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関連審決 無効2003-35266
関連ワード 識別機能 /  指定商品 /  指定役務 /  混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) /  4条1項11号 /  類似性(類否判断) /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  取引の実情 /  類似商標 /  非類似 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 229号 審決取消請求事件
原告 魚幸水産株式会社
訴訟代理人弁理士 清水定信
被告 株式会社魚耕
訴訟代理人弁護士 赤井文彌
同 笹浪恒弘
同 船崎隆夫
同 宮崎 万壽夫
同 笹浪雅義
同 岡崎秀也
同 奈良恒則
同 山本裕子
同 矢野公士
同 藤川和之
同 村山栄治
同 弁理士 磯野道造
同 渡邊裕一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/11/29
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2003-35266号事件について平成16年4月8日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,別添審決謄本写し記載の別掲(1)のとおりの構成(デフォルメされた「魚」と「耕」の文字の左右に,頭部と尾びれを表す三角形状の図形を付加して,全体として左向きの魚の形状を表したもの)よりなり,指定商品及び指定役務を別表第29類「食用魚介類(生きているものを除く),加工水産物」,第30類「すし」,第31類「食用魚介類(生きているものに限る),海藻類」及び第42類「飲食物の提供」とする商標登録第4438128号商標(平成11年12月16日登録出願,平成12年10月19日登録査定,同年12月8日設定登録,以下「本件商標」という。)の商標権者である。
原告は,被告を被請求人として,本件商標の商標登録を無効にすることについて審判の請求をしたところ,特許庁は,同請求を無効2003-35266号事件(以下「本件審判事件」という。)として審理した上,平成16年4月8日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月20日,原告に送達された。
2 引用商標 本件審判事件において,原告が引用した商標は次のとおりであり,いずれも,その商標権者は原告である。
(1) 「魚幸」の漢字を横書きしてなり,指定商品を旧別表第32類「食肉,卵,食用水産物,野菜,果実,加工食料品」とする商標登録第2122975号商標(昭和61年8月28日登録出願,平成元年3月27日設定登録,以下「引用商標1」という。) (2) 「魚幸」の漢字を横書きしてなり,指定役務を第42類「飲食物の提供」その他商標登録原簿記載のとおりの役務とする商標登録第4424092号商標(平成11年8月7日登録出願,平成12年10月13日設定登録,以下「引用商標2」という。) (3) 別添審決謄本写し記載の別掲(2)のとおりの構成よりなり,指定商品を第29類「肉製品,食用魚介類(生きているものを除く。),加工水産物(「かつお節・寒天・削り節・食用魚粉・とろろ昆布・干しのり・干しひじき・干しわかめ・焼きのり」を除く。),かつお節,寒天,削り節,食用魚粉,とろろ昆布,干しのり,干しひじき,干しわかめ,焼きのり」その他商標登録原簿記載のとおりの商品とする商標登録第4432061号商標(平成11年8月7日登録出願,平成12年11月17日設定登録,以下「引用商標3」という。) (4) 別添審決謄本写し記載の別掲(2)のとおりの構成よりなり,指定商品を第31類「食用魚介類(生きているものに限る。),海藻類」その他商標登録原簿記載のとおりの商品とする商標登録第4444820号商標(平成11年9月16日登録出願,平成13年1月12日設定登録,以下「引用商標4」という。) 3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件商標は,引用商標1〜4と類似する商標であり,その指定商品又は指定役務は引用商標1〜4のいずれかの指定商品又は指定役務と同一であるから,商標法4条1項11号の規定に該当し,同法46条1項1号の規定により,その登録は無効とされるべきであるとの請求人(原告)の主張に対し,本件商標と各引用商標とは,いずれも,「ウオコー」の称呼をもってとらえられる場合があるとしつつも,最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁(以下「昭和43年最高裁判決」という。)を引用した上,両商標は,外観において顕著な差異があり,観念においても識別が可能なものであって,両商標から受ける印象を全く異にするものであるから,取引の場において,本件商標を使用した商品及び役務が引用各商標を使用した商品及び役務とその出所について,誤認混同を生ずるおそれはほとんどないものとみるのが相当であり,そうすると,外観,称呼及び観念を総合して考察した場合,本件商標と各引用商標とは,その称呼が共通することのみをもって類似する商標であるとすることはできないから,本件商標の登録は,商標法4条1項11号に違反したものではなく,その登録を無効にすることはできないとした。
原告主張の審決取消事由
1 審決は,本件商標と各引用商標との類否の判断を誤った(取消事由)結果,本件商標の登録は,商標法4条1項11号に違反したものではないとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(商標の類否判断の誤り) (1) 審決は,本件商標と各引用商標との類否について,昭和43年最高裁判決を引用した上,「本件商標は・・・デフォルメされた『魚』と『耕』の文字を用いて,極めて特徴のある魚の形状を描出してなるものであって,これに接する取引者・需要者は,そのユニークな発想と外観に強い印象を受け,特徴のある魚の形状をしたマークの『ウオコー』として記憶にとどめるものということができる。そうすると,本件商標から『ウオコー』の称呼を生じ得ることは否定できないとしても,両商標は,外観において顕著な差異があり,観念においても識別が可能なものであって,両商標から受ける印象を全く異にするものであるから,取引の場において,本件商標を使用した商品及び役務が引用各商標を使用した商品及び役務とその出所について,誤認混同を生ずるおそれはほとんどないものとみるのが相当である。してみれば,外観,称呼及び観念を総合して考察した場合,本件商標と引用各商標とは,その称呼が共通することのみをもって類似する商標であるとすることはできない」(審決謄本8頁下から第4段落〜下から第2段落)と判断したが,昭和43年最高裁判決の趣旨を誤解して適用し,類否の判断基準として「称呼」を全く無視したものであって,誤りである。
(2) 昭和43年最高裁判決(甲9参照)は,糸一般を指定商品とし「しようざん」の称呼を持つ商標と,硝子繊維糸のみを指定商品とし「ひようざん」の称呼を持つ商標とでは,外観及び観念において著しく相違しており,かつ,硝子繊維糸の取引では,「商標の称呼のみによって商標を識別し,ひいて商品の出所を知り品質を認識するようなことはほとんど行われない」との取引の実情があるときは,両者は類似ではないと認めるのが相当であると判示したものであって,両商標が外観及び観念において著しく異なれば,すべてが非類似であると判示したわけではない。
換言すれば,当該事件では,「商標の称呼のみによって商標を識別し,ひいて商品の出所を知り品質を認識するようなことはほとんど行われない」との取引の実情,すなわち,特別な事情があったことから,そのような場合には,「称呼」の対比考案を比較的緩やかに解してもよいとしたにすぎず,「称呼」を類否判断の基準において無視してよいと判示したものではないのである。
ところが,審決は,上記のとおり,「称呼」を比較的緩やかに解してよい特別な事情としての「取引の実情」を明示することなく,単に,「外観において顕著な差異があり,観念においても識別が可能なもの」であることのみから,出所について誤認混同を生ずるおそれはないと判断しており,昭和43年最高裁判決の趣旨を誤解し,誤った判断をしたものである。
(3) また,審決の上記判断は,類否の判断基準として「称呼」を全く無視したものであって,商標の本質に反し,許されるものではない。
取引者,需要者は,商標により商品やサービスを記憶することが多いが,その場合,商標の外観,観念,称呼のいずれか一つを手掛かりに記憶していることもあるから,例えば,称呼が同じ商標が使用されている場合,商標の称呼を手掛かりとして求める商品等を記憶している者は,商品等の出所につき誤認混同するおそれがあるのであり,これは,外観,観念についても同様である。そうしたことから,商標の類否判断に当たっては,「外観,観念,称呼」のいずれか一つでも類似する場合には,両商標は類似する商標であるとする判断基準が,多数の判決例及び審決例により確立している。
このように,飽くまで,商標の類否判断は,「外観,観念,称呼」を基準に考察するのが基本であり,昭和43年最高裁判決は,それを前提とした上で,「外観,観念,称呼」の3点のうちその1において類似するものでも,他の2点において著しく相違することその他取引の実情等によって,なんら商品の出所に誤認混同を来すおそれの認め難いものについては,これを類似商標と解すべきでないと判示したものである。
(4) 本件商標と各引用商標とは,外観及び観念を異にするものであるが,「ウオコー」の称呼は同一である。
審決は,上記のとおり,「本件商標は・・・デフォルメされた『魚』と『耕』の文字を用いて,極めて特徴のある魚の形状を描出してなるものであって,これに接する取引者・需要者は,そのユニークな発想と外観に強い印象を受け,特徴のある魚の形状をしたマークの『ウオコー』として記憶にとどめるものということができる」とし,この点を根拠に,商品等の出所について「誤認混同を生ずるおそれはほとんどないものとみるのが相当である」と判断した。
確かに,本件商標に接する取引者,需要者は,「そのユニークな発想と外観に強い印象を受け,特徴のある魚の形状をしたマークの『ウオコー』として記憶にとどめる」かもしれない。しかし,称呼により取引をする場合には,「ウオコー」の称呼のみでしか識別できないのであるから,そのような記憶があっても,やはり,称呼が同一であれば,商品等の出所について誤認混同を来すことになる。しかも,被告の本件商標の使用態様においては,「魚耕」の文字だけで使用されている場合がある(甲28-1〜8)から,取引者,需要者は,必ずしも,「特徴のある魚の形状をしたマークの『ウオコー』」として記憶にとどめるとは限らず,被告の社名「株式会社魚耕」に基づいて,単に「ウオコー」として記憶する可能性が高い。
にもかかわらず,審決は,称呼が同一であっても,商品等の出所につき誤認混同を来さないとする理由を示しておらず,誤りというほかはない。
(5) 他方,本件商標の指定商品及び指定役務の属する取引界において,「称呼」の対比考察を比較的緩やかに解してもよいことを裏付ける「取引の実情」は存在しない。むしろ,この種の業界では,電話(特に携帯電話),テレビ,ラジオ等の普及によって,称呼による取引が多く行われているし,特に,いわゆる口コミにより評判等が伝播されることが多い業界でもあるため,「ウオコー」との称呼によって記憶されたり,紹介されたりしたものが,称呼が同一であることから,系列店であると錯覚して他店に飛び込む等の事態が起こり得る。したがって,本件商標と各引用商標とは,外観,観念において差異があっても,称呼が同一であるために商品等の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるということができる。
また,時と場所を異にして称呼で商品を購入する場合や市場での多人数の立会で取引をする場合においては,称呼のみによる取引が起こり得る。現に,東京都大田区所在の大田市場において,原告と被告が参加した多人数の立会による取引において,原告と被告の名称に係る称呼が同一であるために,仲買人が落札した商品について混同した事案があり,このようなことは,商標についても起こり得るというべきである。
(6) これに対し,被告は,取引の実情として,@本件における需要者は,主婦等の一般消費者であり,原告及び被告の販売する鮮魚,惣菜等の購入に当たっては,需要者は,直接,店頭に出向いて,自分の目で見て確認することが通常であること,A原告店舗は対面販売方式であるが,被告店舗はセルフ方式(パック詰め販売)であること等を主張する。
ア まず,@については,需要者が主婦等の一般消費者であることは認めるが,主婦等は,立ち話によって情報を伝播することがあり,この場合,商標は「称呼」によって記憶されることになる。
また,需要者が,直接,店頭に出向いて確認するとの点も認めるが,それがすべてではなく,長年にわたって築き上げた信用が商標に化体され,それによって商品を購入する場合も多い。原告の売上げは年間約15億円にも上り,テレビ放送もされて,その名称は広く知られるようになっており,その信用度は高い。
さらに,店舗での取引は,取引の一態様であって,すべてではない。会社は経時的に営業が拡大,縮小するものであり,原告と被告とは現在は商圏が離れていても,将来は近隣で競合するおそれもあり,デパートやスーパーマーケット等における物産展等のイベントに出展する際などに競合することもあり得る。
イ 次に,Aの販売方式の点は,固定的,恒常的なものではなく,自由に選択することができ,将来,変動し得る事情であるから,商標制度において考慮されるべき「取引の実情」としてはなじまない。
現に,原告も,対面販売方式のほかにセルフ方式(パック詰め販売)を採用しているし(甲29-1〜10),被告も,セルフ方式のほかに,対面販売方式も採用している(甲28-1,甲30-1〜3)。また,原告は,パック詰め商品(甲29-1〜10,甲31-1,2)のほか,チラシ広告等(甲32,35,36)でも各引用商標を使用しており,原告においても,商標は重要な機能を果たしている。
(7) 以上によれば,昭和43年最高裁判決の判示に照らしても,本件商標と各引用商標とは類似するというべきであり,「称呼」の対比考察を比較的緩やかに解すべき特別な事情もないのに,単に,外観及び観念が相違することのみから,両商標を非類似とした審決の判断は明らかに誤りである。
(8) なお,引用商標3及び4と全く同一の構成からなる,別の指定商品又は指定役務に係る原告の商標登録出願(商願2002-98755号,商願2002-98756号)について,それぞれ異なる審査官が,本件商標を引用して拒絶理由通知を発している(甲25-1,2,甲26-1,2)が,このことからも,本件商標と各引用商標とが類似するものであることは明らかである。
被告の反論
1 審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(商標の類否判断の誤り)について (1) 昭和43年最高裁判決は,@商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,しかもその取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする,A商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,前記3点のうちその1において類似するものでも,他の2点において著しく相違することその他取引の実情等によって,なんら商品の出所に誤認混同を来すおそれの認め難いものについては,これを類似商標と解すべきでないと判示する。すなわち,称呼が類似していても,外観,観念,取引の実情等により,商品等の出所につき誤認混同が生じない場合には,類似商標でないとされるのである。
これに対し,原告は,「外観,観念,称呼」のいずれか一つでも類似する場合には,両商標は類似する商標であるとする判断基準が確立している旨主張するが,こうした判断基準は,昭和43年最高裁判決に対する理解が浸透することによって変容し,近時は,外観,観念,称呼の総合的考察等によって,商品の出所につき誤認混同が生ずるか否かを判断するとの基準が一般的になっている。そして,審決は,外観,観念及び称呼を総合的に考察した上,本件商標と各引用商標とは,その称呼が共通することのみをもって類似する商標であるとすることはできないと判断したものである。原告も自認するとおり,本件商標と各引用商標とは,外観及び観念を異にするものであり,その違いは,圧倒的かつ歴然,明白であるから,正当な判断というべきである。
(2) また,取引の実情を見ても,以下のとおり,両当事者の個別的実情のみならず,両当事者の属する業界における一般的,恒常的な取引の実情においても,原告と被告との間には,商品等の出所につき誤認混同は生じないというべきである。
ア 原告及び被告は,鮮魚並びに魚のフライ及び寿司等の惣菜を店頭において販売するものであるが,こうした商品は,一般家庭において日常的に消費されるものであるから,主たる需要者は,主婦等の一般消費者である。
また,鮮魚,惣菜等は,基本的に生ものであるから,新鮮であり,食べておいしいことが商品の最も重要な品質であるところ,これら商品の購入に当たっては,需要者は,直接,店頭に出向いて,商品の色,つや等の商品の良し悪し及び店舗名(商標)を自分の目で見て確認するのが通常である。
イ 原告と被告とは,鮮魚等の生鮮食品の小売業を営んでいるという点では同一であるが,両者が目指している鮮魚店としての在り方が販売手法において差異として現れ,その結果,事業の規模,商標の使用方法,頻度等において大きな差異となっている。
すなわち,原告店舗においては,商品である鮮魚を切り身にしてパック詰めにするのではなく,主に,そのままの状態で陳列しており,また,ほとんどの商品には価格を明記せず,販売員の口頭での説明で直接販売するという対面販売を行っているものであり,いわば,昔ながらの個人商店のような販売方法を採用している(乙7-1〜27)。原告店舗において各引用商標が使用される場面は少なく(乙7-12,15,17〜27),原告の場合は,商品識別機能を担っているのは,特色ある原告店舗で販売されているということであると考えられ,商標が果たしている役割は極めて小さい。
これに対し,被告店舗においては,主に,商品である鮮魚を切り身にしてパック詰めした上,個々の商品のパッケージには値段とともに販売者名を貼り付けており,需要者は,これら商品を買い物かごに入れ,レジに持参して一括決済するというスーパーマーケット様のセルフ方式が採用されている(乙8-11〜38)。また,被告店舗の周囲には競合店も多い(乙8-7,8,乙10)ため,被告は,商品や店舗,持ち帰りのビニール袋等に商標を多数表示して識別を図っている(乙8-9,10,19〜36)。
ウ 一般に,近時は,ファクシミリやインターネットの普及に伴い,文字,画像等の視覚情報による簡易,迅速かつ確実な取引が可能となっており,商標の類否判断に当たり,「称呼」を無視することができないことは当然であるものの,他の要素である「外観」及び「観念」に比べ,「称呼」がより重要であるということはできない。
また,近時は,新聞の折り込み広告やインターネットなどを通じて,本件における需要者である一般消費者は,商品や店舗に関する情報を豊富に得ることができるものであり,往時に比べ,その識別能力は高くなってきているものと考えられる。
(3) 以上によれば,一般的に,需要者である一般消費者の識別能力が向上し,商標の「外観」に対する注意力が高まっている現状においては,被告の使用する本件商標が,原告の使用する各引用商標に比して,ユニークで印象深い外観を有する点において顕著に異なるとの事実は,被告店舗が多数の競合業者との差別化を図るため,需要者に対し本件商標を印象付けるような使用方法を用いているという個別的な取引の実情とあいまって,両商標の差異を更に決定的なものとしているというべきである。
当裁判所の判断
1 取消事由(商標の類否判断の誤り)について (1) 本件商標と各引用商標とが,外観及び観念において異なること,並びに,いずれも「ウオコー」という称呼を生ずる点で共通することについては,当事者間に争いがない。
ところで,商標法4条1項11号の商標の類否判断において,商標の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,称呼において類似するものでも,他の2点において著しく相違することその他取引の実情等によって,何ら商品の出所に誤認混同を来すおそれの認め難いものについては,これを類似商標と解すべきでない(昭和43年最高裁判決参照)というべきであるから,以下,この基準に照らし,本件商標及び各引用商標とをそれぞれの指定商品又は指定役務に使用した場合において,商品等の出所につき誤認混同を来すおそれがあるか否かについて検討する。
(2) まず,本件商標及び各引用商標の外観上の差異についてみると,「本件商標は・・・『魚』の文字を構成する各部分をもって,魚の上びれ,胴体,下びれを描出し,これに続く『耕』の文字も『魚』の文字とともに胴体部分を構成するように表し,これに,小さな点で表した目を有する三角形状の頭部と尾びれを付け,全体をもって左向きの魚の形状を表したものと認められるものである」(審決謄本7頁,「1.外観について」の項の第1段落)こと,「本件商標は,その構成中に『魚』と『耕』の文字を有するとはいえ,特に『魚』の文字は著しくデフォルメされているばかりでなく,全体をもって左向きの魚の形状を表したものと一見して把握・認識できるものであるのに対して,引用商標1及び2は,『魚幸』の漢字からなるものであり,また,引用商標3及び4は,抽象化された魚の如き図形(注,「U」の欧文字を表したものと認められる。)と『OKOH』の欧文字とから構成されているものであるから,両商標は,その外観において明らかな差異があり,外観上は全く別異の商標ということができるものである」(同第3段落)ことは,いずれも原告も自認するとおりである。したがって,両商標は,その外観において著しく相違するものというべきである。
(3) 進んで,本件商標及び各引用商標が用いられる取引の実情について検討する。
ア 本件商標及び各引用商標の指定商品又は指定役務は,上記第2の1及び2のとおりであるところ,その現実の取引形態は,主として,鮮魚並びに魚のフライ及び寿司等の惣菜を店頭において販売するものであると認められる(原告につき,甲29-1〜10,乙7-1〜27,被告につき,甲28-1〜7,甲30-1〜3,乙8-9〜38,乙10)。
イ 原告及び被告の需要者,すなわち,本件商標及び各引用商標の需要者が,主婦等の一般消費者であることは,当事者間に争いがない。
ウ 鮮魚,惣菜等の店頭販売においては,商品が基本的に生ものであることから,需要者である一般消費者は,購入に当たり,直接,店頭に出向いて,商品の色,つや等の商品の良し悪し並びに店舗や商品に付された商標を自分の目で見て確認することが通常である(弁論の全趣旨)。
エ 原告の店舗は横浜市保土ヶ谷区にあり,被告の店舗は東京都杉並区を中心に展開されており,現在,直接に競合する店舗は存在しない(原告につき,甲36,弁論の全趣旨,被告につき,乙2,乙8-1〜6,乙9,10,弁論の全趣旨), オ 本件商標は,上記(2)のとおり,デフォルメされた「魚」と「耕」の文字を用いて,特徴のある左向きの魚の形状を描出していることからすれば,本件商標の外観が,需要者である一般消費者に与える印象は非常に強く,本件商標に接した需要者は,特徴のある魚の形状をしたマークの「ウオコー」として記憶にとどめる例が多いものと認められる。
これに対し,原告は,被告の本件商標の使用態様においては,「魚耕」の文字だけで使用されている場合がある(甲28-1〜8)から,取引者,需要者は,必ずしも,「特徴のある魚の形状をしたマークの『ウオコー』」として記憶にとどめるとは限らず,被告の社名「株式会社魚耕」に基づいて,単に「ウオコー」として記憶する可能性が高い旨主張する。しかしながら,この原告の主張は,被告が本件商標とは異なる標章(「魚耕」の文字のみからなる標章)を商標として使用する場合についての誤認混同のおそれをいうものにすぎず,被告が本件商標を使用する場合の誤認混同のおそれについての主張とは解されないから,失当というほかはない。
(4) 以上によれば,本件商標と各引用商標とは,いずれも「ウオコー」という称呼を生ずる点で共通するものの,その外観において著しく相違し,かつ,観念においても相違するのみならず,取引の実情としても,本件商標及び各引用商標の需要者である一般消費者は,直接,原告又は被告の店頭に出向いて,商品の鮮度等を確認した上で商品を購入するのが通常であり,また,その際,本件商標の特徴のある形状に接した需要者は,特徴のある魚の形状をしたマークの「ウオコー」として記憶にとどめる例が多い等の実情があることからすれば,本件商標及び各引用商標をそれぞれの指定商品又は指定役務に用いた場合,その出所について誤認混同を来すおそれは認め難いというべきである。
(5) これに対し,原告は,称呼により取引をする場合には,「ウオコー」の称呼のみでしか識別できないから,需要者が本件商標の特徴のある外観を記憶にとどめるとしても,やはり,商品の出所につき誤認混同を来すことになる旨主張する。
しかしながら,原告及び被告の現実の取引形態が,主として,鮮魚,惣菜等の店頭販売であることは,上記(3)アのとおりであり,こうした場面では,そもそも,目視によって店舗名等を確認して取引に当たるのが自然であるから,称呼のみでしか識別できず,そのために誤認混同が生ずるという事態は考え難いというほかはない。この点に関連して,原告は,いわゆる口コミ等により,「ウオコー」との称呼によって記憶されたり,紹介されたりしたものが,称呼が同一であることから,系列店であると錯覚して他店に飛び込む等の事態が起こり得るなどとも主張するが,現実にそのような事態が生じていると認めるに足りる証拠はなく,上記認定に係る取引の実情から見て,上記主張は,単なる抽象的な危惧感の表明にとどまるというほかはないから,採用の限りではない。
また,原告は,時と場所を異にして称呼で商品を購入する場合における混同のおそれについても主張するが,店頭販売以外の場合,例えば,電話注文の場合などを考えても,需要者である一般消費者は,通常,注文の前に,チラシ(甲36)やインターネットホームページ(乙1,2)などで店舗名や電話番号等を確認した上で,注文をするものと認めるのが相当であるから,やはり,出所について誤認混同のおそれは生じないというべきである。
原告は,多人数の立会による取引の場合において,混同を生ずるおそれがあるとした上,市場において仲買人が,原告と被告とに係る落札商品を混同した例がある旨主張する。しかしながら,市場における取引は,小売業者である原告及び被告が購入者の立場にあるものであって,仲買人は,本件商標及び各引用商標の取引者,需要者には該当しないから,原告主張に係る混同の事実は,本件商標と各引用商標とについて,需要者の間で誤認混同のおそれが生ずると解すべき根拠とはならないものである。さらに,原告は,原告と被告とは,現在は商圏が離れていても,将来,近隣で競合するおそれがあり,また,デパート等における物産展等のイベントで競合する可能性があるとも主張するが,現実に,原告指摘に係る競合が存在し,又は競合が生ずるおそれがあると認めるに足りる証拠はない上,そうした隣り合う形での競合場面であれば,需要者である一般消費者は,店頭での販売と同様,目視によって店舗名等を確認してから取引に当たるのが自然であると解されるから,原告の主張は採用することができない。
(6) なお,原告は,長年にわたって築き上げた信用が商標に化体され,それによって商品を購入する場合も多いこと及び原告の信用度は高いことを指摘する。しかしながら,仮に,原告の信用度が高く,その信用が原告の使用する各引用商標に化体しているとしても,そのことと商標法4条1項11号における商標の類否判断とは直接関係しないというべきであるから,この点に関する原告の主張は採用の限りではない。
また,原告は,引用商標3及び4と全く同一の構成からなる,別の指定商品又は指定役務に係る原告の商標登録出願(商願2002-98755号,商願2002-98756号)について,それぞれ異なる審査官が,本件商標を引用して拒絶理由通知を発していること(甲25-1,2,甲26-1,2)をも指摘するが,当該審査官の判断が当裁判所を拘束するものでないことは明らかであるから,この点は,本件における類否判断とは関連しないというほかはない。
(7) 以上によれば,本件商標と各引用商標とは類似しないというべきであるから,これと同旨の審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由の主張は理由がない。
2 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 古城春実
裁判官 早田尚貴