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関連審決 無効2004-80246 訂正2006-39005
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10144審決取消請求事件 判例 特許
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平成19行ケ10307審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10171審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  発明が明確 /  参酌 /  技術的意義 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 /  訂正明細書 /  国際出願 /  国際公開 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10448号 審決取消請求事件
原告東レ株式会社
訴訟代理人弁理士岩見知典,吉澤浩明
被告ユニチカ株式会社
訴訟代理人弁理士奥村茂樹
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/03/06
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2004-80246号事件について平成18年8月28日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いがない事実1特許庁における手続の経緯( )原告は,発明の名称を「エアーフィルター用不織布およびそれを用いてな1るエアーフィルター装置」とする特許第3339283号(平成8年1月19日出願,平成14年8月16日設定登録〔以下「本件特許」という。〕)の特許権者である(甲1,2)。
( )被告は,平成16年12月2日,原告を被請求人として,本件特許を無効2とすることを求めて特許無効審判の請求をした。特許庁は,上記請求を無効2004-80246号事件として審理した上,平成17年9月27日,「特許第3339283号の請求項1〜7に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をした。
そこで,原告は,平成17年11月1日,知的財産高等裁判所に対し,取消訴訟を提起した。同裁判所は,これを平成17年(行ケ)第10774号事件として審理したが,原告は,上記訴訟提起後90日の期間内に特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判(訂正2006-39005号)を請求し,同裁判所は,平成18年1月30日,特許法181条2項の規定に基づき,「特許庁が無効2004-80246号事件について平成17年9月27日にした審決を取り消す。」との決定をした。
このため,特許庁は,無効2004-80246事件について,さらに審理し,特許法134条の3第5項の規定により,上記訂正審判の請求書に添付された明細書等について,訂正の請求がされたものとみなされ(以下「本件訂正」という。),特許庁は,平成18年8月28日,「訂正を認める。特許第3339283号の請求項1〜7に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は同年9月7日,原告に送達された。
2発明の要旨本件訂正後の明細書(甲10。以下「本件訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された発明(以下,請求項1に記載された発明を「本件訂正発明1」といい,その余の請求項に記載された発明とをあわせて「本件訂正発明」という。)の要旨(下線部が本件訂正による訂正箇所)【請求項1】鞘成分が芯成分に対し20℃以上低い融点を有する共重合ポリエステルからなるポリエステル系芯鞘型複合フィラメントのみで構成され,かつ,部分的にくぼみを有する不織布であって,該くぼみが,該低融点共重合ポリエステルが融着されて形成されたものであって,その圧着部面積が0.5〜1.5mm で,2その個数が25〜35個/cm の範囲であり(判決注:本件訂正を認めた審決は2「25〜35/cm の範囲であり」とするが,訂正審判請求書である甲10等に2照らし,上記の誤記と認める。),かつ,JIS B0601に基づいて求められる該くぼみの平均深さ(カットオフ値2.5mm,評価長さ8mmで測定される算術平均粗さ(Ra))が60μm以下であることを特徴とするエアーフィルター用不織布。
【請求項2】 該鞘成分が,該複合フィラメントの5〜30重量%を占めるものである請求項1記載のエアーフィルター用不織布。
【請求項3】 該不織布の目付が,100g/m 以上である請求項1または2記2載のエアーフィルター用不織布。
【請求項4】 該不織布の剛軟度が,500mg以上である請求項1〜3のいずれかに記載のエアーフィルター用不織布。
【請求項5】 該エアーフィルター用不織布が,パルスジェット式集塵装置用である請求項1〜4のいずれかに記載のエアーフィルター用不織布。
【請求項6】 請求項1〜5のいずれかに記載のエアーフィルター用不織布を,エアーフィルター装置のフィルター部材として使用したことを特徴とするエアーフィルター装置。
【請求項7】 該エアーフィルター装置が,パルスジェット式集塵装置である請求項6記載のエアーフィルター装置。
3審決の理由( )審決の理由の概要1審決は,本件訂正明細書の発明の詳細な説明には,当業者が本件訂正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず,また,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること及び特許を受けようとする発明が明確であることに適合しないとして,本件訂正発明についての特許は,特許法36条4項(平成14年法律第24号による改正前のもの。以下同じ。)又は6項1号及び2号に規定する要件を満たしていないとして,無効とされるべきであるとした。
( )審決の認定判断の要旨2ア「請求項1には『該くぼみが,・・・,その圧着部面積が0.5〜1.5mm で,その個数が25〜35/cm の範囲』の限定が付されているので,この2 2場合に,2.5mmのカットオフ値で測定することが適切であるのか否か,について,以下に検討する。」イ「(a)訂正後の請求項1では,くぼみの規則性や形状について特に限定されるものでないから,正方形や円形の場合では,被請求人(判決注:原告)が本件訂正請求書の第4頁2〜12行で述べているとおり,圧着部面積が最大の1.5mm でもカットオフ値2.5mmの中に少なくとも1個のくぼみが入るとはみれ2るが,細長い長方形や菱形(ダイヤ柄)などの場合,例えば,縦3mm×横0.5mm,面積1.5mm の長方形など,圧着部面積が0.5〜1.5mm で,必ず2 2しもカットオフ値2.5mmの中に少なくとも1個のくぼみが入るとは限らないも2のが存在し得る。してみると,くぼみが,その圧着部面積が0.5〜1.5mmで,その個数が25〜35/cm の範囲であるとしても,2.5mmのカットオ2フ値で測定することが,その範囲内のすべての不織布に対して適切であるとはいえない。」ウ「然るに,乙第1号証は,エンボスロールを用いて規則正しい正方形のくぼみを形成したもの(写真1での縮尺からみればくぼみの圧着部面積は0.5〜1.5mm で範囲内とみれる)であるから,被請求人が答弁書(第6頁8〜24行)2において『乙第1号証を提示する。乙第1号証によれば,不織布の表面において,針の測定方向を縦,横,斜めと変えた場合でも,その平均値をみれば37.8μm,39.0μm,39.5μmとなっており,針の走行方向によって(Ra)の値が大きく変化するものでない』旨主張しているとおり,算術平均粗さの測定結果の平均値は,縦,横,斜めの方向による変動は少ないとみれるが,上記したとおり訂正後の請求項1では規則性も形状も特定されない。そうすると,上記した長方形やダイヤ柄のものでは,測定されるRaは,断面の取り方,方向性によって,くぼみとうねりが区別できないことがあり得るのであるから,どのように測定するかによって,Raは変動するとみれる。仮に,特定の規則的なものであっても,甲第3号証の試料(1)及び(2)(以下,例えば,試料の「(1)」,「(2)」とは,原文で数字を○囲みした記述の代用としたものである)のダイヤ柄の模様では,これが,本件訂正後の請求項1の『圧着部面積が0.5〜1.5mm 』であるか不明であると2しても,カットオフ値2.5mmで試験しても,対角線短と対角線長と解析方向によってRaの試験結果は解析方向-1(対角線短)と解析方向-2(対角線長)でそれぞれ,80.94,41.60と異なっているのであり,測定されるRaは,断面の取り方,方向性によって変動する。ましてや,不規則なものでは,どのように測定するか不明といわざるを得ない。」エ「(b)また,上記被請求人の主張からみると,Raは,測定結果の平均値であるとも受け止められなくもないが,この平均値をとることについて本件明細書には特に記載されていない(本件明細書には「測定結果の平均値」という文言もない。)。ただ,JIS B0601規格の上記(あ)によれば,JIS B0601規格でいう算術平均粗さ(Ra)とは,対象面の表面粗さを表す6つのパラメータのうちの一つであり,そして,表面粗さの表示の際は,それらのパラメータの算術平均値で表示されるとあることからすると,平均値をとり得るという考え方は直ちに否定されるものではないが,本件明細書記載の構成xである算術平均粗さ(Ra)では,その記載ぶりから測定結果とみる方が妥当であって,それが必ず測定結果の平均値を意味するという根拠は本件明細書をみても明らかではない。仮に被請求人のいうように『JIS B0601表面粗さ規格に基づいて求められる算術平均粗さ(Ra)』が,測定結果の平均値であると解されると想定した場合について,甲第3号証及び甲第5号証をみると,試料(1),(2),(5)で提示されるような,ある特定の規則性を有する模様の不織布に関しては,本件明細書にも,また,JISB0601規格にも,どのようにして算術平均粗さ(Ra)の測定結果の算術平均値を算出するかの規定がない。すなわち,上記(あ)には,『対象面の表面粗さを求めるには,その母平均が効果的に推定できるように測定位置及びその個数を定める必要がある』,算術平均粗さ(Ra)を算出するもととなる断面曲線の定義について『一般に方向性がある対象面ではその方向に直角に切る』とあり,上記(え)〜(さ)には,算術平均粗さ(Ra)を求める際の解説があるものの,いずれにも測定方向について上記(あ)以上の詳細な解説はないから,これらの記載事項だけでは甲第3号証や甲第5号証に示されたような特定の規則性を有する模様の不織布について,どの方向で測定する必要があるのかはわからず,結局,次に述べるとおり具体的な測定条件が十分に示されていることにはならない。例えば,甲第3号証の試料(1)及び(2)のダイヤ柄の模様は,上下に2つ略正三角形が結合した図形の輪郭を有する菱形をしたくぼみの模様が規則的に現れるものであって,いずれのくぼみもほぼ同じ深さであり,かつ,くぼみとくぼみとの間は平坦に形成されており,これらの試料(1),(2)におけるくぼみの模様の規則性は,一つの菱形の中心からどの方向に線を引いても,規則的にくぼみが繰り返し一様に現れるのであり,また,同様のことが甲第5号証の試料(4)にもいえるのであり,これらの試料(1),(2),(4)については,どの方向を測定方向として何とおり採用し,平均値とするかは,JIS B0601規格には規定もなく,また,このことは自明でもない。すると,JIS B0601規格を参酌しても,甲第3号証及び甲第5号証の試料(1),(2),(4)の算術平均粗さ(Ra)の測定結果の平均値は定まらない。更に,これらの試料(1),(2),(4)が裏表で60μmを跨ぐときも同様に算術平均粗さ(Ra)の測定結果の平均値は定まらない。」オ「また一方で,被請求人は,訴訟の『準備書面』(甲第21号証,第6頁下から1行〜第7頁6行)で『平均深さは,・・・算術平均深さ(Ra)を複数回測定した結果の平均をとるものでない』旨主張している。このときは,くぼみの平均深さは,複数回測定した結果の平均ではなく,ましてや,縦,横,斜めの平均とみることはできないから,乙第1号証で測定された,それぞれの測定結果そのものがRaの値ということになるが,乙第1号証の測定結果をみると,測定方向が縦の場合で測定結果が最小で『30μm』,最大で『44μm』の差を生じ,縦,横,斜めでは『30μm』と『48μm』の差になる。そうすると,Raが60μm近傍の不織布では,測定によって60μmの範囲内のものとなったり,範囲外のものになる。してみれば,被請求人の主張は必ずしも一貫しているとはいえないものであるが,いずれにせよ,本件訂正明細書の請求項1において,構成xの算術平均粗さ(Ra)が算術平均粗さ(Ra)の測定結果の平均値であるとし,JIS B0601規格を参酌しても,本件訂正明細書の記載からは,算術平均粗さ(Ra)の測定結果の平均値をどのように求めるかが十分に把握できないし,また,それぞれの測定結果そのものが算術平均粗さ(Ra)の値としても,測定によって60μmの範囲内のものとなったり,範囲外のものになる。」カ「(c)以上のことからみれば,本件訂正明細書の記載からは,JISB0601規格を参酌しても,算術平均粗さ(Ra)をどのように求めるかが十分に把握できなく,2.5mmのカットオフ値,評価長さ8mmで測定することが,圧着部面積が0.5〜1.5mm で,その個数が25〜35/cm の範囲内すべ2 2ての不織布に対して適切であるとはいえないから,構成xは明確ではなく,更に,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるともいえない。
また,発明の詳細な説明は,当業者が本件訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。なお,訂正後の請求項1の『圧着部面積』は,段落【0016】に『フィラメント間が熱と圧力によって融着(熱圧着)し,部分的にくぼみが形成』からみると,融着した部分の面積とみれるが,正確にフィラメント間が融着した面積をどのように計測されるのか,についても本件明細書には何等記載されていないことを付言する。」キ「(五)また,くぼみの圧着部面積が0.5〜1.5mm で,その個数2が25〜35/cm の範囲で,JIS B0601に基づいて求められる該くぼみ2の平均深さ(カットオフ値2.5mm,評価長さ8mmで測定される算術平均粗さ(Ra))が60μm以下であることによる,毛羽立ちの効果についてもみておくと,甲第15号証〜甲第18号証には,毛羽立ちは不織布表面の構成繊維間の融着の程度に関係することが技術常識であることが窺える。本件訂正発明1のように『部分的にくぼみが融着されて形成された』ものの場合に,融着の程度と融着されていないくぼみ以外の箇所での毛羽立ちとの関係が上記した技術常識から直ちに云々できるとはいえないが,甲第3号証(判決注:甲第2号証の誤記と認める。本件訴訟の甲12。)の試験において,ロール表面温度と線圧を変えた場合に算術平均Raは僅かに変わり,共に60μm以上でありながら毛羽立ちがB級とC級となっている。この違いは,ロール表面温度と線圧,すなわち融着の度合いに影響されるものともみれることから,たとえ,くぼみの圧着面積や個数が限定されたとしても,くぼみ密度が高い場合にくぼみの融着がくぼみ以外の融着されていない箇所の毛羽立ちに全く関係しないという根拠も見当たらないことから,被請求人の主張する,融着の程度でなくRaに依存するということが妥当なものと認めることはできない。」ク「この点について,被請求人は,上記準備書面(第7頁7〜24行)で『今回の訂正によって,くぼみの圧着面積および個数を特定の範囲に規定したことから,・・・疑義が解消できた』と主張している。確かに,訂正による圧着面積や個数の限定は,圧着度合いの関係する要因であるとはいえるが,融着の度合いが,圧着面積や個数のみで決まるという根拠はなく,上記したロール表面温度や線圧,あるいは間隔などにもよるものともみれるし,また,請求人が弁駁書で提示した甲第20号証(WO97/37071国際公開公報)は,本件訂正発明に関連する被請求人の国際出願であって,そこには,実施例1,比較例1として『圧着部面積が0.6mm でその個数が25個/cm のフィルター用不織布が16種類』記載さ2 2れ(第8頁24行〜第9頁17行),その16種類の各不織布のくぼみの平均深さ(Ra)と毛羽立ち特性を測定した結果が『表1』(第12頁)に記載されている。
この『表1』の結果をみると,比較例1-(1),1-(2),1-(3)などRaが60μm以下の値であっても,毛羽立ち特性が3級(実施例の4,5に比べて毛羽立ち特性がよくない)というものであることから,一概にRaのみで毛羽立ち特性が判断できないことが窺える。以上のことから,この主張は認めることはできない。」ケ「(六)まとめ以上のことから,本件訂正明細書の発明の詳細な説明には,当業者が本件訂正発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず,また,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること及び特許を受けようとする発明が明確であることに適合しない。そして,本件訂正明細書の特許請求の範囲請求項2〜7は直接に或いは間接的に本件訂正明細書の特許請求の範囲請求項1を引用するものである。よって,本件訂正発明1〜7についての本件特許は特許法第36条第4項又は第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,本件特許は特許法第123条第1項第4号の規定に該当し,無効とされるべきである。」コ「なお,上述(「1.手続きの経緯」)したとおり,結審通知後に被請求人より上申書(訂正拒絶理由に対する意見を内容とする)が提出された。そこで当審において審理の完全を期すために上申書を検討したが,審理の結論に影響を及ぼす事由を見出すことはできない。付言すれば,上申書において『2.5mm以下の短辺が必ず存在するから,すべての不織布に対して適切にくぼみの平均深さ(・・)を測定できる』(第6頁18〜20行)との主張については,『くぼみの形状(くぼみ深さ)が縦,横および斜めという方向において均一に形成されているものである限り』という前提に基づくものであり,また,例えば長方形が縦長・横長交互に形成される細長くぼみであれば,短辺が存在するからといって,必ずしもすべての不織布に対して適切にくぼみ深さを測定できるとも云えない。また,手羽立ちの効果についても『甲第2号証において,・・・これらの試料は,・・・具体的にどのようなエンボス凸部を有するロールを用いて,どのような走行速度(ウエブ搬送速度)で熱圧着した不織布なのか等の製造条件が不明であるため,くぼみ深さと毛羽立ちの効果を議論することができない』(第9頁3〜14行),『これらの不織布は,接着圧力が低いために熱圧着が十分に行われておらず,・・・・毛羽立ちとくぼみの平均深さ(・・)との関係は議論できない』(第10頁18〜21行)と主張しているが,この主張からも明らかなように,製造条件や熱圧着の程度によって毛羽立ちに影響を受けるものであることから,毛羽立ちの効果がくぼみの接着面積,個数,算術平均粗さ(Ra)にのみに依存するということにならない。」第3原告主張の審決取消事由審決は,算術平均粗さ(Ra)の測定方法等及び毛羽立ちの効果についての認定判断を誤り(取消事由1,2),その結果,明細書には,当業者が本件訂正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず,また,特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること及び特許を受けようとする発明が明確であることに適合しないとの誤った結論に至ったものであり,違法であるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(算術平均粗さ(Ra)の測定方法等についての認定判断の誤り)( )審決は,本件訂正明細書の記載からは,JISB0601規格を参照し1ても,算術平均粗さ(Ra)(以下「Ra値」ともいう。)をどのように求めるかが十分に把握できず,2.5mmのカットオフ値,評価長さ8mmで測定することが,圧着部面積が,0.5〜1.5mm で,その個数が25〜35個/cm の範2 2囲内すべての不織布に対して適切であるとはいえないとした(前記第2の3( ) 2カ)が,以下のとおり,誤りである。
( )審決は,上記( )記載の判断をするに当たり,必ずしもカットオフ値2.215mmの中に少なくとも1個のくぼみが入るとは限らないものが存在し得るから,2.5のカットオフ値で測定することが本件訂正発明1の不織布に対して適mm切であるとはいえないとした(前記第2の3(2)イ)。
Ra値は,JISB0601に規定されているとおり,カットオフ値を設定した上で求めるものであり,カットオフ値は,Ra値を求める際の基準長さ(粗さ曲線からその平均線の方向に抜き取る長さ)に等しく,この基準長さの中には,評価しようとする対象物の粗さ曲線が適切に含まれていなければならない。他方,本件訂正発明1において,Ra値を求める対象が,不織布表面に熱圧着によって部分的に形成されたくぼみであることは明らかである。
表面粗さの測定は,「一般に方向性がある対象面ではその方向に直角に切る」(甲3)ものであって,「被測定面において,表面粗さが最も大きく現われる方向に測定」(甲25)することが技術常識であり,対象面が不規則なものであっても,表面粗さが最も大きく現れる方向に測定することで求めればよく,当業者は対象面を観察して表面粗さが最も大きく現れる方向に測定することができる。したがって,表面粗さを評価する凸凹のピッチに応じたカットオフ値を設定し,対象面の少なくとも一方向においてRa値を適正に求めることができればよく,ある方向においてカットオフ値を超えるくぼみが存在することなどによって,Ra値の測定が不可能になるわけではない。
そして,本件訂正発明1において,不織布表面のくぼみの平均深さ(すなわち,Ra値)を正しく求めるためには,設定されたカットオフ値2.5mmの中に,くぼみとくぼみ以外の平坦な部分が少なくとも一つ含まれていなければならないことは明らかである。このような測定原理に反し,カットオフ値(基準長さ)の中にくぼみとくぼみ以外の平坦部がそれぞれ少なくとも一つ含まれていない場合には,不織布表面のくぼみ,表面粗さを適切に評価することができず,技術的に不合理な評価を行うこととなる。
本件訂正発明1の不織布は,カットオフ値(基準長さ)である2.5mmの中に少なくとも一つの谷(くぼみ)と山(平坦部分)が含まれる。仮に,ある方向において2.5mm(カットオフ値)を超えるような長さの一辺(長辺)を有するくぼみがあった場合においても,圧着部の面積が0.5〜1.5mm ,個数が25〜235個/cm の範囲に特定されているので,他の方向において2.5mm(カッ2トオフ値)以下の短辺が必ず存在するから,すべての不織布に対して適切にRa値を測定することができる。対象面において,ある方向にカットオフ値を超えるくぼみが存在したとしても,Ra値の測定原理を無視するそのような方向に粗さ曲線を測定してRa値を求めることは一般の技術常識を備えた当業者であれば行うとは考えられないから,そのようなくぼみの存在によってRa値の測定が不可能となるものではない。
なお,審決は,本件訂正発明1の不織布には2.5mm以下の短辺が必ず存在するとの原告主張に対し,「『くぼみの形状(くぼみ深さ)が縦,横および斜めという方向において均一に形成されているものである限り』という前提に基づくものであり」(前記第2の3(2)コ)として,前提が誤っているかの判断をするが,不織布製造業界において不織布表面にくぼみを形成する通常の手段であるエンボス加工では,エンボスで押さえられて形成されるくぼみ部分は均一に圧着部を形成するので,縦,横及び斜めといういずれの方向からみても,深さは均一に形成される。
( )審決は,上記( )記載の判断をするに当たり,カットオフ値2.5mmで31試験しても,対角線短と対角線長と解析方向によってRa値の試験結果は異なるなど,Ra値は,断面の取り方,方向性によって変動し,くぼみ等が不規則のものでは,どのように測定するかが不明であるとした(前記第2の3(2)ウ)。
しかし,上記(2)のとおり,当業者は,技術常識に基づいてRa値の測定方向を決めることができる。そして,カットオフ値の中に少なくともくぼみとくぼみ以外の平坦な部分が少なくとも一つ含まれていない方向での測定は,Ra値の測定原理に反する方向であって,そのような測定結果を正しく評価できない方向で測定した値と対比することで,値が変動するとすることは,不当である。
( )審決は,上記( )記載の判断をする当たり,本件訂正発明1のRa値が,41一つの試料について複数回測定された結果の平均値を意味するのか,あるいは一つの測定結果そのものの値であるのか不明であり,算術平均粗さ(Ra)が複数回の測定結果の平均値であるとした場合にはどのようにその平均値を求めるのかが十分に把握できないとした(前記第2の3(2)エ)。
しかし,JIS B0601の「3.1.1Raの求め方」には,「算術平均粗さ」の算術平均値をとる旨の記載はなく,「測定目的によっては,対象面の1か所で求めた値で表面全体の粗さを代表させることができる。」との記載があり,本件訂正明細書でもRa値を求めるに当たり「算術平均粗さ」の算術平均粗さをとる旨の記載はないのであるから,本件訂正発明1におけるRa値が,一つの算術平均粗さ(Ra値)であることは明らかである。
(5)審決は,上記(1)記載の判断をするに当たり,Ra値が60μm近傍の不織布では,測定によって60μmの範囲内のものとなったり,範囲外のものになるとした(前記第2の3(2)オ)。
しかし,本件訂正発明1は,不織布表面の凹凸を小さくすることによって,フィルター基材の毛羽立ちを抑制し,パルスジェット後の粉塵離脱性を向上させ,さらには寿命性能を向上させるという効果を奏する発明である。不織布の凹凸が大きくなると,こうした効果が得られなくなるのであるから,本件訂正発明1の「くぼみの平均深さ(カットオフ値2.5mm,評価長さ8mmで測定される算術平均粗さ(Ra))が60μm以下」という構成要件は,不織布表面のすべてにおいてRa値が60μm以下であることを必要とするものであって,Ra値が60μmを超える部分が存在すればそれは本件訂正発明1の権利範囲外となることは明らかである。
( )なお,審決には,「なお,・・・付言する。」として,圧着部面積の計測6方法について記載されていないとする部分がある(前記第2の3( )カ)が,本件 2訂正発明1の不織布は,「部分的にくぼみを有する不織布」であって,そのくぼみは「フィラメント間が熱と圧力によって融着(熱圧着)」されて形成されるから,熱圧着された部分がくぼみなのであり,不織布製造業界において,熱圧着においては,通常は,加熱した一対のエンボスロールが使用されて,その加熱ロール間で圧着された部分がくぼみを形成するというのが技術常識であるから,当業者は,圧着部面積をエンボスロールの設計図面から圧着される部分の面積を求めることにより算出することができる。
2取消事由2(毛羽立ちの効果についての認定判断の誤り)( )審決は,毛羽立ちは融着の程度でなくRa値に依存するということが妥当1なものと認めることができないとした(前記第2の3( )キ)が,誤りである。 2( )審決は,上記( )の判断をするに当たり,被告が審判段階で提出した審判 21甲第2号証の平成16年10月8日付け実験報告書(甲12。以下,同報告書に記載された実験を「甲12実験」ということがある。)を根拠とした(前記第2の3( )キ)が,甲12実験で試料として用いられた不織布(以下,実験で試料として2用いられた不織布について,単に「甲12実験の不織布」などという。)は,不織布の製造条件がエアーフィルター用基材として不適切なものであり,本件訂正発明1のエアーフィルター用不織布と同列に比較対照することが適切ではないから,甲12実験の不織布から求めたRa値とその毛羽立ち特性の結果に基づいて,Ra値と毛羽立ち特性の間に関係がないと判断することはできない。
単に毛羽立ち特性だけに着目し,不織布表面から繊維が毛羽立たないようにするには,融着温度ないしロール圧力を高く設定すればよいことは,当業者が容易に思いつくところであって,甲12実験の不織布は,不織布表面の毛羽立ち特性だけを良くしようと意図して作製されたものである。
すなわち,原告が提出した平成18年11月13日付け実験報告書(甲9。以下,「甲9実験報告書」といい,そこに記載された実験を「甲9実験」という。)には,甲12実験の試料のエアーフィルター用基材として適切か否かの実験をした結果が記載されている。
それによれば,甲12実験における「210℃×90kg/cmダイヤ柄」及び「82606WSO」の試料については,線圧が高いとか,エンボスロール表面温度及び線圧が高いため,フィラメントの融着がいきすぎ,通気量が劣り,エアーフィルター用基材としては満足できない。また,「190℃×70kg/cmダイヤ柄」及び「190℃×90kg/cm織目柄」の試料については,エンボスロール表面温度が低いため,融着が十分でなく,フィラメントが剥離しやすい構造で,耐剥離性に劣るものであり,エアーフィルター用不織布としては満足できないものである。
本件訂正発明1は,本件訂正明細書(段落【0001】,【0009】,【0019】及び【0031】)に記載されているとおり,パルスジェットを用いて粉塵を離脱させて繰り返し使用する集じん機に用いるものであるから,耐剥離性の観点から本件訂正発明1のエアーフィルターとしての適用性が判断される。
また,エアーフィルター用不織布としての適用性について,換気扇用フィルターのようなものが本件訂正発明1に含まれるとしても,少なくとも本件訂正発明の請求項5においては「パルスジェット式集塵装置用」との限定がされているから,請求項5及びそれに従属する請求項6及び7は無効理由を含まず,本件訂正発明の残請求項に対する無効審決の認定判断は誤りである。
( )審決は,WO97/37071国際公開公報(甲21。審判甲20,以下3「甲21公報」という。)を根拠として,一概にRa値のみで毛羽立ち特性が判断できないと認定した(前記第2の3( )ク)。
2しかし,甲21公報に記載された発明は,「不織布の目付Xと剛軟度Yの関係」を規定したものであるが,審決が参照した比較例は,低い圧力しか付与されず,関係式Y/X ≧0.03を満足しない剛軟度Yが低い不織布であって,接着圧力が2低く熱圧着が十分に行われていないため,本件訂正発明1のエアーフィルター用不織布としては不適切な条件で製造されたものである。このような不織布を取り上げることによって,毛羽立ちとくぼみの平均深さ(Ra値)との関係を判断することはできない。
本件訂正発明1は,エアーフィルター用としてのポリエステル系不織布が,集塵機用フィルター等において,粉塵粒径大,高濃度,高流速等の厳しい濾過条件下で使用された場合,粉塵がフィルター基材と衝突し,毛羽立ちが発生すること,そして,カートリッジフィルターの内部にはフィルター基材を支持するための円筒状の金網の型枠が使用されているが,この金網とフィルター基材の擦過によって毛羽立ちがしばしば発生すること(本件訂正明細書の段落【0007】)に対して,不織布表面の圧着部の深さが毛羽立ちに大きく影響を与えることを究明したものであって(同段落【0012】),くぼみの平均深さを小さくすることによって毛羽立ちを抑制することができるものである。すなわち,エアーフィルターとして用いられる際に受ける粉塵や金網との擦過による毛羽立ちは,圧着部以外の部分すなわち圧着部の間にわたって存在するフィラメント(圧着部以外の平坦な部分に存在するフィラメント)が切断されて起こり,くぼみの深さが大きい不織布は,熱圧着部の間にわたって存在するフィラメントの長さが長いので,切断されやすくなり,毛羽立ちが発生しやすくなる。本件訂正発明1は,くぼみの平均深さ(Ra値)を60μm以下とすることによって,この毛羽立ちを抑制し得たものである。
本件訂正発明1は,エアーフィルター用として格別に用途を特定した発明であるから,エアーフィルターとして用いられる不織布が要件となっていることは明らかである。
( )原告が提出した平成19年3月14日付け実験報告書(甲31。以下,同4報告書に記載された実験を「甲31実験」という。)には,Ra値が53μmの不織布と,Ra値が65μmの不織布について毛羽立ち特性を評価し,Ra値が60μmを境にして毛羽立ち特性が悪くなることが記載されている。
また,原告が提出した平成19年4月13日付け実験報告書(甲32。以下,同報告書に記載された実験を「甲32実験」という。)には,Ra値が58μmの不織布と,Ra値が67μmの不織布について,毛羽立ち特性を評価し,Ra値が60μmを境にして毛羽立ち特性が悪くなることが記載されている。
なお,本件訂正明細書に記載された実施例,比較例の不織布を製造した装置は,技術開発費用効率化のための経営上の理由により,設備廃棄処分がされ,現存していないため,甲32実験等は,現在有する装置を用いて,可能な条件で作成した不織布を使用した。また,これらの実験に使用した試料は,エンボスロールとフラットロールからなるエンボス装置を使用して得たものであるが,フラットロール側の面とエンボスロール側の面を比較することは,後記( )のとおり,意味がないから, 5評価していない。
( )被告は,平成19年3月26日付け実験報告書(乙1。以下,そこに記載5された実験を「乙1実験」という。)を提出し,乙1実験の不織布の表と裏のRa値を対比し,Ra値と毛羽立ちの間に関係がない旨主張する。
しかし,本件訂正発明1は,連続フィラメント間が熱と圧力によって融着(熱圧着)しているものであって,エンボスロールによって熱と圧力が付与されて形成されるくぼみ,すなわち,エンボスロール側の面のくぼみを規定するものである。乙1実験の不織布は,エンボスロールとフラットロールからなるエンボス装置で圧着した不織布であり,Ra値と毛羽立ち特性の関係に意味があるのはエンボスロール側の面(表面)だけであるから,表面と裏面を比較してRa値が60μm以下であることの技術的意義を論ずることには意味はない。
また,乙1実験の不織布は,表面の繊維が過度に融着した状態にあり,エアーフィルターに適しているものではなく,エアーフィルター用不織布としての適用性を考慮していない不織布を用いているから,そのRa値と毛羽立ち特性の結果に基づいて認定判断することはできない。
さらに,被告は,平成19年4月17日付け実験報告書(乙3。以下,同報告書に記載された実験を「乙3実験」という。)を提出し,乙3実験において,原告がフィルター素材として製造販売しているフィルター素材のRa値と毛羽立ち特性の関係を評価しているが,これが本件訂正発明の技術的範囲に入らなければならない義務はないし,本件訂正発明に係る特許についての表示もなく,この素材と本件訂正発明を関係付けようとする主張は不当である。
第4被告の反論1取消事由1(Ra値の測定方法等についての認定判断の誤り)に対して( )原告は,Ra値を正しく求めるためには,カットオフ値の中にくぼみとく1ぼみ以外の平坦な部分が少なくとも一つ含まれていなければならないとし,また,本件訂正発明1の不織布は,カットオフ値の中に少なくとも一つのくぼみと平坦な部分が含まれる旨主張する。
しかし,評価長さは,その開始点と終了点とが,あらかじめ決定されているものではないから,評価長さの開始点と終了点の決め方により,カットオフ値2.5mmの中にくぼみが少なくとも一つ存在するとは限らない場合がある。また,一定の場合には,評価長さの開始点と終了点とをどのように定めても,評価長さ8mm中のカットオフ値2.5mm中に,くぼみが一つも存在しないものが生じる。
原告は,一般に方向性がある対象面ではその方向に直角に切ることや,被測定面において,表面粗さが最も大きく現れる方向に測定するのが技術常識であり,Raを測定する方向は特定されていると主張するが,不規則な対象面などの場合,どの方向に方向性があるのか不明であり,いずれの方向で測定するのか特定できないし,表面粗さが最も大きく現れる方向に測定するとすることは,後記( )のとおり,不2可能である。
( )原告は,本件訂正発明1の「くぼみの平均深さ(カットオフ値2.5mm,2評価長さ8mmで測定される算術平均粗さ(Ra))が60μm以下」という構成要件は,不織布表面のすべてにおいてRa値が60μm以下であることを必要とするものである旨主張する。
しかし,特許請求の範囲には,「JISB0601に基づいて求められるくぼみの平均深さRa(・・・)が,60μm以下」と記載されているだけであるところ,JISB0601には,対象表面のすべての箇所を,すべての方向から測定して,その最も大きい値をRa値とするなどということは規定されていないし,本件訂正明細書の発明の詳細な説明にも,対象表面のすべての箇所を,すべての方向から測定して,その最も大きい値をRa値とするなどという記載はないから,上記原告の主張は,本件訂正明細書の特許請求の範囲の記載に基づくものでも,発明の詳細な説明の記載に基づくものでもなく,失当である。 また,Ra値が最も大きくなる値を得るため,どのようにして対象面の全体をあらゆる方向から測定するのかは明らかではない。すべての方向において測定をするためには,無限大の測定をしなければならないから不可能であるし,本件訂正明細書や原告が提出した証拠をみても,具体的にどのように測定するのか不明であって,本件訂正発明1においては,Ra値を具体的にどのようにして求めるか不特定である。
( )原告のRa値の測定方法に関する主張は二転三転していて,それが特定さ3れていたとは認められないことからも,本件訂正明細書の実施例及び比較例において,特定の方法でRa値を測定していたとは認められない。
そもそも,本件訂正発明に係る出願当初の明細書(乙2。以下「当初明細書」という。)には,Ra値の測定方法を一義的に特定する記載はなかったが,被告が,測定方向によってRa値が変動すると主張すると,原告は,証拠(甲6,7)を提出して,どの方向で測定しても,Ra値は有意差を持つ変化はしないと主張した。
そして,この主張が通用しないとみると,再び主張を変え,最も大きな値が出るような方向でRa値を測定すると主張した。このように,主張が二転三転するのは,本件訂正明細書の記載が事実に基づかない虚構だからであると考えざるを得ない。
また,そもそも,当初明細書には,圧着部面積及びその個数について,「また,圧着部の不織布全体の面積に占める割合も,特に規制するものではないが,より少ない方が好ましく,たとえば,好ましくは10〜30%,さらに好ましくは15〜220%の範囲で占めるのがよい。具体的には,圧着部面積が0.5〜1.5cm(判決注:後に「mm 」)である場合,好ましくは10〜50個/cm ,さらに2 2好ましくは25〜35個/cmの範囲がよい。」(当初明細書の3頁第3欄412行目〜48行目)とあるように,圧着部面積や個数は限定されず,好ましくは0.5〜1.5mm で10〜50個/cm であると記載されていて,好ましい範囲で2 2さえ,カットオフ値を2.5mmとすると,この基準長さ内に少なくとも一つのくぼみと平坦な部分が入らない態様のものも包含されていた。このため,前回の審決において,カットオフ値を定めないRa値は不明確であると認定され,本件訂正により,カットオフ値を2.5mmとし,この範囲にくぼみと平坦な部分が少なくとも一つ入るように,圧着部面積を0.5〜1.5mm とし,その個数を25〜325個/cm と訂正した。ところが,前回の審決前に原告が提出した実験報告書2(甲6)の不織布は,圧着部面積約0.25mm で個数約90個/cm のもので2 2あり,本件訂正発明に含まれるものでない。このような齟齬は,明細書の実施例及び比較例が,どのような事実に基づいて記載されているのかの疑念を生じさせ,これが虚構であるとの疑念を強くさせるものである。
2取消事由2(毛羽立ちの効果についての認定判断の誤り)に対して( )原告は,毛羽立ちは融着の程度でなくRa値に依存するということが妥当1なものと認めることができないとの審決の認定判断を争うが,以下の実験等に照らせば,毛羽立ちが融着の程度でなくRa値に依存するということを認めることはできない。
ア乙1実験においては,同1条件で得られた不織布の表面と裏面について,表面はRa値が60μmより大きく,裏面はRa値が60μmより小さくなっているところ,裏面の毛羽立ちは表面と同等であるか又は悪くなっていて,Ra値が60μm以下のときは毛羽立ちにくくなり,60μmを超えると毛羽立ちやすくなることは認められない。乙1実験においては,鞘成分が多くなるほど毛羽立ちにくくなる傾向があって,これは,熱融着成分が多いと融着の程度が高くなるからであり,毛羽立ちは熱融着の程度に依存するという技術常識にかなうものである。
この点,原告は,本件訂正発明1において,Ra値と毛羽立ち特性の関係に意味があるのは,エンボスロール側の面(表面)だけである旨主張するが,本件訂正明細書には,Ra値を測定するのはエンボスロールが当接した面に限定されるとは記載されておらず,くぼみを形成する手段は限定されていないから,エンボスロールとフラットロールとを使用し,フラットロールが当接した面において,熱と圧力によって融着されて熱圧着部が形成され,かつ,Ra値が60μm以下のくぼみが形成されているのであれば,この面も本件訂正発明1の範囲に含まれる。原告が提出した実験報告書(甲6。審判乙1)では,エンボスロールとフラットロールの組合せで熱圧着したものについて,原告自身,エンボスロール側の面(表面)とフラットロール側の面(裏面)のRa値を測定し,毛羽立ち評価を行っている。
エンボスロールに当接した面のRa値と毛羽立ち評価との関係をみても,乙1実験において,エンボスロールに当接した表面のRa値は60μmを超えているにもかかわらず毛羽立ち評価はB級である。一方,原告が提出した甲31実験及び甲32実験において,Ra値が60μm以下であって毛羽立ち評価が良いとされているものも,その評価はB級であって,Ra値の60μmをしきい値として,毛羽立ちが良くなったり悪くなったりするということはなく,Ra値と毛羽立ちとは無関係である。
さらに,原告は,乙1実験の試料は,表面の繊維が過度に融着した状態にあり,エアーフィルターに適しているものでない旨主張するが,エアーフィルターとは,空気濾過材という意味であって,空気を通過させ,空気中の塵埃を捕捉し得るものであればよいのであり,乙1実験の試料もエアーフィルターとして適している。
イ甲12実験において,1番目の試料の表対角線短はRa値が83μmで毛羽立ちはB級,裏対角線短はRa値が17μmでB級であり,2番目の試料の表対角線短はRa値が81μmでC級,裏対角線短はRa値が19μmでC級,3番目の試料の表ヨコはRa値が57μmでC級,裏ヨコはRa値が10μmでC級であり,4番目の試料の表斜め45度はRa値が62μmでB級となっている。これらからも明らかなように,Ra値が60μmを超えても60μm以下でも,毛羽立ちはB級又はC級であり,60μmに何らの技術的意義はない。甲12実験によれば,処理温度が高い方がB級となり,処理温度の低いものがC級となっていて,この結果も,処理温度が高いため熱融着成分がよく軟化又は溶融し,毛羽立ちは熱融着の程度に依存するという技術常識にかなうものである。
原告は,甲12実験の試料は,エアーフィルター用基材として不適切である旨主張する。
しかし,エアーフィルター用不織布に種々のものが存在することは自明であり,耐剥離性や通気量が一定範囲内でなければ,エアーフィルター用不織布として使用できないものではない。本件訂正明細書において,エアーフィルター用不織布については,耐剥離性や通気量が一定範囲内のものであるとは説明されていないし,耐剥離性や通気量が関係していることも記載されておらず,原告の主張は,本件訂正明細書に基づくものではない。
ウ甲21公報の12頁の表1の比較例1-(4)はRa値が50μmであり,実施例1-(12)はRa値が65μmであるが,両者はともに毛羽立ち評価は3級であって同じであり,Ra値と毛羽立ち評価とは無関係である。また,同表のRa値が35μmである実施例1-(1),Ra値が39μmである実施例1-(4),Ra値が40μmである実施例1-(7),Ra値が58μmである実施例1-(9),Ra値が53μmである実施例1-(10)の不織布よりなるエアーフィルター材は,いずれも毛羽立ちが4級であるところ,これは,本件訂正発明におけるC級よりも毛羽立ちの激しいものであり,Ra値が60μm以下であると毛羽立ち評価がB級であり,Ra値が60μmを超えると毛羽立ち評価がC級となって低下するという原告の主張は上記記載と矛盾するものである。
原告は,比較例のものは本件訂正発明のエアーフィルター用不織布としては不適切な条件で製造されたものである旨主張するが,比較例1-(4)のものの捕集効率や圧損は他の実施例よりも良好であり,他の実施例より劣るのは,シート剥離の特性だけであるが,シート剥離は,エアーフィルターを丸めたときに剥離するか否かということであり,丸めて使用しないタイプのエアーフィルターであれば問題とならないから,剥離性が悪くともエアーフィルターに適していないことにはならない。本件訂正明細書には,剥離性という用語は用いられていない。
エ乙3実験は,原告がフィルター基材として製造販売している商品についてRa値及び毛羽立ちを試験したものであるところ,表面のRa値は61.77μmであり,裏面のRa値は35.13μmとなって,裏面が本件訂正発明の技術的範囲に属し,表面が本件訂正発明の技術的範囲に属さないものである。しかし,表面及び裏面の毛羽立ちは,両者ともにB級であって,原告が主張するように,60μmを境界として,毛羽立ちが変化するものではなかった。
( )原告が提出したRa値と毛羽立ちとが関係するという証拠は,いずれも,2誤差を利用した恣意的なものである。
甲31実験は,Ra値が53μmであると毛羽立ち特性がB級で,Ra値が65μmである毛羽立ち特性がC級になると主張するが,B級とC級というのは,主観的な評価であり,境界もあいまいである。また,不織布は,構成繊維が無作為に集積されてなるものであって不均一であるし,エンボスロールで熱圧着される際も,エンボスロールの端で熱圧着された部位と,中央で熱圧着された部位とでは,圧力や温度のかかり方も異なっていて,試料自体にもばらつきがあり,一枚の試料によって毛羽立ち評価し得るものではない。
上記は,甲32実験についても同様であり,これらの実験は,試料自体のばらつきと等級付けのあいまいさを利用して,恣意的にB級・C級の等級付けを行っているものにすぎない。
( )本件訂正明細書に記載された実施例及び比較例は虚偽,ねつ造である。
3被告が,原告は本件訂正明細書に記載された実施例,比較例を追試したらいい旨をいったのに対し,原告は,そこで用いた設備を廃棄処分にした旨主張する。
しかし,設備を廃棄しても,原資料,データは残っているはずであり,原資料を提出すれば,本件訂正明細書の実施例及び比較例が現実に実験を行った結果であることが判明するが,原告は,原資料がどうなっているかに関しては,何らの主張もしないし,本件訂正明細書の実施例及び比較例で得られたエアーフィルター用不織布の圧着部面積や圧着部の個数は分かるはずであるが,これを明らかにしない。設備を廃棄したから,追試が行えないとの原告の主張もにわかに信用し難い。
また,原告が本件訴訟で提出した甲31実験及び甲32実験は,熱圧着の温度条件を200℃で行っている。本件訂正明細書に記載された実施例及び比較例は,熱圧着の温度条件が210℃であり,被告がRa値と毛羽立ちとが関係しない証拠として提出した乙1実験の熱圧着の温度条件も210℃である。原告は,熱圧着の温度条件として210℃を採用していないが,これは,本件訂正明細書に記載された条件と一致させても,本件訂正明細書に記載されているようなA級及びC級のものが得られないからである。
これらの原告の態度は,本件訂正明細書の実施例及び比較例が虚偽・捏造であることを示す。
第5当裁判所の判断1取消事由1(Ra値の測定方法等についての認定判断の誤り)について( )審決は,本件訂正明細書の記載からは,JISB0601規格を参照し1ても,算術平均粗さ(Ra)をどのように求めるかが十分に把握できず,2.5mmのカットオフ値,評価長さ8mmで測定することが,圧着部面積が,0.5〜1.5mm で,その個数が25〜35個/cm の範囲内すべての不織布に対して適切2 2であるとはいえないとした(前記第2の3( )カ)のに対し,原告は,その判断を 2争う。
( )表面粗さの測定等について,以下の事実が認められる。
2ア日本工業規格(B0601-1994)の表面粗さの定義及び表示について,以下の規定がある(甲3)。
(ア)「1.適用範囲この規格は,工業製品の表面粗さを表すパラメータである算術平均粗さ,最大高さ,十点平均粗さ,凹凸の平均間隔,局部山頂の平均間隔及び負荷長さ率の定義,並びに表示について規定する。」(1頁1行目〜2行目)(イ)「備考この規格の対応国際規格を,次に示す。
ISO468-1982・・・ISO3274-1975・・・ISO4287/1-1984・・・ISO4287/2-1984・・・ISO4288-1985・・・」(同頁3行目から10行目)(ウ)「2.用語の定義・記号この規格で用いる主な用語の定義は,次による。また,記号を,それぞれの用語の後の括弧内に示す。
(1)表面粗さ対象物の表面(以下,対象面という。)からランダムに抜き取った各部分における,表面粗さを表すパラメータである算術平均粗さ(Ra),最大高さ(Ry),十点平均粗さ(Rz),凹凸の平均間隔(Sm),局部山頂の平均間隔(S)及び負荷長さ率(tp)の,それぞれの算術平均値。
備考1.一般に対象面では,個々の位置における表面粗さは一様ではなく,相当に大きなばらつきを示すのが普通である。したがって,対象面の表面粗さを求めるには,その母平均が効果的に推定できるように測定位置及びその個数を定める必要がある。
2.測定目的によっては,対象面の1か所で求めた値で表面全体の表面粗さを代表させることができる。」(同頁11行目〜19行目)(エ)「3.算術平均粗さ(Ra)の定義及び表示3.1Raの定義3.1.1Raの求め方Raは,粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけ抜き取り,この抜取り部分の平均線の方向にX軸を,縦倍率の方向にY軸を取り,粗さ曲線をy=f(x)で表したときに,次の式によって求められる値をマイクロメートル(μm)で表したものをいう。
ここに,基準長さ」(4頁1行目〜7行目)□:(オ)「3.1.2カットオフ値Raを求める場合のカットオフ値は,一般に次の6種類から選ぶ。
0.080.250.82.5825単位mm」(同頁8行目〜9行目)(カ)「カットオフ値の標準値Raを求める場合の,Raの範囲に対応するカットオフ値及び評価長さの標準値は,一般に表1の区分による。
(同頁10行目以下)イ日本工業規格の「JISB0601-1994表面粗さ-定義及び表示解説」には以下の記載がある(甲3)。
(ア)「1982年改正の経緯・・・改正した主な点は,次のとおりである。
(1)この規格の適用範囲を機械表面に限定せず,“工業製品”と対象枠を拡げ,また,最大高さ(Rmax),十点平均粗さ(Rz),中心線平均粗さ(Ra)の順であったものをISOR468,ISO1302及び我が国の事情を考慮して,Ra,Rmax,Rzの順に改めた。」(解説1頁25行目〜3行目)(イ)「4適用範囲(本体の1.)4.1表面粗さこの規格の適用範囲"Surface roughness" でいう表面粗さは,ISO468,ISO4287/1のに相当する用語であって,工業製品の表面における表面うねり及び幾何偏差を除く微細な凹凸を対象としている。表面粗さは,表面の一つの性質を定める量であるが,何を“表面粗さ”というかという定義もはっきりしていない。常に問題とされるのは,いわゆる,“粗さ”と“うねり”の区別である。粗さとうねりをその性質の上から区別するとき,前者は表面がつるつるしているとか,ざらざらしているとかいう感覚の基になる量で,後者は粗さより大きい範囲での表面の周期的な凹凸であるとされている。・・・しかし,広い範囲の表面を考えると,うねりは上記のような定義で,粗さと区別できないものが多い。・・・この規格では,何を粗さとするか,という定義は避けて適用範囲に示した6種類の表面粗さを定義し,測定のときに選んだ一定のカットオフ値又は基準長さの中に含まれている凹凸は,すべて“表面粗さ”と考えるという立場をとっている。これはISOと同じ考え方であり,ANSI,BSの実際の測定に際してとっている立場と等しい。」(解説3頁下から7行目〜4頁7行目)ウ国際標準規格(ISO4288-1985)には,以下の規定がある(甲29)。
(ア)「6.1表面粗さパラメーターの単一値の測定カットオフは,検査しようとする試料の表面粗さのための要件において特定される基準長さに等しく選ばれるべきである。
多くの場合,図面または技術文書において基準長さの値を特定する必要はなく,すなわち,この場合においてRa,RyおよびRzのパラメーターを測定するときは,表1,2または3に示された値を用いる。」(2頁右段16行目〜22行目)(イ)「測定方向が特定されていないときは,試料は,その断面の方向が表面粗さ(Ra,RyまたはRz)の高さ変数の最大値と一致するように置かなければならない。この方向は,測定される表面の加工模様に直角となる。等方性の表面に対しては,その断面の方向は無作為にできる。測定は,臨界値が期待できる表面の部分上において行わなければならず,それは視認によって判断することができる。
別々の測定は,独立した測定結果が得られるように,その表面部分を公平に分けなければならない。」(3頁左段9行目〜14行目)エ昭和58年株式会社総合技術センター発行「テクノコンパクトシリーズ?E表面粗さの測定・評価法」(甲30)には,以下の記載がある。
(ア)「 )断面曲線被測定面を平均面に直角な平面で切断したとき,その4切り口に現れる輪郭を断面曲線という(図4参照)。この切断は,特に指定がない限り,表面粗さが最も大きく現れる方向に切る。たとえば方向性のある被測定面では,その方向に直角に切る。」(10頁下から8行目〜4行目)(イ)「表面粗さの測定に主として用いられている触針式表面粗さ測定器の触針は,有限の大きさの先端曲率半径を持っている。・・・このために触針法で測定した曲線は,幾何学的な切断で現れる断面曲線と一般に多少異なる。触針法で測定した曲線は,測定断面曲線といわれる。触針の先端曲率半径が小さく,スキッドが十分に大きい場合には,測定断面曲線と幾何学的な断面曲線の差は,一般に表面粗さの値を求めるとき無視できる程小さい。この理由で,測定断面曲線を断面曲線と考え,表面粗さを求める基本的曲線とする。」(同頁下から3行目〜11頁8行目)オ株式会社ミツトヨ作成の「精密測定機器の豆知識サーフテスト(表面粗さ測定器)編」(甲25)には,JISB0601やISO3274,4288,11562,4287との記載があり,粗さパラメータの提起などが説明され,上記ア(カ)と同様の表(カットオフ値については,粗さ基準長さと表示)等が記載されていて,右中段には,「■測定方向被測定面において,表面粗さが最も大きく現われる方向に測定します。例えば,機械加工面ではカッターマークに直角な方向に測定します。」との記載がある。
( )上記( )によれば,Ra値は,工業製品の表面粗さを示すパラメータであ32って,その定義,測定方法等は,日本工業規格(JIS)においても定められていて(JISB0601。以下「本件規格」ともいう。),本件訂正発明におけるRa値は,特許請求の範囲の記載において,JISB0601によるとされ,本件規格の定義によるものと認められる。
本件規格は,従前は機械表面の表面粗さについてのものとされたこともあったが,その後,それに限られず,工業製品の表面粗さを表すものとされた(前記( )イ)。
2また,「表面粗さ」について,粗さは表面がつるつるしているとかを表し,うねりは,粗さより大きい範囲での表面の周期的な凹凸であるとのとらえかたもあるが,本件規格においては,測定のときに選んだ一定のカットオフ値又は基準長さの中に含まれている凹凸をすべて「表面粗さ」とするとしている(同イ(イ))。
そして,本件規格において,測定位置,測定数について,前記( )ア(ア) (ウ)の記2,載に照らせば,表面粗さは,算術平均粗さ(Ra)の算術平均値でも表され,「一般に対象面では,個々の位置における表面粗さは一様ではなく,相当に大きなばらつきを示す」から,「対象面の表面粗さを求めるには,その母平均が効果的に推定できるように測定位置及びその個数を定める必要がある。」とされ,他方,「測定目的によっては,対象面の1か所で求めた値で表面全体の表面粗さを代表させることができる。」とされている。
前記( )のウないしオによれば,一般に,表面粗さの測定を行うに当たっては,2測定方向として,表面粗さが最も大きくなる方向とし,例えば,方向性のある加工模様に対しては,その模様に対して,直角の方向に測定するという技術常識があったと認められる。
( )本件訂正発明1は,圧着部を有し,圧着部の面積,個数を規定するが,特4許請求の範囲には圧着部の形状や配置についての規定はなく,圧着部の形状や配置についての限定がないと認められる。
したがって,本件訂正発明1においては,圧着部の形状,深さとして各種のものを含み,また,圧着部が規則的に配置されるものに限られず,不規則に配置されるものを含んでいると認められる。なお,この点,原告は,不織布表面にくぼみを形成する通常の手段であるエンボス加工では圧着部の深さが均一であるとするが,本件訂正発明1は圧着部の形成をエンボス加工によると限定していないものであり,採用できない。
そして,Ra値について,特許請求の範囲には,本件規格によるとされているのであるが,本件規格も同値を求めるための測定位置,測定方向,測定数を直接,一義的に決めるものではなく,本件訂正発明1について,特許請求の範囲,本件訂正明細書にも,Ra値を求めるための測定位置等の記載はない。本件訂正発明1の圧着部が上記のように,形状,深さとして各種のものを含み,また,不規則に配置されるものも含むものであることも考慮すると,Ra値を求めるための測定位置等について,疑義を生ずるおそれがないわけではない。
しかしながら,本件規格の前記( )ア(ウ)の記載によっても,本件規格は,対象表2面における表面粗さが場所により異なることを前提とし,測定位置等については,指針と技術常識等に従って,測定者が定めることが予定されている。
ここで,原告は,本件訂正発明1において,ここでいうRa値は一つの算術平均粗さ(Ra)の値であること,Ra値を求めるためには,設定されたカットオフ値2.5mmの中に,くぼみとくぼみ以外の平坦な部分が少なくとも一つ含まれていなければならず,本件不織布はそのような部分が存在するから,当業者はすべての不織布に対して適切にRa値を測定することができるとか,当業者は被測定面を観察して表面粗さが最も大きく現れる方向に測定することができる旨主張する。
本件訂正発明1はくぼみの平均深さが60μm以下であると規定し,また,「不織布のかかる該融着部のくぼみの平均深さが60μm以下とすることで,従来の不織布に比べ大幅にフィルター基材の毛羽立ちを抑制することができることを見いだした。該融着部のくぼみの平均深さが60μmを超すと,フィルター基材の毛羽立ちが幾何級数的に大きくなっていき,エアーフィルターとして適さなくなる。また,該くぼみの平均深さを小さくすることは,不織布表面の凹凸が小さくなることであり,粉塵あるいはフィルター支持体である金網等と,フィルター基材との摩擦抵抗が大きく低減されることを意味する。」(後記2( )エ)などの本件訂正明細書の2記載にも照らせば,本件訂正発明1がいうRa値については,圧着部によるくぼみの平均深さを測るものであることが容易に理解でき,そのようなくぼみの測定において,測定位置が具体的に定められていなくとも,技術常識によって,当業者は,くぼみを表面粗さとしてとらえることができるような位置,すなわち,くぼみとくぼみ以外の部分をとらえることができるような位置において,測定するといえる。
さらに,その具体的な測定位置,測定方向,個数などは,本件規格によっても,測定の目的等に照らし選択されるものであると認められるのであるが,特許請求の範囲や上記本件訂正明細書の記載から,当業者は,原告が主張するように,本件訂正発明1においては,毛羽立ち抑制という効果との関係で不織布正面の凹凸,くぼみの平均深さが問題となっていて,毛羽立ち抑制のためには,不織布のどこにおいても60μm以下である必要があると理解して,前記技術常識等に基づき,結局,本件訂正発明1については,不織布において,Ra値が最も大きくなるような位置,方向で一つ測定した場合の値が問題となっていると理解することが不可能とまでは認められない。当業者がこのように理解できると,原告が主張するように,本件訂正発明1のRa値は,不織布表面においてその値が最大となるような位置,方向で測定した値となるのであり,本件訂正発明1において,Ra値を求めることが把握できず,特許請求の範囲の記載が不明確であるとか,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないとか,実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとまではいえないこととなる。
( )被告は,評価長さ8mm中の一のカットオフ値2.5mm中に,くぼみが51個も存在しないものが生じること,不規則な対象面などの場合,どの方向に方向性があるのか不明であり,いずれの方向で測定するのか特定できないこと,また,本件訂正発明1の特許請求の範囲にも本件訂正明細書の発明の詳細な説明にも,対象表面のすべての箇所を,すべての方向から測定して,その最も大きい値をRa値とするなどという記載はないこと,表面粗さが最も大きく現れる方向に測定するとすることは,不可能であることなどを主張する。
しかし,前記のとおり,本件規格においては,その測定位置,方向や測定個数は,測定の目的等により定められることが示されていて,特許請求の範囲や本件訂正明細書の発明の詳細な説明に具体的な測定位置,方向等が記載されていなくとも,当業者が,本件訂正発明1においてRa値がどのような意義を持つのかを理解し,技術常識に基づき,本件訂正発明1においてRa値の測定のために適切な測定位置,方向等を決めることができるのであれば,その測定が直ちに不可能となるものではない。
また,被告は,原告のRa値の測定方法に関する主張は二転三転していて,それが特定されていたとは認められないことなどをいい,確かに,原告の主張は,必ずしも一貫していないように見受けられるところもあるのであるが,当業者が,本件訂正明細書の記載なども参酌し,本件訂正発明1のRa値の意義について,測定位置等を決定することができないとまではいえないことは,前記( )のとおりである。
4( )そうすると,本件訂正発明1において,Ra値をどのように求めるかが不 6明であることによっては,特許請求の範囲の記載が不明確であるとか,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないとか,実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとまでは直ちにはいえない。しかし,後記2のとおり,本件訂正発明は,別の理由によって,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないといわざるを得ないものである。
2取消事由2(毛羽立ちの効果についての認定判断の誤り)について( )審決は,算術平均粗さ(Ra)が60μm以下であることにより,毛羽立1ちの点について,優れた効果が得られるとは認められないと認定判断したところ,原告は,この判断を争う。
( )本件訂正明細書には,以下の記載がある。
2ア「【発明の詳細な説明】【発明の属する技術分野】本発明は,エアーフィルター,たとえば集塵機用フィルター等において粉塵との衝突,あるいはフィルター内部支持体である金網等により擦過して発生するフィルター基材の毛羽立ちを抑制し,かつパルスジェット後の粉塵離脱性の優れたエアーフィルター用不織布およびそれからなるエアーフィルター装置に関するものである。」(段落【0001】)イ「【発明が解決しようとする課題】ところが,このような従来のエアーフィルター用不織布では,集塵機用フィルター等において,粉塵粒径大,高濃度,高流速等の厳しい濾過条件下で使用された場合,粉塵がフィルター基材と衝突し,毛羽立ちが発生することがあった。また,該カートリッジフィルターの内部にはフィルター基材を支持するための円筒状の金網の型枠が使用されているが,この金網とフィルター基材の擦過によって,毛羽立ちがしばしば発生することがあった。また,一般にこのような集塵機用フィルター用途においては,フィルター基材の表面上に捕集された粉塵を逆流エアーにより間欠的に払い落としながら使用するパルスジェット方式が,フィルター寿命の延長を図るために採用されているが,その場合,前記該毛羽立ち部分に粉塵が絡み付き,パルスジェット後の粉塵離脱性が悪化し,さらにはフィルターの寿命が低下してしまうという問題が発生していた。本発明は,かかる問題を解決し,エアー濾過時のフィルター基材の毛羽立ちが少なく,かつパルスジェット後の粉塵離脱性に優れた,集塵機用フィルターとしても十分な性能を持った,高寿命のエアーフィルター用不織布およびそれからなるエアーフィルター装置を提供しようとするものである。」(段落【0007】〜【0009】)ウ「【課題を解決するための手段】本発明は,かかる課題を解決すべく,次のような手段を採用する。すなわち,本発明のエアーフィルター用不織布は,鞘成分が芯成分に対し20℃以上低い融点を有する共重合ポリエステルからなるポリエステル系芯鞘型複合フィラメントのみで構成され,かつ,部分的にくぼみを有する不織布であって,該くぼみが,該低融点共重合ポリエステルが融着されて形成されたものであって,その圧着部面積が0.5〜1.5mm で,その個数が25〜325個/cm の範囲であり,かつ,JIS B0601に基づいて求められる該くぼ2みの平均深さ(カットオフ値2.5mm,評価長さ8mmで測定される算術平均粗さ(Ra))が60μm以下であることを特徴とするものである。」(段落【0010】)エ「【発明の実施の形態】本発明は,エアーフィルターとして使用するポリエステル系芯鞘型複合フィラメントのみで構成されてなる不織布の表面の圧着部の深さが,エアー濾過の際の粉塵との衝突,あるいはフィルター内部支持体である金網等により擦過して発生するフィルター基材の毛羽立ちに大きく影響を与えることを究明したものである。具体的には該不織布の融着部の形状,構造を特定なものにすると,粉塵,あるいはフィルター内部支持体である金網等と,フィルター基材との摩擦抵抗が大きく低減し,それによって毛羽立ちが抑制され,かつ粉塵離脱性を向上させることができることを究明したものである。すなわち,かかる不織布の該融着部のくぼみの深さと,フィルター基材の毛羽立ちとの関係を検討したところ,該くぼみの平均深さがフィルター基材の毛羽立ちと関係が深いことを究明し,さらには,JIS B0601表面粗さ規格に基づいて求められる算術平均粗さ(Ra),たとえば,一般に,金属等の表面粗さを確認するために使用される株式会社小坂研究所製の表面粗さ計SE-40C(JIS B0651触針式表面粗さ測定器の規格に基づく)を用いて測定することができる該くぼみの平均深さが,密接に関係することを究明した。すなわち,不織布のかかる該融着部のくぼみの平均深さが60μm以下とすることで,従来の不織布に比べ大幅にフィルター基材の毛羽立ちを抑制することができることを見出だした。該融着部のくぼみの平均深さが60μmを超すと,フィルター基材の毛羽立ちが幾何級数的に大きくなっていき,エアーフィルターとして適さなくなる。また,該くぼみの平均深さを小さくすることは,不織布表面の凹凸が小さくなることであり,粉塵あるいはフィルター支持体である金網等と,フィルター基材との摩擦抵抗が大きく低減されることを意味する。また,フィルター基材の毛羽立ちが抑制されることから,該毛羽立ちへの粉塵の絡み付きも低減され,パルスジェット後の粉塵離脱性が向上し,更には寿命性能を向上させることができるのである。本発明の基本思想は,エアーフィルターとして使用する不織布表面の該融着部のくぼみの深さを浅くし,粉塵との衝突あるいはフィルター支持体である金網等との擦過により発生するフィルター基材の毛羽立ちを抑制し,かつパルスジェット後の粉塵離脱性を向上させることにある。」(段落【0012】〜【0015】)オ「【実施例】次に,実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。なお,実施例における各種特性は次の方法により測定した。くぼみの平均深さ:くぼみの平均深さは,表面粗さ測定器(株式会社小坂研究所製の表面粗さ計SEー40C:JIS B0651触針式表面粗さ測定器の規格に基づく)を使用して,JISーB0601表面粗さ規格に基づいて求められる算術平均粗さ(Ra)を表す。算術平均粗さは,カットオフ値2.5,評価長さ8で測定した。毛羽立ち特性mmmm:テーバ形磨耗試験機により,JIS L1096に基づいて,摩耗輪,荷重条件で100回磨耗後,外観を観察した。外観変化は以下の様に定義し,判定を行った。
A級 : まったく毛羽立ちがない。B級 : 少し毛羽立ちはあるが目立たない。C級 : 毛羽立ちが目立つ目付:JIS L1096に基づいて求めた。」(段落【0020】〜【0024】)カ「実施例1,2融点が260℃のポリエチレンテレフタレートを芯成分,融点が230℃のイソフタル酸共重合ポリエステルを鞘成分とし,芯成分と鞘成分の重量比をそれぞれ,85:15,70:30とした複合連続フィラメントを単糸繊度2dで溶融紡出し,空気圧により開繊した後,移動するネット上に堆積させ,一対の加熱エンボスロールを使用し,表面温度210℃,線圧を60kg/cmで圧着し,目付260g/m ,厚さ0.6mmの不織布を得た。これら不織布の表2面のくぼみの平均深さは,それぞれ表/裏=25/20μm,45/40μmであった。毛羽立ち特性は両水準ともA級と良好で,表を濾過面として評価したエアーフィルター性能においても,払落200回後もさらに使用可能,満足いく寿命性能が得られた。結果を図1,表1に示す。」(段落【0026】,【0027】)キ「比較例1融点が260℃のポリエチレンテレフタレートを芯成分,融点が230℃のイソフタル酸共重合ポリエステルを鞘成分とし,芯成分と鞘成分の重量比を50:50とした複合連続フィラメントを単糸繊度2dで溶融紡出し,空気圧により開繊した後,移動するネット上に体積させ,一対の加熱エンボスロールを使用し,表面温度を210℃,線圧を60kg/cmで圧着し,目付260g/m ,厚さ0.6mmの不織布を得た。この不織布表面のくぼみの平均深さは表/2裏=70/65μmであった。毛羽立ち特性は,C級と実施例に比べ悪く,また表を濾過面として評価したエアーフィルター性能においても払落約150回で使用限界に達し,満足いくエアーフィルター寿命が得られなかった。結果を図1,表1に示す。(段落【0028】,【0029】)ク「【表1】」(段落【0030】)( )本件訂正発明は,不織布に融着によりくぼみを形成し,その圧着部面積や3個数の範囲を規定するとともに,くぼみの平均深さを,カットオフ値2.5mm,評価長さ8mmで測定されるRa値が60μm以下とするものとした不織布及びそれを用いた装置の発明である。
そして,上記( )イないしエによれば,本件訂正発明は,エアーフィルターにお2いて毛羽立ちが発生すると,パルスジェット後の粉塵離脱性が悪化し,また,フィルターの寿命が低下してしまうことから,毛羽立ちが少ないエアーフィルター用不織布を得ることを課題とし,不織布の融着部のくぼみの深さとフィルター機材の毛羽立ちとが関係が深く,さらに,くぼみの平均深さが,一定の条件で測定されるRa値と密接に関係し,Ra値を60μmとすることで,従来の不織布に比べ大幅にフィルター機材の毛羽立ちを抑制し,逆にRa値が60μmを超すと,フィルター基材の毛羽立ちが幾何級数的に大きくなっていき,エアーフィルターとして適さなくなることを見出してされたものと認められる。
本件訂正明細書には,実施例,比較例として,くぼみの平均深さが60μm以下であり,毛羽立ち特性がA級と良好であり,フィルター性能に優れる不織布と,くぼみの平均深さが60μmを超え,毛羽立ち特性がC級と劣り,フィルター性能も低い不織布が示されている。この実施例,比較例は,圧着部の面積,個数について限定を行う本件訂正の前から記載されているもので,実施例,比較例の試料の圧着部の面積,個数は,本件訂正明細書の記載,原告の主張によっても不明である。
( )被告は,フィルターの毛羽立ちは熱融着の程度に依存し,Ra値は関係な4い旨主張し,原告は,フィルターの毛羽立ちがRa値と関係するとして,それぞれ,実験の結果を証拠として提出する。
ア被告が行った乙1実験においては,ウェブの芯成分,鞘成分や,圧着部の個数,面積については,本件訂正発明1の条件を満たすウェブを使用して,エンボスロールとフラットロールからなるエンボス装置で圧着部を形成し,Ra値と毛羽立ち特性を評価したところ,以下の表のような結果であった(乙1)。ロールの表面温度,線圧は,いずれも210℃,60kg/cmである。毛羽立ち特性で,A級とは全く毛羽立ちがないことを,B級とは少し毛羽立ちはあるが目立たないことを,C級とは毛羽立ちが目立つことをいうとされている。
イ被告が行い,審判段階で提出された甲12実験(審判甲2)においては,ウェブの芯成分,鞘成分について,本件訂正発明1の条件を満たすウェブを使用して,エンボスロールとフラットロールからなるエンボス装置で圧着部を形成し,Ra値と毛羽立ち特性を評価したところ,以下の表のような結果であった(甲12)。
「82606WSO」の試料については,エンボス柄は楕円柄で,ロール表面温度及び線圧は,225℃,80kg/cmである(なお,以下の表の「190℃×70kg/cm織目柄」は,甲12の他の箇所の記載等に照らし,「190℃×90kg/cm織目柄」の誤記と認める。)。
ウ原告が行った甲31実験においては,ウェブの芯成分,鞘成分や,圧着部の個数,面積については,本件訂正発明1の条件を満たすウェブを使用して,エンボスロールとフラットロールからなるエンボス装置で圧着部を形成し,Ra値と毛羽立ち特性を評価したところ,以下の表のような結果を得た(甲31,33,弁論の全趣旨)。毛羽立ち特性のA級ないしC級は,乙1実験におけるものと同じである。
エ原告が行った甲32実験においては,ウェブの芯成分,鞘成分や,圧着部の個数,面積については,本件訂正発明の条件を満たすウェブを使用して,エンボスロールとフラットロールからなるエンボス装置で圧着部を形成し,Ra値と毛羽立ち特性を評価したところ,以下の以下の表のような結果を得た(甲32,34,弁論の全趣旨)。毛羽立ち特性のA級ないしC級は,乙1実験におけるものと同じである。
( )本件訂正明細書に記載された実験(上記( )ク)及び甲31実験,甲325 2実験においては,Ra値が60μm以下の試料とこれを超えた試料によって,毛羽立ちの程度が異なっていて,本件訂正明細書に記載された実験は圧着部の個数,面積が不明なものであるが,これらの実験は,毛羽立ち特性の結果が異なる場合に,Ra値が60μmの前後となることがあることが示されている。
他方,乙1実験においては,表面(エンボスロール側の面。ER面)におけるRa値は,それぞれ,75.03μm,74.84μm,66.24μm,81.43μm,74.38μm,87.83μmというものであり,毛羽立ち特性は,それぞれ,C級,B級,B級,B級,B級,B級である。これによれば,Ra値が60μmを超えても,毛羽立ちが一定程度に抑えられており,また,Ra値が75.03μmのものより87.83μmのものの方が毛羽立ち特性がよく,その毛羽立ち特性がB級であるなど,Ra値が60μmより大きくなると幾何級数的に毛羽立ち特性が悪くなるとは認められず,本件訂正明細書の記載に反した結果となっている。そして,乙1実験の結果は,芯鞘比において,一般に鞘の成分が少なく,融着が弱くなるものについて,毛羽立ちが小さくなる傾向があることを示しているともいえる。
また,甲12実験において,エンボスロール側の面である「表面」について,方向によって異なったRa値が記載されているものについては大きな値を採用したとき,Ra値が83.36μmのものの毛羽立ち特性がB級である一方,Ra値が57.43μmのものの毛羽立ち特性がC級とされるなど,Ra値が60μm以下であれば,良好な毛羽立ち特性が得られ,60μmを超えると幾何級数的に毛羽立ち特性が悪くなるとの本件訂正明細書の記載に反した結果となっている。そして,甲12実験の結果は,一般に,エンボスロールの表面温度や線圧が大きな値であり,融着が強くなるものが,毛羽立ちが小さくなる傾向があることを示しているといえる。
( )乙1実験について,原告は,実験の試料で使用した不織布の表面の繊維は,6過度に融着した状態にあり,エアーフィルターに適しているものではなく,本件訂正発明1のエアーフィルター用不織布と同列に比較対照することが適切であるとはいえない旨主張する。
確かに,本件訂正発明はエアーフィルター用不織布及びそれを利用した装置に係る発明であり,また,請求項5においては,その不織布がパルスジェット式集塵装置用不織布であるとされていて,それらに用いることができない不織布について測定された数値は,直ちに,本件訂正発明と関係するものではない。
しかし,原告は,乙1実験に用いた不織布について,繊維が過度に融着した状態であって,エアーフィルターに適さないと主張するのであるが,繊維の融着度合いについて,どの程度のものが具体的にエアーフィルターに適さないとする根拠を明らかにするものではない。原告は,代理人が,現物を,手で触ってみたところ,エアーフィルターに適しているとはいい難いほどに硬く硬直しているなどともいうが,原告の主張によっても,エアーフィルタに適した不織布の範囲が不明であり,乙1実験に用いた不織布がエアーフィルターに適しているものではないと認めるには足りないし,他に,乙1実験に用いた不織布が,本件訂正発明の対象としているエアーフィルター用の不織布やパルスジェット式集塵装置用不織布でないと認めるに足りる証拠はない。
( )原告は,甲12実験の不織布は,不織布の製造条件がエアーフィルター用7基材として不適切なものであると主張する。
そして,甲12実験の試料と,ロール表面温度及び線圧において同じ条件で作製した不織布について,耐剥離性と通気量を測定したとして,甲9実験報告書を提出する。
それによると,甲12実験の「190℃×70kg/cmダイヤ柄」と同等の条件という試料(試料1)及び「190℃×90kg/cm織目柄」と同等の条件という試料(試料2)については,製造ライン方向(長手方向)80cm,幅方向10cmのサイズに不織布をカットし,これを半径10cmの円弧状に折り曲げたところ,剥離部が2個以上あったとする。そして,甲9実験報告書では,同試料は,耐剥離性が悪く,エアーフィルター用基材として性能が劣るとされている。
また,甲12実験の「210℃×90kg/cmダイヤ柄」と同等の条件という試料(試料3)及び「82606WSO」と同等の条件という試料(試料4)については,通気量が12.4cc/cm・分,9.9cc/cm・分であるとする。
そして,甲9実験報告書では,これら試料は,通気量が低く,エアーフィルター用基材として性能が劣るとしている。
しかし,上記の不織布が,エアーフィルター用の不織布として用いることができない,言い換えると,エアーフィルター用の不織布ではないとするだけの証拠の提出はない。原告は,本件訂正発明の不織布が,パルスジェットを用いて粉塵を離脱させて繰り返し使用する集じん機に用いるものであるから,剥離性によってエアーフィルターとしての適否を決することが適当である旨主張するが,本件訂正発明5等がパルスジェット式集塵装置用のエアーフィルター用不織布の発明であることは認められるが,エアーフィルター用不織布として,また,パルスジェット式集塵装置用のエアーフィルター用不織布として,剥離性についてどのような性能が最低限要求されるかなどが不明であるから,試料1及び試料2の不織布が,本件訂正発明が対象とする不織布ではないとは認めるに足りない。また,試料3及び4の不織布について,その通気量によれば,エアーフィルタ用の不織布として用いることができないものであること,言い換えると,エアーフィルター用の不織布ではないとするだけの証拠の提出はない。
そうすると,甲12実験の不織布がエアーフィルター用の不織布でないことを理由として,それらについての実験数値を本件において利用することができないとする原告の主張は採用できない。
( )原告は,エアーフィルターとして用いられる際に受ける粉塵や金網との擦8過による毛羽立ちは,圧着部以外の部分すなわち圧着部の間にわたって存在するフィラメント(圧着部以外の平坦な部分に存在するフィラメント)が切断されて起こり,くぼみの深さが大きい不織布は,熱圧着部の間にわたって存在するフィラメントの長さが長いので,切断されやすくなって,毛羽立ちが発生しやすくなり,本件訂正発明1は,Ra値を60μm以下とすることによって,この毛羽立ちを抑制し得たものである旨主張する。
しかし,熱圧着部の間のフィラメントの長さは,圧着部面積,個数,配列によりまず規定されるところ,本件訂正発明1は,圧着部面積,個数ともに幅を有し,その配列も定まらないもので,本件訂正発明1がフィラメントの長さを規定するものとは解されないし,また,原告の主張は,Ra値が大きいものは,くぼみが深いため,熱圧着部の間のフィラメントの長さが長いことを前提とするものと解されるが,本件訂正発明1において規定されている条件に照らせば,圧着部のくぼみの深さの違いは,圧着部間のフィラメントの長さの違いにわずかな差を与えるだけであり,本件訂正発明1では,圧着部面積,個数ともに幅を有し,その配列も定まらないものであることも考えると,その深さの違いにより,毛羽立ちの効果が原告が主張するように異なると直ちに認めることはできない。
そして,エアーフィルター用不織布において,一般に毛羽立ちの発生やその程度は,融着の程度に大きく左右されることが技術常識であり,乙1実験や甲12実験においても,Ra値の変化ではなく,融着の程度に影響を与える他の条件が毛羽立ちの特性に影響を与えることが示唆されているともいえる。
( )以上によれば,本件訂正発明1は,Ra値が60μm以下であることを特9徴とする不織布の発明であって,明細書の発明の詳細な説明には,不織布の融着部のくぼみの深さとフィルター機材の毛羽立ちとが関係が深く,さらに,くぼみの平均深さが,一定の条件で測定されるRa値と密接に関係し,Ra値を60μmとすることで,従来の不織布に比べ大幅にフィルター機材の毛羽立ちを抑制し,逆にRa値が60μmを超すと,フィルター基材の毛羽立ちが幾何級数的に大きくなっていき,エアーフィルターとして適さなくなることを見出してされたものと記載されている。しかし,乙1実験及び甲12実験の結果によれば,上記の明細書に記載された関係を認めることができず,また,不織布のRa値が60μm以下であり,本件訂正発明1に含まれるものであっても,毛羽立ちの特性が悪いものがあり,さらに,技術常識に照らしても,発明の詳細な説明の内容を,特許請求の範囲に記載された範囲について,一般化することができない。
そうすると,本件訂正発明1は,特許法36条6項1号の要件を満たさないものということができ,このことをいう審決に誤りはない。
()原告は,甲31実験及び甲32実験の結果を提出するが,一定の条件下10において明細書の発明の詳細な説明に記載されているのと同様の効果を奏しているとしても,それを直ちに,特許請求の範囲に記載されている発明に一般化することはできず,本件については,技術常識や原告が主張する本件訂正発明1の効果が生ずる原理によっては,上記の一般化をすることはできない。また,発明の詳細な説明とは異なる結果を示す乙1実験及び甲12実験について,原告は実験として不適切である旨主張するのであるが,上記( )及び( )のとおり,これらの実験が発明の67詳細な説明の記載を特許請求の範囲に記載されている発明に一般化することはできないことを指摘する実験として不適切であるとは認められず,原告の主張は,採用できない。
3以上によれば,原告主張の取消事由2は理由がないから,原告の請求は棄却を免れない。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明