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事件 平成 15年 (ワ) 11200号 商標権侵害差止等請求事件
原告 住友ゴム工業株式会社
訴訟代理人弁護士 小松陽一郎
同 福田あやこ
被告 クレス株式会社
訴訟代理人弁護士 大水勇
同 姜永守
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/11/30
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は、ゴルフクラブ、キャディーバッグ若しくはゴルフボールに別紙標章目録1及び2記載の標章を付し、又は同標章を付したゴルフクラブ、キャディーバッグ若しくはゴルフボールを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸入し、又はインターネットを通じて提供してはならない。
2 被告は、ゴルフクラブ、キャディーバッグ又はゴルフボールに関する宣伝用カタログその他の広告物に別紙標章目録1及び2記載の標章を表示して頒布してはならない。
3 被告は、第1項記載のゴルフクラブ、キャディーバッグ、ゴルフボール及び第2項記載の広告物を廃棄せよ。
4 被告は、ゴルフクラブ若しくはキャディーバッグに別紙標章目録3記載の標章を付し、又は同標章を付したゴルフクラブ又はキャディーバッグを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸入し、又はインターネットを通じて提供してはならない。
5 被告は、ゴルフクラブ又はキャディーバッグに関する宣伝用カタログその他の広告物に別紙標章目録3記載の標章を表示して頒布してはならない。
6 被告は、第4項記載のゴルフクラブ、キャディーバッグ及び第5項記載の広告物を廃棄せよ。
7 被告は、原告に対し、金900万円及びこれに対する平成15年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8 訴訟費用は被告の負担とする。
9 この判決は、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
主文第1ないし第7項と同旨
事案の概要
本件は、別紙商標目録1ないし5記載の各商標の商標権者である原告が、別紙標章目録1ないし3記載の各標章を使用した製品を輸入し譲渡している被告に対し、上記各商標権に基づきそれらの行為の差止めと製品及び広告物の廃棄を求めるとともに、損害賠償(附帯請求の起算日は訴状送達の日の翌日)を請求している事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 当事者等 ア 原告は、各種タイヤ・チューブの製造及び販売、工業用・家庭用・医療用その他各種ゴム製品の製造及び販売、各種スポーツ用品の製造及び販売等を業とする株式会社である。
原告は、元は後記の英国ダンロップ社の日本法人として大正年間に設立された法人であり、昭和12年に「日本ダンロップ護謨株式会社」の商号になったが、その後、住友グループの傘下に入り、昭和38年に現在の商号に変更された。
なお、原告の関連会社として販売担当の株式会社日本ダンロップが存在したが、グループ再編により、原告のスポーツ用品事業部門として、平成15年にSRIスポーツ株式会社(以下「SRI社」という。)が設立された。
イ 被告は、情報処理・情報通信機器の企画・製造・販売、スポーツ用品の製造・販売及び輸出入等を業とする株式会社である。
ウ 英国のDunlop Limited社(以下「DL社」という。)は、タイヤ用品、
各種スポーツ用品等の製造販売を行っており、我が国においても、原告にタイヤ用品に関する技術援助を行ったり、各種スポーツ用品を輸出したりしていた。DL社の関連会社として、持株会社である英国のダンロップ・ホールディングス・パブリック・リミテッド・カンパニー(Dunlop Holdings Public Limited Company社。以下「DHPLC」社といい、「DL社」と併せて、あるいはその一方のみを指して「英国ダンロップ社」ということがある。)及びDL社と同じ住所で英国特許庁に商標権者として登録されている英国のダンロップ・ホールディングス・リミテッド社(Dunlop Holdings Ltd社。以下「DHL社」という。)がある。DL社は我が国において別紙商標目録4及び5の商標の商標権を保有し、DHPLC社は我が国において別紙商標目録1及び2の商標の商標権を保有していたが、昭和59年12月、これらを原告に譲渡した。なお、このとき原告に譲渡された商標権は、当時、
我が国、台湾及び韓国において使用されているダンロップに関連する商標権すべてである。
英国ダンロップ社は、子会社としてDunlop Slazenger International Ltd社(以下「DSIL社」という。)を設立した。平成7年にDunlop Slazenger Group Ltd社(以下「DSGL社」という。)が設立されたとき、DSIL社はDSGL社の子会社となった。
DSGL社は、欧州において、スポーツ用品等に関し、ダンロップに関連する商標権を有している。また、アジア地域にいくつかの支店を置いているが、
マレーシアに置いているのは、Dunlop Slazenger(Far East)Sdn Bhd社(以下「DSFE社」という。)である。
(2) 商標権 原告は、次の商標権(以下、それぞれ「原告商標権1」等と、また、各登録商標を「原告商標1」等といい、原告商標権1ないし5を併せて「原告商標権」と、原告商標1ないし5を併せて「原告登録商標」という。)を有している。
ア 原告商標権1 @ 商標登録 第0289538号 A 出願年月日 昭和11年2月28日 B 商品の区分 (大正10年法分類)第65類 C 指定商品 テニスボール、ゴルフボール、其ノ他本類ニ属スル運動具 D 登録年月日 昭和12年5月1日 E 登録商標 別紙商標目録1記載のとおり イ 原告商標権2 @ 商標登録 第0599611号 A 出願年月日 昭和36年4月26日 B 商品の区分 (昭和34年法分類)第24類 C 指定商品 おもちゃ、人形、娯楽用具、運動具、釣り具、楽器、演奏補助品、蓄音機(電気蓄音機を除く)レコード、これらの部品及び附属品 D 登録年月日 昭和37年10月24日 E 登録商標 別紙商標目録2記載のとおり ウ 原告商標権3 @ 商標登録 第2572628号 A 出願年月日 平成1年8月14日 B 商品の区分 (昭和34年法分類)第24類 C 指定商品 おもちゃ、人形、娯楽用具、運動具、釣具、楽器、演奏補助品、蓄音器、レコード、これらの部品および附属品 D 登録年月日 平成5年9月30日 E 登録商標 別紙商標目録3記載のとおり エ 原告商標権4 @ 商標登録 第0152484号 A 出願年月日 大正11年10月14日 B 商品の区分 (国際分類第8版)第28類 C 指定商品 運動用具(体育用器械器具・体操用器械器具・スケート靴・スターターピストルを除く。)、野球用具、まり、硬式ボール、軟式ボール、
テニス用具、剣道用具、柔道用具、弓、ビリヤード用具 D 登録年月日 大正12年5月12日 E 登録商標 別紙商標目録4記載のとおり オ 原告商標権5 @ 商標登録 第1595834号 A 出願年月日 昭和55年3月12日 B 商品の区分 (昭和34年法分類)第24類 C 指定商品 おもちゃ、人形、娯楽用具、運動具、釣り具、楽器、演奏補助品、蓄音機、レコード、これらの部品及び附属品 D 登録年月日 昭和58年6月30日 E 登録商標 別紙商標目録5記載のとおり (3) 被告の行為 ア 被告は、別紙標章目録1及び2記載の標章(以下、それぞれ「被告標章1」、「被告標章2」という。)が付されたゴルフクラブ、キャディーバッグ及びゴルフボールを輸入し、日本国内で販売した。また、被告は、別紙標章目録3記載の標章(以下「被告標章3」といい、被告標章1ないし3を併せて「被告標章」という。)が付されたゴルフクラブ及びキャディーバッグを輸入し、日本国内で販売した(以下、被告標章1及び2の付されたゴルフクラブ、キャディーバッグ及びゴルフボール、被告標章3の付されたゴルフクラブ及びキャディーバッグを総称して「被告製品」という。)。
イ 被告標章1は原告商標1及び3と外観称呼において同一又は類似であり、被告標章2は原告商標2と外観において同一又は類似である。
ウ 被告標章3は原告商標4及び5と外観称呼において同一又は類似である。
(4) 被告は、被告製品の販売により、900万円を下らない利益を得た。
2 争点 (1) 被告の行為は、実質的にみて真正商品の並行輸入に準じるものとして、違法性が阻却されるか(真正商品の並行輸入の抗弁)。
(2) 原告の本件請求は、権利の濫用として許されないか(権利濫用の抗弁)。
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(真正商品の並行輸入の抗弁)について 【被告の主張】 (1) 原告登録商標及び被告標章は、いずれも英国ダンロップ社を起源とし、現在に至るまで、ゴルフ用品分野で世界的な通用性を有している商標である。原告登録商標は、原告商標3を除き、英国ダンロップ社が出願し、商標権者であった。原告は、英国ダンロップ社が資本投下して設立した日本法人に、原告の母体である住友グループが資本参加して発足し、その後、英国ダンロップ社が原告から資本及び経営を撤退するに当たって、日本・韓国・台湾での商標権を英国ダンロップ社から譲り受けたものである。一方、被告標章も英国ダンロップ社を起源とし、世界各国で商標権登録されているものであり、被告製品は、そのような被告標章を外国権利者から許諾を受けたライセンシーが適法に付して拡布したものである。以下に詳述するように、本件は、厳密な意味での真正商品の並行輸入の事案ではないが、実質的には、真正商品の並行輸入に準じて違法性が阻却されるものというべきである。
(2) 被告製品が真正商品であること 被告製品は、マレーシアのDSFE社がシンガポールのSports Network Pte Ltd社(以下「SNPL」社という。)に販売委託契約に基づいて供給し、SNPL社がシンガポールのSher International Pte Ltd社(以下「SIPL社」という。)に売却した製品を、被告がSIPL社から買い付けて日本に輸入したものである。
DSFE社は、英国のDSGL社が東南アジア地域における商品展開のために設立したグループ会社であり、シンガポールを含む東南アジア地域において被告標章と同一の商標を管理し、使用する権限を有し、ゴルフ用品の製造販売を行っている。
すなわち、被告製品は、被告標章と同一の商標につき使用権限を有しているDSFE社及び同社からシンガポールでの独占的な販売委託を受けたSNPL社によってシンガポールで拡布された真正商品である。
(3) 内外権利者の出所の同一性について ア 原告登録商標、すなわち、「DUNLOP」商標(原告商標1、3)、
「MAXFLI」商標(原告商標4、5)及び「Dマーク商標」(原告商標2)は、英国ダンロップ社から原告にその商標権が譲渡された当時、既に世界各国で商標登録され、世界的な著名ブランドとしての地位を確立していた。原告は、そのような世界的に著名となっていた原告登録商標の価値に着目して、英国ダンロップ社が日本から撤退するに際して、資本と共に原告商標権を英国ダンロップ社から譲り受けたものである(ただし、原告商標3については原告自身で出願し、商標登録を受けた。)。
イ 英国ダンロップ社と、原告商標4あるいは5と同一又は類似の商標(MAXFLI商標)の商標権を保有していたDHL社とは、実質的に同一の法主体であるということができる。DSGL社は、DHL社からMAXFLI商標の商標権を譲渡され、欧州において商標登録し、被告標章1、2及びこれらに「SPORT」の文字を組み合わせた商標(以下「DUNLOP SPORT商標」といい、
これらと原告商標1及び2と同一又は類似の商標を併せて「DUNLOP商標」という。)を登録出願した。DSGL社は、アジア地域で同社のグループ会社にDUNLOP商標やMAXFLI商標を付した商品の管理等をさせており、マレーシアの場合にはDSFE社をその事務所としていた。
ウ 原告は、英国ダンロップ社から商標権を譲り受けた後も、少なくとも当時から世界各国のダンロップグループにおいて主力商品(全商品売上高の70%以上を占める。)であったタイヤの分野では、英国やフランスのダンロップ社の技術研究所や工場を買い取ってこれらの国のダンロップ社に技術供与するとともに、欧州地域におけるDUNLOP商標の使用権を獲得し、英国ダンロップ社と原告の相互製造委託により欧州地域でタイヤの販売を行ってきた。また、原告は、欧州での経営に着手した翌年には、米国のダンロップ社にも資本参入して経営に携わってきた。
エ さらに、原告は、平成15年7月まで、DUNLOP商標やMAXFLI商標を使用したスポーツ用品の販売に際して、「株式会社日本ダンロップ」という商号を使用してきており、これらのスポーツ用品の広告に原告の商号は表示されていない。すなわち、原告は、DUNLOP商標やMAXFLI商標が世界規模で使用されていることを、スポーツ用品の販売に当たり利用してきたものである。原告登録商標を使用したスポーツ用品の広告に株式会社日本ダンロップ(以下「日本ダンロップ社」という。)との商号が併記されているのを見た需要者は、日本ダンロップ社が海外のダンロップ社の日本法人で、海外のダンロップ社が商標の出所であるとの印象を抱くのが通常である。DUNLOP商標もMAXFLI商標も西洋的な語感を有している上、前者は昭和12年、後者は大正12年の日本で商標登録がされており、原告が原告商標権取得してから20年程度であるのに比してはるかに長期間(後者については50年以上)英国ダンロップ社がこれら商標を保有し、
使用してきたものである。
このような事実からすれば、原告が原告商標権を譲り受けた後に独自にゴルフクラブ等を開発・製造し、多額の広告宣伝費等を投下してきたとしても、原告登録商標が原告の出所を示しているとの認識が国内で一般に形成されたことにはならない。商標を使用する商品の種類にかかわらず、DUNLOP商標やMAXFLI商標の示す出所が海外のダンロップ社であることに変わりはない。
オ 原告は、DSFE社製のテニスラケットを輸入して販売している。原告商標権1ないし3は、ゴルフ用品だけではなく、テニス用品も指定商品とされており、原告商標1ないし3は現に原告のテニス用品にも使用されている。テニス用品とゴルフ用品とは、共にスポーツ用品であって、需要者層も相当程度重複する。しかも、原告は、次のとおり、上記のDSFE社製のテニスラケットの輸入販売に当たって、原告とDSFE社との間の業務の混同や品質誤認を自ら招く行為を行い、
これを自己の利益の拡大のために利用してきた。すなわち、
(ア) 原告のスポーツ用品事業部門における完全子会社のSRI社は、現在も「DUNLOP200G」及び「DUNLOP300G」という名称のテニスラケット(以下、この2種類のテニスラケットを総称して「Gシリーズラケット」という。)をDSFE社から輸入しているが、国内での販売に際し、SRI社を製造元と表記した取扱説明書兼品質保証書を付している(なお、SRI社が設立される前には、原告及び日本ダンロップ社が製造元と表記されていた。)。
しかしながら、これらのGシリーズラケットは、原告の製品ではなく、DSGL社等(以下、DSGL社、DSFE社等を含めたグループを「DS社」と総称する。)が国外で製造し、被告標章を付して拡布したDUNLOPの国外商標商品であって、原告やSRI社が製造工程や品質管理過程に関わっているわけではない。
(イ) また、原告は、自社のインターネットのホームページ上のGシリーズラケットの広告宣伝の欄において、Gシリーズラケットの製造においてDS社が用いた特殊な樹脂を用いた技術(「ホットメルトテクノロジー」という名称を有する、外国特許発明を利用したDS社のテニスラケットフレームの製造工程における技術)を説明しているが、その具体的特徴などはDS社の商品カタログに記載されている内容とほぼ同一である。さらに、原告のインターネットのホームページ上で、Gシリーズラケット使用選手として、DSGL社の契約プロを紹介している。
これらの原告の行為は、原告の主張によれば原告と全く無関係のDS社との間で、内外のDUNLOP商標が実質的に同一であることを巧みに利用して、
業務の混同を招き、DS社が有する業務上の信用や顧客吸引力を原告自身のものになるようにして、利益を享受しようとするものである。原告がGシリーズラケットを利用し、DS社との間で業務を混同させて利益を得ているのは、国内外のDUNLOP商標の出所識別機能品質保証機能に実質的な差異がないからにほかならない。
カ 以上の諸事情にかんがみるならば、原告と被告製品の出所主体であるDSFE社との間には法律的にみて同一性があるということができる。
(4) 内外品質の同一性について ア 被告製品は、英国ダンロップ社から発展したDSGL社やそのグループ会社のDSFE社を製造元としており、その品質管理を受けている製品である。
原告とDSGL社が、原告の主張するように経営上一切関係がないとすれば、原告が海外のDUNLOPブランドのゴルフ用品に直接的又は間接的に品質管理を及ぼし得る立場にはないと考えられる。しかし、本件は、純粋な真正商品の並行輸入とは事案が異なり、原告による品質管理が被告製品に及び得るか否かは問題とならない。また、原告は、ゴルフ用品の分野で最近独自のブランドを使用し、
原告登録商標をゴルフ用品にほとんど用いていないから、消費者は、原告登録商標使用商品について、元々英国ダンロップ社が製品に及ぼしていた以上のレベルの原告による独自の品質管理が及んでいることを期待もしていない。
したがって、本件の場合、純粋に被告製品を購入した消費者が、DUNLOP商標やMAXFLI商標に対する期待や信頼を裏切られたと感じるか否かという観点から、実質的な品質の差異の有無を論じるべきである。
この点、被告製品は、世界的な商標の保有者として地位を確立していた英国ダンロップ社から発展した世界的なゴルフ用品メーカーであるDSGL社ないしDSFE社を製造元とする良品である。実際の品質を比較してみても、原告登録商標を付したゴルフ用品は、現在中国や台湾などの海外で製造されているものであるから、被告製品との間にほとんど差異がない。被告以外の販売業者から被告製品やDSGL社ないしDSFE社によって供給されている海外製品を購入した消費者や、日本のゴルフプロも、値段の割には高級感があり使いやすいとか、日本の製品と比べても打球がよく飛ぶなどと賞賛している。
以上の点からすれば、被告製品と原告が日本国内で原告商標を付して販売している製品との間に、実質的な差異はないといえる。
イ 原告は、被告製品にはSGマーク(Safety Goodsマーク)が付されていないことや、被告製品が財団法人日本ゴルフ協会の発行するゴルフ規則の付属規則中のクラブのフェース溝の深さの規定に違反していることなどをもって、被告製品は実際の品質においても原告製品とは明らかに異なる旨主張する。
しかし、SGマークは、日本国内の法人である製品安全協会が定めた認定基準に基づき事前に審査を受けた製品又は事前に審査を受け登録された工場において製造された製品に付されるものである。国内製品でさえSGマーク認定基準の適合性について審査を受けることを義務付けられているわけではないことからしても、海外で製造販売されている被告製品に付されていないのは当然であり、SGマークが付されていないことがその安全性に疑問を抱かせる根拠とはならない。
クラブのフェース溝の深さの違いは、製造国ごとのルールの違いに由来する僅少な差異であり、外国製品である被告製品が日本のゴルフ規則に違反しているか否かは、品質そのものの差異を決定づけるものではない。
(5) 被告による被告製品の輸入行為は、いわゆる真正商品の並行輸入とは厳密な意味では異なるが、実質的にこれに準じるものとして違法性が阻却されるものというべきである。原告が引用する最高裁平成15年2月27日判決の判示を本件に形式的に適用するのは誤りである。本件は、元は世界で一つであったDUNLOP等の著名な商標の権利主体が世界の各地域に分属してしまった特殊な事例であり、
上記判決の事案のような純粋に真正商品の並行輸入の問題として処理すべき事案ではないのである。原告は、営業政策上、高い宣伝広告効果等を得るために、DUNLOP商標等を巧みに利用して海外権利者であるDS社との業務主体の混同を招くような行為を行ってきたのであるから、上記最高裁判決の示す要件を欠くことを理由に原告が原告商標権を行使するのは信義に反する。
さらに、原告の本件請求が認容されるとすれば、世界の一部の国で商標権を譲り受けたにすぎない原告が、海外製品の輸入販売という国内での競争まで排除し、市場競争による価格統制機能を失わせて価格を独占的に設定できることになる。仮に、高い価格で世界中のDUNLOP商標を統一的に譲り受けていた場合は並行輸入品の国内流入による価格破壊の脅威にさらされねばならなかったのに、一部地域の商標権だけをより安価で取得したにすぎない場合には、海外権利者からの輸入品の国内市場への流入を懸念することなく価格を独占的に統制できることになるが、これでは商標権取得の対価が少ない方が利益を享受できる結果となって、均衡を欠く。また、被告製品の輸入差止請求が認容されるとすれば、原告だけが、海外の優良品メーカーであるDS社の商標商品を輸入して国内市場で販売できることになり、輸入業者間の競争が完全に排除される。これは本来の譲渡契約(一部の国に限定したDUNLOP商標権の譲渡)の効力を超えた利益を原告に与えるものであり、需要者の利益も害する。輸入差止めを許容することは、本来原告が享受できるはずのないDS社製品の国内販売独占の作出という利益を与え、客観的に公正な競争秩序を維持し需要者の利益を保護するという商標法の目的に反する結果を招来する。原告は、一部の国や地域での商標権譲渡しか受けなかったから、早晩国外で製造されたDUNLOPの商標商品が海外市場での国内業者の直接取引によって国内に輸入されるに至ると認識し得たはずで、そのような事態が生じることを黙示的に同意していたということができる。
以上のとおり、被告による被告製品の輸入販売行為は、実質的にみて、原告登録商標の出所表示機能品質保証機能を阻害するほどの違法性がない。
【原告の主張】 (1) いわゆる真正商品の並行輸入が商標権侵害としての違法性を欠くとされるための要件は、最高裁判所平成15年2月27日第一小法廷判決・民集57巻2号125頁が判示したところである。それによれば、「@当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり(真正商品性)、A当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって(内外権利者の同一性)、B我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから、当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合(内外品質の同一性)には、いわゆる真正商品の並行輸入として、商標権侵害としての実質的違法性を欠くものと解するのが相当である。」とされている。
しかし、被告製品はこれらの要件をいずれも欠いているから、被告製品の輸入販売行為について違法性が阻却されることはない。
(2) 真正商品性 ア 被告が主張する被告製品の流通経路について、原告は知らない。しかし、本件で提出された証拠(乙4、5)によれば、被告が被告製品を購入したシンガポールのSIPL社は、その所在地が購入先とされる同国のSNPL社と同一であり、また、SNPL社からSIPL社への被告製品売却日とSIPL社から被告への販売日とが同日となっている。これらの点からすれば、SIPL社なる会社は、実在しないか、あるいは実在するとしてもいわゆるペーパーカンパニーにすぎないのではないかとの疑問が生じる。
イ ところで、原告の調査によれば、シンガポールにおけるDUNLOP商標の商標権者は、BTR Industries Limited社(以下「BTR社」という。)である。被告は、BTR社とのライセンス契約について立証していないから、被告製品に付された標章が「外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により付された」ことが立証されていない。
ウ よって、被告製品について「真正商品性」の要件は具備されていない。
(3) 内外権利者の同一性 ア(ア) 被告は、内外権利者の同一性の要件に関して、原告と被告製品の出所主体であるDSFE社との間には法律的な同一性があると主張し、その根拠として、原告の有する商標権の商標と、DSGL社やDSFE社の有する商標権の商標は起源を同じくすることや、原告が世界のダンロップ関連会社のタイヤ部門を買収し、技術提携しあるいは資本参加していることなどを指摘する。
しかしながら、原告は、世界のダンロップ関連会社のスポーツ用品等の分野において、買収、技術提携あるいは資本参加を行った事実はない。タイヤ部門における買収、技術提携あるいは資本参加等の事実をもって、法律的な同一性を肯定することはできない。
(イ) 原告の有する商標とDSGL社やDSFE社の有する商標は、起源を同じくするものの、両社はその後それぞれに独自の発展を遂げ、経済的にも法的にも全く別のグループに属することとなり、現在、法律的にも経済的にも一体とみなされる関係にはない。
イ 被告が主張するように、単に国内の商標と外国の商標が起源を同じくするからといって、「内外権利者の同一性」の要件を充足することにならないことは、前記最高裁判決からも明らかであるし、商標機能論から導かれる当然の論理的帰結でもある。
すなわち、並行輸入品に付された商標が示す出所は外国商標権者であり、国内商標が示す出所は国内商標権者であって、それぞれの出所は本来別物である。国内商標権者と外国商標権者とが同一である場合に初めて、並行輸入品に付された商標がその出所として国内商標権者をも示すことになり、したがって、国内商標権者の出所識別機能を害することがないということができる。そのため、「国内商標権者と外国商標権者とが同一である」というためには、法律的経済的に密接な関係が認められ、同一人あるいはこれと同視し得るような特殊な関係にあることが必要となる。一度は関連会社であっても、事情により個別に商品を製造販売するに至り、そのまま資本的・経営的に独立し、それぞれが異なる品質の商品に同一商標を用いているような場合には、真正商品の並行輸入ということはできない。
ウ 被告は、原告がDSFE社からGシリーズラケットを輸入している事実を捉えて、種々の主張をしているが、以下のとおり失当である(なお、Gシリーズラケットの製造者はDSGL社であり、DSFE社は販売元である。)。
(ア) Gシリーズラケットの輸入販売について Gシリーズラケットは原告が取り扱っているテニス用品全30製品のうちの2製品にすぎず、原告は、海外の製造業者に製品を発注する場合の発注先の一つとしてDSGL社を選択したにすぎない。
そして、Gシリーズラケットを原告製品として販売する以上、当然、
強度や耐久性等原告独自の品質基準を満たしているかどうかの試験、評価を行い、
他の原告製品と同様、原告の品質保証書を付して販売し、クレーム対応等を行っている。
したがって、原告がGシリーズラケットについて品質管理の過程に関わっていないという被告の主張は事実に反するものである。
被告は、Gシリーズラケットの使用技術について原告がそのカタログで紹介していることを非難するが、原告がGシリーズラケットを自社製品として販売する以上、その使用技術についてカタログにおいて説明をするのは当然のことであって、これについてDSGL社からクレームを受けたことはない。また、カタログにおける技術説明は原告が作成したものであるが、DSGL社から提供を受けた資料に基づいているためDSGL社のカタログとほぼ同一の内容となっている。
(イ) 原告がGシリーズラケットを輸入販売している事情(テニスとゴルフとの違い@) プロゴルフの分野では、日本国内におけるトーナメントが頻繁に行われており、日本国内でのみ活躍するプロ選手がほとんどであるから、原告のようなゴルフ用品のメーカーは、日本のトッププレーヤーとプロ契約を結ぶことで十分な宣伝効果を得ることができる。これに対し、プロテニスの分野では、日本国内における試合よりもむしろ海外で開催されるトーナメントに愛好者の注目が集まる傾向があり、外国人有名選手か、日本人選手であっても海外で活躍する一握りのプロ選手でなければ、十分な宣伝効果を得ることができない。
この違いのため、原告は、テニス用品の分野においては起源を同じくする海外のダンロップ関連メーカーと一定の協力体制を敷くことを余儀なくされた。すなわち、原告は、Gシリーズラケットの輸入販売、DSGL社の契約プロについての分担金の拠出を行っている。
(ウ) ゴルフ用品における独自のグッドウィルの形成(テニスとゴルフの違いA) a 原告が発売しているGシリーズラケットは、原告子会社の品質管理を経ており、かつ、原告子会社の品質保証書が付されて販売されているのであって、原告の商品として販売しているのであるから、原告の商標権を侵害しないことはいうまでもない。
また、原告は、DSGL社製のテニスラケットを輸入販売している関係等を踏まえ、テニス用品に関するカタログにおいて、適法な並行輸入の可能性があることを認め、その場合には当社は一切責任を負わない旨明記している。
b この点、ゴルフ用品については全く事情が異なる。
原告は、昭和59年に商標権を譲り受けた後、営業商標であるDUNLOP商標を中核とし、これと「XXIO」、「SRIXON」、「HI-BRID」等の商品商標(原告が新しく使用した商標。以下「原告独自商標」ともいう。)を組み合わせることによって、かつての前身である英国ダンロップ社とは全く異なる独自のグッドウィルを形成するに至っているのである。
原告のダンロップブランドのゴルフクラブの年間売上は、平成15年には163億6500万円を計上するまでに至っているのに対し、DSGL社のゴルフクラブの年間売上は約10億円程度であると推定され、原告の年間売上と比較するとわずか16分の1にすぎない。原告のゴルフ用品分野における独自ブランドの形成がいかに際だったものであるかは、この点だけをとってみても明らかである。まさに、ゴルフクラブ関係の国内トップブランドなのである。なお、テニスラケットの分野においては、原告の年間売上が約11億円であるのに対し、DSGL社の年間売上は約14億円と推定されている。
このように、テニス用品とゴルフ用品においては、当該スポーツ分野における「契約プロ」のあり方や、内外におけるDUNLOP商標の自他識別能力、顧客吸引力の点において、歴然とした違いがある。
(エ) Gシリーズラケットのように、ごく一部の商品について同一の製品を作ったり、技術提携を行ったり、宣伝広告において協力したりという例もないわけではないが、このような協力関係や取引関係は、原告が行っている他の多数の会社との協力関係、取引関係の中のごく一部にすぎず、この点だけを取り上げて、DUNLOP商標等が付されたすべての商品について内外権利者の商標の出所が同一に帰するという立論は、論理の飛躍がある上に実態にも即していない。
エ したがって、原告と、製造者であるDSGL社やその販売元のDSFE社は、法律的経済的に密接な関係が認められるとか、同一人あるいはこれと同視し得る関係にあるとかいうことはできないし、当初は関連があったということができるとしても、その後は別個独立しているのであるから、内外権利者として同一ということはできない。
(4) 内外品質の同一性 ア 内外品質の同一性とは、商標権者のコントロールによる品質管理を問題とするものであり、客観的には品質が同一であったとしても商標権者の品質管理が及ばない場合には、ここにいう「内外品質の同一性」の要件を満たさない。
この点、原告は、海外におけるDUNLOP商標を使用したゴルフ用品に直接的又は間接的に品質管理を及ぼし得る立場にはない。
イ 念のために、被告製品と原告製品の品質について述べておくと、被告製品には、原告を含むゴルフクラブの主要メーカーが付しているSGマークが付されておらず、安全面に強い疑問がある。SGマークは、構造・材質・使い方などからみて生命又は身体に対して危害を与えるおそれのある製品について、安全な製品として必要なことなどを決めた認定基準に適合していると認められた製品にのみ付されるものであり、その認定基準は認可法人である製品安全協会が定めている。そして、万が一被告製品の商品としての欠陥により人身事故が発生した場合のために、
被害者救済の制度が設けられている。
また、被告製品は、財団法人日本ゴルフ協会が発行したゴルフ規則の付属規則U5cに規定されているインパクトエリアのフェース溝やパンチマークの仕様基準を充足していないため、公式戦等に使用できない。原告は、原告登録商標を付した原告製品が日本の公式戦においても使用できるよう、同規則の各基準を充足させている。
したがって、以上のような問題を持つ被告製品が日本市場に流通することは、原告登録商標の持つ品質保証機能を毀損することは明らかである。
(5) 被告は、商標権を世界の一部地域についてのみ譲渡された場合と、およそ商標権が取得できる範囲すべてにおいてその権利が譲渡された場合を比較し、前者の方が譲渡価格が安いにもかかわらず、並行輸入については得る利益が大きい結果となって均衡を欠く旨主張する。
しかしながら、商標権について一部の地域でしか行使できないとなれば、広い範囲で行使する場合よりも譲渡価格が低額となることは当然である。テリトリー外に製品を輸出する場合にはテリトリー内とは異なる商標を使用しなければならないのである。また、商標権について一部の地域でしか行使できないときは、
当然並行輸入が考慮された上で対価が決定されている。
2 争点(2)(権利濫用の抗弁)について 【被告の主張】 以下の点を総合考慮すれば、被告の行為は、原告に輸入販売の差止め及び損害賠償請求権の行使を認めなければならない程の違法性がなく、原告の請求は権利の濫用である。
(1) 英国ダンロップ社を起源とするDUNLOP商標等の著名性への依拠 ア DUNLOP商標やMAXFLI商標は、英国ダンロップ社を中心とする世界的なダンロップグループがタイヤやその他の商品(スポーツ用品等)を製造販売するに当たり大々的に使用してきた商標であって、様々な商品分野で昭和35年当時既に世界的な名声を獲得していた。
ゴルフ用品分野に関してみても、英国ダンロップ社及び世界各国のグループ企業が、世界各国でゴルフ用品の製造販売を継続し、DUNLOPやMAXFLIの名を冠したゴルフトーナメント等を開催してきたこと、世界的に有名な外国のプロゴルファーが、DUNLOP商標やMAXFLI商標を使用したゴルフ用品を使っていることなどの事情から、DUNLOP商標やMAXFLI商標は世界的著名ブランドといえるほどの信用力を構築していた。
原告がDUNLOP商標権やMAXFLI商標権を譲り受けたのは、日本・韓国・台湾3国のみに限定されており、それ以外の地域においては、依然英国ダンロップ社とその関連会社が各国で商標を保有し続けることになった。
イ 原告は、英国ダンロップ社から原告商標権の譲渡を受けた後も、原告登録商標に化体されたダンロップ商標等の世界的名声や信用力を利用して国内で多額の利益を得てきた。原告は、上記商標権譲受後に、英国を始めとする諸外国のダンロップと無関係に独自の営業努力で、原告登録商標について、国内でゴルフ用品の世界的ブランドといえる程の信用力を構築してきたわけではない。
すなわち、原告は、昭和58年までその社名に「ダンロップ」の文字を使用しており、昭和58年に現在の社名に変更した後も、「株式会社日本ダンロップ」の商号を使用して商品の販売を継続してきた。
原告は、英国ダンロップ社から商標権を譲り受け、経営的に独立したと主張する時期以後も、英国やフランスのダンロップグループにタイヤの技術を供与するとともに、英国ダンロップ社と相互製造委託契約を締結し、欧州と日本でタイヤ製品を共同展開した上、米国でも現地のダンロップ社の資本の過半数を取得し、
同社にも技術援助を行ってきた。このように、原告は数ある指定商品の中でもDUNLOP商標の主力製品であるタイヤについては、商標を英国ダンロップ社から譲り受けた後も海外のダンロップ社と一体となって世界的に商品展開をしてきた。また、自社のホームページのテニスラケットヒストリー欄に、原告が英国ダンロップ社から商標権の譲渡を受ける以前に日本に輸入していた英国ダンロップ社製の「MAXPLY FORT」なるテニスラケットを、「世界の名品、テニスの誇り」と紹介してあたかも自社がこのような名品を製造していたかのごとく、国内の消費者に宣伝している。さらに、原告は、ダンロップの象徴であるDマーク商標(原告商標2)について、海外で同様の商標を使用してタイヤやゴルフ用品等を製造販売している原告以外の権利者がいることを知りながら、同商標がスポーツ用品もその中に含んだ「あらゆるダンロップ商品」に使用されていると述べるなどして、自己と海外のDUNLOP商標権者とを特に区別せず、DUNLOPという商標が主力商品のタイヤに限らず、スポーツ用品を含むあらゆる商品において、あたかも世界規模で原告商品と一体となって展開されているブランドであるかのように消費者にアピールし、顧客を吸引する手段として用いてきたのである。
また、原告は、過去に英国ダンロップ社製のゴルフクラブ等を日本に輸入し販売していた。原告は、相対的に安価な海外のDUNLOP商標及びMAXFLI商標を付した真正ゴルフ用品が海外市場からの直輸入という取引形態で国内に流れるまでは、海外の同商品との品質の差異を強調するなどして、DUNLOP商標やMAXFLI商標のブランドの信用力が海外のそれと国内とで異なるとの宣伝広告をしていたことはなく、むしろ国内での商標権を譲り受ける前後を通じて長年にわたりDUNLOP商標及びMAFLI商標を付したゴルフ用品が世界中において製造販売されてきたこと及び世界的に有名なプロゴルファーが海外のDUNLOPやMAXFLIのゴルフ用品を使用してきたことなどを、国内でこれらの商標を用いたゴルフ用品の製造販売を拡大する手段として利用してきたのである。
ウ 以上のとおり、原告は、過去に英国ダンロップ社が築き上げた世界的名声に依拠し、海外のDUNLOP商標及び権利者の業績を自己と一体化して国内消費者にアピールするという手段を用いながら、他方で被告製品が国内に流入するや、掌を返したように海外のDS社との関連を否定して権利行使することは、禁反言ともいうべき信義に反する行為である。
(2) 原告による原告登録商標使用の実態 原告は、近時、「XXIO」(ゼクシオ)、「SRIXON」(スリクソン)、「HI-BRID」(ハイブリッド)といった 商標ブランド(原告独自商標)をゴルフ用品に新たに用いており、原告登録商標自体はゴルフ用品にほとんど用いておらず、原告商標1ないし3のDUNLOP商標やDマーク商標がコーポレートブランドとして用いられている。原告商標4及び5(MAXFLI商標)については、ゴルフ用品に使用されなくなっているという傾向が一層顕著である。原告が原告独自商標を使用するに至ったのは、原告登録商標を使用する限りにおいては世界のダンロップグループから別個独立した出所主体としての信用力を構築できないことを認めているからにほかならない。原告のゴルフ用品の製造販売や広告の状況からすれば、原告は、XXIO等の原告独自商標を原告登録商標とは別個のゴルフ用品の商標として取引者や需要者に浸透させるように力を注いでおり、XXIOを中心とする原告独自商標のゴルフ用品が原告登録商標を使用して製造販売したゴルフ用品をはるかにしのぐ売上高を上げていることからしても、これらの原告独自商標は、原告登録商標とは全く別個の商標としての商品識別力、品質保証力を備えるに至っている。
被告製品の輸入販売行為によりXXIOブランドの商品等について出所表示機能品質保証機能が阻害されることはあり得ないところであり、上記のような原告登録商標の使用実態に照らせば、被告製品の輸入販売によって原告が実際に損害を被ることはない。このような事実からすれば、国内で次第に認知されつつある原告以外の海外のダンロップ社(DS社等)のゴルフ用品、すなわち被告製品を日本に輸入し販売する機会を全面的に奪ってまで、ゴルフ用品の分野で原告登録商標を保護する必要に乏しい。
(3) 被告製品の品質 被告製品については、前記1の【被告の主張】で主張したとおり、世界的なゴルフ用品のメーカーであるDSGL社のグループによる品質管理が及んでおり、原告登録商標を使用した原告製品と品質的にほとんど差がない。
(4) 被告の販売態様等と消費者の利益 ア 被告は、被告製品の販売に当たって、原告のコーポレートブランドとしてのDUNLOP商標を侵害しないように、英国国旗のマーク及び「英国」との文言を表示するとともに、「ワールドゴルフは、英国・USAダンロップを中心に」「提携先からの直輸入を実行している」という文章を掲載して、被告製品が原告以外の海外の会社の商品であることを消費者に明示している。これにより、営業主体が誰かという観点からみても、消費者の信頼や期待が害される危険はほとんど解消されている。
イ 被告の行為は原告の信用にただ乗りするものではなく、公正なものである。
現在、DSGL社等により世界中で供給されている被告標章使用のゴルフ用品は、被告以外の国内業者と海外業者との直接取引により輸入され、多数販売されており、そのことは消費者にも認識が浸透してきている。元々、世界的規模で同一の権利者によって保有されていた商標につき、権利者の分断が起きたのは、被告や被告から商品を購入する取引者ないし需要者の与り知らないところである。海外製品の良質さに着目し、自らの努力で供給源を獲得して自由な取引を行っている被告の行為は公正そのものである。世界的に見れば分断された一部地域のDUNLOP商標やMAXFLI商標を保有しているにすぎない原告に、被告製品の輸入差止めまで認めれば、世界的なグループ企業として商品を展開しているDSGL社やゴルフ用品という新たな市場を国内で開拓しようとする業者に障壁を築くことになり、国際化の流れに逆行し、国内消費者の利益も害することになる。
(5) 原告によるDS社との業務の混同、商品の品質誤認招来行為 原告の完全子会社であるSRI社がDSFE社からテニスラケットとしてGシリーズラケットを輸入しており、これに関連して原告がDS社との業務の混同や商品の品質誤認を招来する行為をしていることは、前記1の【被告の主張】で主張したとおりである。
(6) 商標法の規定ないし趣旨に反する行為 ア 商標法53条該当行為 SRI社によるGシリーズラケットの輸入販売行為による商品出所の混同の招来は、商標法53条の規定に該当するから、原告商標は登録を取り消されるべきものである。
同条の趣旨は、商標権者が使用許諾を通じて他人の業務に係る商品との出所の混同・品質の誤認の危険を生じさせたときに、商標登録自体を取り消す制裁を科すことで、出所の混同や品質等の誤認を防止する点にあるところ、原告の完全子会社であるSRI社による上記行為は同条に該当するものというべきである。したがって、原告がSRI社にGシリーズラケットを輸入販売させた行為は、商標法53条1項により、原告商標の商標登録自体を取り消されるべき行為というべきであり、原告の原告商標権に基づく請求は、商標権の濫用である。
イ 商標法51条該当行為 原告がSRI社発足以前にGシリーズラケットを輸入販売した行為は、
商標法51条に該当し又は同条の趣旨に反している。
すなわち、同条の趣旨は、登録商標権者に商標の不正な使用を禁じ、これに背く行為をした商標権者に登録取消しという制裁を科すことによって商標の正当使用を促す点にあり、公益的な規定と解されている。
Gシリーズラケットに付された「DUNLOP SPORT商標」は、
DSGL社が考案して欧州共同体で登録出願中の商標であり、原告商標1ないし3とは似て非なるものである。したがって、「DUNLOP SPORT商標」が付されたGシリーズラケットを輸入販売する行為は、原告商標1ないし3の類似の商標使用といい得る。
仮にGシリーズラケットの輸入販売が原告による指定商品への原告商標1ないし3の使用そのものと解されるとしても、原告のこうした行為は、形式的に商標法51条に当てはまらなくとも、その趣旨に明らかに反している。
原告によるGシリーズラケットの輸入販売は、全体的に観察すると、DUNLOP商標等を使用して海外商標権者との混同を招来し、その信用や名声を利用する行為に出たもので、商標法51条の規定の趣旨に反している。
したがって、原告が原告商標権に基づいて権利を行使することは、権利の濫用である。
ウ 商標法52条の2、同法24条の4 Gシリーズラケットの輸入販売等によりDSGL社製品との混同を生じさせた原告の行為は、商標権の移転当事者間における混同行為による取消しを定めた商標法52条の2の趣旨、移転当事者間で混同防止表示付加請求を定めた同法24条の4の趣旨にも反している。
これらの規定は、商標権の移転の結果、類似の範囲内で国内登録商標権が別個の主体に分属することになった場合に、互いに混同を防止する義務を課す趣旨に出たものである。本件のように、世界各国で登録されていた著名商標を一部地域においてのみ譲渡されたことにより、国内外の商標権が全く別個の存在とみなされる複数の主体に帰属することになったような場合には、商標法52条の2及び同法24条の4の規定の趣旨からして、国内商標権者には外国商標権者の商標商品との出所の混同防止に努めるべき義務があるというべきである。
エ 商標法51条52条の253条により商標登録が取り消された場合、取消しの効果は、指定商品ごとに無効審判を請求された場合の無効審決等と異なり、すべての指定商品・役務についての登録に及ぶと解されている(同法54条69条の反対解釈)。すなわち、原告商標1ないし3は、ゴルフ用品とテニス用品の両方を指定商品として登録を受けているため、いずれの製品についても商標登録が取り消されることになる。
そのような商標権に基づいて、被告製品の輸入販売の差止めや損害賠償を請求することは、商標権の濫用というべきである。
【原告の主張】 (1) DUNLOP商標等の著名性等に関する主張について 原告は、昭和59年に商標権を譲り受けて以降、毎年40億円から50億円もの費用をかけてダンロップ商標が消費者に広く浸透するよう広告宣伝活動を行ってきた。中でも主力商品であるゴルフクラブの宣伝活動には特に力を注いでおり、毎年5億円から20億円もの費用を投入してきた。また、昭和63年以降現在までにスポーツ用品事業部が投資した宣伝費用の総額は約735億円、ゴルフクラブについてだけみても約204億円の宣伝費用を計上している。
このように多額の宣伝広告費用を投資した結果、昭和61年には44億6700万円程度であったダンロップブランドのゴルフクラブの年間売上は、平成7年には137億5100万円にまで成長した。平成8年以降は不景気の影響もあって若干の落込みを見せたものの次第に回復し、平成15年には163億6500万円の年間売上を計上するまでになった。日本国内におけるシェア(金額ベース)は、平成4年当時5%にすぎなかったものが、平成14年には15%にまで増加している。
また、商標権の譲渡を受けて以来、原告商標を付した商品の開発、デザイン、販売方法については原告又はその関連会社が独自に決定しており、パンフレット等にも原告の関連会社(日本ダンロップ社又はSRI社)の商号を明記している。
このように、昭和58年に英国ダンロップ社との資本関係・人的関係が解消された後、日本におけるダンロップ商標には、国外のグループとは全く別個のグッドウィルが形成されるに至っているが、その成果は、まさに原告の長年にわたる活動が結実したものにほかならない。
(2) 被告は、被告製品の販売に当たって原告商標権を侵害しないよう、英国国旗のマークや「英国」との文字を入れていること、被告製品が原告以外の海外の会社の商品であることを消費者に明示していることを指摘して、原告と海外のダンロップ社とは別個独立であるとの原告の説明が消費者に浸透していることを踏まえれば、消費者において被告製品と原告製品との間に誤認混同のおそれはないと主張する。
しかしながら、インターネットの広告の商品説明の記載部分では「英国」の表記はなされておらず、被告製品に「英国」表記が付されているものは全くないはずである。このような状態で販売されている被告製品の出所について、消費者に誤認混同を生じるおそれがないということはできない。
(3) テニス用品を被告製品(ゴルフ用品)の輸入元と同じ会社から輸入していること等が権利濫用の評価根拠事実にならないことについては、前記1【原告の主張】(3)ウで述べたとおりである。
(4) 商標法の規定に関する主張について ア 被告は、商標法53条51条等を引用して、権利濫用の主張をしている。
しかしながら、これらの主張は、要するに、原告ないしSRI社によるGシリーズラケットの輸入販売行為が商品の出所混同を招来するものであるという立論に依拠した主張にすぎない。
原告ないしSRI社が販売しているGシリーズラケットは、他のOEM商品と同様にSRI社による厳格な品質管理を経ており、SRI社の品質保証書を付して販売し、クレームに対する対応なども原告ないしSRI社において責任をもって行っている。すなわち、原告ないしSRI社は、Gシリーズラケットを自己の製品として販売しているのであり、その出所はあくまでも原告ないしSRI社である。したがって、商品の出所混同の事実は存在しない。
被告の主張は、その前提とする事実において商標法51条52条の253条の要件を満たさない以上、理由のないものである。
イ 使用権の範囲内での使用行為であること 商標法51条に関連して被告はGシリーズラケットに付された「DUNLOP SPORT商標」は原告商標1ないし3とは似て非なるものであるから、
Gシリーズラケットを輸入販売する行為は、原告商標1ないし3に類似する商標を使用する行為である旨主張する。
しかしながら、Gシリーズラケットに付された標章は原告商標1及び2と同一であり、原告が自己の品質管理の下で当該商品を販売することは、原告登録商標の使用行為そのものである。
商標法51条禁止権の範囲内の商標不正使用による登録取消のみを定めており、使用権の範囲内の商標不正使用の問題は、その対象とされていないことはいうまでもない。
ウ 類推解釈が認められないこと 被告は、商標法52条の2や同法24条の4が類似する国内の登録商標権が移転によって別個の主体に分属することとなった場合についての規定であって、本件とは適用場面が異なることを認めながらも、原告の行為は、商標法52条の2や同法24条の4の趣旨に反するなどと主張する。
しかし、そもそも商標登録の取消しという強い制裁的効果が定められている規定について、そのような類推解釈が認められないのは当然のことであるが、
それ以前に、本件について商標法52条の2や同法24条の4を類推する基礎すら存在しないことは明らかである。
すなわち、商標権の属地主義は、商標法における基本原則とされている以上、起源を同じくする商標が商標権の移転によって国ごとに異なる商標権者に分属することとなった場合と、国内における類似の商標権が移転によって異なる商標権者に分属することとなった場合とでは、法的に等価値ないし類似の状況と評価することは不可能である。
争点に対する判断
1 争点判断の前提となる事実の認定 原告と英国ダンロップ社等との関係、被告製品の製造過程、被告製品の品質等に関し、第2の1の前提事実と証拠(甲11の1、2、甲12、14ないし17、19、20の1、2、甲21、24、25の1、2、甲27ないし34、35の1、2、甲36ないし48、乙1ないし6、7の1ないし13、乙8の1ないし3、乙9の1、2、乙10の1、2、乙11ないし14、15の1、2、乙16の1ないし4、乙17の1、2、乙18ないし21、乙22の1ないし8、乙23の1ないし13、乙24の1ないし28、乙25ないし29、30の1ないし7、乙31の1、2、乙46、47の1、乙57の2、乙58の2、乙59ないし62、
63の1ないし14、乙65、66、67の1、2、乙68の1、2、乙70ないし74、75の1、2)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
(1) 原告は、明治42年に、英国ダンロップ社の工場を誘致し、ゴム工場として創業を開始した。その後、大正6年に法人化し、昭和12年には「日本ダンロップ護謨株式会社」と社名変更した。
住友グループ(住友電工株式会社及び住友商事株式会社)は昭和35年に原告に資本参加していたが、同38年、住友電工株式会社が英国ダンロップ社から経営責任を引き受けることとなった。このとき、英国ダンロップ社と住友電工株式会社との間では、原告が英国ダンロップ社との間で20年の技術援助契約を締結し、一定利率のロイヤルティを支払うこと、原告の経営権(社長指名権)は日本側(住友電工株式会社)にあることを確認すること、販売会社として「ダンロップ」の社名を残すこと、などの合意がなされた。この合意後、原告は、「日本ダンロップ護謨株式会社」から現在の社名に変更になった(販売会社として別法人「日本ダンロップ護謨株式会社」を設立し、同社は後に「株式会社日本ダンロップ」に商号を変更している。)。昭和38年当時の持株比率は、英国ダンロップ社(正確には、DHPLC社の子会社であるスイス法人Dunlop International AG社)が43.75%、住友電工株式会社が38.25%であった。
当時の原告にはタイヤ部門とスポーツ・特品部門があり、原告は、主力商品(全商品売上高の約85%)であるタイヤのほか、ゴルフボール、テニスボール等のスポーツ用品、印刷用ブランケット、セムテックス、接着剤等の工業用品を製造販売していた。また、英国ダンロップ社から輸入したゴルフクラブ、テニスラケット等も販売していた。
英国ダンロップ社は、昭和35年、地球(円)と矢を組み合わせたデザインのシンボルマーク(Dマーク商標と同じ)を新たに発表し、各国のダンロップ社は自社の営業にこのマークを採り入れた。原告もこれを採り入れ、社内報で、「大空をつんざいて飛ぶ鏃(やじり)を思わせる鋭い矢印の部分は未来に向かって大きく発展するダンロップを、また、円(すなわち地球)の部分は大きく世界にまたがる組織をもった当社の特長を示しています。円内にある文字『D』はダンロップの頭文字であるとともに、前進する力強さと若さを表すべく、近代的な型をとっています。」と紹介した。原告は、昭和38年以降現在に至るまでこの商標(原告商標2)を使用しているが、世界各国のダンロップ関連会社も同商標を使用している。
(2) 原告と英国ダンロップ社とは、昭和38年に締結した技術援助契約の更改に当たって、その内容等に関する交渉を行っていたが、英国ダンロップ社は、昭和56年ころ、欧州9か国の販売網も含めて4か国(英国、フランス、西ドイツ、アイルランド)7工場の買取を希望し、もし原告がタイヤ事業の肩代わりをするならば、契約更改に当たって、英国ダンロップ社の持株を全部日本側に譲り、技術援助契約を対等なものとし、輸出の地域制限を撤廃する用意があるなどと提案した。
この提案を踏まえた交渉の結果、昭和58年8月、原告と英国ダンロップ社は、次のような内容の合意を締結し、外部に向けて発表した。
@ 原告は、現在諸商品に使用中のダンロップブランドの日本、台湾、韓国における商標権を英国ダンロップ社から買い取る。
A 英国ダンロップ社は、従来、原告やその他のダンロップのタイヤグループと技術援助契約を締結し、ノウハウを供与してきたが、今後は原告が英国のタイヤ技術中央研究所を買い取るとともに、世界のダンロップタイヤグループに対し技術指導を行う。
B イギリスにある2工場及び西ドイツにある2工場を原告が買い取って経営を行う。これに伴い、ヨーロッパ域内で航空機用タイヤ以外のあらゆるカテゴリーのダンロップタイヤの生産と販売を原告が引き継ぐ。
C 原告はヨーロッパ域内におけるタイヤ(航空機用タイヤを除く)のダンロップブランド使用権を持つ。
D 英国ダンロップ社と原告相互のタイヤ生産委託は今後も推進する。
E タイヤ以外の製品については、原告と英国ダンロップ社の間で別途に契約を締結する。
F 英国ダンロップ社は正式契約調印後、その所有する原告の株式(発行済株式の40%)を日本側に売却する。
この合意により、原告は、英国ダンロップ社との人的資本的関係を終了すると同時に、イギリスと西ドイツのダンロップ関連工場を買収経営し、更に世界のダンロップ社(タイヤ関係)に対して技術指導することとなった。
この直後の昭和58年10月にフランスダンロップ社(タイヤ関係)が破産したが、原告は、フランスダンロップ社の商標権等が他社に譲渡された場合には欧州においてダンロップ商標を有するタイヤが2社から販売されることになることなどを考慮し、昭和59年にフランスダンロップ社を買収した。また、原告は、昭和60年、英国ダンロップ社を買収したBTR社が手放すことを決めた米国ダンロップ社(タイヤ関係)に資本参加し、技術援助を行い、翌年にはその資本の過半数を獲得するまでになった。
(3)ア スポーツ用品関係については、必ずしもタイヤ関係と同様の商権や商標権の移動がなされたわけではない。
原告は、当初はゴルフボールやテニスボールについては独自に製造販売していたものの、ゴルフクラブやテニスラケットは英国ダンロップ社から輸入販売していた。しかし、徐々に独自にゴルフクラブやテニスラケット等も製造販売するに至り、原告独自で国内にてテニストーナメントを開催するまでになった。そして、上記(2)@記載の合意に基づき、原告は、スポーツ用品等に関するDUNLOP商標権やMAXFLI商標の商標権の譲渡として、DHPLC社から昭和59年12月5日に原告商標権1及び2を、DL社から同月6日に原告商標権4及び5をそれぞれ譲り受けた後、これらの商標等を原告を出所として示す商標としてスポーツ用品の製造販売において使用してきた。
これに対し、DHPLC社は、日本、台湾、韓国、オーストラリア、ニュージーランドを除く地域においてスポーツ用品を販売するための子会社としてDSIL社を置いていたが、英国のBTRPLC社が、昭和60年ころDHPLC社とDSIL社を買収し、平成7年ころDSGL社を設立してDSIL社をその子会社とした。DSGL社は、平成9年にMAXFLI商標をDHL社から譲り受け、
欧州共同体商標庁に登録し、また、「DUNLOP SPORT商標」を同庁に商標登録出願し、これらの商標等を使用して、日本、台湾、韓国、オーストラリア、
ニュージーランドを除く地域において、スポーツ用品を製造販売している。また、
DSGL社はアジア地域における商品の管理等を行わせるために、マレーシアにDSFE社を設立した(シンガポールにおいて原告商標1ないし3と同一の標章につき商標権を有しているのはBTR社であるが、DSFE社とBTR社の関係は不明である。)。「DUNLOP SPORT商標」を付したDSGL社のインターネットのサイトには、ダンロップ社が1910年に設立された後、世界的にも著名なスポーツブランド、とりわけゴルフ、テニス、スカッシュのブランドとして認識されてきたことが記載され、また、アジア太平洋地域の事務所として、マレーシアのDSGL社やフィリピンのDunlop Slazenger International Inc社、香港のDunlop Slazenger(Hong Kong)Ltd社、インドネシアのPT Crown Sports社、シンガポールのSNPL社、タイのDunlopillo(Thailand)Ltd社、ベトナムのDSC Trading c/o Huong My Ltd. Co.社、中国のBeijing Trinex Golf & Sport L L.Co.社、インドのRSH Distribution(India)Pvt.Ltd.sya社等の社名が掲載されているが、日本、韓国及び台湾において商標権を有する原告の社名は掲載されておらず、原告との関係性をうかがわせる記載もない。
イ ゴルフ用品取扱業者のサイトには、「約100年の歴史を誇る『ダンロップ』ブランドを所有する企業は3社:ヨーロッパ、米国、及びカナダは『ダンロップ・スラゼンジャー・グループ・インターナショナル』。日本及びアジアにおいては『SRI』(住友ゴム工業株式会社)。そしてオーストラリア及びニュージーランドは『パシフィック・ブランド』」との記載がある。
ウ 原告は、原告商標権1、2、4及び5の譲受後、これらの商標を消費者に浸透させるために、毎年40ないし50億円もの費用をかけて広告宣伝活動を行っており、ゴルフクラブの宣伝活動分だけでも毎年5ないし20億円の費用を投入している。
また、原告登録商標を、個別商品の商標として使用するほか、コーポレートブランドとして使用しており、新たにゴルフ用品について原告独自商標である「XXIO」「SRIXON」「HI-BRID」等の商標の使用を開始し、それぞれのブランドに個別のコンセプトを作り上げて商品を開発製造し、販売している。原告独自商標を使用した商品の売行きが好調で、昭和61年には44億円程度であったダンロップブランドのゴルフクラブの売上は、平成7年には137億円、
平成15年には163億円にまで伸び、日本国内におけるシェア(金額ベース)は、平成4年当時5%にすぎなかったものが平成14年には15%にまで増加している。原告のスポーツ事業を受け継ぎ平成15年に設立されたSRI社のスポーツ部門の売上の50%はXXIOシリーズのものである。更に原告は、原告独自商標を付した商品を海外にも輸出している。また、原告は、原告商標4及び5(MAXFLI商標)については主にモノポリ商品といわれるショップ(販売業者)のオリジナル商品に使用しており、宣伝等は行っていないが、他店にない商品を展開するという販売戦略の一部として使用している。
原告のインターネットのホームページ等の末尾には、「『DUNLOP』ブランドのゴルフ用品は、その製造販売権が世界中で複数のメーカーに分配されています。当社は日本・韓国・台湾のエリアでその権利を有しています。他に米国、英国、豪州などのエリアで権利を有するメーカーが『DUNLOP』ブランドのゴルフ用品を製造販売していますが、これらの企業と当社とは全くの別会社であり、交流・提携はしていません。」との記載がある。
エ 原告は、硬式テニス用及びソフトテニス用ラケットとして約30品目の商品を扱っているが、そのすべての商品の製造を外注している。原告は、それらすべての外注品について、受入検査(数量確認、外観検査、音鳴り検査、ガット穴内目視検査等)をすることによって品質管理を行っている。Gシリーズラケットも、
DSGL社にその製造を依頼しているが、他の製品と同様、受入検査によって品質管理を行っている。
受入検査が行われた後、テニスラケットは、製造元として、原告あるいはそのスポーツ用品事業部門を担当することになったSRI社を記載した「テニスラケット取扱説明書品質保証書」が付されて販売されている。なお、同「テニスラケット取扱説明書品質保証書」には、DSGL社等の外注先名の記載はない。
Gシリーズラケットには、被告標章1及び2のほか、DSGL社が商標登録出願中の「DUNLOP SPORT商標」や同社のURLが付されており、
またDSGL社等で使用するテニス用品のカタログにはGシリーズラケットと全く同一のテニスラケットが掲載されている。更に、GシリーズラケットにはDSGL社等が有する特殊技術であるホットメルトテクノロジーが使用されているが、原告は、自社のインタネットのホームページにおいて、その点についてDSGL社等のカタログに記載されているのとほぼ同一の内容の宣伝広告を行い、また、Gシリーズラケットの使用選手として、DSGL社の契約プロを紹介している。
なお、原告は、テニス用品のカタログに「このカタログに記載されている商品で並行輸入された商品に関しては、当社は一切責任を負いません。」と記載している。
オ 我が国ではスカッシュを行う人口が少ないため、原告はスカッシュ用品の販売を要請されているが、そのすべてを外注して販売している。スカッシュ用品の外注先の一つが、DSFE社である。
(4)ア 被告製品は、DSGL社がマレーシアにおいてその商品を管理させているところのDSFE社が製造した製品、あるいはDSFE社に他のDSGL社関連会社が製造して供給した製品であり、DSFE社によって被告標章が付された商品である。被告製品は、DSFE社からSNPL社に販売され、SNPL社からSIPL社、更に被告へと販売されている。
イ 消費生活用製品安全法に基づき、日常生活に使用される製品の安全性確保を図るために、製品安全協会が設立されている。同協会は、製品の安全性に関する基準の作成、これに基づく製品の検査、検査合格製品に対するSGマークの表示等を行っており、SGマーク付き製品の欠陥による人身事故に対する救済制度を設けている。なお、このSGマーク制度はあくまで任意の制度である。
製品安全協会が対象とする商品には、ゴルフ用品も含まれており、「ゴルフクラブの認定基準及び基準確認方法」、「ゴルフクラブ用シャフトの認定基準及び基準確認方法」等を定めている。そして、原告を含む多数のゴルフクラブメーカーがSGマーク表示関係事業者となっている。
被告製品には、SGマークは付されていない。
ウ 財団法人日本ゴルフ協会はゴルフ規則の付属規則を発行しており、我が国においては、同規則に違反するゴルフクラブ等を公式戦(プロトーナメントや一部のアマチュア競技)に使用することは禁じられている。このため、原告は、その製品を製造するに当たり、同規則に違反することのないようにしている。なお、各国には独自の規則があり、我が国の規則が当然他国においても適用されるものではない。
ゴルフクラブのフェース面(打球時にボールと接触する面)のうちインパクトエリアには、フェースラインと称される線状の溝が設けられているが、同規則U5cは、インパクトエリアの溝の幅や深さについて一定範囲でなければならないことを定めている。
被告製品のゴルフクラブの中には、フェースラインの溝の深さがゴルフ規則の付属規則の定める基準に適合しないものがある。
2 争点(1)(真正商品の並行輸入の抗弁)について (1) 原告が原告商標権(原告商標権1ないし5)の商標権者であること、原告商標権の指定商品はゴルフボール、運動具等であって、いずれもゴルフクラブ、キャディバック及びゴルフボールが含まれていること、被告が、被告標章1及び2を付したゴルフクラブ、キャディーバック及びゴルフボールを輸入し、日本国内で販売し、被告標章3を付したゴルフクラブ及びキャディーバックを輸入し、日本国内で販売していること、被告標章1が原告商標1及び3と外観称呼において同一又は類似であり、被告標章2が原告商標2と外観において同一又は類似であり、被告標章3が原告商標4及び5と外観称呼において同一又は類似であることは、第2の1の前提事実に記載したとおりである。
(2) 商標権者以外の者が我が国における商標権の指定商品同一の商品につき、その登録商標と同一又は類似の商標を付したものを輸入する行為は、許諾を受けない限り、商標権を侵害する(商標法2条3項25条37条)。しかし、そのような商品の輸入であっても、@当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであり、A当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより、当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであって、B我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから、当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合には、いわゆる真正商品の並行輸入として、商標権侵害としての実質的違法性を欠くものと解するのが相当である(最高裁判所平成15年2月27日第一小法廷判決・民集57巻2号125頁参照)。けだし、商標法は、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」ものであるところ(同法1条)、上記各要件を満たすいわゆる真正商品の並行輸入は、商標の機能である出所表示機能及び品質保証機能を害することがなく、商標の使用をする者の業務上の信用及び需要者の利益を損なわず、実質的に違法性がないということができるからである。
そこで、以下では、本件において上記@ないしBの要件が満たされているか、ないしは実質的に満たされているといえるかを検討する。
(3) 前記1で認定した事実を基に、被告の主張を検討する。
ア 被告製品は、被告標章1及び2と「SPORT」の文字を結合させた標章について欧州共同体商標庁に登録出願し、また被告標章3について欧州において商標権を取得しているDSGL社から使用許諾を受けていると推測されるDSFE社によって、被告標章を付されて製造され、供給された商品である。
イ(ア) タイヤ、ゴルフ用品、テニス用品等を製造販売していた英国ダンロップ社は、世界各国に「ダンロップ」等の名を有する関連会社を有しており、英国ダンロップ社及び世界各国の関連会社では、「DUNLOP」の文字標章や、鏃と円を組み合わせて円の中心に「D」の文字を入れた文字と図形の結合標章(Dマーク商標)を使用し、その取扱製品を販売していた。このため、遅くとも昭和58年当時には、日本国内において、取引業者や需要者の間ではDUNLOP商標は、古くからある海外の著名ブランドとして認識され、それによって識別される商品の出所も英国ダンロップ社及び世界各国の関連会社によって形成されるダンロップグループであると考えられていた。なお、MAXFLI商標については、その認識度に関する証拠がないが、DUNLOP商標と同様、日本国内において、海外の著名ブランドであって、識別される商品の出所がダンロップグループであると認識されていたと推測される。
(イ) 昭和58年に、英国ダンロップ社が原告に対してタイヤ事業に関する買収等の交渉を行い、その内容についての合意が成立した後、世界でダンロップ商標を扱う会社はその営業内容において大きく二つに分かれた。一つは、タイヤ部門であり、欧米でタイヤ部門を扱うダンロップ社は原告が買収し、あるいは資金提供することとなった。もう一つは、ゴルフ用品やテニス用品を扱うスポーツ用品部門であり、世界で欧米等、日本等、豪州等の大きく三つに分かれ、それぞれがDUNLOP商標等を使用した商品の開発製造等を行い、独自に発展していった。その結果、スポーツ用品に関しては、DUNLOP商標やMAXFLI商標は、欧米においてはその商品の出所をDSGL社とし、我が国等においてはその商品出所を原告とするとの認識が形成されるに至った。
そして、欧米でスポーツ用品部門を扱ったDSGL社は、アジアにも事務所等を開設しているが、DSGL社自身あるいはそのアジア所在の事務所と原告とは、テニス用品やスカッシュ用品の一部について製造依頼する関係にあるのみで、人的資本的関係を構築していることをうかがわせる証拠はない。
(ウ) 原告が、スポーツ用品部門において、DSGL社あるいはその傘下の関連企業との間で、製造販売委託契約等に基づきその製造商品の品質管理を行っていることは推測されるが、そのような契約なくして、一般的に原告がDSGL社あるいはその傘下の関連企業に対して品質管理を行い得る状況にあることを示す証拠はない。
また、原告は、我が国において原告登録商標を付した自社製品を販売する場合、品質の安全を保証するためのSGマークを付し、また公式戦でも使用できるように、財団法人日本ゴルフ協会のゴルフ規則の付属規則の基準に適合させるようにしているが、被告製品は、SGマークが付されておらず、また同規則の基準に適合したものでもない。
ウ 以上からすれば、被告製品には、被告標章3の欧州における商標権者であり、かつ被告標章1、2及びSPORTの文字からなる標章について商標登録出願している者(DSGL社)から使用許諾を受けた者(DSFE社)によって被告標章が付されたということはできるが、原告とDSFE社との関係においても、原告とDSGL社との関係においても、同一人又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があるとは認められない。また、原告が直接的に又は間接的に被告製品の品質管理を行い得る立場にはない上、実際にも、被告製品は、原告が国内の需要者に保証しているだけの品質を有していないというべきである。
そうすると、本件においては、いわゆる真正商品の並行輸入として、商標権侵害としての実質的な違法性を欠くと判断されるための前記要件を明らかに充足していないといわざるを得ないから、被告の被告製品輸入販売行為が違法性を欠くということは到底できない。
(4) これに対し、被告は、本件は厳密な意味での真正商品の並行輸入の問題とは異なるが、実質的にこれに準じるものとして違法性が阻却されるものというべきであり、前記最高裁平成15年2月27日判決の判示するところを本件に形式的に適用するのは誤りであると主張する。しかし、我が国において商標権を有しない者が、我が国における商標権者の許諾を受けないで、当該登録商標の指定商品同一の商品につき、その登録商標と同一又は類似の商標を付したものを輸入する行為は、当然に商標権を侵害するものであり、前記(2)に記載した要件を充足する場合に初めて、真正商品の並行輸入として商標権侵害の実質的違法性を欠くことになるものというべきである。本件が厳密な意味での真正商品の並行輸入とは異なるものとして、上記の要件のすべてを充足しなくても実質的違法性を欠くという主張は、独自の主張であって採用することができない。
被告は、原告登録商標は、原告に商標権が譲渡される前に、英国ダンロップ社が保有し世界各国で登録されて世界的に名声が確立していたものであり、原告登録商標と被告標章はいずれも英国ダンロップ社を起源とする商標であるということを基礎として、原告が原告商標権を譲り受けた後の世界各国のダンロップグループとの関わりや原告登録商標を商品に使用してきた状況等から、原告登録商標の出所は原告ではなく海外のダンロップ社であると需要者から受け取られており、原告自身もDSFE社からテニスラケットを輸入しており、これについては原告とDS社の間の業務の混同等を招来する行為を行っていることなどからしても、原告と被告製品の出所主体であるDS社との間には法律的にみて同一性があるなどと主張する。
しかしながら、英国ダンロップ社が商標権を国ごとに別の法主体に譲渡し、特にスポーツ用品部門に関しては、商標権を譲り受けた法主体がそれぞれ別個独立に発展して互いに人的資金的関係を持っていない以上、元々の商標権が英国ダンロップ社にあったことや、タイヤ部門においては原告が欧州のタイヤ関連会社を買収していることや、テニス用品について原告がDSGL社の製造したものを輸入販売し、その限りで宣伝広告活動を一部共有していることなどをもって、法律的若しくは経済的に原告とDS社とを同一人と同視し得るということはできない。
また、並行輸入の違法性が阻却されるための品質に関する要件(前記(2)B)とは、客観的にいかなる品質であるかという問題ではなく、我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行うことによって、当該商標の保証する品質に差異がないことをいうのであるから、原告が直接的にも間接的にも品質管理を行うことのできない被告製品については、上記要件を充足する余地はない。
被告の、DSGL社及びその関連会社の品質管理が及んでいれば、需要者のDUNLOP商標等に対する品質に関する期待は害されないとの主張は、商標の機能について誤った見解を前提としているものであって、失当である。
さらに、Gシリーズラケットの取引に関して、原告自らDS社との間で業務を混同させる行為を行っている旨の被告の主張については、前記1で認定した事実関係においては、原告ないしSRI社の行為を被告がいうようなものと評価することはできないから、上記主張も採用できない。
(5) なお、被告は、商標権を世界の一部地域についてのみ譲渡された場合と、
およそ商標権が取得できる範囲すべてにおいてその権利が譲渡された場合を比較し、前者の方が譲渡価格が安いにもかかわらず、並行輸入については得る利益が大きい結果となって均衡を欠くものであり、また、被告製品の輸入差止めが認容されるとすれば、原告だけが、海外の優良品メーカーであるDS社の商標商品を輸入して国内市場で販売できることになり、客観的に公正な競争秩序を維持し需要者の利益を保護するという商標法の目的に反する結果を招来するなどとも主張する。
しかしながら、商標権に関する属地主義の原則からすれば、同じ商標が異なる国において異なる営業主体に属する場合、商標権を有さない者の輸入行為等を禁止できるとの結果は、商標法の想定する以上に商標権者を過度に保護するということはできず、また、そのような輸入行為をしようとする者の営業や取引を不当に制約することにもならない。そして、商標法が保護する需要者の利益とは、商標に対する需要者の信頼であるから、需要者の利益を保護するという面での商標法の目的に反する結果となるわけでもない。
被告の主張は失当というほかない。
(6) 以上の次第で、被告の真正商品の並行輸入の抗弁は理由がない。
3 争点(2)(権利濫用の抗弁)について (1) 争点(2)の【被告の主張】(1)ないし(5)について ア 商標権に基づく権利行使であっても、客観的に公正な競争秩序の維持という商標法の目的の一つに照らし、それが客観的に公正な競争秩序を乱すものと認められる場合には、権利の濫用として許されないと解される。
そこで、本件において、客観的に公正な競争秩序を乱すような事態が認められるか否かについて検討する。
イ まず、被告は、【被告の主張】(1)で、英国ダンロップ社を起源とするDUNLOP商標等の著名性への原告の依拠を主張する。
なるほど、前記1で認定した事実によれば、DUNLOP商標やMAXFLI商標は、英国ダンロップ社を中心とする関連会社の集合体であるダンロップグループを出所として示すものとして、昭和58年頃までには我が国でも著名な商標となっていたものであるし、世界各国で商標登録され、世界的にも知られていたものといえる。しかし、英国ダンロップ社が、我が国、韓国及び台湾における商標権を原告に譲渡し、他の国の同一又は類似の商標の商標権は別の企業に譲渡等したことにより、特にスポーツ用品部門に関しては世界のダンロップグループがいくつかのグループに分かれることとなったものであり、その後、それぞれのグループごとに、独自に商品開発等をしている。特に我が国の場合は、原告が多額の広告宣伝費をかけて消費者にDUNLOP商標等を浸透させると共に、原告独自商標を使用した新製品を開発製造し販売したことによって、現在では、DUNLOP商標やMAXFLI商標は原告を示すものであり、他の国にも同様の商標を保有して営業活動を行っている企業体が存在しているけれども、そのような企業体と原告は別の営業主体であることが取引業者や需要者に認識されるに至っているといえる。
したがって、被告が主張するように、原告が原告商標権を英国ダンロップ社から譲り受けてから、もっぱら過去に英国ダンロップ社が築き上げた世界的名声に依拠して、海外のDUNLOP商標及び権利者の業績を自己と一体化して国内消費者にアピールしてきたというような事実関係が存在するとはいえない。
ウ その他、被告が権利濫用の根拠としてるる主張する事実関係(【被告の主張】(2)ないし(5))も、前記1で認定した事実関係及び前記2で判断したところに照らして、その主張が前提とする事実関係について認めがたいものであるか(例えば、【被告の主張】(5)の業務混同の主張事実)、又は、たとえ被告主張の事実関係の存在が認められても、全体として、原告の行為が、商標権の行使を権利の濫用と評価するに足りる程度に客観的に公正な競争秩序を乱すようなものとまでは認められないというべきである。
(2) 争点(2)の【被告の主張】(6)について 被告は、原告ないしSRI社の行為が商標法の規定に違反する旨主張するので検討する。
ア 商標法53条該当行為の主張について 被告は、SRI社によるGシリーズラケットの輸入販売行為による商品出所の混同の招来は、商標法53条の規定に該当するから、原告登録商標は登録を取り消されるべきものであると主張する。
しかし、前記1で認定した事実によれば、被告が上記主張の前提とするSRI社による原告とDS社との間の出所の混同を招来するような行為があったとはいえないから、被告の主張は前提を欠き、失当である。
イ 商標法51条該当行為の主張について 被告は、原告がSRI社発足以前にGシリーズラケットを輸入販売した行為は、商標法51条に該当し又は同条の趣旨に反している旨主張する。
しかし、上記アと同様、Gシリーズラケットの輸入販売行為に関しては、類似の商標を使用することによって他人の業務に係る商品との出所の混同を生じさせたとの事実は認められないから、被告の主張は前提を欠き、失当である。
ウ 商標法52条の2、同法24条の4の主張について 上記の商標法の条項に基づく主張についてみると、これらの条項は、被告も認めるように、国内において商標権が移転された結果、同一ないし類似の登録商標に係る商標権が別個の主体に属するようになった場合に関する規定である。これに対し、本件のように世界各国で登録されていた著名商標を一部地域においてのみ譲り受け、以降、国内外の商標権が全く別個の存在とみなされる複数の主体に帰属することになった場合には、商標権の属地主義の原則からすれば、国内外の商標権が別の営業主体に帰属することは商標法において当然想定される事態であるにもかかわらず、商標法が、国内商標権者が外国商標権者の商標商品との出所混同の防止に努めることを規定していない以上、同法52条の2や同法24条の4の規定を類推適用して被告の主張するような義務を導き出すことはできないというべきである。
被告の主張は失当である。
エ したがって、商標法の規定により原告商標権の商標登録が取り消されるべきものであることを前提とする被告の権利濫用の主張も採用できない。
4 以上によれば、被告の被告製品の輸入販売行為は、原告商標権を侵害する行為であるから、原告は、原告商標権に基づき、侵害行為の差止め並びに侵害製品及び広告物の廃棄を求めることができる。
また、上記商標権侵害行為については被告に過失があったことが推定される(商標法39条、特許法103条)から、被告は、原告に対し商標権侵害によって原告が被った損害を賠償する義務を負う。しかして、被告が原告商標権を侵害して被告製品を販売したことにより900万円を下らない利益を得たことは、当事者間に争いがない(第2の1の前提事実(4))。そうすると、特段の主張立証のない本件においては、上記金額が被告による原告商標権侵害によって原告が被った損害の額と推定される(商標法38条2項)。
5 よって、原告の請求はすべて理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 中平健
裁判官 大濱寿美
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