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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18ワ20985商標使用権抹消登録請求事件 平成19ワ27767請求事件 判例 商標
平成22ネ10084販売差止等請求控訴事件 判例 商標
平成15ワ11200商標権侵害差止等請求事件 判例 商標
平成14行ケ497審決取消請求事件 判例 商標
平成22ワ10785商標権侵害差止請求事件 判例 商標
関連ワード 使用事実 /  指定商品 /  指定役務 /  品質誤認(4条1項16号) /  契約の解除 /  債務不履行 /  通常使用権 /  専用使用権 /  出所の混同 /  国内 /  使用義務 /  使用許諾 /  存続期間 /  更新登録 /  正当使用義務 /  継続 / 
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事件 平成 20年 (ネ) 10018号 商標使用権抹消登録・請求控訴事件
控訴人株 式会社久永製作所(一審本訴原告・反訴被告)
訴訟代理人弁護士山本卓也
同大河内將貴
同内山史隆
補佐人弁理 士大橋弘
被控訴人東洋エンタープライズ株式会社 (一審本訴被告・反訴原告)
訴訟代理人弁護士伊藤真
補佐人弁理 士野原利雄
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/07/23
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
全容
第1控訴の趣旨1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2被控訴人の反訴請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人の負担とする。
第2事案の概要【略称は原判決の例による。】1(1)控訴人(一審本訴原告・反訴被告)は,昭和22年3月に設立されたホックの製造販売等を主たる業とする株式会社である。
一方,被控訴人(一審本訴被告・反訴原告)は,昭和40年11月に設立された繊維製品等の国内販売及び輸出入等を目的とする株式会社であり,現在,約20のブランド製品を販売している。
(2)控訴人は,下記の商標権(登録第2428270号,本件商標権)の商標権者である。
・商標 ・出願日 昭和54年7月2日・登録日 平成4年6月30日・存続期間更新登録平成14年6月26日申請,同年7月9日登録・指定商品旧21類「ボタン類」であったが,平成14年8月21日書換登録により,第14類「カフスボタン」,第26類「ボタン類」となった。
(3)ア控訴人と被控訴人は,平成10年2月21日,本件商標権について被控訴人が下記内容の専用使用権(本件専用使用権)を取得する旨の契約を締結した(甲3,本件契約。原判決別紙契約内容目録記載のもの)。
専用使用権者 東洋エンタープライズ株式会社・地域 日本国内指定商品 スライドファスナー・期間本件商標権の存続期間満了まで。ただし,本件商標権が更新された場合には,更新後についても同様とする。
・契約の対価 100万円とこれに対する消費税相当分の金額イ上記契約に基づき,平成10年4月27日,被控訴人のため,本件商標権につき下記の専用使用権設定登録がなされた。
・受付年月日 平成10年2月27日・受付番号 002279・専用使用権者 東洋エンタープライズ株式会社・地域 日本国内・期間本契約日(平成10年2月26日)より本商標権存続期間満了(平成14年6月30日)迄・内容 指定商品 スライドファスナー2 本件は,次の本訴請求と反訴請求とからなる。
(1) 本訴ア被控訴人は,原判決別紙商標権目録記載の商標権について原判決別紙登録目録記載の専用使用権設定登録の抹消登録手続をせよ。
(2) 反訴イ控訴人と被控訴人が原判決別紙契約内容目録記載の契約内容による契約関係にあることを確認する。
ウ控訴人は被控訴人に対し,原判決別紙商標権目録記載の商標権について原判決別紙専用使用権目録記載の専用使用権の設定登録手続をせよ。
3原審の東京地裁においては,?@本件契約は錯誤により無効であるか,?A被控訴人がファスナーに,本件商標を「MADEINUSA」又は「USA」の文字と共に使用しているが,これは不正使用(商標法53条1項)であってその債務不履行を理由に本件契約を解除することができるか等が争点となったが,平成19年12月26日になされた原判決は,上記?@の錯誤による契約無効の主張及び上記?Aの契約解除の主張はいずれも認められないと判断した上,本訴請求については,本件専用使用権存続期間経過を理由に認容し,上記反訴請求についても,本件契約は有効に存続しているとしていずれも認容した。
そこで,原判決に不服の控訴人が控訴を提起したものである。
4 当審における争点も,原審と同様である。
第3当事者の主張当事者双方の主張は,当審における主張を次のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」中の「第2事案の概要」記載のとおりであるから,これを引用する。
1控訴人(1) 本件契約の錯誤による無効について控訴人代表者Aは,以下のとおり,本件契約を締結する際に契約の相手方を誤認していたのであり,この控訴人代表者の誤認は,法律行為の要素の錯誤であるから,本件契約は民法95条により無効である。
ア 本件契約締結の経緯に関する事実(ア) 本件契約の締結に至る経緯a控訴人は,自らのシンボルとして使用していた「CROWN」について,昭和54年7月2日商標登録出願を行い,平成4年6月30日商標登録を受けて使用してきた(本件商標権)。
bその後,平成9年10月ころ,かねてから控訴人代表者と親交があり控訴人と取引もあった「かねだプランニング」の代表であるB(以下「B」という。)から,本件商標である「CROWN」をスライドファスナーのスライダー部分に使用したいので使用許諾をして欲しいとの意向をもっている人物がいるという紹介の話があった。
控訴人としては,Bの人柄に好感を抱いており,かつ,それまでの交流のなかでBに対し多大な恩義を感じていたから,長年にわたり自らのシンボルとして使用していた本件商標である「CROWN」の使用許諾の申入れを承諾した。
c上記申入れの後においてもBの紹介者との間で正式な契約の話は無かったものの,控訴人がBに問い合わせた際には,Bは「現在水面下で進行中である」旨回答した。そこで,控訴人は,正式な契約に向け,その進行に備えていた。
しかるに,平成10年1月ころ,Bと全く無関係のところで,被控訴人の意向を受けた野原利雄弁理士より,本件商標登録の出願代理人であった大橋弘弁理士に対し,本件商標である「CROWN」の使用許諾の申入れがなされた。
そこで,大橋弁理士が,被控訴人から上記申入れがあったことを控訴人代表者に伝えたところ,同人は,その3か月程前に上記bで述べたBからの申入れがあり契約締結に備えていたことから,被控訴人からの上記申入れをBによる紹介の件であると誤認し,大橋弁理士に対して,被控訴人の上記申入れを承諾するとの回答をしてしまった。そのため大橋弁理士は,控訴人の意向を受けて被控訴人の代理人である野原弁理士に対し,控訴人が本件商標の使用許諾の申入れを承諾する旨回答した。
以上の経緯で,控訴人と被控訴人との間で,平成10年2月21日,本件契約が締結された。
dその後,平成10年後半になって,Bから控訴人代表者に対して,本件商標を使用したい者がいるため使用許諾をしてもらいたいとの申入れがなされた。この申入れがなされた時点で初めて,控訴人代表者は,本件契約締結に際し,契約の相手方を誤認していたことに気づいた。
eしたがって,控訴人は,被控訴人との間で本件契約を締結するに際し,上記のとおり契約の相手方を誤認するという重大な錯誤に陥っていた。
(イ) 平成15年における交渉a上記のとおり,本件契約に際し,契約の相手方を誤認するという重大な錯誤に気づいた控訴人代表者は,直ちに大橋弁理士にその旨を伝え,対応策を検討することとした。
このとき,当然のことながら契約の相手方を誤認したことを理由とする錯誤無効の主張を行うことが検討されたが,被控訴人に強く抵抗されることが予測されたし,円満かつ紳士的な解決策を模索する方が望ましいと思われたことから,被控訴人と交渉し,Bから紹介のあった有限会社トイズマッコイプロダクト(トイズマッコイ)に対して,本件商標を使用させることの承諾を得るという方法を採ることとなった。そして,この使用許諾の交渉の結果次第で錯誤無効の主張を検討することとしたため,控訴人代表者は,この時点で直ちに錯誤無効の主張を行うという対応を控えた。
b以上のような方針が定まってから,控訴人代表者及び大橋弁理士は,被控訴人に対する交渉ないしは錯誤無効の主張の機会をうかがっていたところ,平成14年7月9日,本件商標の存続期間更新登録がなされ,それに伴い,平成15年5月15日,被控訴人代理人である野原弁理士から大橋弁理士に対し,本件商標の専用使用権の設定登録の更新の申入れがなされた。
大橋弁理士及び控訴人は,この被控訴人側の申入れを,上記交渉ないしは錯誤無効の主張の機会と捉えた。そこでまず,大橋弁理士は,平成15年9月17日付け通知書(甲13)により,本件契約に際して作成された契約書(甲3)第5条において,「乙(被控訴人)は,前3条の規定に基づいて専用使用権の設定登録を受けた登録商標の使用を中止した場合には,遅滞なくその旨を甲(控訴人)に報告し,当該専用使用権の設定登録の抹消手続きを行うものとする。」と規定されていたことから,被控訴人に対し,本件商標の使用状況の確認をしたい旨通知した。この通知に対し野原弁理士は,平成15年10月14日,被控訴人の本件商標の使用状況を示す物件として,?@スライドファスナー(現品)4品(検甲1の1〜4),?Aスライドファスナー説明書(甲15),?Bカタログ(甲16)を送付してきた(甲14)。この?@ないし?Bの物件により,大橋弁理士は,被控訴人による本件商標の使用の事実を確認したため,契約書第5条に定められた使用中止による抹消登録手続請求という対応を採ることを断念した。
cその後,平成15年10月ころ,Bから控訴人代表者に対し,あらためて本件商標を使用したい者がいるため,なんとか使用許諾をして欲しいとの申入れがなされた。そのため,大橋弁理士は,上記aの方針に従い,野原弁理士に対し,本件商標の第三者への使用許諾を被控訴人において承諾することを申し入れた。この申入れに対し,野原弁理士は,平成15年11月13日付けで,第三者への使用許諾の点につき,?@第三者への使用許諾は被控訴人の承諾を必要とする,?A第三者への使用許諾によって得た対価は控訴人に帰属する,?B第三者への使用許諾によって生じた一切の権利及び義務は控訴人の責任と負担において処理する,との条件で承諾するとの回答(甲4)をした。そこで,大橋弁理士は,被控訴人による上記条件付承諾があったことを控訴人代表者に伝え,Bの紹介先の社名を連絡して欲しい旨要請した。
その結果,平成15年11月18日,トイズマッコイの代理人であるわかば国際特許事務所の商標部次長C(以下「C」という。)から,紹介先がトイズマッコイであるとの通知(甲5)がなされた。
(ウ) 平成16年における交渉a上記(イ)cのCの通知以降,本件商標の使用許諾の交渉は一時中断されていた。
しかし,平成16年5月26日,Cより,トイズマッコイに対する本件商標の使用許諾の件についての被控訴人との交渉を大橋弁理士に依頼する旨の申入れがなされた(甲6)。
b上記の申入れにより,大橋弁理士は,平成16年6月11日,上記(イ)cの被控訴人による平成15年11月13日付け回答に対する回答(甲7)をして交渉を再開するとともに,野原弁理士及びCの双方に対し,以後は当事者間において直接交渉することを要請した。
なお,大橋弁理士は,被控訴人に対する上記の回答において,初めて書面によって,本件契約に際し控訴人が契約の相手方を誤認するという錯誤に陥っていたという経緯を通知した。
しかし,錯誤による無効の経緯について,書面によって通知したのはそのときが初めてであったが,このときまでにすでに大橋弁理士は,野原弁理士に対し,本件契約の際に控訴人に錯誤があったことを口頭で通知していた。
c以後,被控訴人とトイズマッコイは,直接交渉を開始し(甲9),契約書案を作成するまでに至った(甲10の1・2,11)が,それ以降は交渉に進展はなかった。
(エ)その後の平成18年9月21日,本件訴訟が提起されるに至った。
イ上記ア(ア)で述べたとおり,本件契約の締結に際し,控訴人は契約の相手方を誤認していたから,本件契約は控訴人の錯誤に基づくものである。
この点について,原判決は,「原告は,被告を相手方であると正しく認識し,その上で被告との間で綿密な交渉をして本件契約を締結したのであり,原告に相手方の点について要素の錯誤が生じたとみる余地はない。」(18頁12行〜14行)との判断をしている。
しかし,控訴人が本件契約の相手方を誤認したことに気づいたのは,平成10年後半に,Bより再度の使用許諾の申入れがなされた時点のことであり,本件契約が締結された平成10年2月21日から半年以上経過してからのことである。
そして,平成10年後半に契約の相手方を誤認していたことに気づいて以降,事態を円満かつ紳士的に解決すべく,原判決のいうところの「綿密な交渉」を開始したのであって,本件契約締結の時点で控訴人が契約の相手方を正しく認識していたという事実はなかった。
加えて,控訴人は,本件契約に際して契約の相手方を誤認していたことに気づき,交渉を開始してから,錯誤無効を理由とする本件訴訟の提起まで,あくまで円満な解決を図ることを優先し,錯誤無効の主張を控えていたに過ぎず,本件契約について明示ないしは黙示の追認をしたという事実も存しない。
以上のとおり,控訴人が契約の相手方を正しく認識して契約を締結したとする原判決の判断は,事実誤認にほかならない。
ウ本件で控訴人が陥った錯誤は,以下に述べるとおり,きわめて重大なものであって,法律行為の要素の錯誤に該当する。
(ア)本件において,控訴人が被控訴人と締結した契約は,商標権の専用使用権設定契約である。専用使用権の設定を受けた使用権者は,設定契約で定められた範囲内において,指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有することになる(商標法30条2項)。この専用使用権は,物権的な権利であり,排他性を有しているものであって,いったん設定した後は,その範囲内においては,商標権者ですらその登録商標を使用することができなくなるものである。
加えて,商標権者には使用権者による登録商標の使用を監督する義務が課されている。すなわち,商標法53条は,専用使用権者がその商標の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは,5年間にわたり何人もその商標登録を審判により取り消し得ることとしている。これは,このような行為が他人の権利を侵害し,一般公衆の利益を害するものであることから,使用権者のみならず商標権者に対しても制裁を課すことにより,第三者の権利及び一般公衆の利益を保護とする趣旨である。
(イ)控訴人が本件契約によって商標権の専用使用権を設定したということは,上記のような登録商標の使用についての重大な制約と,使用権者に対する厳格な監督義務を自らに課すということを意味する。にもかかわらず,控訴人が本件商標である「CROWN」について,専用使用権の設定を行おうとしたのは,控訴人代表者と親交があり,かつ,多大な恩義を感じていたBの紹介先であったからにほかならない。控訴人は,Bからの紹介先であるからこそ,自らのシンボルを使用させるだけの信頼に足りる人物であると判断したのである。そして,上記のとおり専用使用権を設定した商標権者は使用権者の使用について厳格な監督義務を負う以上,使用権者が正当使用義務を果たす者であるか否かは,商標権者にとってきわめて重大な問題である。仮に,控訴人が本件契約に際し,契約の相手方がBの紹介先ではないということに気づいていれば,自らのシンボルである「CROWN」について,取消審判の危険にさらされてまで使用許諾をするはずがなかった。
(ウ)したがって,本件契約の締結に際し,控訴人が契約の相手方を誤認していたという事実は,法律行為の要素の錯誤であり,原判決の「単なる経緯や人間行動の動機とは言い得ても,法律行為の動機になり得るものではない」(18頁18行〜19行)との判断は,法解釈を誤るものである。
(2) 本件契約解除の有効性についてア 被控訴人による本件商標の正当使用義務違反行為(ア)上記(1)ア(イ)bのとおり,野原弁理士が平成15年10月14日被控訴人の本件商標の使用状況を示す物件として送付してきた物件を精査したところ,以下に述べる事実が明らかとなった。
a被控訴人の商品であるフライトジャケットにおいて使用されている?@スライドファスナー(検甲1の1〜4)のスライダー本体部分表側又はプル部分表側に本件商標が,同裏側に「USA」又は「MADEINUSA」の文字がそれぞれ刻印されている(甲16の1〜12,乙26,検甲1の1〜4)。
b本件ファスナーに付された下げ札には,表側に「CROWNSLIDEFASTENER」として,「CROWN」の文字が刻印されたファスナー表側の写真が掲載され,その下には,「CROWN」に被控訴人の専用使用権の登録がされていることが英文で記載されている。同下げ札の裏側には,「CROWN(商標登録番号第2428270号)とは,TOYOENTERPRISECO.,LTD.が,現代に甦らせた幻のZIPPERの商標です。1930年代,米陸軍航空隊のA-2ジャケットにCROWN初期のシェブロン型ZIPPERが使用されて以後,厳しいミルスペック管理の基で製造された堅牢度の高いCROWNは,…1960年代末には,安価なZIPPERにその座を譲り,幻のZIPPERとなってしまいました。…この独特な機能と美しいデザインを兼ね備えたスライダーを,当時のパーツとリニューアルされた復刻パーツとを組み合わせ,現代に甦らせました。」と記載されている(甲15)。
c被控訴人の商品カタログ(甲16の1〜12)の説明の中に,ファスナーの使用について,「フロントファスナー:クラウン社製スプリングカムロック式」(甲16の3〜12)の記載がある。
dその他にも,被控訴人のホームページにおける商品紹介において,スライドファスナーの写真と,その写真についての「クラウン社製スプリングカムロック式ジッパー」との説明(甲22の1,25)や,「クラウン・シェブロンジッパー」との説明(甲22の2)がある。
(イ)上記のような被控訴人の本件商標の使用の事実は,当該スライドファスナーが,アメリカ製のファスナーであるとの誤解を生じさせるものであって,生産地虚偽表示に該当し,消費者にとって出所の混同を招くものである。
のみならず,上記の使用の事実は,被控訴人の商品が,クラウン社製のジッパーが使用されていた当時の製品,すなわちヴィンテージ品であるかのごとき誤解を生じさせるものであって,消費者にとって商品の品質の誤認を引き起こすものである。米軍フライトジャケットのヴィンテージ品が現実に流通していることからすると,「被控訴人からの直接の購入者」であっても,品質等の誤認のおそれはないとはいえないし,直接の購入者から転々譲渡を受けた取得者(「post-sales confusion」)であれば,品質等の誤認をするおそれは相当高いと認められる。
したがって,被控訴人の本件商標の正当使用義務に違反する行為であり,商標法53条により取消審判の対象となりかねない行為である。
原判決は,「『CROWN』と『USA』又は『MADEINUSA』とが全体として一の商標を構成し,商標法53条1項にいう『登録商標に類似する商標』に当たると認めることは,困難である。」(23頁6行〜8行)と判断しているが,本件スライドファスナーのように,その表側に本件商標である「CROWN」の文字が,裏側に「USA」若しくは「MADEINUSA」の文字が,それぞれ刻印されていれば,その刻印を別個のものと捉えるのではなく,表裏一体のものとして捉えるのが通常である。そして,商品の表側と裏側に両者の刻印が揃うことで,アメリカのクラウン社を認識している者はもとより,たとえ同社の存在を認識していない者でさえも,本件スライドファスナーが,アメリカのクラウン社の製品であるとの認識を抱いてしまうのが自然である。
そして,被控訴人は,昭和40年以来,日本国内向けの衣料品の製造及び販売を目的とした事業を展開し,現在,約20のブランド製品を販売するに至っている株式会社であることからすれば,自らの商品が,生産地虚偽表示等に該当するものであることを十分に認識した上で,当該スライドファスナーの制作,使用,宣伝を行っていたものである。
イ 被控訴人による信頼関係の破壊と控訴人による本件契約の解除(ア)商標法53条は,自由な商標使用許諾制度による弊害を防止するために,使用権者に対し正当使用義務を課すとともに,商標権者に対し使用権者の監督をする義務を課したものである。そして,この義務に違反する行為があった場合,商標権者は,5年間の間,何人からも取消審判を請求されうるという重大な制裁が課されることになる。
このような商標法53条の取消審判制度の趣旨に鑑みれば,商標権者の使用権者に対する監督義務及びそれに基づく是正手段は,消費者を保護するための予防的措置の性格を有するものである。
(イ)しかるに,被控訴人は,上記アで述べたように,本件商標について,その正当使用義務に著しく反する使用行為を行ったものであって,控訴人を,5年間にわたり取消審判請求を提起され得る危険にさらしたものであり,控訴人との間の信頼関係を破壊する背信行為を行ったものにほかならない。
そのため,控訴人は被控訴人の正当使用義務違反行為による背信的な契約違反を理由に,平成18年11月13日付け原審第一準備書面(平成18年11月14日第2回弁論準備手続期日陳述)により,本件契約を解除するとの意思表示を行った。
この控訴人による解除の主張に対し,被控訴人は,被控訴人による本件商標の使用は,商標法53条正当使用義務に違反するものではないとの主張をし,争う態度を示した。
さらに,平成19年3月27日の原審における第4回弁論準備手続期日において,被控訴人は,控訴人から,上記アで述べた本件商標の使用態様の停止の催告を受け,かつ,裁判所からも同趣旨の要請を受けたことにより,被控訴人商品に刻印された「USA」及び「MADEINUSA」の文字の使用を停止し,何時から停止したかを明確にするとして,いったんは控訴人の上記催告及び裁判所の上記要請に従うかのような態度を示した。
しかし,その後の対応として,被控訴人は,平成19年5月15日付け被告準備書面(3)において「平成19年3月28日に,『USA』及び『MADEINUSA』の文字を削除するよう製造を委嘱している部品メーカーに指示済みである。」と主張したにもかかわらず,それを裏付ける客観的証拠を一切提出することがなかった。そもそも,被控訴人が製造を委嘱している部品メーカーと主張している「山崎商事株式会社」は,「服飾付属品製造卸総合商社」であり(乙28,31,32),「山崎商事株式会社」自身がファスナーの製造を行っているとは考えられず,ファスナーのメーカーに対し現実に「USA」及び「MADE IN USA」の文字の削除を指示したかは不明である。
のみならず,被控訴人は,控訴人が催告した上記ア(ア)cのカタログの商品説明の中の「クラウン社製スプリングカムロック式」という記載(甲16の3〜12)の修正に応じず,また,上記ア(ア)dのホームページ上の「クラウン社製スプリングカムロック式」「クラウン・シェブロンジッパー」という記載(甲22の1・2,25)を削除することもなかったのであり,依然として本件商標の正当使用義務に違反する行為を継続していた。
このような行為は,商標権者である控訴人の監督に反し,控訴人に対する背信的行為の上にまた背信的な使用行為を行ったものであって,控訴人との間の信頼関係を踏みにじる,きわめて悪質といわざるを得ないものである。そこで,控訴人は,平成19年5月29日付け内容証明郵便により,被控訴人の正当使用義務違反行為を理由に,改めて本件契約を解除する旨の意思表示を行った。
(ウ)その後,被控訴人が一応の是正措置を採ったことにより(乙21),部品メーカーより,「USA」及び「MADEINUSA」の刻印のないファスナーが納品されることとなったため,被控訴人の商品については,2007年秋冬ものの一部のジャケットと2008年春物以降のジャケットにおいては,「USA」及び「MADEINUSA」の刻印のないファスナーが付されることとなっていた。
しかし,被控訴人は,平成19年7月23日付け被告準備書面(5)で主張するように,「2007年秋冬物のジャケットについては,昨年9月から1月に発注して納品されたファスナーを使用し縫製された商品であること,既に完成済みで出荷が開始されていること,また,これらの商品は,事前に行われた展示会での一括受注で,全てが委託販売ではなく買い取り販売であることなどの事情から,『USA』等の刻印がされたファスナーが取り付けられていて,これを是正することは現実問題としてできない。」として,本件商標の正当使用義務に違反して生産された商品が流通してしまう事態を黙認する態度を示した。そして,被控訴人は,それ以降において「USA」又は「MADEINUSA」の文字が刻印された本件ファスナーが使用されたままとなっている上記商品について,回収措置を講じる等,専用使用権者に課せられた正当使用義務に全うする行為を一切行っていない。
(エ)以上のように,被控訴人の本件商標の使用状況及び控訴人に対する対応は,控訴人と被控訴人との間の信頼関係を著しく破壊するものであり,重大な背信的行為と評価するに余りある極めて悪質なものである。
このような被控訴人の本件商標の不正使用の事実及び控訴人に対する背信的行為に対して,控訴人がその監督義務の履行として是正を図る手段としては,もはや被控訴人との間の本件契約を解除する以外に術はないのであり,控訴人の解除の主張を認めることが,法秩序維持という公益的要請を担う裁判所の役目でもあるのである。
したがって,上記の2度にわたる解除の意思表示により,本件契約は有効に解除された。
ウ 原判決の認定する背信性の評価障害事実に対し(ア)原判決は,被控訴人の行為の背信性の評価を障害する事実として,「(イ)被告は,米軍のフライトジャケット愛好家のために,その細部に至るまで忠実に再現しようとして,本件ファスナーの裏側の『USA』や『MADEINUSA』の刻印まで再現したものである…。そして,被告は,被告商品を復刻品であると明示して販売している…。」という事実を認定している(24頁10行〜14行)。
しかし,本件商標である「CROWN」をスライダーの表側部分に刻印し,その裏側に「USA」又は「MADEINUSA」の刻印をすることにより,表側部分と裏側部分の刻印が相まって,一般消費者はもとより愛好家でさえも,当該ファスナーがアメリカのクラウン社の製品であるとの認識を抱き,ひいてはそのファスナーを使用したフライトジャケットが米軍使用のヴィンテージ品であるとの認識を抱くことになるのが通常であることは,前記ア(イ)で述べたとおりである。
たとえそのようなファスナーの制作の動機・目的がヴィンテージ品を細部に至るまで忠実に復刻するというものであったとしても,消費者をして出所の誤認ないしは品質の誤認を引き起こす危険があるという客観的事実に変わりはない。加えて,復刻品と明示して販売していることが商標法上や不正競争防止法上それを許容する独自の法理があるわけではないということは原判決自身認めていることである(原判決23頁18行〜19行)。
また,上記ア(イ)のとおり,被控訴人は,フライトジャケット等の商品の宣伝・販売に際し,そのカタログ等における商品の各種説明において,「クラウン社製スプリングカムロック式ジッパー」,「クラウン・シェブロンジッパー」と記載しているのであり,本件商標を使用したファスナーがあたかも「アメリカのクラウン社製ジッパー」であるかのごとき説明を行っている。
そして,「USA」又は「MADEINUSA」の文字が刻印された本件ファスナーが使用されたジャケットに関しては,消費者の意見,感想を聞くための返信用葉書が1万通ほど返信されている(乙22,25)。このような葉書の返信率が数パーセント程度であるとの経験則に照らせば,上記ジャケットの流通量は,少なく見積もっても数十万着ほどに上るはずである。そうであれば,「直接の購入者から転々譲渡を受けた取得者」まで含めた上記ジャケットの流通量はかなりの規模であることが容易に予想される。加えて,上記イ(ウ)で述べたとおり,依然として被控訴人の一部商品において,「USA」又は「MADEINUSA」の文字が使用され,その回収すら計られていないことからすれば,今後さらに「USA」又は「MADEINUSA」の文字が刻印されたファスナーを使用したジャケットが流通してしまうのである。このような状況からすれば,本件商標の不正使用による品質の誤認を引き起こす危険は,原判決が「品質等の誤認をするおそれは相当高い」(24頁3行〜4行)とする以上に計り知れない規模になるものである。
したがって,被控訴人の商品は,結局のところ,真正な米軍使用のヴィンテージ品のフライトジャケットを模造すべく,そのための手段として,本件商標の不正使用によってクラウン社製のファスナーを使用しているかのごとく装ったものに過ぎない。そして,そのことによって,上記に述べたとおり,きわめて甚大な品質誤認の危険を惹起しているのであって,細部まで忠実に再現するとの動機・目的によって被控訴人の本件商標の使用が正当化されるものではない。原判決が認定する上記事実は,被控訴人の行為の背信性の評価を障害する事実とはいえないものである。
(イ)原判決は,被控訴人の行為の背信性の評価を障害する事実として,「(ウ)本件ファスナーのようにスライダーの本体部分裏側又はプル部分裏側の『USA』や『MADEINUSA』の刻印まで再現した復刻品が不正競争防止法2条1項13号の要件を満たす可能性があることは,被告が本件契約を締結した平成10年2月当時,一義的に明確であったとはいえない。事実,原告は,平成15年10月に『USA』等と刻印された本件ファスナーを被告から受領しながら,そのような使用の中止を求めていないし,原告が本訴においてそのような使用を問題にしたのも,平成18年11月13日からである…。」と認定している(24頁15行〜22行)。
しかし,日本製の商品であるにもかかわらず,「USA」又は「MADEINUSA」の刻印を施せば,通常人は,当該商品がアメリカ製の商品であるとの認識を抱くであろうことは客観的に明らかな事実であり,このことは本件契約の締結時の平成10年2月当時,一義的に明確であるか否かなどと時的因子が問題となるものではない。
また,控訴人が平成15年10月に本件ファスナーの送付を受けたのは,単に本件商標である「CROWN」の使用の有無という事実を確認する目的から出たことであり,被控訴人の正当使用義務違反の事実を確認する目的があったからではない。加えて,「USA」又は「MADEINUSA」の刻印により,控訴人ですら,被控訴人がアメリカ製の輸入製品に本件商標である「CROWN」を使用していると誤認してしまったのである。そのため,本件訴訟に際し,あらためて本件ファスナーを精査するまで,被控訴人の正当使用義務違反の事実を認識できず,使用の中止を求める等の是正措置を講じることができなかったのである。
したがって,原判決が認定する上記事実は,被控訴人の行為の背信性を障害する事実たり得ないものである。
(ウ)原判決は,被控訴人の行為の背信性の評価を障害する事実として,「(エ)被告は,遅くとも原告が是正を求めたと主張する平成19年3月29日から,金型より『MADEINUSA』及び『USA』を削除する措置を採っており,カタログにおける『クラウン社製スプリングカムロック式』等の表示も取り止める措置を採っており…,その措置が不相当に遅延したものとまで認めることはできない。」と認定している(24頁23行〜25頁1行)。
しかし,上記イ(ア)のとおり,商標権の専用使用権設定契約においては,商標権者に対し,使用権者の使用を監督する義務を課すことにより,消費者を保護し,もって一般公衆の利益を保護するという極めて公益的な要請がある。だからこそ,使用権者の正当使用義務違反をもって,商標権者に対し,何人からも商標権自体が取り消されるという制裁が科されている。そして,この取消審判は,使用権者の正当使用義務違反の事実がなくなったとしても,5年間は取消審判の請求が可能であるとされている。
このような消費者保護というきわめて公益的な要請に基づく取消審判制度の存在に鑑みれば,商標権の専用使用権設定契約においては,民法上の賃貸借契約の場合とは異なり,契約解除の意思表示後に是正措置が採られたことは何ら信頼関係の回復に資する行為とはならない。
しかも,控訴人による本件契約の解除は,上記イ(イ)のとおり,平成18年11月18日付け第一準備書面によって行われたものであり,裁判手続の上で行われたものである。にもかかわらず,上記イ(イ)のとおり,被控訴人が控訴人の商標法53条の主張について争う姿勢を示したため,平成19年3月27日の本件弁論準備手続期日において,控訴人によって被控訴人の本件商標の使用態様の停止の催告がなされただけでなく,裁判所までも本件ファスナーの「USA」又は「MADEINUSA」の文字の刻印の使用を停止するように要請したのである。これは,単に当事者間の紛争を解決するという目的だけでなく,消費者保護の趣旨に基づく商標権者の監督義務を果たすべく行われた催告であり,かつ,司法に求められている法秩序維持という要請の現れに他ならないものであったのである。ところが,被控訴人は,上記イ(イ)のとおり,この控訴人及び裁判所の催告までをも無視し,依然として本件商標を不正に使用に使用し,出所の混同ないしは品質の誤認を引き起こす危険のある宣伝活動を4か月以上にもわたって行った。そればかりか,なおも「USA」又は「MADEINUSA」の刻印を削除しなかったことから,2007年秋冬物ジャケットにおいて依然として当該刻印の入ったファスナーが使用された商品を流通させるに至っており,その商品の回収を図る等の措置を一切講じていないのである。
このように,被控訴人による本件商標の不正使用によって惹起された品質誤認の危険がすでに甚大なものとなっていることからすれば,被控訴人の措置が不相当に遅延した措置であることは明らかである。しかも,この被控訴人の是正措置は,自主的な判断によって行われた措置とはいえず,あくまで控訴人の再三の催告及び裁判所の要請によってようやく行われたに過ぎず,それですら,被控訴人の不誠実な態度により対応が遅れたものである。
さらに,被控訴人が現実に「USA」又は「MADEINUSA」の文字の削除を指示し,本件商標の不正使用を停止する是正措置を採ったかはいまだ判然としない状態である。それに加えて,被控訴人は,本件ファスナーを使用した商品について,回収措置等を一切行っていない。
したがって,原判決が認定する上記事実は,被控訴人の行為の背信性の評価を障害する事実たり得ないものである。
エ以上のとおり,被控訴人は,本件商標につき,その正当使用義務に違反した使用を行っていたものであり,その義務違反は,控訴人との間の信頼関係を破壊するものであることは明らかである。そして,被控訴人の正当使用義務違反の背信性を障害するだけの事実は存しないことからすれば,控訴人による2度にわたる解除の意思表示により,本件契約は有効に解除されたものである。
(3) 反訴請求について前記(1)及び(2)で述べたとおり,本件契約は錯誤に基づくものであって無効であり,仮に錯誤無効の主張が認められない場合でも,被控訴人の本件商標権の正当使用義務違反に基づき有効に解除されている。
したがって,被控訴人の反訴請求はいずれも棄却されるべきである。
2被控訴人(1) 本件契約の錯誤による無効の主張に対しア 本件契約の締結に至る経緯(ア)本件契約は,被控訴人が代理人を介して,事前に電話をした上で,平成9年10月8日に本件商標の使用許諾を文書で申し入れたことから始まり,その後,被控訴人が提示した原案に対して控訴人から修正案が示されるなど,契約骨子について何度も話し合いが持たれ,最終的に,平成10年2月21日に締結されたものである。
このように,本件契約が締結されるまでには,およそ5か月の期間を要し,その間,文書による数々のやりとりがあり,被控訴人の「会社概要書」も提示している。また,その後においても,控訴人は,被控訴人の社名や代表名等が記された「領収書」「専用使用権設定契約書」「単独申請承諾書」に代表印を押印した上で発行している。
このような経緯からして,控訴人は,契約相手方を正しく認識していたことは明らかであり,「契約の相手方を間違えた」などとの控訴人の主張は,認められるものではない。
(イ)控訴人は,Bとの関係について説明し,その親交の深さを強調するが,本件契約の交渉開始から締結に至るまでの5か月以上の間,取引関係もあり親交も深いBとの間で本件契約に関して全く話題にならなかったこと自体が極めて不自然で,「平成10年後半になって,契約の相手方を誤認していたことに気づいた。」などとする控訴人の主張は,信じ難いところである。
なお,被控訴人が本件商標の使用許諾を最初に申し入れたのは,文書による申入れをした「平成9年10月8日」以前(電話)であって,控訴人がいう「平成10年1月ころ」ではない。
(ウ)そもそも,被控訴人はBについては全く知らず,まして,控訴人とBとの関係や話合いの内容については知る由もない。
イ 平成15年の交渉(ア)控訴人は,契約締結から5年以上もの間,被控訴人に錯誤があったことを伝えなかったのは,「円満かつ紳士的な解決策を模索する方が望ましいと思われたことから」という。しかし,被控訴人は,控訴人からのBによる紹介会社「トイズマッコイ」に使用許諾をして欲しいとの申し入れを承諾し,しかも,同社からの使用料は控訴人が受領してよいこと,その上,被控訴人が本件商標権の更新登録毎に100万円の追加金を支払うことまで同意しているのである。
このように,被控訴人は,理不尽とも思える控訴人からの要求を可能な限り受け入れ,また,原審における和解協議の中でも,同様の条件を受け入れる意向を示していたのである。にもかかわらず,控訴人は一方的に和解協議を打ち切ったのである。
このような一連の経緯からしても,控訴人には,当初から「円満かつ紳士的な解決策を模索」する意思など全くなかったことは明らかで,本件訴訟における控訴人の主張は,被控訴人との間で本件契約を終了させ,より有利な相手と契約したいがための口実にすぎないことは明白である。
(イ)控訴人は,平成15年5月15日に被控訴人が本件契約第2条に基づき専用使用権の再設定の申し入れた際,これについては何ら応答することなく,いきなり,平成15年9月17日に,本件契約第5条に基づき,本件商標の使用事実の立証を内容証明郵便をもって求めてきた。これに対し,被控訴人は,平成15年10月14日に,本件商標の使用事実を示す資料を回答書とともに送ったところ,控訴人は,第三者への使用許諾と追加契約金の支払を求めてきた(この時点では,第三者が誰であるか示されていない)。
したがって,万一,控訴人側に本件契約の相手方につき錯誤があったにしても,契約金を受領し,長年にわたり本件契約を継続し,また,本件契約が有効であることを当然の前提として,本件商標の使用事実の立証を求め,かつ,専用使用権についての通常使用権の第三者への許諾を求めてきたことは,少なくとも控訴人は,被控訴人との間で本件契約が有効であることを承認していたのである。
(ウ)被控訴人としては,控訴人との円満な関係を維持していくという観点に立って,本来応ずる必要のない第三者への使用許諾について承諾すること(しかも,対価を控訴人に帰属させることも認める)を予定し,なおかつ,契約金の追加支払にも応ずるという,控訴人の立場を最大限に尊重した回答をしている。しかるに,控訴人からは何の連絡もなかった。
ウ 平成16年の交渉その後,8か月近くが経過した平成16年6月11日に文書が送付されてきて,使用許諾の申出が再度なされるに至った。この時初めて,許諾したい第三者が「トイズマッコイ」であることが示された。
被控訴人は,時間の経過はあるものの,基本的に上記した観点に立って対応することとし,その旨をCに伝え,その際,本件商標権は更新されているので,改めて本件商標権につき専用使用権の設定登録を行い,これに通常使用権の登録手続を行う必要がある旨を伝えた。
ところが,その後,再び,控訴人側からもトイズマッコイ側からも何の連絡もないまま,この話は立消えとなっていたところ,それから2年以上経過した後,突然,事前に何らの連絡もなされずに,本件訴訟が提起されるに至った。
被控訴人は,この間の控訴人側やトイズマッコイ側の事情について知る由もなく,本件訴訟が提起されるまで,控訴人から本件契約の錯誤無効の意思表示を受けたことは一切ない。
エ以上のとおり,相手方の点について錯誤があったという控訴人の主張は,認められないものである。
オなお,仮に,相手方について何らかの錯誤が生じていたとしても,上記のとおり,控訴人とBとの関係やトイズマッコイとの関係などは何ら表示されていなかったのであり,要素の錯誤たり得ないものである。
また,このような錯誤は,控訴人自身の重大な過失によるものというべきで,控訴人は,本件契約の無効を主張することはできない。
(2) 本件契約解除の有効性の主張に対しア 商標法53条該当性につき商標法53条は,使用許諾制度の濫用による弊害を防止するために導入された規定で,商標権者及び使用権者間における商品の誤認混同を防止することを主旨とする。しかし,同条は,商標の使用とは直接関係のない表記や事柄についてまでその是非を定めるものではない。
控訴人が指摘する「USA」等の表示は,本件ファスナーのスライダー部分裏面に刻印されているもので,同表面に大きく刻印されている本件商標「CROWN」とは関係のない構成となっている。したがって,原判決の「『CROWN』と『USA』又は『MADEINUSA』とが全体として一の商標を構成し,商標法53条1項にいう『登録商標に類似する商標』に当たると認めることは,困難である。」(23頁6行〜8行)とした判断は,正当である。
イ 不正競争防止法2条1項13号該当性につき原判決は,商標法第53条該当性を否定しながらも,「しかしながら,プル部分の裏側の『USA』等の表示は,不正競争防止法2条1項13号の原産地等誤認惹起行為に該当する可能性がある。」(23頁9行〜10行)と判示する。この点に関し,被控訴人の使用に至る経緯,使用の状況,復刻品という商品の特殊性,被控訴人商品の市場での評価,アメリカンカジュアル衣料業界における事情等々に基づく主張が採用されなかったことについては残念であるが,仮に,不正競争防止法2条1項13号に該当する可能性のある行為であったとしても,次のウで述べるとおり対応する措置を行っている。
ウ 被控訴人の対応等につき(ア)被控訴人が本件ファスナーのスライダー部裏面に「USA」等の文字を刻印したのは,本件ファスナーが取り付けられている被控訴人の商品(フライトジャケット)について,品質や機能においてはもちろん,デザイン的にも原型品(旧米軍の軍用服)をより忠実に再現しようとする復刻品本来の理念及び当業界の慣習に基づくもので,エンブレムやステッチ,又は「U.S.AIR FORCE」の文字等の米国的図柄や文字と同様に,デザイン要素の一つとして考え,その再現にこだわった結果であるにすぎない。
そして,被控訴人は,被控訴人の商品(フライトジャケット)及び本件ファスナーがヴィンテージ品若しくは消滅した米国クラウン社製のデッドストック物であるかのような販売方法を採ったことは一切なく,商品の宣伝や販売に当たっては,すべての場面において,復刻品であることを例外なく銘打っているのである。また,1部品である本件ファスナー(単体での販売は,修理交換用を除き行っていない)に刻印した「CROWN」商標の使用についても,消滅した米国クラウン社の商標との違いを明確にするため,商品説明書やパンフレットにおいて,本件商標権(登録第2428270号)についての専用使用権に基づくものであることを明記している。
(イ)被控訴人は,本件訴訟途中において,控訴人からその指摘を受けるまで,このスライダー裏面に小さく刻印された「USA」等の文字が原産地表示に当たるとの認識は全く持ち合わせていなかったというのが正直なところである。もちろん,商品の販売開始から現在に至るまで取引者や需用者からもそのような疑問や指摘を受けたことは一切なく,また,平成15年10月に,本件ファスナー現品,同説明書,同カタログを控訴人に送った際にも,控訴人からそのような指摘を受けることはなかった。さらにいえば,本件訴訟が提起された時点においても控訴人から同様の指摘はなかったのであり,当該表示が原産国につき誤認混同を招くとの指摘を受けたのは,和解協議や審理の流れの中で,控訴人が予備的請求原因を追加してきた時が初めてである。
(ウ)控訴人の指摘を受け,その指摘の正否はともかく,被控訴人は,平成19年3月29日に,本件ファスナーの製造委託をしている山崎商事株式会社に,スライダーの裏面に刻印されている「USA」等の文字を削除するよう指示を出し,そのサンプルも控訴人に提示している。この措置は,控訴人が平成19年5月29日付で,本件契約の解除を内容証明郵便で通知してきた以前の対応である。
また,被控訴人のホームページの表記についても,商品の特徴や機構を説明する中で,消滅したクラウン社のことや,原型となった同社商品を説明する必要から使ったもので,特に問題があるとは思わなかったが,「クラウン社製」との文字を削除するなど可能な限りの措置をとった。
(エ)このように,被控訴人は,契約締結から現在に至るまで,でき得る限り控訴人の要求に応えてきたのであって,本件契約関係につき背信的行為があったなどということは決してない。
本件訴訟における控訴人の主張は,被控訴人との間で締結した本件契約を終了させ,より有利な相手と契約したいがための口実であって,トイズマッコイに対する使用許諾を得られただけでは,控訴人のこのような目論見が全く達成できないからに外ならない。
エしたがって,原判決の「本件ファスナーの『MADEINUSA』又は『USA』の表示をとらえて,本件契約の本旨に反する契約違反行為であり,本件契約の解除事由があるとまで認めることはできない。」(25頁3行〜5行)とした判断は,結論において正当である。
第4当裁判所の判断1当裁判所も,原判決と同様の理由により,控訴人の本訴請求及び被控訴人の反訴請求を認容すべきものと判断する。その理由は,以下のとおり改めるほか,原判決14頁13行〜26頁5行(「第3当裁判所の判断」)記載のとおりであるから,これを引用する。
2錯誤無効の主張について(1) 原判決18頁12行〜23行を,次の(2)のとおり改める。
(2)「ア控訴人の主張は,Bから紹介された相手方と思って被控訴人と本件契約を締結したが,被控訴人は,Bから紹介された相手方でなかったから錯誤があるというものである。
しかし,原判決14頁15行〜18頁10行の認定事実によると,控訴人は,被控訴人を本件契約の当事者と認識し,被控訴人と契約を締結する意思で本件契約を締結したことは明らかであるから,契約の相手方自体には錯誤はない。
控訴人の主張は,その相手方がBから紹介された者であるかどうかという点に錯誤があったというものであるところ,このような錯誤は,契約を締結するに至った動機に関する錯誤にすぎないものである。意思表示の動機は,表意者が当該意思表示の内容として契約の相手方に表示した場合でない限り,法律行為の要素とはならない(最高裁昭和29年11月26日第二小法廷判決・民集8巻11号2087頁)ところ,相手方である被控訴人に,本件契約締結までに,本件契約の相手方がBから紹介された者であるかどうかという点が表示されたことはない(原判決16頁8行〜10行)から,これが法律行為の要素の錯誤となるとは認められず,本件契約が無効になることはない。
イ控訴人は,専用使用権は,物権的な権利であり,排他性を有しているものであって,いったん設定した後は,その範囲内においては,商標権者ですらその登録商標を使用することができなくなるものであり,加えて,商標法53条により,商標権者には使用権者による登録商標の使用を監督する義務が課されているから,控訴人が本件契約によって商標権の専用使用権を設定したということは,上記のような登録商標の使用についての重大な制約と,使用権者に対する厳格な監督義務を自らに課すということを意味する,と主張し,この主張に基づいて,Bから紹介された相手方と思って被控訴人と本件契約を締結したが,被控訴人は,Bから紹介された相手方でなかったことは,要素の錯誤に該当すると主張するが,専用使用権の内容やそれに伴う商標権者の義務が控訴人が主張するようなものであることは,上記アの認定を左右するものではない。
ウしたがって,控訴人の錯誤の主張は理由がない。」3 商標法53条及び不正競争防止法2条1項13号の各該当性について(1) 原判決22頁下1行〜23頁15行を,次の(2)のとおり改める。
(2) 「イ商標法53条該当性の有無商標法53条1項は,「専用使用権者又は通常使用権者が指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは,何人も,当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。ただし,当該商標権者がその事実を知らなかった場合において,相当の注意をしていたときは,この限りでない。」と規定している。したがって,同項に該当するためには,「登録商標又はこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」をすることが必要である。
本件ファスナーは,スライダーの本体部分又はプル部分の各表側に本件商標の刻印が,同裏側に「USA」又は「MADEINUSA」の刻印があり(原判決19頁8行〜11行),「CROWN」と「USA」又は「MADEINUSA」とが連続しているとか,一体の商標と認められる程度に近接して表されているということはできないから,「CROWN」と「USA」又は「MADEINUSA」とが全体として一つの商標を構成していると認めることはできない。したがって,本件ファスナーには,「CROWN」という登録商標が付されているものの,「CROWN」と「USA」又は「MADEINUSA」とが一体となった「登録商標に類似する商標」が付されているということはできない。そして,「CROWN」という登録商標のみから,商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるということもできないから,被控訴人が「登録商標又はこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」をしたということはできず,商標法53条1項に該当する事実は認められない。
以上のとおり,商標法53条1項に該当する事実が認められないのであるから,同項を理由に取消請求をされる危険があるということはできないのであって,この取消請求をされる危険があることを理由とする控訴人の主張はいずれも採用することができない。
ウ不正競争防止法2条1項13号該当性の有無(ア)被控訴人が本件ファスナーに「USA」又は「MADEINUSA」の表示を付した行為(原判決19頁8行〜11行)は,不正競争防止法2条1項13号が規定する原産地を誤認させるような表示をする行為に当たる。
また,?@上記の被控訴人が本件ファスナーに「USA」又は「MADEINUSA」の表示を付した行為,?A被控訴人が商品カタログにおいて「フロントファスナー:クラウン社製スプリングカムロック式」の表示をした行為(原判決20頁7行〜8行),?B被控訴人がホームページにおいて「クラウン社製スプリングカムロック式ジッパー」(原判決20頁18行〜20行)の表示をした行為は,本件ファスナーが,クラウン社製のファスナーのヴィンテージ物と誤信されるおそれがある行為であるから,不正競争防止法2条1項13号が規定する内容又は品質を誤認させるような表示をする行為に当たる。」4 契約解除の有効性の有無(1) 原判決24頁6行〜25頁6行を,次の(2)のとおり改める。
(2) 「エ 解除の有効性について(ア)上記(2)のとおり,被控訴人には不正競争防止法2条1項13号に該当する行為が存する。
しかし,不正競争防止法2条1項13号該当する行為があるからといって,商標法等には,そのことから直ちに商標登録の取消しを求めることができる規定があるわけでないから,控訴人が本件商標登録を取り消される危険があるということはできない。そして,このことに次の(イ)から(エ)の各事実を総合すると,本件契約を解除することを相当とする事由があったということはできないから,控訴人からの解除は認められないというべきである。
(イ)被控訴人は,米軍のフライトジャケット愛好家のために,その細部に至るまで忠実に再現しようとして,本件ファスナーの裏側の「USA」や「MADEINUSA」の刻印まで再現したものである(原判決19頁4行〜11行)。そして,被控訴人は,被控訴人の商品を復刻品であると明示して販売しており,被控訴人の商品の直接購入者の多くもそのようなものとして受け止めている(原判決19頁12行〜21頁4行)。これらの事実は,本件ファスナーについて原産地,内容,品質の誤認を生じることを妨げる重要な事実であるということができる。
この点について控訴人は,本件ファスナーが使用されたジャケットの流通量が多いことを主張するが,そうであるとしても,被控訴人の商品の直接購入者の多くは,上記のとおり復刻品として受け止めるのであって,また,流通先においても,必ずしも復刻品として受け止められないということにはならないというべきである。
(ウ)控訴人は,平成15年10月に,被控訴人から「USA」等と刻印された本件ファスナー,その説明書及びカタログを受領した(原判決16頁16行〜20行)。
そして,控訴人は,本件訴訟の原審における平成18年11月13日付け第一準備書面において,本件ファスナーに「USA」等と刻印されていることや商品カタログの記載を理由として,催告をすることなく本件契約を解除する旨の意思表示(平成18年11月解除)をしたのであって,それまで,上記(2)の本件ファスナーについての原産地,内容,品質の誤認を生じさせる行為を問題として被控訴人に対して中止を求めたことはない。
この点について控訴人は,被控訴人がアメリカ製の輸入製品に本件商標である「CROWN」を使用していると誤認してしまったと主張するが,上記のとおり被控訴人は被控訴人の商品を復刻品であると明示して販売しているのであるから,控訴人がアメリカ製の輸入製品であると誤認したとの上記主張は直ちに採用し難く,仮にそのように誤認したとしても,被控訴人に問い合わせるなどすればアメリカ製かどうかは容易に判明するものと考えられる。
そうすると,上記(2)の本件ファスナーについて原産地,内容,品質の誤認を生じさせる行為について,控訴人は,3年以上にわたって問題としようとすればできたにもかかわらず問題としなかったところ,本件訴訟の途中である平成18年11月に,催告をすることなく本件契約解除の意思表示をし,さらに平成19年5月にも解除の意思表示をしたものであって,このような経緯からすると,上記(2)の本件ファスナーについて原産地,内容,品質の誤認を生じさせる行為を解除事由として重く見ることはできないというべきである。
(エ)被控訴人は,上記(ウ)の平成18年11月解除と平成19年5月解除の間である平成19年3月29日に,山崎商事に対し,スライダーの本体部分裏側又はプル部分裏側に刻印された「USA」又は「MADEINUSA」の文字を削除するようにとの指示をし,新たな金型が製作されて,その金型による納品が開始されている(原判決21頁17行〜24行)。また,被控訴人は,遅くとも平成19年7月には,ホームページ上にあった「クラウン社製」の文字を削除するなどしている(原判決22頁5行〜9行)。なお,控訴人は,山崎商事は「服飾付属品製造卸総合商社」であると主張するが,そうであるからといって,同社に対する指示によって,スライダーの本体部分裏側又はプル部分裏側に刻印された「USA」又は「MADEINUSA」の文字を削除することが行われないということはできないから,このことは,上記認定を左右するものではない。
上記(ウ)における控訴人側の対応に照らしてみると,被控訴人の上記措置が不相当に遅延したものとまで認めることはできないのであって,被控訴人が上記措置を採っていることは,解除を妨げる事情というべきである。
この点について,控訴人は,被控訴人は,2007年秋冬物ジャケットにおいて依然として「USA」等の刻印の入ったファスナーが使用された商品を流通させるに至っており,その商品の回収を図る等の措置を一切講じていないと主張するが,そうであるとしても,これまでに述べた事情に照らすと,解除を認めることはできない。」2よって,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 澁谷勝海
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