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関連審決 無効2007-890148
関連ワード 識別力 /  指定商品 /  指定役務 /  3条1項6号 /  外観(外観類似) /  称呼(称呼類似) /  観念(観念類似) /  無効審判 /  外国 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10371号 審決取消請求事件
原告X
被告Y
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/03/24
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が無効2007-890148号事件について平成20年9月8日にした審決を取り消す。」との判決第2事案の概要本件は,原告の下記1(1)の商標登録(以下「本件商標登録」といい,本件商標登録に係る商標を「本件商標」という。)について,被告が,下記1(2)のとおり無効審判請求をしたところ,特許庁が本件商標登録を無効とする旨の審決をしたため,原告がその取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本件商標登録出願人:原告本件商標の構成:「アイピーファーム」(標準文字)指定役務:第42類「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務,訴訟事件その他に関する法律事務,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介」出願日:平成15年11月20日設定登録日:平成16年7月2日登録番号:第4783134号(2)本件手続の経緯審判請求日:平成19年9月6日(無効2007-890148号)審決日:平成20年9月8日審決の結論:「本件商標登録を無効とする。」審決謄本送達日:平成20年9月19日2審決の理由の要旨審決は,本件商標は,指定役務を提供する事務所であることを一般的に説明しているにすぎず,需要者等において指定役務について他人の同種役務と識別するための標識としての機能を果たし得ないものであるから,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標であり,商標法3条1項6号に違反して登録されたものであると判断した。審決の理由中,「当審の判断」の部分は以下のとおりである。
(1)本件商標とその指定役務について本件商標は,前記第1のとおり,「アイピーファーム」の片仮名文字を標準文字で表してなるものであって,本件指定役務を「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務,訴訟事件その他に関する法律事務,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介」とするものである。
(2)本件商標に係る指定役務の需要者等について本件の指定役務は,前記1のとおり,弁理士が主体となって開設する特許事務所や,いわゆる知的財産事件を担当する弁護士が開設する法律事務所が提供する役務であるので,本件の指定役務の需要者等は,工業所有権の取得又は著作権の利用を希望するか,あるいはこれらの権利に関する紛争解決を希望する個人又は法人であり,これらの個人又は法人の担当者は,知的財産権に関しては相応の関心と知識を有している者であることは明らかである。
(3)「IP」等の語と需要者等の認識について辞書類における「IP」及び「FIRM」の語の掲載状況は,次のとおりである(甲 ア第3号証の22ないし24,甲第3号証の25,26(判決注:本訴における甲第33〜第37号証))インターネットにおける英単語検索サイト「スペースアルク:英辞郎」(甲第3号証の(ア)25)では,「IP」は,「intellectualproperty」,すなわち,「知的財産」の略称であるとされている。
「新英和中辞典(第6版)」(研究社)(甲第3号証の22ないし24)では,「in(イ)tellectualpropertyright」は,「知的所有権≪特許,実用新案,商標,著作権など≫」を意味する英熟語とされている。また,「firm」は,「(二人以上の合資で経営される)商会,商店,会社」を意味する英単語とされている。
二村隆章,岸宣仁著「知的財産会計」(平成14年2月20日発行,株式会社文藝春(ウ)秋)(甲第3号証の26)においては,「知的財産権(IntellectualPropertyRights=通常,IPと略す)」と記載されている。
証拠(甲第3号証の16ないし21(判決注:本訴における甲第27〜第32号イ証))によると,インターネットにおいて,「IPFIRM」を検索語として検索すると,各検索エンジンにより相違はあるものの,多数の情報(約509万件,334万件,約146万件,約38万件,約36万件)が検出される。そのうち,「IP」が,「インターネットプロトコル」を意味する等,「知的財産」を意味しないものも検出されるものの,わが国及び諸外国において,「IP」が「知的財産」を,「FIRM」が「事務所」を表すものとして用いられている例が多数見られる。
証拠(甲第3号証の1ないし4(判決注:本訴における甲第12〜第15号証)によウると,わが国においても,「IPFIRM」又は「IPLAWFIRM」を英語表記に用いる複数の特許事務所(明成国際特許事務所〔MeiseiIPFirm〕〔甲第3号証の1〕,プレシオ国際特許事務所〔PrezioIPFirm〕〔甲第3号証の2〕,神原特許事務所〔IPFIRMKAMBARA&ASSOCIATES〕〔甲第3号証の3〕,龍華国際特許事務所〔RYUKAIPLAWFIRM〕〔甲第3号証の4〕)が存在する。
証拠(甲第3号証の5ないし14,甲第3号証の16ないし21(判決注:本訴におエける甲第16〜第25号証,甲第27〜第32号証)によると,諸外国においては,「IPFIRM」を「特許事務所」あるいは「知的財産権を取り扱う法律事務所」を表す名称として使用する事務所が,インターネットにホームページを開設しているものだけでも複数存在する(IGOEIPFIRM〔甲第3号証の5〕,BUSTAMANIPFIRMMALAYSIA〔甲第3号証の18〕,JordanIPFirms〔甲第3号証の20〕)。なお,「IPLAWFIRM」を「知的財産権を取り扱う法律事務所」の名称として使用している事務所も複数存在する(MaltaIntellectualPropertyLawFirm〔甲第3号証の17〕,ShahaniIPLawFirm,JFKIPLawFirm,vietnamiplawfirm〔甲第3号証の18〕)。また,諸外国においては,「特許事務所」あるいは「知的財産権を取り扱う事務所」を表す記述的な表現として,「IPFIRM」又は「IPLAWFIRM」との語が極めて多数使用されている(甲第3号証の6ないし14,甲第3号証の15,甲第3号証の16ないし21(判決注:本訴における甲第17〜第32号証))。
以上のとおりであるから,「IPFIRM」の語が,本件商標の査定時(平成16年6月14日)には,前記2の需要者等において,知的財産を意味する「IP」と,事務所を意味する「FIRM」が単純に結合された2語からなる標章であって,これらの語句の意味を結合させた,「知的財産権を取り扱う事務所」を意味するものであると認識されていたものというべきである。
(4)本件商標の需要者等の認識について前記3のとおり,「IPFIRM」の語が,本件商標の査定時(平成16年6月14日)には,前記2の需要者等において,知的財産を意味する「IP」と,事務所を意味する「FIRM」が単純に結合された2語からなる標章であって,これらの語句の意味を結合させた,「知的財産権を取り扱う事務所」を意味するものであると認識されていたものというべきであるから,本件商標「アイピーファーム」に接した前記2の需要者等は,「IPFIRM」を片仮名文字で表したものと理解すること明らかであり,「アイピーファーム」の片仮名文字についても「知的財産を取り扱う事務所」を指称するものと認識されていたものというべきである。
したがって,「アイピーファーム」の語は,本件商標の指定役務を提供する事務所であることを一般的に説明しているにすぎず,本件需要者等において,指定役務について他人の同種役務と識別するための標識としての機能を果たし得ないものであるから,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標である。
(5)結論以上のとおりであるから,本件商標は,商標法第3条第1項第6号に違反して登録されたものであり,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
第3審決取消事由の要点(商標法3条1項6号該当性についての判断の誤り)審決は,本件商標が商標法3条1項6号に違反して登録されたものと判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。
1需要者の認定の誤り審決は,本件商標の指定役務を「弁理士が主体となって開設する特許事務所や,いわゆる知的財産事件を担当する弁護士が開設する法律事務所が提供する役務である」とした上,「需要者は,工業所有権の取得又は著作権の利用を希望するか,あるいはこれらの権利に関する紛争解決を希望する個人又は法人であり,これらの個人又は法人の担当者は,知的財産権に関しては相応の関心と知識を有している者であることは明らかである。」としている。
しかしながら,本件商標の指定役務が弁理士又は弁護士の専業の範囲であって,それらの資格を有しなければできない役務であるとはいえないのであり,弁理士又は弁護士の専業範囲と隣接する業務に関わり得る者が弁理士又は弁護士の潜在的需要者に該当するにもかかわらず,審決はこのような潜在的需要者の存在を無視したのである。
また,審決による上記需要者の認定は,実際に依頼業務が発生する時点だけに着目したものであり,例えば無料相談などを希望する場合のように,依頼に至らない潜在的需要者についても無視している。
このように審決が前提としない潜在的需要者としては,発明をしたけれどもどこに相談したらよいのかわからないという発明者などが含まれるが,このような者を含む一般消費者及び取引者である潜在的需要者は,例えば「ゴロが良い」などの理由で本件商標を記憶していれば,相談したい事態に至ったときに,記憶に基づいて事務所を探し出したり,問い合わせをすることもあり得るのであり,主として商標としての広告宣伝機能が発揮されるのである。
以上のように,審決は,判断の前提となる需要者の認定を誤ったものである。
2証拠の評価の誤り審決は,「『IP』は『intellectual property』,すなわち『知的財産』の略称であるとされている。」との認定を前提として,「『IPFIRM』を『特許事務所』あるいは『知的財産を取り扱う法律事務所』を表す名称として使用する事務所が,インターネットホームページを開設しているものだけでも複数存在する」と認定している。
しかしながら,「IP」を略称として使用する場合は少なくとも19通り存在するのであり,「IP」と「知的財産」があたかも1対1に対応するかのような審決の上記認定は前提を誤るものである。
また,審決は,「IPFIRM」を検索語として検索した結果から,ヒット件数が膨大であるともしているが,上記の検索語による検索は,「IP又はFIRM」の検索にほかならないのであり,ヒット件数が膨大であることに意味はないというべきである。
さらに,審決が「IPFIRM」の使用を認定したホームページの中には,現在では改訂され,「IPFIRM」を使用していないものもあるほか,諸外国の「特許事務所」あるいは「知的財産を取り扱う法律事務所」のホームページについては,我が国の商標法3条1項6号への該当性を判断する資料とすべきものではないというべきである。なお,審決が判断の根拠とした諸外国のホームページには,現在では一部アクセスできなくなっているものがあり,「IPFIRM」や「IPLAWFIRM」が使用されていることが確認できないものもある。
したがって,審決が判断の前提とした「『IPFIRM』を『特許事務所』あるいは『知的財産を取り扱う法律事務所』を表す名称として使用する事務所が,インターネットホームページを開設しているものだけでも複数存在する」との認定は誤りである。
3諸外国における記述的な表現の数審決は「諸外国においては,『特許事務所』あるいは『知的財産権を取り扱う事務所』を表す記述的な表現として,『IPFIRM』又は『IPLAWFIRM』との語が極めて多数使用されている」と認定しているが,その根拠とする証拠は16個にすぎず,これをもって「極めて多数」ということはできないから,審決は判断の前提となる認定を誤ったものである。
4本件商標が「IPFIRM」の日本語読みであるとの認定の誤り審決は,「『IPFIRM』の語が,本件商標の査定時(平成16年6月14日)には,前記2の需要者等において,知的財産を意味する『IP』と,事務所を意味する『FIRM』が単純に結合された2語からなる標章であって,これらの語句の意味を結合させた,『知的財産権を取り扱う事務所』を意味するものであると認識されていた」ことを前提として,「本件商標『アイピーファーム』に接した・・・需要者等は,『IPFIRM』を片仮名文字で表したものと理解する」と認定したが,本件商標とは別に,「IPFARM」との商標が権利として確立しているのであるから,「アイピーファーム」を「IPFIRM」の日本語読みであると断定することはできない。
したがって,審決は判断の前提となる認定を誤ったものである。
仮に,本件商標が「IPFIRM」の片仮名表記であるとしても,「IPFIRM」との商標登録を巡る原告と被告の間の紛争は弁理士の間で広く知られ,「IPFIRM」が原告の登録商標であることも広く知られるに至っているから,その片仮名表記である本件商標(アイピーファーム)は原告の役務を表示するものとして自他役務の識別力を獲得するに至ったというべきである。
5使用等による自他役務識別能力の獲得審決は,「『アイピーファーム』の語は,本件商標の指定役務を提供する事務所であることを一般的に説明しているにすぎず,本件需要者等において,指定役務について他人の同種役務と識別するための標識としての機能を果たし得ないものであるから,需要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標である」とし,本件商標が自他役務識別能力を有しないと判断している。
しかしながら,仮に,過去において,本件商標の自他役務識別能力が欠如していたとしても,上記4のとおり,原告によるこれまでの使用や権利行使により,本件商標は自他役務識別能力を備えるに至ったものであり,審決の判断は誤りというべきである。
第4被告の反論の要点原告の主張は,以下のとおり,いずれも失当であり,審決取消事由は理由がない。
1「需要者の認定の誤り」に対して原告は,審決による需要者の認定が誤りであると主張するが,商標における需要者は,その指定商品又は指定役務によって定まるのであり,本件商標の指定役務は「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務,訴訟事件その他に関する法律事務,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介」であって,これは弁理士法に規定された弁理士の業務であるから,弁理士が主体となって開設する特許事務所や,いわゆる知的財産事件を担当する弁護士が開設する法律事務所が提供する役務にほかならず,審決が,需要者について「工業所有権の取得又は著作権の利用を希望するか,あるいはこれらの権利に関する紛争解決を希望する個人又は法人」と認定したことは適切であり,審決の認定に誤りはない。
仮に,原告が主張するような「潜在的需要者」を本件商標に係る指定役務の需要者とすれば,そこには工業所有権の取得又は著作権の利用を希望しない者や,これらの権利に関する紛争解決を希望しない者も含まれることとなるが,そのような解釈は商標法3条1項6号が「何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識」する主体として「需要者」を規定したことが無意味となり,不合理であるから,原告の主張は失当である。
2「証拠の評価の誤り」に対して原告の主張を争う。
原告は,審決が根拠としていない資料を証拠として提出し,審決を非難するものであり,原告の主張は失当である。
3「諸外国における記述的な表現の数」に対して原告の主張を争う。
4「本件商標が『IPFIRM』の日本語読みであるとの認定の誤り」に対して上記1のとおり,審決の需要者の認定に誤りはなく,本件商標の需要者が「アイピーファーム」を「IPFIRM」を片仮名で表したものであると理解することは明らかであり,原告の主張は失当である。
5「使用等による自他役務識別能力の獲得」に対して原告の主張を争う。
本件商標が商標法3条1項6号に違反して登録されたかどうかと,本件商標の登録後の使用によって自他役務識別能力を備えるに至ったかどうかは無関係であり,原告の主張に係る事実があったとしても,審決を取り消すべき理由とはならない。
第5当裁判所の判断1商標法3条1項6号について商標法3条1項は「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については,次に掲げる商標を除き,商標登録を受けることができる。」と規定した上,同項6号において「前各号に掲げるもののほか,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」を掲げ,同号所定の商標について商標登録を受けることができないことを規定している。
2本件商標について本件商標の構成は「アイピーファーム」の片仮名を標準文字で表してなるものであり,本件商標から「アイピーファーム」の称呼が生じることは明らかである。そして,「アイピー」からはアルファベットの「IP」が容易に想起され,「ファーム」からは英語の「FIRM」又は「FARM」が想起される。
まず,「アイピー」についてみるに,甲第36及び第37号証によると,「知的財産」を意味する英語の「Intellectual Property」が「IP」と略して使用されることが認められるところ,このことは,本件商標に係る指定役務の需要者の多くにとってはよく知られた事柄であるというべきである。
次に「ファーム」についてみるに,1999(平成11)年4月株式会社研究社発行の「リーダーズ英和辞典」には,「firm」について「合資経営の商会,商店,一般の会社,企業;共同して働く一団の人びと,(特に)医療チーム;犯罪者の一団,ギャング;[](秘密)組織諜報機関・秘密捜 《俗》 《俗》 euph査班など:a law 〜法律事務所.・・・」(915頁)と記載され,「farm」について「農地,農場,農園・・・;農家(farmhouse)・・・飼育場,養殖 1a b場・・・」(879頁)と記載されているとおり,「FIRM」が会社等の人的組織を意味する語であり,「FARM」が農場や農園を意味する語であると認められるところ,これらの語はいずれも現代の我が国において広く知られているものと認められる。
そうすると,本件商標に係る指定役務の需要者が本件商標(アイピーファーム)に接すれば,まず,「アイピー」から「IP」,すなわち,「知的財産」を想起するものと認められる。
そして,その後に続く「ファーム」からは,上記のとおり,「FIRM」だけでなく,「FARM」も想起され得るが,これらの語の意味を知っている本件商標の指定役務に係る上記需要者にとって,「知的財産」と「FARM(農場)」を結びつけることが一般的であるとは考えにくい反面,「LAWFIRM」(法律事務所)の用例が相当程度浸透していることをも考慮すると,本件商標に係る指定役務の需要者は,「アイピー」に続く「ファーム」から,主として「FIRM」を想起するものと認められる。
そうすると,例えば,上記「LAWFIRM」の語から法律事務所,すなわち,法律関係業務を取り扱う事務所の観念が生ずるように,本件商標(アイピーファーム)からは「IPFIRM」,すなわち,「知的財産関係業務を取り扱う事務所」の観念を生ずるものと認められる。
したがって,本件商標の表記は,その指定役務の需要者にとって,その指定役務に係る業務の内容を表したものにほかならないというべきである。
3「IPFIRM」等の使用状況証拠(甲第14,第16〜第25号証)によると,知的財産関係業務を取り扱う事務所を意味する表記として,「Intellectual Property Firm」の略称である「IPFIRM」(又はその複数形である「IPFIRMS」)が使用されていることが認められる。また,本件商標の指定役務には「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務,訴訟事件その他に関する法律事務」が含まれるところ,このような業務を取り扱う事務所は,その業務内容を表す「特許事務所」の名称を使用する例が一般である(平成10年11月11日株式会社岩波書店発行の「広辞苑第5版」には「【特許事務所】弁理士の事務所。」(1925頁),「【弁理士】特許・実用新案・意匠または商標に関する登録出願等の代理もしくは鑑定などを業とする者。・・・」(2420頁)と記載されている。)ところ,証拠(甲第12,第13,第15号証)によると,このような事務所の中には,工業所有権の国際的な側面を意識して事務所名の一部を「国際特許事務所」とし,その英文表記である「International Patent Firm」の略称として,「IPFIRM」を使用している例があることが認められる。
4上記2,3によると,本件商標から生ずる称呼及び観念は,指定役務に係る役務を提供する事務所であることを示す一般的な名称部分の英文略称(IPFIRM)から生ずる称呼及び観念と同一であり,かつ,その外観も英文標記の極くありふれた片仮名表記に止まるものであるというべきであるから,本件商標は自他役務の識別力を有しないものといわざるを得ない。
さらに,上記のとおり,「IPFIRM」は,指定役務に係る業務を行う複数の「国際特許事務所」が,その英文略称として使用していたものであることを考慮すると,本件商標の登録が,このような一般的な略称の使用を制約するおそれがあるというべきであり,かかる観点からも本件商標の登録には問題があるものというべきである。
5原告の主張について(1)原告は,「発明をしたけれどもどこに相談したらよいのかわからないという発明者」などを例に挙げて,このような者を含む「一般消費者及び取引者」が「潜在的需要者」であるとし,審決による需要者の認定は,このような「潜在的需要者」を前提としない点で誤りである旨主張する。
しかしながら,本件商標に係る指定役務の主たる需要者は,上記1のとおり,「知的財産権の取得や知的財産の利用について検討している者」であると認められ,審決が認定する需要者(「工業所有権の取得又は著作権の利用を希望するか,あるいはこれらの権利に関する紛争解決を希望する個人又は法人」)もこれと同趣旨であると認められるから,審決による需要者の認定に誤りはないというべきである。このことは,原告のいう「潜在的需要者」が存在するとしても,この存在が認められることをもって何ら左右されるものではないから,原告の主張は失当である。
(2)原告は,「IP」と「知的財産」があたかも1対1に対応するかのような審決の認定は前提を誤るものであると主張するが,「IP」の用語が「知的財産」を意味する英語の「Intellectual Property」の略称として使用されていることが認められることは上記2のとおりであり,本件商標に係る指定役務の需要者の多くが「IP」から「知的財産」以外の概念等を想起するものと認めることはできないから,審決において,本件商標に係る指定役務の需要者が「アイピー」から「知的財産」を意味する「IP」を認識するものと判断したことに誤りはなく,原告の主張を採用することはできない。
また,原告は,「IPFIRM」を検索語として検索した結果から,審決が「ヒット件数が膨大である」とした点について,「ヒット件数が膨大であることに意味はない」と主張するが,上記2〜4のとおり,検索結果を考慮するまでもなく,本件商標に自他役務の識別力はないと考えるべきであるから,原告の主張は審決を取り消すべき理由とはならない。
さらに,原告は,審決が「IPFIRM」の使用を認定したホームページの中には現在では改訂されたものが含まれているとも指摘するが,審決は,改訂前のホームページにおいて「IPFIRM」の語が「特許事務所」や「国際特許事務所」を意味するものとして使用されていた事実を認定し,これを根拠として,本件商標に係る指定役務の需要者が「IPFIRM」の語を「知的財産権を取り扱う事務所」を意味するものと認識することを認定したものであり,その後ホームページが改訂されたとしても,その事実が審決の上記認定を覆すものであるということはできないから,原告の主張は失当である。
(3)原告は,審決による「諸外国においては,『特許事務所』あるいは『知的財産権を取り扱う法律事務所』を表す記述的な表現として,『IPFIRM』又は『IPLAWFIRM』との語が極めて多数使用されている」との認定のうち,「諸外国」の事例を「極めて多数」などと採り上げる点を論難するが,上記2〜4のとおり,上記の点は本件商標は自他役務の識別力を有しないものと認めるのが相当であるから,審決の結論に影響を及ぼす指摘であるということはできず,失当である。
(4)原告は,審決が「アイピーファーム」を「IPFIRM」の日本語読みであると断定していることを前提として,このように断定することはできないと主張するが,審決は,本件商標に係る指定役務の需要者が本件商標に接したときに「知的財産権を取り扱う事務所」を意味するものと認識するとの認定を踏まえて,このような需要者は「『アイピーファーム』が『IPFIRM』を片仮名で表したものと理解する」としているのであり,原告が主張するような断定を行っているものではないから,原告の主張は前提において失当である。
そして,本件商標(アイピーファーム)から「IPFIRM」,すなわち,「知的財産関係業務を取り扱う事務所」の観念を生ずるものと認められることは上記2のとおりであり,審決の上記認定はこれと同趣旨のものであると認められるから,審決の認定に誤りはなく,原告の主張を採用することはできない。
(5)原告は,原告によるこれまでの本件商標の使用や権利行使により,本件商標は自他役務識別力を備えるに至っている旨主張する。
しかしながら,原告による使用や権利行使により,本件商標に係る指定役務について,本件商標が原告によって提供される役務を示すものであることが需要者の間で広く認識されるに至っていることを認めるに足りる証拠はないから,原告の主張を採用することはできない。
また,原告は,本件商標(アイピーファーム)が「IPFIRM」の片仮名表記であるとしても,「IPFIRM」との商標登録を巡る原告と被告の間の紛争が弁理士の間で広く知られるに至ったことなどを挙げて,その片仮名表記である本件商標(アイピーファーム)は自他役務の識別力を獲得するに至った旨主張するが,上記のような関係を認識している弁理士が存在するとしても,かかる弁理士をもって本件商標に係る需要者ということはできないから,原告の主張は失当である。
第6結論以上のとおり,審決の判断に誤りはなく,原告の主張はいずれも採用することはできないから,原告の請求を棄却するべきである。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 杜下弘記
裁判官 榎戸道也
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