類理化学機械器具,光学機械器具,写真機械器具,映画機械器具,測定機械器具」,「第10類医療用機械器具」,「第12類車いす」となった。 (4)特許庁は,上記審判請求を取消2006-30249号事件として審理し,平成19年1月23日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成19年2月2日に原告に送達された。 2審決の概要審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。その概要は,被告(審判被請求人)は,本件審判請求登録前3年以内に,日本国内において,本件商標を取消請求に係る指定商品中の「測定機械器具」に含まれる「RobovieU表面のセンサー付きソフト素材外装」(以下「被告製品」という。)について使用していたと認められるから,本件商標の指定商品中,「唾液を用いて人間のストレス度合いを測定する装置その他の測定機械器具及びこれらに類似する商品」についての登録は,取り消すことができないというものである。 第3審決の取消事由に係る原告の主張以下の1ないし5に記載する事実があるにもかかわらず,審決はこれらに反する認定・判断をした点で,誤りがある。 1取消事由1被告は,使用に係る商標(以下「被告商標」という。)を使用した対象は,「商品」に関してではない。 すなわち,甲2(制作伝票)には,被告が株式会社国際電気通信基礎技術研究所(以下「ATR」という。)から注文を受けた内容が記載されている。これによれば,被告がATRから受けた注文の内容は「新RobovieU表面のセンサー付きソフト素材外装制作」という加工役務であるから,その取引書類に「被告商標」を付したとしても,「商品」に使用したことにならない。 2取消事由2仮に,被告が被告商標を使用した対象が「物」に関してであったとしても,被告製造に係る「物」は,商標法上の「商品」に該当しない。 すなわち,被告がATRから注文を受けて製造した「物」は試作品である。 商標法上の「商品」は,流通の場に置かれ,取引の対象となるものであることを要するから,被告が注文を受けて製造した試作品は,商標法上の「商品」に該当しない。 3取消事由3被告製品は,原告が取消しの対象とする指定商品の「測定機械器具」に含まれない。 すなわち,前記のとおり,被告がATRから注文を受けた内容は,「新RobovieU表面のセンサー付きソフト素材外装」である。しかし,甲2には「センサアンプの固定およびセンサ〜アンプ間配線はATRで実施」と記載されていることからすると,被告がATRから注文を受けて製造・納品した「ソフト素材外装」には,センサアンプ等は含まれていない。そうすると,被告製品は,「各ピエゾセンサーから出力を解析することで,人の位置や姿勢を推定することができ,また,各ピエゾセンサー出力の時間変化を解析することで,人間がロボットのどこをどの様に触ったかといった人間の触り方を抽出・判別することができる」ものではないので,原告が取消しの対象とする指定商品の「測定機械器具」に該当しない。 4取消事由4被告商標と本件商標とは,社会通念上同一の商標ではない。 すなわち,本件商標は,通常書体で同書同大同間隔に表わされた片仮名の「ココロ」と,通常書体で同書同大同間隔に表わされた欧文字大文字の「KOKORO」を,片仮名部分を上段,欧文字部分を下段として略1:1の比率で整然と一体2段に表記されたものである。 これに対し,被告商標は,別紙審決の写し中の別掲「使用に係わる商標」のとおりであり,創作的書体で表わされた欧文字小文字の子音「k」「k」「r」に各々ハート体を後続させ,これを欧文字「O」に読ませた「kokoro」部分と,通常書体で同書同大同間隔に表わされた「DREAMS」部分と,特殊書体の漢字「株式会社」と通常書体の片仮名「ココロ」を連ねた「株式会社ココロ」部分とを,順に,「kokoro」部分の縦横の大きさを「1」,「DREAMS」部分の縦横の大きさを「1/3〜1/2」,「株式会社ココロ」部分を「1.5〜2」の比率として一体3段に表記されている。 本件商標と被告商標とは,@本件商標が2段書きであるのに対し,被告商標は3段書きである点,A本件商標が,「ココロ」部分を上段,「KOKORO」部分を下段とするのに対して,被告商標は,「kokoro」部分を上段,「株式会社ココロ」部分を下段とし,「本件商標」に存在しない「DREAMS」部を中段に挿入している点,B「本件商標」が上段「ココロ」と下段「KOKORO」を略同大として整然と表記されているのに対して,被告商標は,「株式会社ココロ」部分が「kokoro」部分の略2倍の大きさを有し,「DREAMS」部分は「kokoro」部分の略1/2とされている点,C「本件商標」が,「ココロ」部分を片仮名のみでの構成とするのに対し,被告商標は,「ココロ」に先行させて「株式会社」を付して「株式会社ココロ」としている点,D本件商標が,「KOKORO」部分を通常書体大文字で同書同大同間隔の表示とするのに対し,被告商標が「kokoro」部分を,ハート体を含めて創作的書体小文字で表示している点で相違する。したがって,被告商標と本件商標とは社会通念上の同一性を欠く。 5取消事由5被告商標の使用は,商標法50条の「使用」に該当しない。 すなわち,商標法50条の「使用」は,登録商標に信用を化体させる可能性のある「使用」でなければならず,形式的に商標法2条3項の「使用」に当たるとしても,信用化体の可能性ある「使用」でない限り,その商標登録の取消しは免れ得ないと解すべきである。ところで,被告商標は,受注が1回であって,1個の「物」を納品するに当たり,その取引書類に付されたものにすぎないものであり,流通の場において取引の目印として使用されたこともない。したがって,被告商標の使用態様は,商標法50条にいう「使用」に該当しない。 第4被告の反論1取消事由1に対して被告は,被告製品(被告独自の技術を用いて制作された新しいスキン構造を有するとともに,ATRから支給を受けたセンサを組み込むことにより,測定機能を備え,人間が違和感なく触れることができ,撫でる,たたく等の触覚コミュニケーションに耐え得るロボットの外装)を,ATRから発注を受けて製造,納品した。被告は,ピエゾセンサー(圧力センサー)の単なる加工役務を行ったものではない。 甲2に,受注の内容として,「新RobovieeUに,センサー付きソフト素材外装を装着する」と記載されているのは,当該ロボット本体の全身に隙間なく装着される目的で,被告製品を製造することが注文の内容とされたからである。被告製品は,一つがロボット本体に着脱自在に装着される目的で,他の一つが専用スタンドに着脱自在に装着される目的で,それぞれ注文を受けた。 被告は,ロボット本体へ外装を装着する作業も担当したが,同作業は,納品に当たって,梱包,運送をするための付随的なサービスであって,同作業は独立した取引の対象ではない。 2取消事由2に対して甲3(納品書)において「新RobovieU用ソフトセンサ試作」と表記されたのは,人間との触覚コミュニケーション機能を持った新しいロボットを製造するに際し,新たな構造のロボット外装を望んだという発注者であるATR側の事情によるものである。ATRと被告の取引において,ATRに対してロボット外装の製造販売を行った行為は,通常の商品の製造販売行為と何ら変わるところはない。 3取消事由3に対して被告製品は,以下の理由により,原告が取消しの対象とした指定商品の「測定器械器具」に当たる。すなわち,被告製品は,ロボットの体表を覆う柔軟かつ鋭敏な触感覚を持ち,人との触覚コミュニケーションに耐え得る人工皮膚が望まれているとの事情を背景に製造されたものであり,センサアンプへの接続までは実施されず測定機能を前面に出していないが,本体は,人間の触り方を抽出・判別するという測定機能を有する商品であるから,「測定機械器具」に含まれる。 4取消事由4に対して被告商標中,「kokoro」と「ココロ」との間に配置された「DREAMS」は,「kokoro」及び「ココロ」の部分に比して小さく,書体も異なることから,「kokoro」及び「ココロ」の部分と同列に評価することはできず,また「株式会社」の文字は,「ココロ」の部分に比較して小さく表記されていることから,「株式会社」の文字は,「ココロ」の部分から分離して把握し得る。そうすると,被告商標は,「kokoro」及び「ココロ」の二段併記を基本構成とするものであって,「DREAMS」を小さく表記され,「株式会社」が併記されたとしても,上記の基本構成に影響を与えない。 したがって,被告商標は,本件商標と社会通念上同一と評価することができ,被告商標の使用をもって本件商標の使用がされたというべきである。 5取消事由5に対して被告製品は,受注,製造から納品に至る一度の取引に相当の日数を要する。被告製品に係るATRとの取引では,受注から納品に至るまでに4か月を要したのであり,このような長期にわたる取引の過程で,被告商標を付した取引書類を取り交わすことは,被告商標を商標的機能を発揮した態様で使用したものといえる。 第5当裁判所の判断1事実認定前記当事者間に争いのない事実並びに証拠(甲1の1,2,甲2ないし7,乙1,2,乙4の1ないし3,乙5,乙9の1ないし15)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。 (1)被告製品の製造販売ア被告は,ロボットの開発,企画製作,製造,販売並びに賃貸等を業とする会社である。被告は,本件審判請求登録から3年以内の平成16年8月18日,ATRから「新RobovieU表面のセンサー付きソフト素材外装」(被告製品)を2体分の受注を受けた。 その際に,ATRが作成し,被告に注文の内容を指示した制作伝票(甲2)には下記の記載がある。 「製品名新RobovieeU表面のセンサー付きソフト素材外装制作納期平成16年10月20日納入場所国際電気通信基礎技術研究所知能ロボティクス科学研究所第二研究室指示欄の仕様新RobovieeUに,センサー付きソフト素材外装を装着する本体1体は既に工場に借り受け済みスキンは2体分制作するスキン保管用のスタンドも同時に制作(2体分)センサアンプの固定およびセンサ〜アンプ間配線はATRで実施色は昨年度制作のRobovie外装と同色10月に運搬用の専用箱(外装つきで運搬可能)が梶宦(甲2では社名はマスク処理されている。)より当社に届きます。 センサーはATRより支給」イ被告は,平成16年12月15日,ATR内にある知能ロボティクス研究所第二研究室へ被告製品を納品した。 ウ「新RobovieU」とは,ATRが開発した人型ロボットであり,ロボット単体の知能だけでなく,社会関係や周囲状況に応じた対話行動ができる社会的知能を備え,身振り,発話,スキンシップ等様々な手段で,人と違和感のないコミュニケーションを実現する技術が組み込まれている。 「新RobovieU表面のセンサー付きソフト素材外装」は,この「新RobovieU」の体表を覆う人工皮膚の外装であり,その構造は,人間の皮膚に似た触感覚を担保するシリコン樹脂シートと,シリコン樹脂シート上に複数配設されたピエゾセンサーと,ピエゾセンサーからの出力を制御回路に送る配線と,これらピエゾセンサー及び配線をシリコン樹脂シートとの間で挟持するウレタンシート及びベースシートからなっており,樹脂シートの全面にわたってピエゾセンサーが規則的に配列されているため,人がロボットに触れると,その触れる場所によってピエゾセンサーの出力が異なるため,その各ピエゾセンサーからの出力を解析することで,人の位置や姿勢を推定することができ,また,各ピエゾセンサー出力の時間変化を解析することで,人間がロボットのどこをどの様に触ったかといった人間の触り方を抽出・判別することができるものである。 (2)本件商標の内容及び被告商標の使用態様ア被告は,被告製品を製造し,ATR内にある知能ロボティクス研究所第二研究室に対して納品するに当たり,納品書(控)(甲3),物品受領書(甲4),請求書(甲5)の右上に被告商標を付して被告商標を使用した。 なお,上記納品書(控),物品受領書及び請求書の「商品コード/品名」あるいは「商品名」の欄には「新RobovieU用ソフトスキンセンサ試作」との記載がある。また,納品書(控)及び請求書には「単価」及び「金額」欄に金額が記載されている(甲3,5の当該欄はマスク処理されている。)。 イ本件商標は,通常書体で同書同大同間隔に表わされた片仮名の「ココロ」と,通常書体で同書同大同間隔に表わされた欧文字大文字の「KOKORO」を,片仮名部分を上段,欧文字部分を下段として略1:1の比率で整然と一体2段に表記されたものである。 これに対し,被告商標は,別紙審決の写し中の別掲「使用に係わる商標」のとおりであり,3段に分けて,上段には,創作的書体で表わされた欧文字(小文字)で,「o」の文字はハート型の書体を用いて「kokoro」と読むことができる態様で,太く大きく表記され,中段には,欧文字(大文字)で「DREAMS」と小さく表記され,下段には,漢字で「株式会社」を小さく,片仮名「ココロ」を太字で大きく表記されている。 各文字の縦の長さの大きさの比率は,おおむね「kokoro」部分,「DREAMS」部分,「株式会社」部分,「ココロ」部分の順に,1対0.3対0.8対1.2である。 2取消事由の有無について以上認定した事実に基づいて,原告の主張する取消事由の有無について,以下判断する。 (1)取消事由1及び2について前記1で認定した事実によると,平成16年8月18日,ATRと被告との間で成立した契約(取引)は,被告において,被告製品「新RobovieU表面のセンサー付きソフト素材外装」を対象として,その製造及び販売を内容とするものである。被告が同契約に基づいて製造,販売した被告製品は,人型ロボットである「新RobovieU」の体表を覆う人工皮膚部(外装)であるから,被告製品が商標法2条3項1号所定の「商品」に該当することは明らかである。この点について,「納品書」(控え)及び「請求書」には「新RobovieU用ソフトスキンセンサ試作」と記載されているが,同記載から,被告がATRと締結した契約の目的が,加工役務と見ることはできない。同記載は,むしろ,ATRにおいて,納品を受けた被告製品を装着したロボットを,商用品としてではなく,試作品として使用する意図があったと推認するのが相当である。そうであるとすると,被告が製造した被告製品(外装)をATRに,正に販売しているのであるから,前記の認定を左右するものではない。 よって,上記取引が「新RobovieU表面のセンサー付きソフト素材外装制作」という加工役務であり「商品」ではない,あるいは,試作品であるから商標法上の「商品」ではないという原告の主張は,いずれも理由がない。 (2)取消事由3についてア原告が登録商標の取消の対象とした指定商品は「唾液を用いて人間のストレス度合いを測定する装置その他の測定機械器具及びこれらに類似する商品」である(なお,取消審判の請求の対象たる指定商品の特定が審判手続との関係で適切であったか否かついては,後述する。)。 そこで,上記取引の内容である被告製品が,原告の取消しの対象とした「唾液を用いて人間のストレス度合いを測定する装置その他の測定機械器具及びこれらに類似する商品」のいずれかに該当するか否かを判断することとする(もとより,審判における争点は,取引の対象たる被告製品が,商標法施行規則6条(平成8年12月25日通商産業省令第79号による改正前の同規則3条)別表所定の「測定機械器具」に該当するか否かにあるのではなく,被告製品が,原告において取消しを求めた指定商品のいずれかに該当するか否かにある。)。 イ前記1で認定した事実によると,被告製品は,「新RobovieU」の体表を覆う人工皮膚の外装であり,人間の皮膚に似た触感覚を担保するシリコン樹脂シートと,シリコン樹脂シート上に複数配設されたピエゾセンサーと,ピエゾセンサーからの出力を制御回路に送る配線と,これらピエゾセンサー及び配線をシリコン樹脂シートとの間で挟持するウレタンシート及びベースシートから構成され,樹脂シートの全面にわたってピエゾセンサーが規則的に配列されているため,人がロボットに触れると,その触れる場所によってピエゾセンサーの出力が異なるため,その各ピエゾセンサーからの出力を解析することで,人の位置や姿勢を推定することができ,また,各ピエゾセンサー出力の時間変化を解析することで,人間がロボット(新RobovieU)のどこをどのように触ったかという人間の触り方を抽出・判別することができる製品である。そうすると,少なくとも被告製品を装着した「新RobovieU」自体は人間が当該ロボットに触れたときにそのどこをどのように触ったかといった触り方を測定する測定機械器具であるといえるので,それを構成し,当該ロボットにそのような機能を付与する「新RobovieU表面のセンサー付きソフト素材外装」は,測定機械器具を構成し,その重要な機能を奏する要素たる機械器具の一つであり,原告において取消しを求めた指定商品たる「測定機械器具」に含まれるものと解するのが相当である。 もっとも,前記1で認定した事実によると,制作伝票(甲2)に「センサアンプの固定およびセンサ〜アンプ間配線はATRで実施」,「センサーはATRより支給」との記載があり,これによれば,センサーの準備及び配線の実施等は被告製品の納品を受けたATR側において行うことが予定されていたが,そのような作業をATRにおいて実施する経緯があったからといって,上記の認定に影響を与えるものではない。 (3)取消事由4について前記1で認定した本件商標と被告商標との構成に基づいて両者を対比する。 本件商標は,「ココロ」の片仮名文字と「KOKORO」の欧文字とを二段に横書に表記したものであるのに対して,被告商標は3段に分けて,上段には,創作的書体で表わされた欧文字(小文字)で「kokoro」と読めるように,しかも「o」の文字はハート型の書体を用いて,全体を太く大きく表記され,中段には,欧文字(大文字)で「DREAMS」と小さく表記され,下段には,漢字で「株式会社」を小さく,片仮名「ココロ」を太字で大きく表記されており,形式的に対比する限りは,本件商標と被告商標は同一でない。 しかし,被告商標において,太字で大きく記載されているのは,上段の「kokoro」の部分,及び下段右側の「ココロ」の部分であることからすると,「ココロ」の片仮名文字と「KOKORO」の欧文字とを二段に横書に表記した本件商標と,社会通念上同一の範囲に属するものとみて差し支えないと解される。 (4)取消事由5について前記のとおり,ATRと被告との間で成立した契約(取引)の内容は,被告が被告製品である「新RobovieU表面のセンサー付きソフト素材外装」の製造及び販売を対象とするものである。取引の回数が1回であり,対象となった商品が1個であったとしても,その取引の過程で取引書類(納品書(控),物品受領書,請求書)に被告商標を付している以上,商標法所定の商標の使用と認定する妨げにはならない。本件のように,ロボットの外装という特殊な用途に使用される製品の製造,販売を対象とする特異な取引態様において,被告製品自体に商標を付することは困難が伴うという事情を考慮するならば,これらの取引の過程で作成した取引書類に被告商標を付した行為をもって,商標の使用に該当すると解するのが相当であるというべきである。 (5)小括以上のとおりであり,審決には,原告の主張に係る取消事由はいずれも認められない。 3結語(1)まず,本件審判手続に関して,以下の点を指摘する。 ア本件審判手続において,原告(審判請求人)は,「唾液を用いて人間のストレス度合いを測定する装置その他の測定機械器具及びこれらに類似する商品」につき,商標登録の取消しを求めた。これに対し,被告(審判被請求人)は,原告が取消しを求めている指定商品の範囲が不明確であり,不適法な審判請求であるから,許されないものであると主張した。審決は,「唾液を用いて人間のストレス度合いを測定する装置」が具体的にどのような商品であるかを把握できなかったとしても,審判請求人が取消しを求めているのは,該商品を含む測定機械器具であり,「測定機械器具」自体は,平成3年10月31日通商産業省令第70号をもって改正された商標法施行規則の前後を問わず,その別表中に掲載されている商品表示であるから,請求人が取消を求めている商品の範囲が不明確であるとはいえないとして,審理を進めた。 イしかし,上記の審判手続の進行には,以下のとおり,妥当を欠く点がある。 商標法50条は,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者(以下,単に「商標権者」という。)が,各指定商品又は指定役務(以下,単に「指定商品」という。)についての登録商標を使用していない場合に,その指定商品に係る登録商標の取消審判を請求することができると規定し,この場合,審判請求登録前3年間,商標権者がその請求に係る指定商品のいずれかについての登録商標の使用をしていることが証明されない限り,その指定商品の商標登録が取り消される旨を規定する。 ところで,取消審判請求の審理の対象たる指定商品の範囲は,設定登録において表示された指定商品の記載に基づいて決められるのではなく,審判請求人が取消しを求めた審判請求書の「請求の趣旨」の記載に基づいて決められる。そして,審判請求書の「請求の趣旨」は,@審判における審理の対象・範囲を画し,A審判被請求人における防御の要否の判断・防御の準備の機会を保障し,B取消審決が確定した場合における登録商標の効力の及ぶ指定商品の範囲を決定づけるという意味で重要なものであるから,「請求の趣旨」の記載は,客観的で明確なものであることを要するのは当然である。 本件についてこれを見ると,審判請求書の「請求の趣旨」には,原告において取消しを求めた指定商品として「唾液を用いて人間のストレス度合いを測定する装置その他の測定機械器具及びこれらに類似する商品」が記載されていると推認されるが,同記載は,@「唾液を用いて人間のストレス度合いを測定する装置」がどのような商品を指すか,A「唾液を用いて人間のストレス度合いを測定する装置」と「その他の測定機械器具」とがいかなる関係に立つのか(前者が後者に包摂されるのか,前者が例示的意味を有するのか,前者は後者の例示であるとした場合に,後者の範囲に何らかの限定を加える趣旨を含むのか否か等),B「これらに類似する商品」の意味(「これら」が何を指すのか,類似する商品は何を意味するのか。)等の点で,著しく不明確であるといえる。このような場合に,審判において,何らの措置を採ることなく手続を行うことは,前記の@審理の対象の画定,A審判被請求人の防御機会の保障,B取消審決の効力の及ぶ範囲の確定等の点において,当事者及び第三者を含め,混乱を招くおそれがある。特に,仮に取消審決がされて確定した場合には,商標登録に係る指定商品から「・・・これらに類似する商品」が除外されることになるがこのような不明確な審決が,効力を生ずる事態を許すことは,いたずらに混乱を招くものというべきである。 したがって,商標登録の取消審判請求の審理する審判体としては,釈明を求める,補正の可否を検討する等の適宜の措置を採るべきであり,そのような措置を採ることなく,漫然と手続を進行させた審判のあり方には妥当を欠く点があったというべきである。 また,本件審判手続における立証命題は,上記の「原告の請求に係る指定商品のいずれかについて登録商標が使用がされているか」であるから,必然的に,被告とATRとの間で締結した契約の詳細な内容が重要な争点となるところ,本件審判手続において,この点に関する主張及び証拠の整理が十分にされていない点においても,妥当を欠く点があったというべきである。 もっとも,上記に指摘した点は,審判の対象に関する原告の特定の方法に原因があったものであり,原告の請求に係る登録取消審判請求を不成立とした審決の結論を左右するものとはなり得ない。 (2)以上の次第であるから,原告の請求は理由がない。その他,原告は縷々主張するがいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 上田洋幸 |
裁判官 | 三村量一 |