関連審決 | 無効2003-35276 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成16行ケ256審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成17行ケ10418審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
平成16行ケ341審決取消請求事件 | 判例 | 商標 |
関連ワード | 指定商品 / 混同を生ずるおそれ(混同を生じるおそれ) / 4条1項15号 / 類似性(類否判断) / 外観(外観類似) / 称呼(称呼類似) / 観念(観念類似) / 取引の実情 / 出所の混同 / 継続 / |
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事件 |
平成
16年
(行ケ)
129号
審決取消請求事件
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原告 東洋ファルマー株式会社 訴訟代理人弁理士 宮田信道 被告 三共株式会社 訴訟代理人弁護士 辻居幸一 訴訟代理人弁理士 大島厚 訴訟代理人弁護士 渡辺光 同 相良 由里子 同 高石秀樹 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/11/25 |
権利種別 | 商標権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が無効2003-35276号事件について平成16年2月23日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,「メバロカット」の文字(標準文字)を横書きして成り,指定商品を第5類「薬剤,歯科用材料,医療用腕環,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,失禁用おしめ,人工受精用精液,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,乳児用粉乳,乳糖,はえ取り紙,ばんそうこう,包帯,包帯液,防虫紙,胸当てパッド」とする,登録第4577305号商標(平成13年7月17日出願(以下「本件出願」という。),平成14年6月14日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。 被告は,平成15年7月3日,本件商標の商標登録を指定商品中「薬剤」に関して無効にすることについて審判を請求した。 特許庁は,これを無効2003-35276号事件として審理し,その結果,平成16年2月23日に,「登録第4577305号の指定商品中,第5類「薬剤」についての登録を無効とする。」との審決をし,その謄本を,同年3月4日に原告に送達した。 2 審決の理由 別紙審決書写しのとおりである。要するに,被告が使用する,「メバロチン」の文字を横書きして成る登録第2049558号商標(以下「引用商標1」という。),「MEVALOTIN」の文字を横書きして成る登録第2069627号商標(以下「引用商標2」という。),幾何図形を背景に「MEVALOTIN」の文字を横書きして成る登録第2448922号商標(以下「引用商標3」という。)及び登録第2448923号商標(以下「引用商標4」という。引用商標1ないし4は,いずれも指定商品に「薬剤」を含む。)と同一又は社会通念上同一と認められる「メバロチン」,「MEVALOTIN」の文字より成る商標及びその組合せから成る商標(以下「引用商標」という。)は,医薬品の取引者・需要者間で周知であり,本件商標は,引用商標と語頭の三文字又は三音が一致するため,原告が本件商標をその指定商品中の「薬剤」に使用した場合,これに接する取引者・需要者は,当該商品が被告の取扱に係る商品であるかの如く誤認し,その出所について混同を生じるおそれがあり,商標法4条1項15号に該当する,とするものである。 審決が,上記結論を導く過程において,本件商標と引用商標の類否,引用商標の著名性,本件商標と引用商標との混同のおそれについて認定したところは,次のとおりである(審決の次の(1)と(2)の認定判断については,原告も争っていない(原告第1準備書面1頁)。)。 (1)「本件商標と引用商標1を比較すると,本件商標と引用商標1は,語頭からの3文字「メバロ」が一致しており,これ以外の構成文字は「カット」と「チン」の差異がある。次に,本件商標と引用商標2,引用商標3及び引用商標4を比較すると,本件商標は,「メバロカット」と称呼されることがであり,これに対し,引用商標2,引用商標3及び引用商標4は,「MEVALOTIN」の文字よりなり,又は,「MEVALOTIN」の文字をその要部として有しており,この文字から「メバロチン」の称呼が自然に生ずると認められる。そして,本件商標の「メバロカット」の称呼と引用商標2,引用商標3及び引用商標4から生ずる「メバロチン」の称呼は,語頭からの3音「メバロ」が一致しており,これ以外の構成音は「カット」と「チン」の差異がある。」 (2)「甲第11号証ないし甲第16号証,甲第24号証ないし甲第30号証によれば,請求人は「高脂血症用薬剤」について,引用各商標と同一又は社会通念上同一と認められる商標を使用し,この分野の医薬品として高い市場占有率を占め,宣伝広告も行った結果,「メバロチン」,「MEVALOTIN」の文字よりなる商標及びその組合せからなる商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,少なくとも医薬品の取引者,需要者の間に広く認識されるに至っていた事実が認められ,この点については,被請求人も認めるところである。」 (3)「本件商標は,これをその指定商品中の「薬剤」に使用した場合,語頭部分に位置するため比較的印象が強いといえるその「メバロ」の文字部分が,「高脂血症用薬剤」に使用して広く認識されるに至っていた請求人の前記「メバロチン」の文字よりなる商標の語頭からの文字部分と一致し,又,請求人の前記「MEVALOTIN」の文字からなる商標と語頭からの3音が一致しているところから,取引者,需要者は請求人の前記各商標のシリーズ商標又は姉妹品として請求人の業務に係る商品であるかのように誤認し,その商品の出所につき混同を生ずるおそれが,本件商標の登録出願時及び登録査定時にあったものと認めるのが相当である。」 |
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原告主張の取消事由の要点
審決は,本件商標と引用商標との混同を生ずるおそれについての判断を誤ったものであり,この誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。 1 審決は,上記第2・2(3)のとおり,引用商標の語頭の「メバロ」の三文字が,「高脂血症用薬剤」に使用され広く認識されていると認定した。 しかし,引用商標の音構成から成る「メバロチン」は一体不可分のものであり,取引者・需要者に広く認識されるに至っている商標は「メバロチン」である。 引用商標は,決して「メバロ」の語頭部分の商標のみで取引されているものではないから,審決の認定は誤りである。 2 審決は,上記第2・2(3)のとおり,引用商標と本件商標とが「語頭からの3音が一致しているところから,取引者,需要者は請求人の前記各商標のシリーズ商標又は姉妹品として請求人の業務に係る商品であるかのように誤認し,その商品の出所につき混同を生ずるおそれが,本件商標の登録出願時及び登録査定時にあった」と認定判断する。 しかしながら,本件商標が使用されている原告の商品及び引用商標が使用されている被告の商品は,いずれも医療用医薬品であり,消費者が薬局で購入する一般用医薬品とは取引の実情が全く異なるものである。 (1) 医療用医薬品については,厚生労働省の指示に基づき異なる効能の医療用医薬品を誤まって使用しないために,その有効成分及びその含量と剤形が同一であれば,原則として一社につき一名称とされており(甲第27号証),薬局薬店で直接消費者に販売される一般用医薬品とは異なり,シリーズ商標又は姉妹品が出現することはあり得ない。 (2) 病院や医院等(以下「病院等」という。)で医薬品を採用する場合には,十分な医療用医薬品の知識を有する医師や薬剤師等の医療関係者が,多数の製薬会社の製造している医療用医薬品のうちから,有効成分及びその含量等の同一な医薬品について,当該医薬品に関する多数の製薬会社の説明書・文献等各種資料を取り寄せ,各社のMR(医薬品情報伝達者)から詳しい説明を受け,その中から採用すべき一種類又は数種類の医薬品を慎重に検討し,選択する。病院等では,当該有効成分に関する医薬品については,使用する医薬品の取扱管理を明確にするために,通常一社あるいは数社のものしか採用していない。 (3) 医師は,患者を診断して各種検査を行ない,病名を決定し治療方針を確立すると共に,原則的にはその患者の意思とは関係なく,予め病院等において採用されている医薬品中から治療に最適なものを選択し,これを患者に処方し投薬するか,あるいは,その処方箋を患者に手渡し,患者がこの処方箋を病院内薬局又は調剤薬局(保険薬局)の薬剤師に提示し,治療薬の投与を受ける。 したがって,医療用医薬品では,いかなる薬剤をその患者に投与すべきかの選択権は薬の素人である患者にはなく,専ら医療と薬の専門家である医師のみが有しており,しかも,医師は,事前に病院等が採用している限られた医薬品の中からこれを選び出すものである。このような特殊な取り扱いを行なう医療用医薬品における取引者・需要者は,医療関係者,すなわち,医師,薬剤師,医師又は薬剤師の指示を受けて薬剤の購入に当たる購買担当者若しくは医薬品卸売業者等の医療関係者に限られるのであり,一般消費者が含まれるわけではない。 そして,上記医療関係者は,いずれも医薬の知識を有する専門家であり,また,医薬品取引の専門家でもあり,極めて高い注意力をもって,医療用医薬品を取り扱うのである。 (4) 薬効別薬価基準保険薬事典(平成16年4月版)の記載によれば(甲28号証),例えば,メバロチン錠5の薬価は75.60円,メバロカット錠5rの薬価は45.80円,また,メバロチン錠10の薬価は145.50円,メバロカット錠10rの薬価は78.90円と明確に異なっている。このようにメバロチン錠とメバロカット錠では薬価が異なっており,メバロチン錠を患者に投与するために処方箋を発行すればメバロチン錠の定められた薬価で,また,メバロカット錠を患者に処方すればメバロカット錠の定められた薬価で,それぞれ薬価請求がなされることになる。このような薬価制度からみれば,本件商標を使用した商品を被告の業務に係るものと混同するおそれはない。 (5) 以上のとおり,病院等においては,使用する医薬品を一社又は数社のものに厳選していることと相まって,当該医薬品を取り扱う者が注意力の高い医療関係者であり,しかも本件商標と引用商標とは,商標構成上,称呼,観念及び外観のいずれにおいても明らかに相違していることを総合的に勘案すれば,本件商標と引用商標とは明確に区別されるものであるということができ,その間に出所の混同のおそれはない。 3 実際の「薬剤」の取引において,引用商標と本件商標との関係と軌を一にする関係,つまり周知著名な先発品の登録商標の語頭部分の3文字をそのまま語頭部分に用いている後発品の登録商標が次に示すように多数存在し,それぞれが相互の業務に係る商品の混同を生じることもなく,併存している。 ・先発品「レニベース」(萬有製薬株式会社:売上353億円) 後発品「レニベーゼ」登録第4357067号 ・先発品「ロキソニン」(三共株式会社:売上331億円) 後発品「ロキソマリン」登録第3164097号 後発品「ロキソート」登録第3371046号 ・先発品「アレジオン」(ベーリンガー:売上245億円) 後発品「アレジオテック」登録第4428217号 ・先発品「スルペラゾン」(ファイザー:売上154億円) 後発品「スルペゾール」登録第4299973号 ・先発品「ドルナー」(山之内製薬株式会社:売上135億円) 後発品「ドルナリン」登録第3344693号 ・先発品「メインテート」(田辺製薬株式会社:売上129億円) 後発品「メイントーワ」登録第4364488号 後発品「メインリース」登録第4451615号 後発品「メインロール」登録第3073927号 ・先発品「ミオナール」(エーザイ株式会社:売上116億円) 後発品「ミオナベース」登録第2324020号 ・先発品「メキシチール」(ベーリンガー:売上114億円) 後発品「メキシバール」登録第2535108号 後発品「メキシレート」登録第2545412号 ・先発品「ウテメリン」(キッセイ薬品工業株式会社:売上99億円) 後発品「ウテメック」登録第2570366号 後発品「ウテメナール」登録第3065012号 ※以上,先発品の売上は2001年の実績を示した。 審決は,「被請求人は,薬剤の商標において,周知著名な先発品の商標の語頭部分の3文字をそのまま語頭部分に用いている後発品の商標が現実に多数存在しており(乙第1号証の1及び2ないし乙第20号証の1及び2),そのそれぞれが相互の業務に係る商品の混同を生じることなく併存している事実がある旨主張する。 しかし,乙第1号証の1及び2〜乙第20号証の1及び2は,商標公報とこれらに係る商標登録原簿謄本であり,これらの登録商標が現実に使用されている事実を直接示すものではなく,増して,商品の出所混同を生ずることなく併存して使用されている事実を示すものではないから,前記主張は採用できない。」(審決書8頁3段)と判断した。 しかし,引用商標と本件商標と正に同様な関係にある商標を付した他の先発品と後発品とが相互に業務の混同を生じることもなく併存していることは,上記のとおりであり,審決の上記判断は誤りである。 |
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被告の反論の骨子
1 審決は,引用商標の語頭の「メバロ」の三文字が,被告の商品に使用され広く認識されていると認定してはいない。原告は,審決の認定判断を誤解している。 2 医療機関の処方箋により,患者に対して最終的に医療用医薬品の調剤を行う調剤薬局においては,特定の医療機関のみではなく,複数の医療機関からの処方箋に対応する必要から,製薬会社を異にした複数の高脂血症用薬剤,あるいは薬効成分が同一の高脂血症用薬剤の先発医薬品と複数の後発医薬品とを同時に取扱うことが多い。 また,医療用医薬品の取引者である卸売業者においても,多種,多品目の医薬品の品揃えが必要であり,例えば高脂血症用薬剤の場合,取引先である医療機関側の要請に応ずるべく,製薬会社を異にした複数の高脂血症用薬剤,あるいは薬効成分が同一の高脂血症用薬剤の先発医薬品と複数の後発医薬品とを同時に取扱うこととなる。 以上のような流通過程の実態に鑑みれば,医療用医薬品の取引者・需要者において,引用商標を使用した高脂血症用薬剤(メバロチン錠)と本件商標を使用した後発品である高脂血症用薬剤(メバロカット錠)との間に商品の出所の誤認混同のおそれが存在することは明らかである。 |
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当裁判所の判断
1 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断すべきである(最判平12・7・11民集54巻6号1848頁)。 (1) 引用商標の周知著名性について 被告が高脂血症用薬剤に使用する引用商標が,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,少なくとも医薬品の取引者・需要者間に広く認識されるに至っていたとの審決の認定判断について,原告も争っていないことは前記のとおりである。 引用商標の周知著名性の程度について補足すれば,次のとおりである。 被告が引用商標を使用している高脂血症用薬剤(メバロチン)は,平成元年10月2日に発売されてから,2年目の平成2年に高脂血症用薬剤の市場で58%(第1位)のシェアを獲得し,翌年の平成3年にはそのシェアが68.4%となり,平成5年以降は医薬品単品として1000億円を超える売上を達成し,その後も平成14年(2002年)度まで,高脂血症用薬剤では第1位のシェアと年間1000億円以上の売上を継続的に維持しており,また,当然ながらその医療関係の雑誌においても継続的な宣伝広告がなされている。(乙11〜16,22(枝番省略。以下同じ。),26〜30,176,186,187)。 したがって,被告が高脂血症用薬剤に使用している引用商標は,本件出願時(平成13年7月17日)及び登録査定時(平成14年)のいずれの時点においても,医師,薬剤師,病院等の医薬品購入担当者及び医薬品卸売業者などの医薬品取扱業者等の取引者・需要者の間で,極めて著名であることが認められる。また,高脂血症用薬剤は,患者が長期間反復使用するものであり,患者が服用している医薬品の名前を医師から知らされていることが多いことからすれば,引用商標は,高脂血症用薬剤を服用する患者の間においても広く知られたものと認められる。 原告は,審決が引用商標の語頭の「メバロ」の三文字が「高脂血症用薬剤」に使用され広く認識されていると認定したのは誤りである,と主張する。しかし,審決が,「メバロチン」が周知の商標であり,本件商標が周知の商標と「メバロ」の文字部分で一致していると認定していることは,前記第2・2(3)から明らかであり,原告の主張は,審決の前記認定判断を誤解したものであるから,その前提において理由がないことは明らかである。 (2) 本件商標と引用商標の類似性について 本件商標の「メバロカット」と引用商標1の「メバロチン」は,語頭からの3文字「メバロ」が一致しており,これ以外の構成文字は「カット」と「チン」の差異があること,及び,引用商標2ないし4は,「MEVALOTIN」の文字から「メバロチン」の称呼が生じるため,本件商標とは,語頭からの3音「メバロ」が一致しており,これ以外の構成音は「カット」と「チン」の差異があることは,審決が認定したとおりである。 そして,医療用医薬品及び一般用医薬品の名称として,「メバロ」の音で始まるものは,被告が平成元年に引用商標を使用した医薬品を発売する以前には存在しておらず(乙31,174,175,177),また,それが比較的印象の強い語頭部分に位置していることから,引用商標と本件商標とは,その名称のうち,取引者・需要者の注意を引く特徴的な部分とみることができる「メバロ」の3文字又は3音において一致しているものということができる。 (3) 商品の性質,用途,目的における関連性について 原告が本件商標を使用している高脂血症用薬剤(メバロカット錠)は,被告が引用商標を使用している高脂血症用薬剤(メバロチン錠)と同一の有効成分を含有し,同一の効能・効果を奏する,いわゆる後発医薬品であり(甲2,3,弁論の全趣旨),両商品の性質,用途,目的における関連性の程度は極めて高いということができる。 (4) 医療用医薬品の取引の実情について 医療用医薬品は,製薬会社から卸売業者を通じて病院等及び調剤薬局に供給され,病院等において医師が患者を診察して処方することにより,病院等や調剤薬局を通じて患者に供給される。 医薬品の卸売業者においては,多数の病院等に多種類の医薬品を安定して供給するために,多種,多品目の医薬品の品揃えが必要となる。例えば高脂血症用薬剤の場合,取引先である複数の医療機関側の要請に応ずるべく,多数の製薬会社の高脂血症用薬剤を品揃えすることとなり,この場合,薬効成分を異にした複数の高脂血症用薬剤,あるいは薬効成分が同一の高脂血症用薬剤の先発医薬品と複数の後発医薬品とを同時に取扱うこととなる。 病院等が医薬品を採用する場合には,医師や薬剤師等の医療関係者が製薬会社各社のMR(医薬品情報伝達者)などから説明を受け,その中から採用すべき一種類又は数種類の医薬品を検討し,選択するものであり,高脂血症用薬剤の場合でも,一つの病院等においては,通常,一社あるいは数社のものが採用される。もっとも,多数の医師が勤務する病院等においては,必ずしも医師の全員が製薬会社各社のMRから医薬品について詳しい説明を受けるわけではない。 医療用医薬品は,医師が,患者を診断して各種検査を行ない,病気の原因及び病名を認定し,治療方針を決めた上で,患者に処方し投薬されるか,あるいは,処方箋が患者に手渡され,患者がこの処方箋を病院内薬局又は調剤薬局の薬剤師に提示し,その投与を受ける。 医療機関の処方箋により,患者に対して最終的に医療用医薬品の調剤を行う調剤薬局においては,特定の医療機関のみではなく,複数の医療機関からの処方箋に対応する必要があるため,製薬会社を異にした複数の高脂血症用薬剤,あるいは薬効成分が同一の高脂血症用薬剤の先発医薬品と複数の後発医薬品とを同時に取扱うことが多い。すなわち,平成14年に行われた調査結果によると,処方箋を受け付ける医療機関が20施設以上の調剤薬局が全体の4割超を占め,これと10施設以上の調剤薬局を合わせると7割超となり,在庫の医療用医薬品の品目数も500品目以上とする調剤薬局が全体の7割以上に達している。(本項について乙178,弁論の全趣旨) (5) 混同を生ずるおそれについて 以上のような被告の引用商標の高脂血症用薬剤における周知著名性,引用商標と本件商標との類似性の度合い(特徴的な3文字又は3音である「メバロ」について一致すること),原告が本件商標を使用した高脂血症用薬剤(メバロカット錠)が,被告が引用商標を使用した高脂血症用薬剤(メバロチン錠)の後発品であり,薬効成分などが同一であって両商品の関連性の程度が極めて高いこと,並びに,上記のような医療用医薬品の流通に関する取引の実情からすれば,原告が本件商標を高脂血症用薬剤に使用した場合,その取引者・需要者において,これを被告あるいは被告と資本関係ないしは業務提携関係にある会社の業務に係る商品と混同するおそれがある,というべきである。 原告は,医療用医薬品の取引の実情,及び,医療関係者が医薬の知識を有する専門家であり,極めて高い注意力をもっていること,並びに,被告のメバロチン錠と原告のメバロカット錠とでは薬価も異なること,一般用医薬品とは異なり,医療用医薬品についてシリーズ商標又は姉妹品が出現することはあり得ないことなどから,本件においては出所の混同のおそれはない,と主張する。 確かに,医師や薬剤師が医薬の知識を有する専門家であり,医師が患者に高脂血症用薬剤を投薬する際には,病院等にある1社ないし数社の限られた高脂血症用薬剤の中から医薬を選択するものであることや,病院等が医薬品を購入する際には製薬会社各社のMR(医薬品情報伝達者)などから説明を受ける機会もあることを考慮すれば,一部の医師や薬剤師については,本件商標を使用した高脂血症用薬剤を被告あるいは被告と資本関係ないしは業務提携関係にある会社の業務に係る商品と混同する具体的なおそれは少ないとみる余地もないではない。しかし,だからといって,およそ,その取引者・需要者である医師,薬剤師など医療関係者であれば,一般的にそのような混同を生ずるおそれはないということはできないのであり,上記のような医療用医薬品の流通過程,被告の引用商標の高脂血症用薬剤における周知著名性,引用商標と本件商標との類似性の度合い,引用商標と本件商標を使用した両商品の薬効成分が同一であること,並びに,医療用医薬品に関する取引の実情からすれば,医療関係者が医薬の知識を有する専門家であることを考慮しても,多数の種類,品目の医薬品を取り扱っている医薬品卸売業者及び多数の種類,品目の医薬品を取り扱っている調剤薬局,並びに,多数の医師や薬剤師が働く医療機関における医師,薬剤師などにおいて,本件商標を使用した高脂血症用薬剤を被告あるいは被告と資本関係ないしは業務提携関係にある会社の業務に係る商品と混同するおそれがあることを否定することはできない。 また,引用商標は,前記のとおり,高脂血症用薬剤の患者間においても広く知られているものであることからすれば,患者が本件商標を使用した高脂血症用薬剤を医師から処方されたときに,本件商標と引用商標との上記のような類似性から,これを被告あるいは被告と資本関係ないしは業務提携関係にある会社の業務に係る商品と混同するおそれは極めて大きいものというべきである。なお,患者は,医師の処方により医薬品の供給を受けるものであり,医療用医薬品の選択について決定権を有するものではないが,患者は医療用医薬品の最終需要者であり,患者が,処方される医薬について関心を持ち,医師に対し,希望を伝えることも十分考えられることからすれば,患者を医療用医薬品の需要者として無視することは相当ではない。 原告は,実際の「薬剤」の取引において,引用商標と本件商標との関係と軌を一にする関係,すなわち,周知著名な先発品の登録商標の語頭部分の3文字をそのまま語頭部分に用いている後発品の登録商標が多数存在し,それぞれが相互の業務に係る商品の混同を生じることもなく併存している,と主張する。確かに,証拠(甲4〜26)によれば,九つの先発品の登録商標の語頭部分の3文字をそのまま語頭部分に用いている後発品の登録商標が合計14個あり,先発品に続いて後発品が製造販売されている事実が認められる。しかし,先発品の登録商標の周知著名性の程度,先発品と後発品の各登録商標の類似性の程度などは個々の事例毎に異なるのであるから,各事例毎にそれぞれ商品の出所の混同のおそれが検討されるべきであり,また,そもそもそれぞれの事例について,相互の業務に係る商品の出所の混同が取引者・需要者間に生じることもなく併存していることを確認し得るに足りる証拠もない。 以上からすれば,原告が本件商標を薬剤,特に高脂血症用薬剤に使用した場合には,その取引者・需要者において,被告あるいは被告と資本関係ないしは業務提携関係にある会社の業務に係る商品と混同するおそれがあるということができ,これと同旨の審決の判断に誤りはない。 2 結論 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由は理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。 よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 高瀬順久 |