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関連審決 取消2006-30403
関連ワード 量産 /  指定商品 /  顧客吸引力(グッドウィル) /  不使用 /  通常使用権 /  国内 /  存続期間 /  更新登録 /  不使用取消審判 /  継続 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10103号 審決取消請求事件
原告シュアインコーポレイテッド
訴訟代理人弁護士城山康文,岩瀬吉和,山本健策
訴訟代理人弁理士森智香子,北口貴大
被告X
訴訟代理人弁理士高橋三雄,高橋大典
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/10/29
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が取消2006−30403号事件について平成19年11月9日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判主文と同旨の判決第2事案の概要本件は,原告が,商標法50条1項の規定に基づき,被告を商標権者とする後記登録商標について,その指定商品の一部に係る商標登録の取消審判を請求したところ,特許庁が,同請求は成り立たないとの審決をしたため,原告が,同審決の取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本件商標(甲34,35。以下「本件商標」といい,本件商標に係る商標登録を「本件商標登録」と,本件商標に係る商標権を「本件商標権」とそれぞれいう。)登録番号:第1824763号商標権者:X(被告。なお,平成17年4月14日までは,Aが商標権者であったが,同人の同日死亡により,被告が本件商標権を単独相続したものである(甲17,34)。)商標の構成:別紙登録商標目録記載のとおり指定商品:商標法施行令別表(平成3年政令第299号による改正前のもの)第11類「電気機械器具,その他本類に属する商品」登録出願日:昭和52年9月20日設定登録日:昭和60年12月25日存続期間更新登録日:平成8年6月27日存続期間更新登録日:平成17年11月1日(2)本件手続審判請求人:シュアインコーポレイテッド(原告)審判被請求人:X(被告)審判請求日:平成18年3月31日(取消2006-30403号)審判請求に係る指定商品:上記指定商品中「電気通信機械器具,電子管,半導体素子,電子回路(電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路を除く。)」(以下「被請求指定商品」という。)審判請求の登録日:平成18年4月21日(甲34。以下,当該登録を「本件予告登録」という。)審決日:平成19年11月9日審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成19年11月21日(原告に対し)2審決の理由の要点審決は,本件商標権に係る通常使用権者である株式会社石崎電機製作所(以下「石崎電機」という。)が,本件商標と社会通念上同一と認められる別紙使用商標目録記載の商標(以下「本件使用商標」という。)を,本件予告登録前3年以内に日本国内において,被請求指定商品中の「電気通信機械器具」に該当する「スピーカー」について使用していたものと認め,被請求指定商品に係る本件商標登録を,商標法50条1項の規定により取り消すことはできないとした。
審決の理由中,石崎電機が本件使用商標を本件予告登録前3年以内に日本国内において「スピーカー」について使用していたとの認定判断に係る部分及び本件使用商標が本件商標と社会通念上同一であるとの認定判断に係る部分は,以下のとおりである(章立ての符号及び明らかな誤記を改めた部分並びに略称等を本判決が使用するものに改めた部分がある。なお,書証については,初出の場合に限り,審判請求手続における書証番号及び本訴における書証番号を並記して「審判乙5・本訴甲8」などと記載し,2回目以降は,本訴における書証番号のみを「本訴」との文言の付記を省略して「甲8」などと記載した。また,審決の理由中の「アズマ」とは,「株式会社アズマ」の略称であり,本判決においても,この略称を用いることとする。)。
(1)本件商標の使用の事実についてア「2.1ChスピーカーSSP-110」についての本件商標の使用について(ア)審判乙5・本訴甲8は「商品案内書」であるところ,商品名欄には,「シュアー2.1Chスピーカーシステム」,型番欄には,「SSP-110」と表示されている。
また,甲8には,「SURE」と認められる文字の付された「スピーカー」と認められる写真が掲載され,当該写真の右下部には「スピーカー:プラスチック一体型」の表示がされている。
そして,下部には,「株式会社石崎電機製作所」の表示がされている。
(イ)審判乙6・本訴甲9は「納品書」の写しであるところ,左上に「株式会社石崎電機製作所様」の表示があり,右上に「共同開発株式会社」の表示があり,同社の印が押されている。
また,中央上に「2004年6月30日」の表示がある。
さらに,品名欄に「2.1チャンネルスピーカー110(中国製)」の表示があり,数量欄に「10」の表示があり,単価欄に「1,600」の表示があり,金額欄に「16000」の表示があり,また,税込合計金額欄に「16,800」の表示がある。
(ウ)審判乙7・本訴甲10は「領収証」の写しであるところ,左上に「株式会社石崎電機製作所様」の表示があり,中央下に「共同開発株式会社」の表示があり,同社の印が押されている。
また,右上に「2004年6月30日」の表示がある。
さらに,中央に「16,800円」の表示があり,その下に「スピーカー代金として上記正に領収いたしました。」の表示がある。
(エ)審判乙8・本訴甲11は「納品書(控)」の写しであるところ,左上に「カブシキカイシヤアズマ御中」の表示があり,右上に「株式会社石崎電機製作所」の表示がある。
また,中央上に「2004年7月1日」の表示がある。
さらに,商品名欄に「SUREブランドスピーカーSSP-110」の表示があり,数量欄に「10」の表示があり,単価欄に「3,000」の表示があり,金額欄に「30,000」の表示があり,また,合計欄に「31,500」の表示がある。
しかして,甲11の商品名中の「SSP-110」の表示は,甲8の型番「SSP-110」と一致している。
(オ)以上の証拠によれば,甲8に日付の記載がないとしても,石崎電機が,アズマに対して,2004年(平成16)7月1日に,商品「シュアー2.1Chスピーカーシステム」を「SUREブランドスピーカーSSP-110」として販売した事実を認めることができる。
イ「2.1ChスピーカーSSP-111」についての本件商標の使用について(ア)審判乙9・本訴甲12は「商品案内書」であるところ,商品名欄には,「シュアー2.1Chスピーカーシステム」,型番欄には,「SSP-111」と表示されている。
また,甲12には,「スピーカー」と認められる写真が掲載され,当該写真の下部には「スピーカー:プラスチック一体型」の表示がされている。
そして,下部には,「株式会社石崎電機製作所」の表示がされている。
(イ)審判乙10・本訴甲13は「納品書」の写しであるところ,左上に「株式会社石崎電機製作所様」の表示があり,右上に「共同開発株式会社」の表示があり,同社の印が押されている。
また,中央上に「2005年8月12日」の表示がある。
さらに,品名欄に「2.1チャンネルスピーカー111(中国製)」「110内部一部変更品」の表示があり,数量欄に「10台」の表示があり,単価欄に「1,700」の表示があり,金額欄に「17000」の表示があり,また,税込合計金額欄に「17,850」の表示がある。
(ウ)審判乙11・本訴甲14は「領収証」の写しであるところ,左上に「株式会社石崎電機製作所様」の表示があり,中央下に「共同開発株式会社」の表示があり,同社の印が押されている。
また,右上に「2005年8月12日」の表示がある。
さらに,中央に「17,850円也」の表示があり,その下に「スピーカー代として上記正に領収いたしました。」の表示がある。
(エ)審判乙12・本訴甲15は「納品書(控)」の写しであるところ,左上に「カブシキカイシヤアズマ御中」の表示があり,右上に「株式会社石崎電機製作所」の表示がある。
また,中央上に「2005年8月18日」の表示がある。
さらに,商品名欄に「SUREブランドスピーカーSSP-111」の表示があり,数量欄に「10」の表示があり,単価欄に「3,200」の表示があり,金額欄に「32,000」の表示があり,また,合計欄に「33,600」の表示がある。
しかして,甲15の商品名中の「SSP-111」の表示は,甲12の型番「SSP-111」と一致している。
(オ)以上の証拠によれば,甲12に日付の記載がないとしても,石崎電機が,アズマに対して,2005年(平成17)8月18日に,商品「シュアー2.1Chスピーカーシステム」を「SUREブランドスピーカーSSP-111」として販売した事実を認めることができる。
ウ請求人は,「甲9ないし甲11及び甲13ないし甲15は,『納品書』,『領収証』及び『納品書(控)』であるが,いずれにも,通し番号が記載されていない。特に,甲11及び甲15には,『伝票番号』及び『受注番号』の欄があるが,いずれも空欄であり,被請求人の通常の業務の過程で作成されたものか,疑問の余地が残る。」旨主張している。
しかしながら,「納品書」,「領収証」及び「納品書(控)」に「通し番号」,「伝票番号」及び「受注番号」がなくても,「納品書」,「領収証」及び「納品書(控)」は,その役割を果たし得るものであるから,「通し番号」,「伝票番号」及び「受注番号」がないことのみをもって,これらの書証が真正でないとまではいい難いものである。
また,請求人は,「甲8ないし甲15による本件商標の使用は,わずか2回の取引の存在を主張するのみであり,また,いずれの取引においても,商品が10個,代金総額として約1万円ないし3万円が授受されたのみである。」旨述べているが,取引の回数,取引量の多寡及び取引金額は,本件商標が使用されたか否かの判断に影響を与えるものとは認められない。
さらに,請求人は,「テスト販売では,商業的販売になっていないため,商標法50条の使用には当たらない。」旨述べている。
しかしながら,テスト段階での販売であるとしても,通常使用権者とアズマとの間で実際に取引がなされている以上,商標法50条の使用には当たらないということはできない。
加えて,請求人は,甲11及び甲15において,「SURE」文字が,商品欄からはみ出していることを理由として,「SURE」文字は後から追加したものである旨主張している。
しかしながら,請求人は,「SURE」文字が後から追加したものであることを裏付けるべき証拠を何ら提出していない。
したがって,上記の請求人の主張は,何れも採用しない。
(2)社会通念上同一と認められる商標について本件商標は,別紙登録商標目録のとおり,黒く塗りつぶした横長長方形の輪郭内に,白抜きの「SURE」の欧文字及び白抜きの「シュアー」の片仮名文字を2段に書してなるものである。
一方,甲11及び甲15に表示されている商標(本件使用商標)は,別紙使用商標目録のとおり,上半分を黒く塗りつぶし,下半分を白く塗りつぶした横長長方形の輪郭内の上半分に,白抜きの「SURE」の欧文字を書し,当該横長長方形の輪郭内の下半分に,「シュアー」の片仮名文字を書してなるものである。
そして,本件商標と本件使用商標は,共に,横長長方形の輪郭内に,「SURE」の欧文字及び「シュアー」の片仮名文字を2段に書してなるものである点において共通するものであるから,この程度の変更は,社会通念上同一と認められる商標の範囲にあるというべきである。
(3)審決の「結語」以上の事実を総合勘案すれば,本件商標は,通常使用権者によって,本件予告登録前3年以内に日本国内において,被請求指定商品中の「電気通信機械器具」に含まれる「スピーカー」について,本件商標と社会通念上同一と認められる商標が使用されていたものと認めることができる。
したがって,本件商標登録は,被請求指定商品について,商標法50条1項の規定により,その登録を取り消すことはできない。
第3当事者の主張の要点1原告主張の審決取消事由(石崎電機による本件使用商標の使用に係る認定の誤り)の要点審決は,石崎電機が,アズマに対し,平成16年7月1日にスピーカーを販売したとの事実(以下「本件売買1」という。)及び平成17年8月18日にスピーカーを販売したとの事実(以下「本件売買2」という。)を認定した上,本件売買1に係る納品書(控)(甲11。以下「本件納品書(控)1」という。)及び本件売買2に係る納品書(控)(甲15。以下「本件納品書(控)2」という。)に本件使用商標が表示されていることをもって,石崎電機により,本件予告登録前3年以内に日本国内において,スピーカーについて本件使用商標が使用されていたものと認定したが,以下のとおり,本件売買1及び2は存在しないから,審決の上記認定は誤りである。
(1)アズマの代表者であるB(以下「B」という。)に対する事情聴取の内容シュア・ジャパン・リミテッド(原告の日本法人)のC作成の陳述書(甲18。
以下「C陳述書」という。)に記載のとおり,平成20年6月17日に実施されたBに対する事情聴取の内容は,次のとおりである。
アBは,Dから,本件売買1に係る「商品案内書」と題する書面(甲8。以下「本件商品案内書1」という。)及び本件納品書(控)1並びに本件売買2に係る「商品案内書」と題する書面(甲12。以下「本件商品案内書2」という。)及び本件納品書(控)2を示された上,「石崎電機は,2004年と2005年に,アズマから,『シュアー』というブランドのスピーカーを,いずれの際にも10個納入するよう注文を受け,アズマに対してそのように納入したと述べているが,記憶があるか」と問われたところ,「石崎電機とは30年来の付き合いであり,その質問には答えられない」旨述べた。
イBは,Dから,「どのようなブランドのものであるかはともかく,アズマから石崎電機に対し,スピーカーをサンプル品のような形で納入するよう注文を出した記憶はあるか」と問われたところ,「回答できない」とした上,「分かってくださいよ」,「10個でどうするんですか」,「うちが注文を出すときは,何千個,何万個の単位で注文を出しますよ,こんなことがありますか」と述べた。
ウさらに,Bは,「アズマは,これまで,石崎電機に対し,スチームアイロン等のいわゆる『熱もの』を2商品ほど,継続的に注文している」,「石崎電機は,スピーカーのような商品は取り扱っていないし,今後も取り扱うことはないと思う」と述べた。
(2)弁護士照会に対するアズマの回答の内容Dの平成20年7月7日付け申出に係る弁護士照会に対するアズマの回答(甲33。以下「甲33回答書」という。)の内容は,次のとおりである。
アアズマは,本件納品書(控)1及び2を受領したことはない。
イアズマは,本件商品案内書1及び2に記載された商品を購入したことはない。
(3)アズマが本件売買1及び2に係る発注をする理由がないこと。
アズマは,登録商標「EAST」,「アムザ」及び「DeFINE」を有し(甲19ないし24),うち「EAST」を自社ブランドの中心に据えて家庭電化製品等を販売している(甲25)のであるから,「Sure」というブランドのスピーカーを販売する必然性はないし,また,数年前からは,中国製の電化製品等の輸入販売も手がけ,中国企業との間で直接の取引関係を有しているのであるから,スピーカーを販売する際,石崎電機に対して発注をするメリットないし必然性は全くない。
したがって,アズマには,本件売買1及び2に係る発注をする理由がない。
(4)本件売買1及び2に係る各取引書類が石崎電機の通常の業務の過程で作成されたものではないこと。
次のとおり,本件売買1及び2係る各取引書類(甲8ないし甲15)には不自然な点がみられるから,これらの書類は,石崎電機の通常の業務の過程で作成されたものとはいえず,本件審判請求がされた後に作成されたものと考えるのが自然である。
なお,下記イ(エ)によれば,少なくとも,本件売買1が存在しないことは明らかであるところ,審判請求手続における被告の主張によれば,本件売買2に係るスピーカーは,本件売買1に係るスピーカーを改良したものであるとのことであるから,本件売買1が存在しない以上,これに係るスピーカーを改良したスピーカーも存在しないと考えるのが自然であり,結局,本件売買1が存在しない以上,本件売買2も存在しないことになる。
ア本件商品案内書1及び2について(ア)本件商品案内書1及び2には,いずれも,作成日付が記載されていない。
(イ)被告は,審判請求手続において,本件商品案内書1及び2をアズマに提出した旨主張していたにもかかわらず,その各原本を所持していた。
イ共同開発株式会社(以下「共同開発」という。)作成名義の各納品書(甲9(以下「共同開発納品書1」という。)及び甲13(以下「共同開発納品書2」という。)),共同開発作成名義の各領収証(甲10(以下「共同開発領収証1」という。)及び甲14(以下「共同開発領収証2」という。))並びに本件納品書(控)1及び2について(ア)共同開発納品書1及び2,共同開発領収証1及び2並びに本件納品書(控)1及び2には,いずれも,通し番号が記載されていない。
(イ)本件納品書(控)1及び2の各伝票番号欄及び各受注番号欄は,いずれも空欄である。
(ウ)本件納品書(控)1及び2の各商品名欄には,いずれも,商品名を短い型番で特定することが可能であったにもかかわらず,欄からはみ出すように「SUREブランドスピーカー」と印字されている。
(エ)本件納品書(控)1には,アズマの電話番号として,「E」との記載があるところ,アズマは,本件納品書(控)1の作成日付である平成16年7月1日当時は,「F」の電話番号を使用しており,平成17年4月1日付けの本店移転に伴い,同年3月18日になって,上記「E」の電話番号の使用を開始したものであるから(甲28ないし32),本件納品書(控)1が,その作成日付である平成16年7月1日に作成されたものでないことは明らかである。
(5)アズマが所持し,又は作成した取引書類が存在しないこと。
本訴においては,本件納品書(控)1及び2の交付に対応してアズマが所持するはずである納品書の原本,本件売買1及び2に係るアズマ作成の注文書等が提出されていない。
(6)本件売買1及び2の内容が不合理であること。
本件売買1及び2は,いずれも,対象商品の数がわずか10個,代金総額がわずか約3万円のものにすぎないところ,このような規模の取引は通常あり得ない。
2被告の反論の要点(「石崎電機による本件使用商標の使用に係る認定の誤り」に対し)(1)C陳述書について次の理由により,C陳述書は,本件売買1及び2が存在しなかったことを示すものとはいえない。
アC陳述書は,原告の日本法人の従業者によって作成されたものであるから,その内容は,客観性に欠けるものである。
イ仮に,C陳述書に記載されたBに対する事情聴取があったとするならば,Bには応じる義務のない事情聴取に応じざるを得なかった事情があった,すなわち,B又はアズマと原告との間に不均衡な力関係があったものと考えるのが自然であり,そのような状況下で行われた事情聴取には,客観性も公正性もない。
ウC陳述書の記載によれば,Bは,石崎電機がアズマに対しスピーカーを販売,納入したことを否定するものではなく,単に回答を拒否したにすぎない。
エC陳述書にBの発言として記載された「10個でどうするんですか」,「うちが注文を出すときは,何千個,何万個の単位で注文を出しますよ,こんなことがありますか」との文言についても,これらの文言の前後や間で,Bが何をどのように述べたのか,Dのどのような質問に対する答えであったのかが不明であるし,また,どのような製品について言及したものであるのか,例えば,テスト販売を行う製品についてであるのか,量産態勢に入った製品についてであるのかも不明であり,さらに,上記「こんなこと」が何を指すのかも不明であるから,結局,Bが発言したとされる上記の文言の意味するところは不明であるといわざるを得ない。
オC陳述書にBの発言として記載された「石崎電機は,スピーカーのような商品は取り扱っていない」との文言についても,過去の事実をいうのであれば,Bの錯誤に基づくものであるし,「今後も取り扱うことはないと思う」との点は,Bの単なる想像にすぎず,根拠があるものではない。
(2)アズマが本件売買1及び2に係る発注をする理由があること。
一般に,一社が複数のブランドを使用したり,製品のコンセプト,購買層,構成,構造,形状等の違いごとに複数のブランドを使い分けたり,自社ブランドのほか,他のブランドを用いて販売したりすることは,広く行われていることであるから,本件商標のブランド力や顧客吸引力を用いるため,アズマが本件商標を付して商品を販売しようとするのは,極めて自然なことである。そうすると,アズマが本件商標を使用するため石崎電機に対しスピーカーを発注することには,十分なメリットがある。
したがって,原告主張のとおりアズマが自社ブランドを有していたとしても,そのことは,本件売買1及び2の存否に影響するものではない。
(3)本件売買1及び2に係る各取引書類が石崎電機及び共同開発の通常の業務の過程で作成されたものであること。
ア本件商品案内書1及び2について(ア)本件商品案内書1及び2に作成日付の記載がないとしても,本件売買1及び2がされた各日付(平成16年7月1日及び平成17年8月18日)は,共同開発納品書1及び2,共同開発領収証1及び2並びに本件納品書(控)1及び2により認められるものであるから,本件商品案内書1及び2に作成日付の記載がないことをもって,これらが石崎電機の通常の業務の過程で作成されたものでないとはいえない。
(イ)なお,本件商品案内書1及び2は,その原本が複数枚作成されていたものである。
イ共同開発納品書1及び2,共同開発領収証1及び2並びに本件納品書(控)1及び2について(ア)一般に,納品書,領収証及び納品書(控)に通し番号,伝票番号及び受注番号の記載がないとしても,これらの書類は,その役割を果たし得るものであるから,共同開発納品書1及び2,共同開発領収証1及び2並びに本件納品書(控)1及び2に通し番号の記載がなく,本件納品書(控)1及び2に伝票番号及び受注番号の記載がないとしても,そのことのみをもって,これらが共同開発又は石崎電機の通常の業務の過程で作成されたものでないとはいえない。
(イ)一般に,納品書等において,文字が正確に欄内に印字されず,欄外にはみ出して印字されることは,よくあることであるし,商品名欄への商品名の記載方法は様々である(型番,商品名,ブランド名,メーカー名等を適宜組み合わせて記載する)から,本件納品書(控)1及び2の各商品名欄に,型番及びブランド名を組み合わせて記載し,そのことにより,商品名の記載が同各欄の外にはみ出したからといって,不自然であるということはできない。
(4)アズマ作成に係る取引書類について原告は,本訴において本件売買1及び2に係るアズマ作成の注文書等が提出されていない旨主張するが,その主張の趣旨は明確でないし,当該注文書等は審決において認定判断の対象となった書類でないから,本訴において当該注文書等を提出する必要はない。
(5)本件売買1及び2の内容が商標の使用と無関係であること等取引の回数,取引量及び取引金額は,商標が使用されたか否かの判断に影響を与えるものではないし,本件売買1及び2がその規模に照らし不合理であるということもできないから,本件売買1及び2が小規模な取引であり,不合理である旨の原告の主張は失当である。
(6)まとめ以上のとおりであるから,本件売買1及び2は,本件商品案内書1及び2,共同開発納品書1及び2,共同開発領収証1及び2並びに本件納品書(控)1及び2によりこれを認めることでき,したがって,本件売買1及び2が不存在である旨をいう審決取消事由は理由がない。
第4当裁判所の判断(「石崎電機による本件使用商標の使用に係る認定の誤り」について)1(1)以下に付記した証拠によれば,本件売買1及び2に係る各取引書類の記載内容は,次のとおりであると認められる。
ア本件商品案内書1(甲8)(ア)商品名欄:「シュアー2.1Chスピーカーシステム」(イ)型番欄:「SSP-110」(ウ)また,「規格&仕様」欄には,スピーカーとしての各種仕様が記載され,さらに,同欄の下部の左欄及び右欄には,いずれも,スピーカーとみられる物品の写真が掲載され,うち右欄に掲載された写真の下部には,「スピーカー:プラスチック一体型」との付記がある。
(エ)なお,日付の記載はない。
イ共同開発納品書1(甲9)(ア)日付欄:「2004年6月30日」(イ)宛先欄:「株式会社石崎電機製作所」(ウ)品名欄:「2.1チャンネルスピーカー110(中国製)」(エ)数量欄:「10」(オ)単価欄:「1,600」(カ)金額欄:「16000」(キ)税込合計金額欄:「¥16,800」(ク)また,右上部に共同開発の記名押印がある。
(ケ)なお,右上隅にある「No.」欄は,空欄である。
ウ共同開発領収証1(甲10)(ア)日付欄:「2004年6月30日」(イ)宛先欄:「株式会社石崎電機製作所」(ウ)金額欄:「¥16,800円」(エ)但書欄:「スピーカー代金として」(オ)また,中央下部に共同開発の記名押印がある。
(カ)なお,右上隅にある「No.」欄は,空欄である。
エ本件納品書(控)1(甲11)(ア)日付欄:「2004年7月1日」(イ)宛先欄:「カブシキカイシヤアズマTELE」(ウ)商品名欄:「SUREブランドスピーカーSSP-110」(エ)数量欄:「10」(オ)単価欄:「3,000」(カ)金額欄:「30,000」(キ)合計欄:「31,500」(ク)また,右上部に石崎電機の記名があり,備考欄に「領収済」との印が押捺されている。
(ケ)なお,右上隅にある伝票番号欄及び受注番号欄は,いずれも空欄である。
オ本件商品案内書2(甲12)(ア)商品名欄:「シュアー2.1Chスピーカーシステム」(イ)型番欄:「SSP-111」(ウ)また,「規格&仕様」欄には,スピーカーとしての各種仕様が記載され,さらに,同欄の下部の左欄及び右欄には,いずれも,スピーカーとみられる物品の写真が掲載され,うち右欄に掲載された写真の下部には,「スピーカー:プラスチック一体型」との付記がある。
(エ)なお,日付の記載はない。
カ共同開発納品書2(甲13)(ア)日付欄:「2005年8月12日」(イ)宛先欄:「株式会社石崎電機製作所」(ウ)品名欄:「2.1チャンネルスピーカー111(中国製)110内部一部変更品」(エ)数量欄:「10台」(オ)単価欄:「1,700」(カ)金額欄:「17000」(キ)税込合計金額欄:「¥17,850」(ク)また,右上部に共同開発の記名押印がある。
(ケ)なお,右上隅にある「No.」欄は,空欄である。
キ共同開発領収証2(甲14)(ア)日付欄:「2005年8月12日」(イ)宛先欄:「株式会社石崎電機製作所」(ウ)金額欄:「¥17,850円也」(エ)但書欄:「スピーカー代として」(オ)また,中央下部に共同開発の記名押印がある。
(カ)なお,右上隅にある「No.」欄は,空欄である。
ク本件納品書(控)2(甲15)(ア)日付欄:「2005年8月18日」(イ)宛先欄:「カブシキカイシヤアズマTELE」(ウ)商品名欄:「SUREブランドスピーカーSSP-111」(エ)数量欄:「10」(オ)単価欄:「3,200」(カ)金額欄:「32,000」(キ)合計欄:「33,600」(ク)また,右上部に石崎電機の記名があり,備考欄に「領収済」との印が押捺されている。
(ケ)なお,右上隅にある伝票番号欄及び受注番号欄は,いずれも空欄である。
(2)上記(1)の各取引書類の記載内容自体は,本件売買1及び2の各内容に沿うものであるといえる。
2しかしながら,上記1の各取引書類(甲8ないし15)の記載内容はたやすく信用できるものではなく,したがって,これらによって,本件売買1及び2が存在したものと認めることはできない。その理由は,以下のとおりである。
(1)存在すべき取引書類の不提出等ア本件売買1及び2が真実存在したのであれば,本件売買1及び2に関し,アズマ作成に係る注文書,商品受領書等が存在し,石崎電機においてこれらを所持しているのが通常であると考えられるところ(なお,被告は,本件売買1及び2に係る注文等が口頭によりなされた旨主張するものではない。),被告は,本訴において,これらの取引書類を提出しないばかりか,審決において認定判断の対象となった書類でないとして,「提出の必要はない」と主張している。
イまた,本件売買1及び2が真実存在したのであれば,上記1(1)エ(ク)及びク(ク)のとおり本件納品書(控)1及び2に押捺された「領収済」との各印の存在に照らし,石崎電機は,アズマに対し,本件売買1及び2に係る各領収証を発行し,その各控えを所持しているのが通常であると考えられるところ,被告は,本訴において,そのような領収証の控えを提出しない。
ウさらに,本件売買1及び2が真実存在したのであれば,本件売買1及び2の時期(平成16年7月1日及び平成17年8月18日)に照らし,アズマは,本件審判請求がされた日(平成18年3月31日)ころには,本件納品書(控)1及び2に対応する各納品書又はそれらの写し並びに上記イの各領収証又はそれらの写しを所持していたものと考えられるところ,甲33回答書(照会事項4に対する回答)によれば,アズマと石崎電機との間には,現在まで30年以上にわたる取引関係があるものと認められるのであるから,被告において,アズマの協力を得て,そのような納品書及び領収証を提出することにさほどの困難があるとは考えられないにもかかわらず,被告は,本訴において,そのような納品書及び領収証を提出せず,また,これらに係る文書送付嘱託の申出等の手続もとっていない。
エ以上のとおり,被告は,本訴において,本件売買1及び2に係る取引書類として存在するのが通常であると考えられるものを提出せず,また,その提出を試みようともしないところ,被告のかかる応訴態度は,上記1の各取引書類の内容の信用性を減殺させる無視できない事情であるというべきである。
なお,上記アのとおり,被告は,上記各取引書類を提出しない理由として,当該各取引書類が審決において認定判断の対象となった書類でないことを挙げるので,念のため付言するに,仮に,かかる被告の主張が,「審判で審理判断されなかった公知事実との対比における特許無効原因を審決取消訴訟において主張することは,許されない」とした最大判昭和51年3月10日(民集30巻2号79頁)の判旨を前提とするものであったとしても,商標の不使用取消審判に係る審決の取消訴訟において,審判で主張立証がなく,審決の認定判断の対象とならなかった事実について新たに主張立証をすることが上記判旨に反するものではないから(最3小判平成3年4月23日・民集45巻4号538頁),被告の上記主張は失当である。
(2)本件納品書(控)1の作成日付の遡記ア本件納品書(控)1の日付欄に「2004年7月1日」との記載があり,宛先欄に「カブシキカイシヤアズマTELE」との記載があることは,上記1(1)エ(ア)及び(イ)のとおりである。
イところで,証拠(甲28ないし32)によれば,アズマの現在の本店所在地は,Gであり,平成17年4月1日付け本店移転前の同社の本店所在地は,Hであったこと,同社は,昭和53年4月から平成17年3月までの間,契約者を同社,契約者の住所(本店所在地)を上記Hの住所,電話番号を「F」とする電話加入権を有し,当該電話番号を使用していたが,平成17年3月,当該電話番号が「E」に,当該住所(本店所在地)が上記Gの住所(ただし,住所末尾に「I」が付加されている。)にそれぞれ変更されたこと,同社は,少なくとも平成13年1月から平成17年2月までは,上記「E」の電話番号を使用していなかったこと,B個人も,これまで,上記「E」の電話番号を使用したことがないことがそれぞれ認められる。
ウ上記ア及びイの各事実によれば,本件納品書(控)1に記載された上記「E」の電話番号(これが,アズマの電話番号として記載されたものであることは,その記載位置からみて明らかである。)は,本件納品書(控)1の作成日付である平成16年7月1日及びその前後ころにおいて,アズマ又はB個人が使用していた電話番号ではなく,アズマが平成17年3月以降に使用するようになった電話番号であると認められるから,本件納品書(控)1は,その作成日付である平成16年7月1日又はその前後ころに作成されたものではなく,平成17年3月以降に作成されたものであることが明らかである。
そうすると,遅くとも平成16年11月25日には石崎電機の代表者を務めていた被告(甲5)は,本件納品書(控)1につき,その作成日付を遡らせてこれを作成したものと推認されるところ,このような虚偽の証拠書類を作出する行為は,当該証拠書類自体の内容の信用性はもとより,これに関連する他の証拠書類全体の内容の信用性をも大きく減殺させるものであるといわざるを得ない。
(3)甲33回答書におけるアズマの回答ア甲33回答書によれば,アズマは,Dの平成20年7月7日付け申出に係る弁護士照会に対し,次の趣旨の回答をしたものと認められる。
(ア)「アズマは,本件納品書(控)1及び2に対応する納品書を石崎電機から受領したことはない。」(イ)「アズマは,石崎電機に対し,納入される商品の個数を10個とするような注文を出したことはない。」(ウ)「アズマは,本件商品案内書1若しくは2に記載された商品又は『SURE』等の文字を名称に含む類似ないし関連する商品を石崎電機から購入したことはない。」(エ)「アズマは,『SURE』というブランドを付してスピーカーを販売したことはない。」(オ)「アズマは,『EAST』又は『DeFine』というブランド以外のブランドを付してスピーカーを販売したことはない。」(カ)「平成16年から平成17年にかけて,アズマが石崎電機に対し注文したのは,スチームアイロン2商品のみである。」(キ)「アズマは,これまで,石崎電機に対してスピーカーを注文したことは一切ない。」イ上記アの回答は,本件売買1及び2の存在を全面的に否定するものといえるところ,本訴において,当該回答内容の信用性を左右する証拠は全く提出されていないことをも併せ考慮すると,当該回答は,本件売買1及び2の存在並びにこれらに係る各取引書類の内容の信用性に強度の疑問を抱かせるものというべきである。
3その他,本件売買1及び2が存在したものと認めるに足りる証拠はない。
4そうすると,本件売買1及び2が存在することを前提に,石崎電機が,本件予告登録前3年以内に日本国内において,スピーカーについて本件使用商標を使用していたものと認めた審決の認定は誤りであるといわざるを得ない。
5結論よって,その余の点につき判断するまでもなく,原告主張の審決取消事由は理由があるから,原告の請求は認容されるべきである。
裁判長裁判官 石原直樹
裁判官 榎戸道也
裁判官 浅井憲