審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成8ワ14026商標権侵害差止等請求事件 | 判例 | 商標 |
平成10ワ16262不正競争行為差止等請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 識別力 / 出所表示機能 / 指定商品 / 周知商標 / 周知性 / 混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) / 公序良俗(4条1項7号) / 4条1項11号 / ただ乗り(フリーライド) / 権利濫用(権利の濫用) / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 取引の実情 / 出所の混同 / 国内 / 禁止権 / 差止 / 類似範囲 / 無効審判 / 継続 / 非類似 / 商号 / |
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事件 |
平成
16年
(ネ)
768号
商標権侵害差止等請求控訴事件
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控訴人 東洋エンタープライズ株式会社 訴訟代理人弁護士 伊藤真 補佐人弁理士 野原利雄 被控訴人 株式会社インディアンモトサイクルカンパニージャ パン 被控訴人 株式会社サンライズ社 被控訴人 西澤株式会社 上記三名訴訟代理人弁護士 佐藤雅巳 同 古木睦美 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/12/21 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 控訴人の控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人西澤株式会社(以下「被控訴人西澤」という。)は, (ア) ジャケット,ジャンパー,ベスト及びズボンについて,別紙「被告標章目録」1ないし7記載の各標章を使用してはならない。 (イ) その本店,工場又は営業所に存する前記目録1ないし7記載の各標章を付したジャケット,ジャンパー,ベスト及びズボンを廃棄せよ。 (3) 被控訴人株式会社インディアンモトサイクルカンパニージャパン(以下「被控訴人インディアン」という。)及び被控訴人株式会社サンライズ社(以下「被控訴人サンライズ」という。)は,それぞれ,ジャケット,ジャンパー,ベスト及びズボンについて,前記目録1ないし7記載の各標章の使用を許諾し,又は再許諾する契約を第三者と締結してはならない。 (4) 被控訴人西澤,被控訴人インディアン及び被控訴人サンライズは,控訴人に対し,連帯して,1億円及びこれに対する被控訴人西澤については平成8年8月31日から,被控訴人インディアンについては同月20日から,被控訴人サンライズについては同月30日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (5) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 2 被控訴人ら 主文同旨 |
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事案の概要
本件は,1950年代以前に米国で人気を博したオートバイのメーカーに由来する,「Indian」又は「Indian Motocycle」などのブランドの使用をめぐる紛争である。控訴人は,指定商品を平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令(以下「旧施行令」という。)別表第17類(被服,その他本類に属する商品)とする商標権(登録番号第2634277号,出願日平成3年11月5日,登録日平成6年3月31日,以下「原告商標権」といい,その登録商標を「原告商標」という。)を有しており,被控訴人らが別紙被告標章目録1ないし7記載の各標章(以下,その番号に従い「被告標章1」などといい,これらすべてを総称して「被告各標章」という。)をジャケット等に付して使用する行為は,原告商標権を侵害する行為に当たると主張して,被控訴人らに対し,被告各標章の使用の差止め及び損害賠償を請求している。 原判決は,被告各標章は,いずれも原告商標に類似すると認められるものの,控訴人の原告商標の使用は,あえて原告商標と同一の範囲ではなく,類似の範囲にある商標を指定商品について使用し,被控訴人インディアンの業務に係る商品と混同を生じさせたものと評価されるものであり,原告商標の実際の使用状況,他の著名ブランドに関わる控訴人の商標出願の実態等をも併せ考えれば,控訴人は,自ら使用するよりも,むしろ類似の商標を使用することが見込まれる者に対して権利を行使し,経済的利益を得ることを主たる目的として原告商標を出願・登録し,現に類似の商標を使用する被控訴人インディアンらに対し,権利を行使しようとするものであって,本件の事実関係にかんがみれば,かかる商標権の行使は,権利の濫用に当たるものとして許されない,として,控訴人の請求をいずれも棄却したものである。 控訴人は,これを不服として,控訴を提起した。 当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の1,「第3 前提となる事実」,「第4 争点」,「第5 争点に関する当事者の主張」(原判決引用に係る中間判決の記載部分を含む。)欄に記載のとおりであるから,これを引用する。 当裁判所も,「被告商標」,「被告商標権」,「訴外カジヤ」,「オリジナル・インディアン社」,「訴外C」などの語を,原判決の用法に従って用いる。ただし,原判決が「米国インディアン社」と略称した訴外Cが設立した米国法人「Indian Motocycle Co.,Inc.」は「C・インディアン社」という。なお,その余の会社名については,株式会社,有限会社を含む正式名称ではなく,略称を用いる。 1 控訴人の当審における主張の要点 商標権の行使を権利の濫用と認定するには,当該商標権の行使を認めることが公共の福祉に反する結果になるとか,商標権者としての義務や履行を怠っていたとか,権利行使を認めると著しく社会的妥当性を欠く結果になるとかなど,法で認められた権利の行使を制限する相応の理由や事情がなければならない。本件事案につき権利の濫用の成否を判断するに当たって,原告商標の採択の経緯,その使用開始時期,被告各標章の周知性の有無,控訴人による原告商標の不正使用の有無,被控訴人らがオリジナル・インディアン社の商標の正当な承継者又はそのライセンシーといえるかなどが,重要な判断要素となるものである。 (1) 控訴人について 控訴人は,昭和40年に設立された株式会社である。控訴人は,その前身となる「テーラー東洋」及び「港商社」の時代から数えると,60年近くの歴史を持つ老舗アパレルメーカーであり,現在,アメリカンカジュアル衣料の専門メーカーとしては日本でも最有力の企業であり,多くの著名ブランド商品を販売している。控訴人は,ジーンズ,ジャケット,アロハシャツ等,アメリカンカジュアル衣料の全般について,多くの取引者や需要者から高い信頼と支持を得ており,その市場での地位は不動のものとなっている。控訴人は,商標の売買や商標のライセンスビジネスを業としたことはなく,原判決が,控訴人を「ブランドビジネスの専門業者」としたのは明らかな誤りである。 (2) 原告商標採択の動機 控訴人は,1990年(平成2年)の終わりころに,控訴人の評判を知った数百人からなる米国ヴィンテージバイク(インディアンバイク)の愛好家団体より,彼らのバイクジャケットを作るよう依頼され,彼らの勧めでこのバイクジャケットを市販品化することとし,また,彼らの提案により,このバイクジャケットの商標を「インディアンモーターサイクル」とすることとして,原告商標を1991年(平成3年)11月5日に我が国で商標登録出願したものである。原判決は,控訴人が,米国の「The Daily News」などの一般紙が「Indian」ブランドの復活を報じてから4か月後に原告商標を出願したと認定した。しかし,控訴人は,米国のこのような一般英字紙の購入手段すら知らないのであり,それを日々購読することなどはあり得ない。また,この控訴人の原告商標の出願は,被控訴人インディアンが設立された平成5年6月よりも1年半以上も前のことであるから,被控訴人インディアンとの関係では何ら問題とされることではない。 (3) 原告商標の使用の開始 控訴人は,原告商標が登録されたことを踏まえ,商品の具体的な企画に着手するとともに,商標「INDIAN MOTORCYCLE」についてのカナダ国の商標権者INDIAN MANUFACTURING LTD.(以下「カナダインディアン社」という。)と業務提携し,平成7年初期(1月〜3月)に,商社を介して同社商品を輸入し,その販売を開始したもので,控訴人が宣伝広告を最初に掲載した雑誌は,平成7年6月25日発行の「ポパイ」である。そして,控訴人が当初使用していた商標は,すべて,カナダインディアン社からの輸入商品にもともと付されていたものである。これに対し,被控訴人西澤が,革製ジャケットや革製ズボン(パンツ)を英国より輸入販売したのは,控訴人よりも遅い平成7年の10月ないし11月ころである。また,被控訴人インディアンが平成5年秋ころからC・インディアン社から被告各標章を付したジャケット等を輸入したとしても,その販売実績は僅かなものにすぎない。さらに,訴外マルヨシが平成6年5月ころに被告商標に類似する商標をバッグに使用したとしても,バッグは原告商標の指定商品とは非類似の商品である。 (4) C・インディアン社 訴外Cは,オリジナル・インディアン社に関連して国内外200人にも及ぶ人々から金員等を詐取したとして,1996年(平成8年)6月5日に逮捕され,米国マサチューセッツ地区連邦地方裁判所により,「投獄90か月,百万ドルを超える詐取金等の返還支払を命ずる。」旨の有罪判決を受けたものである。C・インディアン社は,オリジナル・インディアン社とは全く関係のない別法人であり,訴外Cの犯罪行為の道具として利用するため設立された会社である。C・インディアン社は,投資家から金員等を詐取しただけで,オートバイの製造はもちろん,企業本来の事業活動はおろか,その準備行為すら一切せずに,設立後間もなく倒産している。 したがって,訴外カジヤが,C・インディアン社から,オリジナル・インディアン社が使用していた商標(以下「米国インディアンブランド」という。)について日本におけるライセンスを受けたとしても,本来何の権限もないものである。また,訴外カジヤから米国インディアンブランドをライセンスする権利を譲り受けたとする被控訴人インディアン及びそのサブライセンシーである被控訴人サンライズ,被控訴人西澤及びその余のサブライセンシーが,米国インディアンブランドについて何の権限も有しないことも明らかである。 このように,オリジナル・インディアン社と無関係であることについては,控訴人も被控訴人らも同等であり,双方とも,オリジナル・インディアン社の米国インディアンブランドを採択したために,両社の商標が同一ないし類似することとなったにすぎないのである。 (5) 被控訴人らは,原告商標が平成5年3月31日に出願公告され,また,被告商標の出願に際しても,平成6年2月10日に,原告商標を引用されて拒絶理由通知を受けていることから,被控訴人らによるライセンス事業が原告商標権を侵害するものであることを承知していたはずである。 (6) 不正使用取消審決について 特許庁が,平成15年3月28日にした,原告商標が商標法51条の不正使用に当たるからその登録を取り消すとの審決は,原判決が,控訴人の請求を権利の濫用と認めた根拠の一つとなったものであるが,原審口頭弁論終結後の平成15年11月28日に言渡された東京高等裁判所の判決(同裁判所平成15年(行ケ)第181号)により取り消された。 本件においては,原告商標も被告商標も周知商標ではなく,フリーライドの対象となる周知商標自体が存在しないのであるから,控訴人の原告商標の使用が不正使用となる余地はない。被控訴人らには,そもそも,原告商標権の禁止権を排し,原告商標に類似する商標の使用を正当化するいかなる権利も保護法益もない。 (7) 以上からすれば,控訴人は,自ら登録商標を使用するよりも,むしろ類似の商標を使用する他社に対して権利行使し,そのことによって経済的利益を得ることを主目的として,原告商標を出願し,その登録を得た,との原判決の認定判断が誤りであることは明らかである。控訴人は,これまでに,商標権の権利行使や利益を得ることを目的にして商標を出願し登録したことは一度もない。 2 被控訴人らの当審における主張の要点 (1) 商標の類否について 原告商標と被告各標章とは,取引の実情に基づいて判断をすれば,出所について混同を生ずるおそれのない非類似の商標であることが明らかである。すなわち,「Indian」あるいは「ヘッドドレスロゴ」は,被控訴人インディアンを出所とする商標として,「インディアンモトサイクル」,「Indian Motocycle」は,被控訴人インディアンの略称として,大多数の需要者の間で認識されていたものであるから,これらの商標と類似する被告各標章は,いずれも原告商標とは出所の混同が生じるおそれはないものである。 なお,被告標章1ないし3は,「MOTOCYCLE」,「Motocycle」とすべきところを「MOTORCYCLE」,「Motorcycle」と誤って印刷されたものにすぎず,被控訴人らは,被告標章1ないし3を付した商品を市場から直ちに回収したのであり,これらの商品は市場には殆ど出回っていない (2) 権利の濫用について 原判決の判断は正当であり,控訴人の主張はいずれも理由がない。 |
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当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人の請求は,いずれも理由がないから,棄却すべきものであると判断する。その理由は,次のとおりである。 1 以下の各項の括弧内に記載した各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) オリジナル・インディアン社と訴外Cについて (ア) オリジナル・インディアン社は,1901年(明治34年),Aが,設計者のBを迎えて,マサチューセッツ州スプリングフィールドに設立したオートバイのメーカーである。オリジナル・インディアン社は,1911年のイギリスのマン島のレースや,1937年の第1回デイトナビーチでのレースで優勝するなどして,その品質とデザインにより,米国はもとより日本やヨーロッパでも,ハーレー・ダヴィッドソンと並んで有名なオートバイのメーカーとなった。オリジナル・インディアン社の商号は,当初は,「ヘンディー・マニュファクチュアリング・カンパニー」であったが,1923年(大正12年)に「インディアン・モトサイクル・カンパニー」に変更された。 オリジナル・インディアン社のオートバイには,特徴ある書体の筆記体の「Indian」(インディアンロゴ・被告各標章のいずれにも使用されている「Indian」の欧文字と同じものである。),羽根飾りを冠した右向きのインディアンの酋長の図形(「右向きのインディアンの図形」)に「インディアンロゴ」を配したもの(ヘッドドレスロゴ・被告標章1及び4に使用されているものと同じものである。)が中核的な商標として使用され(その他に「左向きのインディアンの図形」や活字体の欧文字「INDIAN」や「インディアンロゴ」と類似した筆記体の「Indian」等も使用された。これらの商標が「米国インディアンブランド」である。),これらの米国インディアンブランドは,オリジナル・インディアン社の製造販売するオートバイの商標として米国はもとより日本やヨーロッパでも周知であった。 また,「Indian Motocycle」との欧文字商標も,オリジナル・インディアン社の略称として,米国はもとより,日本やヨーロッパにおいても広く知られ,周知性を獲得していた。 しかし,オリジナル・インディアン社は,経営不振のため,1953年(昭和28年)に操業を停止し,後に解散した。もっとも,オリジナル・インディアン社の中古のオートバイは,同社が解散した後も,一部の愛好者には根強い人気があり,ジェームズ・ディーン,マーロン・ブランドなどが愛用し,また,スティーブ・マックウィーンがそのビンテージバイクを収集していたことでも知られており,オリジナル・インディアン社の米国インディアンブランドは,平成2年(1990年)当時,一般消費者間においては周知であったとはいえないものの,一部のオートバイの愛好者間においては,依然として忘れられてはおらず,革ジャンパーなどのオートバイ愛好者が身につける衣類などの分野においても,仮に同社が復活し,その活動を開始すれば,たちまちその周知性を獲得し得るという意味における潜在的な周知性があったといえる。 (甲48,97ないし99,乙40の2・4,41の1。なお,訳文がないものについては,写真や図柄部分を証拠とした。以下同じ。) (イ) 訴外Cは,1990年(平成2年),米国の「Indian Motocycle」との文字から成る登録商標(以下「米国インディアン登録商標」という。同商標とオリジナル・インディアン社の商標との関係は不明である。)について,当時の同商標の商標権者から,訴外Cが設立する新会社によりオリジナル・インディアン社のオートバイを復活させ,これを製造販売することなどの約束の下に,その持分権の譲渡を受け,その後,残余の持分権も取得した上,オリジナル・インディアン社のオートバイを復活させるためとして,多数の投資家から資金を集めたものの,オートバイの開発製造などの本来の事業活動をほとんど行わず,これらの資金を高級車や高級時計の購入,自宅の賃料,自分や家族のための私的な目的に費消し,その結果,C・インディアン社は,オリジナル・インディアン社のオートバイを復活させることなく倒産した。 なお,C・インディアン社は,オリジナル・インディアン社とは全く関係のない別法人であったものの,訴外CによるC・インディアン社の設立は,「「インディアン」の復活」として米国の一般紙「The Daily News」1991年(平成3年)7月1日号及び「U.S.A. TODAY」同年7月5日号により報じられた。 訴外Cは,C・インディアン社及び米国インディアン登録商標に関連して国内外200人にも及ぶ人々から金員等を詐取したとの詐欺行為等の容疑で,1996年(平成8年)6月5日ころ逮捕され,拘禁された。そして,訴外Cは,1997年(平成9年)12月19日,米国マサチューセッツ地区連邦地方裁判所により,同詐欺罪により有罪とされ,投獄90か月に処せられるとともに,百万ドルを超える弁償金等の支払を命ずる旨の判決を受けた。 (甲77ないし82,乙40の6・7) (2) 日本における被控訴人らと控訴人の営業及び宣伝広告活動について 日本では,控訴人と被控訴人らは,次のような営業活動,ライセンス活動及び宣伝広告をしていた。 (ア) 訴外カジヤは,米国インディアンブランドの将来性に着目し,平成3年(1991年)12月,C・インディアン社との間で,米国インディアンブランドに関する日本におけるすべての権利(日本において出願し,商標登録を得る権利及び第三者に同商標をライセンスする権利)を譲り受ける旨の契約を締結し,平成4年(1992年)2月,旧施行令別表17類を指定商品として被告商標について商標登録出願をした。(乙21,40の10) (イ) 訴外カジヤは,平成5年(1993年)6月3日,宣伝広告等の業を営む被控訴人サンライズとの合弁により,被控訴人インディアンを設立し,その代表取締役に就任した。訴外カジヤは,被告商標について商標登録を受け,その後,被告商標権を被控訴人インディアンに譲渡した。(乙21ないし24,40の11・13) 平成5年7月24日付けの繊研新聞及び日経流通新聞には,被控訴人インディアンが,オリジナル・インディアン社のライセンス供与を行っている会社として紹介され,衣料品,雑貨についてそのライセンス事業を行うこと,オリジナル・インディアン社が訴外Cにより再建されたことなどが報じられた。(乙40の16・17) (ウ) 雑誌「BRUTUS」の平成5年(1993年)1月1日/15日合併号から平成5年(1993年)11月15日号まで,21回にわたり,オリジナル・インディアン社に関する紹介と,同社が訴外Cが設立したC・インディアン社により復活し,平成5年(1993年)7月4日には,その新車が発表されること,訴外Cの活動状況などに関する詳しい紹介記事,及び,同年7月4日を過ぎても新車が発表されなかったこと,さらに,その後発表されたものは,アメリカ・ヴァージニア州レストンという町にあるレンジャー・インターナショナル社製のオフロード用のバイクで最高時速が僅か64キロというものであり(平成5年10月1日号),当時から既に訴外Cについてよからぬ噂が流れていたこと(同年11月15日号)などが,訴外D(被控訴人インディアン設立時の取締役である。)により詳細に報告されている。(乙41の1ないし21) (エ) 雑誌「POPEYE」1993年(平成5年)11月10日号に,「1940年代,アメリカでハーレー・ダヴィッドソンと人気を二分したバイクメーカーがインディアン・モトサイクル社」であり,そのロゴグッズは,「アメリカを象徴するトレードマークのひとつとして,‥‥‥未だに根強いインディアン・マニアを持つほどの存在」であること,「そのインディアン社が,実に40年の歳月を経て・・・Cの手によって復活した」ことなどが記載された記事が掲載された。(乙40の18) (オ) 被控訴人インディアンのマスターライセンシーである被控訴人サンライズは,平成6年初め,訴外マルヨシとの間で,バッグについて,米国インディアンブランドのサブライセンス契約を締結した。訴外マルヨシは,平成6年(1994年)5月中旬展示会を行い,被告各標章のバッグへの使用を開始した。 被控訴人サンライズは,平成7年(1995年),被控訴人西澤との間で,革製ジャケット及び革製ズボンについて,米国インディアンブランドのサブライセンス契約を締結した。被控訴人西澤は,平成7年10月から平成8年(1996年)1月にかけて,被告各標章を使用して「GETON!」,「Massimo」,「Hot.Dog PRESS」,「FINEBOYS」などの若者向け服飾雑誌に宣伝広告をし,革製ジャケット及び革製ズボンを販売した。また,平成6年,7年,8年に発行された上記のような若者向けの雑誌や「旬刊ファンシー」,「繊研新聞」などの業界紙における被控訴人インディアン,訴外マルヨシあるいは被控訴人西澤などによる宣伝広告及び米国インディアンブランドに関する紹介記事を見ると,オリジナル・インディアン社が米国においてハーレー・ダヴィッドソンと人気を二分したバイクメーカーであること,そのオリジナル・インディアン社が40年の歳月を経て復活したこと,あるいは,米国インディアンブランドが伝説的なアメリカンバイクブランドとして知られていることなどが記載されている。 これらの記載は,被控訴人インディアンが,オリジナル・インディアン社の米国インディアンブランドのライセンスを受けて,日本国内における同ブランドのライセンス事業を行い,衣類,雑貨などの販売を開始したと理解されるものであり,被控訴人インディアン独自のブランドとして宣伝広告しているものと理解し得るものではない。 (乙40の21ないし25,40の31ないし41) (カ) 被控訴人らとそのライセンシーは,訴外Cが詐欺容疑で逮捕された後の平成8年12月以降も,「繊研新聞」,「日本袋物鞄情報」などの業界紙や「Begin」,「Easyriders Japan」,「GOGGLE」,「GLIDE」などの若者向け雑誌などにおける被告各標章の宣伝広告において,オリジナル・インディアン社のオートバイの写真を掲載したり,ビンテージバイクブランドであることを強調したりして,相変わらずオリジナル・インディアン社との関連性を強調する宣伝広告を継続している。(乙40の76ないし78,40の80ないし93,40の95ないし102,40の106,108ないし187) (キ) 一方,控訴人は,平成6年(1994年)3月31日,原告商標の設定登録を受けた後,カナダ国の「INDIAN MOTORCYCLE」の商標権者であるカナダインディアン社(INDIAN MANUFACTURING LTD.)と提携し,平成7年(1995年)5月ころから,米国インディアンブランドと同一ないし類似の商標が付された,同社の革製ジャケット,Tシャツ,帽子等の輸入・販売を開始し,同時に,「POPEYE」,「FINEBOYS」,「monoコレクション」,「Boon」などの若者向け服飾雑誌などにおいて,取扱商品(革ジャンパー,革製ズボン等)についての宣伝広告を開始した。これらの宣伝広告においては,米国インディアンブランドが強調されており,中には,「Indian Motorcycle」の文字の下に,オリジナル・インディアン社の所在地を示す「SPRINGFIELD,MASS」などの表示もみられるほか,「アメリカ最古のバイクメーカーがインディアンモーターサイクル。現在バイクの生産はされておらず,バイカーウエアの生産のみ続けられている。・・・今秋から東洋エンタープライズが大々的に展開。」,「インディアン・モータサイクルは'40年代,アメリカでハーレー・ダヴィッドソンと人気を二分していたメーカー。ウエア部門の復活が話題になっていたけど,この秋から日本でも本格展開する。」などの説明もみられるところである。また,原告商標は,片仮名文字の「インディアンモーターサイクル」であることから,それらのほとんどの商品には直接使用されておらず,雑誌等における控訴人の宣伝広告においても,紙面の片隅に小さく記載されているだけで,全体として,オリジナル・インディアン社の米国インディアンブランドの商品であることが強調されて宣伝広告されている。 東京地方裁判所は,平成8年12月16日,被控訴人インディアンの被告商標権に基づく仮処分の申立を認容し,控訴人に対し,「Indian」と「Motorcycle」又は「Indian」と「MOTORCYCLE」の文字を2段書きにした商標あるいはこれにインディアン図形などを組み合わせた商標の使用を差し止める決定をした。控訴人は,その後は,米国インディアンブランドのうち,「Indian Motorcycle」又は「INDIAN MOTORCYCLE」と1段書きにした商標を使用している。なお,この仮処分決定の根拠となった被告商標権について,特許庁は,平成14年2月28日,先願の原告商標と類似するから商標法4条1項11号の規定に違反して登録されたものであるとして,これを無効とする審決をし,東京高等裁判所も,平成14年12月27日,同審決の判断に誤りはないとして,被控訴人インディアンの同審決取消請求を棄却する判決をし,最高裁判所が,平成15年6月12日,上告不受理決定をしたため,被告商標権の無効が確定した。そのため,同仮処分決定は,これによりその根拠を失った。 (甲45,46,49ないし53,58,83ないし89,101,103ないし105,乙10ないし16,31ないし34,40の26ないし29,40の42ないし45,40の47ないし75) (3) 原告商標及びその他の関連商標について 控訴人及び被控訴人らの原告商標と被告商標及びこれらに関連する商標については,前記引用に係る原判決「第3 前提となる事実」に記載のほか,次のとおりである。 (ア) 原告商標権について 原告商標の登録を商標法51条1項の規定に基づいて取り消した審決は,東京高等裁判所の平成15年11月28日言渡しの判決(同裁判所平成15年(行ケ)第181号)により取り消された。同判決は,控訴人は,被控訴人インディアンと同様に,オリジナル・インディアン社の米国インディアンブランドを利用しようとしただけであり,被控訴人インディアンによる業務との混同を生じさせたものではない,とするものである。特許庁は,同判決の確定を受けて,平成16年8月31日,同判決と同じ理由により,商標法51条1項に基づく,原告商標の登録を取り消すとの審判請求が成り立たないとの審決をした。(甲62,65,107) 被控訴人インディアンが,平成15年1月30日,原告商標が公正な競争秩序を乱すものであり,商標法4条1項7号に該当するとして,同商標について申し立てた無効審判については,特許庁は,平成16年2月24日,原告商標は,公序良俗に反するものではないとして,審判請求は成り立たない,との審決をした。(甲63) (イ) 関連各商標について @ 被控訴人インディアンが平成9年7月4日に商標登録を受けたインディアンロゴの文字商標(出願平成7年11月2日,登録第4022987号)について,特許庁は,控訴人が平成6年9月21日に出願していた先願商標(インディアンの左向きの図形等と大きな字体で特徴のある筆記体の書体の「Indian」と活字体欧文字の「MOTOCYCLE」の文字等を2段書きにしたものとを組み合わせた商標。平成6年商標登録願第95840号)と類似するとの商標法8条1項を理由とする同商標登録無効審判において,同先願商標からは「インディアンモトサイクル」の称呼及び「北米原住民のオートバイ」との観念が生じ,両者は類似しないとして,無効審判の請求は成り立たない,との審決をしたものの,東京高等裁判所は,平成16年5月11日,同先願商標からは「インディアン」との称呼,観念も生じ(審決が認定する「インディアン モトサイクル」との称呼,観念が生じるのは一部の者に限定される。),同登録商標は同先願商標と類似するとして,同審決を取り消した。なお,控訴人の同先願商標については,平成16年2月27日,その商標登録が認められた。(甲64の2,70,乙3)。 A 被控訴人インディアンが平成10年2月20日に商標登録を受けたインディアン図形の商標(出願平成7年12月28日,登録第4116047号)について,特許庁は,平成16年7月27日,同商標が控訴人が平成6年9月21日に出願していた先願商標(平成6年商標登録願第95839号)に類似し,商標法8条1項に違反して登録されたものとして,この登録を無効とする審決をした。なお,控訴人の同先願商標は,平成16年2月27日,その商標登録が認められた。 (甲64の1,106,乙7)。 B 控訴人は,平成16年2月27日,「Indian」と「MOTOCYCLE」との欧文字を2段書きにし,インディアンの図形を組み合わせた上記@,Aの商標のほか,「Indian Motorcycle」又は「INDIAN MOTORCYCLE」の文字とさまざまな図形(幾何学的な図形,オートバイの図形及びインディアンの図形のものなどがある。)を組み合わせた九つの商標についてその登録を得た(登録番号第4751422号ないし第4751430号)。(甲64の1ないし9) 2 原告商標と被告各標章の類否について 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似する商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであり,その誤認混同のおそれについては,商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきである(最三小判昭和43年2月27日民集22巻2号399頁参照)。 そこで,原告商標と被告各標章との類否について判断する。 (1) 原告商標について 原告商標は,片仮名文字「インディアンモーターサイクル」を横一列に並べた構成から成り,「インディアンモーターサイクル」の称呼及び「インディアンのモーターサイクル(自動二輪車)」との観念が生じる。 (2) 原告商標と被告標章3,4,6及び7との類否について (ア) 被告標章3は,別紙被告標章目録3のとおり,中央に特徴ある字体の筆記体欧文字「Indian」が大書され,その下段に,筆記体欧文字「Indian Motorcycle Co.,Inc.」が「Indian」に比して小さな字体で配された構成から成る。中央に大書された「Indian」の部分は,全体に占める割合,文字の太さ,特徴のある字体等に照らして,もっとも見る者の目をひくものであり,この部分が商標の要部となることは明らかである。これに対し,下段の「Indian Motorcycle Co.,Inc.」については,字体が小さく,また,「Co.,Inc.」の部分は,会社(法人)組織を表す英語表記の略記としてしばしば用いられるものであることが一般に知られているところである。 以上のような被告標章3の構成と前記1に認定したところ,すなわち,オリジナル・インディアン社の中核となる商標が同じ書体の「Indian」商標や右向きのインディアン図形,あるいは,ヘッドドレスロゴであり,この商標が過去において米国のみならず日本などにおいても周知な商標であったこと,我が国における同商標の周知性は,オリジナル・インディアン社が1953年に操業を停止し,後に解散したため自然に消滅していったものの,控訴人と被控訴人らが平成6年以降現在まで,革ジャンパーや革製ズボンなどについて,オリジナル・インディアン社の米国インディアンブランドを宣伝広告し,あるいは若者向けの雑誌などでオリジナル・インディアン社がハーレー・ダヴィッドソンと並んで著名なオートバイのメーカーであったことなどを紹介し,その宣伝広告をしてきたことから,オートバイや革ジャンパーの愛好者の間では次第に知られるところとなってきたことからすれば,被告標章3が使用される革ジャンパーや革製ズボン等の需要者(オートバイや革ジャンパーなどに興味がある者が中心であると推認される。)は,被告標章3を,オリジナル・インディアン社にちなんだ米国インディアンブランドの一つである「Indian」商標であると理解するものであり,その下段に付記されている文字は単にその会社名が小さく付記されたにすぎないものとして理解するものと認められる。 したがって,被告標章3については,その商標の要部である「Indian」の文字から「インディアン」の称呼及び観念(インディアンすなわち北米原住民との観念。以下同じ。)が生じるものであり,その下段に小さく付記された会社名から商標としての何らかの称呼,観念が生じるとみる必要はない。 以上によれば,原告商標と被告標章3は,その称呼及び観念が異なり,また,その外観も大きく異なるものであることは明らかであるから,類似するものとは認められない。 (イ) 被告標章4は,別紙被告標章目録4のとおり,@羽根飾りと地肌部分が着色された,羽根飾りを冠した右向きのインディアンの横顔の図形,Aその中に配した特徴ある筆記体欧文字「Indian」,及び,Bその下部に小書して配された特徴ある筆記体欧文字「Indian Motocycle Co.,Inc.」から構成されている。 被告標章4について,一見して見る者の目をひく部分は,上記@の図形,及び,特徴ある書体で同図形の中央に配された「Indian」の文字を組み合わせた部分(ロゴ入りインディアン図形)であり,この部分が商標の要部となることは明らかである。これに対し,下段の「Indian Motorcycle Co.,Inc.」については,小さな字体であり,また,「Co.,Inc.」の部分は,会社(法人)組織を表す英語表記の略記としてしばしば用いられるものであることが一般に知られているところである。 以上のような被告標章4の構成と上記(ア)で述べたところからすれば,被告標章4が使用される革ジャンパーや革製ズボン等の需要者は,被告標章4を,オリジナル・インディアン社にちなんだ米国インディアンブランドの一つであるヘッドドレスロゴないしはこれと類似の商標であると理解するものであり,その下段に付記されている文字は単にその会社名が小さく付記されたにすぎないものとして理解するものと認められる。 したがって,被告標章4については,その商標の要部であるヘッドドレスロゴ(「Indian」と右向きのインディアン図形)から「インディアン」の称呼及び観念が生じるものであり,その下段に小さく付記された会社名から商標としての何らかの称呼,観念が生じるとみる必要はない。 以上によれば,原告商標と被告標章4は,その称呼及び観念が異なり,また,その外観も大きく異なるものであることは明らかであるから,類似するものとは認められない。 (ウ) 被告標章6は,別紙被告標章目録6のとおり,@中央に特徴ある字体の筆記体欧文字「Indian」が大書され,Aその下の段(中段)に筆記体欧文字「Indian Motocycle Co.,Inc.」が小さく細い字体で配され,Bさらにその下の段(最下段)に活字体欧文字「SPRINGFIELD.MASS./EST.1901」が小さく細い字体で配された構成から成るものである。 被告標章6について,一見して見る者の目をひく部分は,その書体の大きさと特徴のある書体から上記@の「Indian」の部分であり,この部分が商標の要部となることは明らかである。これに対し,Bの最下段の「SPRINGFIELD.MASS./EST.1901」は見る者の目をひき難い位置に小さな字体で配されている上,「SPRINGFIELD.MASS.」(マサチューセッツ州スプリングフィールド)の部分は,単なる地名であって,その上段の「Indian Motocycle Co.,Inc.」と表示された会社の所在地と解される可能性があるものにすぎず,「EST.1901」の部分も,「Established 1901」の略記であり,「1901年に設立された」との意味を表すものであって,上記会社の設立年度と解されるもので,いずれもその識別力は薄弱である。また,Aの中段の「Indian Motocycle Co.,Inc.」についても,小さな字体であり,また,「Co.,Inc.」の部分は,会社(法人)組織を表す英語表記の略記としてしばしば用いられるものであることが一般に知られているところである。 以上のような被告標章6の構成と上記(ア)で述べたところからすれば,被告標章6が使用される革ジャンパーや革製ズボン等の需要者は,被告標章6を,オリジナル・インディアン社にちなんだ米国インディアンブランドの一つである「Indian」商標であると理解するものであり,その下段に付記されている文字は単にその会社名が小さく付記されたにすぎないものとして理解するものと認められる。 したがって,被告標章6については,その商標の要部である「Indian」から「インディアン」の称呼及び観念が生じるものであり,その中段及び下段に小さく付記された会社名や所在地などから商標としての何らかの称呼,観念が生じるとみる必要はない。 以上によれば,原告商標と被告標章6は,その称呼及び観念が異なり,また,その外観も大きく異なるものであることは明らかであるから,類似するものとは認められない。 (エ) 被告標章7は,別紙被告標章目録7のとおり,@中央に特徴ある字体の筆記体欧文字「Indian」が大書され,Aその下の段に筆記体欧文字「Indian Motocycle Co.,Inc.」が小さく細い字体で配された構成から成るものである。 被告標章7について,一見して見る者の目をひく部分は,その書体の大きさと特徴のある書体から上記@の「Indian」の部分であり,この部分が商標の要部であることは明らかである。これに対し,Aの下段の「Indian Motocycle Co.,Inc.」については,小さな字体であり,また,「Co.,Inc.」の部分は,会社(法人)組織を表す英語表記の略記としてしばしば用いられるものであることが一般に知られているところである。 以上のような被告標章7の構成と上記(ア)で述べたところからすれば,被告標章7が使用される革ジャンパーや革製ズボン等の需要者は,被告標章7を,オリジナル・インディアン社にちなんだ米国インディアンブランドの一つである「Indian」商標であると理解するものであり,その下段に付記されている文字は単にその会社名が小さく付記されたにすぎないものとして理解するものと認められる。 したがって,被告標章7については,その商標の要部である「Indian」から「インディアン」の称呼及び観念が生じるものであり,その下段に小さく付記された会社名から商標としての何らかの称呼,観念が生じるとみる必要はない。 以上によれば,原告商標と被告標章7は,その称呼及び観念が異なり,また,その外観も大きく異なるものであることは明らかであるから,類似するものとは認められない。 (3) 被告標章1,2及び5について (ア) 被告標章1は,別紙被告標章目録1のとおり,@羽根飾りを冠した右向きのインディアンの横顔の図形,Aその中に配した特徴のある筆記体の中程度の大きさの欧文字「Indian」,及び,B同図の下段に大きめの活字体欧文字「MOTORCYCLE」を,Cさらにその下段に非常に小さな活字体欧文字「Established 1901」を,それぞれ配した構成から成る。 このうち,羽根飾りを冠した右向きのインディアンの横顔の図形及びその中に配された「Indian」の文字は,中心部分に大きく配置され,見る者の目をひく部分であり,同標章の要部といえるものである。また,同図の下にこれとほぼ同じ横幅をもって配された「MOTORCYCLE」との文字も,かなり大きな字体であるから,上段の「Indian」と結びついて識別力を有することがあり得ると考えられる。 これに対し,最下段の活字体欧文字「Established 1901」は,目をひき難い小さな字体であり,「1901年に設立された」との意味を表すものであって,独立して自他識別力を有するものではないことが明らかである。 以上のような被告標章1の構成と,前記1認定のとおり,「Indian Motocycle」との欧文字商標も,過去において,オリジナル・インディアン社の略称として,米国はもとより,日本やヨーロッパにおいても広く知られ,周知性を獲得していたこと,並びに,前記(2)(ア)で述べたところからすれば,被告標章1が使用される革ジャンパーや革製ズボン等の需要者は,被告標章1を,オリジナル・インディアン社にちなんだ米国インディアンブランドの一つであるヘッドドレスロゴないしはこれと類似の商標であると理解すると共に,大きな字体で記載された「MOTORCYCLE」の文字とも組み合わせた「Indian MOTORCYCLE」商標とも理解するものと認められる。 したがって,被告標章1からは,「インディアン」の称呼及び観念のほか,「インディアンモーターサイクル」の称呼及び「インディアンのモーターサイクル(自動二輪車)」との観念をも生じ,その称呼及び観念において原告商標と類似するというべきである。 以上によれば,原告商標と被告標章1とは,その外観において大きく異なるものの,その称呼及び観念において上記のとおり類似するものであるから,全体として類似するものと認められる。 (イ) 被告標章2は,別紙被告標章目録2のとおり,大きく太く,かつ,特徴のある書体の筆記体欧文字「Indian」の下に,中程度の大きさの活字体欧文字「MOTORCYCLE」を配した構成から成る。 このうち,大きく太く,特徴のある書体の筆記体欧文字「Indian」は,見る者の目をひく部分であり,同標章の要部といえるものである。また,同文字の下に配された「MOTORCYCLE」との文字も,中程度の大きさの字体であるから,これが上段の「Indian」と結びついて識別力を有することもあり得ると考えられる。 以上のような被告標章2の構成と,上記(ア)で述べたところからすれば,被告標章2が使用される革ジャンパーや革製ズボン等の需要者は,被告標章2を,オリジナル・インディアン社にちなんだ米国インディアンブランドの一つである「Indian」商標であると理解すると共に,中程度の字体で記載された「MOTORCYCLE」の文字とも組み合わせた「Indian MOTORCYCLE」商標とも理解するものと認められる。 したがって,同標章からは,「インディアン」の称呼及び観念が生じるのみならず,「インディアンモーターサイクル」の称呼及び「インディアンのモーターサイクル(自動二輪車)」との観念をも生ずるというべきである。 以上によれば,原告商標と被告標章2とは,その外観において異なるものの,その称呼及び観念において上記のとおり類似するものであるから,全体として類似するものと認められる。 (ウ) 被告標章5は,別紙被告標章目録5のとおり,黒地の背景に特徴ある筆記体欧文字「Indian Motocycle Co.,Inc.」を白抜きした構成からなり,黒地を白抜きした点以外は,モトサイクルロゴと同一と認められる。 「Indian Motocycle Co.,Inc.」については,会社名であることを示す「Co.,Inc.」を除いた「Indian Motocycle」の部分だけが,その略称として認識・把握され,取引上通用することも十分あり得るというべきである。 以上のような,被告標章5の構成と上記(ア)で述べたところからすれば,被告標章5が使用される革ジャンパーや革製ズボン等の需要者は,被告標章5を,オリジナル・インディアン社の略称である「Indian MOTORCYCLE」とも理解するものと認められる。 したがって,被告標章5からは,「インディアンモトサイクルシーオーインク」,「インディアンモトサイクルカンパニーインク」の称呼のほか,「インディアンモトサイクル」の称呼を生ずるとともに,「モト/Moto」が「モーター/Motor」の簡略語として通用している実情にかんがみれば,「『インディアンモトサイクル』という名称のオートバイ(自動二輪車)を扱う会社」あるいは「インディアンのオートバイ(自動二輪車)」の各観念を生ずるというべきである。 以上によれば,原告商標と被告標章5とは,その外観において異なるものの,その称呼及び観念において上記のとおり類似するものであるから,全体として類似するものと認められる。 3 権利の濫用について (1) 前記1で認定したところによれば,被控訴人らとその余のライセンシーらは,平成6,7年ころから,若者向け服飾雑誌などにおいて,1950年代まで,米国や我が国及びヨーロッパにおいて,ハーレー・ダヴィッドソンと人気を二分していたオートバイメーカーであるオリジナル・インディアン社が訴外Cにより再建されたことなど,被控訴人らが販売する米国インディアンブランドを付した革ジャンパーや革製ズボンなどの商品がオリジナル・インディアン社の承継人ないしはそのライセンシーの商品であるかのような宣伝広告をしてきたものであるが,C・インディアン社は,投資家から資金を集めてこれを詐取するため,オリジナル・インディアン社と同一会社であるかのように,あるいは同社と何らかの関係又は継続性があるかのように装ったにすぎない会社であって,オリジナル・インディアン社の周知著名であった米国インディアンブランドの正当な承継者といえるものではなく,被控訴人らがオリジナル・インディアン社の米国インディアンブランドを使用する正当な権原を有するとはいえない。そして,前記2のとおり,被告商標1,2及び5は原告商標と類似するものであるから,被控訴人らの被告商標1,2及び5の使用は,商標法37条1号により,原告商標権の侵害行為とみなされるものである。 (2) しかし,前記1で認定したとおり,控訴人は,平成3年11月5日に原告商標について登録出願をし,平成6年3月31日にその設定登録を受けた後も,原告商標を使用した営業活動をすることなく,平成7年5月ころになって初めて,カナダインディアン社から米国インディアンブランドと同一ないし類似の商標が付された革製ジャケット等の輸入販売を始め,雑誌などでの宣伝広告を開始するようになったこと,控訴人の取扱商品についての宣伝広告においては,それらの商品がオリジナル・インディアン社にちなんだ商品であることが強調されたものとなっており,その販売する商品のほとんどについて,米国インディアンブランドと同一ないし類似のものを使用していること,控訴人は,雑誌等における宣伝広告において,米国インディアンブランドを強調する一方で,原告商標については,その広告の片隅にほとんど目立たない態様で小さく表示することがあるだけで,その広告を全体としてみると登録された原告商標を商標として使用したものとはなっていないことなどからすると,控訴人は,米国インディアンブランドが,かつて米国のみならず我が国においても周知であったことがあり,一部のオートバイ愛好者の間では未だに忘れられていないブランドであることに着目して,主として米国インディアンブランドとして使用する目的で,原告商標の登録出願をし,その設定登録を得たものと推認することができ,いわば原告商標そのものを直接使用するというよりも,原告商標の商標登録を取得することによって,これと類似範囲の商標の使用に対し禁止権を行使できる地位を取得することを意図して,その設定登録を得たものということができる(控訴人は,米国ヴィンテージバイクの愛好家団体から,バイクジャケットを作るよう依頼され,彼らの勧めでこのバイクジャケットを市販品化することとし,彼らの提案により,そのバイクジャケットの商標を「インディアンモーターサイクル」とすることとしたのが,原告商標を出願した動機であると主張し,甲47,48にはこれにそう記載があるが,前記出願後の経過に照らすと,それらの記載は,にわかに採用することができない。)。 そして,控訴人は,平成5年7月24日には,繊研新聞及び日経流通新聞において,被控訴人インディアンが再建されたオリジナル・インディアン社のライセンシーとして,衣料品等についてライセンス事業を行うことが報道され,平成6年以降,被控訴人らによる米国インディアンブランドの宣伝広告がされていた状況の下で,上記のとおり,原告商標を用いるというよりは,米国インディアンブランドを強調した宣伝広告を行っていたものであり,このような控訴人と被控訴人らによる宣伝広告によって,米国インディアンブランドは,1950年代に消滅したオリジナル・インディアン社の商標として,我が国のオートバイ愛好者ないしは革ジャンパーの需要者間で次第にその知名度を高めていったということができ,その宣伝広告の態様からすると,被控訴人らの宣伝広告と同様に,控訴人の宣伝広告を見た需要者は,控訴人の販売する米国インディアンブランドを付した革ジャンパーや革製ズボンなどの商品が,オリジナル・インディアン社の承継人ないしはその関係者あるいはそのライセンシーの商品であるかのように理解するのが普通であり,控訴人のそれら商標の使用は,オリジナル・インディアン社を離れた,控訴人独自の商品の出所を示すものとして用いられているということはできない。また,そのような状況下では,控訴人が主として雑誌等の宣伝広告の片隅で使用している原告商標についても,同商標がオリジナル・インディアン社の周知の略称である「Indian Motocycle」と類似する商標であることもあって,他の米国インディアンブランドと同様に,オリジナル・インディアン社の承継人ないしはその関係者あるいはそのライセンシーの商品との出所を表示するものと理解されるものということができる。 このような控訴人の行為は,登録商標である原告商標と一部類似する米国インディアンブランド(「Indian Motocycle」など)を指定商品である革ジャンパーや革製ズボンなどについて使用し,その結果,オリジナル・インディアン社の承継人ないしはその関係者あるいはそのライセンシーの業務であるかのような混同を生じさせるおそれのあるものであり,商標法上,本来保護されるべき性質のものとは言い難いものがある。 前記のとおり,被控訴人らの被告商標1,2及び5の使用は,商標法37条1号により,原告商標権の侵害行為とみなされるものである。しかし,控訴人は,上記のとおり,原告商標についていえば,これを控訴人独自の出所を表示する商標として用いるというよりも,これと類似するオリジナル・インディアン社の米国インディアンブランドとして,その使用を継続しているものであって,被控訴人らの被告商標1,2及び5の使用によって侵害される控訴人の信用は,あくまでもオリジナル・インディアン社に由来する米国インディアンブランドによって形成されたもので,原告商標そのものの使用によって形成されているものではないというべきであり,これをもって原告商標自体による信用が実質的に侵害されたとみることはできない。すなわち,被控訴人らによる被告商標1,2及び5の使用行為によりもたらされる商品出所の誤認混同のおそれは,控訴人が宣伝広告している米国インディアンブランドによって表示されるオリジナル・インディアン社の承継人ないしはその関係者あるいはそのライセンシーの業務に係る商品であることについて生じるものであって,オリジナル・インディアン社を離れた控訴人独自の業務に係る商品についての混同ということはできないのであり,実質的に見て,原告商標の出所表示機能等が害されたものということはできないというべきである(被控訴人らが被告商標1,2及び5を使用した商品の出所につき,控訴人のものとの誤認混同のおそれが生じるとしても,それは控訴人と被控訴人らが,ともにオリジナル・インディアン社に由来する米国インディアンブランドを使用していることにより生じる誤認混同であるといってよく,被控訴人らと同様に,控訴人も,オリジナル・インディアン社の米国インディアンブランドを使用できる正当な権原を有するものではないのであるから,そのような誤認混同をもって,原告商標による出所表示機能等が害されているとみることはできないのである。)。 (3) 以上のとおり,控訴人の原告商標の取得目的,原告商標の使用態様,原告商標権に対する実質的な侵害の不存在など本件の事実関係からすれば,控訴人は,原告商標そのものを直接使用することよりも,これと類似範囲の商標使用に対し禁止権を行使できる地位を取得することを意図して,原告商標の商標登録を取得した上で,原告商標自体を積極的には使用することなく,被控訴人らと同様,正当な権原がないのに,オリジナル・インディアン社の商品と誤認させるような商標使用を行っているものであり,原告商標それ自体による信用が実質的に害されているわけではないのに,それと類似する範囲に属する商標の使用であることを理由に,控訴人が,被控訴人らに対し,原告商標権に基づいて禁止権を行使し,同商標権侵害による損害賠償請求権を行使することは,原告商標権の濫用に当たるものとして許されないというべきである(なお,仮に,被告標章3,4,6及び7が原告商標と類似すると解されるとしても,上記のとおり,それらの使用による侵害行為に対する本訴請求も原告商標権の濫用として許されないというべきである。)。 4 結論 以上によれば,控訴人の本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がない。よって,控訴人の本訴請求をすべて棄却した原判決は相当であるから,本件控訴をいずれも棄却することとして,当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条1項,61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 若林辰繁 |