審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成20ネ971商標権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 商標 |
平成11ネ1464不正競争侵害差止等請求・商標権侵害差止請求・商標権侵害差止等請求各控訴事件 | 判例 | 商標 |
平成15ワ11200商標権侵害差止等請求事件 | 判例 | 商標 |
平成9ワ8480損害賠償請求事件 平成9ワ10564商標権侵害差止等請求事件 | 判例 | 商標 |
平成11ワ6024損害賠償請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 識別力 / 包装 / 指定商品 / 顧客吸引力(グッドウィル) / 損害額 / 使用料相当額 / 通常使用権 / 専用使用権 / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 国内 / 警告 / 差止 / 信用回復措置 / 並行輸入 / 有名ブランド / 利益額 / |
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事件 |
平成
19年
(ワ)
4692号
商標権侵害差止等請求事件
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原告ダックスシンプソングループ パブリックリミテッドカンパニー (DAKS SIMPSON GROUP PUBLIC LIMITED COMPANY) 原告三共生興株式会社 原告ら訴訟代理人弁護士金井美智子 重冨貴光 山浦美卯 被告STEILAR C.K.M株式会社 訴訟代理人弁護士宮岡孝之 二宮麻里子 南淵聡 訴訟復代理人弁護士鈴木健三 迫野馨恵 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2008/03/11 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1被告は,別紙標章目録記載1ないし4の標章をベルト若しくはベルトの包装に付し,又はこれらの標章を付したベルトを輸入し,販売してはならない。 2被告は,別紙標章目録記載1ないし4の標章を付したベルトを廃棄せよ。 3被告は,原告らに対し,別紙謝罪広告目録記載1の謝罪広告を,同目2録記載2の要領で,同目録記載3の各新聞に掲載せよ。 4被告は,原告ダックスシンプソングループパブリックリミテッドカンパニーに対し,4万6319円及びこれに対する平成19年5月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5被告は,原告三共生興株式会社に対し,36万3553円及び内金4万6319円に対する平成19年5月3日から,内金31万7234円に対する平成19年12月2日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 6被告は,原告らに対し,250万円及びこれに対する平成19年5月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 7原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 8訴訟費用は,これを2分し,その1を原告らの,その余を被告の各負担とする。 9この判決の第1項,第4項ないし第6項は,仮に執行することができる。 10原告ダックスシンプソングループパブリックリミテッドカンパニーに対し,控訴のための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求1主文第1項ないし第3項と同旨2被告は,原告三共生興株式会社に対し,金47万9871円及びこれに対する平成19年12月2日(訴えの変更申立書送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3被告は,原告ら各自に対し,金1億6500万円及びこれに対する平成19年5月3日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3第2事案の概要等本件は,後記の本件商標権?@,?Aを有する原告ダックスシンプソングループパブリックリミテッドカンパニー及び同原告とライセンス契約を締結し,本件商標権?@について専用使用権を,本件商標権?Aについて独占的通常使用権をそれぞれ有する原告三共生興株式会社が,後記標章を付した「英国王室御用達DAKS社リバーシブルベルト」と称するベルトを韓国より輸入し,販売している被告に対し,上記ベルトの輸入・販売は原告らの有する本件商標権?@,?A及び上記専用使用権等を侵害するとして,商標法36条1項,2項,37条1号に基づき,これらの標章をベルト等に付し,又はこれらの標章を付したベルト等の輸入及び販売の差止め並びにこれらの標章を付したベルトの廃棄を求め,併せて同法39条により準用される特許法106条に基づき,信用回復措置請求として請求の趣旨第3項記載の謝罪広告を求めるとともに,本件商標権?@,?A及びその専用使用権等を侵害した不法行為に基づく損害賠償として1億6500万円(原告らの商標権等侵害による損害5000万円,信用毀損による損害1億円及び弁護士費用相当の損害1500万円)及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,原告三共生興株式会社が被告に対し,訴外プレリーシミズ株式会社から譲り受けた損害賠償請求権に係る財産上の損害47万9871円及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1前提事実(証拠を掲記したもの以外,当事者間に争いがない )。 (1)当事者ア原告ダックスシンプソングループパブリックリミテッドカンパニー(以下「原告ダックス」という )は,世界各国においてDAKS 。 関連商標に係る商標権を有している英国法人である。 イ原告三共生興株式会社(以下「原告三共生興」という )は,繊維製品 。 等の貿易業,売買業,仲立業,代理業及び製造加工業等を目的とする株式4会社であり,原告ダックスとの間でDAKS関連商標のうち日本における商標(後に定義する本件商標を含む )の使用についてライセンス契約を 。 締結し,DAKSブランド(以下「ダックスブランド」という「DA。),KSE1」ブランド等のブランドを取り扱っている。 ウ被告は,カタログ通信販売並びに生活情報の収集及び提供に関する業務等を目的とし,JASDAQに上場する株式会社であり(甲4の1 ,)「夢見つけ隊コレクション」と称するカタログ(以下「被告カタログ」という )を利用して通信販売を行うとともに 「夢隊WEB」と称するウ 。 ,ェブサイト(以下「被告ウェブサイト」という )を立ち上げ,同ウェブ 。 サイトにおいても商品を販売している。 (2)原告ダックスの権利原告ダックスは,下記の各商標権(以下,下記?@の商標権を「本件商標権?@」といい,下記?Aの商標権を「本件商標権?A」という。また,本件商標権?@,同?Aに係る登録商標をそれぞれ「本件商標?@ 「本件商標?A」といい, 」併せて「本件商標」という )を有する。。 記?@出願年月日昭和52年7月15日登録年月日昭和56年10月30日登 録 番 号第1484397号商 品 区 分第14類,第18類,第25類指 定 商 品第14類身飾品,貴金属製のがま口及び財布,宝玉及びその模造品,貴金属製コンパクト第18類かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ第25類ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト登 録 商 標別紙商標目録記載1のとおり5?A出願年月日昭和52年7月7日登録年月日昭和61年1月24日登 録 番 号第1834425号商 品 区 分第21類指 定 商 品装身具,ボタン類,かばん類,袋物,宝石及びその模造品,造花,化粧用具登 録 商 標別紙商標目録記載2のとおり(3)原告三共生興の権利原告三共生興は,原告ダックスから本件商標権?@の専用使用権の設定を受けており,また,1991年(平成3年)に原告ダックスを買収・子会社化し,同原告とライセンス契約を締結して,本件商標権?Aの独占的通常使用権を有している(甲2,42,弁論の全趣旨 。)(4)被告の行為ア被告は,別紙標章目録記載1ないし4の標章(以下「被告標章1」ないし「被告標章4」といい,併せて「被告標章」という )を付したベルト 。 (以下「本件商品」という )を韓国から輸入し,これを「英国王室御用 。 達DAKS社リバーシブルベルト」と称し,被告カタログを利用して通信販売するとともに,被告ウェブサイトにおいても販売していた。そして,被告は,被告カタログ及び被告ウェブサイトにおいて,本件商品について「英国王室も愛用する一流ブランド『ダックス』から,ゴルファーのためのベルトが登場 」と説明するとともに 「DAKS社 (原告ダックス) 。,」の会社説明を記載している。 イ本件商品は,本件商標権?@の指定商品であるベルトに含まれ,本件商標権?Aの指定商品である装身具に含まれる。なお,本件商標権?Aの指定商品の区分は,昭和34年の商標法によるものであり,装身具の中にベルトが含まれる(同法6条1項,商標法施行令1条,商標法施行規則3条,別6表 。)ウ本件商品には,以下のとおり,本件商標と外観,称呼及び観念が同一又は類似の標章が付されている。 ?@本件商品のバックル部分に,本件商標?@,?Aと外観,称呼及び観念が)。 それぞれ同一又は類似の被告標章1及び2が付されている(甲9の1?A本件商品のバックル部分の裏側の時計に,本件商標?@,?Aと外観,称呼及び観念が同一又は類似の被告標章3及び4が付されている(甲9の2 。)?B本件商品のベルトループを固定する金具に,本件商標?Aと外観,称呼及び観念が同一又は類似の被告標章4が付されている(甲9の3 。)?C本件商品のベルト部分に,本件商標?Aと外観,称呼及び観念が同一又は類似の被告標章4が付されている(甲9の4 。)?D本件商品のタグに,本件商標?@,?Aと外観,称呼及び観念がそれぞれ同一又は類似の被告標章1及び2が付されている(甲9の5 。)エ被告による本件商品の販売数は少なくとも95個であり,その利益の額(販売価格から仕入価格を控除した額)は少なくとも47万9871円である(被告がこれを超える本件商品を販売し,これを超える額の利益を得たか否かについては争いがある。。)(5)債権譲渡とその通知ア訴外プレリーシミズ株式会社(以下「プレリーシミズ」という )は,。 本件商標?@に関する独占的通常使用権及び本件商標?Aに関する独占的通常再使用権を有し(弁論の全趣旨。以下,両使用権を総称して「本件独占的通常使用権」という,我が国ではプレリーシミズのみが本件商標?@, 。)?Aを使用したベルトを製造販売している。 イプレリーシミズは,平成19年11月21日,原告三共生興との間で,プレリーシミズが本件独占的通常使用権を有する本件商標権?@,?Aを被告7が侵害したことにより発生した本件商標権侵害に基づく損害賠償請求権(以下「本件譲渡対象債権」という )を原告三共生興に譲渡することを 。 約する旨の債権譲渡契約を締結し,同日,本件譲渡対象債権を原告三共生興に譲渡し(甲50 ,平成19年11月22日,その旨を被告に内容証 )明郵便で通知した。 2争点(1)商標権等侵害による財産上の損害の額(2)信用毀損による無形損害の額(3)謝罪広告の要否3争点に関する当事者の主張(1)争点(1)(商標権等侵害による財産上の損害の額)【原告の主張】アプレリーシミズの被告に対する損害賠償請求権(ア)被告による本件商品の販売は,プレリーシミズが有する本件独占的通常使用権を侵害する行為である。 本件において,被告による本件商品の販売数は相当数に及ぶものと思われるところ,同販売によりプレリーシミズは多額の財産上の損害を被ったものであって,その損害額は5000万円を下らない。したがって,プレリーシミズは,被告に対して,本件独占的通常使用権侵害に基づく損害賠償請求として少なくとも5000万円の請求をすることができる。 もっとも,仮に,被告が主張するように,本件商品の販売数が95個であり,その利益の額が47万9871円であれば,プレリーシミズは,被告による本件商品の販売により得た利益額47万9871円から原告三共生興に支払うべき実施料相当額を控除した金額に相当する損害を被ったものであり(商標法38条2項の類推適用 ,被告に対して,上記 )金額につき本件独占的通常使用権侵害に基づく損害賠償請求をすること8ができる。 (イ)プレリーシミズは,平成19年11月21日,原告三共生興との間で,本件譲渡対象債権を原告三共生興に譲渡する旨の債権譲渡契約を締結し,同日,本件譲渡対象債権を原告三共生興に譲渡し,平成19年11月22日,その旨を被告に内容証明郵便で通知した。 (ウ)したがって,原告三共生興は,被告に対して,本件譲渡対象債権5000万円の一部である47万9871円及びこれに対する平成19年11月29日付訴えの変更申立書送達の日の翌日(平成19年12月2日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求権がある。 イ原告らの被告に対する損害賠償請求仮に,被告主張のとおり,本件商品の販売数が95個,その売上高が92万6371円であれば,原告らは,被告による本件商品の販売により,財産上の損害として,本件商品の95個の販売に対する本件商標の使用料相当額の損害を被ったといえる(商標法38条3項 。そして,後記のと )おり,本件商標が著名であり,極めて高い自他識別力・顧客誘引力を有していることからすれば,本件商標の使用料率は10%を下らない。したがって,原告らは,本件商標権に基づく使用料相当額の損害賠償請求として,少なくとも9万2637円の支払請求権を有する。 【被告の主張】ア原告の主張事実中,被告による本件商品の販売数が95個であり,その売上高が92万6371円,これにより被告の得た利益の額が47万9871円であることは認め,その余は不知ないし否認する。原告は,本件商標権の使用料率が10%である旨主張するが,その根拠は全く明らかでない。 また,被告の元にプレリーシミズから,同社が被告に対して有する債権9を原告三共生興に譲渡した旨の内容証明郵便が到達したことは認め,その余は不知。しかし,同通知では債権額が全く特定されていないので,債権譲渡の通知としては意味がない。 イ被告は,訴外オードリー株式会社(以下「オードリー」という )との。 間で,平成18年5月11日,商品販売基本契約を締結し,同契約に基づき,同年6月16日,本件商品を通信販売媒体に掲載し販売を開始した。 なお,オードリーからの最初の商品入荷は同月20日である。 被告は,オードリーより,本件商品が韓国内において製造・販売する権利を有するスリーセブン社製であること,商品販売に際しては,オードリーの担当者が直接韓国に赴き,商品のライセンス証を確認し,製造を行っている工場へも行き,輸入業者を経由しての並行輸入品であるとの説明を受けていた。そのため,本件商品の販売を決定したのである。 ウ被告は,平成18年6月20日から原告からの通知書(甲14)を受領した同年10月24日までの間に,オードリーから110個の商品を単価4700円で入荷し,5個の商品をオードリーに返品していた(乙1 。)なお,被告は,平成18年11月4日に5個商品を入荷しているが,同商品については,社内連絡がうまくいかずに原告からの通知受領後に顧客からの注文に応じて発注されたものである。しかし,顧客に対して販売は行わず,平成19年2月にオードリーに返品している。そして,同時期までの本件商品の販売個数は95個(販売97個,返品2個)であった(乙2 。小売価格が5869円から1万0100円とばらついているのは, )会員割引その他の割引制度を使用したか否かによる。その後,被告は,本件商品のカタログ等への掲載及び販売を中止し(甲12 ,平成19年2 )月15日には在庫として保有していた10個の商品をオードリーに返品している(乙1 。)エ以上のとおり,被告が販売した本件商品の実数は95個であり,販売価10格と仕入れ価格の差額は47万9871円である。なお,同利益を得るために要したカタログ掲載費等の販売促進費用は約15万円である。 (2)争点(2)(信用毀損による無形損害の額)【原告の主張】アはじめに原告ダックスの商品は,伝統と信頼のあるブランドとして英国王室御用達に指名され,1956年にエジンバラ公,1962年にエリザベス女王,1982年にチャールズ皇太子のロイヤル・ウォラントを授与され,現在3つの紋章を揚げることを許されている。このように,ダックスブランドは,世界的にも,また,我が国においても,高級ブランドとして評価されており,その商標の社会的信用力は極めて高い。原告らは,かかるダックスブランドイメージを維持するために,本件商標権を適切に管理するとともに,本件商標等の名称が付されたダックスブランドの商品の品質管理に多大な労力を費やしており,また,多額の費用をかけて広告等を行ってきた。このように,かかる評価及び社会的信用力は,原告らの長年にわたる不断の努力により得られたものである。しかるに,本件商品のように,極めて品質の劣る商品が販売され,また,販売されていることが多くの一般消費者の目に触れたことによって,高級ブランドであるダックスブランドのイメージが著しく毀損されたものであり,被告の侵害行為は,高級ブランドであるとの評価を得るためになされた原告らの弛みない努力を踏みにじるものであった。かかる信用毀損により原告らが被った損害は,経済的損害の賠償だけでは到底回復し得ない甚大な損害であって,その信用毀損による損害を評価すると,金1億円を下らない。以下詳述する。 イダックスブランドの有する信用力等についてダックスブランドは,世界を代表する高級ブランドであり,我が国においても,その売上が520億円と,バーバリー,ラルフローレンに次いで11第3位の売上高を誇る著名なブランドである。 原告三共生興は,かかるダックスブランドが有する高級ブランドとしてのイメージを維持・向上すべく,我が国のダックスブランドのマスターライセンシーとして,ダックスブランド商品のデザイン,品質及び包装等を厳しく管理してきた。具体的には,原告三共生興は,サブライセンシーがダックス関連商標を付した商品を製造・販売し,また,その商品の包装等を決定するに当たって,原告三共生興の事前承認を必ず得ることをサブライセンシーに要求している。 また,原告三共生興は,ダックスブランドのイメージを維持するだけではなく,ブランドイメージの向上及びブランド品の販売促進のために,テレビCM放映,新聞・雑誌等広告,様々なキャンペーン,総合カタログの制作,ダックスブランド110周年を記念した百貨店フェア等を莫大な金額を費やして実施し,さらに,ダックスブランド保護のために,ダックスブランド偽物製品の製造・販売排除のため,警告広告を掲載するなどしている。 以上のとおり,ダックスブランドは,我が国においても世界的な高級ブランドとして評価が確立しており,かかる評価の取得,維持,更なる向上等のために,原告らは多大なる時間と費用を投下している。 ウ被告によるダックスブランドの信用毀損(ア)本件商品の品質が極めて劣悪であることについて前記アのとおり,ダックスブランドは,我が国においても,世界的な高級ブランドとして評価を受けている。しかるに,被告が販売した本件商品は,以下のとおり,極めて劣悪であって,著しく廉価販売されたものであり,ダックスブランドに係る商標が有する信用を大きく損なうものである。 また,本件商品に付いているDAKS商標を付した紙製の下げ札(甲129の5)及び本件商品が入っていた紙箱(甲21)は,真正の下げ札(甲19)及び箱(甲20)と比較すれば,紙に厚みがなく,また,紙質も劣っており,さらに色合いについても,真正品の下げ札及び箱の色が黒色と落ち着いた色合いとなっているのに比べて,高級感が全く感じられない。 (a)本件商品のベルト部分の品質本件商品のベルト部分は,高級ブランドであるダックスブランドのベルト(以下「ダックスブランド・ベルト」という(甲44の1。)〜4)と比較すれば,以下の点からして,その品質が極めて劣ることは一目瞭然である。 ?@ベルトの表面部分の皺本件商品の表面には皺が数多く見えるが(甲45 ,ダックスブ )ランド・ベルトの表面には本件商品のような皺は存在しない(甲4) , 4の2 。この点,我が国の消費者は,商品の外観を極めて重視しベルトの皺を嫌う傾向にあることから,我が国の百貨店はベルトの表面部分に皺がみられるベルトを扱うことはない。そこで,原告らは,ダックスブランド・ベルトに関しては,ダックスブランドの高級感を維持するためにも,その表面に皺ができないよう最大限注意を払っている。 ?A本件商品の素材本件商品のベルト部分の素材は硬いため,本件商品を締めたときに体にフィットしにくい。このように体にフィットしにくい硬い素材を使用したベルトを購入する消費者は少ないことから,ダックスブランド・ベルトは,軟らかい上質の革を使用している。 ?B本件商品のバックルの加工処理バックルの加工処理が雑であれば,クレームを受けやすく,返品13の対象となることから,ダックスブランド・ベルトではバックルの加工処理に最大限配慮している。しかるに,本件商品のバックルの加工処理は,バックルの内側部分が磨かれておらず,凹凸部分が残っているということ(甲46の1,2)からして,きわめて雑である。 ?Cダックスハウスチェックについて本件商品の裏生地のダックスハウスチェックは,ナイロン素材であり,ダックスハウスチェックの色合いがクリアに出ておらず(甲47 ,ダックスブランド・ベルトのダックスハウスチェックと比 )較すると,汚らしい印象を与える。また,本件商品の裏生地の端部分については,単に熱処理を施し,形を整えているにすぎないが,ダックスブランド・ベルトでは,表の革素材で織り込んで形成するといった手の込んだ処理を行っている。 ?Dサイドフリー部分の傷等本件商品のサイドフリーと呼ばれるスライド式の金属部分(ベルトの先端部分を固定するパーツ)の裏面は,メッキが剥れており,傷がついている(甲48 。ダックスブランド・ベルトでは,当該 )部分に傷がつかないように曇り止めをかけているが,本件商品ではそのような処理が施されていないことから,前記のような傷がついたといえる。 (イ)本件商品の時計部分の品質について被告は,被告カタログ及び被告ウェブサイトにおいて,本件商品の時計はスイス製であると記載しているが,本件商品の時計を分解すると 「HONG KOGN MODULE INC」の刻印があること ,が分かり,本件商品の時計がスイス製ではないことが判明した。 また,訴外オリエント時計株式会社(以下「オリエント時計」とい14う )は,本件商品と同種の時計付ベルト(以下「本時計付ベルト」 。 という )を販売している。オリエント時計は,本時計付ベルトの 。 バックルの内側部分を滑らかに磨き上げているが,本件商品のバックルの内側部分は,凹凸の跡が残っている(甲46の1,2 。なお, )このようにバックルの内側部分に凹凸があるものは,コピー商品によく見られる特徴である。 さらに,本時計付ベルトは (?T)黄銅ケースがパラジウム3ミク ,ロンメッキ又は22K3ミクロンメッキ (?U)バックル面がサファ ,イアガラス (?V)文字盤面がクリスタルガラス (?W)日常生活用 , ,防水の処理済等,高級ブランドとしてのダックスブランド商品として相応しい品質を備えており,そのため,販売価格も5万2500円から5万5650円(いずれも税込価格)と本件商品の5倍以上となっている。 (ウ)以上のとおり,本件商品は,ベルト部分及び時計部分のいずれの点をもっても,一見して極めて劣悪であり,ダックスブランド・ベルトと対比しても高級ブランドとしての品質を到底備えるものではないことが明白である。 エ本件商品がダックスブランド商品として多くの一般消費者に対して大々的に紹介されたこと被告は,被告カタログ及び被告ウェブサイトのほか 「人こと発見」 ,及び「道具の学校」と称するカタログ並びに「道具の學校」と称するダイレクトメールを利用して,本件商品を販売していた。JASDAQに上場し,それ相応の社会的立場を有する被告が本件商品のように極めて品質の劣る侵害品をダックス商品として大々的に販売すれば,これによるダックスブランドの信用が毀損される程度は大きい。また,実際の販売数が仮に被告が主張するように95個であったとしても,被告のカタ15ログ通信販売の会員数が120万人にも及び,また,本件商品が被告ウェブサイトでも販売されていたという販売態様を考慮すれば,本件商品の存在が極めて多くの一般消費者の目に触れたことは明らかである。さらに,本件商品が「英国王室御用達DAKS社リバーシブルベルト」と称されていることから,多くの一般消費者は,品質の劣悪な本件商品がダックスブランドとして販売されていることを明確に認識したものといえ,これにより原告らが被ったダックスブランドの社会的信用が毀損された程度は極めて大きい。このような事情を勘案すると,仮に本件商品の販売数量が被告が主張するように95個にとどまったとしても,原告らが保持するダックスブランドの信用力が著しく損なわれたことに変わりはない。 オ被告が,取引開始当初から,本件商品がダックスブランド商品でないことを容易に認識し得たにもかかわらず,本件商品を販売するに至ったこと(商標権侵害行為に向けられた被告の態度)(ア)前記ウ記載のとおり,本件商品が,ベルト部分及び時計部分のいずれの点をもっても,一見して高級ブランドとしての品質を到底備えるものではなく,本件商品の販売価格が,並行輸入品とはいえ,本時計付ベルトの販売価格の5分の1未満と著しく廉価であることに加え,本件商品の取引開始に当たって,オードリーから被告に提出された商品掲載申込書(乙7)では,極めて杜撰なイラスト等が記載されており,高級ブランド商品であるダックスブランド商品の説明書とは到底思えず,また,同申込書に添付された「DAK’S時計付きリバーシブルベルト取扱説明書」では 「DAKS」ではなく「DAK’ ,S」と記載されていることからも,被告は,本件商品がダックスブランドの商品でないことを容易に認識し得たことは明らかである。 (イ)また,被告は,オードリーとの平成18年5月11日付「商品販16売基本契約書(短期(乙3)締結にあたって提出された「商品掲 )」載申込書 (乙7。同契約第1条等参照)に記載された製造メーカー 」名が訴外ミストラルであり,また,国内総輸入元名が訴外ジャスペルであることは,原告らからの求釈明の申立てによって初めて知ったと回答した。しかし,ダックスブランド等の著名ブランドの並行輸入品を取り扱うにあたっては,同商品が真正品であるか否かを検討するために,製造メーカー及び国内総輸入元を確認することは極めて重要な事項であり,JASDAQに上場して公開企業としての社会的立場を有し,コンプライアンスを遵守すべき被告としては,同確認は必須の事項といえる。故に,被告が取引の開始にあたって取引先に対して提出を要求する「商品掲載申込書」には,製造メーカー名及び国内総輸入元名の記載欄が設けられているはずである。したがって,被告が,オードリーから提出された「商品掲載申込書」記載の製造メーカー名及び国内総輸入元名を確認していないということは考え難い。このように,被告がオードリーから複数の書類の提出を要請し,かかる要請に従って提出された「商品掲載申込書」の製造メーカー名及び国内総輸入元名に関する不自然な記載があることに加えて,上記(ア)の事情をも考慮すれば,被告は,本件商品がダックスブランド商品でないことを容易に認識し得たにもかかわらず(少なくとも未必の故意を有することは明らかである,本件商品をダックスブランド商品として 。)購入し,大々的に販売したものであり,かかる行為は極めて悪質である。このように,当該商品が並行輸入品でないことを容易に認識し得たにもかかわらず,被告は,仕入先に対して商標権侵害品を輸入しないよう制止するどころか,自ら有する販売網を利用して積極的に販売活動を展開しようとしたものであって,このような遵法意識が欠如した被告の態度は,前述したとおり,JASDAQに上場して公開企業17としての社会的立場を有し,コンプライアンスを実践すべき企業の属性に著しく背理する。 カ本件商品販売後の被告の対応による原告らの信用毀損被告は,原告三共生興との交渉過程において,並行輸入の主張を撤回し,本件商品の販売数量・販売価格等を開示すると約していた。しかし,その後,被告は,何ら合理的な理由を述べることなく,本件商品の販売数量・販売価格等の開示を拒否し,本件商品の販売数量・販売価格等については訴訟が提起されなければ,開示しないとの態度を示した。 以上の次第で,原告らは本件訴訟を提起するに至ったが,被告は,本件訴訟の提起を受け,平成19年5月7日 「原告の主張とは見解の相 ,違があり,当社の販売行為は原告の主張する商標権の侵害には当たらないものと考えております 」とのリリースを行い(甲41の1 ,本件 。 )商品が侵害品ではないとの見解を対外的に示した。このようなリリースは,投資家を含む第三者に対して,自らの侵害行為につき謝意を表するどころか,本件商品がダックスブランドの真正品であるかのような印象を与えるとともに,むしろ原告らが虚偽ないし不当な主張を行っているかのような説明ぶりである。このような上記被告のリリース自体,投資家を含む第三者に対し,原告らの商標権侵害に関する主張について大きな誤解を招くものであって,これにより原告らの信用はさらに毀損されている。更に,被告は,本件訴訟提起前において,上記のとおり,並行輸入の主張は撤回すると述べており,また,本件訴訟においても,判例(最判平成15年2月27日民集57巻2号125頁)が示す並行輸入の抗弁の要件を何ら主張していないことから明らかなように,被告自身も,並行輸入の抗弁が成り立たないことを十分に認識しながら,上記のようなリリースを行っている。かかる被告の対応は不誠実極まりなく,悪質とさえいえる。なお,被告は,他の訴訟(東京地判平成18年1218月26日判時1963号143頁)においても,本件訴訟と同様に,並行輸入の抗弁を形式的には主張するものの,その要件該当性については何ら具体的な主張を行っておらず,同訴訟において,並行輸入の抗弁が排斥された判決が下されたにもかかわらず控訴を行っていないことを付言する。 キ結論以上のとおり,本件商品の販売によって,原告らの弛みない努力の結果得られたダックスブランドの世界的な高級ブランドとしてのイメージは大きく毀損され,原告らの信用は著しく毀損された。かかる信用毀損による損害は少なくとも1億円を下らない。 【被告の主張】原告が,原告の主張する信用毀損による損害を被ったことは否認する。 ただし,上記【原告の主張】アのうち,原告がダックスブランドの広告等を行ったこと,同イのうち,原告が警告広告を行ったこと,同エのうち,被告の会員が120万人程度であること,ウェブサイトでも販売をしていること,被告が本件商品に「英国王室御用達DAKS社リバーシブルベルト」と表示したこと,同カのうち,被告が原告らに対し販売数量等を開示しなかったこと,被告が平成19年5月7日に原告の主張するリリースを行ったこと,被告が並行輸入の抗弁を行わず,本件訴訟においても同抗弁を主張していないことは認める。 (3)争点(3)(謝罪広告の要否)【原告の主張】前記(2)【原告の主張】記載の被告による侵害行為の態様に加えて,本件商品がダックスブランドの商品である(本件商標権の侵害品ではない)とのリリース(甲41の1)を被告が行ったこと等をも加味すれば,本件商品の販売によって著しく毀損された原告らの業務上の信用を回復するためには,19被告に侵害行為を明確に認めさせて謝罪をさせるべく,別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を掲載させる必要がある。 【被告の主張】争う。 第3当裁判所の判断上記前提事実のとおり,本件商品は,本件商標権?@の指定商品であるベルトに,本件商標権?Aの指定商品である装身具にそれぞれ含まれるところ,被告標章1及び3はいずれも本件商標?@と,また,被告標章2及び4はいずれも本件商標?Aと外観,称呼及び観念が同一又は類似であるから,本件商品のバックル部分,バックル部分の裏側の時計,ベルトループを固定する金具,ベルト部分及びタグに被告標章を付し,また,被告標章を付した本件商品を輸入し,販売した被告の行為は,原告ダックスの本件商標権?@,?A,原告三共生興の本件商標の専用使用権及びプレリーシミズの本件独占的通常使用権をそれぞれ侵害する。したがって,原告ら(ただし,被告標章2,4については原告ダックスのみ)は,被告に対し,本件商標権及び専用使用権に基づき,被告標章をベルト等に付し,又はこれらの標章を付したベルト等の輸入及び販売の差止め並びにこれらの標章を付したベルトの廃棄を求めることができる。そこで,原告ら及びプレリーシミズが受けた損害及び信用回復措置の要否について,以下の各争点ごとに判断する。 1争点(1)(商標権等侵害による財産上の損害の額)について(1)プレリーシミズの受けた損害についてアプレリーシミズは,本件商標に関する本件独占的通常使用権を有し,我が国ではプレリーシミズのみが本件商標を使用したベルトを製造販売しているものである。したがって,被告の上記行為によりプレリーシミズの有する本件独占的通常使用権が侵害されたことになる。そして,少なくとも被告による本件商品の販売数が95個であり,その売上高が92万637201円,被告の得た利益の額(販売価格から仕入価格を控除した粗利益の額)が47万9871円であることは当事者間に争いがない。その上で原告らは,被告による本件商品の販売数は相当数に及び,同販売によりプレリーシミズは多額の財産上の損害を被ったものであって,その損害額は5000万円を下らない旨主張する。原告らの上記主張は,本件商品の販売により被告の得た利益が5000万円を下らず,同利益の額がプレリーシミズの受けた損害の額と推定されるとの主張を含むものと解される。しか), し,被告が95個を超えて本件商品を販売し(売上高92万6371円これにより47万9871円を超える利益(粗利益)を得たと認めるに足りる証拠はない。 被告は,上記利益を上げるために要したカタログ掲載費等の販売促進費に約15万円を要した旨主張する。被告の主張するように,本件商品を販売するために被告が追加的費用の支出を余儀なくされた場合には,これを上記利益の額から控除する必要がある。そして,確かに,証拠(甲10,11,乙4,5)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,被告カタログ及び被告ウェブサイトその他に本件商品を掲載して,本件商品に関する宣伝広告活動をしたことが認められ,被告が上記利益を上げるためにいくばくかの追加的費用を支出していることはうかがえる。しかし,被告は,上記追加的費用の額を具体的に算定し得る的確な証拠を提出しておらず,その金額を的確に算定することはできない。そこで,上記証拠及び弁論の全趣旨に照らし,被告が本件商品の販売のため追加的に支出した費用の額を7万円として,これに本件商標の使用について原告らに支払うべき使用料を合わせた額を上記粗利益の額から控除した後の金額をもって,原告の受けた損害額と推定すべき被告の得た利益の額と認めるのが相当である(商標法38条2項類推適用 。そして本件商標の使用について原告らに支払うべ )き使用料について検討するに,後記2で判示するとおり,本件商標を含む21ダックスブランドは強い顧客吸引力を有するものと認められること等を考慮すると,その使用料率は売上高の10%とするのが相当である。被告による本件商品の売上高は92万6371円であるから,プレリーシミズが原告らに支払うべき使用料は9万2637円(小数点以下四捨五入)となる。よって,原告の受けた損害額と推定すべき被告の得た利益の額は,上記粗利益47万9871円から,7万円と9万2637円の合計16万2637円を控除した後の金額である31万7234円となる。 他に,後記2の信用毀損による無形損害は別として,プレリーシミズが被告の本件独占的通常使用権侵害行為により上記金額を超える損害を受けたと認めるに足りる証拠はない。 イなお,証拠(乙1ないし3,5,6の1〜5)によれば,被告は,平成18年6月20日から原告からの通知書(甲14)を受領した同年10月24日までの間に,オードリーから合計105個の本件商品を単価4700円で入荷し,5個の商品をオードリーに返品したこと,その後,被告は,同年11月4日に本件商品5個入荷しているが平成19年2月にオードリーに10個返品し,結局,本件商品の入荷数量は95個(仕入金額44万6500円)であったこと,被告は,本件商品を顧客に95個販売(売上高92万6371円)したが,これを超える数量の本件商品を販売しなかったことが認められ,この事実を左右する証拠はない。被告が本件訴訟前の交渉において,本件商品の販売数量等の開示を拒否したなど原告ら主張の事情は,これをもって被告が上記金額を超える売上げを得たと推認するに足りるものとすることはできず,上記アの判断を左右するものではない。 ウ債権譲渡について(ア)以上のとおり,プレリーシミズは,被告の得た利益の額である31万7234円と同額の損害を被ったことが推定される。したがって,プ22レリーシミズは,被告に対し,同額の損害賠償請求権(本件譲渡対象債権)を有することになる。 (イ)前記前提事実のとおり,プレリーシミズは,平成19年11月21日,原告三共生興との間で,本件譲渡対象債権を原告三共生興に譲渡することを約した債権譲渡契約を締結し,同日,本件譲渡対象債権を原告三共生興に譲渡し(甲50 ,平成19年11月22日,その旨を被告 )に内容証明郵便で通知したものである。 被告は,上記債権譲渡通知には債権額が全く特定されていないので債権譲渡の通知としては意味がない旨主張するが,指名債権譲渡の通知は,指名債権の譲渡が譲渡人と譲受人との間の無方式の諾成契約によってなされるため,これに関与しない債務者又は第三者が債権譲渡の事実を知らないために損害を被るおそれがあることから,債務者又は第三者に対する対抗要件として要求されているものであって(民法467条 ,債)務者又は第三者にその債権の同一性が識別することを可能ならしめるものであれば足りるというべきである。これを本件についてみるに,上記債権譲渡通知に係る通知書(甲51の1)には,本件譲渡対象債権の債権者,債務者の表示のほか 「発生原因等」として「プレリーシミズ株 ,式会社が独占的通常使用権を有する下記商標権(以下「本商標権」といいます )をSTEILAR C.K.M株式会社が侵害したことにより発生すべき 。 本商標権侵害に基づく損害賠償請求権」と明示されており,債権額が記載されていない理由として,本件商品の販売数量が不明であることが記載されていることが認められる。上記通知書の以上の記載は,債務者である被告をして本件譲渡対象債権の同一性を識別することを可能ならしめるものというべきであるから,債権額の記載がないからといって,上記債権譲渡通知が,債務者である被告に対する対抗要件として欠けることはないというべきである。 23そうすると,本件譲渡対象債権は,被告との関係で,プレリーシミズから原告三共生興に有効に譲渡されたものといえるから,原告三共生興は,被告に対し,上記損害賠償請求権を有効に取得したことになる。 (2)原告らの受けた損害について原告ダックスは,本件商標権?Aの商標権者として,原告三共生興は,本件商標権?@の専用使用権者として,商標法38条3項又はその類推適用により本件商標の使用により受けるべき金銭の額に相当する損害賠償を請求することができる。上記(1)のとおり,被告による本件商品の販売数は95個であり,その売上高は92万6371円である。そして,本件商標の使用により原告らの受けるべき金銭の額について検討するに,後記2で判示するとおり,本件商標を含むダックスブランドは,強い顧客吸引力を有するものと認められること等を考慮すると,その使用料率は,各原告につきそれぞれ売上高の5%とするのが相当である。そうすると,上記損害額は各原告につきそれぞれ4万6319円(小数点以下四捨五入)となる。 (3)小括以上のとおりであるから,原告らの商標権等侵害による財産上の損害賠償請求は,原告ダックスが被告に対し,民法709条の不法行為に基づき4万6319円の支払を求め,原告三共生興が被告に対し,同じく民法709条の不法行為に基づき4万6319円,プレリーシミズから譲り受けた損害賠償請求権(本件譲渡対象債権)に基づき31万7234円,以上合計36万3553円の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 2争点(2)(信用毀損による無形損害の額)について(1)証拠(甲13,23ないし40[枝番を含む,42)及び弁論の全趣 。]旨によれば,以下の事実が認められる。 アダックスブランドは,シモン・シンプソンが1894年に創業したテーラーを前身とし,1934年に従来の「SIMPSON」ブランドに代わ24って採用された歴史あるブランドであり,英国王室御用達に指名され,1956年にエジンバラ公,1962年にエリザベス女王,1982年にチャールズ皇太子のロイヤル・ウォラント(王室御用達の詔勅)を授与され,現在3つの紋章を揚げることを許されている世界的な高級ブランドとして著名である。 イ原告三共生興は,昭和45年,原告ダックスとの間で,日本におけるマスターライセンス契約を締結し,アイテム別に国内25社(株式会社オンワード樫山〔紳士スーツ等 ,株式会社シャルマン〔眼鏡フレーム , 〕 〕セーラー万年筆株式会社〔万年筆等 ,タイガー魔法瓶株式会社〔保温保 〕冷容器等 ,オリエント時計株式会社〔時計 ,マドラス株式会社〔紳士 〕 〕・婦人靴等〕など)とサブライセンス契約を締結しており,これらの日本企業をサブライセンシーとするダックスブランド商品の日本での売上高は520億円(小売上代ベース)に上り,バーバリー,ラルフローレンに次いで日本で第3位の売上高を誇り,日本においても有数の著名なライセンスブランドになった。なお,原告三共生興は,平成3年に原告ダックスを買収・子会社化した。 ウ原告三共生興は,上記サブライセンシーに対し,サブライセンス契約上,その製造販売するダックスブランド商品(ブランドの下げ札やパッケージを含む。以下同じ )のデザイン,品質について,あらかじめ同原告の承 。 認を受けさせることを義務づけており,同原告の承認のないデザイン,品質の商品が市場に流通しないようにして,ダックスブランドのイメージ維持に努めている。 エ原告三共生興は,ダックスブランドについて,ダックスブランドのイメージを維持,向上させるとともに,ブランド品の販売を促進するため,以下のような宣伝広告活動を行っている。 (ア)テレビCM放映25a放映期間平成16年9月10日から同年10月10日までb放映地区北海道,仙台,東京,名古屋,大阪,広島,福岡,熊本), c放映局フジテレビ系列(上記8地区全部 ,TBS系列(東京大阪,名古屋地区 ,日本テレビ系列 )d放映時間平日10時台から25時台,土日7時台から25時台e放送本数約1550本f放送費用4億2000万円g出演者アダム・クーパー(元イギリス・ロイヤルバレエ団プリンシパル。退団後はフリーのダンサーとして映画「リトルダンサー」に出演したほか,ミュージカル「オン・ユア・トウズ」で注目を集めた )とサラ・ウィルド夫妻 。 (イ)百貨店フェア平成16年10月1日から同月31日まで,全国有名百貨店においてDAKSブランドのフェアを開催した。開催費用は5706万9885円である。なお,上記フェアに併せて,オープン懸賞として「ローバー車DAKSスペシャルバージョンプレゼント」及び「英国4泊6日の旅 ,クローズド懸賞として「ヴァージンアトランティック航空ロンド 」ン往復航空券 「メリー・ソート社ダックスオリジナルテディベア」 」「スタジオ・アンネ・カールトン社ダックスオリジナルチェス」及び「ダックスオリジナル自動巻き腕時計」の当たる懸賞を行い,多くの応募を得た。 (ウ)新聞・雑誌等広告(甲23〜28〔枝番を含む)。〕原告三共生興は,平成16年春から平成19年春夏にかけて,読売新聞全国版,朝日新聞東京・大阪版のカラー全面広告,各種週刊誌の見開き2ページの広告,折込広告,駅ポスター等各種媒体による宣伝広告を行った。その費用総額は2億6826万7945円であった。 26(エ)その他キャンペーン費用等(甲29,30ないし32の各1・2,33ないし40)原告三共生興は,平成17年,同18年に,母の日キャンペーン及び父の日キャンペーンのほか,テディベアキャンペーン(クリスマスシーズンにおけるキャンペーン)を行い,そのツール製作,カタログ撮影,カタログ製作,ツール発送費等を含め,キャンペーン費用総額5791万8159円を支出した。そのほか,ダックスブランドを各シーズンに紹介するための総合カタログを製作し,その製作費用として,総額1億0922万8828円を投じた。 また,原告三共生興は,繊維業界紙である日本繊維新聞に,平成17年3月31日及び平成18年3月30日付けで,ダックスブランド偽物製品の製造販売排除のための警告広告(甲24の3,28の2)を掲載した。 (2)証拠(甲9の1〜6,19ないし21,42,44ないし49[枝番を含む)及び弁論の全趣旨によれば,ダックスブランド・ベルトと本件商 。]品のベルト本体部分及び時計部分とは,以下のとおりの品質上の相違があることが認められる。 ア本件商品のベルト部分の品質(ア)ベルトの表面部分の皺ダックスブランド・ベルト(甲44の2)と対比して,本件商品の表面には皺が数多く見られる(甲45 。)(イ)素材ダックスブランド・ベルトは,着用者の身体にフィットするよう軟らかい上質の革を使用しているのに対し,本件商品のベルト部分の素材は硬く,ダックスブランド・ベルトと対比して本件商品を締めたときに体にフィットしにくい。 27(ウ)本件商品のバックルの加工処理本件商品のバックルの加工処理は,バックルの内側部分が磨かれておらず,凹凸部分が残っており(甲46の1・2 ,ダックスブランド )・ベルトと対比して雑な仕上がりとなっている。 (エ)ダックスハウスチェックについて本件商品の裏生地のダックスハウスチェックは,ナイロン素材であり,ダックスハウスチェックの色合いがクリアに出ておらず(甲47 ,ダックスブランド・ベルトのダックスハウスチェック(甲44の )4)と比較すると,やや不鮮明な印象がある。また,本件商品の裏生地の端部分については,単に熱処理を施し,形を整えているにすぎないが,ダックスブランド・ベルトでは,表の革素材で織り込んで形成するといった手の込んだ処理を行っている。 (オ)サイドフリー部分の傷等本件商品のサイドフリーと呼ばれるスライド式の金属部分(ベルトの先端部分を固定するパーツ)の裏面は,メッキが剥れており,傷がついているものがある(甲48 。)イ本件商品の時計部分の品質についてオリエント時計は,本件商品と同種の本時計付ベルトを販売している(甲49 。オリエント時計は,本時計付ベルトのバックルの内側部分を )滑らかに磨き上げているが,本件商品のバックルの内側部分は,上記認定のとおり,凹凸の跡が残っており(甲46の1・2 ,仕上げが雑であ )る。さらに,本時計付ベルトは,本件商品とは異なり,(?T)黄銅ケースがパラジウム3ミクロンメッキ又は22K3ミクロンメッキ (?U)バッ ,クル面がサファイアガラス (?V)文字盤面がクリスタルガラス (?W) , ,日常生活用防水の処理済等,高級時計としての仕様が施されており,販売価格も5万2500円から5万5650円(いずれも税込価格)と設28定されている。これは,本件商品の価格9975円の5倍以上の価格設定である(甲49 。)ウブランドの下げ札,パッケージ等原告三共生興は,ダックスブランドの商品の高級感を醸成するため,サブライセンシーが使用するダックスブランドの下げ札やパッケージについても,その製造販売の承認条件としているところ,その承認条件に係る下げ札(甲19)は,黒地の角を丸くした長方形様の厚紙に比較的小さな文字で「DAKS 「LONDON」を2段書きにしたシンプルなものであ 」るのに対し,本件商品に付された下げ札(甲9の5)は,ダックスブランドのものとは異なり,黒地の長方形に被告標章1,同2及び「LONDON」の文字が大きく3段書きにされ,これを2重線で取り囲んでいるものであって,紙の厚さや紙質も異なっている。また,ダックスブランドのパッケージ(甲20)は,黒無地の箱の上面に,上記下げ札と同様「DAKS 「LONDON」を2段書きにしたものであるのに対し,本件商品 」のパッケージ(甲21)には,ダックスブランドの表示もされていない。 (3)証拠(甲4の1,10,11,22,乙7,8)及び弁論の全趣旨によれば,被告の広告及び本件商品の販売態様について,以下の事実が認められる。 ア被告は,被告カタログ及び被告ウェブサイトのほか 「人こと発見」及 ,び「道具の学校」と称するカタログ並びに「道具の學校」と称するダイレクトメールを利用して,本件商品を販売していた。被告のカタログ通信販売の会員数は120万人に及んでいる(甲4の1 。)被告は,被告カタログ及び被告ウェブサイトに,本件商品を「英国王室御用達DAKS社リバーシブルベルト」として紹介し 「英国王室も愛 ,用する一流ブランド「ダックス」から,ゴルファーのためのベルトが登場 」などとし 「DAKS社」を「1894年創業。伸縮自在な高級品 。,29質素材,鮮やかな色使いなどが紳士ファッション界に大革命をもたらす。 英国の王室御用達に指名され,現在3つの紋章をあげることを許されている 」と掲載し,いずれも本件商品をダックスブランドの正規品として広 。 告し,購入を勧誘した。その販売価格は9975円(税込価格)であった。 イ本件商品に同梱されている取扱説明書(甲22)には,本件商品を「DAK’S時計付きリバーシブルベルト」と表示し,正しくは「DAKS」であるダックスブランドを「DAK’S」と表示していた。これは,オードリーから被告に提出された商品掲載申込書に添付された取扱説明書(乙7)と同内容のものを使用したものである。 , (4)さらに,証拠(甲10ないし12,14の1〜4,15の1・2,1617の1・2,18,41の1・2,43,乙3,7)によれば,以下の事実が認められる。 ア被告は,平成18年5月11日,オードリーとの間で商品販売基本契約を締結し,同契約に基づき,同年6月16日,本件商品を通信販売媒体に掲載し,販売を開始した(オードリーからの最初の商品入荷は同月20日 。その際,オードリーから交付された商品掲載申込書(乙7)には, )本件商品の「原産国」欄に「韓国」と 「メーカー名」欄に「ジャスペル ,社」と 「国内総輸入元」欄に「?潟~ストラル」との記載があった。 ,イ原告三共生興は,本件商標権等を侵害する本件商品が被告により輸入・販売されていることを把握し,代理人弁護士を通じ,平成18年10月23日付け内容証明郵便で,被告に対し,本件商標を付した本件商品の販売は同原告の有する本件商標に関する専用使用権等を侵害するので,本件商品の輸入及び販売を即刻中止し,市場に流通している本件商品を回収して在庫品とともに同原告に無償で引き渡すこと及び5000万円の損害賠償,謝罪広告,生産数量又は輸入数量,販売数量,販売価格,利益額の開示等を求めた。これに対し被告は,同月30日付けの書面で,本件商品の仕入30れ経緯(本件商品は,韓国で販売ライセンスを有するTHREESEVEN(スリー・セブン)社が製造し,韓国の業者であるZESPELCO,HDに販売しているものであり,オードリーが同社から並行輸入し,被告が買い受けた旨)を説明するとともに,被告としては本件商品の販売は本件商標を使用するにつき正当な権限を有していると考えるが,現時点では本件商品の販売を中止し,本件商品の被告カタログ等への掲載を見合わせるとの回答を寄せた。 ウ原告三共生興は,代理人弁護士を通じ,平成18年11月14日付け内容証明郵便で,被告のいう「THREESEVEN社」等を調査したところ,指定商品をベルトとして本件商標を使用する権限を有するサブライセンシーではないなどと通知した。これに対し被告は,同月30日付けの書面で,改めて仕入れ経緯を明らかにするとともに,調査の結果,並行輸入の抗弁が成り立ち得ないなどの状況になるようであれば,原告三共生興との間で誠意ある対応をしたい旨回答した。 エ原告三共生興は,代理人弁護士を通じ,平成18年12月11日付け内容証明郵便で,改めて本件商品の回収等,損害賠償,謝罪広告及び販売数量等の開示を求めた。その後,被告は,代理人弁護士を選任し,同原告代理人との間で交渉を続けたが,その間,並行輸入の抗弁は取りやめることにしたものの,販売数量等の開示は訴訟提起がされない限り応じられないとの態度を明らかにした。そこで,原告らは,平成19年4月23日,被告に対し,本件訴訟を提起した。 オ被告は,本件訴訟の提起を受けて,平成19年5月7日付けで,JASDAQの投資関係者に対し,リリース文を発表したが,その中の「今後の見通し」の欄に「当社といたしましては,当該商品を当社が販売することについて,原告の主張とは見解の相違があり,当社の販売行為は原告の主張する商標権の侵害には当たらないものと考えております。また,損害賠31償請求につきましても,同様の理由から根拠のないものとして裁判では当社の正当性を主張し争っていく方針です 」と記載した。また,被告は, 。 翌8日付けで同様にリリースの追加発表を行い,その中で「原告の請求に対する当社の見解といたしましては,当該商品は当社製造の商品ではなく,あくまでも通信販売業者として,多数の商品仕入業者の一社より提案を受け通信販売媒体に載せ販売を行った雑貨のうちの一つであることから,当社が原告の有する社会的信頼を害したという原告主張の事実への寄与度は低いものであると認識しております。また,販売期間も短期であり実際の当該商品販売数量は100個前後で売上金額としては1,000,000円程度であり,販売金額から考慮しても原告へ与えた影響・侵害の程度は軽微なものであると考えております 」と記載した。 。 (5)そこで,上記(1)ないし(4)で認定した事実に基づき,被告による本件商品の輸入・販売行為により,原告が信用毀損等の無形損害を被ったか否かについて検討する。 ア前記(1)の事実のとおり,ダックスブランドは,1894年に創業したテーラーを前身として創業して以来110年を超える歴史と伝統を有し(ただし 「DAKS」の商標が使用されるようになったのは1934年 ,から ,英国王室御用達の詔勅(ロイヤル・ウォラント)を授与され,現 )在では3つの紋章を掲げることを許された世界的に著名な高級有名ブランドであって,日本国内においては,原告三共生興が原告ダックスからマスターライセンスを受け,国内の多数有名企業にサブライセンスし,それらの国内売上高はバーバリー,ラルフローレンに次いで国内第3位の売上げ(小売ベースで約520億円)を誇っている。そして,原告三共生興は,上記サブライセンス契約において,サブライセンシーに対し,ダックスブランドを付する商品のデザイン,品質を下げ札やパッケージに至るまで,原告三共生興による承認を義務づけ,それ以外のダックスブランドの商品32が市場に出回らないようにして,ダックスブランドの商品のデザイン,品質の管理を徹底し,さらに,多額の宣伝広告費をかけた上記各種宣伝広告活動を通じて,世界最高水準のダックスブランドの信頼性の維持・向上に努め,現に世界的に高度の信頼を勝ち得ているものである。 イしかるに,被告は,本件商品をダックスブランドの正規品と称して,被告カタログや被告ウェブサイトに掲載するなどして本件商品を宣伝広告し,販売したものであるところ,被告が輸入し,販売した本件商品は,ダックスブランドの正規品などではなく,原告らから何らのライセンスを受けることなく,韓国において製造販売され,被告がオードリーを通じてこれを輸入し,日本国内で販売したものである。そして,本件商品は,当然ながら,原告三共生興によるデザイン,品質に関する承認を得ないまま販売されたものであり,現に,本件商品は,ダックスブランドの正規品と対比して,上記(2)で認定したような多くの品質上の差異が認められるものである。そして,それらはすべて正規品と比べて劣り,全体として粗悪品であるとの評価を免れないものである。また,本件商品に同梱されている取扱説明書(甲22)には,本件商品を,正しくは「DAKS」であるダックスブランドが「DAK’S」と誤って表示され,本件商品の価格も,ダックスブランドの正規品である本時計付ベルトが5万2500円ないし5万5650円であるのに対し,9975円と5分の1を下回る低額に設定されていたものである。また,被告は,被告カタログ及び被告ウェブサイトのほか 「人こと発見」及び「道具の学校」と称するカタログ並びに「道 ,具の學校」と称するダイレクトメールを利用して,本件商品を販売していたところ,被告のカタログ通信販売の会員数は120万人に及んでいるのであって,本件商品の購入の勧誘は,上記会員のほぼすべてにされたものと推認されるほか,被告ウェブサイトを通じて不特定多数の一般人に対して宣伝広告され,ダックスブランドの正規品(本時計付ベルト)が上記の33ような著しい低価格で販売されていることがこれらの者の目に触れる状態に置かれたものであって,ダックスブランドの信頼性に対するマイナスの影響力は決して小さなものとはいえないものというべきである。 以上の事情を考慮すると,かかる低品質の本件商品がダックスブランドの正規品として著しい低価格で販売等されたことにより,ダックスブランドのブランド価値は相当に毀損されたものというべきである。 ウもっとも,前記認定のとおり,本件商品の一般消費者への販売個数は,結局,わずか95個にとどまったものであるところ,本時計付ベルトとの上記品質上の差異は,被告カタログや被告ウェブサイトでの広告写真のみでは看取することができず,実際に手にとって見ないとわからないものである。また,本件商品に同梱されている取扱説明書の「DAK’S」の誤記載も,本件商品を現に購入した者の目にしか触れないものである。したがって,一般消費者のうち上記品質上の差異等を認識し得たのは,本件商品を購入した最大95名に限られる。このような観点からすれば,ダックスブランドの正規品と比較して品質が相当に劣る本件商品を販売されたことによる信用毀損の度合いは相当に限定されたものになるともいえ,これを過大に評価することはできない。しかし他方,被告カタログや被告ウェブサイトには,本件商品の価格が表示されており,正規品である本時計付ベルトの5分の1を下回る著しい低価格で販売されていることは,被告のカタログ通信販売の会員120万人のほか,被告ウェブサイトを閲覧した不特定多数の目に触れ又は触れ得たことが明らかであるから,ダックスブランドの正規品がかかる著しい低価格で販売されていると一般消費者に認識させたことにより原告らの信用をかなりの程度低下させたことは否定できない。したがって,この点は,信用毀損による無形損害の額を算定する上で考慮すべき事情であるといえる。 エさらに,前示のとおり,被告がオードリーとの間で商品販売基本契約を34締結した際に交付された商品掲載申込書(乙7)には,本件商品の「原産国」欄に「韓国」と 「メーカー名」欄に「ジャスペル社」と 「国内総 , ,輸入元」欄に「?潟~ストラル」との記載があり,被告としては,これらの会社が原告らからライセンスを得ているか否かを調査・確認することは容易であったと認められるところ,被告がそのような調査・確認の措置を何ら執ることなく,オードリーからの説明として被告が主張する事項,すなわち,本件商品が韓国内において製造・販売する権利を有するスリーセブン社製の物であること,商品販売に際しては,オードリーの担当者が直接韓国に赴き,商品のライセンス証を確認し,製造を行っている工場へも行き,輸入業者を経由しての並行輸入品であるとの説明を受けていた,との説明を軽信して,本件商品を輸入し,販売したものである。以上の事情によれば,被告の商標権等侵害行為が故意によるとまでは認められないとしても,その過失の程度は決して軽微とはいえないというべきである。そして,被告は,前示のとおり,原告三共生興との訴訟前の交渉過程で,本件商品の輸入・販売について真正商品の並行輸入の主張はしないと原告に明言し,したがって,少なくともその時点では本件商品がダックスブランドの正規品ではないことを認識していたことは明らかである。しかるに,被告は,本件訴訟の提起を受けて平成19年5月7日付けで発表したJASDAQの投資関係者宛のリリースの中で「当社といたしましては,当該商品を当社が販売することについて,原告の主張とは見解の相違があり,当社の販売行為は原告の主張する商標権の侵害には当たらないものと考えております。また,損害賠償請求につきましても,同様の理由から根拠のないものとして裁判では当社の正当性を主張し争っていく方針です 」とし。 ているのであって,一般投資家に向けて,自らが原告らの権利を侵害し,かつ,一般消費者に偽のブランド商品を販売したことを反省し,謝罪するどころか,本件商品がダックスブランドの正規品であることをなおも強弁35するかのように受け取られてもやむを得ない言動に出たものである。被告のかかる言動は,原告らの信用回復を妨げるものと評価できる(被告は,上記リリースを発表した翌日に追加のリリースを発表し,その中で「原告の請求に対する当社の見解といたしましては,当該商品は当社製造の商品ではなく,あくまでも通信販売業者として,多数の商品仕入業者の一社より提案を受け通信販売媒体に載せ販売を行った雑貨のうちの一つであることから,当社が原告の有する社会的信頼を害したという原告主張の事実への寄与度は低いものであると認識しております。また,販売期間も短期であり実際の当該商品販売数量は100個前後で売上金額としては1,000,000円程度であり,販売金額から考慮しても原告へ与えた影響・侵害の程度は軽微なものであると考えております 」と,商標権侵害を前提とするか 。 のようなコメントをしているが,これも商標権侵害を明示的に認めたものとはいい難く,原告らの信用を回復させるものにはほど遠いものといえる。したがって,この点は,信用毀損による無形損害の額を算定する 。)上で軽視できない事情であると考える。 オ以上の諸事情を総合考慮すると,原告らの被った信用毀損による無形損害の額は,200万円とするのが相当である。 カ原告らは,被告の行為により本件訴訟の提起・追行を余儀なくされ,弁護士に訴訟委任を余儀なくされた。これにより原告らが被った弁護士費用相当損害額は,本件に顕れた諸般の事情を考慮すると,50万円が相当である。 3争点(3)(謝罪広告の要否)について上記2で認定説示した諸事情,とりわけ,本件商品は,その一般消費者への販売数量こそ比較的少量であるものの,ダックスブランドの正規品と称して著しい低価格で被告カタログや被告ウェブサイトに掲載され,ダイレクトメールを利用して,被告のカタログ通信販売の会員をはじめ,不特定多数の者に宣伝36広告されたものであり,これにより原告らのダックスブランドの信頼性は少なからず傷つけられたものであること,それにもかかわらず,被告は,JASDAQの投資関係者に対して,これを反省,謝罪するどころか,商標権侵害を否定するリリースを発表し,その後も原告らの信用を回復する何らの措置も執っていないことにかんがみると,上記2の限度での損害賠償を受けさせるのみではその信用を回復させるのに十分とはいい難い。したがって,商標法39条で準用する特許法106条に基づき,被告に対し,原告らの信用を回復するのに必要な措置として,主文掲記の謝罪広告を命じるのが相当である。 4結論以上のとおり,原告らの本件請求は,被告に対し,本件商標権及びその専用使用権に基づき,被告標章をベルト等に付し,又はこれらの標章を付したベルト等の輸入及び販売の差止め並びにこれらの標章を付したベルトの廃棄を求め(ただし,被告標章2,4については原告ダックスのみ ,併せて商標法39 )条により準用される特許法106条に基づき,信用回復措置請求として主文第3項掲記の謝罪広告を求め,さらに,商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償として,原告ダックスが商標権侵害の不法行為に基づく財産上の損害4万6319円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年5月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,原告三共生興が商標権侵害の不法行為に基づく財産上の損害4万6319円と,プレリーシミズから譲り受けた損害賠償請求権に係る財産上の損害31万7234円の合計36万3553円及びそのうち4万6319円に対する訴状送達の日の翌日である平成19年5月3日から,31万7234円に対する訴えの変更申立書送達の日の翌日である平成19年12月2日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,原告らが信用毀損による損害200万円と弁護士費用相当の損害50万円の合計250万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成19年5月3日から支払済みまで民法所37定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 田中俊次 |
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裁判官 | 高松宏之 |
裁判官 | 西理香 |