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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20ネ10083損害賠償請求控訴事件 判例 特許
平成21ネ10040損害賠償請求控訴事件 判例 特許
平成19ネ10005損害賠償等請求控訴事件 判例 特許
平成19ネ10010特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成18ワ474特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  周知技術 /  技術的範囲 /  明確性 /  発明の詳細な説明 /  発明が明確 /  分割出願 /  共有 /  存続期間 /  技術的意義 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  販売数量(販売数) /  実施料 /  相当因果関係 /  混同 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 / 
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事件 平成 19年 (ネ) 10098号 特許権侵害差止等請求控訴事件
平成 20年 (ネ) 10005号 附帯控訴事件
控訴人・附帯被控訴人株 式会社エポック社(一審被告)
訴訟代理人弁護 士椙山敬士
同 堀井敬一
同 上沼紫野
同 山澤梨沙
同 曽根翼
訴訟代理人弁理 士牛久健司
補佐人弁理 士神崎正浩
被控訴人・附帯控訴人株 式会社バンダイ(一審原告)
被控訴人・附帯控訴人大 和精工株式会社(一審原告)
上記両名訴訟代理人弁護士辻居幸一
訴訟代理人弁理 士上杉浩
訴訟代理人弁護 士佐竹勝一
同 水沼淳
補佐人弁理 士西島孝喜
同 井野砂里
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/09/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 - 2 -1一審被告の本件控訴を棄却する。
2一審原告らの本件附帯控訴に基づき,原判決主文第3項,第4項,第5項を次のとおり変更する。
(1)一審被告は,一審原告株式会社バンダイに対し,812万6203円及び内789万0838円に対する平成19年3月21日から,内16万4578円に対する平成20年1月18日から,内7万0787円に対する平成20年5月3日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)一審被告は,一審原告大和精工株式会社に対し,68万7901円及び内61万4536円に対する平成19年3月21日から,内5万1300円に対する平成20年1月18日から,内2万2065円に対する平成20年5月3日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 一審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを3分し,その1を一審原告らの負担とし,その余を一審被告の負担とする。
4この判決の第2項(1),(2)は,仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨(一審被告)(1) 原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。
(2) 一審原告らの請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審を通じて,一審原告らの負担とする。
2 附帯控訴の趣旨(一審原告ら)一審原告らは,当審に至り,附帯控訴の方式により損害賠償請求額を拡張した。拡張後の請求内容は下記(1)ア,イのとおりである。
(1) 原判決主文第3項,第4項,第5項を次のとおり変更する。
ア一審被告は,一審原告株式会社バンダイに対し,7266万9154円及び内5494万4133円に対する平成19年3月21日から,内1227万1168円に対する平成20年1月1日から,内545万3853円に対する平成20年5月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ一審被告は,一審原告大和精工株式会社に対し,2318万0321円及び内1362万7284円に対する平成19年3月21日から,内661万3641円に対する平成20年1月1日から,内293万9396円に対する平成20年5月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は,第1,2審を通じて,一審被告の負担とする。
(3) 仮執行宣言
事案の概要
【以下,略称は原判決の例による。】1一審原告バンダイは,玩具・遊戯用具等の製造及び販売等を業とする株式会社であって,本件カプセル特許1・2・3・4の特許権者であるとともに,本件カード特許1・2・3の特許権を一審原告大和精工と共有している。
一審原告大和精工は,自動販売機及びその部分品等の製造販売等を業とする株式会社であって,本件カード特許1・2・3の特許権を一審原告バンダイと共有している。
一審被告エポック社は,玩具・遊戯器具・運動器具等の製造及び販売等を業とする株式会社であって,原判決物件目録記載の被告カプセルベンダー1・2(以下単に「被告カプセルベンダー」という。)及び被告カードベンダ1・2(以下単に「被告カードベンダー」という。)ーを製造,販売,使用をしている。
2本件は,一審被告エポック社の製造販売する被告カプセルベンダーは本件カプセル発明1-2・2-9・3-1・3-2・4-1を侵害するとして,同じく一審被告エポック社の製造販売する被告カードベンダーは本件カード発明1-1・2-1・2-2・3-1を侵害するとして,下記内容の請求をしたものである。
記ア一審被告エポック社に対し一審原告バンダイがカプセルベンダーとカードベンダーの,一審原告大和精工がカードベンダーの,各製造・販売・使用の禁止とその廃棄(請求の趣旨第1,2項),イ一審原告バンダイが一審被告エポック社に対し,同被告が被告カプセルベンダー及び被告カードベンダーを製造・販売等して本件カプセル特許及び本件カード特許を侵害した平成19年3月20日までの分(弁護士費用400万円を含む)として5400万円及びこれに対する平成19年3月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払(請求の趣旨第3項),ウ一審原告大和精工が一審被告エポック社に対し,同被告が被告カードベンダーを製造・販売等して本件カード特許を侵害した平成19年3月20日までの分(弁護士費用40万円を含む)として2250万円及びこれに対する平成19年3月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払(請求の趣旨第4項)3 これにつき原審の東京地裁は,平成19年10月26日,?@被告カプセルベンダーは,本件カプセル発明1-2の要件を充足し,かつ同発明には無効理由は認められないから,同発明を侵害する,?Aしかし,本件カプセル発明2-9・3-1・3-2・4-1には分割要件違反の無効理由がある,?B被告カードベンダーは,本件カード発明1-1の構成要件を充足しない,?C 本件カード発明2-1・2-2は,進歩性を欠き無効である,?D被告カードベンダーは,本件カード発明3-1の要件を充足し,かつ同特許に無効理由はない,?E特許権侵害による損害賠償額算定に当たっては,特許法102条3項を適用して実施料率を2%とし,弁護士費用は一審原告バンダイについては80万円,一審原告大和精工については25万円が相当である,等として,ア一審被告エポック社による本件カプセル発明1-2及び本件カード発明3-1の侵害を理由として,同被告に対し,被告カプセルベンダー及び被告カードベンダーの製造・販売・使用の禁止と廃棄を命じ(主文第1,2項),イ一審被告エポック社に対し,一審原告バンダイに前記損害賠償として472万7226円(弁護士費用80万円を含む)とこれに対する平成19年3月21日から支払済みまでの遅延損害金の支払を命じ(主文第3項),ウ一審被告エポック社に対し,一審原告大和精工に前記損害賠償として39万3024円(弁護士費用25万円を含む)とこれに対する平成19年3月21日から支払済みまでの遅延損害金の支払を命じ(主文第4項),エ 一審原告らのその余の請求を棄却したものである。
そこでこれに不服の一審被告エポック社が本件控訴を提起した。
4当審に至り,一審原告両名も,附帯控訴を提起するとともに請求を拡張し,?@本件カプセル特許4について原審で指摘された無効理由はないこと,?A本件カード特許2についても原審で指摘された無効理由がないことをそれぞれ主張するとともに,損害賠償請求額を拡張し,?B原審における損害額算定の終期である平成19年3月20日を平成20年4月30日までに繰り下げて損害額を算定したものである(詳細は前記附帯控訴の趣旨のとおり)。
5当審における主たる争点は,?@被告カプセルベンダーの本件カプセル発明1-2の要件充足性の有無,?A本件カプセル発明1-2の無効理由(進歩性欠如)の有否,?B本件カプセル発明4-1の分割要件違反(平成14年法律第24号による改正前の特許法〔以下「改正前特許法」という〕44条1項)の有否,?C本件カード発明2-1及び2-2の無効理由(進歩性欠如)の有否,?D被告カードベンダーの本件カード発明3-1の要件充足性の有無,?E本件カード発明3-1の無効理由(分割要件違反,記載要件違反〔改正前特許法36条6項1号,2号〕,進歩性欠如)の有否,?F損害賠償額,等である。
〈判決注〉平成14年法律第24号による改正前の特許法36条6項1号,2号,44条1項の規定は下記のとおりである。
記「36条6項第3項第4号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。
一特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
二特許を受けようとする発明が明確であること。」「44条1項特許出願人は,願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる期間内に限り,二以上の発明を包含する特許出願の一部又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」
当事者の主張
1当事者双方の主張は,次に付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第2「事案の概要」のとおりであるから,これを引用する。
2 一審被告エポック社(控訴人・附帯被控訴人)(1) 原判決の事実認定の誤りア カプセル特許1(ア) カプセル発明1-2が無効であることa原判決は,本件カプセル発明1-2と乙42(実用新案登録第3014387号公報,考案の名称「自動販売機」,実用新案権者 株式会社ユージン,登録日 平成7年5月31日,公報発行日 平成7年8月8日)に記載の発明との相違点を,相違点1?@,?Aのとおり認定し(原判決150頁17行〜末行),これについては乙43〜45記載の周知技術から当業者において容易に想到し得たものとは認めることができないとしたが,誤りである。
b原判決は,上記相違点1?@について,「乙44発明及び乙45発明は,いずれも自動販売機を対象とする発明であり,商品供給のために物品収納ケース自体を取り替えるという技術思想が開示されていることが認められる。」(152頁下2行〜153頁1行)とした。
そうであるならば,相違点1?@は,本件カプセル発明1-2の出願前に広く知られた技術的思想を本件カプセル発明1-2の物品取出装置に適用したにすぎず,当業者が容易に想到し得たものといえる。
本件カプセル発明1-2が,「物品収納ケース内の物品をいちいち手で入替えることなく,物品収納ケース自体を取り替えるだけで,取り出せる物品を簡単に変更することができる物品取出装置を提供することを」課題とするものであり,この課題と同じ目的およびその目的を実現するための構成が乙44,乙45に記載されているからである。
また原判決は,乙44発明,乙45発明は「いずれも,商品等を整列状態において補給する必要があり,」(153頁4行)と,乙44,乙45のいずれにも記載されておらず,また一審原告株式会社バンダイが主張さえしていない事項を読み取って乙44発明,乙45発明をきわめて限定的に解釈した。しかし自動販売機に限らず,一般に,収納物品等を箱ないしはケースごと取り替えて内容物を補給ないしは変更することは,普通の人が日常的に実施していることであり格別の技術思想というほどのものでもない。そのような通常の能力を日常的に発揮すればすむ程度のことであるから,乙44,乙45の記載を「商品等を整列状態において補給する必要があり」などとわざわざ限定的に解釈する理由はない。箱ごと取り替えることについて,内容物たる商品等が整列状態にあろうとなかろうと区別する意義はなく,「整列状態にあること」が当業者における容易想到性の障害となることない。
cまた原判決は,相違点1?Aは,乙44及び乙45に示されていないから,これらの引用例によっては,当業者が適宜設計することができた事項であるということはできないとした。
しかし当業者は,乙42に記載の自動販売機において,商品収納部2を自動販売機1とは別体の商品収納ケースとして,前方又は後方に引き出し可能な構造とするであろう。このときにドラム70をどこに配置するのかという問題に直面する。この問題の解決策としては,ドラム70を自動販売機1自体に残すか,引き出し可能な構造とした商品収納ケースに組み込むかの2つしかない。そして,どちらの解決策を採用するかは選択の問題である。
簡素な機構であれ,精密な機構であれ,本件カプセル発明1-2のような機械的構造の分野の技術者は一般的な機械的構造を知悉しているというのが進歩性判断の前提である。ドラム70を自動販売機1本体に残し,その上に引き出し可能な商品収納ケースを配置したときに,別体の商品収納ケースに底があれば商品はドラム70に供給することはできず,底を無しとすれば別体の商品収納ケースをわざわざ引き出し可能にする意味がなくなると考え,ドラム70を商品収納ケースに設けるのが妥当であるという結論に至るのは極めて容易である。
なお,乙43には,錠剤収納ケース2内に複数の送り出し溝11を有する分配ロータ9が回転自在に設けられ,この分配ロータ9が錠剤収納ケース2とともに錠剤分配装置から引き出し可能とされている構造が示されている。技術者は,乙43の構造をみて,乙42においてドラム70を商品収納ケースとともに引き出し可能とすることが自然な解決策であると結論するであろう。また,装置中の容器の扱いとしては共通する課題があるから,自動販売機のような機械ないしは機構の技術者にとって,乙43は「技術分野が異なる」ために参考にすることができない文献ではない。
d以上のとおり,相違点1?@,1?Aとも当業者が容易に想到しうる程度のものであるから,本件カプセル発明1-2は進歩性を欠如し無効であり,原判決は誤りである。
(イ)被告カプセルベンダー1・2がカプセル発明1-2の構成要件を充足しないことa「後壁近傍」(争点1-1)について原判決は,構成要件プ1-2Aの「後壁近傍の歯車」について,必ずしも後壁に接しさせる必要はないと認められるから「構成要件プ1-2Aの『後壁近傍』は,歯車が後壁の近辺にあれば足り,後壁に固着している必要はない」とした上,後壁13から8cm離れた位置に設置されている被告カプセルベンダーの歯車91の位置が「後壁近傍」を充足すると認定した。しかし,以下の理由により,誤りである。
まず,本件カプセル特許1の請求項2に「後壁近傍」の語が加えられたのは出願後8年も経った訂正審決によるものであるが,これは,本件カプセル特許1の明細書の段落【0020】に「後壁13近傍」と言う一語があることに基づいている。「近傍」と言う語は曖昧かつ相対的な言葉であるから,特定の具体的な技術において意味が把握されねばならない。大型機械とナノテクでは,同じ「近傍」といっても,絶対的な距離は当然異なるし,さらには部位や技術的意義によっても異なるであろう。したがって,「近傍」の語の意義は明細書において用いられた具体的文脈において把握されねばならない。
本件カプセル特許1の明細書の段落【0020】には「平歯車85は,この平歯車85の上部の後壁13に回動自在に設けられた小歯車87とかみ合っている。」,「この小歯車87は,…後壁13に回動自在に設けられた平歯車89とかみ合っている」,「この平歯車89には,一体に駆動歯車91が設けられており」との記載がある。すなわち,本件カプセル特許1において,一連の歯車群は,後壁13に設けられた小歯車87や平歯車89と噛み合うか一体に設けられているのであるから,いずれも,後壁に接しているか,離れているとしてもその距離は歯車の厚さ(通常数ミリ程度であろう)程度でなければならない。後壁から数cmも離れた位置に設置されていれば,これらの歯車群は噛み合わない。
また,本件カプセル特許1において「後壁近傍の歯車」という表現を用いているが,「後方」といった語ではなく「後壁」という言葉を用いて規定されていること,及び後壁13に設けられた小歯車87や平歯車89と噛み合わなければならないことからすれば,「平歯車85」が位置する「後壁近傍」の許容範囲としては1cm程度が限界というべきである。
また,本件カプセル特許1の「回転軸…を有する装置本体」とは,回転軸が装置本体の後壁に取り付けられているものを意味する。したがって,回転軸から操作の伝達を受ける歯車群も,回転軸が支持された後壁付近に存在しなければならないのであり,「後壁近傍の歯車」とは本件カプセル特許1の「回転軸83の後壁13近傍」に固設されている後壁か,1cm程度の位置に存在しているものと考えるほかない。
上記のような解釈に立つと,被告カプセルベンダーは,後壁から8cm離れた位置に歯車を有するので,プ1-2Aの構成要件を満たさない。また,被告カプセルベンダーは,構造上後壁に全く依存せず,回転軸及び歯車を含むユニットが丸ごと装置本体から取り外せる仕組みになっている。これにより,カプセルベンダーの製造時にユニット毎の製造が可能となり製造効率が上がるだけでなく,駆動機構を丸ごと取り外せるためメンテナンスも容易になっている。この構成は,回転軸及び歯車が後壁に取り付けられることによって支持されている本件カプセル特許1の上記構成とは,設計思想を異にするものである。
また本件カプセル特許1のようなカプセル販売装置では,販売する物品が小さければ,回転盤のサイズも小さくなるため,物品収納ケースの回転盤を回転させるための歯車を装置本体の中央や前方に配置することも可能である。そのため,「物品収納ケースを装置本体の正面より引き出す構成とするためには,物品収納ケースの回転盤を回転させるための歯車を装置本体の正面側に位置させることはできず,後壁側に位置させざるを得ない」どということはない。このような理屈は本件カプセル特許1の明細書に明示されておらず,後付けの論理である。米国特許〔US〕P2,129,185(乙52)及び同〔US〕P3,036,732(乙53)のように,物品収納ケースを引き出さない構成であっても,装置本体の後方に歯車を位置させているものは存在するのであって,歯車の位置と引き出す構成とは必然的な関係にあるものではない。
上記のとおり,物品収納ケースを装置本体の正面より引き出す構成にしても,歯車を装置本体の中央や前方に配置することは可能なのであるから,物品収納ケースを装置本体の正面より引き出す構成となっていることが,「後壁近傍」の意味を後壁の近辺にあれば足りるなどと解する根拠になるものではない。
1938年に刊行された米国〔US〕P2,129,185(乙52)において,ギアホイール242を中空ベース2の後壁から間隙を空けた場所に配置することにより,ジャーナル240を販売ホイール支持体230の2つのアーム238に回転可能に安定的に保持させることや,商品を正面の放出口11に放出することを可能としている。
1962年に刊行された米国〔US〕P3,036,732(乙53)においても,多数のギア,ピニオン等をハウジング11の後壁27から間隙を空けて固定されたプレート26に配置することにより,ボールペン39をハウジング11の前面の取外し可能なフロントパネル12から補充することや,シュート62を経て前面の開口63に放出することを可能としている。すなわち,装置本体の後壁から間隙を空けた場所にギア等を配置する構成は半世紀以上も前から周知の構成となっている。
そのため,構成要件プ1-2A「後壁近傍の歯車」に進歩性が認められる余地があるとすれば,それは乙52,乙53において開示されている上記構成とは異なるものでなければならない。したがって,構成要件プ1-2A「後壁近傍の歯車」とはまさに本件カプセル特許1明細書に記載のとおり,歯車が後壁に固設されている構成であると考えるほかない。
以上のとおり,被告カプセルベンダーは構成要件プ1-2Aの「後壁近傍の歯車」を充足しない。
b「回転軸…を有する装置本体」(争点1-1)について原判決は,「構成要件プ1-2Aにおける『回転軸…を有する前記装置本体』とは,装置本体が回転軸(を含む機構)を有することを意味しており,回転軸(を含む機構)が装置本体から取り外し可能なものも可能でないものも含む」と認定した。
しかし,本件カプセル特許1の技術的範囲は,カプセル特許1明細書【0020】において開示されている回転軸が装置本体に取り付けられたものに限定されるというべきである。
本件カプセル特許1の特許請求の範囲においては,「回転軸…を有する前記装置本体」という抽象的ないし機能的な記載しかなく,どのような具体的な態様で装置本体が回転軸を「有する」のか示されていない。回転軸という装置の駆動機構の中核を担う部材の設置方法が具体的にされていないのであるから,特許請求の範囲だけではどのような構成によって課題を解決するのか示しているとはいえない。そうすると本件カプセル特許1の「回転軸…を有する装置本体」とは,回転軸が装置本体の後壁に取り付けられているものに限定して解釈されなければならない。
原判決は,「回転軸を含む前記装置本体」とは「回転軸(を含む機構)が装置本体から取り外し可能なものも可能でないもの」も含むとしているが,「装置本体」と「物品取出装置」とを混同している。
「装置本体」とは「物品取出装置」の骨格ないし枠であり,これに「操作部」,「回転軸」及び「物品収納ケース」等の別部材を取り付け又は着脱自在に装着することにより,全体として「物品取出装置」を構成する。すなわち「装置本体」とは,他の部材と同様に「物品取出装置」を構成する部材の一つにすぎない。そのため,「装置本体から取り外し可能なものも可能でないもの」も「装置本体」が「有する」と解してよい,とする原判決の判示に従った場合,たとえば,「装置本体から取り外し可能な」「収納ケース」も「装置本体」が「有する」ものとなってしまう。しかしながら,本件カプセル特許1において,「収納ケース」と「装置本体」とは別の存在として考えられており,「収納ケース」は「物品販売装置」が「有する」ものであっても,「装置本体」が「有する」ものではないことは明らかである。「装置本体から取り外し可能なもの」まで「装置本体」が「有する」と解してよいとする原判決の解釈は誤りである。
被告カプセルベンダーの「回転軸83は,装置本体3とは独立して構成されたユニットに設けられている」のであるから,構成要件プ1-2Aを充足しない。
c「引き出し可能」(争点1-2)について原判決は,「構成要件プ1-2Bの『引き出し可能』は,物品収納ケースを取り外すことはできないが外へ引き出すことができるというだけでは足りず,物品収納ケース自体を取り替えることができることを意味する」と認定しており,この点は正当である。
しかし原判決が,被告カプセルベンダーの収納ケース5は「従来技術と対比すると,装置本体3からの取外しが容易であるから,構成要件プ1-2Bの『引き出し可能な前記物品収納ケース』を充足する」と認定した点は誤りである。
被告カプセルベンダーは,製造工程において,物品収納ケースの連結部材と装置本体のスライダをネジ止めされており,物品の入れ替えの際にネジ止めを外して物品収納ケースを交換することは全く想定されていない。物品の補給,交換は日常的に行われるルーティン作業であるから,このような作業との関係において「引き出し可能」=「着脱自在」かどうかを判断しなければならない。この観点からすれば,例えば修理等における場合の操作よりはるかに簡単でなければならない。仮に被告カプセルベンダーにおいて,物品の入れ替えの際にネジ止めを外して物品収納ケースを交換する場合,下記のような面倒な手順を取らなければならない。
?@物品収納ケースを前に出して,物品収納ケースの連結部材と装置本体のスライダ(甲24にいう取り付け部)を固定しているネジをドライバー等で弛めて外す。
?A スライダを解放する。
?B 物品収納ケースを装置本体から脱去する。
?C 異なる物品が入った新たな物品収納ケースを差し込む。
?D装置本体のスライダを閉じて新たな物品収納ケースの連結部材とかみ合わせる。
?E 両部材をネジで固定する。
?F 収納ケース5を装置本体3奥部にまで押し込む。
「極めて面倒」(本件カプセル特許1の明細書段落【0004】)と評価された従来技術においてさえ,物品収納ケースの蓋体を取り外すだけで,その開口から物品の入れ替えを行うことができた。それにもかかわらず,被告カプセルベンダーにおいて,上記の面倒な手順を採り,古い物品収納ケースを脱去した上で,新しい物品収納ケースをネジ止めするのは,従来技術よりも余程手間と時間が掛かる作業であり,装置の「分解」を物品入れ替えの度に行うに等しい。したがって,被告カプセルベンダーは「物品収納ケース自体を取り替えるだけで,取り出せる物品を簡単に変更することができる物品取出装置を提供」するという本件カプセル特許1の課題を解決しているとは到底いえない。すなわち,被告カプセルベンダーの構成では「引き出し可能」といえないのであり,本件カプセル特許1の構成要件を充足していない。
イ カード特許3(ア)原審で乙51を主引例として進歩性欠如を主張した点についての原判決の判断の誤りa存在しない相違点を認定した誤り原判決は,相違点2に関して,本件カード発明3-1では作動体が収納ケースの側面に設けられていると認定しているが,誤りである。
作動体は実施例においてさえ収納ケースの側面に設けられおらず,作動体55は支持体42に設けた支軸64に回転自在に支持されている。
原判決は,相違点3に関して,「本件カード発明3-1においては,収納ケースが基礎フレームの上面に着脱可能に載置されたときに,アイドラギアが払出ギヤと連動し,作動体と払出ギヤとの連動が形成されるのに対して,乙51発明はそのような構成を有していない」と認定している。
しかし乙51には明らかに上記に対応する構成,すなわち,乙51には物品収納ケース5が前記装置本体3の前面上部に着脱可能に載置されたとき,前記歯車群が前記ラック41と連動し,前記搬送円盤,大ウォーム歯車105と前記ラック41との連動が形成される構成が記載されている。原判決は乙51におけるこの構成を看過しており,相違点3は相違点として挙げるべきものではないのである。
b相違点に関する判断の誤り原判決の認定した相違点1は,販売対象の物品の形状の相違に基づく相違にすぎないのであり,この相違点1に関する本件カード発明3-1の構成は周知の技術である。
すなわち,乙22,乙49,乙16,乙50等に開示されているように,カード状の媒体を払い出す装置において,払出ローラにより,収納ケース内の最下位置の媒体を受持し,払出ローラの回転により該媒体を払出す構成は周知であり,この種の媒体払出装置において収納ケースを基礎フレームと別体とする構造もまた,乙17等に記載されている。したがって,相違点1は周知技術の単なる転用,または単なる設計的事項にすぎない。
相違点2,3に関し,原判決は「コインセレクターを物品収納ケースに設けることについて何ら示唆するところはない。」としているが,本件カード発明3-1には,「コインセレクター」という用語は記載されていないのであり,請求項に記載されていない用語に言及すること自体が誤りである。相違点2は,本件カード発明3-1においては,収納ケースの側面に設けられたコイン検出作動部,またはコイン検出作動部が設けられた収納ケースが具備されているが,乙51にはこの点が記載されていないということに尽きる。
しかしながら,この「収納ケースの側面に設けられたコイン検出作動部」又は「コイン検出作動部が設けられた収納ケース」の技術的意義ないし作用効果は本件カード特許3の明細書には記載されていない。わずかに,「第4に,収納ケース14の側面にコイン検出作動装置Dを着脱自在に装着している。これによって,コイン検出作動装置Dをアセンブリとして構成して,収納ケース14に製作,組み立てを簡単にすることができる。」(明細書の段落【0017】),「基礎フレーム16に左右の収納ケース14がそれぞれ着脱自在に取り付けられ,この各収納ケース14の側面にコイン検出作動部Dが装着されており,各部はそれぞれユニットになっていて,別個に組み立てられ,分解・組立が簡単かつ容易になっている。」(同段落【0022】)と記載しているだけである。コイン検出作動装置Dを「収納ケース14に製作,組み立てを簡単にすることができる。」という文の意味は不明である。コイン検出作動部Dをユニットとして,別個に組み立てて,分解・組立てを簡単にするということであれば,収納ケースに設ける必然性は無いのであり,コイン検出作動部Dを基礎フレームやケース本体に設けても同じ作用,効果が得られる。
このように相違点2についてはその技術的意義が不明であるから,単なる設計的事項と位置付けられるべきである。したがって相違点2も当業者が必要に応じて設計し得る事項であり,当業者が容易に想到し得る事項である。
(イ) 被告製品がカード特許3の構成要件を充足しないことa構成要件ド3-1G「収納ケース」(a)構成要件ド3-1Gの「収納ケース」は,「作動体」と「アイドラギア」とを「有」するものとして規定されている。この点に関し,構成要件ド3-1Gでは,「コイン検出作動部が設けられた」「収納ケース」というように,「収納ケース」に「コイン検出作動部が設けられた」という修飾語が存在する。しかし,本件カード特許3の明細書によれば,作動体はコイン検出作動部に属するものであり,「コイン検出作動部が設けられた」という修飾語の存在によって構成要件ド3-1Gの「収納ケース」の意味が変わるわけではない。
すなわち,本件カード特許3の明細書段落【0013】では「…回転可能にするコイン検出作動装置がユニットとして構成され,このコイン検出作動装置が前記収納ケースの側面に着脱可能に取り付けられていることである」と記載され,また同明細書【0017】では,「収納ケース14の側面にコイン検出作動装置Dを着脱自在に装着している。これによって,コイン検出作動装置Dをアセンブリとして構成して,収納ケース14に製作,組み立てを簡単にすることができる」と記載されている。
このように,本件カード発明3-1では,「収納ケース」と「コイン検出作動部」は,別個独立のユニットとして規定されている。
そして,別々のユニットを組み合わせたとしても,一方が有する構成を他方が有するに至るわけではないのであって,本件カード発明3-1でも,「コイン検出作動部」を「収納ケース」に取り付けたとしても,「収納ケース」の有する構造自体が変わるものではない。
よって,構成要件ド3-1Gを文字どおり解せば「収納ケース」自体が,作動体とアイドラギアを有していなければならないと解釈すべきである。
(b)被告カードベンダーは,コイン検出作動部が作動体とアイドラギアを有しているのであって,収納ケースは作動体とアイドラギアのいずれも有しない。よって,被告カードベンダーは構成要件ド3-1Gを充足しない。
なお一審被告は,原審において,被告カードベンダーが構成要件ド3-1Gの構成要件を充足することについて,「8g認める。」旨の認否を行った。
しかしながら,以下のとおり,被告カードベンダーは構成要件ド3-1Gの構成要件を充足しないものであるから上記の一審被告の自白は真実に反するものであり,錯誤に基づくものであるので,これを撤回する。
本件カード発明3-1では,「収納ケース」と「コイン検出作動部」は,別個独立のユニットとして規定されている。
そして,別々のユニットを組み合わせたとしても,それぞれ構成には何らの変化もなく,一方が有する構成を他方が有することになるわけではない。そのため,本件構成要件においても,「コイン検出作動部」を「収納ケース」に取り付けたとしても,「収納ケース」の有する構造自体が変わるものではない。
よって,本件カード発明3-1の構成要件ド3-1Gは,文字通り,「収納ケース」自体が,作動体とアイドラギアを有していなければならないと解釈すべきである。
被告カードベンダーは,コイン検出作動部が作動体とアイドラギアを有しているのであって,収納ケースが作動体とアイドラギアを有しているものではない。
よって,被告カードベンダーの構成はカード特許3の本質的部分における構成と全く相違するものであり,被告カードベンダーに構成要件ド3-1Gの「収納ケース」は存在せず,同構成要件を充足しない。なお,原判決のこの点に関する認定は,一審被告の錯誤による自白に基づくもので,やはり事実に反する。
b構成要件ド3-1B,H「払出ローラ」本件カード発明3における「払出ローラ」は,その語句からも分かるとおり,媒体を払い出すということを必須の機能として有していなければならない。よって,「払出ローラ」の解釈に当たっては,この機能を無視した解釈はなし得ない。
この点につき,被告カードベンダーの前部ゴムローラは,後部ゴムローラが存在しかつ正常に回転してはじめてカードパックを送出するため(乙36,乙37),前部ゴムローラが回動してもカードパックを払い出さない場合が生じ得る構造になっている。
原判決の認定によれば,構成要件ド3-1B,Hの「払出ローラ」の中には,被告カードベンダーの前部ゴムローラのように,回動しても受持された媒体を払い出さないものまでをも含むということになってしまうが,これは,上記の「払出ローラ」の機能を無視した解釈であり妥当でない。構成要件3-1B,Hの「払出ローラ」は,それ自体で媒体を払い出す機能を有するものであると解釈すべきである。そして,被告カードベンダーの前部ゴムローラは,後部ゴムローラと協動して,はじめてカードパックを払い出す機能を有するにいたるものであるから,被告カードベンダーの前部ゴムローラは「払出ローラ」に該当しない。
よって,被告カードベンダーは,構成要件ド3-1B,Hを充足しない。
c構成要件ド3-1I「前記払出ギヤは回転を阻止され」(a)原判決は,「回転を阻止され」が回転の阻止力の加わることを要件としていると解すべき合理的理由はないとした。
しかし,そもそも,阻止という用語は,阻み止める(広辞苑第5版),妨げる(大辞林)ことを意味するのであって,対象物が何かをしようとするのに対し,それを妨げる力が対立的に加わることによって,はじめて「阻止」するという事態が生ずる。したがって,「阻止」されるためには,一定方向に向かった力に対して阻止力が加わることが必要不可欠である。よって,原判決には,この点の解釈につき,重大な誤りがある。
(b)被告カードベンダーは,作動体,2個のアイドラギヤ,伝動ギヤ,払出ギヤの順でギヤが構成されており,作動体の阻止力を伝動ギヤに作用させてハンドルの操作を禁止するものである。被告カードベンダーでは,伝動ギヤの回転力と作動体の阻止力は「作動体-アイドラギア-伝動ギヤ」という系で完了しているため,払出ギヤには「作動体-アイドラギア-伝動ギヤ」という系で,回転が許された場合にのみ力が加えられ,回転が許されない場合には,払出ギヤに何らの力も加わることはない。
よって,被告カードベンダーは,「作動体が回動不可能となることにより」「払出ギヤは回転を阻止され」という構成を有しない。
(c)さらに,原判決は,「仮に『回転を阻止され』るためには,払出ギヤに回転の阻止力が働くことが必要であると解したとしても」,「平歯車26が回転しようとすれば,直接噛合するギア11が妨げとなって,その回転を阻止されるから,『前記払出ギヤは回転を阻止され』を充足すると考えられる。」と認定した。
しかし,前記のとおり,被告カードベンダーでは,伝動ギヤが回転しない場合には払出ギヤが「回転しようとする」ということ自体生じ得ないのであって,原判決は,被告カードベンダーの構成として,生じ得ないことを前提に判断しており妥当ではない。
以上のとおり被告カードベンダーは,構成要件ド3-1Iを充足しない。
(2) 新たな主張ア カード特許3についての追加的無効理由(ア) 分割要件違反a本件カード特許3に係る特許出願は,特願2001-79282(原出願)からの分割出願であり,その現実の出願日は平成17年6月24日である。
本件カード発明3-1の構成要件8Gは,?@「収納ケース」が「作動体」「を有し」ている旨を規定するが,この点は原出願の当初明細書に記載された事項ではないし,自明なものでもない。
また,本件カード発明3-1の構成要件8Hは,?A「前記コイン検出作動部が設けられた収納ケースが前記基礎フレームの上面に着脱可能に載置されたとき」を規定するが,この点もまた原出願の当初明細書に記載された事項ではないし,自明なものでもない。
さらに,本件カード特許3の明細書の段落【0010】の末尾には,「前記コイン検出作動装置は,前記収納ケースに取り付けられた状態で,当該収納ケースと共に前記基礎フレームの上面に着脱可能に載置されることである。」と記載されている。この明細書の記載は本件カード発明3-1の構成要件8Hの上記文言?Aの意味を明確に表現したものである。明細書の段落【0010】の上記記載も原出願の当初明細書に記載された事項ではないし,自明なものでもない。
したがって,本件カード発明3-1は,原出願の当初明細書に記載した事項の範囲内でないものを含むから,分割出願の要件(改正前特許法44条1項)を満たさず,その出願日は,現に分割出願をした平成17年6月24日となる。
その結果,本件カード発明3-1は,平成14年9月27日に公開された原出願の公開公報,特開2002-279514号公報(乙63)に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠き,特許法123条1項2号により無効とされるべきものである。
b原出願の開示本件カード発明3-1の構成要件8Gおよび8Hに関連して,まずコイン検出作動部と収納ケースとの配置,構成及びこれらの関係に関する当初明細書の記述を列挙すると次のとおりである。
「収納ケース14の側面にコイン検出作動装置Dを着脱自在に装着していることである。これによって,コイン検出作動装置Dをアセンブリとして構成して,収納ケース14に製作,組み立てを簡単にすることができる。」(段落【0008】)「左右販売装置3はそれぞれ,媒体払出部Cとコイン検出作動部(コイン検出作動装置)Dとを隣合わせに配置しており,媒体払出部Cは媒体Aを収納する収納ケース14と媒体Aを送り出すための送り出し機構15とを有する。左右販売装置3の送り出し機構15は,共通の基礎フレーム16に支持され,この基礎フレーム16に左右の収納ケース14がそれぞれ着脱自在に取り付けられ,この各収納ケース14の側面にコイン検出作動部Dが装着されており,各部はそれぞれユニットになっていて,別個に組み立てられ,分解・組立が簡単かつ容易になっている。」(段落【0013】)「ケース体14Aの下部は基礎フレーム16に係脱自在に係合し,背壁がケース本体2Bの背壁にネジ止めされている。」(段落【0019】)「コイン検出作動部Dは,媒体払出部Cとは独立したユニットとして構成され,全体を支持する支持体42は,収納ケース14の側面にネジを介して着脱自在に取り付けられている。」(段落【0026】)以上の記述から,媒体払出部Cとコイン検出作動部Dはそれぞれ独立したユニットを構成し,別個に組み立てられるものであることが分かる。そして,収納ケース14は媒体払出部Cに属している。
収納ケース14は基礎フレーム16に着脱自在に取り付けられるが,背壁はケース本体2Bの背壁にネジ止めされている。
コイン検出作動部Dは収納ケース14の側面に着脱自在に装着されるが,具体的にはコイン検出作動部Dの全体を支持する支持体42が収納ケース14の側面にネジを介して着脱自在に取り付けられている。
次に作動体の配置に関する当初明細書の記述は以下の通りである。
「支持体42は,上部にコイン投入部43を有し,その下方にコインセレクタ44を取り付けており,このコインセレクタ44の下方に作動機構Eを配置している。」(段落【0027】)「前記作動機構Eは,…指定数のコインBが存在することにより作動可能でかつ作動することによりハンドル8の回動を許容する作動手段K,等を備えている。」(段落【0029】)「作動手段Kは,主に支持体42の分岐手段Gと反対側の面に配置されており,支持体42に設けた支軸64に回転自在に支持された作動体55,補助板42Aに縦軸回り揺動自在に支持された連係体65等を備えている。」(段落【0041】)作動体55は作動手段Kに属し,作動手段Kは作動機構Eに属し,作動機構Eはコイン検出作動部Dに属することが明らかであり,作動体55はコイン検出作動部Dの全体を支持する支持体42に支軸64により回転自在に支持されているのである。作動体55は,コイン検出作動部Dに属するものであり,コイン検出作動部Dとは独立のユニットである収納ケース14に属するものではない。
c 分割要件違反上記のように,原出願の当初明細書によれば,コイン検出作動部と収納ケースはそれぞれ独立のユニットであり,別個に組み立てられるものである。そして,作動体はコイン検出作動部に属するのであって,収納ケースに属するものではない。収納ケースは作動体を有していないのである。作動体を有しているのはコイン検出作動部である。
それにもかかわらず,構成要件8Gは,「収納ケース」が「作動体」「を有し」ているとしている。したがって構成要件8Gは原出願の当初明細書に記載された事項の範囲内のものではない。
構成要件8Gにおいては,「収納ケース」は「前記コイン検出作動部が設けられた」という語句によって修飾されているが,この修飾があることによって収納ケースの意味,概念が変化する訳ではない。作動部を有していない収納ケースが,「前記コイン検出作動部が設けられた」という語句で修飾されることによって突然に作動部を有するものに変化する筈はない。仮に変化するとしたならば,突然に作動部を有することとなった収納ケースは原出願の当初明細書に記載された事項の範囲内のものではない。
次に構成要件8Hに,?A「前記コイン検出作動部が設けられた収納ケースが前記基礎フレームの上面に着脱可能に載置されたとき」と記載されている点について検討する。
この構成要件8Hの文言?Aの意味は,上記したように,「前記コイン検出作動装置は,前記収納ケースに取り付けられた状態で,当該収納ケースと共に前記基礎フレームの上面に着脱可能に載置されることである。」(本件カード特許3の明細書の段落【0010】)。しかしながら,コイン検出作動装置が収納ケースに取り付けられた状態で,収納ケースと共に基礎フレームの上面に着脱されることが原出願の当初明細書に記載されてはいない。
原出願の当初明細書には,上記で検討したように,「基礎フレーム16に左右の収納ケース14がそれぞれ着脱自在に取り付けられ」ること(段落【0013】),及び「収納ケース14の側面にコイン検出作動装置Dが着脱自在に装着している」こと(段落【0008】)は記載されている。そして,収納ケースとコイン検出作動部は独立したユニットであり,別個に組み立てられるものである。原出願の当初明細書には,「収納ケース14」単独について,そして「コイン検出作動装置D」単独について着脱自在に装着される旨の記載はあるが,コイン検出作動装置が収納ケースに取り付けられた状態で収納ケースとともに着脱される旨の記載はない。
したがって,原出願の当初明細書には,「コイン検出作動部が設けられた」状態で「収納ケース」を着脱するという技術思想は開示も示唆もされていないのであり,それは自明な事項であるともいえない。同様に,「前記コイン検出作動装置」が「前記収納ケースに取り付けられた状態で,当該収納ケースと共に前記基礎フレームの上面に着脱可能に載置されること」も原出願の当初明細書には記載されていなかった事項であり,また,自明な事項であるともいえない。
したがって,本件カード発明3-1の構成要件8Hの?A「前記コイン検出作動部が設けられた収納ケースが前記基礎フレームの上部に着脱自在に載置されたとき」も,本件カード特許3の明細書の段落【0010】の上記の文章も原出願の当初明細書に記載した事項の範囲内でないものを含む。
さらに,【発明が解決しようとする課題】においても,以下のとおり,当初明細書には存在しなかった新たな事項が追加されている。
本件カード発明3-1を分割出願した際の明細書(甲38)の段落【0004】の「しかし,1つのフレーム内に収納ケースと送り出し駆動機構とが配置されていると,分解・組立が困難になるという問題がある。」という記載は明らかに原出願の当初明細書に記載されていなかった事項である。このように原出願の当初明細書に記載されておらず,かつ,自明でもない従来技術の問題点を新たに設定した上で,本件カード特許3の明細書には,これを受けた形で,「本発明は,このような従来技術の問題点を解決できるようにした媒体販売装置を提供することを目的とする(段落【0004】)と記載され,さらに続けて具体的に「本発明は,収納ケースを基礎フレームと別個に形成して,収納ケースを基礎フレームの上面に着脱できるようにすることにより,収納ケース及び基礎フレームの分解・組立が簡単かつ容易にできるにした媒体販売装置を提供することを目的とする」(段落【0005】)と記載されている。つまり,当初明細書においては,全く予定されていなかった課題を分割に際して新たに設定しているのである。これは,課題として当初出願で想定されていなかった事柄を書き加えることにより,単なる説明事項であった事柄に「発明」らしき輪郭を与えるための操作であるといわねばならず,分割の制度を悪用するものにほかならない。このように,本件カード特許3に係る特許出願は,原出願の当初明細書に記載した事項の範囲内でないものを含んでいる。
以上のとおりであり,本件カード発明3-1の出願は分割出願の要件を満たしていない。本件カード発明3-1は,原出願の当初明細書に記載した事項の範囲内でないものを含むから,分割出願の要件を満たさず,その出願日は,現に分割出願をした平成17年6月24日となる。
その結果,本件カード発明3-1は,平成14年9月27日に公開された原出願の公開公報である特開2002-279514号公報(乙63)に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠き,無効とされるべきものであり,本件カード特許3についてはその特許権を行使することができない(特許法104条の3,1項)。
(イ) 明細書の記載不備a改正前特許法36条6項1号違反本件カード特許3の明細書に記載の実施例は原出願の明細書に記載された実施例と同じであり,原出願の実施例の記載(乙14)段落【0008】,【0013】〜【0019】,【0024】,【0026】〜【0027】,【0029】,【0035】,【0041】〜【0042】,【0044】,【0053】〜【0056】,【0058】)は,本件カード特許3の明細書の段落【0017】,【0022】〜【0028】,【0033】〜【0035】,【0037】,【0042】,【0048】,【0050】,【0058】〜【0059】,【0060】〜【0063】の記載と一致している。
本件カード特許3の明細書は原出願の明細書と段落にする箇所が異なっているところがある点と,原出願の明細書の段落【0008】における「本発明における課題解決のための第4の具体的手段は,第2又は第3の具体的手段に加えて,」が,本件カード特許3の明細書では段落【0017】において「第4に,」となっている点を除いて完全に一致している。
したがって,本件カード発明3-1の構成要件8Gと8Hについて上記分割要件違反において述べたことは,本件カード発明3-1(本件カード特許3の請求項1の記載)と本件カード特許3の明細書の記載との関係についてもそのまま当てはまる。
すなわち,本件カード発明3-1の構成要件8Gは?@「収納ケース」が「作動体」「を有し」ている旨規定するが,この点は本件カード特許3の明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないし,本件カード発明3-1の構成要件8Hは?A「前記コイン検出作動部が設けられた収納ケースが前記基礎フレームの上面に着脱可能に載置されたとき」と規定するが,この点もまた本件カード特許3の明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。
本件カード発明3-1は明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないので,改正前特許法36条6項1号の要件を満たしていない。
b改正前特許法36条6項2号違反本件カード発明3-1の構成要件8Eないし8Hの記載は次の通りである(符号(e),(f),(g),(h)を加入)。
「8E前記基礎フレームとは別体とされた,複数の媒体を収容する(e)収納ケースと,8F前記(f)収納ケースの側面に設けられたコイン検出作動部とを具備し,8G 前記コイン検出作動部が設けられた(g)収納ケースは,正規コインの投入が検出された場合に回動可能となり,正規コインの投入が検出されない場合,回動不可能となる作動体と,前記作動体と噛合するアイドラギアとを有し,8H前記コイン検出作動部が設けられた(h)収納ケースが前記基礎フレームの上面に着脱可能に載置されたとき,前記アイドラギアが前記払出ギヤと連動し,前記作動体と前記払出ギヤとの連動が形成され,前記払出ローラは前記収納ケース内の最下位置の媒体を受持し,」上記によると,構成要件8Fでは,構成要件8Eにおける(e)収納ケースを受けて,「前記(f)収納ケース」は,その側面にコイン検出作動部が設けられていることを規定する。この(f)収納ケースは,その側面にコイン検出作動部が設けられた収納ケースであるから,それ自体としてはコイン検出作動部を含まないものということになる。
他方,構成要件8Gにおける(g)収納ケースは作動体とアイドラギアとを有するものとして規定されている。明細書の記載によると,作動体はコイン検出作動部に属するものであるから,(g)収納ケースはコイン検出作動部の少なくとも一部を含むものを意味すると解釈せざるを得ない。(g)収納ケースは「コイン検出作動部が設けられた」という語句で修飾されているが,このような修飾があるからといって「収納ケース」という語句の意味が突然に変わる筈はない。一つの語句は同じ意味をもつものとして統一して使用されなければならない。
コイン検出作動部とは別のものとしてこれを含まない(f)収納ケースと,コイン検出作動部の少なくとも一部(作動体)を含むものとして解釈される(g)収納ケースとは明らかに矛盾するので,本件カード発明3-1は明確ではないというべきである。
構成要件8Hにおける「前記コイン検出作動部が設けられた(h)収納ケース」も,(f)収納ケースの意味なのか,(g)収納ケースの意味なのか不明であるから,本件カード発明3-1は明確ではない。
本件カード発明3-1は上記のように明確でないから,改正前特許法36条6項2号の要件を満たしていない。
c上記のとおり,本件カード発明3-1は改正前特許法第36条6項1号,2号に規定する要件を満たしていないから,無効とされるべきものであり,特許権を行使することはできない。
(ウ) 乙50を主引用例とする進歩性の欠如a本件カード発明3-1の内容本件カード特許3の明細書(甲38)には,「本発明は,収納ケースを基礎フレームと別個に形成して,収納ケースを基礎フレームの上面に着脱できるようにすることにより,収納ケース及び基礎フレームの分解・組立が簡単かつ容易できる(ママ)ようにした媒体販売装置を提供することを目的とする。」(段落【0005】)と記載されているので,本件カード発明3-1はこのようなことを目的とするものであるものとして理解しておくこととする(段落【0019】)。
しかし,このような本件カード発明3-1の目的は既に知られており,たとえば乙17に明確に記載されている(乙17には,「基台を変更することなく,ストッカを交換するだけでよいから,繰出し装置の段取り替え作業も容易であり,その取扱いも便利となる。」と記載されている(段落【0018】15行〜18行))。一般的に言っても,装置(または機械)を構成する要素を別個に構成して簡単に組み立てられるようにすることは,装置設計の現場で日常的に行なわれていることであるから,本件発明の目的は至極ありふれたものである。
本件カード発明3-1の要旨は請求項1に記載のとおりであり,これを分説し,各構成要件に8Aないし8Jの符号を付して以下に記載する。
「8A 基礎フレームと,8B前記基礎フレームにローラ軸を介して回動可能に支持された払出ローラと,8C前記基礎フレームに回動可能に支持され,ハンドルの操作により回動する操作軸と,8D前記ローラ軸に取り付けられ,前記操作軸の回動を前記払出ローラに伝達する払出ギヤと,8E前記基礎フレームとは別体とされた,複数の媒体を収容する収納ケースと,8F前記収納ケースの側面に設けられたコイン検出作動部とを具備し,8G 前記コイン検出作動部が設けられた収納ケースは,正規コインの投入が検出された場合に回動可能となり,正規コインの投入が検出されない場合,回動不可能となる作動体と,前記作動体と噛合するアイドラギアとを有し,8H前記コイン検出作動部が設けられた収納ケースが前記基礎フレームの上面に着脱可能に載置されたとき,前記アイドラギアが前記払出ギヤと連動し,前記作動体と前記払出ギヤとの連動が形成され,前記払出ローラは前記収納ケース内の最下位置の媒体を受持し,8I正規コインの投入が検出されない場合,前記作動体が回動不可能となることにより,前記アイドラギアおよび前記払出ギヤは回転を阻止され,正規コインの投入が検出された場合,前記作動体が回動可能となることにより,前記アイドラギアおよび前記払出ギヤは回転が可能となり,前記ハンドルの操作による操作軸の回転に応じて前記払出ギヤが回転し,払出ローラが回動することにより前記受持された媒体が払い出されること8J を特徴とする媒体販売装置。」b 乙50の開示乙50(特開平9-7022号公報,発明の名称「コイン検出作動機構」,出願人 大和精工株式会社,公開日 平成9年1月10日)には,紙葉類,箱状物品等を自動販売するための装置が記載されている。乙50に記載の自動販売装置は本件カード発明3-1の媒体販売装置と同種のものである。
乙50には,【従来の技術】の欄に,「例えば,ゲームカード,テレホンカード,乗車券等の紙葉類の自動販売装置としては,特公平3-75469号公報に開示されたものがある。この装置は,所定枚数のコインを投入すると,コインセレクタを通ってコイン検出作動機構に入り,コインでコイン検出作動機構の作動を可能状態にし,ハンドルによる作動軸の回転を許容するようになり,作動軸の回転で送り出しローラを駆動して紙葉類を送り出すようになっている。」(段落【0002】)と記載されている。
紙葉類等の媒体販売装置において,正規コインの投入が検出されない場合に媒体の払出しを禁止(阻止)し,正規コインの投入が検出された場合に媒体を払い出す技術は周知である。
乙50の【実施例】の欄には次の記載がある。
「図1〜5において,紙葉類送り出し装置1はカード販売機に適用した単枚の紙葉類Aを送り出すものである。外箱16は前面にコイン挿入口,紙葉類Aの取り出し口17,ディスプレイ取付部18等が形成され,背面は開放されていて後蓋19で閉鎖可能になっており,上面には上蓋20が設けられている。」(段落【0009】)「外箱16の内部には,フレーム2が後方から着脱自在に挿入配置され,内下部には集金箱21が挿脱自在に配置されている。フレーム2は底板24,この底板24に固定の左右側板25L,25R及び支持板26等を有し,左右側板25L,25Rの上下方向中途部に送り出し軸4を支持し,この送り出し軸4より上側に紙葉類Aの収納部を形成し,下側に駆動機構12及びコインセレクタ27を配置している。」(段落【0010】)「前記収納部は,左右側板25L,25R間に多数枚の紙葉類Aの主に後部を積載状に載置する下受け材28と,積載紙葉類Aの前面を仕切る衝立板3とで区切られて形成されている。」(段落【0011】)「衝立板3は紙葉類Aの前側を案内しており,その下端は送り出し軸4に設けた送り出しローラ5の最上部より下位に位置し,かつ送り出される紙葉類Aを前下方へ案内する前下向き傾斜面3Aが形成されている。…送り出しローラ5は衝立板3と下受け材28との間の下部に位置し,積載紙葉類Aの前部を受載している。」(段落【0012】)「前記送り出しローラ5は間隙10をおいて左右一対あり,各送り出しローラ5は一方向クラッチ7及びトルクリミッタ14を介して送り出し軸4に設けられている。この送り出し軸4には間隙10内に動力伝達部材11としてのギヤが取り付けられ,駆動機構12からの動力で送り出し軸4を回転駆動可能になっている。」(段落【0013】)「前記送り出し軸4の端部を支持する軸受30A,30Bは,一方の軸受30Aが図3の右側板25Rに固定され,送り出し軸4の一端が挿脱自在に挿入支持され,他方の軸受30Bが左側板25Lに固定の支持板9に固定され,送り出し軸4の他端が挿入支持されており,前記支持板9は左側板25Lに形成した孔13を閉鎖している。」(段落【0015】)「駆動機構12は外箱16の前方に配置されたハンドル33からの動力を動力伝達部材11に伝達するものであり,ハンドル33を取り付けたハンドル軸34の動力は方向変換ベベルギヤ35を介して伝動軸36に伝達され,この伝動軸36上のギヤ37からアイドラギヤ38を介して動力伝達部材11に伝達される。伝動軸36及びアイドラギヤ38の軸39は右側板25Rと支持板26とで支持されている。」(段落【0018】)「前記伝動軸36の端部には,コインセレクタ27から所定量のコインが投入されたときに,伝動軸36の回転を不能状態から可能にする作動機構40が設けられている。この作動機構40は所定種類のコインを1枚入れると,ハンドル33を一定角度回転可能にするものであり,実施例では100円硬貨を1枚入れて,ハンドル33を390°回転して送り出し軸4を所要量回動し,その後,ハンドル33を30°戻し回動するように構成されている。」(段落【0020】)「即ち,作動機構40は,ケース45のケース壁46,47間に伝動軸36に固定された作動ディスク48が配置され,作動ディスク48に対してコイン検出体49とラチェット爪50とが係脱自在になっており,一方のケース壁46との間にコイン検出部51が形成されている。」(段落【0021】)「前記コイン検出部51は図1,2,6,7に示すように,作動ディスク48の一側面の周方向1か所に1枚のコインが嵌入できる深さに形成された凹部であり,このコイン検出部51に対応した外周縁に切欠状の検出凹部55が形成され,コイン検出部51に嵌入したコインの外周の一部が検出凹部55に露出するようになっている。」(段落【0022】)「受入口54から1枚のコインCが入ると,作動ディスク48の一側面のコイン検出部51に保持され,かつ外周部の検出凹部55を塞ぎ,コイン検出体49との係合を不能にする。これによりハンドルを介して伝動軸36が回転可能になり,伝動軸36を390°回動できるようになる。…伝動軸36が390°まで回動したとき,コイン検出部51に次のコインが入ってきていないと,コイン検出体49が検出凹部55に係合して作動ディスク48の回動を阻止することになる。」(段落【0027】)c 対比本件カード発明3-1の構成と乙50に記載の構成とを対比すると,本件カード発明3-1の構成はすべて乙50に記載されている。このことは,本件カード発明3-1は乙50に記載の構成以上の要素を有していないということを意味する。本件カード発明3-1と乙50の記載との相違点は単なる配置の相違にすぎない。
乙50に記載の紙葉類の自動販売装置の構成を本件カード発明3-1(請求項1)の表現にあわせて表現すると次の通りである。
「8A′ フレーム2と,8B′前記フレーム2に送り出し軸4を介して回動可能に支持された送り出しローラ5と,8C′前記フレーム2に回動可能に支持され,ハンドル33の操作により回動するハンドル軸34と,8D′前記送り出し軸4に取り付けられ,前記ハンドル軸34の回動を前記送り出しローラ5に伝達する動力伝達部材11(ギヤ)と,8E′前記フレーム2に設けられた,複数の媒体を収納する収納部と,8F′前記フレーム2に設けられた作動機構40とを具備し,8G′前記作動機構40が設けられたフレーム2は,正規コインの投入が検出された場合に回動可能となり,正規コインの投入が検出されない場合,回動不可能となる作動ディスク48と,前記作動ディスク48と連動するギヤ37,アイドラギヤ38とを有し,8H′収納部は前記フレーム2に設けられている状態で,前記アイドラギヤ38が前記動力伝達部材11(ギヤ)と連動し,前記作動ディスク48と前記動力伝達部材11(ギヤ)との連動が形成され,前記送り出しローラ5は前記収納部内の最下位置の媒体を受持し,8I′正規コインの投入が検出されない場合,前記作動ディスク48が回動不可能となることにより,前記アイドラギヤ38および前記動力伝達部材11(ギヤ)は回転を阻止され,正規コインの投入が検出された場合,前記作動ディスク48が回動可能となることにより,前記アイドラギヤ38および前記動力伝達部材11(ギヤ)は回転が可能となり,前記ハンドル33の操作によるハンドル軸34の回転に応じて前記動力伝達部材11(ギヤ)が回転し,送り出しローラ5が回動することにより前記受持された媒体が払い出されること8J′ を特徴とする自動販売装置。」d 進歩性の欠如本件カード発明3-1と乙50に記載の自動販売装置の構成との相違点は次の2点である。
?@本件カード発明3-1においては収納ケースが基礎フレームとは別体とされ,基礎フレームの上面に着脱可能に載置されたときがあり得るのに対して,乙50に記載の装置では収納部はフレーム2に設けられていること?A本件カード発明3-1においては,コイン検出作動部が収納ケースの側面に設けられ,その結果,作動体とアイドラギヤとが噛合しているのに対して,乙50に記載の自動販売装置では,作動機構40はフレーム2に設けられ,その結果,作動ディスク48とギヤ37,アイドラギヤ38は直接噛合せずに連動する構成となっていること上記相違点?@は上述した本件カード発明3-1の目的に関連する構成であるが,この目的が周知である上に,相違点?@に相当する構成,すなわち収納ケースが基礎フレームとは別体とされ,かつ基礎フレームに着脱自在に載置される構成もまた周知である。たとえば乙17にはカード状物品の払出し装置が記載されており,この装置においてカード状物品を収容するストッカ1は基台2とは別体に形成され,基台2に着脱自在に取付けられることが記載されている(段落【0029】等を参照)。また,乙51に記載の物品取出装置はカプセル等の物品Aを取扱うものであるが,この物品取出装置1には,装置本体3とは別体とされた物品収納ケース5が着脱自在に設けられる構造が開示されている。この物品取出装置1もまたコインセレクター95を備え,物品収納ケース5が装置本体3に装着されたときに,正規のコインが検出された場合には物品の放出が可能となり,正規のコインが検出されない場合には物品の放出を阻止する構造となっている。
したがって,相違点?@は当業者が乙17,乙51等を参照して容易に想到し得るものである。
相違点?Aに関する本件カード発明3-1の構成,すなわち,収納ケースの側面にコイン検出作動部を設ける点は本件カード発明3-1の目的とは直接に関連性がないか薄いものであり,その技術的意義が必ずしも明確でないものである。単にコイン検出作動部をアセンブリとして収納ケースに製作,組み立てる(段落【0017】)程度のことであるならば,それは設計的事項以外の何物でもない。
相違点?Aもまた,当業者が必要に応じて設計し得る程度のものにすぎない。
e以上のように,相違点?@は周知の構成,相違点?Aは設計的事項にすぎないから,本件カード発明3-1は乙50の記載に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり,本件カード特許3は特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであるから,無効とされるべきである。
(3) 一審原告らの主張に対する反論ア 本件カプセル特許4が有効であるとの主張に対し(ア)本件カプセル特許4は本件カプセル特許1から分割出願されたもので,その後補正され,現在に至っているところ,発明の課題についての記載と発明の効果についての記載が大幅に変更されている。
すなわち,発明の課題については,本件カプセル特許1の出願当初明細書(甲42)において,「本願発明は,上記問題点に鑑み案出したものであって,物品収納ケース内の物品をいちいち手で入替えることなく,物品収納ケース自体を取り替えるだけで,取り出せる物品を簡単に変更することができる物品取出装置を提供することを第1の課題とする。」(【0006】)と記載されていたものが,本件カプセル特許4の明細書では「本願発明は,上記問題点に鑑み案出したものであって,物品収納ケースが引き出し自在な物品取出装置を提供することを課題とする。」(【0005】)と変更されている。
また,発明の効果に関しては,本件カプセル特許1の出願当初明細書に,「以上説明してきたように,本願請求項1および2記載の物品取出装置は,物品収納ケース内の物品をいちいち手で入替えることなく,物品収納ケース自体を取り替えるだけで,取り出せる物品を簡単に変更することができるという効果がある。」(【0029】)と記載されていたものが,本件カプセル特許4の明細書では,「以上説明してきたように,本願請求項1記載の物品取出装置は,物品収納ケースを容易に引き出し自在にすることができるという効果がある。」(【0022】)と変更されている。
(イ)本件カプセル特許1の出願当初明細書の特許請求の範囲の請求項1,2には,「装置本体の上部には,物品収納ケースが着脱自在に設けられていること。」と記載されている(本件カプセル特許1では,その後,「着脱自在」が「引き出し可能」という表現に置き換えられている)。
物品収納ケースがなぜ着脱自在に設けられているかというと,それは,「物品収納ケース内の物品をいちいち手で入替えることなく,物品収納ケース自体を取り替えるだけで,取り出せる物品を簡単に変更することができる」(カプセル特許1の出願当初明細書に記載の発明の課題と効果)ようにするためである。「物品収納ケース自体を取り替える」ために「物品収納ケースが着脱自在に設けられている」のであるから,「着脱自在」とは「物品収納ケースを物品取出装置から取り外す」ことができることを意味することになる。物品収納ケースを物品取出装置から取り外すことができないと「物品収納ケース自体を取り替える」ことはできないのであるから,「装置本体から取り外すことができないが引き出すことはできる物品収納ケース」は本件カプセル特許1の出願当初明細書には開示されていなかったのであり,そのような物品収納ケースは上述した発明の課題とは無縁で発明の効果を奏することはできないから,当然ながら「自明なもの」でもない。
本件カプセル特許1の出願当初明細書の実施例の説明において,「物品収納ケース5が引き出し自在に設けられている。」と記載され,「引き出し自在」という用語が使用されている。明細書における実施例(発明の詳細な説明)の記載は特許請求の範囲に記載の発明をサポートしている筈であるから,ここにおける「引き出し自在」という用語もまた,「物品収納ケースを取り外すことはできないが外へ引き出すことができるというだけでは足りず,物品収納ケース自体を取り替えることができることを意味する」といわざるを得ないのである。すなわち,本件カプセル特許1の出願当初明細書においては,「着脱自在」と「引き出し自在」とは同義の用語として用いられている。
(ウ)上記のように本件カプセル特許4の明細書には,発明の課題として「物品収納ケースが引き出し自在な物品取出装置を提供する」と記載され,発明の効果として「物品収納ケースを容易に引き出し自在にすることができる」と記載されているのみで,本件カプセル特許1の出願当初明細書に発明の課題および効果として記載の「物品収納ケース内の物品をいちいち手で入替えることなく,物品収納ケース自体を取り替えるだけで,取り出せる物品を簡単に変更することができる」という文章は削除されている。
本件カプセル特許1の出願当初明細書において,「引き出し自在」という用語は,もともと,上記の「物品収納ケース自体を取り替えるだけで,取り出せる物品を簡単に変更することができる」という発明の課題及び効果を達成するために不可欠の構成として,物品収納ケースを物品取出装置から取り外すことができることを意味し,装置本体から取り外すことはできないが引き出すことはできるものを含まないという技術的意味を持っていた。
これに対して,本件カプセル特許4の明細書において,補正により,「物品収納ケース自体を取り替えるだけで,取り出せる物品を簡単に変更することができる」という発明の課題および効果が削除されたことにより,「引き出し自在」という用語は,本件カプセル特許1の出願当初明細書における発明の課題及び効果を達成するための不可欠の構成としての上述した技術的意味を失ってしまったといわざるを得ない。すなわち,「引き出し自在」という用語の技術的意味が本件カプセル特許1の出願当初明細書におけるものと比べて本件カプセル特許4の明細書においてはより広い意味を持つものに変化してしまっているのである。
このことを原判決は,「引き出し(す)」という言葉が辞書的意味として「中にあるものを引っ張って外へ出す」という意味を持つことを前提として「ウこれらの特許請求の範囲及び発明の詳細な説明からすると,構成要件プ4-1Bの『引き出し自在』は,物品収納ケースを装置本体から取り外すことができるものだけでなく,装置本体から取り外すことはできないが引き出すことはできるものを含むに至ったものと認めざるを得ない。」と表現しているのである。原判決に誤りはない。
(エ)したがって,本件カプセル特許4に係る出願は,原出願である本件カプセル特許1の出願当初明細書に記載した事項の範囲内でないものを含むから,分割出願の要件(改正前特許法44条1項)を満たさず,その出願日は,現に分割出願をした平成13年5月7日となる。
その結果,本件カプセル発明4-1は,平成9年12月16日に公開された特開平9-326081号公報に記載された発明と同一であるから,本件カプセル特許4は,無効とされるべきものである。
(オ)一審原告らは,本件カプセル特許1の出願当初明細書の請求項3〜5においては,「物品収納ケースが着脱自在」であることは記載されていないから,「物品収納ケースが着脱自在」であることを要件としない発明が本件カプセル特許1の出願当初明細書に開示されていた旨,主張する。
しかしながら,本件カプセル特許1の出願当初明細書の請求項3〜5は,請求項1〜2の上述した課題(「物品収納ケース内の物品をいちいち手で入替えることなく,物品収納ケース自体を取り替えるだけで,取り出せる物品を簡単に変更することができる物品取出装置を提供する」という第1の課題)とは異なる「取り出す物品の大きさが異なっても,充分対応ができる汎用性のある物品取出装置を提供する」という第2の課題(段落【0006】参照)に向けられたものであるから,一審原告らの上記主張は請求項1〜2に記載の発明には妥当しない。
イ 本件カード特許2(請求項1)が無効であることについて(ア)本件カード発明2-1の進歩性の有無を判断するに当たって本件カード発明2-1の技術的思想を把握するためには,本件明細書に記載の発明の目的および効果,並びに請求項1の記載に従うことで十分である。
本件明細書には,発明の目的として,「本発明は,収納ケース,基礎フレーム,払出ローラ付きローラ軸等を別個に構成して,簡単に組み立てることを可能にした媒体販売装置を提供することを目的とする。」(【0005】)と記載され,発明の効果として,「本発明によれば,収納ケース,基礎フレーム,払出ローラ付きローラ軸等を別個に構成して,簡単に組み立てることが可能になる。」(【0013】)と記載されている。これらの文章により本件発明2-1の目的と効果は十分に理解できる。
一審原告らは,本件カード発明2-1の課題として,明細書に記載のない電動式の装置との比較や清掃の必要性を主張するが,意味がない。
また一審原告らは,本件カード発明2-1の技術的意義として,「媒体販売装置を『操作軸』,『ローラ軸』,『払出ローラ』,『払出伝動体』を備えた『基礎フレーム』と『複数の媒体を上下積層状に収納可能な収納ケース』という2つの異なるユニットに分割し,この2つの異なるユニットを接合させる箇所として『基礎フレームの上面』を選択し,その『基礎フレームの上面』に払出ローラ付きローラ軸が挿脱可能に挿入される上方開放状の開放軸受部を形成する」という構成を採用した旨主張する。
本件カード発明2-1を規定する請求項1には,「2つの異なるユニットに分割し,」とか,「この2つの異なるユニットを接合させる箇所として『基礎フレームの上面』を選択し」等の表現は存しない。
さらに一審原告らは,「前記開放軸受部に上方より挿脱可能に挿入され…るローラ軸」における「挿脱可能」の用語について,「他に何らの操作を要さずに,ローラ軸を開放軸受部から取り外すことが可能な構成を意味」し,「例えば,さらにネジ止めやブッシュを外すなどの作業をすることによってローラ軸を取り外すような場合は『挿脱可能』に含まれない。」との解釈を提示しているが,請求項1の表現から離れ,かつ根拠のない独自のものといわざるを得ない。請求項1には「挿脱可能」としか記載されていないのである。
以上のように,一審原告らは本件発明2-1の技術的意義を,明細書の特許請求の範囲(請求項)や発明の詳細な説明の記載から離れて恣意的に主張している。
(イ)一審原告らは,原判決において乙17発明と本件カード発明2-1との相違点の認定は不十分であるとして,追加の相違点4,5,6を挙げる。
しかし一審原告らが主張する相違点4における「開放軸受部」については,原判決は「相違点3」において言及している。
また一審原告らが主張する相違点5における「払出伝動体」に関しては,回転動力を伝動するという観点からいえば乙17にもモータMの回転動力を軸部30に伝達し,繰出しローラ3を回動させるプーリ7a,7b,タイミングベルト7cが開示されているので,相違点とはいえないのである。手動による操作軸の回転をローラ軸に伝達するという意味においては,原判決は「相違点1」において,「払出伝動体」という用語は用いていないが,「本件カード発明2-1が,…この操作軸の回動をローラ軸に伝達するのに対し,乙17発明は,…モータMの回動を軸部30に伝達する点。」と明確に挙げているのである。請求項1における払出伝動体の「前記操作軸の回動を前記ローラ軸に伝達し」という定義に照らせば,原判決が言及する相違点1が,一審原告らが主張する相違点5を含んでいることは明らかである。
さらに一審原告らが主張する相違点6についても原判決は相違点1に明示的に記載している。
以上のようにして,一審原告らの主張する相違点4,5,6は誤りであるか,または既に原判決が認定した相違点1〜3に含まれている。
(ウ) 相違点1につき本件カード発明2-1はカード等の媒体を払い出す媒体販売装置に関するものであり,相違点1に関する本件カード発明2-1の構造は,「基礎フレームに回動可能に支持され,ハンドルにより回動させられる操作軸を備え,この操作軸の回動をローラ軸に伝達する」というものである。
これに対して乙17発明もカード状物品の繰出し装置に関するものであり,相違点1に関する乙17発明の構造は,本件カード発明2-1の基礎フレームに対応する基台2に支持されたモータMの回動を軸部30に伝達するというものである。
相違点1はカード状媒体を送り出す送り出しローラ(繰出しローラ3)を回動させる構造の相違に関するものである。
一方,同じくカードを含む紙葉類の送り出し装置に関する乙16には,カードを含む紙葉類を送り出す送り出しローラ5を回動させる構造として,フレーム2に回動可能に支持され,ハンドル33により回動させられるハンドル軸34を備え,このハンドル軸34の回動を送り出しローラ軸4に伝達するという本件カード発明2-1の上記構造と全く同じ構造が開示されている。
相違点1に関して,乙16に開示の構造を,乙17発明の上記構造とそのまま置き替えても乙17発明のカード状物品の繰出し装置は何の障害もなく動作するのであるから,乙16に開示の構造を乙17発明に適用することに困難性はない。
一審原告らは,「電動式である乙17発明において,軸部30を回動するための駆動源をモータMではなく手動にした場合,本件カード発明2-1において生じるような課題が生じることになるから,」と主張するが,本件カード発明2-1について全く意味の無い課題をわざわざ設定した上での主張であるから,失当である。
本件カード発明2-1の課題は,上記のとおり,「収納ケース,基礎フレーム,払出ローラ付きローラ軸等を別個に構成して,簡単に組み立てることを可能に」することにあるのであり,この課題は正に乙17発明の課題でもある。「電動式である乙17発明は,本件カード発明2-1において生じるような手動式の装置における課題や目的を開示も示唆もするものではないから,」というのは明らかな誤りである。
(エ) 相違点2につき相違点2に関する一審原告らの主張もまた明細書から離れた解釈に依拠したものであり「2つの異なるユニットを接合させる箇所として『基礎フレームの上面』を選択し」などということは,請求項1には記載されていない。
上方開放状の開放軸受部は,実施例においては,図面をみる限り,基礎フレーム16に形成された壁の上端に形成されているように見え,仮に,「基礎フレームの上面」がそのような壁の上端を含むのであれば,それは乙17発明の側板部2a,2bの上端と区別することが困難となるのであり,乙17発明の切欠溝26のみならず,乙24ないし乙35に示された上方開放状の開放軸受部はすべて「基礎フレームの上面」に形成されているといえる。
そして乙17発明においても,ストッカ1を基台2上に取付けるときにストッカ1の底面部11を当接(すなわち「接合」)させる載置板部22が側板部2a,2bに設けられているのであり,乙19にも本体1のカードカセット着脱基準面(本体1上面)にカードカセット2が面接触(すなわち「接合」)することが開示されているのである。このように,2つのユニットを面により接合させることは決して新しい構造ではない。
一審原告らが主張する「基礎フレームの上面」は本件カード発明2-1特有の技術的意味を伴わない単なる言葉でしかない。
なお,乙19に関し一審原告らは開放軸受部に相当する部材は存在しないなどと主張するが,判決は,本体上面にカードカセットが載置されることを指摘したのであって,開放軸受部が存在するとしているのではない。
(オ) 相違点3につき相違点3に関しても一審原告らは,明細書から離れた解釈に依拠した主張をしている。上方開放状の開放軸受部が形成された「基礎フレームの上面」は実体を伴わない単なる言葉にすぎない。
上方開放状の開放軸受部は乙24〜35に示されるように周知の構造であるところ,これらには小学校低学年の教材も含まれている。
乙17には,「このような構成にすれば,繰出しローラ3の各軸部30を上記切欠溝26の上部から孔部27の位置へ挿入することができる。」(【0035】)と記載され,さらに,「繰出しローラ3を基台2に取付ける手段として,上記のような手段を採用すれば,基台2に対する繰出しローラ3の組付作業が非常に容易なものとなる。また,繰出しローラ3の各軸部30からブッシュ28を抜き外すと,繰出しローラ3を基台2の切欠溝26から容易に取り出すこともできる。したがって,繰出しローラ3の部品交換作業も容易かつ迅速に行えるという利点が得られる。ただし,本願発明は,繰出しローラ3の具体的な取付け手段がこれに限定されないことは言うまでもない。」(【0037】)と記載されている。
相違点1に関して述べたように乙17発明において,乙16に開示された構成とすることについて,いかなる困難も存在しない。
ウ本件カード特許2(請求項2)が無効であることについて(ア)一審原告らは,本件カード発明2-2について,複雑な構造を採用せず,収納ケースを基礎フレームに装着するだけで開放軸受部からのローラ軸の離脱を防止することができるようにした点に技術的意義があると主張する。しかし,一審原告らが指摘する段落【0010】には,「基礎フレーム16に収納ケース14を載置装着して前記開放軸受部16aからのローラ軸25の抜け止めをしている。」と記載されているだけであり,一審原告らは明細書の記載から離れた主張をしている。
また,「挿脱可能」の解釈も,請求項2の記載から逸脱した一審原告ら独自のものであることは,本件カード発明2-1に関して指摘したとおりである。
(イ)一審原告らが指摘する相違点5は誤りである。なぜなら,乙17発明においても,繰出しローラ3はストッカ1が基台2の上部に取付けられているという意味において基台2の上部に支持されているといえるからである。
一審原告らが指摘する相違点6,7は,本件カード発明2-1に関して一審原告らが相違点5,4として指摘した事項と同じであり,これらは原判決が示した相違点1,3にそれぞれ含まれている。
(ウ) 相違点1ないし3につき本件カード発明2-1に関して説明したとおり,一審原告らの相違点1ないし3についての主張はすべて誤りである。
一審原告らはさらに「基礎フレームの上面」について独自の見解を述べるが,上述したように,「基礎フレームの上面」なる言葉は何ら技術的意義を有しないか,または周知の事項である。
(エ) 相違点4につき乙24,27,29,31,32,35に示されるとおり,U字形の上方開放軸受に支持された軸の離脱をふた(蓋体),当片,カバーフレーム等で防止する構造は,小学校低学年の教材に載っているように古来よりきわめてありふれた構造として誰でもが知っているものであるから,基礎フレーム上に装着された収納ケースによって離脱が防止されるものであろうと創作的価値は存在しない。
エ 損害論の主張に対し(ア) 特許法102条2項の適用についてa金型費用を控除すべきであること一審原告らは,特許法102条2項の利益の算定について,金型費用を控除すべきでないと主張する。
しかしながら,特許法102条2項の「侵害者が侵害の行為により受けた利益の額」とは,侵害者が侵害行為を行うことによって得た利益の額であるから,侵害行為を行うために直接必要であった費用は当然控除できるはずである。したがって,被告カプセルベンダー,被告カードベンダーが仮に一審原告らの特許を侵害するとしても,かかるカプセルベンダーやカードベンダーを製造するために必要だった金型費用が控除されるのは当然である。
なお原判決は,金型製作費用を控除するにつき,同金型を利用して将来販売する可能性のある数量を考慮して,カプセルベンダーの金型製作費用の約2分の1に相当する額のみを控除している。しかし,法人税法上,金型の償却期間は2年であって,対象となっているカプセルベンダーの販売期間中に当該カプセルベンダーの製造に不可欠な費用となっていることや,未だ実現していない将来の販売数量を付加して控除すべき金型製作費用を按分すべきではないことなどを考慮すれば,本来全額を控除すべきである。
また,カードベンダーの金型製作費用の控除についても,対象となる特許が成立する前に製造された部分,つまり,カード特許を侵害していない状況でカードベンダーの製造のために利用された部分のみを控除の対象から外せば足りるから,カードベンダーの販売数をカード特許3の成立後の販売数で按分した額を控除すべきである。
b無償供与分の製造原価を控除すべきであること一審原告らは,一審被告が無償で供与したカプセルベンダー及びカードベンダーの製造原価を売上額から控除すべきではないと主張するが,利益額の算定においては,侵害品の製造販売のために直接要した費用を控除すべきものと考えられるところ,無償供与分は,一審被告のカプセルベンダー,カードベンダーを販売するために,その機能等を需要者に知らしめる目的上必要なサンプルであるから,その販売のために直接要した費用に当たる。
c輸入・出荷諸経費さらに,カプセルベンダー,カードベンダーの輸送等に要した費用も,その販売のために直接要した費用として控除の対象とされるべきである。一審被告は,カプセルベンダー,カードベンダー共に国外で製造されたものを国内に輸入しているため,輸入経費がかかるところ,これらは,製造原価に計上していない。運送費,通関手数料等を含めた1台当たりの平均輸入諸経費は,カプセルベンダー,カードベンダーいずれも920円となるため,カプセルベンダー,カードベンダーについて,1万1250台分1035万0000円,512台分47万1040円がそれぞれ控除されるべきである。
また,一審被告が,顧客に対して出荷する場合の出荷コスト(運送費等)も,販売のために直接要した費用として控除の対象とされるべきであるところ,1台当たりの平均出荷コストはいずれも1000円が必要である。したがって,カプセルベンダー,カードベンダーについて,1万1250台分1125万0000円,512台分51万2000円がそれぞれ控除されるべきである。
d計算額以上を前提にすると,被告カプセルベンダーについて,特許法102条2項により算出した利益の額は,平成14年3月21日から平成20年4月30日までの販売額金1億9461万0080円から,無償供与分を含む製造原価金1億6017万9792円,金型製作費用金6805万6745円及び出荷コスト1台当たり1000円,輸入諸経費1台当たり920円を控除するので,利益の額は存在しない。
また,被告カードベンダーについては,平成18年8月以降,平成20年4月30日までの販売額金1919万3400円のうち,無償供与分を含む製造原価は金1141万4418円である。そして金型製作費用等の開発費は,平成20年4月30日までで6697万4236円を要しており,これは償却に至っていないし,平成18年8月以降の販売台数で按分しても金型製作費用は金986万8672円となる。これに上記被告カプセルベンダーと同額の1台当たりの出荷コスト,輸入諸経費を控除するので,利益の額は存在しない。
e販売管理費以上のとおり,一審被告が仮に一審原告らの特許権を侵害していたとしても,既に金型製作費用の控除だけで赤字であって侵害行為によって利益を得ていないことは明らかである。
さらに,販売管理費用であっても,当該製品を製造・販売するために必要とした費用については,控除されるべきである。
一審被告が被告カプセルベンダーの製造・販売のために要した販売管理費は,金500万円を下らず,被告カードベンダーの製造・販売のために要した販売管理費は,金37万円を下回ることはない。
f特許法102条1項ただし書に関する主張なお,仮に,一審被告が特許権を侵害していたことにより,利益を得ていたとしても,下記のとおり,特許法102条1項ただし書きに定める事由がある。
?@ カプセルベンダーの市場シェアカプセルベンダーの製造・販売者は,一審原告ら及び一審被告のほか,訴外株式会社ユージンも行っており,その市場シェアは以下のとおりである。
バンダイ 60%ユージン 38.5%エポック 1.5%したがって,上記シェアの範囲でしか,一審原告らは販売することができなかったはずである。
?A訴外株式会社ミントへの販売一審被告は,カプセルベンダー及びカードベンダーを訴外株式会社ミントへ販売しているが,同社は,一審原告らからこれらの製品を購入することはなく,これは一審被告独自の販売ルートである。したがって,これら訴外株式会社ミントに対しては,一審原告らが販売することができない数量として控除されるべきである。
(イ)特許法102条3項の主張について一審原告らは,カプセル特許1の請求項2に係る発明の実施料率は10%,カード特許3の請求項1に係る発明の実施料率は15%を,それぞれ下回らないと主張する。
しかしそのような実施料率を相当とする理由がなく,原判決の認定どおり,多くても2%とするのが相当である。
(ウ) 弁護士費用について原判決は,一審原告バンダイの損害額のうち,80万円を,一審原告大和精工の損害額のうち,25万円を,それぞれ,侵害行為と因果関係のある弁護士費用として認めているが,いずれも,通常,弁護士費用として認められている損害額の割合を上回るものであり,より削除されるべきである。
3 一審原告ら(被控訴人・附帯控訴人ら)(1) 原判決の誤りア カプセル特許4が有効であること(ア)原判決は,「本件カプセル特許1当初明細書における請求項1及び2の『着脱自在』は,物品収納ケースを物品取出装置から取り外すことができることを意味し,装置本体から取り外すことができないが引き出すことはできる物品収納ケースは,本件カプセル特許1当初明細書に記載されていなかったし,自明でもなかったものである。」(156頁14行〜18行)ところ,「構成要件プ4-1Bの『引き出し自在』は,物品収納ケースを装置本体から取り外すことができるものだけでなく,装置本体から取り外すことはできないが引き出すことはできるものを含むに至ったものと認めざるを得ない。」(157頁下6行〜下3行)として,分割要件違反があるとした。
しかし,本件カプセル特許1の当初明細書には,以下に述べるとおり,物品収納ケース5と装置本体3とがネジ止めされていない構造,すなわち物品収納ケースが装置本体から着脱自在である構造の発明のみが記載されていたとみるべきではなく,物品収納ケースを装置本体から取り外すことができないが引き出すことはできる構造の発明も開示されているとみるべきである。
(イ)本件カプセル特許1の当初明細書(乙1)には,以下のとおり記載されている。
「【0015】物品取出装置1は,箱型形状の装置本体3を有している。装置本体3の前面上部には,物品収納ケース5が引き出し自在に設けられている。装置本体3の前壁7の上部と両側壁9,11の上部の略半分が切り欠かれて形成されている。また,装置本体3の両側壁9,11内部には,物品収納ケース5の底壁21両側部を載置する係合段部15,17が形成されている。係合段部15,17には,ガイドレール16,18が設けられ,物品収納ケース5の底壁21両側部にはガイドレール16,18に係合する係合溝23,25が形成されている。」「【0025】開閉扉110を閉じると,開閉扉110の上端が物品収納ケース5の突起19に係合し,物品収納ケース5は引き出せなくなる。」ここで,「引き出し(す)」とは,「中にあるものを引っ張って外へ出す」ことを意味する(広辞苑第5版,甲22,2228頁)。したがって,本件カプセル特許1の当初明細書には,物品収納ケース5が,装置本体3から引っ張って外へ出すことができることが開示されている。
そして,この「引き出し(す)」という表現は,物品収納ケースを装置本体より引っ張って外へ出すことを意味するにすぎず,それ以上に,物品収納ケースがそのまま装置本体からはずれるか,すなわち着脱自在であるかどうかとは関係ないことは明らかである。
(ウ)また,本件カプセル特許1当初明細書(乙1)の【0012】には,請求項1(「請求項1及び2」の誤記)記載の物品取出装置の物品収納ケース5が着脱自在である旨の説明がなされているものの(「装置本体3の上部には,物品収納ケース5が着脱自在に設けられている。」),【0013】には,以下のとおり,請求項2(「請求項3〜5」の誤記)の物品取出装置の物品収納ケース5が設けられていると記載され,着脱自在か否かについては一切記載されていない。
「【0013】装置本体3の上部には,物品収納ケース5が設けられている。」すなわち,本件カプセル特許1の当初明細書の請求項3〜5においては,「物品収納ケースが着脱自在」であることは記載されておらず,「物品収納ケースが着脱自在」であることを要件としない発明が本件カプセル特許1の当初明細書に開示されていたことは明らかである。
以上から,本件カプセル特許1の当初明細書には,物品収納ケースが装置本体から着脱自在である構造の発明のみが記載されていたとみるべきではなく,物品収納ケースを装置本体から取り外すことができないが引き出すことはできる構造の発明も開示されていたとみるべきである。
(エ)仮に「本件カプセル特許1当初明細書における請求項1及び2の『着脱自在』は,物品収納ケースを物品取出装置から取り外すことができることを意味し,装置本体から取り外すことができないが引き出すことはできる物品収納ケースは,本件カプセル特許1当初明細書に記載されていなかったし,自明でもなかったものである。」との原判決の認定(156頁14行〜18行)に誤りがなかったとすれば,構成要件プ4-1Bの「引き出し自在」は,以下に述べるとおり,「物品収納ケースを物品取出装置から取り外すことができることを意味し,装置本体から取り外すことはできないが引き出すことはできる」ものまでは含まれないと解すべきであるから,本件カプセル特許4に係る出願は,原出願である本件カプセル特許1当初明細書に記載した事項の範囲内であり,分割出願要件違反は存在しないから,原判決の認定は誤りである。
(オ)すなわち,原判決は,本件カプセル特許4の特許請求の範囲及び詳細な説明の記載を理由に,「構成要件プ4-1Bの『引き出し自在』は,物品収納ケースを装置本体から取り外すことができるものだけではなく,装置本体から取り外すことはできないが引き出すことはできるものを含むに至ったものと認めざるを得ない」(157頁下6行〜下3行)と認定しているが,この認定は誤りである。
(カ)原判決は,本件カプセル特許1の当初明細書について,「本件カプセル特許1当初明細書における請求項1及び2の『着脱自在』は,物品収納ケースを物品取出装置から取り外すことができることを意味し,装置本体から取り外すことができないが引き出すことはできる物品収納ケースは,本件カプセル特許1当初明細書に記載されていなかったし,自明でもなかったものである。」(156頁14行〜18行)と認定している。このような認定からすれば,本件カプセル特許1の当初明細書に記載されていた「引き出し自在」(乙1,7頁2行)についても,このような認定に基づき解釈されるべきである。したがって,「引き出し自在」とは,物品収納ケースを物品取出装置から取り外すことができることを意味し,装置本体から取り外すことはできないが引き出すことはできるものまでは含まれないと解するのが相当である。
よって,本件カプセル特許4に係る出願は,原出願である本件カプセル特許1当初明細書に記載した事項の範囲内であると解すべきであり,分割出願要件違反は存在しないから,原判決の認定は誤りである。
(キ)原判決は,本件カプセル特許4の特許請求の範囲における記載(「前記装置本体の前壁上部に引き出し自在に設けられ,」)及び補正により発明の詳細な説明の記載から物品収納ケース自体を取り替えるという記載が削除され,引き出し自在という記載が加えられたことなどから,構成要件プ4-1Bの「引き出し自在」は,物品収納ケースを装置本体から取り外すことができるものだけではなく,装置本体から取り外すことはできないが引き出すことはできるものを含むに至ったものと認めざるを得ないと認定した(原判決156頁22行〜157頁24行)。
しかし,原判決は,本件カプセル特許1の当初明細書に「引き出し自在」(乙1,7頁2行)との記載があるにもかかわらず,本件カプセル特許1の当初明細書について,「本件カプセル特許1当初明細書における請求項1及び2の『着脱自在』は,物品収納ケースを物品取出装置から取り外すことができることを意味し,装置本体から取り外すことができないが引き出すことはできる物品収納ケースは,本件カプセル特許1当初明細書に記載されていなかったし,自明でもなかったものである。」と認定している(原判決156頁14〜18行)。
そして,構成要件プ4-1Bの「引き出し自在」についても,本件カプセル特許4の原出願当初明細書である本件カプセル特許1の当初明細書の開示に基づいて認定されるべきであり,本件カプセル特許1の当初明細書に開示されている以上の事項を認定することはできない。すなわち,構成要件プ4-1Bの「引き出し自在」とは,物品収納ケースを物品取出装置から取り外すことができることを意味し,装置本体から取り外すことができないが引き出すことはできるものまでは含まれないと解すべきである。
原判決が,本件カプセル特許4の特許請求の範囲や発明の詳細な説明に「引き出し自在」との記載があることを理由に,構成要件プ4-1Bの「引き出し自在」は,物品収納ケースを装置本体から取り外すことができるものだけではなく,装置本体から取り外すことはできないが引き出すことはできるものを含むに至ったものと認めざるを得ないと認定するのは,上記本件カプセル特許1の当初明細書に開示されている事項についての自らの認定と矛盾するものである。
また,補正により発明の詳細な説明の記載から物品収納ケース自体を取り替えるという記載が削除されたとしても,そのことにより,構成要件プ4-1Bの「引き出し自在」が,装置本体から取り外すことはできないが引き出すことはできるものを含むに至ったと解すべき必然性はない。
(ク)以上のとおり,仮に,「本件カプセル特許1当初明細書における請求項1及び2の『着脱自在』は,物品収納ケースを物品取出装置から取り外すことができることを意味し,装置本体から取り外すことができないが引き出すことはできる物品収納ケースは,本件カプセル特許1当初明細書に記載されていなかったし,自明でもなかったものである」との原判決の認定に誤りがなかったとすれば,構成要件プ4-1Bの「引き出し自在」は,物品収納ケースを装置本体から取り外すことができるものだけを意味し,装置本体から取り外すことはできないが引き出すことはできるものまでは含まれないと解すべきであるから,構成要件プ4-1Bの「引き出し自在」に関する原判決の認定は誤りである。
イ 本件カード特許2(請求項1)が有効であること(ア)本件カード発明2-1が解決しようとする課題は,【発明が解決しようとする課題】の記載からも明らかなとおり,従来の媒体販売装置においては,「収納ケース,基礎フレーム,払出ローラ付きローラ軸等を別個に構成して,簡単に組み立てることは可能ではなかった」(甲11,段落【0004】)ところ,「収納ケース,基礎フレーム,払出ローラ付きローラ軸等を別個に構成して,簡単に組み立てることを可能にした媒体販売装置を提供することを目的とする」(甲11,段落【0005】)ものである。
また,本件カード発明2-1における媒体販売装置は,「ハンドル」を操作することによって「操作軸」を回動して,「払出ローラ」を回動させるものであるから(構成要件ド2-1B,2-1E及び2-1G参照),電動式ではなく,手動によって駆動機構を駆動させる媒体販売装置の発明である。
そして,電動式の媒体販売装置が,配線や制御プログラムなどが複雑であり,製造元又は専門家がメンテナンスを行う必要が高く,また,電源のある屋内に設置されることが多いのに対し,手動によって駆動機構を駆動させる媒体販売装置は,電動式の装置よりも駆動機構が単純であるから,日常的に設置者や購入者自身でメンテナンスを行うことが予定されているものであり,また,電動式のものに比較すれば,屋外で使用されることも多い。
したがって,本件カード発明2-1における媒体販売装置は,メンテナンスの際に,設置者や購入者が自ら,装置本体を分解,組立する必要性が高く(甲11,段落【0016】),また,屋外に設置されていることが多いことから,カード等の媒体にゴミが付着していることが多く,その結果,必然的にローラ軸及び払出ローラにゴミがたまりやすくなってしまい,ローラ軸及び払出ローラを頻繁に清掃する必要性が高い。
本件カード発明2-1は,このような課題を解決するために,「媒体販売装置を『操作軸』,『ローラ軸』,『払出ローラ』,『払出伝動体』を備えた『基礎フレーム』と『複数の媒体を上下積層状に収納可能な収納ケース』という2つの異なるユニットに分割し,この2つの異なるユニットを接合させる箇所として『基礎フレームの上面』を選択し,その『基礎フレームの上面』に払出ローラ付きローラ軸が挿脱可能に挿入される上方開放状の開放軸受部を形成する」という構成を採用したものである。
本件カード発明2-1は,かかる構成を採用したことにより,収納ケース,基礎フレーム,払出ローラ付きローラ軸等を別個に構成して,簡単に組み立てることを可能とし(甲11,段落【0013】),容易に装置本体の分解,組立ができるようにしたものである。
また,本件カード発明2-1は,かかる構成を採用することによって,基礎フレームから収納ケースを取り外すだけで,ローラ軸および払出ローラが露出し,また,ローラ軸および払出ローラを上方開放状の開放軸受部から挿脱可能にして,容易にローラ軸及び払出ローラの清掃を行うことができるようにしたものである。
上記の本件カード発明2-1の技術的意義から,構成要件ド2-1C「開放軸受部に上方より挿脱可能に挿入され‥るローラ軸」における「挿脱可能」とは,収納ケースを基礎フレームの上面から外すだけで,他に何らの操作を要さずに,ローラ軸を開放軸受部から取り外すことが可能な構成を意味することは明らかである。したがって,収納ケースを基礎フレームの上面から外した後に,例えば,さらにネジ止めやブッシュを外すなどの作業をすることによってローラ軸を取り外すような場合は「挿脱可能」に含まれない。
収納ケースを基礎フレームの上面から外すだけで,ローラ軸を開放軸受部から取り外すことができる構成を採用することによって,容易に装置本体を分解,組立することが可能となり,また,ローラ軸および払出ローラが露出することから,容易にローラ軸及び払出ローラの清掃を行うことが可能となり,上述した本件カード発明2-1の課題を解決することができる。
本件カード発明2-1の実施例においても,「払出ローラ24を取り付けているローラ軸25は,基礎フレーム16の上面の開放軸受部16aに挿脱自在に挿入されており,基礎フレーム16上に収納ケース14を載置して取り付けることにより,開放軸受部16aからの離脱が防止される支持構造となっており,従って,払出ローラ24は着脱自在である。」(甲11,【0018】)と記載されており,収納ケース14を基礎フレーム16の上面から外すだけで,他に何らの操作を要さずに,ローラ軸25を開放軸受部16aから取り外すことができる実施例が開示されている。
(イ)以上の本件カード発明2-1の構成及びその技術的意義を踏まえると,乙17発明との相違点は,原判決の認定した相違点1〜3のほか,下記相違点4〜6が存する。
a相違点4「本件カード発明2-1では,『開放軸受部』は,基礎フレームの上面に形成され,上方開放状であり,上方よりローラ軸が挿脱可能に挿入される(構成要件ド2-1C)。これに対し,乙17発明では,かかる意味における『開放軸受部』が存在しない点。」乙17発明において,「ローラ軸」に相当する繰出しローラ3の各軸部30を軸受する部材,すなわち「軸受部」に相当する部材は孔部27ではなくブッシュ28である。このブッシュ28は,基台2の「上面」に形成されたものではなく,また,「上方開放状」でもない。さらに上方より繰出しローラ3の各軸部30がブッシュ28に「挿脱可能」に挿入されるわけでもない。
また,構成要件ド2-1C「挿脱可能」とは,収納ケースを基礎フレームの上面から外すだけで,他に何らの操作を要さずに,ローラ軸を開放軸受部から取り外すことが可能な構成を意味すると解すべきであるのに対し,乙17発明では,「ローラ軸」に相当する繰出しローラ3の各軸部30を軸受する「軸受部」に相当するブッシュ28は,切欠溝26の下部(奥部)に設けられた孔部27に嵌入されていることから,繰出しローラ3の各軸部30を外すためには,以下のような複雑な手順を踏まなくてはならず,繰出しローラ3の各軸部30が「挿脱可能」とはいえない。
?? タイミングベルト7cをプーリ7bから外す。
プーリ7bを軸部30から外す。 ??ブッシュ28を孔部27から外す。 ??また,上述のような構成を「開放軸受部」において採用したのは,基礎フレームから収納ケースを取り外すだけで,ローラ軸および払出ローラが露出し,また,ローラ軸および払出ローラを上方開放状の開放軸受部から挿脱可能にして,容易にローラ軸及び払出ローラの清掃を行うことができるようにするためである。しかし,乙17発明では,ブッシュ28は,基台2の上面にて各軸部30を軸受してはいないので,ストッカ1を基台2から外しただけでは,繰出しローラ3は露出せず,しかも,繰出しローラ3を孔部27から切欠溝26を通じて取り外すには困難が伴う構造となっている。そもそも,乙17発明においては,基台2の前面部には固定板6が取り付けられており,切欠溝26は当該固定板6の裏側下方に奥から手前にかけて下降傾斜するように設けられており(乙17,図4),ストッカ1を基台2から外したとしても,固定板6の裏側にあることから,繰出しローラ3は露出することにはならない。さらには,乙17において繰出しローラ3を取り外すには,固定板6の裏側に手をまわし,切欠溝26の下部にまで手を差し入れる必要があり,乙17は,繰出しローラ3を孔部27から切欠溝26を通じて取り外すには困難が伴う構造となっている。
b相違点5「本件カード発明2-1では,『払出伝動体』は基礎フレームに設けられ,操作軸の回動をローラ軸に伝達し,払出ローラを回動させる(構成要件ド2-1E)のに対し,乙17発明では,上記のとおり,送り出しローラ3はモータMによって駆動されていることから,手動によって駆動されるべき操作軸の回動をローラ軸に伝達し,払出ローラを回動させる『払出伝導体』に相当する構造はない点。」c相違点6「本件カード発明2-1では,ハンドルの操作により操作軸が回動される(構成要件ド2-1G)のに対し,乙17発明では,上記のとおり,送り出しローラ3はモータMによって駆動されていることから,ハンドルの操作により操作軸が回動されることがない点。」d以上のとおり,原判決は,乙17発明と本件カード発明2-1との一致点,相違点の認定を誤ったものである。
すなわち,乙17発明は,上記相違点1ないし3に加え,上記相違点4ないし6においても本件カード発明2-1と相違するものであるから,かかる重大な相違点を看過して,本件カード発明2-1が無効であるとした原判決の認定が誤りであることは明らかである。
(ウ) 相違点1についての判断の誤り原判決は,乙17との相違点1につき,乙16から容易想到と判断した。
しかし,本件カード発明2-1は,手動式の媒体販売装置において発生しやすい,容易に装置本体を分解,組立することができるようにし,また,容易にローラ軸及び払出ローラの清掃を行うことができるようにするという課題を解決するために,「収納ケース」と「基礎フレーム」とが別個に構成され,この別個に構成された「基礎フレーム」の「上面」に「収納ケース」を着脱可能に装着し,「収納ケース」が装着される「基礎フレームの上面」に「上方開放状の開放軸受部」を設け,当該「上方開放状の開放軸受部」に「ローラ軸」を「挿脱可能」に設けるという構成を採用したところにその特徴があることから,電動式か手動式かという点は重要である。
そして,電動式である乙17発明は,本件カード発明2-1において生じるような手動式の装置における課題や目的を開示も示唆もするものではないから,手動式である乙16の装置を乙17と組み合わせる動機付けはない。また,電動式である乙17発明において,軸部30を回動するための駆動源をモータMではなく手動にした場合,本件カード発明2-1において生じるような課題が生じることになるから,当業者が,乙17発明においてローラ軸を回動させる機構をモータMから手動操作に変更しようとする場合は,かかる課題を解決する必要があり,単に電動式を手動式に変更するという作業で済むものではない。
したがって,乙17発明において,軸部30を回動するための駆動源をモータMに代えて,手動操作にすることは,当業者が容易に想到し得た程度の設計変更などではなく,また,乙16に基づいて,当業者が容易になし得たことでもない。
(エ) 相違点2についての判断の誤りまた原判決は,相違点2は設計的事項であり,また乙19の第5図には,装置本体に着脱可能なカード収納ケースについて,装置本体の上面を覆う構成が開示されているとした。
しかし,本件カード発明2-1は,「媒体販売装置を『操作軸』,『ローラ軸』,『払出ローラ』,『払出伝動体』を備えた『基礎フレーム』と『複数の媒体を上下積層状に収納可能な収納ケース』という2つの異なるユニットに分割し,この2つの異なるユニットを接合させる箇所として『基礎フレームの上面』を選択し,その『基礎フレームの上面』に払出ローラ付きローラ軸が挿脱可能に挿入される上方開放状の開放軸受部を形成する」構成を採用したことによって,収納ケース,基礎フレーム,払出ローラ付きローラ軸等を別個に構成して,簡単に組み立てることを可能とし,容易に装置本体の分解,組立ができるようにしたものである。また,「基礎フレームの上面」に上方開放状の開放軸受部を設けたことから,基礎フレームから収納ケースを取り外すだけで,ローラ軸および払出ローラが露出し,また,ローラ軸および払出ローラを上方開放状の開放軸受部から挿脱可能にして,容易にローラ軸及び払出ローラの清掃を行うことができるようにしたものである。
仮に基礎フレームが上面を有さず,基礎フレームの上面で収納ケースと接合することができない構造であれば,基礎フレームと収納ケースとの接合が複雑となり,また,基礎フレームから収納ケースを取り外すだけで,ローラ軸及び払出ローラが上方開放状の開放軸受部から挿脱可能とはならず,本件カード発明2-1の作用効果を奏することはできない。
したがって,本件カード発明2-1において,「基礎フレーム」が「上面」を有することは,課題解決のために必要であるから,本件カード発明2-1の基礎フレームが上面を有する点には技術的意義がないとはいえず,また,当業者が適宜になし得た単なる設計的事項でもない。
乙19は,カード21が搬送モータ19の駆動力により,カード排出口6及び9より供給されるものであるから,電動式の装置であり,また,本体1には,本件カード発明2-1におけるような「開放軸受部」に相当する構造はない。乙19には,手動式の媒体販売装置において発生しやすい容易に装置本体を分解,組立することができるようにし,また,容易にローラ軸及び払出ローラの清掃を行うことができるようにするといった課題はなく,このような課題を解決するために,基礎フレームと収納ケースを接合させる箇所として「基礎フレームの上面」を選択するといった本件カード発明2-1の技術思想は開示も示唆もされていない。
さらに乙19の本体1には,開放軸受部に相当する部材は存在しないから,「基礎フレームの上面」に上方開放状の開放軸受部を設けることによって,基礎フレームから収納ケースを取り外すだけで,ローラ軸および払出ローラが露出し,また,ローラ軸および払出ローラを上方開放状の開放軸受部から挿脱可能にして,容易にローラ軸及び払出ローラの清掃を行うことができるようにするといった本件カード発明2-1の技術思想は開示も示唆もされていない。
したがって,乙19には,本件カード発明2-1における「基礎フレームの上面」とは全く関係のない事項が記載されているにすぎない。
(オ) 相違点3についての判断の誤り原判決は相違点3について,周知技術等から容易想到と判断した。
しかし本件カード発明2-1は,「媒体販売装置を『操作軸』,『ローラ軸』,『払出ローラ』,『払出伝動体』を備えた『基礎フレーム』と『複数の媒体を上下積層状に収納可能な収納ケース』という2つの異なるユニットに分割し,この2つの異なるユニットを接合させる箇所として『基礎フレームの上面』を選択し,その『基礎フレームの上面』に払出ローラ付きローラ軸が挿脱可能に挿入される上方開放状の開放軸受部を形成する」という構成を採用したことに技術的意義がある。すなわち,本件カード発明2-1は,基礎フレームと収納ケースという2つの異なるユニットに分割し,収納ケースが接合する箇所に上方開放状の開放軸受部を設けるという構成を採用した点に技術的意義があり,単なる,上方開放軸受の技術や,U字形の上方開放軸受に支持された軸の離脱をふた(蓋体),当片,カバーフレーム等で防止するという構造を採用したものではない。
したがって,「上方開放軸受はありふれた技術であり,U字形の上方開放軸受に支持された軸の離脱をふた(蓋体),当片,カバーフレーム等で防止する構造も周知である」との原判決の上記認定は誤りである。
よって,乙17発明において,ブッシュ28を省いて,開放軸受部を基台2の上面に採用することは当業者が容易に想到し得たものではない。
また,乙17発明は電動式であり,それゆえ,手動式のものに比して軸部である繰出しローラ3の各軸部30に大きな力が回転力として加わることから,各軸部30を受ける部分は,磨耗が激しく,それによってガタが発生する可能性がある。
したがって,各軸部30を受ける部分は,基台2の側板部2a,2bとは異なる耐摩耗性の高い素材で作る必要があることから,乙17発明では,軸受部として基台2の側板部2a,2bに形成された孔部27とは別体となったブッシュ28が使用されている。ブッシュ28を省いた場合は,これに代わって,耐磨耗性の高い部材で各軸部30を支持する必要がある。よって,乙17発明において,耐磨耗性の高いブッシュ28を省いて,基台2の側板部2a,2bに形成された孔部27に直接各軸部30を軸受させた場合,孔部27の磨耗が激しく,ガタが発生する可能性が高くなる。
したがって,乙17発明において,ブッシュ28を省いて,基台2(しかも上面を有していない)に直接,開放軸受部を採用することは容易ではなく,当業者が容易に想到し得たことであるとは認められない。
さらに,原判決は,乙17において採用されているモータMの回動をローラに伝達する手段であるタイミングベルト7c及びプーリ7bの代わりに,他の適宜の回動伝達手段を採用し得ることが認められるから,繰出しローラ3の各軸部を「挿脱可能」とすることは,当業者が容易に想到し得たとしている。
しかし,原判決は,乙17発明においてモータMの回動をローラに伝達する手段をどのような適宜の回動伝達手段に変更すれば,繰出しローラ3の各軸部を「挿脱可能」にできるかを述べていない。本件カード発明2-1において,「挿脱可能」,すなわち収納ケースを基礎フレームの上面から外すだけで,他に何らの操作を要さずに,ローラ軸を開放軸受部から取り外すことが可能な構成を採用したのは,手動式の媒体販売装置において必要である収納ケースを基礎フレームから外しただけで容易に繰出し装置の分解,組立ができ,軸部30及び繰出しローラ3の清掃を行うことができるという目的を実現するためである。
しかし乙17発明は電動式であり,かかる目的が存在しないことから,「挿脱可能」な構成を採用する必要がない。
したがって,電動式であるモータMによる回動をローラに伝達する手段として,本件カード発明2-1のようにローラが軸受部から「挿脱可能」である手段を採用することは,当業者が容易に採用し得たものではない。
ウ 本件カード特許2(請求項2)が有効であること(ア) 本件カード発明2-2の技術的意義本件カード発明2-2が解決しようとする課題及び技術的意義は,本件カード発明2-1に関し,上記において述べたところと同様である。
特に,本件カード発明2-2は,「前記開放軸受部に支持されたローラ軸は,基礎フレーム上に装着された収納ケースによって離脱が防止されていること」(構成要件ド2-2H)という構成要件を採用していることから,何ら複雑な構造を採用せず,収納ケースを基礎フレームに装着するだけで開放軸受部からのローラ軸の離脱を防止することができるようにした点に技術的意義がある(甲11,段落【0010】)。
また,構成要件ド2-2G「払出ローラのローラ軸を上方より挿脱可能に挿入して支持する上方開放状の開放軸受部」における「挿脱可能」とは,収納ケースを基礎フレームの上面から外すだけで,他に何らの操作を要さずに,ローラ軸を開放軸受部から取り外すことが可能な構成を意味し,収納ケースを基礎フレームの上面から外した後に,例えば,さらにネジ止めやブッシュを外すなどの作業をすることによってローラ軸を取り外すような場合は「挿脱可能」に含まれないことは,本件カード発明2-1で述べたところと同様である。
(イ)原判決の認定した相違点1〜4に加え,以下の相違点5〜7が存する。
a相違点5「本件カード発明2-2では,『払出ローラ』が基礎フレームの上部に支持されている(構成要件ド2-2D)のに対し,乙17発明では,繰出しローラ3の各軸部30は,切欠溝の下部(奥部)に設けられた孔部27の位置へ挿入されており,基台2の上部に支持されているとはいえない点。」b相違点6「本件カード発明2-2では,ハンドルによる操作軸の回転を払出ローラに伝達する『払出伝動体』を有している(構成要件ド2-2F)のに対し,乙17発明では,上記したとおり,送り出しローラ3はモータMによって駆動されており,手動で駆動されるべき操作軸に相当する構造はないことから,操作軸の回転を払出ローラに伝達すべき『払出伝動体』に相当する構造もない点。」c相違点7「本件カード発明2-2では,『開放軸受部』は基礎フレームの上面に設けられ,払出ローラのローラ軸を上方より挿脱可能に挿入して支持する上方開放状である(構成要件ド2-2G)のに対し,乙17発明では,かかる意味における『開放軸受部』が存在しない点。」乙17発明において,「ローラ軸」に相当する繰出しローラ3の各軸部30を軸受する部材,すなわち「軸受部」に相当する部材は孔部27ではなくブッシュ28であるところ,このブッシュ28は,基台2の「上面」に設けられたものではなく,また,繰出しローラ3の各軸部30を上方より「挿脱可能」に挿入して支持するものでなく,さらにまた,「上方開放状」でもない。
また,上述したとおり,構成要件ド2-2G「挿脱可能」とは,収納ケースを基礎フレームの上面から外すだけで,他に何らの操作を要さずに,ローラ軸を開放軸受部から取り外すことが可能な構成を意味すると解すべきであるのに対し,乙17発明では,「ローラ軸」に相当する繰出しローラ3の各軸部30を軸受する「軸受部」に相当するブッシュ28は,切欠溝26の下部(奥部)に設けられた孔部27に嵌入されていることから,繰出しローラ3の各軸部30を外すためには,複雑な手順を踏まなくてはならず,繰出しローラ3の各軸部30が「挿脱可能」とはいえない。この点も既に述べたとおりである。
d乙17発明は,相違点1ないし4に加え,上記相違点5ないし7においても本件カード発明2-2と相違するものであるから,かかる相違点を看過して,本件カード発明2-2が無効であるとした原判決の認定が誤りであることは明らかである。
(ウ)原判決は相違点1〜3につき容易想到と判断したが,本件カード発明2-1における原判決の相違点1ないし3の判断が誤りであることは,上記と同様である。
(エ) 相違点4原判決は,相違点4について周知技術を乙17発明に適用することにより,当業者が容易に想到し得たことと認められるとし,本件カード発明2-2のように構成することにより,格別優れた作用効果を奏するということもできないとした。
しかし,本件カード発明2-2が相違点4に係る構成を採用しているのは,何ら複雑な構造を採用せず,収納ケースを基礎フレームに装着するだけで開放軸受部からのローラ軸の離脱を防止することができるようにするためである。
これに対し,上述したとおり,乙17発明において,繰出しローラ3を取り外すためには複雑な作業が必要であり,繰出しローラ3はストッカ1を基台2に装着することのみによって,離脱が防止されているものではないから,本件カード発明2-2のように,「前記開放軸受部に支持されたローラ軸は,基礎フレーム上に装着された収納ケースによって離脱が防止されている」ものではない。
また,乙24,27,29,31,32及び35に示されているような技術は,単に,U字形の上方開放軸受に支持された軸の離脱をふた(蓋体),当片,カバーフレーム等で防止する構造であって,本件カード発明2-2のように,収納ケース,基礎フレーム,払出ローラ付きローラ軸等を別個に構成した物品取出装置において,収納ケースを基礎フレームに装着するだけで開放軸受部からのローラ軸の離脱を防止することができるようにしたという技術とは全く異なるものであり,この技術を乙17発明に適用しても,相違点4に係る構成を想到することはできない。
(2) 損害額に関する新たな主張(附帯控訴に伴う請求拡張)一審原告バンダイは,本件カプセル発明1-2及び4-1の実施品であるカプセルベンダーを製造,販売している。一審原告大和精工は,本件カード発明2-1,2-2及び3-1の実施品であるカードベンダーを製造して一審原告バンダイに納入し,バンダイはこれを販売している。したがって,一審被告の行為により,一審原告らは損害を被ったものであり,特許法102条2項に基づく損害賠償請求権を有する(本件カード特許2及び3に関しては,一審原告らが持分に応じてそれぞれ2分の1ずつの損害賠償請求権を有する。)。
また,一審原告両名は,一審被告に対し,特許法102条3項に基づく損害賠償請求権を有する(本件カード特許2及び3に関しては,各一審原告が持分に応じてそれぞれ2分の1ずつの損害賠償請求権を有する。)。
ア各特許の損害賠償請求の販売対象期間本件カプセル特許1,本件カプセル特許4,本件カード特許3,及び,本件カード特許2の,それぞれの損害賠償請求の販売対象期間は,以下のとおりである。
本件カプセル特許1 平成14年3月21日〜平成20年4月30日本件カプセル特許4平成18年8月4日(登録日)〜平成20年4月30日本件カード特許3平成18年7月21日(登録日)〜平成20年4月30日本件カード特許2平成17年9月30日(登録日)〜平成20年4月30日イ特許法102条2項に基づく損害賠償請求の販売対象期間及び損害額(ア) 損害賠償請求の販売対象期間以上のとおりであるから,特許法102条2項に基づく損害賠償請求の販売対象期間は,以下のとおりとなる。
被告カプセルベンダー平成14年3月21日〜平成20年4月30日被告カードベンダー平成17年9月30日〜平成20年4月30日(イ)損害額a被告カプセルベンダーについて,上記販売対象期間の一審被告の売上額,製造原価,及び利益額を算定すると,売上額が2億3020万5597円,製造原価が1億8431万6764円であり,被告カプセルベンダーの販売に係る利益額は4588万8833円と認められる。
b被告カードベンダーについて,上記販売対象期間の一審被告の売上額,製造原価,及び利益額を算定すると,売上額が1億1276万1637円,製造原価が6720万0994円であり,被告カードベンダーの販売に係る利益額は4556万0643円である。カード特許については,一審原告両名が各2分の1の持分を有しているので,上記の半額である2278万0321円が各一審原告の損害である。
そうすると,一審原告バンダイの損害は,上記aと被告カードベンダーについての上記計算の半額の合計6866万9154円となる。
ウ特許法102条3項に基づく損害賠償請求における実施料率及び損害額(ア)実施料率本件カプセル発明1-2及び本件カード発明3-1に関し,特許法102条3項に基づく損害額の算定において,本件カプセル発明1-2の実施料率は10%,本件カード発明3-1の実施料率は15%を下回らない。
また,本件カプセル発明4-1の実施料率は10%,本件カード発明2-1及び2-2の実施料率は15%を下回らない。
平成18年8月4日〜平成20年4月30日の期間においては,被告カプセルベンダーは本件カプセル発明1-2及び4-1を実施していることになり,これらの発明の実施料率の合計は20%を下回らない。
また,平成18年7月21日〜平成20年4月30日の期間においては,被告カードベンダーは本件カード発明2-1,2-2及び3-1を実施していることになり,これらの発明の実施料率の合計は30%を下回らない。
よって,以下のとおりの実施料率が適用されるべきである。
被告カプセルベンダー(ア)平成14年3月21日〜平成18年8月3日 10%(イ)平成18年8月4日〜平成20年4月30日 20%被告カードベンダー(ウ)平成17年9月30日〜平成18年7月20日 15%(エ)平成18年7月21日〜平成20年4月30日 30%(イ)損害額上記販売対象期間の売上額については,被告カプセルベンダーについては2億3020万5597円,被告カードベンダーについて1億1276万1637円である。
したがって,被告カプセルベンダーについて,特許法102条3項に基づいて算定された損害額は,以下のとおりである。
a上記(ア)の期間230,205,597×1,597÷2,232×10%=16,471,251b上記(イ)の期間230,205,597×635÷2,232×20%=13,098,615c合計29,569,866円また,被告カードベンダーについて,損害額は,以下のとおりである。
a上記(ウ)の期間112,761,637×294÷943×15%=5,273,370b上記(エ)の期間112,761,637×649÷943×30%=23,281,750c合計28,555,120円カード特許については,一審原告両名が各2分の1の持分を有しているので,上記の半額である14,277,560円が各一審原告の損害となる。
エ弁護士費用一審原告バンダイは,訴訟代理人に報酬の支払を約し,少なくとも400万円の報酬相当額の損害を受けた。一審原告大和精工も,訴訟代理人に報酬の支払を約し,少なくとも40万円の報酬相当額の損害を受けた。
オ 一審原告バンダイの市場占有率原判決は市場占有率について擬制自白が成立するとし,カプセルベンダーマシン市場における一審原告バンダイの市場占有率が60%であるとするが,一審被告が原審において提出した乙56によれば,玩具の自販機(カプセルベンダーマシン)は全国に約60万台あり,このうちバンダイは約40万台を設置しているのであるから(乙56,最下段9行〜13行),一審原告バンダイの市場占有率は約67%を下回らない。
(3) 一審被告の主張に対する反論ア カプセル特許1(ア) カプセル特許1が無効であるとの主張に対しa乙42考案においては,商品収納部2は単なる空間として自動販売機1と一体に構成されているものであり,物品収納ケースを装置本体から移動させることができるという特徴等を備えていない点において,本件カプセル発明1-2と本質的に異なるものである。また,乙42考案においては,商品収納部2を自動販売機1の正面から手前に引き出し可能(移動可能)に構成することには阻害要因があるから,乙42考案に乙43ないし乙45を組み合わせること自体が困難である。
b本件カプセル発明1-2は,?@容易に,物品収納ケースを手前に引き出して開口させ,物品収納ケースから物品を取り出し等ができるようにするため,装置本体の後壁近傍の歯車とかみ合う回転盤が底壁に設けられた物品収納ケースを装置本体の正面から手前に引き出し可能(移動可能)にし,装置本体から引き出すことにより,物品収納ケースの上部の物品投入用開口部が露出されるという構成を採用し,?A容易に,物品収納ケースを装置本体に装着し,使用可能にするため,物品収納ケースを装置本体に装着することにより,歯車と回転盤がかみ合い回転盤が操作部の操作に応じて回転可能となるとともに,上部の物品投入用開口部が前記装置本体により覆われ,底部の落下口が前記落下通路の他端と対向するという構成を採用し,?B物品収納ケースを装置本体の正面から手前に引き出し可能とするという上記?@の構成を採用するために,商品払出機構である回転盤へ駆動力を伝達する役割を有する歯車を,物品収納ケースを装置本体の手前に引き出す際に障害とならない位置である装置本体の後壁側に配置するという構成を採用し,?C容易に物品収納ケースを装置本体に装着し,使用可能にするという上記?Aの構成を採用するために,「回転盤」が「物品収納ケースの底壁に設けられ」ているという構成を採用したものである。
cこれに対し,乙42考案においては,商品収納部2は,自動販売機1と一体に構成されている固定構造であることを特徴としており,本件カプセル発明1-2のように「物品収納ケース」として正面から手前に引き出し可能に構成するという開示ないし示唆はなく,また,容易に,物品収納ケースを手前に引き出して開口させ,物品収納ケースから物品を取り出し等するという目的ないし課題も開示も示唆もされていない(相違点?@)。
また,乙42考案においては,商品収納部2は,自動販売機1に装着することができる部品ではなく,単に商品が収納される空間に過ぎないから,本件カプセル発明1-2のように「物品収納ケース」として装置本体に装着することができるという構成についての開示も示唆もなく,また,容易に,物品収納ケースを装置本体に装着し,使用可能にするという目的ないし課題も開示も示唆もされていない(相違点?A)。
さらに,乙42考案においては,軸61により駆動されるギア62,64,66は,いずれも,自動販売機1の前壁側に位置し,後壁近傍になく,本件カプセル発明1-2のように,上記?@の構成を採用するため,歯車が物品収納ケース引き出しの障害となる位置とならない後壁近傍に配置されているものではない(相違点?B)。
また,乙42考案において,ドラム70は,商品収納部2と一体である自動販売機1の内部に設置されているものであり,本件カプセル発明1-2のように,上記?Aの構成を採用するため,「回転盤」が「物品収納ケースの底壁に設けられ」ているものではない(相違点?C)。
これらの相違点?@〜?Cは,原判決の認定した相違点1?@及び1?Aとは異なるものであるが,相違点?@及び?Aは,原判決の認定した相違点1?@にほぼ対応し,相違点?Cは,原判決の認定した相違点1?Aにほぼ対応する。
d以上のとおり,乙42考案においては,商品収納部2は自動販売機1と一体に構成された単なる空間に過ぎず,物品収納ケースを装置本体から移動させることができるものではないことから,容易に,物品収納ケースを手前に引き出して開口させ,物品収納ケースから物品を取り出し等するために,物品収納ケースを装置本体から引き出し可能とし,また,容易に,物品収納ケースを装置本体に装着し,使用可能にするため,物品収納ケースを装置本体に装着可能としたという本件カプセル発明1-2の本質的な特徴及びこれらを達成するために必要な構成を備えておらず,本件カプセル発明1-2と本質的に異なるものである。
eまた乙43は,物品取出装置とは全く関係ない「錠剤を分配する分配装置に関する」(乙43,1頁20行〜2頁1行)考案であり,例えば製剤工場において用いられる,錠剤を分包するために使用する装置である。これに対し,本件カプセル発明1-2は,「装置本体の操作部を操作すると,装置本体内に設けられたカプセル等の物品を一つずつ取り出すことができる物品取出装置に関する」(甲2,2頁3欄26行〜29行,同4頁8欄27行)ものであり,玩具などを内蔵したカプセルを取り出す装置であるから,乙43とは全く異なる。
また,乙43は「分配ロータ9が回転すると,ホッパ4に収納された下側の錠剤がすき間12を通って各送出し溝11に入り込み,送り出し溝11が分配口13の位置にきた時点で,回転の遠心力により錠剤が分配口13から外側に飛び出す」(乙43,7頁7〜11行)ものである。これに対し,本件カプセル発明1-2は,回転盤によって落下口の上部に運び,物品の自重により物品取出口に落下させて取り出すものである。このように,本件カプセル発明1-2における「物品の取出」と,乙43の「錠剤の分配」が全く異なる技術思想であることは明らかである。しかも,乙43は,錠剤という比較的軽い物体を分配するために,回転の遠心力で飛び出させる電動の装置であり,本件カプセル発明1-2の物品取出装置のような手動の装置とは,全く異なる。
以上のとおり,乙43は本件カプセル発明1-2とは全く異なるものであるから,乙42考案に乙43考案を組み合わせたとしても,当業者は本件カプセル発明1-2を容易に想到し得たものではない。
また,乙43考案は,上記相違点?@〜?Cに係る構成を開示していない。
fまた,乙42考案に,乙44発明を組み合わせたとしても,当業者は本件カプセル発明1-2を容易に想到し得たものではない。
乙44は,そもそも,物品取出装置とは全く関係ない単なる収納ケースに関する発明であり,「装置本体の操作部を操作すると,装置本体内に設けられたカプセル等の物品を一つずつ取り出すことができる物品取出装置に関する」本件カプセル発明1-2とは全く異なる。
また,乙44発明は,「商品の販売動作が進んで商品収納ケース15が空になれば,空になった商品収納ケース15を商品収納室から抜き出し,この代わりに配送元から新たに運び込んだ通い箱兼用の商品収納ケースを商品が入ったまま装荷する。これにより通い箱から商品10を取出して移し変えることなく,ケース単位での商品補給が行なえる。」(乙44【0016】)との記載から分かるように,商品補給を目的とするものであり,商品の入れ替えは考慮されていない。さらに,商品収納ケース15に商品10が残っているときに,商品収納ケース15を商品収納室から抜き出すには底部側に蓋板16を差し込む必要があるが,商品10が大量に残っている場合は,商品10が邪魔で蓋板16を差し込むことができないことは明らかである。すなわち,乙44発明は,商品入れ替え時に商品収納ケース15を抜き出すことができる構造にはなっていない。
したがって,乙44発明には,商品補給時に空になった商品収納ケース15を抜き出し可能とすることが開示されているだけであり,カプセル商品を入れ替えることを前提にしている本件カプセル発明1-2とは全く異なる。
また,乙44発明は,上記相違点?@〜?Cに係る構成を開示していない。
g乙42考案に,乙45考案を組み合わせたとしても,当業者は本件カプセル発明1-2を容易に想到し得たものではない。
乙45は,そもそも,物品取出装置とは全く関係ない単なる収納ケースに関する発明であり,「装置本体の操作部を操作すると,装置本体内に設けられたカプセル等の物品を一つずつ取り出すことができる物品取出装置に関する」本件カプセル発明1-2とは全く異なる。
また,乙45考案は,物品Aをパチンコ店などにて獲得したパチンコ玉やメダルの数に応じて払い出す装置であり,その仕組みは,モータ42とモータ42により駆動される揺動ロッド43によって往復動するさお44が,収納ケース1の最下段の物品Aを搬出路46を押し出すことにより行なわれている。すなわち,乙45考案は,物品Aの自重により物品Aを収納ケース1に設けられた孔から物品取出口に落下させて取り出すものではないから,本件カプセル発明1-2とは全く異なる。
また乙45考案は,上記相違点?@〜?Cに係る構成を開示していない。
(イ)被告カプセルベンダーが本件カプセル特許1の構成要件を充足しないとの主張に対しa 「後壁近傍の歯車」につき「近傍」とは,「近所,近辺」を意味することから(甲26,広辞苑第五版737頁),構成要件プ1-2Aにおける「後壁近傍の歯車」とは,「後壁の近辺の歯車」を意味する。
したがって,構成要件プ1-2Aにおける「歯車」の位置は,後壁の近辺であれば足りる。一審被告の主張するように限定して解する根拠はない。
被告カプセルベンダーの歯車91の位置は,後壁13の近辺であることから(原判決添付被告カプセルベンダー説明書【写真7】),被告カプセルベンダーの歯車91が,後壁13の近傍に位置していることは明らかである。
b「回転軸…を有する前記装置本体」につき構成要件プ1-2Aにおける「回転軸…を有する前記装置本体」とは,文字どおり,装置本体が回転軸(を含む機構)を有するということを意味しており,回転軸(を含む機構)が装置本体から取り外し可能かどうかは関係がない。
被告カプセルベンダーにおいては,回転軸83を含む機構が,装置本体3に取り付けられていることから(被告カプセルベンダー説明書別紙【写真4】,【写真7】及び【写真8】),装置本体3が回転軸83を有することは明らかである。
この点につき本件カプセル発明1-2における回転軸が装置本体の後壁に取り付けられているものに限定して解釈されなければならない理由は何ら存在しない。
c「引き出し可能」につき(a)特許請求の範囲の記載,「引き出し」という語の一般的意義(甲23)及び発明の詳細な説明の記載(甲2【0012】,【0015】,【0025】)から,構成要件プ1-2B「物品入れ替え時に前記装置本体の正面より引き出し可能な前記物品収納ケース」とは,「物品を入れ替える時に物品取出装置の正面から物品収納ケースを引っ張って外へ出すことが可能な物品収納ケース」を意味する。
原判決は,「構成要件プ1-2Bの『引き出し可能』は,物品収納ケースを取り外すことはできないが外へ引き出すことができるというだけでは足りず,物品収納ケース自体を取り替えることができることを意味すると認められる」(147頁下7行〜下5行)と認定しているが,上述したとおり,構成要件プ1-2Bの「引き出し可能」とは,物品収納ケースが物品取出装置より引っ張って外へ出すことができれば足り,それ以上に,物品収納ケースがそのまま物品取出装置からはずれるか否かは関係ないものと解すべきである。
したがって,この点に関する原判決の認定は誤りである。
(b)被告カプセルベンダーにおける収納ケース5は,カプセルA入れ替え時に装置本体3の正面より引っ張って外へ出すことが可能であるから,「物品入れ替え時に前記装置本体の正面より引き出し可能な前記物品収納ケース」であることは明らかである。
したがって,被告カプセルベンダーは,構成要件プ1-2Bにおける「物品入れ替え時に前記装置本体の正面より引き出し可能な前記物品収納ケース」を充足する。
イ カード特許3(ア)本件カード特許3が有効であることのうち,分割要件を充足することにつき本件カード特許3に係る特許出願は,特願2001-79282に係る出願(以下,「原出願」という。)から,適法に分割出願されたものである。一審被告が指摘する各点が,全て本件カード特許3の原出願に係る当初明細書(乙63。以下,「原出願の当初明細書」という。)に開示されていることを述べる。
a構成要件ド3-1Gは原出願の当初明細書に開示されている一審被告は,構成要件ド3-1Gの「前記コイン検出作動部が設けられた収納ケースは,…作動体と,…アイドラギアとを有し,」が,原出願の当初明細書に記載されていないと主張する。
しかし,原出願の当初明細書の【0013】には,「この各収納ケース14の側面にコイン検出作動部Dが装着されており,」と記載されている。この記載から,原出願の当初明細書に,「前記コイン検出作動部が設けられた収納ケース」が開示されていることは明らかである。
また,原出願の当初明細書の【0026】には,「コイン検出作動部Dは,媒体払出部Cとは独立したユニットとして構成され,全体を支持する支持体42は,収納ケース14の側面にネジを介して着脱自在に取り付けられている。」と記載され,さらに,同【0041】には,「支持体42に設けた支軸64に回転自在に支持された作動体55」と記載されている。これらの記載から,原出願の当初明細書に,「前記コイン検出作動部が設けられた収納ケース」が,支持体42及び支持体42に設けた支軸64に回転自在に支持された「作動体」を有することが開示されていることは明らかである。
さらに原出願の当初明細書の【0017】には,「収納ケース14の側壁には2本のアイドラ軸部36,37を介してアイドラギヤ38,39が支持されており,」と記載されている。この記載から,原出願の当初明細書に,「前記コイン検出作動部が設けられた収納ケース」が「アイドラギア」を有することが開示されていることは明らかである。
b構成要件ド3-1Hは原出願の当初明細書に開示されている一審被告は,構成要件ド3-1Hの「前記コイン検出作動部が設けられた収納ケースが前記基礎フレームの上面に着脱可能に載置されたとき,」が,原出願の当初明細書に記載されていないと主張する。
原出願の当初明細書の【0013】には,「この基礎フレーム16に左右の収納ケース14がそれぞれ着脱自在に取り付けられ,この各収納ケース14の側面にコイン検出作動部Dが装着されており,」と記載されている。この記載から,収納ケースが基礎フレームに着脱可能に載置され,この収納ケースにコイン検出作動部が設けられていることが明らかである。
また原出願の当初明細書の【0015】には,「この払出ローラ24を取り付けているローラ軸25は,基礎フレーム16の上面の開放軸受部16aに上方から挿脱自在に挿入されており,基礎フレーム16上に収納ケース14を載置して取り付けることにより,開放軸受部16aからの離脱が防止される支持構造となっており,」と記載されている。この記載から,収納ケース14は基礎フレーム16の上面に載置されることが明らかである。
c本件カード特許3に係る明細書の【0010】は原出願の当初明細書に開示されている一審被告は,本件カード特許3に係る明細書の【0010】の「前記コイン検出作動装置は,前記収納ケースに取り付けられた状態で,当該収納ケースとともに前記基礎フレームの上面に着脱可能に載置されることである。」が,原出願の当初明細書に記載されていないと主張する。
原出願の当初明細書の【0013】には,「この基礎フレーム16に左右の収納ケース14がそれぞれ着脱自在に取り付けられ,この各収納ケース14の側面にコイン検出作動部Dが装着されており,」と記載され,また,同【0015】には,コイン検出作動部Dが装着された収納ケース14について,「基礎フレーム16上に収納ケース14を載置して取り付ける」と記載されている。したがって,収納ケース14の側面にコイン検出作動部Dが取り付けられた状態で,左右の収納ケース14がそれぞれ基礎フレーム16の上面に着脱自在に載置されることは明らかである。
以上のとおり,本件カード特許3に係る明細書の【0010】の,「前記コイン検出作動装置は,前記収納ケースに取り付けられた状態で,当該収納ケースとともに前記基礎フレームの上面に着脱可能に載置されること」は,原出願の当初明細書に開示されている。
d本件カード特許3に係る明細書の【発明が解決しようとする課題】は原出願の当初明細書に開示されている一審原告は,本件カード特許3に係る明細書の【発明が解決しようとする課題】の「しかし,1つのフレーム内に収納ケースと送り出し駆動機構とが配置されていると,分解・組立が困難になるという問題がある。」が,原出願の当初明細書に記載されていないと主張する。
原出願の当初明細書の【0013】には,「左右販売装置3の送り出し機構15は,共通の基礎フレーム16に支持され,この基礎フレーム16に左右の収納ケース14がそれぞれ着脱自在に取り付けられ,この各収納ケース14の側面にコイン検出作動部Dが装着されており,各部はそれぞれユニットになっていて,別個に組み立てられ,分解・組立が簡単かつ容易になっている。」と記載されている。
この記載から,送り出し機構15が支持された基礎フレーム16に,収納ケース14が着脱自在に取り付けられる場合に,分解・組立が簡単かつ容易であることが示されている。いいかえれば,送り出し機構15が支持された基礎フレーム16に,収納ケース14が固定されると,基礎フレーム16に収納ケース14と送り出し機構15とが配置されることになり,分解・組立が複雑になることは明らかである。
以上のとおり,本件カード特許3に係る明細書の【発明が解決しようとする課題】の「1つのフレーム内に収納ケースと送り出し駆動機構とが配置されていると,分解・組立が困難になるという問題がある。」は,原出願の当初明細書に開示されている。
(イ)本件カード特許3の請求項1に係る発明が,乙50を主引例としても進歩性を有すること本件カード発明3-1は,「1つのフレーム内に収納ケースと送り出し駆動機構とが配置されていると,分解・組立が困難になるという問題がある。本発明は,このような従来技術の問題点を解決できるようにした媒体販売装置を提供する」(【0004】)との目的,課題を達成するために,複数の媒体を収容する収納ケースを基礎フレームとは別体とし(構成要件ド3-1E),収納ケースの側面にコイン検出作動部を設け(構成要件ド3-1F),コイン検出作動部が設けられた収納ケースは,正規コインの投入が検出された場合に回動可能となり,正規コインの投入が検出されない場合,回動不可能となる作動体と,前記作動体と噛合するアイドラギアとを有する(構成要件ド3-1G)という構成を有し,コイン検出作動部が設けられた収納ケースが基礎フレームの上面に着脱可能に載置されたとき,アイドラギアが払出ギヤと連動し,作動体と払出ギヤとの連動が形成され,払出ローラは収納ケース内の最下位置の媒体を受持すること(構成要件ド3-1H)等により,「収納ケース14を基礎フレーム16の上面に着脱でき,収納ケース及び基礎フレームの分解,組立が簡単かつ容易(に)できる」(【0019】)ことを特徴とする。
これに対し,乙50に開示された発明は,「コイン検出体でコインを2つの傾斜面で受持することにより,コイン外径差を拡大して検出できるようにし,簡単かつ安価に所定コインの正否を検出できるようにしたコイン検出作動機構を提供する」(【0005】)との目的,課題を達成するために,「外径の実際寸法差が僅少でも,所定のコインか否かを正確に検出する。」(【0008】)ことを特徴とするものであり,本件カード発明3-1の目的及び課題,並びに特徴については,開示も示唆もされていない。
また,乙50に開示された発明においては,紙葉類の収納部はフレーム2に一体として設けられていると共に,作動機構40もフレーム2の内部,収納部の下方に設けられている。このような構成は,まさに本件発明3-1が従来技術の問題点として掲げる「1つのフレーム内に収納ケースと送り出し駆動機構とが配置されていると,分解・組立が困難になるという問題がある。」との問題点を有するものであり,両者はその構成をも根本的に異にする。
原判決も,「本件カード発明3-1は,乙51発明及び周知技術によって,当業者が容易に発明することができたものであると認めることができず,被告カードベンダーは,本件カード発明3-1に係る特許権を侵害する。」と認定している(174頁下2行〜175頁1行)。原判決が指摘した一審被告の主張する周知技術には乙50も含まれているから(174頁4行),原判決は,乙50と乙51を組み合わせても本件カード発明3-1を想到することができない旨を認定している。
そして,本件カード発明3-1と乙50に開示された発明との相違点をまとめると,以下のとおりであり,乙50に開示された発明から本件カード発明3-1を想到することができないことは明らかである。
a本件カード発明3-1においては「基礎フレーム」が具備されているが,乙50に開示された発明には「基礎フレーム」は開示されていない(構成要件ド3-1A)。
b本件カード発明3-1においては基礎フレームにローラ軸を介して回動可能に支持された「払出ローラ」が具備されているが,乙50に開示された発明には「払出ローラ」に相当するものは開示されていない(構成要件ド3-1B)。
c本件カード発明3-1においては基礎フレームに回動可能に支持され,ハンドルの操作により回動する「操作軸」が具備されているが,乙50に開示された発明には「操作軸」に相当するものは開示されていない(構成要件ド3-1C)。
d本件カード発明3-1においてはローラ軸に取り付けられ,操作軸の回動を払出ローラに伝達する「払出ギヤ」が具備されているが,乙50に開示された発明には「払出ギヤ」に相当するものは開示されていない(構成要件ド3-1D)。
e本件カード発明3-1においては基礎フレームとは別体とされた,複数の媒体を収容する「収納ケース」が具備されているが,乙50に開示された発明には「収納ケース」に相当するものは開示されていない(構成要件ド3-1E)。
f本件カード発明3-1においては収納ケースの側面に設けられた「コイン検出作動部」が具備されているが,乙50に開示された発明には「コイン検出作動部」に相当するものは開示されていない(構成要件ド3-1F)。
g本件カード発明3-1においては,「コイン検出作動部が設けられた収納ケースは,正規コインの投入が検出された場合に回動可能となり,正規コインの投入が検出されない場合,回動不可能となる作動体と,作動体と噛合するアイドラギアとを有している」が,乙50に開示された発明はそのような構成を有していない(構成要件ド3-1G)。
h本件カード発明3-1においては,「コイン検出作動部が設けられた収納ケースが基礎フレームの上面に着脱可能に載置されたとき,アイドラギアが払出ギヤと連動し,作動体と払出ギヤとの連動が形成され,払出ローラは収納ケース内の最下位置の媒体を受持する」が,乙50に開示された発明はそのような構成を有していない(構成要件ド3-1H)。
i本件カード発明3-1においては,「正規コインの投入が検出されない場合,作動体が回動不可能となることにより,アイドラギアおよび払出ギヤは回転を阻止され,正規コインの投入が検出された場合,作動体が回動可能となることにより,アイドラギアおよび払出ギヤは回転が可能となり,ハンドルの操作による操作軸の回転に応じて払出ギヤが回転し,払出ローラが回動することにより受持された媒体が払い出される」が,乙50に開示された発明はそのような構成を有していない(構成要件ド3-1I)。
j本件カード発明3-1は,「上記ド3-1Aないしド3-1Iを特徴とする媒体販売装置」であるが,乙50に開示された発明はそのような特徴及び構成を有していない(構成要件ド3-1J)。
そして,乙50に開示された発明と,乙17及び乙51に開示された発明とはそもそも組み合わせることができず,仮に組み合わせたとしても,本件カード発明3-1を想到することはできない。
(ウ)本件カード特許3の請求項1に係る発明が乙51を主引例としても進歩性を有すること一審被告は,原判決が認定した相違点1について,周知技術の単なる転用,または設計的事項にすぎない旨主張する。
しかし,乙51に開示された発明は,カプセル等の物品を一つずつ取り出すことができる物品取出装置に関するものであり,その払出方法も,乙22,乙49,乙16,乙50等に開示されているような,払出ローラにより,収納ケース内の最下位置の媒体を受持し,払出ローラの回転により該媒体を払い出すというカード用の媒体を払い出す装置とは全く異なり,物品の自重を利用するものである。
したがって,乙51に開示された発明には,乙22等に開示されている構成を組み合わせることを阻害する要因がある。
一審被告は,原判決が認定した相違点2及び3について,本件カード発明3-1には,「コインセレクター」という用語は記載されていないのであり,請求項に記載されていない用語に言及すること自体が誤りであると主張する。原判決のうち,一審被告が引用した部分に記載された「コインセレクター」は,乙51に開示された発明の「コインセレクター95(搬送円盤)」のことを指している。そして,一審被告は,この「コインセレクター95(搬送円盤)」が,本件カード発明3-1の「作動体」に相当する旨主張していた。
また一審被告は,原判決は相違点2に関して,本件カード発明3-1では作動体が収納ケースの側面に設けられていると認定しているが,作動体は実施例においてさえ収納ケースの側面に設けられていないと主張する。しかし,特許請求の範囲の記載から,本件カード発明3-1においては,「コイン検出作動部」が設けられた「収納ケース」が,「作動体」と「アイドラギア」を有することが明らかであり,実施例においては,「収納ケース」に「アイドラギア」が,「コイン検出作動部」に「作動体」が設けられており,「コイン検出作動部」が設けられた「収納ケース」が,「作動体」と「アイドラギア」を有することが示されている。さらに,発明の目的,課題及び作用効果に照らしても,「作動体」及び「アイドラギア」が,「コイン検出作動部」または「収納ケース」のどちらに設けられているか,ということは関係ない。
一審被告は,相違点3について,乙51には物品収納ケース5が前記装置本体3の前面上部に着脱可能に載置されたとき,前記歯車群が前記ラック41と連動し,前記搬送円盤,大ウォーム歯車105と前記ラック41との連動が形成される構成が記載されているとするが,乙51においては,基礎フレームに対応するものはなく,また,コインセレクター95(搬送円盤)は物品収納ケース5には設けられていない。したがって,相違点3(「本件カード発明3-1においては,収納ケースが基礎フレームの上面に着脱可能に載置されたときに,アイドラギアが払出ギヤと連動し,作動体と払出ギヤとの連動が形成されるのに対して,乙51発明はそのような構成を有していない点」)が,乙51に開示も示唆もされていないことは明らかである。
(エ)本件明細書の記載は改正前特許法36条の要件を充足すること一審被告は,本件カード発明3において,「作動体」及び「アイドラギア」が「収納ケース」に設けられていなければならないとする独自の解釈に基づき,本件カード発明3が,改正前特許法36条6項1号及び2号に反すると主張する。
しかし,構成要件ド3-1Gは「コイン検出作動部が設けられた収納ケース」が「作動体」と「アイドラギア」を有することを規定するものであり,「作動体」及び「アイドラギア」が,「コイン検出作動部」と「収納ケース」のいずれに設けられていてもよいのであるから,一審被告の主張は誤りである。
(オ)被告カードベンダーが本件カード特許3の構成要件を充足しないとの主張に対しa「前記コイン検出作動部が設けられた収納ケース」(構成要件G)の充足性(a)一審被告は,原審において,被告カードベンダーの構成が,カード特許3の請求項1に係る発明(「本件カード発明3-1」)の構成要件G(以下,原判決と同様に「構成要件ド3-1G」のように略記する。)を充足することについて,「8g認める。」と明確に述べ,この点については自白が成立している。
原判決においても,被告カードベンダーが本件カード発明3-1の構成要件ド3-1Gを充足することについては,自白が成立し,争いのない事実として記載されている(27頁24行,28頁5行〜6行)。
したがって,控訴審において,もはや一審被告がこの点を争うことはできない。すなわち,自白の撤回は許されず,時機に遅れたものでもある。また,自白は下記のとおり真実にも反しない。
(b)なお念のため,以下に,被告カードベンダーの構成が構成要件ド3-1Gを充足することについて説明する。
特許請求の範囲の記載から,「コイン検出作動部」が設けられた「収納ケース」が,「作動体」と「アイドラギア」を有することが明らかである。また明細書の実施例においても,「収納ケース」に「アイドラギア」が,「コイン検出作動部」に「作動体」が設けられており,「コイン検出作動部」が設けられた「収納ケース」が,「作動体」と「アイドラギア」を有することが示されている。
以上のとおり構成要件ド3-1Gは,「コイン検出作動部」が設けられた「収納ケース」が,「作動体」と「アイドラギア」を有することを意味するのであり,「作動体」や「アイドラギア」が「収納ケース」に設けられることを要しないと解釈すべきである。
被告カードベンダーにおいては,コイン検出作動部Dが設けられた収納ケース14は,正規コインBの投入が検出された場合に回動可能となり,正規コインBの投入が検出されない場合,回動不可能となる作動体55と,作動体55と噛合するアイドラギア39とを有しており(原判決342頁8行〜12行,被告カードベンダー説明書4(7)「ド3-1g」),構成要件ド3-1Gを充足する。
これに対し,一審被告は,構成要件ド3-1Gの充足には,「収納ケース」自体が,作動体とアイドラギアを有していなければならないと解釈すべきであるとして「作動体」及び「アイドラギア」が「収納ケース」に設けられていなければならないと主張するが,上記のとおり,構成要件ド3-1Gは,「コイン検出作動部」が設けられた「収納ケース」が,「作動体」と「アイドラギア」を有することを意味するのであり,「作動体」や「アイドラギア」が「収納ケース」に設けられることを要しないと解釈すべきである。
b「払出ローラ」(構成要件B,D,H,I)及び被告カードベンダーの構成要件充足性(a) 「払出ローラ」の解釈本件カード発明3-1の特許請求の範囲には「前記基礎フレームにローラ軸を介して回動可能に支持された払出ローラ…を具備し」(構成要件ド3-1B),「正規コインの投入が検出された場合,前記作動体が回動可能となることにより,前記アイドラギアおよび前記払出ギヤは回転が可能となり,前記ハンドルの操作による操作軸の回転に応じて前記払出ギヤが回転し,払出ローラが回動することにより前記受持された媒体が払い出される」(構成要件ド3-1I)と記載されている。
したがって,カード特許3の請求項1に係る発明の「払出ローラ」とは,特許請求の範囲の記載から明らかなとおり,「前記基礎フレームにローラ軸を介して回動可能に支持され」,「回動することにより前記受持された媒体が払い出される」ものを意味する。このことは,原判決においても,争いのない事実として認定されている(原判決169頁20行〜23行)。
(b) 被告カードベンダーの構成及び対比原判決169頁下2行〜170頁3行において認定されているとおり,被告カードベンダーにおける前部ゴムローラー24は,ローラ軸25に取り付けられ,ローラ軸25の回動により回動し,当接カードパックAを前方に送出しているから,前部ゴムローラー24と後部ゴムローラー23とが,協働して当接カードパックAを前方へ送出しているとしても(被告カードベンダー説明書5(2),原判決341頁),構成要件ド3-1Bの「払出ローラ」の構成要件を充足する。
一審被告は,被告カードベンダーの前部ゴムローラは,後部ゴムローラが存在しかつ正常に回転してはじめてカードパックを送出するため(乙36,乙37),前部ゴムローラが回動してもカードパックを払い出さない場合が生じ得る構造になっていると主張するが,この点は,前部ゴムローラ24が「払出ローラ」に該当することを否定する根拠とはならない。すなわち,前部ゴムローラ24が後部ゴムローラ23と協働していても,前部ゴムローラ24がカードパックを送り出す機能を有していることに変わりはない。
さらに一審被告は,原判決の認定によれば,構成要件ド3-1B,Hの「払出ローラ」の中には,被告カードベンダーの前部ゴムローラのように,回動しても受持された媒体を払い出さないものまでをも含むということになってしまうが,これは,上記の「払出ローラ」の機能を無視した解釈であり妥当ではないと主張するが,原判決は「後部ゴムローラ23と協働していても,前部ゴムローラ24がカードパックを送り出す機能を有していることに変わりはない」と認定しているのであるから,原判決は,「払出ローラ」に「回動しても受持された媒体を払い出さないものまでをも含む」と認定しているものではない。
c「前記払出ギヤは回転を阻止され」(構成要件I)及び被告カードベンダーの構成要件充足性(a) 「前記払出ギヤは回転を阻止され」の解釈本件カード発明3-1の特許請求の範囲には,「正規コインの投入が検出されない場合,前記作動体が回動不可能となることにより,前記アイドラギアおよび前記払出ギヤは回転を阻止され」(構成要件ド3-1I)と記載されている。「阻止」とは,文字通り,「はばみとどめること。」を意味し,本件カード発明3-1においては,特許請求の範囲の記載から明らかなとおり,正規コインの投入が検出されない場合,前記作動体が回動不可能となることにより,前記アイドラギアおよび前記払出ギヤは回転をはばみとどめられるものである。
(b) 被告カードベンダーの構成及び対比原判決172頁14行〜19行において認定されているとおり,「被告カードベンダーにおいては,正規コインBの投入が検出されない場合,作動体55が回動不可能となることにより,アイドラギア39,ギア10及びギア11の回転だけでなく,平歯車26の回転も阻止され,正規コインBの投入が検出された場合,作動体55が回動可能となることにより,アイドラギア39及び平歯車26は回転が可能となっているから(被告カードベンダー説明書5(9)),『前記払出ギヤは回転を阻止され』の構成要件を充足する。」のである。
一審被告は,被告カードベンダーは,作動体,2個のアイドラギヤ,伝動ギヤ,払出ギヤの順でギヤが構成されており,作動体の阻止力を伝動ギヤに作用させてハンドルの操作を禁止するものである。被告カードベンダーでは,伝動ギヤの回転力と作動体の阻止力は「作動体-アイドラギア-伝動ギヤ」という系で完了しているため,払出ギヤには「作動体-アイドラギア-伝動ギヤ」という系で,回転が許された場合にのみ力が加えられ,回転が許されない場合には,払出ギヤには何らの力も加わることはない旨主張する。
しかし,被告カードベンダーにおいては,正規コインBの投入が検出されない場合,作動体55が回動不可能となることにより,アイドラギア39は回転をはばみとどめられ,払出ギヤ26Aも,アイドラギア39,ギア10,ギア11を介し,回転をはばみとどめられる。
払出ギヤ26Aの回転を,アイドラギア39,ギア10及びギア11を介してはばみとどめるのも,このようなギアを介さずに直接にはばみとどめるのも,「阻止」することに変わりはない。
当裁判所の判断
1(1)一審原告らの本訴請求は,原審段階では,前記第2でも述べたように,一審被告の製造販売等する被告カプセルベンダーが一審原告バンダイの有するカプセル特許(カプセル発明1-2,同2-9,同3-1,同3-2,同4-1)を,一審被告の製造販売等する被告カードベンダーが一審原告両名の共有するカード特許(カード発明1-1,同2-1,同2-2,同3-1)を,それぞれ侵害するとして,一審被告エポック社に対し,一審原告バンダイは被告カプセルベンダーと被告カードベンダーの製造販売等禁止及び廃棄と損害賠償金5400万円及びこれに対する平成19年3月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,一審原告大和精工は被告カードベンダーの製造販売等禁止及び廃棄並びに損害賠償金2250万円及びこれに対する平成19年3月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めたものである。
(2)原審の東京地裁は,カプセル特許2(カプセル発明2-9),同3(カプセル発明3-1,3-2),同4(カプセル発明4-1)は特許法44条の分割要件に違反する無効理由があるが,カプセル特許1(カプセル発明1-2)に無効理由はなくかつ被告カプセルベンダーは上記特許の定める要件を充足する,被告カードベンダーはカード特許1(カード発明1-1)の要件を充足せず,またカード特許2(カード発明2-1,同2-2)に特許法29条2項に違反する無効理由があるが,カード特許3(カード発明3-1)には無効理由がなくかつ被告カードベンダーは上記特許の要件を充足するとして,一審原告両名の上記製造販売等禁止及び廃棄と,一審原告バンダイへの損害賠償請求金472万7226円及びこれに対する平成19年3月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を,一審原告大和精工への損害賠償請求金39万3024円及びこれに対する平成19年3月21日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を,それぞれ命じたものである。
(3)これに対し一審被告は,同被告敗訴部分の取消しを求めて本件控訴を提起し,一方,一審原告らも,一審原告ら敗訴部分の取消し(カプセル発明4-1及びカード発明2-1・2-2に関するもののみ。なお,カプセル発明2-9・同3-1・同3-2及びカード発明1-1に対する原審の判断に対しては不服主張がない。)と損害賠償請求部分の拡張(詳細は前記のとおり)を求めて附帯控訴を提起した。
2当裁判所は,以下に述べるとおり,カプセル特許2(カプセル発明2-9)・同3(カプセル発明3-1,3-2)・同4(カプセル発明4-1)は分割要件違反の無効理由があるが,カプセル特許1(カプセル発明1-2)に無効理由はなくかつ被告カプセルベンダーは上記特許の定める要件を充足する,カード特許2(カード発明2-1,2-2)には進歩性違反の無効理由があるが,カード特許3(カード発明3-1)に無効理由はなくかつ被告カードベンダーは上記特許の定める要件を充足する,と判断する(原審とほぼ同じ)。また一審原告両名の損害賠償請求部分は,原審よりも増額すべきもの(詳細は後記のとおり)と判断する。その各理由は,以下のとおり付加するほか,原判決記載のとおりであるからこれを引用する。
3 カプセル特許1に関する主張について(1)一審被告は,本件カプセル発明1-2が無効であると主張し,具体的には,原判決の認定した乙42と本件カプセル発明1-2との相違点1?@,1?Aはいずれも乙43〜45記載の周知技術から容易想到であり,原判決の判断は誤りであると主張する。
アまず一審被告は,相違点1?@につき,乙44,45には原判決の認定した「商品等を整列状態において補給する必要があ」るとの限定はなく,相違点1?@についての原判決の判断は誤りであると主張する。
しかし,この点についての当裁判所の判断は,原判決151頁4行〜153頁9行記載のとおりであり,乙44,乙45の商品の補給等のために物品収納ケース自体を取り替えるという技術思想を乙42に組み合わせることが当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)にとり容易ということはできない。
イ次に一審被告は,相違点1?Aにつき,原判決は「本件カプセル発明1-2は,回転盤を物品収納ケースの底壁に設け,物品収納ケースと共に引き出し可能とする点(相違点1?A)は,乙44及び乙45に示されていないから,これらの引用例によっては,当業者が適宜設計することができた事項であるということはできない。」(153頁12行〜15行)と認定したところ,ドラム70を自動販売機1本体に残し,その上に引き出し可能な商品収納ケースを配置したときに,別体の商品収納ケースに底があれば商品はドラム70に供給することはできず,底を無しとすれば別体の商品収納ケースをわざわざ引き出し可能にする意味がなくなると考え,ドラム70を商品収納ケースに設けるのが妥当であるという結論に至るのは極めて容易なことである,また乙43は技術分野が異なるため参考にすることができない文献ではない,等と主張する。
(ア)a乙44(特開平6-274751号)には,以下の記載がある。
・「かかる構成で,商品10を装填したまま商品収納ケース15をケース単位で自動販売機の商品収納室11の中に運び入れ(…),ここで先記したケース支持ガイド14の上に積み重ねるように装荷してケースの底面を開放すると,ケース内にばら積み収容されていた商品10がケース支持ガイド14の中に排出された後に商品収納室11の底壁11aの傾斜面を転動し,一列に整列して商品搬送通路12の中に供給される。同時にこの商品の動きに連れて上段側に積み重ねた商品収納ケース15に入っていた商品10は下段側のケース内に移動する。そして,この状態から販売指令に基づいて商品払出機構6が動作すると,商品搬送通路12の最前列に並ぶ商品から順に商品取出口3に向けて1個ずつ払出される。ここで,商品の販売動作に合わせて前記したアジテータ機構13を作動させることにより,商品10は商品搬送通路12の入口付近にブリッジして詰ることがなく,商品収納ケース15よりケース支持ガイド14を経て商品搬送通路12へ円滑に供給される。」(段落【0015】)・ 【図1】bまた,乙45(実開平5-25574号)には,以下の記載がある。
・「蓋部12が蝶番14を介して器部2の開口部3の側縁3a(3b)に開閉自在に設けられ,この蓋部12を開方して開口部3から収納ケース1内に物品Aを収納する。
ケース1内は複数段に区切られ,各段毎に物品Aが重積して収納される。
そして,物品Aはケース1内から各段毎に形成された出口9から払出される。」(段落【0007】)・「そして,上記のように構成された収納ケース1内に前述した物品Aが重積した状態で収納されるようになっている。」(段落【0014】・「この状態で装置30は待機し,図示しない演算部等により払出指令が発せられると,その指令に応じて各種景品Aa,Abの組合せを算出し,まずテーブル31を回転させ,例えば景品Aaが収納された収納ケース1を払出し位置へ移動させる。」(段落【0028】)・「次に押出し機構部40の上段の押出し機構部40が作動し,さお44によって収納ケース1上段の最下段の物品Aを搬出路46へ押出す。」(段落【0029】)・「次に,景品Aaに次ぐ景品Abが収納された収納ケース1を払出し位置へテーブル31を回動し移動させる。そして,上述と同様に押出し機構部40によって景品Abを払出す。」(段落【0030】)・「このように払出指令に基づいてテーブル31及び押出し機構部40を作動させ,収納ケース1内の物品a(景品Aa,Ab)を順次払出す。」(段落【0031】)・ 【図5】(イ)上記各記載によれば,乙44の商品収納ケース15,乙45の収納ケース1はいずれもその底壁(底部)に回転盤を設けていないのみならず,これら収納ケースを重層させ,大量ないし多種類の商品の供給を可能とするものであるから,収納ケースの内部に一審被告の主張するようなドラムを設けること等を想到することを可能とする記載はない。
(ウ)また,乙43に関しては,原判決153頁18行〜155頁13行記載のとおりであり,乙43は技術分野が異なるほか,課題及び構成も異なるものであるから,乙43の構成を乙42に組み合わせることが容易とは解されない。
(エ)以上の検討によれば,一審被告の上記主張は採用することができない。
(2)また一審被告は,被告カプセルベンダーが本件カプセル発明1-2の構成要件を充足しないと主張し,具体的には,?@構成要件プ1-2Aの「後壁近傍」,?A同要件の「回転軸…を有する装置本体」,?B構成要件プ1-2Bの「引き出し可能」の要件をいずれも充足しないと主張するので,以下検討する。
ア 構成要件プ1-2Aの「後壁近傍」の充足性(ア)一審被告は,構成要件プ1-2Aの「後壁近傍」の意義について,後壁に接しているか,離れているとしても歯車の厚さ(数ミリ程度)ないし1センチメートル程度を意味すると主張する。
この点に関しては,原判決144頁1行〜13行記載のとおりであり,歯車を「後壁近傍」に位置させるのは,物品収納ケースを装置本体の正面より引き出す構成とするためには,物品収納ケースの回転盤を回転させるための歯車を装置本体の正面側に位置させることはできず,後壁側に位置させざるを得ないことによるものであり,構成要件プ1-2Aの「後壁近傍」は,歯車が後壁の近辺にあれば足り,後壁に固着している必要はない。一審被告は,「近傍」とはせいぜい歯車の厚さ程度をいうとするが,「近傍」の意味につきそのように解すべきとする点について明細書に記載がなく,一審被告の上記主張は採用することができない。
(イ)一審被告は,被告カプセルベンダーは,後壁から8センチメートル離れた位置に歯車を有するので,「後壁近傍」の要件を満たさないと主張する。
この点に関しても,原判決144頁15行〜18行記載のとおり,被告カプセルベンダーの歯車91は,装置本体3の前壁7と後壁13の間(約39cm)の,後壁13から約8cm離れた位置に設置されているから(被告カプセルベンダー説明書2(1)),被告カプセルベンダーの歯車91の位置は,構成要件プ1-2Aにおける「後壁近傍」を充足するものといえるし,被告カプセルベンダーの歯車91は収納ケース5の底面に設けられたラック41と噛み合って(被告カプセルベンダー説明書3(3))後壁側から回転盤を回転させるものである(原判決別紙【写真4】〔原判決325頁〕,同【写真7】〔原判決328頁〕)から,被告カプセルベンダーの歯車91は,「後壁近傍」に位置することが明らかである。一審被告の主張は採用することができない。
イ 構成要件プ1-2Aの「回転軸…を有する装置本体」の充足性(ア)一審被告は,構成要件プ1-2Aの「回転軸…を有する装置本体」の解釈につき,回転軸が装置本体に取り付けられたものに限定されると主張する。
この点に関しては,原判決144頁21行〜145頁1行記載のとおりであり,構成要件プ1-2Aにおける「回転軸…を有する前記装置本体」とは,装置本体が回転軸(を含む機構)を有することを意味し,回転軸(を含む機構)が装置本体から取外し可能なものも可能でないものも含むと認められる。
一審被告は,装置本体が回転軸を有することを意味すると主張し,その根拠として本件カプセル特許1の明細書段落【0020】の記載を挙げるところ,確かに同段落には実施例に関する記載として「装置本体3の前壁7には,円盤状の操作部材81が設けられている。この操作部材81の回転軸83は,装置本体3の後壁13まで伸びて,後壁13で回動自在に取り付けられている。…」との記載があるが,回転軸83は,「…操作部材81を半回転させると,操作部材81の回転が,回転軸83,平歯車85,小歯車87,平歯車89,駆動歯車91,ラック41を介して回転盤35を僅かに回転させる。…」(同段落【0026】)とあるように,操作部材の回転を平歯車85等に伝えるものであり,回転軸が装置本体に取り付けられたものに限定されるとする根拠はない。
一審被告の上記主張は採用することができない。
(イ)被告カプセルベンダーが構成要件プ1-2Aの「回転軸…を有する装置本体」を充足することについては,原判決145頁2行〜5行記載のとおりである。
ウ 構成要件プ1-2Bの「引き出し可能」の充足性(ア)一審被告は,被告カプセルベンダーの構成要件プ1-2Bの「引き出し可能」の要件の充足性について,被告カプセルベンダーは物品収納ケースの連結部と装置本体のスライダがネジ止めされているから引き出し可能ではなく,構成要件を充足しないと主張する。
(イ)しかし,この点に関しては,原判決149頁15行〜24行記載のとおりであり,被告カプセルベンダーの収納ケース5は,装置本体3に固設された軸杆に嵌合されたスライダ部にネジ止めされているが,ドライバー等を用いて装置本体3から取り外すことができ,この点につき特段の困難があるとも認められず,被告カプセルベンダーは構成要件プ1-2Bの「引き出し可能な前記物品収納ケース」を充足すると認められる。一審被告の上記主張は採用することができない。
4 カプセル特許4に関する主張について一審原告バンダイは,原審が本件カプセル特許4(カプセル発明4-1)につき,分割要件違反による無効理由があると判断したことは誤りである旨主張するので,以下検討する。
(1)ア原判決18頁22行〜25行記載のとおり,本件カプセル特許4は,本件カプセル特許1に係る出願を原出願として平成13年5月7日に分割出願をしたものであるところ,本件カプセル特許1の出願当初明細書(乙1)の内容は原判決別紙のとおりであり,その要旨は,原判決13頁9行〜17頁10行記載のとおりである。
これによれば,?@本件カプセル特許1当初明細書(乙1)には,第1の課題,すなわち物品収納ケース自体を取り替えるだけで物品を簡単に変更できる物品取出装置を提供することを解決する(段落【0006】)発明として請求項1,2にそれが記載されているところ,いずれもその構成要件(ロ)には,「装置本体の上部には,物品収納ケースが着脱自在に設けられていること。」と記載されている一方,?A第2の課題,すなわち取り出す物品の大きさが異なっても,充分対応ができる汎用性のある物品取出装置を提供することを解決する(段落【0006】)発明として請求項3〜5にそれが記載されているところ(その課題解決原理に関しては請求項3の構成要件(ヘ)に記載),その構成要件(ロ)には,「装置本体の上部には,物品収納ケースが設けられていること。」と記載されている。
本件カプセル特許1の当初明細書の段落【0007】にも,「【課題を解決するための手段】本願請求項1に係る物品取出装置は,上記第1の課題を達成するため,下記の構成を有する。…(ロ)装置本体の上部には,物品収納ケースが着脱自在に設けられていること。」と記載され,同段落【0009】には,「本願請求項3に係る物品取出装置は,上記第2の課題を達成するため,下記の構成を有する。…(ロ)装置本体の上部には,物品収納ケースが設けられていること。」と同旨が記載されている。
そして,本件カプセル特許1当初明細書(乙1)の発明の詳細な説明には実施例が1例記載されているところ,そこには「…装置本体3の前面上部には,物品収納ケース5が引き出し自在に設けられている。」(段落【0015】),「開閉扉110を閉じると,開閉扉110の上端が物品収納ケース5の突起19に係合し,物品収納ケース5は引き出せなくなる。
…」(段落【0025】),「高価な玩具を内蔵したカプセル等の大きい物品Aを収納した物品収納ケース5に取り替える場合は,…安価な小玩具を内蔵したカプセル等の小さい物品Aを収納した収納ケース5を引き出して,次の物品収納ケース5を押し込む。…」(段落【0027】),「以上説明してきたように,本願請求項1および2記載の物品取出装置は,物品収納ケース内の物品をいちいち手で入替えることなく,物品収納ケース自体を取り替えるだけで,取り出せる物品を簡単に変更することができるという効果がある。本願請求項3記載の物品取出装置は,物品収納ケースの落下口の面積を簡単な機構で変えることができるので,取り出す物品の大きさが異なっても,充分対応ができる汎用性のある構造にすることができるという効果がある。…」(段落【0029】)と記載されている。また【図面の簡単な説明】には「【図2】上記物品取出装置の物品収納ケースを引き出した状態を示す斜視図である。」と記載されている。
そして,図2には,物品収納ケースが装置本体から分離して引き出されている状態が図示されている(なお,原判決16頁4行〜5行)。
イその後,原判決19頁20行〜21行記載のとおり平成17年11月28日付けの拒絶理由通知(乙9)がなされた。同拒絶理由通知書には,以下の記載がある。
「引用文献2(判決注,特開平2-214998号公報)には,物品取出装置において,物品収納ケース装置本体の正面より引き出し可能に設ける技術手段が記載されている。」これに対して一審原告バンダイは,原判決19頁23行〜24行記載の平成18年2月2日付け手続補正を行い,本件カプセル特許4は特許査定された。
その際,原判決20頁22行〜21頁12行記載のとおり記載を変更したが,そこに記載のとおり,本件カプセル特許4当初明細書(甲42)に記載されていた「本願発明は,…物品収納ケース自体を取り替えるだけで,取り出せる物品を簡単に変更することができる物品取出装置を提供することを第1の課題とする。」(段落【0006】)という記載を削除し,請求項(構成要件(ロ))の記載も「引き出し可能」から「引き出し自在」に改めた。
また本件カプセル特許4は,「本願発明は,上記問題点に鑑み案出したものであって,物品収納ケースが引き出し自在な物品取出装置を提供することを課題とする。」(明細書〔甲73〕段落【0005】)ものであり,本件カプセル特許1の当初明細書記載の第2の課題(取り出す物品の大きさが異なっても,充分対応ができる汎用性のある物品取出装置の提供)の解決を目的とするものではない。
(2)以上の検討によれば,本件カプセル特許1当初明細書(乙1)には,物品収納ケースにつき「着脱自在」との記載のない第2の課題解決のためのカプセルベンダーにつき記載され,第1の課題解決のためのものと共通の実施例につき「引き出し」ないし「引き出し自在」と記載されているものの,図2には引き出した場合として装置本体から分離された状態が図示されていること,本件カプセル特許4が本件カプセル特許1当初明細書の第2の課題とは異なる課題を解決するものであること,手続補正により本件カプセル特許4の明細書から収納ケース自体を取りはずすことができる点に関する記載を削除したこともあわせ考慮すれば,原判決157頁21行〜24行記載のとおり,本件カプセル特許4は,本件カプセル特許1当初明細書に記載のない,物品収納ケースにつき,「装置本体から取り外すことはできないが引き出すことはできるもの」を含むに至ったものと認めざるを得ない。
(3)そうすると,本件カプセル特許4に係る出願は,原出願である本件カプセル特許1当初明細書に記載した事項の範囲内でないものを含むから,分割出願の要件を満たさず,その結果,本件カプセル発明4-1は,平成9年12月16日に公開された特開平9?326081号公報(本件カプセル特許1の公開公報〔乙51〕)に記載された発明と同一であることになるから,本件カプセル特許4は無効というべきである。
したがって原判決は相当であって,一審原告バンダイの上記主張は採用することができない。
5 カード特許2に関する主張について(1)一審原告らは,原審が本件カード発明2-1について,乙17発明との相違点1〜3に,乙16,乙19記載の周知技術を適用して本件カード発明2-1の構成とすることは当業者に容易に想到し得,進歩性を欠く無効理由を有すると判断した(167頁15行〜17行)ことに対し,?@原判決の認定した一致点,相違点の認定に誤りがあり,その他に相違点4〜6が存在し,?A原判決の相違点1〜3の判断にも誤りがあると主張するので,以下検討する。
ア 一審原告らが主張する相違点4〜6は以下のとおりである。
(ア) 相違点4本件カード発明2-1では,「開放軸受部」は,基礎フレームの上面に形成され,上方開放状であり,上方よりローラ軸が挿脱可能に挿入される(構成要件ド2-1C)。これに対し,乙17発明では,かかる意味における「開放軸受部」が存在しない点。
(イ)相違点5本件カード発明2-1では,「払出伝動体」は基礎フレームに設けられ,操作軸の回動をローラ軸に伝達し,払出ローラを回動させる(構成要件ド2-1E)のに対し,乙17発明では,上記のとおり,送り出しローラ3はモータMによって駆動されていることから,手動によって駆動されるべき操作軸の回動をローラ軸に伝達し,払出ローラを回動させる「払出伝導体」に相当する構造はない点。
(ウ) 相違点6本件カード発明2-1では,ハンドルの操作により操作軸が回動される(構成要件ド2-1G)のに対し,乙17発明では,上記のとおり,送り出しローラ3はモータMによって駆動されていることから,ハンドルの操作により操作軸が回動されることがない点。
イ(ア)まず一審原告らの主張する相違点4については,原判決は相違点3として本件発明2-1の「開放軸受部」の構成と乙17発明との相違を検討,判断しており,加えて一審原告らの主張する相違点4を認定しこれにつき判断する必要は認められない(相違点3の判断の相当性については,後に検討する)。
(イ)また一審原告らの主張する相違点5については,本件発明2-1の「払出伝動体」についてであるところ,本件発明2-1では,「前記基礎フレームに設けられ,前記操作軸の回動を前記ローラ軸に伝達し,前記払出ローラを回動させる払出伝動体と,」(構成要件ド2-1E,原判決10頁2行〜3行9行)とされているところ,原判決は操作軸の回動をローラ軸に伝達する点を乙17発明のモータMの回動を軸部伝達する点との相違点1として認定し,これにつき判断しており,一審原告らの主張する相違点5については,相違点1についての認定,判断においてなされている。そうすると,改めて一審原告らの主張する相違点5を認定する必要はない。
(ウ)さらに一審原告らの主張する相違点6については,ハンドル操作による操作軸の回転についても,原判決は相違点1において「本件カード発明2-1が,基礎フレームに回動可能に支持され,ハンドルにより回動させられる操作軸を備え,この操作軸の回動をローラ軸に伝達する」点を乙17発明との相違点として認定しており,これについて判断している。そうすると,一審原告らの主張する相違点6を認定する必要はないことになる。
ウそして一審原告らは,原判決の相違点1〜3についての判断も誤りであると主張する。
(ア) 相違点1につきa一審原告らは,原判決の相違点1の判断について,?@本件カード発明2-1は,手動式の媒体販売装置において発生しやすい,容易に装置本体を分解,組立することができるようにし,また,容易にローラ軸及び払出ローラの清掃を行うことができるようにするという課題を解決するために,「収納ケース」と「基礎フレーム」とが別個に構成され,この別個に構成された「基礎フレーム」の「上面」に「収納ケース」を着脱可能に装着し,「収納ケース」が装着される「基礎フレームの上面」に「上方開放状の開放軸受部」を設け,当該「上方開放状の開放軸受部」に「ローラ軸」を「挿脱可能」に設けるという構成を採用したところにその特徴があることから,電動式か手動式かという点が重要であり,電動式である乙17発明は,本件カード発明2-1において生じるような手動式の装置における課題や目的を開示も示唆もするものではないから,手動式である乙16の装置を乙17と組み合わせる動機付けはない,?A電動式である乙17発明において,軸部30を回動するための駆動源をモータMではなく手動にした場合,本件カード発明2-1において生じるような課題が生じることになるから,当業者が,乙17発明においてローラ軸を回動させる機構をモータMから手動操作に変更しようとする場合は,かかる課題を解決する必要があり,単に電動式を手動式に変更するという作業で済むものではない,として乙17発明において,軸部30を回動するための駆動源を手動とすることは容易に想到し得たことではなく,また乙16に基づき容易に想到し得るものでもないと主張する。
bしかし,本件カード特許2の明細書(甲11)には,以下の記載がある。
・「前記従来技術では,紙葉類が完売された等の理由で,収納ケース内の収納紙葉類が無くなっても,連続購入のために事前に硬貨が投入されていた場合,払出ローラは回転可能になっている。
収納紙葉類が無くなると重鎮は払出ローラと接触状態になり,このため,払出ローラを回転すると重鎮と摺接することになり,ゴム等で形成されている払出ローラは摩耗し,新たな紙葉類の正常な送り出しが困難になることがあり,また,販売をせずに硬貨を収納してしまうという問題がある。」(段落【0003】)・「このような問題点は,収納媒体がなくなったときに,重鎮で払出ローラの回転を阻止し,払出ローラと重鎮の摺接を防止できるようにし,また,連続購入のために事前に硬貨が投入されていた硬貨を返却可能にすることにより解決することが可能になる。
しかし,収納ケース,基礎フレーム,払出ローラ付きローラ軸等を別個に構成して,簡単に組み立てることは可能ではなかった。
本発明は,このような従来技術の問題点を解決できるようにした媒体販売装置を提供することを目的とする。」(段落【0004】・「本発明は,収納ケース,基礎フレーム,払出ローラ付きローラ軸等を別個に構成して,簡単に組み立てることを可能にした媒体販売装置を提供することを目的とする。」(段落【0005】)c上記bの記載によれば,本件カード発明2-1は,収納媒体がなくなった際の問題点を解決するために収納ケース,基礎フレーム,払出ローラ付きローラ軸等を別個に構成して,簡単に組み立てることを可能としたものであって,特段手動式であることによる課題を解決するとの記載はなく,一審原告らの主張は明細書の記載に基づかないものである。
d加えて,乙16(特開平8-2729号公報,発明の名称「紙葉類送り出し装置」,出願人 大和精工株式会社,公開日 平成8年1月9日)には,「【産業上の利用分野】本発明は,いわゆるシール,カードと称される紙葉類を束にして又は単枚で自動販売するための紙葉類送り出し装置に関する。」(段落【0001】)と記載され,同一の技術分野に関するものであり,乙17発明に適用するに当たり阻害要因があるとは認められない。
(イ) 相違点2につきa一審原告らは,原判決の相違点2の判断について,?@本件カード発明2-1は,「媒体販売装置を『操作軸』,『ローラ軸』,『払出ローラ』,『払出伝動体』を備えた『基礎フレーム』と『複数の媒体を上下積層状に収納可能な収納ケース』という2つの異なるユニットに分割し,この2つの異なるユニットを接合させる箇所として『基礎フレームの上面』を選択しており,基礎フレームが上面を有する点には技術的意義がないとはいえず,当業者が適宜になし得た単なる設計的事項でもない,?A乙19(特開平2-233435号公報)には,本件カード発明2-1における「基礎フレームの上面」とは全く関係のない事項が記載されているにすぎない,等と主張する。
bしかし,本件カード発明2-1につき,一審原告らの主張する2つの異なるユニットを接合する箇所として基礎フレームの上面を選択し,これが技術的意義を有する旨について,明細書には何らの記載がなく,一審原告らの主張は明細書に基づかない主張である。そうすると,乙19には本件カード発明2-1の「基礎フレームの上面」とは全く関係ない事項を記載されているにすぎないとする点についても,前提を欠くことになる。
(ウ) 相違点3につきa一審原告らは,原判決の相違点3の判断について,?@乙17(特開平8-333034号公報)は本件カード発明2-1は,「媒体販売装置を『操作軸』,『ローラ軸』,『払出ローラ』,『払出伝動体』を備えた『基礎フレーム』と『複数の媒体を上下積層状に収納可能な収納ケース』という2つの異なるユニットに分割し,この2つの異なるユニットを接合させる箇所として『基礎フレームの上面』を選択し,その『基礎フレームの上面』に払出ローラ付きローラ軸が挿脱可能に挿入される上方開放状の開放軸受部を形成する」という構成を採用したことに技術的意義があり,上方開放軸受はありふれた技術であり,U字形の上方開放軸受に支持された軸の離脱をふた(蓋体),当片,カバーフレーム等で防止する構造も周知であるとし,?A乙17発明は電動式であり,モータMによる回動をローラに伝達する手段として,本件カード発明2-1のようにローラが軸受部から「挿脱可能」である手段を採用することは,当業者が容易に採用し得たものではないから,原判決は誤りであると主張する。
bしかし,「基礎フレームの上面」に2つの異なるユニットを接合させる箇所として選択したことに技術的意義を有するとの一審原告らの主張が明細書の根拠を欠くことについては,上記(イ)記載のとおりである。また本件カード発明2-1につき手動式であることによる課題解決についての記載がないことは上記のとおりであり,電動式による乙17と区別する根拠を欠くとともに,原判決166頁11行〜167頁10行記載のとおり,乙17には繰出しローラ3の交換を容易に行うとの課題が示されているから,そのため繰り出しローラ3の各軸部30を「挿脱可能」とすることも当業者が容易に想到し得たものと認められる。
エ以上の検討によれば,一審原告らの本件カード発明2-1について,原判決の認定が誤りであるとする主張は採用することができない。
(2)一審原告らは,本件カード発明2-2についても,?@原判決の認定した一致点,相違点の認定に誤りがあり,その他に相違点5〜7が存在し,?A原判決の相違点1〜4の判断にも誤りがあると主張するので以下検討する。
ア 一審原告らが主張する相違点5〜7は以下のとおりである。
(ア) 相違点5本件カード発明2-2では,「払出ローラ」が基礎フレームの上部に支持されている(構成要件ド2-2D)のに対し,乙17発明では,繰出しローラ3の各軸部30は,切欠溝の下部(奥部)に設けられた孔部27の位置へ挿入されており,基台2の上部に支持されているとはいえない点。
(イ)相違点6本件カード発明2-2では,ハンドルによる操作軸の回転を払出ローラに伝達する「払出伝動体」を有している(構成要件ド2-2F)のに対し,乙17発明では,上記したとおり,送り出しローラ3はモータMによって駆動されており,手動で駆動されるべき操作軸に相当する構造はないことから,操作軸の回転を払出ローラに伝達すべき「払出伝動体」に相当する構造もない点。
(ウ)相違点7本件カード発明2-2では,「開放軸受部」は基礎フレームの上面に設けられ,払出ローラのローラ軸を上方より挿脱可能に挿入して支持する上方開放状である(構成要件ド2-2G)のに対し,乙17発明では,かかる意味における「開放軸受部」が存在しない点。
イ(ア)一審原告らの主張する相違点5に関連して,乙17には以下の記載がある。
・「この物品繰出し装置Aは,ストッカ1,このストッカ1を支持するための基台2,この基台2に取付けられた繰出しローラ3,および後述する各部品を具備して構成されている。なお,図1において,矢印a方向が,カード状物品mの繰出し方向を示している。」(段落【0023】)・「なお,上記繰出しローラ3を基台2に取付けるための手段としては,たとえば次のような手段を採用することができる。すなわち,図4に示すように,基台2の側板部2a,2bのそれぞれには,繰出しローラ3の両端の各軸部30の外径dよりも大きな寸法幅Lの切欠溝26を設けておくとともに,この切欠溝26の下部(奥部)には,この切欠溝26の幅Lよりも大きな直径Dの孔部27を設けておく。このような構成にすれば,繰出しローラ3の各軸部30を上記切欠溝26の上部から孔部27の位置へ挿入することができる。」(段落【0035】)・【図1】・【図4】上記記載によれば,乙17においても,繰り出しローラ3は,ストッカ1が基台2上に取り付けられ,繰り出しローラ3は実質的に基台2に支持されているさまがみてとれる。
そうすると,本件カード発明2-2と乙17との間に一審原告らの主張する相違点5の存在を認めることはできない。
(イ)一審原告らの主張する相違点6,7については,それぞれ本件カード発明2-1と乙17との相違点5,4として主張する内容と同様であり,これについては上記本件カード発明2-1についての判断と同様であり,一審原告らの上記主張は採用できない。
ウ また一審原告らは,相違点1〜4の判断にも誤りがあると主張する。
(ア)しかし,一審原告らは相違点1〜3の判断が誤りであることは,本件カード発明2-1についてと同様であると主張するところ,これが採用の限りでないことは上記本件カード発明2-1について判断したのと同様である。
(イ)本件カード発明2-2についてのみ挙げる相違点4に関して,一審原告らは,?@乙17発明において,繰出しローラ3を取り外すためには複雑な作業が必要であり,繰出しローラ3はストッカ1を基台2に装着することのみによって離脱が防止されているものではないから,本件カード発明2-2のように,「前記開放軸受部に支持されたローラ軸は,基礎フレーム上に装着された収納ケースによって離脱が防止されている」ものではない,?A乙24,27,29,31,32及び35に示されているような技術は,単に,U字形の上方開放軸受に支持された軸の離脱をふた(蓋体),当片,カバーフレーム等で防止する構造であって,本件カード発明2-2のように,収納ケース,基礎フレーム,払出ローラ付きローラ軸等を別個に構成した物品取出装置において,収納ケースを基礎フレームに装着するだけで開放軸受部からのローラ軸の離脱を防止することができるようにしたという技術とは異なるものであり,この技術を乙17発明に適用しても,相違点4に係る構成を想到することはできない,と主張する。
しかし乙17においても,基礎フレーム上に装着された収納ケースによってローラ軸の離脱が防止されているということができることについては原判決169頁1行〜5行記載のとおりである。
加えて,一審原告らは,乙24,27,29,31,32及び35にはU字形の上方開放軸受に支持された軸の離脱をふた(蓋体),当片,カバーフレーム等で防止する構造が示されているとしながら,これを本件カード発明2-2に適用しても相違点4に係る構成を想到することができないとするものであるところ,そのような上方開放軸受に支持された軸の離脱をふた等で防止する構造を,乙17に適用することは容易であり,この点も原判決の説示するとおりである(原判決169頁6行〜12行)。
エ以上の検討によれば,一審原告らの主張する本件カード発明2-2について,原判決の認定が誤りであるとする主張は採用することができない。
6 カード特許3に関する主張について一審被告は,本件カード発明3-1に係る特許が無効であると主張するので,以下この点について判断する。
(1)まず一審被告は,原審で乙51(特開平9-326081号公報)を主引例とした無効理由を認めなかったのは誤りである旨主張し,具体的には,?@相違点2,3の認定の誤りがあり,?A相違点1,2についての判断の誤りがあるとする。
ア 相違点2の認定の誤りにつき一審被告は,原判決の認定した相違点2は,本件カード発明3-1では作動体が収納ケースの側面に設けられていると認定したのは誤りであると主張する。
しかし,原判決の認定した相違点2は「本件カード発明3-1では,コイン検出作動部や正規コインの投入が検出された場合に回動可能となり,正規コインの投入が検出されない場合,回動不可能となる作動体と,上記作動体と噛合するアイドラギアが収納ケースの側面に設けられているのに対して,乙51発明においては,コインセレクター95(搬送円盤)や歯車は,装置本体の内面に設けられている点。」(原判決173頁18行〜22行)であり,収納ケースの側面に設けられていると認定したのは作動体と噛合するアイドラギアであり,作動体ではないし,作動体が収納ケースの側面に設けられていることを前提とした判断もされていないから,一審被告の上記主張は採用することができない。
イ 相違点3の認定の誤りにつきまた一審被告は,原判決の認定した相違点3に関し,乙51〔本件カプセル特許1の公開公報〕には本件カード発明3-1と同様の構成である,物品収納ケース5が前記装置本体3の前面上部に着脱可能に載置されたとき,前記歯車群が前記ラック41と連動し,前記搬送円盤,大ウォーム歯車105と前記ラック41との連動が形成される構成が記載されているとして,相違点3の認定は誤りであると主張する。
しかし,原判決の認定した相違点3は,「本件カード発明3-1においては,収納ケースが基礎フレームの上面に着脱可能に載置されたときに,アイドラギアが払出ギヤと連動し,作動体と払出ギヤとの連動が形成されるのに対して,乙51発明はそのような構成を有していない点。」(173頁下3行〜末行)であり,乙51には,このうち基礎フレームに関する記載もなく,また乙51において回転不能となるコイン搬送円盤を有するコインセレクター95は,物品収納ケース5ではなく,装置本体3に設けられている(段落【0021】)。
そうすると,原判決の認定した相違点3に誤りはなく,一審被告の主張する相違点3についての開示は乙51にはないといえるから,一審被告の主張は採用することができない。
ウ 相違点1の判断の誤りにつき一審被告は,原判決の相違点1についての判断に関し,乙22,乙49,乙16,乙50等に記載された周知技術と乙17記載の構成からすれば,相違点1は周知技術の転用又は設計的事項にすぎないと主張するが,この点についての判断は原判決174頁7行〜15行記載のとおり,乙51の必須の課題解決のための構成である物品収納ケース内に回転板を設けるとの点を変更することになり,当業者が容易に想到し得たとはいえないから,原判決の認定に誤りはない。
エ 相違点2の判断の誤りにつきまた一審被告は,相違点2に関しても,技術的意義が不明であり単なる設計事項であると主張するが,原判決の認定した相違点2は,「本件カード発明3-1では,コイン検出作動部や正規コインの投入が検出された場合に回動可能となり,正規コインの投入が検出されない場合,回動不可能となる作動体と,上記作動体と噛合するアイドラギアが収納ケースの側面に設けられているのに対して,乙51発明においては,コインセレクター95(搬送円盤)や歯車は,装置本体の内面に設けられている点。」(173頁18行〜22行)とするものであるところ,上記構成は,本件カード発明3-1における作動体,アイドラギアについて説明したものであり,技術的意味は明確であるとともに,原判決174頁18行〜23行記載のとおり,乙51には回転不能となるコイン搬送円盤を有するコインセレクター95を物品収納ケースに設けることについて何らの示唆もないから,一審被告の上記主張は採用することができない。
(2) 分割要件違反の主張についてア一審被告は,当審に至り,本件カード特許3は,原出願(特願2001-79282号)からの分割出願であるところ,本件カード発明3-1の構成要件のうち,?@構成要件8Gの「収納ケース」が「作動体」「を有し」ている旨,?A同8Hの「前記コイン検出作動部が設けられた収納ケースが前記基礎フレームの上面に着脱可能に載置されたとき」及びこれと対応する本件明細書の段落【0010】の記載(なお,分割時の明細書乙46の1も同様),?B本件カード特許3を分割した際の明細書(甲38〔乙46の1も同じ〕)の「しかし,1つのフレーム内に収納ケースと送り出し駆動機構とが配置されていると,分解・組立が困難になるという問題がある。」との記載は,出願当初明細書の事項の範囲内でないものを含み,分割要件を満たさないから,現に分割をした平成17年6月24日が出願日となり,原出願の公開公報(乙63)から容易に想到し得たものであり進歩性を欠き無効であると主張する。
イ上記?@の点に関し,原出願(特願2001-79282号,出願日平成13年3月19日)の当初明細書である乙14(特許願,その公開公報〔特開2002-279514号公報〕は乙63)には,以下の記載がある。
・「…この各収納ケース14の側面にコイン検出作動部Dが装着されており…」(段落【0013】)・「…コイン検出作動部Dは,媒体払出部Cとは独立したユニットとして構成され,全体を支持する支持体42は…」(段落【0026】)・「…支持体42に設けた支軸64に回転自在に支持された作動体55…」(段落【0041】)上記によれば,乙14には,「収納ケース」が「作動体55」を有することが開示されていることが明らかである。
なお,一審被告は,本件カード発明3-1において作動体が収納ケースに設けられていなければならない旨主張するが,本件カード発明3-1においては,収納ケース自体に作動体が設けられることに限られるとする根拠はないから,一審被告の主張は前提を欠くというべきである。
ウ 上記?Aの点に関し,乙14には,以下の記載がある。
・「…この基礎フレーム16に左右の収納ケース14がそれぞれ着脱自在に取り付けられ,この各収納ケース14の側面にコイン検出作動部Dが装着されており…」(段落【0013】)・「…この払出ローラ24を取り付けているローラ軸25は,基礎フレーム16の上面の開放軸受部16aに上方から挿脱自在に挿入されており,基礎フレーム16上に収納ケース14を載置して取り付けることにより,開放軸受部16aからの離脱が防止される支持構造となっており…」(段落【0015】)上記によれば,収納ケースが基礎フレームの上面に着脱可能に載置されること,及び収納ケースにコイン検出作動部が設けられることも開示されている。そうすると,これと対応する本件カード特許の明細書の段落【0010】と対応する記載があることも明らかである。
エ 上記?Bの点に関し,乙14には以下の記載がある。
・「…左右販売装置3の送り出し機構15は,共通の基礎フレーム16に支持され,この基礎フレーム16に左右の収納ケース14がそれぞれ着脱自在に取り付けられ,この各収納ケース14の側面にコイン検出作動部Dが装着されており,各部はそれぞれユニットになっていて,別個に組み立てられ,分解・組立が簡単かつ容易になっている。」(段落【0013】)上記によれば,一審被告の指摘する,「1つのフレーム内に収納ケースと送り出し駆動機構とが配置されていると,分解・組立が困難になるという問題がある。」とする点に関する記載があることも明らかである。
オ以上の検討によれば,一審被告の主張する分割要件違反に基づく無効理由については,前提を欠くことが明らかであるから,一審被告の上記主張は採用することができない。
(3)改正前特許法36条6項1号違反(いわゆるサポート要件違反)の主張について一審被告は,当審に至り,本件カード特許3の構成要件8Gは,収納ケースが作動体を有している旨を規定しているところ,これは明細書の発明の詳細な説明に記載したものではなく,また構成要件8Hの「前記コイン検出作動部が設けられた収納ケースが前記基礎フレームの上面に着脱可能に載置されたとき」も上記(2)と同様に明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない旨主張するが,上記(2)に関する一審被告の主張が前提を欠くことは上記のとおりであるほか,構成要件8G,構成要件8Hに関して同段落【0010】等に記載があるものであるから,一審被告の主張は採用することはできない。
(4)改正前特許法36条6項2号違反(いわゆる明確性要件違反)の主張について一審被告は,当審に至り,本件カード発明3-1では,「収納ケース」の語がコイン検出作動部と別のものとその一部を含む物との両方が含まれ,明確でなく,改正前特許法36条6項2号の要件を欠くと主張するが,収納ケースが作動体を有し,作動体がコイン検出作動部に属することから収納ケースもコイン検出作動部の一部を含むとする独自の解釈に基づくものであり,採用の限りでない。
(5) 乙50を主引例とした無効理由の主張についてアさらに一審被告は,当審に至り,原審提出の乙50(特開平9-7022,発明の名称「コイン検出作動機構」,出願人 大和精工株式会社,公開日 平成9年1月10日)を主引例として,乙17,乙50を適用して当業者が容易に想到し得るから,進歩性を欠く無効理由を有すると主張する。
イしかし,原判決は,乙51に,乙17,乙50等に記載された内容を考慮しても本件カード発明3-1は進歩性を有するとしたものであり,この点は原判決173頁5行〜174頁23行記載のとおりである。
加えて,乙50には以下の記載がある。
・「…本発明の目的は,コイン検出体でコインを2つの傾斜面で受持することにより,コイン外径差を拡大して検出できるようにし,簡単かつ安価に所定コインの正否を検出できるようにしたコイン検出作動機構を提供するにある。」(段落【0005】)・「…外径の実際寸法差が僅少でも,所定のコインか否かを正確に検出する。」(段落【0008】)・「外箱16の内部には,フレーム2が後方から着脱自在に挿入配置され,内下部には集金箱21が挿脱自在に配置されている。フレーム2は底板24,この底板24に固定の左右側板25L,25R及び支持板26等を有し,左右側板25L,25Rの上下方向中途部に送り出し軸4を支持し,この送り出し軸4より上側に紙葉類Aの収納部を形成し,下側に駆動機構12及びコインセレクタ27を配置している。」(段落【0010】)上記記載によれば,乙50は本件カード発明3-1の目的及び課題(「1つのフレーム内に収納ケースと送り出し駆動機構とが配置されていると,分解・組立が困難になるという問題がある。本発明は,このような従来技術の問題点を解決できるようにした媒体販売装置を提供する」〔段落【0004】〕)を異にするとともに,乙50の収納部はフレームと一体とされており本件カード発明3-1の別体とされた基礎フレーム,収納ケースのいずれも備えないものである。
また前記原判決が乙51を主引例とした相違点3に関する判断の誤りに対する主張において判断したとおり,本件発明3-1の構成要件8Hに関する,「本件カード発明3-1においては,収納ケースが基礎フレームの上面に着脱可能に載置されたときに,アイドラギアが払出ギヤと連動し,作動体と払出ギヤとの連動が形成される」との点は,乙50にも,乙17にも開示がなく,設計事項とも認め難いものであるから,一審被告の主張は採用することができない。
(6)さらに一審被告は,被告カードベンダーは,本件カード発明3-1の構成要件を充足しないと主張するので,以下この点について判断する。
ア 構成要件ド3-1Gの「収納ケース」(ア)一審被告は,構成要件ド3-1Gは,「収納ケース」自体が作動体とアイドラギアを有していなければならないと解されるとした上で,被告カードベンダーは,コイン検出作動部が作動体とアイドラギアを有しており,収納ケースは作動体とアイドラギアのいずれも有しないとして,被告カードベンダーは構成要件ド3-1Gを充足しないと主張する。
そして一審被告は,構成要件ド3-1Gの充足性について自白していたところ,真実に反し錯誤に基づくとの理由で当審おいてこの自白を撤回するとし,一審原告らは自白の撤回は時機に遅れており却下すべきであるとし,また被告カードベンダーの構成要件充足性は明らかであって真実に反しないと主張する。
(イ)そこで被告カードベンダーの構成要件ド3-1Gの充足性について検討する。
a一審被告は構成要件ド3-1Gについて,「収納ケース」自体が作動体とアイドラギアを有していなければならないと主張する。
本件カード特許3の明細書(特許公報〔甲74〕)には以下の記載がある。
(a) 特許請求の範囲・ 「…前記コイン検出作動部が設けられた収納ケースは,正規コインの投入が検出された場合に回動可能となり,正規コインの投入が検出されない場合,回動不可能となる作動体と,前記作動体と噛合するアイドラギアとを有し,…」(【請求項1】)(b) 発明の詳細な説明・「…前記収納ケースの側面にはコイン検出作動装置が着脱可能に取り付けられ,当該コイン検出作動装置は,板状の支持体と,当該支持体の下部に配置されコインを検出する作動機構と,前記支持体の下部に張り合わせ状に取り付けられた補助板と,当該補助板側から露出し前記作動機構にてコインが検出されたときに回転可能となる作動部とを有するユニットとして形成されており,前記作動部は,前記コイン検出作動装置が前記収納ケースに取り付けられ,当該収納ケースが前記基礎フレームに載置されたとき前記払出伝動体と連動し,前記コイン検出作動装置は,前記収納ケースに取り付けられた状態で,当該収納ケースと共に前記基礎フレームの上面に着脱可能に載置されることである。」(段落【0010】)b上記記載によれば,本件カード発明3-1Gの「収納ケース」は,コイン検出作動部を設けることにより作動部を有することになれば足り,収納ケース自体が作動体とアイドラギアを有しなければならないとは解されない。
被告カードベンダーの構成は原判決別紙被告カードベンダー説明書のとおりであるところ(原判決12頁20行〜24行)その「(7)ド3-1G」によれば「被告カードベンダーにおいては,コイン検出作動部Dが設けられた収納ケース14は,正規コインBの投入が検出された場合に回動可能となり,正規コインBの投入が検出されない場合,回動不可能となる作動体55と,作動体55と噛合するアイドラギア39とを有している。」ものであるから,被告カードベンダーもコイン検出作動部を設けることにより収納ケースは作動体とアイドラギアを有することになる。
そうすると,被告カードベンダーは,本件カード発明3-1の構成要件ド3-1Gを充足するものである。
以上によれば,結局構成要件ド3-1Gの充足性については,一審被告の自白の撤回の効力につき争いあるものとしても,証拠によりこれを優に認定することができる。
以上の検討によれば,一審被告の被告カードベンダーの構成要件ド3-1Gの非充足の主張には理由がない。
イ 構成要件ド3-1B,Hの「払出ローラ」(ア)一審被告は,構成要件ド3-1B,Hの「払出ローラ」は,それ自体で払い出し機能を有するものと解されるところ,被告カードベンダーの非前部ゴムローラは後部ゴムローラが存し,これが正常に機能してはじめてカードパックを送出する(乙36,37)ため,構成要件ド3-1B,Hの「払出ローラ」に該当しないと主張する。
(イ)しかし,この点に関しては原判決169頁19行〜170頁14行記載のとおりであり,構成要件ド3-1Bにいう「払出ローラ」は「基礎フレームにローラ軸を介して回動可能に支持され」,「回動することにより前記受持された媒体が払い出される」ものを意味し,被告カードベンダーは,前部ゴムローラ24は後部ゴムローラ23と協働してカードパックを払い出しているものの,ローラ軸の回動により回動しカードパックを送り出す機能を有していることに変わりはないから,構成要件ド3-1B,Hの「払出ローラ」に該当する。一審被告の主張は採用することができない。
ウ 構成要件ド3-1Iの「前記払出ギヤは回転を阻止され」一審被告は,構成要件ド3-1Iの「前記払出ギヤは回転を阻止され」につき,前提として回転が加わり,これに阻止力が加わることが必要であるところ,被告カードベンダーは伝動ギヤが回転しない場合には払出ギヤが回転しようとするということ自体が起こりえず,この場合には払出ギヤには何らの力も加わることはないから構成要件ド3-1Iを充足しないと主張する。
この点については原判決の認定するとおり(172頁4行〜末行)である。被告カードベンダーにおいても,平歯車26が回転しようとすれば,直接噛合するギア11が妨げとなり回転が阻止される(原判決172頁20行〜26行)のであるから,「前記払出ギヤは回転を阻止され」との構成要件ド3-1Iを充足する。一審被告の上記主張は採用することができない。
7 損害額に関する主張について(1)以上の3ないし6によれば,原判決と同じく,被告カプセルベンダーの本件カプセル発明1-2に係る発明についての特許侵害及び本件カード発明3-1に係る発明についての特許侵害の各事実を前提にして,一審原告両名に生じた損害賠償額について判断すべきこととなる。
(2)ア一審原告らは,附帯控訴を提起し,損害賠償額算定の基礎となる被告カプセルベンダー(一審原告バンダイのみに関する)及び被告カードベンダー(一審原告両名に関する)の販売期間の終期をいずれも平成19年3月20日から平成20年4月30日までに伸長した。
これによる平成14年3月21日から平成20年4月30日までの被告カプセルベンダーの売上高は,1億9461万0080円であり,販売台数は1万450台である(乙68)。
イ一方,被告カードベンダーについては,一審原告らは本件カード特許2の登録日である平成17年9月30日を損害賠償請求額算定の始期とするが,上記のとおり本件カード特許2には無効理由があり特許無効審判により無効とされるべきものと認められ,特許権を行使することができないから,本件カード特許3の登録の日である平成18年7月21日を損害賠償請求の始期とすべきである。
そして,そこから平成20年4月30日までの被告カードベンダーの売上高は1919万3400円であり,販売台数は684台である(乙68)。
そこで,以上の事実を基に,一審原告らに生じた損害額を算定する。
(3) 特許法102条2項に基づく主張につきア 被告カプセルベンダー(ア)上記のとおり,平成14年3月21日から平成20年4月30日までの被告カプセルベンダーの売上高は,1億9461万0080円であり,販売台数は1万450台〔売価1台2万8000円〕であるところ,その仕入原価は1億6017万9792円であり,これには無償供与285台分の製造原価が含まれている。
無償供与分については,一審被告は,「無償分は,多数購入する相手方に試用分として提供するものであり,試用分については代金は請求しないので,実質,割引と同じことになる。」(原審第7回弁論準備手続〔平成19年7月27日〕調書)としており,上記販売台数との対比や1台当たりの単価,一審被告が平成13年度からカプセル玩具の企画,開発,販売に本格参入したこと(「週間玩具通信」平成13年6月18日号2頁,日本トイサービス株式会社〔甲57〕),等からして,原判決176頁22行〜26行記載のとおり,有償供与分を販売するための経費として考慮するのが相当である。
(イ)さらに控除すべき経費として,一審被告は,?@開発費,?A輸入諸経費及び出荷コストを控除すべきであるとするので,以下検討する。
?@開発費(金型の製作,改良に要した費用。原判決の金型製作費用)については,一審被告は,平成13年3月21日から平成19年3月20日までの間に,6803万3709円を支出し,その後の平成19年3月21日から平成20年4月30日までの間にさらに2万3036円を支出したから,合計6805万6745円を支出したとする(乙68)。
しかし,上記平成19年3月21日から平成20年4月30日までの間とされる支出は,平成19年5月締めの分の支出である(乙70の6)ところ,時期的にみてこの分を加えるのは相当でない。
そして,原判決176頁7行〜19行記載のとおり,一審被告は,平成14年ころから平成19年3月ころまでの約5年間にその金型を使用して,1万0377台のカプセルベンダーを製造していること,金型の製造能力は約5万台であること,法人税法上の金型の減価償却期間は2年であり,既に法人税法上の減価償却期間を経過していること,カプセルベンダーの市場における商品価値の存続期間は,長くても10年であること等を考慮すると,上記金型製作費用(平成19年3月20日までの分6803万3709円)のうちその約2分の1に相当する3500万円を本件で損害賠償の対象となった被告カプセルベンダーの売上げに直接関連する経費であると認めるのが相当である。
一審原告バンダイは,金型費用は一切控除すべきでないと主張するが,上記の範囲においては経費として控除するのが相当であり,採用することができない。
?A輸入諸経費及び出荷コスト一審被告は,輸入諸経費として,1台当たり920円,出荷コストが1個当たり平均1000円を要するのでこれを控除すべきであると主張し,それに沿う証拠(中内治作成の陳述書,乙68)を提出するが,この詳細を裏付ける適切な客観証拠を欠いているので,採用することができない。
なお,一審被告が原審において主張していた広告宣伝費を含む一般管理費等の存在及び額について,これを裏付ける具体的な証拠を欠き認められないことについては原判決177頁1行〜9行記載のとおりである。
(ウ)上記の検討によれば,一審被告の利益については,以下の式のとおりに計算するとマイナスとなり,これを認めることができない。
1億9461万0080円-(1億6017万9792円+3500万円)(=-56万9712円)イ 被告カードベンダー(ア)上記被告カプセルベンダーと同様の基準により被告カードベンダーについて検討する。
被告カードベンダーについては,平成18年7月21日から平成20年4月30日までの売上高は1919万3400円であり,販売台数は684台〔売価1台6万円,ただし別注ライトブルーとあるものは1台3万円〕であるところ,その仕入原価は1141万4418円(897万6318円と243万8100円の合計)であり,これには無償供与12台分の製造原価が含まれている。
(イ)開発費(金型製作費用)については,被告カードベンダーについては平成19年3月21日から平成20年4月30日までに支出された固定費はない(乙68)。
そして一審被告は,被告カードベンダーを製造するために,平成14年ころから金型製作費用として6697万4236円を支出し,平成16年5月21日から平成19年3月20日までの約3年間に同金型を使用して,少なくとも4637台のカードベンダーを製造していること,金型の製造能力は約5万台であること,法人税法上の金型の減価償却期間は2年であり既に法人税法上の減価償却期間を経過していること,カードベンダーの市場における商品価値の存続期間は長くても10年であることが認められる。
これに加え,一台当たりの売価も被告カプセルベンダーよりも高額であり,被告カードベンダーで使用している金型の方が,被告カプセルベンダーよりも,仮に型変更をした場合の費用は相当大きいとしていることから,本件特許との関連性が高いとみられること(乙60),等からすると,カードベンダーについては900万円を本件で損害賠償の対象となった被告カードベンダーの売上げに直接関連する経費であると認めるのが相当である。
(ウ)その他の輸入諸経費,出荷コスト,販売管理費等に関しては,上記被告カプセルベンダーについてと同様であり,控除すべきでない。
(エ)以上によれば,一審被告の利益については,被告カプセルベンダーと同様,以下の式のとおりに計算するとマイナスとなり,これを認めることができない。
1919万3400円-(1141万4418円+900万円)(=-122万1018円)(4) 特許法102条3項に基づく主張についてア 本件カプセル発明1-2に係る特許権の実施料率原判決177頁16行〜178頁7行記載のとおり機械の分野の実施料率としては,3〜5%台の契約が多いことが認められる。
そして,本件カプセル発明1-2は,物品収納ケース自体を取り替えるだけで物品を簡単に変更することができることに関するものであり,カプセルベンダー自体は他にも存するとしても,カプセルベンダーがカプセルの販売店(デパート,店舗等)に置かれ,一審被告及び一審原告らの業態としてはそこに継続的に商品を供給して利潤を挙げようとするものであるところからすると,販売店においても利便性の高い本件カプセル発明1-2は,それなりに有意義なものであることが認められる。
そうすると,本件カプセル発明1-2に係る特許権の実施料率は,本件に顕われた一切の事情を考慮すると,3%が相当であると認められる。
イ 本件カード発明3-1に係る特許権の実施料率上記のとおり機械の分野における実施料率は3〜5%台の契約が多いことのほか,本件カード発明3-1が収納ケース及び基礎フレームの分解・組み立てを容易とするものであるところ,これが販売店においても利便性が高いみられるところからすると,本件カード発明3-1に係る特許権の実施料率も3%が相当である。
ウ以上の検討によれば,一審原告バンダイの特許法102条3項による損害額は,?@本件カプセル発明1-2によるもの1億9461万0080円×3%=583万8302円(1円未満切り捨て。以下同じ)?A本件カード発明3-1(一審原告大和精工との共有)によるもの1919万3400円×3%÷2=28万7901円?B上記合計612万6203円となる。
なお,このうち平成19年3月20日までの分を計算すると(乙68),?@本件カプセル発明1-2によるもの1億8921万0080円×3%=567万6302円(1円未満切り捨て。以下同じ)?A本件カード発明3-1(一審原告大和精工との共有)によるもの1430万2400円×3%÷2=21万4536円?B上記合計589万0838円となる。
そして,平成19年3月21日から平成19年12月末日までの分と,平成20年1月1日から平成20年4月末日までの分は,上記の差額を按分〔9.3:4〕して,それぞれ16万4578円,7万0787円とすべきである。
エ同様に一審原告大和精工の特許法102条3項による損害額は,次のとおりとなる。
1919万3400円×3%÷2=28万7901円このうち,平成19年3月20日までの分を計算すると,1430万2400円×3%÷2=21万4536円となり,平成19年3月21日から平成19年12月末日までの分と,平成20年1月1日から平成20年4月末日までの分は,上記の差額を按分して,それぞれ5万1300円,2万2065円とすべきである。
オ 弁護士費用本件訴訟における差止めを含む認容内容(一審原告らが原審に提出した訴額計算書によれば,被告カプセルベンダー分が1811万2500円,被告カードベンダー分が8166万3750円である)及び認容金額,訴訟の難易度等を総合勘案すれば,弁護士費用につき一審原告バンダイは200万円をもって,一審原告大和精工の弁護士費用は40万円をもって,それぞれ相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
カ まとめそうすると,一審被告は,一審原告バンダイに対し,上記合計812万6203円及び内789万0838円(平成19年3月20日までの分589万0838円と弁護士費用200万円の合計額)に対する平成19年3月21日から,内16万4578円(平成19年3月21日から平成19年12月末日までの分)に対する平成20年1月18日から,内7万0787円(平成20年1月1日から同年4月末日までの分)に対する平成20年5月3日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を,一審原告大和精工に対し,上記合計68万7901円及び内61万4536円(平成19年3月20日までの分21万4536円と弁護士費用40万円の合計額)に対する平成19年3月21日から,内5万1300円(平成19年3月21日から平成19年12月末日までの分)に対する平成20年1月18日から,内2万2065円(平成20年1月1日から同年4月末日までの分)に対する平成20年5月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を,それぞれ支払うべきである。
8 結論以上によれば,一審原告らの本訴請求は,(1)一審原告バンダイのカプセル特許1(カプセル発明1-2)侵害を理由とする被告カプセルベンダーの,カード特許3(カード発明3-1,一審原告大和精工と共有)侵害を理由とする被告カードベンダーの各製造・販売・使用禁止及び廃棄,並びに損害賠償金812万6203円及び内789万0838円に対する平成19年3月21日から,内16万4578円に対する平成20年1月18日から,内7万0787円に対する平成20年5月3日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない,(2)一審原告大和精工のカード特許3(カード発明3-1,一審原告バンダイと共有)侵害を理由とする被告カードベンダーの製造・販売・使用禁止及び廃棄,並びに損害賠償金68万7901円及び内61万4536円に対する平成19年3月21日から,内5万1300円に対する平成20年1月18日から,内2万2065円に対する平成20年5月3日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。
そうすると,一審被告の本件控訴は全て理由がないから棄却し,一審原告らの本件附帯控訴は,前記の限度で理由があるから原判決主文第3項,第4項,第5項を変更し,上記変更に係る部分にのみ仮執行宣言を付し原判決主文第1,2項については付さないこととして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 今井弘晃
裁判官 清水知恵子